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特開2024-56637炊飯米の品質保持剤及び炊飯米の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056637
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】炊飯米の品質保持剤及び炊飯米の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20240416BHJP
【FI】
A23L7/10 B
A23L7/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023171326
(22)【出願日】2023-10-02
(31)【優先権主張番号】P 2022163320
(32)【優先日】2022-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000238164
【氏名又は名称】扶桑化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100141346
【弁理士】
【氏名又は名称】潮崎 宗
(74)【代理人】
【識別番号】100181456
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 拓男
(74)【代理人】
【識別番号】100131255
【弁理士】
【氏名又は名称】阪田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】岸 莉緒
(72)【発明者】
【氏名】松尾 美登理
(72)【発明者】
【氏名】岡山 竜也
【テーマコード(参考)】
4B023
【Fターム(参考)】
4B023LC02
4B023LC04
4B023LC08
4B023LE07
4B023LE11
4B023LG01
4B023LG10
4B023LK02
4B023LK04
4B023LP11
4B023LQ03
(57)【要約】
【課題】炊飯米の食味や風味を維持しつつ、微生物による汚染や炊飯米の褐変を抑制することができる炊飯米の品質保持剤を提供する。
【解決手段】グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)と、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)と、米由来成分(C)と、を含有することを特徴とする炊飯米の品質保持剤(X)。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)と、
脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)と、
米由来成分(C)と、
を含有することを特徴とする炊飯米の品質保持剤(X)。
【請求項2】
前記グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)が、グルコン酸および/またはグルコノデルタラクトンであることを特徴とする請求項1に記載の品質保持剤(X)。
【請求項3】
前記脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)が、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、酒石酸、酒石酸ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム、リンゴ酸、リンゴ酸ナトリウム、およびこれらの水和物からなる群より選択された少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載の品質保持剤(X)。
【請求項4】
前記米由来成分(C)が、米粉、米糖化物、米ぬか抽出物および米もろみからなる群より選択された少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載の品質保持剤(X)。
【請求項5】
乾燥米換算の米100質量部に対し、前記グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)が0.15~0.75質量部、前記脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)が0.01~0.10質量部、前記米由来成分(C)が0.001~0.05質量部の範囲で添加されるものであることを特徴とする請求項1に記載の品質保持剤(X)。
【請求項6】
乾燥米に炊き水を混合し、加熱して炊飯し、炊飯米を得る炊飯米の製造方法であって、
炊飯前、炊飯中または炊飯後のいずれかの段階で、グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)と、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)と、米由来成分(C)と、を添加することを特徴とする炊飯米の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炊飯米の品質を保持する技術の分野に属するものである。具体的には、炊飯米の品質保持剤及び炊飯米の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、炊飯米の品質を保持する技術としては、有機酸を添加して、炊飯米のpHを酸性側にシフトさせ、微生物による汚染や炊飯米の褐変を抑制する技術が知られている。しかし、これらの技術を用いた場合、添加した酸が炊飯米の食味や風味を悪化させてしまうという課題があった。
【0003】
そこで、有機酸に由来する酸味や酸臭を抑制するため、以下のような技術が提案されている。例えば、酸味や酸臭のマスキング剤として、糖アルコール、パラチノース加熱物、デキストリンを用いる技術(特許文献1);マルチトール、エリスリトールを用いる技術(特許文献2);オリゴ糖混合物を用いる技術(特許文献3);青果の搾汁物を用いる技術(特許文献4);米麹糖化液、米を原料とするもろみを用いる技術(特許文献5);等が提案されている。
【0004】
また、有機酸を従来汎用されていた酢酸からフマル酸に変更することによって、有機酸に由来する酸味や酸臭を抑制する技術も知られている(特許文献6,7)。さらに、炊飯米の褐変を抑制する技術としては、炊飯米を有機酸水溶液に浸漬し、炊飯米のpHを5.8から6.2に制御することで炊飯米の褐変を抑制する技術も知られている(特許文献8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-000008号公報
【特許文献2】特開2003-144115号公報
【特許文献3】特許第5496609号公報
【特許文献4】特許第6426352号公報
【特許文献5】特開2021-108626号公報
【特許文献6】特開2022-066911号公報
【特許文献7】特開2022-067930号公報
【特許文献8】特公平05-063132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの技術は炊飯米の品質を向上させる上で一定の効果を奏するものではあるが、炊飯米の食味や風味を維持しつつ、微生物による汚染や炊飯米の褐変を抑制するという点については未だ不十分なものであった。すなわち、炊飯米の食味や風味を維持しつつ、微生物による汚染や炊飯米の褐変を抑制するという技術的課題は未だ解決されていなかった。
【0007】
本発明は、前記のような従来技術が抱えていた技術的課題、すなわち、炊飯米の食味や風味を維持しつつ、微生物による汚染や炊飯米の褐変を抑制するという技術的課題を解決するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記従来技術の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。そして、下記(1)および(2)の思想により、前記従来技術の課題を解決しうることを見出し、本発明にかかる炊飯米の品質保持剤及び炊飯米の製造方法を完成するに至った。
(1)有機酸成分として、グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)と、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)とを組み合わせて用いること;
(2)酸味および酸臭のマスキング剤として、米由来成分(C)を用いること;
即ち、前記課題は以下に示す本発明によって解決される。
【0009】
[1]炊飯米の品質保持剤(X):
本発明の炊飯米の品質保持剤(X)は、グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)と、
脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)と、
米由来成分(C)と、
を含有するもの;である。
【0010】
そして、本発明の炊飯米の品質保持剤(X)は、前記グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)が、グルコン酸および/またはグルコノデルタラクトンであるもの;
前記脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)が、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、酒石酸、酒石酸ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム、リンゴ酸、リンゴ酸ナトリウムおよびこれらの水和物からなる群より選択された少なくとも一種であるもの;
前記米由来成分(C)が、米粉、米糖化物、米ぬか抽出物および米もろみからなる群より選択された少なくとも一種であるもの;
乾燥米換算の米100質量部に対し、前記グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)が0.15~0.75質量部、前記脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)が0.01~0.10質量部、前記米由来成分(C)が0.001~0.05質量部の範囲で添加されるもの;が好ましい。
【0011】
本発明の炊飯米の製造方法は、乾燥米に炊き水を混合し、加熱して炊飯し、炊飯米を得る炊飯米の製造方法であって、
炊飯前、炊飯中または炊飯後のいずれかの段階で、グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)と、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)と、米由来成分(C)と、を添加することを特徴とする炊飯米の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の炊飯米の品質保持剤及び炊飯米の製造方法によれば、炊飯米の食味や風味を維持しつつ、微生物による汚染や炊飯米の褐変を抑制することができる。より具体的には、微生物による汚染を抑制させるために添加する有機酸の酸味や酸臭を感じ難くさせ、炊飯米がもつ米本来の風味を感じさせることができ、炊飯直後および保温保存時にも炊飯米の褐変を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、さらに具体的に説明する。なお、本書において、「品質保持剤」というときは、炊飯米において微生物による汚染や炊飯米の褐変など、炊飯米の品質を低下させる現象を抑制し、可能な限り炊飯米の品質を炊飯時の状態のまま保持することを目的とする薬剤を意味するものとする。
【0014】
[1]炊飯米の品質保持剤:
本発明の炊飯米の品質保持剤(X)は、グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)と、
脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)と、
米由来成分(C)と、
を含有することを特徴とする。
【0015】
[1-1]グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A):
本発明の炊飯米の品質保持剤(X)は、微生物による汚染を抑制する有機酸成分として、グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)を含有する。グルコン酸誘導体は、グルコン酸を母体とする誘導体であり、pHを下げて静菌することが可能な化合物である。ここに言う「誘導体」とは、母体の化学構造を大きく変えることなく、その一部を化学的に変換することにより得られた化合物を意味する。化学的な変換としては、例えば、グルコン酸の官能基の置換、酸化還元、加水分解、エステル化、環状エステル化などを挙げることができる。
【0016】
グルコン酸誘導体としては、例えば、グルコノデルタラクトン(グルコン酸の環状エステル)などを挙げることができる。グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)は有機酸の中でも酸味や風味がおだやかな点において好ましい。グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)の中ではグルコノデルタラクトンを用いることが好ましい。グルコノデルタラクトンは、(1)水中でグルコン酸と平衡状態にあり、容易にグルコン酸を遊離する;(2)粉末状であるために、例えばグルコン酸液(50%)などの液状体として提供されることもあるグルコン酸に比して秤量が容易で正確に調製可能である;などの利点がある。
【0017】
例えば、本発明の炊飯米の品質保持剤(X)が水溶液、水分散液、水乳化液の場合、グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)としては、グルコン酸およびグルコノデルタラクトンの組み合わせが挙げられる。
【0018】
[1-2]脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B):
本発明の炊飯米の品質保持剤(X)は、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)を含有する。脂肪族ヒドロキシカルボン酸とは、直鎖状または分岐状の炭化水素骨格を有するカルボン酸であって、水酸基を有しているものを意味する。脂肪族ヒドロキシカルボン酸としては、食品での使用に適し、キレート効果を発揮することができるものであればよい。脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体は、脂肪族ヒドロキシカルボン酸骨格を有し、キレート効果を発揮することができ、食品での使用に適した誘導体である。脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体とは、母体の化学構造を大きく変えることなく、その一部を化学的に変換することにより得られた化合物を意味する。化学的な変換としては、例えば、官能基の置換、酸化還元、加水分解、エステル化、環状エステル化などを挙げることができる。脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩としては、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体のナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。
【0019】
脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)としては、例えば、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、酒石酸、酒石酸ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム、リンゴ酸、リンゴ酸ナトリウムおよびこれらの水和物からなる群より選択された少なくとも一種などを挙げることができる。中でも、(B)として、キレート作用の強いクエン酸を用いることが好ましい。
【0020】
品質保持剤(X)においては、グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)と脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)とを組み合わせて用いることにより、炊飯米の褐変を抑制するという効果を得ることができる。この効果はグルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)単独、あるいは脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)単独では得られない効果である。
【0021】
[1-3]米由来成分(C):
本発明の炊飯米の品質保持剤(X)は、酸味および酸臭のマスキング剤として、米由来成分(C)を含有する。米由来成分(C)を用いると、酸味および酸臭をマスキングすることができる他、マスキング剤による異味を感じさせず、米本来の風味を付与する効果がある。
【0022】
米由来成分(C)は米を原料とし、前記米を物理的処理、化学的処理、生物的処理などの処理を行い、得られた成分を指す。米由来成分(C)としては、例えば米粉、米糖化物、米ぬか抽出物、米もろみ等を挙げることができる。ただし、米本来の風味を付与するという点において、米粉(米の粉砕物)を用いることが好ましい。
【0023】
原料となる米の種類は特に限定されない。前記米としては、精白米(例えばうるち米、もち米など)、玄米(例えばうるち玄米、もち玄米など)、米糠(例えば白糠、中糠、赤糠、胚芽など)などを用いることができる。なお、前記玄米の態様も特に限定されず、例えば乾燥玄米であっても、吸水玄米であっても、発芽玄米であってもよい。
【0024】
米の処理方法は、物理的処理、化学的処理、生物的処理が明確に区別されていなくてもよい。例えば粉砕、水等を用いる抽出、糖化、発酵、高圧処理、剪断、焙煎、アルファー化などの処理方法を挙げることができる。発酵は米由来成分に過度の酸味および酸臭を発生させないため、アルコール発酵であることが好ましい。発酵には、細菌による発酵(酢酸発酵など)、酵母による発酵(アルコール発酵など)、カビによる発酵などがあるが、細菌による酢酸発酵でないことが好ましい。例えば、米由来成分(C)としては、米粉等の米の粉砕物、米ぬかの抽出物、米の糖化物、アルコール発酵等による米の発酵物、米の高圧処理物、米の剪断処理物、焙煎米の粉砕物、アルファー化米の粉砕物、米もろみなどが挙げられる。
【0025】
[1-4]品質保持剤(X)の形態:
品質保持剤(X)は、グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)および米由来成分(C)(すなわち、必須成分)を含有する限りにおいて、その形態は特に限定されない。品質保持剤(X)は、固体状のものであってもよいし、液体状のものであってもよい。
【0026】
固体状のものとしては、例えば、少なくとも前記必須成分が混合された粉末状のもの、顆粒状のもの、錠剤などを挙げることができる。一方、液体状のものとしては、例えば、少なくとも前記必須成分を媒体中に含有させた溶液状のもの、乳液状のもの、分散液状のものなどを用いることができる。
【0027】
[1-5]混合比:
品質保持剤(X)における各成分の混合比については、乾燥米換算の米100質量部に対し、グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)が0.15~0.75質量部、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)が0.01~0.10質量部、米由来成分(C)が0.001~0.05質量部の範囲で添加されるものが好ましい。
【0028】
例えば品質保持剤(X)が固体状である場合には、前記必須成分を前記混合比で混合したものであっても良いし、前記必須成分を前記混合比で含む粉末、顆粒、錠剤であってもよい。
【0029】
また、品質保持剤(X)が前記各成分の液体状である場合には、溶媒や分散媒中に、(A)、(B)および(C)を含み、乾燥米換算の米100質量部に対し、グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)が0.15~0.75質量部、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)が0.01~0.10質量部、米由来成分(C)が0.001~0.05質量部の範囲で添加される溶液、乳液、分散液などであっても良い。
【0030】
品質保持剤(X)は、好ましくは乾燥米換算の米100質量部に対し、グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)が、0.15~0.75質量部、好ましくは0.20~0.60質量部の範囲で添加されるものである。乾燥米換算の米100質量部に対し、グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)を0.15質量部以上とすることにより、微生物による汚染や炊飯米の褐変を抑制することができる。また、乾燥米換算の米100質量部に対し、グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)を0.75質量部以下とすることにより、炊飯米から酸味や酸臭を感じさせ難くし、炊飯米の食味や風味を維持することができる。
【0031】
品質保持剤(X)は、好ましくは乾燥米換算の米100質量部に対し、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)が、0.01~0.10質量部、好ましくは0.01~0.03質量部の範囲で添加されるものである。乾燥米換算の米100質量部に対し、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)を0.01質量部以上とすることにより、微生物による汚染や炊飯米の褐変を抑制することができる。また、乾燥米換算の米100質量部に対し、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)を0.10質量部以下とすることにより、炊飯米から酸味や酸臭を感じさせ難くし、炊飯米の食味や風味を維持することができる。
【0032】
品質保持剤(X)は、好ましくは乾燥米換算の米100質量部に対し、米由来成分(C)が、0.001~0.05質量部、好ましくは0.01~0.05質量部の範囲で添加されるものである。乾燥米換算の米100質量部に対し、米由来成分(C)を0.001質量部以上とすることにより、米本来の自然な風味を付与することができ、有機酸成分による炊飯米の酸味や酸臭をマスキングすることができる。また、乾燥米換算の米100質量部に対し、米由来成分(C)の含有量を0.05質量部以下とすることにより、穀物由来のえぐみや渋みを感じることを防ぐことができる。
【0033】
なお、本発明において、(A)として、グルコン酸およびグルコン酸誘導体を含有する場合、上記(A)は、それらグルコン酸およびグルコン酸誘導体の含有量の合計を指す。また、(B)として、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された二種以上を含有する場合、上記(B)は、それら脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された二種以上の含有量の合計を指す。(C)として、米由来成分(C)を二種以上含有する場合、上記(C)は、それら二種以上の米由来成分(C)の含有量の合計を指す。炊飯米(Y)の製造方法においても同様に、(A)、(B)、(C)のそれぞれについて、二種以上のものを添加する場合は、各添加量は、それら二種以上の合計を指す。
【0034】
[1-6]任意成分:
品質保持剤(X)は、任意に、グルコン酸塩、グルコン酸誘導体の塩およびグルコン酸塩水和物からなる群より選択された少なくとも一種を含むことができる。グルコン酸塩としては、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム等が挙げられる。グルコン酸誘導体の塩としては、グルコン酸誘導体のナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。
【0035】
[2]炊飯米(Y)の製造方法(品質保持剤(X)の使用方法を含む。):
本発明の炊飯米の製造方法は、乾燥米に炊き水を混合し、加熱して炊飯し、炊飯米を得る炊飯米の製造方法であって、炊飯前から炊飯後までの間に(炊飯前、炊飯中または炊飯後のいずれかの段階で)、グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)と、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)と、米由来成分(C)と、を添加することを特徴とする炊飯米の製造方法である。
【0036】
本発明の炊飯米の製造方法では、炊飯米の食味や風味を維持しつつ、微生物による汚染や炊飯米の褐変を抑制するためには、米(D)と、炊き水(E)と、を仕込み、加熱して炊飯し、炊飯米(Y)を得る炊飯米(Y)の製造方法において、炊飯前(加熱前)、炊飯中(加熱中)または炊飯後(加熱後)のいずれかの段階で、グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)および米由来成分(C)を添加する。(A)、(B)および(C)の添加の時期であるが、(A)、(B)および(C)を全て同時に添加してもよいし、あるいは、これの成分うちの2つを同時に、残りを別の時期に添加してもよいし、あるいは、これらの成分3つをそれぞれ別の時期に添加してもよい。(A)、(B)および(C)成分を炊飯米全体に均一に混合させることを考慮すると、炊飯前または炊飯中の段階で、グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)および米由来成分(C)を添加することが好ましい。
【0037】
例えば、米(D)の炊飯前または米(D)の炊飯中に、米の炊き水(E)に対してグルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)および米由来成分(C)を添加し、炊飯米(Y)を製造する方法;等を挙げることができる。
【0038】
中でも、米(D)の炊飯前に、米の炊き水(E)に対して、グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)および米由来成分(C)を添加し、炊飯米(Y)を製造する方法が好ましい。このような方法によれば、米(D)に対して、グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)および米由来成分(C)を均一に接触させることができ、炊飯米(Y)に対して品質保持剤(X)と同様の効果をまんべんなく適用することができる。
【0039】
炊飯米(Y)の製造方法において、グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)と、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)と、米由来成分(C)の添加量については、
乾燥米換算の米100質量部に対し、グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)の添加量が0.15~0.75質量部であり、
乾燥米換算の米100質量部に対し、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)の添加量が0.01~0.10質量部であり、
乾燥米換算の米100質量部に対し、米由来成分(C)の添加量が0.001~0.05質量部である。
【0040】
炊飯米(Y)の製造方法において、乾燥米換算の米100質量部に対し、グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)の添加量は、0.15~0.75質量部、好ましくは0.20~0.60質量部である。乾燥米換算の米100質量部に対し、(A)の添加量を0.15質量部以上とすることにより、微生物による汚染や炊飯米の褐変を抑制することができる。また、乾燥米換算の米100質量部に対する(A)の添加量を0.75質量部以下とすることにより、炊飯米から酸味や酸臭を感じさせ難くし、炊飯米の食味や風味を維持することができる。なお、炊飯米(Y)の製造方法において用いられる米(D)は、乾燥米であってもよいし、水分を含有しているものであってもよい。炊飯米(Y)の製造方法において、(A)の添加量は、乾燥米の質量を基準に決定される。米は、水分が15%前後含む乾燥米として出荷されているので、本発明において、乾燥米の質量とは、水分を15%前後含む乾燥した米の質量を指す。
【0041】
炊飯米(Y)の製造方法において、乾燥米換算の米100質量部に対し、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)の添加量は、0.01~0.10質量部、好ましくは0.01~0.03質量部である。乾燥米換算の米100質量部に対し、(B)の添加量を0.01質量部以上とすることにより、微生物による汚染や炊飯米の褐変を抑制することができる。また、乾燥米換算の米100質量部に対し、(B)の添加量を0.10質量部以下とすることにより、炊飯米から酸味や酸臭を感じさせ難くし、炊飯米の食味や風味を維持することができる。
【0042】
炊飯米(Y)の製造方法において、乾燥米換算の米100質量部に対し、米由来成分(C)の添加量が、0.001~0.05質量部、好ましくは0.01~0.05質量部である。乾燥米換算の米100質量部に対し、米由来成分(C)の添加量を0.001質量部以上とすることにより、米本来の自然な風味を付与することができ、有機酸成分による炊飯米の酸味や酸臭をマスキングすることができる。また、乾燥米換算の米100質量部に対し、米由来成分(C)の添加量を0.05質量部以下とすることにより、穀物由来のえぐみや渋みを感じることを防ぐことができる。
【0043】
グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)および米由来成分(C)については個別に添加してもよい。グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)および米由来成分(C)を媒体中に含有させた溶液状のもの、乳液状のもの、分散液状のもの、あるいは粉末を同時に、又は順次添加することができる。ただし、本発明の品質保持剤(X)を用いて添加することが好ましい。予め、各必須成分の添加割合を考慮して調整されており、炊飯時の品質を保持可能な炊飯米(Y)を極めて簡便に製造することができる。
【0044】
[2-1]米(D):
米(D)としては、通常、炊飯に要する米であれば特に制限はなく用いることができる。品種や精白度合いも特に制限はなく、複数種の米を混合して用いてもよい。米(D)としては、例えば粳米、糯米、精白米、玄米、ジャポニカ米、インディカ米、餅米などを挙げることができる。ただし、米(D)は前記のものに限定されるものではなく、従来公知の米の中から適宜選択して用いればよい。また、本発明の炊飯米の製造方法に用いる米(D)は、水分を含有していてもよい。
【0045】
[2-2]炊き水(E):
炊き水(E)としては、通常、炊飯に要する水であれば特に制限はなく用いることができる。例えば、水道水や市販のミネラルウォーターなどを用いればよい。炊飯米(Y)を製造する場合、炊き上がった後の炊飯米(Y)に、グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)および米由来成分(C)を添加してもよいが、炊飯前に予め炊き水(E)に添加、混合しておき、その炊き水(E)を用いて、米(D)を炊飯することが好ましい。
【0046】
[2-3]炊飯:
炊飯は米(D)と、炊き水(E)と、を仕込み、加熱することを除いては特に制限されない。例えば、米の浸水、炊飯温度、炊飯時間、炊飯のための装置・手段、炊飯工程などは自由に選択することができる。例えば、従来公知の方法に従って、電気やガスを加熱源とする家庭用炊飯器、業務用炊飯装置などを用いて炊飯をすればよい。
【0047】
また、炊飯は白米の炊飯に限定されない。すなわち、米(D)には、白米以外の米も含まれる。また、米(D)以外の原料を混合して炊飯してもよい。例えば炊き込みご飯、釜飯、おこわ、赤飯などの炊飯に本発明の方法を適用することもできる。
【0048】
また、米の炊飯に通常使用する副原料や添加剤を添加して炊飯しても構わない。例えば調味料、糖質(トレハロース、異性化糖、ブドウ糖、乳頭、果糖等)、食用油脂、香辛料、出汁などは当然に添加することができる。更に、コンビニエンスストアで販売するようなパック入りおにぎりを製造する場合であれば、米(D)以外の原料として、包装フイルムからの離型を容易にするための食用油脂を添加することもできる。
【0049】
[2-4]炊飯米(Y):
このように得られた炊飯米(Y)は、そのpHが6.2以下、則ち酸性側に調整され、炊飯米(Y)における微生物による汚染を抑制することができる。得られる炊飯米(Y)のpHは、6.2以下、好ましくは4.3~6.0である。特に、有機酸成分として、グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)と脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)とを組み合わせて用いることにより、炊飯米(Y)における微生物による汚染や炊飯米の褐変を抑制することができる。また、米由来成分(C)を添加することにより、炊飯米(Y)の酸味および酸臭を抑制することに加え、マスキング剤による異味を感じさせず、米本来の風味が付与される。
【実施例0050】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例の態様のみに限定されるものではない。
【0051】
[1]米由来成分の効果:
既述のように、炊飯米を保存する際には炊飯米に対して有機酸を加え、炊飯米のpHを酸性側に傾ける方法が採られる。この際、有機酸による酸臭や酸味を抑制するために用いられるのがマスキング剤である。以下、マスキング剤としての米由来成分(C)の効果を検証した。
【0052】
(実施例1)
米100gを5回洗米し、5分間水切りを行った。その洗米済みの米を、予め品質保持剤を添加した炊き水に添加し、20分間浸漬させた。その後、これらの混合物を炊飯器により加熱し、炊飯を行った。炊飯後、20分間蒸らすことにより、炊飯米を得た。
【0053】
前記米としては、「あきたこまち(登録商標)」(令和元年度産)を、炊き水に使用する水としては硬水である「evian」(硬度304mg/L)を、前記炊飯器としては、「SKご飯メーカー UDG1」(スケーター社製)を用いた。
【0054】
また、品質保持剤としては、グルコノデルタラクトンと、クエン酸とを必須成分とし、これらに表1記載のマスキング剤(米由来成分(C))を加えた水溶液を用いた。混合比としては、グルコノデルタラクトン40質量部、クエン酸7質量部、マスキング剤1質量部とした。
【0055】
品質保持剤の調製法としては、まず、グルコノデルタラクトンおよびクエン酸を前記水に溶解し、その後、米由来成分、その他のマスキング剤を加え、これらの成分を前記水に溶解し、水溶液状の品質保持剤を得ることにより行った。調整された水溶液は、グルコノデルタラクトン40質量%、クエン酸7質量%、マスキング剤1質量%、残部が前記水である水溶液となった。
【0056】
炊飯は前記米100質量部(乾燥米として)に対し、品質保持剤1質量部と炊き水149質量部とを混合したものを加えて行った。これは、前記米100質量部に対し、グルコノデルタラクトン0.40質量部、クエン酸0.07質量部、マスキング剤0.01質量部の割合で加えたことになる。
【0057】
(実施例2-4、比較例1-6)
実施例1の品質保持剤に準じ、後述する表3の記載に従って、実施例2-4、比較例1-6の品質保持剤を調製した。
【0058】
[評価方法(酸臭、酸味、風味)]
酸臭、酸味、風味については、得られた炊飯米をパネラー5名に試食してもらい、官能試験で評価してもらった。これらの評価は得られた炊飯米20gをカップに入れ、電子レンジにより500W、1分間加熱した後に行った。パネラー5名には下記の基準で4段階評価で評価してもらった。
【0059】
(酸臭または酸味)
加熱時にも酸臭または酸味を感じず、品質保持剤を添加していない炊飯米と同等である場合を「0」(表記:◎)、評価「0」と比べると、加熱時にわずかに酸臭または酸味が感じられるが、炊飯米として食した際に気にならないレベルの場合を「1」(表記:○)、加熱時に酸臭または酸味が感じられ、炊飯米として食した際に違和感を感じるレベルの場合を「2」(表記:▲)、加熱しなくても酸臭または酸味が感じられ、炊飯米として食したくないレベルの場合を「3」(表記:×)として評価してもらった。評価「0」と「1」の場合は炊飯米製品として問題ないレベル、評価「2」と「3」の場合は炊飯米製品として不適切なレベルと判断している。
【0060】
(風味)
米本来の自然な風味を感じられ、品質保持剤を添加していない炊飯米と同等である場合を「0」(表記:◎)、評価「0」と比べると若干、米の風味は劣るものの、米とは異なる風味(異味)を感じない場合を「1」(表記:○)、米の風味は残っているものの、米とは異なる風味(異味)を感じる場合を「2」(表記:▲)、米の風味はわずかに残っているものの、米とは異なる風味(異味)の方を強く感じる場合を「3」(表記:×)として評価してもらった。評価「0」と「1」の場合は炊飯米製品として問題ないレベル、評価「2」と「3」の場合は炊飯米製品として不適切なレベルと判断している。
【0061】
5人の評価の平均値を実施例、比較例の評点とした。酸臭、酸味、風味の評価においては、5人のパネラーの評点の平均値が2以上となった場合は不良(評価:×)、平均値が2に至らなかった場合は良好(評価:○)と評価した。
【0062】
総合評価については、前記5人のパネラーの平均値の評価において、酸臭または酸味の評価が不良(評価:×)となったものを不良(評価:×)と、酸臭または酸味の評価が不良ではなくても、風味の評価で不良(評価:×)だったものはやや不良(評価:▲)と、全ての評価が良好(評価:○)であったものを良好(評価:○)と評価した。総合評価についてはパネラー5名で協議を行い、最終的な評価結果とした。これらの結果を表1および表2に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
表3には実施例1から4、比較例1から6の品質保持剤を用いた炊飯米について、5人のパネラーの評点の平均値をまとめた。
【0066】
【表3】
【0067】
[評価結果]
マスキング剤として米由来物を使用した実施例1から4については、酸臭、酸味やマスキング剤に由来する異味を感じることもなく、良好な結果を示した。一方、マスキング剤を使用しなかった比較例1では、酸臭、酸味がひどく、酸臭や酸味によって米本来の風味が阻害されたため、結果は不良となった。
【0068】
また、米由来物以外のマスキング剤を使用した比較例2から6についてはマスキング剤に由来する異味を感じた。このため、前記異味によって、米本来の風味を感じることができず、結果は不良となった。また、比較例5に関しては酸味も十分には抑えられていなかった。
【0069】
[2]品質保持剤の必須成分の量による効果:
品質保持剤の必須成分、グルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)および米由来成分(C)の量が発明の効果に与えている影響を検証した。
【0070】
(実施例5、7-10、比較例7-15)
実施例1と同様にして、炊飯を行った。ただし、マスキング剤として用いる米由来成分は実施例1と同様の米粉砕物とした。
【0071】
(実施例6)
実施例1と同様にして、炊飯を行った。ただし、マスキング剤として用いる米由来成分は実施例1と同様の米粉砕物とした。また、品質保持剤は必須成分の水溶液とせず、必須成分を混合した粉末とした。
【0072】
品質保持剤の調製法としては、グルコノデルタラクトン、クエン酸および米の粉砕物(米粉)を撹拌混合することにより行った。これにより、グルコノデルタラクトン40質量部:クエン酸7質量部:米由来成分1質量部の割合で混合された粉末となった。この品質保持剤0.48質量部と前記水149.52質量部とを混合し、撹拌溶解させ、炊き水を調製した。
【0073】
炊飯は前記米100質量部(乾燥米として)に対し、前記炊き水150質量部を加えて行った。これは、前記米100質量部に対し、グルコノデルタラクトンが0.40質量部、クエン酸が0.07質量部、マスキング剤が0.01質量部の割合で加えたことになる。
【0074】
[評価方法(pH、微生物による汚染、酸臭、酸味、風味、褐変)]
pH、微生物による汚染、酸臭、酸味、風味、褐変については、以下のように評価した。
【0075】
(pH)
得られた炊飯米のpHをpHメーターにより測定した。pHメーターとしては、商品名「LAQUAact」(HORIBA製)を用いた。測定温度は25℃とした。pHが6.2以下であれば良好と判断した。
【0076】
(微生物による汚染)
得られた炊飯米に対して枯草菌液を添加し、一定時間保存した後の枯草菌数を測定することにより行った。具体的には、炊飯直後、炊飯米10gに対して、1(CFU/g)以上、9(CFU/g)以下となるように枯草菌液を添加し、25℃条件下、72時間保存した後の枯草菌数を測定することにより行った。
【0077】
前記枯草菌としては、バチルス・サブチリス(Bacilus subtilis)LK1000株を用いた。前記枯草菌液は、前記枯草菌を滅菌生理食塩水で希釈し、10(CFU/mL)以上、90(CFU/mL)以下の濃度となるように調製したものである。なお、「CFU」は、「Colony Forming Unit」の略であり、「CFU/g」は1gあたりの生菌数、「CFU/mL」は1mLあたりの生菌数を示す単位である。
【0078】
25℃条件下、72時間保存した後の枯草菌数が、1.0×10(個)以下であれば良好(評価:○)、1.0×10(個)を超えた場合は不良(評価:×)として評価した。
【0079】
(酸臭または酸味)
実施例1と同様の方法により評価した。
【0080】
(風味)
実施例1の風味の評価と同様の方法により炊飯米を得、以下の基準により評価した。米本来の自然な風味を感じられ、品質保持剤を添加していない炊飯米と同等である場合を「0」(表記:◎)、評価「0」と比べると若干、米の風味は劣るものの、穀物由来のえぐみを感じない場合を「1」(表記:○)、米の風味は残っているものの、穀物由来のえぐみを感じる場合を「2」(表記:▲)、米の風味はわずかに残っているものの、穀物由来のえぐみの方を強く感じる場合を「3」(表記:×)として評価してもらった。評価「0」と「1」の場合は炊飯米製品として問題ないレベル、評価「2」と「3」の場合は炊飯米製品として不適切なレベルと判断している。
【0081】
5人の評価の平均値を実施例、比較例の評点とした。酸臭、酸味、風味の評価においては、5人のパネラーの評点の平均値が2以上となった場合は不良(評価:×)、平均値が2に至らなかった場合は良好(評価:○)と評価した。酸臭、酸味、風味の評価については、5人のパネラーの評点の平均値から評価しているが、これについてはパネラー5名で協議を行い、最終的な評価結果とした。これらの結果を表4から表6に示す。
【0082】
(褐変)
得られた炊飯米の色調のb*値を、色彩色差計で測定することにより褐変の度合いを評価した。評価は炊飯直後と70℃16時間保温後の2回行った。b*値は黄色みの強さを示す値であり、これを褐変の度合いの評価に用いた。色彩色差計としては、商品名「CM-5」(コニカミノルタ製)を用いた。測定はSCI方式で炊飯米の5箇所を測定し、平均値を算出した。b*値が2.0以上の場合は炊飯米が褐変していると評価した。
【0083】
[評価方法(総合評価)]
前記pH、微生物による汚染、酸臭、酸味、褐変の評価において、不良(表記:×)が一つもないものを良好(表記:○)、不良(表記:×)が一つでもあったものを不良(表記:×)として判断した。
【0084】
これらの結果を表7から表12に示す。
【0085】
【表4】
【0086】
【表5】
【0087】
【表6】
【0088】
【表7】
【0089】
【表8】
【0090】
【表9】
【0091】
【表10】
【0092】
【表11】
【0093】
【表12】
【0094】
実施例5-10、比較例7-15の米(乾燥米換算)100質量部に対する(A)成分、(B)成分および(C)成分の割合は以下の通りである。
実施例5:(A)0.40質量部、(B)0.07質量部、(C)0.001質量部
実施例6:(A)0.40質量部、(B)0.07質量部、(C)0.01質量部
実施例7:(A)0.40質量部、(B)0.07質量部、(C)0.05質量部
実施例8:(A)0.15質量部、(B)0.01質量部、(C)0.01質量部
実施例9:(A)0.75質量部、(B)0.10質量部、(C)0.05質量部
実施例10:(A)0.20質量部、(B)0.03質量部、(C)0.01質量部
比較例7:(A)-、(B)-、(C)-
比較例8:(A)0.40質量部、(B)0.07質量部、(C)0.0003質量部
比較例9:(A)0.40質量部、(B)0.07質量部、(C)0.20質量部
比較例10:(A)なし、(B)0.03質量部、(C)0.01質量部
比較例11:(A)0.05質量部、(B)0.01質量部、(C)0.01質量部
比較例12:(A)0.85質量部、(B)0.10質量部、(C)0.05質量部
比較例13:(A)0.20質量部、(B)-、(C)0.01質量部
比較例14:(A)0.15質量部、(B)0.001質量部、(C)0.01質量部
比較例15:(A)0.75質量部、(B)0.20質量部、(C)0.05質量部
【0095】
[評価結果]
表7および表8は米由来成分の添加量が発明の効果に与えている影響をまとめたものである。実施例5-7のデータにより、品質保持剤の米由来成分を、米100質量部に対し0.001質量部以上0.05質量部以下とすることにより、酸臭および酸味がマスキングされ、米本来の風味が保たれることがわかる。
【0096】
一方、比較例8のデータにより、米由来成分を米100質量部に対し0.001質量部未満としたものは酸臭および酸味が十分にマスキングされず、炊飯米から酸臭または酸味を感じてしまうことがわかる。また、比較例9のデータにより米由来成分を米100質量部に対し0.05質量部超としたものは穀物由来のえぐみが出てきて、米本来の風味を感じられなくなることがわかる。
【0097】
表9および表10はグルコン酸および/またはグルコン酸誘導体(A)の添加量が発明の効果に与えている影響をまとめたものである。実施例8-9のデータにより、品質保持剤の(A)を米100質量部に対し0.15質量部以上0.75質量部以下とすることにより、微生物による汚染や炊飯米の褐変が抑制されるとともに、炊飯米から酸味や酸臭を感じ難くなり、炊飯米の食味や風味が維持されることがわかる。
【0098】
一方、比較例10、11のデータにより、(A)を米100質量部に対し0.15質量部未満としたものは炊飯米における微生物による汚染や褐変を防止することができないことがわかる。また、比較例12のデータにより(A)を米100質量部に対し0.75質量部超としたものは酸味が十分にマスキングされず、炊飯米から酸味を感じてしまうことがわかる。
【0099】
表11および表12はヒドロキシカルボン酸(B)の添加量が発明の効果に与えている影響をまとめたものである。実施例8-10のデータにより、品質保持剤のヒドロキシカルボン酸(B)を米100質量部に対し0.01質量部以上0.10質量部以下とすることにより、微生物による汚染や炊飯米の褐変が抑制されるとともに、炊飯米から酸味や酸臭を感じ難くなり、炊飯米の食味や風味が維持されることがわかる。
【0100】
一方、比較例13および14のデータにより、品質保持剤のヒドロキシカルボン酸(B)を米100質量部に対し0.01質量部未満としたものは炊飯米における微生物による汚染や褐変を防止することができないことがわかる。また、比較例15のデータによりヒドロキシカルボン酸(B)を米100質量部に対し0.10質量部超としたものは酸臭および酸味が十分にマスキングされず、炊飯米から酸臭および酸味を感じてしまい、また穀物由来のえぐみが出てきて、米本来の風味を感じられなくなることがわかる。
【0101】
[3]脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)の種類:
(実施例11)
実施例6と同様にして、炊飯を行った。
品質保持剤の調整法としては、実施例6と同様にして、グルコノデルタラクトンと、クエン酸に代えて酒石酸と、米の粉砕物(米粉)を撹拌混合することにより行った。これにより、グルコノデルタラクトン40質量部:酒石酸7質量部:米由来成分1質量部の割合で混合された粉末となった。この品質保持剤0.48質量部と前記水149.52質量部とを混合し、撹拌溶解させ、炊き水を調製した。
【0102】
炊飯は前記米100質量部(乾燥米)に対し、前記炊き水150質量部を加えて行った。これは、前記米100質量部に対し、グルコノデルタラクトンが0.40質量部、酒石酸が0.07質量部、米由来成分が0.01質量部の割合で加えたことになる。
【0103】
(実施例12-19)
実施例11と同様にして、炊飯を行った。品質保持剤としては、グルコノデルタラクトンと、表15記載の脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸塩、脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸誘導体の塩からなる群より選択された少なくとも一種(B)と、米の粉砕物とを用いた。
【0104】
[評価方法(pH、微生物による汚染、酸臭、酸味、風味、褐変)]
実施例5-10、比較例7-15と同様の方法により、pH、微生物による汚染、酸臭、酸味、風味、褐変を評価した。
【0105】
[評価方法(総合評価)]
前記pH、微生物による汚染、酸臭、酸味、褐変の評価において、不良(表記:×)が一つもないものを良好(表記:○)、不良(表記:×)が一つでもあったものを不良(表記:×)として判断した。
【0106】
これらの評価を表13から表16に示す。
【0107】
【表13】
【0108】
【表14】
【0109】
【表15】
【0110】
【表16】
【0111】
実施例11-19の(A)成分100質量部に対する(B)成分および(C)成分の割合は以下の通りである。
実施例6:(A)0.40質量部、(B)0.07質量部、(C)0.01質量部
実施例11:(A)0.40質量部、(B)0.07質量部、(C)0.01質量部
実施例12:(A)0.40質量部、(B)0.07質量部、(C)0.01質量部
実施例13:(A)0.40質量部、(B)0.07質量部、(C)0.01質量部
実施例14:(A)0.40質量部、(B)0.01質量部、(C)0.01質量部
実施例15:(A)0.40質量部、(B)0.10質量部、(C)0.05質量部
実施例16:(A)0.40質量部、(B)0.01質量部、(C)0.01質量部
実施例17:(A)0.40質量部、(B)0.01質量部、(C)0.01質量部
実施例18:(A)0.40質量部、(B)0.01質量部、(C)0.01質量部
実施例19:(A)0.40質量部、(B)0.07質量部、(C)0.01質量部
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の炊飯米の品質保持剤及び炊飯米の製造方法は、炊飯米の食味や風味を維持しつつ、微生物による汚染や炊飯米の褐変を抑制する炊飯米の品質保持に利用することができる。より具体的には、微生物による汚染を抑制させるために添加する酸の酸味や酸臭を感じ難くさせ、炊飯米がもつ米本来の風味を感じさせることができ、炊飯直後および保温保存時にも炊飯米の褐変を抑制することができる。