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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056368
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】製造システム
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/10 20060101AFI20240416BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20240416BHJP
   C23C 14/24 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
H05B33/10
H05B33/14 A
C23C14/24 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163191
(22)【出願日】2022-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】竹田 有也
(72)【発明者】
【氏名】山口 優太
【テーマコード(参考)】
3K107
4K029
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB02
3K107CC33
3K107CC45
3K107FF15
3K107GG04
3K107GG28
3K107GG32
3K107GG56
4K029CA01
4K029DB06
(57)【要約】
【課題】本発明は、従来に比べて高精度な学習モデルを作成でき、一定の水準の品質をもつ有機EL装置をコンスタントに製造できる製造システムを提供する。
【解決手段】製造過程パラメータで有機EL装置を製造する製造部と、有機EL装置の品質パラメータを測定する測定部と、過去の有機EL装置の製造過程パラメータと直前に測定された品質パラメータを含む第1データと過去の有機EL装置の直後に測定された品質パラメータを含む第2データを用いて学習モデルを作成する機械学習部と、学習モデルに基づいて品質パラメータが所定の範囲に収まる製造過程パラメータを推定する推定部と、製造過程パラメータに反映する調整部を有し、品質パラメータは、電圧、輝度、色空間、及び演色評価数に関するパラメータを含み、第1データは発光機能層の各層の材料及び組成に関するパラメータを含まない構成とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、第1電極層、複数の層が積層された発光機能層、及び第2電極層が積層された有機EL装置を連続的に製造可能な製造システムであって、
機械学習部と、製造部と、測定部と、推定部と、調整部を有し、前記製造部において製造過程パラメータを調整して有機EL装置を製造し、前記測定部で製造された有機EL装置の品質パラメータを測定するものであり、
前記機械学習部は、過去の有機EL装置の製造過程パラメータ及び前記過去の有機EL装置の製造過程パラメータの設定の際の直前に前記測定部で測定された有機EL装置の品質パラメータを含む第1データと、前記過去の有機EL装置の製造過程パラメータの設定の直後に測定された品質パラメータを含む第2データとのデータセットを教師データとして、学習モデルを作成可能であり、
前記推定部は、前記学習モデルに基づいて、前記製造部で製造する有機EL装置の品質パラメータが所定の範囲に収まる製造過程パラメータを推定可能であり、
前記調整部は、前記推定部が推定した製造過程パラメータを前記製造部における製造過程パラメータに反映可能であり、
前記品質パラメータには、電圧、輝度、色空間、及び演色評価数に関するパラメータを含んでおり、前記第1データには、前記発光機能層の各層の材料及び組成に関するパラメータを含まない、製造システム。
【請求項2】
前記調整部は、推定した製造過程パラメータを前記製造部における製造過程パラメータに反映した場合に、反映した製造過程パラメータによって製造された有機EL装置が品質パラメータを測定されるまでの間において、前記反映した製造過程パラメータをそのまま使用する、請求項1に記載の製造システム。
【請求項3】
前記機械学習部は、製造部で有機EL装置が製造されるごとに機械学習し、前記学習モデルを再構築可能であり、
前記機械学習部は、前記調整部が推定した製造過程パラメータを前記製造部における製造過程パラメータに反映した場合に、反映した製造過程パラメータによって製造された有機EL装置の一つ前に前記測定部で測定された有機EL装置の品質パラメータで学習モデルを再構築しない、請求項1に記載の製造システム。
【請求項4】
前記製造部は、前記複数の層のうち少なくとも一つの層を製膜する製膜部と、前記製膜部で製膜された仕掛有機EL装置を面方向に複数に分割して前記有機EL装置を形成する分割部を有し、
前記製膜部は、面方向における製膜位置によって厚み分布が生じるものであり、
前記有機EL装置の品質パラメータは、前記仕掛有機EL装置における分割位置に応じて設定された補正係数を反映して算出される、請求項1に記載の製造システム。
【請求項5】
基材上に、第1電極層、複数の層が積層された発光機能層、及び第2電極層が積層された有機EL装置を連続的に製造可能な製造システムであって、
機械学習部と、製造部と、測定部と、推定部と、調整部を有し、前記製造部において製造過程パラメータを調整して有機EL装置を製造し、前記測定部で製造された有機EL装置の品質パラメータを測定するものであり、
前記機械学習部は、過去の有機EL装置の製造過程パラメータ及び前記過去の有機EL装置の製造過程パラメータの設定の際の直前に前記測定部で測定された有機EL装置の品質パラメータを含む第1データと、前記過去の有機EL装置の製造過程パラメータの設定の直後に測定された品質パラメータを含む第2データとのデータセットを教師データとして、学習モデルを作成可能であり、
前記推定部は、前記学習モデルに基づいて、前記製造部で製造する有機EL装置の品質パラメータが所定の範囲に収まる製造過程パラメータを推定可能であり、
前記調整部は、前記推定部が推定した製造過程パラメータを前記製造部における製造過程パラメータに反映可能であり、
前記調整部は、推定した製造過程パラメータを前記製造部における製造過程パラメータに反映した場合に、反映した製造過程パラメータによって製造された有機EL装置が品質パラメータを測定されるまでの間において、前記反映した製造過程パラメータをそのまま使用する、製造システム。
【請求項6】
基材上に、第1電極層、複数の層が積層された発光機能層、及び第2電極層が積層された有機EL装置を連続的に製造可能な製造システムであって、
機械学習部と、製造部と、測定部と、推定部と、調整部を有し、前記製造部において製造過程パラメータを調整して有機EL装置を製造し、前記測定部で製造された有機EL装置の品質パラメータを測定するものであり、
前記機械学習部は、過去の有機EL装置の製造過程パラメータ及び前記過去の有機EL装置の製造過程パラメータの設定の際の直前に前記測定部で測定された有機EL装置の品質パラメータを含む第1データと、前記過去の有機EL装置の製造過程パラメータの設定の直後に測定された品質パラメータを含む第2データとのデータセットを教師データとして、学習モデルを作成可能であり、
前記推定部は、前記学習モデルに基づいて、前記製造部で製造する有機EL装置の品質パラメータが所定の範囲に収まる製造過程パラメータを推定可能であり、
前記調整部は、前記推定部が推定した製造過程パラメータを前記製造部における製造過程パラメータに反映可能であり、
前記製造部は、前記複数の層のうち少なくとも一つの層を製膜する製膜部と、前記製膜部で製膜された仕掛有機EL装置を面方向に複数に分割して前記有機EL装置を形成する分割部を有し、
前記製膜部は、面方向における製膜位置によって厚み分布が生じるものであり、
前記有機EL装置の品質パラメータは、前記仕掛有機EL装置における分割位置に応じて設定された補正係数を反映して算出される、製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL装置を連続的に製造可能な製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、有機EL装置は、薄くて軽く、面状発光することから、照明分野において主に白色光源として注目されている。
有機EL装置は、白色光を得る手段として、装置内で複数色の発光層を積層させ、各発光層による発光色を混色させている。
例えば、特許文献1の有機ELパネル(有機EL装置)は、基材上に透光性陽極層、発光機能層、及び反射性陰極層が積層されたものであり、この発光機能層は、透光性陽極層から順に、青色発光層を有する青色蛍光ユニットと、ホールと電子を同時に発生させる接続層と、緑赤燐光発光層を有した緑赤燐光ユニットが積層されて形成されている。
そして、特許文献1の有機ELパネルは、透光性陽極層と反射性陰極層の間で電圧を印加することで、青色発光ユニットの青色発光層で発光する青色発光と、緑赤発光ユニットの赤緑発光層で発光する赤緑色発光が合わさって基材側から白色光として取り出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-068603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、人工知能の発展に伴い、製造時における各種設定パラメータと製造した製品特性の関係から機械学習して学習モデルを作成し、当該学習モデルを用いることで、製造時における各種設定パラメータから製品特性を推定することが可能となってきている。
また、高精度の学習モデルを作成できれば、学習モデルを逆解析することで製品特性から当該製品特性が得られる製造時における各種設定パラメータを計算によって算出できると考えられる。
【0005】
そこで、本発明は、従来に比べて高精度な学習モデルを作成でき、一定の水準の品質を有する有機EL装置をコンスタントに製造できる製造システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するために、本発明者は、有機EL装置において高精度の学習モデルを作成する方法について検討した。
有機EL装置において学習モデルを作成する場合、上記したように構成する各発光ユニットが発光層の他に、正孔注入層や、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層などの発光層での発光を促進する層が複数層形成されていることが多く、これらの材料や組成等のパラメータに加えてこれらの厚みや材質、製膜条件を製造過程パラメータとして導入すると、製造時における説明変数として使用する製造過程パラメータの数が1000を超えてしまう。そのため、膨大な量の計算が必要となり、学習モデルの作成に時間がかかる問題がある。
また、作成した学習モデルで逆解析を行う場合、製造過程パラメータの数が膨大になると、逆解析によって求める変数の数が多くなってしまい、解が収束せず、正確な解析ができない問題がある。
さらに、学習モデルの作成に時間がかかると、製造時において学習モデルの精度が落ちた場合に、製造途中で学習モデルを再構築できない問題がある。
【0007】
そこで、本発明者は、有機EL装置の学習モデルの作成の際に説明変数として使用される製造過程パラメータの数を減らすべく、製造過程パラメータの多くを占める有機EL装置の材料等のパラメータに代替できる代替パラメータを模索したところ、材料や組成に関するパラメータは、同じ製造ラインで同じ条件で製造した過去の有機EL装置の電圧、輝度、色空間、及び演色評価数に関するパラメータに大きく関連することを発見した。
そして、この発見を元に、材料や組成に関するパラメータを用いずに過去の有機EL装置の電圧、輝度、色空間、及び演色評価数に関するパラメータを用いて学習モデルを作成したところ、材料や組成に関するパラメータを用いずとも、高精度の学習モデルを作成でき、学習モデルの計算量が大きく削減できることを見出した。
【0008】
本発明の一つの様相は、基材上に、第1電極層、複数の層が積層された発光機能層、及び第2電極層が積層された有機EL装置を連続的に製造可能な製造システムであって、機械学習部と、製造部と、測定部と、推定部と、調整部を有し、前記製造部において製造過程パラメータを調整して有機EL装置を製造し、前記測定部で製造された有機EL装置の品質パラメータを測定するものであり、前記機械学習部は、過去の有機EL装置の製造過程パラメータ及び前記過去の有機EL装置の製造過程パラメータの設定の際の直前に前記測定部で測定された有機EL装置の品質パラメータを含む第1データと、前記過去の有機EL装置の製造過程パラメータの設定の直後に測定された品質パラメータを含む第2データとのデータセットを教師データとして、学習モデルを作成可能であり、前記推定部は、前記学習モデルに基づいて、前記製造部で製造する有機EL装置の品質パラメータが所定の範囲に収まる製造過程パラメータを推定可能であり、前記調整部は、前記推定部が推定した製造過程パラメータを前記製造部における製造過程パラメータに反映可能であり、前記品質パラメータには、電圧、輝度、色空間、及び演色評価数に関するパラメータを含んでおり、前記第1データには、前記発光機能層の各層の材料及び組成に関するパラメータを含まない、製造システムである。
【0009】
本様相によれば、第1データとして過去の有機EL装置の製造過程パラメータの設定の際の直前に測定部で測定された有機EL装置の品質パラメータを含むので、従来に比べて高精度の学習モデルを作成できる。
本様相によれば、第1データに発光機能層の各層の材料及び組成に関するパラメータを含まないので、学習モデルを生成する際の計算量を大きく削減でき、従来に比べて学習モデルの生成時間を短縮できる。
本様相によれば、第1データの過去の有機EL装置の製造過程パラメータの設定の際の直前に測定部で測定された有機EL装置の品質パラメータとして電圧、輝度、色空間、及び演色評価数に関するパラメータを含んでいるので、高精度の学習モデルを作成できる。また、当該学習モデルに基づいて、有機EL装置の品質パラメータが所定の範囲に収まる製造過程パラメータを推定し、製造部における製造過程パラメータに反映することで、一定の水準の品質を有する有機EL装置をコンスタントに製造できる。
【0010】
ところで、調整部は、推定した製造過程パラメータを製造部における製造過程パラメータに反映すると、反映した製造過程パラメータを用いて製造部で有機EL装置が製造され、測定部で品質パラメータを測定されるまでの間、製造過程パラメータの変動が測定部での品質パラメータの測定結果に反映されない。すなわち、製造過程パラメータが反映されてから、その品質パラメータが測定されるまで時間差があり、製造過程パラメータを変動させてから品質パラメータに反映されるまでの間に再度製造過程パラメータを変動させると、品質パラメータが所定の範囲から大きく外れるまで判断できない問題がある。
【0011】
好ましい様相は、前記調整部は、推定した製造過程パラメータを前記製造部における製造過程パラメータに反映した場合に、反映した製造過程パラメータによって製造された有機EL装置が品質パラメータを測定されるまでの間において、前記反映した製造過程パラメータをそのまま使用する。
【0012】
本様相によれば、品質パラメータが所定の範囲から大きく外れることを防止できる。
【0013】
好ましい様相は、前記機械学習部は、製造部で有機EL装置が製造されるごとに機械学習し、前記学習モデルを再構築可能であり、前記機械学習部は、前記調整部が推定した製造過程パラメータを前記製造部における製造過程パラメータに反映した場合に、反映した製造過程パラメータによって製造された有機EL装置の一つ前に前記測定部で測定された有機EL装置の品質パラメータで学習モデルを再構築しない。
【0014】
本様相によれば、教師データとして使用する製造過程パラメータと品質パラメータの対応関係を概ね一致させることができ、より良好な精度の学習モデルを作成できる。
【0015】
ところで、工業的に有機EL装置を製造する場合、大判状の基材を用いて仕掛有機EL装置を製造し、当該仕掛有機EL装置を複数に分割して有機EL装置を作る場合がある。このような場合、仕掛有機EL装置の発光機能層の各層を製膜する際に、基材の面積が大きいため、基材の面方向に濃度勾配ができ、わずかながら製膜位置によって厚みが異なる。
この厚みの相違によって全く同じ条件によって製造したにもかかわらず、有機EL装置の品質にばらつきが生じる。そのため、品質パラメータを学習モデルに使用する場合、高精度な学習モデルを作成するには、この品質のばらつきを吸収する必要がある。
【0016】
そこで、好ましい様相は、前記製造部は、前記複数の層のうち少なくとも一つの層を製膜する製膜部と、前記製膜部で製膜された仕掛有機EL装置を面方向に複数に分割して前記有機EL装置を形成する分割部を有し、前記製膜部は、面方向における製膜位置によって厚み分布が生じるものであり、前記有機EL装置の品質パラメータは、前記仕掛有機EL装置における分割位置に応じて設定された補正係数を反映して算出される。
【0017】
本様相によれば、有機EL装置の品質パラメータが分割位置によって補正係数を反映して算出されるので、品質のばらつきを吸収でき、より高精度な学習モデルを作成できる。
【0018】
本発明の一つの様相は、基材上に、第1電極層、複数の層が積層された発光機能層、及び第2電極層が積層された有機EL装置を連続的に製造可能な製造システムであって、機械学習部と、製造部と、測定部と、推定部と、調整部を有し、前記製造部において製造過程パラメータを調整して有機EL装置を製造し、前記測定部で製造された有機EL装置の品質パラメータを測定するものであり、前記機械学習部は、過去の有機EL装置の製造過程パラメータ及び前記過去の有機EL装置の製造過程パラメータの設定の際の直前に前記測定部で測定された有機EL装置の品質パラメータを含む第1データと、前記過去の有機EL装置の製造過程パラメータの設定の直後に測定された品質パラメータを含む第2データとのデータセットを教師データとして、学習モデルを作成可能であり、前記推定部は、前記学習モデルに基づいて、前記製造部で製造する有機EL装置の品質パラメータが所定の範囲に収まる製造過程パラメータを推定可能であり、前記調整部は、前記推定部が推定した製造過程パラメータを前記製造部における製造過程パラメータに反映可能であり、前記調整部は、推定した製造過程パラメータを前記製造部における製造過程パラメータに反映した場合に、反映した製造過程パラメータによって製造された有機EL装置が品質パラメータを測定されるまでの間において、前記反映した製造過程パラメータをそのまま使用する、製造システムである。
【0019】
本様相によれば、第1データとして過去の有機EL装置の製造過程パラメータの設定の際の直前に測定部で測定された有機EL装置の品質パラメータを含むので、従来に比べて高精度の学習モデルを作成できる。その結果、一定の水準の品質を有する有機EL装置をコンスタントに製造できる。
本様相によれば、推定した製造過程パラメータを前記製造部における製造過程パラメータに反映した場合に、反映した製造過程パラメータによって製造された有機EL装置が品質パラメータを測定されるまでの間において、前記反映した製造過程パラメータをそのまま使用するので、品質パラメータが所定の範囲から大きく外れることを防止できる。
【0020】
本発明の一つの様相は、基材上に、第1電極層、複数の層が積層された発光機能層、及び第2電極層が積層された有機EL装置を連続的に製造可能な製造システムであって、機械学習部と、製造部と、測定部と、推定部と、調整部を有し、前記製造部において製造過程パラメータを調整して有機EL装置を製造し、前記測定部で製造された有機EL装置の品質パラメータを測定するものであり、前記機械学習部は、過去の有機EL装置の製造過程パラメータ及び前記過去の有機EL装置の製造過程パラメータの設定の際の直前に前記測定部で測定された有機EL装置の品質パラメータを含む第1データと、前記過去の有機EL装置の製造過程パラメータの設定の直後に測定された品質パラメータを含む第2データとのデータセットを教師データとして、学習モデルを作成可能であり、前記推定部は、前記学習モデルに基づいて、前記製造部で製造する有機EL装置の品質パラメータが所定の範囲に収まる製造過程パラメータを推定可能であり、前記調整部は、前記推定部が推定した製造過程パラメータを前記製造部における製造過程パラメータに反映可能であり、前記製造部は、前記複数の層のうち少なくとも一つの層を製膜する製膜部と、前記製膜部で製膜された仕掛有機EL装置を面方向に複数に分割して前記有機EL装置を形成する分割部を有し、前記製膜部は、面方向における製膜位置によって厚み分布が生じるものであり、前記有機EL装置の品質パラメータは、前記仕掛有機EL装置における分割位置に応じて設定された補正係数を反映して算出される、製造システムである。
【0021】
本様相によれば、第1データとして過去の有機EL装置の製造過程パラメータの設定の際の直前に測定部で測定された有機EL装置の品質パラメータを含み、有機EL装置の品質パラメータが分割位置によって補正係数を反映して算出されるので、品質のばらつきを吸収でき、より高精度な学習モデルを作成できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の有機EL装置によれば、従来に比べて高精度な学習モデルを作成でき、一定の水準の品質を有する有機EL装置をコンスタントに製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1実施形態の製造システムの説明図であり、(a)は製造システムのブロック図であり、(b)はある時点の製造システムの状況を示す模式図である。
図2図1の機械学習部における機械学習プログラムのブロック図である。
図3図1の製造部で製造された有機EL装置の層構造を示す断面図であり、理解を容易にするためにハッチングを省略している。
図4図1の製造システムにおける製造過程パラメータの設定動作のフローチャートである。
図5】本発明の第2実施形態の製造システムの機械学習部における機械学習プログラムのブロック図である。
図6】本発明の第3実施形態の製造システムの機械学習部における機械学習プログラムのブロック図である。
図7】本発明の第4実施形態の製造システムにおける製造過程パラメータの設定動作のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0025】
本発明の製造システム1は、有機EL装置101を製造する有機EL製造システムであり、主に、図1(a)のように、制御部2と、製造部3と、測定部5で構成されている。
制御部2は、製造部3と測定部5を制御する部位であり、機械学習部10と、データ蓄積部11と、位置特定部12と、推定部13と、調整部15と、品質加工部16と、制御側通信部17を備えている。
製造部3は、有機EL装置101を製造する部位であり、製膜部20と、分割部21と、製造側通信部22を備えている。
測定部5は、有機EL装置101の品質パラメータを測定する部位であり、特性測定部30と、測定側通信部31を備えている。
【0026】
(機械学習部10)
機械学習部10は、機械学習プログラムによって実行されるものであり、いわゆる教師あり学習で学習する機能があり、後述するLasso回帰等の機械学習アルゴリズムに則して教師あり学習を行うことが可能となっている。
ここで、「教師あり学習」とは、教師データ、すなわち、ある入力(説明変数)と結果(目的変数)のデータの組を大量に機械学習部10に与えることで、それらのデータセットにある特徴を学習し、入力から結果を推定するモデル(誤差モデル)、すなわち、入力と結果の関係性を帰納的に獲得するものである。
すなわち、機械学習部10は、図2のように、入力部と、出力部を有しており、教師データをもとに機械学習することによって、入力部に入力された説明変数から出力部から出力される目的変数を算出する学習モデルを構築可能となっている。
【0027】
具体的には、機械学習部10は、過去の有機EL装置101aの製造過程パラメータA1と、その一つ前の有機EL装置101bの製造過程パラメータA2と、過去の有機EL装置101aの製造過程パラメータA1の設定の際の直前に特性測定部30で測定された有機EL装置101dの品質パラメータB2と、を含む説明データ(第1データ)と、過去の有機EL装置101aの設定の直後に特性測定部30で測定された有機EL装置101cの品質パラメータB1を含む目的データ(第2データ)とのデータセットを教師データとして、機械学習して学習モデルを作成可能である。
【0028】
例えば、図1(b)の場合、製造過程パラメータA1は、製膜部20で基材102(有機EL装置101aに対応)に処方される製造過程パラメータであり、製造過程パラメータA2は、基材102の一つ前に先行する基材102(有機EL装置101bに対応)に処方されている製造過程パラメータである。
また、品質パラメータB2は、製造過程パラメータA1が設定される直前に特性測定部30で測定された有機EL装置101dの品質パラメータであり、品質パラメータB1は、有機EL装置101dの一つ後の有機EL装置101cの特性測定部30で測定される品質パラメータである。
【0029】
有機EL装置101a,101bの製造過程パラメータA1,A2は、後述する発光機能層105の各層を製膜する際の真空蒸着装置のツーリング係数(TF)や蒸着源の温度(バルブドセルの温度)を少なくとも含んでおり、さらに当該真空蒸着装置における発光機能層105の各層を製膜する際の真空度、製膜レート、るつぼバルブ開度、加熱器電流、製膜時間、膜厚、製膜時間を含むことが好ましい。
有機EL装置101a,101bの製造過程パラメータA1,A2は、発光機能層105の各層の材料及び組成に関するパラメータを含まないことが好ましい。
【0030】
有機EL装置101c,101dの品質パラメータB1,B2は、特性測定部30によって測定される品質に関するパラメータであり、通電時の有機EL装置101c,101dの駆動電圧、輝度、色空間、及び演色評価数に関するパラメータを含むことが好ましい。
本実施形態の有機EL装置101c,101dの品質パラメータB1,B2は、駆動電圧(V)、輝度、CIE1931色空間における色度座標(CIE-x、CIE-y)、特殊演色評価数(R9)である。
また、有機EL装置101c,101dの品質パラメータB1,B2は、製膜部20の各種製膜装置により、製膜対象の面方向において製膜位置によって厚み分布が生じるため、同一の製造過程パラメータで処方しても、個体差があり、分割部21による分割位置によって異なる。そこで、本実施形態の有機EL装置101c,101dの品質パラメータB1,B2は、有機EL装置101c,101dの分割部21による分割位置によって補正係数が割り当てられており、生データに対して補正係数によって補正されている。
【0031】
(データ蓄積部11)
データ蓄積部11は、過去及び現在の製造過程パラメータや、機械学習部10で構築された過去及び現在の学習モデル、過去及び現在の品質パラメータ、各有機EL装置101の分割部21による仕掛有機EL装置100の分割位置情報などを記憶することが可能となっている。
【0032】
(位置特定部12)
位置特定部12は、測定部5の特性測定部30で測定後の有機EL装置101に対して、製造部3の分割部21で分割される前の仕掛有機EL装置100における位置を特定する部位である。
【0033】
(推定部13)
推定部13は、機械学習プログラムを用いて製造過程パラメータを推定する部位である。
推定部13は、機械学習部10が構築した学習モデルを用いて多目的最適化により逆解析が可能となっており、機械学習部10が構築した学習モデルに基づいて、製造部3で製造する有機EL装置101の品質パラメータが所定の範囲に収まる製造過程パラメータを推定可能となっている。
多目的最適化に用いるアルゴリズムとしては、例えば、NSGA-IIIやMOEA/D、C-TAEAなどの公知のアルゴリズムが使用できる。
【0034】
(調整部15)
調整部15は、推定部13で推定した製造過程パラメータを踏まえて製造過程パラメータを調整し、製造部3における製造過程パラメータに反映可能となっている。
なお、調整部15は、推定部13で推定した製造過程パラメータを製造部3における製造過程パラメータにそのまま反映してもよい。
調整部15は、推定された製造過程パラメータを踏まえて可変であって調整できる製造過程パラメータを最適化して製造部3における製造過程パラメータに反映可能となっていることが好ましい。
【0035】
(品質加工部16)
品質加工部16は、有機EL装置101の品質パラメータの生データを位置特定部12で特定された有機EL装置101の位置情報に基づき補正係数を用いて加工する部位である。
ここで、品質加工部16は、図1(b)のように、1枚の仕掛有機EL装置100から分割部21によって25枚の有機EL装置101に分割される場合、品質パラメータごとに設定される補正係数が異なる。
本実施形態の品質加工部16は、駆動電圧(V)、輝度、CIE1931色空間における色度座標(CIE-x、CIE-y)、特殊演色評価数(R9)のそれぞれで異なる補正係数が割り当てられており、各位置によっても異なる補正係数が割り当てられている。
なお、これらの補正係数は、使用する真空蒸着装置等の製造環境に合わせて変動し、適宜設定される。
【0036】
(制御側通信部17)
制御側通信部17は、製造部3の製造側通信部22と無線又は有線で通信可能な部位である。
【0037】
(製膜部20)
製膜部20は、調整部15によって調整された製造過程パラメータを用いて、基材102上に各層を製膜し、仕掛有機EL装置100を形成する部位である。
製膜部20は、複数の真空蒸着装置とCVD装置を備え、図1(b)のように複数枚の基材102に対して、連続的に製膜可能となっている。
製膜部20の真空蒸着装置やCVD装置には、製膜対象の面方向において製膜位置によって厚み分布が生じるものが含まれている。
【0038】
(分割部21)
分割部21は、図1(b)のように、製膜部20で製膜された仕掛有機EL装置100を複数の有機EL装置101に分割する部位である。
本実施形態の分割部21は、一枚の仕掛有機EL装置100を碁盤状に分割し、縦横25個の有機EL装置101を形成可能となっている。
【0039】
(製造側通信部22)
製造側通信部22は、制御部2の制御側通信部17と無線又は有線で通信可能な部位である。
【0040】
(特性測定部30)
特性測定部30は、分割部21によって分割された各有機EL装置101に対して各種品質パラメータを測定する部位である。
本実施形態の特性測定部30は、駆動電圧(V)、輝度、CIE1931色空間における色度座標(CIE-x、CIE-y)、特殊演色評価数(R9)の品質パラメータを測定可能となっている。
【0041】
(測定側通信部31)
測定側通信部31は、制御部2の制御側通信部17と無線又は有線で通信可能な部位である。
【0042】
(有機EL装置101)
有機EL装置101は、図3のように、基材102上に陽極層103(第1電極層)と、発光機能層105と、陰極層106(第2電極層)を備えている。
基材102は、透光性と絶縁性を有した透明絶縁基板であり、例えば、ガラス基板が使用できる。
陽極層103は、透光性と導電性を有した透明導電層であり、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)等の透明導電性酸化物が使用できる。
発光機能層105は、複数の発光ユニット110,111と、発光ユニット110,111間を接続する接続ユニット112を備えている。
【0043】
青緑発光ユニット110は、青色発光材料と緑色発光材料を含む青緑発光層122を有し、通電時に青緑色に発光可能となっている。
青緑発光ユニット110は、陽極層103側から順に、正孔注入層120、正孔輸送層121、青緑発光層122、電子輸送層123、電子注入層124が積層されて構成されている。
赤緑発光ユニット111は、赤色発光材料と緑色発光材料を含む赤緑発光層132を含み、通電時に赤緑色に発光可能となっている。
赤緑発光ユニット111は、接続ユニット112側から順に、正孔注入層130、正孔輸送層131、赤緑発光層132、正孔ブロック層133、電子輸送層134、電子注入層135が積層されて構成されている。
すなわち、青緑発光ユニット110は、赤緑発光ユニット111に比べて短波長光で発光する短波長発光ユニットであり、赤緑発光ユニット111は、青緑発光ユニット110に比べて長波長光で発光する長波長発光ユニットである。
【0044】
接続ユニット112は、通電時に、陽極層103側の青緑発光ユニット110に電子を注入し、かつ、陰極層106側の赤緑発光ユニット111に正孔を注入する機能を有する電荷発生部である。
【0045】
陰極層106は、導電性を有した導電層であり、例えば、アルミニウム(Al)等の金属が使用できる。
【0046】
(仕掛有機EL装置100)
仕掛有機EL装置100は、分割部21で分割される前の有機EL装置101の仕掛品であり、有機EL装置101と同様の層構造を有している。
【0047】
続いて、本実施形態の製造システム1による有機EL装置101の製造過程パラメータを設定する製造過程パラメータの設定動作について図4のフローチャートを参照しながら説明する。
【0048】
本実施形態の設定動作では、まず、あらかじめ機械学習部10が学習モデルを生成し、推定部13が構築した学習モデルを用いて逆解析し、所望の品質パラメータから所望の品質パラメータが得られる製造過程パラメータを推定する。そして、調整部15が推定した製造過程パラメータを製造部3の製造過程パラメータとして設定する(ステップS1-1)。
【0049】
このとき機械学習部10が生成する学習モデルは、図1(b)のように、過去の有機EL装置101aの製造過程パラメータA1、過去の有機EL装置101aの一つ前の有機EL装置101bの製造過程パラメータA2、及び過去の有機EL装置101aの製造過程パラメータA1の設定の際の直前に特性測定部30で測定された有機EL装置101dの品質パラメータB2を含む説明データと、過去の有機EL装置101aの製造過程パラメータA1の設定の直後に測定された有機EL装置101cの品質パラメータB1を含む目的データとのデータセットを教師データとして、教師あり学習して形成される。
学習モデルの作成手法としては、回帰分析手法であれば、特に限定されるものではなく、例えば、部分的最小二乗回帰(PLS回帰)、勾配ブースティング回帰(GB回帰)、サポートベクター回帰(SVR)、Lasso回帰、ElasticNet回帰、RandomForest回帰などが使用できる。
本実施形態の学習モデルでは、Lasso回帰を使用している。
【0050】
続いて、製造過程パラメータが設定されてから調整部15によって製造過程パラメータが調整された履歴があり、特性測定部30によって測定された前々回の品質パラメータが調整部15によって製造過程パラメータが調整された後の有機EL装置101の品質パラメータであるか判断する(ステップS1-2)。
すなわち、図1(b)に示される前々回に品質パラメータが測定された有機EL装置101eが調整部15で調整された製造過程パラメータで形成されたものであるか判断する。
【0051】
ステップS1-2において、前々回の品質パラメータが調整部15による調整後の有機EL装置101の品質パラメータである場合には(ステップS1-2でYes)、既に再学習に必要な説明データと目的データがあると判断し、学習モデルを再構築する(ステップS1-3)。
【0052】
具体的には、前回の製造過程パラメータと、前々回の製造過程パラメータと、前々回の品質パラメータを説明データに追加し、前回の品質パラメータを目的データに追加して学習モデルを再構築する。
【0053】
続いて、再構築した学習モデルによって、推定部13が目標の品質パラメータから製造過程パラメータを推定し、推定した製造過程パラメータから調整部15が製造部3に入力する製造過程パラメータを調整し(ステップS1-4)、調整した製造過程パラメータを製造部3に入力して仕掛有機EL装置100を製造する(ステップS1-5)。
【0054】
具体的には、まずCVD装置等を用いてCVD法によって基材102上に陽極層103を製膜する。
【0055】
続いて、一又は複数の真空蒸着装置を用いて真空蒸着法によって陽極層103上に発光機能層105を製膜する。
【0056】
このとき、発光機能層105の各層の製膜は、制御部2の調整部15で設定された製造過程パラメータで制御され、少なくともツーリング係数(TF)と、蒸着源の温度(バルブドセルの温度)を変数とし、残りの製造過程パラメータは固定として制御される。
【0057】
発光機能層105が製膜されると、真空蒸着装置を用いて真空蒸着法によって発光機能層105上に陰極層106を製膜して、仕掛有機EL装置100を形成する。
【0058】
ステップS1-5にて、製造部3によって仕掛有機EL装置100が製造されると、分割部21で仕掛有機EL装置100を複数の有機EL装置101に分割するとともに仕掛有機EL装置100における各有機EL装置101の位置情報をデータ蓄積部11で記憶する(ステップS1-6)。
【0059】
このとき、各有機EL装置101の切断前の仕掛有機EL装置100における位置を各有機EL装置101に対応付けられる。
具体的には、各有機EL装置101にIDが割り当てられ、IDによって切断前の仕掛有機EL装置100における位置が紐づけられる。
【0060】
続いて、特性測定部30で各有機EL装置101の各種品質パラメータを測定し(ステップS1-7)、品質パラメータが所定の範囲に収まらないものを除去し、製造終了要求がある場合にはエンドに移行する(ステップS1-8)。
【0061】
このとき、ステップS1-7では、各有機EL装置101の陽極層103と陰極層106に電源を電気的に接続し、駆動電圧、輝度、色度座標(CIE-x、CIE-y)、特殊演色評価数R9を測定する。
【0062】
ステップS1-2において、製造過程パラメータが設定されてから調整部15によって製造過程パラメータが調整された履歴がないか、測定部5によって測定された前々回の品質パラメータが調整部15によって製造過程パラメータが調整された後の有機EL装置101の品質パラメータでない場合には(ステップS1-2でNo)、学習モデルの再構築をせず、製造過程パラメータをそのまま維持して、ステップS1-5に移行する。
【0063】
ステップS1-8において、製造終了要求がない場合には(ステップS1-8でNo)、ステップS1-2に移行する。
【0064】
第1実施形態の製造システム1によれば、説明変数として入力する説明データとして過去の有機EL装置101aの製造過程パラメータA1の設定の際の直前に特性測定部30で測定された有機EL装置101dの品質パラメータB2を含むので、従来に比べて高精度の学習モデルを作成できる。
第1実施形態の製造システム1によれば、説明データに発光機能層105の各層の材料及び組成に関するパラメータを含まないので、学習モデルを生成する際の計算量を大きく削減でき、従来に比べて学習モデルの生成時間を短縮できる。
第1実施形態の製造システム1によれば、品質パラメータとして電圧、輝度、色空間、及び演色評価数に関するパラメータを含んでいるので、高精度の学習モデルを作成できる。また、当該学習モデルに基づいて、推定部13が有機EL装置101の品質パラメータが所定の範囲に収まる製造過程パラメータを推定し、製造部3における製造過程パラメータに反映することで、一定の水準の品質を有する有機EL装置101をコンスタントに製造できる。
【0065】
第1実施形態の製造システム1によれば、調整部15は、推定部13が推定した製造過程パラメータを製造部3における製造過程パラメータに反映した場合に、反映した製造過程パラメータによって製造された有機EL装置101が特性測定部30によって品質パラメータを測定されるまでの間において、製造部3は、反映した製造過程パラメータをそのまま使用する。そのため、品質パラメータが所定の範囲から大きく外れることを防止できる。
【0066】
第1実施形態の製造システム1によれば、機械学習部10は、調整部15が推定した製造過程パラメータを製造部3における製造過程パラメータに反映した場合に、反映した製造過程パラメータによって製造された有機EL装置101の直前の有機EL装置101の品質パラメータで学習モデルを再構築しない。そのため、教師データとして使用する製造過程パラメータと品質パラメータの対応関係を概ね一致させることができ、より良好な精度の学習モデルを作成できる。
【0067】
第1実施形態の製造システム1によれば、有機EL装置101の品質パラメータを仕掛有機EL装置100における分割位置に応じて設定された補正係数で補正して算出されるので、製膜部20による製膜時の厚み分布に基づく品質のばらつきを吸収でき、より高精度な学習モデルを作成できる。
【0068】
続いて、本発明の第2実施形態の製造システムについて説明する。なお、第1実施形態の製造システム1と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。以下、同様にする。
【0069】
本発明の第2実施形態の製造システムは、第1実施形態の製造システム1と機械学習部10によって生成される学習モデルの生成方法が異なる。
第2実施形態の製造システムの機械学習部210は、図5のように、製造過程パラメータA1及び品質パラメータB2(第1データ)を含む説明データと、品質パラメータB1を含む目的データ(第2データ)とのデータセットを教師データとして、機械学習して学習モデルを作成する。
【0070】
第2実施形態の製造システムによれば、説明データとして過去の有機EL装置101aの一つ前の有機EL装置101bの製造過程パラメータA2を使用しないので、計算量を削減でき、学習モデルの生成時間を短縮できる。
【0071】
続いて、本発明の第3実施形態の製造システムについて説明する。
【0072】
本発明の第3実施形態の製造システムは、第1実施形態の製造システム1と機械学習部10によって生成される学習モデルの生成方法が異なる。
第3実施形態の製造システムの機械学習部310は、図6のように、過去の有機EL装置101aの製造過程パラメータA3及び品質パラメータB2を含む説明データ(第1データ)と、品質パラメータB1を含む目的データ(第2データ)とのデータセットを教師データとして、機械学習して学習モデルを作成する。
【0073】
有機EL装置101aの製造過程パラメータA3は、発光機能層105の各層を製膜する際の真空蒸着装置のツーリング係数(TF)や蒸着源の温度(バルブドセルの温度)のみであり、発光機能層105の各層の材料及び組成に関するパラメータを含まない。
【0074】
第3実施形態の製造システムによれば、過去の有機EL装置101aの製造過程パラメータA3としてツーリング係数(TF)や蒸着源の温度(バルブドセルの温度)のみを使用するので、計算量を削減でき、学習モデルの生成時間を短縮できる。
【0075】
続いて、本発明の第4実施形態の製造システムについて説明する。
【0076】
本発明の第4実施形態の製造システムは、設定動作が第1実施形態の製造システム1と設定動作と異なる。
第4実施形態の製造システムの設定動作は、図7のように、ステップS1-2において、前々回の品質パラメータが調整部15による調整後の有機EL装置101の品質パラメータである場合において(ステップS1-2でYes)、前回の品質パラメータが第1範囲外であるかどうかを判断する(ステップS2-1)。
【0077】
このとき、第1範囲外でどうかは、品質パラメータごとに基準範囲が設定されており、半分以上の品質パラメータが基準範囲外である場合に第1範囲外であるとする。
本実施形態の品質パラメータは、少なくとも駆動電圧(V)、輝度、CIE1931色空間における色度座標(CIE-x、CIE-y)、特殊演色評価数(R9)があり、各品質パラメータが基準範囲内であるかどうかで判断する。
駆動電圧(V)の基準範囲は、6.2V以上7.2V以下であることが好ましい。
色度座標の基準範囲は、CIE-xが0.3772以上0.3933以下であって、CIE-yが0.3749以上0.3939以下であることが好ましい。
特殊演色評価数(R9)の基準範囲は、80以上100以下であることが好ましい。
【0078】
全体の90%以上の品質パラメータが基準範囲外である場合に第1範囲外であるとすることが好ましく、100%品質パラメータが基準範囲外である場合に第1範囲外であるとすることがより好ましい。
また、特定の品質パラメータにおいて基準範囲外である場合に他の品質パラメータが基準範囲外であるかにかかわらず、第1範囲外としてもよい。
例えば、特殊演色評価数(R9)が50以下の場合には、他の品質パラメータが基準範囲を満たすかにかかわらず第1範囲外としてもよい。
【0079】
ステップS2-1において、前回の品質パラメータが第1範囲外である場合には(ステップS2-1でYes)、ステップS1-3に移行して学習モデルを再構築する。
一方、ステップS2-1において、前回の品質パラメータが第1範囲内である場合には(ステップS2-1でNo)、学習モデルの再構築をせず、製造過程パラメータを変更せずにそのまま維持して、ステップS1-5に移行する。
【0080】
第4実施形態の製造システムによれば、前回の品質パラメータが第1範囲内である場合に、学習モデルの再構築をせず、製造過程パラメータを変更せずにそのまま維持するので、計算量を削減できる。
【0081】
上記した実施形態では、分割部21によって仕掛有機EL装置100を分割して有機EL装置101を作成したが、本発明はこれに限定されるものではない。分割部21によって仕掛有機EL装置100を分割せずに仕掛有機EL装置100を有機EL装置101としてもよい。
【0082】
上記した実施形態では、分割部21によって仕掛有機EL装置100を25個の有機EL装置101に分割したが、本発明はこれに限定されるものではない。分割部21によって分割する個数は特に限定されない。2個以上24個以下であってもよいし、26個以上であってもよい。
【0083】
上記した実施形態では、製膜部20は、基材102に対して製膜したが、本発明はこれに限定されるものではない。製膜部20は、基材102上に陽極層103が製膜された陽極層付き基材に対して製膜してもよい。この場合、陽極層103を製膜する工程が省略される。
【0084】
上記した実施形態では、品質パラメータとして特殊演色評価数(R9)を用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。品質パラメータとして特殊演色評価数(R9)の代わりに又は特殊演色評価数(R9)に加えて、平均演色評価数(Ra)等の他の演色評価数を用いてもよい。
【0085】
上記した実施形態は、本発明の技術的範囲に含まれる限り、各実施形態間で各構成部材を自由に置換や付加できる。
【実施例0086】
以下、本発明の実施例を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0087】
(実施例1)
まず、一枚ずつ製造部で製造し、品質パラメータを測定する系において、連続して設定された製造過程パラメータA1,A2と、その製造過程パラメータA1,A2で製造された有機EL装置の品質パラメータB1,B2からなるデータグループを複数用意し、これらのデータグループをランダムに学習グループと、検証グループに分割した。
すなわち、品質パラメータB1,B2は、製造過程パラメータA1,A2で製造された有機EL装置の品質パラメータと一致する。
そして、学習グループにおいて、Pythonの機械学習ライブラリscikit-learn(https://scikit-learn.org/stable/)を用い、図2のように、製造過程パラメータA1と、製造過程パラメータA1の一つ前に製造に使用された製造過程パラメータA2と、前記製造過程パラメータA1の設定の際の直前に測定された品質パラメータB2と、を説明変数とし、製造過程パラメータA1の設定の直後に測定された品質パラメータB1を目的変数として、Linear_model.LASSOパッケージを用いてLasso回帰解析を行って機械学習し、学習モデルを作成し、これを実施例1とした。
なお、実施例1では、製造過程パラメータA1,A2として、発光機能層の各層の材料及び組成に関するパラメータを含まず、発光機能層の各層を製膜する際の真空蒸着装置のツーリング係数(TF)や蒸着源の温度(バルブドセルの温度)、真空度、製膜レート、るつぼバルブ開度、加熱器電流、製膜時間、膜厚、製膜時間を用いた。
また実施例1で機械学習に使用した品質パラメータB1,B2は、仕掛有機EL装置における対応する有機EL装置の位置情報に基づき、品質パラメータの生データを各位置に割り当てられた補正係数で補正した。
【0088】
(実施例2)
学習グループにおいて、図5のように、製造過程パラメータA1と品質パラメータB2を説明変数とし、品質パラメータB1を目的変数として学習モデルを作成したこと以外は実施例1と同様にして、これを実施例2とした。
すなわち、実施例2では、一つ前の製造過程パラメータA2を説明変数として用いなかったこと以外は同様とした。
【0089】
(実施例3)
学習グループにおいて、製造過程パラメータA1から発光機能層の各層を製膜する際の真空蒸着装置のツーリング係数(TF)や蒸着源の温度(バルブドセルの温度)のみを抽出して製造過程パラメータA3とし、図6のように製造過程パラメータA3と、品質パラメータB2を説明変数としたこと以外は実施例1と同様にして、これを実施例3とした。
【0090】
(比較例1)
学習グループにおいて、製造過程パラメータA1を説明変数とし、品質パラメータB1を目的変数として学習モデルを作成したこと以外は実施例1と同様にして、これを比較例1とした。
【0091】
(評価方法)
各実施例1~3及び比較例1の学習モデルに対して、検証グループの対応する各種パラメータを用いて、以下の数式(1)で示される決定係数(R2)と、以下の数式(2)で示される二乗平均平方根誤差(RMSE)を評価した。また、これらの評価結果を表1に示す。
【0092】
【数1】
【0093】
【数2】
【0094】
【表1】
【0095】
実施例1~3は、いずれも比較例1に比べてほとんどの品質パラメータで決定係数(R2)が大きく、RMSEが小さい値をとった。
このことから、前回の品質パラメータを説明変数として使用することで機械学習の精度が大幅に向上することが示唆された。
直前の製造過程パラメータを説明変数として使用しない実施例2では、表1のように、直前の製造過程パラメータを説明変数として使用する実施例1に比べて、駆動電圧及び輝度のRMSEがわずかに小さくなり、CIE-x、CIE-yのRMSEがわずかに大きくなった。
製造過程パラメータとして真空蒸着装置のツーリング係数(TF)と蒸着源の温度のみに絞った実施例3では、実施例2に比べて、駆動電圧のRMSEが小さくなり、輝度、CIE-x、CIE-yのRMSEが大きくなったが、輝度のRMSEは12以下に収まり、CIE-x、CIE-yのRMSEはいずれも0.0006以下に収まった。このことから製造過程パラメータを真空蒸着装置のツーリング係数(TF)と蒸着源の温度に絞ると、輝度、CIE-x、CIE-yの予測精度が低下するものの、十分な予測精度を維持できた。
【0096】
以上のことから、発光機能層の各層の材料及び組成に関する直接的なパラメータを説明変数として使用しなくても、前回の品質パラメータを説明変数に使用することで、高精度の学習モデルを生成できることがわかった。
製造過程パラメータとして、発光機能層の各層を製膜する際の真空蒸着装置のツーリング係数(TF)や蒸着源の温度(バルブドセルの温度)を用いることが学習モデルの精度に大きく影響を与えることが示唆された。
【符号の説明】
【0097】
1 製造システム
3 製造部
5 測定部
10,210,310 機械学習部
13 推定部
15 調整部
20 製膜部
21 分割部
101,101a~101e 有機EL装置
102 基材
103 陽極層(第1電極層)
105 発光機能層
106 陰極層(第2電極層)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7