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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056606
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】熱硬化性接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 179/08 20060101AFI20240416BHJP
   C09J 4/02 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
C09J179/08
C09J4/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088435
(22)【出願日】2023-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2022162898
(32)【優先日】2022-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】川崎 律也
(72)【発明者】
【氏名】白石 駿太
(72)【発明者】
【氏名】高橋 泰典
【テーマコード(参考)】
4J040
【Fターム(参考)】
4J040EC002
4J040EC062
4J040EH031
4J040FA132
4J040FA262
4J040GA11
4J040HD30
4J040HD36
4J040JB02
4J040KA12
4J040KA14
4J040KA19
4J040KA23
4J040KA29
4J040KA38
4J040KA42
4J040LA06
4J040MA02
4J040NA20
(57)【要約】
【課題】十分な接着強度を得ることができる、熱硬化型の接着剤組成物を提供すること、または、十分な接着強度を得つつ、膜形成したときにその膜をCMP処理により適切に研磨または研削できる、熱硬化型の接着剤組成物を提供すること。
【解決手段】イミド環構造を有するポリイミドと、多官能(メタ)アクリレート化合物と、を含む、熱硬化性接着剤組成物。この熱硬化性接着剤組成物は、ポリイミド前駆体を含まないか、または、ポリイミド100質量部に対して100質量部より少ないポリイミド前駆体を含む。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イミド環構造を有するポリイミドと、多官能(メタ)アクリレート化合物と、を含む、熱硬化性接着剤組成物であって、
ポリイミド前駆体を含まないか、または、前記ポリイミド100質量部に対して100質量部より少ないポリイミド前駆体を含む、熱硬化性接着剤組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の熱硬化性接着剤組成物であって、
前記ポリイミドがアゾール構造を有する、熱硬化性接着剤組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の熱硬化性接着剤組成物であって、
さらに熱ラジカル発生剤を含む、熱硬化性接着剤組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載の熱硬化性接着剤組成物であって、
さらにエポキシ(メタ)アクリレート化合物を含む、熱硬化性接着剤組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載の熱硬化性接着剤組成物であって、
さらにエポキシ樹脂を含む、熱硬化性接着剤組成物。
【請求項6】
請求項1または2に記載の熱硬化性接着剤組成物であって、
前記多官能(メタ)アクリレート化合物は、5官能以上の多官能(メタ)アクリレート化合物を含む、熱硬化性接着剤組成物。
【請求項7】
請求項1または2に記載の熱硬化性接着剤組成物であって、
さらに重合禁止剤を含む、熱硬化性接着剤組成物。
【請求項8】
請求項1または2に記載の熱硬化性接着剤組成物であって、
さらに溶剤を含み、前記ポリイミドは前記溶剤に溶解している、熱硬化性接着剤組成物。
【請求項9】
請求項1または2に記載の熱硬化性接着剤組成物であって、
当該熱硬化性接着剤組成物を、170℃で60分間加熱することで得られる半硬化膜の弾性率が、1~4GPaである、熱硬化性接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスの製造において、接着剤が用いることがある。
例えば、特許文献1には、半導体装置の製造において、(A)ポリアミド酸、ポリアミド酸エステル、ポリアミド酸塩及びポリアミド酸アミドからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂であるポリイミド前駆体、並びにポリイミド樹脂の少なくとも一方と、(B)溶剤と、を含む樹脂組成物を用いた接合技術が記載されている。ちなみに、特許文献1の図3等には、樹脂組成物で形成した絶縁膜に化学的機械的研磨(CMP)を施し、その後、CMPが施された絶縁膜同士を接合させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2022/071329号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
接着剤の接着強度は、通常、十分に大きいことが好ましい。
【0005】
また、特許文献1に示されているような、樹脂組成物で形成した絶縁膜にCMP処理を施し、その後に絶縁膜同士を接合させる場合、形成された膜がCMP処理により適切に研磨または研削されることが好ましい。ここで「適切に研磨または研削される」とは、例えば、CMP処理による絶縁膜の剥がれが抑えられることをいう。
【0006】
以上を踏まえ、本発明者らは、十分な接着強度を得ることができる、熱硬化型の接着剤組成物を提供することを目的の1つとして様々な検討を行った。
また、本発明者らは、十分な接着強度を得つつ、膜形成したときにその膜をCMP処理により適切に研磨または研削できる、熱硬化型の接着剤組成物を提供することを目的の1つとして様々な検討を行った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、検討の結果、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
【0008】
1.
イミド環構造を有するポリイミドと、多官能(メタ)アクリレート化合物と、を含む、熱硬化性接着剤組成物であって、
ポリイミド前駆体を含まないか、または、前記ポリイミド100質量部に対して100質量部より少ないポリイミド前駆体を含む、熱硬化性接着剤組成物。
2.
1.に記載の熱硬化性接着剤組成物であって、
前記ポリイミドがアゾール構造を有する、熱硬化性接着剤組成物。
3.
1.または2.に記載の熱硬化性接着剤組成物であって、
さらに熱ラジカル発生剤を含む、熱硬化性接着剤組成物。
4.
1.~3.のいずれか1つに記載の熱硬化性接着剤組成物であって、
さらにエポキシ(メタ)アクリレート化合物を含む、熱硬化性接着剤組成物。
5.
1.~4.のいずれか1つに記載の熱硬化性接着剤組成物であって、
さらにエポキシ樹脂を含む、熱硬化性接着剤組成物。
6.
1.~5.のいずれか1つに記載の熱硬化性接着剤組成物であって、
前記多官能(メタ)アクリレート化合物は、5官能以上の多官能(メタ)アクリレート化合物を含む、熱硬化性接着剤組成物。
7.
1.~6.のいずれか1つに記載の熱硬化性接着剤組成物であって、
さらに重合禁止剤を含む、熱硬化性接着剤組成物。
8.
1.~7.のいずれか1つに記載の熱硬化性接着剤組成物であって、
さらに溶剤を含み、前記ポリイミドは前記溶剤に溶解している、熱硬化性接着剤組成物。
9.
1.~8.のいずれか1つに記載の熱硬化性接着剤組成物であって、
当該熱硬化性接着剤組成物を、170℃で60分間加熱することで得られる半硬化膜の弾性率が、1~4GPaである、熱硬化性接着剤組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、十分な接着強度を得ることができる、熱硬化型の接着剤組成物が提供される。
また、本発明によれば、十分な接着強度を得つつ、膜形成したときにその膜をCMP処理により適切に研磨または研削できる、熱硬化型の接着剤組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】熱硬化性接着剤組成物の使用方法の一例を説明するための図である。
図2】熱硬化性接着剤組成物の使用方法の一例を説明するための図である。
図3】熱硬化性接着剤組成物の使用方法の一例を説明するための図である。
図4】熱硬化性接着剤組成物の使用方法の一例を説明するための図である。
図5】熱硬化性接着剤組成物の使用方法の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
煩雑さを避けるため、(i)同一図面内に同一の構成要素が複数ある場合には、その1つのみに符号を付し、全てには符号を付さない場合や、(ii)特に図2以降において、図1と同様の構成要素に改めては符号を付さない場合がある。
すべての図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部材の形状や寸法比などは、必ずしも現実の物品と対応しない。
【0012】
本明細書中、数値範囲の説明における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
【0013】
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
本明細書における「有機基」の語は、特に断りが無い限り、有機化合物から1つ以上の水素原子を除いた原子団のことを意味する。例えば、「1価の有機基」とは、任意の有機化合物から1つの水素原子を除いた原子団のことを表す。
本明細書において、「GBL」は、γ-ブチロラクトンの略号である。
本明細書における「電子デバイス」の語は、半導体チップ、半導体素子、プリント配線基板、電気回路ディスプレイ装置、情報通信端末、発光ダイオード、物理電池、化学電池など、電子工学の技術が適用された素子、デバイス、最終製品等を包含する意味で用いられる。
【0014】
<熱硬化性接着剤組成物>
本実施形態の熱硬化性接着剤組成物は、イミド環構造を有するポリイミドと、多官能(メタ)アクリレート化合物と、を含む。
本実施形態の熱硬化性接着剤組成物は、ポリイミド前駆体を含まないか、または、ポリイミド100質量部に対して100質量部より少ないポリイミド前駆体を含む。つまり、本実施形態の熱硬化性接着剤組成物は、ポリイミド前駆体を含まないか、または、ポリイミド前駆体を含むとしてもその量は少量である。
【0015】
本実施形態の熱硬化性接着剤組成物は、多官能(メタ)アクリレート化合物を含むことにより、硬化反応が起こることで接着性を示す。
本実施形態の熱硬化性接着剤組成物は、化学的に剛直な構造を有し、比較的高いガラス転移温度を有する、イミド環構造を有するポリイミドを含む。このため、本実施形態の熱硬化性接着剤組成物で形成された膜(具体的には後述する「半硬化膜」)は、比較的硬くて軟化しにくいため、研磨または研削しやすいと考えられる。
【0016】
また、イミド環構造を有するポリイミドは、ポリイミド前駆体(ポリアミド樹脂など)とは異なり、基本的に脱水反応を起こさない。このため、イミド環構造を有するポリイミドを含む一方、ポリイミド前駆体を含まないか、または、ポリイミド前駆体を含むとしてもその量は少ない本実施形態の熱硬化性接着剤組成物を硬化させた際の硬化収縮は、比較的小さく、接着力を減ずることがある残留応力の発生を抑えることができる。この結果として大きな接着力を得やすい傾向がある。さらに、脱水反応を起こさないということは、硬化によるアウトガスが少ないということであり、このことはガス発生による接着力の低下が抑えられることを意味する。
【0017】
以上、本実施形態においては、イミド環構造を有するポリイミドと多官能(メタ)アクリレート化合物とを併用し、また、ポリイミド前駆体を用いないか、または用いるとしても少量とすることにより、良好な接着強度を得ることができる。また。追加的な効果として良好なCMP特性を得ることができる。
【0018】
本実施形態の熱硬化性接着剤組成物が含むことができる成分や、本実施形態の熱硬化性接着剤組成物の性状、物性などについて説明を続ける。
【0019】
(イミド環構造を有するポリイミド)
本実施形態の熱硬化性接着剤組成物は、イミド環構造を有するポリイミドを含有する。
ポリイミドは、通常、イミド環構造を有する。よって、「イミド環構造を有するポリイミド」とは、冗長な表現かもしれない。ただし、「ポリイミド」という言葉は、しばしばポリイミドの前駆体であるポリアミド樹脂等を含む意味で用いられることもあるため、本明細書ではあえて「イミド環構造を有するポリイミド」という表現を用いている。
以下では、イミド環構造を有するポリイミドを、単に「ポリイミド」と表現することもある。
【0020】
ポリイミドに含まれるイミド環基のモル数をIMとし、ポリイミドに含まれるアミド基のモル数をAMとしたとき、{IM/(IM+AM)}×100(%)で表されるイミド環化率は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上である。要するに、ポリイミドは、アミド構造が無いまたは少なく、イミド環構造が多い樹脂であることが好ましい。このようなポリイミド樹脂を用いることで、閉環反応による脱水が起こらないため、加熱による収縮(硬化収縮)を一層抑えることができる。これにより、電子デバイスの信頼性の一層の向上や、硬化膜の平坦性の一層の向上などを図ることができる。
イミド環化率は、一例として、NMRスペクトルにおける、アミド基に対応するピークの面積やイミド環基に対応するピークの面積などから知ることができる。別の例として、イミド環化率は、赤外吸収スペクトルにおける、アミド基に対応するピークの面積やイミド環基に対応するピークの面積などから知ることができる。
【0021】
ポリイミドは、フッ素原子を含むポリイミドを含むことが好ましい。本発明者らの知見として、フッ素原子を含むポリイミドは、フッ素原子を含まないポリイミドよりも、有機溶剤溶解性が良好な傾向がある。このため、フッ素原子を含むポリイミドを用いることで、組成物の性状をワニス状としやすい。
フッ素原子を含むポリイミド中のフッ素原子の量(質量比率)は、例えば1~30質量%、好ましくは3~28質量%、より好ましくは5~25質量%である。ある程度多くの量のフッ素原子がポリイミド中に含まれることで、十分な有機溶剤溶解性を得やすい。一方、他の性能とのバランスの観点からは、フッ素原子の量が多すぎないことが好ましい。
【0022】
ポリイミドは、下記一般式(PI-1)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0023】
【化1】
【0024】
一般式(PI-1)中、
Xは2価の有機基であり、
Yは4価の有機基であり、
XおよびYの少なくとも一方は、フッ素原子含有基である。
【0025】
Xの2価の有機基および/またはYの4価の有機基は、芳香環構造を含むことが好ましく、ベンゼン環構造を含むことがより好ましい。これにより耐熱性が一層高まる傾向がある。
有機溶剤溶解性の観点では、XおよびYの両方が、フッ素原子含有基であることが好ましい。
Xの2価の有機基および/またはYの4価の有機基は、好ましくは、2~6個のベンゼン環が、単結合または2価の連結基を介して結合した構造を有する。ここでの2価の連結基としては、アルキレン基、フッ化アルキレン基、エーテル基などを挙げることができる。アルキレン基およびフッ化アルキレン基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。
Xの2価の有機基の炭素数は、例えば6~30である。
Yの4価の有機基の炭素数は、例えば6~20である。
一般式(PI-1)中の2つのイミド環は、それぞれ、5員環であることが好ましい。
【0026】
ポリイミドは、下記一般式(PI-2)で表される構造単位を含むことがより好ましい。
【0027】
【化2】
【0028】
一般式(PI-2)中、
Xは、一般式(PI-1)におけるXと同義であり、
Y'は、単結合またはアルキレン基を表す。
【0029】
Xの具体的態様については、一般式(PI-1)において説明したものと同様である。
Y'のアルキレン基は、直鎖状でも分岐状でもよい。Y'のアルキレン基の水素原子の一部または全部は、フッ素原子で置換されていることが好ましい。Y'のアルキレン基の炭素数は、例えば1~6、好ましくは1~4、さらに好ましくは1~3である。
【0030】
ポリイミドの好ましい態様の1つとして、アゾール構造を有するポリイミドを挙げることができる。アゾール構造を有するポリイミドにおいて、アゾール構造は、ポリイミドの側鎖にあってもよいし、末端にあってもよい。原料の入手容易性や合成のしやすさなどから、ポリイミドは、少なくともその片末端にアゾール構造を有することが好ましい。ポリイミドは、その両末端にアゾール構造を有していてもよいし、片末端のみにアゾール構造を有していてもよい。
ちなみに、ポリイミドの末端がアゾール構造を有していない場合、ポリイミドの末端は、好ましくは酸無水物基を有している。
【0031】
アゾール構造として好ましくは、トリアゾール構造およびテトラゾール構造が挙げられる。トリアゾール構造には、窒素原子の位置が異なる1,2,3-トリアゾール構造と、1,2,4-トリアゾール構造と、の2種類がある。本実施形態においてはどちらのトリアゾール構造も利用可能である。
【0032】
トリアゾール構造としては、例えば、以下に挙げるトリアゾール化合物から水素原子を除いた1価の基を挙げることができる。ただし、本実施形態における特に良好な銅密着性の観点から、トリアゾール構造は、ベンゼン環骨格を含まないトリアゾール構造であることが好ましい。
トリアゾール、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール(ベンゼン環にメチル基が置換したベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、4,5,6,7-テトラハイドロベンゾトリアゾール、4,5,6,7-テトラハイドロトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-5'-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-3'5'-ジ-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-4-オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール等。
【0033】
テトラゾール構造としては、例えば、以下に挙げるテトラゾール化合物から水素原子を除いた1価の基を挙げることができる。
1,2,3,4-テトラゾール、5-アミノ-1,2,3,4-テトラゾール、5-メチル-1,2,3,4-テトラゾール、1H-テトラゾール-5-酢酸、1H-テトラゾール-5-コハク酸
【0034】
より具体的には、アゾール構造は、以下一般式(AZ)で表される構造を含むことができる。
【0035】
【化3】
【0036】
一般式(AZ)中、
Rは、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20である置換もしくは非置換のアルキル基、炭素原子数3~15である置換もしくは非置換のシクロアルキル基、または炭素原子数6~20である置換もしくは非置換の芳香族炭化水素基であり、
Yは、-CH=または-N=であり、
*は、ポリイミドとの結合手である。
【0037】
Rのアルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよい。直鎖状アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デカニル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、イソヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基等が挙げられる。分岐状アルキル基としては、1-メチルエチル基、1-メチルプロピル基、2-メチルプロピル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基などが挙げられる。
Rのシクロアルキル基は、単環でも多環でもよい。具体的には、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。また、多環の脂環式基としては、ノルボルニル基、イソボルニル基、トリシクロノニル基、トリシクロデシル基、テトラシクロドデシル基等が挙げられる。
Rの芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基などを挙げることができる。
【0038】
ポリイミドは、ポリイミド前駆体を閉環反応させることにより得ることができる。ポリイミド前駆体としては、ポリアミド樹脂を用いることができる。
【0039】
ポリイミドの重量平均分子量は、例えば5000~100000、好ましくは7000~75000、より好ましくは10000~50000である。ポリイミドの重量平均分子量がある程度大きいことにより、例えば硬化膜の十分な耐熱性を得ることができる。また、ポリイミドの重量平均分子量が大きすぎないことにより、ポリイミドを有機溶剤に溶解させやすくなる。
重量平均分子量は、通常、ポリスチレンを標準物質として用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により求めることができる。
【0040】
本実施形態の熱硬化性接着剤組成物は、ポリイミドを1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
ポリイミドの含有量は、組成物の全固形分中、好適には1質量%以上、より好適には5質量%以上、さらに好適には10質量%以上である。ある程度多量のポリイミドを用いることで、適度な厚さの樹脂膜を形成しやすくなる。また、ポリイミドの量の上限値は特に限定されないが、通常は75質量%以下、好適には65質量%以下である。すなわち、ポリイミドの含有量は、組成物の全固形分中、好ましくは1~75質量%、より好ましくは5~65質量%、好ましくは10~65質量%である。
【0041】
本実施形態の熱硬化性接着剤組成物は、ポリイミド以外の樹脂を含んでもよいし、含まなくてもよい。ただし、前述の、硬化収縮を抑えたり、アウトガス発生を抑えたりする観点から、本実施形態の熱硬化性接着剤組成物は、ポリイミド前駆体(脱水反応によりポリイミドとなることができるポリマー)を含まないか、または含むとしても少量である。
具体的には、本実施形態の熱硬化性接着剤組成物は、ポリイミド前駆体を含まない。または、本実施形態の熱硬化性接着剤組成物は、ポリイミド100質量部に対して、100質量部より少ない、好ましくは50質量部以下、より好ましくは25質量部以下のポリイミド前駆体を含む。
【0042】
(多官能(メタ)アクリレート化合物)
本実施形態の熱硬化性接着剤組成物は、好ましくは多官能(メタ)アクリレート化合物を含む。
多官能(メタ)アクリレート化合物とは、1分子中の(メタ)アクリロイル基の個数が2以上である化合物のことを指す。
【0043】
本実施形態においては、諸性能のバランスの点で、多官能(メタ)アクリレート化合物1分子あたりの(メタ)アクリロイル基の数は、好ましくは5以上である。(メタ)アクリロイル基の個数に上限は特に無いが、原料入手の容易性などから、例えば11、より好ましくは9である。つまり、多官能(メタ)アクリレート化合物は、好ましくは5~11官能、より好ましくは5~9官能である。
【0044】
大まかな傾向として、(メタ)アクリロイル基の個数が多い場合、硬化膜の耐薬品性が高まる傾向がある。一方、(メタ)アクリロイル基の個数が少ない場合、硬化膜の引張り伸びなどの機械物性が良好となる傾向がある。
【0045】
多官能(メタ)アクリレート化合物としては、一例として、以下一般式で表される多官能(メタ)アクリレート化合物を用いることができる。以下一般式において、R'は水素原子またはメチル基、nは0~3、Rは水素原子または(メタ)アクリロイル基である。
【0046】
【化4】
【0047】
多官能(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、以下を挙げることができる。もちろん、多官能(メタ)アクリレート化合物はこれらのみに限定されない。
【0048】
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等のポリオールポリアクリレート類、ビスフェノールAジグリシジルエーテルのジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジグリシジルエーテルのジ(メタ)アクリレート等のエポキシアクリレート類、ポリイソシナネートとヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレートの反応によって得られるウレタン(メタ)アクリレートなど。
【0049】
アロニックスM-400、アロニックスM-460、アロニックスM-402、アロニックスM-510、アロニックスM-520(東亜合成株式会社製)、KAYARAD T-1420、KAYARAD DPHA、KAYARAD DPCA20、KAYARAD DPCA30、KAYARAD DPCA60、KAYARAD DPCA120(日本化薬株式会社製)、ビスコート#230、ビスコート#300、ビスコート#802、ビスコート#2500、ビスコート#1000、ビスコート#1080(大阪有機化学工業株式会社製)、NKエステルA-BPE-10、NKエステルA-GLY-9E、NKエステルA-9550、NKエステルA-DPH(新中村化学工業株式会社製)などの市販品。
【0050】
ポリイミド100質量部に対する多官能(メタ)アクリレート化合物の量は、好ましくは1~150質量部、より好ましくは20~120質量部、さらに好ましくは50~100質量部である。
【0051】
組成物が多官能(メタ)アクリレート化合物を含む場合、1のみの多官能(メタ)アクリレート化合物を含んでもよいし、2以上の多官能(メタ)アクリレート化合物を含んでもよい。後者の場合、官能基数が異なる多官能(メタ)アクリレート化合物を併用することが好ましい。官能基数が異なる多官能(メタ)アクリレート化合物を併用することで、硬化膜としたときの耐薬品性と機械特性とを高度に両立させることができる場合がある。
ちなみに、市販の多官能(メタ)アクリレート化合物の中には、官能基数が異なる多官能(メタ)アクリレート化合物の混合物もある。
【0052】
(エポキシ(メタ)アクリレート化合物)
本実施形態の熱硬化性接着剤組成物は、好ましくはエポキシ(メタ)アクリレート化合物を含む。「エポキシ(メタ)アクリレート化合物」とは、1分子内にエポキシ含有基および(メタ)アクリロイル基をそれぞれ1以上有する化合物のことを意味する。
エポキシ(メタ)アクリレート化合物を用いることで、接着力のさらなる向上、CMP処理適性の他さらなる向上などを期待することができる。
【0053】
エポキシ(メタ)アクリレート化合物は、分子内の一方の末端にエポキシ含有基を、他方の末端に(メタ)アクリロイル基をそれぞれ1つずつ有することが好ましい。この構成を備えることにより、未反応の官能基が減少すると考えられ、好ましい。
【0054】
エポキシ(メタ)アクリレート化合物は、一般式(1)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0055】
【化5】
【0056】
一般式(1)において、
は(メタ)アクリロイル基を表し、
はエポキシ基含有基であり、具体的には、グリシジル基、グリシジルエーテル基、エポキシ基または1,2-エポキシシクロヘキシル基であり、
nは1~10の整数である。
【0057】
が上記官能基から選択されることにより、エポキシ(メタ)アクリレート化合物と組成物に含まれる他の成分、もしくは、エポキシ(メタ)アクリレート化合物同士の反応性が一層良好となり、諸性能が一層良化すると考えられる。
【0058】
また、nが1~10の範囲内であることにより、組成物の硬化物が適度に柔軟となると考えられる。硬化物の柔軟性は、接着力と関係があるから、硬化物の柔軟性が適切となることで接着力の向上が図られる場合がある。
【0059】
エポキシ(メタ)アクリレート化合物の具体例として、以下化学式(2)~(4)で表される化合物を挙げることができる。
【0060】
【化6】
【0061】
【化7】
【0062】
【化8】
【0063】
エポキシ(メタ)アクリレート化合物を用いる場合、1のみのエポキシ(メタ)アクリレート化合物を用いてもよいし、2以上のエポキシ(メタ)アクリレート化合物を用いてもよい。
エポキシ(メタ)アクリレート化合物を用いる場合、その量は、エポキシ(メタ)アクリレート化合物による効果を十分に得る観点から、ポリイミド100質量部に対して、例えば0.1質量部以上、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上である。
また、エポキシ(メタ)アクリレート化合物を用いる場合、その量は、他の性能とのバランスの観点で、ポリイミド100質量部に対して、例えば30質量部以下、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。
すなわち、エポキシ(メタ)アクリレート化合物を用いる場合、その量は、ポリイミド100質量部に対して、例えば0.1~30質量部、好ましくは0.5~20質量部、より好ましくは1~15質量部である。
【0064】
(熱ラジカル発生剤)
本実施形態の熱硬化性接着剤組成物は、熱ラジカル発生剤を含むことが好ましい。熱ラジカル発生剤を用いずとも、加熱により自然発生するラジカル種により硬化反応を進行させることも可能である。しかし、硬化の迅速化や硬化の程度のコントロールしやすさなどを踏まえると、熱ラジカル発生剤を用いることが好ましい。
【0065】
熱ラジカル発生剤は、好ましくは、有機過酸化物を含む。有機過酸化物としては、オクタノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ステアロイルパーオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ2-エチルヘキサノエート、シュウ酸パーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルパーオキシ2-エチルヘキサノエート、t-ヘキシルパーオキシ2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキサノエート、m-トルイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド、アセチルパーオキシド、t-ブチルヒドロパーオキシド、ジ-t-ブチルパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、ジクミルパーオキシド、t-ブチルパーベンゾエート、パラクロロベンゾイルパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシド、などを挙げることができる。
【0066】
熱ラジカル発生剤を用いる場合、1のみの熱ラジカル発生剤を用いてもよいし、2以上の熱ラジカル発生剤を用いてもよい。
熱ラジカル発生剤を用いる場合、その量は、多官能(メタ)アクリレート化合物100質量部に対して、好ましくは0.1~30質量部、より好ましくは1~20質量部である。
ちなみに、熱ラジカル発生剤に加え、以下の光ラジカル発生剤も用いる場合には、熱ラジカル発生剤と光ラジカル発生剤の総量は、多官能(メタ)アクリレート化合物100質量部に対して、好ましくは1~60質量部、好ましくは5~50質量部、さらに好ましくは10~40質量部である。
【0067】
(光ラジカル発生剤)
ちなみに、本実施形態においては、光ラジカル発生剤として知られている化合物のうち、熱によってもラジカルを発生することが可能なものを、熱ラジカル発生剤として用いることもできる。
【0068】
光ラジカル発生剤としては、例えば、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシー2-フェニルアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-〔4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル〕-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-1-{4-〔4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル〕フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-(ジメチルアミノ)-2-〔(4-メチルフェニル)メチル〕-1-〔4-(4-モルホリニル)フェニル〕-1-ブタノン等のアルキルフェノン系化合物;ベンゾフェノン、4,4′-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、2-カルボキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテ等のベンゾイン系化合物;チオキサントン、2-エチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン等のチオキサントン系化合物;2-(4-メトキシフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(4-メトキシナフチル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(4-エトキシナフチル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(4-エトキシカルボキニルナフチル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン等のハロメチル化トリアジン系化合物;2-トリクロロメチル-5-(2′-ベンゾフリル)-1,3,4-オキサジアゾール、2-トリクロロメチル-5-〔β-(2′-ベンゾフリル)ビニル〕-1,3,4-オキサジアゾール、4-オキサジアゾール、2-トリクロロメチル-5-フリル-1,3,4-オキサジアゾール等のハロメチル化オキサジアゾール系化合物;2,2′-ビス(2-クロロフェニル)-4,4′,5,5′-テトラフェニル-1,2′-ビイミダゾール、2,2′-ビス(2,4-ジクロロフェニル)-4,4′,5,5′-テトラフェニル-1,2′-ビイミダゾール、2,2′-ビス(2,4,6-トリクロロフェニル)-4,4′,5,5′-テトラフェニル-1,2′-ビイミダゾール等のビイミダゾール系化合物;1,2-オクタンジオン,1-〔4-(フェニルチオ)フェニル〕-2-(O-ベンゾイルオキシム)、エタノン,1-〔9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル〕-,1-(O-アセチルオキシム)等のオキシムエステル系化合物;ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム等のチタノセン系化合物;p-ジメチルアミノ安息香酸、p-ジエチルアミノ安息香酸等の安息香酸エステル系化合物;9-フェニルアクリジン等のアクリジン系化合物;等を挙げることができる。これらの中でも、特にオキシムエステル系化合物を好ましく用いることができる。
【0069】
光ラジカル発生剤を用いる場合、1のみの光ラジカル発生剤を用いてもよいし、2以上の光ラジカル発生剤を用いてもよい。
【0070】
(エポキシ樹脂)
本実施形態の熱硬化性接着剤組成物は、エポキシ樹脂を含んでもよい。エポキシ樹脂は、ポリイミドと結合を形成すると考えられる。このようにして形成された結合により、硬化膜の機械物性(引張り伸びなど)を高めることが可能である。
ちなみに、本明細書において、エポキシ樹脂からは、上述のエポキシ(メタ)アクリレート化合物は除外される。
【0071】
エポキシ樹脂の具体例としては、以下を挙げることができる。もちろん、エポキシ樹脂はこれらのみに限定されない。
ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールM型エポキシ樹脂(4,4'-(1,3-フェニレンジイソプリジエン)ビスフェノール型エポキシ樹脂)、ビスフェノールP型エポキシ樹脂(4,4'-(1,4-フェニレンジイソプリジエン)ビスフェノール型エポキシ樹脂)、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂(4,4'-シクロヘキシジエンビスフェノール型エポキシ樹脂)、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、テトラフェノール基エタン型ノボラック型エポキシ樹脂、縮合環芳香族炭化水素構造を有するノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;キシリレン型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂などのアラルキル型エポキシ樹脂;ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ナフタレンジオール型エポキシ樹脂、2~4官能エポキシ型ナフタレン樹脂、ビナフチル型エポキシ樹脂、ナフタレンアラルキル型エポキシ樹脂などのナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂;アントラセン型エポキシ樹脂;フェノキシ型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;ノルボルネン型エポキシ樹脂;アダマンタン型エポキシ樹脂;フルオレン型エポキシ樹脂、リン含有エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビキシレノール型エポキシ樹脂、トリヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレートなどの複素環式エポキシ樹脂;N,N,N',N'-テトラグリシジルメタキシレンジアミン、N,N,N',N'-テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサン、N,N-ジグリシジルアニリンなどのグリシジルアミン類や、グリシジル(メタ)アクリレートとエチレン性不飽和二重結合を有する化合物との共重合物;ブタジエン構造を有するエポキシ樹脂;ビスフェノールのジグリシジルエーテル化物;ナフタレンジオールのジグリシジルエーテル化物;フェノール類のグリシジルエーテル化物など。
【0072】
エポキシ樹脂を添加剤として用いる場合、その量は、ポリイミド100質量部に対して、例えば0.5~100質量部、好ましくは1~50質量部、さらに好ましくは3~20質量部である。
エポキシ樹脂を用いる場合、1のみのエポキシ樹脂を用いてもよいし、2以上のエポキシ樹脂を併用してもよい。
【0073】
(硬化触媒)
本実施形態の熱硬化性接着剤組成物は、硬化触媒を含んでもよい。
組成物がエポキシ樹脂を含有する場合、硬化触媒を用いることにより、エポキシ樹脂の重合反応が促進され、例えば硬化膜の引張り伸び率を一層向上させることができる。
【0074】
硬化触媒としては、エポキシ樹脂の硬化触媒(しばしば、硬化促進剤とも呼ばれる)として知られている化合物を挙げることができる。例えば、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン-7等のジアザビシクロアルケンおよびその誘導体;トリブチルアミン、ベンジルジメチルアミン等のアミン系化合物;2-メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物;トリフェニルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン等の有機ホスフィン類;テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウム・テトラ安息香酸ボレート、テトラフェニルホスホニウム・テトラナフトイックアシッドボレート、テトラフェニルホスホニウム・テトラナフトイルオキシボレート、テトラフェニルホスホニウム・テトラナフチルオキシボレート、テトラフェニルホスホニウム・4,4'-スルフォニルジフェノラート等のテトラ置換ホスホニウム塩;ベンゾキノンをアダクトしたトリフェニルホスフィン等が挙げられる。なかでも、有機ホスフィン類が好ましく挙げられる。
【0075】
硬化触媒を用いる場合、その量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、例えば1~80質量部、好ましくは5~50質量部、より好ましくは5~30質量部である。
【0076】
(重合禁止剤)
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、重合禁止剤を含んでもよい。重合禁止剤は、組成物の保管中の、多官能(メタ)アクリレート化合物の意図せぬ重合を抑制し、組成物の保管性を高めることに寄与する。
重合禁止剤は、具体的には、熱や光によるラジカル重合反応を防止する機能を有する成分をいう。
【0077】
重合禁止剤としては、フェノール骨格を有するものが好ましい。より具体的には、重合禁止剤としては、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤を用いることが好ましい。
重合禁止剤の具体例としては、ピロガロール、ベンゾキノン、ヒドロキノン、メチレンブルー、tert-ブチルカテコール、モノベンジルエーテル、メチルヒドロキノン、アミルキノン、アミロキシヒドロキノン、n-ブチルフェノール、フェノール、ヒドロキノンモノプロピルエーテル、4,4'-(1-メチルエチリデン)ビス(2-メチルフェノール)、4,4'-(1-メチルエチリデン)ビス(2,6-ジメチルフェノール)、4,4'-[1-〔4-(1-(4-ヒドロキシフェニル)-1-メチルエチル)フェニル〕エチリデン]ビスフェノール、4,4',4"-エチリデントリス(2-メチルフェノール)、4,4',4"-エチリデントリスフェノール、1,1,3-トリス(2,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-3-フェニルプロパン、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,2'-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4'-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、3,9-ビス[2-(3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-プロピオニルオキシ)-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、トリエチレングリコール-ビス-3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート、n-オクチル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリルテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名Irganox 1010、BASF社製)、トリス(3,5-ジ-tert-ブチルヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等が挙げられる。
【0078】
重合禁止剤を用いる場合、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
重合禁止剤を用いる場合、その使用量は、ポリイミドの使用量を100質量部としたとき、例えば0.1~10質量部、好ましくは0.2~7.5質量部、より好ましく0.3~5質量部である。
【0079】
(シランカップリング剤またはその他の密着助剤)
本実施形態の熱硬化性接着剤組成物は、シランカップリング剤を含んでもよい。
シランカップリング剤を用いることにより、樹脂膜と基材との密着性をより高めることができる。
【0080】
シランカップリング剤としては、例えば、アミノ基含有シランカップリング剤、エポキシ基含有シランカップリング剤、(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤、メルカプト基含有シランカップリング剤、ビニル基含有シランカップリング剤、ウレイド基含有シランカップリング剤、スルフィド基含有シランカップリング剤、環状無水物構造を有するシランカップリング剤、などのシランカップリング剤を用いることができる。
【0081】
本実施形態においては、ポリイミドとの「相性」の点で、環状無水物構造を有するシランカップリング剤が好ましく用いられる。詳細は不明だが、環状無水物構造は、ポリイミドの主鎖、側鎖および/または末端と反応しやすく、そのために特に良好な密着性向上効果が得られると推測される。
【0082】
樹脂膜と基材との密着性の向上のため、シランカップリング剤とは異なる密着助剤を用いてもよい。密着助剤としては、例えば5員環の含窒素複素環基を有する化合物を挙げることができる。
5員環の含窒素複素環基を有する化合物としては、トリアゾール構造およびテトラゾール構造からなる群より選択される少なくとも一種以上の化学構造を有する化合物が好ましい。
トリアゾール基は、5員環に3つの窒素原子を含む複素環基である。窒素原子の位置が異なる2種の異性体があり、それぞれ1,2,3-トリアゾール基、1,2,4-トリアゾール基と呼ばれる。また、テトラゾール基は、5員環に4つの窒素原子を含む複素環基である。
トリアゾール基およびテトラゾール基は、イミダゾール基等の他の含窒素複素環基と比較して塩基性が弱い。よって、これらを5員環の含窒素複素環基として採用することは、銅に対する密着性の向上に加え、組成物の保存性向上の観点からも有利である。
【0083】
5員環の含窒素複素環基を有する化合物は、エポキシ基および(メタ)アクリロイル基からなる群より選択される少なくとも一種以上の反応性基を有することが好ましい。反応性基は、化合物の分子の末端に存在することが好ましい。
5員環の含窒素複素環基を有する化合物が反応性基を有することで、この化合物と組成物中の他の成分とが反応したり、5員環の含窒素複素環基を有する化合物同士で重合したりするようになると考えられる。このようなことが銅に対する硬化膜の密着性のより一層の向上に関係していると推測される。
【0084】
シランカップリング剤またはその他の密着助剤が用いられる場合、単独で用いられてもよいし、2種以上のシランカップリング剤が併用されてもよい。
シランカップリング剤またはその他の密着助剤が用いられる場合、その使用量は、ポリイミド100質量部に対し、例えば0.1~20質量部、好ましくは0.3~15質量部、より好ましく0.4~12質量部、さらに好ましくは0.5~10質量部である。
【0085】
(界面活性剤)
本実施形態の熱硬化性接着剤組成物は、界面活性剤を含んでもよい。
界面活性剤を含むことにより、組成物の塗布性や、形成される膜の平坦性が一層高められる。
界面活性剤としては、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、アルキル系界面活性剤、アクリル系界面活性剤などが挙げられる。
別観点として、界面活性剤は、非イオン性であることが好ましい。非イオン性の界面活性剤の使用は、例えば、組成物中の他成分との非意図的な反応を抑え、組成物の保存安定性を高める点で好ましい。
【0086】
界面活性剤は、フッ素原子およびケイ素原子の少なくともいずれかを含む界面活性剤を含むことが好ましい。これにより、均一な樹脂膜を得られること(塗布性の向上)や、現像性の向上に加え、接着強度の向上にも寄与する。このような界面活性剤としては、例えば、フッ素原子およびケイ素原子の少なくともいずれかを含むノニオン系界面活性剤であることが好ましい。界面活性剤として使用可能な市販品としては、例えば、DIC株式会社製の「メガファック(登録商標)」シリーズの、F-251、F-253、F-281、F-430、F-477、F-551、F-552、F-553、F-554、F-555、F-556、F-557、F-558、F-559、F-560、F-561、F-562、F-563、F-565、F-568、F-569、F-570、F-572、F-574、F-575、F-576、R-40、R-40-LM、R-41、R-94等の、フッ素を含有するオリゴマー構造の界面活性剤、株式会社ネオス製のフタージェント250、フタージェント251等のフッ素含有ノニオン系界面活性剤、ワッカー・ケミー社製のSILFOAM(登録商標)シリーズ(例えばSD 100 TS、SD 670、SD 850、SD 860、SD 882)、ビックケミー社のBYK(登録商標)シリーズ(例えばBYK 302、BYK 307、BYK 310、BYK 313、BYK 323、BYK 330、BYK 333、BYK 349)等のシリコーン系界面活性剤が挙げられる。これらのうち、BYK 307、BYK 333およびBYK 349が特に好ましい。
また、スリーエム社製のFC4430やFC4432なども、好ましい界面活性剤として挙げることができる。
【0087】
界面活性剤が用いられる場合、単独で用いられてもよいし、2種以上の界面活性剤を併用してもよい。
本実施形態の熱硬化性接着剤組成物が界面活性剤を含む場合、その量は、ポリイミドの含有量を100質量部としたとき、例えば0.001~1質量部、好ましくは0.005~0.5質量部である。
【0088】
(水)
本実施形態の熱硬化性接着剤組成物は、水を含んでもよい。水の存在により、例えば、シランカップリング剤の加水分解反応が進行しやすくなり、基材と硬化膜との密着性がより高まる傾向がある。
【0089】
本実施形態の熱硬化性接着剤組成物が水を含む場合、その量は、組成物の全固形分(不揮発成分)100質量部に対して、好ましくは0.1~5質量部、より好ましくは0.2~3質量部、さらに好ましくは0.5~2質量部である。
【0090】
組成物の水分量は、カールフィッシャー法により定量することができる。
【0091】
(溶剤/組成物の性状)
本実施形態の熱硬化性接着剤組成物は、好ましくは溶剤を含む。これにより、基材(特に、段差を有する基材)に対して塗布法により樹脂膜を容易に形成することができる。
溶剤は、通常、有機溶剤を含む。上述の各成分を溶解または分散可能で、かつ、各構成成分と実質的に化学反応しないものである限り、有機溶剤は特に限定されない。
【0092】
有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、トルエン、プロピレングリコールメチルエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセテート、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ベンジルアルコール、プロピレンカーボネート、エチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロプレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、酢酸ブチル、γ-ブチロラクトン、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等が挙げられる。これらは単独で用いても、複数組み合わせて用いてもよい。
【0093】
本実施形態の熱硬化性接着剤組成物が溶剤を含む場合、組成物の性状は、通常、ワニス状である。本実施形態の熱硬化性接着剤組成物がワニス状であることにより、塗布による均一な膜形成を行うことができる。また、本実施形態の熱硬化性接着剤組成物は、ワニス状であり且つ少なくともポリイミドが溶剤に溶解していることが好ましい。
【0094】
組成物中の不揮発成分を「全固形分」とすると、溶剤を用いる場合は、組成物中の全固形分の濃度が、好ましくは10~50質量%、より好ましくは20~45質量%となるように用いられる。この範囲とすることで、各成分を十分に溶解または分散させることができる。また、良好な塗布性を担保することができ、ひいてはスピンコート時の平坦性の良化にもつながる。さらに、不揮発成分の含有量を調整することにより、組成物の粘度を適切に制御できる。
【0095】
本実施形態の熱硬化性接着剤組成物は、上記の成分に加えて、必要に応じて、上掲の成分以外の成分を含んでもよい。そのような成分としては、例えば、酸化防止剤、シリカ等の充填材、増感剤、フィルム化剤等が挙げられる。
【0096】
(半硬化膜の弾性率について)
詳しくは後述する熱硬化性接着剤組成物の使用法の一例で説明するように、本実施形態の熱硬化性接着剤組成物の好ましい使用方法として、半硬化状態において、接着プロセスに用いられることがある。
本発明者らの知見によれば、本実施形態の熱硬化性接着剤組成物の半硬化膜が、ほどよい硬さを有することにより、接着強度を得つつ、CMP処理適性を一層高めることができる傾向がある。
具体的には、熱硬化性接着剤組成物を、170℃で60分間加熱することで得られる半硬化膜の弾性率は、好ましくは1~4GPa、より好ましくは2~3.5GPa、さらに好ましくは2.5~3.2GPaである。半硬化膜の弾性率がこのような値となるように熱硬化性接着剤組成物を設計することが好ましい。
【0097】
<熱硬化性接着剤組成物の使用法の一例>
本実施形態の熱硬化性接着剤組成物を用いて電子デバイス等の物品を製造することができる。以下では電子デバイスの製造の一例を概説する。
【0098】
図1および図2
まず、図1に示されるような、基板1の表面に銅ピラー3が設けられた構造体を準備する。基板1の材質は特に限定されず、製造しようとする電子デバイスに応じて適宜選択すればよい。
この構造体における、基板1の銅ピラー3が設けられた側の面に、図2に示すように、本実施形態の熱硬化性接着剤組成物による膜5を形成する。膜5の形成は、スピナーを用いた回転塗布、スプレーコーターを用いた噴霧塗布、浸漬、印刷、ロールコーティング、インクジェット法などにより行うことができる。膜5の形成に際しては、組成物中に含まれる溶剤を乾燥させるための加熱処理を行ってもよい。この加熱処理の条件は、通常80~140℃、好ましくは90~130℃で、通常30~600秒、好ましくは60~300秒程度である。
膜5の厚みは、銅ピラー3の高さと同じかそれ以上であればよいが。典型的には3~30μm、好ましくは5~20μmである。
【0099】
図3
形成された膜5に対して、熱を加えることで、膜5を半硬化膜5Bとすることが好ましい(図3)。ここで「半硬化」とは、膜中に含まれる多官能(メタ)アクリレート化合物の(メタ)アクリロイル基の一部は反応しているがすべては反応しておらず、追加の加熱をしたときには未反応の(メタ)アクリロイル基の反応がさらに起こって硬化が進行可能な状態をいう。
加熱の方法は特に限定されない。加熱は、オーブン、ホットプレートなど、電子デバイスの製造で通常用いられる装置を用いて行うことができる。
膜5を半硬化膜5Bとするために、加熱は適切に制御されることが好ましい。用いる組成物の反応性にもよるが、加熱温度は、例えば130~250℃、好ましくは150~230℃、加熱時間は、好ましくは10~120分、より好ましくは30~90分である。
【0100】
半硬化膜5Bは、ある程度の接着力を有しつつ、未硬化の状態に比べれば「硬く」なっている。このため、膜5を半硬化膜5Bとすることで、接着強度を得つつ、CMP処理適性を一層高めることができる。
【0101】
図4
半硬化膜5Bは、後の工程のために、その一部が除去されて、銅ピラー3と同じ高さに平坦化されることが好ましい。この際、高精度の平坦化のため、半硬化膜5Bの一部に加え、銅ピラー3の上部の一部が除去されてもよい。
平坦化に際しては、公知のCMPスラリーを用いることができる。平坦化のプロセス条件についても公知情報を踏まえて適宜設定すればよい。
図5
上記のようにして準備した図4に示される構造体(第1構造体)と、同様にして製造されたもう1つの構造体(第2構造体)と、を接触させる。具体的には、第1構造体における半硬化膜5Bと、第2構造体における半硬化膜5Bとが接触するように、第1構造体と第2構造体とを接触させる。そして、好ましくは加熱処理などの適切な処理を施すことで、第1構造体と第2構造体とを接合することができる。
第1構造体と第2構造体との接合に加熱処理を適用する場合、加熱の条件は、例えば140~400℃、好ましくは150~300℃で、例えば10~240分、好ましくは30~180分である。
図5においては、第1構造体と第2構造体でピラー3の位置が一致している。このため、第1構造体と第2構造体とが接合することにより、第1構造体-第2構造体が電気的に接続されることとなる。
【0102】
上記のような一連の工程を一般化すると、本実施形態の熱硬化性接着剤組成物を用いて、以下(i)~のような手順により、物品(電子デバイスなど)を製造することができるといえる。
(i)第1の基材の表面の少なくとも一部に、本実施形態の熱硬化性接着剤組成物による第1の熱硬化性膜を形成する第1の膜形成工程
(ii)第1の熱硬化性膜を加熱し、第1の熱硬化性膜を半硬化させて第1の半硬化膜を得る第1の半硬化工程
(iii)第2の基材の表面の少なくとも一部に、本実施形態の熱硬化性接着剤組成物による熱硬化性膜を形成する第2の膜形成工程
(iv)第2の熱硬化性膜を加熱し、第2の熱硬化性膜を半硬化させて第2の半硬化膜を得る第2の半硬化工程
(v)第1の半硬化膜と、第2の半硬化膜と、を接触させ、第1の基材と第2の基材とを接着する接着工程(好ましくは加熱工程)
【0103】
念のために述べておくと、本実施形態の熱硬化性接着剤組成物は、上記のようなCMP処理による平坦化工程などを含まないプロセスにも適用可能である。具体的には、本実施形態の熱硬化性接着剤組成物は、電子デバイスの製造における種々のボンディングプロセスに好ましく適用可能である。より具体的には、本実施形態の熱硬化性接着剤組成物は、COW(Chip On Wafer)、COC(Chip On Chip)、WOW(Wafer On Wafer)などの、回路基板の積層プロセス(ボンディングプロセス)に好ましく適用可能である。
【0104】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。例えば、本実施形態の熱硬化性接着剤組成物は、上記に説明した方法のみに使用可能なものではなく、様々な部材の、様々な接合方法に広く用いることが可能である。
【実施例0105】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
【0106】
<ポリイミド(A-1)の合成>
撹拌機および冷却管を備えた5Lのセパラブルフラスコに、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン304.2g(0.95モル)、4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物355.39g(0.80モル)、4,4'-オキシジフタル酸二無水物62.04g(0.20モル)及びGBL1684gを加えて窒素雰囲気下で室温にて16時間反応し重合反応を行った。続いてオイルバスにて反応液温度を180℃まで上げ3時間反応を行ったのち、室温まで冷却した。このようにしてポリイミド溶液を作成した。
続いて、上記ポリイミド溶液をイソプロパノール/水=4/7の混合溶液に撹拌しながら滴下し、樹脂固体を析出させた。得られた固体を荒濾過したのち、更にイソプロパノール/水=4/7で洗浄してポリイミドの白色固体を得た。得られた白色固体を200℃にて真空乾燥することにより、末端に酸無水物基を有するポリイミド(A-1)を得た。
ポリイミド(A-1)のGPC測定による重量平均分子量(Mw)は49,000であった。
【0107】
<樹脂(A-2)の合成(比較例用)>
2Lのセパラブルフラスコに、GBL428g、4,4'-オキシジフタル酸二無水物155.11gおよび2-ヒドロキシエチルメタクリレート130.14gを入れ、室温でフラスコ内の成分を撹拌し完全に溶解させた。続いて室温下で攪拌しながらピリジン79.1gを加えて、更に室温で16時間撹拌した。
【0108】
上記のようにして得られた溶液を氷冷下で冷却攪拌しながら、その溶液に、ジシクロヘキシルカルボジイミド206.3gをGBL206gに溶解した溶液を30分かけて加えた。続いて4,4'-ジアミノジフェニルエーテル120.1gおよびGBL240gを加え、更に室温で2時間攪拌を継続した。
反応終了後、エタノール30gを加えて1時間攪拌した。その後、GBL400gを加え更に撹拌し、生じた沈殿物をろ過により取り除いた。これによりポリアミド酸エステルの反応液を得た。
得られた反応液を、室温下で、大量の30質量%メタノール水溶液に撹拌しながら滴下し、樹脂を沈殿させた。得られた沈殿物を濾取し、真空乾燥することにより、樹脂(A-2)を得た。
【0109】
<ポリイミド(A-3)の合成>
撹拌機および冷却管を備えた5Lのセパラブルフラスコに、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン256.2g(0.80モル)、4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物355.4g(0.80モル)、4,4'-オキシジフタル酸二無水物62.0g(0.20モル)、トリアゾール化合物として3-アミノ-1,2,4-トリアゾール8.4g(0.1モル)およびγ-ブチロラクトン(以下、GBLと略記)1591gを入れた。そして、窒素雰囲気下で室温にて3時間撹拌した。その後、オイルバスにて反応液温度を80℃まで上げて6時間撹拌し重合反応を行った。続いて反応液温度を180℃まで上げ3時間反応を行い、樹脂のイミド化を行った。その後、室温まで冷却してポリイミド溶液を作成した。
続いて、反応液を室温で撹拌しながらメタノールを滴下し、樹脂固体を析出させた。得られた固体を荒濾過し、その後、更にメタノールで洗浄してポリイミドの白色固体を得た。得られた白色固体を200℃にて真空乾燥することにより、末端にトリアゾール骨格を有するポリイミド(A-3)を得た。
ポリイミド(A-3)のGPC測定による重量平均分子量(Mw)は30,000であった。
【0110】
<ポリイミド(A-4)の合成>
撹拌機および冷却管を備えた5Lのセパラブルフラスコに、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン288.2g(0.90モル)、4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物355.4g(0.80モル)、4,4'-オキシジフタル酸二無水物62.0g(0.20モル)、トリアゾール化合物として3-アミノ-1,2,4-トリアゾール8.4g(0.1モル)およびGBL1656gを入れた。そして、窒素雰囲気下で室温にて3時間撹拌した。その後、オイルバスにて反応液温度を80℃まで上げて6時間撹拌し重合反応を行った。続いて反応液温度を180℃まで上げ3時間反応を行い樹脂のイミド化を行った。その後、室温まで冷却してポリイミド溶液を作成した。
続いて、反応液を室温で撹拌しながらメタノールを滴下し、樹脂固体を析出させた。得られた固体を荒濾過し、その後、更にメタノールで洗浄してポリイミドの白色固体を得た。得られた白色固体を200℃にて真空乾燥することにより、末端にトリアゾール骨格を有するポリイミド(A-4)を得た。
ポリイミド(A-4)のGPC測定による重量平均分子量(Mw)は82,000であった。
【0111】
<ポリイミド(A-5)の合成>
撹拌機および冷却管を備えた5Lのセパラブルフラスコに、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン272.2g(0.85モル)、4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物355.4g(0.80モル)、4,4'-オキシジフタル酸二無水物62.0g(0.20モル)およびGBL2299gを投入した。そして、窒素雰囲気下で室温にて16時間重合反応を行った。続いてオイルバスを用いて反応液温度を180℃まで上げ、その温度のまま3時間反応を行った。その後、室温まで冷却して反応液を得た。
続いて、反応液をイソプロパノール/水=4/7(質量比)の混合液に撹拌しながら滴下し、樹脂固体を析出させた。得られた固体を荒濾過し、更にイソプロパノール/水=4/7(質量比)の混合液で洗浄した。このようにしててポリイミドの白色固体を得た。得られた白色固体を200℃にて真空乾燥することにより、イミド環構造を有するポリイミド(A-5)を得た。
ポリイミド(A-5)のGPC測定による重量平均分子量(Mw)は38,000であった。またH-NMRにより解析した樹脂のイミド化率は95%以上であった。
【0112】
<硬化触媒(F-1)の合成>
撹拌装置付きのセパラブルフラスコに、4,4'-ビスフェノールS37.5g(0.15mol)、メタノール100mLを仕込み、室温で撹拌溶解し、更に攪拌しながら予め50mLのメタノールに水酸化ナトリウム4.0g(0.1mol)を溶解した溶液を添加した。次いで予め150mLのメタノールにテトラフェニルホスホニウムブロマイド41.9g(0.1mol)を溶解した溶液を加えた。しばらく攪拌を継続し、300mLのメタノールを追加した後、フラスコ内の溶液を大量の水に撹拌しながら滴下し、白色沈殿を得た。沈殿を濾過、乾燥し白色結晶の硬化触媒(F-1)を得た。
【0113】
<密着助剤(H-3)の合成>
撹拌装置付きのセパラブルフラスコに、4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル200.23g(1.00mol)、GBL691gを仕込み、室温で撹拌溶解した。更に攪拌しながら3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール96.07g(0.95mol)を添加した。次いでオイルバスにて溶液を60℃まで加熱し、更に60℃で6時間反応を行った。このようにして密着助剤(H-3)の30%GBL溶液を得た。
【0114】
<組成物の調製>
後掲の表1に示す配合比率(単位:質量部)にて各原料を配合し、室温下で原料が完全に溶解するまで撹拌し、溶液を得た。その後、その溶液を孔径0.2μmのポリプロピレン製フィルターで濾過した。このようにして、ワニス状の組成物を得た。
【0115】
表1に記載の各成分は以下のとおりである。
・ポリイミド
上記合成例を示した(A-1)~(A-5)
・エポキシ(メタ)アクリレート化合物またはエポキシ化合物
(B-1)メタクリル酸グリシジル
(B-2)EXA-830CRP(DIC(株)製、ビスフェノールF型エポキシ樹脂)
(B-3)4HBAGE(4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル)
(B-4)VG3101L(株式会社プリンテック製)
・多官能(メタ)アクリレート化合物
(C-1)ビスコート#802 (大阪有機工業(株)製、トリペンタエリスリトールアクリレート、モノ及びジペンタエリスリトールアクリレートの混合物;前掲の一般式(5)に該当し、nが1~3である化合物の混合物) 50質量部
(C-2)A-9550(新中村化学(株)製、5-6官能(アルコキシ化)ジペンタエリスリトールアクリレート) 20質量部
(C-3)ビスコート#300(大阪有機工業(株)製、ペンタエリスリトールとアクリル酸の縮合物、3-4官能) 10質量部
(C-4)ビスコート#230(大阪有機工業(株)製、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート) 10質量部
(C-5)NKエステル A-DPH(新中村化学工業(株)製、ジペンタエリスリトールポリアクリレート、1分子中にアクリロイル基を5~6個有する化合物)

・光ラジカル発生剤(熱ラジカル発生剤として機能しうる)
(D-1)Irugacure OXE01(BASF社製、オキシムエステル型光ラジカル発生剤) 10質量部
(D-2)Irgacure OXE02(BASF社製、オキシムエステル型光ラジカル発生剤)
・熱ラジカル発生剤
(E-1)パーカドックスBC(化薬ヌーリオン(株)製、ジクミルパーオキシド) 10質量部
・硬化触媒
(F-1)上記で合成した硬化触媒(ホスホニウム塩) 3質量部
・重合禁止剤
(G-1)Irganox1010(BASF社製、ヒンダードフェノール系酸化防止剤)
・シランカップリング剤またはその他の密着助剤
(H-1)KBM-403(信越化学工業(株)製、エポキシ基含有シランカップリング剤)
(H-2)X-12-967C(信越化学工業(株)製、環状無水物構造を有するシランカップリング剤)
(H-3)上述のようにして合成した密着助剤
・界面活性剤
(I-1)FC4432(3M社製、フッ素系界面活性剤) 0.1質量部
・有機溶剤
(J-1)乳酸エチル(EL) 268質量部
(J-2)ガンマ-ブチロラクトン(GBL) 268質量部
【0116】
<半硬化状態での弾性率の測定>
以下手順により、熱硬化性接着剤組成物を、170℃で60分間加熱することで得られる半硬化膜の弾性率を測定した。
(1)8インチシリコンウェハ上に、熱硬化性接着剤組成物をスピンコートにより塗布し、110℃で3分ソフトベークをすることで、厚み10μmの膜を形成した。
(2)上記膜を、シリコンウェハごとオーブンに入れて、170℃で60分間加熱した。これにより膜を半硬化状態にした。
(3)放冷後、上記(2)で得られた半硬化膜を、フッ酸溶液に浸漬して上記膜を剥がし、十分に水洗した。そして、裁断して、6.5mm幅×50mm長のサンプルを作成した。
(4)上記サンプルを、室温において、材料試験機テンシロン(STB-1225S)にセットし、荷重5N、引張速度5mm/min、チャック間距離20mmの条件で引っ張り、データを取得した。取得したデータを分析して、弾性率を求めた。
【0117】
<ボンディング性(接着強度)の評価>
以下のようにして、ボンドテスターによるボンディングと、スタッドプルテストを実施した。
(1)ボトムダイとトップダイとを準備した。具体的には、まず、シリコンウェハ上に、熱硬化性接着剤組成物をスピンコートにより塗布し、110℃で3分ソフトベークをすることで、厚み10μmの膜を設けた。その後、170℃で30分間の加熱処理を行い、膜を半硬化させた。さらにその後、その半硬化膜が設けられたシリコンウェハの一部を切り出し、縦横の大きさが10mm×10mmのボトムダイと、縦横の大きさが5mm×5mmのトップダイと、を作成した。
(2)ボトムダイを、膜が形成された面を上にして、25℃のステージ上に置いた。また、トップダイを、膜が形成された面を下にして、250℃に設定されたボンドテスターのトップツールで持ち上げた。そして、トップダイを、ボトムダイに、25Nの力で10秒間押し当てた。
(3)上記(2)で得られたトップダイ―ボトムダイの接合体を、オーブンを用いて230℃で120分間加熱した。これにより膜を十分に硬化させた。
(4)上記(3)を経たトップダイ―ボトムダイの接合体のボトムダイの側に、エポキシ系接着剤を用いてセラミック製プレートを貼り付けた。また、トップダイの側には、エポキシ系接着剤を用いてΦ=5.2mmのアルミニウム製スタッドピンを接合した。このようにしてスタッドプル試験用構造体を得た。
(5)上記(4)のスタッドプル試験用構造体のセラミック製プレートを、容易に動かないように固定したうえで、スタッドピンを、1mm/分の速度で、(i)トップダイ―ボトムダイ間の接合が破壊されるまで、(ii)ボトムダイがセラミック製プレートから剥がれるまで、または、(iii)スタッドピンがトップダイから取れるまで引っ張った。
(6)構造体の破壊形式が上記(i)であった場合には、トップダイ―ボトムダイ間の接合の破壊状態を目視し、(a)トップダイまたはボトムダイが破壊されている、(b)硬化物が凝集破壊している、(c)硬化物が界面剥離している、のいずれであるかを評価した。
【0118】
評価は10個のスタッドプル試験用構造体で行った。10個の構造体のすべてが、上記(c)の界面剥離「以外」の形式で破壊された場合を、ボンディング性「良好」とし、10個の構造体のうち1つ以上が上記(c)の界面剥離の形式で剥離された場合をボンディング性「不良」とした。
【0119】
<CMP適性の評価>
CMPとは、化学的・機械的研磨であることから、以下では、樹脂膜に化学薬品を接触させたときの耐薬品特性と、樹脂膜を機械的にグラインディングしたときのグラインディング特性と、を評価した。具体的には以下評価を行った。
【0120】
(耐薬品特性の評価)
上記<半硬化状態での弾性率の測定>の(1)および(2)のようにして作成した半硬化膜を、シリコンウェハごと、関東化学社製のレジスト剥離液SPR-920(ジメチルスルホキシドおよびアミン系有機溶剤を含有)に浸漬した。浸漬は、50℃で30分とした。浸漬前後で膜厚の変化を測定し、膜厚の減少が4μm以下であった場合を「良好」、4μm超8μm以下であった場合を「可」、8μm超であった場合を「不良」と評価した。
【0121】
(グラインディング特性の評価)
上記<半硬化状態での弾性率の測定>の(1)および(2)のようにして作成した半硬化膜に対し、#4800の円形のヤスリを、2500rpmの回転速度で回転させながら押し当てた。この際、押圧力は、研削速度が0.5μm/s程度となるように調整した。スムーズに連続的に研削できた場合を「良好」、そうでない場合を「不良」とした。
【0122】
評価結果をまとめて下表に示す。
【0123】
【表1】
【符号の説明】
【0124】
1 基板
3 銅ピラー
5 膜
5B 半硬化膜
図1
図2
図3
図4
図5