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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056433
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】音響制御装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 3/00 20060101AFI20240416BHJP
   H04R 9/06 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
H04R3/00 310
H04R9/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163299
(22)【出願日】2022-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】000237592
【氏名又は名称】株式会社デンソーテン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 和昭
(72)【発明者】
【氏名】福田 尚史
(72)【発明者】
【氏名】久保 雅彦
【テーマコード(参考)】
5D012
5D220
【Fターム(参考)】
5D012DA03
5D220AA11
5D220AB04
(57)【要約】
【課題】非対称R2Rスピーカにおいて、簡易な構成で精度良く振動をキャンセルすること。
【解決手段】実施形態のオーディオアンプは、音源信号に基づき、第1のスピーカを駆動させる第1の駆動信号と、第1のスピーカと背面同士が対向するように設けられ、第1のスピーカと物理的な特性が異なる第2のスピーカを駆動させ、第1の駆動信号の逆位相である第2の駆動信号と、第1のスピーカ及び第2のスピーカのいずれとも異なる第3のスピーカを駆動させる第3の駆動信号と、を生成する。オーディオアンプは、第1の駆動信号を、第1のスピーカに対応付けられた1つのチャンネルに送信し、第2の駆動信号と第3の駆動信号を重畳させた重畳信号を、第2のスピーカ及び第3のスピーカの両方に対応付けられた1つのチャンネルに送信する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音源信号に基づき、スピーカ駆動信号を生成するコントローラを備え、
前記コントローラは、
前記音源信号に基づき、第1のスピーカを駆動させる第1の駆動信号と、前記第1のスピーカと背面同士が対向するように設けられ、前記第1のスピーカと物理的な特性が異なる第2のスピーカを駆動させ、前記第1の駆動信号の逆位相である第2の駆動信号と、前記第1のスピーカ及び前記第2のスピーカのいずれとも異なる第3のスピーカを駆動させる第3の駆動信号と、を生成し、
前記第1の駆動信号を、前記第1のスピーカに対応付けられた1つのチャンネルに送信し、前記第2の駆動信号と前記第3の駆動信号を重畳させた重畳信号を、前記第2のスピーカ及び前記第3のスピーカの両方に対応付けられた1つのチャンネルに送信する
音響制御装置。
【請求項2】
前記第1のスピーカと前記第2のスピーカの異なる物理的な特性は、形状、重量、物質特性の内、少なくとも1つである
請求項1に記載の音響制御装置。
【請求項3】
前記コントローラは、
音楽を再生するメインの再生信号と、音楽以外の音を再生するサブの再生信号と、を混合した音源信号を基に、前記第1の駆動信号、前記第2の駆動信号、及び前記第3の駆動信号を生成する
請求項1に記載の音響制御装置。
【請求項4】
前記重畳信号の高音域の成分を通過させ、前記第3のスピーカに出力する第1のパッシブフィルタと、
前記重畳信号の前記高音域よりも低い低音域の成分を通過させ、前記第2のスピーカに出力する第2のパッシブフィルタと、
をさらに有する請求項1に記載の音響制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スピーカは、振動板が前後に動くことによる空気振動によって音を発生させる構造を持つ。その際、動きの反作用により、磁器回路及びフレームが少なからず動くことから、正確な振動板振動に対し不要振動(歪み)が生じる。さらに、そのような不要振動がスピーカに固定された周囲の部材に伝わり、異音を発生させることがある。
【0003】
これに対し、磁気回路の背面側に装着した重りにより、磁気回路の振動を抑制する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
さらに、対向する同形状のスピーカを同相信号で駆動し、振動を打ち消すR2R(Rear to Rear)方式が知られている(例えば、非特許文献1を参照)。また、R2R方式を構成するそれぞれのスピーカを、ユニットと呼ぶ場合がある。また、R2R方式によって構成された2つのスピーカを、R2Rスピーカと呼ぶ場合がある。
【0005】
R2R方式によれば、ユニットの駆動振動及び空気圧変動を互いにキャンセルでき、筐体からの異音の発生を防止できる。
【0006】
R2R方式には、他にも「背面対向構造」、「Dual Opposed」、「Force Cancelling」等の呼び名がある。また、R2R方式は、ホーム用のスピーカシステムで採用される場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-152884号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】デンソーテン、「TD316SWMK2」、[online]、[2022年7月11日検索]、インターネット(https://www.eclipse-td.com/products/td316swmk2/index.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
R2Rスピーカを小型化する目的で、スピーカ同士を異なる形状にすることが考えられる。この場合の2つのスピーカを、非対称R2Rスピーカと呼ぶ。
【0010】
しかしながら、非対称R2Rスピーカにおいては、スピーカの物理的な特性が互いに異なるため、精度良く振動をキャンセルするためには、2つのスピーカのそれぞれに対して、駆動信号を生成する機能と、専用のチャンネルを用意する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る音響制御装置は、音源信号に基づき、第1のスピーカを駆動させる第1の駆動信号と、第1のスピーカと背面同士が対向するように設けられ、第1のスピーカと物理的な特性が異なる第2のスピーカを駆動させ、前記第1の駆動信号の逆位相である第2の駆動信号と、第1のスピーカ及び第2のスピーカのいずれとも異なる第3のスピーカを駆動させる第3の駆動信号と、を生成する。音響制御装置は、第1の駆動信号を、第1のスピーカに対応付けられた1つのチャンネルに送信し、第2の駆動信号と第3の駆動信号を重畳させた重畳信号を、第2のスピーカ及び第3のスピーカの両方に対応付けられた1つのチャンネルに送信する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、非対称R2Rスピーカにおいて、簡易な構成で精度良く振動をキャンセルすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、スピーカの配置例を示す図である。
図2図2は、非対称R2Rスピーカの構成例を示す図である。
図3図3は、オーディオシステムの構成例を示す図である。
図4図4は、鳴動側とキャンセル側の位相の違いを示す図である。
図5図5は、イコライジング後の音声信号の周波数帯域ごとの音圧の例を示す図である。
図6図6は、P-ICから送信される駆動信号の周波数帯域ごとの音圧の例を示す図である。
図7図7は、音響信号処理部の処理の流れを示すフローチャートである。
図8図8は、従来のR2Rスピーカの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、図8を用いて、従来のR2Rスピーカについて説明する。図8は、従来のR2Rスピーカの構成を示す図である。
【0015】
図8に示すように、R2Rスピーカ40aは、スピーカ41aとスピーカ42aとが、背中合わせに結合されたものである。背中合わせとは、音が鳴る振動板と反対側の部材同士を合わせることを意味する。
【0016】
従来のR2Rスピーカには、装置全体のサイズが大きくなるという問題がある。また、従来のR2Rスピーカでは、2つのスピーカの形状が同じである必要があるため、設計の自由度が低下する。
【0017】
本実施形態では、従来のR2Rスピーカの課題を解決することを目的として、非対称R2Rスピーカが用いられる。
【0018】
非対称R2Rスピーカでは、2つのスピーカの物理的特性が互いに異なっていることが許容される。例えば、非対称R2Rスピーカでは、従来のR2Rスピーカと比較して、一方のスピーカが小型化される。
【0019】
一方で、非対称R2Rスピーカには、2つのスピーカの物理的な特性が異なるため、2つのスピーカに同じ駆動信号を入力しただけでは、振動をキャンセルすることができない場合がある。
【0020】
これは、2つのスピーカの形状、重量、物質特性等が異なるためである。形状、重量、物質特性等は、物理的な特性の一例である。例えば、スピーカ41aとスピーカ42aの異なる物理的な特性は、形状、重量、物質特性の内、少なくとも1つである。
【0021】
また、前述の通り、非対称R2Rスピーカでは一方のスピーカが他方のスピーカと比べて小型化される。例えば、小型化に際して、2つのスピーカの構造及び材質等が互いに異なり、その結果、2つのスピーカの物理特性が互いに異なるものとなる場合がある。
【0022】
例えば、重量の異なる2つのスピーカに同じ駆動信号を入力した場合、2つのスピーカの振動の周期及び振幅等に差が生じ、その差が不要振動及び異音の原因になることが考えられる。
【0023】
実施形態では、非対称R2Rスピーカにおいて、簡易な構成で精度良く振動をキャンセルすることを1つの目的とする。
【0024】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する音響制御装置の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0025】
本実施形態では、非対称R2Rスピーカが車両に搭載されるものとする。一方で、実施形態の非対称R2Rスピーカは、車両以外の移動体、建物の内部又は屋外に設置されるものであってもよい。
【0026】
図1は、スピーカの配置例を示す図である。図1に示すように、車両1は、スピーカ31、スピーカ32、スピーカ33、スピーカ34、スピーカ35、スピーカ36、スピーカ37、スピーカ40を備える。
【0027】
スピーカ31は、前席左側(チャンネル:FrontL)に備えられる。スピーカ32は、前席右側(チャンネル:FrontR)に備えられる。スピーカ33は、後席左側(チャンネル:RearL)に備えられる。スピーカ34は、後席右側(チャンネル:RearR)に備えられる。スピーカ35は、前席左ドア(チャンネル:FdoorL)に備えられる。スピーカ36は、前席右ドア(チャンネル:FdoorR)に備えられる。スピーカ37は、前席中央(チャンネル:Center)に備えられる。
【0028】
スピーカ40は、後席中央に備えられる。スピーカ40は、非対称R2Rスピーカである。スピーカ40は、低域の音を出力するウーファーとして機能するスピーカであってもよい。なお、スピーカ40が配置される位置は後席中央に限定されず、車両1の任意の位置であってよい。
【0029】
ここで、非対称スピーカの一方の側を、鳴動側と呼ぶ。また、非対称スピーカの鳴動側と反対の側を、キャンセル側と呼ぶ。また、スピーカ40は、鳴動側のWoofer1及びキャンセル側のWoofer2の2つのチャンネルに対応する。
【0030】
ただし、本実施形態では、Woofer2のチャンネルは、スピーカ40と異なる他のスピーカのチャンネルと共有されるものとする。Woofer2のチャンネルに関する構成については後述する。
【0031】
また、車両1には、再生装置10及びオーディオアンプ20が備えられる。再生装置10は、音の再生信号をオーディオアンプ20に入力する。オーディオアンプ20は、再生信号に基づき、各スピーカに音を出力するための信号を送信する。なお、再生装置10とオーディオアンプ20は、互いに別の装置であってもよいし、一体構成であってもよい。
【0032】
また、オーディオアンプ20が出力する信号は、スピーカを駆動させるための信号であることから、駆動信号と呼ばれる。
【0033】
再生装置10は、音源として機能する装置であればよく、例えば、カーナビゲーションシステム、ドライブレコーダ、カーオーディオシステム、スマートフォン等である。
【0034】
オーディオアンプ20は、再生信号に対し、FIR(Finite Impulse Response)、IIR(Infinite Impulse Response)等によるフィルタリング、ミックス、ノイズ除去、増幅といった処理を行う。
【0035】
さらに、オーディオアンプ20は、非対称R2Rスピーカであるスピーカ40に対し、精度良く振動をキャンセルできるような駆動信号を送信する。スピーカ40に送信される駆動信号については後に詳しく説明する。
【0036】
オーディオアンプ20は、音響制御装置の一例であり、音響制御方法を実行する。
【0037】
ここで、図2を用いてスピーカ40の構成を説明する。図2は、非対称R2Rスピーカの構成例を示す図である。
【0038】
図2に示すように、スピーカ40は、鳴動側スピーカ41及びキャンセル側スピーカ42を有する。また、鳴動側スピーカ41の一部及びキャンセル側スピーカ42は、筐体45に収められている。また、図2に示すように、鳴動側スピーカ41の背面は、キャンセル側スピーカ42の背面と対向している。
【0039】
鳴動側スピーカ41は、ボイスコイル411、磁気回路412、振動板413及び結合部414を備える。また、キャンセル側スピーカ42は、ボイスコイル421、磁気回路422及び結合部424を備える。
【0040】
本実施形態では、キャンセル側スピーカ42は振動板を備えていない。ただし、キャンセル側スピーカ42は振動板を備えていてもよい。
【0041】
キャンセル側スピーカ42は、振動板を備えていない場合であっても、駆動信号により振動を生じさせる。キャンセル側スピーカ42は、この振動により、鳴動側スピーカ41の振動をキャンセルする。
【0042】
また、結合部414及び結合部424は、金属又は樹脂等の部材であり、それぞれボイスコイル411及びボイスコイル421とともに振動する。
【0043】
結合部414及び結合部424は、図2のように密着している必要はない。例えば、結合部414及び結合部424は、非特許文献1に示す構成と同様に、シャフトにより結合されていてもよい。また、結合部414及び結合部424は、シリンダー内に対向して設けられたピストンであってもよい。この場合、ピストン間の空間の空気圧によって、振動がキャンセルされる。
【0044】
再生装置10及びオーディオアンプ20は、オーディオシステム2を構成する。図3を用いて、オーディオシステム2の構成を説明する。図3は、オーディオシステムの構成例を示す図である。
【0045】
図3に示すように、再生装置10は、複数のチャンネルの再生信号をオーディオアンプ20に入力する。オーディオアンプ20は、複数のチャンネルの駆動振動を出力する。
【0046】
再生装置10は、オーディオアンプ20に、メイン音声信号とサブ音声信号を再生信号として入力する。メイン音声信号は、例えば音楽信号(Music音源及びMovie音源)である。サブ音声信号は、例えばナビ音声、操作ビープ、音声認識ガイダンス、ANC(Active Noise Canceling)等の信号である。
【0047】
オーディオアンプ20は、音響信号処理部21及びP-IC(パワーアンプIC)22を有する。音響信号処理部21は、再生信号に対してフィルタリング等の処理を行う。P-IC22は、処理済みの再生信号を増幅し、駆動信号として各スピーカに出力する。
【0048】
例えば、音響信号処理部21は、コンピュータのCPUがコントローラとして機能し、ROM(Read Only Memory)に記憶されたプログラムを読み出して実行することによって実現される。音響信号処理部21は、音源信号に基づき、スピーカ駆動信号を生成するコントローラの一例である。なお、スピーカ駆動信号は、音響信号処理部21が各スピーカに出力する駆動信号である。また、コントローラは、音響信号処理部21のみを実現するのではなく、音響信号処理部21とP-IC22の両方を実現するものであってもよい。
【0049】
また、コントローラは、マイコン、DSP(Digital Signal Processor)、ECU(Electronic Control Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、SoC(System on a Chip)等であってもよい。
【0050】
また、コントローラは、単一のプロセッサであってもよいし、マルチプロセッサ構成であってもよい。また、コントローラは、単一のソケットで接続される単一のチップ内に複数のコアを有するマルチコア構成であってもよい。
【0051】
音響信号処理部21は、メイン音声分配部211、EQ(イコライザ)2121、EQ2122、EQ2123、EQ2124、EQ2125、EQ2126、EQ2127、サブ音声混合部213、フィルタ2141及びフィルタ2142を有する。
【0052】
メイン音声分配部211は、再生装置10から受け取ったメイン音声信号を、各EQに分配する。
【0053】
各EQは、それぞれに対応するスピーカに応じたイコライジングを行う。ただし、EQ2127は、鳴動側スピーカ41及びキャンセル側スピーカ42の両方に対応したイコライジングを行う。
【0054】
サブ音声混合部213は、各スピーカに向けたイコライジングが行われた音声信号に、サブ音声を混合する。
【0055】
フィルタ2141は、EQ2127によってイコライジングが行われ、サブ音声信号が混合された音声信号に対してフィルタリングを行い、鳴動側スピーカ41(Woofer1(鳴動側))に送信するための鳴動側駆動信号を生成する。
【0056】
また、フィルタ2142は、EQ2127によってイコライジングが行われ、サブ音声信号が混合された音声信号に対してフィルタリングを行い、キャンセル側スピーカ42(Woofer2(キャンセル側))に送信するためのキャンセル側駆動信号を生成する。
【0057】
このように、フィルタ2141及びフィルタ2142は、サブ音声混合部213の後段(スピーカ側)に設けられ、音楽を再生するメインの再生信号と、音楽以外の音を再生するサブの再生信号と、を混合した音源信号を基に、鳴動側駆動信号、キャンセル側駆動信号、及びスピーカ37を含む他のスピーカ用の駆動信号を生成する。これにより、メイン音声信号及びサブ音声信号によって表される様々な音声の種別にかかわらず、振動のキャンセルを行うことができる。
【0058】
ここで、図4に示すように、同じ駆動信号が鳴動側スピーカ41とキャンセル側スピーカ42の両方に入力された場合、特定の帯域で各スピーカの振動の位相が相違する。図4は、鳴動側とキャンセル側の位相の違いを示す図である。
【0059】
また、位相の相違の態様は、帯域によって異なる。これは、鳴動側スピーカ41とキャンセル側スピーカ42の物理的な特性が互いに異なるためである。
【0060】
図4には、1Wの音量に対応する駆動信号が入力された場合の、各スピーカから発生する振動の位相が示されている。
【0061】
図4の例では、約60Hz以上の帯域で、鳴動側スピーカ41とキャンセル側スピーカ42の位相が概ね一致する。これに対し、25Hz~60Hzの帯域では、キャンセル側スピーカ42の位相が鳴動側スピーカ41の位相を上回る。一方、25Hz以下の帯域では、キャンセル側スピーカ42の位相が鳴動側スピーカ41の位相を下回る。
【0062】
フィルタ2141及びフィルタ2142は、このような鳴動側スピーカ41とキャンセル側スピーカ42との各帯域における位相の違いを解消するようなフィルタリングを行う。また、フィルタ2141及びフィルタ2142によるフィルタリングにおいては、駆動信号の音圧が変化する場合がある。
【0063】
なお、フィルタ2141及びフィルタ2142によるフィルタリングは、イコライジングと同様の処理であってもよい。また、オーディオアンプ20は、フィルタ2141及びフィルタ2142のいずれか一方が備えられた構成であってもよい。
【0064】
音響信号処理部21は、入力された再生信号を基に、鳴動側スピーカ41を駆動させる鳴動側駆動信号と、鳴動側スピーカ41と背面同士が対向するように設けられ、鳴動側スピーカ41と物理的な特性が異なるキャンセル側スピーカ42を駆動させ、鳴動側駆動信号の逆位相であるキャンセル側駆動信号と、鳴動側スピーカ41及びキャンセル側スピーカ42のいずれとも異なるスピーカ37を駆動させるCenter用の駆動信号と、を生成する。
【0065】
再生信号は、音源信号の一例である。また、鳴動側スピーカ41は、第1のスピーカの一例である。また、キャンセル側スピーカ42は、第2のスピーカの一例である。また、スピーカ37は、第3のスピーカの一例である。また、鳴動側駆動信号は、第1の駆動信号の一例である。また、キャンセル側駆動信号は、第2の駆動信号の一例である。また、Center用の駆動信号は、第3の駆動信号の一例である。
【0066】
さらに、音響信号処理部21は、EQ2126によってイコライジングが行われ、サブ音声信号が混合されたCenter用駆動信号に、フィルタ2142から出力されるキャンセル側音声信号を混合する。例えば、音響信号処理部21は、Center用駆動信号にキャンセル側駆動信号を重畳させる。
【0067】
ここで、図5に示すように、EQ2126によってイコライジングが行われたCenter向けの音声信号(図5のCenter)と、EQ2127によってイコライジングが行われたWoofer向けの音声信号(図5のWoofer)とでは、周波数帯域が重複しにくい傾向がある。図5は、イコライジング後の音声信号の周波数帯域ごとの音圧の例を示す図である。
【0068】
さらに、図6に示すように、P-IC22の後段でも、図5と同様の傾向が見られる。図6は、P-ICから送信される駆動信号の周波数帯域ごとの音圧の例を示す図である。
【0069】
音響信号処理部21は、P-IC22を介して、鳴動側駆動信号を、鳴動側スピーカ41に対応付けられた1つのチャンネルに送信し、キャンセル側駆動信号とCenter用の駆動信号を重畳させた重畳信号を、キャンセル側スピーカ42及びスピーカ37の両方に対応付けられた1つのチャンネルに送信する。
【0070】
このように、キャンセル側スピーカ42及びスピーカ37のチャンネルが1つに統合されているため、鳴動側スピーカ41とキャンセル側スピーカ42の2つのスピーカを追加した際のチャンネルの追加が1つで済む。その結果、非対称R2Rスピーカにおいて、簡易な構成で精度良く振動をキャンセルすることができる。
【0071】
図6に示すように、Center用駆動信号にキャンセル側駆動信号を重畳させた駆動信号(Center+Woofer2(キャンセル側))においては、各駆動信号の周波数帯域が明確に分かれている。
【0072】
このため、Center用駆動信号とキャンセル側駆動信号を重畳させた場合、パッシブフィルタ等により各駆動信号を容易に分離することができる。
【0073】
ここでは、図1のCenterに配置されるスピーカ37は、スピーカ40に比べて口径が小さく、主に高い周波数帯域(例えば200Hz以上)の音声を出力するものとする。一方で、スピーカ40はWooferとして機能し、主に低い周波数帯域(例えば100Hz以下)の音声を出力するものとする。
【0074】
また、音響信号処理部21がキャンセル側駆動信号を重畳させるチャンネルは、Centerに限られず、他のチャンネルであってもよい。音響信号処理部21がキャンセル側駆動信号を重畳させるチャンネルは、CenterとWoofer2で共有されるチャンネルである。
【0075】
さらに、図3に示すように、Center用駆動信号にキャンセル側駆動信号を重畳させた駆動信号(以下、重畳信号)は、コンデンサ51によるフィルタリングが行われた後、スピーカ37(Center)に出力される。
【0076】
また、重畳信号は、コイル61によるフィルタリングが行われた後、キャンセル側スピーカ42に出力される。
【0077】
また、重畳信号は、コイル62によるフィルタリングが行われた後、鳴動側スピーカ41に出力される。
【0078】
コンデンサ51は、ハイパスフィルタとして機能し、重畳信号のうちCenter用駆動信号を通過させ、キャンセル側駆動信号を通過させない。これにより、スピーカ37には、Center用駆動信号が入力され、キャンセル側駆動信号は入力されない。なお、Center用駆動信号は、重畳信号の高音域の成分の一例である。また、コンデンサ51は、第1のパッシブフィルタの一例である。
【0079】
コイル61は、ローパスフィルタとして機能し、重畳信号のうちキャンセル側駆動信号を通過させ、Center用駆動信号を通過させない。これにより、キャンセル側スピーカ42には、キャンセル側駆動信号が入力され、Center用駆動信号は入力されない。なお、キャンセル側駆動信号は、重畳信号の高音域よりも低い低音域の成分の一例である。また、コイル61は、第2のパッシブフィルタの一例である。
【0080】
ここで、コイル61の影響でキャンセル側駆動信号の特性が変化する場合がある。コイル62は、キャンセル側駆動信号の特性の変化に、鳴動側駆動信号の特性を合わせる働きをする。
【0081】
このように、本実施形態では、パッシブフィルタを使った簡易な構成により、重畳信号からキャンセル側駆動信号を分離することができる。
【0082】
なお、コンデンサ51、コイル61及びコイル62は、オーディオアンプ20に含まれていてもよい。また、コンデンサ51、コイル61及びコイル62は、オーディオアンプ20に、再生装置10及び各スピーカを加えたシステムの一部であってもよい。
【0083】
図7を用いて、音響信号処理部の処理の流れを説明する。図7は、音響信号処理部の処理の流れを示すフローチャートである。
【0084】
図7に示すように、まず、音響信号処理部21は、メイン及びサブの再生信号の入力を受け付ける(ステップS101)。
【0085】
次に、音響信号処理部21は、メインの再生信号をイコライザに分配する(ステップS102)。ここで、音響信号処理部21は、分配された再生信号に対してイコライジングを行う(ステップS103)。
【0086】
続いて、音響信号処理部21は、イコライジングが行われた音声信号にサブの再生信号を混合(ミックス)する(ステップS104)。
【0087】
そして、音響信号処理部21は、混合後の音声信号から、鳴動側駆動信号、キャンセル側駆動信号及びCenter用の駆動信号を含む各チャンネルの駆動信号を生成する(ステップS105)。
【0088】
音響信号処理部21は、鳴動側駆動信号を鳴動側のスピーカのチャンネルに送信する(ステップS106)。さらに、音響信号処理部21は、キャンセル側駆動信号をCenter用の駆動信号に重畳させてCenter用のスピーカのチャンネルに送信する(ステップS107)。
【0089】
Center用のスピーカのチャンネルに送信された駆動信号は、パッシブフィルタを経由して各スピーカに入力される。
【0090】
上述してきたように、実施形態に係るオーディオアンプ20は、音源信号に基づき、第1のスピーカを駆動させる第1の駆動信号と、第1のスピーカと背面同士が対向するように設けられ、第1のスピーカと物理的な特性が異なる第2のスピーカを駆動させ、第1の駆動信号と逆位相である第2の駆動信号と、第1のスピーカ及び第2のスピーカのいずれとも異なる第3のスピーカを駆動させる第3の駆動信号と、を生成する。オーディオアンプ20は、第1の駆動信号を、第1のスピーカに対応付けられた1つのチャンネルに送信し、第2の駆動信号と第3の駆動信号を重畳させた重畳信号を、第2のスピーカ及び第3のスピーカの両方に対応付けられた1つのチャンネルに送信する。
【0091】
これにより、オーディオアンプ20は、非対称R2Rスピーカにおいて、簡易な構成で精度良く振動をキャンセルすることができる。
【0092】
また、図1及び図3に示すように、8チャンネルのオーディオアンプを利用することで、部品の追加が不要になるため、コスト及びサイズ(重量を含む)を増加させることなく実施形態の構成を実現できる。
【0093】
また、本実施形態によれば、キャンセル側スピーカ42の形状の変更、小型化、軽量化等が可能になるため、非対称R2Rスピーカの設計の自由度が増す。
【0094】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細及び代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲及びその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神又は範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0095】
1 車両
10 再生装置
20 オーディオアンプ
31、32、33、34、35、36、37、40 スピーカ
41 鳴動側スピーカ
42 キャンセル側スピーカ
45 筐体
51 コンデンサ
61、62 コイル
211 メイン音声分配部
213 サブ音声混合部
411、421 ボイスコイル
412、422 磁気回路
413 振動板
414、424 結合部
2121、2122、2123、2124、2125、2126、2127 EQ
2141、2142 フィルタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8