(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056415
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】くびれ検出制御方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/073 20060101AFI20240416BHJP
B23K 9/095 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
B23K9/073 545
B23K9/095 501A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163276
(22)【出願日】2022-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】馬塲 勇人
(72)【発明者】
【氏名】高田 賢人
【テーマコード(参考)】
4E082
【Fターム(参考)】
4E082AB01
4E082DA01
4E082EA11
4E082EB11
4E082EC03
4E082EC13
4E082EF07
(57)【要約】
【課題】消耗電極アーク溶接において、種々の溶接施工状態においても、くびれの誤検出によって溶接状態が不安定になることを抑制すること。
【解決手段】溶接ワイヤを送給し、溶接ワイヤと母材との間で短絡期間とアーク期間とを繰り返してアーク溶接を行い、短絡期間中の時刻t2に溶滴のくびれを検出すると溶接電流Iwを減少させてアーク期間に移行させるくびれ検出制御方法において、時刻t1からの短絡期間の経過時間が時刻t13の基準時間に達した以降にくびれの検出Ndを行う。短絡期間の時間長さの平均値を算出し、上記の基準時間を短絡期間の平均値に基づいて設定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤを送給し、前記溶接ワイヤと母材との間で短絡期間とアーク期間とを繰り返してアーク溶接を行い、
前記短絡期間中に溶滴のくびれを検出すると溶接電流を減少させて前記アーク期間に移行させるくびれ検出制御方法において、
前記短絡期間の経過時間が基準時間に達した以降に前記くびれの検出を行う、
ことを特徴とするくびれ検出制御方法。
【請求項2】
前記短絡期間の時間長さの平均値を算出し、
前記基準時間を前記短絡期間の前記平均値に基づいて設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載のくびれ検出制御方法。
【請求項3】
前記基準時間を前記短絡期間の前記平均値から予め定めたくびれ時間を減算して設定する、
ことを特徴とする請求項2に記載のくびれ検出制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短絡期間中にアークが再発生する前兆現象である溶滴のくびれを検出して溶接電流を減少させて溶接するくびれ検出制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶接ワイヤと母材との間で短絡期間とアーク期間とを繰り返し、短絡期間中にアークが再発生する前兆現象である溶滴のくびれを検出し、くびれを検出すると溶接電流を減少させてアークを再発生させる消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記のくびれ検出制御を行うためには、溶滴のくびれの状態をアーク発生部の電圧から正確に検出する必要がある。このために、アーク発生部の電圧を検出するために、母材と溶接トーチとに専用の検出線を配線している。しかし、被溶接物の構造によっては、アーク発生部の近い位置に検出線を接続することができない場合がある。また、複数台の溶接電源が共通母材の状態で溶接が行われる場合には、検出線に他の溶接電源の溶接電流の変化に伴うノイズが重畳する。このような場合には、くびれを誤検出して溶接状態が不安定になる場合も生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明では、種々の溶接施工状態においても、くびれの誤検出によって溶接状態が不安定になることを抑制することができるくびれ検出制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
溶接ワイヤを送給し、前記溶接ワイヤと母材との間で短絡期間とアーク期間とを繰り返してアーク溶接を行い、
前記短絡期間中に溶滴のくびれを検出すると溶接電流を減少させて前記アーク期間に移行させるくびれ検出制御方法において、
前記短絡期間の経過時間が基準時間に達した以降に前記くびれの検出を行う、
ことを特徴とするくびれ検出制御方法である。
【0007】
請求項2の発明は、
前記短絡期間の時間長さの平均値を算出し、
前記基準時間を前記短絡期間の前記平均値に基づいて設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載のくびれ検出制御方法である。
【0008】
請求項3の発明は、
前記基準時間を前記短絡期間の前記平均値から予め定めたくびれ時間を減算して設定する、
ことを特徴とする請求項2に記載のくびれ検出制御方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るくびれ検出制御方法によれば、種々の溶接施工状態においても、くびれの誤検出によって溶接状態が不安定になることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態に係るくびれ検出制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るくびれ検出制御方法を示す
図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態に係るくびれ検出制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0013】
電力制御回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する誤差増幅信号Eaに従ってインバータ制御等の出力制御を行い、溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを出力する。この電力制御回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器、整流された直流を平滑するリアクトル、誤差増幅信号Eaを入力としてパルス幅変調制御を行う変調回路、パルス幅変調制御信を入力としてインバータ回路のスイッチング素子を駆動するインバータ駆動回路を備えている。
【0014】
減流抵抗器Rは、上記の電力制御回路PMと溶接トーチ4との間に挿入される。この減流抵抗器Rの値は、短絡負荷(0.01~0.03Ω程度)の50倍以上大きな値(0.5~3Ω程度)に設定される。このために、くびれ検出制御によって減流抵抗器Rが通電路に挿入されると、溶接電源内の直流リアクトル及び外部ケーブルのリアクトルに蓄積されたエネルギーが急放電される。トランジスタTRは、減流抵抗器Rと並列に接続されて、後述する駆動信号Drに従ってオン又はオフ制御される。
【0015】
溶接ワイヤ1は、送給モータFDによって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間には溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。
【0016】
溶接電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、溶接電流検出信号Idを出力する。
【0017】
溶接電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、溶接電圧検出信号Vdを出力する。
【0018】
短絡判別回路SDは、上記の溶接電圧検出信号Vdを入力として、この値が予め定めた短絡/アーク判別値Vta(10V程度)未満であるときは短絡期間にあると判別してHighレベルとなり、以上のときはアーク期間にあると判別してLowレベルになる短絡判別信号Sdを出力する。
【0019】
平均短絡時間算出回路TSAは、上記の短絡判別信号Sdを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)である短絡時間を所定周期にわたって移動平均して、平均短絡時間算出信号Tsaを出力する。上記の所定周期は、短絡が発生する周期であり、例えば10~50周期程度に設定される。したがって、短絡が発生するごとに、その直前の所定周期の短絡時間の平均値が算出される。
【0020】
基準時間設定回路TTRは、上記の平均短絡時間算出信号Tsaを入力として、平均短絡時間算出信号Tsaの値から予め定めたくびれ時間Tnを減算して、基準時間設定信号Ttrを出力する。
【0021】
くびれ検出許可回路PSは、上記の短絡判別信号Sd及び上記の基準時間設定信号Ttrを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化した時点からの経過時間が基準時間設定信号Ttrの値に達した時点でHighレベルとなり、その後に短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化するとLowレベルに戻るくびれ検出許可信号Psを出力する。
【0022】
くびれ検出基準値設定回路VTNは、予め定めたくびれ検出基準値信号Vtnを出力する。溶接法、送給速度、溶接ワイヤ1の材質、直径等の溶接条件に応じて、このくびれ検出基準値信号Vtnの値は適正値に設定される。
【0023】
くびれ検出回路NDは、上記のくびれ検出基準値信号Vtn、上記のくびれ検出許可信号Ps、上記の溶接電圧検出信号Vd及び上記の溶接電流検出信号Idを入力として、くびれ検出許可信号PsがHighレベルであるときの溶接電圧検出信号Vdの電圧上昇値がくびれ検出基準値信号Vtnの値に達した時点でくびれが形成されたと判別してHighレベルとなり、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点でLowレベルになるくびれ検出信号Ndを出力する。また、短絡期間中の溶接電圧検出信号Vdの微分値がそれに対応したくびれ検出基準値信号Vtnの値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。さらに、溶接電圧検出信号Vdの値を溶接電流検出信号Idの値で除算して溶滴の抵抗値を算出し、この抵抗値の微分値がそれに対応するくびれ検出基準値信号Vtnの値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。
【0024】
低レベル電流設定回路ILRは、予め定めた低レベル電流設定信号Ilrを出力する。
【0025】
電流比較回路CMは、上記の低レベル電流設定信号Ilr及び上記の溶接電流検出信号Idを入力として、Id<IlrのときはHighレベルになり、Id≧IlrのときはLowレベルになる電流比較信号Cmを出力する。
【0026】
駆動回路DRは、上記の電流比較信号Cm及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化するとLowレベルに変化し、その後に電流比較信号CmがHighレベルに変化するとHighレベルに変化する駆動信号Drを上記のトランジスタTRのベース端子に出力する。したがって、この駆動信号Drはくびれ検出信号NdがHighレベルになるとLowレベルになり、トランジスタTRがオフ状態になり通電路に減流抵抗器Rが挿入されるので、短絡負荷を通電する溶接電流Iwは急減する。そして、急減した溶接電流Iwの値が低レベル電流設定信号Ilrの値まで減少すると、駆動信号DrはHighレベルになり、トランジスタTRがオン状態になるので、減流抵抗器Rは短絡されて通常の状態に戻る。この結果、溶接電流Iwは、低レベル電流設定信号Ilrの値を維持する。
【0027】
電流制御設定回路ICRは、上記の短絡判別信号Sd、上記の低レベル電流設定信号Ilr及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、以下の処理を行い、電流制御設定信号Icrを出力する。
1)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡)に変化した時点から予め定めた初期期間中は、予め定めた初期電流設定値となる電流制御設定信号Icrを出力する。
2)その後の電流上昇期間中は、上記の初期電流設定値から予め定めた短絡時傾斜で上昇する電流制御設定信号Icrを出力する。
3その後に)電流制御設定信号Icrの値が予め定めたピーク電流設定値に達すると、その値を維持する電流制御設定信号Icrを出力する。
4)その後に、くびれ検出信号NdがHighレベル(くびれ検出)に変化すると、低レベル電流設定信号Ilrの値となる電流制御設定信号Icrを出力する。
5)その後に短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化して予め定めた遅延期間Tdが経過すると、電流制御設定信号Icrを、予め定めたアーク時傾斜で予め定めた高レベル電流設定値まで上昇させ、その値を維持する。
【0028】
電流誤差増幅回路EIは、上記の電流制御設定信号Icr(+)と上記の溶接電流検出信号Id(-)との誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
【0029】
電圧設定回路VRは、アーク期間中の溶接電圧を設定するための予め定めた電圧設定信号Vrを出力する。電圧誤差増幅回路EVは、この電圧設定信号Vr及び上記の溶接電圧検出信号Vdを入力として、電圧設定信号Vr(+)と溶接電圧検出信号Vd(-)との誤差を増幅して電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0030】
制御切換回路SWは、上記の電流誤差増幅信号Ei、上記の電圧誤差増幅信号Ev及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡)に変化した時点から、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化して上記の遅延期間及び予め定めた高電流期間が経過した時点までの期間中は電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力し、それ以外の期間中は電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力する。この回路により、短絡期間+遅延期間Td+高電流期間中は定電流制御となり、それ以外のアーク期間中は定電圧制御となる。
【0031】
送給速度設定回路FRは、予め定めた送給速度設定信号Frを出力する。送給制御回路FCは、この送給速度設定信号Frを入力として、この設定値に相当する送給速度で溶接ワイヤ1を送給するための送給制御信号Fcを上記の送給モータFDに出力する。
【0032】
図2は、本発明の実施の形態に係るくびれ検出制御方法をしめす
図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(C)はくびれ検出信号Ndの時間変化を示し、同図(D)は駆動信号Drの時間変化を示し、同図(E)は短絡判別信号Sdの時間変化を示し、同図(F)はくびれ検出許可信号Psの時間変化を示す。図示は省略するが、溶接ワイヤ1は定速送給されている。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0033】
(1)時刻t1の短絡発生から時刻t2のくびれ検出信号NdがHighレベルとなるまでの動作
時刻t1において溶接ワイヤ1が母材2と接触すると短絡期間になり、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは数V程度の短絡電圧値に急減する。この溶接電圧Vwが短絡/アーク判別値Vta未満になったことを判別して、同図(E)に示すように、短絡判別信号SdはLowレベルからHighレベルに変化する。同図(A)に示すように、
図1の電流制御設定信号Icrによって設定される溶接電流Iwは、時刻t1においてアーク期間の溶接電流値から減少し、時刻t1~t11の予め定めた初期期間中は予め定めた初期電流値となり、時刻t11~t12の電流上昇期間中は予め定めた短絡時傾斜で上昇し、時刻t12以降は予め定めたピーク電流値となる。
【0034】
同図(C)に示すように、くびれ検出信号Ndは、後述する時刻t2~t3の期間はHighレベルとなり、それ以外の期間はLowレベルとなる。同図(D)に示すように、駆動信号Drは、後述する時刻t2~t21の期間はLowレベルとなり、それ以外の期間はHighレベルとなる。したがって、同図において時刻t2以前の期間中は、駆動信号DrはHighレベルとなり、
図2のトランジスタTRがオン状態となるので、減流抵抗器Rは短絡されて通常の消耗電極アーク溶接電源と同一の状態となる。同図(F)に示すように、くびれ検出許可信号Psは、後述する時刻t13~t3の期間はHighレベルとなり、それ以外の期間はLowレベルとなる。例えば、上記の初期期間は0.5ms程度であり、初期電流値は50A程度である。短絡時傾斜は260A/ms程度であり、電流上昇期間は1.5ms程度である。ピーク期間は1.5ms程度であり、ピーク電流値は440A程度である。
【0035】
時刻t13において短絡期間の経過時間が
図1の基準時間設定信号Ttrの値に達すると、同図(F)に示すように、くびれ検出許可信号PsがHighレベル(許可状態)に変化する。基準時間設定信号Ttrは以下のようにして設定される。
1)
図1の平均短絡時間算出回路TSAによって、短絡期間の時間長さを所定周期にわたって移動平均して、平均短絡時間を算出する。
2)
図1の基準時間設定回路TTRによって、算出された上記の平均短絡時間から予め定めたくびれ時間Tnを減算して基準時間を設定する。
くびれ時間Tnは0.5ms程度に設定される。これは、くびれが誤検出されることなく正確に検出されるときは、短絡が解除されてアークが再発生する時点よりも0.2~0.7ms程度前の時点でくびれが検出される。この0.2~0.7msの時間をくびれ時間Tnとしている。換言すれば、くびれ時間Tnよりも前にくびれが検出された場合には、上述したように、ノイズ等の影響によってくびれを誤検出している可能性が高くなる。したがって、短絡期間の経過時間が基準時間よりも前の期間にくびれが検出されたときは誤検出の可能性が高いので、くびれの検出を禁止している。すなわち、本実施の形態では、短絡期間の経過時間が基準時間に達した以降にくびれの検出を行うようにしている。これにより、くびれの誤検出によって溶接状態が不安定になることを抑制している。平均短絡時間は3.5ms程度であるので、基準時間は3ms程度となる。
【0036】
時刻t13以降の期間中は、同図(F)に示すように、くびれ検出許可信号PsがHighレベルであるので、くびれ検出が許可されている状態にある。 同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは、時刻t13以降から上昇する。これは、溶滴にくびれが次第に形成されるためである。
【0037】
(2)時刻t2のくびれ検出信号NdがHighレベルに変化した時点から時刻t3のアーク再発生時点までの動作
時刻t2において、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwが上昇して初期期間中の電圧値からの電圧上昇値ΔVが予め定めたくびれ検出基準値Vtnと等しくなったことによってくびれを検出すると、同図(C)に示すように、くびれ検出信号NdはHighレベルに変化する。これに応動して、同図(D)に示すように、駆動信号DrはLowレベルになるので、
図1のトランジスタTRはオフ状態となり減流抵抗器Rが通電路に挿入される。このために、同図(A)に示すように、溶接電流Iwはピーク電流値から急減する。そして、時刻t21において、溶接電流Iwが低レベル電流設定信号Ilrで設定される低レベル電流値Ilまで減少すると、同図(D)に示すように、駆動信号DrはHighレベルに戻るので、
図1のトランジスタTRはオン状態となり減流抵抗器Rは短絡される。この結果、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t21からアークが再発生する時刻t3まで低レベル電流値Ilを維持する。したがって、トランジスタTRは、時刻t2にくびれ検出信号NdがHighレベルに変化してから時刻t21に溶接電流Iwが低レベル電流値Ilに減少するまでの期間のみオフ状態となる。同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが小さくなるので時刻t2から一旦減少し、その後に急上昇する。
【0038】
(3)時刻t3のアーク再発生から遅延期間Tdが経過して時刻t4の高電流期間が終了するまでの動作
時刻t3においてアーク3が再発生すると、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwの値は短絡/アーク判別値Vta以上となり、同図(E)に示すように、短絡判別信号SdはLowレベルに変化する。時刻t3~t31の期間が予め定めた遅延期間Tdとなり、時刻t31~t4の期間が予め定めた高電流期間となる。時刻t3にアークが再発生してから遅延期間Td及び高電流期間が経過する時刻t4まで溶接電源は定電流制御されているので、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t3~t31の遅延期間Td中は低レベル電流値Ilとなり、時刻t31からはアーク時傾斜で上昇し、高レベル電流値に達するとその値を時刻t4まで維持する。同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは、時刻t3~t31の遅延期間Td中はアーク電圧値となり、時刻t31~t4の高電流期間中はそれよりも大の高レベル電圧値となる。時刻t3にアークが再発生するので、同図(C)に示すくびれ検出信号Nd及び同図(F)に示すくびれ検出許可信号PsはLowレベルに戻る。例えば、上記の遅延期間Tdは0.1ms程度であり、上記のアーク時傾斜は300A/ms程度であり、上記の高レベル電流値は350A程度であり、上記の高電流期間は1.5ms程度である。
【0039】
(4)時刻t4の高電流終了時点から時刻t5の次の短絡発生までのアーク期間の動作
時刻t4において高電流期間が終了すると、溶接電源は定電流制御から定電圧制御へと切り換えられる。このために、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは高レベル電流値から次第に減少する。同様に、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは高レベル電圧値から次第に減少する。時刻t5に次の短絡が発生するよりも0.5ms程度前の時点で溶接電流Iwを減少させる制御を行う場合もある。このようにすると、短絡発生時のスパッタ発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
CM 電流比較回路
Cm 電流比較信号
DR 駆動回路
Dr 駆動信号
Ea 誤差増幅信号
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
FC 送給制御回路
Fc 送給制御信号
FD 送給モータ
FR 送給速度設定回路
Fr 送給速度設定信号
ICR 電流制御設定回路
Icr 電流制御設定信号
ID 溶接電流検出回路
Id 溶接電流検出信号
Il 低レベル電流値
ILR 低レベル電流設定回路
Ilr 低レベル電流設定信号
Iw 溶接電流
ND くびれ検出回路
Nd くびれ検出信号
PM 電力制御回路
PS くびれ検出許可回路
Ps くびれ検出許可信号
R 減流抵抗器
SD 短絡判別回路
Sd 短絡判別信号
SW 制御切換回路
Td 遅延期間
TR トランジスタ
TSA 平均短絡時間算出回路
Tsa 平均短絡時間算出信号
TTR 基準時間設定回路
Ttr 基準時間設定信号
VD 溶接電圧検出回路
Vd 溶接電圧検出信号
VR 電圧設定回路
Vr 電圧設定信号
Vta 短絡/アーク判別値
VTN くびれ検出基準値設定回路
Vtn くびれ検出基準値信号
Vw 溶接電圧
ΔV 電圧上昇値