(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056468
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】気泡発生システム
(51)【国際特許分類】
E02B 8/00 20060101AFI20240416BHJP
E02B 3/02 20060101ALI20240416BHJP
E03B 3/04 20060101ALI20240416BHJP
B01F 23/2326 20220101ALI20240416BHJP
B01F 23/2375 20220101ALI20240416BHJP
B01F 25/312 20220101ALI20240416BHJP
B01F 25/452 20220101ALI20240416BHJP
F16K 1/36 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
E02B8/00
E02B3/02 Z
E03B3/04
B01F23/2326
B01F23/2375
B01F25/312
B01F25/452
F16K1/36 Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163364
(22)【出願日】2022-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】592000886
【氏名又は名称】八千代エンジニヤリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117341
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】新谷 昌之
【テーマコード(参考)】
3H052
4G035
【Fターム(参考)】
3H052AA01
3H052BA11
3H052CA03
3H052EA02
4G035AB20
4G035AC23
4G035AC26
4G035AE13
(57)【要約】
【課題】気泡径1μm未満の微細な気泡を水中に発生させる新たな微細気泡発生システムを提供すること。
【解決手段】気泡発生システム10は、水流生成部20と気泡発生促進部30とキャビテーション発生部40とを備えている。水流生成部20は、水流12を生成する。気泡発生促進部30は、水流12の下流側に位置しており、凹部32を備えている。凹部32は、水流12と直交する方向に凹んでいる。キャビテーション発生部40は、気泡発生促進部30に比べて水流12の下流側に位置しており、狭流路42と広流路44とを備えている。狭流路42は、広流路44よりも狭い。広流路44は、狭流路42に比べて水流12の下流側に位置している。気泡発生促進部30を経由した水流12が狭流路42と広流路44とを通過することにより発生するキャビテーションを利用して気泡径1μm未満の気泡14(超微細気泡16)を水中に発生させて放流する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細な気泡を水中に発生させる気泡発生システムであって、
水流生成部と、気泡発生促進部と、キャビテーション発生部とを備えており、
前記水流生成部は、水流を生成し、
前記気泡発生促進部は、前記水流の下流側に位置しており、凹部を備えており、
前記凹部は、前記水流と直交する方向に凹んでおり、
前記キャビテーション発生部は、前記気泡発生促進部に比べて前記水流の下流側に位置しており、狭流路と広流路とを備えており、
前記狭流路は、前記広流路よりも狭く、
前記広流路は、前記狭流路に比べて前記水流の下流側に位置しており、
前記気泡発生促進部を経由した前記水流が前記狭流路と前記広流路とを通過することにより発生するキャビテーションを利用して前記微細な気泡を発生させる
気泡発生システム。
【請求項2】
請求項1記載の気泡発生システムであって、
前記気泡発生促進部は、促進用空気供給部を備えており、
前記促進用空気供給部は、前記凹部の内部に開口している
気泡発生システム。
【請求項3】
請求項1記載の気泡発生システムであって、
前記キャビテーション発生部は、前記水流を調整するための弁体を備えており、
前記狭流路は、前記弁体の端部近傍に少なくとも位置しており、
前記広流路は、前記弁体の前記端部に比べて前記水流の下流側に少なくとも位置している
気泡発生システム。
【請求項4】
請求項3記載の気泡発生システムであって、
前記弁体の前記端部には、セレーションが設けられている
気泡発生システム。
【請求項5】
請求項3記載の気泡発生システムであって、
前記キャビテーション発生部は、抑制用空気供給部を備えており、
前記抑制用空気供給部は、前記弁体に比べて前記水流の下流側に空気を供給してキャビテーション障害を抑制する
気泡発生システム。
【請求項6】
請求項1記載の気泡発生システムであって、
前記水流生成部は、上流側の水位と下流側の水位との間の水位差を利用して前記水流を生成する
気泡発生システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気泡径1μm未満の微細な気泡を水中に発生させる気泡発生システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ダムの貯水池や河川下流域などの水を浄化するために微細な気泡を水中に発生させるという技術が知られている。従来の一般的な技術によれば、例えば、ポンプを使用して水流を発生させ、コンプレッサーを使用して水中に空気を送り込み、気泡発生装置によって微細な気泡を発生させる。特許文献1には、一般的な気泡発生装置の一例が開示されている。特許文献1の気泡発生装置は、例えば、家庭用の水道水を浄化するために使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ダムの貯水池や河川下流域などの水を浄化するのに適した新たな気泡発生システムが求められている。
【0005】
そこで、本発明は、気泡径1μm未満の微細な気泡を水中に発生させる新たな気泡発生システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1の気泡発生システムとして、
微細な気泡を水中に発生させる気泡発生システムであって、
水流生成部と、気泡発生促進部と、キャビテーション発生部とを備えており、
前記水流生成部は、水流を生成し、
前記気泡発生促進部は、前記水流の下流側に位置しており、凹部を備えており、
前記凹部は、前記水流と直交する方向に凹んでおり、
前記キャビテーション発生部は、前記気泡発生促進部に比べて前記水流の下流側に位置しており、狭流路と広流路とを備えており、
前記狭流路は、前記広流路よりも狭く、
前記広流路は、前記狭流路に比べて前記水流の下流側に位置しており、
前記気泡発生促進部を経由した前記水流が前記狭流路と前記広流路とを通過することにより発生するキャビテーションを利用して前記微細な気泡を発生させる
気泡発生システムを提供する。
【0007】
また、本発明は、第2の気泡発生システムとして、第1の気泡発生システムであって、
前記気泡発生促進部は、促進用空気供給部を備えており、
前記促進用空気供給部は、前記凹部の内部に開口している
気泡発生システムを提供する。
【0008】
また、本発明は、第3の気泡発生システムとして、第1の気泡発生システムであって、
前記キャビテーション発生部は、前記水流を調整するための弁体を備えており、
前記狭流路は、前記弁体の端部近傍に少なくとも位置しており、
前記広流路は、前記弁体の前記端部に比べて前記水流の下流側に少なくとも位置している
気泡発生システムを提供する。
【0009】
また、本発明は、第4の気泡発生システムとして、第3の気泡発生システムであって、
前記弁体の前記端部には、セレーションが設けられている
気泡発生システムを提供する。
【0010】
また、本発明は、第5の気泡発生システムとして、第3の気泡発生システムであって、
前記キャビテーション発生部は、抑制用空気供給部を備えており、
前記抑制用空気供給部は、前記弁体に比べて前記水流の下流側に空気を供給してキャビテーション障害を抑制する
気泡発生システムを提供する。
【0011】
また、本発明は、第6の気泡発生システムとして、第1の気泡発生システムであって、
前記水流生成部は、上流側の水位と下流側の水位との間の水位差を利用して前記水流を生成する
気泡発生システムを提供する。
【発明の効果】
【0012】
水流が狭流路と広流路とを通過することにより発生するキャビテーションが崩壊する際に微細な気泡が発生する。特に、本発明によれば、水流が上流の気泡発生促進部を通過する際、水流の一部が凹部に引き込まれて局所的に水圧が低下する。この結果として微細化された水粒子は、レナード効果によって負に帯電して、水中の周囲の空気を負に帯電させる。即ち、本発明によれば、狭流路と広流路とを通過する水流には負に帯電した空気が含まれており、キャビテーションが崩壊する際に気泡径1μm未満の微細な気泡が発生し易いと考えられる。上述のように、本発明によれば、レナード効果及びキャビテーションを利用して気泡径1μm未満の微細な気泡を水中に発生させる新たな微細気泡発生システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態による気泡発生システムの利用方法を説明する図面である。
【
図2】本実施の形態の気泡発生システムを示す図面である。
【
図3】
図2の気泡発生システムの気泡発生促進部及びキャビテーション発生部を示す図面である。
【
図4】
図3の気泡発生システムの弁体のセレーションの一部(破線Aで囲んだ部分)を示す図面である。
【
図5】
図2の気泡発生システムの実施例を説明するための図面である。
【
図6】
図5の気泡発生システムの変形例を示す図面である。
【
図7】
図5の気泡発生システムの別の変形例を示す図面である。
【
図8】
図7の気泡発生システムの気泡発生促進部及びキャビテーション発生部を示す図面である。
【
図9】
図8のキャビテーション発生部の弁体及びジェットフローゲートの出口を矢印B方向に沿って示す図面である。弁体の一部(破線で囲んだ部分)を拡大して描画している。
【
図10】
図7の気泡発生システムの変形例を上下方向に沿って示す図面である。
【
図11】
図10の気泡発生システムのサブシステムのうちの一つを矢印C方向に沿って示す図面である。
【
図12】
図10の気泡発生システムのサブシステムのうちの他の一つを矢印C方向に沿って示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1を参照すると、ダムの貯水池23や河川80の下流域などの水を浄化するために微細な気泡14を水中に発生させるという技術が知られている。気泡14は、気泡径100μm以下の小さなものと、気泡径100μm超の大きなものとに分類される。このうち気泡径1μm~100μmの気泡14は、水を浄化する能力を有しているものの、比較的短時間で水面に浮かび上がって消滅し易い。一方、気泡径1μm未満の微細な気泡14は、滞留時間が長く、長期間にわたって水中に残るため、水を浄化するのに特に適していると考えられる。以下の説明において、気泡径1μm未満の微細な気泡14を「超微細気泡16」と記載する。
【0015】
ダム堤体22を利用して超微細気泡16を水中に発生させると、超微細気泡16を含んだ水は、河川80の流れに沿って下流のダムの貯水池23、遊水池および浄水場等の水源に流れて水源の水を浄化する。また、これらの水源から取水することで、下流域全体の自然環境が改善される。
【0016】
図2を参照すると、本発明の実施の形態による気泡発生システム10は、気泡14を水中に発生させる気泡発生システムである。気泡発生システム10は、気泡径1μm未満の気泡14(超微細気泡16)を発生させるのに適した構造を有している。本実施の形態の気泡発生システム10は、ダム堤体22に設けられており、貯水池23の水を利用した水中放流によって超微細気泡16を含む気泡14を発生させる。超微細気泡16を含む放流水13は、河川80に放流される。但し、本発明は、これに限られない。例えば、気泡発生システム10は、遊水池(
図1参照)の水門近くに設けてもよいし、浄水場(
図1参照)の取水設備に設けてもよい。気泡発生システム10は、水道管の水を浄化するために使用してもよい。
【0017】
図2及び
図3を参照すると、気泡発生システム10は、水流生成部20と、気泡発生促進部30と、キャビテーション発生部40とを備えている。本実施の形態の気泡発生システム10は、上述の部位のみを備えている。但し、本発明は、これに限られない。例えば、気泡発生システム10は、上述の部位に加えて、別の部位を更に備えていてもよい。
【0018】
図2を参照すると、本実施の形態の水流生成部20は、貯水池23と、水路(取水管)26とを備えている。貯水池23の水には空気18が溶け込んでいる。本実施の形態の水路26は、管状の構造物である。水路26は、取水部27を有している。取水部27は、貯水池23の内部に開口している。水路26は、取水部27からダム堤体22の内部を下流に向かって下っている。水路26は、気泡発生促進部30及びキャビテーション発生部40を通過した後に、河川80に向かって開口している。
【0019】
貯水池23の水面と水路26の下端とは、上下方向において距離PDだけ離れている。本実施の形態の上下方向は、重力方向である。貯水池23に水が十分に蓄えられているとき、貯水池23の水面は、取水部27の上に位置しており、取水部27周辺の水は、距離PDに応じた力を受ける。詳しくは、(距離PD-水路26による損失水頭)に応じた力を受ける。この結果、貯水池23の水は、取水部27を経由して水路26を流れる。即ち、水流生成部20は、水流12を生成する。水流12の水には、空気18が含まれている。本実施の形態の水流12は、水路26の内部を上流の取水部27から下流の河川80に向かって流れ、河川80に放水される。但し、本発明は、これに限られない。例えば、水流12は、浄水場の取水設備から浄水場に向かって流れて浄水場に放水されてもよい。
【0020】
上述したように、本実施の形態の水流生成部20は、上流側の水位(上流水位)24と下流側の水位(下流水位)25との間の水位差を利用して水流12を生成する。本実施の形態において、上流水位24は、貯水池23の水面の水位であり、下流水位25は、水を河川80に放流する部位の水面の水位である。本実施の形態によれば、ポンプ等の動力設備を使用することなく、自然の重力を利用して水流12を生成できる。但し、本発明は、これに限られない。例えば、気泡発生システム10を平地の水門近くに設ける場合、ポンプを使用して水流12を生成してもよい。ポンプは、地上に設けてもよいし、水中に設けてもよい。
【0021】
本実施の形態の水流生成部20は、水を堰き止めて形成した貯水池23と、金属製の取水管26とを備えている。但し、本発明は、これに限られない。例えば、水流生成部20は、水を貯めた貯水槽と、貯水槽から延びる配水管とを備えていてもよい。
【0022】
図3を参照すると、気泡発生促進部30は、水流12の下流側に位置している。また、本実施の形態の気泡発生促進部30は、凹部32を備えている。凹部32は、水流12と直交する方向に凹んでおり水路26を円周状に囲んでいる。詳しくは、本実施の形態の水路26は、水路26と直交する直交平面において円形状を有している。凹部32は、水路26から、直交平面外側に凹んでおりリング形状を有している。換言すれば、凹部32は、水路26の一部を直交平面外側に凹ませて形成されている。より具体的には、本実施の形態の凹部32は、水路26の一部を直交平面外側にリング状に凹ませて形成した戸溝である。
【0023】
気泡発生促進部30を通過する水路26の一部は、上述の構造を有している。この構造により、気泡発生促進部30を通過する水流12の一部が凹部32に引き込まれて局所的に水圧が低下する。この結果、水が微細化され、レナード効果によって、小さな水粒子が負に帯電して水中の周囲の空気18を負に帯電させる。負に帯電した空気18は、水流12とともに更に下流に流れる。後述するように、負に帯電した空気18は、超微細気泡16の生成に寄与すると考えられる。
【0024】
本実施の形態の気泡発生促進部30は、上述のように円筒形状の水路26の周囲に形成された凹部32を備えている。凹部32は、リング形状を有している。但し、本発明は、これに限られない。例えば、凹部32の形状や水路26の形状は、特に限定されない。
【0025】
本実施の形態の気泡発生促進部30は、凹部32に加えて、促進用空気供給部34を備えている。本実施の形態の促進用空気供給部34は、管状の構造体であり地上に開口している。促進用空気供給部34は、凹部32の内部に開口している。促進用空気供給部34の開口は、水路26を円周状に囲むようにして凹部32に設けられている。水流12の一部が凹部32の内部に引き込まれて水圧が低下すると、地上の空気18が促進用空気供給部34の内部に吸い込まれ、凹部32に排出される。この結果、凹部32に引き込まれた水流12が空気18を吸収し、より多量の空気18が負に帯電する。即ち、本実施の形態によれば、超微細気泡16を生成し易い。但し、本発明は、これに限られず、促進用空気供給部34は、必要に応じて設ければよい。
【0026】
本実施の形態の気泡発生促進部30は、空気弁342と、仕切弁344とを備えている。本実施の形態によれば、空気弁342及び仕切弁344を操作することで、凹部32に供給される空気18の量を調整できる。また、本実施の形態によれば、コンプレッサー等の動力設備を使用することなく、凹部32に空気18を供給できる。但し、本発明は、これに限られず、気泡発生促進部30の構造は、必要に応じて変形可能である。例えば、気泡発生促進部30は、コンプレッサーを備えていてもよい。
【0027】
キャビテーション発生部40は、気泡発生促進部30に比べて水流12の下流側に位置している。従って、気泡発生促進部30で生成された負に帯電した空気18は、水流12とともにキャビテーション発生部40を通過する。
【0028】
本実施の形態のキャビテーション発生部40は、ホロージェットバルブ50を備えている。ホロージェットバルブ50は、弁体52と、シリンダ55と、プランジャ56とを有している。即ち、本実施の形態のキャビテーション発生部40は、弁体52と、シリンダ55と、プランジャ56とを備えている。弁体52は、水流12の上流側に向かって先細った円錐形状を有している。弁体52は、端部53を有している。本実施の形態の端部53は、弁体52の円錐の底面の縁部である。シリンダ55及びプランジャ56は、円柱形状を有しており、弁体52の円錐の底面の中間部から水流12の下流側に向かって延びている。
【0029】
ホロージェットバルブ50は、水路26の内部に配置されており、これにより、キャビテーション発生部40を通過する水路26には、狭流路42と、広流路44とが形成されている。即ち、キャビテーション発生部40は、狭流路42と、広流路44とを備えている。本実施の形態の狭流路42は、水路26を形成する管の内面と弁体52の円錐の側面との間に位置している。即ち、狭流路42は、弁体52の端部53近傍に少なくとも位置している。一方、本実施の形態の広流路44は、水路26を形成する管の内面とシリンダ55及びプランジャ56の円筒面との間に位置している。即ち、広流路44は、弁体52の端部53に比べて水流12の下流側に少なくとも位置している。
【0030】
本実施の形態の狭流路42及び広流路44は、ホロージェットバルブ50(特に、弁体52)を配置することで形成されている。広流路44は、狭流路42に比べて水流12の下流側に位置している。狭流路42は、広流路44よりも狭い。詳しくは、水流12と直交する直交平面における狭流路42の断面は、直交平面における広流路44の断面よりも小さい。上述の条件が満たされる限り、狭流路42及び広流路44の形成方法は、特に限定されない。より具体的には、弁体52は、必要に応じて設ければよい。
【0031】
水流12が狭流路42から広流路44に流れると、キャビテーションが発生する。詳しくは、広流路44において水圧が急激に低下する。狭流路42の水圧と広流路44の水圧との間の圧力差により、水流12の内部に気泡14(キャビテーション)が生じる。キャビテーションは、短時間で崩壊して、超微細気泡16が生成される。本実施の形態によれば、水流12の内部に負に帯電した空気18が含まれているため、超微細気泡16が生じ易いと考えられる。即ち、本実施の形態によれば、水流12が狭流路42と広流路44とを通過することによりキャビテーションが発生して崩壊し、これにより、気泡径1μm未満の微細な気泡14(超微細気泡16)が発生する。
【0032】
前述したように、水流12が上流の気泡発生促進部30を通過する際、レナード効果によって、水流12に含まれる空気18が負に帯電する。即ち、狭流路42と広流路44とを通過する水流12には負に帯電した空気18が含まれており、キャビテーションの崩壊によって気泡径1μm未満の微細な気泡14(超微細気泡16)が発生し易いと考えられる。換言すれば、本実施の形態の気泡発生システム10は、気泡発生促進部30を経由した水流12が狭流路42と広流路44とを通過することにより発生するキャビテーションを利用して超微細気泡16を発生させる。本実施の形態によれば、レナード効果及びキャビテーションを利用して気泡径1μm未満の微細な気泡14(超微細気泡16)を発生させる新たな微細気泡発生システム10を提供できる。
【0033】
レナード効果によって帯電した空気18の負電荷は、時間が経過するとともに中和される。従って、レナード効果が生じる位置とキャビテーションが生じる位置とは、できるだけ近い方が好ましい。より具体的には、狭流路42と広流路44との間の境界は、凹部32に近い方が好ましい。
【0034】
本実施の形態によれば、弁体52によって狭流路42及び広流路44が形成され、これにより、水流12が制御される。即ち、本実施の形態のキャビテーション発生部40は、水流12を調整するための弁体52を備えている。また、本実施の形態のキャビテーション発生部40は、スプリッタ47と、駆動装置48と、開閉装置482(
図5参照)とを備えている。
【0035】
スプリッタ47は、シリンダ55を支持している。シリンダ55は、プランジャ56を支持している。弁体52は、水流12が流れる方向において移動可能になるようにしてプランジャ56に取り付けられている。駆動装置48は、弁体52を駆動して上流側と下流側との間で弁体52を移動させることができる。弁体52が最も上流側に移動すると、水路26が塞がれる。一方、狭流路42に異物が詰まったような場合、弁体52を下流側に移動して異物を流し出すことができる。
図3及び
図5を参照すると、本実施の形態の駆動装置48は、スピンドルであり、開閉装置482は、このスピンドルを回転させることで弁体52を水平方向に移動させる。但し、本発明は、これに限られない、例えば、駆動装置48及び開閉装置482は、必要に応じて設ければよい。
【0036】
図3及び
図4を参照すると、本実施の形態の弁体52の端部53には、セレーション54が設けられている。本実施の形態のセレーション54は、多数の三角歯542から形成されている。三角歯542は、端部53(弁体52の円錐の底面の縁部)全体に亘って形成されている。仮にセレーション54が設けられていない場合、水流12の内部に生じた気泡14が崩壊する際、周囲の部位に衝撃を加え、これにより、例えばスプリッタ47が損傷するおそれがある。本実施の形態のセレーション54は、気泡14が大きく成長する前に三角歯542によって気泡14を分断し、これにより、衝撃を弱めて損傷を低減する。即ち、セレーション54は、キャビテーション障害を抑制する。
【0037】
本実施の形態のキャビテーション発生部40は、上述した部位に加えて、抑制用空気供給部46を備えている。本実施の形態の抑制用空気供給部46は、管状の構造体であり地上に開口している。抑制用空気供給部46は、弁体52の内部を通過して延びており、端部53の近傍に開口している。より具体的には、抑制用空気供給部46は、弁体52の円錐の底面(弁体52の裏側)に開口している。広流路44の水圧が低下すると、地上の空気18が抑制用空気供給部46の内部に吸い込まれ、端部53の近傍に排出される。端部53の近傍に空気18を排出することにより、気泡14が崩壊する際の衝撃が緩和される。即ち、本実施の形態の抑制用空気供給部46は、弁体52に比べて水流12の下流側に空気18を供給してキャビテーション障害を抑制する。但し、本発明は、これに限られず、抑制用空気供給部46は、必要に応じて設ければよい。
【0038】
本実施の形態の抑制用空気供給部46は、空気弁462と、仕切弁464とを備えている。本実施の形態によれば、空気弁462及び仕切弁464を操作することで、端部53に供給される空気18の量を調整できる。また、本実施の形態によれば、コンプレッサー等の動力設備を使用することなく、端部53に空気18を供給できる。但し、本発明は、これに限られず、抑制用空気供給部46の構造は、必要に応じて変形可能である。例えば、抑制用空気供給部46は、コンプレッサーを備えていてもよい。
【0039】
図5を参照すると、水流生成部20は、開閉装置28と、扉体29と、スクリーン292とを備えていてもよい。開閉装置28によって扉体29を上下に移動することで、必要に応じて取水部27を開閉できる。スクリーン292を設けることで、塵芥が水路26に流入することを防止できる。気泡発生促進部30には、操作室36が設けられていてもよい。操作室36には、水流12の量を計測する流量計37や、水路26を開閉する副弁(放流副ゲート)の開閉装置38が設置されていてもよい。開閉装置38には、空気供給部39が設けられていてもよい。空気供給部39によって水流12に空気18を供給することで、水路26を開閉する途中で下流側が負圧になることを防止できる。また、気泡発生システム10は、点検時に水を抜くために使用するドレン81を備えていてもよい。
【0040】
本実施の形態の気泡発生システム10は、既に説明した変形例に加えて、以下に説明するように更に様々に変形可能である。
【0041】
図6を
図5と比較すると、変形例による気泡発生システム10Aは、気泡発生システム10の水路(取水管)26に代えて、水路(取水管)26Aを備えている。取水管26Aは、管状の構造物である。水路26Aは、ダム堤体22の上に(即ち、地上に)設けられており、ダム堤体22の上面に沿って下った後、気泡発生促進部30及びキャビテーション発生部40を通過して河川80に向かって延びている。取水管26Aの一端は、貯水池23の内部に位置している。取水管26Aには、封水装置28Aが設けられている。気泡発生システム10Aは、上述の相違点を除いて、気泡発生システム10と同様な構造を有している。
【0042】
気泡発生システム10Aによれば、貯水池23の水は、封水装置28Aによって作り出されたサイフォン現象により取水管26Aの取水部27に取り込まれ、取水管26Aの内部を河川80に向かって流れる。即ち、本変形例の水流12は、サイフォン現象によって生成される。本変形例によれば、レナード効果及びキャビテーションを利用して超微細気泡16を水中に発生させる新たな微細気泡発生システム10Aを提供できる。
【0043】
図7を
図5と比較すると、別の変形例による気泡発生システム10Bは、気泡発生システム10のキャビテーション発生部40に代えて、キャビテーション発生部40Bを備えている。気泡発生システム10Bは、上述の相違点を除いて、気泡発生システム10と同様な構造を有している。
【0044】
図7及び
図8を参照すると、キャビテーション発生部40Bは、気泡発生促進部30に比べて水流12の下流側に位置している。キャビテーション発生部40Bは、ホロージェットバルブ50(
図3参照)に代えて、ケーシング51Bを有するジェットフローゲート50Bと、弁体(扉体)52Bとを備えている。弁体52Bは、駆動装置48Bによって上下に移動可能に支持されている。詳しくは、キャビテーション発生部40Bは開閉装置482Bを備えている。開閉装置482Bは、駆動装置48Bを上下に移動させ、これにより、弁体52Bを上下に移動させる。弁体52Bは、ジェットフローゲート50Bの出口を完全に塞ぐ閉位置(図示せず)と、ジェットフローゲート50Bの出口を完全に開放する開位置(図示せず)との間を、
図8に示した中間位置を介して移動可能である。即ち、キャビテーション発生部40Bは、水流12を調整するための弁体52Bを備えている。弁体52Bは、端部53Bを有している。端部53Bは、弁体52Bの下端に位置している。
【0045】
図8を参照すると、キャビテーション発生部40Bは、狭流路42Bと広流路44Bとリターン45Bを備えている。狭流路42Bは、広流路44Bよりも狭い。狭流路42Bは、弁体52Bに比べて、水流12の上流側に位置している。詳しくは、狭流路42Bは、ジェットフローゲート50Bの出口近傍の部位であり、弁体52Bの端部53B近傍に少なくとも位置している。一方、広流路44Bは、狭流路42Bに比べて、水流12の下流側に位置している。詳しくは、広流路44Bは、弁体52Bの端部53Bに比べて水流12の下流側に少なくとも位置している。リターン45Bは、広流路44Bの河川80側に設けられており、広流路44Bを上方から部分的に覆っている。本変形例によれば、ジェットフローゲート50Bから水が勢いよく放流される。一方、リターン45Bを設けることで、水中の状態を安定させることができる。
【0046】
本変形例によれば、気泡発生促進部30を経由した水流12が狭流路42Bと広流路44Bとを通過することにより発生するキャビテーションを利用して微細な気泡14(超微細気泡16)を水中に発生させる。即ち、本変形例によれば、レナード効果及びキャビテーションを利用して超微細気泡16を水中に発生させる新たな微細気泡発生システム10Bを提供できる。
【0047】
図8及び
図9を参照すると、弁体52Bの端部53Bには、セレーション54が設けられている。本変形例のセレーション54は、多数の三角歯542から形成されている。三角歯542は、端部53Bの縁部全体に亘って形成されている。セレーション54は、キャビテーション障害を抑制する。
【0048】
キャビテーション発生部40Bは、抑制用空気供給部46を備えている。抑制用空気供給部46は、地上に開口している。抑制用空気供給部46は、弁体52Bの内部を通過して延びており、セレーション54の三角歯542の近傍の多数の部位に開口している。抑制用空気供給部46は、弁体52Bに比べて水流12の下流側に空気18を供給してキャビテーション障害を抑制する。
【0049】
図8を参照すると、キャビテーション発生部40Bは、抑制用空気供給部49Bを備えている。抑制用空気供給部49Bは、地上に開口している。抑制用空気供給部49Bは、は、円周状に配置された空気管492Bを備えている。空気管492Bの夫々は、狭流路42Bと広流路44Bとの間の境界近傍に開口している。空気管492Bの開口部は、狭流路42Bと広流路44Bとの間の境界に沿って円形状に配置されている。抑制用空気供給部49Bは、抑制用空気供給部46と同様に水流12の下流側に空気18を供給してキャビテーション障害を抑制する。
【0050】
本変形例による気泡発生システム10Bは、上述の構造を有している。但し、本発明は、これに限定されない。例えば、キャビテーション発生部40Bは、より簡易な構造を有していてもよい。また、セレーション54、抑制用空気供給部46、抑制用空気供給部49B等の部位は、必要に応じて設ければよい。
【0051】
図10を参照すると、更に別の変形例による気泡発生システム10Cは、水流生成部20Cと、2つのサブシステム102C,104Cとを備えている。水流生成部20Cは、水路(取水管)26Cを備えている。水路26Cは、管状の構造体であり、取水部27から取り込んだ水をダムの発電設備84に供給する主たる部位と、主たる部位から分岐して2つのサブシステム102C,104Cを夫々通過する従たる2つの部位とを備えている。水流生成部20Cは、サブシステム102C,104Cを通過する水流12を生成する。
【0052】
図10から
図12までを参照すると、一般的に、ダムの放流設備は、放流量を制御し易いように、大容量放流設備と小容量放流設備とが設けられていることが多い。小容量放流設備は、河川維持放流設備として用いられていることが多く、ほぼ年中、水を河川80に放流している。本変形例のサブシステム102Cは、大容量放流設備を利用して設けられており、空中放流した水を河川80に流す。本変形例のサブシステム104Cは、小容量放流設備を利用して設けられており、水を水中に放流する。以下に説明するように、本変形例によれば、サブシステム104Cのみを利用して超微細気泡16を生成させる。但し、本発明は、これに限られない。例えば、サブシステム102Cにおいて水中放流を行って超微細気泡16を生成させてもよい。
【0053】
図11を
図7と比較すると、サブシステム102Cは、流量計37、開閉装置38、空気供給部39、空気管492B、ジェットフローゲート50B等の気泡発生システム10Bと同様の部位を備えている。但し、サブシステム102Cは、気泡発生促進部30及びキャビテーション発生部40Bを備えていない。
【0054】
図12を
図7と比較すると、サブシステム104Cは、気泡発生システム10Bと同様な気泡発生促進部30及びキャビテーション発生部40Bを備えている。即ち、本変形例によれば、レナード効果及びキャビテーションを利用して超微細気泡16を水中に発生させる新たな気泡発生システム10Cを提供できる。
【0055】
上述した実施形態や変形例は、更に様々に変形可能である。例えば、
図3及び
図8を参照すると、キャビテーション発生部40,40Bは、ホロージェットバルブ50やジェットフローゲート50Bを使用して超微細気泡16を発生させるが、本発明は、これに限られない。例えば、ホロージェットバルブ50やジェットフローゲート50Bを、異物が詰まり難く、弁体の開閉が可能であり、且つ、多量の超微細気泡16を発生可能な別の構造体に置き換えてもよい。
【符号の説明】
【0056】
10,10A,10B,10C 気泡発生システム
102C,104C サブシステム
12 水流
13 放流水
14 気泡
16 気泡(超微細気泡)
18 空気
20,20A,20C 水流生成部
22 ダム堤体
23 貯水池
24 水位(上流水位)
25 水位(下流水位)
26,26A,26C 水路(取水管)
27 取水部
28 開閉装置
28A 封水装置
29 扉体
292 スクリーン
30 気泡発生促進部
32 凹部
34 促進用空気供給部
342 空気弁
344 仕切弁
36 操作室
37 流量計
38 開閉装置
39 空気供給部
40,40B キャビテーション発生部
42,42B 狭流路
44,44B 広流路
45B リターン
46 抑制用空気供給部
462 空気弁
464 仕切弁
47 スプリッタ
48,48B 駆動装置
482,482B 開閉装置
49B 抑制用空気供給部
492B 空気管
50 ホロージェットバルブ
50B ジェットフローゲート
51B ケーシング
52 弁体
52B 弁体(扉体)
53,53B 端部
54 セレーション
542 三角歯
55 シリンダ
56 プランジャ
80 河川
81 ドレン
84 発電設備