(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056429
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】抗菌・抗ウイルス性樹脂組成物及びこれを用いてなる発泡樹脂製品、フィルム製品、繊維製品並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
A01N 37/02 20060101AFI20240416BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240416BHJP
A01N 25/10 20060101ALI20240416BHJP
A01N 59/00 20060101ALI20240416BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20240416BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
A01N37/02
A01P3/00
A01N25/10
A01N59/00 C
C08K5/098
C08L101/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163294
(22)【出願日】2022-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】505172178
【氏名又は名称】株式会社シガドライウィザース
(74)【代理人】
【識別番号】100101823
【弁理士】
【氏名又は名称】大前 要
(74)【代理人】
【識別番号】100181412
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 康浩
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀彦
【テーマコード(参考)】
4H011
4J002
【Fターム(参考)】
4H011AA01
4H011AA04
4H011BA04
4H011BB06
4H011BB18
4H011BC19
4H011DH02
4J002AA011
4J002BB021
4J002BB031
4J002EG046
4J002FD186
4J002GB01
4J002GC00
4J002GG00
(57)【要約】
【課題】長期間にわたって高い抗菌・抗ウイルス活性を維持する抗菌・抗ウイルス樹脂組成物を提供する。
【解決手段】グルコン酸亜鉛が、熱可塑性樹脂に練りこまれてなる、抗菌・抗ウイルス樹脂組成物。熱可塑性樹脂100質量部に対して、グルコン酸亜鉛が0.3~1.2質量部である。グルコン酸亜鉛の粒径が、18メッシュ以下である。抗菌・抗ウイルス樹脂組成物は、発泡樹脂製品、フィルム製品、繊維製品などとすることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコン酸亜鉛が熱可塑性樹脂に練りこまれてなる、抗菌・抗ウイルス樹脂組成物。
【請求項2】
前記抗菌・抗ウイルス樹脂組成物中に練りこまれた成分の質量割合は、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して、グルコン酸亜鉛が0.3~1.2質量部である、
請求項1に記載の抗菌・抗ウイルス樹脂組成物。
【請求項3】
前記抗菌・抗ウイルス樹脂組成物中に練りこまれたグルコン酸亜鉛の粒径が、18メッシュ以下である、
請求項2に記載の抗菌・抗ウイルス樹脂組成物。
【請求項4】
前記抗菌・抗ウイルス樹脂組成物は、グルコン酸を含まない、
請求項1に記載の抗菌・抗ウイルス樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の抗菌・抗ウイルス樹脂組成物を用いてなる発泡樹脂製品。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の抗菌・抗ウイルス樹脂組成物を用いてなるフィルム製品。
【請求項7】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の抗菌・抗ウイルス樹脂組成物を用いてなる繊維製品。
【請求項8】
グルコン酸亜鉛と、熱可塑性樹脂と、を混練して、前記熱可塑性樹脂中に前記グルコン酸亜鉛を練りこませる混練ステップを備える、抗菌・抗ウイルス樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
粒径が80nm以下の酸化亜鉛粒子を、グルコン酸を含む水系の溶媒に混合分散し、酸化亜鉛粒子とグルコン酸とを反応させて、前記酸化亜鉛粒子及びグルコン酸をグルコン酸亜鉛となす薬液作成ステップと、
前記薬液から前記溶媒を除去して、前記混練ステップで用いるグルコン酸亜鉛となす溶媒除去ステップと、をさらに備え、
前記混練ステップは、前記熱可塑性樹脂の融点よりも低い温度で混練するステップである、請求項8に記載の抗菌・抗ウイルス樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌・抗ウイルス性の樹脂組成物に関するものであり、詳しくは、長期間にわたって抗菌・抗ウイルスの活性が維持される樹脂組成物、及び当該樹脂組成物を用いてなる発泡樹脂製品、フィルム製品、繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以降、ウイルスなどによる感染症の予防は、生活の上で必須になってきている。
【0003】
感染症の予防には、手や手に触れるものをエタノールなどのアルコールなどによって消毒しておくことが有効である。しかしながらアルコールは、ノロウイルス等のエンベロープを有しないウイルスの不活性化ができないとか、短時間で揮発し効果が長続きしないなどの問題があった。
【0004】
また、次亜塩素酸水も広く利用されているが、殺菌に時間がかかる、持続的な殺菌やウイルスの不活性化を行うことができないなどの問題があった。
【0005】
本発明者らは、有機酸亜鉛を5000~10000ppmの濃度で含む薬剤が、鳥インフルエンザウイルスを不活性化する能力があることを見出し、ウイルス不活性化薬剤として利用することを提案した(特許文献1)。また、本発明者らは、この有機酸亜鉛を含む薬剤は、ウイルス以外に、各種の細菌・真菌に対しても抗菌力を有することを示した(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-143875
【特許文献2】特開2015-113299
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
手に触れる物品を使用のたびにアルコール等の処理を行うことは手間がかかる。このため、抗菌・抗ウイルス効果が長く持続する抗菌・抗ウイルス加工済み製品に対する要望が高まっている。
【0008】
本発明は、以上に鑑みなされたものであり、特別な処理を行わなくても長時間にわたって抗菌・抗ウイルス作用が持続する、発泡樹脂製品、フィルム製品、繊維製品などの材料となる安心安全な抗菌・抗ウイルス樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための、本発明に係る抗菌・抗ウイルス樹脂組成物は、グルコン酸亜鉛が熱可塑性樹脂に練りこまれてなる、抗菌・抗ウイルス樹脂組成物である。
【0010】
金属イオンには、Hg>Ag>Cu>Zn>Fe>TiO2の順で殺菌力があるといわれている。水銀は環境に対する毒性が強いことから、銀系抗菌剤が用いられることが多いが、グルコン酸の塩となったグルコン亜鉛の形で使用することにより、銀に劣らない抗菌性を示すようになる。亜鉛イオンの抗菌メカニズムは銀イオンと同じと考えられ、金属の毒性、殺菌性によるものでなく、空気中あるいは水中の酸素の一部を活性酸素化し、ウイルスのエンベロープや細菌の細胞膜等を破壊すると考えられる。
【0011】
また、グルコン酸亜鉛((C6H11O7)2Zn)は水に溶解させると、その一部がグルコン酸イオン(C6H11O7
-)と亜鉛イオン(Zn2+)とに電離し、さらにグルコン酸イオンの一部が水中の水素イオン(H+)と反応してグルコン酸(C6H12O7)となる。
【0012】
[化1]に示すように、水溶液中においてグルコン酸は、その一部が脱水してグルコノラクトン(C6H10O6)になる。これを平衡という。グルコノラクトンとグルコン酸の割合は、温度、濃度、pHなどによって変わるが、酸性にすると水中の水素イオンが多くなるので、グルコノラクトンの割合が多くなる。アルカリ性にするとグルコン酸は塩になって安定化するので、グルコノラクトンの割合は少なくなる。平衡とは2つの水槽をチューブで連結したようなもので、左側の水槽に水を入れると、バランスを保つために水はチューブを通って右側に流れ、平衡になる。
【0013】
【0014】
グルコン酸亜鉛の効果について、さらに説明する。ウイルスは、カプシドというタンパク質の殻を有している。[化2]に示すように、タンパク質には酸性のアミノ酸と塩基性のアミノ酸が含まれているが、酸性のアミノ酸は、-COOHなどを持っており、マイナスイオン(COO-)になる。塩基性のアミノ酸は、-NH2を持っているので、プラスイオン(-NH3
+)になる。
【0015】
ここで、タンパク質中のプラスイオンが多かったり、マイナスイオンが多かったりするとタンパク質は水に溶け、マイナスとプラスのイオンが同じ(等電点)だと中性になり、電荷を持たないので水に溶けなくなる。タンパク質を構成要素とするウイルスを等電点にすると、ウイルスは水に溶けなくなり、ウイルス同士が凝集し合って不活性化すると考えられる。
【0016】
【0017】
グルコン酸亜鉛は、タンパク質の等電点の調整を行い、ウイルス相互を凝集させるので、エンベロープを有しないウイルスを不活性化できる。また、上述したように亜鉛イオンの働きによりウイルスのエンベロープが破壊されるので、エンベロープを有するウイルスも不活性化できる。
【0018】
そしてこのような作用は、樹脂組成物が空気中の水分や使用者の手などの表面の水分と接している場合にも起こるため、抗菌・抗ウイルス作用を有する樹脂組成物を実現することができる。
【0019】
ここで、グルコン酸亜鉛は、食品に添加可能な成分であり、人体に対する安全性にも優れる。
【0020】
また、樹脂組成物に練りこまれるグルコン酸亜鉛は、無水和物であってもよく、水和物(例えば3水和物)であってもよい。好ましくは水和物を用いる。なお、グルコン酸亜鉛の質量は、グルコン酸亜鉛の無水和物換算での量を意味する。
【0021】
また、樹脂組成物とは、形状や用途などが特に限定されないものを意味する。つまり、その形状はフィルム状、シート状、板状、ペレット状、繊維状などであってもよく、これらを用いた容器、筐体、発泡樹脂製品、フィルム製品、繊維製品などであってもよい。これらの樹脂・樹脂製品は、様々な用途に使用することが可能であり、様々なプラスチック製品、化学繊維製品などに適用することが可能である。
【0022】
また、グルコン酸亜鉛の粒径は、18メッシュ以下であることが好ましく、35メッシュ以下であることがより好ましく、60メッシュ以下であることがさらに好ましい。
【0023】
また、熱可塑性樹脂100質量部に対して、グルコン酸亜鉛が0.3~1.2質量部含まれることが好ましく、0.35~1.0質量部含まれることがより好ましく、0.4~0.8質量部含まれることがさらに好ましい。
【0024】
また、樹脂組成物には、グルコン酸、あるいはこれが脱水したグルコノラクトンを練りこまないことが好ましい。
【0025】
上記課題を解決するための、本発明に係る抗菌・抗ウイルス樹脂組成物の製造方法は、グルコン酸亜鉛と、熱可塑性樹脂と、を混練して、熱可塑性樹脂中にグルコン酸亜鉛を練りこませる混練ステップを備える。
【0026】
このような方法により、本発明に係る抗菌・抗ウイルス樹脂組成物を製造できる。
【0027】
ここで、グルコン酸亜鉛は、化合物の市販品を用いてもよい。またこれに代えて、次のようにしてグルコン酸亜鉛を得てもよい。
【0028】
酸化亜鉛粒子(例えば粒径が80nm以下)を、グルコン酸を含む水系の溶媒に混合分散し、酸化亜鉛粒子とグルコン酸とを反応させてグルコン酸亜鉛とした薬液を作成する。この薬液から、溶媒を除去して、混練ステップで用いるグルコン酸亜鉛となす。
【0029】
このとき、グルコン酸と、酸化亜鉛粒子との混合比は、実質的に両化合物が全て反応することを前提として、グルコン酸の量(モル)を酸化亜鉛粒子の量(モル)の2倍とする。
【0030】
溶媒の除去方法としては、常圧ないし減圧条件で溶媒を揮発除去する方法や、噴霧乾燥などにより溶媒を除去する方法がある。
【0031】
この酸化亜鉛粒子は、直径が80nm以下、より好ましくは直径が40~70nmの超微粒子(ナノ粒子)とする。このようにすることで、酸化亜鉛粒子のグルコン酸水溶液への分散性が高まるとともに、グルコン酸との反応性も高まる。
【0032】
また、混練ステップは、熱可塑性樹脂をその融点以上に加熱した溶融状態で行ってもよいが、熱可塑性樹脂の融点よりも低い温度で混練することが、熱可塑性樹脂がグルコン酸亜鉛の作用を妨げにくいため好ましい。
【0033】
混練温度は、樹脂を溶融させることなく混練する場合は、混練の温度がグルコン酸亜鉛の抗菌・坑ウイルス作用に悪影響を与えることを避けるため、10~40℃で行うことが好ましく、12~35℃で行うことがより好ましく、15~30℃で行うことがさらに好ましい。
【0034】
樹脂を溶融させる場合は、同様な理由から、熱可塑性樹脂の融点~融点+30℃であることが好ましく、融点+5℃~融点+25℃であることがより好ましく、融点+10℃~融点+20℃であることがさらに好ましい。
【0035】
混練時間は製造する量、ペレットの表面積、温度などにより適宜設定すればよい。樹脂を溶融させることなく混練する場合は、4~48時間であることが好ましく、6~36時間であることがより好ましく、8~24時間であることがさらに好ましい。樹脂を溶融させて混練する場合は、これよりも短時間でよい。
【0036】
熱可塑性樹脂としては特に限定されることはなく、公知の熱可塑性樹脂を広く使用できる。たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂などの汎用樹脂や、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタールなどのエンジニアプラスチック、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルファイドなどのスーパーエンジニアプラスチック等を使用できる。
【0037】
本発明の抗菌・抗ウイルス樹脂組成物には、公知の添加剤(例えば帯電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、難燃剤、難燃助剤、着色剤、顔料、耐光剤、可塑剤、粘着付与剤、フィラ-など)を必要に応じて添加することができる。
【0038】
なお、1,3ジメチル-2-イミダゾリジンをグルコン酸亜鉛水溶液に添加すると、グルコン酸亜鉛の水への溶解度を増加させることができる。ここで、1,3ジメチル-2-イミダゾリジンは毒性を有しない点で好適である。
【発明の効果】
【0039】
本発明にかかる抗菌・抗ウイルス樹脂組成物によると、長期間にわたって抗菌・抗ウイルス活性を有する樹脂組成物を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明にかかる抗菌・抗ウイルス樹脂組成物は、グルコン酸亜鉛が熱可塑性樹脂に練りこまれてなる。
【0041】
また、グルコン酸亜鉛がウイルスの等電点の調整をうまく行ない、またウイルスのエンベロープを破壊させ、これを不活性化させる。
【0042】
抗菌・抗ウイルス樹脂組成物に含ませるグルコン酸亜鉛としては、市販のグルコン酸亜鉛を用いることができる。
【0043】
また、抗菌・抗ウイルス樹脂組成物に含ませるグルコン酸亜鉛は、次のような方法により得ることもできる。
【0044】
グルコン酸を40~50重量%含むグルコン酸水溶液に、粒径が80nm以下の酸化亜鉛ナノ粒子(グルコン酸モル数に対して1/2のモル数)を、室温で、温度を上昇させないように、水を加えながらかき混ぜて分散させて薬液を得る。グルコン酸水溶液に酸化亜鉛ナノ粒子を分散させていくと発熱し、温度が上がり過ぎるとゲル化することが認められた。この薬液において、グルコン酸及び酸化亜鉛粒子の全てがグルコン酸亜鉛となるようにする。
【0045】
この後、水分を揮発除去してグルコン酸亜鉛を得る。この揮発は、減圧条件で行ってもよく、常圧条件で行ってもよく、噴霧乾燥を行ってもよい。
【0046】
(実施例1)
グルコン酸50%水溶液100gに、直径50nm~70nmの酸化亜鉛ナノ粒子10.372gを室温で、温度を上げないように水を添加しながらかき混ぜて(水の添加量は555g、グルコン酸水溶液に含まれる水分を含めた全水分量は605g)、抗菌・抗ウイルス薬剤を作成した。
【0047】
この溶液を遠心分離したところ、固形分は一切確認されなかった。このため、酸化亜鉛全量がグルコン酸亜鉛となったと判断した。
【0048】
この後、110℃に維持した定温乾燥機(常圧(0.1013MPa)条件)を用いて、抗菌・抗ウイルス薬剤の水分を除去し、グルコン酸亜鉛を得た。
【0049】
上記グルコン酸亜鉛を18メッシュのふるいにかけた後、上記グルコン酸亜鉛と市販のポリエチレンペレット(粒径約3mm)とを、質量比0.6:100の比率で混練機に入れ、内部温度を15~30℃(室温)に維持して12時間攪拌した。上記混練機としては、それぞれの羽根が自転しながら公転する複数の攪拌羽根を備えた混練機を用いた。このようにして、実施例1にかかる抗菌・抗ウイルス樹脂組成物を作成した。
【0050】
なお、上記方法で得たグルコン酸亜鉛には、結晶水が含まれる(3水和物である)ことが確認された。
【0051】
(実施例2)
グルコン酸亜鉛とポリエチレンペレットとの質量混合比を、0.4:100としたこと以外は、上記実施例1と同様にして、実施例2にかかる抗菌・抗ウイルス樹脂組成物を作成した。
【0052】
(実施例3)
市販のグルコン酸亜鉛水和物を、ポリエチレンペレット100質量部に対して0.6質量部となるように混合したこと以外は、上記実施例1と同様にして、実施例3にかかる抗菌・抗ウイルス樹脂組成物を作成した。
【0053】
(実施例4)
グルコン酸亜鉛と、ポリエチレンペレットとを、140℃に加熱して混練りを30分行い、ペレット状に射出成型したこと以外は、上記実施例1と同様にして、実施例4にかかる抗菌・抗ウイルス樹脂組成物を作成した。
【0054】
(実施例5)
ポリエチレンペレットに代えて市販のポリエステルペレットを用いてグルコン酸亜鉛との混練を行ったこと以外は、上記実施例1と同様にして、実施例5にかかる抗菌・抗ウイルス樹脂組成物を作成した。
【0055】
(比較例1)
グルコン酸亜鉛を用いることなくポリエチレンペレットの混練機での攪拌を行ったこと以外は、上記実施例1と同様にして比較例1にかかる抗菌・抗ウイルス樹脂組成物を作成した。
【0056】
(比較例2)
グルコン酸亜鉛を用いることなくポリエチレンペレットの混練り、射出成型を行ったこと以外は、上記実施例4と同様にして比較例2にかかる抗菌・抗ウイルス樹脂組成物を作成した。
【0057】
(比較例3)
グルコン酸亜鉛を用いることなくポリエステルペレットの混練機での攪拌を行ったこと以外は、上記実施例5と同様にして、比較例3にかかる抗菌・抗ウイルス樹脂組成物を作成した。
【0058】
(抗菌試験)
実施例1~5、比較例1~3にかかる樹脂組成物(抗菌加工品)と、対照群としての混練(抗菌加工)を行う前のポリエチレンペレット(無加工品)と、混練(抗菌加工)を行う前のポリエステルペレット(無加工品)とを、射出成型機を用いて50×50×2mmの板状に、それぞれ6個成型した。これを半分(3個ずつ)に分け、一方については、製造(成型)後すぐに下記の抗菌試験を行った。残りの半分については、25℃、湿度90%の雰囲気で30日放置し、その後同様の抗菌試験を行った。
【0059】
抗菌試験は、JIS Z 2801に準拠して行った。50mm角の試験片(実施例と対照の無加工品)に、0.4mLの菌液(黄色ぶどう球菌)を滴下し、4cm角のフィルムで被覆した。この試験片を35℃、相対湿度90%以上の雰囲気で24時間培養した。この後、試験片上の試験菌を洗い出して回収した後、1cm3あたりの生菌数を測定し、次式により抗菌活性値Rを算出した。
R=Ut-At
Ut:無加工試験片の24時間後の1cm3あたりの生菌数の対数値の平均値
At:抗菌加工試験片の24時間後の1cm3あたりの生菌数の対数値の平均値
【0060】
(抗ウイルス試験)
実施例1~5、比較例1~3にかかる樹脂組成物(抗ウイルス加工品)と、対照群としての混練(抗ウイルス加工)を行う前のポリエチレンペレット(無加工品)と、混練(抗ウイルス加工)を行う前のポリエステルペレット(無加工品)について、それぞれ5g用いた。これらのペレットをそれぞれ、ネコカリシウイルスのウイルス液が10mL入った試験管に入れて、25℃条件で24時間放置した。こののち試験液を回収し、プラーク法を用いてウイルス感染価を測定し、次式により抗ウイルス活性値R1を算出した。なお、サンプル数はそれぞれ3とした。
また、25℃、湿度90%の雰囲気で30日放置した各樹脂組成物(抗ウイルス加工品)、ペレット(無加工品)についても、同様の方法で抗ウイルス試験を行った。
【0061】
R1=Ut1-At1
Ut1:無加工品の24時間後の1cm3あたりのウイルス感染価(PFU/mL)の対数値の平均値
At1:抗ウイルス加工品の24時間後の1cm3あたりのウイルス感染価の対数値の平均値
【0062】
【0063】
以上の結果から、実施例1~5の抗菌活性値は2.2以上と、高い抗菌作用を有していることがわかる。また、この抗菌作用は、30日放置後にも同様に得られており、高い抗菌作用が長期にわたって維持されることが分かった。
【0064】
また、抗ウイルス試験においても、実施例1~5の抗ウイルス活性値は2.0以上と、高い抗ウイルス作用を有していることがわかる。また、この抗ウイルス作用もまた、30日放置後にもおいても高く維持されることが分かった。
【0065】
また、実施例1、4の結果から、グルコン酸亜鉛の添加方法は室温でも熱可塑性樹脂を溶融させて行っても抗菌・抗ウイルス効果を発揮することが分かった。また、グルコン酸亜鉛は市販品を用いてもよく、グルコン酸水溶液に酸化亜鉛を混ぜて調整した薬液の溶媒を除去して得た溶質成分としてのグルコン酸亜鉛を添加してもよいことが分かった。
【0066】
また、実施例1、5の結果から、ポリエチレンやポリエステルで十分に高い抗菌・抗ウイルス効果を発揮することが分かった。このため、本発明に用いる樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂としては特に限定されることはなく、広範な熱可塑性樹脂を利用可能であると考えられる。
【0067】
また、比較例1~3の結果から、グルコン酸亜鉛を加えることなく混練することによる抗菌・抗ウイルス効果はないことが分かった。
【0068】
(製品への応用)
本発明にかかる抗菌・抗ウイルス樹脂組成物を用いて、以下のような方法により抗菌・抗ウイルス樹脂製品を作製した。
【0069】
(発泡樹脂製品)
実施例1のポリエチレンペレット(抗菌・抗ウイルス樹脂組成物)と、公知の熱分解型化学発泡剤を用いて、本発明にかかる発泡樹脂製品(発泡樹脂容器)を作製した。
【0070】
(フィルム製品)
実施例1のポリエチレンペレット(抗菌・抗ウイルス樹脂組成物)を、公知の方法でフィルム状に押し出し成型して、本発明にかかるフィルム製品を作製した。
【0071】
(繊維製品)
実施例5のポリエステルペレット(抗菌・抗ウイルス樹脂組成物)を、公知の方法で融解紡糸し、これを用いて本発明にかかる繊維製品(クロス)を作製した。
【0072】
以上のように、本発明にかかる抗菌・抗ウイルス樹脂組成物を用いることにより、抗菌・抗ウイルス性が付与された様々な樹脂製品を実現できる。
【0073】
今回開示された実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0074】
たとえば、樹脂が溶融した状態でグルコン酸亜鉛と混練する場合、ペレット状に成形するのではなく、直接製品の形状に成形してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明に係る抗菌・抗ウイルス樹脂組成物では、食品にも添加可能な安全な材料が使用されており、しかも長期間にわたって高い活性で抗菌・抗ウイルス作用が維持された樹脂組成物を実現できる。この樹脂組成物は、フィルム製品、繊維製品、発泡樹脂製品等様々な製品に加工して使用することが可能であり、その産業上の利用可能性は大きい。