(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005659
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】電磁弁制御装置、電磁弁制御システム、油圧装置
(51)【国際特許分類】
F16K 31/06 20060101AFI20240110BHJP
F15B 11/02 20060101ALI20240110BHJP
F15B 11/028 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
F16K31/06 310C
F16K31/06 320Z
F15B11/02 F
F15B11/028 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105932
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】伏見 純也
【テーマコード(参考)】
3H089
3H106
【Fターム(参考)】
3H089AA20
3H089AA74
3H089BB17
3H089CC01
3H089CC12
3H089DA03
3H089DA14
3H089DB08
3H089DB33
3H089DB46
3H089DB50
3H089DB54
3H089EE31
3H089EE36
3H089FF08
3H089FF12
3H089GG02
3H089JJ17
3H106DA02
3H106DA13
3H106DA23
3H106DB12
3H106DC19
3H106EE01
3H106FA01
3H106FB11
3H106FB25
3H106KK03
(57)【要約】
【課題】量子化誤差によって生じる制御信号のばらつきを抑制し、操作に応じて精度良く電磁弁を制御する。
【解決手段】電磁弁(10,11)を制御する電磁弁制御装置であって、1または複数の検出値62を取得する検出値受信部と、所定の振幅の乱数信号63を生成する乱数生成部と、所定の信号に乱数信号63を付加する乱数付加部と、検出値62から第一制御信号66を生成する信号変換部とを有し、乱数付加部は検出値62および第一制御信号66のうちの少なくともいずれかに乱数信号63を付加し、電磁弁(10,11)を第一制御信号66により制御する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁弁を制御する電磁弁制御装置であって、
1または複数の検出値を取得する検出値受信部と、
所定の振幅の乱数信号を生成する乱数生成部と、
所定の信号に前記乱数信号を付加する乱数付加部と、
前記検出値から第一制御信号を生成する信号変換部とを有し、
前記乱数付加部は前記検出値および前記第一制御信号のうちの少なくともいずれかに前記乱数信号を付加し、前記電磁弁を前記第一制御信号により制御する電磁弁制御装置。
【請求項2】
前記検出値および前記第一制御信号の少なくともいずれかを所定の桁数に丸める信号処理部をさらに有する請求項1に記載の電磁弁制御装置。
【請求項3】
所定の周波数の周波数信号を前記第一制御信号に付加して第二制御信号を生成する周波数付加部をさらに有し、前記電磁弁を前記第二制御信号により制御する請求項1に記載の電磁弁制御装置。
【請求項4】
前記検出値に所定の周波数の周波数信号を付加する周波数付加部をさらに有する請求項1に記載の電磁弁制御装置。
【請求項5】
前記乱数信号の振幅を、丸め幅の半分とする請求項1に記載の電磁弁制御装置。
【請求項6】
前記乱数信号は、丸め幅をdとした場合、―0.5d以上0.5d以下の範囲の振幅である請求項1に記載の電磁弁制御装置。
【請求項7】
電磁弁と、前記電磁弁を制御する油圧ポンプから吐出する作動油の油圧である前記検出値に基づいて前記電磁弁を制御する請求項1から6のいずれか一項に記載の電磁弁制御装置とを備えた電磁弁制御システム。
【請求項8】
作動油を供給する油圧ポンプと、
前記作動油によって動作する油圧アクチュエータと、
前記油圧ポンプから吐出する前記作動油の油圧を検出する圧力センサと、
前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータへの前記作動油の供給状態を変化させる電磁弁と、
前記圧力センサの検出値に基づいて前記電磁弁を制御する請求項1から6のいずれか一項に記載の電磁弁制御装置とを備えた油圧装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁弁を制御する電磁弁制御装置、前記電磁弁制御装置を備えた電磁弁制御システムおよび油圧装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な分野で電磁弁が利用されている。例えば、特許文献1に示す作業車は、操作具の操作に応じて油圧ポンプからアクチュエータに供給される作動油を変化させる電磁弁を備えている。
【0003】
操作具には操作具の操作量を検出するセンサが設けられ、制御装置はセンサの検出値を受信する。制御装置は、受信した検出値を、制御装置および電磁弁の性能に応じた所定の精度の数値に丸め(桁落ちさせ)、丸められた数値に応じて電磁弁に制御信号を出力する。この制御信号に基づいて電磁弁が制御されることにより、アクチュエータに操作具の操作に応じた作動油が供給される。また、制御信号は、油圧ポンプのポンプ圧(油圧)や流量(吐出流量)等が考慮されて生成される場合もあり、これらの検出値が丸められる場合もある。さらに、制御信号である電磁弁に対する指示電流が丸められる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような制御信号の生成方法によると、実際の検出値と丸められた数値との差分に相当する量子化誤差が生じ、その結果、制御信号のばらつきが大きくなって精度良く電磁弁を制御できない場合がある。
【0006】
本発明は、量子化誤差によって生じる制御信号のばらつきを抑制し、操作に応じて精度良く電磁弁を制御することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明の一実施形態に係る電磁弁制御装置は、電磁弁を制御する電磁弁制御装置であって、1または複数の検出値を取得する検出値受信部と、所定の振幅の乱数信号を生成する乱数生成部と、所定の信号に前記乱数信号を付加する乱数付加部と、前記検出値から第一制御信号を生成する信号変換部とを有し、前記乱数付加部は前記検出値および前記第一制御信号のうちの少なくともいずれかに前記乱数信号を付加し、前記電磁弁を前記第一制御信号により制御する。
【0008】
電磁弁を制御するのに適した精度の制御信号で電磁弁を制御するために、制御信号を生成するための検出値や制御信号(指示電流)を丸めて精度を変更する必要がある。検出値や制御信号が増加傾向または減少傾向である領域において、検出値や制御信号をそのまま丸めると、特定の値の近傍で値が切り上げまたは切り捨てされる傾向が顕著となり、値の変化が強調される。
【0009】
また、前記検出値および前記第一制御信号の少なくともいずれかを所定の桁数に丸める信号処理部をさらに有してもよい。
【0010】
以上の構成によると、検出値や制御信号に乱数信号を付加してから丸めるため、値の変化の強調が抑制される。その結果、量子化誤差によって生じる制御信号のばらつきが抑制され、操作に応じて精度良く電磁弁を制御することができる。
【0011】
また、前記電磁弁制御装置は、所定の周波数の周波数信号を前記第一制御信号に付加して第二制御信号を生成する周波数付加部をさらに有し、前記電磁弁を前記第二制御信号により制御してもよい。
【0012】
このような構成により、量子化誤差によって生じる制御信号のばらつきが抑制され、操作に応じて精度良く電磁弁を制御することができる。
【0013】
また、前記電磁弁制御装置は、前記検出値に所定の周波数の周波数信号を付加する周波数付加部をさらに有してもよい。
【0014】
このような構成により、量子化誤差によって生じる制御信号のばらつきが抑制され、操作に応じて精度良く電磁弁を制御することができる。
【0015】
また、前記乱数信号の振幅を、丸め幅の半分としてもよい。
【0016】
このような構成により、検出値が増加傾向または減少傾向である領域であっても、特定の検出値の近傍における検出値が、丸め幅を超えて変化されることが抑制され、丸められた検出値が丸める前の検出値から大きく変化することが抑制される。その結果、第一制御信号または第二制御信号が検出値から乖離することが抑制され、操作に応じて精度良く電磁弁を制御することができる。
【0017】
また、前記乱数信号は、丸め幅をdとした場合、―0.5d以上0.5d以下の範囲の振幅であってもよい。
【0018】
このような構成により、検出値が、切り上げられる方向または切り捨てられる方向に適度に調整される。特定の検出値の近傍において検出値が急激に変化することが抑制され、その結果、制御信号の分散(ばらつき)が抑制される。
【0019】
さらに、本発明の一実施形態に係る電磁弁制御システムは、電磁弁と、前記電磁弁を制御する油圧ポンプから吐出する作動油の油圧である前記検出値に基づいて前記電磁弁を制御する前記電磁弁制御装置とを備えている。
【0020】
このような構成により、量子化誤差によって生じる制御信号のばらつきが抑制され、操作に応じて精度良く電磁弁を制御することができる。
【0021】
また、本発明の油圧装置は、作動油を供給する油圧ポンプと、前記作動油によって動作する油圧アクチュエータと、前記油圧ポンプから吐出する前記作動油の油圧を検出する圧力センサと、前記油圧ポンプから前記アクチュエータへの前記作動油の供給状態を変化させる電磁弁と、前記圧力センサの検出値に基づいて前記電磁弁を制御する前記電磁弁制御装置とを備えている。
【0022】
このような構成により、量子化誤差によって生じる制御信号のばらつきが抑制され、操作に応じて精度良く油圧装置を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】コントロールバルブユニットの構成例を示す概略図である。
【
図4】制御装置で生成される信号の流れを例示する図である。
【
図5】制御装置において操作レバーの操作に応じて制御信号を生成するフローを例示する図である。
【
図8】乱数信号を付加することによる効果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態に係る電磁弁制御装置および電磁弁制御システムを備えた油圧装置の一例としてフロントローダが搭載されるトラクタについて説明する。以下の説明において、図中のFは前方向を示し、Bは後方向を示し、Uは上方向を示し、Dは下方向を示す。
【0025】
〔トラクタの全体構成〕
まず、
図1を用いてトラクタ(油圧装置)の構成を説明する。トラクタは、左右の前輪1および左右の後輪2により支持される機体3を備える。機体3の前部にエンジン4が支持され、機体3に運転部5が設けられる。運転部5に、運転座席6および前輪1を操向操作する操縦ハンドル7等が設けられる。
【0026】
また、トラクタは、機体3に支持されるフロントローダ13(作業装置)を備える。左右の支持フレーム14が機体3の右部および左部に連結されて上方に向けて延出され、フロントローダ13は支持フレーム14に支持される。フロントローダ13は、左右のブーム15とバケット16とを備える。左右のブーム15は、上下揺動可能に支持フレーム14の上部に支持されて前方に向けて延出され、バケット16は上下揺動可能に左右のブーム15の前端部に支持される。
【0027】
左右の複動型のブームシリンダ17(油圧アクチュエータに相当)が、支持フレーム14とブーム15とに亘って接続される。左右の複動型のバケットシリンダ18(油圧アクチュエータに相当)が、ブーム15とバケット16とに亘って接続される。ブーム15は、ブームシリンダ17が伸縮操作されることにより昇降操作される。バケット16は、バケットシリンダ18が伸縮操作されることにより上下に揺動操作される。
【0028】
ブームシリンダ17およびバケットシリンダ18は、機体3に設けられる電子制御式油圧システム(電磁弁制御システムに相当)によって油圧制御される。
【0029】
〔コントロールバルブユニットの構成〕
以下、ブームシリンダ17およびバケットシリンダ18に作動油(圧油)を給排操作するコントロールバルブユニット8の構成について、
図2を用いて説明する。
【0030】
コントロールバルブユニット8は、作動油を供給する油圧ポンプ22と、コントロールバルブユニット8と、コントロールバルブユニット8の動作を制御する制御装置51とを備える。コントロールバルブユニット8は、運転部5に設けられる操作レバー35(操作具に相当)、機体3に搭載される可変容量型の油圧ポンプ22、ブームシリンダ17、バケットシリンダ18、および制御装置51と接続される。コントロールバルブユニット8は、操作レバー35の操作に応じて油圧ポンプ22から供給される作動油を制御し、ブームシリンダ17およびバケットシリンダ18に供給する。つまり、ブームシリンダ17およびバケットシリンダ18は油圧ポンプ22から供給される作動油によって油圧制御される。なお、油圧ポンプ22から供給される作動油の制御は、操作レバー35に対する操作量と共に、あるいは操作レバー35に対する操作量に代えて、油圧ポンプ22から供給される作動油の油圧に基づいて制御されてもよい。
【0031】
コントロールバルブユニット8はブロック状のバルブケース9を備え、電磁弁(電子制御式の制御弁)10、電磁弁11、3個のリリーフ弁19および4個の逆止弁21等が、バルブケース9に収容される。なお、電磁弁10は、例えば、ソレノイドによってスプールを直接駆動するものであってもよく、ソレノイドによってスプールを駆動するためのパイロット油の供給状態を変化させるものであってもよい。
【0032】
油圧ポンプ22はエンジン4により駆動される。油圧ポンプ22は、機体3に搭載されたミッションケース23の潤滑油を作動油として排出(吐出)し、作動油の吐出量は操作シリンダ50によって変更される。油圧ポンプ22は、吐出する作動油の油圧を検出する圧力センサ22aを備える。
【0033】
操作レバー35が前後方向に操作されると電磁弁10が操作され、作動油がブームシリンダ17に供給されてブームシリンダ17を動作させる。操作レバー35が左右方向に操作されると電磁弁11が操作され、作動油がバケットシリンダ18に供給されてバケットシリンダ18を動作させる。つまり、電磁弁10および電磁弁11は、油圧ポンプ22から排出される作動油の供給状態を切り替え、ブームシリンダ17およびバケットシリンダ18の動作を制御する。
【0034】
ブームシリンダ17に掛かる負荷が大きくなり、作動油の圧力が設定値以上に高くなると、リリーフ弁19が開位置に操作されて作動油が排出され、ブームシリンダ17に掛かる負荷が低減される。
【0035】
バケットシリンダ18に掛かる負荷が大きくなり、作動油の圧力が設定値以上に高くなると、リリーフ弁19が開位置に操作されて作動油が排出され、バケットシリンダ18に掛かる負荷が低減される。
【0036】
制御装置(電磁弁制御装置に相当)51は、操作レバー35の操作位置および作動油の油圧の少なくともいずれかに応じて、電磁弁10または電磁弁11を制御するための制御値を算出する。この制御値(制御信号)に基づいて電磁弁10または電磁弁11が動作することにより、操作レバー35に対する操作に応じて、油圧ポンプ22からブームシリンダ17またはバケットシリンダ18に作動油が供給され、ブームシリンダ17またはバケットシリンダ18が動作する。
【0037】
電子制御式油圧システムは、操作レバー35、制御装置51、および電磁弁10,電磁弁11を含んで構成される。
【0038】
〔制御装置の構成〕
次に、
図3~
図5を用いて、制御装置51の構成について説明する。
【0039】
制御装置51はECUやCPU等のプロセッサを備え、制御装置51が備える各機能部はプロセッサにより制御される。制御装置51は、検出値受信部52、乱数生成部53、乱数付加部54、信号処理部56、信号変換部57、周波数付加部58、記憶部59を備える。
【0040】
検出値受信部52は、操作レバー35の操作位置として、操作レバー35に設けられたセンサ35aおよび圧力センサ22aの少なくともいずれかの検出値62を取得する(
図5のステップ#1)。取得された検出値62は記憶部59に格納される。センサ35aは、操作レバー35の操作位置を所定の時間間隔で経時的に検出する。
【0041】
乱数生成部53は、所定の振幅の乱数信号63生成し、乱数信号63を記憶部59に格納する(
図5のステップ#2)。乱数付加部54は少なくともいずれかの検出値62に乱数信号63を付加して入力信号64を生成する(
図5のステップ#3)。生成された入力信号64は記憶部59に格納される。
【0042】
信号処理部56は、入力信号64の桁数を、電磁弁10,電磁弁11の制御信号を生成するのに適した桁数に丸める(量子化する
図5のステップ#4)。検出値62の精度はセンサ35aや圧力センサ22aの性能に依存し、制御信号の精度は電磁弁10や電磁弁11、制御装置51の性能に依存する。検出値62の精度と制御信号の精度とが一致しない場合、適切に制御信号を生成することができない場合がある。検出値62の有効数字を制御信号の有効数字と一致させるために、信号処理部56は、検出値62を丸めて端数処理を行う。丸め処理は、所定の桁において、四捨五入、切り上げ、切り捨て等、任意の方法で行うことができる。
【0043】
信号変換部57は、丸められた入力信号64および検出値62の少なくともいずれかから、電磁弁10,電磁弁11を制御するための電気信号である第一制御信号66に生成する(
図5のステップ#5)。生成された第一制御信号66は記憶部59に格納される。
【0044】
周波数付加部58は、所定の周波数の周波数信号67を、第一制御信号66に付加して第二制御信号69を生成する(
図5のステップ#6)。生成された第二制御信号69は記憶部59に格納される。周波数信号67の周波数は100Hz等で任意であるが、例えば、周期が、センサ35aまたは圧力センサ22aが検出値62を出力する(操作レバー35の操作位置を検出する/作動油の油圧を検出する)時間間隔となる周波数とすることができる。また、周波数信号67の振幅は任意であるが、丸め幅(量子化幅)の半分以下とすることが好ましい。電磁弁10および電磁弁11は、第一制御信号66または第二制御信号69により制御可能であるが、本実施形態においては、第二制御信号69を用いて電磁弁10および電磁弁11が制御される(
図5のステップ#7)。そして、電磁弁10および電磁弁11の動作に応じてブームシリンダ17およびバケットシリンダ18が動作する。
【0045】
第二制御信号69を用いて電磁弁10および電磁弁11を制御した場合、操作レバー35が操作されていない場合であっても、少なくとも周波数信号67に相当する制御信号が電磁弁10および電磁弁11に入力され、電磁弁10および電磁弁11は常に動作し続けることになる。これにより、電磁弁10および電磁弁11のスプールに生じる摩擦を軽減させて電磁弁10,電磁弁11およびブームシリンダ17,バケットシリンダ18の動作を滑らかにすることができると共に、電磁弁10,電磁弁11およびブームシリンダ17,バケットシリンダ18の応答性を向上させることができる。
【0046】
〔乱数信号を付加する効果〕
次に、乱数信号63を付加することによる効果について、
図6を用いて説明する。
【0047】
上述のように、検出値62から制御信号(第一制御信号66)を生成する際には、検出値62が所定の精度(有効数字)に丸められる(量子化される)。丸めは、四捨五入・切り捨て等のあらかじめ定めた手法で、所定の桁数になるように行われる。そのため、丸めによって検出値62の変化が強調される場合があった。その結果、制御信号がばらつき(
図6(a))、油圧アクチュエータ(ブームシリンダ17およびバケットシリンダ18)の動作が安定しない場合があった。
【0048】
一方、センサ35aの性能(分解能)を電磁弁10,電磁弁11の要求性能に一致させることにより、検出値62を丸める必要性が低減する。しかしながら、センサ35aや圧力センサ22a等の性能を向上させるとコストが増大し、センサ35aまたは圧力センサ22aから制御装置51に信号を送信する通信容量も大きくなる。
【0049】
本実施形態によると、センサ35aや圧力センサ22a等の性能を向上させなくても、検出値62に乱数信号63を付加した信号を丸めるため、検出値62が変化する場合であっても、制御信号のばらつきが抑制される(
図6(b))。その結果、油圧アクチュエータ(ブームシリンダ17およびバケットシリンダ18)の動作を安定させて、操作に応じて精度良く油圧アクチュエータ(ブームシリンダ17およびバケットシリンダ18)を制御することができる。
【0050】
〔乱数信号〕
乱数信号63は、乱数的に振幅の変わる信号である。例えば、乱数信号63は、異なる複数の周波数をもつ信号が合成されて生成される。
【0051】
乱数信号63の振幅は、丸め幅(量子化幅)を考慮して定めることができる。例えば、乱数信号63の振幅は丸め幅の半分とし、丸め幅をdとすると、乱数信号63の振幅は、0.5d以下であることが好ましい。つまり、乱数信号63は、所定の周期で―0.5d以上0.5d以下の乱数が現れる信号である。
【0052】
具体的には、制御信号が整数値であるとすると、丸め幅(量子化幅)が1となるので、
図7に示すように、乱数信号63は、―0.5以上0.5以下の乱数が周期的に現れる信号である。なお、乱数の刻みは任意であり、乱数は、丸め幅の1/10刻みの値、つまり、―0.5,―0.4,―0.3・・・0.0,・・・0.4,0.5の値をとってもよく、丸め幅の1/100刻みの値、つまり、―0.50,―0.49,―0.48・・・0.00,・・・0.48,0.49,0.50の値をとってもよい。
【0053】
ここで、検出値62が徐々に変化する場合、
図8の破線に示すように、乱数信号63を付加せずに検出値62をそのまま丸めると、特定の値の近傍で値が切り上げまたは切り捨てされる傾向が顕著となり、検出値62の変化が強調され、丸められた信号の分散が大きくなる場合がある。例えば、検出値62を小数点以下で四捨五入する場合、検出値62が0.4,0.5の近傍、1.4,1.5の近傍等で丸められた信号値の差は1となり、検出値62の0.1程度の変化に対して丸められた信号は1だけ変化する。このように、特定の値の近傍において、検出値62の変化量以上に丸められた信号の変化量が大きくなり、特定の値の近傍で丸められた信号の値が急激に変化して検出値62の変化が強調される。
【0054】
このように、検出値62が徐々に変化する場合、特定の値(数値が切り上げまたは切り捨てられる境界の値)の前後で、一方に数値が切り上げられる値が集まり、他方に数値が切り捨てられる値が集まる傾向となる。そのため、検出値62をそのまま丸めると、丸められた値は、特定の値の前後で丸め幅だけ変化することとなる。本実施形態においては、振幅が丸め幅の半分の乱数信号63が検出値62に付加される。そのため、
図8の太線に示すように、変化が強調された値の近傍の値が乱数的に変化し、特定の値の前後で、一方に数値が切り上げられる値が集まり、他方に数値が切り捨てられる値が集まる傾向が緩和される。つまり、特定の値の近傍で丸められた信号の値が急激に変化することが抑制され、結果として制御信号のばらつきが抑制される。さらに、乱数信号63を付加することで、検出値62との丸め誤差が低周波領域に偏る傾向が緩和されるため、丸め処理が制御信号に与える影響が低減され、制御信号のばらつきが抑制される。以上の結果より、操作に応じて精度良く電磁弁10,電磁弁11(
図2参照)を制御することができる。
【0055】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態において、信号処理部56は全ての入力信号64を丸めてもよいが、一部または全部の入力信号64は信号処理部56で丸められなくてもよい。全ての入力信号64が丸められない場合、信号処理部56は設けられなくてもよい。信号変換部57は、第一制御信号66が生成される処理に伴って、結果的に、信号処理部56で丸められなかった入力信号64を丸める構成であってもよい。
【0056】
(2)上記各実施形態において、センサ35aおよび圧力センサ22aの少なくともいずれかの検出値62に乱数信号63が付加されて丸められたが、乱数信号63が付加される検出値62は、油圧制御に係る信号(検出値62)のうちの丸め処理が行われる任意の信号(検出値62)であってもよい。
【0057】
例えば、油圧制御において丸め処理が行われる信号(検出値62)は、操作レバー35に対する操作量および油圧ポンプ22から吐出する作動油の油圧以外に、油圧ポンプ22から吐出する作動油の吐出流量、電磁弁10,電磁弁11の実電流値、制御装置51で生成された制御信号(第一制御信号66,第二制御信号69)等である。つまり、丸め処理が行われる信号(検出値62)は、作動油の油圧や吐出流量、実電流値等の電子制御式油圧システムの実状態を検出して制御装置51に送信される値、操作レバー35に対する操作量等の制御装置51に送信される作業者の操作を検出した値、制御信号(第一制御信号66,第二制御信号69)等の制御装置51で演算された値等である。
【0058】
吐出流量は油圧ポンプ22に設けられる流量センサ(図示せず)により検出され、制御装置51は、作動油の油圧、操作レバー35に対する操作量、および吐出流量の少なくともいずれかに基づいて制御信号(第一制御信号66,第二制御信号69)を生成する。実電流値は電磁弁10,電磁弁11に設けられる電流センサ10a,電流センサ11aにより検出され、電磁弁10,電磁弁11から制御装置51に送信される。制御装置51は、実電流値を考慮して制御信号(第一制御信号66,第二制御信号69)を生成することができる。制御装置51は、制御信号(第一制御信号66,第二制御信号69)を電磁弁10,電磁弁11に応じた桁数に丸めることができる。この場合、制御装置51は入力信号64を丸めずに検出値62から制御信号(第一制御信号66,第二制御信号69)を生成してもよい。
【0059】
以上のように、任意の信号(検出値62)に乱数信号63を付加して丸めることにより、より精度良く制御信号(第一制御信号66,第二制御信号69)を生成し、精度良く電磁弁10,電磁弁11を制御することができる。
【0060】
(3)上記実施形態において、周波数信号67は、第一制御信号66に付加される構成に限らず、乱数信号63が付加される前の検出値62、または、丸められる前の入力信号64に付加されてもよい。
【0061】
これにより、電磁弁10,電磁弁11が常に動作し続け、操作レバー35の操作に対する電磁弁10,電磁弁11およびブームシリンダ17、バケットシリンダ18の応答性が向上する。さらに、検出値62または入力信号64に周波数信号67が付加されることにより、検出値62に対して、乱数信号63および周波数信号67が付加されてから丸められることとなり、量子化誤差によって生じる制御信号のばらつきをより抑制することが期待できる。
【0062】
(4)上記各実施形態において、電磁弁10および電磁弁11は第二制御信号69により制御される構成に限らず、第一制御信号66により制御されてもよい。この場合、制御装置51は、周波数付加部58を備えなくてもよい。
【0063】
周波数信号67を付加しなくとも、検出値62に乱数信号63を付加して丸めた入力信号64から生成された第一制御信号66で電磁弁10および電磁弁11を制御しても、十分に応答性が確保できる場合がある。上記構成によると、より簡易な構成で応答性を確保しながら、量子化誤差によって生じる制御信号のばらつきを抑制し、操作に応じて精度良く電磁弁10,電磁弁11を制御することができる。
【0064】
(5)上記各実施形態において、制御装置51は電磁弁10および電磁弁11に代えて、あるいは電磁弁10および電磁弁11に加えて、操作シリンダ50を操作するための電磁弁を、乱数信号63の付加を伴って生成された制御信号により制御して、油圧ポンプ22の吐出流量を制御してもよい。これにより、より精度良く、油圧アクチュエータであるブームシリンダ17およびバケットシリンダ18を制御することができる。
【0065】
(6)上記各実施形態において、油圧アクチュエータはブームシリンダ17およびバケットシリンダ18の2つに限らず、1または3以上の油圧アクチュエータが設けられてもよい。この場合、油圧アクチュエータのそれぞれに対して、作動油の供給を制御する電磁弁が設けられ、それらの電磁弁のうちの1つ以上を制御装置51が乱数信号63の付加を伴って生成された制御信号により制御する。
【0066】
(7)上記各実施形態において、コントロールバルブユニット8の構成は、
図2に示す構成に限らず、それぞれの油圧アクチュエータに対する作動油の供給を制御できればよい。例えば、油路の構成や電磁弁10,電磁弁11の構成、リリーフ弁19の有無・構成は任意である。
【0067】
(8)上記各実施形態において、操作レバー35は、レバーに限らずスイッチやペダル等の任意の構成の操作具であってもよい。また、1つの操作レバー35(操作具)で複数の油圧アクチュエータの操作を受け付ける構成に限らず、1または複数の油圧アクチュエータ毎に操作具が設けられてもよい。
【0068】
(9)上記各実施形態において、制御装置51は上記のような機能ブロックから構成されるものに限定されず、任意の機能ブロックから構成されてもよい。例えば、制御装置51の各機能ブロックはさらに細分化されても良く、逆に、各機能ブロックの一部または全部がまとめられてもよい。また、制御装置51の機能は、上記機能ブロックに限らず、任意の機能ブロックが実行する方法により実現されてもよい。また、制御装置51の機能の一部または全部は、ソフトウエアで構成されてもよい。ソフトウエアに係るプログラムは、記憶部59等の任意の記憶装置に記憶され、制御装置51が備えるCPU等のプロセッサ、あるいは別に設けられたプロセッサにより実行される。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の電磁弁制御装置は、電磁弁を備えた装置全般に適用できる。そのような装置の一例としては、例えば、油圧装置、空圧装置、水圧装置、給排水装置、空調装置などが挙げられる。また、上記油圧装置の一例としては、例えば、農業機械、建設機械、産業機械、工作機械、車両、船舶、航空機などが挙げられる。
【符号の説明】
【0070】
3 機体
10 電磁弁(電子制御式制御弁)
11 電磁弁(電子制御式制御弁)
17 ブームシリンダ(油圧アクチュエータ)
18 バケットシリンダ(油圧アクチュエータ)
22 油圧ポンプ
22a 圧力センサ
35 操作レバー(操作具)
51 制御装置(電磁弁制御装置)
52 検出値受信部
53 乱数生成部
54 乱数付加部
56 信号処理部
57 信号変換部
58 周波数付加部
62 検出値
63 乱数信号
66 第一制御信号
67 周波数信号
69 第二制御信号