(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056304
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】磁石固定方法及び磁石固定装置
(51)【国際特許分類】
H02K 15/03 20060101AFI20240416BHJP
【FI】
H02K15/03 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163093
(22)【出願日】2022-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】杉山 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】相原 浩
(72)【発明者】
【氏名】森田 浩基
【テーマコード(参考)】
5H622
【Fターム(参考)】
5H622CA02
5H622CA07
5H622CA10
5H622CB03
5H622PP19
(57)【要約】
【課題】磁石固定を効率よく行うことができる。
【解決手段】固定シート30は、磁石20の一面に接着され、加熱されることで発泡する発泡層を含むものである。磁石固定方法は、ロータコア11を加熱する加熱工程と、スロット15の開口15aが側方を向く姿勢でロータコア11を回転治具40によって回転可能に支持した状態で、複数のスロット15のうち最も上方に位置するスロット15内に、固定シート30が接着された磁石20を挿入する挿入工程と、発泡層を加熱して発泡層を発泡させることでスロット15に対して磁石20を固定する固定工程とを備える。挿入工程では、固定シート30を上方に向けた状態で磁石20をスロット15内に挿入することと、ロータコア11を回転させることとを繰り返すことで複数のスロット15の全てに磁石20を挿入する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の鉄心片が積層されて形成されるロータコアの複数のスロット内に、固定シートが接着された磁石を挿入するとともに前記スロットに対して前記固定シートを介して前記磁石を固定する磁石固定方法であって、
前記固定シートは、前記磁石の一面に接着され、加熱されることで発泡する発泡層を含むものであり、
前記ロータコアを加熱する加熱工程と、
前記スロットの開口が側方を向く姿勢で前記ロータコアを回転治具によって回転可能に支持した状態で、前記複数のスロットのうち最も上方に位置する前記スロット内に、前記固定シートが接着された前記磁石を挿入する挿入工程と、
前記発泡層を加熱して発泡させることで前記スロットに対して前記磁石を固定する固定工程と、を備え、
前記挿入工程では、前記固定シートを上方に向けた状態で前記磁石を前記スロット内に挿入することと、前記ロータコアを回転させることとを繰り返すことで前記複数のスロットの全てに前記磁石を挿入する、
磁石固定方法。
【請求項2】
前記固定工程では、前記挿入工程の後に、前記磁石の各々に遠心力を作用させることで前記固定シートを前記スロットの内面に押し付けるように、前記回転治具により前記ロータコアを回転させる、
請求項1に記載の磁石固定方法。
【請求項3】
複数枚の鉄心片が積層されて形成されるロータコアの複数のスロット内に、固定シートが接着された磁石を挿入するとともに前記スロットに対して前記固定シートを介して前記磁石を固定する磁石固定装置であって、
前記固定シートは、前記磁石の一面に接着され、加熱されることで発泡する発泡層を含むものであり、
前記ロータコアを加熱する加熱装置と、
前記スロットの開口が側方を向く姿勢で前記ロータコアを回転可能に支持する回転治具と、
前記ロータコアの軸線に沿って延在し、前記磁石の下面に接触することで当該スロット内に向けて前記磁石を案内する案内面を有する案内部材と、
当該スロットに向けて前記案内面上の前記磁石を押し込む押し込み機構と、を備える、
磁石固定装置。
【請求項4】
前記案内部材は、前記案内面の幅方向の両端から起立する一対の規制壁を有し、
前記一対の規制壁は、前記磁石に接触することで前記幅方向における前記磁石の移動を規制するように構成されている、
請求項3に記載の磁石固定装置。
【請求項5】
前記案内部材は、前記スロットの幅方向の両端をそれぞれ形成する2つのポケット部に挿入可能な2つの規制ピンを有し、
前記規制ピンは、前記磁石に接触することで前記スロットの幅方向における前記磁石の移動を規制するように構成されている、
請求項3または請求項4に記載の磁石固定装置。
【請求項6】
前記案内面には、凹部が設けられている、
請求項3に記載の磁石固定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁石固定方法及び磁石固定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機を構成するロータは、複数枚の鉄心片が積層されて形成されるロータコアと、ロータコアに設けられた複数のスロット内に挿入されるとともにスロットに対して固定される永久磁石(以下、磁石という)とを備えている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載のロータは、磁石とスロットの内面との間に設けられる発泡接着シートを備えている。発泡接着シートは、互いに積層された発泡層と接着層とを有している。発泡層は、磁石に密着固定されている。接着層は、スロットの内面と対向している。
【0004】
特許文献1に記載のロータの製造方法では、まず磁石に発泡接着シートが密着固定された磁石組立体をスロット内に挿入する。その後、磁石組立体を加熱することにより、発泡層を発泡させる。これにより、接着層がスロットに密着することによって磁石がスロットに固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載のロータの製造方法においては、磁石組立体をスロット内に挿入する工程において、スロットの内面に接着層が接触しやすい。このため、磁石の挿入性を向上させる上で改善の余地がある。
【0007】
また、特許文献1に記載のロータの製造方法においては、全てのスロット内に磁石組立体を挿入した後に磁石組立体を加熱するので、磁石組立体の挿入を開始してからスロットに対する磁石の固定が完了するまでの時間を短くするのには自ずと限界がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための磁石固定方法は、複数枚の鉄心片が積層されて形成されるロータコアの複数のスロット内に、固定シートが接着された磁石を挿入するとともに前記スロットに対して前記固定シートを介して前記磁石を固定する磁石固定方法であって、前記固定シートは、前記磁石の一面に接着され、加熱されることで発泡する発泡層を含むものであり、前記ロータコアを加熱する加熱工程と、前記スロットの開口が側方を向く姿勢で前記ロータコアを回転治具によって回転可能に支持した状態で、前記複数のスロットのうち最も上方に位置する前記スロット内に、前記固定シートが接着された前記磁石を挿入する挿入工程と、前記発泡層を加熱して発泡させることで前記スロットに対して前記磁石を固定する固定工程と、を備え、前記挿入工程では、前記固定シートを上方に向けた状態で前記磁石を前記スロット内に挿入することと、前記ロータコアを回転させることとを繰り返すことで前記複数のスロットの全てに前記磁石を挿入する。
【0009】
また、上記課題を解決するための磁石固定装置は、複数枚の鉄心片が積層されて形成されるロータコアの複数のスロット内に、固定シートが接着された磁石を挿入するとともに前記スロットに対して前記固定シートを介して前記磁石を固定する磁石固定装置であって、前記固定シートは、前記磁石の一面に接着され、加熱されることで発泡する発泡層を含むものであり、前記ロータコアを加熱する加熱装置と、前記スロットの開口が側方を向く姿勢で前記ロータコアを回転可能に支持する回転治具と、前記ロータコアの軸線に沿って延在し、前記磁石の下面に接触することで当該スロット内に向けて前記磁石を案内する案内面を有する案内部材と、当該スロットに向けて前記案内面上の前記磁石を押し込む押し込み機構と、を備える。
【0010】
同方法及び同構成によれば、ロータコアが加熱され、且つスロットの開口が側方を向く姿勢で回転治具によりロータコアが支持された状態において、複数のスロットのうち最も上方に位置するスロット内に、固定シートが接着された磁石が挿入される。その後、発泡層が加熱されることで発泡層が発泡する。これにより、固定シートが鉄心片同士の隙間に入り込むことによるアンカー効果が生じることでスロットに対して磁石が固定される。
【0011】
ここで、上記方法及び上記構成によれば、固定シートを上方に向けた状態で磁石の下面がスロットの内面に接触しながら磁石がスロット内に挿入されるので、加熱されたスロットの内面に対して固定シートが接触しにくくなる。これにより、磁石の挿入途中において発泡層がスロットの内面からの熱伝達によって発泡し始めることが抑制される。よって、磁石の挿入性を向上させることができる。
【0012】
また、上記方法によれば、スロット内に磁石を挿入した後にロータコアの加熱を開始する場合に比べて、挿入工程開始から固定工程完了までに要する時間を短くできる。
したがって、磁石固定を効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1(a)は、一実施形態のロータの正面図であり、
図1(b)は、同ロータの側面図である。
【
図3】
図3は、
図1のロータを構成する固定シートの発泡前の断面図である。
【
図4】
図4は、接着工程の様子を示す模式図である。
【
図5】
図5は、挿入工程の様子を示す断面図である。
【
図7】
図7は、固定工程の様子を示す断面図である。
【
図8】
図8は、変形例の案内部材を示す図であって、
図5の8-8線に沿った断面図である。
【
図9】
図9は、変形例の案内部材の案内面の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、
図1~
図7を参照して、磁石固定方法及び磁石固定装置の一実施形態について説明する。
まず、ロータ10の構成について説明する。
【0015】
なお、以降において、ロータ10の軸線方向、径方向、及び周方向をそれぞれ単に軸線方向、径方向、及び周方向として説明する。
<ロータ10>
図1(a)に示すように、ロータコア11は、中心孔13及び複数のスロット15を有している。中心孔13及びスロット15は、軸線方向においてロータコア11を貫通している。
【0016】
中心孔13には、径方向の内側に向かって突出する一対のキー14が設けられている。一対のキー14は、径方向において互いに対向している。
複数のスロット15は、周方向において一列に並んで設けられている。
【0017】
本実施形態の複数のスロット15は、正面視において時計回り方向の前側ほど径方向の外側に位置するように延びるスロット15Aと、正面視において時計回り方向の前側ほど径方向の内側に位置するように延びるスロット15Bとを含んでいる。本実施形態では、1つのスロット15Aと1つのスロット15Bとが、周方向において交互に設けられている。
【0018】
図1(b)に示すように、ロータ10は、複数枚の鉄心片12が積層されて形成されるロータコア11を備えている。鉄心片12は、電磁鋼板製である。
なお、鉄心片12には、軸線方向の一側に向かって膨出するダボ(図示略)が設けられている。積層方向において隣り合う鉄心片12のダボ同士がかしめられることで、当該鉄心片12同士が結合されている。
【0019】
図2に示すように、各スロット15内には、固定シート30が接着された磁石20が挿入されるとともにスロット15に対して固定シート30を介して磁石20が固定されている。
【0020】
磁石20は、直方体状の永久磁石である。
図3に示すように、固定シート30は、内側接着層31、発泡層32、及び外側接着層33を有している。
【0021】
内側接着層31は、磁石20の一面に接着される層である。内側接着層31は、常温において接着機能を有する。内側接着層31は、例えば熱可塑性樹脂により形成されている。なお、内側接着層31は、熱硬化性樹脂により形成されていてもよい。
【0022】
発泡層32は、内側接着層31のうち磁石20とは反対側の面に積層される層である。発泡層32は、加熱されることで発泡する発泡材料により形成されている。発泡材料としては、例えばウレタンが好ましい。
【0023】
外側接着層33は、発泡層32のうち内側接着層31とは反対側の面に積層される層である。外側接着層33は、加熱されることで接着機能を発揮する。外側接着層33は、熱可塑性樹脂により形成されていることが好ましい。
【0024】
次に、本実施形態の磁石20の固定方法について説明する。
磁石20の固定方法は、接着工程、加熱工程、挿入工程、及び固定工程を備えている。
まず、磁石20の一面に固定シート30を接着する接着工程について説明する。
【0025】
<接着工程>
図4に示すように、接着工程では、固定シートロール92の剥離シート93を、巻き取りローラ90によりローラ91を介して間欠的に巻き取ることで、台94上を搬送される固定シート30に対して矩形状の切れ目を形成する。
【0026】
固定シートロール92は、帯状の剥離シート93と、内側接着層31を介して剥離シート93に剥離自在に接着された帯状の固定シート30とが巻回されているものである。
カッタ95は、台94の上方において昇降可能に設けられている。カッタ95を降下させることにより、台94上の固定シート30に対してカッタ95を押し付けることで固定シート30に切れ目を形成する。
【0027】
続いて、固定シート30のうち上記切れ目により囲まれた部分を吸着板96により吸着するとともに、図示しない移動装置によって吸着板96を磁石20の一面に向けて移動させる。そして、移動装置によって固定シート30の内側接着層31を磁石20の一面に押し付けることで、磁石20の一面に固定シート30を接着する。
【0028】
<加熱工程>
加熱工程では、加熱装置によりロータコア11を加熱する。加熱装置は、電気炉などの周知の構成である。なお、ロータコア11の加熱温度は、例えば固定シート30の発泡層32の発泡反応が開始する温度以上である。
【0029】
<挿入工程>
図5に示すように、挿入工程では、まず、回転治具40によってスロット15の開口15aが側方を向く姿勢でロータコア11を回転治具40によって回転可能に支持する。
【0030】
回転治具40は、本体部41と、本体部41に対して回転可能に連結され、ロータコア11の一方の端面を支持するプレート42と、プレート42から突出するとともにロータコア11の中心孔13を貫通するポスト43とを備えている。本体部41は、ポスト43の軸線を中心にプレート42及びポスト43を回転させるように構成されている。
【0031】
プレート42は、ロータコア11の一方の端面の全体に当接する大きさを有していることが好ましい。
ポスト43の外周面には、ロータコア11の一対のキー14に係合する一対のキー溝44が設けられている(
図7参照)。
【0032】
続いて、
図5及び
図6に示すように、複数のスロット15のうち最も上方に位置するスロット15内に、固定シート30が接着された磁石20を挿入する。
図6に示すように、本実施形態では、複数のスロット15のうち最も上方に位置する2つのスロット15A,15B内に、固定シート30が接着された磁石20を挿入する。
【0033】
ここで、
図5に示すように、案内部材60と押し込み機構65とを用いて磁石20の挿入を行う。本実施形態では、2つのスロット15A,15Bに対応して2つの案内部材60及び2つの押し込み機構65を用いて2つの磁石20の挿入を行う。
【0034】
案内部材60は、案内面61を有している。案内面61は、ロータコア11の軸線に沿って延在し、磁石20の下面に接触することで複数のスロット15のうち最も上方に位置するスロット15内に向けて磁石20を案内する。
【0035】
本実施形態では、案内部材60の先端面をロータコア11の端面に当接させている。
案内面61は、スロット15の底面15b、すなわちスロット15内に挿入された磁石20が接触する内面と同一平面上に位置している。
【0036】
本実施形態では、最も上方に位置する2つのスロット15A,15Bは、周方向において互いに近づくほど径方向の内側に位置するように延びている(
図2参照)。
図6に示すように、2つのスロット15A,15Bにそれぞれ対応する2つの案内面61は、周方向において互いに近づくほど径方向の内側に位置するように延びている。
【0037】
案内部材60は、案内面61の幅方向Wの両端から起立する一対の規制壁62を有している。一対の規制壁62は、磁石20に接触することで幅方向Wにおける磁石20の移動を規制するように構成されている。
【0038】
一対の規制壁62は、案内部材60の延在方向の全体にわたって設けられていることが好ましい。
案内部材60は、例えばセラミックなどの熱伝導率及び線膨張率の低い材料により形成されていることが好ましい。
【0039】
押し込み機構65は、案内面61上の磁石20の軸線方向の端面をスロット15に向けて押し込むように構成されている。
挿入工程では、固定シート30を上方に向けた状態で磁石20をスロット15内に挿入することと、ロータコア11を回転させることとを繰り返すことで複数のスロット15の全てに磁石20を挿入する。
【0040】
<固定工程>
図7に示すように、固定工程では、発泡層32を加熱して発泡層32を発泡させることでスロット15に対して磁石20を固定する。
【0041】
本実施形態では、挿入工程の後に、磁石20の各々に遠心力を作用させることで固定シート30をスロット15の内面に押し付けるように、回転治具40によりロータコア11を回転させる。
【0042】
次に、本実施形態の作用について説明する。
ロータコア11が加熱され、且つスロット15の開口15aが側方を向く姿勢で回転治具40によりロータコア11が支持される。この状態において、複数のスロット15のうち最も上方に位置する2つのスロット15内に、固定シート30が接着された磁石20が挿入される。その後、回転治具40によりロータコア11が回転されることで、磁石20の各々に対して遠心力が作用することで固定シート30がスロット15の内面に押し付けられると、スロット15の内面からの熱伝達により外側接着層33及び発泡層32が加熱される。これにより、外側接着層33の接着機能が発揮されるようになるとともに発泡層32が発泡するようになる。そして、固定シート30が鉄心片12同士の間の隙間に入り込むことによるアンカー効果が生じることでスロット15に対して磁石20が固定される。
【0043】
ここで、本実施形態によれば、固定シート30を上方に向けた状態で磁石20の下面がスロット15の内面に接触しながら磁石20がスロット15内に挿入されるので、加熱されたスロット15の内面に対して固定シート30が接触しにくくなる。これにより、磁石20の挿入途中において発泡層32がスロット15の内面からの熱伝達によって発泡し始めることが抑制される。よって、磁石20の挿入性を向上させることができる。
【0044】
また、本実施形態によれば、スロット15内に磁石20を挿入した後にロータコア11の加熱を開始する場合に比べて、挿入工程開始から固定工程完了までに要する時間を短くできる。
【0045】
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)挿入工程では、固定シート30を上方に向けた状態で磁石20をスロット15内に挿入することと、ロータコア11を回転させることとを繰り返すことで複数のスロット15の全てに磁石20を挿入する。
【0046】
こうした方法によれば、上記作用を奏するため、磁石固定を効率よく行うことができる。
(2)固定工程では、挿入工程の後に、磁石20の各々に遠心力を作用させることで固定シート30をスロット15の内面に押し付けるように、回転治具40によりロータコア11を回転させる。
【0047】
こうした方法によれば、磁石20の各々に作用する遠心力によって固定シート30がスロット15の内面に押し付けられるため、スロット15の内面からの熱伝達によって発泡層32が加熱されることで発泡層32の発泡が促進されるようになる。したがって、スロット15に対する磁石20の固定を早期に完了させることができる。
【0048】
(3)磁石固定装置は、ロータコア11を加熱する加熱装置と、スロット15の開口15aが側方を向く姿勢でロータコア11を回転可能に支持する回転治具40とを備えている。また、磁石固定装置は、ロータコア11の軸線に沿って延在し、磁石20の下面に接触することで複数のスロット15のうち最も上方に位置するスロット15内に向けて磁石20を案内する案内面61を有する案内部材60を備えている。また、磁石固定装置は、スロット15に向けて案内面61上の磁石20を押し込む押し込み機構65を備えている。
【0049】
こうした構成によれば、上記(1)と同様な効果を奏することができる。
(4)案内部材60は、案内面61の幅方向Wの両端から起立する一対の規制壁62を有している。
【0050】
こうした構成によれば、一対の規制壁62によって幅方向Wにおける磁石20の移動が規制されるので、スロット15の延在方向に沿ってスロット15内に磁石20を挿入することが容易にできる。
【0051】
(5)案内部材60は、セラミックにより形成されている。
案内部材60の先端面をロータコア11の端面に接触させた状態で磁石20の挿入を行う場合には、加熱されたロータコア11からの熱伝達によって案内部材60が加熱され、案内面61に接触する磁石20を介して発泡層32が加熱される。この場合、磁石20の挿入前あるいは挿入途中において発泡層32が発泡することで磁石20の挿入性が損なわれるおそれがある。
【0052】
この点、上記構成によれば、案内部材60の熱伝導率及び線膨張率が低くなるので、ロータコア11から案内部材60への熱伝達によって案内部材60が熱膨張しにくく、且つロータコア11からの熱が磁石20を介して固定シート30に伝わりにくい。これにより、磁石20の挿入前あるいは挿入途中において発泡層32が案内部材60からの熱伝達によって発泡し始めることが抑制される。よって、磁石20の挿入性を向上させることができる。
【0053】
<変形例>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0054】
・
図8に示すように、案内部材60は、スロット15の幅方向Wの両端をそれぞれ形成する2つのポケット部15c,15dに挿入可能な2つの規制ピン63を有するものであってもよい。規制ピン63は、磁石20に接触することで幅方向Wにおける磁石20の移動を規制するように構成されている。2つの規制ピン63は、例えば規制壁62の先端面に連結されている。
【0055】
スロット15のうち磁石20が挿入可能な部分の幅W1は、磁石20の幅W2よりも大きく設定されている。このため、スロット15内において磁石20が傾くおそれがある。
この点、上記構成によれば、案内部材60をスロット15に向けて前進させることで、2つの規制ピン63がポケット部15c,15d内に進入する。この状態において磁石20の挿入を行うことで、一対の規制ピン63によって幅方向Wにおける磁石20の移動が規制されるので、スロット15内において磁石20が傾くことを抑制できる。
【0056】
・
図9に示すように、案内部材60の案内面61に、凹部61aが設けられていてもよい。この場合、案内面61には凹部61aが設けられているので、案内面61と磁石20との接触面積が小さくなる。
【0057】
図9に示すように、多数の凹部61aを設けることにより、磁石20が案内面61上を摺動する際の摺動抵抗を小さくできるので、スロット15内への磁石20の挿入を容易に行うことができる。
【0058】
また前述したように、案内部材60の先端面をロータコア11の端面に接触させた状態で磁石20の挿入を行う場合には、加熱されたロータコア11からの熱伝達によって案内部材60が加熱され、案内面61に接触する磁石20を介して発泡層32が加熱される。この場合、磁石20の挿入前あるいは挿入途中において発泡層32が発泡することで磁石20の挿入性が損なわれるおそれがある。
【0059】
この点、上記構成によれば、案内面61と磁石20との接触面積が小さくなるので、案内面61から磁石20への熱伝達を抑制することができる。したがって、上述した不都合の発生を抑制できる。
【0060】
・案内部材60から一対の規制壁62を省略することもできる。
・案内部材60の案内面61の先端部をスロット15の内部に進入させるようにしてもよい。
【0061】
・挿入工程の後に、回転治具40によりロータコア11を回転させないようにしてもよい。この場合であっても、ロータコア11から磁石20を介して伝わる熱によって発泡層32を加熱して発泡させることはできる。
【0062】
・固定シート30は、外側接着層33を備えるものに限定されず、外側接着層33を省略することもできる。この場合であっても、発泡層32が鉄心片12同士の間の隙間に入り込むことによるアンカー効果が生じることでスロット15に対して磁石20が固定される。
【0063】
・磁石20の挿入方向の前方ほど下方に位置するように傾斜した姿勢で回転治具40によりロータコア11を支持するようにしてもよい。この場合、磁石20に作用する重力の一部が挿入方向の前方に向かって作用するようになるので、小さな力によってスロット15内に磁石20を押し込むことができるようになる。
【0064】
・ポスト43の外径を拡縮可能な回転治具40を用いることもできる。ロータコア11が加熱されることで熱膨張すると、中心孔13の内径は常温時に比べて大きくなる。このため、固定工程の後、冷却されて熱収縮したロータ10の中心孔13が小さくなることで回転治具40からロータ10を取り外すことが難しくなるおそれがある。この点、上記構成によれば、ポスト43の外径を縮小させることができるので、回転治具40からロータ10を容易に取り外すことができる。
【0065】
<付記>
上記実施形態は、以下の付記に記載する構成を含む。
[付記1]
複数枚の鉄心片が積層されて形成されるロータコアの複数のスロット内に、固定シートが接着された磁石を挿入するとともに前記スロットに対して前記固定シートを介して前記磁石を固定する磁石固定装置であって、前記固定シートは、前記磁石の一面に接着され、加熱されることで発泡する発泡層を含むものであり、前記ロータコアを加熱する加熱装置と、前記スロットの開口が側方を向く姿勢で前記ロータコアを回転可能に支持する回転治具と、前記ロータコアの軸線に沿って延在し、前記磁石の下面に接触することで当該スロット内に向けて前記磁石を案内する案内面を有する案内部材と、当該スロットに向けて前記案内面上の前記磁石を押し込む押し込み機構と、を備える、磁石固定装置。
【0066】
[付記2]
前記案内部材は、前記案内面の幅方向の両端から起立する一対の規制壁を有し、前記一対の規制壁は、前記磁石に接触することで前記幅方向における前記磁石の移動を規制するように構成されている、付記1に記載の磁石固定装置。
【0067】
[付記3]
前記案内部材は、前記スロットの幅方向の両端をそれぞれ形成する2つのポケット部に挿入可能な2つの規制ピンを有し、前記規制ピンは、前記磁石に接触することで前記スロットの幅方向における前記磁石の移動を規制するように構成されている、付記1または付記2に記載の磁石固定装置。
【0068】
[付記4]
前記案内面には、凹部が設けられている、付記1から付記3のいずれか一項に記載の磁石固定装置。
【符号の説明】
【0069】
10…ロータ
11…ロータコア
12…鉄心片
13…中心孔
14…キー
15,15A,15B…スロット
15a…開口
15b…底面
15c,15d…ポケット部
20…磁石
30…固定シート
31…内側接着層
32…発泡層
33…外側接着層
40…回転治具
41…本体部
42…プレート
43…ポスト
44…キー溝
60…案内部材
61…案内面
61a…凹部
62…規制壁
63…規制ピン
65…押し込み機構
90…巻き取りロール
91…ローラ
92…固定シートロール
93…剥離シート
94…台
95…カッタ
96…吸着板