(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056453
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】フィルタ
(51)【国際特許分類】
B01D 39/16 20060101AFI20240416BHJP
【FI】
B01D39/16 A
B01D39/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163332
(22)【出願日】2022-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004053
【氏名又は名称】日本エクスラン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 貴
(72)【発明者】
【氏名】増森 忠雄
(72)【発明者】
【氏名】山下 修
【テーマコード(参考)】
4D019
【Fターム(参考)】
4D019AA01
4D019BB02
4D019BB03
4D019BB04
4D019BB05
4D019BC13
4D019BD01
4D019DA01
4D019DA02
4D019DA03
4D019DA04
(57)【要約】
【課題】粒子捕集効率が非常に優れたフィルタを提供する。
【解決手段】アクリル繊維とポリオレフィン繊維とを含むフィルタであって、前記アクリル繊維と前記ポリオレフィン繊維の質量比が35:65~80:20であり、前記アクリル繊維にはシリコーン系油剤が付着しており、前記アクリル繊維にはボイドが形成されており、前記アクリル繊維の吸水率が12~15質量%であることを特徴とするフィルタ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル繊維とポリオレフィン繊維とを含むフィルタであって、
前記アクリル繊維と前記ポリオレフィン繊維の質量比が35:65~80:20であり、
前記アクリル繊維にはシリコーン系油剤が付着しており、前記アクリル繊維にはボイドが形成されており、前記アクリル繊維の吸水率が12~15質量%であることを特徴とするフィルタ。
【請求項2】
前記ボイドの少なくとも一部が前記アクリル繊維の繊維軸方向に連通している請求項1に記載のフィルタ。
【請求項3】
前記アクリル繊維にはさらにイミダゾリニウム化合物及び脂肪酸アミド誘導体が付着している請求項1又は2に記載のフィルタ。
【請求項4】
前記ポリオレフィン繊維がポリプロピレン繊維を含む請求項1又は2に記載のフィルタ。
【請求項5】
厚みが0.5~3.0mmである請求項1又は2に記載のフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、防塵マスク、各種空調用エレメント、空気清浄機、キャビンフィルター、各種装置において集塵、保護、通気などを目的としたフィルタが知られているが、近年、フィルタの高性能化の要求が高まってきており、二種以上の異なる成分からなる複合繊維で構成されたフィルタを用いることが知られている。二種以上の異なる成分からなる複合繊維で構成されたフィルタに用いられる帯電不織布として、例えば、特許文献1には、清浄な複数の繊維成分からなり、該繊維成分同士が摩擦帯電されてなる帯電不織布において、前記複数の繊維成分が、ポリオレフィン系繊維と、無機系溶媒によって紡糸されたアクリル系繊維とを含むことを特徴とする帯電不織布が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の帯電不織布を用いた場合、フィルタの粒子捕集効率が十分に高いとは言い難い。
【0005】
本発明の目的は、粒子捕集効率が非常に優れたフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、ボイドが形成されたアクリル繊維にシリコーン系油剤を少量付着させることにより、粒子捕集効率が非常に優れたフィルタとなることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
[1]アクリル繊維とポリオレフィン繊維とを含むフィルタであって、前記アクリル繊維と前記ポリオレフィン繊維の質量比が35:65~80:20であり、前記アクリル繊維にはシリコーン系油剤が付着しており、前記アクリル繊維にはボイドが形成されており、前記アクリル繊維の吸水率が12~15%であることを特徴とするフィルタ。
[2]前記ボイドの少なくとも一部が前記アクリル繊維の繊維軸方向に連通している前記[1]に記載のフィルタ。
[3]前記アクリル繊維にはさらにイミダゾリニウム化合物及び脂肪酸アミド誘導体が付着している前記[1]又は[2]に記載のフィルタ。
[4]前記ポリオレフィン繊維がポリプロピレン繊維を含む前記[1]~[3]のいずれかに記載のフィルタ。
[5]厚みが0.5~3.0mmである前記[1]~[4]のいずれかに記載のフィルタ。
【発明の効果】
【0008】
ボイドが形成され、かつ、シリコーン系油剤を少量付着させたアクリル繊維を用いることによって、粒子捕集効率が非常に優れたフィルタとすることができた。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明のフィルタは、アクリル繊維とポリオレフィン繊維とを含む。
【0011】
本発明のフィルタにおいて、アクリル繊維とポリオレフィン繊維の質量比が35:65~80:20であり、40:60~70:30であることが好ましく、40:60~60:40であることがより好ましい。アクリル繊維とポリオレフィン繊維の質量比が上記範囲外となると捕集効率が低下してしまう。
【0012】
<アクリル繊維>
本発明で用いられるアクリル繊維にはシリコーン系油剤が付着している。また、本発明で用いられるアクリル繊維にはボイドが形成されている。
【0013】
ボイドが形成され、かつ、シリコーン系油剤を少量付着させたアクリル繊維を用いることによって、粒子捕集効率が高いフィルタを得ることができる。このようなフィルタの粒子捕集効率が高い理由は以下のように考えられる。アクリル繊維にボイドを設けることによってポリプロピレン繊維との接触面積(接触機会)が増えて、帯電性を高めることができる。更にシリコーン系油剤をアクリル繊維のアニオン性官能基(スルホン酸基等)に選択的に付着することにより繊維表面が疎水性になり付着する水分量を減らすことができるため、帯電性を高めることができる。また、ニードルパンチ等の方法によりアクリル繊維とポリオレフィン繊維とを交絡させることにより、両繊維が厚み方向に移動しやすくなり、効率的に、繊維同士を摩擦できるため、静電気量を高めることができると考えられる。その結果、粒子がフィルタに侵入したときに静電気力により粒子が繊維間に捕集されやすくなり、捕集効率を高めることができると考えられる。一方、シリコーン系油剤の付着量の上限は0.22質量%であり、シリコーン系油剤がアクリル繊維に付着しすぎるとアクリル繊維に形成されたボイドを封鎖するため帯電性が低下してしまい、捕集効率が低くなってしまうと考えられる。
【0014】
アクリル繊維の吸水率が12~15質量%であり、12~14質量%であることが好ましい。アクリル繊維にシリコーン系油剤が付着しており、かつ、ボイドが形成されている場合にはアクリル繊維の吸水率が上記範囲内となる。アクリル繊維の吸水率の測定方法については後述する。なお、実施例では混綿前のアクリル繊維の吸水率を測定しているが、最終製造物であるフィルタからアクリル繊維を抜き出して吸水率を測定した場合も同様の測定結果となる。
【0015】
アクリル繊維は短繊維であることが好ましく、具体的には、アクリル繊維の平均繊維長は10~200mmであることが好ましく、20~150mmであることがより好ましく、30~100mmであることがさらに好ましい。
【0016】
シリコーン系油剤としては、シロキサン骨格を主骨格として有するものであれば特に制限はなく、例えば、ポリオルガノシロキサン、ポリアルキルシロキサン、ポリアリールシロキサン、ポリアルカリルシロキサン、ポリエステルシロキサン等が挙げられる。シリコーン系油剤は架橋構造や分岐構造を有していてもよいが、シリコーン系油剤の付着量が制御しやすいという観点から、分子全体が直鎖状であることが好ましい。
【0017】
シリコーン系油剤としては、例えば、ジメチルシリコーン系油剤(ポリジメチルシロキサン)、メチルフェニルシリコーン系油剤、メチルハイドロジェンシリコーン系油剤等のストレートシリコーン系油剤;アミノ変性シリコーン系油剤、エポキシ変性シリコーン系油剤、エーテル変性シリコーン系油剤等の変性シリコーン系油剤が挙げられる。これらのシリコーン系油剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0018】
シリコーン系油剤としては、変性シリコーン系油剤を含むことが好ましく、アミノ変性シリコーン系油剤を含むことがより好ましい。アミノ変性シリコーン系油剤のアミノ当量は、好ましくは1000~4000g/molであり、より好ましくは1500~2500g/molである。アミノ当量は、アミノ基1モル当たりのシリコーン系油剤の質量の平均値であり、例えば、試料を酢酸に溶かし、過塩素酸で電気滴定する方法等で測定することができる。
【0019】
アクリル繊維100質量%に対するシリコーン系油剤の付着量は0.03~0.22質量%であることが好ましく、0.05~0.20質量%であることがより好ましい。
【0020】
アクリル繊維にはシリコーン系油剤の他にイミダゾリニウム化合物及び脂肪酸アミド誘導体も付着していることが好ましい。具体的には、シリコーン系油剤、イミダゾリニウム化合物、及び脂肪酸アミド誘導体の3成分を含む繊維処理剤を用いてアクリル繊維に上記3成分を付着させることが好ましい。イミダゾリニウム化合物や脂肪酸アミド誘導体を付着させることにより、耐水性や帯電性を高めることができる。
【0021】
イミダゾリニウム化合物は、特に限定されないが、例えば、以下の式1を満たす化合物が挙げられる。
【0022】
【0023】
(上記式1中、
R1:炭素数14~22のアルキル基、
R2:炭素数1~5のアルキル基、又はベンジル基、
R3:低級アルキル基で置換された置換アミノ基、又は炭素数2~22の脂肪酸アミド基、
X:炭素数1~3のアルキル硫酸基、又はハロゲン原子)
【0024】
上記式1中、R1は炭素数16~20のアルキル基であることが好ましい。R2は炭素数2~4であることが好ましい。R3は炭素数10~20の脂肪酸アミド基であることが好ましい。Xは炭素数1~2のアルキル硫酸基(―CH3OSO3基又は―C2H5OSO3基)であることが好ましい。
【0025】
イミダゾリニウム化合物の製造方法は特に限定されないが、例えば、イミダゾリン化合物を4級化剤で4級化して製造することができる。
【0026】
4級化剤としては、メチルクロリド、エチルブロミド、ブチルヨージド等の炭素数1~4のモノハロゲン化アルキル;ベンジルクロライド、ベンジルブロミド等のハロゲン化ベンジル;ジメチル硫酸、ジエチル硫酸等の、アルキル基の炭素数1~4のジアルキル硫酸;などが挙げられるが、中でもジメチル硫酸、ジエチル硫酸が好ましい。
【0027】
アクリル繊維100質量%に対するイミダゾリニウム化合物の付着量が0.005~0.04質量%であることが好ましく、0.01~0.03質量%であることがより好ましい。
【0028】
脂肪酸アミド誘導体は、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンポリアミンの窒素原子に結合した水素原子の少なくとも一部を脂肪酸で置換した脂肪酸アミドが挙げられる。ポリエチレンポリアミンの窒素原子に結合した水素原子の2~4個を脂肪酸で置換することが好ましく、ポリエチレンポリアミンの窒素原子に結合した水素原子の2~3個を脂肪酸で置換することがより好ましい。また、置換する脂肪酸は飽和脂肪酸であることが好ましく、炭素数10~30の飽和脂肪酸であることがより好ましく、炭素数16~24の飽和脂肪酸であることがさらに好ましい。
【0029】
ポリエチレンポリアミンについては、特に限定されず、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミン、8以上のアミノ基を有するポリエチレンポリアミン等が挙げられる。
【0030】
脂肪酸アミド誘導体は、例えば、ポリエチレンポリアミン1モルに脂肪酸2~4モルをアミド化反応することにより得ることができる。
【0031】
また、脂肪酸は、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、イソステアリン酸、アラキン酸、ベヘニン酸等の炭素数16~22の脂肪酸が挙げられる。
【0032】
また脂肪酸アミド誘導体は、脂肪酸アミド中のアミノ基の少なくとも一部を有機酸や無機酸で中和した脂肪酸アミド塩であってもよい。中和に用いる有機酸としては、酢酸、プロピオン酸、カプロン酸等の炭素数2~6の脂肪族モノカルボン酸;グルコール酸、乳酸、リンゴ酸等の炭素数2~4の脂肪族ヒドロキシモノカルボン酸;などが挙げられる。また中和に用いる無機酸としては、塩酸、リン酸、亜リン酸、ホウ酸などが挙げられる。中でも、脂肪酸アミド中のアミノ基の少なくとも一部を有機酸で中和した脂肪酸アミド塩であることが好ましく、脂肪酸アミド中のアミノ基の少なくとも一部を炭素数2~6の脂肪族モノカルボン酸で中和した脂肪酸アミド塩であることがより好ましい。
【0033】
アクリル繊維100質量%に対する脂肪酸アミド誘導体の付着量が0.01~0.11質量%であることが好ましく、0.02~0.10質量%であることがより好ましい。
【0034】
上記繊維処理剤には、さらに界面活性剤を含むことが好ましい。界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤やカチオン系界面活性剤を含むことが好ましい。
【0035】
ノニオン系界面活性剤は、特に限定されておらず、例えば、ポリオエキシエチレンナフチルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル等のアルキルエーテル;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンステアリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンオレイルアミノエーテル等のアルキルアミノエーテル;ポリオキシエチレンラウリル酸アミドエーテル、ポリオキシエチレンステアリン酸アミドエーテル、ポリオキシエチレンオレイン酸アミドエーテル、ラウリル酸ジエタノールアミド、ステアリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド等のアルキルアミドエーテル;ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物ポリオキシエチレンモノスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンナフチルエーテル等のアリルフェニルエーテル;グリセリンモノラウレート、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレート、グリセリントリオレート等のグリセリン脂肪酸エステル;ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタントリオレート等のソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンジラウレート、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレンステアレート、ポリオキシエチレンジステアレート、ポリオキシエチレンジオレート、ポリオキシエチレンオレート等の脂肪酸エーテルエステル;ポリオキシエチレンヒマシ油エーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油エーテル等の植物油エーテルエステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレート等のソルビタンエーテルエステル;ポリオキシアルキレンブチルエーテル、ポリオキシアルキレンオクチルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキル(C14~15)エーテル等のモノオールポリエーテル;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン縮合物等のジオールポリエーテル;トリメチロールプロパントリス(ポリオキシアルキレン)エーテル、ポリオキシアルキレンジグリセリルエーテル等のポリオールポリエーテル等が挙げられる。ノニオン系界面活性剤は、アルキルアミノエーテル又はアルキルアミドエーテルを含むことが好ましく、アルキルアミノエーテル及びアルキルアミドエーテルを含むことがより好ましい。
【0036】
カチオン系界面活性剤としては、特に限定されていない。例えば、疎水基の炭素数が8~22(C8からC22)のアルキルトリメチルアンモニウム塩、牛脂アルキルトリメチルアンモニウム塩、硬化牛脂アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキル・エチル・ジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩などが挙げられ、これらの対イオンとしての陰イオンとしては、クロライド塩、ブロマイド塩、硫酸塩、メチルサルフェート塩、メチルスルホネート塩、アセテート塩などが挙げられる。また上記の塩にあるアルキル基がヒドロキシエチル基又はベンジル基に置換されているもの、例えば、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、パルミチルジメチルヒドロキシエチルアンモニウムクロリド、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化セタルコニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化ドデシルピリジニウムを挙げることができる。また、対イオンがアルキル硫酸残基でもよく、例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムメチルサルフェートなどの炭素数が8~22のアルキルトリメチルアンモニウムメチルサルフェート;ステアリルトリメチルアンモニウムエチルサルフェートなどなどの平均炭素数が8~22のアルキルトリメチルアンモニウムエチルサルフェート;を挙げることができる。また、カチオン系界面活性剤として、ステアラミドブロビルジメチル-β-ヒドロキシエチルアンモニウムジハイドロジエンホスフエート、ステアラミドプロピルジメチル-β-ヒドロキシエチルアンモニウムナイトレートなどを含んでもよい。
【0037】
<ポリオレフィン繊維>
本発明のフィルタは、アクリル系繊維の他にポリプロピレン繊維も含む。ポリプロピレン繊維とアクリル系繊維の混綿は、ニードル針と繊維の摩擦や繊維同士の摩擦により、いずれかの繊維をプラスに、他の繊維をマイナスに帯電させることができ、低圧力損失かつ高捕集効率なフィルタとすることができる。
【0038】
ポリプロピレン繊維は短繊維であることが好ましく、具体的には、ポリプロピレン繊維の平均繊維長は10~200mmであることが好ましく、20~150mmであることがより好ましく、30~100mmであることがさらに好ましい。
【0039】
本発明のフィルタは、アクリル繊維とポリオレフィン繊維とを含む層に加えて、さらにスパンボンド不織布が積層されていてもよい。スパンボンド不織布を積層することにより、薄くて強度の高いフィルタとすることができる。
【0040】
スパンボンド不織布はポリエステル繊維製、ナイロン繊維製など素材を選ばないが、ポリプロピレン繊維製であることが好ましい。スパンボンド不織布の目付は好ましくは5~100g/m2であり、より好ましくは10~50g/m2である。目付が5g/m2より低いとフィルタの強度を高める効果が十分ではないおそれがある。また、目付が100g/m2より高いと圧力損失が大きくなり過ぎるおそれがある。また、ニードルパンチにおける針密度は10~100本/cm2であることが好ましく、20~50本/cm2であることがより好ましい。
【0041】
<製造方法>
本発明のフィルタの製造方法について説明するが、以下の方法に限定されるものではない。
【0042】
アクリル繊維トウの製造方法は、延伸した後に含水状態で湿熱処理をする点を除けば、公知の製造方法で製造すればよく、例えば、以下の製造方法でもよい。溶媒にアクリルニトリル系重合体を溶解させて紡糸原液を作製し、紡糸原液を凝固して未延伸糸を得る。未延伸糸を延伸した後に含水状態で湿熱処理をし、最後に乾燥を行い、アクリル繊維トウを得ることができる。通常であれば、延伸糸の水分を除去すると同時に緻密化(乾燥)してボイドが形成されないようにするが、延伸糸を含水状態で湿熱処理をすると重合体成分と水分の相分離が促進され、相分離が起こった状態で水分を乾燥するとボイドが形成される。また、上記製造方法で作製するとボイドの少なくとも一部がアクリル繊維の繊維軸方向に連通したものとなる。
【0043】
次に上述の繊維処理剤を準備する。そして、繊維処理剤の中にアクリル繊維トウを浸漬し、続いて、アクリル繊維トウを絞り、乾燥させた後、アクリル繊維トウをカットすることによりアクリル繊維が得られる。アクリル繊維トウの絞り方次第でアクリル繊維における繊維処理剤の付着量が所定量となるように調整することができる。
【0044】
ポリプロピレン繊維は公知の製造方法で製造されていればよく、市販品を用いてもよい。
【0045】
カーディング不織布作製装置を用いてポリプロピレン繊維とアクリル系繊維を混綿して混繊ウェブを作製する。混繊ウェブの目付は、好ましくは5~300g/m2であり、より好ましくは10~200g/m2であり、さらに好ましくは20~100g/m2である。目付が、5g/m2より低いと混繊ウェブを形成している繊維間の距離が大きくなりこれに伴って繊維の存在しない空間が大きくなるのでフィルタの捕集効率が低下するおそれがある。目付が300g/m2より大きくなるとニードルパンチの抵抗が大きくなりニードル針の破損や圧力損失が高くなるおそれがある。
【0046】
繊維処理剤に界面活性剤が含まれている場合、混繊ウェブに高圧水を噴霧して混繊ウェブに付着している界面活性剤を除去することが好ましい。なお、混繊ウェブに高圧水を噴霧してもシリコーン系油剤、イミダゾリニウム化合物、及び脂肪酸アミド誘導体は混繊ウェブから除去されない。
【0047】
本発明のフィルタは、混繊ウェブのみで構成されていてもよいが、混繊ウェブにスパンボンド不織布を積層した後にニードルパンチで交絡し摩擦帯電させて製造するのが好ましい。スパンボンド不織布を積層することにより、薄くて強度の高いフィルタとすることができる。ニードルパンチにおける針密度は10~100本/cm2であることが好ましく、20~50本/cm2であることがより好ましい。
【0048】
<繊維層>
本発明のフィルタは、さらに繊維からなる繊維層を備えることが好ましい。繊維層の構成素材としては、所望の特性を有するものであれば特に制限されないが、形状自由度の観点から合成樹脂を用いることが好ましい。
【0049】
合成樹脂として、例えば、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリオレフィン、環状オレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどが挙げられ、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、環状オレフィンなどのポリオレフィン素材やポリスチレン素材が好ましい。これらの素材を用いることで、電気抵抗が高く、かつ、疎水性、成形性などのバランスが良好であり、粒径0.3~0.5μmの粒子の捕集効率(以下、単に捕集効率ということがある)に優れたフィルタ、すなわち、実用性に優れたフィルタを得ることができる。
【0050】
繊維層は、織布状、不織布状、綿状など、公知の手法により得られる繊維状物を用途に応じて適切な形状および厚み、充填状態に成型したものであればよく、粒子除去性能の観点からは、不織布状の繊維層であることが好ましい。不織布状の繊維層を形成する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、メルトブローン法、湿式法、乾式法、スパンボンド法、フラッシュ紡糸法、エレクトロスピニング法、フォーススピニング法、超音速延伸法、複合繊維分割法等の公知の方法が挙げられるが、得られる不織布の繊維径が小さく捕集効率が良好なことから、メルトブローン法、エレクトロスピニング法、フォーススピニング法、又は超音速延伸法を採用するのが好ましい。また、残溶剤の処理を必要としない観点からは、メルトブローン法、溶融エレクトロスピニング法、溶融フォーススピニング法、又は超音速延伸法を採用するのが好ましい。繊維層は、1種の材料のみから成型してもよく、2種以上の材料を用いて成型してもよい。
【0051】
繊維層に用いられる繊維の有効繊維径は0.1~20μmであることが好ましく、0.15~15μmであることがより好ましく、0.2~10μmであることがさらに好ましく、0.3~5μmであることが特に好ましく、0.5~3μmであることが最も好ましい。繊維の有効繊維径は、Davies,C.N.,“The Separation of Airborne Dust and Particles”, Institution of Mechanical Engineers, London, Proceedings 1B,1952に示された方法に従って計算される。繊維の有効繊維径が上記範囲内であれば、捕集効率を高めつつ、繊維層中における空気の通気抵抗を低減させることができる。繊維の有効繊維径が20μmよりも太い場合には捕集効率が低下するおそれがあり、また、電荷減衰時における各種性能の効率低下が大きい。また、繊維の有効繊維径が0.1μmよりも細い場合には、強度や均一性を維持する量の繊維を用いた際に通気抵抗が大きくなりすぎるため、大風量かつ静圧の小さなシロッコファンで吸引される空気清浄機用途に用いることが困難となる。
【0052】
繊維の断面形状は円形でもよく、楕円形、矩形、星型、クローバー状などの異形断面でもよい。異形断面繊維では、繊維表面との接触角が90°以下となる液体を、毛管現象により繊維の溝部に吸収するため、繊維全体が液体で被覆されるのを抑制できる。
【0053】
上記繊維状物は単独の製法、素材からなる均一物であってもよく、製法、素材および繊維径の異なる2種以上の素材を用いてなる混合物であってもよい。
【0054】
樹脂自体の劣化を抑制し、かつ、繊維層での電荷安定性を高めるために、樹脂には公知の配合剤を添加してもよい。配合剤としては、例えば、各種金属塩、酸化防止剤、光安定化剤などを挙げることができる。また、樹脂自体の劣化を抑制し、かつ、繊維層での電荷安定性を高めるために、素材の異なる材料を複数用いて繊維層を形成してもよく、例えば、異なる2以上の樹脂成分を混合することにより得られる相溶性又は非相溶性のブレンドポリマー、アイオノマー、マレイン酸変性ポリオレフィン、ヒンダードフェノール系樹脂、ヒンダードアミン系樹脂などを用いることができる。
【0055】
<その他>
本発明のフィルタは必要に応じて他の構成部材と併用して用いることができる。すなわち、本発明のフィルタはプレフィルタ層、繊維保護層、補強部材、機能性繊維層などと組み合わせて用いることができる。
【0056】
プレフィルタ層および繊維保護層としては、例えばスパンボンド不織布、サーマルボンド不織布、発泡ウレタンなどであり、補強部材としては、例えばサーマルボンド不織布、各種ネットを例示することができる。また、機能性繊維層としては例えば抗菌、抗ウイルスおよび識別や意匠を目的とした着色繊維層などを例示することができる。
【0057】
本発明のフィルタは、本発明により得られる集塵機能の他に、保護、通気、防汚、防水などの機能により幅広く用いることが可能であり、とりわけ、防塵マスク、各種空調用エレメント、空気清浄機、キャビンフィルター、各種装置の保護を目的としたフィルタとして好適に用いることができる。
【実施例0058】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はもとよりこれらの実施例に限定されるものではない。なお、各実施例および比較例において用いた評価方法は以下の通りである。
【0059】
以下、本発明の実施の形態について説明する。試験方法を下記に示す。
【0060】
(1)アクリル繊維の吸水率
エタノールとベンゼンを質量比で1:2で混合した混合液を用いて混綿前のアクリル繊維を洗浄して、混合液を80℃で30分間乾燥除去した後のアクリル繊維の質量M1を測定した。その後、純水に25℃で20分間浸漬した。浸漬後のアクリル繊維を遠心脱水機(コクサンエンシンキ社製、半径12cm)を用いて2000rpmの回転で脱水し、アクリル繊維の質量M2を測定した。これらの測定結果を用いて、以下の式よりアクリル繊維の吸水率を算出した。
アクリル繊維の吸水率(%)=100*(アクリル繊維の質量M2(g)-アクリル繊維の質量M1(g))/アクリル繊維の質量M1(g)
【0061】
(2)通気抵抗
72mmφに打ち抜いたサンプルを有効通気径50mmφアダプターに装着し、微差圧計を接続した内径50mmの配管を上下に連結、10cm/sにて通風し、絞りの無い状態での通気抵抗(圧力損失)を計測した。
【0062】
(3)捕集効率
72mmφに打ち抜いたサンプルを有効通気径50mmφのアダプターに装着し、光散乱式粒子計数装置リオン社製KC-01Eを用いて以下の方法にて、フィルタの捕集効率を実施した。
評価粒子:大気塵
風速 :10cm/s
効率算出:粒径0.3~0.5μmの粒子個数を光散乱計数法により測定した。
粒子透過率(%)=100-(フィルタを透過した粒径0.3~0.5μmの粒子個数÷フィルタ透過前の粒径0.3~0.5μmの粒子個数)
【0063】
(実施例1)
50%ロダン酸ナトリウム水溶液900部に対して、アクリロニトリル系重合体を溶解させ、紡糸原液を作製した。得られた紡糸原液を5℃の12%ロダン酸ナトリウム水溶液中で凝固し、その後水洗して未延伸糸を得た。なお、アクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリル90質量%、メチルアクリレート9.8質量%、及びメタアリルスルホン酸ソーダ0.2質量%を共重合した重合体(A)とアクリロニトリル88質量%、酢酸ビニル11.8質量%、及びメタアリルスルホン酸ソーダ0.2質量%を共重合した重合体(B)とを重合体(A):重合体(B)=50:50の組成比となるようにしており、前記未延伸糸はサイドバイサイド型の未延伸糸となるようにした。上記未延伸糸を12倍に延伸し、得られた延伸糸を116℃で10分間スチームで湿熱処理を行い、さらに110℃で10分間乾燥し、アクリル繊維トウA1を作製した。
【0064】
次に、下記(1)~(5)を満たす繊維処理剤Cを準備した。
(1)シリコーン系油剤として、アミノ当量が2000g/molである直鎖状アミノ変性ポリオルガノシロキサンを41質量%含む
(2)イミダゾリウム化合物として、上記式1のR1がC17H35、R2がC2H5、R3がC17H35CONH、XがC2H5OSO3であるイミダゾリウム化合物を7質量%含む
(3)脂肪酸アミド誘導体として、トリエチレンテトラミン1molとベヘニン酸2molの反応物の酢酸塩を20質量%含む
(4)ノニオン系界面活性剤として、ポリオキシエチレンC18不飽和アルキルアミドエーテルとポリオキシエチレンC12アルキルアミノエーテルとの等量混合物を19質量%含む
(5)カチオン系界面活性剤として、ステアラミドプロピルジメチル-β-ヒドロキシエチルアンモニウムナイトレートを7質量%、ラウリルトリメチルアンモニウムメチルサルフェートを6質量%含む
【0065】
繊維処理剤Cを水に乳化させ成分濃度(全固形分)で所定の繊維処理剤付着量となるように希釈した処理剤中にアクリル繊維トウA1を浸漬した後、繊維処理剤の付着量がアクリル繊維トウA1の乾燥質量に対して50質量%となるようにアクリル繊維トウA1を絞った。その後、125℃の熱風下で15分間乾燥し、最後にアクリル繊維トウA1を51mmにカットしてアクリル短繊維B1を作製した。
【0066】
上記アクリル短繊維B1とポリプロピレン短繊維(宇部日東化成株式会社製NC、繊度:2.2dtex、平均繊維径:17.5μm、平均繊維長:51mm)をそれぞれ50質量%の割合で混綿し、カーディング不織布作製装置を用いて目付40g/m2の混繊ウェブを作製した。その後、上記ウェブをポリプロピレンが主成分であるスパンボンド不織布(シンワ株式会社製6615-1B、目付:15g/m2、繊度:5.5dtex)の上に積層して、積層体を得た。上記積層体を5m/minの速度で搬送しながら3MPaの高圧水を連続的に噴霧して混繊ウェブに付着していた界面活性剤を完全に除去し、その後100℃で60分間乾燥を行った。続いて、25℃、55%RHの環境で針密度30本/cm2にてニードルパンチ処理を行い、摩擦帯電と交絡を同時に行って、帯電濾材試料を得た。
【0067】
(実施例2~6、比較例3~9)
繊維処理剤Cの付着量及びアクリル繊維とポリプロピレン繊維の目付を表1に記載の量となるように変更した以外は実施例1と同様の製法で帯電濾材試料を得た。
【0068】
(比較例1)
アクリル短繊維B1に代えて下記のアクリル短繊維B2を用い、アクリル短繊維B2とポリプロピレン短繊維(宇部日東化成株式会社製NC、繊度:2.2dtex、平均繊維径:17.5μm、平均繊維長:51mm)をそれぞれ50質量%の割合で混綿した以外は実施例1と同様の製法で帯電濾材試料を得た。
【0069】
<アクリル短繊維B2の製造方法>
50%ロダン酸ナトリウム水溶液900部に対して、アクリロニトリル系重合体を溶解させ、紡糸原液を作製した。得られた紡糸原液を-3℃の12%ロダン酸ナトリウム水溶液中で凝固し、その後水洗して未延伸糸を得た。上記未延伸糸を12倍に延伸し、緻密化乾燥、熱処理し、アクリル繊維トウA2を作製した。
次にカード通過性向上のための繊維処理剤としてカチオン系界面活性剤を成分濃度(全固形分)で0.45%質量となるように希釈した処理剤中にアクリル繊維トウBを浸漬した後、処理剤の付着量がアクリル繊維トウBの乾燥質量に対して50質量%となるようにアクリル繊維トウA2を絞った。その後、125℃の熱風下で15分乾燥し、最後にアクリル繊維トウA2を51mmにカットしてアクリル短繊維B2を作製した。
【0070】
(比較例2)
繊維処理剤として繊維処理剤Cを用い、繊維処理剤Cの付着量を表1に記載の量となるように変更した以外は比較例1と同様の製法で帯電濾材試料を得た。
【0071】
実施例1~6、比較例1~9の帯電濾材試料の物性を表1に示す。
【0072】
【0073】
実施例1~6では、粒子の捕集効率が非常に優れていた。