(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056420
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】床構造体、床構造体の施工方法および建物
(51)【国際特許分類】
E04F 15/18 20060101AFI20240416BHJP
E04F 15/20 20060101ALI20240416BHJP
B32B 3/30 20060101ALI20240416BHJP
B32B 7/02 20190101ALI20240416BHJP
【FI】
E04F15/18 602C
E04F15/20
B32B3/30
B32B7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163282
(22)【出願日】2022-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】390018717
【氏名又は名称】旭化成建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】永吉 智之
【テーマコード(参考)】
2E220
4F100
【Fターム(参考)】
2E220AA19
2E220AB06
2E220BA01
2E220BA22
2E220EA03
2E220FA02
2E220FA11
2E220GA09X
2E220GA22X
2E220GA24X
2E220GA25X
2E220GB11X
2E220GB17Z
2E220GB22X
2E220GB34X
2E220GB37X
2E220GB43X
2E220GB45Y
2E220GB46Y
4F100AA00A
4F100AA00C
4F100AR00B
4F100AT00A
4F100AT00C
4F100BA03
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100GB07
4F100JH01B
(57)【要約】
【課題】上階から下階に伝わる軽量・重量床衝撃音を軽減することができる床構造体、床構造体の施工方法および建物を提供すること
【解決手段】第1のパネル、遮音材、および第2のパネルが順に積層されてなる床構造体において、遮音材の少なくとも一方の面に突起が設けられており、該突起によって、第1のパネルと遮音材との間、および/または、遮音材と第2のパネルとの間に、空間が設けられていることを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のパネル、遮音材、および第2のパネルが順に積層されてなる床構造体において、
前記遮音材の少なくとも一方の面に突起が設けられており、該突起によって、前記第1のパネルと前記遮音材との間、および/または、前記遮音材と前記第2のパネルとの間に、空間が設けられていることを特徴とする床構造体。
【請求項2】
前記第1のパネルおよび前記第2のパネルが、無機系材料からなるパネルである、請求項1に記載の床構造体。
【請求項3】
前記第1のパネルおよび/または前記第2のパネルと前記遮音材との前記突起による接触面積割合は、前記第1のパネルおよび/または前記第2のパネルそれぞれの全体面積に対し、1/200~1/4である、請求項1に記載の床構造体。
【請求項4】
前記遮音材の両面に突起が設けられており、該突起の配置が両面でずれている、請求項1に記載の床構造体。
【請求項5】
床下地材をさらに有し、
前記第1のパネルは、前記床下地材上に配されている、請求項1に記載の床構造体。
【請求項6】
前記遮音材は、留付材によって前記床下地材に固定されており、該留付材は、該遮音材の前記突起部分を避けて配置される、請求項5に記載の床構造体。
【請求項7】
前記遮音材は、前記床下地材よりも透湿抵抗が高い、請求項5に記載の床構造体。
【請求項8】
前記第2のパネル上に配された、床仕上材をさらに有し、
前記遮音材は、前記床仕上材よりも透湿抵抗が高い、請求項1に記載の床構造体。
【請求項9】
第1のパネルを設置する第1のパネル設置工程と、
前記第1のパネルの上面に遮音材を設置する遮音材設置工程と、
前記遮音材の上面に、第2のパネルを設置する第2のパネル設置工程と、を備え、
前記遮音材の少なくとも一方の面に設けられた突起によって、前記第1のパネルと前記遮音材との間、および/または、前記遮音材と前記第2のパネルとの間に、空間を設けることを特徴とする、床構造体の施工方法。
【請求項10】
前記第1のパネル設置工程において、前記第1のパネルを床下地材上に設置し、
前記遮音材設置工程において、前記遮音材を、前記突起を避けた位置で、留付材によって前記床下地材に固定する、請求項9に記載の床構造体の施工方法。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか1項に記載の床構造体を備えた、建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床構造体、床構造体の施工方法および建物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、集合住宅の一部や、2世帯住宅、あるいは3階建て住宅において、セメント系、コンクリート系等の無機系材料からなるパネルを用いた床構造が幅広く使用されている。このような床構造では、例えば梁上にコンクリート系のパネルを敷き込むことにより床を構成している。このようなコンクリート系のパネルからなる床構造体は、従来の木造床に比較すれば、遮音性に優れた性質の床構造である。
【0003】
上階から下階への、床面を通しての騒音には、大きく分けて軽量床衝撃音と重量床衝撃音との2種類がある。軽量床衝撃音は、コインや食器等の比較的軽い物が床に落下した時または人がスリッパを履いて歩いた時等の「チャリーン」「コツン」「パタパタ」等の軽めの高い音であり、フローリングの仕様変更や、カーペットを敷くなどの対策を講じることによって相当程度解決できる。一方、重量床衝撃音は、子供が飛び跳ねたり、重い物が床に落下した時または椅子等の家具が引きずられた時等の鈍くて低い音であって、軽量床衝撃音とは異なり、有効な対策の難しい騒音である。
【0004】
従来では、例えば、軽量気泡コンクリート材と、遮音マットと、合板と、床石膏ボードとを備え、記合板と床石膏ボードとが弾性接着剤によって接着することで、構造全体として、重量床衝撃音および軽量床衝撃音の双方をバランスよく軽減し、高い遮音性能を発揮した遮音構造が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年、居住者の住宅性能に対する要求は高度化してきており、遮音性に関しても、従来よりもさらに優れたものが求められるようになってきている。なかでも重量床衝撃音については高度な遮音性を求める要求が強い。重量床衝撃音については、施工時の床材の材質および工法によってほぼ決まってしまうため、床の設計段階から遮音性能の優れた床材および工法を選択し、施工する必要がある。
【0007】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、本発明の目的は、上階から下階に伝わる軽量・重量床衝撃音を軽減することができる床構造体、床構造体の施工方法および建物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]
第1のパネル、遮音材、および第2のパネルが順に積層されてなる床構造体において、
前記遮音材の少なくとも一方の面に突起が設けられており、該突起によって、前記第1のパネルと前記遮音材との間、および/または、前記遮音材と前記第2のパネルとの間に、空間が設けられていることを特徴とする床構造体。
[2]
前記第1のパネルおよび前記第2のパネルが、無機系材料からなるパネルである、[1]に記載の床構造体。
[3]
前記第1のパネルおよび/または前記第2のパネルと前記遮音材との前記突起による接触面積割合は、前記第1のパネルおよび/または前記第2のパネルそれぞれの全体面積に対し、1/200~1/4である、[1]に記載の床構造体。
[4]
前記遮音材の両面に突起が設けられており、該突起の配置が両面でずれている、[1]に記載の床構造体。
[5]
床下地材をさらに有し、
前記第1のパネルは、前記床下地材上に配されている、[1]に記載の床構造体。
[6]
前記遮音材は、留付材によって前記床下地材に固定されており、該留付材は、該遮音材の前記突起部分を避けて配置される、[5]に記載の床構造体。
[7]
前記遮音材は、前記床下地材よりも透湿抵抗が高い、[5]に記載の床構造体。
[8]
前記第2のパネル上に配された、床仕上材をさらに有し、 前記遮音材は、前記床仕上材よりも透湿抵抗が高い、[1]に記載の床構造体。
[9]
第1のパネルを設置する第1のパネル設置工程と、
前記第1のパネルの上面に遮音材を設置する遮音材設置工程と、
前記遮音材の上面に、第2のパネルを設置する第2のパネル設置工程と、を備え、
前記遮音材の少なくとも一方の面に設けられた突起によって、前記第1のパネルと前記遮音材との間、および/または、前記遮音材と前記第2のパネルとの間に、空間を設けることを特徴とする、床構造体の施工方法。
[10]
前記第1のパネル設置工程において、前記第1のパネルを床下地材上に設置し、
前記遮音材設置工程において、前記遮音材を、前記突起を避けた位置で、留付材によって前記床下地材に固定する、[9]に記載の床構造体の施工方法。
[11]
[1]~[8]のいずれかに記載の床構造体を備えた、建物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上階から下階に伝わる軽量・重量床衝撃音を軽減することができる床構造体、床構造体の施工方法および建物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の床構造体の一構成例を示す断面図である。
【
図2】本発明の床構造体の一構成例を示す断面図である。
【
図4】軽量・重量床衝撃音試験において、木造試験棟における打点位置と受音位置とを示す図である。
【
図5】軽量・重量床衝撃音試験結果を示すグラフである。
【
図6】軽量・重量床衝撃音試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の例示の実施の形態(以下、「本実施形態」と略記する。)について、詳細に説明する。本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。本願明細書において、各数値範囲の上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。
図1および
図2は、本発明の床構造体の一構成例を示す断面図である。
【0012】
本発明の床構造体1は、第1のパネル11、遮音材12、および第2のパネル13が順に積層されてなる床構造体1において、遮音材12の少なくとも一方の面に突起12aが設けられており、突起12aによって、第1のパネル11と遮音材12との間、および/または、遮音材12と第2のパネル13との間に、空間15が設けられていることを特徴とする。
【0013】
なお、本発明において、「第1のパネル11と遮音材12との間、および/または、遮音材12と第2のパネル13との間に、空間15が設けられている」とは、第1のパネル11および/または第2のパネル13と遮音材12とが全面で接触しているのではなく、遮音材12は、突起12aの部分で第1のパネル11および/または第2のパネル13と部分的に接触しており、パネルで囲まれた突起12a以外の部分、すなわち複数の突起12aの隙間に、空間15が画成されていることを意味する。
【0014】
本発明では、第1のパネル11と第2のパネル13とで遮音材12を挟み込むとともに、第1のパネル11および/または第2のパネル13と遮音材12とが突起12aで接触していることで、第1のパネル11および/または第2のパネル13と遮音材12との接触面積が減り、第2のパネル13から第1のパネル11に伝わる床衝撃音を緩和させることができる。これにより、上階から下階に伝わる軽量・重量床衝撃音を軽減することができる。
【0015】
図1に示す本実施形態の床構造体1では、第1のパネル11の下面に配された床下地材10と、第2のパネル13の上面に配された床仕上材14とを有している。
本発明の床構造体1は、木造であっても、鉄骨造や軽量鉄骨造のものであってもよい。鉄骨造や軽量鉄骨造の場合には、床下地材10は配されていなくてもよい。
なお、以下の説明では、床構造体1が木造である場合を例に挙げて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0016】
本実施形態の床構造体1は、階上から階下への床衝撃音の伝播を緩和するものであるため、基本的に、最下階より上階の床構造体に対して、適用される。
そのため、床構造体1は、
図2に示すように、例えば、階上の木造の床梁2に取り付けられた吊木(図示略)、あるいは別途設けられた吊木受け3から降ろされた吊木4と、吊木4につられた野縁受け5と、野縁受け5に固定された野縁6と、野縁6に張り付けられ下階の天井を構成する天井材7とを有する。さらに、天井材7上で野縁6の間に敷き詰められた断熱材8を有していてもよい。
なお、床および天井の構造はこの例に限定されるものではない。
【0017】
床下地材10としては、例えば、パーティクルボード、構造用合板が使用される。
【0018】
床仕上材14としては、例えば、フローリング板、クッションフロア、カーペット、畳等が使用される。
第2のパネル13上に、合板(捨て張り合板)17等を配してから、床仕上材14を配置しても構わない。
【0019】
天井材7としては、例えば、石膏ボード、強化石膏ボード等が使用される。
【0020】
第1のパネル11および第2のパネル13としては、無機材料からなるパネルを用いることが好ましい。無機材料からなるパネルを用いることで、遮音性に優れることに加え、準耐火構造の床構造を実現することができる。
具体的には、準耐火構造の床の仕様規定においては、準耐火45分の床の表側の防火被覆として「厚さが12mm以上の合板等の上に、厚さが9mm以上のせっこうボード若しくは軽量気泡コンクリートパネル又は厚さが8mm以上の硬質木片セメント板を張ったもの」が規定されており(告示1358号 準耐火構造)、無機系材料からなるパネルを用いることで、床厚が薄く、施工性に優れた準耐火構造の床を構成することが可能となる。
【0021】
このような無機材料からなるパネルとしては、例えば、石膏ボード、押出成形セメント板、プレキャストコンクリートパネル、軽量気泡コンクリートパネルなどを使用することができる。
これらの中でも、第1のパネル11および第2のパネル13が、軽量気泡コンクリートパネルであることが好ましい。軽量気泡コンクリートパネルは、床材として適用可能なコンクリート製部材であり、具体的には、「ヘーベル」(登録商標)、「ユカテック」(登録商標)などの軽量気泡コンクリートパネル(ALCパネル)である。ALCパネルは、軽量であり、施工性に優れることから、床材として好適に用いられる。
【0022】
なお、ALCパネルは、JIS A 5416 軽量気泡コンクリートパネル(ALCパネル)に、種類や品質、寸法及び許容差等が示されているが、これに限られたものではなく、例えば密度が規定値外の製品も使用することができる。例えば、厚さとしては35~100mm、比重としては350~500kg/m3のものを使用することができる。
【0023】
以下では、第1のパネル11および第2のパネル13としてALCパネルを用いた場合を例に挙げて説明する。
また、第1のパネル11および第2のパネル13を総称して、単に「パネル」と称する場合がある。
【0024】
遮音材12は、いわゆる吸音材、制震材ないしは防振材などの、人にとって可聴な音の周波数に対応する振動を減衰させる部材である。遮音材12は、柔らかいゴム状の弾性体や硬いスポンジ状の樹脂の発泡体などの、弾性力を有し、振動エネルギーを吸収して熱に変換可能な材料で形成可能である。
【0025】
遮音材12は、第1のパネル11と第2のパネル13との間に配置される。このように遮音材12が第1のパネル11と第2のパネル13との間に配置されることで、第1のパネル11と第2のパネル13との間の床衝撃音の伝播が抑制される。これにより、床構造体1を介した、上階の床から下階の天井への床衝撃音の伝播が抑制される。
【0026】
遮音材12を形成する材料もしくは材質の具体例としては、弾性樹脂、ブチル系ゴム、オレフィン系ゴム、アスファルト、不織布および発泡系樹脂などが挙げられる。これらの材料や材質を用いてマット状・シート状に形成することができる。遮音材12は、これらの材料を組み合わせたものであってもよい。
弾性樹脂の材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン等が挙げられる。
また、遮音材12は、マット状・シート状のものに限定されず、例えば、ゴム板等を加工したものであってもよいが、マット状・シート状の方が、第1のパネル11と第2のパネル13との間に設置する際の施工性に優れる。
【0027】
また、遮音材12は、一般的に、比重が重い方が遮音性能は高くなる。そのため、遮音材12の比重は、1.8~2.6であることが好ましい。
【0028】
本実施形態の床構造体1では、遮音材12の両面に突起12aが設けられている。
図1に示す例では、遮音材12の一方の面にエンボス加工が施されていることにより、遮音材12の片面に多数の突起12aが設けられている。そして、片面に突起12aが設けられた遮音材12の2枚が、突起12aが設けられていない他方の平坦な面を背中合わせにして組み合わせている。これにより、遮音材12の両面に突起12aが設けられたものと実質的に同等となる。本発明では、この場合も「遮音材の両面に突起が設けられている」に含むものとする。
【0029】
これ以外にも、遮音材12の両面に突起12aを設けたもの、遮音材12の片面に突起12aを設けたものを1枚単独で、用いることができる。
また、突起12aの形成方法も金型プレスによるエンボス加工に限定されず、他にも削り出し加工、シートへの樹脂滴下による突起形成等の方法が挙げられる。
【0030】
遮音材12に設けられる突起12aの形状としては特に限定されるものではなく、例えば、平面視で多角形、円形とすることができる。後述するように、パネルに発生する荷重負担の効率の観点からは、円形であることが好ましい。
突起12aの立体形状としても、例えば、錐体形状、半球形状、柱状形状、台形状とすることができる。
【0031】
突起12aの大きさは、特に限定されるものではないが、例えば1mm~20mmであることが好ましく、2mm~10mmであることがより好ましい。これにより、パネルに生じる応力が大きくなりすぎることなく、突起部分を介した床衝撃音の伝播を効果的に抑制することができる。
なお、本明細書でいう「突起12aの大きさ」は、平面視で突起12aが円形の場合には直径を示し、多角形の場合には、最も長い1辺の長さを示す。
【0032】
突起12aの間隔(隣接する突起12aの中心間隔)は、特に限定されるものではないが、例えば2mm~40mmであることが好ましく、4mm~20mmであることがより好ましい。これにより、パネルに生じる応力が大きくなりすぎることなく、突起部分を介した床衝撃音の伝播を効果的に抑制することができる。
【0033】
突起12aの高さは、特に限定されるものではないが、例えば1mm~10mmであることが好ましく、1mm~5mmであることがより好ましい。これにより、パネルに生じる応力が大きくなりすぎることなく、突起部分を介した床衝撃音の伝播を効果的に抑制することができる。
【0034】
パネルと遮音材12との突起12aによる接触面積割合は、パネルの全体面積に対し、1/200(0.5%)~1/4(25%)であることが好ましく、1/100(1%)~1/10(10%)であることがより好ましい。なお、パネルの接触面積割合は、第1のパネル11および/または第2のパネル13のそれぞれについての接触面積割合であり、パネルの全体面積は、第1のパネル11および/または第2のパネル13のそれぞれについての面積である。
【0035】
パネルと遮音材12とが突起12aで部分的に接触していると、パネルに局部的に応力が生じる。この場合、パネルに局部的に生じる応力を0.8N/mm2以下とするという基準(ALCパネル構造設計指針・同解説)があり、一方で、建築基準法の積載荷重の設計より、床には3500N/m2の荷重がパネルを通じて突起12aに伝わることになる。
この関係より、パネル1m2あたり3500Nの荷重に対し、突起12a部分にかかる荷重を0.8N(=800kN)以下で受けるためには、(パネルと遮音材12との突起12aによる接触面積)/(パネルの全体面積)は、3500N/800kN ≒ 1/228以上であればよく、このことから、上記面積割合を1/200以上とした。
【0036】
突起12aによる接触面積割合が上記範囲よりも小さいと、パネルに生じる応力が大きくなり、上述した基準を満たすことができない。一方、接触面積割合が上記範囲よりも大きいと、床衝撃音の伝播が十分に抑制されず、本発明の目的を達成することができない。
【0037】
遮音材12の厚みとしては、特に限定されるものではないが、薄くしすぎると十分な遮音効果が得られず、厚くしすぎると遮音効果は高まるが、その分重くなり施工しにくくなる。そのため、遮音材12の厚みは3mm~8mm程度であることが好ましく、4mm~6mmであることがより好ましい。なお、この厚みは突起12a頂点までを含む厚さである。
上記範囲は、遮音材12の1枚当たりの数値であり、2枚合わせて用いる場合には上記数値を2倍した数値となる。
【0038】
このような遮音材12として具体的には、例えば、蝶理(株)製の「防音Pマット」を用いることができる。この防音Pマットは、突起12aとして、エンボス加工により形成されたピラミッド形状の凸部を多数有する。
図3に、遮音材12の突起12aの一例の写真を示す。
【0039】
遮音材12の両面に突起12aが設けられている場合、突起12aの配置が両面でずれていることが好ましい。
突起12aの配置を両面でずらすことで、音の伝播経路となる突起12aの軸を両面でずらし、床衝撃音の伝播をさらに緩和させることができる。
1枚の遮音材12の両面に突起12aを設ける場合、両面の突起12aの位置をずらして形成する、または、片面に突起12aが設けられた遮音材12を2枚背中合わせで用いる場合、2枚の遮音材12をずらして配置することで、遮音材12の両面での突起12aの配置をずらすことができる。
【0040】
突起12aの配置を両面でずらす方法としては、例えば、突起12aの部分を凸部(山)とし、凸部の間を凹部(谷)とすると、上面の隣接する凸部間の中央に下面の凸部が配置されるようにすると、上面の凸部の下に下面の凹部が配置され、突起12aの軸をずらすことができる。具体的には、突起12aの間隔が5mmまたは10mmである場合、2.5mmまたは5mmずらせばよい。
【0041】
突起12aの軸をずらして床衝撃音の伝播を緩和させる観点から、両面の突起12aの配置は、平面視でX方向、Y方向ともにずれていることが好ましい。
【0042】
また、遮音材12の両面に突起12aが設けられている場合、突起12aの形状や大きさは、両面で同じであってもよいし、異なるものであってもよい。
突起12aの形状や大きさによって、振動の伝えやすい・伝えにくい周波数が変わる可能性があり、突起12aの形状や大きさを両面で異ならせることで、遮音性の更なる向上が期待される。
【0043】
また、遮音材12の片面のみに突起12aが設けられている場合、突起12aは、遮音材12の下側、すなわち第1のパネル11に対向する側に設けられていることが好ましい。突起12aを遮音材12の下側にすることで、遮音材12の上に設けられる第2のパネル13等の施工性が良好になる。
【0044】
遮音材12は、留付材16によって第1のパネル11を介して床下地材10に固定されている。このとき、留付材16は、遮音材12の突起12aの部分を避けて配置される。
遮音材12の突起部分に留付材16を固定すると、留付材16と第2のパネル13とが接触し、留付材16を介して第2のパネル13から第1のパネル11に床衝撃音が伝播されてしまう。そのため、突起12aの部分を避けて突起12a間の凹部部分に留付材16を配置して固定することで、留付材16を介した床衝撃音の伝播を抑制することができる。
留付材16としては、例えば、釘やビスが用いられる。
【0045】
遮音材12は、床下地材10および床仕上材14よりも透湿抵抗が高いことが好ましい。
パネルの遮音材12に対向する側と反対側の面は、床下地材10または床仕上材14で塞がれている。そのため、降雨などによりパネルに含まれた水分(水蒸気)は、床下地材10または床仕上材14が配された側からは放出しにくく、また、床下地材10または床仕上材14に移動した水分によりカビ発生のおそれもある。そして、パネルの水分が、遮音材12側に拡散した場合、遮音材12の透湿抵抗が低いと、水蒸気が遮音材12を透過し、反対側に配されたパネルに再吸収されてしまう。
【0046】
そのため、遮音材12の透湿抵抗を高くすることで、水蒸気の遮音材12の透過が抑えられ、反対側に配されたパネルに水蒸気が再吸収されることが抑制される。本実施形態では、パネルから遮音材12側に拡散した水分を、突起12aの周囲に画成された、パネルと遮音材12との間の空間15を通って外部に放出させることができる。
具体的に、床下地材10および床仕上材14として構造用合板を用いた場合、該合板の透湿抵抗が、厚さ12mmで0.011[m2・s・Pa/ng](省エネ基準書記載値)であるので、遮音材12の透湿抵抗は、0.012[m2・s・Pa/ng]以上であることが好ましく、0.02[m2・s・Pa/ng]以上であることがより好ましい。
【0047】
上述した実施形態では、遮音材12側に突起12aが設けられている場合を例に挙げて説明したが、第1のパネル11および/または第2のパネル13の、遮音材12に対向する側の面に突起が設けられていてもよい。
【0048】
このような構造においても同様に、第1のパネル11と第2のパネル13とで遮音材12を挟み込むとともに、第1のパネル11および/または第2のパネル13と遮音材12とが突起で接触していることで、第1のパネル11および/または第2のパネル13と遮音材12との接触面積が減り、第2のパネル13から第1のパネル11に伝わる床衝撃音を緩和させることができる。
【0049】
パネル側に突起を設ける場合、突起の形状や配置に関しては、上述した、遮音材12に突起12aを設けた場合と同様とすることができる。また、パネルへの突起の形成は、例えば、パネル表面を切削することにより行うことができる。
【0050】
また、例えば、第1のパネル11と第2のパネル13の両方に突起を設けた場合、その突起の配置は、第1のパネル11と第2のパネル13とでずらしたものとすることが好ましい。
【0051】
また、第1のパネル11および/または第2のパネル13に突起が設けられている場合、遮音材12を第1のパネル11を介して床下地材10に固定するための留付材16は、パネルの突起部分を避けて配置されることが好ましい。
【0052】
(床構造体の施工方法)
次に、上述したような床構造体の施工方法について説明する。
床構造体の施工方法は、
床梁2上に床下地材10を設置する床下地工程と、
床下地材10の上面に第1のパネル11を複数枚並べて設置する第1のパネル設置工程と、
第1のパネル11の上面に遮音材12を複数枚並べて設置する遮音材設置工程と、
遮音材12の上面に第2のパネル13を複数枚並べて設置する第2のパネル設置工程と、
第2のパネル13上に床仕上材14を敷設する床仕上げ工程と、を備え、
遮音材12の少なくとも一方の面に設けられた突起12aによって、第1のパネル11と遮音材12との間、および/または、遮音材12と第2のパネル13との間に、空間15を設けることを特徴とする。
【0053】
本実施形態では、例えば、遮音材設置工程において、遮音材12の一方の面に多数の突起12aが設けられた、2枚の遮音材12を、突起12aが設けられていない他方の平坦な面を背中合わせにして組み合わせて配する。このとき、突起12aの配置が両面でずれるように、2枚の遮音材12を配置することが好ましい。
【0054】
また、例えば、遮音材設置工程において、第1のパネル11上に遮音材12を配した後、留付材16によって遮音材12を第1のパネル11を介して床下地材10に固定する。このとき、遮音材12の突起12aの部分を避けた位置において、留付材16で固定することが好ましい。
【0055】
なお、上述した説明では、床下地材10を設置する床下地工程と、床仕上材14を敷設する床仕上げ工程と、を備えた場合を例に挙げて説明したが、床下地工程と床仕上げ工程とは省略しても構わない。
【0056】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0057】
なお、上述してきた本発明の床構造体についての技術的思想は、床構造体を備えた建物、床構造体の施工方法を含む建物の施工方法についても及ぶものとする。
【実施例0058】
次に、実施例および比較例を挙げて本実施の形態をより具体的に説明する。しかしながら、本実施の形態は、その要旨から逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。実施例中の物性は以下の方法により測定した。
【0059】
<試験方法>
試験は、木造試験棟において、JIS A 1418に準拠した測定方法、および、JIS A 1419:2000に示される軽量・重量床衝撃音試験法に準拠した評価方法により、床衝撃音遮断性能試験を行った。
【0060】
試験体として、木造試験棟において、
図2に示す構成の床構造体を作製した。試験体で用いた各部材の材料や寸法を以下に示す。
床下地材10:構造用合板 厚さ24mm
第1のパネル11および第2のパネル13:旭化成建材(株)製「ユカテック」(ALCパネル) 厚さ36mm
遮音材12:蝶理(株)製「防音Pマット」 厚さ4mm×2
床仕上材14:普通フローリング材 厚さ12mm
合板17:構造用合板 厚さ12mm
床梁2:集成材 120×240mm@910mm
吊木受け3:45×105mm@910mm
吊木4:30×40mm@910mm
野縁受け5:30×40mm@910mm
野縁6:30×40mm@455mm
天井材7:強化石膏ボード 厚さ12.5mm
断熱材8:グラスウールGW24K 厚さ50mm
本試験体におけるパネルと遮音材との突起による接触面積割合は、パネルの全体面積に対し約1/25であった。
【0061】
(1)上階での床衝撃音の発生
上階(音源室)において測定用の標準衝撃源を用いて床を加振し、床衝撃音を発生させた。
標準衝撃源には、金属円柱の落下による軽量衝撃源(タッピングマシン)、タイヤ落下による重量衝撃源(バングマシン)を用いた。
軽量・重量床衝撃音試験で用いた機器について以下に示す。
バングマシン:リオン(株)製「FI-02」
タッピングマシン:リオン(株)製「FI-01」
【0062】
(2)下階に伝播する床衝撃音の測定
下階(受音室)において周波数分析機能付きの騒音計(リオン(株)製 精密騒音計「NA-28」)を用いて、各周波数帯域の床衝撃音レベル(dB)を測定した。
なお、定常的な軽量床衝撃音では時間平均による等価音圧レベルを測定し、過渡的な重量床衝撃音では、瞬間音圧レベルの最大値を測定した。
【0063】
上階における打点位置と、下階における受信位置とを5カ所ずつにして測定を行なった。
図4に、木造試験棟における打点位置と受音位置とを示す。
【0064】
(3)床衝撃音遮断性能の評価
各帯域の床衝撃音レベルの測定値から、JIS A 1419-2のLr等級線に基づき、軽量・重量床衝撃音それぞれに対する床衝撃音遮断性能を評価した。
オクターブバンド毎における床衝撃音試験結果を
図5および表1に示す。
【0065】
【0066】
上記の結果から、重量床衝撃音についてはLH-60、軽量床衝撃音についてはLL-60の遮音等級を実現することができた。
なお、比較例として、遮音材の無い試験体で上記と同様にして床衝撃音遮断性能試験を行ったところ、遮音等級は、LH-70であった。
【0067】
また、床構造体の床仕上材14として、フローリング材の代わりにカーペット(タイルカーペット)を用いて、上記と同様にして床衝撃音遮断性能試験を行った。
オクターブバンド毎における床衝撃音試験結果を
図6および表2に示す。
【0068】
【0069】
上記の結果から、重量床衝撃音についてはLH-60、軽量床衝撃音についてはLL-50の遮音等級を実現することができた。
【0070】
以上の結果から、突起を有する遮音材を用いた本実施例では、上階から下階に伝わる軽量・重量床衝撃音を効果的に軽減することができ、優れた遮音等級を実現することができた。
本発明による床構造体を用いることで、上階から下階に伝わる軽量・重量床衝撃音を軽減することができるものとなり、建物の床構造体として広く利用することができる。