(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056587
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】無機繊維断熱吸音材用水性バインダー及び無機繊維断熱吸音材
(51)【国際特許分類】
D06M 15/263 20060101AFI20240416BHJP
D06M 13/368 20060101ALI20240416BHJP
D06M 13/228 20060101ALI20240416BHJP
D04H 1/587 20120101ALI20240416BHJP
D04H 1/4209 20120101ALI20240416BHJP
C09J 133/02 20060101ALI20240416BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240416BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20240416BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20240416BHJP
C08L 33/02 20060101ALI20240416BHJP
G10K 11/162 20060101ALI20240416BHJP
D06M 13/207 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
D06M15/263
D06M13/368
D06M13/228
D04H1/587
D04H1/4209
C09J133/02
C09J11/06
C08K5/17
C08K5/09
C08L33/02
G10K11/162
D06M13/207
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163599
(22)【出願日】2022-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】313012349
【氏名又は名称】旭ファイバーグラス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】藤原 稔大
【テーマコード(参考)】
4J002
4J040
4L033
4L047
5D061
【Fターム(参考)】
4J002BG011
4J002EF016
4J002EN026
4J002FD146
4J002FD150
4J002FD200
4J002GF00
4J002GJ01
4J002GK00
4J002GL00
4J002GR00
4J040DF011
4J040GA11
4J040GA14
4J040JB02
4J040KA16
4J040LA01
4J040MA01
4J040MB02
4L033AA09
4L033AB01
4L033AB04
4L033AC11
4L033BA16
4L033BA22
4L033BA62
4L033CA18
4L047AA01
4L047AA05
4L047AB02
4L047BA12
4L047BA17
4L047CB03
4L047CB06
5D061AA12
5D061AA22
5D061DD11
(57)【要約】
【課題】本発明は、従来のポリカルボン酸系バインダーよりも強度の高い無機繊維断熱吸音材用水性バインダー、及びそれを用いた無機繊維断熱吸音材を提供することを目的とする。
【解決手段】ポリカルボン酸とポリカルボン酸の架橋剤とを含有し、架橋剤は、(架橋剤1)アルカノールアミンと、(架橋剤2)ヒドロキシカルボン酸及び/又はヒドロキシカルボン酸が脱水縮合したラクトンとを含み、ポリカルボン酸、架橋剤1及び架橋剤2のカルボキシル基の合計モル数に対する、ポリカルボン酸、架橋剤1及び架橋剤2の水酸基、アミノ基及びイミノ基の合計モル数の比率が0.2~1.5である(架橋剤2がラクトンを含む場合は、脱水縮合前のヒドロキシカルボン酸におけるモル数をラクトンにおけるモル数とする)、無機繊維断熱吸音材用水性バインダー。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカルボン酸と該ポリカルボン酸の架橋剤とを含有する無機繊維断熱吸音材用水性バインダーであり、
前記架橋剤は
(架橋剤1)アルカノールアミンと、
(架橋剤2)ヒドロキシカルボン酸及び/又は前記ヒドロキシカルボン酸が脱水縮合したラクトンとを含み、
前記ポリカルボン酸、前記架橋剤1及び前記架橋剤2のカルボキシル基の合計モル数に対する、前記ポリカルボン酸、前記架橋剤1及び前記架橋剤2の水酸基、アミノ基及びイミノ基の合計モル数の比率が0.2~1.5である(架橋剤2がラクトンを含む場合は、脱水縮合前のヒドロキシカルボン酸におけるモル数をラクトンにおけるモル数とする)
ことを特徴とする、無機繊維断熱吸音材用水性バインダー。
【請求項2】
前記ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル数に対する、前記架橋剤1の水酸基、アミノ基及びイミノ基の合計モル数の比率が0.4~2.0であり、
前記ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル数に対する、前記架橋剤2の水酸基及びカルボキシル基の合計モル数の比率が0.1~2.5である(架橋剤2がラクトンを含む場合は、脱水縮合前のヒドロキシカルボン酸における水酸基及びカルボキシル基のモル数をラクトンにおける水酸基及びカルボキシル基のモル数とする)、請求項1に記載の無機繊維断熱吸音材用水性バインダー。
【請求項3】
前記ポリカルボン酸は、重量平均分子量が1000~20000であり、且つ酸価が500~900mgKOH/gであるポリカルボン酸を含む、請求項1に記載の無機繊維断熱吸音材用水性バインダー。
【請求項4】
無機繊維と、該無機繊維を固着する請求項1~3のいずれか一項に記載の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーの硬化物とを備える
ことを特徴とする、無機繊維断熱吸音材。
【請求項5】
ポリカルボン酸と該ポリカルボン酸の架橋剤とを含有する無機繊維断熱吸音材用水性バインダーの強度を向上させる方法であって、
前記架橋剤として
(架橋剤1)アルカノールアミンと、
(架橋剤2)ヒドロキシカルボン酸及び/又は前記ヒドロキシカルボン酸が脱水縮合したラクトンとを含む架橋剤を含有させることを含み、
前記ポリカルボン酸、前記架橋剤1及び前記架橋剤2のカルボキシル基の合計モル数に対する、前記ポリカルボン酸、前記架橋剤1及び前記架橋剤2の水酸基、アミノ基及びイミノ基の合計モル数の比率が0.2~1.5である(架橋剤2がラクトンを含む場合は、脱水縮合前のヒドロキシカルボン酸におけるモル数をラクトンにおけるモル数とする)
ことを特徴とする、方法。
【請求項6】
強度が向上した、ポリカルボン酸と該ポリカルボン酸の架橋剤とを含有する無機繊維断熱吸音材用水性バインダーの製造方法であって、
前記架橋剤として
(架橋剤1)アルカノールアミンと、
(架橋剤2)ヒドロキシカルボン酸及び/又は前記ヒドロキシカルボン酸が脱水縮合したラクトンとを含む架橋剤を含有させる工程を含み、
前記ポリカルボン酸、前記架橋剤1及び前記架橋剤2のカルボキシル基の合計モル数に対する、前記ポリカルボン酸、前記架橋剤1及び前記架橋剤2の水酸基、アミノ基及びイミノ基の合計モル数の比率が0.2~1.5である(架橋剤2がラクトンを含む場合は、脱水縮合前のヒドロキシカルボン酸におけるモル数をラクトンにおけるモル数とする)
ことを特徴とする、製造方法。
【請求項7】
前記ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル数に対する、前記架橋剤1の水酸基、アミノ基及びイミノ基の合計モル数の比率が0.4~2.0であり、
前記ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル数に対する、前記架橋剤2の水酸基及びカルボキシル基の合計モル数の比率が0.1~2.5である(架橋剤2がラクトンを含む場合は、脱水縮合前のヒドロキシカルボン酸における水酸基及びカルボキシル基のモル数をラクトンにおける水酸基及びカルボキシル基のモル数とする)、請求項6に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機繊維断熱吸音材用水性バインダー及び無機繊維断熱吸音材に関する。
【背景技術】
【0002】
グラスウール及びロックウール等の無機繊維断熱吸音材は、無機繊維にバインダーを付着させた後、バインダーを硬化させて製造されることが一般的である。バインダーとしては、フェノール樹脂系バインダーや水性バインダーが知られているが、フェノール樹脂系バインダーは、硬化中や硬化後にホルムアルデヒドが発生する恐れがあるため、環境負荷低減の要請からホルムアルデヒド非含有の水性バインダーが好んで使用されるようになってきている。このような水性バインダーとして、例えば、特許文献1~7に記載されるようなポリカルボン酸系バインダーが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6807243号公報
【特許文献2】特開1994-184285号公報
【特許文献3】特開1998-204302号公報
【特許文献4】特開2007-528438号公報
【特許文献5】特開2008-516071号公報
【特許文献6】特許第5118306号公報
【特許文献7】特許第5275112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記ポリカルボン酸系バインダーは、ホルムアルデヒドの放散がないものの、フェノール樹脂系バインダーに比べて強度が低いことが課題であった。
【0005】
そこで、本発明は、従来のポリカルボン酸系バインダーよりも強度の高い無機繊維断熱吸音材用水性バインダー、及びそれを用いた無機繊維断熱吸音材を提供することを目的とする
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、特定のポリカルボン酸及びポリカルボン酸の架橋剤を含有し、該特定のポリカルボン酸及び架橋剤のカルボキシル基の合計モル数に対する、該特定のポリカルボン酸及び架橋剤の水酸基、アミノ基及びイミノ基の合計モル数の比率が特定の範囲である水性バインダーとすることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
ポリカルボン酸と該ポリカルボン酸の架橋剤とを含有する無機繊維断熱吸音材用水性バインダーであり、
前記架橋剤は
(架橋剤1)アルカノールアミンと、
(架橋剤2)ヒドロキシカルボン酸及び/又は前記ヒドロキシカルボン酸が脱水縮合したラクトンとを含み、
前記ポリカルボン酸、前記架橋剤1及び前記架橋剤2のカルボキシル基の合計モル数に対する、前記ポリカルボン酸、前記架橋剤1及び前記架橋剤2の水酸基、アミノ基及びイミノ基の合計モル数の比率が0.2~1.5である(架橋剤2がラクトンを含む場合は、脱水縮合前のヒドロキシカルボン酸におけるモル数をラクトンにおけるモル数とする)
ことを特徴とする、無機繊維断熱吸音材用水性バインダー。
[2]
前記ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル数に対する、前記架橋剤1の水酸基、アミノ基及びイミノ基の合計モル数の比率が0.4~2.0であり、
前記ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル数に対する、前記架橋剤2の水酸基及びカルボキシル基の合計モル数の比率が0.1~2.5である(架橋剤2がラクトンを含む場合は、脱水縮合前のヒドロキシカルボン酸における水酸基及びカルボキシル基のモル数をラクトンにおける水酸基及びカルボキシル基のモル数とする)、[1]に記載の無機繊維断熱吸音材用水性バインダー。
[3]
前記ポリカルボン酸は、重量平均分子量が1000~20000であり、且つ酸価が500~900mgKOH/gであるポリカルボン酸を含む、[1]又は[2]に記載の無機繊維断熱吸音材用水性バインダー。
[4]
無機繊維と、該無機繊維を固着する[1]~[3]のいずれかに記載の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーの硬化物とを備える
ことを特徴とする、無機繊維断熱吸音材。
[5]
ポリカルボン酸と該ポリカルボン酸の架橋剤とを含有する無機繊維断熱吸音材用水性バインダーの強度を向上させる方法であって、
前記架橋剤として
(架橋剤1)アルカノールアミンと、
(架橋剤2)ヒドロキシカルボン酸及び/又は前記ヒドロキシカルボン酸が脱水縮合したラクトンとを含む架橋剤を含有させることを含み、
前記ポリカルボン酸、前記架橋剤1及び前記架橋剤2のカルボキシル基の合計モル数に対する、前記ポリカルボン酸、前記架橋剤1及び前記架橋剤2の水酸基、アミノ基及びイミノ基の合計モル数の比率が0.2~1.5である(架橋剤2がラクトンを含む場合は、脱水縮合前のヒドロキシカルボン酸におけるモル数をラクトンにおけるモル数とする)
ことを特徴とする、方法。
[6]
強度が向上した、ポリカルボン酸と該ポリカルボン酸の架橋剤とを含有する無機繊維断熱吸音材用水性バインダーの製造方法であって、
前記架橋剤として
(架橋剤1)アルカノールアミンと、
(架橋剤2)ヒドロキシカルボン酸及び/又は前記ヒドロキシカルボン酸が脱水縮合したラクトンとを含む架橋剤を含有させる工程を含み、
前記ポリカルボン酸、前記架橋剤1及び前記架橋剤2のカルボキシル基の合計モル数に対する、前記ポリカルボン酸、前記架橋剤1及び前記架橋剤2の水酸基、アミノ基及びイミノ基の合計モル数の比率が0.2~1.5である(架橋剤2がラクトンを含む場合は、脱水縮合前のヒドロキシカルボン酸におけるモル数をラクトンにおけるモル数とする)
ことを特徴とする、製造方法。
[7]
前記ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル数に対する、前記架橋剤1の水酸基、アミノ基及びイミノ基の合計モル数の比率が0.4~2.0であり、
前記ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル数に対する、前記架橋剤2の水酸基及びカルボキシル基の合計モル数の比率が0.1~2.5である(架橋剤2がラクトンを含む場合は、脱水縮合前のヒドロキシカルボン酸における水酸基及びカルボキシル基のモル数をラクトンにおける水酸基及びカルボキシル基のモル数とする)、[6]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来のポリカルボン酸系バインダーよりも強度の高い無機繊維断熱吸音材用水性バインダー、及びそれを用いた無機繊維断熱吸音材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例及び比較例で得られた無機繊維断熱吸音材用水性バインダーのシェルモールド破断強度を測定するために用いたドッグボーン型試験片の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0011】
〈無機繊維断熱吸音材用水性バインダー〉
本実施形態の無機繊維断熱吸音材用水性バインダー(以下、単に「水性バインダー」ともいう。)は、ポリカルボン酸と該ポリカルボン酸の架橋剤とを含有し、架橋剤は(架橋剤1)アルカノールアミンと、(架橋剤2)ヒドロキシカルボン酸及び/又は前記ヒドロキシカルボン酸が脱水縮合したラクトンとを含み、ポリカルボン酸、架橋剤1及び架橋剤2のカルボキシル基の合計モル数に対する、ポリカルボン酸、架橋剤1及び架橋剤2の水酸基、アミノ基及びイミノ基の合計モル数の比率が0.2~1.5である(但し、架橋剤2がラクトンを含む場合は、脱水縮合前のヒドロキシカルボン酸におけるモル数をラクトンにおけるモル数とする)。
【0012】
[ポリカルボン酸]
本実施形態の水性バインダーに含まれるポリカルボン酸は、特に限定されないが、重量平均分子量が1000~20000であり、且つ酸価が500~900mgKOH/gであるポリカルボン酸(以下、「高分子量ポリカルボン酸」ともいう。)を含むことが好ましい。
【0013】
[[高分子量ポリカルボン酸]]
高分子量ポリカルボン酸は、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体をモノマー単位として有するもの、すなわち、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体を重合して得られるものであることが好ましい。
カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体をモノマー単位として有する高分子量ポリカルボン酸は、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体由来のモノマー単位のみからなるものであっても、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体由来のモノマー単位と、カルボキシル基を有しない共重合モノマー由来のモノマー単位とからなるものであってもよい。
カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体由来のモノマー単位の含有量は、高分子量ポリカルボン酸のモノマー単位の全量を100質量%として90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、100質量%であってもよい。
【0014】
カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、2-メチルマレイン酸、イタコン酸、2-メチルイタコン酸、α-β-メチレングルタル酸、マレイン酸モノアルキル、フマル酸モノアルキル、無水マレイン酸、無水アクリル酸、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレエート、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネートが挙げられる。これらの中でも、ポリカルボン酸の分子量の制御のしやすさの観点から、(メタ)アクリル酸が好ましい。また、ポリカルボン酸の酸価を高い値(例えば、900mgKOH/g付近)に調整する場合は、マレイン酸又はフマル酸を使用することが好ましい。
なお、(メタ)アクリルとはアクリル又はメタクリルを意味し、類似の化合物においても同様である。
カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体は、1種単独であっても、又は2種以上の組み合わせであってもよい。
【0015】
カルボキシル基を有しない共重合モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、n-ステアリル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールエトキシ(メタ)アクリレート、メチル-3-メトキシ(メタ)アクリレート、エチル-3-メトキシ(メタ)アクリレート、ブチル-3-メトキシ(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、3価以上のポリオールのモノ(メタ)アクリレート、アミノアルキル(メタ)アクリレート、N-アルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、N,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート等のアクリル系単量体;ビニルアルキルエーテル、N-アルキルビニルアミン、N,N-ジアルキルビニルアミン、N-ビニルピリジン、N-ビニルイミダゾール、N-(アルキル)アミノアルキルビニルアミン等のビニル系単量体;(メタ)アクリルアミド、N-アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリドン等のアミド系単量体;エチレン、プロピレン、イソブチレン、イソプレン、ブタジエン等の脂肪族不飽和炭化水素;スチレン、α-メチルスチレン、p-メトキシスチレン、ビニルトルエン、p-ヒドロキシスチレン、p-アセトキシスチレン等のスチレン系単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系単量体;アクリロニトリル、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
カルボキシル基を有しない共重合モノマーは、1種単独であっても、又は2種以上の組み合わせであってもよい。
【0016】
高分子量ポリカルボン酸の重量平均分子量は、1000~20000であり、好ましくは1500~15000、より好ましくは2000~10000である。ポリカルボン酸の重量平均分子量が1000以上であると、強度の高い水性バインダーが得られやすく、また、20000以下であると、水性バインダーの流動性(粘度)が良好となる傾向にある。
なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定される標準ポリアクリル酸基準の値であり、具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0017】
高分子量ポリカルボン酸の酸価は、500~900mgKOH/gであり、好ましくは500~800mgKOH/g、より好ましくは550~750mgKOH/gである。ポリカルボン酸の酸価が上記範囲であると、水性バインダーを加熱して得られる硬化物の強度が向上する傾向にある。
なお、酸価は、ポリカルボン酸1gを中和するのに要する水酸化カリウムの質量(mgKOH)を意味する。
【0018】
ポリカルボン酸全量に占める高分子量ポリカルボン酸の含有量は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、100質量%であってもよい。
【0019】
本実施形態の水性バインダー中のポリカルボン酸の含有量(固形分換算)は、ポリカルボン酸及び架橋剤の合計質量(固形分換算)に対して、25~80質量%であることが好ましく、より好ましくは35~75質量%、さらに好ましくは40~60質量%である。ポリカルボン酸の含有量が上記範囲であると、強度の高い水性バインダーとなる傾向にある。
【0020】
[架橋剤]
本実施形態の水性バインダーに含まれる架橋剤は、(架橋剤1)アルカノールアミンと、(架橋剤2)ヒドロキシカルボン酸及び/又は該ヒドロキシカルボン酸が脱水縮合したラクトンとを含むものであれば特に限定されず、架橋剤1及び架橋剤2以外のポリカルボン酸の架橋剤を含んでいてもよい。
本実施形態の水性バインダー中の架橋剤の含有量(固形分換算)は、ポリカルボン酸及び架橋剤の合計質量(固形分換算)に対して、20~75質量%であることが好ましく、より好ましくは25~65質量%、さらに好ましくは40~60質量%である。架橋剤の含有量が上記範囲であると、強度の高い水性バインダーとなる傾向にある。
【0021】
[[架橋剤1]]
架橋剤1のアルカノールアミンは、特に限定されないが、アルカノール基の炭素数が1~6であるものが好ましく、1~3であるものがより好ましい。
アルカノールアミンの具体例としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン等が挙げられる。
【0022】
架橋剤全量に占める架橋剤1の含有量(固形分換算)は、架橋剤の固形分換算の全質量基準で、10~70質量%であることが好ましく、より好ましくは20~65質量%、さらに好ましくは25~60質量%である。架橋剤1の含有量が上記範囲であると、強度の高い水性バインダーとなる傾向にある。
【0023】
[[架橋剤2]]
(ヒドロキシカルボン酸)
ヒドロキシカルボン酸とは、カルボキシル基及びカルボキシル基中の水酸基以外の水酸基をそれぞれ少なくとも一つずつ有する化合物である。
架橋剤2のヒドロキシカルボン酸としては、特に限定されないが、炭素数が2~20であるものが好ましく、より好ましくは2~15、さらに好ましくは3~10である。ヒドロキシカルボン酸としては、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂環族ヒドロキシカルボン酸または芳香族ヒドロキシカルボン酸が挙げられる。中でも水溶性の観点から、脂肪族ヒドロキシカルボン酸が好ましい。
脂肪族ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、乳酸、クエン酸、ヒドロキシ酪酸、グリコール酸、酒石酸、リンゴ酸、グリセリン酸、ラクチル乳酸、イソクエン酸、3-ヒドロキシプロピオン酸等が挙げられる。中でも、植物(トウモロコシ、サトウキビ等)を原料として得られるヒドロキシカルボン酸である乳酸、クエン酸等は、焼却時に実質的な二酸化炭素の排出量がゼロとなり、環境負荷を低減できることから特に好ましい。
【0024】
(ラクトン)
架橋剤2のラクトンとしては、上述のヒドロキシカルボン酸を脱水縮合して得られるラクトンであれば、特に限定されず、例えば、γ-ブチロラクトン、β-プロピオラクトン、δ-バレロラクトン、γ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン等が挙げられる。
【0025】
架橋剤2は、ヒドロキシカルボン酸のみからなることが好ましいが、ヒドロキシカルボン酸とラクトンの両方からなるものであってもよく、ラクトンのみからなるものであってもよい。
架橋剤2がヒドロキシカルボン酸とラクトンの両方を含む場合、ヒドロキシカルボン酸を主体とする場合には、架橋剤2全量(固形分換算)に占めるヒドロキシカルボン酸の含有量(固形分換算)が、85質量%以上であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。
また、架橋剤2がヒドロキシカルボン酸とラクトンの両方を含む場合、ラクトンを主体とする場合には、架橋剤2全量(固形分換算)に占めるラクトンの含有量(固形分換算)が、85質量%以上であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。
【0026】
架橋剤全量に占める架橋剤2の含有量(固形分換算)は、架橋剤の固形分換算の全質量基準で、30~90質量%であることが好ましく、より好ましくは35~80質量%、さらに好ましくは40~75質量%である。
【0027】
[その他添加剤]
本実施形態の水性バインダーは、ポリカルボン酸及び架橋剤の他に、必要に応じて、硬化促進剤、シランカップリング剤、防錆剤、防塵剤、着色剤、中和剤等のその他添加剤を含んでいてもよい。
【0028】
硬化促進剤としては、例えば、次亜リン酸塩、亜硫酸塩が挙げられ、これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。次亜リン酸塩としては、例えば、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸リチウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸マグネシウム、次亜リン酸ストロンチウムが挙げられる。亜硫酸塩としては、例えば、亜硫酸水素リチウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸水素マグネシウム、亜硫酸水素カルシウム、亜硫酸水素アンモニウムが挙げられ、中でも、硬化促進作用のある亜硫酸イオンの含有量が高い亜硫酸水素リチウム、亜硫酸水素ナトリウム又は亜硫酸水素アンモニウムが好ましい。
【0029】
シランカップリング剤は、無機繊維と水性バインダー硬化物との界面で作用し、水性バインダー硬化物の無機繊維への接着を向上させることができる。シランカップリング剤としては、例えば、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノシランカップリング剤、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等のエポキシシランカップリング剤が挙げられ、これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0030】
防錆剤は、生産設備の腐食を抑制することができる。防錆剤としては、例えば、チオ尿素、チオセミカルバジド、N-フェニルチオ尿素、o-トリルチオ尿素、N-メチルチオ尿素、1,3-ジメチルチオ尿素、N,N’-ジエチルチオ尿素、1,3-ジブチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、1,3-ジフェニル-2-チオ尿素、1,3-ジイソプロピルチオ尿素、エチレンチオ尿素、2-メルカプトベンゾチアゾール、トリメチルチオ尿素等のチオ尿素系化合物が挙げられ、これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
なお、アルカノールアミンは防錆剤としても機能する場合があるが、水性バインダーがアルカノールアミンを含む場合は、アルカノールアミンは防錆剤に含めず、架橋剤として取り扱う。
【0031】
水性バインダーには、必要に応じて、防塵剤である重質オイル水分散体、着色剤、ガラス等の無機繊維から溶出されるアルカリ成分を中和するための無機硫酸塩(中和剤)等を更に配合することができる。無機硫酸塩としては、例えば、硫酸アンモニウムが挙げられる。
【0032】
水性バインダー中のその他添加剤の含有量(固形分換算)は、ポリカルボン酸及び架橋剤の合計100質量部(固形分換算)に対して、1~20質量部であることが好ましい。
【0033】
本実施形態の水性バインダーは、ポリカルボン酸、架橋剤1及び架橋剤2のカルボキシル基の合計モル数に対する、ポリカルボン酸、架橋剤1及び架橋剤2の水酸基、アミノ基及びイミノ基の合計モル数の比率((水酸基+アミノ基+イミノ基)/カルボキシル基、以下、「モル比率1」ともいう。)が0.2~1.5である。モル比率1が0.2~1.5であると、従来のポリカルボン酸系バインダーよりも強度の高い水性バインダーとなる。
モル比率1は、好ましくは0.4~1.2、より好ましくは0.6~1.0である。
なお、架橋剤2がラクトンを含む場合は、脱水縮合してラクトンとなる前のヒドロキシカルボン酸におけるカルボキシル基、水酸基、アミノ基及びイミノ基のモル数をラクトンにおけるカルボキシル基、水酸基、アミノ基及びイミノ基のモル数として用いてモル比率1を算出するものとする。
また、モル比率1を算出する際の水酸基には、カルボキシル基中の水酸基は含まないものとする。
【0034】
本実施形態の水性バインダーは、ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル数に対する、架橋剤1の水酸基、アミノ基及びイミノ基の合計モル数の比率((水酸基+アミノ基+イミノ基)/カルボキシル基、以下、「モル比率2」ともいう。)が0.4~2.0であり、かつポリカルボン酸のカルボキシル基のモル数に対する、架橋剤2の水酸基及びカルボキシル基の合計モル数の比率((水酸基+カルボキシル基)/カルボキシル基、以下、「モル比率3」ともいう。)が0.1~2.5であることが好ましい。モル比率2及びモル比率3が上記範囲であると、強度の高い水性バインダーとなる傾向にある。
モル比率2が0.6~1.2であり、かつモル比率3が0.6~1.2であることがより好ましく、モル比率2が0.6~1.0であり、かつモル比率3が0.6~1.0であることがさらに好ましい。
なお、架橋剤2がラクトンを含む場合は、脱水縮合してラクトンとなる前のヒドロキシカルボン酸における水酸基及びカルボキシル基のモル数をラクトンにおける水酸基及びカルボキシル基のモル数として用いてモル比率3を算出するものとする。
また、モル比率3を算出する際の水酸基には、カルボキシル基中の水酸基は含まないものとする。
【0035】
水性バインダーの形態としては、特に限定されず、例えば、エマルション、コロイダルディスパージョン、水溶性組成物等が挙げられる。
なお、エマルションとは、水性バインダー中の樹脂成分(ポリカルボン酸等)とは別の乳化剤、例えば、界面活性剤等で乳化したものを意味する。また、コロイダルディスパージョンとは、樹脂成分中の官能基によって、樹脂成分が水中に分散したものを意味する。一般的に、エマルション及びコロイダルディスパージョンは、ともに外観は乳白色を呈する。水溶性組成物とは、樹脂成分が水に溶解しているものをいい、外観も透明又は透明に近いものである。
【0036】
水性バインダーの形態としては、以下に説明するとおり、工程管理が容易であることから、エマルション又はコロイダルディスパージョンよりも水溶性組成物の方が有利である。すなわち、エマルションやコロイダルディスパージョンでは、分散されている樹脂成分(ポリカルボン酸等)は、水との溶解性、膨潤性が低い性質を有しており、媒体である水が揮散すると、フィルムを形成しやすい。水性バインダー中の樹脂成分が、硬化前にフィルムを形成すると、無機繊維表面での水性バインダーの流動性が損なわれやすく、水性バインダーの付着量が均質な無機繊維断熱吸音材が得られないだけでなく、無機繊維同士の水性バインダーによる結合が欠ける部分が多くなり、製品としての形状を保つのが困難となる場合がある。また、コロイダルディスパージョンやエマルションでは、一旦、媒体である水が揮散してフィルムを形成すると、再度水性材料に戻り難いため、製造設備等に水性バインダーが付着すると、洗浄が煩雑となり、生産性の低下が生じがちである。
【0037】
一方、水性バインダーが水溶性組成物である場合、水性バインダーから水が徐々に揮散してもフィルム形成が直ちに生じるわけではないので、上記のような問題が生じることがない。よって、水性バインダーは水溶性組成物として調製することが好ましい。
【0038】
上記のような事情があるものの、エマルション又はコロイダルディスパージョンについては、加湿条件下で使用したり、水分含有量を調整したりすることで、実用上問題なく使用することも可能であることから、エマルション、コロイダルディスパージョン、水溶性組成物のいずれの形態をとるべきかは、水性バインダーの使用環境に従って適宜決定すればよい。
【0039】
水性バインダーの固形分量は、1~50質量%であることが好ましく、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下である。固形分量が1質量%以上であると、水分量が適量であるため硬化に時間がかかりすぎず、良好な生産性を保つことができる。固形分量が50質量%以下であると、水性バインダーの流動性の低下を防ぐことができる。
なお、本明細書において、固形分とは、水性バインダーを210℃で20分間加熱して、揮発しない成分をいう。
固形分以外の成分(揮発成分)は水であることが好ましい。
【0040】
〈無機繊維断熱吸音材用水性バインダーの強度を向上させる方法及び無機繊維断熱吸音材用水性バインダーの製造方法〉
本実施形態において、ポリカルボン酸と該ポリカルボン酸の架橋剤とを含有する無機繊維断熱吸音材用水性バインダーの強度を向上させる方法は、架橋剤として(架橋剤1)アルカノールアミンと、(架橋剤2)ヒドロキシカルボン酸及び/又はヒドロキシカルボン酸が脱水縮合したラクトンとを含む架橋剤を含有させることを含み、ポリカルボン酸、架橋剤1及び架橋剤2のカルボキシル基の合計モル数に対する、ポリカルボン酸、架橋剤1及び架橋剤2の水酸基、アミノ基及びイミノ基の合計モル数の比率が0.2~1.5である(架橋剤2がラクトンを含む場合は、脱水縮合前のヒドロキシカルボン酸におけるモル数をラクトンにおけるモル数とする)、方法である。
また、上記方法を他の側面から表現すると、強度が向上した、ポリカルボン酸と該ポリカルボン酸の架橋剤とを含有する無機繊維断熱吸音材用水性バインダーの製造方法であって、架橋剤として(架橋剤1)アルカノールアミンと、(架橋剤2)ヒドロキシカルボン酸及び/又はヒドロキシカルボン酸が脱水縮合したラクトンとを含む架橋剤を含有させる工程を含み、ポリカルボン酸、架橋剤1及び架橋剤2のカルボキシル基の合計モル数に対する、ポリカルボン酸、架橋剤1及び架橋剤2の水酸基、アミノ基及びイミノ基の合計モル数の比率が0.2~1.5である(架橋剤2がラクトンを含む場合は、脱水縮合前のヒドロキシカルボン酸におけるモル数をラクトンにおけるモル数とする)、製造方法である。
【0041】
上記無機繊維断熱吸音材用水性バインダーの強度を向上させる方法及び無機繊維断熱吸音材用水性バインダーの製造方法において使用されるポリカルボン酸及び架橋剤は、上述した本実施形態の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーに含まれるポリカルボン酸及び架橋剤の特徴を有する。
【0042】
本実施形態の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーの製造方法において、架橋剤を含有させる手法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、ポリカルボン酸を水で溶解させた樹脂溶液に、架橋剤及び必要に応じてその他添加剤を添加して混合し、水溶性組成物を得た後、水で希釈することにより、水性バインダーを得ることができる。
【0043】
〈無機繊維断熱吸音材〉
本実施形態の無機繊維断熱吸音材は、無機繊維と、無機繊維を固着(保持)する上述の本実施形態の水性バインダーの硬化物とを備える。すなわち、無機繊維断熱吸音材は、上記水性バインダーを無機繊維に付与し、水性バインダーを加熱硬化させて成形して得ることができるものである。
無機繊維としては、通常の断熱吸音材に使用されているグラスウール、ロックウール等を用いることができる。無機繊維の繊維化方法としては、例えば、火焔法、吹き飛ばし法、遠心法(ロータリー法)の各種方法を用いることができる。無機繊維がグラスウールの場合は、遠心法を用いることが好ましい。
無機繊維断熱吸音材は、そのままの形態で用いてもよく、表皮材で被覆して用いてもよい。表皮材としては、例えば、紙、合成樹脂フィルム、金属箔フィルム、不織布、織布又はこれらを組み合わせたものを用いることができる。
無機繊維断熱吸音材の密度は、通常の断熱材や吸音材に使用されている密度でよく、好ましくは5~300kg/m3である。
【0044】
〈無機繊維断熱吸音材の製造方法〉
本実施形態の無機繊維断熱吸音材は、上述の本実施形態の水性バインダーを無機繊維に付与し、水性バインダーを加熱硬化させて成形して得ることができる。
より具体的には、例えば、溶融した無機質原料を繊維化装置で繊維化し、その直後に水性バインダーを無機繊維に付与する。次いで、水性バインダーが付与された無機繊維を有孔コンベア上に堆積して嵩高い無機繊維断熱吸音材用中間体を形成し、所望の厚さになるように間隔を設けた上下一対の有孔コンベア等に送り込んで狭圧しつつ加熱し、水性バインダーを硬化させて無機繊維断熱吸音材を形成する。必要に応じて表皮材等を被覆させ、所望とする幅、長さに切断することにより、無機繊維断熱吸音材を得ることができる。
【0045】
無機繊維に水性バインダーを付与する方法としては、スプレー装置等を用いて塗布又は噴霧する方法が挙げられる。無機繊維に水性バインダーを付与する時期としては、繊維化後であればよく、水性バインダーを効率的に付与する観点から、繊維化直後に付与することが好ましい。水性バインダーの付与量は、無機繊維断熱吸音材の密度や用途によって異なるが、水性バインダーを付与した無機繊維断熱吸音材の質量を基準として、固形分換算で0.5~30質量%が好ましく、0.5~20質量%がより好ましい。
【0046】
水性バインダーを付与した無機繊維の加熱方法としては、例えば、熱風オーブンによる加熱が挙げられる。熱風オーブン内の加熱温度は、例えば、200~350℃ とすることができる。加熱硬化時間は、無機繊維断熱吸音材の密度及び厚さにより、30秒~10分の間で適宜調整することができる。
【実施例0047】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
実施例及び比較例で用いた測定・評価方法は、以下のとおりである。
【0049】
[シェルモールド破断強度]
(試験片の作製)
ガラスビーズ(85%中心粒径:106~63μm)に対し、固形分量が35質量%となるように水で調合したバインダー調合液を、硬化後のバインダー付着量が2.7質量%となるように添加し、十分に混和させてガラスビーズに含浸させた。得られたバインダー含浸ガラスビーズを、ドッグボーン型の成形型に充填し、210℃のオーブン(乾燥機)で30分間焼成してバインダーを硬化させた後、室温まで放冷することにより、
図1に示すドッグボーン型の試験片を得た。試験片は最大幅:42mm、最小幅:27mm、長さ:74mm、厚さ:6mm、質量:23gで作製した。各水性バインダーについて6個の試験片を作製した。
(引張強度試験)
卓上型材料試験機(A&D社製「STB-1225S」)を用い、試験機の治具に試験片を設置して、以下の測定条件で引張試験を実施した。
ロードセル:2.5kN
引張速度:5mm/分
6個の試験片について測定を行い、最大破断荷重(kgf)の中央値をその水性バインダーの引張強度とし、比較例3(従来のポリカルボン酸系水性バインダー)の引張強度を100とした相対値で各実施例・比較例の引張強度を示した。相対強度が110以上であると、強度が高く好ましい。
【0050】
[析出物の有無]
各水性バインダーを濃度9質量%まで蒸留水で希釈した際の水溶性を、析出物の有無により確認した。濃度9質量%まで希釈した際に析出物が生じるような状態であると、無機繊維断熱吸音材の製造時に水性バインダーを無機繊維に付与するために希釈した際に析出物が生じ、配管やノズルのつまりの原因となるため、好ましくない。
【0051】
[10%圧縮強度]
遠心法により繊維化したガラス繊維に、実施例及び比較例のバインダーを所定の付着量になるようにそれぞれスプレーで塗布した後、吸引装置で吸引しながら有孔コンベア上に堆積して、無機繊維断熱吸音材の中間体を形成させた。上記中間体を260℃の熱風中で5分間加熱して、バインダーを硬化させ、密度24kg/m3、長さ1350mm、幅430mm、厚み80mm、バインダー付着量8.0質量%の無機繊維断熱吸音材(グラスウールボード)を得た。圧縮試験機(A&D社製「RTG-1310」)を用い、得られたグラスウールボードの厚み方向に1m/分の速度で荷重をかけ、厚みを10%圧縮したときの荷重値(10%圧縮荷重)(kgf/m2)を測定した。
【0052】
実施例及び比較例において使用した原材料は、以下のとおりである。
【0053】
[ポリカルボン酸]
・アクリル酸を次亜リン酸ナトリウムを連鎖移動剤としてラジカル重合させてポリアクリル酸(重量平均分子量4700 、酸価708mgKOH/g)を得た。
なお、重量平均分子量は、GPC(東ソー社製「HLC-8420GPC」)及び2本直列につないだカラム(東ソー社製「TSKgel G3000PWXL」)を用い、カラム温度を40℃、溶媒を0.2Mリン酸緩衝液(pH7.0)、溶剤の流量を0.5mL/分として測定を行い、市販の標準ポリアクリル酸についての測定から求めた検量線(標準ポリアクリル酸のピーク分子量を使用して作成)を使用して求めた。
また、酸価は、ポリカルボン酸1gを水酸化カリウムで中和し、中和に要した水酸化カリウムの質量(mgKOH)として求めた。
【0054】
[架橋剤]
[[架橋剤1]]
・モノエタノールアミン
・ジエタノールアミン
・トリエタノールアミン
[[架橋剤2]]
・乳酸
・クエン酸
・γ-ブチロラクトン
[[その他架橋剤]]
・トリエチレンテトラミン
【0055】
[その他添加剤]
・硫酸アンモニウム
・γ-アミノプロピルトリエトキシシラン
【0056】
[実施例1]
ポリアクリル酸を水で溶解させ、樹脂溶液(固形分46%)を得た。樹脂溶液と、トリエタノールアミン(架橋剤1)と、乳酸(架橋剤2)とを表1に示す質量割合となるように混合し、水溶性組成物を得た。さらに、ポリアクリル酸と架橋剤の固形分の合計を100質量部として、中和剤として硫酸アンモニウム8質量部、シランカップリング剤としてγ-アミノプロピルトリエトキシシラン0.6質量部を添加し、水溶性組成物を固形分が35%となるように水で希釈し、水性バインダーを得た。
なお、各成分の質量割合は、固形分換算での値である。
水性バインダーの評価結果を表1に示す。また、各成分の割合から求めた以下のモル比率1~3(組成)を表1に示す
モル比率1=(ポリカルボン酸、架橋剤1及び架橋剤2の水酸基、アミノ基及びイミノ基の合計モル数)/(ポリカルボン酸、架橋剤1及び架橋剤2のカルボキシル基の合計モル数)
モル比率2=(架橋剤1の水酸基、アミノ基及びイミノ基の合計モル数)/(ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル数)
モル比率3=(架橋剤2の水酸基及びカルボキシル基の合計モル数)/(ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル数)
【0057】
[実施例2~12、比較例1~3]
各成分の割合を表1に示すとおりとしたこと以外は実施例1と同様にして、水性バインダーを得た。なお、比較例3は、特許第6850380号公報の実施例の組成を参照して製造した従来のポリカルボン酸系水性バインダーである。
各成分の質量割合は、固形分換算での値であり、小数点以下第2位を四捨五入したため、合計が100質量%とならない場合がある。
実施例1と同様に、各水性バインダーの評価結果及びモル比率1~3(組成)を表1に示す。
なお、比較例1は、析出物が多く、グラスウールボード圧縮強度の測定と、シェルモールド破断強度の測定は実施していない。
【0058】