(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056393
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】消火体
(51)【国際特許分類】
A62C 35/10 20060101AFI20240416BHJP
【FI】
A62C35/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163228
(22)【出願日】2022-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】黒川 真登
(72)【発明者】
【氏名】田辺 淳也
(72)【発明者】
【氏名】本庄 悠朔
(72)【発明者】
【氏名】黒田 健二郎
【テーマコード(参考)】
2E189
【Fターム(参考)】
2E189BA01
2E189BB01
(57)【要約】
【課題】発火するおそれのある複数の対象物の間に配置して、しかも、火災の発生や拡大を防止することのできる消火体を提供すること。
【解決手段】基材シート11の表裏両面に保護フィルム12
F,12
Bを配置し、この基材シート11と表裏の保護フィルム12
F,12
Bとの間にそれぞれ消火剤13
F,13
Bを固定する。発火するおそれのある二つの対象物の間に配置すれば、これら両側の対象物のどちらが発火した場合にも、初期消火が可能となり、周囲に火が燃え広がることを抑制することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートの表裏両面に保護フィルムが配置されており、
この基材シートと表裏の保護フィルムとの間にそれぞれ消火剤を固定して成ることを特徴とする消火体。
【請求項2】
前記基材シートが難燃性を有することを特徴とする請求項1に記載の消火体。
【請求項3】
表裏の前記保護フィルムが、水蒸気バリア性を有することを特徴とする請求項1に記載の消火体。
【請求項4】
水蒸気バリア性を有する前記保護フィルムの水蒸気透過度(JIS K 7129準拠
40℃/90%RH条件下)が10g/m2/day以下である、請求項3に記載の消火体。
【請求項5】
水蒸気バリア性を有する前記保護フィルムが、蒸着基材上に金属蒸着膜又は無機蒸着膜を形成した蒸着フィルムで構成されていることを特徴とする請求項3に記載の消火体。
【請求項6】
表裏の前記保護フィルムが、表裏の前記保護フィルムを周縁の封止部で互に固定し、こうして固定した内部を基材シートで2つの収容室に区分し、これら2つの収容室にそれぞれ前記消火剤が封入されていることを特徴とする請求項1に記載の消火体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消火体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テクノロジーの進歩に伴い、我々の暮らしはますます快適になっている一方で、その快適性を生む為の大量のエネルギーが必要となっている。大量のエネルギーを高密度に充填し蓄える、移動させる、使用するといった各々のシーンで、エネルギーの取り扱いには高い安全性が求められる。
【0003】
自動車を例にとると、化石燃料を採掘する際、化石燃料からガソリンを精製する際、ガソリンを運搬する際、ガソリンをエンジンで燃焼させる際等において、発火や火災の危険が潜んでいる。また、エレクトロニクスを例にとると、電線を通じて電気エネルギーを移動させる際、変電所や変圧器にて電気エネルギーの調整を行う際、電気エネルギーを家庭や工場の電気機器にて使用する際、又は一時的に蓄電池に蓄える際等において、同様に発火や火災の危険が潜んでいる。
【0004】
発火や火災の問題に対し、特許文献1では、消火液及び消火器を用いることが提案されている。特許文献2では、ヘリコプターから投下する自動消火装置が提案されている。特許文献3では、エアロゾル消火装置が提案されている。
【0005】
特許文献1~3はいずれも、ある程度の時間が経過した後の火災への対処方法を提案するものである。一方、火災による被害を最小限に抑えるという観点からは、発火から間もない段階で何らかの消火作業(初期消火)が行われることが望ましい。
【0006】
そこで、特許文献4~6は、消火剤にバインダーを混合して基材シートに塗布して形成した消火用積層体を提案している。これら特許文献4~6によれば、その消火用積層体を発火するおそれのある対象物付近に予め存在させておくことにより、対象物から発火した際にその初期消火を可能として、周囲に火が燃え広がる事を抑制することができる。例えば、発火したことを人間が感知する以前に消火が完了するのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9-276440号公報
【特許文献2】特開2015-6302号公報
【特許文献3】特開2017-080023号公報
【特許文献4】特開2021-118847号公報
【特許文献5】特開2021-137345号公報
【特許文献6】特開2021-137346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらの消火用積層体を発火するおそれのある対象物付近に配置する際には、その消火剤層を対象物に向けて配置する必要がある。
【0009】
このため、消火用積層体の両側に発火するおそれのある対象物が存在する場合には適用することができなかった。例えば、2つのリチウムイオン電池の間にこれら消火用積層体を配置しても、確実な初期消火を期待することはできなかったのである。
【0010】
そこで、本発明は、発火するおそれのある複数の対象物の間に配置して、しかも、火災の発生や拡大を防止することのできる消火体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、請求項1に記載の発明は、基材シートの表裏両面に保護フィルムが配置されており、
この基材シートと表裏の保護フィルムとの間にそれぞれ消火剤を固定して成ることを特徴とする消火体である。
【0012】
基材シートは難燃性を有することが望ましい。
【0013】
また、表裏の前記保護フィルムは水蒸気バリア性を有することが望ましい。表裏の前記保護フィルムが水蒸気バリア性を有する場合、消火体の設置場所や使用環境に依らず、消火剤の性状が大きく変化しない。このような理由から、その水蒸気透過度(JIS K 7129準拠 40℃/90%RH条件下)は10g/m2/day以下であることが望ましい。
【0014】
また、この消火体は、消火剤を収容した収容室を表裏に有する袋状とすることもできる。すなわち、表裏の前記保護フィルムを周縁の封止部で互に固定し、こうして固定した内部を基材シートで2つの収容室に区分し、これら2つの収容室に前記消火剤を封入して、前記消火体とすることも可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の消火体は基材シートの表裏両面に消火剤を固定しているので、発火するおそれのある二つの対象物の間に配置すれば、これら両側の対象物のどちらが発火した場合にも、初期消火が可能となり、周囲に火が燃え広がることを抑制することができる。
【0016】
本発明の利点を以下に簡潔にまとめる。
・炎が燃え広がることによる被害を最小限に留められる。すなわち初期消火が可能である。
・人が火災発生を確認後、消火器を消火対象付近に持ち運び消火活動を行う必要が無い。
・自動消火装置等の設備に比して簡易的に設置できるため、設置場所の制限が少なくかつ必要な箇所に応じて適用することができる。
・消火剤の性状安定性に優れるため、消火体の交換頻度を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る消火体の模式外観図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態に係る消火体の模式断面図であり、
図1におけるII-II線断面図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態の変形例に係る消火体の模式断面図である。
【
図4】
図4は、第1の実施形態の別の変形例に係る消火体の模式断面図である。
【
図5】
図5は、第2の実施形態に係る消火体の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
(第1の実施形態)
<消火体>
図1は、第1の実施形態に係る消火体の模式外観図である。
図2は、第1の実施形態に係る消火体の模式断面図であり、
図1におけるII-II線断面図である。消火体10は、基材シート11を中心とし、その表裏に保護フィルム12
F,12
Bが配置されており、基材シート11と表側保護フィルム12
Fとの間には消火剤13
Fが配置され、同様に、基材シート11と裏側保護フィルム12
Bとの間にも消火剤13
Bが配置されている。なお、基材シート11と表裏の保護フィルム12
F,12
Bとは、その周縁の封止部10xで互に接触して封止されており、かつ、互に固定されており、こうして基材シート11と表側保護フィルム12
Fとの間に形成された閉空間と、基材シート11と裏側保護フィルム12
Bとの間に形成された閉空間とを消火剤の収容室として、この2つの収容室に消火剤13
Fと消火剤13
Bとを封入することによって固定している。なお、図から分かるように、これら2つの収容室は表裏の保護フィルム12
F,12
Bによって囲まれており、このため、消火剤13
F,13
Bが外気に触れることがないように構成されている。
【0020】
この説明から分かるように、この例は、基材シート11と表裏の保護フィルム12F,12Bによって消火体10を袋状に構成したものである。そして、基材シート11を挟んでその表裏に形成された2つの収容室に消火剤13Fと消火剤13Bとを封入固定している。
【0021】
消火体10を鉛直方向上部から見たとき、封止部10xの幅は特に制限されないが、消火剤の性状安定性の観点から、例えば2~40mmとすることができる。基材シート11と表裏の保護フィルム12F,12Bとが互いに熱溶着可能な材料で構成されている場合には、これらを重ねてヒートシールすることによって封止部10xを形成することができる。あるいは、ポリオレフィン樹脂フィルムを挟んで熱圧することによって封止部10xを形成してもよい。また、基材シート11と表裏の保護フィルム12F,12Bと接着剤や粘着剤によって接着することによって封止部10xを形成することも可能である。
【0022】
消火体10の中央部の厚さは、その層構成や封入される消火剤の量により変動するため必ずしも限定されないが、消火性能を維持しつつ、設置スペースを問われないよう薄型化できる観点から、例えば2~40mmとすることができる。また、消火体10の主面(消火体を鉛直方向上部から見たときの面)の面積は、消火性能及び取り扱い性の観点から、例えば9~620cm2とすることができる。
【0023】
消火体10は、発火するおそれのある対象物上や対象物近辺に予め設けられる。中でも、発火するおそれのある対象物が複数存在し、その複数の対象物の間に消火体10を配置するとき、本発明の特性が生かされる。複数の対象物のどちら発火した場合にも、消火体により初期消火が行われることになる。
【0024】
<基材シート11>
基材シート11としては、任意のシートを使用できる。単層構造のシートあるいは多層構造のシートでよい。
【0025】
例えば、樹脂シートである。樹脂シートの材質としては、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シクロオレフィン樹脂等)、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等)、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン樹脂、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合樹脂、パーフルオロアルコキシアルカン樹脂、パーフルオロエチレン-プロペン共重合樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂等)、ビニル樹脂(ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等)、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ウレタン樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート、ケトン樹脂(ポリエーテルエーテル樹脂等)、スルフォン系樹脂(ポリエーテルスルフォン樹脂等)、セルロース系樹脂(トリアセチルセルロース等)等が挙げられる。基材シート11が多層構造から成る場合には、この基材シート11を構成する複数の樹脂層は、それぞれ異なる材質からなるものであってよい。基材シート11が複数の層から構成される場合、層同士は接着剤(接着層)により接着されていてよい。接着剤としては、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、シリコーン系接着剤、ポリオレフィン系接着剤、ウレタン系接着剤又はポリビニルエーテル系接着剤、またはそれら合成系接着剤、等が挙げられる。
【0026】
基材シート11は、熱溶融性(熱融着性)を有してよい。熱溶融性を有する樹脂としてはポリオレフィン系樹脂が挙げられる。すなわち、樹脂層はポリオレフィン系樹脂を含んでよい。ポリオレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)、中密度ポリエチレン樹脂(MDPE)、無延伸ポリプロピレン樹脂(CPP)等のポリオレフィン系樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・αオレフィン共重合体等のポリエチレン系樹脂や、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン・エチレンブロック共重合体、プロピレン・αオレフィン共重合体等のポリプロピレン系樹脂などが挙げられる。これらのうち、ヒートシール性に優れ、かつ水蒸気透過度が低く消火剤の劣化を抑制し易い観点から、ポリオレフィン系樹脂は、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)、又は無延伸ポリプロピレン樹脂(CPP)を含んでよい。これらの樹脂は透明性を有しており、消火剤の外観検査が容易である。そのため、消火体の交換時期の確認等がし易くなる。
【0027】
以上のように、基材シート11は、各種樹脂を材質とするものであって良いが、対象物から発火したとき、その延焼を防止することができることが望ましい。このため、基材シート11は難燃性を有することが望ましい。基材シート11が単層構造の難燃性シートから構成されていても良いし、その層構成中に難燃性シートを含む多層構造を有していてもよい。
【0028】
難燃性シートとしては、例えば、不燃紙、ガラスクロス、金属箔、金属板等が例示できる。また、ポリフェニレンオキサイド等の難燃性樹脂シートであってもよい。
【0029】
不燃紙は、火に接しても燃え難い紙材からなるシートである。不燃紙としては、例えば、ケイ酸マグネシウムを主成分とする無機質紙、ロックウールを主成分とする無機質紙、水酸化アルミニウム等の消炎剤を含有する紙を使用することができる。
【0030】
ケイ酸マグネシウムを主成分とする無機質紙を不燃紙として用いる場合、耐火性、加工性、軽量化の観点から、不燃紙はケイ酸マグネシウムを70質量%以上含んでよく、また不燃紙の坪量は100~500g/m2とすることができる。
【0031】
ガラスクロスは、ガラス繊維が平面的に編みこまれてなるシートである。ガラス繊維としては、例えば、汎用の無アルカリガラス繊維(Eガラス)、耐酸性の含アルカリガラス繊維(Cガラス)、高強度で高弾性率のガラス繊維(Sガラス、Tガラス等)、耐アルカリ性ガラス繊維(ARガラス)等が挙げられる。汎用性の観点からは、無アルカリガラス繊維を用いることができる。
【0032】
ガラス繊維のフィラメント直径は、特に限定されないが、例えば1~20μmであってよく、3~12μmであってよい。
【0033】
ガラスクロスの織組織としては、特に限定されないが、例えば、既知の平織、朱子織、綾織、斜子織、畦織等が挙げられる。汎用性の観点からは、平織及び綾織を用いることができる。
【0034】
ガラスクロスの織組織の坪量は、特に限定されないが、例えば、耐火性、加工性、軽量化の観点から、10~1000g/m2とすることができ、20~700g/m2であってよい。
【0035】
金属箔や金属板の材質としては、アルミニウム、銅、ステンレススチール等を例示できる。
【0036】
<保護フィルム12F,12B>
表裏の保護フィルム12F,12Bとしては任意の樹脂フィルムを使用することができる。基材シート11を構成する樹脂シートとして前述したポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、ビニル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ウレタン樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート、ケトン樹脂、スルフォン系樹脂、セルロース系樹脂等である。
【0037】
もっとも、表裏の保護フィルム12F,12Bは水蒸気バリア性を有することが望ましい。前述のように、消火剤13F,13Bは表裏の保護フィルム12F,12Bによって囲まれてこれが外気に触れることがないから、これら表裏の前記保護フィルム12F,12Bが水蒸気バリア性を有する場合、消火体の設置場所や使用環境に依らず、消火剤13F,13Bの性状が大きく変化しない程度の水蒸気バリア性を維持し易くなる。保護フィルム12F,12Bの水蒸気透過度(JIS K 7129準拠 40℃/90%RH条件下)は、消火剤13F,13Bの種類に応じ設計できるため特に制限されないが、10g/m2/day以下とすることができ、1g/m2/day以下であってよい。水蒸気透過度の調整の観点から、水蒸気バリア性を有する保護フィルム12F,12Bとしてはアルミナ蒸着層、シリカ蒸着層等の無機金属酸化物蒸着層を備えるポリエステル樹脂層(例えばPET層)、アルミ箔等の金属箔が挙げられる。水蒸気バリア層が金属酸化物蒸着層を備える場合、金属酸化物蒸着層は消火剤側を向いていてよい。
【0038】
また、水蒸気バリア性を有する保護フィルム12F,12Bとして、ポリ塩化ビニリデン樹脂フィルム、あるいはこのポリ塩化ビニリデン樹脂を塗付した樹脂フィルムを使用することができる。また、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂(PCTFE)のフィルムを表裏の保護フィルム12F,12Bとして使用することも可能である。
【0039】
<消火剤13F,13B>
消火剤13F,13Bとしては特に制限されず、いわゆる消火の4要素(除去作用、冷却作用、窒息作用、負触媒作用)を有するものを、対象物の態様に応じて適宜用いることができる。消火剤としては、一般消火薬剤(カリウム塩を主成分とする粉末系消火剤の他、炭酸水素ナトリウムやリン酸塩等の一般的な粉末系消火剤が挙げられる)に加え、砂(標準砂)等が挙げられる。万能な消火剤としてはABC消火剤が挙げられ、油や電気火災用の消火剤としてはBC消火剤が挙げられる。対象物がリチウムイオン電池である場合は、BC消火剤や、その他リチウムイオン電池用の消火剤が用いられる。
【0040】
消火剤13F,13Bの量は、対象物の態様、発火時の火力、消火時間、許容されるスペース等に応じて適宜選択することができる。消火剤の量が多い程消火能力は向上し、消火時間も短縮されるが、嵩が増す場合もあるため消火体10を載置できる場所が限られることになる。消火剤13F,13Bの量は、例えば0.4~3.9g/cm2とすることができ、1.0~2.5g/cm2であってよい。
【0041】
また、消火剤はバインダーに練り込み、シート状に成型して使用してもよい。バインダーとしては、無機質バインダーや有機質バインダーを使用できる。
【0042】
無機質バインダーとしては、例えば、焼結性無機質材等を挙げることができ、この焼結性無機質材の具体例としては、例えば、電気絶縁性ガラス等を例示することができる。
【0043】
前記電気絶縁性ガラスとしては、具体的には二酸化ケイ素が50~60重量%、酸化アルミニウムが10~20重量%、酸化カルシウムが10~20重量%、酸化マグネシウムが1~10重量%、酸化ホウ素が8~13重量%等の範囲で含まれるEガラスと呼ばれるもの等を挙げることができる。
【0044】
また、上記焼結性無機質材は、鉛金属塩及びアルカリ金属酸化物含有量が前記焼結性無機質材の重量に対してそれぞれ1重量%未満のものであれば好ましい。かかる鉛金属塩としては、例えば、PbO、PbO2、Pb3O4等を挙げることができ、前記アルカリ金属酸化物としては、例えば、Na2O、K2O等を挙げることができる。
【0045】
次に、有機質バインダーとしては、例えば、具体的にはポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン-プロピレン共重合樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂等の熱可塑性樹脂類、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2-ポリブタジエンゴム、スチレン- ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレン-プロピレン共重合ゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多加硫ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等のゴム類、ポリウレタン樹脂、ポリイソシアネート樹脂、ポリイソシアヌレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂類、上記熱可塑性樹脂類、ゴム類等のラテックス類、上記熱可塑性樹脂類、ゴム類等のエマルション類、C M C ( カルボキシメチルセルロース)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体等を挙げることができる。
【0046】
その他の成分としては、水等の分散剤、溶剤、着色剤、酸化防止剤、難燃剤、酸化剤、吸湿剤、無機充填材、粘着剤等を挙げることができ、消火剤組成物の組成、バインダーの種類及び所望する成形品の形態等によって適宜選択すればよい。
【0047】
なお、こうして消火剤を練り込んだバインダーは公知の方法で成形することができる。例えば、金型や木枠で構成された型中に充填し、加圧あるいは加熱加圧して成型してもよい。また、バインダーが熱可塑性を有する場合には、射出成型法等の方法でシート状に成型することができる。
【0048】
<封止部10x>
前述のように、基材シート11と表裏の保護フィルム12F,12Bとが互いに熱溶着可能な材料で構成されている場合には、これらを重ねてヒートシールすることによって封止部10xを形成することができる。例えば、基材シート11と表裏の保護フィルム12F,12Bとが同種のポリオレフィン樹脂で構成されている場合には、ヒートシールすることによって封止部10xを形成することが可能である。基材シート11が不燃紙、ガラスクロス、金属箔、金属板等の難燃性シートで構成されている場合でも、その表裏面がポリオレフィン樹脂で被覆されている場合には、ヒートシールによって封止部10xを形成することが可能である。
【0049】
また、基材シート11と表側保護フィルム12Fとの間に熱溶着性フィルムを介在させ
ると共に、基材シート11と裏側保護フィルム12Bとの間にも熱溶着性フィルムを介在させ、その周縁においてこれらを一体に加熱加圧して2枚の前記熱溶着性フィルムを溶融させて封止部10xを形成することもできる。
【0050】
なお、この場合、前記熱溶着性フィルムは封止部10xを形成する周縁部のみに配置することもできる。この場合には、熱溶着性フィルムは消火剤13F,13Bと重畳することのない周縁部のみに位置することになる。
【0051】
一方、熱溶着性フィルムとして、その一部が消火剤13F,13Bと重畳する大面積のフィルムを使用することもできる。例えば、基材シート11や表裏の保護フィルム12F,12Bと同形同大の熱溶着性フィルムである。そして、基材シート11と表側保護フィルム12Fとの間に介在させる熱溶着性フィルムとして、このように一部が消火剤13Fと重畳する大面積の熱溶着性フィルムを使用する場合には、熱溶着性フィルムは、基材シート11と消火剤13Fとの間に配置してもよいし、消火剤13Fと表側保護フィルム12Fとの間に配置してもよい。もちろん、この両方に配置してもよい。基材シート11と裏側保護フィルム12Bとの間に介在させる熱溶着性フィルムについても同様である。
【0052】
このような熱溶着性フィルムとしては、低密度ポリエチレン樹脂フィルム、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂フィルム、中密度ポリエチレン樹脂フィルム、ポリプロピレン樹脂フィルム等のポリオレフィン樹脂フィルムを好適に使用することができる。また、表裏両表面にこれらポリオレフィン樹脂を配置した多層構造のフィルムを使用してもよい。
【0053】
また、前述のように、基材シート11と表裏の保護フィルム12F,12Bとを接着剤や粘着剤によって接着することにより、封止部10xを形成することもできる。
【0054】
このような接着剤としては、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、シリコーン系接着剤、ポリオレフィン系接着剤、ウレタン系接着剤又はポリビニルエーテル系接着剤、またはそれら合成系接着剤、等が挙げられる。これらのうち、85℃-85%RH高温高湿時における基材との密着性、低コストを両立する観点から、接着剤としてはエポキシ-ウレタン合成系接着剤を好適に用いることができる。また、これら接着剤に水分吸着剤を添加して使用することもできる。接着剤に水分吸着剤を添加することにより、消火剤の経時的変化を防ぐことができる。なお、市販の接着剤としては三菱ガス化学(株)製ガスバリア接着剤マクシーブを例示できる。
【0055】
また、粘着剤としては、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等を用いることができる。この粘着剤にも水分吸着剤を添加して使用することができる。市販の粘着剤としてはアイカ工業(株)製ガスバリア粘着剤アイトロンを例示できる。
【0056】
<消火体10の製造方法>
消火体10は、例えば以下の製造方法により製造することができる。
【0057】
すなわち、まず、裏側保護フィルム12B、消火剤13B、基材シート11、消火剤13F、表側保護フィルム12Fをこの順に積層配置し、周縁で基材シート11と表裏の保護フィルム12F,12Bとをヒートシールや接着剤により接合して封止して封止部10xを形成することで、消火体10を得ることができる。
【0058】
また、開口を残した状態で基材シート11及び表裏の保護フィルム12F,12Bの周縁をヒートシールや接着剤により接合し、開口から消火剤13F,13Bを入れた後、開口をヒートシールや接着剤により接合して封止することで、消火体を得ることができる。
【0059】
また、裏側保護フィルム12B、ポリオレフィン樹脂フィルム、基材シート11、ポリオレフィン樹脂フィルム、表側保護フィルム12Fをこの順に積層配置し、開口を残した状態で周縁を加熱加圧して、裏側保護フィルム12B、ポリオレフィン樹脂フィルム、基材シート11、ポリオレフィン樹脂フィルム及び裏側保護フィルム12Bを一体に接合して封止部10xを形成し、開口から消火剤13F,13Bを入れた後、開口を封止することで、消火体を得ることも可能である。
【0060】
さらに、裏側保護フィルム12B、ポリオレフィン樹脂フィルム、消火剤13B、基材シート11、消火剤13F、ポリオレフィン樹脂フィルム、表側保護フィルム12Fをこの順に積層配置し、周縁を加熱加圧して、裏側保護フィルム12B、ポリオレフィン樹脂フィルム、基材シート11、ポリオレフィン樹脂フィルム及び裏側保護フィルム12Bを一体に接合して封止部10xを形成することで、消火体10を得ることもできる。なお、周縁を加熱加圧する代わりに全面を加熱加圧しても、2枚のポリオレフィン樹脂フィルムと基材シート11とが直接接している封止部10xの位置でこれら裏側保護フィルム12B、ポリオレフィン樹脂フィルム、基材シート11、ポリオレフィン樹脂フィルム及び裏側保護フィルム12Bを一体に接合することができる。
【0061】
以上説明したいずれも方法で消火体10を製造する場合であっても、消火剤13F,13Bとして粉末状の消火剤を使用することができる。また、消火剤を練り込んでシート状に成型した成形物を消火剤13F,13Bとして使用することも可能である。
【0062】
(第1の実施形態の変形例)
図3は、前記第1の実施形態の変形例に係る消火体10Aの模式断面図である。この消火体10Aは、基材シート11Aが小さく構成されている。このため、基材シート11Aは、消火剤13
F,13
Bに包埋されている。また、このため、封止部10xは、表裏の保護フィルム12
F,12
B同士が互いに固定されて構成されている。その他の点は、第1の実施形態の変形例に係る消火体10Aと同様である。
【0063】
(第1の実施形態の別の変形例)
図4は、前記第1の実施形態の変形例に係る消火体10Bの模式断面図である。この消火体10Bは、第1の実施形態の消火体10の裏面側に粘着層14
B及び離型フィルム15
Bをこの順に積層したものである。この消火体10Bによれば、離型フィルム15
Bを剥離除去して粘着層14
Bを露出させ、この粘着層14
Bにより消火体10Aを対象物に接着固定することができる。
【0064】
なお、この消火体10Bは裏面側に粘着層14B及び離型フィルム15Bを有しているが、もちろん、表面側に粘着層と離型フィルムとを設けてもよいし、表裏両面に設けてもよい。
【0065】
(第2の実施形態)
図5は、第2の実施形態に係る消火体20の模式断面図である。この第2の実施形態に係る消火体20は、消火剤をバインダー樹脂と共に混練してインキ化し、こうして得られた消火剤インキを基材シート21又は表裏の保護フィルム22
F,22
Bに印刷することにより、消火剤23
F,23
Bを形成したものである。
【0066】
バインダー樹脂としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ(1-)ブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン樹脂、エチレン
-酢酸ビニル樹脂、エチレン-プロピレン樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂として、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、1,2-ポリブタジエンゴム(1,2-BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレンゴム(EPR、EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、アクリルゴム(ACM、ANM)、エピクロルヒドリンゴム(CO、ECO)、多加硫ゴム(T)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM、FZ)、ウレタンゴム(U)等のゴム類、ポリウレタン樹脂、ポリイソシアネート樹脂、ポリイソシアヌレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等が使用できる。インキには、熱や紫外線照射によってバインダー樹脂を硬化させる硬化剤成分が含まれていてよい。
【0067】
この例では、表裏の保護フィルム22F,22Bに消火剤インキを印刷して、消火剤23F,23Bを形成し、次に、この表裏の保護フィルム22F,22Bの間に基材シート21を介在させて、その周縁でこれら表裏の保護フィルム22F,22B及び基材シート21を互に固定して封止部20xを形成している。なお、基材シート21の表裏に消火剤インキを印刷して、消火剤23F,23Bを形成し、次に、基材シート21の表裏に保護フィルム22F,22Bを重ねてその周縁で封止部20xを形成してもよい。いずれの場合にも、消火剤23F,23Bは表裏の保護フィルム22F,22Bに囲まれて外気に触れることがないように構成されている。
【0068】
その他の成分としては、水等の分散剤、溶剤、着色剤、酸化防止剤、難燃剤、酸化剤吸湿剤、無機充填材、粘着剤等を挙げることができ、硝化剤組成物の組成、バインダーの種類及び所望する成形品の形態等によって適宜選択すればよい。
【実施例0069】
(実施例1)
この実施例1に係る消火体は、
図1の模式外観図及び
図2の模式断面図に図示した消火体10である。
【0070】
東洋インキ製造(株)製のエポキシ-ウレタン合成系接着剤AD-393とCAT-EP5、希釈溶剤としてイソプロピルアルコールを用意し、これらを配合比15:1:25.7で混合後、1分間攪拌し、固形分20質量%のドライラミネート用接着剤を作製した。
【0071】
サイズ210mm×297mmの、三井化学東セロ(株)製の無延伸ポリプロピレンフィルムであるMC-S(厚さ30μm)と、凸版印刷社製アルミナ蒸着ポリエステルフィルムであるGL-ARH(厚さ12μm)を用意した。
【0072】
GL-ARHの蒸着層側に、上記のドライラミネート用接着剤をワイヤーバー#14を用いてバーコート法にて塗工し、80℃、30秒の条件でオーブンにて乾燥し、ドライ塗布量2g/m2の接着層(ADH)を得た。
【0073】
大成ラミネーター社製の卓上ラミネーターFA-570を用いて、ラミネート温度60℃、圧力0.5MPaの条件で、上記の接着層にMC-S(厚さ30μm)のコロナ処理面側を貼合し、積層フィルムを得た。この積層フィルムを表裏の保護フィルム12F,12Bとして使用した。
【0074】
そして、同じ接着剤を使用して、厚さ50μmのアルミニウム箔の両面にMC-S(厚さ30μm)を貼り合せて、基材シート11とした。
【0075】
次に、裏側保護フィルム12B,基材シート11,表側保護フィルム12Fの順に、テスター産業社製のヒートシーラーTP-701-Bに設置した。そして、150℃、0.5MPa、10秒間の条件で、幅1cm、長さ30cmのシールバーを用いて、これらの端部3辺をヒートシールし、開口部を有する包装袋状に形成した。この包装袋は、基材シート11と表側保護フィルム12Fとの間に消火剤用収容室を有しており、同様に、基材シート11と裏側保護フィルム12Bとの間にも消火剤用収容室を有している。
【0076】
そして、消火剤としてモリタ宮田工業株式会社製ABC消火剤を32.5g計量し、前記2つの収容室のそれぞれに充填した。
【0077】
最後に、上記ヒートシーラーを用いて、開口部の端部を上記と同様の条件でヒートシールし、消火体10を作製した。
【0078】
(実施例2)
厚さ50μmのアルミニウム箔の代わりに、厚さ50μmのポリフェニレンサルファイドから成る東レ(株)製トレニナを使用した他は、実施例1と同様に消火体10を作製した。
【0079】
(比較例)
基材シート11の両側に消火剤用収容室を設ける代わりに、片側だけに消火剤用収容室を設けた。その他の点は実施例1と同様である。
【0080】
(評価)
実施例1,2及び比較例の消火体に対して、その両側から炎を接触させて、この炎が消えるか否かを調べた。実施例1,2については、消火体のどちら側から炎を接触させても、この炎を消火することができた。一方、比較例については、消火剤が配置された片側から炎を接触させた時には消火することができたが、その反対側から接触させたときには消火することができなかった。