(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056384
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】炎症性因子産生抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7034 20060101AFI20240416BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240416BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
A61K31/7034
A61P43/00 111
A61P29/00
A61P43/00 107
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163212
(22)【出願日】2022-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】390029458
【氏名又は名称】ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】増田 有紗
(72)【発明者】
【氏名】戸塚 美希
(72)【発明者】
【氏名】大坪 さやか
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA08
4C086MA01
4C086NA14
4C086ZB11
4C086ZC41
(57)【要約】
【課題】少ない添加量で抗炎症効果を奏する炎症性因子産生抑制を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される没食子酸誘導体の少なくとも1種を含有することを特徴とする炎症性因子産生抑制剤。
[化1]
[式(1)中のR
1は水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、およびアンモニウム塩から選択される何れか1つであり、R
2、R
3、R
4のうち2つは、式(2)で表されるグリコシル基であり、他の1つは水酸基である。式(2)中のnは1~4の整数である。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される没食子酸誘導体の少なくとも1種を含有することを特徴とする炎症性因子産生抑制剤。
【化1】
[式(1)中のR
1は水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、およびアンモニウム塩から選択される何れか1つであり、R
2、R
3、R
4のうち2つは、下記式(2)で表されるグリコシル基であり、他の1つは水酸基である。]
【化2】
[式(2)中のnは1~4の整数である。]
【請求項2】
前記式(2)におけるnが1である、請求項1に記載の炎症性因子産生抑制剤。
【請求項3】
前記式(1)で表される没食子酸誘導体を、0.001~5質量%含有する請求項1又は2に記載の炎症性因子産生抑制剤。
【請求項4】
前記式(1)で表される没食子酸誘導体を、0.1~1.0質量%含有する請求項1又は2に記載の炎症性因子産生抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炎症性因子産生抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アスコルビン酸又はその誘導体は高い抗酸化能を有することから美白剤や抗炎症剤として広く使用されている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-23952号公報
【特許文献2】特開2014-144989号公報
【特許文献3】特開2017-88526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、アスコルビン酸又はその誘導体は、抗炎症剤として使用する場合、数%オーダーの添加量が必要である。そのため、これを使用する化粧品等では、充分な処方の自由度が得にくかった。
本発明は上記事情に鑑みて、少ない添加量で抗炎症効果を奏する炎症性因子産生抑制剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
[1]下記式(1)で表される没食子酸誘導体の少なくとも1種を含有することを特徴とする炎症性因子産生抑制剤。
【化1】
[式(1)中のR
1は水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、およびアンモニウム塩から選択される何れか1つであり、R
2、R
3、R
4のうち2つは、下記式(2)で表されるグリコシル基であり、他の1つは水酸基である。]
【化2】
[式(2)中のnは1~4の整数である。]
[2]前記式(2)におけるnが1である、[1]に記載の炎症性因子産生抑制剤。
[3]前記式(1)で表される没食子酸誘導体を、0.001~5質量%含有する[1]又は[2]に記載の炎症性因子産生抑制剤。
[4]前記式(1)で表される没食子酸誘導体を、0.1~1.0質量%含有する[1]又は[2]に記載の炎症性因子産生抑制剤。
【発明の効果】
【0006】
本発明の炎症性因子産生抑制剤は、少ない添加量で抗炎症効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の炎症性因子産生抑制剤は、下記式(1)で表される没食子酸誘導体の少なくとも1種を含有する。本発明の炎症性因子産生抑制剤は、式(I)で表わされる没食子酸誘導体の2種以上を、適宜組み合わせて使用してもよい。
【0008】
【0009】
[式(1)中のR1は水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、およびアンモニウム塩から選択される何れか1つであり、R2、R3、R4のうち2つは、下記式(2)で表されるグリコシル基であり、他の1つは水酸基である。]
【0010】
【0011】
[式(2)中のnは1~4の整数である。]
【0012】
R1としては、水素原子又はアルカリ金属が好ましく、水素原子、ナトリウム原子又はカリウム原子であることがより好ましい。水素原子であることが特に好ましい。
R2、R3、R4のうち式(2)のグリコシル基である2つは、前記式(2)におけるnが同じであっても異なっていてもよいが、べたつきにくくなることから、同じであることが好ましい。
前記式(2)におけるnは1~2であることが好ましく、1であることが特に好ましい。
【0013】
また、R2、R3、R4のうち2つは、共に前記式(2)におけるnが1~2であるグリコシル基であることが好ましく、nが1であるグリコシル基であることが特に好ましい。
R2、R3、R4のうち前記式(2)のグリコシル基である2つは、製造容易性の面から、R2とR4であることが好ましい。
【0014】
式(1)で表される没食子酸誘導体の具体例としては、例えば、没食子酸-3,5-ジグルコシド、没食子酸3,4-ジグルコシド、没食子酸―3,5-ジグルコシド・ナトリウム、没食子酸―3,5-ジマルトシドなどが挙げられる。中でも製造が容易で、安定性が良好であることから、下記式(3)で表される没食子酸-3,5-ジグルコシドであることが好ましい。
【0015】
【0016】
式(1)で表わされる没食子酸誘導体は、例えば、没食子酸又はそのエステル体などに、水酸基が一部または完全にアセチル化された糖類若しくはアノマー位がハロゲン化された糖類を大過剰量で反応させてグルコシル化物を得、この中から、式(I)で表わされる没食子酸誘導体を分離精製することにより得られる。
没食子酸又はそのエステル体などと糖類との反応は、例えば、BF3・Et2O、SnCl4、ZnCl2などのルイス酸触媒存在下、ジクロロメタン等の溶媒中で行うことができる。
【0017】
得られたグルコシル化物は、必要であれば酸若しくはアルカリ触媒存在下、脱保護反応を行なう。例えば、アセチル化された糖類を反応させた場合は、メタノール中でナトリウムメチラート存在下、脱アセチル反応させることができる。
その後、抽出、カラムクロマトグラフィーなどの手法を用いて精製することにより、容易に、かつ、効率よく式(1)で表わされる没食子酸誘導体を製造することができる。
【0018】
本発明の炎症性因子産生抑制剤は、適用対象部位、適用時間、適用頻度等にもよるが、式(1)で表される没食子酸誘導体を、0.001~5質量%含有することが好ましく、0.01~2.5質量%含有することがより好ましく、0.1~1.0質量%含有することがさらに好ましい。
式(1)で表される没食子酸誘導体の含有量が好ましい下限値以上であることにより、抗炎症効果を得やすい。好ましい上限値以下であることにより、溶解性に優れ、着色を抑制できる。
【0019】
本発明の炎症性因子産生抑制剤は、式(1)で表される没食子酸誘導体以外に、本発明の目的を損なわない範囲で、慣用されている各種添加成分を、必要に応じて、適宜量配合してもよい。また、添加成分を配合するタイミングに特に限定はなく、例えば、処方時に配合してもよい。
【0020】
添加成分としては、例えば、陽イオン性高分子樹脂、陰イオン性高分子樹脂、非イオン性高分子樹脂、両性高分子樹脂等のポリマー、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、高重合シリコーン樹脂、クエン酸やコハク酸等の有機酸及びその塩、グリシンやアラニン等のアミノ酸、殺菌剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、高級アルコール、炭化水素、動植物油、エステル油、着色剤、香料、溶剤(エタノール、水等)、脂肪酸等が使用できる。これらの添加成分は、単独(1種)で又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0021】
本発明の炎症性因子産生抑制剤の剤型にも特に限定はなく、例えば、液状、泡状、ジェル状、クリーム状、粉末状等とすることができる。
本発明の炎症性因子産生抑制剤は、生体組織の炎症を予防したい、若しくは、起きた炎症を抑制したい部位(適用箇所)に適用する。適用後、洗い流さなくてもよいし、洗い流してもよい。
【0022】
適用の方法は、手やスプレー等を用いた適用箇所への塗布や、本発明の炎症性因子産生抑制剤を含浸させた不織布等を、適用箇所に密着させることなど、適宜の方法を採用できる。
適用の頻度にも特に限定はなく、例えは、1日1回(朝のみ、夜のみ等)としてもよく、1日2回(朝および夜等)としてもよく、紫外線の強い屋外で過ごす前後の少なくとも一方としても良く、朝および夜の少なくとも一方と、紫外線の強い屋外で過ごす前後の少なくとも一方を組み合わせてもよい。
【実施例0023】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。
本実施例において使用した材料は、下記の<使用材料>に示す通りである。
【0024】
<使用材料>
・ジグルコシル没食子酸(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社)、式(3)の化合物、Cas.474111-84-7。
・L-アスコルビン酸りん酸エステルマグネシウム塩・n水和物(富士フィルム和光純薬株式会社)、Cas.1713265-25-8。
【0025】
<評価方法>
各例で得た測定対象液について、ELISAキット(R&Dsystem社、Cayman Chemical Copmany社)を用いて、炎症性因子であるインターロイキン-1α(IL-1α)及びプロスタグラジン-E2(PGE2)の分泌量を測定した。
なお、IL-1α及びPGE2の分泌量の測定に先立ち、測定対象液を採取した後の3次元皮膚モデルの細胞生存率を、MTT試薬(富士フィルム和光純薬社製、3-[4,5-dimethylthiazol-2-yl]-2,5-diphenyltetrazolium bromide)を用いてMTT法により測定し、試験品に細胞毒性がなく、細胞が問題なく生存していることを確認した。
【0026】
有効成分(ジグルコシル没食子酸又はL-アスコルビン酸りん酸エステルマグネシウム塩・n水和物)を全く含まない試験品を用いた例の炎症性因子分泌量(X1)と各例の炎症性因子分泌量(X2)の測定結果から、以下の式により炎症因子抑制率を求め、下記の評価基準により評価した。
炎症因子抑制率(%)=(X1-X2)/X1×100
【0027】
(評価基準)
×:炎症因子抑制率が20%以下。
△:炎症因子抑制率が20%超40%以下。
○:炎症因子抑制率が40%超60%以下。
◎:炎症因子抑制率が60%超80%以下。
◎◎:炎症因子抑制率が80%超。
【0028】
<比較例1~2,実施例1~5>
3次元皮膚モデル(ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング社、Lab Cyte EPI-MODEL24)を入れた培養カップに、表1に示す濃度で有効成分を含む試験品を50μL注入し、6時間温度37℃で静置した。なお、表1における試験品の欄の「%」は「質量%」を意味する。他の表も同様である。
6時間静置後に試験品を取り除き、アッセイ培地(ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング社)を加え、18時間、37℃にて培養した。その後UBVを600mJ/cm2照射し、照射後2日間、アッセイ培地(ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング社)での培養を、37℃にて継続した。2日間の培養後に培養上清を回収し、その一部を測定対象液としてIL-1αの分泌量を測定した。比較例1のIL-1αの分泌量をX1とした評価結果を表1に示す。
【0029】
【0030】
<比較例3~4,実施例6~10>
前記比較例1~2,実施例1~5で得た培養上清の一部を測定対象液としてPGE2の分泌量を測定した。比較例3のPGE2の分泌量をX1とした評価結果を表2に示す。
なお、各例の試験品に含まれる有効成分は表2に示すとおりである。
【0031】
【0032】
<比較例5~6,実施例11~15>
3次元皮膚モデル(ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング社、Lab Cyte EPI-MODEL24)を入れた培養カップに、表3に示す濃度で有効成分を含む試験品を50μL注入し、6時間温度37℃で静置した。
6時間静置後に試験品を取り除き、アッセイ培地(ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング社)を加え、18時間、37℃にて培養した。その後UBVを600mJ/cm2照射した。
UBVの照射終了後、表3に示す濃度で有効成分を含む試験品を再度50μL注入し、6時間温度37℃で静置した。
その後、試験品を取り除き、2日間、アッセイ培地(ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング社)での培養を、37℃にて継続した。2日間の培養後に培養上清を回収し、その一部を測定対象液としてIL-1αの分泌量を測定した。比較例5のIL-1αの分泌量をX1とした評価結果を表3に示す。
【0033】
【0034】
<比較例6~7,実施例16~20>
前記比較例5~6,実施例11~15で得た培養上清の一部を測定対象液としてPGE2の分泌量を測定した。比較例7のPGE2の分泌量をX1とした評価結果を表4に示す。
なお、各例の試験品に含まれる有効成分は表4に示すとおりである。
【0035】
【0036】
表1~4に示すように、実施例の試験品に含まれる有効成分は、炎症性因子の産生を抑制する効果があることが確認された。特に表3、4に示すように、適用の頻度を上げると、0.1質量%という低い濃度でも充分な効果を発揮することが確認できた。
また、比較例2と実施例5、比較例4と実施例10、比較例6と実施例15、比較例8と実施例15は、各々炎症因子抑制率が同等であった。このことから、実施例の試験品に含まれる有効成分は、比較例2等に含まれるアスコルビン酸誘導体の半分の量で同等の効果を奏することがわかった。