(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056451
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】制震装置及び制震装置を設計する方法
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240416BHJP
E04H 9/14 20060101ALI20240416BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
E04H9/02 341A
E04H9/14 G
E04H9/02 341C
F16F15/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163324
(22)【出願日】2022-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】中井 武
(72)【発明者】
【氏名】栗野 治彦
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AA05
2E139AB01
2E139AC14
2E139AC19
2E139AC20
2E139BA12
2E139BA22
2E139BA24
2E139BA45
2E139BA48
2E139BB02
2E139BB12
2E139BB16
2E139BB24
2E139BB43
2E139BB53
2E139BD33
3J048AD07
3J048BA24
3J048BE03
3J048BF02
3J048BF08
3J048CB22
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】簡易な構成によって所望の制震効果を発揮する。
【解決手段】
制震装置1は、制震質量体16sと、X方向における第1共振振動数(ω
OPT・X)を規定するX方向弾性部2と、Y方向における第2共振振動数(ω
OPT・Y)を規定するY方向弾性部3と、を備える。X方向弾性部2は、建物91に接続されると共に制震質量体16sに接続された第1主弾性要素21と、建物91に接続されると共に制震質量体16sに接続された第1副弾性要素22と、を有する。第1主弾性要素21は、第1主弾性部材211を含む。第1副弾性要素22は、第1副弾性部材221と、第1副弾性部材221に対して直列に接続された第1減衰部材222と、を含む。Y方向弾性部3は、建物91に接続されると共に制震質量体16sに接続された第2主弾性要素31と、建物91に接続されると共に制震質量体16sに接続された第2減衰要素32と、を有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物に適用される制震装置であって、
質量体と、
前記質量体と協働して第1方向における第1共振振動数を規定する第1弾性部と、
前記質量体と協働して前記第1方向と交差する第2方向における第2共振振動数を規定する第2弾性部と、を備え、
前記第1弾性部は、前記建物に接続されると共に前記質量体に接続された第1主弾性要素と、前記建物に接続されると共に前記質量体に接続された第1副弾性要素と、を有し、
前記第1主弾性要素は、第1主弾性部材を含み、
前記第1副弾性要素は、第1副弾性部材と、前記第1副弾性部材に対して直列に接続された第1減衰部材と、を含み、
前記第2弾性部は、前記建物に接続されると共に前記質量体に接続された第2主弾性要素と、前記建物に接続されると共に前記質量体に接続された第2減衰要素と、を有する、制震装置。
【請求項2】
前記第1副弾性部材は、前記建物に接続され、
前記第1減衰部材は、前記質量体に接続される、請求項1に記載の制震装置。
【請求項3】
前記第1減衰部材は、前記建物に接続され、
前記第1副弾性部材は、前記質量体に接続される、請求項1に記載の制震装置。
【請求項4】
前記第1主弾性部材は、積層ゴム構造を有する支承装置であり、
前記第1減衰部材は、オイルダンパである、請求項1~3の何れか一項に記載の制震装置。
【請求項5】
建物に適用される制震装置であって、質量体と、前記質量体と協働して第1方向における第1共振振動数(ωX)を規定する第1弾性部と、前記質量体と協働して前記第1方向と交差する第2方向における第2共振振動数(ωY)を規定する第2弾性部と、を備える前記制震装置を設計する方法であって、
前記建物の質量(M)と前記質量体の質量(m)とを利用して、質量比(μ)を得るステップと、
前記質量比(μ)を利用して、最適減衰定数(hOPT)を得るステップと、
前記建物の第1方向における第1固有振動数(ΩX)に応じた前記制震装置の第1最適共振振動数(ωOPT・X)を得るステップと、
前記建物の前記第1方向に交差する第2方向における第2固有振動数(ΩY)に応じた前記制震装置の第2最適共振振動数(ωOPT・Y)を得るステップと、
前記最適減衰定数(hOPT)及び前記第1最適共振振動数(ωOPT・X)を用いて、前記第1弾性部を構成する第1主弾性要素のバネ定数(kX)と、前記第1弾性部を構成する第1副弾性要素であって、前記第1副弾性要素に含まれる第1副弾性部材のバネ定数(kX’)と第1減衰部材の減衰係数(cX)と、を得るステップと、
前記第2最適共振振動数(ωOPT・Y)を用いて前記第2弾性部を構成する第2主弾性要素のバネ定数(kY)を得ると共に、前記最適減衰定数(hOPT)を用いて前記第2弾性部を構成する第2減衰要素の減衰係数(cY)を得るステップと、を有する、制震装置を設計する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制震装置及び制震装置を設計する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地震や強風によって建物が加震されたときに、建物に生じる振動の振幅や加速度を低減する技術として、同調質量ダンパ(Tuned Mass Damper)が知れている。同調質量ダンパは、建物の固有振動数に同調させるように設定された共振振動数と、錘の振動を抑制するよう適切に設定された減衰定数を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
制震の対象となる建物などは、振動が作用する方向によって固有振動数が異なることがある。例えば、建物の平面形状が矩形であった場合には、長辺方向の固有振動数と短辺方向の固有振動数とが互いに異なる。同調質量ダンパは、同調させた固有振動数付近でのみ制震効果を発揮するが、復元力要素が等方的な場合は平面二方向の共振振動数を異なる値に設定できない。従って、例えば、建物の長辺方向と短辺方向の固有周期が大きく異なる状況において、同調質量ダンパの共振振動数を長辺方向の固有振動数に同調させた場合には、短辺方向に作用する振動に対して制震の効果を十分に発揮できない。
【0005】
制震の対象物が互いに直交する2方向に異なる固有振動数を有する場合には、それぞれの固有振動数の中間値に同調質量ダンパの共振振動数を設定することがある。しかし、このような設定では、同調質量ダンパの共振振動数は、それぞれの方向における固有振動数には厳密に一致していないので、所望の制震効果が得られないことがある。特許文献1は、互いに直交する2つの方向のそれぞれにおいて、周期調整を行うことが可能な制震装置を開示する。この装置によれば、2方向での固有周期調整が行える結果、建物の2方向の応答を低減させることができる。
【0006】
同調質量ダンパは、大規模の建物への適用だけでなく、近年は中規模の建物への適用も進んでいる。さらには、ビルといった建物に留まらず、橋梁といった土木構造物などへも適用されている。これらの新たな制震対象物へ制震装置を適用するにあっては、制震装置の構成をさらに簡易にすることが望まれている。
【0007】
そこで、本発明は、簡易な構成によって所望の制震効果を発揮することができる制震装置及び制震装置を設計する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態は、建物に適用される制震装置である。制震装置は、質量体と、質量体と協働して第1方向における第1共振振動数を規定する第1弾性部と、質量体と協働して第1方向と交差する第2方向における第2共振振動数を規定する第2弾性部と、を備える。第1弾性部は、建物に接続されると共に質量体に接続された第1主弾性要素と、建物に接続されると共に質量体に接続された第1副弾性要素と、を有する。第1主弾性要素は、第1主弾性部材を含む。第1副弾性要素は、第1副弾性部材と、第1副弾性部材に対して直列に接続された第1減衰部材と、を含む。第2弾性部は、建物に接続されると共に質量体に接続された第2主弾性要素と、建物に接続されると共に質量体に接続された第2減衰要素と、を有する。
【0009】
この制震装置の第1副弾性要素は、第1副弾性部材と当該第1副弾性部材に直列に接続された第1減衰部材とを含む。この第1副弾性要素によれば、第1減衰部材の減衰係数を所定の値に設定することによって、見かけ上の第1副弾性部材のバネ定数を変化させることができる。見かけ上の第1副弾性部材のバネ定数を変化によれば、第1副弾性部材を含む振動系の第1共振振動数を調整することが可能である。従って、制震装置は、第1副弾性部材に第1減衰部材を直列に接続するという簡易な構成によって、所望の制震効果を発揮することができる。
【0010】
上記の制震装置において、第1副弾性部材は、建物に接続され、第1減衰部材は、質量体に接続されてもよい。また、上記の制震装置において、第1減衰部材は、建物に接続され、第1副弾性部材は、質量体に接続されてもよい。さらに、上記の制震装置において、第1主弾性部材は、積層ゴム構造を有する支承装置であり、第1減衰部材は、オイルダンパであってもよい。これらの構成によっても、簡易な構成によって所望の制震効果を発揮することができる。
【0011】
本発明の別の形態は、建物に適用される制震装置であって、質量体と、質量体と協働して第1方向における第1共振振動数(ωX)を規定する第1弾性部と、質量体と協働して第1方向と交差する第2方向における第2共振振動数(ωY)を規定する第2弾性部と、を備える制震装置を設計する方法である。制震装置を設計する方法は、建物の質量(M)と質量体の質量(m)とを利用して、質量比(μ)を得るステップと、質量比(μ)を利用して、最適減衰定数(hOPT)を得るステップと、建物の第1方向における第1固有振動数(ΩX)に応じた制震装置の第1最適共振振動数(ωOPT・X)を得るステップと、建物の第1方向に交差する第2方向における第2固有振動数(ΩY)に応じた制震装置の第2最適共振振動数(ωOPT・Y)を得るステップと、最適減衰定数(hOPT)及び第1最適共振振動数(ωOPT・X)を用いて、第1弾性部を構成する第1主弾性要素のバネ定数(kX)と、第1弾性部を構成する第1副弾性要素であって、第1副弾性要素に含まれる第1副弾性部材のバネ定数(kX’)と第1減衰部材の減衰係数(cX)と、を得るステップと、第2最適共振振動数(ωOPT・Y)を用いて第2弾性部を構成する第2主弾性要素のバネ定数(kY)を得ると共に、最適減衰定数(hOPT)を用いて第2弾性部を構成する第2減衰要素の減衰係数(cY)を得るステップと、を有する。
【0012】
この方法によれば、簡易な構成によって所望の制震効果を発揮することができる制震装置を設計することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡易な構成によって所望の制震効果を発揮することができる制震装置及び制震装置を設計する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、制震装置を設置した建物を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、制震装置の構造を示す分解斜視図である。
【
図3】
図3(a)は、
図2に示す制震装置をY方向からみた側面図である。
図3(b)は、
図2に示す制震装置をX方向からみた別の側面図である。
【
図4】
図4は、
図2に示す制震装置をZ方向からみた平面図である。
【
図5】
図5は、
図2に示す制震装置を力学モデルとして示す図である。
【
図6】
図6(a)は、
図2に示す制震装置においてX方向の力学モデルを示す図である。
図6(b)は、
図2に示す制震装置においてY方向の力学モデルを示す図である。
【
図7】
図7は、制震装置を設計する方法の主要な工程を示すフローチャートである。
【
図8】
図8(a)は、変形例の制震装置をY方向からみた側面図である。
図8(b)は、変形例の制震装置をX方向からみた側面図である。
【
図9】
図9(a)は、さらに別の変形例である制震装置をY方向からみた側面図である。
図9(b)は、さらに別の変形例である制震装置をX方向からみた側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
<制震装置>
図1に示すように、制震装置1は、建物91に適用する。制震装置1は、地震等により基礎92から建物91に振動が印可されたときに生じる建物91の揺れ又は加速度を抑制する。具体的には、制震装置1は、第1方向における建物91の揺れ又は加速度を抑制すると共に、第2方向における建物91の揺れ又は加速度を抑制する。
【0017】
ここで、第1方向は、第2方向と交差しており、一例として第1方向は、第2方向に対して直交する。以下の説明において、第1方向をX方向とし、第2方向をY方向と呼ぶ。つまり、制震装置1は、X方向における建物91の揺れ又は加速度を抑制すると共に、Y方向における建物91の揺れ又は加速度を抑制する。
【0018】
建物91は、方向ごとに構造的な特性が異なることがある。例えば、建物91を平面視したとき、矩形であるとする。つまり、建物91の一辺(長辺)は、別の辺(短辺)よりも長い。このような形状を有する建物91は、長辺に沿う方向の構造特性と、短辺に沿う方向の構造特性が異なる。構造特性とは、例えば、加振に対する応答性である。具体的には、建物91は、長辺方向の固有振動数と、短辺方向の固有振動数とは、互いに異なる。以下の説明において、建物91の構造的特性は、固有振動数の用語を用いて説明する。
【0019】
制震装置1は、互いに異なる方向において、それぞれに同調可能な共振振動数を設定できる。つまり、制震装置1は、長辺方向(X方向)の建物91の固有振動数に同調する最適共振振動数(ωOPT・X:第1最適共振振動数)を設定でき、短辺方向(Y方向)の固有振動数に同調する最適共振振動数(ωOPT・Y:第2最適共振振動数)を設定できる。これら制震装置1において、X方向の最適共振振動数(ωOPT・X)とY方向の最適共振振動数(ωOPT・Y)とは、互いに独立に設定可能である。従って、制震装置1は、長辺方向及び短辺方向のそれぞれにおいて、同調ずれを解消できる。
【0020】
図2は、
図1に示す制震装置1の分解斜視図である。
図3(a)は、
図2に示す制震装置をY方向からみた側面図である。
図3(b)は、
図2に示す制震装置をX方向からみた別の側面図である。
図4は、
図2に示す制震装置をZ方向からみた平面図である。制震装置1は、支持フレーム11と、4個の第1支承装置12と、2個の第2支承装置13と、2個の第1減衰装置14と、2個の第2減衰装置15と、錘16(質量体)と、を有する。なお、上記装置の数は例示であるから、制震装置1が備えるこれらの装置の数は、適宜変更が可能である。
【0021】
支持フレーム11は、制震装置1の基礎体であり、建物91に対して固定される。この固定態様は、剛体であり支持フレーム11と建物91との固定箇所は、剛体とみなし、制震特性に有意な影響を及ぼさないものとする。
図2に示す支持フレーム11の形状は、平板であるが、この形状に限定されない。支持フレーム11は、制震特性に有意な影響を及ぼさない剛体とみなせる形状、構造を適宜採用してよい。
【0022】
第1支承装置12は、支持フレーム11及び錘16に固定されている。制震装置1は、4個の第1支承装置12を含み、それぞれの第1支承装置12は、支持フレーム11に対して矩形の角部に対応する位置に配置されている。第1支承装置12は、支持フレーム11に固定される下部固定面121と、錘16に固定される上部固定面122と、下部固定面121及び上部固定面122との間に配置したせん断変形部123と、を有する。
【0023】
下部固定面121及び上部固定面122における固定箇所は、剛体とみなし、制震特性に有意な影響を及ぼさないものとする。第1支承装置12は、錘16を支持する。第1支承装置12は、X方向及びY方向のそれぞれに変形可能である。この変形とは、下部固定面121に対して上部固定面122の位置が、X方向及び/又はY方向にずれることをいう。この変形は、例えば、積層ゴム構造を有するせん断変形部123によってなされる。そして、第1支承装置12は、X方向への変形のしやすさと、Y方向への変形のしやすさに、有意な差異がない。換言すると、第1支承装置12は、X方向のバネ定数と、Y方向のバネ定数とに有意な差異がない。なお、第1支承装置12は、積層ゴム、転がり支承、すべり支承、球面すべり支承等の構造を採用してよい。
【0024】
第2支承装置13は、錘16及び第1減衰装置14に固定されている。単体の第2支承装置13の具体的な構成について、単体の第1支承装置12と共通する内容は詳細な説明を省略する。
【0025】
制震装置1は、2個の第2支承装置13を含み、それぞれの第2支承装置13は、支持フレーム11に対してY方向に沿って並んでいる。第2支承装置13は、第1減衰装置14に連結される下部固定面131と、錘16に固定される上部固定面132と、下部固定面131及び上部固定面132との間に配置したせん断変形部133と、を有する。
【0026】
第1支承装置12は、X方向及びY方向のそれぞれに変形可能であった。従って、後に説明する制震装置1の力学モデルにおいて、第1支承装置12は、X方向の力学モデルに現れるし(
図6(a)参照)、Y方向の力学モデルにも現れる(
図6(b)参照)。一方、第2支承装置13は、X方向に変形可能であり、Y方向には変形しないとする。従って、後に説明する制震装置の力学モデルにおいて、第2支承装置13は、X方向の力学モデルにのみ現れ(
図6(a)参照)、Y方向の力学モデルには現れない(
図6(b)参照)。
【0027】
本実施形態の第2支承装置13は、下部固定面131が支持フレーム11に固定されていることを要しない。本実施形態では、第2支承装置13の下部固定面131は、支持フレーム11に接していないとして説明する。なお、第2支承装置13の下部固定面131が支持フレーム11に接している例示については、変形例として後述する。
【0028】
第1減衰装置14は、支持フレーム11及び第2支承装置13に固定されている。第1減衰装置14は、減衰係数を所望の値に設定可能な構成であれば、任意の装置を採用してよい。例えば、第1減衰装置14として線形のオイルダンパを用いてもよい。第1減衰装置14は、例えば、X方向に沿って並ぶ一対の第1支承装置12の間に配置されている。第1減衰装置14は、支持フレーム11に固定される固定端141と、第2支承装置13に固定される固定端142、減衰力を発生する減衰力発生部143と、を有する。減衰力発生部143は、固定端141、142の相対的な速度差に比例する減衰力を生じる。第1減衰装置14は、X方向に沿った減衰力を生じるように、軸線がX方向と平行になるように配置されている。
【0029】
第2減衰装置15は、支持フレーム11及び錘16に固定されている。第2減衰装置15は、例えば、Y方向に沿って並ぶ一対の第1支承装置12の間に配置されている。第2減衰装置15は、支持フレーム11に固定される固定端151と、錘16に固定される固定端152と、減衰力を発生する減衰力発生部153と、を有する。第2減衰装置15は、Y方向に沿った減衰力を生じるように、軸線がY方向と平行になるように配置されている。
【0030】
X方向の共振振動数(ωX)は、錘16の質量、第1支承装置12のバネ定数、第2支承装置13のバネ定数及び第1減衰装置14の減衰係数に基づく。つまり、X方向の共振振動数(ωX)は、第1減衰装置14の影響を受ける。換言するとX方向の共振振動数(ωX)は、錘16の質量、第1支承装置12のバネ定数及び第2支承装置13のバネ定数だけでは定まらず、第1減衰装置14の減衰係数が決まることによって定まる。第1減衰装置14の減衰係数は、第2支承装置13のバネ定数に影響を及ぼす。第1減衰装置14の減衰係数の影響を受けた第2支承装置13のバネ定数を、「見かけのバネ定数(αkx’)」とも称する。
【0031】
一方、Y方向の共振振動数(ωY)は、錘16の質量及び第1支承装置12のバネ定数に基づく。つまり、Y方向の共振振動数(ωY)は、第2減衰装置15の影響を実質的に受けない。
【0032】
<制震装置の力学モデル>
以下、
図1に示した制震装置1の力学特性について、
図5及び
図6に示す力学モデルを参照しながら、さらに詳細に説明する。
【0033】
制震装置1は、第1減衰部材222の減衰係数(cX)に基づく減衰力によって、X方向における「みかけの剛性」を高める。「みかけの剛性」を所望の値に設定することにより、制震装置1におけるX方向の共振振動数(ωX)を制御して建物91に同調させることができる。換言すると、制震装置1におけるX方向の共振振動数(ωX)を高めて建物91の固有振動数(ΩX)に合わせることができる。本実施形態では、第1の方向であるX方向が短周期である。第2の方向であるY方向が長周期である。
【0034】
この場合には、Y方向における第2減衰部材321の減衰係数(cY)よりも、X方向における第1減衰部材222の減衰係数(cX)を大きく設定することとしてもよい。
【0035】
制震装置1は、建物91である対象物質量体91sに取り付けられる。制震装置1は、制震質量体16sと、X方向弾性部2(第1弾性部)と、Y方向弾性部3(第2弾性部)と、を有する。X方向弾性部2は、制震質量体16sを対象物質量体91sにX方向に連結する。Y方向弾性部3は、制震質量体16sを対象物質量体91sにY方向に連結する。X方向弾性部2及びY方向弾性部3は、互いに影響を及ぼさない。つまり、制震質量体16s及びX方向弾性部2によって構成されるX方向振動系は、制震質量体16s及びY方向弾性部3によって構成されるY方向振動系に対して独立している。
【0036】
制震質量体16sは、建物91に対して水平方向に移動可能である。具体的には、制震質量体16sは、X方向及びY方向に移動可能である。制震質量体16sは、
図1に示す錘16に対応する。制震質量体16sの質量は、質量(m)として示す。
【0037】
対象物質量体91sは、
図1に示す建物91に対応する。対象物質量体91sの質量は、質量(M)として示す。
【0038】
X方向弾性部2は、第1主弾性要素21と、第1副弾性要素22と、を有する。第1主弾性要素21は、第1主弾性部材211を含む。第1副弾性要素22は、第1副弾性部材221と、第1減衰部材222と、を有する。
【0039】
第1主弾性部材211は、
図1に示す4個の第1支承装置12に対応する。第1主弾性部材211は、一端が対象物質量体91sに連結され、他端が制震質量体16sに連結される。第1主弾性部材211は、固有バネ定数(k
X)を有する。
【0040】
第1副弾性部材221は、
図1に示す2個の第2支承装置13に対応する。第1副弾性部材221は、一端が対象物質量体91sに連結され、他端が第1減衰部材222に連結される。第1副弾性部材221は、固有のバネ定数(k
X’)を有する。
【0041】
第1副弾性部材221として、第2支承装置13を採用する理由として、荷重変形の関係における線形性が高いことが挙げられる。さらに、第2支承装置13を採用する理由として、第2支承装置13は、繰り返し加振に対する耐久性が高いこと、許容変形量が大きいこと、接続部の設計が容易である点も挙げられる。
【0042】
なお、第1副弾性部材221は、第2支承装置13に限定されない。例えば、第1副弾性部材221として、防舷材のようなゴム材料や金属バネを採用してもよい。金属バネとしては、コイルバネ、板バネ、皿バネ及びトーションバーなどが例示できる。
【0043】
第1減衰部材222は、
図1に示す2個の第1減衰装置14に対応する。第1減衰部材222は、固有の減衰係数(c
x)を有する。第1減衰部材222は、一端が第1副弾性部材221に連結され、他端が制震質量体16sに連結される。第1減衰部材222は、第1副弾性部材221の両端の速度差に対応する減衰力を発生させる。第1減衰部材222は、減衰器としての機能に加えて、第1副弾性部材221の固有バネ定数(k
X’)を調整し、見かけのバネ定数(調整バネ定数(αkx’))を得る機能を併せ持っている。
【0044】
なお、本実施形態では、第1副弾性部材221が制震質量体16sに連結され、第1減衰部材222が対象物質量体91sに連結されていた。この接続構成は逆でもよい。つまり、第1副弾性部材221が対象物質量体91sに連結され、第1減衰部材222が制震質量体16sに連結される構成でもよい。
【0045】
また、第1副弾性部材221及び第1減衰部材222を含む力学系であるX方向弾性部2は、調整弾性部と称することもできる。調整弾性部は、調整バネ定数(αkx’)を有する。調整バネ定数(αkx’)は、第1副弾性部材221の固有バネ定数(kX’)が第1減衰部材222によって調整されたものである。
【0046】
さらに、オイルダンパといった第1減衰部材222に対して、直列にバネ要素である第1副弾性部材221を接続した構成を、一般にMaxwellモデルと称する。Maxwellモデルは静的な荷重に対しては、抵抗力を発生しない。その一方で、動的な荷重に対しては抵抗力を発揮する。言い換えると、第1副弾性部材221と第1減衰部材222とを含むMaxwellモデルは、振動状態において見かけのバネ定数(動的な剛性)を有する。Maxwellモデルを付加したX方向の共振振動数(ωX)は、付加しないY方向の共振振動数(ωY)よりも高くなる。その結果、制震装置1の二方向の固有周期を別々に設定することが可能になる。つまり、X方向の第1減衰部材222(オイルダンパ)に直列に第1副弾性部材221(バネ要素)を配置することによって、制震装置1の二方向異周期問題を解決することができる。この場合には、第1副弾性部材221(バネ要素)の剛性(バネ定数)と第1減衰部材222(オイルダンパ)の減衰係数を適切に設定することで、X方向の共振振動数(ωX)、Y方向の共振振動数(ωY)及び等価減衰定数を個別に設定する。
【0047】
Y方向弾性部3は、第2主弾性要素31と、第2減衰要素32と、を有する。第2主弾性要素31は、第2主弾性部材311を含む。第2減衰要素32は、第2減衰部材321を有する。
【0048】
第2主弾性部材311は、
図1に示す4個の第1支承装置12に対応する。第2主弾性部材311は、一端が対象物質量体91sに連結され、他端が制震質量体16sに連結される。第2主弾性部材311は、固有バネ定数(k
Y)を有する。
【0049】
第2減衰部材321は、
図1に示す2個の第2減衰装置15に対応する。第2減衰部材321は、固有の減衰係数(c
Y)を有する。第2減衰部材321は、一端が制震質量体16sに連結され、他端が対象物質量体91sに連結される。第2減衰部材321は、第2主弾性部材311の両端の速度差に対応する減衰力を発生させる。また、第2減衰部材321は、減衰器としての機能を有する。
【0050】
<制震装置を設計する方法>
次に、制震装置1を設計する方法について説明する。制震装置1の設計とは、つまり、
図5及び
図6の力学モデルに示す第1主弾性部材211のバネ定数(k
X)、第1副弾性部材221のバネ定数(k
X’)及び第1減衰部材222の減衰係数(c
X)を求めることである。さらに、制震装置1の設計とは、第2主弾性部材311のバネ定数(k
Y)及び第2減衰部材321の減衰係数(c
Y)を求めることである。
図7は、制震装置1を設計する方法の主要な工程を示すフローチャートである。
【0051】
まず、質量比(μ)を得る(ステップS1)。質量比(μ)は、式(1)に示すように、錘16(制震質量体16s)の質量〔m〕と建物91(対象物質量体91s)の質量〔M〕との比率である。まず、錘16の質量(m)を設定する。質量(m)は、所望の制震性能や、制震装置1の設置場所の広さ、建物91の構造強度などを総合的に判断して決定してよい。錘16の質量(m)が決まれば、質量比(μ)は、式(1)により得られる。
【数1】
【0052】
次に、最適減衰定数(h
OPT)を得る(ステップS2)。最適減衰定数(h
OPT)は、式(2)に示すように、質量比(μ)に基づいて算出される。つまり、最適減衰定数(h
OPT)は、錘16の質量(m)と建物91の質量(M)とによって決まるので、X方向及びY方向で共通である。
【数2】
【0053】
次に、X方向の最適共振振動数(ω
OPT・X)を得る(ステップS3)。最適共振振動数(ω
OPT・X)は、建物91におけるX方向の固有振動数(Ω
X)に基づいて設定する。以下の説明において、X方向の最適共振振動数(ω
OPT・X)は、Y方向の最適共振振動数(ω
OPT・Y)よりも高いとする。つまり、建物91の周期は、X方向が短周期側であり、Y方向が長周期側であるとする。X方向の最適共振振動数(ω
OPT・X)は、X方向に対して一般的な同調質量ダンパの最適設定式を用いて算出してよい。最適設定式として、例えば、式(3)を用いてよい。なお、式(3)におけるΩ
Xは、建物91のX方向の固有振動数である。
【数3】
【0054】
次に、Y方向の最適共振振動数(ω
OPT・Y)得る(ステップS4)。Y方向の最適共振振動数(ω
OPT・Y)は、Y方向に対して一般的な同調質量ダンパの最適設定式を用いて算出してよい。最適設定式として、例えば、式(4)を用いてよい。なお、式(4)におけるΩ
Yは、建物91のY方向の固有振動数である。
【数4】
【0055】
付言すると、通常の設計では、式(3)及び式(4)によって制震装置1におけるX方向の最適共振振動数(ωOPT・X)と、Y方向の最適共振振動数(ωOPT・Y)と、最適減衰定数(hOPT)を求める。そして、それらに応じて制震装置1を構成するバネ要素の剛性と減衰要素の減衰係数を定める。建物91の平面二方向(X方向及びY方向)の固有振動数(ΩX、ΩY)が異なる場合は、当然ながら制震装置1のX方向の振動数、Y方向の振動数及び減衰定数をそれぞれ個別に異なる値に設定する必要がある。
【0056】
まず、Y方向弾性部3を構成する要素の値を決める(S5)。具体的には、ステップS5では、第2主弾性部材311のバネ定数(k
Y)と、第2減衰部材321の第2減衰係数(c
Y)と、を決める。Y方向は、長周期側である。Y方向弾性部3は、バネ要素と減衰要素とによって構成される通常の力学モデルである。そこで、長周期側の最適振動数(ω
OPT・Y)に合うように、第2主弾性部材311のバネ定数(k
Y)を定めると共に、最適減衰定数(h
OPT・Y)に合うように第2減衰部材321の第2減衰係数(c
Y)を定める。第2主弾性部材311のバネ定数(k
Y)は、式(5)により求めることができる。第2減衰係数(c
Y)は、式(6)により求めることができる。
【数5】
【数6】
【0057】
次に、X方向弾性部2を構成する要素の値を決める(S6)。具体的には、ステップS6では、第1主弾性部材211のバネ定数(kX)と、第1副弾性部材221のバネ定数(kX’)と、第1減衰部材222の第1減衰係数(cX)と、を決める。
【0058】
X方向は、短周期側である。第1主弾性部材211と第2主弾性部材311は同じ部材であるため、第1主弾性部材211のバネ定数(kX)は第2主弾性部材311のバネ定数(kY)と同じ値となる。X方向弾性部2では、「短周期側の最適共振振動数(ωOPT・X)と最適減衰定数(hOPT)に制震装置1におけるX方向の共振振動数と等価減衰定数を合わせる」必要がある。ただし、制震装置1の第1副弾性要素22における第1副弾性部材221のバネ定数(kX’)と、第1減衰部材222の第1減衰係数(cX)とは、単純な式によって求めることができない。そこで、実際の設計では数値計算を用いたパラメータスタディなどによって、「短周期側の最適共振振動数(ωOPT・X)と最適減衰定数(hOPT)に制震装置1におけるX方向の共振振動数と等価減衰定数を合わせる」という条件に合うような第1副弾性部材221のバネ定数(kX’)と、第1減衰部材222の第1減衰係数(cX)を探索する。
【0059】
<作用効果>
制震装置1は、制震質量体16sと、制震質量体16sと協働してX方向における第1共振振動数(ωOPT・X)を規定するX方向弾性部2と、制震質量体16sと協働してX方向と交差するY方向における第2共振振動数(ωOPT・Y)を規定するY方向弾性部3と、を備える。X方向弾性部2は、建物91に接続されると共に制震質量体16sに接続された第1主弾性要素21と、建物91に接続されると共に制震質量体16sに接続された第1副弾性要素22と、を有する。第1主弾性要素21は、第1主弾性部材211を含む。第1副弾性要素22は、第1副弾性部材221と、第1副弾性部材221に対して直列に接続された第1減衰部材222と、を含む。Y方向弾性部3は、建物91に接続されると共に制震質量体16sに接続された第2主弾性要素31と、建物91に接続されると共に制震質量体16sに接続された第2減衰要素32と、を有する。
【0060】
第1副弾性要素22は、第1副弾性部材221と当該第1副弾性部材221に直列に接続された第1減衰部材222とを含む。この第1副弾性要素22によれば、第1減衰部材222の減衰係数(cX)を所定の値に設定することによって、見かけ上の第1副弾性要素22のバネ定数(αkx’)を変化させることができる。見かけ上の第1副弾性要素22のバネ定数(αkx’)の変化によれば、第1副弾性要素22を含むX方向弾性部2の共振振動数(ωOPT・X)を調整することが可能である。従って、制震装置1は、第1副弾性部材221に第1減衰部材222を直列に接続するという簡易な構成によって、所望の制震効果を発揮することができる。
【0061】
要するに、制震装置1は、X方向の第1減衰部材222に直列に第1副弾性部材221を配置する。その結果、設置方向であるX方向の見かけのばね定数を所望の値に設定することが可能であるから、X方向の共振振動数(ωOPT・X)を高めることができる。
【0062】
制震装置1は、第1減衰部材222に直列に配置した第1副弾性部材221で制震質量体16sの振幅を制御する。その結果、オイルダンパといった第1減衰部材222のみを設置する場合と比較して、第1減衰部材222の応答ストロークを小さくすることができる。応答ストロークが小さくなれば第1減衰部材222の製作難易度を下げることができる。さらに、既存建物の制震改修時に、既設エレベータを使って第1減衰部材222にを搬入することができるので、搬入の難易度も下げることができる。
【0063】
制震装置1は、第1副弾性部材221の特性と第1減衰部材222の減衰係数(cX)を適切に設定する。その結果、X方向及びY方向に対して、周期及び減衰ともに制震装置1として最適な同調条件となるように設定することが可能となる。なお、同調条件とは、建物と同調して制震装置1として制震効果をできるだけ大きくできる条件のことをいう。
【0064】
制震装置1は、汎用品の積層ゴムや線形オイルダンパを用いることができる。制震装置1は、専用品の開発を要することがないので、製造コストを抑えることが出来る。
【0065】
制震装置1は、X方向の剛性条件とY方向の剛性条件とが同じである。従って、制震装置1は、簡易な構成とすることができる。
【0066】
制震装置1は、支承となる1段の積層ゴム装置によって実現できる。その結果、制震装置1の高さを低くすることができるので、制震装置1のサイズをコンパクトにすることがでできる。
【0067】
なお、制震装置1は、1段の積層ゴム装置の構成に限定されない。制震装置1は、1段以上の積層ゴム装置によって構成してもよい。
【0068】
さらに、制震装置1の効果を列記すると以下のとおりである。制震装置1は、高い制震効果を発揮することができる。制震装置1は、比較的安価に製造することができる。また、制震装置1の設置に要する工数を低減することもできる。従って、制震装置1を設置するために要するコストを抑制することができる。例えば、ストロークの大きいオイルダンパは、製作の難易度が高い。制震装置1は、このようなストロークの大きいオイルダンパを必須としないので、制震装置1を構成する部材の設計や製作が容易である。制震装置1は、平面面積と高さによって規定される装置サイズがコンパクトである。
【0069】
制震装置1は、施工(設置)が容易である。例えば、既存建物の制震改修に制震装置1を用いる場合に、ストロークの大きいオイルダンパは、そもそもの装置サイズが大きいうえに分解して運ぶことも難しいことがおおい。つまり、ストロークの大きいオイルダンパは、既設エレベータを使った搬入がしにくい。一方、制震装置1は、このようなストロークの大きいオイルダンパを必須としないので、既設のエレベータを使った搬入も可能となり、搬入の難易度を下げることができる。
【0070】
第1副弾性部材221は、建物91に接続され、第1減衰部材222は、制震質量体16sに接続される。この構成によっても、簡易な構成によって所望の制震効果を発揮することができる。
【0071】
制震装置1を設計する方法は、建物91の質量(M)と質量体の質量(m)とを利用して、質量比(μ)を得るステップ(S1)と、質量比(μ)を利用して、最適減衰定数(hOPT)を得るステップ(S2)と、建物の第1方向における第1固有振動数(ΩX)に応じた制震装置の第1最適共振振動数(ωOPT・X)を得るステップ(S3)と、建物の第1方向に交差する第2方向における第2固有振動数(ΩY)に応じた制震装置の第2最適共振振動数(ωOPT・Y)を得るステップ(S4)と、最適減衰定数(hOPT)及び第1最適共振振動数(ωOPT・X)を用いて、第1弾性部を構成する第1主弾性要素のバネ定数(kX)と、第1弾性部を構成する第1副弾性要素であって、第1副弾性要素に含まれる第1副弾性部材のバネ定数(kX’)と第1減衰部材の減衰係数(cX)と、を得るステップ(S5)と、第2最適共振振動数(ωOPT・Y)を用いて第2弾性部を構成する第2主弾性要素のバネ定数(kY)を得ると共に、最適減衰定数(hOPT)を用いて第2弾性部を構成する第2減衰要素の減衰係数(cY)を得るステップ(S6)と、を有する。
【0072】
この方法によれば、簡易な構成によって所望の制震効果を発揮することができる制震装置を設計することができる。
【0073】
本発明の制震装置は、前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0074】
制震装置1を設置する対象は、建物91に限定されない。制震装置1は、橋梁、風車、煙突などの土木工作物に設置してもよい。このような土木工作物に制震装置1を設置することにより、地震対策又は風揺れ対策を行うことができる。さらに、制震装置1は、重機や船舶といった機械物に設置してもよい。このような機械物に制震装置1を設置することにより、振動対策を行うことができる。
【0075】
<変形例1>
図8(a)及び
図8(b)は、変形例1の制震装置1Aを示す。実施形態では第2支承装置13の下部固定面131は、支持フレーム11に接していなかった。この接していないとは、より具体的には、下部固定面131が支持フレーム11から離間していることを意味する。
図8(a)及び
図8(b)に示すように、第2支承装置13Aの下部固定面131は、支承部134を介して支持フレーム11に対して接していてもよい。支承部134は、第2支承装置13の下部固定面131と支持フレーム11との間に配置される。支承部134は、第2支承装置13の下部固定面131に固定されている。一方、支承部134は、支持フレーム11には固定されていない。つまり、支承部134は、支持フレーム11に対して滑ることができる。このような構成によれば、第2支承装置13のバネ係数に影響を与えることなく、錘16の荷重を支持することができる。
【0076】
<変形例2>
実施形態の制震装置1は、積層ゴム装置を利用するものであった。
図9(a)及び
図9(b)に示すように、制震装置1Bは、いわゆる吊り下げ式の構成を採用してもよい。制震装置1Bは、フレーム41と、ワイヤ42と、錘43と、減衰部材44X、44Yと、弾性部材45Xと、を有する。錘43は、ワイヤ42によってフレーム41に吊り下げられている。この構成は、
図5の力学モデルにおける第1主弾性部材211と第2主弾性部材311とに対応する。さらに、錘43は、X方向において減衰部材44Xと弾性部材45Xとが互いに直列に接続された構成を介して、フレーム41に接続されている。この構成は、
図5の力学モデルにおける第1副弾性要素22に対応する。そして、錘43は、Y方向において減衰部材44Yを介して、フレーム41に接続されている。このような構成を採用する制震装置1Bによっても、簡易な構成によって所望の制震効果を発揮することができる。
【符号の説明】
【0077】
1,1A,1B…制震装置、2…X方向弾性部(第1弾性部)、3…Y方向弾性部(第2弾性部)、11…支持フレーム、12…第1支承装置、13,13A…第2支承装置、14…第1減衰装置、15…第2減衰装置、16…錘(質量体)、21…第1主弾性要素、22…第1副弾性要素、31…第2主弾性要素、32…第2減衰要素、91…建物、92…基礎。