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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056389
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】光センサ
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/17 20230101AFI20240416BHJP
   H10N 10/13 20230101ALI20240416BHJP
   H10N 10/851 20230101ALI20240416BHJP
   H10N 10/857 20230101ALI20240416BHJP
   G01J 1/02 20060101ALI20240416BHJP
   H10N 10/01 20230101ALN20240416BHJP
【FI】
H01L35/32 A
H01L35/30
H01L35/14
H01L35/26
G01J1/02 C
G01J1/02 R
H01L35/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163220
(22)【出願日】2022-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(74)【代理人】
【識別番号】100158861
【弁理士】
【氏名又は名称】南部 史
(74)【代理人】
【識別番号】100194674
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 覚史
(72)【発明者】
【氏名】岳山 恭平
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】足立 真寛
【テーマコード(参考)】
2G065
【Fターム(参考)】
2G065AB02
2G065BA02
2G065BA11
2G065CA13
(57)【要約】
【課題】雑音等価電力の低減を図ることができる光センサを提供する。
【解決手段】光センサは、第1主面および第1主面と厚さ方向の反対に位置する第2主面を有する支持膜と、p型導電型を有するSiGeから構成され、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する帯状の複数の第1材料層と、n型導電型を有するSiGeから構成され、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する帯状の複数の第2材料層と、を含み、第1主面上に配置される熱電変換材料部と、第2主面上に配置されるヒートシンクと、第1主面と垂直な方向に見て、第1材料層の長手方向および第2材料層の長手方向にそれぞれ温度差を形成するよう配置され、受けた光を熱エネルギーに変換する光吸収膜と、を備える。複数の第1材料層および複数の第2材料層は、多数の空孔を有する第1フォノニック構造から構成される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主面および前記第1主面と厚さ方向の反対に位置する第2主面を有する支持膜と、
p型導電型を有するSiGeから構成され、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する帯状の複数の第1材料層と、n型導電型を有するSiGeから構成され、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する帯状の複数の第2材料層と、を含み、前記第1主面上に配置される熱電変換材料部と、
前記第2主面上に配置されるヒートシンクと、
前記第1主面と垂直な方向に見て、前記第1材料層の長手方向および前記第2材料層の長手方向にそれぞれ温度差を形成するよう配置され、受けた光を熱エネルギーに変換する光吸収膜と、を備え、
前記複数の第1材料層および前記複数の第2材料層は、多数の空孔を有する第1フォノニック構造から構成される、光センサ。
【請求項2】
前記支持膜は、多数の空孔を有する第2フォノニック構造から構成される、請求項1に記載の光センサ。
【請求項3】
前記第1フォノニック構造を構成する前記空孔のピッチ間隔を長さD1とし、前記第1フォノニック構造を構成する前記空孔の直径を長さD2とすると、
長さD1と長さD2との差は、5nm以上500nm以下である、請求項1または請求項2に記載の光センサ。
【請求項4】
前記長さD1と前記長さD2との差は、10nm以上200nm以下である、請求項3に記載の光センサ。
【請求項5】
前記第1フォノニック構造を構成する前記空孔のピッチ間隔は、20nm以上1200nm以下である、請求項1または請求項2に記載の光センサ。
【請求項6】
前記第1フォノニック構造を構成する前記空孔の直径は、15nm以上200nm以下である、請求項1または請求項2に記載の光センサ。
【請求項7】
前記熱電変換材料部と前記光吸収膜との間に配置される下地膜をさらに備える、請求項1または請求項2に記載の光センサ。
【請求項8】
前記下地膜の厚さは、10nm以上50nm以下である、請求項6に記載の光センサ。
【請求項9】
前記第1フォノニック構造を構成する前記空孔のピッチ間隔および前記空孔の直径は、前記第2フォノニック構造を構成する前記空孔のピッチ間隔および前記空孔の直径と、それぞれ同じである、請求項2に記載の光センサ。
【請求項10】
前記SiGeは、粒径が3nm以上200nm以下であるナノ結晶構造およびアモルファス構造のうちの少なくともいずれかを有する、請求項1または請求項2に記載の光センサ。
【請求項11】
前記SiGeは、多結晶体である、請求項1または請求項2に記載の光センサ。
【請求項12】
前記光吸収膜と重なる前記複数の第1材料層の第1重畳部および前記光吸収膜と重なる前記複数の第2材料層の第2重畳部のうちの少なくともいずれか一方は、前記第1フォノニック構造から構成される、請求項1または請求項2に記載の光センサ。
【請求項13】
前記光吸収膜と重なる前記複数の第1材料層の第1重畳部および前記光吸収膜と重なる前記複数の第2材料層の第2重畳部は、前記第1フォノニック構造を有さない、請求項1または請求項2に記載の光センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
化合物半導体から構成される熱電変換材料を有する熱電変換素子が知られている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。また、フォノニック構造を用いた赤外線センサが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2021/039074号
【特許文献2】特開2017-223644号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Tambo,Naoki,et al. “Sensitivity improved thermal infrared sensor cell applying the heat insulating phononic crystals.” Image Sensing Technologies: Materials, Devices, Systems, and Applications VIII. Vol. 11723. International Society for Optics and Photonics, 2021.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光センサを例えば赤外線センサとして用いる場合、雑音等価電力(NEP(Noise Equivalent Power))が良好であること、すなわち、その値が低いことが求められる。そこで、雑音等価電力の低減を図ることができる光センサを提供することを本開示の目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に従った光センサは、第1主面および第1主面と厚さ方向の反対に位置する第2主面を有する支持膜と、p型導電型を有するSiGeから構成され、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する帯状の複数の第1材料層と、n型導電型を有するSiGeから構成され、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する帯状の複数の第2材料層と、を含み、第1主面上に配置される熱電変換材料部と、第2主面上に配置されるヒートシンクと、第1主面と垂直な方向に見て、第1材料層の長手方向および第2材料層の長手方向にそれぞれ温度差を形成するよう配置され、受けた光を熱エネルギーに変換する光吸収膜と、を備える。複数の第1材料層および複数の第2材料層は、多数の空孔を有する第1フォノニック構造から構成される。
【発明の効果】
【0007】
上記光センサによれば、雑音等価電力の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施の形態1における光センサの外観の概略平面図である。
図2図2は、実施の形態1における光センサの外観の概略平面図である。
図3図3は、図1および図2の線分III-IIIに沿う断面を示す概略断面図である。
図4図4は、実施の形態1における光センサの一部を示す概略断面図である。
図5図5は、第1フォノニック構造から構成される第1材料層の一部を拡大して示す模式図である。
図6図6は、実施の形態1における光センサの製造方法の代表的な工程を示すフローチャートである。
図7図7は、実施の形態2における光センサの外観の概略平面図である。
図8図8は、図7に示す光センサの一部の領域VIIIを拡大して示す概略平面図である。
図9図9は、実施の形態3に示す光センサの概略断面図である。
図10図10は、実施の形態3における光センサの製造方法の代表的な工程を示すフローチャートである。
図11図11は、光センサの感度と、長さD1と長さD2との差との関係を示すグラフである。
図12図12は、光センサのノイズと、長さD1と長さD2との差との関係を示すグラフである。
図13図13は、光センサの雑音等価電力(NEP)と、長さD1と長さD2との差との関係を示すグラフである。
図14図14は、空隙率とNEPとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。本開示に係る光センサは、
(1)第1主面および第1主面と厚さ方向の反対に位置する第2主面を有する支持膜と、p型導電型を有するSiGeから構成され、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する帯状の複数の第1材料層と、n型導電型を有するSiGeから構成され、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する帯状の複数の第2材料層と、を含み、第1主面上に配置される熱電変換材料部と、第2主面上に配置されるヒートシンクと、第1主面と垂直な方向に見て、第1材料層の長手方向および第2材料層の長手方向にそれぞれ温度差を形成するよう配置され、受けた光を熱エネルギーに変換する光吸収膜と、を備える。複数の第1材料層および複数の第2材料層は、多数の空孔を有する第1フォノニック構造から構成される。
【0010】
赤外線センサのような、温度差(熱エネルギー)を電気エネルギーに変換する熱電変換材料を用いたサーモパイル型の光センサについては、光エネルギーを熱エネルギーに変換する光吸収膜と、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱電変換材料部(サーモパイル)と、を備える場合がある。熱電変換材料部においては、例えば、第1の導電型であるn型の熱電変換材料と第1の導電型とは異なる第2の導電型であるp型の熱電変換材料部とを接続して形成される熱電対が用いられる場合がある。複数の帯状のn型の熱電変換材料部と複数の帯状のp型の熱電変換材料部とを交互に直列で接続することにより、出力を増加させている。
【0011】
ここで、光センサを例えば赤外線センサとして用いる場合、重要な指標である雑音等価電力(NEP(Noise Equivalent Power))が良好であること、すなわち、その値が低いことが求められる。NEPは、ノイズを感度で除した値で表される(NEP=ノイズ/感度)。光センサにおける感度については、以下の数1に示す式(1)によって表される。
【0012】
【数1】
【0013】
D*は感度、ηは放射率、nは熱電対の対数、αはゼーベック係数、Gthは熱コンダクタンスを示す。この式(1)からも把握できるように、熱コンダクタンスを低減することができれば、光センサにおける感度の向上を図ることができる。
【0014】
また、光センサにおけるノイズについては、以下の数1に示す式(2)によって表される。
【0015】
【数2】
【0016】
Vnはノイズ(ジョンソンノイズ)(V)、kはボルツマン定数(J/K)、Tは温度(K)、Rは抵抗(Ω)、Δfは帯域幅(Hz=1/s)を示す。この式(2)からも把握できるように、ジョンソンノイズは抵抗に依存しており、抵抗を低減することができれば、光センサにおけるノイズの低減を図ることができる。
【0017】
ここで、本発明者らは、NEPの向上、すなわち、NEPの低減を図るべく、光センサのノイズの低減および感度の増大を図ろうと考えた。そして、光センサに含まれる構成のうち、熱電変換材料部に含まれ、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する材料層について、材料層の熱伝導率が大きいことに起因して、感度の増大を図りにくいことを見出した。そこで本発明者らは、材料層の熱伝導率を小さくすれば良い点に着目し、本開示の構成を想到するに至った。
【0018】
本開示に係る光センサにおいて、複数の第1材料層および複数の第2材料層は、多数の空孔を有する第1フォノニック構造から構成される。このような構成によると、複数の第1材料層および複数の第2材料層のそれぞれの熱伝導率の低減を図ることができる。そうすると、光センサとしての感度の増大を図ることができる。その結果、このような光センサによると、雑音等価電力の低減を図ることができる。ここで、第1フォノニック構造とは、ナノメートルオーダーから数ミクロンオーダーで周期構造を有し、フォノンの伝搬を人工的に阻害する構造をいう。本開示における第1フォノニック構造とは、規則的に配列された複数の貫通孔を有する構造である。但し、膜残りのある貫通孔を含むものである。
【0019】
(2)上記(1)において、支持膜は、多数の空孔を有する第2フォノニック構造から構成されてもよい。このようにすることにより、複数の第1材料層および複数の第2材料層に加え、支持膜の熱伝導率の低減を図ることができる。そうすると、感度の増大を図ることができる。その結果、このような光センサによると、雑音等価電力の低減を図ることができる。
【0020】
(3)上記(1)または(2)において、第1フォノニック構造を構成する空孔のピッチ間隔を長さD1とし、第1フォノニック構造を構成する空孔の直径を長さD2とすると、長さD1と長さD2との差は、5nm以上500nm以下であってもよい。このようにすることにより、熱コンダクタンスを低下させて感度の増大を図りながら、第1材料層および第2材料層自体の抵抗と接触抵抗とのバランスを適正にして、ノイズの低減を図ることができる。その結果、このような光センサによると、より雑音等価電力の低減を図ることができる。
【0021】
(4)上記(3)において、長さD1と長さD2との差は、10nm以上200nm以下であってもよい。このようにすることにより、さらに雑音等価電力の低減を図ることができる。
【0022】
(5)上記(1)から(4)のいずれかにおいて、第1フォノニック構造を構成する空孔のピッチ間隔は、20nm以上1200nm以下であってもよい。このようにすることにより、第1フォノニック構造における熱伝導率の低減をより確実にすることができる。したがって、光センサの感度を増大させて、より雑音等価電力の低減を図ることができる。
【0023】
(6)上記(1)から(5)のいずれかにおいて、第1フォノニック構造を構成する空孔の直径は、15nm以上200nm以下であってもよい。このようにすることにより、第1フォノニック構造における熱伝導率の低減をより確実にすることができる。したがって、光センサの感度を増大させて、より雑音等価電力の低減を図ることができる。
【0024】
(7)上記(1)から(6)のいずれかにおいて、熱電変換材料部と光吸収膜との間に配置される下地膜をさらに備えてもよい。このようにすることにより、複数の第1材料層および複数の第2材料層に容易に第1フォノニック構造を形成することができ、生産性の向上を図ることができる。
【0025】
(8)上記(1)から(7)のいずれかにおいて、下地膜の厚さは、10nm以上50nm以下であってもよい。このようにすることにより、より確実に光センサの雑音等価電力の低減および良好な生産性を両立させることができる。
【0026】
(9)上記(2)において、第1フォノニック構造を構成する空孔のピッチ間隔および空孔の直径は、第2フォノニック構造を構成する空孔のピッチ間隔および空孔の直径と、それぞれ同じであってもよい。このようにすることにより、支持膜、第1材料層および第2材料層を形成した後に、一度に第1フォノニック構造および第2フォノニック構造を形成することができる。したがって、生産性の向上を図ることができる。
【0027】
(10)上記(1)から(9)のいずれかにおいて、SiGeは、粒径が3nm以上200nm以下であるナノ結晶構造およびアモルファス構造のうちの少なくともいずれかを有してもよい。このようにすることにより、熱電変換効率の向上を図ることができる。したがって、感度の向上を図ることができ、雑音等価電力の低減を図ることができる。
【0028】
(11)上記(1)から(9)のいずれかにおいて、SiGeは、多結晶体であってもよい。このような多結晶体であるSiGeについても、本開示の光センサにおいて、好適に利用される。なお、本開示の光センサにおける多結晶体の結晶化率については、99%以上である。
【0029】
(12)上記(1)から(11)のいずれかにおいて、光吸収膜と重なる複数の第1材料層の第1重畳部および光吸収膜重なる複数の第2材料層の第2重畳部のうちの少なくともいずれか一方は、第1フォノニック構造から構成されてもよい。このようにすることにより、第1材料層および第2材料層と光吸収膜とが重なる部分において、熱伝導率の低減等を図ることができ、感度を増大させて、雑音等価電力の低減を図ることができる。
【0030】
(13)上記(1)から(11)のいずれかにおいて、光吸収膜と重なる複数の第1材料層の第1重畳部および光吸収膜と重なる複数の第2材料層の第2重畳部は、第1フォノニック構造を有しなくてもよい。このようにすることにより、光吸収膜を形成する際に、フォノニック構造の影響を受けることはないため、生産性の向上を図ることができる。
【0031】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、本開示の光センサの実施形態を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付しその説明は繰り返さない。
【0032】
(実施の形態1)
本開示の実施の形態1に係る光センサについて説明する。図1および図2は、実施の形態1における光センサの外観の概略平面図である。理解を容易にする観点から、図1では後述する赤外線吸収膜および絶縁膜の図示を省略している。図1において、赤外線吸収膜が配置される際の外縁23aを破線で示す。図3は、図1および図2の線分III-IIIに沿う断面を示す概略断面図である。図4は、実施の形態1における光センサの一部を示す概略断面図である。図4は、後述する第1領域、第2領域、第3領域および第4領域を含む部分を拡大して示す概略断面図である。
【0033】
図1図2図3および図4を参照して、光センサ11aは、例えば赤外線センサである。光センサ11aは、支持膜13と、熱電変換材料部12と、ヒートシンク14と、光吸収膜としての赤外線吸収膜23と、第1電極24と、第2電極25と、を備える。光センサ11aは、第1電極24と第2電極25との間に生ずる電位差を検出することにより、光センサ11aに照射される赤外線を検出する。光センサ11a全体を板状とすると、その厚さ方向は、Z方向で示される。図1図2の紙面垂直方向がZ方向である。
【0034】
本実施形態においては、支持膜13は、支持膜13の厚さ方向(Z方向)に見て長方形の形状を有する。支持膜13は、熱電変換材料部12と、赤外線吸収膜23と、第1電極24と、第2電極25と、を支持する。支持膜13は、厚さ方向の一方に位置する主面13bと、厚さ方向の他方に位置する主面13aと、を含む。支持膜13のその他の構成については、後に詳述する。
【0035】
ヒートシンク14は、光センサ11aの厚さ方向に離れて配置される面14aと、面14bと、を含む。ヒートシンク14は、支持膜13の主面13a上に配置される。具体的には、ヒートシンク14は、ヒートシンク14の面14aと支持膜13の主面13aとが接触するように配置される。ヒートシンク14の面14bは、露出している。本実施形態においては、ヒートシンク14の形状は、環状である。ヒートシンク14全体の外縁14cと支持膜13の外縁13cとは、Z方向に連なって延びている。ヒートシンク14は、図3に示す断面において、X方向に間隔をあけて配置される2つの台形の形状に表れる。ヒートシンク14は、支持膜13と比較して十分に厚い。例えば、ヒートシンク14の厚さは、支持膜13の厚さの10倍以上である。本実施形態においては、ヒートシンク14は、いわゆる基板である。ヒートシンク14は、例えばシリコン(Si)から構成されている。
【0036】
光センサ11aには、厚さ方向に凹む凹部16が形成されている。面14b側から見て凹部16に対応する領域において、支持膜13、具体的には、支持膜13の主面13aが露出する。図1において、Z方向に見て、ヒートシンク14と支持膜13との境界であるヒートシンク14の内縁16aは、図1において一点鎖線で示される。図1に示すように、本実施形態においては、ヒートシンク14の内縁16aは、Z方向に見て、正方形の形状を有する。ヒートシンク14は、凹部16を取り囲むように配置される。凹部16を取り囲むヒートシンクの内周面14dは、面14b側に位置する開口側が大きい、いわゆるテーパ状である。凹部16は、例えば平板状の基板を異方性ウェットエッチングすることにより形成される。このような凹部16を形成することによって、赤外線吸収膜23からヒートシンク14への熱の逃げを抑制することができる。よって、後述する第1材料層21および第2材料層22の長手方向の温度差をより大きくすることができる。
【0037】
第1電極24および第2電極25は、支持膜13の主面13b上において、後述する領域15外に配置される。第2電極25は、第1電極24と離隔して配置される。第1電極24および第2電極25はそれぞれ、例えばパッド電極である。第1電極24および第2電極25のそれぞれの材質としては、例えば金(Au)、チタン(Ti)、白金(Pt)等が採用される。
【0038】
熱電変換材料部12は、支持膜13の主面13b上に配置される。熱電変換材料部12は、第1材料層21a,21b,21c,21dを含む複数の第1材料層21と、第2材料層22a,22b,22c,22dを含む第2材料層22と、を含む。熱電変換材料部12に含まれる複数の第1材料層21および複数の第2材料層22はそれぞれ、SiGeから構成されている。すなわち、第1材料層21および第2材料層22はそれぞれ、SiおよびGeを構成元素とした化合物半導体から構成されている。第1材料層21は、第1の導電型であるn型の熱電変換材料から構成されている。第2材料層22は、第1の導電型とは異なる第2の導電型であるp型の熱電変換材料から構成されている。
【0039】
第1材料層21は、帯状の形状を有する。第1材料層21は、長手方向の第1の端部28cを含む第1領域28aと、長手方向において第1の端部28cと逆の第2の端部28dを含む第2領域28bと、を含む。第1領域28aと第2領域28bとを結ぶ線の延びる方向が、帯状の第1材料層21の長手方向となる。
【0040】
複数の第1材料層21は、支持膜13の主面13b上に配置される。複数の第1材料層21は、図1中の二点鎖線の長方形の形状で示す領域15内に収まるように配置される。複数の第1材料層21は、それぞれ間隔をあけて配置される。第1材料層21a,21b,21c,21dを除き、複数の第1材料層21はそれぞれ、X方向またはY方向が長手方向となるように配置される。第1材料層21a,21b,21c,21dを除き、複数の第1材料層21は、正方形の形状の領域15の各辺側から向かい合う辺側に向けて延びるように(当該方向に長手方向が沿うように)配置される。複数の第1材料層21はそれぞれ、Z方向に見て、第1領域28aがヒートシンク14の内縁16aに近い側に位置し、第2領域28bが赤外線吸収膜23の外縁23aに近い側に位置するように配置される。
【0041】
熱電変換材料部12は、絶縁膜26を含む。絶縁膜26の材質としては、例えばSiOが選択される。絶縁膜26は、第1材料層21が配置されている部分においては第1材料層21上に配置され、第1材料層21が配置されていない部分においては支持膜13の主面13b上に配置される。絶縁膜26は、第1材料層21の第1領域28aおよび第2領域28bを覆わないように配置される。
【0042】
第2材料層22についても第1材料層21と同様に、帯状の形状を有する。第2材料層22は、長手方向の第3の端部29cを含む第3領域29aと、長手方向において第3の端部29cと逆の第4の端部29dを含む第4領域29bと、を含む。第3領域29aと第4領域29bとを結ぶ線の延びる方向が、帯状の第2材料層22の長手方向となる。
【0043】
複数の第2材料層22は、複数の第1材料層21の配置と同様に、図1中の二点鎖線の長方形の形状で示す領域15内に収まるように配置される。複数の第2材料層22はそれぞれ、X方向またはY方向に対して長手方向が傾斜するように配置される。複数の第2材料層22は、支持膜13の主面13bの一部の上、絶縁膜26の一部の上および第1材料層21の一部の上に配置される。第2材料層22は、支持膜13の厚さ方向に見て、第3領域29aがヒートシンク14の内縁16aに近い側に位置し、第4領域29bが赤外線吸収膜23の外縁23aに近い側に位置するように配置される。
【0044】
第1電極24に接続される第1領域28aおよび第2電極25に接続される第3領域29aを除き、複数の第1材料層21と複数の第2材料層22とは、交互に接続される。具体的に、図1の右側の配置で説明する。第1材料層21の第1領域28aと、第1材料層21と時計回りで隣り合う第2材料層22の第3領域29aとが接続される。第1材料層21の第2領域28bと、第1材料層21と反時計回りで隣り合う第2材料層22の第4領域29bとが接続される。複数の第1材料層21および複数の第2材料層22はそれぞれ、第1電極24および第2電極25に接続される第1領域28aおよび第3領域29aを除き、第2領域28bと第4領域29b同士および第1領域28aと第3領域29a同士が接続される。すなわち、第1材料層21と第2材料層22とは対となって、隣り合う第1材料層21および第2材料層22とが端部を含む領域で交互に直列で電気的に接続されている。本実施形態においては、第3領域29aは、第1領域28a上に配置され、第1領域28aとオーミック接触する。第4領域29bは、第2領域28b上に配置され、第2領域28bとオーミック接触する。光センサ11a、具体的には赤外線吸収膜23に光が照射された時に発生する温度勾配の向きに対して、第1材料層21の第1の端部28cを含む第1領域28aに発生する電圧の極性と第2材料層22の第3の端部29cを含む第3領域29aに発生する電圧の極性とが逆となる。
【0045】
交互に接続された第1材料層21および複数の第2材料層22のうち、最も端に配置される第1材料層21は、第1領域28aで第1電極24と接続される。交互に接続された第1材料層21および複数の第2材料層22のうち、最も端に配置される第2材料層22は、第3領域29aで第2電極25と接続される。
【0046】
赤外線吸収膜23は、赤外線を熱に変換する。赤外線吸収膜23の材質としては、例えばカーボン(C)が選択される。
【0047】
赤外線吸収膜23は、Z方向に見て、ヒートシンク14の内縁16aに取り囲まれた領域に配置される。本実施形態においては、Z方向に見て、赤外線吸収膜23の外縁23aは、正方形の形状を有する。赤外線吸収膜23は、赤外線吸収膜23の外縁23aによって形成される正方形の形状の中心と、ヒートシンク14の内縁16aによって形成される正方形の形状の中心とが重なるように配置される。
【0048】
赤外線吸収膜23は、第1材料層21の長手方向、具体的には第1領域28aと第2領域28bとの間において温度差を形成するように配置される。また、赤外線吸収膜23は、第2材料層22の長手方向、具体的には第3領域29aと第4領域29bとの間において温度差を形成するように配置される。本実施形態においては、赤外線吸収膜23は、第1領域28aおよび第3領域29aを露出し、第2領域28bおよび第4領域29bを覆うように配置される。すなわち、第2領域28bと第4領域29bは、Z方向に見て赤外線吸収膜23と重なっている。第1領域28aおよび第3領域29aは、赤外線吸収膜23によって覆われていない。第1領域28aおよび第3領域29aは、Z方向に見てヒートシンク14と重なっている。第1材料層21および第2材料層22はそれぞれ、第1材料層21および第2材料層22のそれぞれの長手方向に温度差を形成するよう赤外線吸収膜23と熱的に接続される。
【0049】
第1材料層21は、第1領域28aと第2領域28bとの間の温度差(熱エネルギー)を電気エネルギーに変換する。第2材料層22は、第3領域29aと第4領域29bとの間の温度差(熱エネルギー)を電気エネルギーに変換する。複数の第1材料層21および複数の第2材料層22のそれぞれについて、長手方向に温度差が形成される。熱電変換材料部12は、上記構成の複数の第1材料層21および上記構成の複数の第2材料層22により、温度差(熱エネルギー)を電気エネルギーに変換する。光センサ11aは、赤外線吸収膜23とヒートシンク14により形成された温度差を効率的に利用して、赤外線を検出することができる。
【0050】
複数の第1材料層21および複数の第2材料層22の構成について説明する。複数の第1材料層21はそれぞれ、多数の空孔31を有する第1フォノニック構造から構成される。すなわち、複数の第1材料層21はそれぞれ、多数の空孔31を有する第1フォノニック構造を有する。また、複数の第2材料層22はそれぞれ、多数の空孔31を有する第1フォノニック構造から構成される。すなわち、複数の第2材料層22はそれぞれ、多数の空孔31を有する第1フォノニック構造を有する。実施の形態1において、第1材料層21および第2材料層22は、全面に第1フォノニック構造を有する。つまり、Z方向に見て、赤外線吸収膜23と重なる第1材料層21の第1重畳部は、第1フォノニック構造を有する。Z方向に見て、赤外線吸収膜23と重なる第2材料層22の第2重畳部は、第1フォノニック構造を有する。多数の空孔31とは、空孔31が面密度で25個/μm~2500個/μmを意味する。
【0051】
図5は、第1フォノニック構造から構成される第1材料層21の一部を拡大して示す模式図である。図5は、第1材料層21をZ方向に見た場合を示している。図5に示す模式図においては、理解を容易にする観点から空孔31の外形形状は真円状に図示しているが、空孔31の外形形状は、厳密な真円状に限らず、楕円状であったり、多角形状であってもよい。図5を併せて参照して、第1材料層21は、帯状の部材に、Z方向に貫通する多数の空孔31が間隔をあけて形成される構成である。第1材料層21は、例えばレジストパターンを形成して蒸着材料を蒸着させることにより形成することができる。これについては、後述する。なお、第2材料層22を構成する第1フォノニック構造についても、同様である。
【0052】
図5中の長さD1で示す空孔31のピッチ間隔を示す長さD1は、20nm以上1200nm以下である。本実施形態においては、空孔31のピッチ間隔を示す長さDは、40nmである。空孔31のピッチ間隔を示す長さD1は、隣り合う空孔31の中心33a,33bの間隔である。また、図5中に示す空孔31の直径を示す長さD2は、15nm以上200nm以下である。本実施形態においては、空孔31の直径を示す長さD2は、15nmである。
【0053】
空孔31のピッチ間隔を示す長さD1と、空孔31の直径を示す長さD2との差は、5nm以上500nm以下である。長さD1と長さD2との差は、10nm以上200nm以下とすることが好ましい。これについては、後述する。
【0054】
支持膜13の具体的な構成について説明する。支持膜13は、多数の空孔を有する第2フォノニック構造を有する第1部分19aと、第2フォノニック構造を有しない第2部分19bと、を含む。実施の形態1において、第1部分19aは、複数の第1材料層21および複数の第2材料層22と接触して配置される。実施の形態1において、第2部分19bは、第1部分19aの周囲に配置される。第1部分19aは、Z方向に見て、具体的には、図1に示される領域15に示される部分である。支持膜13は、絶縁膜である。支持膜13の材質は、例えば、SiO、またはSiNである。支持膜13の膜厚は、200nm以上2000nm以下である。
【0055】
第1部分19aは、多数の空孔を有する第2フォノニック構造から構成される。すなわち、支持膜13の第1部分19aは、多数の空孔を有する第2フォノニック構造を有する。第2フォノニック構造の構成は、上記した第1フォノニック構造の構成と同様であるため、その説明を省略する。
【0056】
光センサ11aは、熱電変換材料部と赤外線吸収膜23との間に配置される下地膜20を含む。下地膜20は、Si(シリコン)系の絶縁膜、例えば、SiO、またはSiNである。図4中に示す下地膜20の厚さTは、10nm以上50nm以下である。
【0057】
実施の形態1における光センサ11aの製造方法について、簡単に説明する。図6は、実施の形態1における光センサ11aの製造方法の代表的な工程を示すフローチャートである。図6を参照して、実施の形態1における光センサ11aの製造方法では、工程(S10)として、基板準備工程が実施される。この工程(S10)では、まず、材質がSiであり、ヒートシンク14の基となる平板状の基板を準備する。
【0058】
次に、工程(S20)として、支持膜形成工程が実施される。この工程(S20)では、基板にSiOの膜を基板上に形成することにより実施される。この場合、例えば、SiOの蒸着材料を基板に蒸着させることにより実施される。
【0059】
その後、工程(S30)として、熱電変換材料部形成工程が実施される。この工程(S30)では、支持膜13上に熱電変換材料部12を形成する。具体的には例えば、第1材料層21、絶縁膜26の層、そして第2材料層22の順に層を形成する。各層の形成時においては、例えば、レジスト塗布、フォトリソグラフィ、蒸着、リフトオフを利用する。
【0060】
次に、工程(S40)として、フォノニック構造形成工程が実施される。この工程(S40)では、第1材料層21および第2材料層22に含まれる第1フォノニック構造と、支持膜13に含まれる第2フォノニック構造の両方が形成される。この場合、EB(イオンビーム)にてフォノニック構造を描画してレジストパターンを形成する。この場合、支持膜13の第2部分19bはマスクして覆っておく。そして、CHFやCFといったフッ素系ガスを用いたドライエッチングにより、第1フォノニック構造および第2フォノニック構造を形成する。その後、第2部分19bを覆うマスクを除去する。
【0061】
その後、工程(S50)として、電極形成工程が実施される。この工程(S50)では、第1電極24および第2電極25が基板上に形成される。この場合、最も端に位置する第1材料層21の第1領域28aと第1電極24とが接触し、第2材料層22の第3領域29aとが接触するように第1電極24および第2電極25が形成される。
【0062】
次に、工程(S60)として、下地膜形成工程が実施される。この工程(S60)では、第1フォノニック構造が形成された第1材料層21および第2材料層22の上、および第2フォノニック構造が形成された支持膜13の第1部分19aの上に下地膜20が形成される。この下地膜20を形成することにより、後に形成する赤外線吸収膜23を確実に熱電変換材料部12の上に保持させることができる。下地膜20の形成は、蒸着材料を用い、高角度、具体的には例えば45度以上基板側を蒸着する物質を噴出する方向に対して傾斜させた状態でSiOを蒸着させることにより行われる。このようにすることにより、第1フォノニック構造および第2フォノニック構造の上に、効率的に下地膜20を形成することができる。
【0063】
その後、工程(S70)として、赤外線吸収膜形成工程が実施される。この工程(S70)では、形成した下地膜20の上に、赤外線吸収膜23を蒸着等により形成する。
【0064】
最後に、工程(S80)として、ヒートシンク形成工程が実施される。この工程(S80)では、基板に対して異方性エッチングを実施することにより凹部16を形成する。このようにして、上記構成の光センサ11aを得る。
【0065】
このような構成の光センサ11aによると、複数の第1材料層21および複数の第2材料層22は、多数の空孔31を有する第1フォノニック構造から構成される。このような構成によると、複数の第1材料層21および複数の第2材料層22のそれぞれの熱伝導率の低減を図ることができる。そうすると、熱コンダクタンスを低下させて感度の増大を図りながら、第1材料層21および第2材料層22自体の抵抗と接触抵抗とのバランスを適正にして、ノイズの低減を図ることができる。その結果、このような光センサ11aによると、より雑音等価電力の低減を図ることができる。
【0066】
本実施形態においては、支持膜13は、多数の空孔を有する第2フォノニック構造から構成される。よって、複数の第1材料層21および複数の第2材料層22に加え、支持膜13の熱伝導率の低減を図ることができる。そうすると、感度の増大を図ることができる。その結果、このような光センサによると、雑音等価電力の低減を図ることができる。
【0067】
本実施形態においては、第1フォノニック構造を構成する空孔31のピッチ間隔は、20nm以上1200nm以下である。よって、第1フォノニック構造における熱伝導率の低減をより確実にすることができる。したがって、光センサ11aの感度を増大させて、より雑音等価電力の低減を図ることができる。
【0068】
本実施形態においては、第1フォノニック構造を構成する空孔31の直径は、15nm以上200nm以下である。よって、第1フォノニック構造における熱伝導率の低減をより確実にすることができる。したがって、光センサ11aの感度を増大させて、より雑音等価電力の低減を図ることができる。
【0069】
本実施形態において、光センサ11aは、熱電変換材料部12と赤外線吸収膜23との間に配置される下地膜20をさらに備える。よって、複数の第1材料層21および複数の第2材料層22に容易に第1フォノニック構造を形成することができ、生産性の向上を図ることができる。
【0070】
本実施形態において、下地膜20の厚さは、10nm以上50nm以下である。よって、より確実に光センサ11aの雑音等価電力の低減および良好な生産性を両立させることができる。
【0071】
本実施形態において、第1フォノニック構造を構成する空孔のピッチ間隔および空孔の直径は、第2フォノニック構造を構成する空孔のピッチ間隔および空孔の直径と、それぞれ同じである。よって、支持膜13、第1材料層21および第2材料層22を形成した後に、一度に第1フォノニック構造および第2フォノニック構造を形成することができる。したがって、生産性の向上を図ることができる。
【0072】
本実施形態においては、第1フォノニック構造を構成する空孔のピッチ間隔を長さD1とし、第1フォノニック構造を構成する空孔の直径を長さD2とすると、長さD1と長さD2との差は、5nm以上500nm以下である。よって、熱コンダクタンスを低下させて感度の増大を図りながら、第1材料層21および第2材料層22自体の抵抗と接触抵抗とのバランスを適正にして、ノイズの低減を図ることができる。その結果、このような光センサ11aによると、より雑音等価電力の低減を図ることができる。
【0073】
(実施の形態2)
他の実施の形態である実施の形態2について説明する。図7は、実施の形態2における光センサの外観の概略平面図である。図8は、図7に示す光センサの一部の領域VIIIを拡大して示す概略平面図である。理解を容易にする観点から、図7および図8では、赤外線吸収膜および絶縁膜の図示を省略している。図7は、図1に対応する図である。実施の形態2における光センサは、基本的に実施の形態1の場合と同様の構成を有し、同様の効果を奏する。しかし、実施の形態2の光センサは、第1材料層および第2材料層の構成等が、実施の形態1の場合と異なっている。
【0074】
図7および図8を参照して、実施の形態2における光センサ11bに含まれる第1材料層21および第2材料層22については、実施の形態1における光センサ11aの場合と異なり、厚さ方向に一部重ねて配置されているのではなく、同じ平面上、具体的には、支持膜13上に配置されている。帯状の第1材料層21および帯状の第2材料層22はそれぞれ、長手方向をX方向またはY方向となるように支持膜13上に並べられている。第1材料層21および第2材料層22はそれぞれ交互に間隔をあけて配置されている。
【0075】
熱電変換材料部12は、金属から構成される第3材料層36および第3材料層37を含む。第3材料層36および第3材料層37を構成する金属としては、例えば、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、モリブデン(Mo),チタン(Ti)、金(Au)、パラジウム(Pd)、ゲルマニウム(Ge)、ハフニウム(Hf)、アルミニウム(Al)が挙げられる。第3材料層36は、第1材料層21の外縁側および第2材料層22の外縁側において、隣り合う第1領域28aおよび第3領域29aに跨って、第1領域28aおよび第3領域29aとオーミック接触するように配置される。第3材料層36は、第1領域28a、第3領域29a、第1領域28aの側面の一部および第3領域29aの側面の一部を覆うようにして配置される。第3材料層37は、第1材料層21の内縁側および第2材料層22の内縁側において、隣り合う第2領域28bおよび第4領域29bに跨って、第2領域28bおよび第4領域29bとオーミック接触するように配置される。第1領域28aおよび第3領域29aは、Z方向に見てヒートシンク14と重なっている。第2領域28bと第4領域29bは、Z方向に見て赤外線吸収膜23と重なっている。第1材料層21および第2材料層22は、第1フォノニック構造から構成される。
【0076】
このようにすることによっても、感度の増大およびノイズの低減を図りながら、雑音等価電力の低減を図ることができる。
【0077】
(実施の形態3)
他の実施の形態である実施の形態3について説明する。図9は、実施の形態3に示す光センサの概略断面図である。実施の形態3における光センサは、基本的に実施の形態1の場合と同様の構成を有し、同様の効果を奏する。しかし、実施の形態3の光センサは、第1材料層21および第2材料層22に形成された第1フォノニック構造、および支持膜13に形成された第2フォノニック構造の構成が、実施の形態1の場合と異なっている。
【0078】
図9を参照して説明する。第1材料層21は、第1フォノニック構造を有する領域と、第1フォノニック構造を有しない領域と、を含む。第2材料層22は、第1フォノニック構造を有する領域と、第1フォノニック構造を有しない領域と、を含む。第1材料層21と第2材料層22のいずれにおいても、第1フォノニック構造を有する領域は、赤外線吸収膜23と重ならない位置に形成され、第1フォノニック構造を有しない領域は、赤外線吸収膜23と重なる位置に形成される。実施の形態3において、Z方向に見て、赤外線吸収膜23と重なる第1材料層21の第1重畳部は、第1フォノニック構造を有しない。Z方向に見て、赤外線吸収膜23と重なる第2材料層22の第2重畳部は、第1フォノニック構造を有しない。支持膜13は、第2フォノニック構造を有する第1部分19aと、第2フォノニック構造を有しない第2部分19bと、を含む。第1部分19aは、中心に配置される第2部分19bと、周囲に配置される第2部分19bとの間に配置される。つまり、支持膜13は、Z方向に見て、赤外線吸収膜23と重ならない位置および外縁13cと重ならない位置、つまり、第1部分19aに第2フォノニック構造を有する。Z方向に見て、赤外線吸収膜23と重なる支持膜13の第2部分19bは、第1フォノニック構造を有しない。
【0079】
このようにすることによっても、感度の増大およびノイズの低減を図りながら、雑音等価電力の低減を図ることができる。
【0080】
なお、実施の形態3に示す光センサ11cは、例えば以下の工程で製造される。図10は、実施の形態3における光センサ11cの製造方法の代表的な工程を示すフローチャートである。図10を参照して、実施の形態3における光センサ11cの製造方法では、工程(S10)として、基板準備工程(S10)、支持膜形成工程(S20)および熱電変換材料部形成工程(S30)が実施される。その後、赤外線吸収膜形成工程(S41)が実施される。すなわち、熱電変換材料部12の上に赤外線吸収膜23が形成される。その後、フォノニック構造形成工程(S51)が実施される。この場合、赤外線吸収膜23が配置される領域をマスクして、第1フォノニック構造および第2フォノニック構造を形成する。そして、電極形成工程(S61)を実施した後、ヒートシンク形成工程(S71)を実施する。
【0081】
このようにして、実施の形態3に係る光センサ11cが製造される。このような製造方法によると、下地膜20を形成せずに、効率的に実施の形態3に係る光センサ11cを製造することができる。なお、上記の赤外線吸収膜形成工程(S41)を電極形成工程(S61)とヒートシンク形成工程(S71)との間で実施してもよい。この場合、フォノニック構造形成工程(S51)において、後の工程で赤外線吸収膜23が形成される位置に、例えば、レジストパターンを形成する。このようにして、Z方向に見て、赤外線吸収膜23と重なる位置に、第1フォノニック構造および第2フォノニック構造が形成されないようにすることができる。
【0082】
ここで、上記した実施の形態1の光センサ11a、実施の形態3の光センサ11cおよび本開示に係る光センサであって、第1材料層21および第2材料層22に第1フォノニック構造を形成するのみで、支持膜13に第2フォノニック構造を形成しない光センサの感度と、長さD1と長さD2との差との関係について説明する。
【0083】
図11は、光センサの感度と、長さD1と長さD2との差との関係を示すグラフである。図11において、横軸は、長さD1と長さD2との差(nm)を示し、縦軸は、感度Rv(V/W)を示す。図11において、サンプル1は、実施の形態1の光センサの場合を示し、サンプル2は、実施の形態3の光センサの場合を示し、サンプル3は、第1材料層21および第2材料層22に第1フォノニック構造を形成するのみで、支持膜13に第2フォノニック構造を形成しない光センサの場合を示す。以下、図12図13図14についても同様である。
【0084】
図11を参照して、長さD1と長さD2との差が大きくなるにつれ、いずれの場合も感度が増加する。
【0085】
図12は、光センサのノイズと、長さD1と長さD2との差との関係を示すグラフである。図11において、横軸は、長さD1と長さD2との差(nm)を示し、縦軸は、ノイズVn(V/W)を示す。
【0086】
図12を参照して、長さD1と長さD2との差が大きくなるにつれ、接触抵抗は増加するが第1材料層および第2材料層自体の抵抗は低下するため、各サンプルにおいて、ある範囲で下に凸の形状となる。
【0087】
図13は、光センサの雑音等価電力(NEP)と、長さD1と長さD2との差との関係を示すグラフである。図13において、横軸は、長さD1と長さD2との差(nm)を示し、縦軸は、NEP(V/W)を示す。
【0088】
図13を参照して、NEPについては、ノイズ/感度で導出されるため、図12に示すグラフの傾向が顕著であり、ある範囲内でNEPの値が小さくなる。そして、長さD1と長さD2との差を5nm以上500nm以下とすることにより、NEPを3.5E-0.2以下とすることができる。そうすると、より雑音等価電力の低減を図ることができる。さらに、長さD1と長さD2との差を10nm以上200nm以下とすることにより、NEPを3.0E-0.2以下とすることができる。そうすると、さらに雑音等価電力の低減を図ることができる。
【0089】
図14は、空隙率とNEPとの関係を示すグラフである。図14において、横軸は、空隙率(%)を示し、縦軸はNEP(V/W)を示す。空隙率については、第1フォノニック構造全体に占める全ての貫通孔の容積の割合を示すものである。
【0090】
図14を参照して、空隙率についてもある範囲内でNEPの低減を図ることができる。具体的には、空隙率を2%以上72%以下とすることにより、NEPの低減を図ることができる。
【0091】
(他の実施の形態)
なお、上記の実施の形態において、第1材料層および第2材料層のうちの少なくともいずれか一方は、粒径が3nm以上200nm以下であるナノ結晶構造およびアモルファス構造のうちの少なくともいずれか一方を有するSiGeから構成されていてもよい。このようにすることにより、熱電変換効率の向上を図ることができる。したがって、感度の向上を図って、雑音等価電力の低減を図ることができる。
【0092】
結晶の粒径の測定については、TEM(Transmission ElectronMicroscope)像の観察により行った。装置としては、JEM-2100F(日本電子株式会社製)を用い、加速電圧を200kVとした。そして、電子プローブ径を0.2nmとし、EDXマッピング条件として、画素数を256pixel×256pixelとし、Dwell timeを0.5ms/pixelとし、積算回数を15回とした。
【0093】
また、第1材料層21および第2材料層22の構成材料であるSiGeについては、例えばアモルファス構造のSiGeを、たとえば500℃程度の温度で熱処理し、その一部でナノ結晶構造を作製してもよい。また、SiGeは、ナノ結晶構造またはアモルファス構造を有してもよい。また、SiGeは、多結晶体であってもよい。このような多結晶体であるSiGeについても、本開示の光センサにおいて、好適に利用される。なお、本開示の光センサにおける多結晶体の結晶化率については、99%以上である。なお、結晶化率の測定については、以下のように行った。装置として、HORIBA LabRam HR-PLを用いた。測定条件としては、レーザー波長を532nmとし、レーザーパワーを2.5mWとした。解析条件としては、400cm-1付近のピークを分析した。解析に際しては、ガウス関数と疑似フォークト関数をフィッティングした。ガウス関数G(x)については、以下の数3に示す式(3)によって表される。
【0094】
【数3】
【0095】
また、疑似フォークト関数F(x)については、以下の数4に示す式(4)によって表される。
【0096】
【数4】
【0097】
ガウス関数G(x):変数A、W、xにおいて、xの初期値を400cm-1とした。疑似フォークト関数F(x):変数A、W、x、mにおいて、xの初期値を380cm-1とし、gを0.5とした。各パラメータを最小二乗法で最適化し、疑似フォークト関数とガウス関数を積分し、面積を求めた。結晶化率については、ガウス関数を用いて導出された面積がアモルファスに対応し、疑似フォークト関数を用いて導出された面積が結晶に対応するとして、結晶化率=疑似フォークト関数を用いて導出された面積/(疑似フォークト関数を用いて導出された面積+ガウス関数を用いて導出された面積)、によって算出した。
【0098】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって規定され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0099】
11a,11b 光センサ
12 熱電変換材料部
13 支持膜
13a,13b,17a,17b,18a,18b 主面
13c,14c,23a 外縁
14 ヒートシンク
14a,14b面
14d 内周面
15 領域
16 凹部
16a 内縁
19a 第1部分
19b 第2部分
20 下地膜
21,21a,21b,21c,21d 第1材料層
22,22a,22b,22c,22d 第2材料層
23 赤外線吸収膜
24 第1電極
25 第2電極
26 絶縁膜
28a 第1領域
28b 第2領域
28c 第1の端部
28d 第2の端部
29a 第3領域
29b 第4領域
29c 第3の端部
29d 第4の端部
31 空孔
32 ベース部
33a,33b 中心
36,37 第3材料層
D1,D2 長さ
F 疑似フォークト関数
G ガウス関数
T 厚さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図14