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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056411
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】試料支持体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/28 20060101AFI20240416BHJP
【FI】
G01N1/28 W
G01N1/28 F
G01N1/28 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163271
(22)【出願日】2022-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小入羽 祐治
(72)【発明者】
【氏名】牧野 文信
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AA28
2G052AB18
2G052AD29
2G052AD52
2G052DA33
2G052EB08
2G052FA05
2G052GA34
(57)【要約】
【課題】複数種類の懸濁液を塗布できる試料支持体を提供する。
【解決手段】試料支持体10の表面には、複数の塗布領域22A-22D及び分離領域18が定められている。分離領域18には、疎水作用を発揮する凹凸構造が設けられている。各塗布領域22A-22Dには、各グリッド部16A-16Dを覆う支持膜14A-14Dが設けられている。各塗布領域22A-22Dに懸濁液が塗布される。試料支持体10の製造過程では、グリッド部16A-16Dの製作時に凹凸構造も製作される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のグリッド部を有する基板と、前記複数のグリッド部を覆うように前記基板の表面に設けられた複数の支持膜と、を含む試料支持体であって、
前記各グリッド部は、透過電子顕微鏡による試料観察のための複数の貫通孔を有し、
当該試料支持体の表面上に複数の塗布領域及び分離領域が定められ、
前記各塗布領域には前記各支持膜の表面が含まれ、
前記分離領域により前記各塗布領域がそれ以外の1又は複数の塗布領域から隔てられ、
前記分離領域は疎水作用を発揮する領域であり、
前記各塗布領域は凍結処理前に試料を含む懸濁液が塗布される領域である、
ことを特徴とする試料支持体。
【請求項2】
請求項1記載の試料支持体において、
前記分離領域内には前記疎水作用を発揮する凹凸構造が設けられている、
ことを特徴とする試料支持体。
【請求項3】
請求項2記載の試料支持体において、
前記基板の表層に前記凹凸構造が設けられている、
ことを特徴とする試料支持体。
【請求項4】
請求項3記載の試料支持体において、
前記凹凸構造は、二次元配列された複数の凹要素、及び/又は、二次元配列された複数の凸要素を有する、
ことを特徴とする試料支持体。
【請求項5】
請求項1記載の試料支持体において、
前記分離領域は、当該試料支持体の表面を横断する少なくとも1つの分離帯を有する、
ことを特徴とする試料支持体。
【請求項6】
請求項1記載の試料支持体において、
前記分離領域は、当該試料支持体の表面を横断し互いに交差する複数の分離帯を有する、
ことを特徴とする試料支持体。
【請求項7】
請求項1記載の試料支持体において、
前記基板の裏側には、前記複数のグリッド部を露出させる複数の窓部が設けられており、
前記基板は、前記複数の窓部それら全体を取り囲む枠部分と、前記複数の窓部の間を通過する横断部分と、を有する、
ことを特徴とする試料支持体。
【請求項8】
基板の表層に複数のグリッド部及び疎水作用を発揮する凹凸構造を製作する工程と、
前記複数のグリッド部が覆われるように、前記基板の表面に複数の支持膜を設ける工程と、
を含み、
前記各グリッド部は、透過電子顕微鏡による試料観察のための複数の貫通孔を有し、
前記基板及び前記複数の支持膜を含む試料支持体の表面上に複数の塗布領域及び分離領域が定められ、
前記各塗布領域には前記各支持膜の表面が含まれ、
前記分離領域により前記各塗布領域がそれ以外の1又は複数の塗布領域から隔てられ、
前記分離領域は前記凹凸構造が形成されている領域であり、
前記各塗布領域は凍結処理前に試料を含む懸濁液が塗布される領域である、
ことを特徴とする試料支持体製造方法。
【請求項9】
請求項8記載の試料支持体製造方法において、
前記複数のグリッド部に含まれる複数の貫通孔及び前記凹凸構造に含まれる凹形状が同時に形成される、
ことを特徴とする試料支持体製造方法。
【請求項10】
請求項8記載の試料支持体製造方法において、
前記複数の支持膜を設ける工程は、
前記複数のグリッド部が覆われるように前記基板の表面に支持膜シートを設ける工程と、
前記支持膜シートの内で前記凹凸構造を覆っている部分を除去し、これにより前記複数の支持膜を生じさせる工程と、
を含む、
ことを特徴とする試料支持体製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料支持体及びその製造方法に関し、特に、透過電子顕微鏡による試料観察に先立って実施される氷包埋処理に適する試料支持体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たんぱく質やウイルス等の試料に対して単粒子解析法(Single Particle Analysis)を適用する場合、氷包埋法(Vitreous Ice Embedding method)に従って、試料が前処理される。具体的には、試料支持体上に試料を含む懸濁液が塗布(滴下、付着等)された後、その試料支持体が液体冷媒の中に入れられ、試料支持体上の懸濁液が急速に冷却される。これにより試料支持体上に、凍結された氷包埋層が生じる。氷包埋層中の試料が透過電子顕微鏡で観察される。その観察により得られる多数の画像に基づいて試料の三次元構造が解析される。
【0003】
多様な試料支持体が実用化されている。その中には、面状に広がる平坦な膜を備える第1の試料支持体、及び、二次元配列された複数の微小開口を有する膜を備える第2の試料支持体が含まれる。第1の試料支持体を使用する場合、凍結処理後に、膜上に面状に広がる薄い氷包埋層が生じる。第2の試料支持体を使用する場合、凍結処理後に、複数の微小開口の中に複数の薄い氷包埋層が生じる。なお、単粒子解析法以外の解析法において、あるいは、他の目的から、試料支持体上に氷包埋層が形成されることもある。試料支持体はグリッド又はメッシュとも称される。
【0004】
特許文献1に開示された試料支持体は、基板及び支持膜を有する。特許文献2に開示された試料支持体の表面には、親水性の高い中央領域と親水性の低い周辺領域とが設けられている。特許文献1,2のいずれにも、複数種類の液体の塗布に適する試料支持体及びその製造方法については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2010-521656号公報
【特許文献2】特開2005-174657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の試料支持体は、いずれも、単一の懸濁液の塗布を前提とするものであり、複数の懸濁液を同時に塗布することはできない。仮に、試料支持体に対して複数の懸濁液を塗布したならば、複数の懸濁液の間で混合が生じてしまう。
【0007】
本発明の目的は、複数の懸濁液の間での混合を防止しながら複数の懸濁液を塗布することが可能な試料支持体及び製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る試料支持体は、複数のグリッド部を有する基板と、前記複数のグリッド部を覆うように前記基板の表面に設けられた複数の支持膜と、を含む試料支持体であって、前記各グリッド部は、透過電子顕微鏡による試料観察のための複数の貫通孔を有し、当該試料支持体の表面上に複数の塗布領域及び分離領域が定められ、前記各塗布領域には前記各支持膜の表面が含まれ、前記分離領域により前記各塗布領域がそれ以外の1又は複数の塗布領域から隔てられ、前記分離領域は疎水作用を発揮する領域であり、前記各塗布領域は凍結処理前に試料を含む懸濁液が塗布される領域である、ことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る試料支持体製造方法は、基板の表層に複数のグリッド部及び疎水作用を発揮する凹凸構造を製作する工程と、前記複数のグリッド部が覆われるように、前記基板の表面に複数の支持膜を設ける工程と、を含み、前記各グリッド部は、透過電子顕微鏡による試料観察のための複数の貫通孔を有し、前記基板及び前記複数の支持膜を含む試料支持体の表面上に複数の塗布領域及び分離領域が定められ、前記各塗布領域には前記各支持膜の表面が含まれ、前記分離領域により前記各塗布領域がそれ以外の1又は複数の塗布領域から隔てられ、前記分離領域は前記凹凸構造が形成されている領域であり、前記各塗布領域は凍結処理前に試料を含む懸濁液が塗布される領域である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複数の懸濁液の間での混合を防止しながら複数の懸濁液を塗布することが可能な試料支持体及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る試料支持体を示す平面図である。
図2】グリッド部を示す拡大図である。
図3】凹凸構造の第1例を示す拡大図である。
図4】実施形態に係る試料支持体を示す断面図である。
図5】実施形態に係る試料支持体製造方法を示す図である。
図6】単粒子解析のための測定方法を示すフローチャートである。
図7】凹凸構造の第2例を示す図である。
図8】凹凸構造の第3例を示す図である。
図9】他の実施形態に係る試料支持体を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る試料支持体は、基板、及び、複数の支持膜を有する。基板は、複数のグリッド部を有する。複数の支持膜は、複数のグリッド部を覆うように基板の表面に設けられる。各グリッド部は、透過電子顕微鏡による試料観察のための複数の貫通孔を有する。試料支持体の表面上に複数の塗布領域及び分離領域が定められる。各塗布領域には各支持膜の表面が含まれる。分離領域により各塗布領域がそれ以外の1又は複数の塗布領域から隔てられる。分離領域は疎水作用を発揮する領域である。各塗布領域は凍結処理前に試料を含む懸濁液が塗布される領域である。
【0014】
上記構成によれば、試料支持体の表面上に複数の塗布領域が定められているので、試料支持体に対して、異なる複数の懸濁液を塗布することが可能である。その際、分離領域が機能し、複数の懸濁液の間での混合が防止される。複数の懸濁液の塗布後に試料支持体が急速に冷却される。これにより、試料支持体上に複数の氷包埋層が生じる。上記構成によれば、透過電子顕微鏡の中に試料支持体を入れたまま、複数の試料を順次観察することが可能となる。
【0015】
実施形態において、分離領域内には、疎水作用を発揮する凹凸構造が設けられている。具体的には、基板の表層に凹凸構造が設けられている。実施形態において、凹凸構造は、二次元配列された複数の凹要素、及び/又は、二次元配列された複数の凸要素を有する。凹凸構造によれば、基板に対する加工により、分離領域に対して疎水機能を容易に与えることが可能である。複数の貫通孔と凹凸構造とを同時に形成すれば、試料支持体の製造過程の複雑化を回避できる。上記構成は、凹凸構造により濡れ性又は接触角を操作するものである。
【0016】
実施形態において、分離領域は、試料支持体の表面を横断する少なくとも1つの分離帯を有する。あるいは、分離領域は、試料支持体の表面を横断し互いに交差する複数の分離帯を有する。この構成によれば、分離領域を回り込んだ懸濁液移動を防止できる。
【0017】
実施形態において、基板の裏側には、複数のグリッド部を露出させる複数の窓部が設けられている。基板は、複数の窓部それら全体を取り囲む枠部分と、複数の窓部の間を通過する横断部分と、を有する。この構成によれば、横断部分により基板の剛性を高められ、これにより基板が反り難くなる。
【0018】
実施形態に係る試料支持体製造方法は、基板加工工程、及び、支持膜形成工程を有する。基板加工工程では、基板の表層に複数のグリッド部及び疎水作用を発揮する凹凸構造が製作される。支持膜形成工程では、複数のグリッド部が覆われるように、基板の表面に複数の支持膜が設けられる。各グリッド部は、透過電子顕微鏡による試料観察のための複数の貫通孔を有する。基板及び複数の支持膜を含む試料支持体の表面上に複数の塗布領域及び分離領域が定められる。各塗布領域には各支持膜の表面が含まれる。分離領域により各塗布領域がそれ以外の1又は複数の塗布領域から隔てられる。分離領域は凹凸構造が形成されている領域である。各塗布領域は凍結処理前に試料を含む懸濁液が塗布される領域である。
【0019】
実施形態においては、複数のグリッド部に含まれる複数の貫通孔及び凹凸構造に含まれる凹形状が同時に形成される。複数の貫通孔と凹形状とを同時に形成すれば、試料支持体の製造過程を簡素化できる。凹形状は1又は複数の凹要素からなるものである。
【0020】
実施形態において、複数の支持膜を設ける工程は、複数のグリッド部が覆われるように基板の表面に支持膜シートを設ける工程と、支持膜シートの内で凹凸構造を覆っている部分を除去し、これにより複数の支持膜を生じさせる工程と、を含む。複数の支持膜を基板の表面に設けるのは一般に難しいが、上記方法によれば、比較的容易に複数の支持膜を設けることが可能となる。
【0021】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係る試料支持体10が示されている。試料支持体10は、図示の構成例において、基板12及び支持膜アレイ14により構成される。基板12は、例えば、シリコン基板である。一般に、シリコン基板は他の基板に比べて反り難い。よって、基板12をシリコン基板で構成すれば、試料支持体10上の様々な位置に存在する複数の試料を電子顕微鏡で観察する際にフォーカス調整が容易となる。なお、シリコン以外の材料で基板12を構成することも考えられる。
【0022】
基板12には、図示の構成例において、グリッド部アレイ16が形成されている。グリッド部アレイ16は、二次元配列された4つのグリッド部16A,16B,16C,16Dにより構成される。グリッド部16A,16B,16C,16Dは、それぞれ、二次元配列された多数の貫通孔を有する。
【0023】
支持膜アレイ14は、図示の構成例において、4つの支持膜14A,14B,14C,14Dにより構成される。4つの支持膜14A,14B,14C,14Dは、4つのグリッド部16A,16B,16C,16Dを覆うように、基板12の表面13上に固定されている。各支持膜14A,14B,14C,14Dは、物理的に強く非常に薄い層である。具体的には、各支持膜14A,14B,14C,14Dは、例えば、グラフェン(単層グラフェン)、又は、グラフェン積層体、により構成される。グラフェンは、非常に薄い炭素原子連結体である。グラフェン積層体は、例えば、2~4層のグラフェンにより構成される。各支持膜14A,14B,14C,14Dがグラファイト又はカーボンシートにより構成されてもよい。カーボン以外の材料で各支持膜14A,14B,14C,14Dを構成することも考えられる。
【0024】
試料支持体10の表面には、図示の構成例において、4つの塗布領域22A,22B,22C,22D及び分離領域18が定められている。4つの塗布領域22A,22B,22C,22D内に、4つの支持膜14A,14B,14C,14Dが設けられている。具体的には、各塗布領域22A,22B,22C,22Dそれ全体にわたって各支持膜14A,14B,14C,14Dが設けられている。
【0025】
支持膜14A,14B,14C,14Dは、それぞれ、グリッド部及び周辺領域を覆っている。例えば、塗布領域22Aにおいては、支持膜14Aがグリッド部16Aの表面20及び周辺領域21を覆っている。周辺領域21は表面20を囲む領域である。各塗布領域22A,22B,22C,22D内において、少なくとも、各グリッド部16A,16B,16C,16Dが覆われるように、各支持膜14A,14B,14C,14Dが設けられる。各塗布領域22A,22B,22C,22D内の周辺領域において、基板12の表面13を露出させてもよい。各塗布領域22A,22B,22C,22Dは、分離領域18と比較した場合、親水性を有する領域である。
【0026】
分離領域18それ全体にわたって凹凸構造が設けられている。具体的には、基板12の表層に凹凸構造が形成されている。凹凸構造により濡れ性又は接触角が操作され、これにより、分離領域18において疎水作用が発揮される。分離領域18は、具体的には、試料支持体10の中心C付近において交差する2つの分離帯18A,18Bを有する。
【0027】
分離帯18A,18Bは、それぞれ、基板12の表面13を完全に横断している。具体的には、分離帯18Aは、表面13における第1辺から第2辺にわたって形成されており、分離帯18Bは、表面13における第3辺から第4辺にわたって形成されている。
【0028】
試料前処理過程において、試料支持体10における4つの塗布領域22A,22B,22C,22Dに対して、例えば、4種類の懸濁液が塗布される。必要に応じて、塗布された各懸濁液における余剰部分が除去される。その際には、濾紙等が用いられる。各懸濁液は、たんぱく質、ウイルス等の試料を含有する液体である。
【0029】
4つの塗布領域22A,22B,22C,22Dの内で、任意数の塗布領域が使用されてもよい。塗布領域22A,22Bに対して第1の懸濁液が塗布され、残りの塗布領域22C,22Dに対して第2の懸濁液が塗布されてもよい。
【0030】
塗布工程後、試料支持体10が液体冷媒中に浸漬される。これにより、4つの塗布領域22A,22B,22C,22D内に、4つの氷包埋層34A,34B,34C,34Dが生じる。氷包埋層34A,34B,34C,34Dは、それぞれ、非晶質の薄膜である。氷包埋層34A,34B,34C,34Dには、それぞれ、複数の粒子(複数の試料粒子)が含まれる。氷包埋層34A,34B,34C,34Dは、グリッド部16A,16B,16C,16Dを覆っており、1又は複数の貫通孔を通じて個々の粒子が透過電子顕微鏡により観察される。
【0031】
実施形態に係る試料支持体によれば、分離領域により、各塗布領域がそれ以外の1又は複数の塗布領域から隔てられている。また、分離領域は、複数の塗布領域の間において疎水作用を発揮する。よって、試料支持体に対して複数の懸濁液を塗布した場合にそれらの混合を効果的に防止できる。1つの試料支持体に複数の氷包埋層を形成できるので、試料支持体の交換を行うことなく、透過電子顕微鏡を用いて複数の試料を順次観察できる。
【0032】
図1において、x方向は第1水平方向であり、y方向は第2水平方向である。x方向及びy方向は互いに直交している。それらに直交する方向としてz方向が定められているが、図1にはz方向が示されていない。試料支持体10において、x方向の幅x1及びy方向の幅y1は、それぞれ、1~10mmの範囲内にあり、例えば、3mmである。各グリッド部16A,16B,16C,16Dにおいて、x方向の幅x2及びy方向の幅y2は、それぞれ、0.25~2.5mmの範囲内にあり、例えば、1mmである。分離帯18Bの幅x3及び分離帯18Aの幅y3は、それぞれ、100~500μmの範囲内にあり、例えば、200μmである。本願明細書において挙げる各数値範囲及び各数値は、いずれも例示に過ぎないものであり、状況や目的に応じて、各数値範囲及び各数値を変更し得る。
【0033】
図2は、図1において符号24が示す部分の拡大図である。各グリッド部は二次元配列された複数の貫通孔25により構成される。各貫通孔25の直径は、1~25μmの範囲内に設定され、例えば、17μmである。各貫通孔25の断面の形状は円であるが、その形を楕円等にしてもよい。
【0034】
図3は、図1において符号26が示す部分の拡大図である。図3は、分離領域内に形成された凹凸構造の第1例を示すものである。具体的には、分離領域は、複数の凹要素30及び複数の凸要素32により構成される。複数の凹要素30及び複数の凸要素32がx方向及びy方向に交互に並んでいる。これにより、チェッカーフラッグのようなパターンが構成されている。複数の凹要素30は、後述するようにエッチングにより形成される。エッチング後に残留した部分が複数の凸要素32である。各凹要素30は、直方体形状を有し、各凸要素32も直方体形状を有する。
【0035】
各凹要素30のx方向の幅x4及びy方向の幅y4、並びに、各凸要素32のx方向の幅x4及びy方向の幅y4は、すべて等しく、1~20μmの範囲内に設定され、例えば、10μmである。各凹要素30の底面レベルと各凸要素32の上面レベルの間の距離(各凹要素30の深さ)は、1~20μmの範囲内に設定され、例えば、10μmである。複数の貫通孔と複数の凹要素30を同時に製作する場合、望ましくは、各凹要素30の深さが各貫通孔の深さに揃えられる。
【0036】
図4には、図1においてIVで示す位置の断面が示されている。なお、図4においては、各部分が誇張表現されている。
【0037】
既に説明したように、試料支持体10は、基板12を有する。基板12はx方向及びy方向に広がる矩形体である。符号36は基板12の裏面を示している。基板12の裏側には、4つのグリッド部(図4において符号16A,16Bを参照)に対応した4つの窓部(図4において符号38A,38Bを参照)が形成されている。各窓部は凹形態を有する。
【0038】
基板12は、4つの窓部それら全体を囲む枠部分39を有する。また、基板12は、4つの窓部の間を通過する十字状の横断部分40を有する。横断部分40は、y方向に伸長した部分40Bとx方向に伸長した部分とを有する。すなわち、横断部分40は、交差する2つの分離帯(図4において符号18Bを参照)に対応した交差する2つの梁を有する。
【0039】
基板12の表面には、4つの支持膜(図4において符号14A,14Bを参照)が設けられている。冷却処理後、4つの支持膜上に4つの氷包埋層(図4において符号34A,34Bを参照)が生じる。4つのグリッド部が4つの氷包埋層に覆われる。試料観察時において、電子線43が、氷包埋層34A、支持膜14Aを透過した上で、貫通孔を通過する。
【0040】
基板12の厚さz1は、50~200μmの範囲内に設定され、例えば、100μmである。各グリッド部の厚さz2は、5~30μmの範囲内に設定され、例えば、10μmである。各支持膜の厚みは、例えば、数nmから20nmの範囲内である。氷包埋層の厚みは、例えば、数十nmから数百nmの範囲内である。
【0041】
図5には、実施形態に係る試料支持体製造方法が示されている。工程(A)において、基板41の表面上にレジスト層42が形成される。その際には、スピンコーター等が利用される。基板41は、シリコン基板であり、具体的にはシリコンウエハである。望ましくは、できるだけ反りの少ないシリコンウエハを利用する。実際には、複数の試料支持体が同時に製作される。
【0042】
工程(B)において、リソグラフィー技術を用いて、レジスト層42に開口パターン44が形成される。開口パターン44の形成に当たっては、コンタクトアライナー、レーザー描画装置、電子線描画装置、等が用いられる。工程(C)において、深堀り反応性イオンエッチング(Deep-RIE)により、基板41の表層に4つのグリッド部及び凹凸構造が同時に製作される。工程(D)において、基板41上のレジスト層が除去される。
【0043】
工程(E)において、基板41の表面それ全体に対して酸化膜46が設けられる。その場合、例えば、湿式酸化法を用い得る。工程(F)において、酸化膜を有する基板41の裏面にレジスト層48が形成される。その場合にはスピンコーター等が用いられる。工程(G)において、リソグラフィー技術を用いて、レジスト層48に開口パターン(4つの開口部)50が形成される。
【0044】
工程(H)において、酸化膜に対するエッチングが実施される。その場合、エッチング方法として、ウェットエッチング、ドライエッチング等が挙げられる。符号52は、エッチングにより除去された4つの部分を示している。工程(I)において、基板のエッチングにより4つの窓部54が形成される。これにより4つのグリッド部の裏面が露出する。その場合におけるエッチング方法は、例えば、水酸化カリウム水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(TMAH)等を利用した異方性ウェットエッチングである。
【0045】
工程(J)において、基板上に残留している酸化膜がすべて除去される。その後、必要に応じて、基板の表面に金属等を堆積させてもよい。そのような処理を施せば、基板と支持膜シートの密着性を良好にできる。堆積させる金属として、金、白金等が挙げられる。
【0046】
工程(K)において、基板に対して支持膜シート56が設けられる。支持膜シート56は、例えば、グラフェンシートである。ベース層及び支持膜シート56からなる積層体を基板上に固着した上で、ベース層を除去することにより、基板上に支持膜シート56を残留させてもよい。化学気相成長法(CVD)を利用して基板上に支持膜シート56を形成してもよい。工程(K)の実行後、支持膜シート56の表面(基板表面において露出している部分があれば当該部分を含む)に対して、親水処理が施されてもよい。例えば、支持膜シート56の表面に対してプラズマ処理が施されてもよい。
【0047】
工程(L)において、基板上にマスク部材58が一時的に配置される。マスク部材58は、十字形状を有する溝を有する。支持膜シートに対して、溝を通じてアルゴンビーム59が照射される。これにより、支持膜シートにおいて分離領域に相当する部分がエッチングされ、その結果、凹凸構造が露出し、同時に、4つの支持膜が残留する。工程(M)において、マスク部材が取り除かれる。
【0048】
上記の製造方法によれば、複数の貫通孔と複数の凹要素とを同時に製作できる。また、支持膜シートのエッチングにより4つの支持膜を生じさせることができるので、基板上に4つの支持膜を個別的に配置しなくてもよくなる。上記のアルゴンビームによるエッチングに代えて、機械的な切削、化学的な処理、等を適用してもよい。
【0049】
図6には、実施形態に係る試料支持体を用いた測定方法が示されている。S10では、試料支持体が用意され、S12において、試料支持体における4つの塗布領域に対して4つの懸濁液が塗布される。S14では、塗布された各懸濁液の液量が調整される。例えば、余剰分が濾紙に吸い取られる。S16では、懸濁液塗布後の試料支持体が液体冷媒中に浸漬される。これにより各懸濁液が急速凍結される。S18では、急速凍結で生じた4つの氷包埋層に対して顕微鏡観察が順次実施される。その過程において試料ごとに多数の画像が取得される。S20では、多数の画像に基づいて試料ごとに単粒子解析が実行される。S22で示すようにS10~S16が前処理に相当する。
【0050】
図7には、凹凸構造の第2例が示されている。凹凸構造62は、二次元配列された複数の凸要素64を有する。各凸要素64は、上方から見て十字形状を有している。複数の凸要素64の周囲が凹形状66である。
【0051】
図8には、凹凸構造68の第3例が示されている。凹凸構造68は、二次元配列された複数の凸要素70を有する。各凸要素70は円柱形状を有する。複数の凸要素70の周囲が凹形状72である。
【0052】
図9には、他の実施形態に係る試料支持体が示されている。試料支持体74は、基板76及び2つの支持膜86A,86Bを有する。2つの塗布領域84A,84B内に2つの支持膜86A,86Bが設けられている。基板76には、2つのグリッド部78A,78Bが形成されている。2つの支持膜86A,86Bが2つのグリッド部78A,78Bを覆っている。基板76の表面において、2つの塗布領域84A,84B以外の領域には、分離領域80及び囲み領域(外側領域)82が含まれる。分離領域80及び囲み領域82には、疎水作用を発揮する凹凸構造が形成されている。分離領域80の他に囲み領域82が設けられているので、各塗布領域84A,84Bに塗布された懸濁液の保持作用を高められる。すなわち、複数の懸濁液の混合を防止でき、かつ、外部への各懸濁液の流出を防止できる。
【0053】
2つの塗布領域84A,84Bに対して2種類の懸濁液が塗布され、余剰分が除去された上で、試料支持体が液体冷媒中に浸漬される。これにより、2つの塗布領域84A,84B内に2つの氷包埋層88A,88Bが生じる。
【0054】
上記実施形態において、分離領域に設けられた凹凸構造に代えて、分離領域に対して疎水処理(例えば疎水型プラズマ処理)を施してもよい。分離領域に対して疎水作用をもった層を形成してもよい。各支持膜の表面又は各塗布領域に対して親水処理(例えば親水型プラズマ処理)を施してもよい。
【0055】
上記実施形態に係る試料支持体において、基板はシリコン基板である。シリコン基板を用いることにより、試料支持体が反り難くなるので、透過電子顕微鏡において試料を観察する場合にフォーカス調整が容易となる。各支持膜を単層グラフェン又は多層グラフェンで構成すれば、一定の強度を得つつも、各支持膜の厚さを非常に小さくできる。シリコン基板と単層グラフェン又は多層グラフェンの組み合わせによる利点は、分離領域の有無にかかわらず、得られるものである。
【符号の説明】
【0056】
10 試料支持体、12 基板、14 支持膜アレイ、16 グリッド部アレイ、18 分離領域、22A,22B,22C,22D 塗布領域、34A,34B,34C,34D 氷包埋層。
図1
図2
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図5
図6
図7
図8
図9