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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056396
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】自動車車体のヘミング部構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/10 20060101AFI20240416BHJP
   F16B 11/00 20060101ALI20240416BHJP
   F16B 5/08 20060101ALI20240416BHJP
   B21D 19/08 20060101ALI20240416BHJP
   C09J 9/02 20060101ALI20240416BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
B62D25/10 D
F16B11/00 B
F16B5/08 Z
B21D19/08 C
C09J9/02
C09J201/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163239
(22)【出願日】2022-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【弁理士】
【氏名又は名称】網屋 美湖
(72)【発明者】
【氏名】山内 亮
【テーマコード(参考)】
3D004
3J001
3J023
4J040
【Fターム(参考)】
3D004AA02
3D004CA01
3J001FA02
3J001GA02
3J001GA03
3J001GB01
3J001HA04
3J001JD12
3J001KA07
3J001KA21
3J001KB01
3J023EA01
3J023FA01
3J023GA01
4J040JA13
4J040JB10
4J040KA32
4J040KA37
4J040NA16
(57)【要約】
【課題】 ヘミング部に用いる接着剤が導電性であっても非導電性であっても、アウターパネル及びインナーパネルの腐食を抑制することができる自動車車体のヘミング部構造を提供する。
【解決手段】 自動車車体のヘミング部構造は、アウターパネル10と、インナーパネル20と、アウターパネルとインナーパネルを接合する接着剤30とを備え、アウターパネルの縁部は、インナーパネルの縁部を包み込むように折り返してヘミング部を構成し、接着剤30は、2液混合硬化型樹脂のA液を内包する熱応答性マイクロカプセル31Mと、2液混合硬化型樹脂のB液を内包する熱応答性マイクロカプセル32Mとを含み、接着剤の露出した部分の少なくとも一部の領域は、2液混合硬化型樹脂の被膜33で覆われている。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウターパネルと、インナーパネルと、前記アウターパネルと前記インナーパネルを接合する接着剤とを備える自動車車体のヘミング部構造であって、
前記アウターパネルの縁部が、前記インナーパネルの縁部を包み込むように折り返してヘミング部を構成し、
前記接着剤が、2液混合硬化型樹脂のA液を内包する熱応答性マイクロカプセルと、2液混合硬化型樹脂のB液を内包する熱応答性マイクロカプセルとを含み、
前記接着剤の露出した部分の少なくとも一部の領域が、前記2液混合硬化型樹脂の被膜で覆われている、ヘミング部構造。
【請求項2】
前記接着剤が導電性付与剤を含み、前記接着剤の露出した部分のうちの別の一部の領域が、電着塗膜で覆われている、請求項1に記載のヘミング部構造。
【請求項3】
前記接着剤が熱硬化性接着シートであり、前記熱硬化性接着シートの表面に前記2液混合硬化型樹脂のA液を内包する熱応答性マイクロカプセルと、前記2液混合硬化型樹脂のB液を内包する熱応答性マイクロカプセルとが埋め込まれている、請求項1又は2に記載のヘミング部構造。
【請求項4】
前記接着剤が熱硬化性接着剤であり、その硬化温度が、熱応答性マイクロカプセルの応答温度より低い、請求項1又は2に記載のヘミング部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車車体のヘミング部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体には、例えばボンネットフード、ドア、フェンダ、バックドア等の多くの車体構成部品が装着されており、これら各構成部品の車体内外部には、それぞれインナーパネルおよびアウターパネルが設けられている。図7に示すように、アウターパネル10とインナーパネル20を接合する方法として、ヘミング曲げが用いられている。さらに、このヘミング部に接着剤60を塗布し、パネル間のズレを防止する工法が広く採用されている。より具体的には、各パネルのプレス成型後、接着剤を塗布した後にヘミング曲げを実施し、その後、塗装焼付時に接着剤を硬化させるのが一般的である。したがって、この接着剤60には、加熱(120~200℃程度)によって硬化する熱硬化型のものが使用される。また、接着剤60は、導電性と非導電性のいずれも用いられる。ヘミング部に用いられる導電性接着剤は、カーボン系の導電性フィラーが接着剤中にて網状に連結し、導電性を確保している。
【0003】
このような接着剤を用いたヘミング曲げとして、特許文献1には、内装板とこの内装板の縁部を覆う折り曲げ部分を有する外装板とからなる自動車車体のヘミング部の空隙に、熱膨張性フィラーを含有する接着剤を充填し、塗装の硬化のために行なう加熱処理により、接着剤を膨張させて塗装の端縁部を被覆することを特徴とする自動車車体ヘミング部の形成方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2582780号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ヘミング部の構造は、図8に示すように、アウターパネル10が折り返されたヘミング曲げ内部18は、インナーパネル20と接着剤30によって袋構造の閉じられた空隙となっている。このヘミング曲げ内部18は、電着塗装工程において、空気が抜けないため電着液が入らず、電着塗装が施されにくい部位である。空隙が生じないようにヘミング曲げ内部18を接着剤60で満たす方法もあるが、ヘミング曲げ時に接着剤60がはみ出してアウターパネル10又はインナーパネル20に付着し、美観を損ねる、あるいは電着塗装を阻害して耐食性を低下させる懸念がある。
【0006】
一方、ヘミング曲げ内部18に対して接着剤60を挟んだ反対側(図8の上側)は開放されており、電着液が入り電着塗装が施される部位となっている。接着剤60が導電性の場合、電着塗装工程において接着剤60表面にも電着塗料40が付着するため、アウターパネル10、インナーパネル20及び接着剤60の表面を隙間なく電着塗料40を形成することが可能であり、防食効果が大きい。しかし、雨中の走行等によりヘミング曲げ内部18に水が浸入すると、鋼板又はアルミニウム合金板であるアウターパネル10とインナーパネル20は、接着剤60中の導電性フィラーより電位が卑であるため、それぞれパネルにガルバニック腐食11、21が生じ、穴あきに至る懸念がある。ガルバニック腐食の対策として接着剤60中の導電性フィラーの量を減らす方法もあるが、電気伝導度が低下して電着塗装の着き回わりが悪くなり、防食効果が低下するという問題がある。
【0007】
また、図9に示すように、非導電性の接着剤61を用いた場合、上記のヘミング曲げ内部18にガルバニック腐食は生じなくなるが、開放側では非導電性の接着剤61の表面に電着塗料40が付着しないため、非導電性の接着剤61と、アウターパネル10、インナーパネル20の各表面の電着塗料40との境界部に隙間が生じて弱点部となり、ここに水が浸入するとアウターパネル10及びインナーパネル20に腐食12、22が発生する不具合が生じるという問題がある。
【0008】
特許文献1では、上述した非導電性の接着剤の課題を解決するため、接着剤中に熱膨張性フィラーを含有させ、塗装焼付時に接着剤が膨張して弱点部を覆う方法が示されている。しかしながら、熱膨張によりパネルの変形が生じ、美観を損ねる、あるいはヘミング部の接合強度を低下させる懸念がある。
【0009】
そこで本発明は、上記の問題点に鑑み、ヘミング部に用いる接着剤が導電性であっても非導電性であっても、アウターパネル及びインナーパネルの腐食を抑制することができる自動車車体のヘミング部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明に係る発明は、アウターパネルと、インナーパネルと、前記アウターパネルと前記インナーパネルを接合する接着剤とを備える自動車車体のヘミング部構造であって、前記アウターパネルの縁部は、前記インナーパネルの縁部を包み込むように折り返してヘミング部を構成し、前記接着剤は、2液混合硬化型樹脂のA液を内包する熱応答性マイクロカプセルと、2液混合硬化型樹脂のB液を内包する熱応答性マイクロカプセルとを含み、前記接着剤の露出した部分の少なくとも一部の領域は、前記2液混合硬化型樹脂の被膜で覆われている。
【発明の効果】
【0011】
このように本発明によれば、アウターパネルとインナーパネルを接合する接着剤が、2液混合硬化型樹脂のA液を内包する熱応答性マイクロカプセルと、2液混合硬化型樹脂のB液を内包する熱応答性マイクロカプセルとを含むことで、接着剤のアウターパネル及びインナーパネルから露出した部分を、2液混合硬化型樹脂の被膜で覆うことができるので、腐食を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る自動車車体のヘミング部構造を形成する方法の一例を示すフロー図である。
図2図1に示す電着塗装後のヘミング部構造の一実施の形態を模式的に示す断面図である。
図3図1に示す塗装焼付直後のヘミング部構造の一実施の形態を模式的に示す断面図である。
図4図3に示すヘミング部構造において2液混合硬化型樹脂のA液およびB液が混合した後を模式的に示す断面図である。
図5】本発明に係る自動車車体のヘミング部構造の別の実施の形態を模式的に示す断面図である。
図6】本発明に係る自動車車体のヘミング部構造の更に別の実施の形態を模式的に示す断面図である。
図7】自動車車体のヘミング部構造の一例を示す模式図である。
図8】従来のヘミング部構造の一例を模式的に示す断面図である。
図9】従来のヘミング部構造の別の例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る自動車車体のヘミング部構造の一実施の形態について説明する。なお、図面は、構成が簡潔で明瞭であるように図示したものであり、必ずしも縮尺通りに描いたものではない。
【0014】
本実施の形態の自動車車体のヘミング部構造は、アウターパネルと、インナーパネルと、アウターパネルとインナーパネルを接合する接着剤とを備えており、アウターパネルの縁部は、インナーパネルの縁部を包み込むように折り返してヘミング部を構成している。接着剤は、2液混合硬化型樹脂のA液を内包する熱応答性マイクロカプセルと、2液混合硬化型樹脂のB液を内包する熱応答性マイクロカプセルとを含み、接着剤の露出した部分の少なくとも一部の領域は、2液混合硬化型樹脂の被膜で覆われているというものである。
【0015】
本実施の形態のヘミング構造は、例えば、図1に示すように、プレス成形工程S1と、ヘミング工程S2と、電着塗装工程S3とを含むヘミング部形成方法によって形成することができる。なお、ヘミング工程S2は、接着剤塗布S2-1と、ヘミング曲げS2-2との2つの小工程を含み、電着塗装工程S3は、水洗・化成処理S3-1と、電着塗装S3-2と、塗装焼付S3-3との3つの小工程を含む。
【0016】
プレス成形工程S1は、車体外側に配置されるアウターパネルと、車体内側に配置されるインナーパネルとをそれぞれ、ボンネットフード、ドア、フェンダ、バックドア等の所定の形状にプレス成形する工程である。アウターパネルとインナーパネルの素材としては、例えば、鋼板や、アルミニウム合金板を用いることができる。
【0017】
次に、ヘミング工程S2の接着剤塗布S2-1は、アウターパネルとインナーパネルのとの間の接合部に接着剤を塗布する小工程である。本実施の形態の接着剤は、マイクロカプセルが分散されている。ベースとなる接着剤は、一般的にヘミング部へ使用されている接着剤でよく、例えば、エポキシ系接着剤や、フェノール系接着剤などを用いることができる。接着剤は、導電性であっても、非導電性であってもよい。例えば、導電性の場合、接着剤中にカーボン製の導電性フィラーなどの導電性付与剤を含有させることができる。また、接着剤は、常温硬化型であってもよいし、熱硬化型であってもよい。
【0018】
マイクロカプセルは、加熱によって融解または軟化等が起こってその内包物を放出する熱応答性を有する。このような熱応答性マイクロカプセルとしては、例えば、特開平7-51560号公報や、特開平6-145421号公報などに示されるフェノール樹脂製マイクロカプセルや、特開平5-317694号公報などに示されるポリウレタン樹脂製マイクロカプセルなどを用いることができる。マイクロカプセルの大きさは、特に限定されないが、例えば、平均直径が50~500μmの範囲のものを用いる。
【0019】
熱応答性マイクロカプセルの応答温度(T3)は、後述する電着塗装工程S3の電着塗装S3-2に用いる電着塗料の硬化温度(T1)よりも低いものが好ましく、これにより、電着塗装工程S3の塗装焼付S3-3によってその内包物を放出することができる。熱応答性マイクロカプセルの応答温度(T3)は、例えば、電着塗料の硬化温度(T1)よりも15℃低くすることが好ましく、30℃低くすることがより好ましい。すなわち、T1が200℃の場合、T3は185℃以下とすることが好ましく、170℃以下とすることがより好ましい。
【0020】
一方、熱応答性マイクロカプセルの応答温度(T3)は、ベースの接着剤が熱硬化型の場合、その硬化温度(T2)よりも高い温度とすることが好ましく、これにより、放出されるマイクロカプセルの内包物がベースの接着剤と混ざってしまうことを防ぐことができる。ベースの接着剤が常温硬化型のものを使用する場合、熱応答性マイクロカプセルの応答温度(T3)は、常温より高くすることが好ましいが、電着塗装工程S3の塗装焼付S3-3に至る前に熱応答性マイクロカプセルが熱応答により内包物を放出してしまうことを防ぐため、例えば、80℃以上がより好ましく、120℃以上が更に好ましい。
【0021】
マイクロカプセル中には、2液混合硬化型樹脂のA液と、2液混合硬化型樹脂のB液とが、それぞれ別個に内包されている。2液混合硬化型樹脂としては、非導電性であり、A液とB液とが混合することで硬化して樹脂となるものであれば特に限定されないが、例えば、エポキシ系樹脂や、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂などを用いることができる。A液およびB液は、例えば、エポキシ系樹脂では、主剤および硬化剤とも呼ばれている。
【0022】
ヘミング工程S2のヘミング曲げS2-2は、一般的に行われているヘミング曲げでよく、アウターパネルの縁部を、インナーパネルの縁部に包み込むように折り返すことによって、これらを接合する小工程である。
【0023】
電着塗装工程S3の水洗・化成処理S3-1は、電着塗装を行う際に、前処理として一般的に行われている水洗や化成処理を行う小工程である。水洗により、アウターパネルおよびインナーパネルの表面の汚れや油分を除去することができ、また、化成処理により、アウターパネルおよびインナーパネルの表面に化成皮膜を形成することができる。化成処理としては、例えば、リン酸亜鉛処理などがある。
【0024】
電着塗装工程S3の電着塗装S3-2は、一般的に行われている電着塗装でよく、電着液が充填された電着槽にアウターパネルおよびインナーパネルを浸漬し、通電することで、アウターパネルおよびインナーパネルの露出表面に電着塗料を付着させる小工程である。電着塗料としては、例えば、カチオン電着塗料などを用いることができる。電着塗料は、例えば、120~200℃の硬化温度(T1)を有する。このようにして電着塗装S3-2が行われた際のヘミング部を図2に示す。なお、図2は、接着剤として導電性接着剤を用いた場合を示すものである。
【0025】
図2に示すように、ヘミング部では、アウターパネル10の縁部が、インナーパネル20の縁部を包み込むように折り返されており、アウターパネル10とインナーパネルと20の間には導電性の接着剤30が塗布されている。そして、アウターパネル10が折り返されたヘミング曲げ内部18は、インナーパネル20と接着剤30によって袋構造の閉じられた空隙となっている。接着剤30中には、2液混合硬化型樹脂のA液を内包する熱応答性マイクロカプセル31Mと、2液混合硬化型樹脂のB液を内包する熱応答性マイクロカプセル32Mとが分散されている。
【0026】
アウターパネル10とインナーパネル20の露出表面には、電着塗料40が付着している。図2では接着剤30が導電性接着剤であることから、電着塗装S3-2により接着剤30の露出表面にも電着塗料40が付着するが、接着剤30のヘミング曲げ内部18側の露出表面には、ヘミング曲げ内部18が閉じられた袋構造であり電着液が浸入しないことから、電着塗料40の付着はない。そして、露出表面の電着塗料40を硬化させるために、塗装焼付S3-3を行う。
【0027】
電着塗装工程S3の塗装焼付S3-3は、一般的に行われている塗装焼付でよく、電着塗料40の硬化温度(T1)にアウターパネル10およびインナーパネル20を加熱して、電着塗料40を硬化して電着塗膜40Cとする小工程である。塗装焼付S3-3が行われた直後のヘミング部を図3に示す。
【0028】
図3に示すように、塗装焼付S3-3によってヘミング部が加熱されて熱応答性マイクロカプセル31M、32Mの応答温度(T2)に達すると、熱応答性マイクロカプセル31M、32Mが融解等によりその内包物である2液混合硬化型樹脂のA液31およびB液32を放出する。そして、接着剤30の露出表面に近いマイクロカプセルの2液混合硬化型樹脂のA液31とB液32は、接着剤30の露出表面へと流出し、接着剤30中にはマイクロカプセルの空洞31E、32Eが残ることとなる。
【0029】
2液混合硬化型樹脂のA液31とB液32は、それぞれ単独では熱硬化せずに流動性を保つため、図4に示すように、接着剤30の露出表面において混ざり合って、化学反応が進行して硬化し、樹脂被膜33が形成される。このようにヘミング曲げ内部18において接着剤30の露出表面が非導電性の樹脂被膜33で覆われることで、ヘミング曲げ内部18に水が浸入しても、導電性の接着剤30中の導電性フィラーに水は接触せず、アウターパネル10およびインナーパネル20にガルバニック腐食が生じるのを防ぐことができる。なお、ヘミング曲げ内部18において接着剤30の露出表面の全面が樹脂被膜33で覆われている必要はなく、一部の面が露出していても、ガルバニック腐食が生じるのを十分に防ぐ効果が得られる。
【0030】
一方、ヘミング曲げ内部18とは反対側である開放側における接着剤30の露出表面は、接着剤30が導電性であり、また開放されていることから、その全面が電着塗膜40Cで覆われ、よって、腐食を防止できる。なお、接着剤30の表面に電着塗料40が付着している場合、2液混合硬化型樹脂のA液31とB液32は電着塗料40を通過できないことから、開放側のおける接着剤30の露出表面に樹脂被膜は形成されない。
【0031】
このようにヘミング曲げ内部18のガルバニック腐食を防止できるため、接着剤30中の導電性フィラーの量を増やし、電気伝導率を増大させることが可能である。これにより、開放側の接着剤30の電着塗料40の着き回りを向上させ、防食効果を増大させることができる。また、マイクロカプセル31M、32Mが分散されていても、接着剤30の体積変化は一般的にヘミング部へ用いられている接着剤と同等であり、よってパネルの変形や接着剤のはみ出しが生じるおそれがない。
【0032】
図3及び図4では、接着剤30が導電性の場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、接着剤は非導電性であっても同様に優れた腐食防止効果を発揮することができる。非導電性の接着剤を用いる場合について、図5を参照して説明する。図5は、塗装焼付S3-3が行われた後のヘミング部であり、図3及び図4と同様の構成については同様の符号を付している。
【0033】
図5に示すように、ヘミング曲げ内部18とは反対側である接着剤34の開放側の露出表面には、接着剤34が非導電性であるため、電着塗装S3-2で電着塗料40は付着しない。よって、塗装焼付S3-3では、ヘミング曲げ内部18側も開放側も、接着剤34の露出表面に近い熱応答性マイクロカプセル31M、32Mから放出された2液混合硬化型樹脂のA液31およびB液32が、接着剤34の露出表面へと流出し、接着剤34中にはマイクロカプセルの空洞31E、32Eが残ることとなる。そして、2液混合硬化型樹脂のA液31とB液32は、それぞれ単独では熱硬化せずに流動性を保つため、接着剤34の露出表面において混ざり合って硬化し、ヘミング曲げ内部18側および開放側の両方で樹脂被膜33が形成される。よって、ヘミング曲げ内部18のガルバニック腐食を防止できるとともに、開放側でも、アウターパネル10、インナーパネル20の各表面の電着塗膜40Cと非導電性の接着剤34との境界部に生じる隙間を樹脂被膜33で塞ぐことができるので、パネルに腐食が発生するのを防ぐことができる。
【0034】
また、図2図5では接着剤30、34をアウターパネル10、インナーパネル20に塗布する場合について説明してきたが、本発明はこれに限定されず、例えば、図6に示すように、シート状の接着剤50として、これをアウターパネル10とインナーパネル20の間に貼り付けるようにしてもよい。シート状の接着剤50は、そのシート表面に2液混合硬化型樹脂のA液を内包する熱応答性マイクロカプセル31Mと、2液混合硬化型樹脂のB液を内包する熱応答性マイクロカプセル32Mとが埋め込まれている。
【0035】
熱応答によって樹脂被膜を形成する2液混合硬化型樹脂を内包するマイクロカプセルは、上述したように接着剤の露出表面付近のものであるから、図6に示すようにシート状の接着剤の表面にのみに熱応答マイクロカプセル31M、32Mを設けることで、マイクロカプセルを有効利用することができる。より有効利用するために、シート状の接着剤50の両端部に熱応答マイクロカプセル31M、32Mを埋め込んでもよい。
【符号の説明】
【0036】
10 アウターパネル
18 ヘミング曲げ内部
20 インナーパネル
30 導電性の接着剤
31、32 2液混合硬化型樹脂のA液、B液
31M、32M 熱応答性マイクロカプセル
33 樹脂被膜
34 非導電性の接着剤
40 電着塗料
50 シート状の接着剤
60 導電性の接着剤
61 非導電性の接着剤
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9