IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大成建設株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-地下水浄化体および地下水浄化方法 図1
  • 特開-地下水浄化体および地下水浄化方法 図2
  • 特開-地下水浄化体および地下水浄化方法 図3
  • 特開-地下水浄化体および地下水浄化方法 図4
  • 特開-地下水浄化体および地下水浄化方法 図5
  • 特開-地下水浄化体および地下水浄化方法 図6
  • 特開-地下水浄化体および地下水浄化方法 図7
  • 特開-地下水浄化体および地下水浄化方法 図8
  • 特開-地下水浄化体および地下水浄化方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005649
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】地下水浄化体および地下水浄化方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/08 20060101AFI20240110BHJP
   C02F 1/28 20230101ALI20240110BHJP
【FI】
B01J20/08 C
C02F1/28 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105916
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】根岸 昌範
(72)【発明者】
【氏名】海野 円
(72)【発明者】
【氏名】中平 淳
【テーマコード(参考)】
4D624
4G066
【Fターム(参考)】
4D624AA01
4D624AB11
4D624BA12
4D624BA13
4D624BB01
4D624BC01
4G066AA18B
4G066AA20B
4G066AA36A
4G066AA47A
4G066BA20
4G066BA26
4G066BA36
4G066CA32
4G066DA07
(57)【要約】
【課題】材料由来のふっ素溶出が少なく、かつ、ふっ素吸着量が大きい浄化剤を使用した地下水浄化体および地下水浄化方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る地下水浄化体1は、ふっ素浄化能を有する浄化剤5を含む柱状体または壁状体が地中に配置される地下水浄化体1であって、前記浄化剤5が、材料からのふっ素溶出を抑制し、かつふっ素吸着容量の大きいマグネシウム・アルミニウム系層状複水酸化物の焼成体を含んでなるふっ素吸着剤であることを特徴とする。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ふっ素浄化能を有する浄化剤を含む柱状体または壁状体が地中に配置される地下水浄化体であって、
前記浄化剤が、材料からのふっ素溶出を抑制し、かつふっ素吸着容量の大きいマグネシウム・アルミニウム系層状複水酸化物の焼成体を含んでなるふっ素吸着剤である
ことを特徴とする地下水浄化体。
【請求項2】
前記柱状体を複数用い、互いに当接させて列状配置または間欠的に列状配置したことを特徴とする請求項1に記載の地下水浄化体。
【請求項3】
前記柱状体が、透水性基材を含んでいることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の地下水浄化体。
【請求項4】
地盤の表面から所定の深さまで縦孔を掘削する掘削工程と、
前記縦孔に、ふっ素浄化能を有する浄化剤を配置して地下水浄化体を形成する形成工程と、
前記地下水浄化体に地下水を通水させて前記地下水を浄化する浄化工程と、
を含み、
前記浄化剤が、材料からのふっ素溶出を抑制し、かつふっ素吸着容量の大きいマグネシウム・アルミニウム系層状複水酸化物の焼成体を含んでなるふっ素吸着剤である
ことを特徴とする地下水浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ふっ素吸着に特化した浄化剤を使用した地下水浄化体および地下水浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ふっ素は、環境中における検出頻度の高さから、1999年には水質要監視項目から水質環境基準および地下水環境基準の健康項目に移行することとなった。2001年には土壌環境基準項目としても追加され、その溶出量基準値は地下水環境基準値と同じ0.8mg/Lである。
ふっ素は、アルミニウム電解、過リン酸肥料、タイル、煉瓦、硝子繊維、セラミックス、半導体等の製造、金属部品の洗浄、練り歯磨への添加剤など幅広い工業用途で汎用されている。そのため、ふっ素による土壌や地下水の汚染、いわゆる地盤環境汚染問題を抱える事業場は国内に数多く存在する状況である。
また、ふっ素は地下水中では陰イオン(F)として挙動するため、土壌への吸着が少なく、一旦地下水中に溶解すると、地下水流動により汚染が広範に及び易いという特徴を有する。
【0003】
ふっ素などで汚染された汚染地下水の拡散防止対策としては、事業場等の敷地境界に遮水壁を構築したうえで揚水井戸により汚染地下水をくみ上げて、事業場の排水処理設備で排水基準8mg/Lまで処理したうえで公共用水域に放流するなどの対策が講じられてきた。しかし、上述した汚染地下水の拡散防止対策には大規模な排水処理が必要であり、ランニングコストも膨大となるため経済性に問題があった。
そのため、これに代替する地下水汚染の拡散防止対策技術として、透過性地下水浄化壁(マルチバリア技術)による方法が、1996年から実用化されてきた。これは、地下水は通過させ、汚染物質のみを分解または吸着する反応剤を含んだ透水性の浄化壁を事業場敷地境界または汚染源周辺に構築する方法である。この方法はメンテナンスフリーでランニングコストが不要な汚染地下水拡散防止対策技術である。この技術は、開発当初はクロロエチレン類など、他の有害物質を対象としていた。
【0004】
ふっ素については、環境基準項目となって以降の2000年代に入ると、ふっ素吸着剤(浄化剤)に関する技術開発が始まり、透過性地下水浄化壁に対する浄化材として使用できる各種のふっ素吸着剤や不溶化材などが市販されるようになった。
ふっ素汚染地下水を揚水し、水処理設備を使用して工場排水として処理する場合には排水基準が適用され、ふっ素濃度として8mg/L以下が求められる。この場合には、水酸化カルシウムや硫酸アルミニウムなどの薬剤を多段で添加することでふっ素濃度を8mg/L以下とすることが可能である。
【0005】
その一方で、透過性地下水浄化壁工法などの地下水を揚水せずに地中で吸着除去する場合でも、条例等による上乗せ、地域協定などにより、地下水環境基準値または水質環境基準値である0.8mg/L以下となる処理性能が求められる場合がある。
0.8mg/L以下の処理性能が求められる場合には、何らかのイオン交換反応による処理が必要となり、陰イオン交換樹脂、アロフェンなどの陰イオン交換能を保有する粘土鉱物、合成ハイドロタルサイトなどの層状複水酸化物やその焼成物などを使用する必要がある。
【0006】
陰イオン交換樹脂は、水処理プラントなどで使用されることが多く、円筒形の吸着塔などに充填され、再生処理が可能な一方で高価で経済性に問題がある吸着資材である。陰イオン交換樹脂は、その特性上、特に透過性地下水浄化壁などの反応剤として使用する場合には、地中から掘り上げて再生することができなくなるので、特に経済性が過大となり実用的ではない。
アロフェンやイモゴライトなどの陰イオン交換能を保有する粘土鉱物は、ふっ素吸着剤として活用することが可能である。ただし、赤玉土や鹿沼土などアロフェンを比較的豊富に含有する自然土壌系の資材では、吸着量が小さいという問題があった。また、人工的にアロフェンのみを精製した資材なども存在するが、却って高コストとなり、経済性に問題がある。
合成ハイドロタルサイト(ハイドロタルサイト様化合物)などの層状複水酸化物やその焼成物は、天然にはハイドロタルサイトと称される粘土鉱物である。天然のハイドロタルサイトは、構造式MgAl(OH)16CO・4HOで記されるが、ウラル地域などにごく僅かに産出されるものであり、我が国では天然には産出されない。
【0007】
層状複水酸化物は、一般式[M2+ (1-x)3+ (OH)x+[An- x/n・yHO]x-(式中、M2+は2価の金属イオンを、M3+は3価の金属イオンを表し、An- x/nは層間陰イオンを表す。また、0<x<1であり、nはAの価数であり、0≦y<1である)で表される。層状複水酸化物は、2価の金属イオンにOHが6配位した8面体が平面配列した水酸化物層の一部に3価の金属イオンが置換した構造を持つ。そして、置換した3価の金属イオン量に応じた正電荷を相殺(中和)するように、水酸化物層と水酸化物層との層間に陰イオンが存在している。この陰イオンは交換可能であり、各種の陰イオン(CO 2-、Cl、SO 2-、Fなど)が存在し得る。
【0008】
工業的に合成される合成ハイドロタルサイトは前記一般式[M2+ (1-x)3+ (OH)x+[An- x/n・yHO]x-で表される。合成ハイドロタルサイトにおける2価の金属イオンとしてはMgの他にFe、Cu、Ni、Ca、Co等を使用することが可能であり、3価の陽イオンとしてはAlの他にFe、Cr等を使用することが可能である。また、層間のみならず、水酸化物層の端面でも陰イオンを吸着することができる。
合成ハイドロタルサイトなどの層状複水酸化物は製造プロセスでの陰イオン除去などに利用されており、また、樹脂添加剤、ゴム安定剤、難燃剤などにも活用されている。層状複水酸化物の排水処理など環境分野への利用については、非特許文献1のような公知文献が存在し、陰イオン吸着の序列や無機塩排水の処理等について論じられている。
なお、一般的なCO型の合成ハイドロタルサイトには、層間のCO 2-が他の陰イオンとの交換性が低いという欠点がある。そのため、薬品処理などにより交換性の高いCl等に置換した吸着剤や焼成処理により層間のCO 2-を除いた吸着剤が検討されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】亀田知人、吉岡敏明、梅津良昭、奥脇昭嗣著、「ハイドロタルサイトの水環境保全・浄化への応用」、The Chemical Times、195、No.1、p10~16、2005年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ふっ素の処理目標を地下水環境基準(0.8mg/L)とした場合、浄化剤(吸着剤)由来であって、排除できない僅かなふっ素が含有されており、そこからのふっ素溶出量が浄化対策の初期段階等で環境中のふっ素濃度を嵩上げしてしまうリスクを内包することが明らかとなった。特に、透過性地下水浄化体など、地盤中にふっ素吸着剤(浄化剤)を残置してくる対策方法において、その影響は無視できないものとなる。そして、当然のことながら、ふっ素吸着剤(浄化剤)には、ふっ素吸着量が大きいことが要求される。
【0011】
本発明は前記状況に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の課題は、材料由来のふっ素溶出が少なく、かつ、ふっ素吸着量が大きい浄化剤を使用した地下水浄化体および地下水浄化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明は以下の手段を有する。
本発明の地下水浄化体は、ふっ素浄化能を有する浄化剤を含む柱状体または壁状体が地中に配置される地下水浄化体であって、前記浄化剤が、材料からのふっ素溶出を抑制し、かつふっ素吸着容量の大きいマグネシウム・アルミニウム系層状複水酸化物の焼成体を含んでなるふっ素吸着剤であることを特徴とする。このように、本発明の地下水浄化体は、本発明で使用する浄化剤が前記したふっ素吸着剤であるので、材料由来のふっ素溶出を少なく、かつ、ふっ素吸着量を大きくすることができる。また、本発明の地下水浄化体は、前記した浄化剤を含む柱状体または壁状体を地中に配置しているので、地下水中のF(ふっ化物イオン)を浄化剤が吸着し、地下水を浄化することができる。
【0013】
本発明の地下水浄化体においては、前記柱状体を複数用い、互いに当接させて列状配置または間欠的に列状配置することが好ましい。柱状体をこれらのように配置することにより、浄化剤と地下水とを好適に接触させることができる。
本発明の地下水浄化体においては、前記柱状体が、透水性基材を含んでいることが好ましい。このように、柱状体が透水性基材を含むことにより、地下水の通水を妨げ難くすることができる。また、このように、柱状体が透水性基材を含むことにより嵩を増すことができ、浄化剤の使用量を減らすことができる。
【0014】
また、本発明の地下水浄化方法は、地盤の表面から所定の深さまで縦孔を掘削する掘削工程と、前記縦孔に、ふっ素浄化能を有する浄化剤を配置して地下水浄化体を形成する形成工程と、前記地下水浄化体に地下水を通水させて前記地下水を浄化する浄化工程と、を含み、前記浄化剤が、材料からのふっ素溶出を抑制し、かつふっ素吸着容量の大きいマグネシウム・アルミニウム系層状複水酸化物の焼成体からなるふっ素吸着剤であることを特徴とする。本発明の地下水浄化方法は、これらの工程を行うことで、縦孔に配置した浄化剤により地下水中のふっ化物イオンを吸着させ、地下水を浄化することができる。また、この地下水浄化方法に用いられる浄化剤は前記したものであるので、材料由来のふっ素溶出を少なくすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、材料由来のふっ素溶出が少なく、かつ、ふっ素吸着量が大きい浄化剤を使用した地下水浄化体および地下水浄化方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態で使用する浄化剤の製造方法の内容を説明するフロー図である。
図2】本実施形態に係る地下水浄化体の使用態様の一例を説明する概略斜視図である。
図3】本実施形態に係る地下水浄化体の浄化剤の一配置例を説明する概略図である。
図4】本実施形態に係る地下水浄化体の浄化剤の他の一配置例を説明する概略図である。
図5】本実施形態に係る地下水浄化方法の内容を説明するフロー図である。
図6】(a)は、掘削工程において、縦孔を掘削する様子を説明する概略断面図であり、(b)および(c)は、形成工程において、縦孔に浄化剤を配置して地下水浄化体を形成する様子を説明する概略断面図である。
図7】形成工程において、縦孔に浄化剤を配置して地下水浄化体を形成する様子を説明する概略断面図である。
図8】既製品の複水酸化物の焼成体(ふっ素処理剤)を使用したカラム試験の結果を示すグラフである。
図9】表4に示す実施例1および比較例3の吸着等温線を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、適宜図面を参照して本発明に係る地下水浄化体および地下水浄化方法の一実施形態について詳細に説明する。なお、各実施形態の説明において、同一の構成要素に関しては同一の名称、符号で表し、重複する説明は省略する場合がある。
本発明に係る地下水浄化体および地下水浄化方法の一実施形態について説明する前に、本発明で使用する浄化剤および浄化剤の製造方法について説明する。
【0018】
〔浄化剤〕
本実施形態で使用する浄化剤は、地下に配置して地下水中のふっ化物イオンを吸着させ、地下水を浄化するために好適に用いることができる。この浄化剤は、材料からのふっ素溶出を抑制し、かつふっ素吸着容量の大きいマグネシウム・アルミニウム系(Mg-Al系)層状複水酸化物の焼成物を含んでなるふっ素吸着剤である。この焼成物の平均二次粒子径は0.2μm~1.0μmである。なお、この浄化剤は、Mg-Al系層状複水酸化物の焼成物のみで構成されていてもよく、結着剤やpH調整剤、透水性基材などの添加剤を含んでいてもよい。添加剤は、本発明の効果を損なわない限りにおいて任意の量および種類を添加できる。透水性基材としては、例えば、砂、砂利、砕石、礫などの地盤材料、活性炭などの植物材料、多孔質コンクリートなどの人工構造物などが挙げられる。浄化剤は、粉末や造粒物、成型物などの粒子状の形態や、水等の液体を加えてペースト状の形態や、当該ペースト状のものを所定形状に乾燥固化して成形物とした形態で用いられてもよいし、他の成分と混合して混合物の形態で用いられてもよい。
【0019】
Mg-Al系層状複水酸化物は、Mg塩とAl塩とを用いて、工業的に合成して製造することができる。工業的に合成されたものは、合成ハイドロタルサイトやハイドロタルサイト様化合物などとも呼称されている。前記した平均二次粒子径を有するMg-Al系層状複水酸化物の焼成物は、工業的に合成したMg-Al系層状複水酸化物に対して水熱処理および焼成を含む所定の処理を行うことにより得ることができる。Mg-Al系層状複水酸化物の焼成物の製造については後述する。
【0020】
また、前述したように、層状複水酸化物は、一般式[M2+ (1-x)3+ (OH)x+[An- x/n・yHO]x-(式中、M2+は2価の金属イオンを、M3+は3価の金属イオンを表し、An- x/nは層間陰イオンを表す。また、0<x<1であり、nはAの価数であり、0≦y<1である)で表される。本実施形態で用いられるMg-Al系層状複水酸化物の焼成品は、M2+としてMg2+を有し、M3+としてAl3+を有するものであり、湿式合成から乾燥時点までの製造時に存在する層間の陰イオンを、焼成することでいったん追い出したものである。この材料を、地下水中で使用すると、あらためて水和反応によりMg-Al系層状複水酸化物の形態をとり、層間に各種陰イオンを吸着することができる。
【0021】
浄化剤においては、前記したように焼成物の平均二次粒子径が0.2μm~1.0μmの範囲であると、表面積を大きくすることができる。そのため、層状複水酸化物の層間陰イオンが地下水中のふっ化物イオンと交換するのに必要な反応面積を維持するとともに、平均二次粒子径が所定の範囲であることから、一定の結晶度合いが維持できており、それにより浄化剤由来のふっ素溶出を少なくできる。こうした浄化剤の物性は析出工程において適切な水熱処理を施すことで制御でき、ふっ素吸着量の増大と材料由来のふっ素溶出量の抑制を両立した材料とすることができる。平均二次粒子径は、0.4μm以上または0.5μm以上であってもよい。また、平均二次粒子径は、0.6μm以下であってもよい。平均二次粒子径がこれらの下限値または上限値であると、ふっ素吸着量をより大きくすることができ、また、材料由来のふっ素溶出をより少なくできる。
【0022】
前記した平均二次粒子径は、レーザー回折散乱法で測定できる。レーザー回折散乱法による測定においては、例えば、溶媒として0.2w/v%ヘキサメタリン酸ナトリウム溶液を使用し、超音波による前処理(振幅数15μmの超音波で3分間分散処理)で分散させたうえで測定するとよい。測定は、溶媒の屈折率を1.33、物質の屈折率を1.57と設定して行うとよい。
ふっ素吸着量は、次のようにして得ることができる。例えば、50mL容積の遠沈管に所定量の試料を秤量し、50mg/LのNaF溶液30mLを注加する。この遠沈管を22時間水平振盪(160回/分、振幅4cm、25℃)し、遠心分離(10000rpm、10分)にて固液分離した後、孔径0.2μmのメンブレンフィルターでろ過する。次いで、ろ液に含まれるふっ化物イオン量(mg/L)をアルフッソン法により定量し、その値からふっ素吸着量(mg/g)を算出することができる。
ふっ素吸着剤からのふっ素溶出量の測定は、土壌汚染対策法の環告18号準拠の溶出量試験(JIS K 0102:2019の34.1あるいは34.4に準拠)に従って行うことができる。
【0023】
また、浄化剤においては、焼成物のBET比表面積は100m/g~250m/gであることが好ましい。前記平均二次粒子径は粒子外径の分布を規定するが、BET比表面積は、粒子表面の粗度を反映する指標であり、結晶性にも影響を与える。このように、比表面積を前記下限値以上とすると、層状複水酸化物の層間陰イオンが地下水中のふっ化物イオンと交換するのに必要な反応面積をより確保できる。また、BET比表面積を前記上限値以下とすると、極端に反応面積が大きくなることを防ぎ、材料からふっ素が溶出するという事態をより抑制できる。つまり、前記上限値は、材料由来のふっ素溶出をより少なくする上限値と捉えることができる。BET比表面積は、130m/g以上であることが好ましく、133m/g以上であることがより好ましく、136m/g以上であることがさらに好ましい。このようにすると、層状複水酸化物の層間陰イオンが地下水中のふっ化物イオンと交換するのに必要な反応面積をより確保できる。一方、BET比表面積は、200m/g以下であることが好ましく、180m/g以下であることがより好ましく、177m/g以下であることがさらに好ましい。このようにすると、材料由来のふっ素溶出をさらに少なくすることができる。
前記したBET比表面積は、一般的な条件のBET法(例えば、JIS Z 8830:2013に準拠)で測定できる。つまり、BET比表面積は、液体窒素温度における窒素吸着を測定することで求めることができる。BET比表面積は、具体的には、マイクロトラック・ベル株式会社製「Belsorp-MR6」を用いて、混合ガス(N30%+He70%)を使用して1点法にて測定するとよい。
【0024】
また、浄化剤においては、焼成物のX線回折における(220)面のピークの半価幅が1.55°~2.1°であることが好ましい。このようにすると、焼成物の粉体の結晶性の度合いを制御できるので、層状複水酸化物の層間に地下水中のふっ化物イオンが入り易くなり、より交換され易くなる。従って、ふっ素吸着量をさらに大きくすることができる。また、半価幅を前記上限値以下とすると、結晶性が悪くなり、材料からふっ素が溶出するという事態をより抑制できる。つまり、前記上限値は、材料由来のふっ素溶出をより少なくする上限値と捉えることができる。X線回折における(220)面のピークの半価幅は、1.70°以上であることが好ましく、1.76°以上であることがより好ましく、1.80°以上であることがさらに好ましく、1.86°以上であることがよりさらに好ましい。一方、X線回折における(220)面のピークの半価幅は、2.08°以下であることが好ましく、1.94°以下であることがより好ましい。
【0025】
なお、本明細書で測定した半価幅は以下の測定方法による。
試料を粉末試料成形機(PX-700)の試料ホルダーに充填し、X線回折装置(RIGAKU UltimaIV)を用いて、以下の測定条件でX線回折パターンを測定し、そのパターンを当該X線回折装置の解析ソフトにて処理することで、MgO(220)面の半価幅を求めることができる。
測定角度:55.0-70.0°(MgO(220)面:62.3°付近)
サンプリング幅:0.0060
スキャンスピード:0.5°/分
管電圧:35kV
管電流:15mA
【0026】
さらに、浄化剤においては、焼成物が、化学式(1-x)MgO・x/2(Al)(ただし、0.25≦x≦0.33)で示されるものであることが好ましい。前記化学式のxが大きいほど、2価の陽イオンであるMgに対する3価の陽イオンであるAlの比率が高くなり、層状複水酸化物の基層部分のプラス帯電が大きくなる。一方で、プラス帯電が大きすぎても、ふっ化物イオン以外の陰イオンも引き付け過ぎて阻害を受ける要因となりうる。また、前記化学式のxが小さいと、2価の陽イオンであるMgに対する3価の陽イオンであるAlの比率が低くなり、層状複水酸化物の基層部分のプラス帯電が小さくなる。従って、イオンサイズや電子価数の小さいイオン、すなわち、ふっ化物イオンに対して効果が高くなるが、その一方で、xが小さすぎると絶対的なイオン交換容量が小さくなる。このように、化学式のxを前記範囲とすることでMgとAlのモル比を好適な範囲で調整でき、ふっ素吸着量を高めることができる。なお、xが0.32以下であるとふっ素吸着量をより高めることができるので好ましい。
【0027】
前記化学式で表される焼成物、前記半価幅の焼成物、および前記BET比表面積の焼成物は、前記した平均二次粒子径を有する焼成物と同様、工業的に合成したMg-Al系層状複水酸化物に対して水熱処理および焼成を含む所定の処理を行うことにより得ることができる。
前記化学式で表される焼成物は、工業的に合成したMg-Al系層状複水酸化物に対して水熱処理を行い、所定の条件下で焼成することにより得ることができる。具体的には、水熱処理を行ったMg-Al系層状複水酸化物を所定の条件下で焼成すると、下記の反応式に示すように、Mg-Al系層状複水酸化物の層間に存在する炭酸イオンと、結晶水および金属イオンと結合している水酸基とが離脱し、前記化学式で表される焼成物が生成される。
MgAl(OH)16CO・4HO→MgAl+CO↑+12HO↑
【0028】
前記化学式で表される焼成物(例えば、MgAl)は、雰囲気中のイオンや水分を取り込み、容易にハイドロタルサイト様構造を再構築することができる。さらに、この焼成物はプラスに帯電しており、ふっ化物イオンなどの陰イオンを吸着し易くなっている。そのため、この焼成物は、下記の反応式に示すように、雰囲気中の水分を取り込んで水酸化物に変化する際に、ふっ化物イオンをその層間に取り込むことができる。
MgAl+2F→MgAl(OH)16・4H
【0029】
また、Mg-Al系層状複水酸化物を製造する際に用いるMg塩は、硫酸マグネシウムおよび塩化マグネシウムのうちの少なくとも1種に由来するものであることが好ましい。一方、Mg-Al系層状複水酸化物を製造する際に用いるAl塩は、特に限定されないが、例えば、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、アルミン酸ソーダなどが挙げられる。Mg塩およびAl塩としてこれらを用いると、材料コストの抑制と入手容易性とを両立することができる。なお、Mg塩およびAl塩はこれらに限定されず、それぞれ任意の塩を用いることができる。
Mg-Al系層状複水酸化物の焼成物におけるMgとAlのモル比は、Mg:Al=6:1とすることが好ましい。このようにすると、例えば、地下水中のふっ化物イオンの濃度が低いときに好適にふっ化物イオンを吸着することができる。なお、従来品の浄化剤の多くはMgとAlのモル比はMg:Al=4:1である。Alの比率が多いほどマイナス帯電は多くなる、つまり、陰イオン交換容量の総量は大きくなる。理由は定かではないが、後記する実施例において、1価の陰イオンであるふっ素に対しては、Alの比率を抑えたMg:Al=6:1(モル比)の方が高いふっ素吸着量が得られた。
【0030】
〔浄化剤の製造方法〕
次に、本実施形態で使用する浄化剤の製造方法(以下、本製造方法と呼称することがある)について説明する。図1は、本実施形態で使用する浄化剤の製造方法の内容を説明するフロー図である。
図1に示すように、本製造方法は、溶解工程S1と、析出工程S2と、乾燥粉砕工程S3と、焼成工程S4とを含んでいる。
溶解工程S1は、Mg塩およびAl塩を溶液に溶解する工程である。これらの塩の溶解は、任意の容積および形状を有する容器で行うことができる。溶液としては、例えば水を用いることができるが、これに限定されず、これらの塩を溶解できる任意のものを用いることが可能である。溶液には、必要に応じて、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)などの炭酸塩を含めてもよい。溶解工程S1においては、これらの塩の溶解に際して、必要に応じて攪拌したり、加温したりすることができる。Mg塩およびAl塩はそれぞれ別々の溶液に溶解した後、それらを混合したものであってもよいし、同じ溶液に同時または異時に添加して溶解したものであってもよい。
【0031】
析出工程S2は、Mg塩およびAl塩を溶解した溶液のpHをアルカリ性にしてMg-Al系層状複水酸化物を析出させる工程である(湿式析出)。溶液のpHは、例えば、水酸化ナトリウムを添加して攪拌することによりアルカリ性にすることができる。なお、溶液のpHをアルカリ性にする薬剤はこれに限定されず、任意のものを用いることができる。析出したMg-Al系層状複水酸化物は、容器の底に沈殿し、スラリーとなる。得られたスラリーは、結晶成長をさせるために水熱処理をしてもよい。その後、スラリーを固液分離して水洗し、後記の乾燥粉砕工程S3を経て、Mg-Al系層状複水酸化物の粉体を得ることができる。水熱処理は、溶液が蒸発しないように加圧条件下で加熱・保持して処理を行う。水熱処理を行うことにより、半価幅は同程度のまま(すなわち、結晶性は同程度のまま)で、平均二次粒子径を小さく抑えることができる。これにより、ふっ素溶出量の抑制とふっ素吸着量の増大とを図ることができる。
【0032】
平均二次粒子径および半価幅<220>は、Mg-Al系層状複水酸化物の焼成物を製造する際の熱履歴やサンプル量などを適宜調整して、焼成物の結晶成長を制御することにより、得ることができる。なお、熱履歴の具体的な例としては、Mg-Al系層状複水酸化物を製造する際の結晶成長させるための水熱処理する際の処理温度や処理時間などの条件、Mg-Al系層状複水酸化物を焼成する際の昇温時間や保持温度、保持時間、降温時間等の焼成条件などが挙げられる。
Mg-Al系層状複水酸化物を製造する際の前記水熱処理の条件は、Mg-Al系層状複水酸化物の結晶成長を促進し得る条件であれば、特に制限されない。そのような水熱処理条件として、例えば、水熱処理温度は、100℃~200℃が好ましく、120℃~180℃がさらに好ましい。同様に、水熱処理時間は、3時間~30時間が好ましく、5時間~20時間がさらに好ましい。
【0033】
乾燥粉砕工程S3は、析出したMg-Al系層状複水酸化物のスラリーを乾燥して粉砕し、粉体にする工程である。乾燥粉砕工程S3では、まず、容器の底に沈殿したMg-Al系層状複水酸化物のスラリーと、スラリーの上部にある溶液とを分離する。これらの分離は、例えば、容器内に沈降したスラリーを引抜いて、スクリュープレス、ベルトプレス、フィルタープレスなどに供することにより行える。また、これらの分離は、スラリーの上部にある溶液を容器から排出することによっても行える。その後、スラリーを乾燥させる。スラリーの乾燥は、風乾、乾燥機などの適宜の手段で行うことができる。スラリーを乾燥させた後、粉砕して粉体にする。乾燥させたスラリーの粉砕は、ジョークラッシャー、ロールクラッシャー、ボールミルなどの適宜の粉砕機を1つまたは複数用いて行うことができる。また、乾燥粉砕工程S3におけるスラリーの乾燥と粉体への加工(粉砕)とは、例えば、スプレードライヤを用いることにより同時に行うこともできる。スプレードライヤは、沈殿したスラリーを熱室に噴霧(スプレー)して熱風と接触させることで粉体を得る装置である。
【0034】
焼成工程S4は、粉体にしたMg-Al系層状複水酸化物を焼成する工程である。
粉体にしたMg-Al系層状複水酸化物からMg-Al系層状複水酸化物の焼成物を製造する際の焼成条件は、当該焼成物への熱分解が完了し得るものであれば、特に制限されない。そのような焼成条件として、例えば、焼成温度(昇温後の保持温度)は、200℃~900℃が好ましく、400℃~800℃がより好ましく、500℃~800℃がさらに好ましく、600℃~700℃がよりさらに好ましい。同様に、焼成時間(焼成温度の保持時間)は、0.5時間~5時間が好ましく、1時間~3時間がより好ましい。さらに、常温から焼成温度までの昇温時間は、焼成温度や保持時間にもよるが、0.5時間~5時間が好ましく、1時間~3時間がより好ましい。また、焼成温度から常温までの降温時間は、焼成温度や保持時間にもよるが、1時間~12時間が好ましく、2時間~10時間がより好ましい。
【0035】
焼成物への熱分解が完了しているかどうかの確認は、X線回折定性分析により行うことができる。例えば、試料を粉末試料成形機(PX-700)の試料ホルダーに充填し、X線回折装置(RIGAKU UltimaIV)を用いて分析し、以下の条件にて測定した回折パターンから焼成物への熱分解が完了しているかどうかを確認することができる。
測定角度:5.0-70.0°
サンプリング幅:0.0100
スキャンスピード:10.0°/分
管電圧:40kV
管電流:20mA
本製造方法は、以上に述べた各工程を行うことにより、前述した平均二次粒子径などを備えた浄化剤を好適に製造することができる。
【0036】
〔地下水浄化体〕
次に、本実施形態に係る地下水浄化体について説明する。図2は、本実施形態に係る地下水浄化体1の使用態様の一例を説明する概略斜視図である。地下水浄化体1は、前述した浄化剤を用いる。図2に示す例では、ふっ化物イオンの発生源となる汚染源2が工場の敷地S内の地中に存在している。そして、この汚染源2から発生した、または当該汚染源2の付近を通過して汚染された汚染地下水3が流れている。地下水浄化体1は、汚染地下水3の流れを妨げるように、汚染地下水3の流れの方向に対して直角に、かつ壁状に設置されている。図2では、地下水浄化体1は任意の2か所を汚染源2に向けて所定角度屈曲させて設けており、中央部の地下水浄化体1aと、その両側の側部の地下水浄化体1b、1cとで構成されている。この地下水浄化体1では、中央部の地下水浄化体1aに前述した浄化剤が配置されており、屈曲した両側の側部の地下水浄化体1b、1cは鋼矢板で形成されている。これにより、汚染地下水3を効率良く中央部の地下水浄化体1aに導くことができる。また、このようにすると、地下水浄化体1の全体に浄化剤を使用する場合と比較して、浄化剤の使用量を減らすことができるので、コスト低減を図ることができる。そして、地下水浄化体1は、中央部の地下水浄化体1aの浄化剤により汚染地下水3に含まれるふっ化物イオンを吸着させて浄化し、浄化地下水4とすることができる。
【0037】
前記した態様の地下水浄化体1(中央部の地下水浄化体1a)は、浄化剤を含む柱状体または壁状体を地中に配置することにより成すことができる。柱状体および壁状体の地下水浄化体1の配置は、いずれも任意の方法で行うことができる。なお、後述する地下水浄化方法において、柱状体の地下水浄化体1の配置の一例を説明する。
【0038】
図3は、本実施形態に係る地下水浄化体1の浄化剤の一配置例を説明する概略図である。図4は、本実施形態に係る地下水浄化体1の浄化剤の他の一配置例を説明する概略図である。
柱状体の態様を採用する場合は、図3に示すように、柱状体1dを複数用い、互いに当接させて列状配置するように設けることが好ましい。図3に示すように、柱状体1dを複数用い、互いに当接させて列状配置する場合は、地下水浄化体1に導かれる汚染地下水3のほぼ全てを浄化剤と接触させることができるので、より高度な浄化が可能となる。
また、柱状体の態様を採用する場合は、図4に示すように、柱状体1dを複数用い、間欠的に列状配置してもよい。図4に示すように、柱状体1dを複数用い、間欠的に列状配置する場合は、浄化剤の使用量を少なくできるので、コスト低減を図ることができる。なお、図4に示す態様では、汚染地下水3の全てを浄化剤により浄化できるとは限らないが、汚染地下水3に含まれるふっ化物イオン濃度が比較的低い場合には、汚染地下水3の浄化を十分に成し得る。図4に示す態様の場合は、汚染地下水3の浄化を十分に成し得る間隔(密度)で柱状体1dを地中に設置するとよい。
【0039】
また、柱状体1dは、透水性基材を含んでいてもよい。透水性基材としては、例えば、砂、砂利、砕石、礫などの地盤材料、活性炭などの植物材料、多孔質コンクリートなどの人工構造物などが挙げられる。柱状体1dが透水性基材を含んでいると、汚染地下水3の通水性が高まるので、地下水浄化体1によるふっ化物イオンの浄化効率を向上させることができる。また、地下水浄化体1の構成材料間における目詰まりを防止できる。そのため、汚染地下水3の浄化能力を長期間に渡って持続させることができる。壁状体である場合も同様に透水性基材を含んでいてよいことは言うまでもない。
【0040】
なお、地下水浄化体1は、前述した態様、すなわち、中央部の地下水浄化体1aおよび側部の地下水浄化体1b、1cとする構成に限定されない。地下水浄化体1の構成は、屈曲させないストレートな壁状に設けることもできる。また、側部の地下水浄化体1b、1cは鋼矢板ではなく、中央部の地下水浄化体1aと同様に、浄化剤を用いた柱状体1dまたは壁状体で形成してもよい。
【0041】
(地下水浄化方法)
次に、本実施形態に係る地下水浄化方法(以下、本浄化方法と呼称することがある)について説明する。図5は、本実施形態に係る地下水浄化方法の内容を説明するフロー図である。図6(a)は、掘削工程S11において、縦孔を掘削する様子を説明する概略断面図であり、図6(b)および図6(c)は、形成工程S12において、縦孔に浄化剤5を配置して地下水浄化体1を形成する様子を説明する概略断面図である。また、図7も、形成工程S12において、縦孔に浄化剤5を配置して地下水浄化体1を形成する様子を説明する概略断面図である。
図5に示すように、本浄化方法は、掘削工程S11と、形成工程S12と、浄化工程S13とを含んでいる。
【0042】
掘削工程S11は、地盤の表面から所定の深さまで縦孔を掘削する工程である。縦孔の掘削は、一般的な手法で行うことができる。例えば、掘削工程S11における縦孔の掘削は、図6(a)に示すように、ケーシングパイプPを地盤Gに挿入しながら土砂を掘削し、ケーシングパイプP内の土砂を取り除いて中空にすることにより行うことができる。
形成工程S12は、掘削工程S11で掘削した縦孔に、前述した浄化剤5を配置して地下水浄化体1を形成する工程である。形成工程S12では、図6(b)に示すように、浄化剤5をケーシングパイプP内に投入し、その後、図6(c)に示すように、ケーシングパイプPを引き抜き抜いて浄化剤5からなる柱状体1dを形成する。これにより、地盤Gに浄化剤5を配置して地下水浄化体1を形成することができる。なお、地下水浄化体1、柱状体1dおよび浄化剤5は、透水性基材5aを含んでいてもよい。
そして、同様の操作で地盤Gに複数の柱状体1dの地下水浄化体1を互いに当接させて列状配置することで、図7図3に示すように、地下水浄化体1を壁状に形成できる。また、同様の操作で地盤Gに複数の柱状体1dの地下水浄化体1を間欠的に列状配置することで、図4に示すように、地下水浄化体1を間欠的かつ壁状に形成できる。
浄化工程S13は、形成工程S12で形成した地下水浄化体1に地下水、すなわち、汚染地下水3を通水させて地下水を浄化する浄化工程である。浄化工程S13によって浄化された地下水が浄化地下水4である。
【0043】
以上に説明したように、本実施形態によれば、材料由来のふっ素溶出が少なく、かつ、ふっ素吸着量が大きい浄化剤を使用した地下水浄化体1および地下水浄化方法を提供できる。前記浄化剤は、本実施形態で説明したMg-Al系層状複水酸化物の焼成物を含んでなるふっ素吸着剤である。以上に説明した浄化剤、浄化剤の製造方法、地下水浄化体1および地下水浄化方法は、材料由来のふっ素溶出が少ないので、地下水のふっ化物イオン濃度をたとえ一時的(例えば、使用初期の数か月)であっても上昇させ難い。また、以上に説明した浄化剤、浄化剤の製造方法、地下水浄化体1および地下水浄化方法はふっ素吸着量が大きいので、地下水浄化体1の耐用年数を向上させることができる。地下水浄化体1などの地下水拡散防止対策では、地下水の流速とふっ化物イオン濃度に設計耐用年数を乗じた負荷量に対して、十分な吸着量が確保できる吸着剤(浄化剤)配合量を設定して、施工時に地中に供給することになる。本実施形態によれば、ふっ素吸着量が大きいため、既製品と同じ配合量で耐用年数が向上することに寄与する。また、本実施形態によれば、一定の耐用年数を目標とした場合に、実規模で均一に混合することが可能な範囲で吸着剤(浄化剤)の使用量(=配合量)を抑制することが可能となるため、コストダウンに寄与する。
【実施例0044】
次に、本発明に関する実施例を説明する。
〔1〕既製品の合成ハイドロタルサイト(層状複水酸化物)およびその焼成物由来のふっ素溶出量
表1に示す既製品の層状複水酸化物およびその焼成物(層状複水酸化物A~Cおよび層状複水酸化物Aの焼成物、層状複水酸化物A’の焼成物)に対して、ふっ素溶出量を測定した。その結果を表1に示す。ふっ素溶出量の測定は、土壌汚染対策法の環告18号準拠の溶出量試験(JIS K 0102:2019の34.4に準拠)により行った。なお、既製品の層状複水酸化物A~Cはいずれも、Mg塩溶液とAl塩溶液とを混合し、(必要に応じて)炭酸塩を添加し、pHがアルカリ性となるように調整して層状複水酸化物を湿式析出させてこれを沈殿させ、固液分離した後、スラリーを乾燥して得られたものである。そして、その焼成物は、得られた層状複水酸化物の乾燥物を焼成処理した後、粉砕処理して得られたものである。
表1に示すように、ふっ素溶出量が土壌環境基準値を超過する資材(試料No.2)があった。また、ふっ素溶出量を管理する観点での製造管理がなされていないため、製造ロットでのばらつきも大きい結果であった(試料No.4、No.5)。なお、層状複水酸化物Aの焼成物と層状複水酸化物A’の焼成物との違いは、製造ロットが異なっていることである。
【0045】
【表1】
【0046】
〔2〕既製品の層状複水酸化物の焼成体(ふっ素処理剤)を使用したカラム試験
直径4cm×長さ30cmの円筒形ガラスカラムに、ふっ素処理剤(表1のNo.5)と砂を混合した浄化剤を充填したものを作製した。そして、カラム下端から上端に向けてふっ素濃度1.5mg/L濃度の溶液を通水し、カラム出口におけるふっ素濃度を経時的に測定した。その結果を図8に示す。図8は、既製品の複水酸化物の焼成体(ふっ素処理剤(表1のNo.5))を使用したカラム試験の結果を示すグラフである。図中の横軸は間隙置換回数(PV=Pore Volume)である。間隙置換回数とは、カラム内に充填された浄化剤の間隙体積が入れ替わった回数をいい、累積通水量を間隙体積で除して算出される。図中の縦軸はカラム出口のふっ素濃度(カラム出口F濃度)である(mg/L)。図中に引いた破線は、現在、地下水環境基準値や水質環境基準値として設定されている0.8mg/Lを示している。
【0047】
図8に示すように、既製品のふっ素処理剤(表1のNo.5)は、PV=3くらいまでの初期の段階で、カラム出口におけるふっ素濃度の低下が不十分であり、浄化剤由来のふっ素による濃度嵩上げの影響が出ていた。通水を継続すると濃度は低下していくものの、一般的に地下水の流動は緩慢であるため、初期の一定期間(数か月など)にわたって性能を発揮できず、地下水環境基準値などを達成できない期間が生じる可能性があることがわかった。
【0048】
〔3〕焼成温度と材料由来のふっ素溶出量およびふっ素吸着性能の評価
試料No.3の層状複水酸化物Cを用いて表2に示す焼成条件(400℃、600℃、700℃)で焼成し、焼成物の試験体を製造した。層状複水酸化物Cの焼成物について、焼成条件をパラメータとして物性および性状を比較した結果を表2に示す。物性および性状として、平均二次粒子径(μm)、比表面積(BET)(m/g)、半価幅<220>(°)、ふっ素溶出量(mg/L)およびふっ素吸着量(mg/g)を測定した。
【0049】
なお、表2中のMg/Alモル比は、層状複水酸化物焼成品の一般的な式、(1-x)MgO・x/2(Al)から得られるMgとAlの比率を示している。式中でx=0.25のときに、Mg/Alモル比は6.0となる。また、x=0.32のときにMg/Alモル比は4.3となる。
モル比は、試料約500mgを酸で溶解し、0.01moL/Lのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)溶液を用いてキレート滴定を行い、溶液中のMgおよびAlのモル比(Mg/Al)を算出した。
【0050】
平均二次粒子径は、まず、試料を0.2w/v%ヘキサメタリン酸ナトリウム溶液に加えて、振幅数15μmの超音波で3分間分散処理した。その後、マイクロトラック・ベル株式会社製「MT3300EXII」を用い、溶媒の屈折率を1.33、物質の屈折率を1.57と設定してレーザー回折散乱法にて測定した。
比表面積(BET)は、JIS Z 8830:2013に準拠したBET法で測定した比表面積を示している。具体的には、比表面積(BET)は、マイクロトラック・ベル株式会社製「Belsorp-MR6」を用いて、混合ガス(N30%+He70%)を使用して1点法にて測定した。
【0051】
半価幅<220>は、試料を粉末試料成形機(PX-700)の試料ホルダーに充填し、X線回折装置(RIGAKU UltimaIV)を用いて、以下の測定条件でX線回折パターンを測定し、そのパターンを当該X線回折装置の解析ソフトにて処理することで、MgO(220)面の半価幅を求めた。
測定角度:55.0-70.0°(MgO(220)面:62.3°付近)
サンプリング幅:0.0060
スキャンスピード:0.5°/分
管電圧:35kV
管電流:15mA
【0052】
ふっ素溶出量は、〔1〕と同様、土壌汚染対策法の環告18号に準拠(JIS K 0102:2019の34.4に準拠)して測定した。
ふっ素吸着量は、以下の方法で評価した。
ふっ化ナトリウムで調整した模擬溶液に対して、層状複水酸化物Cの焼成物を(溶媒/焼成物)比=1000(質量比)の条件で添加した。そして、160回/分の振とう条件で18時間反応させた(25℃)。次いで、遠心分離(10,000rpm×10分)後の上澄み液を0.2μmのフィルターでろ過した。ろ過後の溶液のふっ素濃度をJIS K 0102:2019の34.4に準拠して測定し(具体的には、「ランタン-アリザリンコンプレキソン発色による流れ分析法」で測定し)、溶液濃度の差から、ふっ素吸着量(mg/g)を計算した。
【0053】
【表2】
【0054】
表2に示すように、平均二次粒子径を一定にし、焼成温度を変化させると、ふっ素溶出量は600℃より高い温度で抑制された。その一方で、ふっ素吸着量(最大吸着量)は600℃で大きくなり、700℃では低減傾向を示した。最大吸着量で40mg/gを要求性能とすると、ふっ素吸着量は、600℃~700℃が好適であった。また、ふっ素溶出量の抑制は、600℃~700℃が好適であった。従って、ふっ素吸着量およびふっ素溶出量の抑制の両立を考えた場合、600℃~700℃とするとよいことがわかった。
【0055】
一方、表3に示す焼成条件(400℃、500℃、600℃、700℃)で試料No.1の層状複水酸化物Aを焼成し、焼成物の試験体を得た。表3は、層状複水酸化物Aの焼成物について、焼成条件をパラメータとした物性および性状を示している。なお、物性および性状は前述と同様にして測定した。
表3に示す試料No.1の層状複水酸化物Aの焼成物に対する試験結果と、表2に示す試料No.3の層状複水酸化物Cの焼成物に対する試験結果とを比較すると、材料の大きな違いは、Mg/Alモル比、Mg源の化合物(後述する表4参照)、平均二次粒子径であった。表3に示すように、試料No.1の層状複水酸化物Aの焼成物のふっ素溶出量は600℃より高い温度で低減傾向を示すものの、相対的には層状複水酸化物Cの焼成物より高かった。試料No.1の層状複水酸化物Aの焼成物のふっ素溶出量が高かった理由としては、平均二次粒子径の違いが大きく影響していると考えられた。なお、ふっ素吸着量は600℃~700℃で最大化するが、層状複水酸化物Cの焼成物よりも低かった。
【0056】
【表3】
【0057】
〔4〕平均二次粒子径と半価幅(結晶性)に着目した焼成物の試験体の種類と性能評価結果
表4は、焼成温度600℃とし、平均二次粒子径を小さくした実施例1~4と、平均二次粒子径を大きくした比較例1~4とを一覧にしたものである。実施例1~4は、結晶析出段階(析出工程S2)で水熱処理を実施して製造した浄化剤である。比較例1~4は、結晶析出段階(析出工程S2)で水熱処理を実施しないで製造した浄化剤である。これらの物性および性状は前記と同様にして測定した。表4中の「N.D.」は検出限界未満であり、検出されなかったことを示している。
【0058】
層状複水酸化物Aの焼成物における実施例3は、平均二次粒子径を0.5μmまで小さくするとともに、水熱処理により半価幅も所定の範囲に制御(一定の結晶性を保った性状)できていた。実施例3は、ふっ素溶出量が抑制され、ふっ素吸着量も40mg/g以上となり、ふっ素溶出抑制およびふっ素吸着量が両立していることが確認された。
同様に、層状複水酸化物B、C、Dについても、実施例1、2、4では、平均二次粒子径を小さくするとともに、水熱処理により半価幅も所定の範囲に制御できていた。実施例1、2、4は、ふっ素溶出量を抑制しつつ、ふっ素吸着量を高く維持でき、これらの両立が可能となる結果であった。つまり、実施例1~4は、材料からのふっ素溶出を抑制し、かつふっ素吸着容量の大きいMg-Al系層状複水酸化物の焼成物を含んでなるふっ素吸着剤であることが確認された。
なお、マグネシウム塩として塩化マグネシウムを使用し、Mg/Alモル比=6.0とした層状複水酸化物Cの焼成物に係る実施例1がふっ素吸着量52mg/gと最も大きく、ふっ素溶出量も0.12mg/Lと低くなっていることが確認された。
【0059】
【表4】
【0060】
〔5〕ふっ素吸着性能の評価試験
表4に示す実施例1(〔4〕で検討した焼成物の中で最大吸着量が得られたもの)と比較例3(既存製品の焼成物)とについて、別途、吸着等温線を作成した結果を図9に示す。図9は、表4に示す実施例1および比較例3の吸着等温線を示したグラフである。図中の横軸は液相濃度(mg/L)を示し、縦軸はふっ素吸着量(mg/g)を示している。
横軸の液相濃度を環境基準値の0.8mg/Lとした場合の吸着量(図9の近似式中のxに0.8を代入して計算)は、実施例1で16.8mg/g、比較例3で4.1mg/gであった。実施例1は、比較例3のおよそ4倍の性能が得られることが確認された。
【0061】
以上、本発明の実施形態および実施例について説明したが、本発明は、前述の実施形態および実施例に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
例えば、本実施形態で使用する浄化剤は、地下に配置して地下水中のふっ化物イオンを吸着させ、地下水を浄化するために用いるが、その用途はこれに限定されない。前述したように、浄化剤を構成するMg-Al系層状複水酸化物の焼成物は、層間に交換可能な陰イオンを有しており、これが交換されることによりふっ化物イオンを吸着する。つまり、交換される陰イオンはふっ化物イオンに限定されるものではなく、その対象はCl、SO 2-、PO 3-、NO 、NO などをはじめとする各種陰イオン性物質とすることができる。そして、本実施形態に係る浄化剤はこれらの浄化剤としても好適に用いることができる。また、本実施形態に係る地下水浄化体および地下水浄化方法は、そのような浄化剤を使用するので、Cl、SO 2-、PO 3-、NO 、NO などをはじめとする各種陰イオン性物質を浄化するために好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0062】
1、1a、1b、1c 地下水浄化体
1d 柱状体
2 汚染源
3 汚染地下水
4 浄化地下水
5 浄化剤
5a 透水性基材
S 敷地
G 地盤
P ケーシングパイプ
S1 溶解工程
S2 析出工程
S3 乾燥粉砕工程
S4 焼成工程
S11 掘削工程
S12 形成工程
S13 浄化工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9