(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056527
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】カラーセンター特性の測定方法および測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20240416BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163487
(22)【出願日】2022-10-11
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、防衛装備庁、安全保障技術研究推進制度委託事業「海底・地下での長距離量子センシングに関する研究」委託研究、及び、令和4年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業「量子計測・センシング技術研究開発」のうち「固体量子センサの高度制御による革新的センサシステムの創出」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】増山 雄太
(72)【発明者】
【氏名】大島 武
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043CA05
2G043EA01
2G043GA01
2G043HA01
2G043HA02
2G043HA07
2G043HA09
2G043JA01
2G043KA09
2G043LA01
(57)【要約】
【課題】カラーセンター特性の効率的な測定を図る。
【解決手段】カラーセンター特性の測定方法は、光ビーム(LL)を対物レンズ部(13)で集光して試料(SA)に照射することによって試料のカラーセンター特性を測定する測定方法であって、試料(SA)の測定長(LM)に基づいて、試料に照射する光ビームのレイリー長(Zr)の範囲を決定する工程と、集光された光ビームのレイリー長が、決定された範囲に含まれるように、対物レンズ部を設定する工程と、を有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源からの光ビームを対物レンズ部で集光して試料に照射することによって前記試料のカラーセンター特性を測定する測定方法であって、
前記試料の厚さ方向の測定範囲の長さである測定長に基づいて、前記試料に照射する光ビームのレイリー長の範囲を決定する工程と、
前記対物レンズ部によって集光された光ビームのレイリー長が、前記レイリー長の範囲に含まれるように、前記対物レンズ部を設定する工程と、
を有する、測定方法。
【請求項2】
前記レイリー長の範囲は、前記測定長の0.1倍以上5倍以下である、請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
前記レイリー長の範囲は、前記試料の厚さの1/8以上5倍以下である、請求項1に記載の測定方法。
【請求項4】
前記対物レンズ部を設定する工程は、
前記レイリー長の範囲に対応する焦点距離の範囲を決定する工程と、
前記焦点距離の範囲内の焦点距離となるように、前記対物レンズ部を設定する工程と、を有する、
請求項1に記載の測定方法。
【請求項5】
前記設定された対物レンズ部の焦点距離は、以下の式により規定される、請求項4に記載の測定方法。
F=(π×Zr/λ)1/2×(D0/2)
F: 対物レンズ部の焦点距離
Zr: レイリー長
λ: 光ビームの波長
D0: 対物レンズ部に入射する光ビームの直径
【請求項6】
前記レイリー長の範囲を決定する工程は、
前記対物レンズ部によって集光された光ビームのレイリー長と、前記集光される光ビームによって励起された試料からの蛍光の量との関係を導出する工程と、
前記導出された関係および前記測定長に基づいて、前記レイリー長の範囲を決定する工程と、
を有する、請求項1に記載の測定方法。
【請求項7】
前記試料は、前記光ビームによって励起されて、蛍光を発するNVセンターを有し、
前記関係を導出する工程は、
前記集光される光ビームによって励起された前記試料のNVセンターからの蛍光の量を算出する工程を有する、請求項6に記載の測定方法。
【請求項8】
前記関係を導出する工程は、
前記試料中のNVセンターの偏極率を算出する工程と、
前記算出された偏極率に基づいて、前記算出された前記蛍光の量を補正する工程と、
を有する、請求項7に記載の測定方法。
【請求項9】
試料を保持するホルダと、
光源からの光ビームを前記試料に集光させる対物レンズ部と、
前記対物レンズ部によって集光された光ビームによって励起された前記試料の状態を測定する測定部と、
プロセッサと、
を備え、
前記プロセッサは、
前記試料の厚さ方向の測定範囲の長さである測定長に基づいて、前記試料に照射する光ビームのレイリー長の範囲を決定する工程と、
前記対物レンズ部によって集光された光ビームのレイリー長が、前記レイリー長の範囲に含まれるように、前記対物レンズ部を設定する工程と、
を実行する、カラーセンター特性の測定装置。
【請求項10】
前記対物レンズ部は、焦点距離を変更可能であり、
前記対物レンズ部を設定する工程は、
前記レイリー長の範囲に対応する焦点距離の範囲を決定する工程と、
前記焦点距離の範囲内の焦点距離となるように、前記対物レンズ部を設定する工程と、を有する、
請求項9に記載の測定装置。
【請求項11】
前記測定部は、
前記光源と、
光検出器と、
前記光源からの光ビームを前記対物レンズ部に導き、かつ、前記対物レンズ部によって集光された光ビームによって前記試料から発せられる蛍光を前記光検出器に導く、ダイクロイック・ミラーと、
を有する、請求項9に記載の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラーセンター特性の測定方法および測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料に光を照射して、試料のカラーセンター特性を測定することがある。カラーセンター(一例として、NVセンター)を有する試料にレーザビームを照射すると、カラーセンターが光によって励起され、量子偏極を起こす。この量子偏極は、蛍光や光検出磁気共鳴を用いて、測定することができる(非特許文献1、2参照)。
【0003】
ここで、カラーセンター特性の空間的な分布を測定する場合、例えば、共焦点顕微鏡を用いて、光を集光し、この集光点を走査することで、カラーセンター特性の分布を測定することが考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Masuyama, Y., et al. "Extending coherence time of macro-scale diamond magnetometer by dynamical decoupling with coplanar waveguide resonator." Review of Scientific Instruments 89.12 (2018): 125007.
【非特許文献2】El-Ella, Haitham AR, et al. "Optimised frequency modulation for continuous-wave optical magnetic resonance sensing using nitrogen-vacancy ensembles." Optics express 25.13 (2017): 14809-14821.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、共焦点顕微鏡を用いると、集光範囲(すなわち、測定範囲)が試料の厚み方向のごく一部に限られる。その結果、試料の広い範囲についてカラーセンター特性の分布を測定しようとすると多大な時間を要することになる。一方、集光範囲を広げすぎると、光の強度が低下し、光励起が実質的に生じなくなり、カラーセンター特性の測定自体が困難となる。
【0006】
本発明の一態様は、カラーセンター特性の効率的な測定を図った測定方法および測定装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るカラーセンター特性の測定方法は、光源からの光ビームを対物レンズ部で集光して試料に照射することによって前記試料のカラーセンター特性を測定する測定方法であって、前記試料の厚さ方向の測定範囲の長さである測定長に基づいて、前記試料に照射する光ビームのレイリー長の範囲を決定する工程と、前記対物レンズ部によって集光された光ビームのレイリー長が、前記レイリー長の範囲に含まれるように、前記対物レンズ部を設定する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、カラーセンター特性の効率的な測定を図った測定方法および測定装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係るカラーセンター特性の測定装置を表す図である。
【
図4】焦点深度と全蛍光量の関係を表すグラフである。
【
図5】カラーセンター特性の測定装置の設定手順の一例を表すフロー図である。
【
図7】ビーム半径と有効体積の関係を表すグラフである。
【
図8】焦点深度と有効体積の関係を表すグラフである。
【
図13】試料に照射される光ビームと蛍光との関係を表す図である。
【
図14】ビーム半径と検出率の関係を表すグラフである。
【
図15】ビーム半径と有効信号量の関係を表す図である。
【
図17】量子コヒーレンス時間T2の測定結果を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るカラーセンター特性の測定装置10を表す図である。
【0011】
測定装置10は、レーザ光源11、ダイクロイック・ミラー12、対物レンズ部13、高周波回路14、フィルタ15、レンズ16、光検出器17、分光器18、高周波発生器21、アンプ22、波形発生器23、光変調器24、高周波変調器25、制御部26を有する。試料SAは、高周波回路14上に設置される。すなわち、高周波回路14は、試料を保持するホルダとして機能する。
【0012】
測定装置10は、全体として、顕微鏡のような形態とすることができる。一方、測定装置10は、対物レンズ部13および試料フォルダ(ここでは、高周波回路14)の装置本体10Bと、それ以外のアダプタ部10Aに区分してもよい。装置本体10Bとアダプタ部10Aを分離可能として、顕微鏡のような形態の装置本体10Bに、アダプタ部10Aを取り付けて、測定装置10を構成してもよい。この場合、アダプタ部10A、例えば、レーザ光源11、ダイクロイック・ミラー12は、装置本体10Bに着脱可能な測定部として機能する。なお、アダプタ部10A全体を測定部としてもよい。
【0013】
測定装置10は、試料SAに光を集光して測定を行う点で、共焦点顕微鏡(CFM)と類似する。但し、後述のように、共焦点顕微鏡とは、光の集光範囲(焦点距離F)が大きく異なる。これに伴い、測定装置10の光検出器17は、イメージング素子とするよりも、単一の検出器であることが好ましい。なお、この詳細は後述する。
【0014】
試料SAは、量子材料であり、レーザ光LL(以下、光ビームともいう)によって励起するカラーセンターを有する。カラーセンターの一例として、NVセンター(窒素-空孔センタ:Nitrogen-vacancy center)を挙げることができる。NVセンターは、窒素原子と、この窒素原子に隣接する空孔との複合欠陥である。試料SAをダイヤモンドとし、窒素原子を注入することで、ダイヤモンドの炭素原子の一部が窒素原子と置き換わり、NVセンターが形成される。NVセンターは、電子1個を捕獲して負に帯電したときに、磁気的な性質を示す。
【0015】
レーザ光源11は、試料SAを励起するためのレーザ光LLを発する光源である。レーザ光源11は、波長固定レーザ、波長可変レーザ、および、多波長レーザのいずれを用いてもよい。多波長レーザの例として、Coherent社の「OBIS LS/LXレーザ」を挙げることができる。
【0016】
レーザ光源11から発したレーザ光LLは、光変調器24、ダイクロイック・ミラー12、対物レンズ部13を通って、試料SAに照射(集光)される。レーザ光LLが照射された試料SA中のカラーセンターは、蛍光LFを発する。この蛍光LFは、対物レンズ部13、ダイクロイック・ミラー12、フィルタ15、レンズ16を通って、光検出器17または分光器18に入射して、測定される。
【0017】
光路OF1~OF3は、レーザ光LLまたは蛍光LFが通過する経路であり、実質的に物が配置されない自由空間とすることができる。なお、光路OF1、OF3に光ファイバを用いてもよい。例えば、光路OF1にシングルモードの光ファイバを、光路OF3(さらに、レンズ16と光検出器17間、レンズ16と分光器18間、以下、「光路OF3等」と称する)にマルチモードの光ファイバを配置して、レーザ光LL等を光ファイバによって伝送してもよい。光路OF3等に、マルチモードの光ファイバを用いているのは、マルチモードの光ファイバは、径が大きく、試料SAの集光範囲(励起範囲、測定範囲)を広くすることができるためである。
【0018】
ダイクロイック・ミラー12は、レーザ光源11からのレーザ光LLを透過し、試料SAから発せられる蛍光LFを反射する。この結果、ダイクロイック・ミラー12は、レーザ光源11からの光ビーム(レーザ光LL)を対物レンズ部13に導き、かつ、対物レンズ部13によって集光された光ビームによって試料SAから発せられる蛍光LFを光検出器17に導く機能を営む。
【0019】
対物レンズ部13は、レーザ光源11(光源)からのレーザ光LL(光ビーム)を試料に集光させる。対物レンズ部13は、制御部26(プロセッサ)によって、対物レンズ部13によって集光された光ビームのレイリー長Zrが、所定のレイリー長Zrの範囲に含まれるように、(焦点距離Fが)設定される。なお、この詳細は、後述する。
【0020】
詳細は後述するが、レイリー長Zrは、後述のステップS1~S19のような演算を毎回行わず決定することができる。すなわち、レイリー長Zr、結局、対物レンズ部13の焦点距離は、測定長LMと対応付けられた対応テーブルによって表すことができる。制御部26は、この対応テーブルを記憶するメモリを有し、この対応テーブルを用いて、対物レンズ部13の焦点距離を設定等してもよい。また、この対応テーブルを映像、音声に表して、オペレータが認識可能とし、オペレータが対物レンズ部13の焦点距離を設定等してもよい。
【0021】
なお、測定長LM(例えば、試料SAの厚さ)に基づいて、対物レンズ部13の焦点距離の設定(対物レンズの交換を含む)を行うことは、人的、制御部26のいずれで行うかによらす、本実施形態に係るカラーセンター特性の測定方法の範囲に含まれ得る。
【0022】
対物レンズ部13は、レーザ光LLを集光する対物レンズを有する。対物レンズ部13は、焦点距離を変更可能である。例えば、対物レンズ部13は、焦点距離が可変の対物レンズを有するか、または、焦点距離の異なる複数の対物レンズを交換して使用可能としてよい。焦点可変レンズとして、例えば、Optotune社の「EL-16-40-TC」を用いることができる。後述のように、試料SAの厚さ方向の測定範囲の長さである測定長LMに基づいて、対物レンズ部13(すなわち、対物レンズ)の焦点距離Fを設定することで、測定長LMに対応する測定領域にレーザ光LLを集光させ、試料SAのカラーセンター特性の効率的な測定が可能となる。
【0023】
高周波回路14は、試料SAに高周波発生器21からの高周波(一例として、マイクロ波)を照射する。
フィルタ15は、例えば、蛍光LFの波長域の光を透過し、それ以外の波長域の光を遮断するバンドパスフィルタである。
レンズ16は、試料SAからの蛍光LFを光検出器17、または分光器18に集光する。なお、レンズ16によって集光された蛍光LFは、光検出器17、分光器18を切り替えて入射させることができる。
【0024】
光検出器17は、レンズ16によって集光された試料SAからの蛍光LFを受光し、蛍光LFの強度を測定する。光検出器17は、例えば、フォトダイオード(一例として、アバランシェ・フォトダイオード)を用いることができる。フォトダイオードによって、試料SAの比較的広い集光範囲全体からの蛍光量を測定できる。すなわち、光検出器17にはCCDのようなイメージング素子を用いなくてもよい。試料SA(NVセンター)の励起特性の測定には、イメージング素子よりも、単一の検出器であるほうが好ましい。試料SAのある程度広い測定範囲からの蛍光を纏めて測定できるからである。
【0025】
高周波発生器21は、レーザ光LLによって励起した試料SA中のカラーセンターを共鳴(電子スピン共鳴:ESR)させるための電磁波(高周波)を発生する。高周波発生器21からの高周波は、アンプ22によって増幅され、高周波回路14に到達し、高周波回路14から試料SAに照射される。
【0026】
波形発生器23は、種々の波形の信号を発生する。波形発生器23からの信号は、光変調器24でのレーザ光LLの変調、高周波変調器25での高周波の変調に用いられる。
【0027】
制御部26は、プロセッサおよびメモリを有し、測定装置10での測定を制御する。制御部26は、後述の設定手順の少なくとも一部を実行することができる。例えば、制御部26を構成するプロセッサは、試料SAの厚さ方向の測定範囲の長さである測定長LMに基づいて、試料SAに照射する光ビームLLのレイリー長Zrの範囲を決定する工程と、対物レンズ部13によって集光された光ビームLLのレイリー長Zrが、決定されたレイリー長Zrの範囲に含まれるように、対物レンズ部13を設定する工程を実行する。さらに、対物レンズ部を設定する工程は、レイリー長Zrの範囲に対応する焦点距離Fの範囲を決定する工程と、焦点距離Fの範囲内の焦点距離となるように、対物レンズ部13を設定する工程と、を有してもよい。なお、制御部26に表示装置(例えば、液晶表示装置、EL表示装置)、入力装置(例えば、キーボード、マウス)が接続され、画像の表示、情報の入力を可能としてもよい。
【0028】
(試料の測定範囲の厚さと光ビーム(レーザ光LL)の集光範囲の関係)
図2は、試料SAに照射される光ビームLLを表す図である。
図2の(a)、(b)はそれぞれ、実施形態(測定装置10)での光ビームLL、比較例(通常の共焦点顕微鏡)での光ビームLLxを表す。ここでは、試料SAの厚さTSを測定長LM(試料SAの厚さ方向の測定範囲の長さ)としている。但し、試料SAの厚さ方向の一部を測定長LMとしてもよい。試料SAの厚さTSが未知である場合には、測定装置10を用いた測定を実施する前に、試料SAの厚さTSを測定する工程を実施してもよい。
【0029】
図2に示されるように、実施形態では、厚さTSに対して、光ビームLLのビーム半径Rは比較的均一であり、ウェスト半径W(集光点での光ビームLLの半径)から大きく変化しないのに対して、比較例では、厚さTSに対して、ビーム半径Rは、ウェスト半径Wxから大きく変化する。この結果、実施形態では、厚さTSに対して、試料SAが均一に励起されるのに対して、比較例では、試料SAの励起は不均一となる。この結果、実施形態での測定範囲は、厚さTS全体であるのに対して、比較例での測定範囲は、厚さTSのごく一部(集光点近傍のみ)となる。
【0030】
この測定範囲の相違は、対物レンズの焦点距離Fに起因する。
図2に示すように、焦点距離Fを比較的大きくすることで、焦点距離Fxが小さい場合よりも、試料SAの測定長LM(試料SAの厚さ方向の測定範囲の長さ)を大きくすることができる。
【0031】
図3は、試料SA中での光ビームLLを表す図であり、試料SA中での光ビームLL、LLxを重ねて表している。横軸は、光ビームの軸方向の位置Z、縦軸は、光軸上でのビーム半径Rを示す。光ビームLL、LLxはそれぞれ、本実施形態、比較例(共焦点顕微鏡の場合)に対応する。この光ビームLLは、ビーム直径が0.9mm、波長λが532nmのレーザ光でのシミュレーション結果を示す。
【0032】
比較例の光ビームLLxでは、ビーム半径Rが大きく変化するのに対して、実施形態の光ビームLLではビーム半径Rの変化が小さい。
図3に示すように、100μm~1mm程度以上の範囲の厚さTSの試料SAを均一に励起することが可能である。すなわち、測定装置10からの光ビームLLによって、試料SAの厚さ方向Zにおいて、1mm以上(±500μm)の測定範囲を確保できる。
【0033】
ここで、灰色で示す励起領域Amは、光ビームLLによって励起される範囲であり、後述の有効体積Vに対応する。励起領域Amの長さは、焦点深度FDによって規定される。この詳細は後述する。
【0034】
図4は、焦点深度FDと全蛍光量TFの関係を表すグラフである。全蛍光量TFは、光ビームLLの集光によって試料SAから発せられる蛍光の全量を意味する。
【0035】
焦点深度FDは、一般には、対象物に対してピントを合わせたときに、ピントが合う範囲とされる。ここでは、焦点深度FDをレイリー長Zrの2倍と定義する。レイリー長Zrは、光ビームLLの断面積が集光点の断面積の2倍になる位置と、光ビームLLの集光点の間の距離である。レイリー長Zrは、光ビームLLの半径(ビーム半径R)がウェスト半径W(集光点でのビーム半径)の21/2となる位置と、集光点との間の距離でもある。レイリー長Zrは、次の式(1)により規定できる。
Zr=(π×W2)/λ …… 式(1)
Zr: レイリー長
λ: 光ビームの波長
W: ウェスト半径(waist radius:集光点でのビーム半径)
【0036】
対物レンズの焦点距離Fは、レイリー長Zrと次の式(2)のような関係を有する。
F=(π×Zr/λ)1/2×(D0/2) …… 式(2)
F: 対物レンズの焦点距離
Zr: レイリー長
λ: 光ビームの波長
D0: 対物レンズに入射する光ビームの直径
【0037】
図4に示すグラフは、後述のシミュレーションによって得られる。ここでは、試料SAの厚さTSを0.5mmとして、焦点深度FD(レイリー長Zr)を変化させ、試料SAからの全蛍光量TFを算出している。
【0038】
図4に示されるように、大まかに言えば、焦点深度FDが試料SAの厚さTS程度のとき、言い換えると、レイリー長Zrが試料SAの厚さTSの1/2程度のときに、全蛍光量TFは最大であった。全蛍光量TFが最大であることは、試料SAの励起範囲が広いことを意味する。このように対物レンズ部13の焦点深度FDを設定することで、試料SAの励起範囲を大きくすることができる。
【0039】
この対物レンズの選定に幅を持たせることができる。
図4のグラフが紙面の左右に対して非対称性を有することを考慮して、焦点深度FDの下限、上限をFD1,FD2と設定した。焦点深度FDの下限FD1は、試料SAの厚さTSの1/4であり、焦点深度FDの上限FD2は、試料SAの厚さTSの10倍とすることができる。このとき、レイリー長Zrの範囲は、試料SAの厚さTSの1/8以上5倍以下となる。焦点深度FDの下限FD1は、焦点距離F:8.65mm,対物レンズ倍率:20.8倍に相当する。焦点深度FDの上限FD2は、焦点距離F:54.7mm,対物レンズ倍率:3.3倍に相当する。
【0040】
グラフ上の点Caは、焦点距離30mmのアクロマートレンズ(実施例)に対応し、点Cbは、共焦点用の50倍対物レンズ(焦点距離3.6mm)(比較例)に対応する。比較例に比べて、焦点深度FDの上下限の範囲FD1~FD2、さらには、焦点距離30mmのアクロマートレンズは、より効率的な測定が可能である。
【0041】
以上のように焦点深度FDの上下限を試料SAの厚さTS(測定長LM)の1/4~10倍の範囲で設定できる。レイリー長Zrの範囲は、厚さTS(測定長LM)の0.1倍以上5倍以下、0.2倍以上5倍以下、あるいは0.25倍以上3倍以下とすることができる。
【0042】
図5は、カラーセンター特性の測定装置の設定手順の一例を表すフロー図である。以下、
図5に基づき、設定手順を説明する。
【0043】
先にこの手順の概要を説明する。
ステップS11~S19において、制御部26(プロセッサ)は、試料SAの厚さ方向の測定範囲の長さである測定長LMに基づいて、試料SAに照射する光ビームLLのレイリー長Zrの範囲を決定する工程、対物レンズ部13によって集光された光ビームLLのレイリー長Zrが、レイリー長Zrの範囲に含まれるように、対物レンズ部13を設定する工程を実行する。
【0044】
このとき、後述のように、決定された焦点距離に設定された対物レンズ部13によって集光された光ビームのレイリー長Zrは、測定長Lmの0.1倍以上5倍以下である。これは、測定長Lm(あるいは試料SAの厚さ)が決まれば、レイリー長Zr(あるいは、焦点深度)の範囲は基本的に決まり、毎回演算を行う必要はないことを意味する。すなわち、(1)既述の対応テーブル等を用いて、測定長Lm(または試料SAの厚さ)からレイリー長Zr(焦点深度)を決定し、(2)この決定に対応するように対物レンズを設定または選択することで、カラーセンター特性を効率的に測定することができる。
【0045】
対物レンズ部13を設定する工程は、決定されたレイリー長Zrの範囲に対応する焦点距離Fの範囲を決定する工程、この焦点距離の範囲内の焦点距離となるように、対物レンズ部13を設定する工程とを有する。このようにして設定された対物レンズ部13の焦点距離Fは、既述の式(2)により規定される。
【0046】
レイリー長Zrの範囲を決定する工程は、対物レンズ部13によって集光された光ビームLLのレイリー長Zrと、集光される光ビームLLによって励起された試料SAからの蛍光LFの量との関係を導出する工程と、導出された関係および測定長LMに基づいて、レイリー長Zrの範囲を決定する工程とを有する。
【0047】
既述のように、試料SAは、光ビームLLによって励起されて、蛍光LFを発するカラーセンターを有する。この場合、レイリー長Zrと、蛍光LFの量との関係を導出する工程は、集光される光ビームLLによって励起された試料SAのカラーセンターからの蛍光LFの量を算出する工程を有する。このとき、レイリー長Zrと、蛍光LFの量との関係を導出する工程は、試料SA中のカラーセンターの偏極率Pを算出する工程と、算出された偏極率Pに基づいて、算出された蛍光LFの量を補正する工程を有することが好ましい。
【0048】
以下、この手順の詳細を説明する。
(1)厚さ方向の測定長LMの決定(ステップS11)
試料SAの厚さ方向の測定長LMを決定する。測定長LMは、試料SAの厚みTS以下の範囲で適宜に設定できる。
【0049】
(2)有効体積Vの設定(ステップS12)
有効体積V(励起体積:Excitation volume)を決定する。有効体積Vは、光ビームLLによって試料SAが有効に励起される範囲の体積であり、次のように設定できる。焦点深度FDは、レイリー長Zrの2倍である(FD=2×Zr)。
V=π×R2×FD …… 式(3)
R: 光ビームLLのビーム半径
FD: 焦点深度
なお、焦点位置での光ビームLLのビーム半径は、既述のウェスト半径Wに等しい(R=W)。
【0050】
図6は、試料SAと光ビームLLの関係を表す図であり、(a)は試料SAの正面側から光ビームLLを見た図であり、(b)は試料SAの断面上の光ビームLLを見た図である。式(3)は、半径がビーム半径Rで、長さが焦点深度FDの円柱として、有効体積Vを設定している。以下、ビーム半径R、焦点深度FDをパラメータとして、蛍光量等を算出する。但し、式(3)の焦点深度FDは、試料SAの厚さTSを超えた場合、試料SAの厚さTSに置き換えられる。
【0051】
図7は、ビーム半径Rと有効体積Vの関係を表すグラフであり、
図8は焦点深度FDと有効体積Vの関係を表すグラフである。ここでは、試料SAの厚さTSを0.5mmとしているため、焦点深度FDが0.5の点の前後で
図8のグラフに不連続性が生じている。
【0052】
(3)単位体積当たりの蛍光量Icwの算出(ステップS13)
有効体積Vと光ビームLLのパワー(レーザパワー)LPから光ビームLLの光パワー密度ρを算出し、励起レートΓp、さらには、単位体積当たりのレーザ励起による蛍光量Icwを算出する。
【0053】
図9は、NVセンターの準位を表す図である。NVセンターは、「m
S=0|1>」、「m
S=±1|2>」、「m
S=0|3>」、「m
S=±1|4>」等の準位がある(m
S:磁気量子数)。「m
S=0|1>」、「m
S=±1|2>」は、光励起によって、より上位の準位へと遷移する。ここでは、「m
S=0|1>」からの励起レートΓpを求めることを考える。
【0054】
この励起レートΓpは、次のブロッホ方程式(式(11))に基づき算出される。
【数1】
【0055】
基底状態「m
S=0|1>」の定常的な解析解は次の式(12)で表すことができる。
【数2】
【0056】
ここで、次の式(13)、(14)が成立する。
【数3】
【数4】
【0057】
式(12)~(14)において、励起レートΓp以外は、NVセンターの物理定数から定まるので、励起レートΓpを算出することができる。なお、Ωは高周波のパワーで、ここでは、0とする。
【0058】
単位体積当たりのレーザ励起による蛍光量Icwは、次の式(15)により算出できる。
【数5】
【0059】
図10は、単位体積当たりの蛍光量Icwを表す図である。(a)は、ビーム半径RおよびレーザパワーLPに対する単位体積当たりの蛍光量Icwの関係を表す図である。図の濃淡が全蛍光量Gに対応する。(b)は、レーザパワーLPが10mWのときの、ビーム半径Rと単位体積当たりの蛍光量Icwの関係を表すグラフである。
【0060】
(4)偏極率Pの算出(ステップS14)
レーザ励起による偏極率Pを求める。これは、NVセンターの偏極が特性に影響を与えるためである。偏極率Pは、全蛍光量TF(あるいは、単位体積当たりの蛍光量Icw)を補正する補正項と考えることができる。仮に、偏極を問題としないような場合であれば、偏極率Pの算出は不要となる。
偏極率は、次の式(16)によって算出できる。
【数6】
【0061】
図11は、偏極率Pを表す図である。(a)は、ビーム半径RおよびレーザパワーLPに対する偏極率Pの関係を表す図である。図の濃淡が偏極率Pに対応する。(b)は、レーザパワーLPが10mWのときの、ビーム半径Rと偏極率Pの関係を表すグラフである。
【0062】
(5)G=Icw×V×Pの算出(ステップS15)
単位体積当たりの蛍光量Icw、有効体積V、偏極率Pを乗じて、有効信号Gを算出する。
有効信号Gは、偏極率Pによって補正された、全蛍光量TF(=Icw×V)を意味する。
【0063】
図12は、有効信号Gを表す図である。(a)は、ビーム半径RおよびレーザパワーLPに対する有効信号Gの関係を表す図である。図の濃淡が有効信号Gに対応する。(b)は、レーザパワーLPが10mWのときの、ビーム半径Rと有効信号Gの関係を表すグラフである。
【0064】
図13は、試料に照射される光ビームLLと蛍光との関係を表す図である。算出された有効信号Gは、試料SAの全球Atに放出される蛍光に対応する。
【0065】
(6)集光率Eの算出(ステップS16)
光検出器17に到達するのは全蛍光の一部である。このため、補正のため、集光率Eを算出する。集光率Eは、全蛍光量TF(あるいは、単位体積当たりの蛍光量Icw)を補正する補正項と考えることができる。具体的には、対物レンズ部13の開口数NAを考慮して、試料SAの全球Atに放出される蛍光LFから対物レンズ部13に入射される光Aiの割合として、集光率Eを算出する。ここでは、ビーム半径Rから焦点距離Fを求め、開口数NAを算出し、開口数NA=1の場合と比較することで、集光率Eを算出する。
【0066】
図14は、ビーム半径と検出率の関係を表すグラフである。C1、C2は、対物レンズ部13の直径を1インチ、0.5インチとしている。焦点距離Fが長くなるほど集光率Eが低下することが示される。
【0067】
(7)H=G×Eの算出(ステップS17)
有効信号Gと集光率Eを乗算して、検出信号Hを算出する。検出信号Hは、偏極率Pおよび集光率Eによって補正された、全蛍光量TF(=V×Icw)を意味する。
【0068】
図15は、ビーム半径Rと検出信号Hの関係を表す図である。(a)は、ビーム半径RおよびレーザパワーLPに対する検出信号Hの関係を表す図である。図の濃淡が検出信号Hに対応する。(b)は、レーザパワーLPが10mWのときの、ビーム半径Rと有効信号量Hの関係を表すグラフである。C1、C2は、対物レンズ部13の直径を1インチ、0.5インチとしている。C1、C2は、対物レンズ部13の直径を1インチ、0.5インチとしている。
【0069】
(8)最適焦点距離の算出(ステップS18)
最適焦点距離は、次のようにして算出できる。焦点での光ビームの直径Dは、次の式(2)から求められる。
D=2×W=(4×λ/π)×(F/D0) ……式(4)
W:ウェスト半径
λ: 光ビームの波長
F: 対物レンズの焦点距離
D0: 対物レンズに入射する光ビームの直径
【0070】
この式(4)から焦点距離Fを求めることで、既述の式(2)を導出できる。
【0071】
図16は、有効信号量を表す図である。(a)は、ビーム半径RおよびレーザパワーLPに対する有効信号量Hの関係を表す図である。図の濃淡が有効信号量Hに対応する。この(a)は、
図15の(a)と対応するが、レーザパワーLPの範囲を広げている。(b)は、レーザパワーLPを変化させたときに有効信号量Hが最大となるビーム半径R(焦点深度FD)関係を表すグラフである。試料SAの厚さTSを0.5mmとしている。
【0072】
図16の(b)に示されるように、焦点深度FD(すなわち、レイリー長Zrの2倍)が試料の厚さTSと一致するときに、有効信号量Hは最大になる。既述の
図4は、レーザパワーLPを一定にして、焦点深度FDと全蛍光量TFとの関係を求めたものであるが、焦点深度FDと有効信号量Hの関係もほぼ同様と考えられる。結局、レイリー長Zrが試料の厚さTSと対応する範囲、具体的には、レイリー長Zrが試料SAの厚さTS(結局は、厚さ方向の測定長LM)の0.1倍以上5以下、0.2倍以上5倍以下、あるいは0.25倍以上3倍以下の範囲であれば、良いことが分かる。
【0073】
(9)対物レンズの焦点距離の設定(ステップS19)
対物レンズ部13の焦点距離Fを測定長LMの0.1~5倍等の範囲に設定する。例えば、対物レンズ部13をこの範囲の焦点距離のレンズ(一例として、アクロマートレンズ、すなわち、色消しレンズ)と交換する。この結果、測定長LMの範囲に効率的に光ビームLLを照射できる。
【0074】
図17、
図18は、測定装置10によって得られた、NVセンターを有する試料SAの測定結果を表す。
図17は、量子コヒーレンス時間T2の測定結果を、
図18は、光検出磁気共鳴(ODMR)の測定結果を示す。いずれも、試料SAにレーザ光源11からのレーザ光LLおよび高周波発生器21からの高周波を照射し、光検出器17で受光される試料SAからの蛍光強度を測定した。
いずれも測定においても、光検出器17において得られる蛍光強度は大きく、レーザ光LLの集光点を移動させることで、試料SAでの特性の分布を速やかに測定することが可能であった。
【0075】
(上記実施形態から把握される発明)
以下、上記実施形態から把握される発明を示す。
(1)本発明の第1の態様に係るカラーセンター特性の測定方法は、光源(11)からの光ビーム(LL)を対物レンズ部(13)で集光して試料(SA)に照射することによって試料のカラーセンター特性を測定する測定方法であって、試料(SA)の厚さ方向の測定範囲の長さである測定長(LM)に基づいて、試料に照射する光ビームのレイリー長(Zr)の範囲を決定する工程と、前記対物レンズ部によって集光された光ビームのレイリー長が、前記レイリー長の範囲に含まれるように、前記対物レンズ部を設定する工程と、を有する。
【0076】
本発明の第1の態様によれば、試料の測定範囲におけるカラーセンター特性の効率的な測定が可能となる。
【0077】
(2)本発明の第2の態様に係るカラーセンター特性の測定方法は、第1の態様において、前記決定された焦点距離を有する対物レンズによって集光された光ビームのレイリー長(Zr)の範囲は、前記測定長の0.1倍以上5倍以下である。これにより、測定長の範囲への集光の均一化が可能となる。
【0078】
(3)本発明の第3の態様に係るカラーセンター特性の測定方法は、第1の態様において、前記決定された焦点距離を有する対物レンズによって集光された光ビームのレイリー長(Zr)の範囲は、前記試料の厚さの1/8以上5倍以下である。これにより、測定長の厚さの範囲への集光の均一化が可能となる。
【0079】
(4)本発明の第4の態様に係るカラーセンター特性の測定方法は、第1~第3の態様において、前記対物レンズ部を設定する工程は、前記レイリー長の範囲に対応する焦点距離(F)の範囲を決定する工程と、前記焦点距離の範囲内の焦点距離となるように、前記対物レンズ部を設定する工程と、を有する。これにより、測定長の範囲への集光のさらなる均一化が可能となる。
【0080】
(5)本発明の第5の態様に係るカラーセンター特性の測定方法は、第4の態様において、前記焦点距離は、以下の式により規定される。これにより、測定長の範囲への集光のさらなる均一化が可能となる。
F=(π×Zr/λ)1/2×(D0/2)
F: 対物レンズの焦点距離
Zr: レイリー長
λ: 光ビームの波長
D0: 対物レンズに入射する光ビームの直径
【0081】
(6)本発明の第6の態様に係るカラーセンター特性の測定方法は、第1~第5の態様において、前記レイリー長の範囲を決定する工程は、前記対物レンズ部によって集光された光ビームのレイリー長と、前記集光される光ビームによって励起された試料からの蛍光の量との関係を導出する工程と、前記導出された関係および前記測定長に基づいて、前記レイリー長の範囲を決定する工程と、を有する。これにより、レイリー長と蛍光の量との関係に基づく、焦点距離の設定が可能となる。
【0082】
(7)本発明の第7の態様に係るカラーセンター特性の測定方法は、第1~第6の態様において、前記試料は、前記光ビームによって励起されて、蛍光を発するNVセンターを有し、前記関係を導出する工程は、前記集光される光ビームによって励起された前記試料のNVセンターからの蛍光の量を算出する工程を有する。
【0083】
(8)本発明の第8の態様に係るカラーセンター特性の測定方法は、第7の態様において、前記関係を導出する工程は、前記試料中のNVセンターの偏極率を算出する工程と、前記算出された偏極率に基づいて、前記算出された前記蛍光の量を補正する工程と、を有する。これにより、NVセンターの偏極率を考慮に入れた、より正確な蛍光の量を算出できる。
【0084】
(9)本発明の第9の態様に係るカラーセンター特性の測定装置(10)は、試料を保持するホルダ(14)と、光源からの光ビームを前記試料に集光させる対物レンズ部(13)と、前記集光された光ビームによって、励起された前記試料の状態を測定する測定部と、プロセッサ(制御部26)と、を備え、前記プロセッサは、前記試料の厚さ方向の測定範囲の長さである測定長に基づき、前記対物レンズの焦点距離を決定する工程を実行する。これにより、試料の厚さ方向の測定範囲の長さである測定長に基づいて、対物レンズの焦点距離を決定することで、カラーセンター特性の効率的な測定が可能となる。
【0085】
(10)本発明の第10の態様に係るカラーセンター特性の測定装置は、第9の態様において、前記対物レンズ部は、焦点距離を変更可能であり、前記対物レンズ部を設定する工程は、前記レイリー長の範囲に対応する焦点距離の範囲を決定する工程と、前記焦点距離の範囲内の焦点距離となるように、前記対物レンズ部を設定する工程と、を有する。これにより、焦点距離の設定が容易となる。
【0086】
(11)本発明の第11の態様に係るカラーセンター特性の測定装置は、第9、第10の態様において、前記測定部は、着脱可能であり、前記光源と、光検出器(17)と、前記光源からの光ビームを前記対物レンズ部に導き、かつ、前記対物レンズ部によって集光された光ビームによって前記試料から発せられる蛍光を前記光検出器に導く、ダイクロイック・ミラー(12)と、を有する。これにより、顕微鏡本体に測定部を取り付けることで、カラーセンター特性の効率的な測定が可能となる。
【0087】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0088】
10 測定装置
10A アダプタ部
10B 装置本体
11 レーザ光源
12 ミラー
13 対物レンズ部
14 高周波回路
15 フィルタ
16 レンズ
17 光検出器
18 分光器
21 高周波発生器
22 アンプ
23 波形発生器
24 光変調器
25 高周波変調器
26 制御部