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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056428
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】磁気傾度計
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/04 20060101AFI20240416BHJP
【FI】
G01R33/04
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163293
(22)【出願日】2022-10-11
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】517205767
【氏名又は名称】笹田磁気計測研究所株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】笹田 一郎
【テーマコード(参考)】
2G017
【Fターム(参考)】
2G017AA01
2G017AB07
2G017AD42
2G017BA05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】グラディオメータにマグネトメータを一体的に組み込み、磁気傾度計の感度非平衡に起因する地磁気成分を補正し、必要に応じて、センサヘッドの一部を磁気シールドで被覆し、感度軸に直角方向の感度を極めて小さくする磁気傾度計を提供する。
【解決手段】磁気コア11,21を共通としてグラディオメータ2とマグネトメータ3とを一体化した磁気傾度計1において、検出感度の違いに応じた補正係数をマグネトメータ3の第2の検出回路40で検出された第2の磁界検出電圧に対して乗算し、乗算された値をグラディオメータ2の第1の検出回路30で検出された第1の磁界検出電圧を加算又は減算してグラディオメータ2が検出する偽信号を補正する補正回路とを備える。また、必要に応じて、磁気傾度計1は、センサヘッド10,20が配設される直線上の感度軸を中心軸とする円筒状の複数の磁性体で形成される磁気シールドを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気コアを共通としてグラディオメータとマグネトメータとを一体化した磁気傾度計において、
第1の磁気コアと、当該第1の磁気コアに巻回される第1の検出コイルと、前記第1の磁気コアと間隔を空けて直線上に配設される第2の磁気コアと、当該第2の磁気コアに巻回され、前記第1の検出コイルの一端と誘起電圧が相殺される方向に接続される第2の検出コイルと、前記第1の検出コイル及び前記第2の検出コイルの出力を検出する第1の検出回路と、を有するグラディオメータと、
前記第1の磁気コアと、当該第1の磁気コアに巻回される第3の検出コイルと、前記第2の磁気コアと、当該第2の磁気コアに巻回され、前記第3の検出コイルの一端と誘起電圧が加算される方向に接続される第4の検出コイルと、前記第3の検出コイル及び前記第4の検出コイルの出力を検出する第2の検出回路と、を有するマグネトメータと、
前記第1の磁気コア、前記第1の検出コイル及び前記第3の検出コイルからなる第1のセンサヘッドの検出感度と、前記第2の磁気コア、前記第2の検出コイル及び前記第4の検出コイルからなる第2のセンサヘッドの検出感度との違いに応じた補正係数を前記第2の検出回路で検出された第2の磁界検出電圧に乗算し、前記第1の検出回路で検出された第1の磁界検出電圧に対して前記乗算された値を加算又は減算して前記第1の磁界検出電圧に含まれる偽信号を補正する補正手段とを備えることを特徴とする磁気傾度計。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気傾度計において、
前記第1のセンサヘッド及び前記第2のセンサヘッドの一部を被覆する磁気シールドを備えることを特徴とする磁気傾度計。
【請求項3】
請求項2に記載の磁気傾度計において、
前記磁気シールドは、前記第1のセンサヘッド及び前記第2のセンサヘッドが配設される直線上の感度軸を中心軸とする円筒状の複数の磁性体で形成されていることを特徴とする磁気傾度計。
【請求項4】
請求項3に記載の磁気傾度計において、
前記磁気シールドは、前記第1のセンサヘッド及び前記第2のセンサヘッドの両端部近傍に少なくとも配設され、各検出コイルが巻回されるコイル領域よりも外側の領域が被覆されるように配設されることを特徴とする磁気傾度計。
【請求項5】
第1の磁気コアに第1の検出コイルが巻回された第1のセンサヘッドと、
前記第1の磁気コアと間隔を空けて直線上に配設される第2の磁気コアに、前記第1の検出コイルの一端と誘起電圧が相殺される方向に接続される第2の検出コイルが巻回された第2のセンサヘッドと、
前記第1の検出コイル及び前記第2の検出コイルの出力を検出する第1の検出回路と、
前記第1のセンサヘッド及び前記第2のセンサヘッドが配設される直線上の感度軸を中心軸とする円筒状の複数の磁性体で形成される磁気シールドとを備えること特徴とする磁気傾度計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2地点間での磁界の大きさの差を極めて高感度に検出する磁気傾度計に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気傾度計は特定方向の磁界成分について、2地点間での大きさの差を計測する装置である。磁界の差を2点間の距離で割れば、磁界の傾き(勾配)を知ることができる。磁気傾度計は、2地点間の磁界の大きさの差にのみ反応し、地磁気のような一様分布した磁界には反応しないことが理想である。そのため、磁気傾度計には特性が極めて良く揃った一対の一軸性の(特定の軸方向に大きな感度を持つ)磁界センサが必要である。
【0003】
磁気傾度計はグラディオメータの一例であり、磁界を計測する2地点の距離をベースライン長と呼ぶ。一様磁界中に埋もれている局所磁界分布異常は、例えば地中の帯磁物体の存在を示すことができ、地中の不発弾の探査などに利用することができる。グラディオメータの探査深度や探査空間の大きさはベースライン長で規定されるので、ベースライン長を適切に設定することで近傍の探査物からの信号のみを受信し、遠方起因の磁気雑音を排除することが可能となる。地中埋設物の探査には、通常ベースライン長が1m程度と大きい磁気傾度計が使用されている。
【0004】
従来の埋設物探査用の磁気傾度計は、磁気コアに数万ターン巻線を施した誘導型センサ(ピックアップコイル)を2個、1mから1.5m程離隔して直線上に配置し、一様分布した変動磁界が両者に印加されたときに出力が生じないよう、逆極性に接続されたものを基本としている(図17を参照)。図17において積分器は無くても良いが、その場合は磁界変動率(周波数)に比例して出力電圧は増大する。また、これ以外にも例えば、発明者が開発した特許文献1に示す勾配磁界センサが知られている。これらの磁界センサは、埋設物の磁化が発する磁界を一様に分布している地磁気に対して局所磁気分布異常として捉え、磁気探査では地表面にて歩行によりスキャンを行うことでこれを特定したり、地面に垂直に穿けられた穴に磁気傾度計を挿入して地下を深さ方向にスキャンすることも行われる。
【0005】
また、上記勾配磁界センサを応用した技術として、例えば特許文献2に示す技術が開示されている。特許文献2に示す技術は、グラディオメータとマグネトメータとでセンサヘッドを共通化することで、同一箇所における一様磁界と勾配磁界とを分離検出するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2015/060344号
【特許文献2】特許第6421379号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような磁気傾度計で局所磁気異常を検出する場合の問題点として、相対的に大きな地磁気の中で、磁気ダイポールから発せられた磁界として見える地磁気の強度の1/100又は1/1000以下の検出対象磁界を検出する場合に、磁気傾度計の感度軸方向が揺動(例えば、磁気探査時の歩行による揺動や地中挿入時に生じる揺動等)すると大きな誤出力(信号のような時間波形をした信号であり、以下、偽信号という)が発生することである。
【0008】
この原因を考えるために、まず次の点に注意する。磁気傾度計に用いられるセンサは一軸性で、その検出出力はセンサの個体の感度軸と磁界の方向とのなす角によって変化する。その依存性は、なす角をαとすればcosαに従って変化する。つまり、感度軸ベクトルと磁界ベクトルとの内積を通して計測される。このことから、磁気傾度計の感度軸が地磁気方向に対して相対的に揺動することで生じる偽信号の発生理由は次のように理解できる。すなわち、磁気傾度計の2つのセンサ間で、それらの感度と感度軸の少なくともいずれかにずれがあることで、相対的に大きな地磁気のごくわずかな部分を感度軸の揺動時に出力してしまう。
【0009】
この揺動に伴う偽信号出力の問題を解決するためには、2つのセンサの感度及び感度軸を極めて高精度に整合を取ることが重要である。2つのセンサの感度軸が2つのセンサをつなぐ線上(以下、磁気傾度計の感度軸という)から僅かでもずれると、そのセンサは磁気傾度計の感度軸に対して垂直方向の磁界成分に対して感度を持つ。そのセンサの感度軸が傾度計の感度軸から角βずれたとすると、垂直方向の感度はセンサの本来の感度×sinβで表される。これに伴い、磁気傾度計の感度軸方向の実効的感度は、センサの本来の感度×cosβに減少する。
【0010】
この感度軸のずれは、センサを固定するときの感度軸の調整の不完全や、センサに使用される磁気コアが完全な一軸対称性を持っていない、又は検出コイルと一緒に組み上げられたセンサ個体の特性が回転対称性を持っていないことなどから発生する。これらのことを磁気傾度計のモデルを用いて説明する。
【0011】
図18は、感度軸がずれている場合の磁気傾度計のモデルを示す図である。図18において、磁気傾度計の感度軸はz軸方向にあり、2つのセンサはz軸上のz=dとz=-dの位置にある。センサ1,センサ2の感度ベクトルS1,S2を成分で表すと、各感度の大きさをk1=|S1|,k2=|S2|として、S1=k1{sinθ1cosφ1,sinθ1sinφ1,cosθ1},S2=k2{sinθ2cosφ2,sinθ2sinφ2,cosθ2}となる。角の定義は球座標の流儀を用いている。つまりθはz軸からの傾き、φは感度ベクトルをxy平面に射影したときのx軸からの傾きである。地磁気を磁気傾度計の軸方向成分(z成分)とxy平面内成分に分け、これをH∥,H⊥としている。H⊥はx軸からΨの方向にある。地表面で磁気傾度計を水平に保持して歩行スキャンするときは地磁気の水平成分(Htとする)の方向と磁気傾度計の感度軸方向のなす角をγとすれば、H∥=Htcosγ,H⊥=Htsinγで与えられる。地表面に垂直に穴を開け深さ方向に磁気傾度計を掃引する場合は、H∥は地磁気の鉛直成分となり、H⊥は地磁気の水平成分となる。
【0012】
局所磁気分布異常は無く、一様磁界と見なせる地磁気のみが存在するときは、磁気傾度計の出力は0となるべきであるが、種々の要因を取り入れた磁気傾度計モデルの出力は次式で計算される。
【0013】
【数1】
【0014】
第3項以降はセンサ1及び2の感度軸がz軸から角度がずれている場合に生じる。両者とも軸がz軸に完全に整合している場合は、θ1=0,θ2=0であるので、
【0015】
【数2】
【0016】
となる。この場合でもδk=k1-k2≠0であれば、
【0017】
【数3】
【0018】
の出力を生じる。しかし、これは本来計測の対象ではない一様磁界成分が磁気傾度計の出力へリークすることであり、性能を低下させる要因の1つである。
【0019】
実際には、センサヘッドの構造、磁気コアの形状及び性質等を完全な一軸性にするのは極めて困難であるため、センサヘッドの長手方向に直角な方向からの磁界に対してもわずかながら検出結果を与えてしまう。このような場合の例を示すために、センサヘッドのコアに用いる磁性ワイヤが完全な直線状でなく緩やかなスパイラル線状に曲がっている場合に、長手方向を含む360°の各方向から磁界が印加されるとき、この磁性ワイヤコアの長手方向に誘起される磁束密度を数値計算によって解析した。長手方向の1つを0°としている。図19は、計算に用いたワイヤコアを示す。ワイヤコアの直径は0.2mm、コアの長さは30mmとしている。図19の破線はz軸に平行な直線で、ワイヤコアはその周りでスパイラル状に約0.55回まとわりつくように湾曲している。コアの形状が目視で見やすくするために、ワイヤの径は実際のものより太く作図している。
【0020】
図20は、ワイヤコアがまとわりついているz軸方向を0°とし、10°毎に方向を変えて磁界を印加した時のz軸方向の磁束密度成分の平均値を極座標表示(ポーラープロット)によって示す。この図の見方は、横軸正方向が0°方向、負方向が180°方向、縦軸上方向が90°方向、下方向が270°方向である。最大感度は磁性ワイヤコアの長手方向に磁界が印加されるときで、極性が反転する場合も同じく最大となる。この図20から、図19のように少し曲がった磁性ワイヤの周囲に回転対称形の理想的な形状のソレノイド検出コイルを巻回してセンサヘッドを製作した場合の感度の方向依存性を読み取ることができる。この感度分布は曲がっていない直線状のワイヤコアの感度の角度依存性cosθに近いが、θ=90°,270°(すなわち、縦軸上)で0ではなく約±0.0176≒±1/57である。このことはワイヤコアの長手方向に対して垂直な方向へも感度があることを示している。1/57≒sin(1/180×π)であるので、θ≒1°に相当する。
【0021】
地表面に垂直に穴を穿け、その中に磁気傾度計を垂らして深さ方向にスキャンする場合は、地磁気の水平成分が磁気傾度計に真横から加わる。この状態で磁気傾度計に回転が生じると(例えば、磁気傾度計を穴に垂らす過程でケーブルのねじれなどの影響により回転が生じてしまうと)、大きな偽信号が発生する。この場合は式(1)の第3項以降による出力が発生する。Htは地磁気水平成分であることに注意する。これを整理したのが以下の式(2)である。
【0022】
【数4】
【0023】
磁気傾度計が回転するとΨが変化する。どのような偽信号が出るかをθ12=1°,k1=k2,μHt=30[μT](地磁気水平成分の近似)とし、また、φ1,φ2の間には90°の角度差があると仮定して計算している。このように2つのセンサの感度軸が1°傾き、その方位角に90°の差があると、埋設物の信号が数百nTの振幅を持つ比較的大きな信号の場合に対しても、図21のように、センサ個体の感度軸が磁気傾度計の軸から1°傾いている場合は、それ以上の大きな偽信号を与える結果となる。このようにセンサ個体の感度軸と磁気傾度計の軸のズレを可能な限り小さくする必要があることが分かる。
【0024】
以上のことから、2つのセンサの感度のずれを補正すること、及び個々のセンサの感度軸について、磁気傾度計の軸からのずれを0に近づけることが極めて重要な課題となっている。このような課題について、従来のグラディオメータや特許文献1、2に示す技術では解決することができない。
【0025】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、グラディオメータにマグネトメータを一体的に組み込むことで、磁気傾度計の感度非平衡に起因する地磁気成分を補正し、また必要に応じて、センサヘッドの一部を磁気シールドで被覆することで感度軸に直角方向の感度を極めて小さくする磁気傾度計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明に係る磁気傾度計は、磁気コアを共通としてグラディオメータとマグネトメータとを一体化した磁気傾度計において、第1の磁気コアと、当該第1の磁気コアに巻回される第1の検出コイルと、前記第1の磁気コアと間隔を空けて直線上に配設される第2の磁気コアと、当該第2の磁気コアに巻回され、前記第1の検出コイルの一端と誘起電圧が相殺される方向に接続される第2の検出コイルと、前記第1の検出コイル及び前記第2の検出コイルの出力を検出する第1の検出回路と、を有するグラディオメータと、前記第1の磁気コアと、当該第1の磁気コアに巻回される第3の検出コイルと、前記第2の磁気コアと、当該第2の磁気コアに巻回され、前記第3の検出コイルの一端と誘起電圧が加算される方向に接続される第4の検出コイルと、前記第3の検出コイル及び前記第4の検出コイルの出力を検出する第2の検出回路と、を有するマグネトメータと、前記第1の磁気コア、前記第1の検出コイル及び前記第3の検出コイルからなる第1のセンサヘッドの検出感度と、前記第2の磁気コア、前記第2の検出コイル及び前記第4の検出コイルからなる第2のセンサヘッドの検出感度との違いに応じた補正係数を前記第2の検出回路で検出された第2の磁界検出電圧に乗算し、前記第1の検出回路で検出された第1の磁界検出電圧に対して前記乗算された値を加算又は減算して前記第1の磁界検出電圧に含まれる偽信号を補正する補正手段とを備えるものである。
【0027】
このように、本発明に係る磁気傾度計においては、グラディオメータにマグネトメータを組み込むことで、すなわち2つのセンサヘッドの磁気コアのそれぞれにグラディオメータ用検出コイル、及びマグネトメータ用検出コイルを配置して形成することで、1つのグラディオメータと1つのマグネトメータが同じ環境で動作するようにし、グラディオメータの感度非平衡に起因して出力される地磁気起因の成分をマグネトメータが検出する地磁気信号を用いてこれを補正する(キャンセルする)ことで、揺動性雑音を大幅に低減し極めて高性能な磁気傾度計を実現することができるという効果を奏する。
【0028】
また、本発明に係る磁気傾度計は、第1の磁気コアに第1の検出コイルが巻回された第1のセンサヘッドと、前記第1の磁気コアと間隔を空けて直線上に配設される第2の磁気コアに、前記第1の検出コイルの一端と誘起電圧が相殺される方向に接続される第2の検出コイルが巻回された第2のセンサヘッドと、前記第1の検出コイル及び前記第2の検出コイルの出力を検出する第1の検出回路と、前記第1のセンサヘッド及び前記第2のセンサヘッドが配設される直線上の感度軸を中心軸とする円筒状の複数の磁性体で形成される磁気シールドとを備えるものである。
【0029】
このように、本発明に係る磁気傾度計においては、第1のセンサヘッド及び第2のセンサヘッドが配設される直線上の感度軸を中心軸とする円筒状の複数の磁性体で形成される磁気シールドで磁気傾度計のセンサヘッドの側面の一部区間を非連続的に被覆するため、円筒状の複数の磁性体からなる磁気シールドの感度軸方向のシールド効果は非常に小さく、感度軸に直交する方向のシールド効果は非常に大きくなる。この後者の効果は、感度軸に対して直交する方向から来る磁束を、円筒状の磁性体の側面に沿って通過させることにより発揮される。その結果、磁気傾度計の感度軸方向と直交する方向から来る地磁気由来の磁束を磁気シールド側面に通過させ、センサヘッドへの鎖交を限りなく小さくし、直交方向の磁界に対する感度を効果的に抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】第1の実施形態に係る磁気傾度計を構成するグラディオメータとマグネトメータとが一体化された場合の第1の構成(ピックアップコイル)を示す図である。
図2】第1の実施形態に係る磁気傾度計を構成するグラディオメータとマグネトメータとが一体化された場合の第2の構成(フラックスゲート型)を示す図
図3図2のフラックスゲート型の磁気傾度計における励磁部分の構成を示す図である。
図4】第1の実施形態に係る磁気傾度計における補正部分の構成を示す図である。
図5】第1の実施形態に係る磁気傾度計を東西方向近くに向けて上下に揺動した時のグラディオメータの出力及びマグネトメータの出力を観測した結果を示す図である。
図6図5の場合の揺動方向とは90°異なる方向に揺動した場合の出力結果を示す図である。
図7図5の出力結果に対して補正した場合の計算結果を示す図である。
図8図6の出力結果に対して補正した場合の計算結果を示す図である。
図9】第1の実施形態に係る磁気傾度計において、感度軸を回転軸として小角回転振動した場合の偽信号の波形を示す図である。
図10】第2の実施形態に係る磁気傾度計のセンサヘッド1つにつき3つの円筒状の磁気シールドで被覆した場合の構成を示す図である。
図11図10における磁気シールドを配置した場合の磁気傾度計のセンサ感度の角度依存性を示す図である。
図12】第2の実施形態に係る磁気傾度計のセンサヘッド1つにつき2つの円筒状の磁気シールドで被覆した場合の構成を示す図である。
図13図12における磁気シールドを配置した場合の磁気傾度計のセンサ感度の角度依存性を示す図である。
図14】第2の実施形態に係る磁気傾度計のセンサヘッド1つにつき多数の幅が短い円筒状の磁気シールドで被覆した場合の構成を示す図である。
図15図14における磁気シールドを配置した場合の磁気傾度計のセンサ感度の角度依存性を示す図である。
図16】第2の実施形態に係る磁気傾度計において磁気シールドを配置する場合の具体的なセンサヘッドの構造を示す断面図である。
図17】従来の磁気傾度計の構成を示す図である。
図18】磁気傾度計において感度軸がずれている場合のモデルを示す図である。
図19】磁気傾度計のシミュレーション計算において用いたワイヤコアの構成を示す図である。
図20】磁気傾度計における磁気コアが直線的でない場合のセンサ感度の角度依存性を示す図である。
図21】2つのセンサヘッドの感度軸がわずかに傾いている磁気傾度計を用いて垂直方向の穴をスキャンする場合の磁気傾度計の感度軸回りの感度軸の回転に伴う偽信号を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係る磁気傾度計について、図1ないし図8を用いて説明する。実施形態に係る磁気傾度計は、グラディオメータとマグネトメータとを一体的に作り、磁気傾度計の感度軸方向の一様磁界の成分を計測するマグネトメータの出力を定数倍して減算又は加算することで一様磁界から磁気傾度計にリークする偽信号を除去するものである。なお、本実施形態においては、個々のセンサの感度軸が磁気傾度計の軸からのずれが無視できる場合、又は傾度計の軸回転を無視できる場合の上記課題の解決手段について説明する。
【0032】
図1は、本実施形態に係る磁気傾度計を構成するグラディオメータとマグネトメータとが一体化された場合の第1の構成(ピックアップコイル型)を示す図、図2は、本実施形態に係る磁気傾度計を構成するグラディオメータとマグネトメータとが一体化された場合の第2の構成(フラックスゲート型)を示す図、図3は、図2のフラックスゲート型の磁気傾度計における励磁回路を示す図、図4は、本実施形態に係る磁気傾度計における補正回路を示す図である。
【0033】
図1及び図2において、磁気傾度計1は、グラディオメータ2とマグネトメータ3とが一体化されたものであり、第1の磁気コア11と、当該第1の磁気コア11に巻回される第1の検出コイル12と、第1の磁気コア11から間隔を空けて直線上に配設される第2の磁気コア21と、当該第2の磁気コア21に巻回され、第1の検出コイル12の一端と誘起電圧が互いに相殺される方向に接続される第2の検出コイル22と、第1の検出コイル12及び第2の検出コイル22の出力を検出する第1の検出回路30とでグラディオメータ2を構成する。
【0034】
一方で、グラディオメータ2と共通する第1の磁気コア11と、当該第1の磁気コア11に巻回される第3の検出コイル13と、グラディオメータ2に共通の第2の磁気コア21と、当該第2の磁気コア21に巻回され、第3の検出コイル13の一端と誘起電圧が加算される方向に接続される第4の検出コイル23と、第3の検出コイル13及び第4の検出コイル23の出力を検出する第2の検出回路40とでマグネトメータ3を構成する。
【0035】
図1において、第1の磁気コア11及び第2の磁気コア21は、例えばフェライト等の磁性体であり、第1の検出回路30及び第2の検出回路40は、それぞれ積分器31,41と増幅器32,42とを有している。グラディオメータ2で検出される第1の検出回路30の出力はvgrad=kg1H1-kg2H2であり、マグネトメータ3で検出される第2の検出回路40の出力はvmag=km1H1+km2H2である。ここに、kg1,kg2はグラディオメータに関するそれぞれのセンサヘッドの感度係数であり、km1,km2はマグネトメータに関するそれぞれのセンサヘッドの感度係数である。
【0036】
図2において、第1の磁気コア11及び第2の磁気コア21は、例えばU字型(又はヘアピン型)やW型やI型に形成されたCo基アモルファスワイヤにより構成される。この第1の磁気コア11及び第2の磁気コア21には、図3に示すように、励磁回路50から直流バイアス電流に交流電流が重畳された励磁電流(Idc+Iacsinωt)が供給される。ここに、Idc>Iacである。第1の検出回路30は、同期検波回路(PSD)、平滑回路(図示しない)、及び誤差増幅器(図示しない)を有しており、第2の検出回路40は、同様に同期検波回路(PSD)、平滑回路(図示しない)、及び誤差増幅器(図示しない)を有して負帰還回路を構成している。図1の場合と同様に、グラディオメータ2で検出される第1の検出回路30の出力はvgrad=kg1H1-kg2H2であり、マグネトメータ3で検出される第2の検出回路40の出力はvmag=km1H1+km2H2である。以降、第1の磁気コア11、第1の検出コイル12及び第3の検出コイル13で形成されるセンサヘッドを第1のセンサヘッド10とし、第2の磁気コア21、第2の検出コイル22及び第4の検出コイル23で形成されるセンサヘッドを第2のセンサヘッド20とする。
【0037】
図4では、補正回路60が、マグネトメータ3で検出される第2の検出回路40の出力vmagを適正な極性に切り替える切替部61と、vmagに対して補正係数に基づいて振幅調整する振幅調整部62と、振幅調整された値にグラディオメータ2で検出される第1の検出回路30の出力vgradを加算する加算部63とを備える。ここで、補正係数は、予め規定した磁気傾度計1の揺動に対するグラディオメータ2の出力とマグネトメータ3の出力との比に基づいて決定する。このキャリブレーションは通常は一度行えばよい。なお、加算部63は波形に応じて減算を行うようにしてもよい。
【0038】
図2図4に示す構成の磁気傾度計1を用いて、以下の実証を行った。図2及び図3の構成でベースライン長は47cmとした。マグネトメータ3の感度は0.125V/μT、グラディオメータ2の感度は101.0V/μT/mであった。まず、磁気傾度計1の感度軸の揺れに伴う偽信号の出方を調べるために、磁気傾度計1をほぼ東西に向け、磁気傾度計1の一端を支点とし、他端を最大10°位の傾きとなるように上下に揺動した時のグラディオメータ2の出力及びマグネトメータ3の出力を観測した結果を図5に示す。縦軸の単位は[V]、横軸の単位は[s]である。また、同じ磁気傾度計1を図5の場合の揺動方向とは90°異なる水平方向に揺動した場合の出力結果を図6に示す。
【0039】
図5の波形、及び図6の波形において、グラディオメータ2の出力とマグネトメータ3の出力とは、極性が反転しているものの類似の波形をしている。すなわち、グラディオメータ2の出力にマグネトメータ3の出力を何倍かして加算すると、揺動による出力変動が打ち消されることが期待できる。実際に図4の補正回路60で補正を行った場合の計算結果を以下に示す。
【0040】
図7は、図5の出力結果に対して補正係数=0.21として補正した場合の計算結果を示し、図8は、図6の出力結果に対して補正係数=0.33として補正した場合の計算結果を示している。図7及び図8に示すマグネトメータ波形(補正後)は、具体的には、図5図6におけるマグネトメータ3の出力に補正係数を乗算し、グラディオメータ2の波形に加算したものである。図7及び図8の計算結果から明らかなように、図1に示す構成の磁気傾度計1により極めて大きい補正効果が得られることがわかる。
【0041】
このように、本実施形態に係る磁気傾度計1においては、グラディオメータ2にマグネトメータ3を組み込むことで、すなわち2つのセンサヘッド(第1のセンサヘッド10,第2のセンサヘッド20)の磁気コア11,21のそれぞれにグラディオメータ用検出コイル12,22、及びマグネトメータ用検出コイル13,23を配置して形成することで、1つのグラディオメータ2と1つのマグネトメータ3が同じ環境で動作するようにし、グラディオメータ2の感度非平衡に起因して出力される地磁気起因の成分をマグネトメータ3が検出する地磁気信号を用いてこれを補正する(キャンセルする)ことで、揺動性雑音を大幅に低減し極めて高性能な磁気傾度計を実現することができる。
【0042】
(本発明の第2の実施形態)
本実施形態に係る磁気傾度計について、図9ないし図16を用いて説明する。本実施形態において前記第1の実施形態と重複する説明は省略する。前記第1の実施形態においては、個々のセンサの感度軸が磁気傾度計の軸からずれていない場合、又は傾度計の軸回転を無視できる場合について、補正係数により高性能な磁気傾度計を実現することについて説明した。
【0043】
しかしながら、図7及び図8に示すように、揺動動作が含まれる面によって補正係数が異なっている。すなわち、磁気傾度計1の軸が揺動する方向の違いによってグラディオメータ2の偽信号対マグネトメータ3の出力の比が大きくなったり小さくなったりすると、単一の補正係数が利用できなくなり効果的な補正ができなくなる。この理由は、磁気傾度計1の2つのセンサの感度軸のθ12が0ではなく、しかもずれの方向(方位角φ12)が異なるためである。言い換えれば、磁気傾度計1は2つのセンサの差が出力であるため、磁気傾度計の感度軸に対して直角方向の磁界に対してもセンサが僅かでも感度を持てば、その感度方向への揺動か、又はそれ以外の方向への揺動かで磁気傾度計1の偽信号の大きさに差が出ることとなる。
【0044】
この磁気傾度計1の感度軸に対して直角方向に感度を持つことの悪影響の最たるものが、磁気傾度計1がその感度軸を回転軸として回転する場合の偽信号の発生である。図9は、磁気傾度計が感度軸を回転軸として小角回転振動した場合の偽信号の波形を示す図である。ここで、目視で見やすくするためにマグネトメータ3の波形は振幅を10倍している。
【0045】
図9に示すように、磁気傾度計の感度軸を回転軸として小角回転振動する場合、マグネトメータ3の出力は殆ど変化しない。このように、回転振動の場合はグラディオメータ2の出力とマグネトメータ3の出力との間には振幅に大きな違いがあって、波形の相関性も低い。このことから、回転振動による偽信号はマグネトメータ3の出力で補正するのは困難である。
【0046】
磁気傾度計1の各センサの感度軸の傾き角θが0でなくても、感度軸に直角方向の感度を0にできれば実効的に傾き角θ=0にすることができる。これを行うために、本実施形態に係る磁気傾度計1においては、第1のセンサヘッド10及び第2のセンサヘッド20(以下、この2つのセンサヘッドを単にセンサヘッド10,20という)の一部を磁気シールドで被覆する。
【0047】
より具体的には、磁気傾度計1の感度軸方向に回転対称軸を持つ円筒状の磁気シールドを、細長い形を持ち理想的には直線状でないセンサヘッド10,20の一部を包み込むように複数配置し、磁気傾度計1の感度軸方向に対して直交方向から来る地磁気由来の磁束を円筒状の磁気シールドの側面を通過させ、センサヘッド10,20への鎖交を限りなく小さくし、直交方向の磁界に対する感度を効果的に抑制する。このような効果を得るために、複数の円筒状の磁気シールドが1つの中心軸を共有し、その方向が磁気傾度計1の感度軸とも共有するように磁気シールドを配置する。このとき、複数の磁気シールドを空隙を設けて配置することで、磁気傾度計1の感度軸方向にシールド効果を持たせないようにする。
【0048】
磁気コア11,21である磁性ワイヤが、図19のように緩やかな螺旋になっていて直線的でない場合、長手方向(z軸方向)を基準として、それから10°ずつ異なった方向から到来する磁界に対してどのような感度の角度依存性になるかを計算した図20を出発点とし、磁気傾度計1の感度軸を共有する円筒状の磁気シールドを配置した場合の感度の角度依存性を有限要素法によって計算した結果を以下に説明する。
【0049】
図10は、本実施形態に係る磁気傾度計1のセンサヘッド10,20を3つの円筒状の磁気シールドで被覆した場合の構成を示す図である。図10において、円筒状の磁気シールド70は、2cmの長さを有する第1の磁気シールド71と、第1の磁気シールド71から0.4cm離隔して配置される1cmの長さを有する第2の磁気シールド72と、第2の磁気シールド72から0.4cm離間して配置される2cmの長さを有する第3の磁気シールド73とで構成されている。第1の磁気シールド71は、第1のセンサヘッド10の上端部分の0.6cm分を被覆するように配置されており、第3の磁気シールド73は、第1のセンサヘッド10の下端部分の0.6cm分を被覆するように配置されている。
【0050】
ここで磁気シールド70の精巧性について、磁気シールド70は、回転対称性が高い精巧な円筒管であることが重要であるものの、それは完璧な回転対称形である必要は無い。なぜなら、磁束は電流が存在せず、空間の各点で透磁率が同じであれば、一様に広がろうとする。これは電流が存在しない空間では磁場がラプラス方程式に従うことから理解できる。空間を立方格子で離散化し、ラプラス方程式の解の振る舞いを見れば、1つの格子点での変数値はそれを取り囲む6個の格子点の変数値の平均値として定まるので、その空間内では磁場は平均的に分布しようとするからである。このことは仮に磁気シールド70の円筒管に僅かに欠陥があっても磁界が第1のセンサヘッド10の長さ方向へ伝搬する過程で平均化されることであり、第1のセンサヘッド10近傍では、磁界は完全な回転対称形の磁気シールド70があるかのように分布する。重要なことは、磁気シールド70の軸を磁気傾度計1の感度軸に合わせることである。これは、磁気コア11,21を構成するアモルファス磁性ワイヤが製作時に湾曲しており、しかも表面になだらかな凹凸もあるので決して直線状にできないことに比べると磁気シールド70の軸を磁気傾度計1の感度軸に合わせることは技術的に容易である。
【0051】
ここでの計算は、磁気シールド70の円筒管の厚さを0.1mm、比透磁率10,000として計算しているが、これは例えばパーマロイやアモルファス磁性薄帯を巻いて製作することができる数値である。また、図10においては、第1のセンサヘッド10に関してのみ図示しているが、第2のセンサヘッド20についても同様の磁気シールド70を配置する。
【0052】
図11は、図10における磁気シールド70を配置した場合の磁気傾度計1のセンサ感度の角度依存性を示す図である。磁気傾度計1の感度軸に直交する方向の磁界に対する感度は、図11の原点での曲線の上下方向(すなわち、90°又は270°方向)の開き具合からわかる。図20においては、これは1/57でθ=1°に相当していたが、図11においては、僅か0.00090である。比で表すと、図20の場合は1:57であったが、図11では1:1107になっている。また、図11において原点からの距離は感度の大きさを表しており、磁気シールド70を配置した場合の感度の最大値は、図20の場合に比べて約1.3倍になっている。
【0053】
これらの結果から、磁気シールド70において、第1の磁気シールド71、第2の磁気シールド72及び第3の磁気シールド73は連結していないので、感度軸方向の磁気シールド効果は小さく、感度軸に直交する方向の磁気シールド効果は大きい。また、センサヘッド10,20の上下端に配置される第1の磁気シールド71及び第3の磁気シールド73は、感度軸方向からの磁界を吸引するような集磁効果を持つので、感度が30%程度増加している。このように、図10に示したような磁気シールド70は、磁気傾度計1の感度軸に対して直交する方向の磁界に対して感度を抑制する効果があり、感度軸方向については感度を30%程度増加させる効果がある。
【0054】
図12は、本実施形態に係る磁気傾度計1のセンサヘッド10,20を2つの円筒状の磁気シールドで被覆した場合の構成を示す図である。図12において、磁気シールド70は、1cmの長さを有する第4の磁気シールド74と、第4の磁気シールド74から1cm離間して配置される1cmの長さを有する第5の磁気シールド75とで構成されている。第1のセンサヘッド10の長さは3cmであるため、第1のセンサヘッド10の上端位置と第4の磁気シールド74の上端位置とは一致しており、また、第1のセンサヘッド10の下端位置と第5の磁気シールド75の下端位置とは一致している。直径と厚さは図10の場合と同じである。なお、ここでも第1のセンサヘッド10に関してのみ図示しているが、第2のセンサヘッド20についても同様の磁気シールド70を配置する。
【0055】
図13は、図12における磁気シールド70を配置した場合の磁気傾度計1のセンサ感度の角度依存性を示す図である。図12に示すように、最大感度については図20の場合に比べて0.91倍と小さくなっているが、感度軸に直交する方向(すなわち、90°又は270°方向)の磁界に対する感度は、最大感度の1/409となっており、その抑圧効果が大きいことがわかる。
【0056】
図14は、本実施形態に係る磁気傾度計1のセンサヘッド10,20を多数の短い円筒状の磁気シールドで被覆した場合の構成を示す図である。図14において、磁気シールド70は、第6の磁気シールド76、第7の磁気シールド77及び第8の磁気シールド78の3つの磁気シールドからなる第1の磁気シールド群70aと、第9の磁気シールド79、第10の磁気シールド80及び第11の磁気シールド81の3つの磁気シールドからなる第2の磁気シールド群70bとで構成されている。各磁気シールド(第6の磁気シールド76~第11の磁気シールド81)の長さは0.3cmで、それぞれの磁気シールド群(第1の磁気シールド群70a,第2の磁気シールド群70b)において、各磁気シールド間は0.3cmの間隔を空けて配置されている。第1の磁気シールド群70aにおける最上部に配置されている第6の磁気シールド76の下端位置は、第1のセンサヘッド10の上端位置と一致している。また、第2の磁気シールド群70bにおける最下部に配置されている第11の磁気シールド81の上端位置は、第1のセンサヘッド10の下端位置と一致している。直径と厚さは図10及び図12の場合と同じである。なお、ここでも第1のセンサヘッド10に関してのみ図示しているが、第2のセンサヘッド20についても同様の磁気シールド70を配置する。
【0057】
図15は、図14における磁気シールド70を配置した場合の磁気傾度計1のセンサ感度の角度依存性を示す図である。図15の計算結果において、感度軸に直交する方向の磁界に対する感度は最大感度の1/401となっており、その抑圧効果は図20の場合に比べて7倍の効果があることがわかる。
【0058】
なお、磁気シールド70は、少なくともセンサヘッド10,20の一部を被覆するように配設され、好ましくは、円筒状の複数の磁気シールドからなり、各磁気シールドの中心軸が磁気傾度計1の感度軸と一致させることが望ましい。さらに、センサヘッド10,20の両端部近傍において磁気シールド70が配置され、センサヘッド10,20における各検出コイル12,13,22,23が巻回されるコイル領域よりも外側の領域を含んで被覆されることが望ましい。さらに、各磁気シールド70の長さや配置間隔は任意に設定できるものである。
【0059】
また、磁気コア11,21はワイヤに限らず、他の材料や形状のもの(例えばパーマロイやフェライト等の円柱コア)であってもよい。すなわち、ワイヤコアの場合、当該ワイヤが直線状でないので横方向の感度が0では無くなることが磁気傾度計1に偽信号をもたらす原因であるが、パーマロイやフェライトの円柱コアの場合は、幾何学的には回転対称であっても、透磁率がコア内のどこでも均一であることは保証されないので、やはり横方向の感度が発生する。このようなコアの場合であっても、本実施形態に係る磁気傾度計を実現することが可能である。
【0060】
図16は、本実施形態に係る磁気傾度計において磁気シールドを配置する場合の具体的なセンサヘッドの構造を示す断面図である。なお、図16に示すのは第1のセンサヘッド10の構造であるが、第2のセンサヘッド20についても同様の構造である。また、磁気コア11のワイヤについては図示しておらず、励磁用リード線と検出用リードに関しては断面を示すものではない。ここでは、磁気シールドの一例として、上記3つの形状のうち最も効果が大きかった図10の場合の構造を示している。
【0061】
図16において、磁気コア11にマグネトメータ3の第3の検出コイル13が巻回され、その外側にグラディオメータ2の第1の検出コイル12が巻回されている。第1のセンサヘッド10の端部からは磁気コア11に接続する励磁用リード線91と、第1の検出コイル12や第3の検出コイル13に接続する検出用リード線92が引き出されている。この第1の検出コイル12や第3の検出コイル13が巻回されている領域Dが上記のコイル領域に相当する。
【0062】
この第1のセンサヘッド10は、円筒状の非磁性保持材93に挿入されて保持される。非磁性保持材93の表面には、例えば旋盤などを用いて円周上に複数の凹溝94が形成される。凹溝94は、磁気シールド70の長さ、個数、配置位置に対応して形成される。凹溝94の底面部分には、例えばアモルファス磁性薄帯のような薄帯が巻着されており、これが磁気シールド70として機能する。このような作製方法で磁気シールド70を形成することで、その中心軸を揃え、感度軸に直交する方向の磁界を確実にシールドすることが可能となる。第1のセンサヘッド10を内包する非磁性保持材93は、第2のセンサヘッド20を含めて磁気傾度計1を保持する磁気傾度計保持用パイプ95に挿通されて固定される。非磁性保持材93の外径と磁気傾度計保持用パイプ95の内径とを一致させることで、磁気傾度計保持用パイプ95内に非磁性保持材93を不動状態で固定して保持することができる。
【0063】
このように、本実施形態に係る磁気傾度計においては、センサヘッド10,20の一部を被覆する磁気シールドを備え、必要に応じて、磁気シールド70は、センサヘッド10,20が配設される直線上の感度軸を中心軸とする円筒状の複数の磁性体で形成され、また必要に応じて、磁気シールド70は、センサヘッド10,20の両端部近傍に少なくとも配設されて、各検出コイルが巻回されるコイル領域よりも外側の領域が被覆されるように配設されることで、磁気傾度計1の感度軸方向の磁気シールド効果は小さく、感度軸に直交する方向の磁気シールド効果を大きくすると共に、コイル領域よりも外側の領域が被覆されることで感度軸方向からの磁界を吸引するような集磁効果を持つので、感度を増加することが可能となる。その結果、それぞれのセンサヘッド10,20の感度軸について、磁気傾度計1の軸からのずれを限りなく0に近づけることができる。
【0064】
なお、上記各実施形態において、磁気傾度計1は、図1に示したようなピックアップコイル型、又は図2に示したようなフラックスゲート型のいずれにおいても実現することが可能であるが、ピックアップコイル型の場合は、磁気傾度計1の急激な方向転換などにより磁気コア11,21の磁化が変化して偽信号が生じてしまう可能性がある。これに対して、図2のフラックスゲート型の場合はマグネトメータ3の第2の検出回路40が負帰還回路を構成しているため、フィードバック電流により磁気コア11,21の磁化状態が常に一定に保たれ、急激な測定状態の変化があっても適正に磁界を検出することが可能となる。
【符号の説明】
【0065】
1 磁気傾度計
2 グラディオメータ
3 マグネトメータ
10 第1のセンサヘッド
11 第1の磁気コア
12 第1の検出コイル
13 第3の検出コイル
20 第2のセンサヘッド
21 第2の磁気コア
22 第2の検出コイル
23 第4の検出コイル
30 第1の検出回路
31 積分器
32 増幅器
40 第2の検出回路
41 積分器
42 増幅器
50 励磁回路
60 補正回路
61 切替部
62 振幅調整部
63 加算部
70 磁気シールド
70a 第1の磁気シールド群
70b 第2の磁気シールド群
71~81 第1~11の磁気シールド
91 励磁用リード線
92 検出用リード線
93 非磁性保持材
94 凹溝
95 磁気傾度計保持用パイプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
【手続補正書】
【提出日】2023-01-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気コアを共通としてグラディオメータとマグネトメータとを一体化した磁気傾度計において、
第1の磁気コアと、当該第1の磁気コアに巻回される第1の検出コイルと、前記第1の磁気コアと間隔を空けて直線上に配設される第2の磁気コアと、当該第2の磁気コアに巻回され、前記第1の検出コイルの一端と誘起電圧が相殺される方向に接続される第2の検出コイルと、前記第1の検出コイル及び前記第2の検出コイルの出力を検出する第1の検出回路と、を有するグラディオメータと、
前記第1の磁気コアと、当該第1の磁気コアに巻回される第3の検出コイルと、前記第2の磁気コアと、当該第2の磁気コアに巻回され、前記第3の検出コイルの一端と誘起電圧が加算される方向に接続される第4の検出コイルと、前記第3の検出コイル及び前記第4の検出コイルの出力を検出する第2の検出回路と、を有するマグネトメータと、
前記第1の磁気コア、前記第1の検出コイル及び前記第3の検出コイルからなる第1のセンサヘッドの検出感度と、前記第2の磁気コア、前記第2の検出コイル及び前記第4の検出コイルからなる第2のセンサヘッドの検出感度との違いに応じた補正係数を前記第2の検出回路で検出された第2の磁界検出電圧に乗算し、前記第1の検出回路で検出された第1の磁界検出電圧に対して前記乗算された値を加算又は減算して前記第1の磁界検出電圧に含まれる偽信号を補正する補正手段とを備えることを特徴とする磁気傾度計。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気傾度計において、
前記第1のセンサヘッド及び前記第2のセンサヘッドの一部を被覆する磁気シールドを備えることを特徴とする磁気傾度計。
【請求項3】
請求項2に記載の磁気傾度計において、
前記磁気シールドは、前記第1のセンサヘッド及び前記第2のセンサヘッドが配設される直線上の感度軸を中心軸とする円筒状の複数の磁性体で形成されていることを特徴とする磁気傾度計。
【請求項4】
請求項3に記載の磁気傾度計において、
前記磁気シールドは、前記第1のセンサヘッド及び前記第2のセンサヘッドの両端部近傍に少なくとも配設され、各検出コイルが巻回されるコイル領域よりも外側の領域が被覆されるように配設されることを特徴とする磁気傾度計。