(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056361
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】バイオマスガス化装置の運転方法およびバイオマスガス化装置
(51)【国際特許分類】
C10J 3/02 20060101AFI20240416BHJP
C10J 3/00 20060101ALI20240416BHJP
C10L 10/04 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
C10J3/02 G
C10J3/00 D
C10L10/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163180
(22)【出願日】2022-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山内 康弘
(72)【発明者】
【氏名】篠田 克彦
(72)【発明者】
【氏名】土山 佳彦
(72)【発明者】
【氏名】安慶 直樹
(72)【発明者】
【氏名】松本 啓吾
(72)【発明者】
【氏名】松井 直也
【テーマコード(参考)】
4H015
【Fターム(参考)】
4H015AA04
4H015AA12
4H015AA25
4H015AB01
4H015BA01
4H015BA08
4H015CB01
(57)【要約】
【課題】本開示は、炉壁への灰付着による炉内閉塞を回避するためのバイオマスガス化装置の運転方法およびバイオマスガス化装置を提供する。
【解決手段】本開示に係るバイオマスガス化装置の運転方法は、バイオマス燃料をガス化するガス化炉を備えたバイオマスガス化装置の運転方法であって、(S1)バイオマス燃料の性状を取得し、(S2)取得したバイオマス燃料の性状に基づいて、灰融点調整材の添加量を算出し、(S3)算出した添加量の灰融点調整材を、バイオマス燃料に添加し、(S4)灰融点調整材が添加されたバイオマス燃料をガス化炉に供給する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマス燃料をガス化するガス化炉を備えたバイオマスガス化装置の運転方法であって、
前記バイオマス燃料の性状を取得し、
取得した前記バイオマス燃料の性状に基づいて、灰融点調整材の添加量を算出し、
算出した前記添加量の前記灰融点調整材を、前記バイオマス燃料に添加し、
前記灰融点調整材が添加されたバイオマス燃料を前記ガス化炉に供給するバイオマスガス化装置の運転方法。
【請求項2】
前記バイオマス燃料の性状は、前記バイオマス燃料のガス化に伴って生じる灰の組成である請求項1に記載のバイオマスガス化装置の運転方法。
【請求項3】
前記ガス化炉の内部の状態を取得し、該内部の状態に基づいて前記灰融点調整材の添加量の補正の要否を判定し、補正が必要だと判定された場合に、補正された添加量の前記灰融点調整材が添加されるようフィードバック制御する請求項1に記載のバイオマスガス化装置の運転方法。
【請求項4】
前記ガス化炉の内部の状態は、前記ガス化炉内における最大ガス温度である請求項3に記載のバイオマスガス化装置の運転方法。
【請求項5】
前記ガス化炉の内部の状態は、前記ガス化炉内における炉壁温度である請求項3に記載のバイオマスガス化装置の運転方法。
【請求項6】
前記ガス化炉の内部の状態は、前記ガス化炉内における炉壁への灰付着の有無である請求項3に記載のバイオマスガス化装置の運転方法。
【請求項7】
前記灰融点調整材は、アルカリ土類金属の炭酸塩またはアルカリ土類金属の炭酸塩を含む鉱石である請求項1に記載のバイオマスガス化装置の運転方法。
【請求項8】
前記灰融点調整材が炭酸カルシウムまたは炭酸カルシウムを含む鉱石であり、
前記灰融点調整材の添加量は、前記バイオマス燃料に対して、炭酸塩換算で1.25重量%以上5重量%以下である請求項7に記載のバイオマスガス化装置の運転方法。
【請求項9】
前記灰融点調整材が炭酸マグネシウムまたは炭酸マグネシウムを含む鉱石であり、
前記灰融点調整材の添加量は、前記バイオマス燃料に対して、炭酸塩換算で0.42重量%以上5重量%以下である請求項7に記載のバイオマスガス化装置の運転方法。
【請求項10】
バイオマス燃料をガス化するガス化炉と、
前記ガス化炉内に前記バイオマス燃料を供給する燃料供給部と、
前記燃料供給部の前記バイオマス燃料に灰融点調整材を添加する調整材添加部と、
前記バイオマス燃料の性状に基づいて前記灰融点調整材の添加量を算出し、算出した前記添加量の前記灰融点調整材が前記バイオマス燃料に供給されるよう前記調整材添加部からの添加量を制御する制御部と、
を備えたバイオマスガス化装置。
【請求項11】
前記ガス化炉の内部の状態を検出する検出部を備え、
前記制御部は、前記検出部で検出した前記ガス化炉の内部の状態に基づいて、前記灰融点調整材の添加量の補正の要否を判定し、補正が必要だと判定したされた場合に、補正された添加量の前記灰融点調整材が添加されるようフィードバック制御する請求項10に記載のバイオマスガス化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バイオマスガス化装置の運転方法およびバイオマスガス化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイオマス燃料をガス化するガス化装置では、ガス化炉内でバイオマスが酸素と部分燃焼することで発熱し、その熱でバイオマスを水蒸気ガス化させる(特許文献1参照)。ガス化炉の内部は、部分燃焼による発熱で1200℃程度の高温となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バイオマス燃料のガス化の際、灰が生じる。灰の融点が低いと、ガス化炉内で灰が軟化・溶融して炉壁に付着し、炉内が閉塞するという問題が生じる。
【0005】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、炉壁への灰付着による炉内閉塞を生じ難くするためのバイオマスガス化装置の運転方法およびバイオマスガス化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示のバイオマスガス化装置の運転方法およびバイオマスガス化装置は以下の手段を採用する。
【0007】
本開示は、バイオマス燃料をガス化するガス化炉を備えたバイオマスガス化装置の運転方法であって、前記バイオマス燃料の性状を取得し、取得した前記バイオマス燃料の性状に基づいて、灰融点調整材の添加量を算出し、算出した前記添加量の前記灰融点調整材を、前記バイオマス燃料に添加し、前記灰融点調整材が添加されたバイオマス燃料を前記ガス化炉に供給するバイオマスガス化装置の運転方法を提供する。
【0008】
本開示は、バイオマス燃料をガス化するガス化炉と、前記ガス化炉内に前記バイオマス燃料を供給する燃料供給部と、前記燃料供給部の前記バイオマス燃料に灰融点調整材を添加する調整材添加部と、前記バイオマス燃料の性状に基づいて前記灰融点調整材の添加量を算出し、算出した前記添加量の前記灰融点調整材が前記バイオマス燃料に供給されるよう前記調整材添加部からの添加量を制御する制御部と、を備えたバイオマスガス化装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本開示のバイオマスガス化装置の運転方法およびバイオマスガス化装置によれば、ガス化炉に供給する前に灰融点調整材をバイオマス燃料に添加し、灰融点調整材が添加されたバイオマス燃料をガス化炉内へ供給することで、バイオマス燃料のガス化により生じる灰の溶融開始温度を上げることができる。これにより、ガス化炉内の最大ガス温度でも灰が溶融しないため、炉壁に灰が付着しにくくなり、炉内閉塞も生じ難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係るバイオマスガス化装置の運転方法の手順を示すフローチャートである。
【
図2】第1実施形態に係るバイオマスガス化装置の系統図である。
【
図3】第1実施形態に係るバイオマスガス化装置におけるガス化炉内の温度分布の一例を示す図である。
【
図4】第2実施形態に係るバイオマスガス化装置の運転方法の手順を示すフローチャートである。
【
図5】灰融点調整材(CaO換算)を添加した場合の効果を示す図である。
【
図6】灰融点調整材(MgO換算)を添加した場合の効果を示す図である。
【
図7】灰融点調整材(CaO換算)の添加量が灰の溶融率および溶融開始温度に及ぼす影響を示す図である。
【
図8】灰融点調整材(MgO換算)の添加量が灰の溶融率および溶融開始温度に及ぼす影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
バイオマスガス化装置は、ガス化炉でバイオマス燃料を部分燃焼させてガス化することで、可燃性のガスを生成する装置である。
【0012】
バイオマス燃料は、再生可能な生物由来の有機性資源である。バイオマス燃料は、建設廃材、木質ペレット、製材残材、林地残材、草本系バイオマス、農業残渣等である。
【0013】
以下に、本開示に係るバイオマスガス化装置の運転方法およびバイオマスガス化装置の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
〔第1実施形態〕
(バイオマスガス化装置の運転方法)
図1に本実施形態に係るバイオマスガス化装置の運転方法の手順を示す。本実施形態に係るバイオマスガス化装置の運転方法は、(S1)バイオマス燃料の性状取得、(S2)灰融点調整材の添加量算出、(S3)灰融点調整材の添加、(S4)バイオマス燃料の供給を含む。
【0015】
(S1:バイオマス燃料の性状取得)
バイオマスガス化装置の燃料として用いられるバイオマス燃料の性状を取得する。「バイオマス燃料の性状」は、元素成分(C,H,N,O,S,Cl)と固定炭素、揮発分、灰分、水分,灰組成である。「バイオマス燃料の性状」は、特に、バイオマス燃料のガス化に伴って生じる灰分(バイオマス燃料の灰分)または灰の組成である。「バイオマス燃料の性状」は、特に、灰に含まれる灰融点低下成分の含有量である。
【0016】
灰の組成は、化学分析等で得ることができる。
【0017】
灰融点低下成分は、ナトリウム、カリウム、シリカ、アルミナ等である。
【0018】
バイオマス燃料の性状は、産地(草木系)および排出元(建設廃材等の廃棄物系)などの要素によって変動する。そのため、この要素が異なるバイオマス燃料を用いる場合は、バイオマス燃料の性状を取得する必要がある。産地および/または排出元が共通のバイオマス燃料については、既存の情報を用いてもよい。
【0019】
(S2:灰融点調整材の添加量算出)
上記S1で取得したバイオマス燃料の性状に基づいて、灰融点調整材の添加量を算出する。ここでは、バイオマス燃料の灰の溶融開始温度が、ガス化炉内の最大ガス温度以上となるような灰融点調整材の添加量を算出する。
【0020】
灰融点調整材の添加量は、熱力学平衡計算用のソフトウェアを用いて算出できる。熱力学平衡計算用のソフトウェアは、例えば、Factsage(株式会社計算力学研究センター製)等である。
【0021】
灰融点調整材は、バイオマス燃料の灰の融点を調整できる材料である。灰融点調整材は、アルカリ土類金属の炭酸塩またはアルカリ土類金属の炭酸塩を含む鉱石である。アルカリ土類金属は、灰の融点を高めることができる。アルカリ土類金属の炭酸塩は、例えば、炭酸カルシウム(CaCO3)および炭酸マグネシウム(MgCO3)である。灰融点調整材は、2種以上のアルカリ土類金属の炭酸塩を含んでもよい。灰融点調整材は、粉末の形態である。
【0022】
灰融点調整材の添加量の上限は、バイオマス燃料に対して、炭酸塩換算で5重量%以下である。バイオマス燃料には、通常、0.5重量%~1.0重量%程度の灰融点低下成分が含まれる。灰融点調整材は、灰融点低下成分の5倍量程度添加すれば、灰融点低下成分が含まれることによる灰融点の低下の影響を補える。
【0023】
灰融点調整材として炭酸カルシウムまたは炭酸カルシウムを含む鉱石を用いる場合、灰融点調整材の添加量は、例えば、バイオマス燃料に対して炭酸カルシウム換算で1.25重量%以上であるとよい。
【0024】
灰融点調整材として炭酸マグネシウムまたは炭酸マグネシウムを含む鉱石を用いる場合、灰融点調整材の添加量は、例えば、バイオマス燃料に対して炭酸マグネシウム換算で0.42重量%以上、好ましくは0.63重量%以上であるとよい。
【0025】
(S3:灰融点調整材の添加)
上記S2で算出した添加量の灰融点調整材をバイオマス燃料に添加する。添加は、バイオマス燃料がガス化炉に供給される前に実施される。例えば、バイオマス燃料がガス化炉に向かって移送される途中(供給ライン)で、バイオマス燃料に振りかけるように灰融点調整材を添加する。
【0026】
(S4:バイオマス燃料の供給)
灰融点調整材が添加されたバイオマス燃料をガス化炉内に供給する。
【0027】
ガス化炉には、ガス化剤が供給される。ガス化剤は、酸素および水蒸気を含む。
【0028】
ガス化炉に供給されたバイオマス燃料は、酸素と反応して部分燃焼する。酸素との反応は発熱反応であり、これにより、ガス化炉内の温度は1200℃程度まで上昇する。この熱により、バイオマス燃料と水蒸気との反応が進み、水素および一酸化炭素を主成分とする可燃性ガスが生成される。水蒸気との反応は吸熱反応であり、これにより、ガス化炉の出口温度は、1000℃程度となる。
【0029】
バイオマス燃料と共にガス化炉に供給された灰融点調整材は、バイオマス燃料の部分燃焼により生じた灰とガス化炉内で混合され、灰融点を上げる。これにより、灰の溶融開始温度をガス化炉内の最大ガス温度よりも高くできるため、ガス化炉内での炉壁への灰付着量を低減できる。
【0030】
(バイオマスガス化装置)
上記運転方法を実施するのに好適なバイオマスガス化装置の一例を
図2に示す。
【0031】
バイオマスガス化装置1は、ガス化炉2、ガス化剤供給部3、燃料供給部4、調整材添加部5および制御部6を備えている。図中の「M」はモータである。
【0032】
ガス化炉2は、バイオマス燃料をガス化させる反応部である。ガス化炉2の底部には、排出弁V1を介して灰溜部7が接続されている。灰溜部7の出口には排出弁V2を介して排出管8が接続されている。灰溜部7は、ガス化炉2から排出された灰を受け入れ、一時的に貯留する。灰溜部7に溜まった灰は排出管8を通って外部に排出される。
【0033】
ガス化剤供給部3は、ガス化炉2の下部に接続され、ガス化炉2内にガス化剤を供給できる。
【0034】
燃料供給部4は、ガス化炉2の下部に接続され、ガス化炉2内にバイオマス燃料を供給できる。燃料供給部4は、ガス化剤供給部よりも上方に配置される。
【0035】
燃料供給部4は、定量フィーダ10を有する燃料供給ホッパ11、燃料供給ホッパ11から排出されたバイオマス燃料を受けて計量し移送する計量コンベア12、計量コンベア12で移送されたバイオマス燃料をガス化炉2に供給するロータリフィーダ13a,13bおよびスクリューフィーダ14を備えている。スクリューフィーダ14は、排出弁V3を介してロータリフィーダ13bの下流側に接続されている。
【0036】
調整材添加部5は、ガス化炉2に供給される前のバイオマス燃料に灰融点調整材を供給できる。調整材添加部5は、定量フィーダ15を有する調整材添加ホッパ16で構成されている。調整材添加部5は、燃料供給部で移送中のバイオマス燃料に灰融点調整材を添加可能に計量コンベア12に接続されている。
【0037】
制御部6は、調整材添加部5に電気的に接続されている。制御部6は、バイオマス燃料の性状に基づいて灰融点調整材の添加量を算出し、算出した添加量の灰融点調整材がバイオマス燃料に供給されるよう調整材添加部5からの添加量を制御できる。制御部6は、計量コンベア12および定量フィーダ10のモータMに電気的に接続されていてもよい。
【0038】
制御部6(Controller)は、例えば、CPU(Central Processing Unit:プロセッサ)、主記憶装置(Main Memory)、二次記憶装置(Secondary storage:メモリ)等を備えている。更に、制御部6は、他の装置と情報の送受信を行うための通信部を備えていてもよい。
主記憶装置は、例えば、キャッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)等の書き込み可能なメモリで構成され、CPUの実行プログラムの読み出し、実行プログラムによる処理データの書き込み等を行う作業領域として利用される。
二次記憶装置は、非一時的なコンピュータ読み取り可能な記録媒体(non-transitory computer readable storage medium)である。二次記憶装置は、例えば、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリなどである。
各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で二次記憶装置に記憶されており、このプログラムをCPUが主記憶装置に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。なお、プログラムは、二次記憶装置に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線または無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
【0039】
バイオマスガス化装置1では、燃料供給ホッパ11に一次的に貯留されていたバイオマス燃料が、定量フィーダ10により所定量ずつ計量コンベア12に送られる。所定量は、ガス化炉に対するデマンドによって設定され得る。
【0040】
計量コンベア12には、調整材添加ホッパ16に一次的に貯留されていた灰融点調整材が、定量フィーダ15により所定量ずつ計量コンベア12に送られる。これにより、移送中のバイオマス燃料に灰融点調整材が添加される。所定量は、定量フィーダ10から供給されるバイオマス燃料の「所定量」に対応した量である。
【0041】
制御部6は、バイオマス燃料の性状に基づいて灰融点調整材の添加量を算出し、算出した添加量の灰融点調整材がバイオマス燃料に供給されるよう調整材添加部5からの添加量を制御する。制御部6は、定量フィーダ10の回転数(燃料供給量)に応じて、定量フィーダ15の回転数(灰融点調整材添加量)を制御する。灰融点調整材の添加量は、バイオマス燃料の灰の溶融開始温度がガス化炉内の最大ガス温度以上となるように熱力学平衡計算用のソフトウェアによって算出される。
【0042】
灰融点調整材が添加されたバイオマス燃料は、計量コンベア12で計量されながら移送され、ロータリフィーダ13a,13bおよびスクリューフィーダ14を介してガス化炉2の下部に供給される。
【0043】
ガス化剤は、バイオマス燃料よりも下方からガス化炉2内に供給される。ガス化炉2内では、バイオマス燃料がガス化剤と反応しガス化される。ガス化炉2内のガス流れGは、下方から上方へ向かうように形成される。生成されたガスは、図示しないガスクーラへ導かれ、冷却される。
【0044】
図3にガス化炉内の温度分布の一例を示す。同図において、横軸はガス化炉内のガス温度(℃)、縦軸はガス化炉高さ(m)である。バイオマス燃料が供給される高さで温度が最も高くなり、上方へいくほど温度が低くなる。
【0045】
バイオマス燃料が供給される高さでは、ガス化炉2に供給されたバイオマス燃料が部分燃焼されて温度が高くなる。この部分燃焼により生じた灰は、バイオマス燃料に添加されていた灰融点調整材と反応し、これにより灰の融点が上がる。灰融点調整材の添加量は、バイオマス燃料の灰の溶融開始温度がガス化炉内の最大ガス温度以上となるように算出されているため、最大ガス温度であっても、灰は実質的に溶融しない。これにより、灰が炉壁に付着しにくくなるため、炉内閉塞も生じ難くなる。
【0046】
〔第2実施形態〕
図4に本実施形態に係るバイオマスガス化装置の運転方法の手順を示す。本実施形態に係るバイオマスガス化装置の運転方法は、第1実施形態の(S1)~(S4)に加え、(S5)ガス化炉内の状態取得、(S6)灰融点調整材の添加用の補正の要否判定、および(S7)灰融点調整材添加量の補正の工程を含む。
【0047】
(S5:ガス化炉内の状態取得)
第1実施形態と同様にS1~S4を実施した後、ガス化炉の内部の状態を取得する。内部の状態は、ガス化炉内の最大ガス温度、炉壁温度および/または炉壁への灰付着の有無である。
【0048】
ガス化炉の内部の状態は、バイオマスガス化装置のガス化炉内に配置された検出部(不図示)により取得できる。検出部は、例えば、ガス化炉内のガス温度および/または炉壁温度を計測するための温度計測部である。温度計測部は、熱電対等である。
【0049】
炉壁への灰付着の有無は、炉壁温度から間接的に取得する。炉壁に灰が付着すると、それに伴って炉壁温度が変化する。よって、任意の高さの炉壁温度を計測し、その温度変化を確認することで、間接的に炉壁への灰付着の有無を判断する。灰付着が無い場合、炉壁温度は最大ガス温度と実質的に等しくなる。よって、最大ガス温度と炉壁温度との温度差の有無から、間接的に壁への灰付着の有無を判断する。
【0050】
(S6:灰融点調整材の添加量の補正の要否判定、S7:灰融点調整材添加量の補正)
上記S5で取得したガス化炉の内部の状態に基づいて、灰融点調整材の添加量の補正の要否を判定する(S6)。補正が必要であると判定された場合(S6:YES)、灰融点調整材の添加量を補正し、補正された添加量の前記灰融点調整材が添加されるようフィードバック制御する(S7)。補正が必要ないと判定された場合(S6:NO)、フィードバック制御は行わず、上記S5に戻り、運転停止または補正が必要と判定されるまで、継続的または断続的にガス化炉内の状態を取得する。
【0051】
例えば、最大ガス温度が上記(S2)で想定した灰の溶融開始温度より高い場合、灰融点調整材の添加量を補正(追加)する必要があると判定される。例えば、最大ガス温度が上記(S2)で想定した灰の融点開始温度よりも低い場合、灰融点調整材の添加量を補正(低減)する必要があると判定されてもよい。添加量の補正は、ガス化炉内の最大ガス温度の計測値を確認しながら、該計測値が上記(S2)で想定した灰の溶融開始温度となるよう実施される。
【0052】
例えば、ガス温度が最大となる高さ領域(すなわち、燃料供給部付近)の炉壁温度が、初期温度から低下する傾向を示した場合、灰融点調整材の添加量を補正(追加)する必要があると判定される。「初期温度」は、運転開始後、ガス化炉内の最大ガス温度が最初に安定した時点の温度である。ガス化炉内の最大ガス温度は、ガス化炉を構成する耐火材の熱容量が満たされたときに安定となる。例えば、運転開始後、1時間程度で最大ガス温度は安定化されうる。添加量の補正は、炉壁温度の計測値を確認しながら、該計測値が安定化されるよう実施される。
【0053】
例えば、炉壁に灰が付着している場合、灰融点調整材の添加量を補正する必要があると判定される。例えば、炉壁温度がガス化炉内のガス温度の計測値より低い場合には炉壁に灰が付着していると判断できるため、灰融点調整材の添加量を補正(追加)する必要があると判定される。添加量の補正は、炉壁温度の計測値を確認しながら、該計測値が安定化されるよう実施される。
【0054】
バイオマスガス化装置の制御部は、調整材添加部および検出部に電気的に接続されている。バイオマスガス化装置の制御部は、計量コンベアに電気的に接続されていてもよい。制御部は、検出部での検出結果からガス化炉の内部の状態を取得できる。制御部は、ガス化炉の内部の状態に基づいて灰融点調整材の添加量の補正の要否を判定し、補正が必要だと判定したされた場合に、補正された添加量の灰融点調整材が添加されるようフィードバック制御できる。
【0055】
上記(S2)での灰融点調整材の添加量は、バイオマスガス化装置の運転前の情報に基づいて算出される。本実施形態の(S5)~(S7)では、バイオマスガス化装置の運転中の情報に基づいて添加量を補正するため、灰の溶融開始温度がガス化炉の最大ガス温度よりも高くするのに必要な添加量をより正確に導き出すことができる。
【0056】
〔灰融点調整材の効果〕
図5,6に、灰融点調整材の効果を示す。
図5は灰融点調整材として炭酸カルシウムを用いた場合、
図6は灰融点調整材として炭酸マグネシウムを用いた場合の熱力学平衡計算の結果である。
図5,6において、横軸は灰の温度(℃)、縦軸は灰の溶融率(重量%)、破線は灰融点調整材無添加、実線は灰融点調整材添加である。アルカリ土類金属の炭酸塩は高温域で酸化物として存在するため、熱力学平衡計算では、灰融点調整材をCaO、MgOとした。
【0057】
図5,6に示されるように、灰融点調整材を添加しない場合、900℃程度から灰が溶けだし、1050℃~1100℃くらいで6割程度が溶融し、1250℃で略完全に溶けた状態となった。このような性状の灰に灰融点調整材を添加すると、灰の溶融開始温度は上昇した。炭酸カルシウムを添加した場合、灰の溶融開始温度は1200℃になった。炭酸マグネシウムを添加した場合、灰の溶融開始温度は1300℃になった。
【0058】
〔灰融点調整材の添加量〕
図7,8に、灰融点調整材を酸化物換算で0.1重量%~2重量添加した場合の、灰の温度と溶融率との関係を示す。
図7は灰融点調整材として炭酸カルシウムを用いた場合、
図8は灰融点調整材として炭酸マグネシウムを用いた場合の熱力学平衡計算の結果である。
図7,8において、横軸は灰の温度(℃)、縦軸は灰の溶融率(重量%)である。バイオマス燃料には、木質系の建設廃材(建廃)を用いた。
【0059】
図7,8によれば、灰融点調整材を添加しなかった場合、850℃を超えると灰の溶融が開始された。灰融点調整材の添加により灰の溶融開始温度は高くなった。添加量が少ないうちは灰融点調整材の添加量の増加に伴い、灰の溶融開始温度も上昇した。添加量CaO0.7重量%(CaCO
3換算で1.25重量%)、MgO0.2重量%(MgCO
3換算0.42重量%)以上で灰の溶融開始温度は1200℃以上になった。炭酸マグネシウムを添加する場合、添加量MgO0.3重量(MgCO
3換算0.63重量%)以上で灰の溶融開始温度は1300℃になった。
【0060】
添加量CaO0.7重量%、MgO0.3重量%以上では、添加量が多いほど灰の溶融率は低下したが、灰の溶融開始温度は変わらなかった。
【0061】
上記結果によれば、1200℃よりも低い温度で溶融が開始される灰に、灰融点調整材を添加することで、溶融開始温度を引き上げられることが確認された。ガス化炉内の最大ガス温度は1200℃程度であるから、灰融点調整材の添加によってバイオマス燃料の灰の溶融開始温度をガス化炉内の最大ガス温度以上にできるといえる。これにより、炉壁への灰付着を防止できる。
【0062】
〈付記〉
以上説明した実施形態に記載のバイオマスガス化装置の運転方法およびバイオマスガス化装置は、例えば以下のように把握される。
【0063】
本開示の第1態様に係るバイオマスガス化装置の運転方法は、バイオマス燃料をガス化するガス化炉を備えたバイオマスガス化装置の運転方法であって、(S1)前記バイオマス燃料の性状を取得し、(S2)取得した前記バイオマス燃料の性状に基づいて、灰融点調整材の添加量を算出し、(S3)算出した前記添加量の前記灰融点調整材を、前記バイオマス燃料に添加し、(S4)前記灰融点調整材が添加されたバイオマス燃料を前記ガス化炉に供給する。
【0064】
灰融点調整材は、バイオマス燃料の灰の融点温度を調整できる。灰融点調整材が添加されたバイオマス燃料をガス化炉に供給することで、バイオマス燃料のガス化により生じる灰(バイオマス燃料の灰)の溶融開始温度が、ガス化炉内の最大ガス温度を超えるよう制御できる。これにより、ガス化炉内で灰が溶融しにくくなり、炉壁への灰付着が抑制されるため、結果として炉内閉塞を防止できる。
【0065】
バイオマス燃料は、再生可能な生物由来の有機性資源である。バイオマス燃料の性状は、産地および排出元によって異なる。バイオマス燃料の性状を取得し、それに基づくことで、適切に灰融点調整材の必要添加量を算出できる。
【0066】
本開示の第2態様に係るバイオマスガス化装置の運転方法は、上記第1態様において、前記バイオマス燃料の性状が前記バイオマス燃料のガス化に伴って生じる灰の組成であってよい。
【0067】
バイオマス燃料の原料には、再生可能な生物由来の有機性資源以外の成分が付着していることがある。例えば、バイオマス燃料が廃材、特に木質系の建設廃材である場合、塗料、土、シロアリ駆除剤、漆喰などが付着している。塗料、土、シロアリ駆除剤、漆喰などには、ナトリウムおよびカリウムなどの灰融点を低下させる成分が含まれている。木材の本来の灰融点は1400℃程度であるが、灰融点を低下させる成分が付着した木質系の建設廃材の灰融点は1200℃を下回ることがある。本態様によれば、灰の組成を取得し、それに基づくことで、より正確に灰融点調整材の必要添加量を算出できる。これにより、より確実にバイオマス燃料の灰の溶融開始温度を、ガス化炉内の最大ガス温度を超えるよう制御できる。
【0068】
本開示の第3態様に係るバイオマスガス化装置の運転方法は、第1態様において、(S5)前記ガス化炉の内部の状態を取得し、(S6)該内部の状態に基づいて前記灰融点調整材の添加量の補正の要否を判定し、(S7)補正が必要だと判定された場合に、補正された添加量の前記灰融点調整材が添加されるようフィードバック制御できる。
【0069】
第1態様における灰融点調整材の添加量は、バイオマスガス化装置の運転前の情報に基づいて算出される。本態様では、バイオマスガス化装置の内部の状態(運転中の情報)に基づいて添加量を補正するため、より適切な量の灰融点調整材を添加できる。
【0070】
本開示の第4態様に係るバイオマスガス化装置の運転方法は、第1態様において、前記ガス化炉の内部の状態は、前記ガス化炉内における最大ガス温度であってよい。
【0071】
ガス化炉内の温度は運転中に変動する可能性がある。最大ガス温度が高い方に変動すると、灰融点調整材の添加量が足りずに灰が溶融し炉壁への灰付着量の増加につながる。ガス化炉内の最大ガス温度を取得することで、ガス化炉内の温度変動に対応した最適な添加量を算出できる。算出した添加量で灰融点調整材が添加されるようフィードバック制御することで、炉壁への灰付着をより確実に抑制できる。
【0072】
本開示の第5態様に係るバイオマスガス化装置の運転方法は、第1態様において、前記ガス化炉の内部の状態は、前記ガス化炉内における炉壁温度であってよい。
【0073】
炉壁への灰付着が殆どない状態において、ガス化炉内の最大ガス温度は、実質的に壁温度と等しい。よって、炉壁への灰付着が殆どない状態では、炉壁温度を取得することで、間接的に最大ガス温度を知ることができる。
【0074】
本開示の第6態様に係るバイオマスガス化装置の運転方法は、第1態様において、前記ガス化炉の内部の状態は、前記ガス化炉内における炉壁への灰付着の有無であってよい。
【0075】
灰融点調整材の添加量が少ない場合、ガス化炉内の炉壁に付着しやすくなる。炉壁への灰の付着の有無を確認することで、不足分を補うよう灰融点調整材を添加できるようになる。
【0076】
本開示の第7態様に係るバイオマスガス化装置の運転方法は、第1態様から第6態様において、前記灰融点調整材が、アルカリ土類金属の炭酸塩またはアルカリ土類金属の炭酸塩を含む鉱石であってよい。
【0077】
アルカリ土類金属の炭酸塩またはアルカリ土類金属の炭酸塩を含む鉱石は、バイオマス燃料をガス化する際に生じる灰の融点を上げることができる。
【0078】
本開示の第8態様に係るバイオマスガス化装置の運転方法は、第7態様において、前記灰融点調整材が炭酸カルシウムまたは炭酸カルシウムを含む鉱石であり、前記灰融点調整材の添加量は、前記バイオマス燃料に対して、炭酸塩換算で1.25重量%以上5重量%以下であってよい。
【0079】
灰融点調整材が炭酸塩換算で1.25重量%以上添加されることで、バイオマス燃料をガス化する際に生じる灰の溶融開始温度を1200℃まで上げることができる。
【0080】
本開示の第9態様に係るバイオマスガス化装置の運転方法は、第7態様において、前記灰融点調整材が炭酸マグネシウムまたは炭酸マグネシウムを含む鉱石であり、前記灰融点調整材の添加量は、前記バイオマス燃料に対して、炭酸塩換算で0.42重量%以上5重量%以下であってよい。
【0081】
本開示の第10態様に係るバイオマスガス化装置(1)は、バイオマス燃料をガス化するガス化炉(2)と、前記ガス化炉内に前記バイオマス燃料を供給する燃料供給部(4)と、前記燃料供給部の前記バイオマス燃料に灰融点調整材を添加する調整材添加部(5)と、前記バイオマス燃料の性状に基づいて前記灰融点調整材の添加量を算出し、算出した前記添加量の前記灰融点調整材が前記バイオマス燃料に供給されるよう前記調整材添加部からの添加量を制御する制御部(6)と、を備えている。
【0082】
灰融点調整材は、バイオマス燃料の灰の融点温度を調整できる。燃料供給部に灰融点調整材を添加する調整材添加部を備えることで、バイオマス燃料のガス化により生じる灰(バイオマス燃料の灰)の溶融開始温度がガス化炉内の最大ガス温度を超えるよう制御できる。これにより、ガス化炉内で灰が溶融しにくくなり、炉壁への灰付着が抑制されるため、結果として炉内の閉塞を防止できる。
【0083】
バイオマス燃料の性状を取得し、それに基づいて灰融点調整材の添加量を算出して、記調整材添加部からの添加量を制御することで、より確実にバイオマス燃料の灰の溶融開始温度を、ガス化炉の最大ガス温度以上にできる。
【0084】
本開示の第11態様に係るバイオマスガス化装置は、第10態様において、前記ガス化炉の内部の状態を検出する検出部(不図示)を備え、前記制御部は、前記検出部で検出した前記ガス化炉の内部の状態に基づいて、前記灰融点調整材の添加量の補正の要否を判定し、補正が必要だと判定したされた場合に、補正された添加量の前記灰融点調整材が添加されるようフィードバック制御し得る。
【0085】
第10態様における灰融点調整材の添加量は、バイオマスガス化装置の運転前の情報に基づいて算出される。本態様の制御部では、バイオマスガス化装置の内部の状態(運転中の情報)に基づいて添加量を補正するため、より適切な量の灰融点調整材を添加できる。
【符号の説明】
【0086】
1 バイオマスガス化装置
2 ガス化炉
3 ガス化剤供給部
4 燃料供給部
5 調整材添加部
6 制御部
7 灰溜部
8 排出管
10 (燃料供給部の)定量フィーダ
11 燃料供給ホッパ
12 計量コンベア
13a,13b ロータリフィーダ
14 スクリューフィーダ
15 (調整材添加部の)定量フィーダ
16 調整材添加ホッパ