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特開2024-56454給電システム、給電装置、及び、給電方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056454
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】給電システム、給電装置、及び、給電方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/80 20160101AFI20240416BHJP
   H02J 50/20 20160101ALI20240416BHJP
   H02J 50/90 20160101ALI20240416BHJP
   H02J 50/40 20160101ALI20240416BHJP
   H01Q 3/30 20060101ALI20240416BHJP
   H01Q 21/06 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
H02J50/80
H02J50/20
H02J50/90
H02J50/40
H01Q3/30
H01Q21/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163333
(22)【出願日】2022-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】藤井 正明
【テーマコード(参考)】
5J021
【Fターム(参考)】
5J021AA06
5J021DB03
5J021EA04
5J021FA05
(57)【要約】
【課題】受電装置の受電電力を増大可能な位相を迅速に設定可能な給電システム、給電装置、及び、給電方法を提供する。
【解決手段】給電装置は、電力を送電可能な複数のアンテナのうち、第1受電装置の周囲に位置する複数の第1アンテナの送電信号の位相を制御する第1送電制御部と、前記複数のアンテナのうち、前記複数の第1アンテナ以外の1又は複数の第2アンテナの送電信号の位相を制御する第2送電制御部とを含み、前記第1送電制御部は、前記複数の第1アンテナから前記第1受電装置が受電する信号の位相が揃うように前記複数の第1アンテナの送電信号の位相関係を保持しながら前記複数の第1アンテナの送電信号の位相を時系列的に変化させ、前記第2送電制御部は、前記1又は複数の第2アンテナが1又は複数の第2受電装置に送電する送電信号の位相を時系列に変化させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
給電装置と、
前記給電装置から送電される送電信号を受電する受電装置と
を含む給電システムであって、
前記給電装置は、
電力を送電可能な複数のアンテナを有するアレイアンテナと、
前記複数のアンテナから前記受電装置に送電する送電信号の位相の制御と送電制御とを行う送電制御部と
を有し、
前記送電制御部は、前記複数のアンテナに含まれる複数の第1アンテナのうちの1つを選択し、前記複数の第1アンテナのうちの非選択の第1アンテナの送電位相を固定して第1送電信号を送電させた状態において、所定位相の第1送電信号を前記選択した第1アンテナから送電する第1送電処理と、前記所定位相を反転させた反転位相の第1送電信号を前記選択した第1アンテナから送電する第2送電処理とを、前記複数の第1アンテナを1つずつ選択しながら行い、
前記受電装置は、前記第1送電処理において前記複数の第1アンテナから受電した、前記所定位相の第1送電信号と、前記送電位相が固定された第1送電信号との第1合成信号と、前記第2送電処理において前記複数の第1アンテナから受電した、前記反転位相の第1送電信号と、前記送電位相が固定された第1送電信号との第2合成信号との差分信号を求めて前記送電制御部に送信し、
前記送電制御部は、前記複数の第1アンテナの各々を選択したことによって得られる複数の前記差分信号に基づいて、前記複数の第1アンテナが送電する前記複数の第1送電信号の位相を制御する、給電システム。
【請求項2】
前記送電制御部は、前記第1送電処理及び前記第2送電処理において、前記非選択の第1アンテナの送電位相を同一値に設定する、請求項1に記載の給電システム。
【請求項3】
前記送電制御部は、前記第2送電処理において、前記第1送電処理において既に選択された前記第1アンテナについては、送電位相を前記反転位相に設定する、請求項1に記載の給電システム。
【請求項4】
前記送電制御部は、前記第2送電処理において、前記第1送電処理において既に選択された前記第1アンテナについては、送電位相を前記差分信号に基づく位相に設定する、請求項1に記載の給電システム。
【請求項5】
前記送電制御部は、前記第1送電処理及び前記第2送電処理において、前記複数のアンテナのうちの前記複数の第1アンテナ以外の1又は複数の第2アンテナの送電位相を固定する、請求項1に記載の給電システム。
【請求項6】
前記給電装置は、前記複数のアンテナのうち、前記受電装置から送信される信号の受信強度が所定強度以上の複数のアンテナを前記複数の第1アンテナとして選択し、前記受信強度が前記所定強度未満の1又は複数のアンテナを前記1又は複数の第2アンテナとして選択する、アンテナ選択部をさらに有する、請求項5に記載の給電システム。
【請求項7】
前記受電装置から送信される信号は、前記差分信号を表す信号である、請求項6に記載の給電システム。
【請求項8】
前記送電制御部は、
前記第1送電処理及び前記第2送電処理を行う準備期間と、前記複数の前記差分信号に基づいて前記複数の第1アンテナが送電する前記複数の第1送電信号の位相を制御して、前記複数の第1アンテナから前記受電装置に送電する送電期間とを含むフレーム処理を繰り返し行い、
前記複数のアンテナのうち、前記アンテナ選択部によって前記差分信号を表す信号の受信強度に基づいて選択された前記複数の第1アンテナを、当該フレームの次のフレームにおける前記複数の第1アンテナとして利用する、請求項7に記載の給電システム。
【請求項9】
前記受電装置は、移動可能である、請求項1に記載の給電システム。
【請求項10】
前記送電制御部は、前記複数の前記差分信号に基づいて、前記受電装置が前記複数の第1アンテナから受電する前記複数の第1送電信号の受電位相が揃うように、前記複数の第1アンテナが送電する前記複数の第1送電信号の送電位相を制御する、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の給電システム。
【請求項11】
受電装置に送電信号を送電する給電装置であって、
電力を送電可能な複数のアンテナを有するアレイアンテナと、
前記複数のアンテナから前記受電装置に送電する送電信号の位相の制御と送電制御とを行う送電制御部と
を含み、
前記送電制御部は、
前記複数のアンテナに含まれる複数の第1アンテナのうちの1つを選択し、前記複数の第1アンテナのうちの非選択の第1アンテナの送電位相を固定して第1送電信号を送電させた状態において、所定位相の第1送電信号を前記選択した第1アンテナから送電する第1送電処理と、前記所定位相を反転させた反転位相の第1送電信号を前記選択した第1アンテナから送電する第2送電処理とを、前記複数の第1アンテナを1つずつ選択しながら行い、
前記複数の第1アンテナの各々を選択したことによって得られる複数の差分信号に基づいて、前記複数の第1アンテナが送電する前記複数の第1送電信号の位相を制御し、
前記差分信号は、前記受電装置が、前記第1送電処理において前記複数の第1アンテナから受電した、前記所定位相の第1送電信号と、前記送電位相が固定された第1送電信号との第1合成信号と、前記第2送電処理において前記複数の第1アンテナから受電した、前記反転位相の第1送電信号と、前記送電位相が固定された第1送電信号との第2合成信号との差分信号である、給電装置。
【請求項12】
給電装置と、
前記給電装置から送電される送電信号を受電する受電装置と
を含む給電システムにおける給電方法であって、
前記給電装置は、
電力を送電可能な複数のアンテナを有するアレイアンテナと、
前記複数のアンテナから前記受電装置に送電する送電信号の位相の制御と送電制御とを行う送電制御部と
を有し、
前記送電制御部が、前記複数のアンテナに含まれる複数の第1アンテナのうちの1つを選択し、前記複数の第1アンテナのうちの非選択の第1アンテナの送電位相を固定して第1送電信号を送電させた状態において、所定位相の第1送電信号を前記選択した第1アンテナから送電する第1送電処理と、前記所定位相を反転させた反転位相の第1送電信号を前記選択した第1アンテナから送電する第2送電処理とを、前記複数の第1アンテナを1つずつ選択しながら行い、
前記受電装置が、前記第1送電処理において前記複数の第1アンテナから受電した、前記所定位相の第1送電信号と、前記送電位相が固定された第1送電信号との第1合成信号と、前記第2送電処理において前記複数の第1アンテナから受電した、前記反転位相の第1送電信号と、前記送電位相が固定された第1送電信号との第2合成信号との差分信号を求めて前記送電制御部に送信し、
前記送電制御部が、前記複数の第1アンテナの各々を選択したことによって得られる複数の前記差分信号に基づいて、前記複数の第1アンテナが送電する前記複数の第1送電信号の位相を制御する、給電方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給電システム、給電装置、及び、給電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、受電装置の方向を検出する第1の検出手段と、第1の検出手段によって検出された受電装置の方向に無線で給電電力を放射する第1の放射、及び、給電電力を放射する方向を定められた範囲で変更しながら無線で給電電力を放射する第2の放射を行うよう、給電電力を放射する放射部を制御する制御手段とを有する給電機器がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-083648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の給電機器は、第1の放射及び第2の放射を行うことで受電装置に給電電力を放射しているが、受電装置の受電電力を増大可能な位相を迅速に設定することは開示していない。
【0005】
そこで、受電装置の受電電力を増大可能な位相を迅速に設定可能な給電システム、給電装置、及び、給電方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態の給電システムは、給電装置と、前記給電装置から送電される送電信号を受電する受電装置とを含む給電システムであって、前記給電装置は、電力を送電可能な複数のアンテナを有するアレイアンテナと、前記複数のアンテナから前記受電装置に送電する送電信号の位相の制御と送電制御とを行う送電制御部とを有し、前記送電制御部は、前記複数のアンテナに含まれる複数の第1アンテナのうちの1つを選択し、前記複数の第1アンテナのうちの非選択の第1アンテナの送電位相を固定して第1送電信号を送電させた状態において、所定位相の第1送電信号を前記選択した第1アンテナから送電する第1送電処理と、前記所定位相を反転させた反転位相の第1送電信号を前記選択した第1アンテナから送電する第2送電処理とを、前記複数の第1アンテナを1つずつ選択しながら行い、前記受電装置は、前記第1送電処理において前記複数の第1アンテナから受電した、前記所定位相の第1送電信号と、前記送電位相が固定された第1送電信号との第1合成信号と、前記第2送電処理において前記複数の第1アンテナから受電した、前記反転位相の第1送電信号と、前記送電位相が固定された第1送電信号との第2合成信号との差分信号を求めて前記送電制御部に送信し、前記送電制御部は、前記複数の第1アンテナの各々を選択したことによって得られる複数の前記差分信号に基づいて、前記複数の第1アンテナが送電する前記複数の第1送電信号の位相を制御する。
【発明の効果】
【0007】
受電装置の受電電力を増大可能な位相を迅速に設定可能な給電システム、給電装置、及び、給電方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態の給電装置100を示す図である。
図2】特定デバイス50Aの構成の一例を示す図である。
図3】制御装置140の構成を示す図である。
図4】フレーム構造の一例を示す図である。
図5】最適化処理の一例を説明する図である。
図6A】特定デバイス50Aが受電する送電信号の受電位相を説明する図である。
図6B】特定デバイス50Aが受電する送電信号の受電位相を説明する図である。
図6C】特定デバイス50Aが受電する送電信号の受電位相を説明する図である。
図6D】特定デバイス50Aが受電する送電信号の受電位相を説明する図である。
図6E】特定デバイス50Aが受電する送電信号の受電位相を説明する図である。
図7】ランキング結果の一例を示す図である。
図8】給電システム300の制御装置140及び特定デバイス50Aが実行する処理の一例を表すフローチャートである。
図9】シミュレーションの条件の一例を説明する図である。
図10】比較用のランダムビームフォーミングで送電した場合の受電電力についてのシミュレーション結果の一例を示す図である。
図11】給電システム300のシミュレーション結果の一例を示す図である。
図12】実施形態の変形例の給電システム300における最適化処理の一例を説明する図である。
図13A】実施形態の変形例における特定デバイス50Aが受電する送電信号の受電位相を説明する図である。
図13B】実施形態の変形例における特定デバイス50Aが受電する送電信号の受電位相を説明する図である。
図13C】実施形態の変形例における特定デバイス50Aが受電する送電信号の受電位相を説明する図である。
図13D】実施形態の変形例における特定デバイス50Aが受電する送電信号の受電位相を説明する図である。
図13E】実施形態の変形例における特定デバイス50Aが受電する送電信号の受電位相を説明する図である。
図14】実施形態の変形例の給電システム300のシミュレーション結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の給電システム、給電装置、及び、給電方法を適用した実施形態について説明する。
【0010】
<実施形態>
<給電システム300>
図1は、実施形態の給電システム300を示す図である。給電システム300は、給電装置100と特定デバイス50Aとを含む。特定デバイス50Aは、受電装置の一例である。以下では、XYZ座標系を用いて説明する。平面視とはXY平面視のことである。また、給電システム300は、給電装置100と複数のデバイス50とを含んでもよい。複数のデバイス50には、特定デバイス50Aと、特定デバイス50A以外の複数の非特定デバイス50Bとが含まれる。
【0011】
給電装置100は、一例として、スマート工場、大規模プラント、物流センタ、倉庫等の大規模な施設の領域10に配置される。給電装置100は、アレイアンテナ110、フェーズシフタ120、ICチップ125、マイクロ波発生源130、及び制御装置140を含み、領域10内に存在する複数のデバイス50に非接触で給電(マイクロ波給電)を行う。実施形態の給電方法は、給電装置100によって実現される給電方法であり、特に制御装置140が実行する処理によって実現される。
【0012】
給電装置100は、不特定多数のデバイス50に給電を行う際に、アレイアンテナ110にビームフォーミングでの送電を行わせる。アレイアンテナ110の複数のアンテナ素子111は、後述する送電制御部が指定した送電位相で送信可能である。複数のアンテナ素子111が出力する送電信号の位相を固定すると、複数のアンテナ出力信号から形成されるビームによって領域10内に定在波が生じ、定在波の節の位置に存在するデバイス50には電力が殆ど供給されなくなる。このような事態を避けるために、給電装置100は、複数のアンテナ素子111から出力される複数の送電信号の位相を時系列的にランダムにシフトさせて、定在波の節が特定の場所に長時間にわたり生じないようにしている。換言すれば、定在波の節が領域10内で移動するようにしている。送電信号の位相は、タイムスロットに従ってシフトされる。なお、送電信号とは、アンテナ素子111から送電(送信)される信号であり、所定の電力を有するRF(Radio Frequency)信号である。送電信号の周波数は、一例として、918MHzである。
【0013】
このように複数のアンテナ素子111から出力される複数の送電信号の位相をタイムスロットに従ってランダムにシフトさせて形成するビームでの送電を行うことを以下ではランダムビームフォーミングと称す。
【0014】
また、複数のデバイス50の中には、内部のバッテリ54を充電するためにより多くの受電電力を必要とするデバイス50が存在しうる。例えば、他のデバイス50よりも多くの電力を消費して内部のバッテリ54の残量が少なくなっているデバイス50である。このようにより多くの受電電力を必要とするデバイス50を特定デバイス50Aと称す。図1には、ある時点における1つのデバイス50を特定デバイス50Aとして示す。
【0015】
特定デバイス50Aは、複数のアンテナ素子111のうちのアンテナサブセット110Aに含まれる複数のアンテナ素子111から主に受電する。ランダムビームフォーミングよりも、より集中的に送電を行うことにより、特定デバイス50Aのバッテリ54を早期に充電するためである。
【0016】
アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111は、第1アンテナの一例である。アンテナサブセット110Aに含まれないアンテナ素子111は、第2アンテナの一例である。また、アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111が送電する送電信号は、第1送電信号の一例であり、アンテナサブセット110Aに含まれないアンテナ素子111が送電する送電信号は、第2送電信号の一例である。
【0017】
アンテナサブセット110Aに含まれる複数のアンテナ素子111から特定デバイス50Aへの送電は、フレーム毎に位相が設定される。図1では、アンテナサブセット110Aに4つのアンテナ素子111が含まれている。アンテナサブセット110A、及び、特定デバイス50Aへの送電信号の位相シフトについては後述する。
【0018】
複数のデバイス50のうち、特定デバイス50A以外を非特定デバイス50Bと称す。すべてのデバイス50は、状況に応じて特定デバイス50Aになり得る。特定デバイス50Aは、バッテリ54の充電量が十分な量になれば、アンテナサブセット110Aからの集中的な電力供給が行われなくなり、非特定デバイス50Bになる。非特定デバイス50Bは、アンテナサブセット110Aを含むアンテナ素子111からランダムビームフォーミングによる送電を受ける。
【0019】
また、特定デバイス50Aは、Automatic Guided Vehicle(AGV)、又は、Autonomous Mobile Robot(AMR)等のような遠隔管理可能な移動体に搭載されていて、移動可能であってもよい。すべての複数のデバイス50が、このような移動体に搭載されていて、状況によって特定デバイス50Aになることができる構成であってもよいし、すべての複数のデバイス50のうちの一部のデバイス50のみが、このような移動体に搭載されていて、状況によって特定デバイス50Aになることができる構成であってもよい。以下では、一例として特定デバイス50Aが移動体に搭載されていて移動可能である形態について説明する。
【0020】
給電装置100は、非特定デバイス50Bへのランダムビームフォーミングによる送電と、特定デバイス50Aへのアンテナサブセット110Aからの送電とを両立する給電装置である。なお、以下では、特定デバイス50Aと非特定デバイス50Bとを特に区別しない場合には、単にデバイス50と称す。
【0021】
<特定デバイス50Aの構成>
図2は、特定デバイス50Aの構成の一例を示す図である。特定デバイス50Aは、アンテナ51、スイッチSW、制御部52、RF/DC(Direct Current)変換部53、バッテリ54、直交検波部55、算出部56、角度変換部57、及び通信部58を有する。通信部58は、アンテナ58Aを有する。
【0022】
アンテナ51は、1又は複数のアンテナ素子111から電力を受電するためのアンテナである。アンテナ51は、受電した電力をスイッチSWに出力する。スイッチSWは、制御部52によって切り替えられ、アンテナ51の接続先をRF/DC変換部53と直交検波部55のいずれかに切り替える。
【0023】
制御部52は、各フレームにおける最適化期間と給電期間とでスイッチSWを切り替える。制御部52は、最適化期間ではスイッチSWを直交検波部55に接続するように切り替え、給電期間ではスイッチSWをRF/DC変換部53に接続するように切り替える。
【0024】
制御部52は、最適化期間では、直交検波部55、算出部56、角度変換部57、及び通信部58に、差分信号から得られる角度を表すデータを給電装置100の制御装置140に送信させる処理を行わせる。
【0025】
また、制御部52は、給電期間では、アンテナ51を介してアンテナ素子111から受電する受電電力をバッテリ54に充電する充電制御を行う。
【0026】
バッテリ54は、一例として二次電池又はキャパシタであり、アンテナ51から供給される電力を充電する。バッテリ54に充電される電力は、スイッチSW、制御部52、RF/DC変換部53、直交検波部55、算出部56、角度変換部57、及び通信部58が動作する際に利用される。
【0027】
バッテリ54には、電力を消費する負荷が接続されていてもよい。例えば、負荷は、温度や湿度等を検出するセンサであってもよく、この場合にはデバイス50をセンサデバイスとして取り扱うことができる。また、負荷は、モータやアクチュエータ等の動力源であってもよく、デバイス50は動的な作業を行うデバイスであってもよい。
【0028】
また、デバイス50が移動可能な移動体に取り付けられている場合には、バッテリ54が充電する電力は、負荷としての移動体のモータ等の動力源や制御部等を駆動するための電力として利用することができる。
【0029】
RF/DC変換部53は、アンテナ51で受電(受信)した送電信号(RF信号)を直流電力に変換してバッテリ54に出力するコンバータ(変換回路)である。
【0030】
直交検波部55は、アンテナ51で受電した送電信号を復調して位相情報を取り出し、算出部56に出力する。直交検波部55が取り出す位相情報は、アンテナ51で受電される送信信号の位相を表す。
【0031】
算出部56は、直交検波部55によって取り出された位相情報が表す位相に基づいて、差分信号を求める減算処理を行う。減算処理については後述する。
【0032】
角度変換部57は、算出部56によって算出される差分信号をIQ座標における角度に変換し、角度を表す角度データを通信部58に出力する。
【0033】
通信部58は、角度変換部57から出力される角度データをアンテナ58Aから給電装置100に送信する。
【0034】
なお、図2を用いて特定デバイス50Aの構成について説明したが、複数のデバイス50のうち、特定デバイス50Aになることがなく、非特定デバイス50Bとしてのみ機能するデバイス50は、スイッチSW、直交検波部55、算出部56、角度変換部57、及び通信部58を有していなくてよく、制御部52は、バッテリ54の充電制御を行えばよい。
【0035】
<アレイアンテナ110>
アレイアンテナ110は、2次元アンテナグリッドの一例であり、一例としてマトリクス状に配置されるアンテナ素子111を含む。アンテナ素子111は、一例として、X方向に16個、Y方向に16個で256個ある。256個のアンテナ素子111は、XY平面上に位置する。
【0036】
各アンテナ素子111は、送電ケーブル130Aを介してマイクロ波発生源130に接続されており、マイクロ波帯の電力が供給される。制御装置140によって制御されることにより、256個のアンテナ素子111のうちのアンテナサブセット110Aを構成するアンテナ素子111として選択された4つのアンテナ素子111は、特定デバイス50Aに向けて最適化された位相で送電を行うが特定デバイス50Aの近傍に位置する非特定デバイス50Bにも副次的に給電がなされる。アンテナサブセット110Aに含まれないアンテナ素子111は、ランダムビームフォーミングによって非特定デバイス50Bに送電を行うが特定デバイス50Aの比較的近傍に位置するアンテナ素子111からも副次的に給電がなされる。なお、アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111の数は複数であれば幾つであってもよい。アンテナ素子111は、平面視で矩形状のパッチアンテナである。アンテナ素子111は、-Z方向側にグランド電位に保持されるグランド板を有していてもよい。
【0037】
また、特定デバイス50Aの移動に伴い、フレーム毎にアンテナサブセット110Aを構成するアンテナ素子111の見直しが行われ、アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111の選択が行われる。
【0038】
各アンテナ素子111は、上述したスマート工場等の大規模な施設の天井や柱等に取り付けられている。各アンテナ素子111の間の間隔は、一例として、アンテナ素子111の通信周波数における波長の数波長に相当する。アンテナ素子111の通信周波数は、一例としてマイクロ波帯を想定しており、一例として918MHzである。
【0039】
また、図1には、一例として、特定デバイス50Aがアレイアンテナ110に含まれる256個のアンテナ素子111のうちの4個のアンテナ素子111から電力を受電している状態を示す。このように、特定デバイス50Aに送電するために制御装置140によって選択された複数のアンテナ素子111の集合をアンテナサブセット110Aと称す。アンテナサブセット110Aに含まれないアンテナ素子111は、タイムスロットに従って送信信号の位相をシフトさせながらランダムビームフォーミングによって送電を行い、ランダムビームフォーミングによって送電される電力は、非特定デバイス50Bによって受電されるが特定デバイス50Aにも副次的に受電される。
【0040】
フェーズシフタ120は、各アンテナ素子111に1個ずつ接続されており、各アンテナ素子111と送電ケーブル130Aとの間に挿入されている。図1では、説明の便宜上、1個のアンテナ素子111、フェーズシフタ120、及びICチップ125を拡大して示す。
【0041】
フェーズシフタ120は、マイクロ波発生源130から送電ケーブル130Aを介して伝送される電力の送信位相をシフトしてアンテナ素子111に出力する。フェーズシフタ120は、位相調節部の一例である。ICチップ125は、受電電力のRSSI(Received Signal Strength Indicator)を測定する測定部と、BLEの通信部とを含み、測定したRSSI値を表すデータを含むビーコン信号を制御装置140に送信する。ICチップ125の通信部は、BLE通信用のアンテナを有する。
【0042】
マイクロ波発生源130は、256個のフェーズシフタ120に接続されており、所定の電力のマイクロ波を供給する。マイクロ波発生源130は、電波発生源の一例である。マイクロ波の周波数は、一例として918MHzである。なお、ここでは給電装置100がマイクロ波発生源130を含む形態について説明するが、マイクロ波に限られるものではなく、所定の周波数の電波であればよい。
【0043】
制御装置140は、制御部の一例であり、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、及び不揮発性メモリ等を有するマイクロコンピュータであり、一例として、離散型ウェーブレット・マルチトーン(DWMT)を用いることができる。
【0044】
制御装置140は、アンテナ140Aを有し、特定デバイス50Aから角度データが書き込まれたビーコン信号を受信する。
【0045】
制御装置140は、アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111の選択制御(ランキング処理)、256個のフェーズシフタ120における位相の制御、及び、マイクロ波発生源130の電力の出力制御を行う。アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111の送電信号の位相制御と、アンテナサブセット110Aに含まれないアンテナ素子111のランダムビームフォーミングによる送電信号の位相制御とは、フェーズシフタ120における位相の制御によって実現される。
【0046】
<制御装置140>
図3は、制御装置140の構成を示す図である。制御装置140は、主制御部141、サブセット選択部142、送電制御部143、及びメモリ144を有する。主制御部141、サブセット選択部142、及び送電制御部143は、制御装置140が実行するプログラムの機能を機能ブロックとして示したものである。また、メモリ144は、制御装置140のメモリを機能的に表したものである。
【0047】
主制御部141は、制御装置140の処理を統括する処理部であり、サブセット選択部142及び送電制御部143が実行する処理以外の処理を実行する。
【0048】
サブセット選択部142は、アンテナ選択部の一例であり、各フレームにおいて特定デバイス50Aから差分信号が送信され、すべてのアンテナ素子111で差分信号を受信した際のRSSI値を取得すると、RSSI値のランキングに基づいてアンテナサブセット110Aに含まれる複数のアンテナ素子111を選択する。RSSI値のランキングに基づく選択方法の詳細については、図7を用いて後述する。
【0049】
送電制御部143は、すべてのアンテナ素子111から送電を行う送電制御を行う。送電制御部143は、すべてのアンテナ素子111から送電を行う際には、すべてのアンテナ素子111の送電信号の位相をランダムに設定し、かつ、タイムスロット毎に位相をランダムにシフトさせるランダムビームフォーミングによる送電制御を行う(ランダムモード)。これにより、領域10(図1参照)で送電信号の定在波が生じる位置が時間的に固定されないようにすることができ、すべてのデバイス50が比較的均等に受電することができる。
【0050】
また、送電制御部143は、サブセット選択部142によってアンテナサブセット110Aが構築されると、各フレームにおける最適化期間で最適化処理を行い、各フレームの給電期間で給電処理を行う。最適化期間における最適化処理、及び、給電期間における給電処理については後述する。
【0051】
メモリ144は、主制御部141、サブセット選択部142、及び送電制御部143が処理を実行する際に用いるデータやプログラム等を格納する。各タイムスロットにおける送電信号の位相を表すデータもメモリ144に格納される。
【0052】
<フレーム構造>
図4は、フレーム構造の一例を示す図である。フレーム期間は、一例として50msである。フレームは、最適化期間及び給電期間を含む。給電期間は、最適化期間の後に設けられている。
【0053】
最適化期間は、アンテナサブセット110Aに含まれる複数のアンテナ素子111で送電する送電信号の位相(送電位相)を最適化する最適化処理を行う期間である。複数のアンテナ素子111で送電する送電信号の位相を最適化するとは、複数のアンテナ素子111で送電した送電信号が特定デバイス50Aのアンテナ51で受電される際の位相(受電位相)を揃えることである。複数の送電信号の受電位相が揃えば、特定デバイス50Aの受電電力を最大化できるからである。なお、位相が揃っていることは、位相が完全に同一である場合に限らず、完全に同一である状態に略等しい状態も含む。厳密な意味で位相を揃えるのは容易ではない場合もあり、例えば位相のずれが±5%程度であれば、位相が揃っていると考えて問題ないからである。
【0054】
最適化期間では、アンテナサブセット110Aに含まれない複数のアンテナ素子111で送電する送電信号の位相は固定値に設定される。アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111の送電位相を最適化する際に、アンテナサブセット110Aに含まれない複数のアンテナ素子111の送電位相を固定することで、アンテナサブセット110Aに含まれない複数のアンテナ素子111から送電される送電信号の影響が生じないようにするためである。
【0055】
給電期間は、最適化期間における最適化処理で複数のアンテナ素子111で送電する送電信号の位相を最適化した状態で、複数のアンテナ素子111から送電信号を送電する給電処理を行う期間である。給電期間では、アンテナサブセット110Aに含まれる複数のアンテナ素子111については、同じフレーム内の最適化区間における最適化処理で求められた複数の送電位相の関係を保持した状態で、ランダムビームフォーミングを行う。また、アンテナサブセット110Aに含まれない複数のアンテナ素子111については、複数のアンテナ素子111の送電位相同士に特に関係を持たせずに、ランダムビームフォーミングを行う。
【0056】
<送電位相の最適化>
アンテナサブセット110Aに含まれる4つのアンテナ素子111をアンテナ素子m~mとして区別し、アンテナ素子mの送電位相の最適化について説明する。
【0057】
最適化の際に、その時にアンテナ素子mに設定されている位相、又は、特定の位相(例えば0度)で、アンテナ素子m~mとともに送電を行う。特定デバイス50Aが受電する信号は、すべてのアンテナ素子111からの送電信号が特定デバイス50Aのアンテナ51において合成させた信号になる。無線周波数からベースバンドへの信号変換(直交検波)により再生搬送波でベースバンド信号に変換された(直交検波部55で復調された)送電信号r(k)は、タイムスロットkにおいて、アンテナ素子mからの寄与を抜き出して記述すると次式(1)で表される。
【0058】
【数1】
【0059】
ここで、Λはアンテナ集合全体、Sはアンテナサブセット、第1項のφm1(k)はアンテナ素子mに設定されている送電位相、PRm1は受電電力、ξm1はアンテナ素子mとアンテナ51との間での位相変位であり、アンテナ素子mとアンテナ51との間の距離を波長で除算した場合の余り(端数)である。第2項はアンテナサブセット110A内のアンテナ素子m以外のアンテナ素子m~mから受電した信号成分である。第3項はアンテナサブセット110A内に含まれないアンテナ素子111から受電した信号成分である。最適化処理中はアンテナ素子111とアンテナ51との間の位相の時間変動は無視できるほど小さいものとしている。
【0060】
次のタイムスロットk+1では、アンテナ素子mから送電位相を180度(π)ずらして、すなわち、位相を反転させて、アンテナサブセット110Aに含まれる他のアンテナ素子m~m、及び、アンテナサブセット110Aに含まれないアンテナ素子111とともに送電を行う。タイムスロットk+1におけるアンテナ素子mの送電位相φm1(k+1)は、次式(2)で表される。
【0061】
【数2】
【0062】
ここで、送電位相φm1(k+1)が360度を超える場合にはモジュロ演算により1から360度の範囲に縮退させる。アンテナサブセット110Aに含まれる他のアンテナ素子m~m、及び、アンテナサブセット110Aに含まれないアンテナ素子111の送電位相は変化させないため、アンテナ素子m1の送電位相のみが変化(反転)することとなる。
【0063】
受電側となる特定デバイス50Aでは、同様に、無線周波数からベースバンドへの信号変換(直交検波)によりベースバンド信号に変換する。タイムスロットk+1において受電する送電信号r(k+1)は、タイムスロットkのときと同様に、すべてのアンテナ素子111から送電される送電信号がアンテナ51において合成された信号となる。送電信号r(k+1)はアンテナ素子m1からの寄与を抜き出して記述すると次式(3)で表される。
【0064】
【数3】
【0065】
タイムスロットkで受信した送電信号からタイムスロットk+1で受信した送電信号を減算する。アンテナ素子m1以外のアンテナ素子111からは2つの連続するタイムスロットk及びk+1にわたって同じ送電位相で送電されているため、減算を行うとキャンセルされ、差分信号は、次式(4)で表され、アンテナ素子m1からの信号成分のみが残る。
【0066】
【数4】
【0067】
アンテナ素子m1から送電された送電信号の送電位相(ξm+φm(k))を次式(5)のように検出し、その値を制御装置140に送信する。
【0068】
【数5】
【0069】
制御装置140では、アンテナ素子m1に関して、受信した送電位相をキャンセルするように、あるいは、特定の位相となるように、送電位相を制御する。この位相制御により決定された送信位相は、タイムスロットk+5以降の給電期間において反映される。
【0070】
【数6】
【0071】
アンテナ素子m1からタイムスロットk+5以降にφm1(k+5)の送電位相で送電すると、アンテナ素子m1から送電された送電信号が特定デバイス50Aのアンテナ51で受電される際の受電位相φm1(k+5)は同相軸方向に向くこととなり、例えば次式(7)ではゼロになる。
【0072】
【数7】
【0073】
<最適化処理>
図5は、最適化処理の一例を説明する図である。図5には、1フレームにおける最適化期間及び給電期間とタイムスロットを示す。ここでは、一例として、アンテナサブセット110Aに4つのアンテナ素子111が含まれていることとする。最適化処理は、アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111の数に1を加えた数のタイムスロットを含む。図5では、アンテナサブセット110Aに4つのアンテナ素子111が含まれるため、最適化期間のタイムスロットは5個(k~k+4)である。また、給電期間は、タイムスロットk+5から始まり、最適化期間よりも長いが、ここでは簡略化して示す。
【0074】
アンテナサブセット110Aに含まれる4つのアンテナ素子111をアンテナ素子m~mとして区別する。また、アンテナサブセット110Aに含まれない複数のアンテナ素子111(非選択の第1アンテナの一例)をアンテナn、・・・とする。
【0075】
タイムスロットkでは、アンテナ素子mの送電位相をφmに設定し、アンテナ素子m~mの送電位相をφm~φmに設定する。この状態でアンテナ素子m~mから送電信号を送電する。なお、φm~φmは、任意の送電位相である。
【0076】
タイムスロットk+1では、アンテナ素子mの送電位相がφm+πに変更され、アンテナ素子m~mの送電位相をφm~φmに設定する。この状態でアンテナ素子m~mから送電信号を送電する。タイムスロットk+1で変更されたアンテナ素子mの送電位相φm+πは、タイムスロットkでの送電位相φmを反転させた反転位相である。タイムスロットk~k+1では、アンテナ素子m~mの送電位相はφm~φmに固定される。
【0077】
タイムスロットk+2では、アンテナ素子mの送電位相をφm+πに設定し、アンテナ素子mの送電位相がφm+πに変更され、アンテナ素子m~mの送電位相をφm~φmに設定する。この状態でアンテナ素子m~mから送電信号を送電する。タイムスロットk+2で変更されたアンテナ素子mの送電位相φm+πは、タイムスロットk~k+1での送電位相φmを反転させた反転位相である。タイムスロットk+1~k+2では、アンテナ素子mの送電位相はφm+πに固定される。タイムスロットk~k+2では、アンテナ素子m~mの送電位相はφm~φmに固定される。
【0078】
タイムスロットk+3では、アンテナ素子mの送電位相をφm+πに設定し、アンテナ素子mの送電位相をφm+πに設定し、アンテナ素子mの送電位相がφm+πに変更され、アンテナ素子mの送電位相をφmに設定する。この状態でアンテナ素子m~mから送電信号を送電する。タイムスロットk+3で変更されたアンテナ素子mの送電位相φm+πは、タイムスロットk~k+2での送電位相φmを反転させた反転位相である。タイムスロットk+1~k+3では、アンテナ素子mの送電位相はφm+πに固定され、タイムスロットk+2~k+3では、アンテナ素子mの送電位相はφm+πに固定される。タイムスロットk~k+3では、アンテナ素子mの送電位相はφmに固定される。
【0079】
タイムスロットk+4では、アンテナ素子mの送電位相をφm+πに設定し、アンテナ素子mの送電位相をφm+πに設定し、アンテナ素子mの送電位相をφm+πに設定し、アンテナ素子mの送電位相がφm+πに変更される。この状態でアンテナ素子m~mから送電信号を送電する。タイムスロットk+4で変更されたアンテナ素子mの送電位相φm+πは、タイムスロットk~k+3での送電位相φmを反転させた反転位相である。タイムスロットk+1~k+4では、アンテナ素子mの送電位相はφm+πに固定され、タイムスロットk+2~k+4では、アンテナ素子mの送電位相はφm+πに固定される。タイムスロットk+3~k+4では、アンテナ素子mの送電位相はφm+πに固定される。
【0080】
上述のように、タイムスロットk~k+4の最適化期間では、タイムスロットk及びk+1でアンテナ素子mの送電位相について最適化処理を行い、タイムスロットk+1以降では、アンテナ素子mの送電位相をφm+πに固定する。アンテナ素子mの送電位相をφmに設定して送電信号を送電するタイムスロットkでの最適化処理は、アンテナ素子mについての第1送電処理の一例であり、アンテナ素子mの送電位相をφm+πに設定して送電信号を送電するタイムスロットk+1での最適化処理は、アンテナ素子mについての第2送電処理の一例である。第1送電処理及び第2送電処理を行う最適化期間は、準備期間の一例である。
【0081】
また、タイムスロットk~k+4の最適化期間では、タイムスロットk+1及びk+2でアンテナ素子mの送電位相について最適化処理を行う。タイムスロットk~k1では、アンテナ素子mの送電位相をφmに固定し、タイムスロットk+2以降では、アンテナ素子mの送電位相をφm+πに固定する。アンテナ素子mの送電位相をφmに設定して送電信号を送電するタイムスロットk+1での最適化処理は、アンテナ素子mについての第1送電処理の一例であり、アンテナ素子mの送電位相をφm+πに設定して送電信号を送電するタイムスロットk+2での最適化処理は、アンテナ素子mについての第2送電処理の一例である。
【0082】
また、タイムスロットk~k+4の最適化期間では、タイムスロットk+2及びk+3でアンテナ素子mの送電位相について最適化処理を行う。タイムスロットk~k2では、アンテナ素子mの送電位相をφmに固定し、タイムスロットk+3以降では、アンテナ素子mの送電位相をφm+πに固定する。アンテナ素子mの送電位相をφmに設定して送電信号を送電するタイムスロットk+2での最適化処理は、アンテナ素子mについての第1送電処理の一例であり、アンテナ素子mの送電位相をφm+πに設定して送電信号を送電するタイムスロットk+3での最適化処理は、アンテナ素子mについての第2送電処理の一例である。
【0083】
また、タイムスロットk~k+4の最適化期間では、タイムスロットk+3及びk+4でアンテナ素子mの送電位相について最適化処理を行う。タイムスロットk~k3では、アンテナ素子mの送電位相をφmに固定し、タイムスロットk+4において、アンテナ素子mの送電位相をφm+πに変更する。アンテナ素子mの送電位相をφmに設定して送電信号を送電するタイムスロットk+3での最適化処理は、アンテナ素子mについての第1送電処理の一例であり、アンテナ素子mの送電位相をφm+πに設定して送電信号を送電するタイムスロットk+4での最適化処理は、アンテナ素子mについての第2送電処理の一例である。
【0084】
なお、給電期間では、アンテナ素子m~mの送電位相を最適化された送電位相に設定し、4つの最適化された送電位相の関係を保持しながら、ランダムビームフォーミングを行う。また、最適化期間では、アンテナサブセット110Aに含まれない複数のアンテナ素子111(非選択の第1アンテナの一例)については、複数のアンテナ素子111の各々について任意の位相に固定される。また、給電期間では、アンテナサブセット110Aに含まれない複数のアンテナ素子111については、複数のアンテナ素子111の各々については、複数のアンテナ素子111の送電位相同士に特に関係を持たせずに、ランダムビームフォーミングを行う。給電期間は、送電期間の一例である。
【0085】
<特定デバイス50Aの送電信号の受電位相>
図6A乃至図6Eは、特定デバイス50Aが受電する送電信号の受電位相を説明する図である。I軸は実軸、Q軸は虚軸である。(1)~(4)の4つのベクトルは、アンテナ素子m~mから特定デバイス50Aが受電する送電信号をベクトルで表したものである。
【0086】
アンテナ素子m~mの送電位相がそれぞれφm~φmであり、アンテナ素子m~mと、アンテナ51との間の距離を波長で除算した場合の余り(端数)がそれぞれξm~ξmであることとする。
【0087】
図6Aに示すように、タイムスロットkにおいて特定デバイス50Aがアンテナ素子m~mから受電する送電信号の受電位相は、それぞれ、ξm+φm、ξm+φm、ξm+φm、ξm+φmである。(1)~(4)の4つのベクトルは、図6Aに示す通りである。
【0088】
タイムスロットk+1において特定デバイス50Aがアンテナ素子m~mから受電する送電信号の受電位相は、それぞれ、ξm+φm+π、ξm+φm、ξm+φm、ξm+φmである。4つのベクトル(1)~(4)は、図6Aに示す通りであり、タイムスロットkに比べてベクトル(1)は逆向きになる。
【0089】
タイムスロットkにおける4つのベクトル(1)~(4)からタイムスロットk+1における4つのベクトル(1)~(4)を減算すると、ベクトル(2)~(4)が無くなり、ベクトル(1)の長さが2倍になったベクトル(1A)のみが差分として残る。ベクトル(1A)を表す信号は、差分信号であり、算出部56が減算処理によって求める。ベクトル(1A)のI軸に対する角度をα1とする。角度α1は、角度変換部57が求める。なお、タイムスロットkにおける4つのベクトル(1)~(4)は第1合成信号の一例であり、タイムスロットk+1における4つのベクトル(1)~(4)は第2合成信号の一例である。
【0090】
図6Bに示すように、タイムスロットk+1において特定デバイス50Aがアンテナ素子m~mから受電する送電信号の受電位相は、それぞれ、ξm+φm+π、ξm+φm、ξm+φm、ξm+φmである。(1)~(4)の4つのベクトルは、図6Bに示す通りである。
【0091】
タイムスロットk+2において特定デバイス50Aがアンテナ素子m~mから受電する送電信号の受電位相は、それぞれ、ξm+φm+π、ξm+φm+π、ξm+φm、ξm+φmである。4つのベクトル(1)~(4)は、図6Bに示す通りであり、タイムスロットk+1に比べてベクトル(2)は逆向きになる。
【0092】
タイムスロットk+1における4つのベクトル(1)~(4)からタイムスロットk+2における4つのベクトル(1)~(4)を減算すると、ベクトル(1)、(3)、及び(4)が無くなり、ベクトル(2)の長さが2倍になったベクトル(2A)のみが差分として残る。ベクトル(2A)を表す信号は、差分信号であり、算出部56が減算処理によって求める。ベクトル(2A)のI軸に対する角度をα2とする。角度α2は、角度変換部57が求める。なお、タイムスロットk+1における4つのベクトル(1)~(4)は第1合成信号の一例であり、タイムスロットk+2における4つのベクトル(1)~(4)は第2合成信号の一例である。
【0093】
図6Cに示すように、タイムスロットk+2において特定デバイス50Aがアンテナ素子m~mから受電する送電信号の受電位相は、それぞれ、ξm+φm+π、ξm+φm+π、ξm+φm、ξm+φmである。(1)~(4)の4つのベクトルは、図6Cに示す通りである。
【0094】
タイムスロットk+3において特定デバイス50Aがアンテナ素子m~mから受電する送電信号の受電位相は、それぞれ、ξm+φm+π、ξm+φm+π、ξm+φm+π、ξm+φmである。4つのベクトル(1)~(4)は、図6Cに示す通りであり、タイムスロットk+2に比べてベクトル(3)は逆向きになる。
【0095】
タイムスロットk+2における4つのベクトル(1)~(4)からタイムスロットk+3における4つのベクトル(1)~(4)を減算すると、ベクトル(1)、(2)、及び(4)が無くなり、ベクトル(3)の長さが2倍になったベクトル(3A)のみが差分として残る。ベクトル(3A)を表す信号は、差分信号であり、算出部56が減算処理によって求める。ベクトル(3A)のI軸に対する角度をα3とする。角度α3は、角度変換部57が求める。なお、タイムスロットk+2における4つのベクトル(1)~(4)は第1合成信号の一例であり、タイムスロットk+3における4つのベクトル(1)~(4)は第2合成信号の一例である。
【0096】
図6Dに示すように、タイムスロットk+3において特定デバイス50Aがアンテナ素子m~mから受電する送電信号の受電位相は、それぞれ、ξm+φm+π、ξm+φm+π、ξm+φm+π、ξm+φmである。(1)~(4)の4つのベクトルは、図6Dに示す通りである。
【0097】
タイムスロットk+4において特定デバイス50Aがアンテナ素子m~mから受電する送電信号の受電位相は、それぞれ、ξm+φm+π、ξm+φm+π、ξm+φm+π、ξm+φm+πである。4つのベクトル(1)~(4)は、図6Dに示す通りであり、タイムスロットk+3に比べてベクトル(4)は逆向きになる。
【0098】
タイムスロットk+3における4つのベクトル(1)~(4)からタイムスロットk+4における4つのベクトル(1)~(4)を減算すると、ベクトル(1)~(3)が無くなり、ベクトル(4)の長さが2倍になったベクトル(4A)のみが差分として残る。ベクトル(4A)を表す信号は、差分信号であり、算出部56が減算処理によって求める。ベクトル(4A)のI軸に対する角度をα4とする。角度α4は、角度変換部57が求める。なお、タイムスロットk+3における4つのベクトル(1)~(4)は第1合成信号の一例であり、タイムスロットk+4における4つのベクトル(1)~(4)は第2合成信号の一例である。
【0099】
以上のように角度変換部57がベクトル(1)~(4)の角度α1~α4を求めると、通信部58は、タイムスロットk+4の最後のタイミングで、角度α1~α4を表す角度データを給電装置100に送信する。
【0100】
送電制御部143は、タイムスロットk+5において、角度α1~α4の各々を調整するためにベクトル(1)~(4)の位相を調整する。この結果、図6Eに示すように、ベクトル(1)~(4)の方向に揃えることができる。図6Eでは、ベクトル(1)~(4)の方向は、一例としてI軸に沿った方向になっているが、I軸に対して0度よりも大きい角度を有していてもよい。
【0101】
このようにして、ベクトル(1)~(4)の角度を揃えることができる。すなわち、特定デバイス50Aの受電電力を最大化することができる。
【0102】
タイムスロットk+5以降の給電期間では、ベクトル(1)~(4)の角度が揃うように、アンテナ素子m~mの4つの送電位相の関係を保持した状態で、ランダムビームフォーミングを行う。また、アンテナサブセット110Aに含まれない複数のアンテナ素子111については、複数のアンテナ素子111の送電位相同士に特に関係を持たせずに、ランダムビームフォーミングを行う。
【0103】
<アンテナサブセット110Aのアンテナ素子111を選択するランキング>
給電装置100は、角度データを含む信号をすべてのアンテナ素子111で受信し、ICチップ125は、受電電力のRSSIを測定する。サブセット選択部142は、すべてのアンテナ素子111で受信した角度データを含む信号のRSSIに基づいてランキングを行うことで、アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111を選択する。
【0104】
図7は、ランキング結果の一例を示す図である。図7には、ランキング(RSSIが高い順)、RSSI(dBm)、及びアンテナインデックスを示す。一例として、RSSIが最も高いアンテナ素子111に対して-15dBまでアンテナ素子111を選択することとする。
【0105】
図7では、一例として、アンテナインデックスが5番のアンテナ素子111のRSSIが最も高くて-50.0dBmであり、-50.0dBmに対して15dB落ちまで(-50.0-15dBまで)のランキング4位までの4つのアンテナ素子111がアンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111として選択される。なお、ここでは、アンテナサブセット110Aが4つのアンテナ素子111を含む状態について説明するが、各フレームにおけるアンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111の数は、RSSIの最高値から15dB落ちまでのアンテナ素子111の数によって決まるため、4つよりも多い場合も有り得るし、少ない場合も有り得る。
【0106】
<フローチャート>
図8は、給電システム300の制御装置140及び特定デバイス50Aが実行する処理の一例を表すフローチャートである。制御装置140及び特定デバイス50Aは別々に処理を行うが、ここでは、給電システム300内における一連の処理として説明する。図8に示す処理は、1つのフレーム内で行われる処理であり、各フレームで同様に行われる。
【0107】
送電制御部143は、アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111を1つずつ選択し、送電信号と、反転位相の送電信号とを順次送電する(ステップS1)。例えば、図5に示すタイムスロットk~k+4の処理が行われる。
【0108】
特定デバイス50Aは、差分信号から角度データを求める(ステップS2)。
【0109】
特定デバイス50Aは、角度データを格納したビーコン信号を給電装置100に送信する(ステップS3)。ステップS3の処理は、例えば、図5に示すタイムスロットk+4の最後に行われる。
【0110】
ステップS3の後は、ステップS4A及びS5Aの処理と、ステップS4B及びS5Bの処理とが並列に行われる。
【0111】
送電制御部143は、アンテナサブセット110Aに含まれる複数のアンテナ素子111には、最適化された送電位相の関係を保持しながらランダムビームフォーミングで送電させ、アンテナサブセット110Aに含まれないアンテナ素子111には、ランダムビームフォーミングで送電させる(ステップS4A)。例えば、図5におけるタイムスロットk+5以降の給電期間において、ステップS4Aにおける送電が行われる。
【0112】
特定デバイス50Aは、ステップS4Aで送電される送電信号を受電する(ステップS5A)。例えば、図5におけるタイムスロットk+5以降の給電期間においてステップS4Aにおける送電が行われるため、特定デバイス50Aは、給電期間において送電信号を受電する。
【0113】
ステップS4A及びS5Aの処理は、フレームが終了するまで行われる。
【0114】
また、各アンテナ素子111のICチップ125は、ビーコン信号のRSSIを測定し、制御装置140に転送する(ステップS4B)。
【0115】
制御装置140のサブセット選択部142は、RSSIのランキング結果に基づいて、アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111を選択する(ステップS5B)。ランキング結果に基づいて選択されたアンテナ素子111は、次のフレームにおいて、アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111として利用される。
【0116】
ステップS4A及びS5Aの処理と、ステップS4B及びS5Bの処理とが終了すると、フレームの終了となる(ステップS6)。ステップS6において1つのフレーム内での処理が完了すると、フローはステップS1にリターンする。
【0117】
<シミュレーション>
図9は、シミュレーションの条件の一例を説明する図である。一例として、6×6の36個のアンテナ素子111をアレイ状に配列した状態で、特定デバイス50Aに給電するシミュレーションを行った。特定デバイス50Aは点線の円の軌道上を2.0m/secの速度で移動する。
【0118】
給電システム300のシミュレーションでは、RSSIのランキング結果でアンテナサブセット110Aに含まれる複数のアンテナ素子111を選択し、アンテナサブセット110Aに含まれる複数のアンテナ素子111には、最適化された送電位相の関係を保持しながらランダムビームフォーミングで送電させ、アンテナサブセット110Aに含まれないアンテナ素子111には、ランダムビームフォーミングで送電させて、特定デバイス50Aが受電する電力量についてシミュレーションを行った。
【0119】
また、比較用に、アンテナサブセット110Aを設定せずに、すべての(36個)のアンテナ素子111からランダムビームフォーミングで送電した場合に、特定デバイス50Aが受電する電力量についてもシミュレーションを行った。
【0120】
図10は、比較用のランダムビームフォーミングで送電した場合の受電電力についてのシミュレーション結果の一例を示す図である。図10において、横軸は時間を表し、縦軸は、受電電力(dBm)を表す。すべての(36個)のアンテナ素子111からランダムビームフォーミングで送電した場合には、受電電力は0(dBm)を中心に上下を繰り返しており、時間変化に伴う変動が大きかった。
【0121】
図11は、給電システム300のシミュレーション結果の一例を示す図である。図11の上側には、アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111の数の時間変化の様子を示す。図11の上側のグラフにおいて、横軸は時間を表し、縦軸は、アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111の数を表す。また、図11の下側のグラフにおいて、横軸は時間を表し、縦軸は、受電電力(dBm)を表す。
【0122】
図11の下側のグラフに示すように、受電電力は、図10に示す受電電力よりも高く、5dBm~6dBmの期間が多い。フレーム期間は50msであり、各フレームの最初に受電電力が低い期間があるのは、最適化期間であるものと考えられる。最適化期間が終了した後の給電期間において、5dBm~6dBmの受電電力が得られている。
【0123】
また、図11の上側のグラフを見ると、アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111の数は、4個~6個である。図11の上下のグラフを見比べると、アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111の数が多い期間の方が、受電電力が大きくなっていることを確認できる。
【0124】
<効果>
給電システム300は、給電装置100と、給電装置100から送電される送電信号を受電する特定デバイス50Aとを含む給電システム300であって、給電装置100は、電力を送電可能な複数のアンテナ素子111を有するアレイアンテナ110と、複数のアンテナ素子111から特定デバイス50Aに送電する送電信号の位相の制御と送電制御とを行う送電制御部143とを有し、送電制御部143は、複数のアンテナ素子111に含まれる複数の第1アンテナのうちの1つを選択し、複数の第1アンテナのうちの非選択の第1アンテナ(アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111のうち、最適化処理の対象として選択されていないアンテナ素子111)の送電位相を固定して第1送電信号を送電させた状態において、所定位相の第1送電信号を選択した第1アンテナ(アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111のうち、最適化処理の対象として選択されているアンテナ素子111)から送電する第1送電処理と、所定位相を反転させた反転位相の第1送電信号を選択した第1アンテナから送電する第2送電処理とを、複数の第1アンテナを1つずつ選択しながら行い、特定デバイス50Aは、第1送電処理において複数の第1アンテナから受電した、所定位相の第1送電信号と、送電位相が固定された第1送電信号との第1合成信号と、第2送電処理において複数の第1アンテナから受電した、反転位相の第1送電信号と、送電位相が固定された第1送電信号との第2合成信号との差分信号を求めて送電制御部143に送信し、送電制御部143は、複数の第1アンテナの各々を選択したことによって得られる複数の差分信号に基づいて、複数の第1アンテナが送電する複数の第1送電信号の位相を制御する。このため、受電装置の受電電力を増大可能な位相を迅速に設定できる。
【0125】
したがって、受電装置の受電電力を増大可能な位相を迅速に設定可能な給電システム300を提供することができる。
【0126】
また、送電制御部143は、第2送電処理において、第1送電処理において既に選択された第1アンテナ(アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111のうち、最適化処理の対象として既に選択されたアンテナ素子111)については、送電位相を反転位相に設定するので、受電装置の受電電力を増大可能な位相をより迅速に設定可能な給電システム300を提供することができる。アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111のうち、最適化処理の対象として既に選択されたアンテナ素子111については、反転位相に固定することで、余計な処理が発生せず、受電装置の受電電力を増大可能な位相をより迅速に設定できる。
【0127】
送電制御部143は、第1送電処理及び第2送電処理において、複数のアンテナ素子111のうちの複数の第1アンテナ(アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111)以外の1又は複数の第2アンテナ(アンテナサブセット110Aに含まれないアンテナ素子111)の送電位相を固定する。
【0128】
このため、1又は複数の第2アンテナ(アンテナサブセット110Aに含まれないアンテナ素子111)の送電信号の影響を抑制した状態で、複数の差分信号を求めることができ、受電装置の受電電力を増大可能な位相を、より高精度に設定可能で、かつ、迅速に設定可能な給電システム300を提供することができる。
【0129】
また、多くの受電量が必要な特定の受電装置(特定デバイス50A)への給電と、特定の受電装置以外の受電装置への給電とを両立可能な給電システム300を提供することができる。
【0130】
給電装置100は、複数のアンテナ素子111のうち、受電装置から送信される信号の受信強度が所定強度以上の複数のアンテナ素子111を複数の第1アンテナ(アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111)として選択し、受信強度が所定強度未満の1又は複数のアンテナ素子111を1又は複数の第2アンテナ(アンテナサブセット110Aに含まれないアンテナ素子111)として選択する、サブセット選択部142をさらに有する。
【0131】
このため、受信強度が所定強度以上(ランキングが所定順位以上)の複数のアンテナ素子111をアンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111として選択でき、特定デバイス50Aに近い複数のアンテナ素子111で構成されるアンテナサブセット110Aで、特定デバイス50Aに効率的に給電できる。
【0132】
また、受電装置から送信される信号は、差分信号を表す信号であるため、差分信号を表す角度データを含む信号を用いて、角度データの送信と、ランキング用のRSSIの測定とを同時に行うことができ、受電装置の受電電力を増大可能な位相を迅速かつ効率的に設定可能な給電システム300を提供することができる。
【0133】
また、送電制御部143は、第1送電処理及び第2送電処理を行う準備期間(最適化期間)と、複数の差分信号に基づいて複数の第1アンテナ(アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111)が送電する複数の第1送電信号の位相を制御して、複数の第1アンテナから特定デバイス50Aに送電する送電期間(給電期間)とを含むフレーム処理を繰り返し行い、複数のアンテナ素子111のうち、サブセット選択部142によって差分信号を表す信号(角度データを格納したビーコン信号)の受信強度(RSSI)に基づいて選択された複数の第1アンテナを、当該フレームの次のフレームにおける複数の第1アンテナとして利用する。
【0134】
このため、次のフレームにおいてアンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111を差分信号を表す信号(角度データを格納したビーコン信号)の受信強度(RSSI)に基づいて選択できる。
【0135】
特定デバイス50Aは、移動可能であるので、特定デバイス50Aが移動して送電信号を受電する際の位相が変化しても、特定デバイス50Aの受電電力を増大可能な位相を迅速に設定可能な給電システム300を提供することができる。
【0136】
また、送電制御部143は、複数の差分信号に基づいて、特定デバイス50Aが複数の第1アンテナから受電する複数の第1送電信号の受電位相が揃うように、複数の第1アンテナが送電する複数の第1送電信号の送電位相を制御する。このため、特定デバイス50Aの受電電力が最大になるように第1送電信号の送電位相を制御でき、特定デバイス50Aの受電電力を確実に増大させることができる。
【0137】
給電装置100は、特定デバイス50Aに送電信号を送電する給電装置100であって、電力を送電可能な複数のアンテナ素子111を有するアレイアンテナ110と、複数のアンテナ素子111から特定デバイス50Aに送電する送電信号の位相の制御と送電制御とを行う送電制御部143とを含み、送電制御部143は、複数のアンテナ素子111に含まれる複数の第1アンテナのうちの1つを選択し、複数の第1アンテナのうちの非選択の第1アンテナ(アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111のうち、最適化処理の対象として選択されていないアンテナ素子111)の送電位相を固定して第1送電信号を送電させた状態において、所定位相の第1送電信号を選択した第1アンテナ(アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111のうち、最適化処理の対象として選択されているアンテナ素子111)から送電する第1送電処理と、所定位相を反転させた反転位相の第1送電信号を選択した第1アンテナから送電する第2送電処理とを、複数の第1アンテナを1つずつ選択しながら行い、複数の第1アンテナの各々を選択したことによって得られる複数の差分信号に基づいて、複数の第1アンテナが送電する複数の第1送電信号の位相を制御し、差分信号は、特定デバイス50Aが、第1送電処理において複数の第1アンテナから受電した、所定位相の第1送電信号と、送電位相が固定された第1送電信号との第1合成信号と、第2送電処理において複数の第1アンテナから受電した、反転位相の第1送電信号と、送電位相が固定された第1送電信号との第2合成信号との差分信号である。このため、受電装置の受電電力を増大可能な位相を迅速に設定できる。
【0138】
したがって、受電装置の受電電力を増大可能な位相を迅速に設定可能な給電装置100を提供することができる。
【0139】
給電方法は、給電装置100と、給電装置100から送電される送電信号を受電する特定デバイス50Aとを含む給電システム300における給電方法であって、給電装置100は、電力を送電可能な複数のアンテナ素子111を有するアレイアンテナ110と、複数のアンテナ素子111から特定デバイス50Aに送電する送電信号の位相の制御と送電制御とを行う送電制御部143とを有し、送電制御部143が、複数のアンテナ素子111に含まれる複数の第1アンテナのうちの1つを選択し、複数の第1アンテナのうちの非選択の第1アンテナ(アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111のうち、最適化処理の対象として選択されていないアンテナ素子111)の送電位相を固定して第1送電信号を送電させた状態において、所定位相の第1送電信号を選択した第1アンテナ(アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111のうち、最適化処理の対象として選択されているアンテナ素子111)から送電する第1送電処理と、所定位相を反転させた反転位相の第1送電信号を選択した第1アンテナから送電する第2送電処理とを、複数の第1アンテナを1つずつ選択しながら行い、特定デバイス50Aが、第1送電処理において複数の第1アンテナから受電した、所定位相の第1送電信号と、送電位相が固定された第1送電信号との第1合成信号と、第2送電処理において複数の第1アンテナから受電した、反転位相の第1送電信号と、送電位相が固定された第1送電信号との第2合成信号との差分信号を求めて送電制御部143に送信し、送電制御部143が、複数の第1アンテナの各々を選択したことによって得られる複数の差分信号に基づいて、複数の第1アンテナが送電する複数の第1送電信号の位相を制御する。このため、受電装置の受電電力を増大可能な位相を迅速に設定できる。
【0140】
したがって、受電装置の受電電力を増大可能な位相を迅速に設定可能な給電方法を提供することができる。
【0141】
<変形例>
図12は、実施形態の変形例の給電システム300における最適化処理の一例を説明する図である。図12には、図5と同様に、1フレームにおける最適化期間及び給電期間とタイムスロットを示す。ここでは、一例として、アンテナサブセット110Aに4つのアンテナ素子111が含まれていることとする。最適化処理は、アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111の数の2倍の数のタイムスロットを含む。図12では、アンテナサブセット110Aに4つのアンテナ素子111が含まれるため、最適化期間のタイムスロットは8個(k~k+7)である。また、給電期間は、タイムスロットk+8から始まり、最適化期間よりも長いが、ここでは簡略化して示す。
【0142】
変形例の最適化処理では、送電制御部143は、第1送電処理及び第2送電処理において、非選択の第1アンテナ(アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111のうち、最適化処理の対象として選択されていないアンテナ素子111)の送電位相を同一値に設定する。
【0143】
より具体的には、アンテナ素子mの送電位相をφm+πに設定して送電信号を送電する最適化処理(アンテナ素子mについての第2送電処理の一例)と、アンテナ素子mの送電位相をφmに設定して送電信号を送電する最適化処理(アンテナ素子mについての第1送電処理の一例)とを別々のタイムスロットk+1及びk+2で行う。
【0144】
また、変形例の最適化処理では、アンテナ素子mの送電位相をφm+πに設定して送電信号を送電する最適化処理(アンテナ素子mについての第2送電処理の一例)と、アンテナ素子mの送電位相をφmに設定して送電信号を送電する最適化処理(アンテナ素子mについての第1送電処理の一例)とを別々のタイムスロットk+3及びk+4で行う。
【0145】
また、変形例の最適化処理では、アンテナ素子mの送電位相をφm+πに設定して送電信号を送電する最適化処理(アンテナ素子mについての第2送電処理の一例)と、アンテナ素子mの送電位相をφmに設定して送電信号を送電する最適化処理(アンテナ素子mについての第1送電処理の一例)とを別々のタイムスロットk+5及びk+6で行う。
【0146】
そして、アンテナ素子mの送電位相をφm+πに設定して送電信号を送電する最適化処理(アンテナ素子mについての第2送電処理の一例)をタイムスロットk+7で行う。
【0147】
このため、変形例の最適化処理は、図5に示す最適化処理よりも所要時間が少しだけ長い。
【0148】
アンテナ素子m~mの送電位相は、図12に示すように、最適化された後は、最適化された送電位相に固定され、そのまま給電期間においても固定されるが、給電期間に入ったときに、互いの最適化された送電位相の関係を保持しながらランダムビームフォーミングを行ってもよい。最適化されたアンテナ素子m~mの送電位相は、差分信号に基づく位相の一例である。
【0149】
<実施形態の変形例における特定デバイス50Aの送電信号の受電位相>
図13A乃至図13Eは、実施形態の変形例における特定デバイス50Aが受電する送電信号の受電位相を説明する図である。I軸は実軸、Q軸は虚軸である。(1)~(4)の4つのベクトルは、アンテナ素子m~mから特定デバイス50Aが受電する送電信号をベクトルで表したものである。
【0150】
アンテナ素子m~mの送電位相がそれぞれφm~φmであり、アンテナ素子m~mと、アンテナ51との間の距離を波長で除算した場合の余り(端数)がそれぞれξm~ξmであることとする。
【0151】
図13Aに示すように、タイムスロットkにおいて特定デバイス50Aがアンテナ素子m~mから受電する送電信号の受電位相は、それぞれ、ξm+φm、ξm+φm、ξm+φm、ξm+φmである。(1)~(4)の4つのベクトルは、図13Aに示す通りである。
【0152】
タイムスロットk+1において特定デバイス50Aがアンテナ素子m~mから受電する送電信号の受電位相は、それぞれ、ξm+φm+π、ξm+φm、ξm+φm、ξm+φmである。4つのベクトル(1)~(4)は、図13Aに示す通りであり、タイムスロットkに比べてベクトル(1)は逆向きになる。
【0153】
タイムスロットkにおける4つのベクトル(1)~(4)からタイムスロットk+1における4つのベクトル(1)~(4)を減算すると、ベクトル(2)~(4)が無くなり、ベクトル(1)の長さが2倍になったベクトル(1A)のみが差分として残る。ベクトル(1A)を表す信号は、差分信号であり、算出部56が減算処理によって求める。ベクトル(1A)のI軸に対する角度をα1とする。角度α1は、角度変換部57が求める。この時点で通信部58を介して角度α1を格納したビーコン信号が給電装置100に送信される。なお、タイムスロットkにおける4つのベクトル(1)~(4)は第1合成信号の一例であり、タイムスロットk+1における4つのベクトル(1)~(4)は第2合成信号の一例である。
【0154】
図13Bに示すように、タイムスロットk+2において特定デバイス50Aがアンテナ素子mから受電する送電信号の受電位相は0度であり、アンテナ素子m~mから受電する送電信号の受電位相は、それぞれ、m+φm、ξm+φm、ξm+φmである。(1)~(4)の4つのベクトルは、図13Bに示す通りである。なお、タイムスロットk+1において通信部58を介して角度α1を格納したビーコン信号を給電装置100に送信しない場合には、タイムスロットk+2において特定デバイス50Aがアンテナ素子mから受電する送電信号の受電位相はα1度になる。
【0155】
タイムスロットk+3において特定デバイス50Aがアンテナ素子mから受電する送電信号の受電位相は0度であり、アンテナ素子m~mから受電する送電信号の受電位相は、それぞれ、ξm+φm+π、ξm+φm、ξm+φmである。4つのベクトル(1)~(4)は、図13Bに示す通りであり、タイムスロットk+2に比べてベクトル(2)は逆向きになる。
【0156】
タイムスロットk+2における4つのベクトル(1)~(4)からタイムスロットk+3における4つのベクトル(1)~(4)を減算すると、ベクトル(1)、(3)、及び(4)が無くなり、ベクトル(2)の長さが2倍になったベクトル(2A)のみが差分として残る。ベクトル(2A)を表す信号は、差分信号であり、算出部56が減算処理によって求める。ベクトル(2A)のI軸に対する角度をα2とする。角度α2は、角度変換部57が求める。なお、タイムスロットk+2における4つのベクトル(1)~(4)は第1合成信号の一例であり、タイムスロットk+3における4つのベクトル(1)~(4)は第2合成信号の一例である。
【0157】
図13Cに示すように、タイムスロットk+4において特定デバイス50Aがアンテナ素子m及びmから受電する送電信号の受電位相は0度であり、アンテナ素子m~mから受電する送電信号の受電位相は、それぞれ、ξm+φm、ξm+φmである。(1)~(4)の4つのベクトルは、図13Cに示す通りである。なお、タイムスロットk+1及びk+3において通信部58を介して角度α1及びα2を格納したビーコン信号を給電装置100に送信しない場合には、タイムスロットk+4において特定デバイス50Aがアンテナ素子m及びmから受電する送電信号の受電位相はα1度及びα2度になる。
【0158】
タイムスロットk+5において特定デバイス50Aがアンテナ素子m及びmから受電する送電信号の受電位相は0度であり、アンテナ素子m~mから受電する送電信号の受電位相は、それぞれ、ξm+φm+π、ξm+φmである。4つのベクトル(1)~(4)は、図13Cに示す通りであり、タイムスロットk+4に比べてベクトル(3)は逆向きになる。
【0159】
タイムスロットk+4における4つのベクトル(1)~(4)からタイムスロットk+5における4つのベクトル(1)~(4)を減算すると、ベクトル(1)、(2)、及び(4)が無くなり、ベクトル(3)の長さが2倍になったベクトル(3A)のみが差分として残る。ベクトル(3A)を表す信号は、差分信号であり、算出部56が減算処理によって求める。ベクトル(3A)のI軸に対する角度をα3とする。角度α3は、角度変換部57が求める。なお、タイムスロットk+4における4つのベクトル(1)~(4)は第1合成信号の一例であり、タイムスロットk+5における4つのベクトル(1)~(4)は第2合成信号の一例である。
【0160】
図13Dに示すように、タイムスロットk+6において特定デバイス50Aがアンテナ素子m~mから受電する送電信号の受電位相は0度であり、アンテナ素子mから受電する送電信号の受電位相は、ξm+φmである。(1)~(4)の4つのベクトルは、図13Dに示す通りである。なお、タイムスロットk+1、k+3、及びk+5において通信部58を介して角度α1~α3を格納したビーコン信号を給電装置100に送信しない場合には、タイムスロットk+6において特定デバイス50Aがアンテナ素子m~mから受電する送電信号の受電位相は、それぞれ、α1度~α3度になる。
【0161】
タイムスロットk+7において特定デバイス50Aがアンテナ素子m~mから受電する送電信号の受電位相は0度であり、アンテナ素子mから受電する送電信号の受電位相は、ξm+φm+πである。4つのベクトル(1)~(4)は、図13Dに示す通りであり、タイムスロットk+6に比べてベクトル(4)は逆向きになる。
【0162】
タイムスロットk+6における4つのベクトル(1)~(4)からタイムスロットk+7における4つのベクトル(1)~(4)を減算すると、ベクトル(1)~(3)が無くなり、ベクトル(4)の長さが2倍になったベクトル(4A)のみが差分として残る。ベクトル(4A)を表す信号は、差分信号であり、算出部56が減算処理によって求める。なお、タイムスロットk+6における4つのベクトル(1)~(4)は第1合成信号の一例であり、タイムスロットk+7における4つのベクトル(1)~(4)は第2合成信号の一例である。
【0163】
ベクトル(4A)のI軸に対する角度をα4とする。角度α4は、角度変換部57が求める。通信部58は、角度α4を格納したビーコン信号を給電装置100に送信する。
【0164】
なお、タイムスロットk+1、k+3、及びk+5において通信部58を介して角度α1~α3を格納したビーコン信号を給電装置100に送信しない場合には、タイムスロットk+7の最後に、通信部58が、角度α1~α4を表す角度データを給電装置100に送信すればよい。ランキングを行うためのRSSIの測定は、いずれかのビーコン信号を給電装置100が受信したときに行えばよい。
【0165】
送電制御部143は、タイムスロットk+8において、角度α1~α4の各々を調整するためにベクトル(1)~(4)の位相を調整する。この結果、図13Eに示すように、ベクトル(1)~(4)の方向に揃えることができる。図13Eでは、ベクトル(1)~(4)の方向は、一例としてI軸に沿った方向になっているが、I軸に対して0度よりも大きい角度を有していてもよい。
【0166】
このようにして、ベクトル(1)~(4)の角度を揃えることができる。すなわち、特定デバイス50Aの受電電力を最大化することができる。
【0167】
タイムスロットk+8以降の給電期間では、図13Eに示すように最適化されたアンテナ素子m~mの4つの送電位相を保持した状態で送電を行えばよい。また、給電期間では、ベクトル(1)~(4)の角度が揃うように、アンテナ素子m~mの4つの送電位相の関係を保持した状態で、ランダムビームフォーミングを行ってもよい。また、アンテナサブセット110Aに含まれない複数のアンテナ素子111については、複数のアンテナ素子111の送電位相同士に特に関係を持たせずに、ランダムビームフォーミングを行う。
【0168】
<シミュレーション結果>
図14は、実施形態の変形例の給電システム300のシミュレーション結果の一例を示す図である。図14の上側には、アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111の数の時間変化の様子を示す。図14の上側のグラフにおいて、横軸は時間を表し、縦軸は、アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111の数を表す。また、図14の下側のグラフにおいて、横軸は時間を表し、縦軸は、受電電力(dBm)を表す。
【0169】
図14の下側のグラフに示すように、受電電力は、図10に示す受電電力よりも高く、5dBm~6dBmの期間が多い。フレーム期間は50msであり、各フレームの最初に受電電力が低い期間があるのは、最適化期間であるものと考えられる。最適化期間が終了した後の給電期間において、5dBm~6dBmの受電電力が得られている。
【0170】
また、図14の上側のグラフを見ると、アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111の数は、4個~6個である。図14の上下のグラフを見比べると、アンテナサブセット110Aに含まれるアンテナ素子111の数が多い期間の方が、受電電力が大きくなっていることを確認できる。
【0171】
実施形態の変形例においても、受電装置の受電電力を増大可能な位相を迅速に設定できる。したがって、受電装置の受電電力を増大可能な位相を迅速に設定可能な実施形態の変形例の給電システム300を提供することができる。
【0172】
また、多くの受電量が必要な特定の受電装置(特定デバイス50A)への給電と、特定の受電装置以外の受電装置への給電とを両立可能な実施形態の変形例の給電システム300を提供することができる。
【0173】
以上、本発明の例示的な実施形態の給電システム、給電装置、及び、給電方法について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【0174】
以上の実施形態に関し、さらに以下の項目を開示する。
(項目1)
給電装置と、
前記給電装置から送電される送電信号を受電する受電装置と
を含む給電システムであって、
前記給電装置は、
電力を送電可能な複数のアンテナを有するアレイアンテナと、
前記複数のアンテナから前記受電装置に送電する送電信号の位相の制御と送電制御とを行う送電制御部と
を有し、
前記送電制御部は、前記複数のアンテナに含まれる複数の第1アンテナのうちの1つを選択し、前記複数の第1アンテナのうちの非選択の第1アンテナの送電位相を固定して第1送電信号を送電させた状態において、所定位相の第1送電信号を前記選択した第1アンテナから送電する第1送電処理と、前記所定位相を反転させた反転位相の第1送電信号を前記選択した第1アンテナから送電する第2送電処理とを、前記複数の第1アンテナを1つずつ選択しながら行い、
前記受電装置は、前記第1送電処理において前記複数の第1アンテナから受電した、前記所定位相の第1送電信号と、前記送電位相が固定された第1送電信号との第1合成信号と、前記第2送電処理において前記複数の第1アンテナから受電した、前記反転位相の第1送電信号と、前記送電位相が固定された第1送電信号との第2合成信号との差分信号を求めて前記送電制御部に送信し、
前記送電制御部は、前記複数の第1アンテナの各々を選択したことによって得られる複数の前記差分信号に基づいて、前記複数の第1アンテナが送電する前記複数の第1送電信号の位相を制御する、給電システム。
(項目2)
前記送電制御部は、前記第1送電処理及び前記第2送電処理において、前記非選択の第1アンテナの送電位相を同一値に設定する、項目1に記載の給電システム。
(項目3)
前記送電制御部は、前記第2送電処理において、前記第1送電処理において既に選択された前記第1アンテナについては、送電位相を前記反転位相に設定する、項目1又は2に記載の給電システム。
(項目4)
前記送電制御部は、前記第2送電処理において、前記第1送電処理において既に選択された前記第1アンテナについては、送電位相を前記差分信号に基づく位相に設定する、項目1又は2に記載の給電システム。
(項目5)
前記送電制御部は、前記第1送電処理及び前記第2送電処理において、前記複数のアンテナのうちの前記複数の第1アンテナ以外の1又は複数の第2アンテナの送電位相を固定する、項目1乃至4のいずれか1項に記載の給電システム。
(項目6)
前記給電装置は、前記複数のアンテナのうち、前記受電装置から送信される信号の受信強度が所定強度以上の複数のアンテナを前記複数の第1アンテナとして選択し、前記受信強度が前記所定強度未満の1又は複数のアンテナを前記1又は複数の第2アンテナとして選択する、アンテナ選択部をさらに有する、項目5に記載の給電システム。
(項目7)
前記受電装置から送信される信号は、前記差分信号を表す信号である、項目6に記載の給電システム。
(項目8)
前記送電制御部は、
前記第1送電処理及び前記第2送電処理を行う準備期間と、前記複数の前記差分信号に基づいて前記複数の第1アンテナが送電する前記複数の第1送電信号の位相を制御して、前記複数の第1アンテナから前記受電装置に送電する送電期間とを含むフレーム処理を繰り返し行い、
前記複数のアンテナのうち、前記アンテナ選択部によって前記差分信号を表す信号の受信強度に基づいて選択された前記複数の第1アンテナを、当該フレームの次のフレームにおける前記複数の第1アンテナとして利用する、項目7に記載の給電システム。
(項目9)
前記受電装置は、移動可能である、項目1乃至8のいずれか1項に記載の給電システム。
(項目10)
前記送電制御部は、前記複数の前記差分信号に基づいて、前記受電装置が前記複数の第1アンテナから受電する前記複数の第1送電信号の受電位相が揃うように、前記複数の第1アンテナが送電する前記複数の第1送電信号の送電位相を制御する、項目1乃至9のいずれか1項に記載の給電システム。
(項目11)
受電装置に送電信号を送電する給電装置であって、
電力を送電可能な複数のアンテナを有するアレイアンテナと、
前記複数のアンテナから前記受電装置に送電する送電信号の位相の制御と送電制御とを行う送電制御部と
を含み、
前記送電制御部は、
前記複数のアンテナに含まれる複数の第1アンテナのうちの1つを選択し、前記複数の第1アンテナのうちの非選択の第1アンテナの送電位相を固定して第1送電信号を送電させた状態において、所定位相の第1送電信号を前記選択した第1アンテナから送電する第1送電処理と、前記所定位相を反転させた反転位相の第1送電信号を前記選択した第1アンテナから送電する第2送電処理とを、前記複数の第1アンテナを1つずつ選択しながら行い、
前記複数の第1アンテナの各々を選択したことによって得られる複数の差分信号に基づいて、前記複数の第1アンテナが送電する前記複数の第1送電信号の位相を制御し、
前記差分信号は、前記受電装置が、前記第1送電処理において前記複数の第1アンテナから受電した、前記所定位相の第1送電信号と、前記送電位相が固定された第1送電信号との第1合成信号と、前記第2送電処理において前記複数の第1アンテナから受電した、前記反転位相の第1送電信号と、前記送電位相が固定された第1送電信号との第2合成信号との差分信号である、給電装置。
(項目12)
給電装置と、
前記給電装置から送電される送電信号を受電する受電装置と
を含む給電システムにおける給電方法であって、
前記給電装置は、
電力を送電可能な複数のアンテナを有するアレイアンテナと、
前記複数のアンテナから前記受電装置に送電する送電信号の位相の制御と送電制御とを行う送電制御部と
を有し、
前記送電制御部が、前記複数のアンテナに含まれる複数の第1アンテナのうちの1つを選択し、前記複数の第1アンテナのうちの非選択の第1アンテナの送電位相を固定して第1送電信号を送電させた状態において、所定位相の第1送電信号を前記選択した第1アンテナから送電する第1送電処理と、前記所定位相を反転させた反転位相の第1送電信号を前記選択した第1アンテナから送電する第2送電処理とを、前記複数の第1アンテナを1つずつ選択しながら行い、
前記受電装置が、前記第1送電処理において前記複数の第1アンテナから受電した、前記所定位相の第1送電信号と、前記送電位相が固定された第1送電信号との第1合成信号と、前記第2送電処理において前記複数の第1アンテナから受電した、前記反転位相の第1送電信号と、前記送電位相が固定された第1送電信号との第2合成信号との差分信号を求めて前記送電制御部に送信し、
前記送電制御部が、前記複数の第1アンテナの各々を選択したことによって得られる複数の前記差分信号に基づいて、前記複数の第1アンテナが送電する前記複数の第1送電信号の位相を制御する、給電方法。
【符号の説明】
【0175】
10 領域
50 デバイス
50A 特定デバイス
50B 非特定デバイス
51 アンテナ
SW スイッチ
52 制御部
53 RF/DC変換部
54 バッテリ
55 直交検波部
56 算出部
57 角度変換部
58 通信部
100 給電装置
110 アレイアンテナ
110A アンテナサブセット
111 アンテナ素子
120 フェーズシフタ
125 ICチップ
130 マイクロ波発生源
140 制御装置
141 主制御部
142 サブセット選択部
143 送電制御部
144 メモリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図13C
図13D
図13E
図14