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特開2024-56356カーボンナノチューブ分散体、および塗膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056356
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ分散体、および塗膜
(51)【国際特許分類】
   C08L 39/06 20060101AFI20240416BHJP
   C08K 13/04 20060101ALI20240416BHJP
   C09C 1/44 20060101ALI20240416BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
C08L39/06
C08K13/04
C09C1/44
C09D17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163166
(22)【出願日】2022-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】名畑 信之
【テーマコード(参考)】
4J002
4J037
【Fターム(参考)】
4J002BJ001
4J002DA016
4J002EC047
4J002EV258
4J002FA056
4J002FD016
4J002FD207
4J002FD208
4J002GH01
4J002GN00
4J002GQ00
4J002HA06
4J037AA01
4J037CB07
4J037CC13
4J037CC22
4J037EE08
4J037FF15
(57)【要約】
【課題】高い導電性と透明性を両立し、かつカーボンナノチューブの分散性に優れ、すなわち分散体を顕著に低粘度化し、さらに貯蔵安定性にも優れた、水を溶媒とするカーボンナノチューブ分散体、およびそれを用いた塗膜の提供。
【解決手段】カーボンナノチューブと、分散剤と、消泡剤と、水とを含むカーボンナノチューブ分散体であって、前記カーボンナノチューブは、平均外径が5~20nmである多層カーボンナノチューブ(A)を含み、前記分散剤は、ポリビニルピロリドン、および芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物を含み、前記多層カーボンナノチューブ(A)100質量部に対して、前記ポリビニルピロリドンを10質量部以上50質量部以下含有し、かつ前記芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物を5質量部以上30質量部以下含有することを特徴とする、カーボンナノチューブ分散体により解決される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブと、分散剤と、消泡剤と、水とを含むカーボンナノチューブ分散体であって、
前記カーボンナノチューブは、平均外径が5~20nmである多層カーボンナノチューブ(A)を含み、
前記分散剤は、ポリビニルピロリドン、および芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物を含み、
前記多層カーボンナノチューブ(A)100質量部に対して、前記ポリビニルピロリドンを10質量部以上50質量部以下含有し、かつ前記芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物を5質量部以上30質量部以下含有することを特徴とする、
カーボンナノチューブ分散体。
【請求項2】
前記ポリビニルピロリドンと、前記芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物の固形分質量比率(ポリビニルピロリドン/芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物)が0.5~5である、請求項1記載のカーボンナノチューブ分散体。
【請求項3】
前記消泡剤は、アセチレングリコール系消泡剤である、請求項1記載のカーボンナノチューブ分散体。
【請求項4】
さらに塩基を含む、請求項1記載のカーボンナノチューブ分散体。
【請求項5】
前記塩基は、25℃における水への溶解度が1g/100ml以上、かつ25℃における水中のpKbが5以下である、請求項4記載のカーボンナノチューブ分散体。
【請求項6】
レーザー回折式粒度分布測定によって算出される50%粒子径(D50)が、0.01~1μmである、請求項1記載のカーボンナノチューブ分散体。
【請求項7】
さらにバインダー樹脂を含む、請求項1記載のカーボンナノチューブ分散体。
【請求項8】
塗料である、請求項7記載のカーボンナノチューブ分散体。
【請求項9】
前記多層カーボンナノチューブ(A)の含有率が、カーボンナノチューブ分散体の全固形分を基準として0.5質量%以上50質量%以下である、請求項7記載のカーボンナノチューブ分散体。
【請求項10】
請求項1~9いずれか1項記載のカーボンナノチューブ分散体より得られる、塗膜。
【請求項11】
カーボンナノチューブと、分散剤と、消泡剤と、水とを、35℃~65℃で分散する工程を備え、
前記カーボンナノチューブは平均外径が5~20nmである多層カーボンナノチューブ(A)を含み、
前記分散剤は、ポリビニルピロリドン、および芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物を含み、
前記多層カーボンナノチューブ(A)100質量部に対して、前記ポリビニルピロリドンを10質量部以上50質量部以下含有し、かつ前記芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物を5質量部以上30質量部以下含有することを特徴とする、
カーボンナノチューブ分散体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ分散体、および塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンナノチューブを含有する材料を用いて、帯電防止性、導電性、熱伝導性および電磁波シールド性等の機能を有する材料の開発が盛んに行われている。カーボンナノチューブには、1つのグラフェン層からなる単層カーボンナノチューブや複数のグラフェン層から構成される多層カーボンナノチューブなどがある。カーボンナノチューブは、アスペクト比が極めて大きく、直径が極めて小さいという構造上の特性を活かし、様々な物性を発現させることが期待できる。
中でも、透明帯電防止などの透明性と導電性が要求される分野では、その機能の両立のためカーボンナノチューブを高いレベルで分散させることが求められている。
【0003】
さらに、環境や生産コストへの配慮から、従来よりもカーボンナノチューブを高濃度に分散することによって、溶媒使用量を低減することや乾燥時の使用エネルギーを低減することが求められている。
しかしカーボンナノチューブ濃度が高濃度になると、カーボンナノチューブ分散体の粘度が高くなり、分散体の流動性が低下することで、塗料として用いた場合に、加工性や均質性に悪影響を及ぼし、均一な塗膜を得ることが困難になってしまう。
そのため、十分な分散性を有し、貯蔵安定性が良好であり、高濃度かつ低粘度なカーボンナノチューブ分散体が求められている。
【0004】
そこで様々な分散剤を用いてカーボンナノチューブを分散安定化する方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、水溶性高分子ポリビニルピロリドン(以下PVPともいう)を用いたNMP溶媒への分散が提案されている。しかし、PVPを単独で分散剤として用いた場合、特許文献2で示唆されているように、PVPがカーボン表面のカルボキシル基等の酸によって重合し、十分な分散効果が得られず、貯蔵安定性が十分ではない場合がある。
【0005】
それに対し、長期間の分散安定性や、高温下での安定性を保つ方法が提案されている。例えば、特許文献3には、水中でのカーボンナノチューブ分散において、PVPと多糖類や環状ホスト分子を持つ化合物を併用し分散剤として使用すること、特許文献4には、水溶性キシランを分散剤として使用することが提案されている。しかし、このようなカーボンナノチューブ分散体では、粘度および貯蔵安定性が充分ではない。とくに高濃度なカーボンナノチューブ分散体を作製した場合、得られる分散体の粘度が非常に高くなってしまい、分散体の流動性が悪いために、他のバインダー成分を添加した上での、液の加工性や均質性を確保することが困難となり、均一な塗膜を得ることが困難になる問題がある。
【0006】
カーボンナノチューブ濃度が低くても導電性を発揮できるための方法としては、例えば、特許文献5には、カーボンナノチューブと導電性高分子の併用によるカーボンナノチューブの分散体、及びこれを用いた導電性フィルムが提案されている。しかし、本来カーボンナノチューブが有している導電特性が活かされておらず、導電性フィルムとしては抵抗値が高くなってしまっている。さらに、得られた導電性フィルムは全光線透過率88~92%と高い全光線透過率ではあるが、濁度を表すHazeは1.5~1.8%と高く、光の散乱が大きく、透明性が充分ではない。
【0007】
カーボンナノチューブの中でも、平均外径が細い多層カーボンナノチューブを用いると、少量で効率的に導電ネットワークを形成可能なため、塗膜中に含まれるカーボンナノチューブ量を低減させることができる。このような多層カーボンナノチューブは比較的安価になりつつあり、様々な分野での実用化が期待されているが、平均外径が細い多層カーボンナノチューブは凝集力が強いため、十分な分散性を有するカーボンナノチューブ分散体を得ること、その分散性を安定させることは、より困難となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005-162877号公報
【特許文献2】特開2008-138039号公報
【特許文献3】特開2012-214321号公報
【特許文献4】特開2007-217684号公報
【特許文献5】特開2004-195678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、平均外径が細い多層カーボンナノチューブを用い、高い導電性と透明性を両立し、高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散体とすることはできていないのが現状である。これは、とくにカーボンナノチューブ濃度が高濃度になるとより問題となってくる。
さらに、塗料として用いるための透明性としては、全光線透過率が高いだけでなく、光の散乱も抑えた、低Hazeであることが要求されているが、これを満足することはできていない。
【0010】
以上の状況を鑑み、本発明では、従来公知のカーボンナノチューブ分散体と比較して、高い導電性と透明性を両立し、かつカーボンナノチューブの分散性に優れ、すなわち分散体を顕著に低粘度化し、さらに貯蔵安定性にも優れた、水を溶媒とするカーボンナノチューブ分散体を提供することを目的とする。
また、本発明はカーボンナノチューブ濃度が高濃度であっても、分散体の流動性に優れ、塗料として用いた場合に、加工性や均質性に優れ、均一な塗膜を得ることができるカーボンナノチューブ分散体、およびこれを用いた塗料を得ることを目的とする。
さらに、透明性として、高い全光線透過率だけでなく、光の散乱を抑制することができる塗料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、カーボンナノチューブとして平均外径が5~20nmである多層カーボンナノチューブを使用すること、カーボンナノチューブを溶媒に分散させる際に、分散剤としてポリビニルピロリドンと芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物を使用すること、更に分散剤使用量とカーボンナノチューブ量の間に、導電性に大きく寄与する臨界的範囲があることを見出した。またこれらの含有量が一定の範囲内であることにより、平均外径が細い多層カーボンナノチューブを用いた場合であっても、粘度、貯蔵安定性が良好なカーボンナノチューブ分散体を製造できることを見出した。さらに本発明のカーボンナノチューブ分散体を使用することで、導電性と透明性に優れた塗膜を製造できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0012】
すなわち本発明は、以下の実施形態を含む。本発明の実施形態は以下に限定されない。
〔1〕カーボンナノチューブと、分散剤と、消泡剤と、水とを含むカーボンナノチューブ分散体であって、
前記カーボンナノチューブは、平均外径が5~20nmである多層カーボンナノチューブ(A)を含み、
前記分散剤は、ポリビニルピロリドン、および芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物を含み、
前記多層カーボンナノチューブ(A)100質量部に対して、前記ポリビニルピロリドンを10質量部以上50質量部以下含有し、かつ前記芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物を5質量部以上30質量部以下含有することを特徴とする、
カーボンナノチューブ分散体。
〔2〕前記ポリビニルピロリドンと、前記芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物の固形分質量比率(ポリビニルピロリドン/芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物)が0.5~5である、〔1〕記載のカーボンナノチューブ分散体。
〔3〕前記消泡剤は、アセチレングリコール系消泡剤である、〔1〕または〔2〕記載のカーボンナノチューブ分散体。
〔4〕さらに塩基を含む、〔1〕~〔3〕いずれか記載のカーボンナノチューブ分散体。
〔5〕前記塩基は、25℃における水への溶解度が1g/100ml以上、かつ25℃における水中のpKbが5以下である、〔4〕記載のカーボンナノチューブ分散体。
〔6〕レーザー回折式粒度分布測定によって算出される50%粒子径(D50)が、0.01~1μmである、〔1〕~〔5〕いずれか記載のカーボンナノチューブ分散体。
〔7〕さらにバインダー樹脂を含む、〔1〕~〔6〕いずれか記載のカーボンナノチューブ分散体。
〔8〕塗料である、〔7〕記載のカーボンナノチューブ分散体。
〔9〕前記多層カーボンナノチューブ(A)の含有率が、カーボンナノチューブ分散体の全固形分を基準として0.5質量%以上50質量%以下である、〔7〕または〔8〕記載のカーボンナノチューブ分散体。
〔10〕〔1〕~〔9〕いずれか記載のカーボンナノチューブ分散体より得られる、塗膜。
〔11〕カーボンナノチューブと、分散剤と、消泡剤と、水とを、35℃~65℃で分散する工程を備え、
前記カーボンナノチューブは平均外径が5~20nmである多層カーボンナノチューブ(A)を含み、
前記分散剤は、ポリビニルピロリドン、および芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物を含み、
前記多層カーボンナノチューブ(A)100質量部に対して、前記ポリビニルピロリドンを10質量部以上50質量部以下含有し、かつ前記芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物を5質量部以上30質量部以下含有することを特徴とする、
カーボンナノチューブ分散体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の好ましい実施態様によれば、低粘度、かつ貯蔵安定性に優れた水系カーボンナノチューブ分散体を提供することが可能となり、これを用いることで導電性および透明性に優れた塗膜を形成することができる。また、安定性の高い高濃度のカーボンナノチューブ分散体とすることもできる。さらに、塗料として用いた場合、高い全光線透過率かつ光の散乱を抑制した、透明性に優れた塗膜が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明におけるカーボンナノチューブ分散体、および塗膜について、以下にその詳細を説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明には要旨を変更しない範囲において実施される実施形態も含まれる。
尚、本明細書では、「平均外径が5~20nmである多層カーボンナノチューブ(A)」、を「多層カーボンナノチューブ(A)」と称することがある。
また、本明細書において主成分とは、最も配合量が多い成分のことをいう。
【0015】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値または下限値は、他の段階の数値範囲の上限値または下限値と任意に組み合わせることができる。
本明細書中に出てくる各種成分は特に注釈しない限り、それぞれ独立に1種単独で、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
なお、本明細書において特定する数値は、実施形態または実施例に開示した方法により求められる値である。
【0016】
≪カーボンナノチューブ分散体≫
本発明におけるカーボンナノチューブ分散体は、水を主成分とする液媒体中にカーボンナノチューブを分散してなる分散液であって、多層カーボンナノチューブ(A)と、分散剤と、消泡剤と、水とを含む。また、分散剤がポリビニルピロリドン、および芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物を含み、カーボンナノチューブ100質量部に対して、ポリビニルピロリドンを10質量部以上50質量部以下含有し、かつ芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物を5質量部以上30質量部以下含有することを特徴とする。
【0017】
<カーボンナノチューブ>
本発明に用いるカーボンナノチューブは、平均外径が5~20nmである多層カーボンナノチューブ(A)を含む。多層カーボンナノチューブは、平面的なグラファイトを円筒状に巻いた形状を有しており、一層のグラファイトが積層された構造を有する。
本発明のカーボンナノチューブ分散体は、多層カーボンナノチューブ(A)以外の多層カーボンナノチューブ、または単層カーボンナノチューブ等を併用してもよい。他のカーボンナノチューブを含む場合、多層カーボンナノチューブ(A)が主成分であることが好ましい。
【0018】
多層カーボンナノチューブ(A)の平均外径は5~20nmであり、カーボンナノチューブ分散体の低粘度化、および貯蔵安定性の観点から、10~20nmであることが好ましく、10~15nmであることがより好ましい。
カーボンナノチューブの平均外径は、透過型電子顕微鏡(日本電子社製)によって、カーボンナノチューブの形態観察を行い、100本の短軸の長さを計測し、その数平均値をもってカーボンナノチューブ平均外径(nm)とできる。
【0019】
多層カーボンナノチューブ(A)の比表面積は、150~800m/gであることが好ましく、より好ましくは150~600m/gであり、さらに好ましくは200~400m/gである。
比表面積が150m/g以上であることにより、塗膜中でカーボンナノチューブのネットワークがうまく形成され、導電性がより向上する。比表面積が800m/g以下であると、分散工程においてカーボンナノチューブを解すための必要なエネルギーが大きくならず、カーボンナノチューブの構造破壊も抑制することができ、導電性がより向上できる。
比表面積は、全自動比表面積測定装置(MOUNTECH社製、HM-model1208)を用いて、BET法により求められる。
【0020】
このような多層カーボンナノチューブ(A)としては、例えばKumho Petrochemical社製K-Nanos 100T(平均外径10~15nm、比表面積240m/g)、JEIO社製JENOTUBE6A(平均外径5~7nm、比表面積700m/g)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
<分散剤>
本発明に用いる分散剤は、ポリビニルピロリドン、および芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物を含む。必要に応じて、他の分散剤を併用して用いてもよい。
他の分散剤を含む場合、ポリビニルピロリドンおよび芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物の合計が主成分であることが好ましい。
【0022】
[ポリビニルピロリドン]
ポリビニルピロリドン(以下、PVPともいう)としては、具体的には、BASFジャパン社製ルビテック(Luvitec)K17(K値:15.0~19.0、低分子量)、K30(K値27.0~33.0)、K80(K値74.0~82.0)、K85(K値84.0~88.0)、K90(K値88.0~92.0)、K90HM(K値92.0~96.0、高分子量)、Ashland社製K15、K30、K90、K120、日本触媒社製ポリビニルピロリドンK30(K値27.0~33.0)、K85(K値84.0~88.0)、K90(K値88.0~96.0)などが挙げられる。
【0023】
K値は、分子量と相関する粘性特性値であり、毛細管粘度計により測定される相対粘度値(25℃)を式(1)に適用して算出できる。
K=(1.5 logηrel -1)/(0.15+0.003c)+(300clogηrel +(c+1.5clogηrel1/2/(0.15c+0.003c
・・・・式(1)
ηrel : ポリビニルピロリドン水溶液の水に対する相対粘度
c : ポリビニルピロリドン水溶液中のポリビニルピロリドン濃度(%)
【0024】
ポリビニルピロリドンは、低粘度化、および貯蔵安定性の観点から、K値が15~150であることが好ましく、15~100であることがより好ましい。
【0025】
[芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物]
芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物としては、例えば、クレオソート油スルホン酸、クレゾールスルホン酸、フェノールスルホン酸、β-ナフタレンスルホン酸、β-ナフトールスルホン酸、リグニンスルホン酸、特殊芳香族スルホン酸、メチルナフタレンスルホン酸またはこれらの塩等のホルマリン縮合物が挙げられる。
芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物は、カーボンナノチューブへの吸着性が高くカーボンナノチューブを解す効果に優れており、ポリビニルピロリドンと併用時に分散剤として特に有効に機能する。なかでも、β-ナフタレンスルホン酸、特殊芳香族スルホン酸、メチルナフタレンスルホン酸が好ましい。
【0026】
具体的には、クレオソート油スルホン酸としては、花王社製デモールCクレオソート油スルホン酸、第一工業製薬社製ラベリンFD-40、β-ナフタレンスルホン酸としては、花王社製デモールN、デモールRN、デモールT、特殊芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物としては花王社製デモールSN-B、メチルナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物としては、花王社製デモールMS、リグニンスルホン酸としては、日本製紙社製バニレックスN、バニレックスRN、バニレックスG、パールレックスDP等が挙げられる。
【0027】
<消泡剤>
本発明に用いる消泡剤は、溶液中の泡を減らしたり、起泡自体を抑制する作用をもつ物質である。具体的には、消泡剤は、市販の消泡剤、湿潤剤、水溶性有機溶剤等、消泡効果を有するものであればよく、1種類でも、複数を組み合わせて用いてもよい。
例えば、アルコール系;エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、オクチルアルコール、ヘキサデシルアルコール、アセチレンアルコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アセチレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール、プロピレングリコール、その他グリコール類等、脂肪酸エステル系;ジエチレングリコールラウレート、グリセリンモノリシノレート、アルケニルコハク酸誘導体、ソルビトールモノラウレート、ソルビトールトリオレエート、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノラウレート、天然ワックス等、アミド系;ポリオキシアルキレンアミド、アクリレートポリアミン等、リン酸エステル系;リン酸トリブチル、ナトリウムオクチルホスフェート等、金属セッケン系;アルミニウムステアレート、カルシウムオレエート等、油脂系;動植物油、胡麻油、ひまし油等、鉱油系:灯油、パラフィン等、シリコーン系;ジメチルシリコーン油、シリコーンペースト、シリコーンエマルジョン、有機変性ポリシロキサン、フルオロシリコーン油等が挙げられる。
なかでも、カーボンナノチューブの分散性を高め、分散後の再凝集をより効果的に防止することができ、低粘度化の観点から、アセチレングリコール系消泡剤が好ましい。
【0028】
市販品の具体例としては、日信化学社製サーフィノール104、465等のアセチレングリコール系消泡剤が挙げられる。
【0029】
<塩基>
本実施形態のカーボンナノチューブ分散体は、塩基を含んでもよい。
塩基として使用する化合物は特に制限されず、無機塩基、および有機塩基など、従来公知の塩基を用いることができる。
塩基の25℃における水への溶解度は、1g/100ml以上であることが好ましく、10g/100ml以上がより好ましく、30g/100ml以上がさらに好ましい。また、200g/100ml以下であることが好ましく、150g/100ml以下であることがより好ましい。
【0030】
また塩基の25℃における水中のpKbは、5以下であることが好ましく、2以下がより好ましく、1以下がさらに好ましい。また、0.1以上であることが好ましい。
【0031】
水への溶解度、または水中のpKbがこれらのような塩基であることにより、カーボンナノチューブの表面を改質し、分散剤の吸着をより強固にして、カーボンナノチューブ分散体の貯蔵安定性がより向上できる。
特に好ましくは、25℃における水への溶解度が1g/100ml以上、かつ25℃における水中のpKbが5以下である塩基である。
【0032】
無機塩基としては、アルカリ金属、およびアルカリ土類金属の少なくとも一方を有する化合物であることが好ましく、詳しくは、アルカリ金属、およびアルカリ土類金属の、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、タングステン酸塩、バナジウム酸塩、モリブデン酸塩、ニオブ酸塩、ならびにホウ酸塩等が挙げられる。また、これらの中でも容易にカチオンを供給できる面でアルカリ金属、アルカリ土類金属の、水酸化物、炭酸塩が好ましい。アルカリ金属の水酸化物は、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。アルカリ金属の炭酸塩は、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。また、金属を含まない塩基としてアンモニアが挙げられる。これらの中でも水酸化リチウム、水酸化ナトリウムがより好ましい。なお、本発明の無機塩基および無機金属塩が有する金属は、遷移金属であってもよい。カーボンナノチューブの表面を効果的に改質できるため、貯蔵安定性の観点から、アルカリ金属の水酸化物が好ましい。
【0033】
有機塩基としては、炭素数1~40の置換されていてもよいアルキル基を有する1級、2級、3級アルキルアミンまたは4級アンモニウム塩が挙げられる。
【0034】
炭素数1~40の置換されていてもよいアルキル基を有する1級アルキルアミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、2ーエチルヘキシルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、2-アミノエタノール、3-アミノプロパノール、3-エトキシプロピルアミン等が挙げられる。
【0035】
炭素数1~40の置換されていてもよいアルキル基を有する2級アルキルアミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、2-メチルアミノエタノール等が挙げられる。
【0036】
炭素数1~40の置換されていてもよいアルキル基を有する3級アルキルアミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、2-(ジメチルアミノ)エタノール、トリ-n-ブチルアミン、ジベンジルアミン等が挙げられる。
【0037】
炭素数1~40の置換されていてもよいアルキル基を有する4級アンモニウム塩としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、トリメチル(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0038】
この内、炭素数1~10の置換されていてもよいアルキル基を有する1級、2級、3級アルキルアミンまたは4級アンモニウム塩が好ましく、炭素数1~5の置換されていてもよいアルキル基を有する1級、2級、3級アルキルアミンまたは4級アンモニウム塩がさらに好ましい。
また、置換されていてもよいアルキル基とは、水素原子が置換されていてもよいことを意味し、置換基としては、ヒドロキシ基等が挙げられる。
【0039】
有機塩基としては、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5(DBN)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、イミダゾール、1-メチルイミダゾール等の塩基性窒素原子を含有する化合物類を用いてもよい。
【0040】
<任意成分>
本発明のカーボンナノチューブ分散体には、さらに必要に応じて、エタノール等の有機溶媒、レオロジーコントロール剤、ポリビニルピロリドンおよび芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物以外の分散剤、沈降防止剤、硬化触媒、酸化防止剤、紫外線吸収剤、表面調整剤、防腐剤等の各種添加剤、体質顔料などを適宜配合することができる。
また後述する、バインダー樹脂を配合することもできる。
【0041】
<カーボンナノチューブ分散体の製造方法>
本発明のカーボンナノチューブ分散体(以下単に、「分散体」ということもある)は、ポリビニルピロリドンと芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物を分散剤として、消泡剤を添加剤として、多層カーボンナノチューブ(A)を含むカーボンナノチューブを水中に分散したものである。この場合、分散剤と、消泡剤と、カーボンナノチューブとを水に同時、または順次添加し、混合することで、カーボンナノチューブに分散剤を作用(吸着)させつつ分散する。但し、カーボンナノチューブ分散体の製造をより容易に行うためには、分散剤を水中に溶解、膨潤、または分散させ、その後、液中にカーボンナノチューブを添加し、混合することで分散剤をカーボンナノチューブに作用(吸着)させることが、より好ましい。
また、消泡剤は、カーボンナノチューブを分散剤で水に分散後に添加してもよいが、分散時に添加することが、分散時の泡立ちを抑え、有効に分散が進むことで、分散体の粘度および安定性がより向上できるために、カーボンナノチューブと、分散剤と、消泡剤と水とを分散する工程を備えることが好ましい。
【0042】
分散体の加工温度としては、35℃~65℃であることが好ましく、40℃~55℃であることがより好ましい。加工温度とは、分散時の分散体の温度のことを示し、ポリビニルピロリドンと芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物を分散剤として、消泡剤を添加剤として、多層カーボンナノチューブ(A)を水中に分散する際の温度のことを示す。本範囲の加工温度にすることで多層カーボンナノチューブ(A)への分散剤吸着において優れた効果を発揮し、短い分散処理時間で低粘度の分散体を得ることができる。つまり、分散時の、多層カーボンナノチューブ(A)の結晶破壊を防ぐことができ、塗膜において優れた導電性を得ることが可能となる。
【0043】
塩基を用いる場合、塩基の添加は、分散剤をカーボンナノチューブに作用させる前に行ってもよいし、分散処理が終了した後で行ってもよく、どちらの場合についても好適な効果が得られる。
【0044】
また、塗料として用いる場合には、まずカーボンナノチューブと、ポリビニルピロリドンおよび芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物を含む分散剤と、消泡剤と、水と、必要に応じて塩基等とを、35℃~65℃で分散して、カーボンナノチューブの分散体とした後に、さらにバインダー樹脂を添加して混合し、塗料とすることが好ましい。
バインダー樹脂を添加する工程は、後述する、分散装置を使用することが好ましい。
本発明のカーボンナノチューブ分散体は、低粘度であり、貯蔵安定性にも優れるため、まずカーボンナノチューブ濃度が高い、高濃度カーボンナノチューブ分散体としてからバインダー樹脂を混合し、塗料とすることで、塗料中の溶媒の含有量を少なくすることが可能となり、乾燥工程でのエネルギーコストが低下できる。
このとき、まず作製する高濃度カーボンナノチューブ分散体は、多層カーボンナノチューブ(A)の含有率が、分散体の固形分を基準(100質量%)として、4.0質量%以上7.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以上7.0質量%以下であることがより好ましい。
【0045】
すなわち、カーボンナノチューブと、分散剤と、消泡剤と、水とを分散し、多層カーボンナノチューブ(A)の含有率が4.0質量%以上7.0質量%以下である高濃度カーボンナノチューブ分散体を製造し、続いて得られた高濃度カーボンナノチューブ分散体にバインダー樹脂を混合し、塗料とすることが好ましい。
【0046】
分散装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機を使用することができる。例えば、ディスパー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等のミキサー類、ホモジナイザー(エム・テクニック社製「クレアミックス」、PRIMIX社「フィルミックス」等、シルバーソン社製「アブラミックス」等)類、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、コロイドミル(PUC社製「PUCコロイドミル」、IKA社製「コロイドミルMK」)類、コーンミル(IKA社製「コーンミルMKO」等)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、コボールミル等のメディア型分散機、湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS-5」、奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機、その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
本発明において、カーボンナノチューブ分散体は、多層カーボンナノチューブ(A)100質量部に対して、ポリビニルピロリドンを10質量部以上、50質量部以下含有し、かつ芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物を5質量部以上、30質量部以下含有する。中でも、ポリビニルピロリドンの含有量は、15質量部以上、25質量部以下が好ましい。また、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物の含有量は、5質量部以上、15質量部以下が好ましい。
それぞれ、含有量が下限値未満では、分散安定性が十分ではなく貯蔵安定性に影響し、上限値を超えると分散剤自体の粘度に引っ張られ分散体の粘度が高くなる。そのため、本比率で配合することにより、カーボンナノチューブ分散体の低度化が可能となり、貯蔵安定性に優れた分散体を得ることができる。さらにこれらの範囲を満たすことで、導電性に優れた塗膜とすることができる。
【0048】
ポリビニルピロリドンと芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物の固形分質量比率(ポリビニルピロリドン/芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物)は0.5~5であることが好ましく、1~2であることがより好ましい。
芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物はカーボンナノチューブに対しての吸着性に優れるため、多層カーボンナノチューブ(A)の表面改質及び静電反発効果があり、ポリビニルピロリドンは立体反発効果があると考えられる。そのため、本配合比率であることにより、多層カーボンナノチューブ(A)に対する吸着性や、吸着後の静電反発と立体反発効果の兼ね合いが良好であることから、分散剤として特に有効に機能し、効果的に多層カーボンナノチューブ(A)を分散し安定化させる。その結果、より低粘度化と高い貯蔵安定性を両立させたカーボンナノチューブ分散体とすることができる。
【0049】
多層カーボンナノチューブ(A)に対する塩基の含有量は、多層カーボンナノチューブ(A)100質量部に対して、0.5質量部以上、5質量部以下であることが好ましく、1質量部以上、3質量部以下がより好ましい。本比率であれば、多層カーボンナノチューブ(A)の表面を効果的に改質し、低粘度化と高い貯蔵安定性に優れたカーボンナノチューブ分散体を得ることができる。
【0050】
本発明において、カーボンブナノチューブ分散体中の消泡剤の含有率は、分散体100質量%を基準として、0.01質量%以上、1質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上、0.2質量%以下がより好ましい。本範囲であれば、カーボンナノチューブに対しての適切な吸着効果や、分散体の消泡効果が得られ、低粘度化が可能となり、貯蔵安定性に優れた分散体を得ることができる。
【0051】
多層カーボンナノチューブ(A)の含有率は、カーボンナノチューブ分散体の低粘度化の観点から、分散体を基準(100質量%)として、0.5質量%以上7.0質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以上6.0質量%以下であることがより好ましく、4.0質量%以上6.0質量%以下であることがより好ましい。
【0052】
本発明において、カーボンナノチューブ分散体中の固形分濃度は、分散体の粘度の観点から、分散体を基準(100質量%)として、1.0質量%以上9.0質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以上7.0質量%以下であることがより好ましい。
【0053】
カーボンナノチューブ分散体の粘度は、10~1000mPa・sであることが好ましく、10~500mPa・sであることがより好ましく、10~200mPa・sであることがより好ましい。粘度は、B型粘度計を用い、温度25℃、ローター回転速度60rpmの条件を用いて、実施例に記載の方法で求めることができる。
【0054】
分散体のレーザー回折式粒度分布測定によって算出される50%粒子径(D50)は、0.01~1μmであることが好ましく、0.01~0.5μmであることがより好ましく、0.02~0.1μmであることがさらに好ましい。本範囲であれば、塗料として用いる際に、カーボンナノチューブによる光の散乱を抑えることができるため、Hazeにも優れた塗膜を得ることが可能となる。
【0055】
≪塗料≫
本実施形態のカーボンナノチューブ分散体は、必要に応じて、さらにバインダー樹脂等を加え、塗料として用いることができる。バインダー樹脂は、カーボンナノチューブを分散する際に添加してもよく、分散体を製造後に添加してもよい。
塗料は、対象物を保護・美装、または、独自な機能を付与するために、その表面に塗り付けるために用いられるものであり、本発明のカーボンナノチューブ分散体を用いた塗料は、対象物に高い透明性および優れた導電性を付与することができる。
【0056】
<バインダー樹脂>
バインダー樹脂としては、通常、塗料のバインダー樹脂として用いられるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
例えば、合成樹脂、天然高分子化合物、などが挙げられる。前記合成樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテル樹脂、珪素樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルエステル系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、不飽和カルボン酸系樹脂などが挙げられる。
バインダー樹脂は、水溶性樹脂であってもよく、非水溶性樹脂であり、水性媒体中に分散された粒子状樹脂であってもよい。
【0057】
前記天然高分子化合物としては、例えば、セルロース類、ロジン類、天然ゴムなどが挙げられる。前記樹脂は、ホモポリマーとして使用されてもよく、また、コポリマーとして使用して複合系樹脂として用いてもよく、単相構造型、コアシェル型、及びパワーフィード型エマルジョンのいずれのものも使用できる。
【0058】
また、バインダー樹脂の官能基と反応しうる架橋剤としての役割であるメラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネート化合物、ブロックポリイソシアネ-ト化合物、エポキシ化合物又は樹脂、カルボキシル基含有化合物又は樹脂、酸無水物、アルコキシシラン基含有化合物又は樹脂等を用いることができる。架橋性官能基を有するバインダー樹脂と、架橋剤としての樹脂は併用することもできる。
【0059】
このようなバインダー樹脂の具体例として、ウレタン樹脂としては、第一工業製薬(株)製:スーパーフレックス110、スーパーフレックス150、スーパーフレックス210、スーパーフレックス300、スーパーフレックス420、スーパーフレックス460、スーパーフレックス470、スーパーフレックス500M、スーパーフレックス620、スーパーフレックス650、スーパーフレックス740、スーパーフレックス820、スーパーフレックス840、F-8082D、F-2951D、住化バイエルウレタン(株)製:バイヒドロールUH2606、バイヒドロールUH650、バイヒドロールUHXP2648、バイヒドロールUHXP2650、インプラニールDLC-F、インプラニールDLN、インプラニールDLP-R、インプラニールDLS、インプラニールDLU、インプラニールXP2611、インプラニールLPRSC1380、インプラニールLPRSC1537、インプラニールLPRSC1554、インプラニールLPRSC3040、インプラニールLPDSB1069、大日本インキ化学工業(株)製:ハイドランHW-301、HW-310、HW-311、HW-312B、HW-333、HW-340、HW-350、HW-375、HW-920、HW-930、HW-940、HW-950、HW-970、AP-10、AP-20、ECOS3000、三洋化成工業(株)製:ユーコートUWS-145、パーマリンUA-150、パーマリンUA-200、パーマリンUA-300、パーマリンUA-310、ユーコートUX-320、パーマリンUA-368、パーマリンUA-385、ユーコートUX-2510、日華化学(株)製:ネオステッカー100C、エバファノールHA-107C、エバファノールHA-50C、エバファノールHA-170、エバファノールHA-560、(株)ADEKA製:アデカボンタイターUHX-210、アデカボンタイターUHX-280等が挙げられる。ポリオレフィン樹脂として、ユニチカ製:アローベースシリーズ SB-1200、SE-1010、SE-1200、DA-1010,DC-1010、三菱化学(株)製:APTPLOKシリーズ BW-5550、東洋紡(株)製:HARDLENシリーズ EH-801、EW-5303,EW-5504、EW-5515、EW-8511、EZ-1000、EZ-2000、日本製紙(株)製:スーパークロンシリーズE-480T、E-415、E-412T、S-6375、S-6377等が挙げられる。アルキッド樹脂として、大日本インキ社製ウォーターゾルシリーズのS118、S126、S346や、日本触媒社製アロロンシリーズの376、580や、日本触媒社製アクリセットシリーズのARL581、ARL580などが挙げられる。
【0060】
これらの中でも、カーボンナノチューブ分散体との相溶性がよく、カーボンナノチューブの分散性を阻害せず塗料化でき、導電性、透明性、およびHazeに優れた塗膜が得られるという観点から、エマルジョンタイプのバインダー樹脂を用いることが好ましく、ポリオレフィン系樹脂粒子であることが特に好ましい。
【0061】
塗料として用いる場合、さらに必要に応じて、エタノール等の有機溶媒、レオロジーコントロール剤、ポリビニルピロリドンおよび芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物以外の分散剤、沈降防止剤、硬化触媒、酸化防止剤、紫外線吸収剤、表面調整剤、防腐剤等の各種添加剤、体質顔料などを適宜配合することができる。
【0062】
塗料として用いる場合、多層カーボンナノチューブ(A)の含有率は、塗料の全固形分中の質量を基準(100質量%)として、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上がより好ましく、2質量%以上がさらに好ましく、4質量%以上が特に好ましい。
また、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下がより好ましい。
上記含有率であることで、塗膜中でカーボンナノチューブのネットワークが効率的に形成され、より導電性に優れた塗膜が得られる。
【0063】
塗料として用いる場合、塗料中の固形分濃度は塗料を基準(100質量%)として、1.0~50.0質量%であることが好ましい。本発明のカーボンナノチューブ分散体を用いた塗料は、溶媒量の少ない場合、具体的には塗料中の固形分濃度が15.0~40.0質量%であっても低粘度であり、貯蔵安定性も良好となる。固形分濃度は製膜方式等によって、適宜選択することができる。
【0064】
本発明のカーボンナノチューブ分散体は、分散性に優れ、低粘度化が可能であり、貯蔵安定性にも優れるため、従来よりも、高濃度のカーボンナノチューブ分散体として用いることが可能となる。そのため、さらにバインダー樹脂や、その他添加剤等を加えて塗料とした場合に、塗料中の溶媒の含有量を少なくすることができ、乾燥工程でのエネルギーコスト低下など、環境対応に優れたものとできる。
【0065】
塗料中のバインダー樹脂の含有率は、塗料の全固形分中の質量を基準(100質量%)として、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上がより好ましい。
また、99.5質量%以下であることが好ましく、99質量%以下がより好ましく、98質量%以下がさらに好ましく、97質量%以下が特に好ましい。
これにより、塗膜中でカーボンナノチューブのネットワークが効率的に形成され、より導電性に優れた塗膜が得られる。
【0066】
≪塗膜≫
本発明の塗膜は、前記分散体から得られ、分散体を基材に対して、塗工、塗布、または塗装等により製膜して製造できる。基材は特に限定されず、様々な基材に製膜できる。例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム等及びその表面処理物等の金属基材;セメント類、石灰類、石膏類等のセメント系基材;ポリ塩化ビニル類、ポリエステル類、ポリカーボネート類、アクリル類等のプラスチック系基材等を挙げることができる。また、これらの各種基材からなる、建材、建築物、構造物等の建築・建材分野の各種被塗物等を挙げることができる。
【0067】
分散体の製膜方法としては、特に限定されず、例えば、バーコーター、アプリケーター、ローラー、グラビアコーター、ダイコーター、リップコーター、コンマコーター、ナイフコーター、リバ-スコーター、スピンコーター、刷毛、スプレー、インクジェットのような公知の方法が挙げられる。
【0068】
<用途>
本発明のカーボンナノチューブ分散体、及び塗膜の利用分野としては特に制限なく、「帯電防止透明保護用フィルム」、「透明タッチパネル」、「エレクトロルミネッセンスディスプレイ、液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ」、「太陽電池の透明電極」、「半導体や電子部品などの包装材料」、「静電トナー」、「磁気記録材料」、「燃料電池」、「自動車塗料」、「導電繊維材料(電線)」、「電子写真用シームレスベルト」等に使用できる。なかでも、塗料として、透明性と導電性が要求される分野、例えば、「帯電防止透明保護用フィルム」、「透明タッチパネル」、「エレクトロルミネッセンスディスプレイ、液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ」、「太陽電池の透明電極」等に好適に使用できる。
【実施例0069】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。実施例中、「カーボンナノチューブ」を「CNT」と略記することがある。なお、特に断らない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表す。また、表中の配合量は、質量部であり、溶剤以外は、不揮発分換算値である。
【0070】
<カーボンナノチューブの平均外径>
カーボンナノチューブの平均外径は、透過型電子顕微鏡(日本電子社製)によって、カーボンナノチューブの形態観察を行い、100本の短軸の長さを計測し、その数平均値をもってカーボンナノチューブ平均外径(nm)とした。
【0071】
<カーボンナノチューブの比表面積>
比表面積は、カーボンナノチューブを電子天秤(sartorius社製、MSA225S100DI)を用いて、0.03g計量した後、110℃で15分間、脱気しながら乾燥させ、その後、全自動比表面積測定装置(MOUNTECH社製、HM-model1208)を用いて1点法により測定した。
【0072】
本実施例および比較例において、カーボンナノチューブ分散体および塗料の製造にあたって、下記材料を使用した。
<カーボンナノチューブ>
・100T:K-Nanos 100T(Kumho Petrochemical製、多層カーボンナノチューブ、平均外径13.5nm、比表面積240m/g)
・6A:JENOTUBE6A(JEIO社製、多層カーボンナノチューブ、外径6.0nm、比表面積700m/g)
【0073】
<分散剤>
[ポリビニルピロリドン]
・K-30:PVP K30(Ashland社製、ポリビニルピロリドン)
・K-120:PVP K-120(Ashland社製、ポリビニルピロリドン)
[芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物]
・デモールN:デモールN(花王ケミカル社製、β―ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩)
・デモールRN:デモールRN(花王ケミカル社製、β―ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩)
・デモールT:デモールT(花王ケミカル社製、β―ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩)
・デモールMS:デモールMS(花王ケミカル社製、メチルナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩)
・デモールSN-B:デモールSN-B(花王ケミカル社製、特殊芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩)
[その他分散剤]
・#1190:CMCダイセル1190(ダイセル化学工業社製、カルボキシメチルセルロース)
<消泡剤>
・104E:サーフィノール104E(日信化学工業社製、アセチレングリコール系消泡剤、有効成分50%)
・SN777:SNデフォーマー777(サンノプコ社製、鉱油系消泡剤)
・BYK024:BYK-024(ビックケミー社製、シリコン系消泡剤)
<塩基>
・KOH:水酸化カリウム(キシダ化学社製、pKb=0.50、溶解度110g/100ml)
・Ca(OH):水酸化カルシウム(富士フィルム和光純薬社製、pKb=1.40、溶解度0.17g/100ml)
<バインダー樹脂>
・SE1010:アローベース SE1010(ユニチカ社製、ポリオレフィンエマルジョン、有効成分20%)
・HA―107C:エバファノールHA―107C(日華化学製、ポリウレタンエマルジョン、有効成分40%)
【0074】
<カーボンナノチューブ分散体の作製>
(実施例1)
表1に示す組成に従い、ステンレス容器にイオン交換水、分散剤、消泡剤を加えて、ディスパーで均一になるまで撹拌した。その後、カーボンナノチューブをディスパーで撹拌しながら添加し、グラインドゲージにて分散粒度が250μm以下になるまで分散し、予備分散品を作製した。さらに、この予備分散品3kgをビーズミル(DYNO-MILL、シンマルエンタープライゼス製)により本分散処理を行った。本分散処理は、0.5mmジルコニアビーズを使用し、ビーズ充填率80%、周速10m/sの条件で、表1に示す分散処理時間と分散処理温度で処理を行い、カーボンナノチューブ分散体(分散体1α)を得た。分散処理温度は、ビーズミルの出口から出てくる分散体の液温を温度計によって測定し、冷却水循環装置を使用し、温度制御を行った。
【0075】
(実施例2~12、比較例1~9)
表1に示す組成に従い、実施例1と同様にして、各カーボンナノチューブ分散体(分散体2α~12α、分散体1β~9β)を得た。
【0076】
(実施例13~21)
表1に示す組成に従い、ステンレス容器にイオン交換水、分散剤、消泡剤、塩基を加えて、ディスパーで均一になるまで撹拌した。その後は、実施例1と同様にして、各カーボンナノチューブ分散体(分散体13α~21α)を得た。
【0077】
【表1】
【0078】
<分散体評価>
(初期粘度)
粘度の測定は、B型粘度計(東機産業製「BL」)を用いて、分散体温度25℃にて、分散体をヘラで充分に撹拌した後、B型粘度計ローター回転速度60rpmにて直ちに行った。測定に使用したローターは、粘度が100mPa・s未満の場合はNo.1を、100以上500mPa・s未満の場合はNo.2を、500以上2,000mPa・s未満の場合はNo.3を、2,000以上10,000mPa・s未満の場合はNo.4のものをそれぞれ用いた。低粘度であるほど分散性が良好であり、高粘度であるほど分散性が不良である。得られた分散体が明らかに分離や沈降しているものは分散性不良とした。
判定基準
◎(優良):100mPa・s未満
〇(良):100mPa・s以上200mPa・s未満
△(不良):200mPa・s以上500mPa・s未満
×(極めて不良):500mPa・s以上
【0079】
(貯蔵安定性)
貯蔵安定性の評価は、初期粘度と、カーボンナノチューブ分散体を50℃にて20日間静置して保存した後の粘度(経時粘度)の変化率と、沈殿物の有無を確認することで評価した。粘度の測定方法は初期粘度と同様の方法で測定し、粘度変化率は式(2)に適応して算出した。沈殿物の有無は、スパーテルで底面を掬い、明らかな塊が確認された際に沈殿物ありと評価した。表中、沈殿物がある場合は「×」ない場合は「〇」と記した。
粘度変化率(%)=(経時粘度-初期粘度)/初期粘度×100・・・・式(2)
[評価基準]
◎+(最優良):粘度変化率の絶対値が5%以下、かつ沈殿物なし
◎(優良):粘度変化率の絶対値が10%以下、かつ沈殿物なし
〇(良):粘度変化率の絶対値が20%以下、かつ沈殿物なし
△(不良):粘度変化率の絶対値が20%を超えて50%以下、かつ沈殿物なし
×(極めて不良):粘度変化率の絶対値が50%を超える、または沈殿物あり
【0080】
(粒度分布)
分散体の粒度分布は、レーザー回折式粒度分布(マイクロトラック・ベル社製「マルバーンパナリティカル社製 マスターサイザー3000」)により、50%粒子径(D50)を算出した。50%粒子径(D50)が小さいほど、分散剤の吸着とカーボンナノチューブの凝集物の解砕が進行しており、充分に分散されている。
[評価基準]
◎(優良):0.1μm以下
〇(良):0.1μmを超え0.5μm以下
△(不良):0.5μmを超え1.0μm以下
×(極めて不良):1.0μmを超える
【0081】
【表2】
【0082】
表2に示した結果から、本発明のカーボンナノチューブ分散体はいずれも、外径の小さい多層カーボンナノチューブ(A)を用いた場合であっても、低粘度かつD50が小さく、貯蔵安定性が良好であった。比較例1~9に示したカーボンナノチューブ分散体は、いずれも高粘度な状態、かつ/またはD50が大きい、かつ/または貯蔵安定性が悪い状態であった。このことから、外径の小さい多層カーボンナノチューブを用いるには、所定の分散剤含有量から外れた場合、またはそれぞれが単独の場合、または消泡剤成分を抜いた場合、またはポリビニルピロリドン以外の水溶性樹脂を用いた場合には、分散効果を発揮できずカーボンナノチューブを十分に分散することができないことが明らかとなった。
【0083】
<塗料の作製>
(実施例22)
実施例1で得られた分散体1α及びバインダー樹脂を、下記組成にあるように配合し、塗料1αを得た。
分散体1α :23.8部
バインダー樹脂(SE1010) :18.9部
イオン交換水 :52.3部
エタノール : 5.0部
【0084】
(実施例23~42、比較例10~18)
表3に示す分散体に変更した以外は、実施例22と同様にして、塗料2α~21α、塗料1β~9βを得た。
【0085】
<塗料評価>
得られた塗料を用い、コロナ放電処理PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムにウエット膜厚が4μmになるようにバーコーターで塗工し、30分間セッティング後、100℃にて60分間乾燥を行い、試験塗膜を作製した。ウエット膜厚が6μm、12μmの塗膜も同様に作製し、1つの塗料につき3枚の試験塗膜を作製した。その塗膜について以下の評価を行った。評価結果を表3に示した。
【0086】
(Haze評価)
PETフィルムに製膜した試験塗膜を、日本電色工業社製:ヘーズメーター(300A)を用いて全光線透過率とHaze(%)を測定した。標準校正はPETフィルムにて行った。1つの塗料につき、作製した3枚の試験塗膜(ウエット膜厚4μm、6μm、12μm)について全光線透過率とHaze値を測定した。そして、得られた全光線透過率とHaze値をプロットし、得られた指数近似曲線から全光線透過率90%の際のHazeを求め、下記基準にて評価を行った。
Hazeの値が低いほど光の散乱が抑えられた透明性に優れた塗膜であるといえる。
判定基準
◎(優良)1%未満
〇(良):1%以上1.5%未満
△(不良):1.5%以上2%未満
×(極めて不良):2%以上
【0087】
(表面抵抗率評価)
PETフィルムに製膜した試験塗膜を、三菱化学社製:ロレスターGP(CP-T610)を用いて表面抵抗率(Ω/□)を測定した。1つの塗料につき得られた3つの全光線透過率と表面抵抗率をプロットし、得られた指数近似曲線から全光線透過率80%の際の表面抵抗率を求め、下記基準にて評価を行った。
判定基準
◎(優良)1×10Ω/□未満
〇(良):1×10Ω/□以上1×10Ω/□未満
△(不良):1×10Ω/□以上1×1010Ω/□未満
×(極めて不良):1×1010Ω/□μm以上
【0088】
【表3】
【0089】
表3に示した結果から、本発明のカーボンナノチューブ分散体を使用して作製した、バインダー樹脂を含むカーボンナノチューブ塗料及びカーボンナノチューブ塗膜は、全光線透過率90%の高透明領域において、1×10以上1×1010未満Ω/□の表面抵抗率を示しており、Hazeも小さい結果であり、透明性、および導電性が良好であった。比較例10~18に示した塗料及び塗膜は、表面抵抗率が高い状態、かつHazeが大きい結果であった。
【0090】
<高濃度カーボンナノチューブ分散体の作製>
(実施例43~44、比較例19~20)
表4に示す組成に従い、ステンレス容器にイオン交換水、分散剤、消泡剤、必要に応じて塩基を加えて、ディスパーで均一になるまで撹拌した。その後は、実施例1と同様にして、各カーボンナノチューブ分散体(分散体22α~23α、分散体10β~11β)を得た。
【0091】
【表4】
【0092】
<塗料の作製>
(実施例45~47、比較例21~23)
実施例43~44、比較例19~20で得られた分散体22α~23α、分散体10β~11β及びバインダー樹脂を、表5に示す組成に従い配合し、塗料22α~24α、塗料10β~12βを得た。
【0093】
【表5】
【0094】
<高濃度カーボンナノチューブ分散体(塗料)評価>
得られた塗料の初期粘度と貯蔵安定性の評価結果を表5に示した。
(初期粘度)
粘度の測定は、B型粘度計(東機産業製「BL」)を用いて、分散体温度25℃にて、分散体をヘラで充分に撹拌した後、B型粘度計ローター回転速度60rpmにて直ちに行った。測定に使用したローターは、粘度が100mPa・s未満の場合はNo.1を、100以上500mPa・s未満の場合はNo.2を、500以上2,000mPa・s未満の場合はNo.3を、2,000以上10,000mPa・s未満の場合はNo.4のものをそれぞれ用いた。低粘度であるほど分散性が良好であり、高粘度であるほど分散性が不良である。得られた分散体が明らかに分離や沈降しているものは分散性不良とした。
判定基準
〇(優良):200mPa・s未満
△(良) :200mPa・s以上500mPa・s未満
×(不良):500mPa・s以上
【0095】
(貯蔵安定性)
貯蔵安定性の評価は、初期粘度と、カーボンナノチューブ分散体を50℃にて20日間静置して保存した後の粘度(経時粘度)の変化率と、沈殿物の有無を確認することで評価した。粘度の測定方法は初期粘度と同様の方法で測定し、粘度変化率は式(2)に適応して算出した。沈殿物の有無は、スパーテルで底面を掬い、明らかな塊が確認された際に沈殿物ありと評価した。表中、沈殿物がある場合は「×」ない場合は「〇」と記した。
粘度変化率(%)=(経時粘度-初期粘度)/初期粘度×100・・・・式(2)
[評価基準]
〇(優良):粘度変化率の絶対値が20%以下、かつ沈殿物なし
△(良) :粘度変化率の絶対値が20%を超えて50%以下、かつ沈殿物なし
×(不良):粘度変化率の絶対値が50%を超える、もしくは沈殿物あり
【0096】
【表6】
【0097】
表6に示した結果から、本発明の高濃度カーボンナノチューブ分散体を使用して作製した塗料は、高固形分量であっても良好な塗料が得られ、乾燥工程でのエネルギーコスト低下など環境対応型塗料でありながら、低粘度かつ貯蔵安定性が良好であることが確認できた。
【0098】
なお、平均外径が5~20nmである多層カーボンナノチューブ(A)の例として、K-Nanos 100T(Kumho Petrochemical製、多層カーボンナノチューブ、平均外径13.5nm、比表面積240m/g)、JENOTUBE6A(JEIO社製、多層カーボンナノチューブ、外径6.0nm、比表面積700m/g)を用いた分散体に関する評価結果を示したが、平均外径が5~20nmの範囲内であれば、実施例と同様に、低粘度、かつ貯蔵安定性に優れた水系カーボンナノチューブ分散体を得ることができ、導電性および透明性に優れた塗膜が得られる結果であった。