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特開2024-56311両面インモールド成形品の製造方法、及び両面インモールド成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056311
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】両面インモールド成形品の製造方法、及び両面インモールド成形品
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20240416BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
B29C45/14
B29C45/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163103
(22)【出願日】2022-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】508122138
【氏名又は名称】吉田テクノワークス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 広樹
(72)【発明者】
【氏名】藤本 雅之
【テーマコード(参考)】
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
4F202AD10
4F202AH42
4F202CA11
4F202CB01
4F202CB12
4F202CB19
4F202CB20
4F202CK06
4F202CQ01
4F202CQ05
4F206AD05
4F206AD10
4F206AH42
4F206JA07
4F206JB12
4F206JB19
4F206JB20
4F206JL02
4F206JM02
4F206JM04
4F206JQ81
(57)【要約】
【課題】安価で美観に優れた両面インモールド成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】貫通孔31を有する第1の転写フィルム30aを第1の金型部材20a架け渡すとともに貫通孔を包含する領域を第1の金型部材の内面に密着させ、第2の転写フィルム30bを第2の金型部材20bに架け渡し、金型20を閉じて第1及び第2の転写フィルムをキャビティ23内で対面させた状態で狭持すると、貫通孔がキャビティ内に配置されつつ、ゲート21から貫通孔を介してキャビティに連通する溶融樹脂40の流入経路が形成され、溶融樹脂を貫通孔を介して第1及び第2の転写フィルムが互いに対面する領域に射出しつつキャビティに溶融樹脂を充填することで両面インモールド成形品1を成形する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両面インモールド成形品の製造方法であって、
第1の金型部材と第2の金型部材とからなる金型、及び加飾が施された転写箔が基材フィルムに積層された第1の転写フィルムと第2の転写フィルムを用い、
前記第1の金型部材はゲートを備え、
前記第1の転写フィルムは、所定の位置に貫通孔が形成されており、
前記第1の転写フィルムを前記第1の金型部材に架け渡すとともに、前記第2の金型部材に前記第2の転写フィルムを架け渡すフィルム架設ステップと、
前記金型を閉じてキャビティを形成するともに、前記第1の金型部材と前記第2の金型部材とにより、前記第1の転写フィルムと前記第2の転写フィルムとを前記キャビティ内で対面させた状態で狭持する型閉じステップと、
前記キャビティの内方に溶融樹脂を射出する射出ステップと、を含み、
前記フィルム架設ステップでは、前記貫通孔が所定の位置に配置されつつ、当該貫通孔を包含する領域が前記第1の金型部材の内面に密着するように前記第1の転写フィルムを架け渡し、
前記型閉じステップでは、前記貫通孔が前記キャビティ内に配置されつつ、前記ゲートから前記貫通孔を介して前記キャビティに連通する溶融樹脂の流入経路が形成され、
前記射出ステップでは、前記溶融樹脂を、前記貫通孔を介して前記第1の転写フィルムと前記第2の転写フィルムとが対面する領域に射出しつつ、前記キャビティに前記溶融樹脂を充填することで、前記第1の転写フィルムの前記転写箔と前記第2の転写フィルムの前記転写箔とが外面に転写された成形品を成形する、
ことを特徴とする両面インモールド成形品の製造方法。
【請求項2】
前記射出ステップにより成形された成形物に対し、ゲート跡を包含する領域を所定の形状に開口させる開口ステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の両面インモールド成形品の製造方法。
【請求項3】
前記第1の金型部材は、前記ゲートに連続する柱状の凹部を有し、
前記貫通孔は前記凹部の開口を包含する形状に形成され、
前記射出ステップでは、溶融樹脂を前記凹部に充填しつつ前記貫通孔を介して前記第1の転写フィルムと前記第2の転写フィルムとが対面する領域に射出することで、前記第1の転写フィルムの外方に貫通孔を介して突出する突出部が形成された成形物を成形する、
ことを特徴とする請求項1に記載の両面インモールド成形品の製造方法。
【請求項4】
前記第1の転写フィルムの前記金型内への供給路の途上に孔開け加工機を設置し、当該孔開け加工機により前記貫通孔を形成する孔開けステップを含むことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の両面インモールド成形品の製造方法。
【請求項5】
前記孔開け加工機としてレーザー加工機を用いることを特徴とする請求項4に記載の両面インモールド成形品の製造方法。
【請求項6】
樹脂からなる基体の外面に加飾が施された転写箔が配置されてなる両面インモールド成形品であって、
前記転写箔は、少なくとも一箇所に貫通孔を有し、
前記基体は、外面が前記転写箔で覆われつつ、前記貫通孔の位置でのみ外方に露出している、
ことを特徴とする両面インモールド成形品。
【請求項7】
樹脂からなる基体の外面に加飾が施された転写箔が配置されてなる両面インモールド成形品であって、
前記基体を貫通する開口部を有し、
前記基体は、外面が前記転写箔で覆われているともに、前記開口部の内面にて露出している、
ことを特徴とする両面インモールド成形品。
【請求項8】
樹脂からなる基体の外面に加飾が施された転写箔が配置されてなる両面インモールド成形品であって、
前記基体の一主面に外方に向かって凸状に形成された突出部を有し、
前記基体は、外面が前記転写箔で覆われつつ、前記突出部の形成領域でのみ外方に露出している、
ことを特徴とする両面インモールド成形品。
【請求項9】
前記基体は板状で、外周縁が前記転写箔で覆われていることを特徴とする請求項6~8のいずれかに記載の両面インモールド成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、両面インモールド成形品の製造方法、及び両面インモールド成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
インモールド成形技術は、樹脂からなる基体の表面に転写箔が配置されてなる成形を一体的に成形する技術であり、ベースフィルムに転写箔が積層されてなる転写フィルムを射出成形金型内に挟み込みつつ、溶融樹脂をその金型内に射出することにより基体の表面に転写箔を転写する。そして、基体の成形と基体の表裏両面への転写箔の転写とを同時に行う技術が両面インモールド成形技術である。
【0003】
なお、従来の両面インモールド成形技術については、例えば、以下の特許文献1や特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-053779号公報
【特許文献2】特開昭62-227613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の両面インモールド成形技術では、金型を閉じた際に形成されるキャビティ内に互いに対面する二枚の転写フィルムを配置し、その二枚の転写フィルムの間隙に溶融樹脂を射出する。二枚の転写フィルムの一方には、キャビティの外側に配置される貫通孔が形成され、ゲートはこの貫通孔の位置に開口している。そのため、従来の両面インモールド成形技術を用いて成形された成形物は、ゲート跡が製品として実際に用いられる領域の外方に形成される。
【0006】
図1に、従来の両面インモールド成形技術による成形直後の成形物100の一例を示した。図1に示したように、成形物100は、実際に製品として用いられる際に、製品の外形となる領域101a(以下、「製品領域101a」と言うことがある。)の外方に、ゲート跡102が連続する形状に成形される。図1に示した例では、射出成形時における金型のゲートの位置に対応して、製品領域101aの側方から溶融樹脂を射出するサイドゲートの跡102a、サイドゲートに溶融樹脂を案内するランナーの跡102b、ゲートタブ102c等がゲート跡102として形成されている。そして、製品領域101aを含めた成形物100の表裏全面には、転写フィルムのベースフィルムから剥離した転写箔が転写されている。最終的な製品となる成形品は、図中に破線で示した位置で成形物100を切断するなどして、製品領域101a以外の領域が除去されたものである。
【0007】
図2に、図1に示した成形物100を起源として作製されて、製品として用いられる成形品101bの外観図を示した。従来の両面インモールド成形技術によって作製された成形品101bの外周縁104は、成形物100におけるサイドゲートの跡102aが切除されることで形成される。したがって、成形品101bの外周縁104には転写箔が存在しない。図3に、図2において円110で示した領域のa-a矢視断面の拡大図を示した。図3に示したように、ゲート跡102を切除することで形成された成形品101bの外周縁104は、樹脂の素地からなる基体107が露出する領域となる。すなわち、従来の両面インモールド成形技術では、成形品101bにおける表裏両面(105,105)間での加飾の連続性が阻害され、優れた美観を備えた成形品101bを成形することが難しい。
【0008】
また、従来の両面インモールド成形技術では、成形物100においてゲート跡102等の製品領域101a以外の樹脂材料が無駄になる。そのため、無駄となる樹脂材料に掛かる係るコストを低減させることが難しい。特に、図1図2に例示したような、薄くて広い面積を有する板状の成形品101bを作製する場合には、射出成形時に溶融樹脂をキャビティの隅々まで円滑に流動していくように、製品領域の外周を囲繞するように設けられたサイドゲートである、所謂「フィルムゲート」を採用する場合がある。このような場合、図1にも示したように、製品領域101aの周囲に平板状のサイドゲートの跡102aが残り、無駄となる樹脂材料がより多くなる。製品領域101aよりも大きな成形物100を射出成形することから金型が大型化し、金型に掛かるコストを低減させることも難しい。樹脂材料や金型に掛かるコストは、製品を安価に提供することを難しくする。無駄となる樹脂材料は、省資源の観点からも望ましくない。
【0009】
そこで、本発明は、安価で美観に優れた両面インモールド成形品の製造方法と、当該両面インモールド成形品を提供することを目的の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、両面インモールド成形品の製造方法であって、
第1の金型部材と第2の金型部材とからなる金型、及び加飾が施された転写箔が基材フィルムに積層された第1の転写フィルムと第2の転写フィルムを用い、
前記第1の金型部材はゲートを備え、
前記第1の転写フィルムは、所定の位置に貫通孔が形成されており、
当該第1の転写フィルムを前記第1の金型部材に前記第1の転写フィルムを架け渡すとともに、前記第2の金型部材に前記第2の転写フィルムを架け渡すフィルム架設ステップと、
前記金型を閉じてキャビティを形成するともに、前記第1の金型部材と前記第2の金型部材とにより、前記第1の転写フィルムと前記第2の転写フィルムとを前記キャビティ内で対面させた状態で狭持する型閉じステップと、
前記キャビティの内方に溶融樹脂を射出する射出ステップと、を含み、
前記フィルム架設ステップでは、前記貫通孔が所定の位置に配置されつつ、当該貫通孔を包含する領域が前記第1の金型部材の内面に密着するように前記第1の転写フィルムを架け渡し、
前記型閉じステップでは、前記貫通孔が前記キャビティ内に配置されつつ、前記ゲートから前記貫通孔を介して前記キャビティに連通する溶融樹脂の流入経路が形成され、
前記射出ステップでは、前記溶融樹脂を、前記貫通孔を介して前記第1の転写フィルムと前記第2の転写フィルムとが対面する領域に射出しつつ、前記キャビティに前記溶融樹脂を充填することで、前記第1の転写フィルムの前記転写箔と前記第2の転写フィルムの前記転写箔とを成形品の外面に転写させる、
ことを特徴とする両面インモールド成形品の製造方法としている。
【0011】
前記射出ステップにより成形された成形物に対し、ゲート跡を包含する領域を所定の形状に開口させる開口ステップを含む両面インモールド成形品の製造方法としてもよい。
【0012】
前記第1の金型部材は、前記ゲートに連続する柱状の凹部を有し、
前記貫通孔は前記凹部の開口を包含する形状に形成され、
前記射出ステップでは、溶融樹脂を前記凹部に充填しつつ前記貫通孔を介して前記第1の転写フィルムと前記第2の転写フィルムとが対面する領域に射出することで、前記第1の転写フィルムの外方に貫通孔を介して突出する突出部が形成された成形物を成形する、両面インモールド成形品の製造方法とすることもできる。
【0013】
上記いずれかの両面インモールド成形品の製造方法において、前記第1の転写フィルムの前記金型内への供給路の途上に孔開け加工機を設置し、当該孔開け加工機により前記貫通孔を形成する孔開けステップを含む両面インモールド成形品の製造方法としてもよい。前記孔開け加工機としてレーザー加工機を用いる両面インモールド成形品の製造方法とすれば好適である。
【0014】
本発明のその他の態様は、樹脂からなる基体の外面に加飾が施された転写箔が配置されてなる両面インモールド成形品であって、
前記転写箔は、少なくとも一箇所に貫通孔を有し、
前記基体は、外面が前記転写箔で覆われつつ、前記貫通孔の位置でのみ外方に露出している、
ことを特徴とする両面インモールド成形品としている。
【0015】
前記基体を貫通する開口部を有し、
前記基体は、外面が前記転写箔で覆われているともに、前記開口部の内面にて露出している両面インモールド成形品であってもよい。
【0016】
前記基体の一主面に外方に向かって凸状に形成された突出部を有し、
前記基体は、外面が前記転写箔で覆われつつ、前記突出部の形成領域でのみ外方に露出している両面インモールド成形品としてもよい。
【0017】
前記基体は板状で、外周縁が前記転写箔で覆われている上記いずれかに記載の両面インモールド成形品とすることもできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、安価で美観に優れた両面インモールド成形品の製造方法と、当該両面インモールド成形品が提供される。その他の効果については以下の記載で明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】従来の両面インモールド成形技術で成形される両面インモールド成形品の起源となる成形物の一例を示す図である。
図2図1に示した成形物から作製される両面インモールド成形品を示す図である。
図3図2に示した両面インモールド成形品の外周縁を含む領域の断面を示す図である。
図4】第1の実施例に係る両面インモールド成形品を備えた製品を示す図である。
図5】第1の実施例に係る両面インモールド成形品を備えた製品を分解した時の状態を示す図である。
図6】第1の実施例に係る両面インモールド成形品の製造方法の手順を示す図である。
図7】第1の実施例に係る両面インモールド成形品の製造方法によって作製される両面インモールド成形品の起源となる成形物を示す図である。
図8】第1の実施例に係る両面インモールド成形品の製造方法によって作製される両面インモールド成形品の外周縁を含む領域の断面を示す図である。
図9】第1の実施例に係る両面インモールド成形品の製造方法に用いられる転写フィルムに貫通孔を形成する手順を示す図である。
図10】第2の実施例に係る両面インモールド成形品を示す図である。
図11】第2の実施例に係る両面インモールド成形品の製造方法の手順を示す図である。
図12】第2の実施例に係る両面インモールド成形品の外周縁を含む領域の断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明に用いた図面において、同一、又は類似の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略することがある。図面によっては説明に際して不要な符号を省略することもある。
【0021】
===第1の実施例===
<両面インモールド成形品>
【0022】
第1の実施例に係る両面インモールド成形品(以下、「成形品」と言うことがある。)として、スマートフォンの背面カバーを挙げる。スマートフォンは、概して矩形平板状で、一主面側にディスプレイが配設され、他方の面にはカメラのレンズ等が配設されている。そして、背面カバーは、レンズ等の構成を外部に露出させつつ、この他方の面を覆うための薄い板状の部材である。
【0023】
ところで、スマートフォンは、一つの機種に対し表面の加飾が異なるものが複数種類用意されている場合がある。例えば、同じ機種であっても色が異なっていたり、同じ機種であっても販売する移動体通信業者に応じて文字やロゴを変えたり、限定品として特別な図案が施されていたりする。そして、近年のスマートフォンでは、一主面のほぼ全面がディスプレイになっていることから、この一主面側にディスプレイを備えた共通の筐体を用意しておけば、加飾が異なる背面カバーを付け替えるだけで、一機種に対して加飾が異なる複数種類のスマートフォンを揃えることができる。
【0024】
図4図5に第1の実施例に係る背面カバー1を備えたスマートフォン10を示した。ここで、図中に示したように、矩形平板状のスマートフォン10の厚さ方向を前後方向とし、図示しないディスプレイが前面側に配置され、後面側に背面カバー1が取り付けられていることとして前後の各方向を規定すると、図4は、スマートフォン10を後方から見たときの外観図であり、図5は、図4に示したスマートフォン10を、共通の筐体となるスマートフォン本体11と背面カバー1とに分離したときの状態を示している。
【0025】
図4図5に示したスマートフォン10は、複数のレンズ12を備えたカメラユニットを搭載し、そのユニットの一部で、複数のレンズ12が集中配置されてなる矩形平板状の領域(以下、「レンズユニット部13」と言うことがある。)が背面カバー1に対して後方に突出している。背面カバー1には、このレンズユニット部13を外部に露出させるための矩形の開口部2が設けられており、スマートフォン本体11の後面14にこの背面カバー1が接着などにより取り付けられている。
【0026】
ここで、矩形平板状のスマートフォン10を前後方向から見たときの矩形の長辺方向を上下方向、短辺方向を左右方向として規定すると、背面カバー1は、前後方向から見ると矩形状であり、図5に示したように、左右の縁辺が前方に向けて湾曲する外観形状を有している。また、図5に例示した背面カバー1では、無色透明の樹脂からなる基体7の後面にロゴなどの図案5が印刷された転写箔が転写され、基体7の前面に所定の色の転写箔が転写されている。そして、上述したレンズユニット部13を露出させるための開口部2を有する。
【0027】
それにより、スマートフォン10は、同じ機種であっても、背面カバー1の前面3の転写箔の色によって色分けされ、後面4の転写箔により異なる図案5により加飾される。そして、背面カバー1は、前後両面(3,4)の境界となる外周縁6の全周において転写箔が途切れることなく配置されており、この外周縁6では基体7における樹脂の素地が露出していない。図5に示した背面カバー1では、樹脂の素地は開口部2の内周縁8でのみ露出している。
【0028】
<製造方法>
第1の実施例に係る両面インモールド成形品の製造方法として、図4図5に示した背面カバー1の製造手順を挙げる。図6に背面カバー1の製造手順を(A)~(D)の順で示した。背面カバー1の製造手順では、二つの金型部材(20a,20b)からなる金型20を用い、図6に示した金型部材(20a,20b)の断面は、図5に示した背面カバー1におけるb-b矢視断面に対応している。また、図6では、背面カバー1における前後、左右、上下の各方向を、この二つの金型部材(20a,20b)における前後、左右、及び上下の各方向として規定している。そして、ここでは、前方の金型部材20a(以下、「前方金型20a」と言うことがある。)を固定金型とし、後方の金型部材20b(以下、「後方金型20b」と言うことがある。)を移動金型としている。なお、図示した金型20における上下方向は重力に従った上下方向(鉛直方向)を示すものではない。
【0029】
背面カバー1の製造手順について、まず、図6(A)に示したように、前方金型20aに背面カバー1の前面3側の加飾を施すための転写フィルム30a(以下、「前面側フィルム30a」と言うことがある。)を架け渡す。後方金型20bには背面カバー1の後面4側の加飾を施すための転写フィルム30b(以下、「後面側フィルム30b」と言うことがある。)を架け渡す。
【0030】
ゲート21は前方金型20a側に配置されており、前面側フィルム30aにおいて、ゲート21に対応する位置には貫通孔31が事前に形成されている。また、前面側フィルム30aは、前方金型20aの内面22aに密着した状態で架け渡されており、図6(B)に示したように、金型20を閉じると、前方金型20aの内面22aと後方金型20bの内面22bとによって溶融樹脂40の射出空間となるキャビティ23が形成される。また、前面側フィルム30a、及び後面側フィルム30bが、キャビティ23の左右外方にて前方金型20aと後方金型20bとによって狭持される。
【0031】
上述したように、前面側フィルム30aは、貫通孔31がゲート21に対面しつつ前方金型20aの内面22aに密着している。また、ゲート21は、キャビティ23内に開口している。そのため、金型20を閉じた後、図6(C)に示したように、ゲート21から溶融樹脂40を射出すると、その溶融樹脂40が前面側フィルム30aの貫通孔31を介してキャビティ23内で互いに対面する前面側フィルム30aと後面側フィルム30bとの間隙に案内されつつ、キャビティ23に充填されていく。
【0032】
そして、図6(D)に示したように、キャビティ23内に溶融樹脂40が充填されると、前面側フィルム30aと後面側フィルム30bのそれぞれの転写箔が溶融樹脂40と接触し、その接触面が相溶状態となる。溶融樹脂40が冷却すると、前面側フィルム30aの転写箔、及び後面側フィルム30bの転写箔が、それぞれのベースフィルムから剥離し、基体の前後両面に転写箔が転写されてなる成形物が成形される。溶融樹脂40が充分に冷却されて固化したならば、金型20を開くとともに、成形物を取り出す。
【0033】
図7に、金型20から取り出した状態の成形物50を示した。図4図5に示した背面カバー1において開口部2となる領域51内にゲート跡52が製品領域に対して前方に突出するように成形されている。なお、ゲート跡52には、例えば、ランナーなど、成形物50を金型20から取り出す際に、製品領域の外方に成形された部分も含まれる。この成形物50に対し、開口部2となる領域51を切削加工等により開口すれば、上述した背面カバー1が完成する。
【0034】
図8に、図5において円200で示した領域のb-b矢視断面の拡大図を示した。第1の実施例に係る成形品の製造方法によれば、金型20から取り出される成形物50がそのまま製品領域となるため、図8に示したように、背面カバー1等の製品として用いられる成形品の外周縁6においても前後両面(3,4)で転写箔(32a,32b)が連続し、この外周縁6に樹脂素材自体で構成された基体7が露出せず、美観に優れた成形品を作製することができる。なお、基体7は、開口部2の内周縁8で露出するものの、この内周縁8は、レンズユニット部13等、背面カバー1の前面3側に接する何らかの構成を外部に露出させるためのものであることから、この内周縁8に露出した基体7によってスマートフォン10等の製品の美観が損なわれることはない。
【0035】
また、第1の実施例に係る成形品の製造方法によれば、射出成形に際し、製品領域の内側から溶融樹脂40をキャビティ23内に案内するため、ゲート跡52が製品領域内に形成される。そのため、無駄となる樹脂材料を削減することができる。また、背面カバー1のように薄い板状の成形品であっても、ゲート21が製品領域の内側に配置されているため、溶融樹脂40を製品領域の周囲からキャビティ23に案内しなくても、溶融樹脂40をキャビティ23内の隅々まで流動させることができる。
【0036】
なお、前面側フィルム30aに貫通孔31を形成するためには、例えば、図9に示したように、図中、破線矢印で示した、前面側フィルム30a、及び後面側フィルム30bを、それぞれ、前方金型20a、及び後方金型20bに供給する経路のうち、前面側フィルム30aの供給経路の途上に孔開け加工機60を設置しておけばよい。それによって、前面側フィルム30aに対する孔開け加工動作(図中、白抜き矢印)と前方金型20aへの前面側フィルム30aの架設動作、及び後面側フィルム30bの後方金型20bヘの架設動作を連続的に行うことができる。そして、後面側フィルム30b、及び孔開け加工された前面側フィルム30aを、それぞれ後方金型20b、及び前方金型20aに対して位置合わせしつつ架け渡したならば、後方金型20bを前方金型20a側へ移動させて金型20を閉じればよい。孔開け加工機60としてプレス加工機を用いることもできるが、レーザー加工機を用いれば、貫通孔31の形成時に前面側フィルム30aの切削屑等がでず、コンタミネーションの発生を防止することができる。
【0037】
===第2の実施例===
従来、成形品には、外面にリブ、ボス、アンダーカット等の凸状の部位(以下、「突出部」と言うことがある)が形成されたものがある。このような突出部を有する成形品については、その成形品の外面において突出部が形成されている面にインモールド成形によって加飾を施すことができなかった。そのため、突出部が形成されている面については、成形物を成形した後、その面に、印刷等により加飾を施したり、突出部の形成領域に合わせて貫通孔が形成された加飾フィルムを貼着したりする必要があった。
【0038】
しかし、上述した第1の実施例に係る製造方法を応用すれば、両面インモールド成形によって、一主面に突出部が形成されつつ、その突出部の形成領域を除けば、一主面を含む外面の全領域に転写箔が転写された成形品を作製することができる。以下に、第2の実施例に係る成形品、及び第2の実施例に係る成形品の製造方法として、表裏一方の面に突出部を有する成形品と、その成形品を両面インモールド成形技術により作製する手順を挙げる。
【0039】
<成形品>
図10に第2の実施例に係る成形品71の一例を示した。図10に示した成形品71は、矩形板状で、一主面73に突出部72が形成されている。ここで、成形品71の表裏方向を前後方向、前後方向から見たときの矩形の長辺方向を上下方向、短辺方向を左右方向とするとともに、突出部72が前方に向けて突出していることとして前後の各方向を規定すると、成形品71は、平坦な矩形平面領域75の左右縁辺側に前方に湾曲する領域が連続する形状を有している。そして、成形品71は、前面73における矩形平面領域75の四隅に円柱状の突出部72が形成されている。なお、後面74は凹凸がない面で形成されている。
【0040】
図示した成形品71は、何らかの製品を構成する一つの部材である。また、その製品は、例えば、この成形品71とその他の部材とで構成され、その他の部材には当該成形品71の突出部72が嵌め込まれる孔等が形成されている。製品は、その孔に成形品71の突出部72が嵌め込まれることで組み立てられる。このように、第2の実施例に係る成形品71は、この成形品71の取り付け対象となる部材に設けられた孔等に突出部72を嵌め込むだけで製品を組み立てることができるものである。そして、第2の実施例に係る成形品71においても、外周縁76の全周縁において転写箔が配置されて、基体77を構成する樹脂の素地が露出していない。また、図10に示した成形品71では、樹脂の素地は突出部72の形成領域のみで露出している。
【0041】
<製造方法>
図11図10に示した成形品71の製造手順を(A)~(D)の順で示した。成形品71の製造手順では、二つの金型部材(80a,80b)からなる金型80を用い、図11に示した金型部材(80a,80b)の断面は、図10に示した成形品71におけるc-c矢視断面に対応している。また、図11では、成形品71における前後、左右、上下の各方向を、この二つの金型部材(80a,80b)における前後、左右、及び上下の各方向として規定している。そして、金型80は、第1の実施例と同様に、雄型となる前方金型80aを固定金型とし、雌型となる後方金型80bを移動金型としている。
【0042】
まず、図11(A)に示したように、前方金型80aに成形品71の前面73側の加飾を転写させるための転写フィルム90a(以下、「前面側フィルム90a」と言うことがある。)を当該前方金型80aの内面83aと密着させつつ架け渡す。後方金型80bには成形品71の後面74側の加飾を転写させるための転写フィルム90b(以下、「後面側フィルム90b」と言うことがある。)を架け渡す。
【0043】
また、ゲート81は前方金型80a側に配置されている。さらに前方金型80aには、突出部72を形成するために円柱状の内面を有する凹部82がゲート81の後方に連続して形成されており、凹部82の底面に当該ゲート81が開口している。そして前面側フィルム90aには、四つの突出部72のそれぞれに対応する位置に貫通孔91が形成されており、各貫通孔91の開口形状は、凹部82の開口形状を包含する形状となっている。そして、前面側フィルム90aを前方金型80aに架け渡す際には、貫通孔91の内周が凹部82の開口を囲繞するように当該前面側フィルム90aを配置する。なお、第1の実施例と同様に、図9に示した孔開け加工機60を前面側フィルム90aの供給経路上に配置し、その孔開け加工機60によって貫通孔91を形成することとしてもよい。
【0044】
次に、図11(B)に示したように、金型80を閉じると、前方金型80aの内面83aと後方金型80bの内面83bとによって溶融樹脂40の射出空間となるキャビティ84が形成される。また、前面側フィルム90a、及び後面側フィルム90bが、キャビティ23の左右外方にて前方金型80aと後方金型80bとによって狭持される。
【0045】
金型80を閉じたら、図11(C)に示したように、その金型80内に形成されたキャビティ84内に溶融樹脂40を射出する。このとき、ゲート81から射出される溶融樹脂40が、前方金型80a側の凹部82に充填されつつ、その溶融樹脂40が前面側フィルム90aの貫通孔91を介してキャビティ84内で互いに対面する前面側フィルム90aと後面側フィルム90bとの間隙に案内されつつ、キャビティ84全体に充填されていく。
【0046】
図11(D)に示したように、キャビティ84内に溶融樹脂40が充填された後、その溶融樹脂40が充分に冷却されて固化したならば、金型80を開くとともに、キャビティ84の形状に成形された成形物を取り出す。そして、その成形物からゲート跡を除去すれば図10に示した成形品が完成する。
【0047】
図12に、図10において円300で示した領域のc-c矢視断面の拡大図を示した。図12に示したように、第2の実施例に係る成形品の製造方法によれば、成形品71の外周縁76においても前後両面(73,74)で転写箔(92a,92b)が連続し、この外周縁6に樹脂素材自体で構成された基体77が露出せず、美観に優れた成形品を作製することができる。基体77は、突出部72の形成領域でのみ露出するものの、この突出部72は他の部材に形成された孔などに挿入されるため、実質的には、外方には露出しない。そのため、この成形品71を備えた製品の美観が、基体77が露出する突出部72によって損なわれることはない。
【0048】
===その他の実施例===
上記各実施例に係る成形品の製造方法では、成形物からゲート跡を除去することで最終的な成形品を完成させていたが、ピンゲートを有する金型やホットランナーを用いることで、離型時にゲート跡が残らず、金型から取り出した成形物自体を成形品とすることもできる。すなわち、開口部2や突出部72がなく、外周縁に転写箔が配置され、かつ、ゲートに対応する位置に貫通孔を有する転写箔が配置された成形品を作製することができる。もちろん、ピンゲートやホットランナーにより成形された成形物に対して開口部2を形成して最終的な成形品を作製してもよい。
【0049】
上記各実施例において、当然のことながら前方金型(20a,80a)に設けられるゲート(21,81)の数は一つに限らない。複数のゲート(21,81)を設けるとともに、前面側フィルム(30a,80a)の貫通孔(31,91)を各ゲート(21,81)に対応して設けることもできる。
【0050】
成形品(1,71)を成形する際、貫通孔(31,91)が形成された前面側フィルム(30a,80a)の全領域を前方金型(20a,80a)の内面(22a,83a)に密着させなくてもよい。少なくとも貫通孔(31,91)を囲繞する領域が前方金型(20a,80a)の内面(22a,83a)に密着していれば、溶融樹脂40を貫通孔(31,91)を介してキャビティ(23,84)内に案内することができる。それにより、例えば、図6に示した第1の実施例に係る成形品の製造方法の手順では、前方金型20a側が雄型で、後方金型20b側が雌型となるような内面形状であったが、前方金型20a側を雌型にすることもできる。
【0051】
上記各実施例に係る成形品の製造方法では、貫通孔(31,91)が形成された前面側フィルム(30a,90a)が架け渡される側の前方金型(20a,80a)が固定金型であったが、前面側フィルム(30a,90a)を吸引したりするなどして、前方金型(20a,80a)の内面(22a,83a)に密着させた状態で維持できるのであれば、前方金型(20a,80a)を移動金型としてもよい。
【0052】
貫通孔(31,91)の平面形状は、ゲート21や凹部82の開口形状を囲繞する形状であれば、円形に限らない。
【0053】
第2の実施例において、成形品71に形成される突出部72は円柱状に限らず角柱状や前方に縮径する円錐台状等でもよい。さらに突出部72は、リブやアンダーカットでもよい。リブであれば、前方金型80a側に、ゲート81に連続する溝を形成しておくとともに、前面側フィルム90aにこの溝の開口を包含するスリット状の貫通孔91を形成すればよい。前方金型80aに柱状の凹部82の内方に出入可能なスライドコアを設ければ、アンダーカットを形成することもできる。
【0054】
第2の実施例において、ゲート81は凹部82の底部に限らず、凹部82の内周面に設けてもよい。いずれにしても、ゲート81が凹部82に連続して形成されていればよい。第2の実施例に限らず、上記各実施例に係る成形品の製造方法では、前面側フィルム(30a,90a)を前方金型(20a,80a)に架け渡す際、その架け渡し動作に続く、金型(20,80)を閉じて溶融樹脂40をゲート(21,81)から射出する手順において、溶融樹脂40が貫通孔(31,91)を介してキャビティ(23,84)に案内される経路が形成されるように前面側フィルム(30a,90a)を配置している。
【0055】
開口部2と突出部72の双方を有する成形品を両面インモールド成形するために、第1の実施例に係る成形品の製造方法と第2の実施例に係る成形品の製造方法とを組み合わせることもできる。
【0056】
成形品(1,71)は、板状の成形品に限らない。そして、各実施例に係る成形品(1,71)の製造方法によれば、開口部2や突出部72に相当する部位があれば、厚さがある成形品であっても、開口部2の内面や突出部72以外の全面に転写箔(32a,32b,92a,92b)を配置させることができる。
【符号の説明】
【0057】
1,71,101b 両面インモールド成形品(成形品)、2 開口部、
3,73 成形品の前面、4,74 成形品の後面、
6,76,104 成形品の外周縁、7,77,107基体、8 開口部の内周縁、
20,80 金型、20a,20b,80a,80b 金型部材、21,81 ゲート、23,84 キャビティ、30a,30b,90a,90b 転写フィルム、
31,91 貫通孔、32a,32b,92a,92b,106 転写箔、
40 溶融樹脂、50,100 成形物、52,102 ゲート跡、72 突出部、
82 凹部
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