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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056329
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】平面型赤外光源及び気流計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3504 20140101AFI20240416BHJP
   G01N 21/01 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
G01N21/3504
G01N21/01 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163129
(22)【出願日】2022-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】302060650
【氏名又は名称】株式会社フォトニックラティス
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 英樹
(72)【発明者】
【氏名】生尾 和行
(72)【発明者】
【氏名】大沼 隼志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 尚
(72)【発明者】
【氏名】長田 悠希
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB01
2G059CC04
2G059CC05
2G059CC09
2G059EE01
2G059FF01
2G059HH01
2G059KK04
2G059NN02
(57)【要約】
【課題】高感度で高再現性の気流計測を可能にする平面型赤外光源及びそれを備えた気流計測装置を提供することである。
【解決手段】本発明の平面型赤外光源100は、気流Gの背景に設置して気流計測を可能とする平面型赤外光源であって、黒体加工された赤外線放射面10aと、気流Gが赤外線放射面10aに入射するのを阻止するように赤外線放射面10aから離隔して配置すると共に、赤外線放射面10aから放射される赤外線を透過する赤外透過窓20と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気流の背景に設置して気流計測を可能とする平面型赤外光源であって、
黒体加工された赤外線放射面と、
前記気流が前記赤外線放射面に入射するのを阻止するように前記赤外線放射面から離隔して配置すると共に、前記赤外線放射面から放射される赤外線を透過する赤外透過窓と、を備える、平面型赤外光源。
【請求項2】
前記気流を構成する気体の吸収帯中心波長が2.4~16μmである、請求項1に記載の平面型赤外光源。
【請求項3】
前記気体が二酸化炭素、一酸化炭素、メタン、一酸化窒素、二酸化窒素、水蒸気及びアンモニアからなる群から選択された1種の気体である、請求項2に記載の平面型赤外光源。
【請求項4】
前記赤外透過窓は、前記1種の気体の吸収波長に対して吸収率が5%以下の材料からなる、請求項3に記載の平面型赤外光源。
【請求項5】
前記材料が、サファイア、Si、Ge、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化バリウム、ZnS、ZnSe、及び、高分子フィルムからなる群から選択された1種である、請求項4に記載の平面型赤外光源。
【請求項6】
前記赤外透過窓は、前記1種の気体の吸収波長に対して反射率が5%以下である、請求項3に記載の平面型赤外光源。
【請求項7】
前記赤外透過窓は、その表面が反射防止の処理又は加工が施されている、請求項1に記載の平面型赤外光源。
【請求項8】
前記赤外透過窓は、前記1種の気体の吸収帯以外の波長に対して反射率が90%以上である、請求項3に記載の平面型赤外光源。
【請求項9】
前記赤外透過窓は板状又はフィルム状の部材である、請求項1に記載の平面型赤外光源。
【請求項10】
前記赤外透過窓は、前記赤外線放射面に対して傾斜する傾斜部を有する、請求項1に記載の平面型赤外光源。
【請求項11】
前記赤外線放射面と前記赤外透過窓との間の空間が減圧又は真空とされている、請求項1に記載の平面型赤外光源。
【請求項12】
前記傾斜部で反射された赤外光を吸収する吸収板、又は、前記傾斜部で反射された赤外光を前記傾斜部に均一で安定な反射光として戻す反射安定板を備える、請求項10に記載の平面型赤外光源。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の平面型赤外光源と、赤外カメラと、を備える、気流計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面型赤外光源及び気流計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素(CO)分子を可視化できる赤外カメラを用い、CO分子をトレーサ粒子として気流を計測する技術が特許文献1に提案されている。CO分子の濃度分布に基づく濃淡像に動きベクトル検出法を適用することにより、気流が定量的に計測できる。このように赤外カメラで気体分子を可視化する場合、背景の室温の物体が自然に放射している赤外光を光源として利用するのが一般的である。
【0003】
自然の背景赤外光の強度は、室温での最大放射輝度がプランクの法則により厳密に規定されており、それを超えることはできない。気流測定のための信号量は、その背景赤外光の強度で制限され、また、実際の光量は背景にある個々の物体の放射率で決まるので、背景が何であるかによっても左右される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特願2021-177210号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
気流計測の高感度化、再現性向上には、大面積で均一で安定した赤外光を放射できる、持ち運び可能な照明光源が望まれている。有望な形態は、黒体塗装した平面を加熱する、平面型赤外光源である。しかし、測定対象である気流が赤外光源表面に照射されると、光源の表面に温度むらが生じ、赤外照明光自体が不均一になってしまう。このように、高感度で高再現性の気流計測に必要な均一な赤外光源の実現は、現実には容易ではない。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、高感度で高再現性の気流計測を可能にする平面型赤外光源及びそれを備えた気流計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0008】
本発明の態様1は、気流の背景に設置して気流計測を可能とする平面型赤外光源であって、黒体加工された赤外線放射面と、前記気流が前記赤外線放射面に入射するのを阻止するように前記赤外線放射面から離隔して配置すると共に、前記赤外線放射面から放射される赤外線を透過する赤外透過窓と、を備える平面型赤外光源である。
【0009】
本発明の態様2は、態様1の平面型赤外光源において、前記気流を構成する気体の吸収帯中心波長が2.4~16μmである。
【0010】
本発明の態様3は、態様2の平面型赤外光源において、前記気体が二酸化炭素、一酸化炭素、メタン、一酸化窒素、二酸化窒素、水蒸気及びアンモニアからなる群から選択された1種の気体である。
【0011】
本発明の態様4は、態様3の平面型赤外光源において、前記赤外透過窓は、前記1種の気体の吸収波長に対して吸収率が5%以下の材料からなる。
【0012】
本発明の態様5は、態様4の平面型赤外光源において、前記材料が、サファイア、Si、Ge、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化バリウム、ZnS、ZnSe、及び、高分子フィルムからなる群から選択された1種である。
【0013】
本発明の態様6は、態様3の平面型赤外光源において、前記赤外透過窓は、前記1種の気体の吸収波長に対して反射率が5%以下である。
【0014】
本発明の態様7は、態様1の平面型赤外光源において、前記赤外透過窓は、その表面が反射防止の処理又は加工が施されている。
【0015】
本発明の態様8は、態様2の平面型赤外光源において、前記赤外透過窓は、前記1種の気体の吸収帯以外の波長に対して反射率が90%以上である。
【0016】
本発明の態様9は、態様1の平面型赤外光源において、前記赤外透過窓は板状又はフィルム状の部材である。
【0017】
本発明の態様10は、態様1の平面型赤外光源において、前記赤外透過窓は前記赤外線放射面に対して傾斜する傾斜部を有する。
【0018】
本発明の態様11は、態様1の平面型赤外光源において、前記赤外線放射面と前記赤外透過窓との間の空間が減圧又は真空とされている。
【0019】
本発明の態様12は、態様10の平面型赤外光源において、前記傾斜部で反射された赤外光を吸収する吸収板、又は、前記傾斜部で反射された赤外光を前記傾斜部に均一で安定な反射光として戻す反射安定板を備える。
【0020】
本発明の態様13は、態様1~12のいずれか一つの平面型赤外光源と、赤外カメラと、を備える気流計測装置である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高感度で高再現性の気流計測を可能にする平面型赤外光源を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施形態に係る平面型赤外光源の一例を示す斜視模式図である。
図2】本実施形態に係る気流計測装置1000の一例を示すブロック図である。
図3】特定のガス分子を可視化する赤外カメラによる気流計測の原理を説明するための概念図である。
図4】平面型赤外光源を気流の背景に配置することにより気流計測を行っている様子を概念的に示す図である。
図5】平面型赤外光源を用いた気流計測の高感度化の効果を示す画像であり、(a)は実験の様子を示す写真であり、(b)は背景に加熱せず室温(25℃)のまま平面型赤外光源を置いた場合のCO可視化画像であり、(c)は背景に加熱して55℃にした平面型赤外光源を置いた場合のCO可視化画像であり、(d)は赤外透過窓を備えた平面型赤外光源を用いた場合のCO可視化画像である。
図6】平面型赤外光源の表面に測定対象である気流が垂直な成分を持って直接噴射されている場合の気流計測を行っている様子を概念的に示す図である。
図7】平面型赤外光源の表面(赤外線放射面)に気流が直接照射された効果を示す画像であり、(a)は比較実験として、平面型赤外光源の前でNガスを背景と平行に噴射している実験の様子を示す写真であり、(b)は(a)の場合の気流計測の結果を示す画像であり、(c)は背景に垂直に近い角度で平面型赤外光源の表面に向かってNガスを噴射している実験の様子を示す写真であり、(d)は(c)の場合の気流計測の結果を示す画像であり、(e)は赤外透過窓として厚さ3mmのサファイアを用いた平面型赤外光源の赤外透過窓に垂直に近い角度でNガスを噴射した場合のCO可視化画像であり、(f)は赤外透過窓として厚さ1mmのポリカーボネートを用いた平面型赤外光源の赤外透過窓に垂直に近い角度でNガスを噴射した場合のCO可視化画像である。
図8】(a)~(d)はサファイア窓を備えた平面型赤外光源を用いて気流計測を行って得た結果があり、(e)、(f)はポリオレフィンフィルム窓を備えた平面型赤外光源を用いて気流計測を行って得た生画像であり、(a)は気流計測を行う前の生画像であり、(b)は図5(d)に対応する気流計測を行って得た生画像であり、(c)はカメラを操作するために操作者が手を伸ばした瞬間の生画像であり、(d)はカメラを操作するために操作者が手を伸ばした瞬間の時間微分処理を施した画像であり、(e)は生画像であり、(f)は時間微分処理画像である。
図9】(a)は赤外線放射面に対して傾斜する赤外透過窓を備える平面型赤外光源を示す模式図であり、(b)は(a)で示した構成にさらに、反射安定板を備える平面型赤外光源を示す模式図である。
図10】傾斜配置により反射防止の効果を確認した結果を示す画像であり、(a)は気流計測を行う前の生画像であり、(b)は気流計測を行って得た生画像であり、(c)は時間微分処理を施した画像である。
図11】赤外透過窓の表面反射防止機構の様々な態様を示す模式図であり、(a)は赤外透過窓が観察方向に対して正立配置した構成であり、(b)は赤外透過窓が観察方向に対して45度傾斜配置した構成であり、(c)は放射板の赤外線放射面と赤外透過窓が平行配置のまま、45度傾斜した構成である。
図12】赤外透過窓の表面反射防止機構の様々な態様を示す模式図であり、(d)は互いに逆向きの45度配置の2枚の赤外透過窓がカメラ側に頂点が向くように山折り型に配置する構成であり、(e)は互いに逆向きの45度配置の2枚の赤外透過窓が赤外線放射面側に谷が向くように谷折り型に配置する構成であり、(f)は赤外透過窓がさらに細かく分割して波形表面とした構成である。
図13】数値計算を行うためのモデルを模式的に示す図であり、(a)は赤外透過窓を有さない平面型赤外光源の場合であり、(b)は赤外透過窓が正立配置する場合であり、(c)は赤外透過窓が45°傾斜配置する場合である。
図14】T=50℃の場合の透過窓反射強度比、透過窓放射強度比を計算した結果を示すグラフである。
図15】T=55℃の場合の透過窓反射強度比、透過窓放射強度比を計算した結果を示すグラフである。
図16】T=80℃の場合の透過窓反射強度比、透過窓放射強度比を計算した結果を示すグラフである。
図17】T=100℃の場合の透過窓反射強度比、透過窓放射強度比を計算した結果を示すグラフである。
図18】本実施形態に係る平面型赤外光源を用いない場合のCO気流計測の結果であり、(a)~(c)はそれぞれ、濃度10%、濃度1%、濃度0.2%の場合の時間微分処理を施した画像であり、(d)~(f)はそれぞれの生画像である。
図19】赤外透過窓を正立配置した平面型赤外光源を用いた場合のCO気流計測の結果であり、(a)~(c)はそれぞれ、濃度10%、濃度1%、濃度0.2%の場合の時間微分処理を施した画像であり、(d)~(f)はそれぞれの生画像である。
図20】赤外透過窓を傾斜配置した平面型赤外光源を用いた場合のCO気流計測の結果であり、(a)~(c)はそれぞれ、濃度10%、濃度1%、濃度0.2%の場合の時間微分処理を施した画像であり、(d)~(f)はそれぞれの生画像である。
図21】(a)は二酸化炭素(CO)の吸光度スペクトルを示すグラフであり、(b)は一酸化炭素(CO)の吸光度スペクトルを示すグラフである。
図22】(a)は一酸化窒素(NO)の吸光度スペクトルを示すグラフであり、(b)はは二酸化窒素(NO)の吸光度スペクトルを示すグラフである。
図23】(a)は水(水蒸気、HO)の吸光度スペクトルを示すグラフであり、(b)はアンモニア(NH)の吸光度スペクトルを示すグラフである。
図24】メタン(CH)の吸光度スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であり、その効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0024】
(平面型赤外光源)
図1に、本実施形態に係る平面型赤外光源の一例を示す斜視模式図を示す。
図1に示す平面型赤外光源100は、気流Gの背景に設置して気流計測を可能とする平面型赤外光源であって、黒体加工された赤外線放射面10aと、気流Gが赤外線放射面10aに入射するのを阻止するように赤外線放射面10aから離隔して配置すると共に、赤外線放射面10aから放射される赤外線を透過する赤外透過窓20と、を備える。
ここで、「黒体加工された」とは、赤外放射面を作る最も一般的な方法として高い放射率が保証された黒体塗料を塗布する方法や、それ以外に表面の微細な凹凸を制御することで表面を黒体にする方法や、表面に垂直にカーボンナノチューブのようなナノ材料を成長させて黒体にする方法によって表面が黒体に加工されたことを指す。
赤外線放射面10aと赤外透過窓20との間の空間Sは減圧又は真空とされていてもよい。
【0025】
本実施形態に係る平面型赤外光源は、大面積で均一で高強度な平面型赤外光源の使用により、高感度、簡便な特定のガス分子(気体分子)をトレーサとした気流計測を可能にするものである。また、本実施形態に係る平面型赤外光源は、平面型赤外光源への気流の照射を防止する赤外透過窓を備えることによって、均一な赤外光の照射を可能とし、安定で周囲状況に左右されない高再現性の気流計測を可能とする。
【0026】
図1においては、赤外カメラ200も図示しており、全体として、平面型赤外光源100と赤外カメラ200とを備えた本実施形態に係る気流計測装置1000を概念的に図示している。
【0027】
(気流計測装置)
図2に、本実施形態に係る気流計測装置1000の一例を示すブロック図を示す。
図2に示すように、気流計測装置1000は気流計測用平面型赤外光源100と赤外カメラ200とを備え、さらに画像処理ユニット300を備え、さらに必要に応じて統合制御手段400により画像処理ユニット300や赤外カメラ200とが統合制御できることが好ましい。
気流計測装置1000は、平面型赤外光源100を移動させる光源移動手段を備えることが好ましい。
【0028】
気流計測装置1000は、バッテリーで駆動可能であることが好ましい。
統合制御手段400は、光量設定など平面型赤外光源100と赤外カメラ200の連携や、観察対象気流に対して適切な位置への平面型赤外光源の移動、位置合わせなど光源移動手段との連携を統合制御できることが好ましい。
【0029】
また、気流計測装置1000は、特定のガス分子の気流可視化において、ガス分子の共鳴散乱を利用して照明光がカメラの視野に直接収まらない暗視野配置にて、照明されたガス分子がその吸収帯において共鳴散乱を起こし、散乱光をカメラで捉えることにより、特定のガスを可視化することも可能である。
【0030】
<特定のガス分子を可視化する気流計測の原理>
図3に、特定のガス分子を可視化する赤外カメラによる気流計測の原理を説明するための概念図を示す。
背景の物体が自然に放射している赤外光を光源とし、その特定のガス分子を含む気流を透過した赤外光を赤外カメラで検出する。なお、以下では特定のガス分子として主にCO分子を対象として説明する。CO分子の吸収帯(短波長吸収帯)中心波長は4.26μmであるが、この波長をその分子の固有の吸収帯中心波長に置き換えて考えると、以下の説明は赤外活性な任意のガス分子にそのまま適用できる。ここで、本明細書において、「吸収帯中心波長」とは、注目している吸収帯において、中心付近に現れる谷あるいは山(中心付近に谷が現れるか山が現れるかは分子に依存する)の波長のことである。
【0031】
気流計測可能なガス分子として例えば、その吸収帯中心波長が2.4~16μmのガス分子を挙げることができる。吸収帯中心波長がこの範囲に入るガス分子としては二酸化炭素(CO)、一酸化炭素(CO)、メタン(CH)、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO)、水蒸気(HO)及びアンモニア(NH)からなる群から選択されたガス分子が挙げられる。具体的には、CO分子(4.67μm)、CH分子短波長吸収帯(4.67μm)、CH分子長波長吸収帯(7.66μm)、NO分子(5.33μm)、NO分子(6.18μm)、HO分子短波長吸収帯(2.64μm)、HO分子長波長吸収帯(6.26μm)、NH分子(10.3μm)を挙げることができる。また、CO分子の長波長吸収帯の中心波長は15.0μmである。
【0032】
背景とカメラの間にCO分子が存在すると、CO分子の吸収帯の赤外光の光量が変化する。赤外カメラには例えば、CO吸収帯に透過帯域を一致させたCO用バンドパスフィルタが赤外撮像素子と共に冷却チャンバに納められ、冷却されている。これにより、CO分子による赤外光の吸収量の変化を、高いコントラストで検出できる。CO分子の濃度には一般に不均一さがあるので、その濃度分布パターンをトレーサとして利用し、気流の動きを可視化できる。特に、時間微分画像を用いると、CO分子の分布のわずかな動的変化を敏感に抽出することができる。さらにオプティカルフローなどの動きベクトル検出処理法を適用することにより、気流を定量的に測定できる。
【0033】
背景からの赤外光の放射スペクトルはプランクの法則で与えられる。その最大値は、完全黒体の放射スペクトルとして絶対温度の関数で厳密に規定されており、それを超えることはできない。これがカメラで捉えられる信号量の理論的な上限を与える。現実の赤外光量は、完全黒体の放射スペクトルに背景物体の放射率(0以上1以下)を乗じた値となる。従って、天然の背景物体が放射する赤外光は、背景各部の材質や表面性状によっても左右され、背景からの赤外光は場所によって均一ではない。そのため、気流計測の感度、再現性ともに不十分である。そこで、気流計測の感度、再現性を高めるために、平面型赤外光源を気流の背景に配置する構成について次に説明する。
【0034】
<平面型赤外光源を用いた気流計測>
図4は、平面型赤外光源を気流の背景に配置することにより気流計測を行っている様子を概念的に示す図である。黒体塗装した平面を加熱する平面型赤外光源を気流の背後に起き、室温よりも高い温度に維持した均一な黒体で、CO可視化カメラの視野を満たす。入射する信号量を大きくすることで感度を向上し、均一な表面から安定した、よく制御された赤外光を放射することにより、再現性を向上することが可能となる。
【0035】
図5を用いて、均一に黒体塗装した平面型赤外光源を用いた気流計測の高感度化の効果を示す。図5(a)は実験の様子を示す写真である。純度100%のCOガスを、ボンベから背景と平行に噴射し、背景の違いによるCO可視化画像の違いを比較した。表面温度を55℃に設定した平面型赤外光源の前でCOガスボンベを背景と平行に噴射している。ただし、本実施形態に係る赤外透過窓を設置する前の状態である。平面型赤外光源は、300mm角のホットプレートを改造したもので、表面に放射率0.94の黒体塗料を塗布してあり、その温度を高精度に制御できるようにしたものである。
【0036】
図5(b)~(d)はレンズ焦点距離25mm、F値2.5,露光時間20ms、フレームレート30fpsの条件で撮影した画像に、過去5フレームの平均画像を減算する時間微分処理を施した結果で、共通の輝度範囲を表示している。なお、図5(b)~(d)では、過去5フレームの平均画像を減算する時間微分処理を施したが、平均画像をとるフレーム数として5フレームは一例であり、これより多いフレーム数にしたり、少ないフレーム数にしてもよい。
図5(b)は背景に平面型赤外光源を置かなかった場合の代わりに、加熱せず室温(25℃)のまま平面型赤外光源を置いた場合のCO可視化画像である。図5(c)は、背景に加熱して55℃にした平面型赤外光源を置いた場合のCO可視化画像である。時間微分処理前の生画像では、背景が25℃から55℃になったことで光量が増大していたことがわかった。時間微分処理を行い、同じスケールで表示した図5(b)と(c)からは、同じCOガスを対象としていながら、コントラストが劇的に向上したことがわかる。こうして、平面型赤外光源の使用により、気流計測の感度が向上できることがわかる。
【0037】
図5(d)は、赤外透過窓20(図1参照)を備えた、本実施形態に係る平面型赤外光源を用いた場合のCO可視化画像である。
赤外透過窓として、厚さ3mmのサファイアを用いた。サファイアの赤外透過窓(サファイア窓)の表面には何もコーティングしておらず、透過率0.84、反射率0.12、吸収率0.02である。図5(d)ではサファイア窓の領域を破線で示しているが、その内側では図5(c)同様にCOガスがコントラスト高く可視化されている。破線の外側は窓を固定するためのアルミニウム板で覆われており、奥にある光源からの赤外光は遮蔽されている。
【0038】
図5では、平面型赤外光源の表面(赤外線放射面)に対して、測定対象であるCOの気流は平行に噴射されていた。実際の気流計測では、平面型赤外光源の表面に垂直な成分を持った気流を対象とする場合も起こる。そこで、測定対象である気流が垂直な成分を持っていて、平面型赤外光源の表面に直接噴射されている状況での画像を記録した。図6はこの場合の気流計測を行っている様子を概念的に示す図である。図7を用いて、平面型赤外光源の表面(赤外線放射面)に気流が直接照射された効果を示す。気流が光源表面に噴射された影響だけを可視化するために、この実験では赤外不活性なために赤外カメラでは原理的に可視化できない窒素(N)ガスをブロアを用いて噴射した。
【0039】
図7(a)、(c)は実験の様子で、図7(a)では比較実験として、平面型赤外光源の前でNガスを背景と平行に噴射している。図7(c)では、背景に垂直に近い角度で平面型赤外光源の表面に向かってNガスを噴射している。図7(b)は図7(a)の場合(平行噴射)で赤外透過窓を備えない平面型赤外光源を用いた結果であり、図7(d)~(f)は図7(c)の場合(垂直噴射)の結果であり、図7(d)は赤外透過窓を備えない平面型赤外光源を用いた結果であり、図7(e)、(f)は、赤外透過窓を備えた平面型赤外光源を用いた結果である。
【0040】
図7(b)、(d)、(e)、(f)は、(e)を除いてはレンズ焦点距離25mm、(e)だけはレンズ焦点距離17mmである。その他のパラメータはF値2.5,露光時間20ms、フレームレート30fpsで共通で、得られた画像に、過去5フレームの平均画像を減算する時間微分処理を施した結果で、共通の輝度範囲を表示している。
図7(b)は平面型赤外光源の表面(赤外線放射面)に平行に噴射したNガスは、赤外不活性なため、確かに見えないことを示している。ところが、平面型赤外光源の表面(赤外線放射面)に垂直に近い角度でNガスを噴射した図7(d)では、赤外カメラでは見えないはずのNガスにより、放射状のパターンが発生している。これは、光源表面(赤外線放射面)に気流が照射されたことにより、局所的に冷却され、光源表面に温度むらが生じたことを示している。平面型赤外光源の表面材料には熱伝導が高いアルミニウムを用いている。アルミニウムは、銀、銅、金に次いで熱伝導率の高い材料で、表面の冷却が生じても、即座に熱伝導で均一化するはずであるが、赤外カメラの感度が高いので、そのわずかな温度分布すら識別可能となり、アルミニウム表面ですらこのような温度むらが可視化されたものである。このように、光源表面に気流が照射されてしまうと、光源の放射分布そのものが不均一になるため、COの吸収分布と光源自体の温度分布は識別できなくなり、気流計測には利用できない。
【0041】
<赤外透過窓を有する平面型赤外光源を用いた気流計測>
そこで、このような気流の直接照射に起因する平面型赤外光源の表面(赤外線放射面)の温度むら(温度不均一部)の発生を防止するために、本実施形態に係る平面型赤外光源100は、平面型赤外光源の表面(赤外線放射面)10aの前方に離間して赤外透過窓20を設けたものである(図1参照)。赤外透過窓20は、気流Gが赤外線放射面10aに入射するのを阻止するように赤外線放射面10aから離隔して配置すると共に、赤外線放射面10aから放射される赤外線を透過する構成である。
【0042】
赤外透過窓20としては例えば、気流計測する特定の気体(ガス)の吸収波長に対して吸収率が5%以下の材料からなるものを用いることができる。かかる材料として例えば、サファイア、Si、Ge、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化バリウム、ZnS、ZnSe、及び、高分子フィルムからなる群から選択された1種を用いることができる。
赤外透過窓20は、気流計測する特定の気体(ガス)の吸収波長に対して反射率が5%以下であることが好ましい。
赤外透過窓20は、その表面が反射防止の処理又は加工が施されていることが好ましい。
赤外透過窓20は、気流計測する特定の気体(ガス)の吸収帯以外の波長に対して反射率が90%以上であることが好ましい。
赤外透過窓20は、板状又はフィルム状の部材とすることができる。
【0043】
図7(e)は、赤外透過窓として厚さ3mmのサファイアを用いた本実施形態に係る平面型赤外光源において、この赤外透過窓に垂直に近い角度でNガスを噴射した結果を示すものである。平面型赤外光源の画像は図7(d)と異なって均一であり、赤外透過窓の設置により、光源表面に温度分布が生じることが防止できていることがわかる。ここで、サファイアの赤外透過窓(サファイア窓)の表面には何もコーティングしておらず、透過率0.84、反射率0.12、吸収率0.02である。図7(e)において、サファイア窓の領域を破線で示している。
【0044】
図7(f)は、赤外透過窓として厚さ1mm、表面に何もコーティングしていない透過率0.10、反射率0.09、吸収率0.81のポリカーボネートを用いた平面型赤外光源において、この赤外透過窓に垂直に近い角度でNガスを噴射した場合の結果である。
ポリカーボネート等、多くの透明高分子材料は4.26μmを中心とするCOの吸収帯にて顕著な吸収はないとされており、透明材料として使用可能な材料である。しかし、透明材料として利用可能なのは厚さ100μm程度のフィルムだけであり、この場合のように厚さ1mm程度にもなると吸収率はかなりの高さになる。図7(f)では、図7(d)同様に放射状のパターンが発生している。このとき、ポリカーボネート窓自体の温度は40.5℃に上昇していた。これは、0.81もの吸収率のため、55℃の平面型赤外光源からの赤外光をポリカーボネート窓(ポリカーボネートの赤外透過窓)が吸収して温度が上昇し、事実上、赤外透過窓自体が平面型赤外光源として動作しているためである。従って、測定対象である気流自体による平面型赤外光源の表面への影響を防止するには、赤外透過窓に十分な赤外透過性が必要である。
【0045】
<赤外透過窓の表面反射の影響>
図8(a)は気流計測前の画像、(b)は気流計測中の画像、(c)及び(d)は赤外カメラを操作するために操作者が手を伸ばした瞬間の画像、(e)は気流計測前の生画像、(f)は気流計測前の時間微分処理を施した後の画像である。
図8(a)~(d)は、上述のサファイア赤外透過窓(厚さ3mm、表面にコーティング無し、透過率0.84、反射率0.12、吸収率0.02)を用いた場合の結果であり、図8(e)~(f)は、ポリオレフィンフィルム赤外透過窓(厚さ100μm、表面にコーティング無し、吸収率0.11、反射率0.09、透過率0.80)を用いた場合の結果である。
また、図8(a)~(d)は、レンズ焦点距離25mm、F値2.5,露光時間20ms、フレームレート30fps、図8(e)、(f)は、レンズ焦点距離17mm、F値2.5,露光時間25ms、フレームレート30fpsで撮影した。図8(a)、(b)、(c)、(e)は時間微分処理をしていない生の画像で、共通の輝度範囲を表示している。図8(d)、(f)は得られた画像に、過去5フレームの平均画像を減算する時間微分処理を施した結果で、共通の輝度範囲を表示している。
【0046】
時間微分処理をしていない生画像の図8(a)には、赤外透過窓の表面反射により、赤外カメラ自体が写り込んでいる。サファイア窓(サファイアの赤外透過窓)として、ここでは安価な材料で済ませるために、180mm×60mmの板2枚を並べて大きな窓を実現している。図8(a)の生画像には窓中央に水平にその境界が見えている。サファイアの4.26μmでの屈折率1.66によるフレネル反射のために、各面6%、2面合計で12%の表面反射が生じる。図8(b)は図5(d)に対応する生画像で、COガスと同時にカメラが写り込んでいる。しかし、図5(d)で既に見たように、時間微分処理をすれば固定されたカメラは消える。
【0047】
しかし、周辺に動く物体がある場合、その写り込み画像は時間微分処理では消えず、時間微分処理をしていても問題になる。図8(c)、(d)は、カメラを操作するために操作者が手を伸ばした瞬間の映像である。図8(c)の生画像には、COガスの分布の他にカメラと手が写り込んでいる。図8(d)の時間微分処理画像では、動かないカメラの反射像は消えているが、動いている手は写り込んでいる。図8(c)、(d)では、写り込んだ手を○で示している。
このように時間微分処理画像に反射像の変化が見えてしまうことを防止するために、表面反射防止機構を導入することができる。
【0048】
<赤外透過窓の表面反射防止方法>
最も簡単な表面反射防止方法は、平面型赤外光源の赤外透過窓をカメラに対して正立させずに傾斜配置する構成とすることである。図9にかかる構成を模式的に示す。
図9(a)に示す平面型赤外光源101は、赤外線放射面11に対して傾斜する赤外透過窓21を備える。
図9(a)に示す例では、赤外透過窓21を垂直方向に対して45度、上端がカメラに近くなるように傾斜配置する。
【0049】
図9(b)に示す平面型赤外光源102は、図9(a)に示した平面型赤外光源101に加えて、さらに傾斜する赤外透過窓21で反射された赤外光を吸収する吸収板30、又は、傾斜する赤外透過窓21で反射された赤外光を赤外透過窓21に均一で安定な反射光として戻す反射安定板30を備える。
吸収板30は赤外透過窓21で反射された赤外光が赤外透過窓21へ戻らないように吸収率の高い材料からなるものである。吸収板30の材料としては例えば、高い放射率が保証された黒体塗料を塗布した金属板や、表面に垂直にカーボンナノチューブのようなナノ材料を成長させて黒体に加工した金属板などから選択することができる。
反射安定板30は赤外透過窓21で反射された赤外光を反射するが、時間的に一定でかつ空間的に均一な反射光(安定した反射光)を反射することが可能な材料からなるものである。反射安定板30の材料としては例えば、高い放射率が保証された黒体塗料を塗布した金属板や、表面に垂直にカーボンナノチューブのようなナノ材料を成長させて黒体に加工した金属板のほか、適度に高い放射率を持った塗料を塗布した金属板などから選択することができる。
図9(b)に示す例では、吸収板又は反射安定板は赤外透過窓21の下方に配置し、カメラに写り込む反射光を均一で安定なものとする。以下、吸収板及び反射安定板のうち、反射安定板を例に挙げて説明する場合がある。
【0050】
図10を用いて、実際に傾斜配置により反射防止の効果を確認した結果を示す。レンズ焦点距離25mm、F値2.5,露光時間20ms、フレームレート30fpsとした。赤外透過窓としては、上述と同様の、180mm×60mmの板2枚を並べたサファイア窓(サファイアの赤外透過窓)を用いた。各サファイア板は厚さ3mm、垂直透過率0.84、垂直反射率0.12、吸収率0.02のサファイアで、表面にコーティング無しである。
【0051】
図10(a)、(b)は、時間微分処理をしていない生画像で、共通の輝度範囲を表示している。図10(a)の生画像には図8(a)の生画像と同様に、窓中央に水平にその境界が見えている。図10(b)の生画像にもカメラや周辺物体の写り込みはなく、純粋にCOガス濃度分布のみが可視化されている。
図10(c)は得られた画像に、過去5フレームの平均画像を減算する時間微分処理を施した結果である。赤外透過窓は観察方向に対して水平面内に45度、右端がカメラに近くなるように傾斜配置している。さらに、赤外透過窓のカメラから見て左側に反射安定板として放射率0.94の黒体塗装した室温のアルミニウム板を置き、その表面が赤外透過窓で反射してカメラに写り込むように配置している。図10(c)では、図8(d)と異なり、カメラ自体の写り込みがないし、カメラを操作する周辺の動きも写り込まない。
図10(b)、(c)はCOガスを噴射している様子であるが、図10(c)の時間微分処理画像だけでなく、図10(b)の生画像にもカメラや周辺物体の写り込みはなく、COガス濃度分布のみが可視化されている。
【0052】
赤外透過窓がフィルム状である場合例えば、薄い樹脂フィルムを用いた場合などは、気流の噴射により表面が変形し、反射像が変化してしまい、時間微分処理画像に反射像の変化が見えてしまうことがある。
図8(e)は、ポリオレフィンフィルムを赤外透過窓とした場合の生画像で、気流の照射により、表面にしわが生じ、カメラの反射像や周囲の赤外放射光が反射して濃淡を作っている。図8(f)の時間微分処理画像では、フィルム表面が気流で揺らいで、反射像が動いている様子が写っている。この状態でCOガスを撮影すると、反射像の揺らぎとガスの動きは分離できないので、気流を正しく計測することはできない。このような場合に、図9で示したような表面反射防止法が有効である。
【0053】
図11及び図12に、赤外透過窓の表面反射防止機構の様々な態様を示す。
図11(a)に示す平面型赤外光源100Aは、図1に示した配置と同様に赤外透過窓が観察方向に対して正立している場合であるが、表面にAR(反射防止)コーティング20aを施された赤外透過窓20Aを用いた場合であり、赤外透過窓を垂直に設置したままでも、同様の反射防止効果がある。
図11(b)に示す平面型赤外光源102は、図9(b)に示した45度反射法による構成である。
図11(c)に示す平面型赤外光源104は、放射板11の赤外線放射面11と赤外透過窓21が平行配置のまま、放射板11の赤外線放射面11及び赤外透過窓21を45度傾斜した構成である。この構成は、図11(b)と比べて、熱放射のコサイン則のため、光量は71%に低下する。しかし、事実上、図11(a)の放射板10と赤外透過窓20Aのユニットを傾けて置くだけなので、図11(b)のようなかさばる構成は不要になる。
図12(d)に示す平面型赤外光源105は、赤外透過窓22が、互いに逆向きの45度配置の2枚の赤外透過窓22A、22Bがカメラ側に頂点が向くように山折り型に配置する構成である。反射安定板31は上下にそれぞれ配置する(31A、31B)。一般に赤外透過材料は高価であるので、面積が小さい方が入手しやすい。その点でも、一つの平面型赤外光源の面積を複数の赤外透過窓でカバーする構成は利点がある。
図12(e)に示す平面型赤外光源106は、赤外透過窓23が、互いに逆向きの45度配置の2枚の赤外透過窓23A、23Bが赤外線放射面側に谷が向くように谷折り型に配置する構成である。反射安定板31は図12(d)と同様に上下にそれぞれ配置する(31A、31B)。この構成では、2回反射した光路で赤外カメラや周辺物体が写り込んでしまうが、反射率は1回反射に比べると2乗になり、弱くなる。
図12(f)に示す平面型赤外光源107は、赤外透過窓23が、さらに細かく分割して波形表面とした構成すなわち、赤外透過窓23が、互いに逆向きの45度配置の6枚の赤外透過窓24A、24B、24C、24D、24E、24Fからなる構成である。赤外透過窓の枚数は6枚に限らず、6枚より多くてもよいし、少なくてもよい。
【0054】
<観察対象や環境への影響防止方法>
本実施形態に係る平面型赤外光源の赤外透過窓にバンドパスフィルタコーティングを施すことが好ましい。
赤外光は熱線であるため、平面型赤外光源の赤外線放射面から十分な赤外透過性を持った赤外透過窓を通じて照射される高輝度の赤外光は、観察対象物や周囲の物体、カメラなどの機器そのものなどを加熱する働きを持つ。これにより新たに対流が発生し、観察したい気流自体が乱されてしまう可能性が生じる。この問題を防ぐため、平面型赤外光源からは、COガスの可視化に必要な赤外光だけが照射されることが望ましいからである。そのためには、このバンドパスフィルタコーティングは、1面がARコーティングされているのであれば、もう1面だけに施すので十分である。また、COガスの非吸収帯における透過率の高さと、既に述べた吸収の小ささを両立するためには、このバンドパスフィルタは吸収ではなく、高い効率での反射により非吸収帯を除去するものであることが好ましい。
【0055】
<モデルを使った赤外透過窓の特性検討>
さらに赤外透過窓に必要な具体的な特性を明らかにするために、図13に示すモデルに従って、定量的に検討する。図13(a)は赤外透過窓を有さない平面型赤外光源の場合であり、図13(b)は平面型赤外光源の表面(赤外線放射面)に平行に離間して赤外透過窓が配置する場合、図13(c)は、図9(b)に対応するものであり、平面型赤外光源の表面(赤外線放射面)に対して45°傾斜して赤外透過窓が配置する場合である。
【0056】
カメラから見て、観察したい気流の奥に平面型赤外光源を置いた状況において、波長λを中心とし、波長帯域Δλを持ったバンドパスフィルタを通してカメラで検出される信号強度Iを考える。温度Tの完全黒体の表面から垂直向きの、波長λを中心としたバンドパスフィルタの波長帯域Δλに対する放射強度をB(T)と表す。B(T)[W/m]は正確にはプランクの法則により以下のように表される。
【0057】
【数1】

ここで、h:プランク定数、c:光速、kB:ボルツマン定数である。また、この計算の時には温度Tとして絶対温度(単位K)を用いる。
【0058】
平面型赤外光源は温度Tで、黒体塗装により表面の放射率は1に十分近いものとする(反射率、透過率は0となる)。その放射強度はB(T)で与えられる。
図13(a)は、赤外透過窓を有さない平面型赤外光源の場合の気流計測の状況を示す。周囲の環境の温度をTとし、その環境に置かれたカメラ自体やその周辺の物体(操作者も含む)も簡単のため環境と温度が等しいとする。また、それらの物体も簡単のため放射率が1に近いとする。赤外カメラに内蔵された赤外撮像素子の温度をTとし、TはTやTに比べて十分に低いものとする。このとき、環境側も平面型赤外光源に向かってB(T)の強度で放射しているが、平面型赤外光源の表面は反射率0であるので、検出器には単に、平面型赤外光源により発せられたI=B(T)の信号が入射する。光路上にCOが分布していると、その吸収により信号が減衰し、CO分布から気流が計測されることとなる。
【0059】
ここで、図13(b)のように、平面型赤外光源と気流の間に、2面合わせた反射率r、放射率εの赤外透過窓をカメラに対して正立させて置いたとする。その透過率tはt=1-r-εと表される。また、赤外透過窓は平面型赤外光源からの赤外光を吸収することにより、環境温度Tとは異なる温度Tに維持されているものとする。このときの赤外透過窓の吸収率aはキルヒホッフの法則により放射率と等しい(a=ε)。赤外透過窓はTとTの中間の温度Tとなる。
この時、カメラで検出される信号強度は
I=rB(T)+εB(T)+tB(T
と表される。右辺第1項は、環境側からの熱放射が赤外透過窓で反射されてカメラに入射する透過窓反射光である。右辺第2項は、赤外透過窓自体が放射する透過窓放射光である。右辺第3項が、平面型赤外光源から赤外透過窓を通して取り出した透過窓透過光である。
また、検出された信号Iに対するそれぞれの成分の比を、透過窓反射強度比rB(T)/I、透過窓放射強度比εB(T)/I、透過窓透過強度比tB(T)/Iと定義する。これら3項の和は1となる。
【0060】
図5図7図8図10で見てきた実際の観察事例において、時間微分処理後に得られていた画像の信号強度は、総信号量10000カウントに対して、100カウント程度であった。つまり、気流計測においては、COによる1%(0.01)程度の信号変化を議論するのが一般的である。この程度の微弱な信号が、赤外透過窓による反射光の変化や、赤外透過窓、赤外光源表面そのものの温度変化により放射光の変化により埋もれてしまい得る。このことから、典型的には、透過窓反射強度比や透過窓放射強度比を、いずれも1%以下に抑制することが再現性の高い気流計測には求められると言える。
【0061】
典型的な条件として、λ=4.26μm、Δλ=0.20μm、T=25℃、r=0~0.5、ε=0~0.5として、T=50℃、55℃、80℃、100℃のケースについて、透過窓反射強度比、透過窓放射強度比を計算した結果を図14図15図16図17に示す。各図の(a)が横軸にr、縦軸にεを取ったときの透過窓反射強度比、各図(b)が透過窓放射強度比を等高線の形で示している。ここで、T=80K(-193℃)で、T、Tに対して十分に低い。
【0062】
赤外透過窓の温度Tは吸収aの比較的大きな材質であるポリカーボネート(例:厚さ1mm、a=ε=0.81)を赤外透過窓の材料としたときの窓表面の実測温度(例:赤外光源表面からの距離9mm、T=55℃に対してT=40.5℃)から内挿して、ε、T、Tの関数として求めた。
【0063】
図15(a)から、T=55℃ではr≦0.02であれば広いε範囲にて透過窓反射強度比≦0.01を満足できる。図16図17から、Tが高いほど、rやεが大きな値でも透過窓反射強度比≦0.01が満足できるようになることがわかる。逆に低い方では、図14より、r≦0.02であれば、T=50℃でも透過窓反射強度比≦0.01が達成可能である。
【0064】
≦0.02が実現できない場合でも、図16より、光源温度を高めに設定し、T≧80℃とすれば、r≦0.05が実現できれば透過窓反射強度比≦0.01は達成できることがわかる。しかし、現実には、屋外での気流計測のためにバッテリー駆動の赤外光源として用いる場合には、温度Tが低ければ低いほど実用性が高まるので、そのためにはできるだけ低いrを実現するのが望ましいことになる。
【0065】
昇温した赤外透過窓への気流照射による放射強度分布を生じさせる透過窓放射強度比に関してもほぼ同様の議論が成り立ち、ε≦0.02により透過窓放射強度比≦0.01を実現することが望ましい。あるいは、ε≦0.05が実現できれば、光源温度Tを高めに設定することで、透過窓放射強度比≦0.01が実現できる。
【0066】
次にこれらの条件を実現するための赤外透過窓の具体的な材料の選択について検討する。赤外透過窓のεは材料と厚さで決まる。波長4.26μmにおいて、サファイア、Si、Ge、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化バリウム、ZnS、ZnSeは、ε≦0.02を達成できる。サファイアは波長4.26μmでは吸収が始まっているが、厚さ3mmであればε≦0.02を実現できる。
【0067】
赤外透過窓のrは表面にコーティングをしない場合には、材料の屈折率だけで決まる。しかし、両面にARコーティングをすれば、多くの材料でrをr≦0.01まで劇的に改善することができる。赤外透過窓としてSiやGeを用いた場合には、強力な保護膜となるダイヤモンドライクカーボンの屈折率がちょうどARコーティングに必要な屈折率に近いので、ダイヤモンドライクカーボンコーティングをARコーティングの代用として用いることもできる。
【0068】
図8のサファイア窓はr=0.12、ε=0.02で、T=55℃に対する結果であった。図15(a)から、このときの透過窓反射強度比は0.05であるが、図8で見たように、この程度の透過窓反射強度比では生画像にはカメラが写り込み、カメラの周辺で動きがある場合には時間微分処理画像にはCOの挙動に加えてそれが写り込んでしまう。したがって、透過窓反射強度比0.05は十分低い値とは言えず、透過窓反射強度比≦0.01という目標は妥当である。
【0069】
しかし同じサファイアでも、図12(e)、図12(f)のように環境の放射が2回反射してカメラに届く場合には、総合的な反射率は、屈折率1.66に対する45度入射に対するフレネル則に基づいて偏光の平均値を取るとr=0.008となるので、透過窓反射強度比≦0.01を十分に満足できる。
【0070】
サファイアは、フッ化マグネシウムなど、赤外吸収が無視でき、屈折率がサファイアの屈折率の1/2乗に近い低屈折率材料をARコーティングすることにより、r≦0.02を実現することは可能である。また、表面にモスアイ構造と呼ばれる波長よりも微細な凹凸構造を加工することでもr≦0.02を実現することができる。
【0071】
図12(b)、(c)で見たように、45度配置の場合には、図13(c)のモデルに基づいて計算することとなる。r、t、εが、垂直入射ではなく、45度入射に対する値となる違いは生じるが、これまで見てきた数式と違いはない。傾斜配置による反射防止は、平面型赤外光源の部分に体積を要するという欠点はあるが、透過窓反射強度比≦0.01が実現できなくても、反射先が温度的、機械的に安定であれば、気流計測には影響しない。ただし、透過窓透過強度比が高いほど信号が増大し、高感度な気流測定が可能になるので、透過窓反射強度比が小さい方が良いことに違いはない。
【0072】
赤外透過窓として高分子フィルムなど剛直でない材料を用いる場合には、高性能の反射防止コーティングが確立していないので、傾斜配置法に基づく構成を用いることが好ましい。
【0073】
本実施形態に係る平面型赤外光源が備える赤外透過窓は、気流計測の対象である気体の吸収帯以外の波長に対して反射率が90%以上であることが好ましい。
不要な加熱を防止するためのバンドパスフィルタリングでは、CO分子の吸収帯中心波長だけでなく、吸収帯と非吸収帯の境界を明確にする必要がある。上述の通り、本明細書において、注目している吸収帯において、中心付近に現れる谷あるいは山(中心付近に谷が現れるか山が現れるかは分子に依存する)の波長を吸収帯中心波長と定義する。また、吸光度がピーク吸光度の1/20(0.05)以上である領域を短波長側、長波長側にそれぞれ0.1μmずつ拡大した波長域を吸収帯、それ以外を非吸収帯と呼ぶことにする。非吸収帯において、反射率90%以上、さらには95%以上が実現できれば物体の過熱にだけ寄与する不要赤外光は十分に除去できると言える。赤外透過窓を傾斜配置する場合にも、適切な多層膜設計をすれば各波長で必要な反射率を持つコーティングは実現できる。なお、バンドパスフィルタには、SiO、ZnS、Geなどから構成された多層膜などを用いることができる。
【0074】
以上、本発明の平面型赤外光源は以下の内容を含むものである。
高輝度で制御された赤外光で気流を背後から大面積で照明するために、空洞型の黒体放射炉ではなく、黒体加工した表面を50℃以上、さらには80℃以上に加熱することにより赤外光を放射する平面型赤外光源を提供するものである。
気流計測するガス分子の吸収帯中心波長において、吸収率5%以下、さらには2%以下の赤外透過窓を有する平面型赤外光源を提供するものである。赤外透過窓の具体的な材料としては、サファイア、Si、Ge、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化バリウム、ZnS、ZnSeが挙げられる。また、赤外透過窓として、ポリエチレン、ポリオレフィンなど高分子ポリマーの厚さ100μmよりも薄いフィルムが挙げられる。
平面型赤外光源の赤外透過窓が観察方向に対して正立配置する構成である場合、ガス分子の吸収帯中心波長において、反射率5%以下、さらには2%以下の赤外透過窓を有する平面型赤外光源を提供するものである。それを実現する方法として例えば、赤外透過窓よりも低い屈折率を持つ材料による反射防止(AR)コーティング、波長よりも微細な凹凸構造を加工するモスアイ構造の使用が挙げられる。
平面型赤外光源の赤外透過窓が観察方向に対して傾斜配置する構成である場合、環境の機械的変化や温度的変化が赤外カメラに入射しないようにした平面型赤外光源を提供するものである。環境の機械的変化や温度的変化が赤外カメラを入射させない方法として例えば、赤外カメラから見た反射先に吸収板や反射安定板を設置する方法がある。また、赤外カメラに反射光が戻るまでに、傾斜配置した赤外透過窓にて2回以上反射する構造とする方法がある。
計測対象のガス分子の非吸収帯において、反射率90%以上、さらには95%以上の赤外透過窓を有する平面型赤外光源を提供するものである。ARコーティングとこの構成とを満たすことは、赤外透過窓にガス分子の吸収帯に合わせたバンドパスフィルタコーティングを施すことに相当する。
【0075】
本発明は以下の効果を奏し得る。
大面積で均一で高強度な平面型赤外光源の使用により、高感度、簡便な特定のガス分子をトレーサとした気流計測技術を提供する。光源への気流照射の防止により、均一な赤外光の照射を可能とし、安定で周囲状況に左右されない高再現性の気流計測を可能とする。赤外透過窓自体の吸収を抑制し、温度上昇を防止することにより、赤外透過窓への気流照射が生じた場合にも、安定で周囲状況に左右されない高再現性の気流計測を可能とする。また、周囲環境からの赤外光の反射を抑制することにより、安定で周囲状況に左右されない高再現性の気流計測を可能とする。加熱黒体面と赤外透過窓の間の空間を減圧または真空とすることにより、加熱された黒体表面での対流による気流を抑制し、安定で周囲状況に左右されない高再現性の気流計測を可能とする。さらに、持ち運んで必要な場所に配置することにより、様々な気流に対して、安定で周囲状況に左右されない高再現性の気流計測を可能とする。光源部と気流計測部の統合制御により、自由度の高い、インテリジェントな気流計測を可能とする。
【実施例0076】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、その効果を奏する範囲で適宜変更して実施することができる。
【0077】
(実施例1)
CO可視化による気流計測が本実施形態に係る平面型赤外光源により高感度化、高再現性化できることを示すために、濃度既知のCOガスを本実施形態に係る平面型赤外光源を用いて観察し、少ない濃度変動でも気流が観測できることを示す検証実験を行った。
【0078】
濃度10%~0.2%、流量10SLMのNで希釈したCOガスを直径64mmのビニールダクトに設けた直径10mmの円形開口から空気中に噴出し、CO可視化赤外カメラで観察した。用いたカメラは、FLIR社製A6796型で、640×512画素のInSb赤外撮像素子を用いたカメラに、波長4.26μmの80K以下に冷却されたバンドパスフィルタを内蔵したものである。赤外レンズはレンズ焦点距離25mm、F値2.5とし,撮影条件は図18が露光時間40ms、フレームレート25fps、図19図20が露光時間20ms、フレームレート30fpsとした。
【0079】
図18は、比較例として、室温の背景、つまり本実施形態に係る平面型赤外光源を用いない場合の結果である。図18(a)~(c)は過去5フレームの平均画像を減算する時間微分処理を施した画像、図18(d)~(f)は生画像である。
【0080】
図18(a)より濃度10%のCOは可視化できている。しかし、図18(b)の濃度1%のCOは、わずかに視認できるかどうかの限界で、図18(c)の濃度0.2%のCOは時間微分画像ですら可視化できていない。
【0081】
上述濃度のCOガスを高いコントラストで可視化するために、本実施形態に係る平面型赤外光源を用いた。平面型赤外光源は、300mm角のホットプレートを改造したもので、表面に放射率0.94の黒体塗料を塗布してあり、その温度を高精度に制御できるようにしたものである。この平面型赤外光源はバッテリー駆動が可能で、任意の場所に持ち出して測定することができる。バッテリーとして、電圧14.4V、容量9.9Ahのリチウムイオン電池4個が接続でき、最大80℃まで昇温できる。
【0082】
図19は、図1に示した本実施形態に係る平面型赤外光源(赤外透過窓を観察方向に対して正立して配置した場合)を用いた結果である。図20は、図9(b)に示した本実施形態に係る平面型赤外光源(赤外透過窓を観察方向に対して傾斜配置した場合)を用いた結果である。平面型赤外光源の温度を55℃と設定した。また、赤外透過窓としてはサファイア窓を取り付けた。表面には何もコーティングしていない。サファイア窓として、180mm×60mm、厚さ3mmのもの2枚を並べたものである。
【0083】
赤外透過窓を観察方向に対して正立して配置する場合には、赤外光源表面から9mmの間隔を開けてスペーサにて平行に配置した。傾斜配置の場合には、観察方向に対して水平面内に45度、左端がカメラに近くなるように配置した。45度配置の時には、赤外透過窓のカメラから見て右側に反射安定板として放射率0.94の黒体塗装した室温の300mm角のアルミニウム板を置き、その表面が赤外透過窓で反射してカメラに写り込むように配置した。
【0084】
図19(a)~(c)は過去5フレームの平均画像を減算する時間微分処理を施した画像、図19(d)~(f)は生画像である。図18と異なり、図19(c)の濃度0.2%のCOガスまで明瞭に視認できる。ここでは定量的な検討のためにコントラスト強調処理を行っていないが、種々のコントラスト強調法が知られており、それに時間微分処理を組み合わせると遙かに小さなコントラストの違いを浮かび上がらせることができ、図19(c)のコントラストがあれば、高精度な気流計測が可能である。この構成では、赤外透過窓の設置により、図7で見たような気流が光源に与える影響を受けることなく、高感度な気流計測が可能となる。しかし、生画像を示した図19(d)~(f)ではカメラの写り込みが顕著で、周囲物体の移動など、環境側に変化があれば、画像に影響し、気流計測の障害となる。
【0085】
図20(a)~(c)は過去5フレームの平均画像を減算する時間微分処理を施した画像、図20(d)~(f)は生画像である。図19(c)と同様に、図20(c)の濃度0.2%のCOガスまで明瞭に視認できる。さらに、生画像を示した図20(d)~(f)にもカメラや周辺物体の写り込みはなく、高感度な気流計測が安定で再現性高く実現できる。
【0086】
(実施例2)
これまで、特定のガス分子としてCO分子を対象として説明してきたが、他のガスの気流計測にも、そのガスに合わせた波長に置き換えれば、気流計測用の赤外光源を実現することができる。いくつかの代表的なガスについて、具体的な波長の選択方法の一例を示す。図21(a)に二酸化炭素(CO)の吸光度スペクトルを示し、(b)に一酸化炭素(CO)の吸光度スペクトルを示す。また、図22(a)に一酸化窒素(NO)の吸光度スペクトルを示し(b)に二酸化窒素(NO)の吸光度スペクトルを示す。図23(a)に水(水蒸気、HO)の吸光度スペクトルを示し、(b)にアンモニア(NH)の吸光度スペクトルを示す。図24にメタン(CH)の吸光度スペクトルを示す。これらの吸光度は1気圧、25℃の空気中にそのガス分子が柱密度100ppm・m含まれた状態の吸光度で、指数の底として10を用いている(自然対数ではなくて常用対数を使用している)。柱密度とは吸光性の気体の吸光度を指定する上で必要な濃度と光路長の両方を加味した実質的に光の減衰を規定する量のことで、例えば体積濃度100ppmの気体が長さ1mに渡って分布している状態が柱密度100ppm・mである。これらの吸光度は、株式会社エス・ティ・ジャパンのHANSTガス定量データベースの分解能1.0cm-1のものを用いた。
【0087】
これらの吸光度スペクトルから、各ガスの吸収帯中心波長、吸収帯下限波長、吸収帯上限波長を抽出した結果を表1に示す。赤外域において複数の吸収帯があり、それぞれが気流計測に利用可能な場合には、それぞれについての主要波長を記載した。
【0088】
【表1】
【符号の説明】
【0089】
10 放射板
10a 赤外線放射面
20、20A、21、22、23、24 赤外透過窓
30、31、32 吸収板又は反射安定板
100、100A、101、102、104、105、106、107 平面型赤外光源
200 赤外カメラ
300 画像処理ユニット
400 統合制御手段
1000 気流計測装置
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