(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056431
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】音響制御装置
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20240416BHJP
H04R 9/06 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
H04R3/00 310
H04R9/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163297
(22)【出願日】2022-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】000237592
【氏名又は名称】株式会社デンソーテン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 聖基
(72)【発明者】
【氏名】福田 尚史
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 和昭
【テーマコード(参考)】
5D012
5D220
【Fターム(参考)】
5D012DA03
5D220AA11
5D220AB08
(57)【要約】
【課題】非対称R2Rスピーカにおいて、2つのスピーカの位相の差を小さくすること。
【解決手段】実施形態のオーディオアンプは、音源信号に基づき、第1のスピーカを駆動させる第1の駆動信号と、第1のスピーカと背面同士が対向するように設けられ、第1のスピーカより出力可能な音量が小さい第2のスピーカを駆動させる第2の駆動信号と、を生成する。オーディオアンプは、第2のスピーカが出力可能な音量に応じて、第1の駆動信号の生成に用いる音源信号の音量を閾値以下に制限する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音源信号に基づき、第1のスピーカを駆動させる第1の駆動信号と、前記第1のスピーカと背面同士が対向するように設けられ、前記第1のスピーカより出力可能な音量が小さい第2のスピーカを駆動させる第2の駆動信号と、
を生成するコントローラを備え、
前記コントローラは、
前記第2のスピーカが出力可能な音量に応じて、前記第1の駆動信号の生成に用いる前記音源信号の音量を閾値以下に制限する、
音響制御装置。
【請求項2】
前記第2のスピーカは、前記第1のスピーカと形状、重量、物質特性の内、少なくとも1つが異なる
請求項1に記載の音響制御装置。
【請求項3】
前記コントローラは、
前記制限する処理において、入力された音源信号の音量が閾値を超えているか否かを判定し、前記音量が前記閾値を超えている場合、前記音量を前記閾値に等しい値に制限する処理を行う
請求項1に記載の音響制御装置。
【請求項4】
前記コントローラは
前記音源信号の制限された音量に応じて、前記第1のスピーカ及び前記第2のスピーカのいずれとも異なる第3のスピーカを駆動させる第3の駆動信号を生成する
請求項1に記載の音響制御装置。
【請求項5】
前記コントローラは、
前記第3のスピーカを駆動させる第3の駆動信号を構成する周波数の基本周波数の整数倍の周波数の補強信号を生成し、前記補強信号を前記第3の駆動信号に重畳させて出力する
請求項4に記載の音響制御装置。
【請求項6】
前記コントローラは、
車両の中央よりも後方に備えられたR2Rスピーカに対して、前記第1の駆動信号と前記第2の駆動信号を出力し、
前記車両の中央より後方の側面に備えられたスピーカ、及び前記車両の中央より前方の側面に備えられたスピーカを含む前記第3のスピーカに対して、前記第3の駆動信号を出力する
請求項4に記載の音響制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スピーカは、振動板が前後に動くことによる空気振動によって音を発生させる構造を持つ。その際、動きの反作用により、磁器回路及びフレームが少なからず動くことから、正確な振動板振動に対し不要振動(歪み)が生じる。さらに、そのような不要振動がスピーカに固定された周囲の部材に伝わり、異音を発生させることがある。
【0003】
これに対し、磁気回路の背面側に装着した重りにより、磁気回路の振動を抑制する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
さらに、対向する同形状のスピーカを同相信号で駆動し、振動を打ち消すR2R(Rear to Rear)方式が知られている(例えば、非特許文献1を参照)。また、R2R方式を構成するそれぞれのスピーカを、ユニットと呼ぶ場合がある。また、R2R方式によって構成された2つのスピーカを、R2Rスピーカと呼ぶ場合がある。
【0005】
R2R方式によれば、ユニットの駆動振動及び空気圧変動を互いにキャンセルでき、筐体からの異音の発生を防止できる。
【0006】
R2R方式には、他にも「背面対向構造」、「Dual Opposed」、「Force Cancelling」等の呼び名がある。また、R2R方式は、ホーム用のスピーカシステムで採用される場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】デンソーテン、「TD316SWMK2」、[online]、[2022年7月11日検索]、インターネット(https://www.eclipse-td.com/products/td316swmk2/index.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
R2Rスピーカを小型化する目的で、スピーカ同士を異なる形状にすることが考えられる。この場合の2つのスピーカを、非対称R2Rスピーカと呼ぶ。
【0010】
しかしながら、非対称R2Rスピーカにおいては、スピーカの物理的な特性が互いに異なるため、精度良く振動をキャンセルできない場合がある。特に、音量が大きいほど、2つのスピーカの位相の差が大きくなることがある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る音響制御装置は、音源信号に基づき、第1のスピーカを駆動させる第1の駆動信号と、第1のスピーカと背面同士が対向するように設けられ、第1のスピーカより出力可能な音量が小さい第2のスピーカを駆動させる第2の駆動信号と、を生成する。音響制御装置は、第2のスピーカが出力可能な音量に応じて、第1の駆動信号の生成に用いる音源信号の音量を閾値以下に制限する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、非対称R2Rスピーカにおいて、2つのスピーカの位相の差を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】
図2は、非対称R2Rスピーカの構成例を示す図である。
【
図3】
図3は、オーディオシステムの構成例を示す図である。
【
図4】
図4は、音響信号処理部の構成例を示す図である。
【
図5】
図5は、Vol Stepと減衰量の関係を示す図である。
【
図6】
図6は、音響信号処理部の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、従来のR2Rスピーカの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、
図7を用いて、従来のR2Rスピーカについて説明する。
図7は、従来のR2Rスピーカの構成を示す図である。
【0015】
図7に示すように、R2Rスピーカ40aは、スピーカ41aとスピーカ42aとが、背中合わせに結合されたものである。背中合わせとは、音が鳴る振動板と反対側の部材同士を合わせることを意味する。
【0016】
従来のR2Rスピーカには、装置全体のサイズが大きくなるという問題がある。また、従来のR2Rスピーカでは、2つのスピーカの形状が同じである必要があるため、設計の自由度が低下する。
【0017】
本実施形態では、従来のR2Rスピーカの課題を解決することを目的として、非対称R2Rスピーカが用いられる。
【0018】
非対称R2Rスピーカでは、2つのスピーカの物理的特性が互いに異なっていることが許容される。例えば、非対称R2Rスピーカでは、従来のR2Rスピーカと比較して、一方のスピーカが小型化される。
【0019】
一方で、非対称R2Rスピーカには、2つのスピーカの物理的な特性が異なるため、2つのスピーカに同じ駆動信号を入力しただけでは、振動をキャンセルすることができない場合がある。
【0020】
これは、2つのスピーカの形状、重量、物質特性等が異なるためである。形状、重量、物質特性等は、物理的な特性の一例である。例えば、スピーカ42aは、スピーカ41aと形状、重量、物質特性の内、少なくとも1つが異なる。
【0021】
また、前述の通り、非対称R2Rスピーカでは一方のスピーカが他方のスピーカと比べて小型化される。例えば、小型化に際して、2つのスピーカの構造及び材質等が互いに異なり、その結果、2つのスピーカの物理特性が互いに異なるものとなる場合がある。
【0022】
例えば、重量の異なる2つのスピーカに同じ駆動信号を入力した場合、2つのスピーカの振動の周期及び振幅等に差が生じ、その差が不要振動及び異音の原因になることが考えられる。
【0023】
特に、非対称R2Rスピーカの2つのスピーカに入力された駆動信号の音量が大きいほど、2つのスピーカの位相の差が大きくなる。
【0024】
これに対し、非対称R2Rスピーカに入力される駆動信号の音量を制限することが考えられる。しかしながら、非対称R2Rスピーカに入力される駆動信号の音量を制限すると、低音感が損なわれてしまうという問題がある。
【0025】
実施形態では、低音感の低下を抑止しつつ、特に大音量時の2つのスピーカの位相の差を小さくすることを1つの目的とする。
【0026】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する音響制御装置の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0027】
本実施形態では、非対称R2Rスピーカが車両に搭載されるものとする。一方で、実施形態の非対称R2Rスピーカは、車両以外の移動体、建物の内部又は屋外に設置されるものであってもよい。
【0028】
図1は、スピーカの配置例を示す図である。
図1に示すように、車両1は、スピーカ31、スピーカ32、スピーカ33、スピーカ34、スピーカ35、スピーカ36、スピーカ37、スピーカ40を備える。
【0029】
スピーカ31は、前席左側(チャンネル:FrontL)に備えられる。スピーカ32は、前席右側(チャンネル:FrontR)に備えられる。スピーカ33は、後席左側(チャンネル:RearL)に備えられる。スピーカ34は、後席右側(チャンネル:RearR)に備えられる。スピーカ35は、前席左ドア(チャンネル:FdoorL)に備えられる。スピーカ36は、前席右ドア(チャンネル:FdoorR)に備えられる。スピーカ37は、前席中央(チャンネル:Center)に備えられる。
【0030】
スピーカ40は、後席中央に備えられる。スピーカ40は、非対称R2Rスピーカである。スピーカ40は、低域の音を出力するウーファーとして機能するスピーカであってもよい。なお、スピーカ40が配置される位置は後席中央に限定されず、車両1の任意の位置であってよい。
【0031】
ここで、非対称スピーカの一方の側を、鳴動側と呼ぶ。また、非対称スピーカの鳴動側と反対の側を、キャンセル側と呼ぶ。また、スピーカ40は、鳴動側のWoofer1及びキャンセル側のWoofer2の2つのチャンネルに対応する。
【0032】
また、車両1には、再生装置10及びオーディオアンプ20が備えられる。再生装置10は、音の再生信号をオーディオアンプ20に入力する。オーディオアンプ20は、再生信号に基づき、各スピーカに音を出力するための信号を送信する。なお、再生装置10とオーディオアンプ20は、互いに別の装置であってもよいし、一体構成であってもよい。
【0033】
また、オーディオアンプ20が出力する信号は、スピーカを駆動させるための信号であることから、駆動信号と呼ばれる。
【0034】
再生装置10は、音源として機能する装置であればよく、例えば、カーナビゲーションシステム、ドライブレコーダ、カーオーディオシステム、スマートフォン等である。
【0035】
オーディオアンプ20は、再生信号に対し、FIR(Finite Impulse Response)、IIR(Infinite Impulse Response)等によるフィルタリング、ミックス、ノイズ除去、増幅といった処理を行う。
【0036】
さらに、オーディオアンプ20は、非対称R2Rスピーカであるスピーカ40に対し、精度良く振動をキャンセルできるような駆動信号を送信する。スピーカ40に送信される駆動信号については後に詳しく説明する。
【0037】
オーディオアンプ20は、音響制御装置の一例であり、音響制御方法を実行する。
【0038】
ここで、
図2を用いてスピーカ40の構成を説明する。
図2は、非対称R2Rスピーカの構成例を示す図である。
【0039】
図2に示すように、スピーカ40は、鳴動側スピーカ41及びキャンセル側スピーカ42を有する。また、鳴動側スピーカ41の一部及びキャンセル側スピーカ42は、筐体45に収められている。また、
図2に示すように、鳴動側スピーカ41の背面は、キャンセル側スピーカ42の背面と対向している。
【0040】
鳴動側スピーカ41は、ボイスコイル411、磁気回路412、振動板413及び結合部414を備える。また、キャンセル側スピーカ42は、ボイスコイル421、磁気回路422及び結合部424を備える。
【0041】
本実施形態では、キャンセル側スピーカ42は振動板を備えていない。ただし、キャンセル側スピーカ42は振動板を備えていてもよい。
【0042】
キャンセル側スピーカ42は、振動板を備えていない場合であっても、駆動信号により振動を生じさせる。キャンセル側スピーカ42は、この振動により、鳴動側スピーカ41の振動をキャンセルする。
【0043】
また、結合部414及び結合部424は、金属又は樹脂等の部材であり、それぞれボイスコイル411及びボイスコイル421とともに振動する。
【0044】
結合部414及び結合部424は、
図2のように密着している必要はない。例えば、結合部414及び結合部424は、非特許文献2に示す構成と同様に、シャフトにより結合されていてもよい。また、結合部414及び結合部424は、シリンダー内に対向して設けられたピストンであってもよい。この場合、ピストン間の空間の空気圧によって、振動がキャンセルされる。
【0045】
再生装置10及びオーディオアンプ20は、オーディオシステム2を構成する。
図3を用いて、オーディオシステム2の構成を説明する。
図3は、オーディオシステムの構成例を示す図である。
【0046】
図3に示すように、再生装置10は、複数のチャンネルの再生信号をオーディオアンプ20に入力する。オーディオアンプ20は、各スピーカに対応した複数のチャンネルの駆動振動を出力する。
【0047】
なお、オーディオアンプ20の入力チャンネル数と出力チャンネル数は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0048】
オーディオアンプ20は、音響信号処理部21及びP-IC(パワーアンプIC)22を有する。音響信号処理部21は、再生信号に対してフィルタリング等の処理を行う。P-IC22は、処理済みの再生信号を増幅し、駆動信号として各スピーカに出力する。
【0049】
例えば、音響信号処理部21は、コンピュータのCPUがコントローラとして機能し、ROM(Read Only Memory)に記憶されたプログラムを読み出して実行することによって実現される。音響信号処理部21は、音源信号に基づき、スピーカ駆動信号を生成するコントローラの一例である。なお、スピーカ駆動信号は、音響信号処理部21が各スピーカに出力する駆動信号である。また、コントローラは、音響信号処理部21のみを実現するのではなく、音響信号処理部21とP-IC22の両方を実現するものであってもよい。
【0050】
また、コントローラは、マイコン、DSP(Digital Signal Processor)、ECU(Electronic Control Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、SoC(System on a Chip)等であってもよい。
【0051】
また、コントローラは、単一のプロセッサであってもよいし、マルチプロセッサ構成であってもよい。また、コントローラは、単一のソケットで接続される単一のチップ内に複数のコアを有するマルチコア構成であってもよい。
【0052】
図4を用いて、音響信号処理部21の構成を説明する。
図4は、音響信号処理部の構成例を示す図である。
【0053】
図4に示すように、音響信号処理部21は、リミッタ211、R2R駆動信号生成部212、補強部213を有する。
【0054】
リミッタ211は、キャンセル側スピーカ42が出力可能な音量に応じて、鳴動側駆動信号の生成に用いる音源信号の音量を閾値以下に制限する。なお、キャンセル側スピーカ42は、鳴動側スピーカ41より出力可能な音量が小さいものとする。なお、音量は音圧、ゲイン、レベル、減衰量等と言い換えられてもよい。
【0055】
鳴動側駆動信号の生成に用いる音源信号を制限することは、R2Rスピーカであるスピーカ40に入力される駆動信号を制限することに相当する。リミッタ211は、R2Rスピーカであるスピーカ40に入力される駆動信号の音量を制限する。これにより、R2Rスピーカにおける鳴動側とキャンセル側との位相の差を抑えることができる。
【0056】
例えば、リミッタ211は、R2Rスピーカであるスピーカ40に入力される駆動信号の音量が閾値を超えている場合、駆動信号の音量を当該閾値に制限する。
【0057】
ここで、駆動信号の音量は、ユーザ又は自動制御によって設定される再生信号の音量(Vol Step)が大きいほど大きくなる場合がある。リミッタ211は、再生信号の音量に応じて駆動信号の音量の制限を行うことができる。なお、このような制御は、リミッタ211以外(例えば、後述するR2R駆動信号生成部212)によって行われてもよい。
【0058】
リミッタ211は、ユーザ又は自動制御によって設定された再生信号の音量が閾値以下である場合、制限を行わない。一方、リミッタ211は、ユーザ又は自動制御によって設定された再生信号の音量が閾値を超えている場合、再生信号の音量を当該閾値と等しい音量に制限する。
【0059】
例えば、リミッタ211は、
図5に示すVol Stepと減衰量の関係に従って音量の制限を行う。
図5は、Vol Stepと減衰量の関係を示す図である。
【0060】
R2RSpk経路は、
図4のリミッタ211を通り、Woofer1(鳴動側)のチャンネルに至る経路である。Vol Stepは、再生信号の音量であり、ユーザ又は自動制御によって設定される。例えば、Vol Stepは、ユーザがツマミ及びボタン等を操作することによって決定される離散値であってもよい。
【0061】
図5に示すように、R2RSpk経路以外の経路(
図4のリミッタ211を通らない経路)においては、Vol Stepが大きくなるほど減衰量が大きくなる。
【0062】
また、R2RSpk経路においては、Vol Stepが閾値(例えば、43)以下の場合、Vol Stepが大きくなるほど減衰量が大きくなる。一方で、R2RSpk経路においては、Vol Stepが閾値(例えば、43)を超えた場合、Vol Stepの大きさにかかわらず、減衰量はリミッタ211によって一定値(例えば、-20.0(db))に制限される。
【0063】
このように、リミッタ211は、制限する処理において、入力された音源信号の音量が閾値を超えているか否かを判定し、音量が閾値を超えている場合、音量を閾値に等しい値に制限する処理を行うことができる。これにより、リミッタ211は、R2Rスピーカにおける鳴動側とキャンセル側との位相の差を抑えることができる。
【0064】
R2R駆動信号生成部212は、R2Rスピーカであるスピーカ40から出力される音の音量等を調整する。例えば、R2R駆動信号生成部212は、帯域ごとに音量を調整する。R2R駆動信号生成部212は、例えばイコライザである。R2R駆動信号生成部212は、鳴動側駆動信号とキャンセル側駆動信号を出力する。
【0065】
なお、
図4に示すように、R2R駆動信号生成部212は、キャンセル側駆動信号を、Center(スピーカ37に対応)とWoofer2(キャンセル側スピーカ42に対応)の両方のチャンネルに出力する。
【0066】
R2R駆動信号生成部212によって出力された鳴動側駆動信号とキャンセル側駆動信号は同じであってもよい。
【0067】
このように、R2R駆動信号生成部212は、入力された再生信号を基に、鳴動側スピーカ41を駆動させる鳴動側駆動信号と、鳴動側スピーカ41と背面同士が対向するように設けられ、鳴動側スピーカ41と物理的な特性が異なるキャンセル側スピーカ42を駆動させるキャンセル側駆動信号と、を生成する。例えば、キャンセル側スピーカ42は、鳴動側スピーカ41と形状、重量、物質特性の内、少なくとも1つが異なる。
【0068】
再生信号は、音源信号の一例である。また、鳴動側スピーカ41は、第1のスピーカの一例である。また、キャンセル側スピーカ42は、第2のスピーカの一例である。また、鳴動側駆動信号は、第1の駆動信号の一例である。また、キャンセル側駆動信号は、第2の駆動信号の一例である。
【0069】
補強部213は、音源信号の制限された音量に応じて、第1のスピーカ及び第2のスピーカのいずれとも異なる第3のスピーカを駆動させる第3の駆動信号を生成する。これにより、補強部213は、リミッタ211の制限により失われた低音感を補うことができる。第3のスピーカは、例えばRearL、RearR、FdoorL、FdoorRの4つのチャンネルのそれぞれに対応する、スピーカ33、スピーカ34、スピーカ35、スピーカ36である。
【0070】
補強部213は、心理音響を利用した低音増強アルゴリズムに従って処理を行う。補強部213は、リミッタ211が音量を制限したことにより失われた減衰量(db)に応じて低音を補強する。
【0071】
ここでは、補強部213は、ミッシング・ファンダメンタル(Missing Fundamental)を利用した低音増強を行う。この場合、補強部213は、第3のスピーカを駆動させる第3の駆動信号を構成する周波数の基本周波数の整数倍の周波数の補強信号を生成し、補強信号を第3の駆動信号に重畳させて出力する。これにより、ユーザに低音感を感じさせることができる。
【0072】
補強部213は、再生信号を構成する周波数の最大公約数の周波数(基本周波数)を計算する。そして、補強部213は、周波数が基本周波数の整数倍である信号を生成する。そして、補強部213は、RearL、RearR、FdoorL、FdoorRの4つのチャンネルに向けた駆動信号に、補強信号を重畳させて出力する。
【0073】
本実施形態の例では、R2R駆動信号生成部212は、車両の中央よりも後方に備えられたR2Rスピーカ(スピーカ40)に対して、第1の駆動信号と第2の駆動信号を出力する。また、補強部213は、車両の中央より後方の側面に備えられたスピーカ33、スピーカ34、及び車両の中央より前方の側面に備えられたスピーカ35、スピーカ36を含む第3のスピーカに対して、第3の駆動信号を出力する。これにより、スピーカの振動をキャンセルしつつ、車両の乗員(ユーザ)に対して低音感を感じさせることができる。
【0074】
ただし、オーディオアンプ20を適用可能なスピーカの配置は、本実施形態と同じものに限られない。オーディオアンプ20は、少なくとも1つのR2Rスピーカを含み、任意の位置に各スピーカが配置されたスピーカシステムに対して適用可能である。
【0075】
また、補強部213は、補強信号の音量を、リミッタ211によって制限された音量に比例させてもよい。例えば、リミッタ211が10dbに相当する音量を制限した場合、補強部213は、補強信号の音量をα×10dbとすることができる(ただし、αは定数)。
【0076】
また、補強部213は、リミッタ211から、実際に制限された音量を取得してもよいし、入力された再生信号から、リミッタ211によって制限される音量を推定してもよい。例えば、補強部213は、制限の閾値をリミッタ211と共有しておくことにより、再生信号の音量から制限される音量を推定することができる。
【0077】
図6を用いて、音響信号処理部の処理の流れを説明する。
図6は、音響信号処理部の処理の流れを示すフローチャートである。
【0078】
図6に示すように、まず、音響信号処理部21は、Vol Stepと再生信号の入力を受け付ける(ステップS101)。
【0079】
次に、音響信号処理部21は、Vol Stepが閾値を超えているか否かを判定する(ステップS102)。
【0080】
Vol Stepが閾値を超えている場合(ステップS102、Yes)、音響信号処理部21は、R2Rスピーカの音量を制限する(ステップS103)。例えば、音響信号処理部21は、音量を表す減衰量(db)が閾値以下になるように制限を行う。
【0081】
さらに、音響信号処理部21は、特定のスピーカの低音感を補強する(ステップS104)。例えば、音響信号処理部21は、R2Rスピーカ以外の複数のスピーカから出力される音の低音感を補強する。
【0082】
そして、音響信号処理部21は、キャンセル用を含む駆動信号を生成し、生成した駆動信号を各スピーカに送信する(ステップS105)。
【0083】
ステップS102において、Vol Stepが閾値を超えていない場合(ステップS102、No)、音響信号処理部21は、R2Rスピーカの音量を制限することなく、ステップS105へ進む。
【0084】
上述してきたように、実施形態に係るオーディオアンプ20は、音源信号に基づき、第1のスピーカを駆動させる第1の駆動信号と、第1のスピーカと背面同士が対向するように設けられ、第1のスピーカより出力可能な音量が小さい第2のスピーカを駆動させる第2の駆動信号と、を生成する。オーディオアンプ20は、第2のスピーカが出力可能な音量に応じて、第1の駆動信号の生成に用いる音源信号の音量を閾値以下に制限する。
【0085】
これにより、オーディオアンプ20は、非対称R2Rスピーカにおいて、2つのスピーカの位相の差を小さくすることができる。
【0086】
さらに、オーディオアンプ20が低音感の補強を行う場合、位相の差を小さくすることにともなう低音感の喪失を抑止できる。
【0087】
また、本実施形態によれば、キャンセル側スピーカ42の形状の変更、小型化、軽量化等が可能になるため、非対称R2Rスピーカの設計の自由度が増す。
【0088】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細及び代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲及びその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神又は範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0089】
1 車両
10 再生装置
20 オーディオアンプ
31、32、33、34、35、36、37、40 スピーカ
41 鳴動側スピーカ
42 キャンセル側スピーカ
45 筐体
211 リミッタ
212 R2R駆動信号生成部
213 補強部
411、421 ボイスコイル
412、422 磁気回路
413 振動板
414、424 結合部