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特開2024-56665血清アルブミンと生理活性を有する蛋白質との融合蛋白質
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056665
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】血清アルブミンと生理活性を有する蛋白質との融合蛋白質
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20240416BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240416BHJP
   C07K 14/765 20060101ALI20240416BHJP
   C12N 9/24 20060101ALI20240416BHJP
   C12N 15/56 20060101ALI20240416BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240416BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240416BHJP
   C12N 15/14 20060101ALI20240416BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240416BHJP
   C12P 21/00 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C07K19/00 ZNA
C07K14/765
C12N9/24
C12N15/56
C12N15/63 Z
C12N15/13
C12N15/14
C12N5/10
C12P21/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】88
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023176070
(22)【出願日】2023-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2022163603
(32)【優先日】2022-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】000228545
【氏名又は名称】JCRファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128897
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 佳希
(74)【代理人】
【識別番号】100225118
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 慧
(72)【発明者】
【氏名】高橋 健一
(72)【発明者】
【氏名】菅野 泰功
(72)【発明者】
【氏名】小野内 貴士
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG24
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA70
4H045DA76
4H045DA89
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】      (修正有)
【課題】通常ではCHO細胞等の宿主細胞を用いて組換え蛋白質として発現させたときに,発現量が低く,及び/又は,活性が低い生理活性蛋白質を,活性の高い組換え蛋白質として効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】融合蛋白質は,ヒトガラクトシルセラミダーゼ又はヒトグルコセレブロシダーゼをヒト血清アルブミンのアミノ末端側又はカルボキシル末端側に結合させたものを提供する。更に,本融合蛋白質は,血液脳関門を通過させるために,抗トランスフェリン受容体抗体との結合体とすることもできる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リソソーム酵素と,血清アルブミン(SA)を含んでなる,融合蛋白質。
【請求項2】
該リソソーム酵素が,ヒトリソソーム酵素である,請求項1に記載の融合蛋白質。
【請求項3】
該SAが,ヒト血清アルブミン(HSA)である,請求項1又は2に記載の融合蛋白質。
【請求項4】
該リソソーム酵素が,配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する野生型ヒトガラクトシルセラミダーゼに対して80%以上の同一性を有するヒトガラクトシルセラミダーゼ(hGALC)であって,該SAが,配列番号3で示されるアミノ酸配列を有する野生型ヒト血清アルブミンに対して80%以上の同一性を有するヒト血清アルブミン(HSA)である,請求項1乃至3の何れかに記載の融合蛋白質。
【請求項5】
該hGALCが配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する野生型hGALCに対して90%以上の同一性を有するものであり,該HSAが配列番号3で示されるアミノ酸配列を有する野生型HSAに対して90%以上の同一性を有するものである,請求項4に記載の融合蛋白質。
【請求項6】
該hGALCが,配列番号1で示される野生型hGALCのアミノ酸配列に対して1~10個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項4に記載の融合蛋白質。
【請求項7】
該hGALCが,配列番号1で示される野生型hGALCのアミノ酸配列に対して1~5個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項4に記載の融合蛋白質。
【請求項8】
該hGALCが,配列番号1で示される野生型hGALCのアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項4に記載の融合蛋白質。
【請求項9】
該hGALCが,配列番号1で示される野生型hGALCのアミノ酸配列に対して1個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項4に記載の融合蛋白質。
【請求項10】
該アミノ酸の置換が,側鎖が水酸化反応され得るアミノ酸であるアミノ酸ファミリー内での置換である,請求項9に記載の融合蛋白質。
【請求項11】
該HSAが,配列番号3で示される野生型HSAのアミノ酸配列に対して1~10個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項4乃至10の何れかに記載の融合蛋白質。
【請求項12】
該HSAが,配列番号3で示される野生型HSAのアミノ酸配列に対して1~5個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項4乃至10の何れかに記載の融合蛋白質。
【請求項13】
該HSAが,配列番号3で示される野生型HSAのアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項4乃至10の何れかに記載の融合蛋白質。
【請求項14】
該hGALCが配列番号1で示される野生型hGALCのアミノ酸配列を含んでなるものであり,該HSAが配列番号3で示される野生型ヒト血清アルブミンのアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項4に記載の融合蛋白質。
【請求項15】
該hGALCが配列番号1で示される野生型hGALCのアミノ酸配列を含んでなるものであり,該HSAが配列番号12で示される野生型ヒト血清アルブミンのアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項4に記載の融合蛋白質。
【請求項16】
該hGALCが配列番号1で示される野生型hGALCのアミノ酸配列を含んでなるものであり,該HSAが配列番号13で示される野生型ヒト血清アルブミンのアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項4に記載の融合蛋白質。
【請求項17】
該hGALCのC末端に,直接又はリンカーを介して,該HSAが結合したものである,請求項4乃至16の何れかに記載の融合蛋白質。
【請求項18】
該HSAのC末端に,直接又はリンカーを介して,該hGALCが結合したものである,請求項4乃至16の何れかに記載の融合蛋白質。
【請求項19】
該リンカーが,1~150個のアミノ酸からなるペプチド鎖である,請求項17又は18に記載の融合蛋白質。
【請求項20】
該リンカーが,以下の(a)~(g)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるものである,請求項19に記載の融合蛋白質:
(a)Gly;
(b)Ser;
(c)Gly Ser;
(d)Gly Gly Ser;
(e)配列番号9で示されるアミノ酸配列;
(f)配列番号10で示されるアミノ酸配列;及び,
(g)配列番号11で示されるアミノ酸配列。
【請求項21】
該リンカーが,以下の(a)~(g)からなる群から選択されるアミノ酸配列が2~10回反復したアミノ酸配列からなるものである,請求項19に記載の融合蛋白質:
(a)Gly;
(b)Ser;
(c)Gly Ser;
(d)Gly Gly Ser;
(e)配列番号9で示されるアミノ酸配列;
(f)配列番号10で示されるアミノ酸配列;及び,
(g)配列番号11で示されるアミノ酸配列。
【請求項22】
該リンカーが,以下の(a)~(g)からなる群から選択されるアミノ酸配列が2~6回反復したアミノ酸配列からなるものである,請求項19に記載の融合蛋白質:
(a)Gly;
(b)Ser;
(c)Gly Ser;
(d)Gly Gly Ser;
(e)配列番号9で示されるアミノ酸配列;
(f)配列番号10で示されるアミノ酸配列;及び,
(g)配列番号11で示されるアミノ酸配列。
【請求項23】
該リンカーが,以下の(a)~(g)からなる群から選択されるアミノ酸配列が3~5回反復したアミノ酸配列からなるものである,請求項19に記載の融合蛋白質:
(a)Gly;
(b)Ser;
(c)Gly Ser;
(d)Gly Gly Ser;
(e)配列番号9で示されるアミノ酸配列;
(f)配列番号10で示されるアミノ酸配列;及び,
(g)配列番号11で示されるアミノ酸配列。
【請求項24】
該リンカーが,Gly Serで示されるアミノ酸配列からなるものである,請求項19に記載の融合蛋白質。
【請求項25】
配列番号5で示されるアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなる,請求項18に記載の融合蛋白質。
【請求項26】
配列番号5で示されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなる,請求項18に記載の融合蛋白質。
【請求項27】
該融合蛋白質が,配列番号5で示されるアミノ酸配列に対して1~10個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項26に記載の融合蛋白質。
【請求項28】
該融合蛋白質が,配列番号5で示されるアミノ酸配列に対して1~5個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項26に記載の融合蛋白質。
【請求項29】
該融合蛋白質が,配列番号5で示されるアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項26に記載の融合蛋白質。
【請求項30】
配列番号5で示されるアミノ酸配列を含んでなる,請求項18に記載の融合蛋白質。
【請求項31】
配列番号7で示されるアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなる,請求項17に記載の融合蛋白質。
【請求項32】
配列番号7で示されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなる,請求項17に記載の融合蛋白質。
【請求項33】
該融合蛋白質が,配列番号7で示されるアミノ酸配列に対して1~10個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項32に記載の融合蛋白質。
【請求項34】
該融合蛋白質が,配列番号7で示されるアミノ酸配列に対して1~5個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項32に記載の融合蛋白質。
【請求項35】
該融合蛋白質が,配列番号7で示されるアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項32に記載の融合蛋白質。
【請求項36】
配列番号7で示されるアミノ酸配列を含んでなる,請求項17に記載の融合蛋白質。
【請求項37】
通常の野生型のhGALCの比活性と比較して,10%以上の比活性を有するものである,請求項4乃至36の何れかに記載の融合蛋白質。
【請求項38】
該リソソーム酵素が,配列番号37で示されるアミノ酸配列を有する野生型ヒトグルコセレブロシダーゼに対して80%以上の同一性を有するヒトグルコセレブロシダーゼ(hGBA)であって,該SAが,配列番号3で示されるアミノ酸配列を有する野生型ヒト血清アルブミンに対して80%以上の同一性を有するヒト血清アルブミン(HSA)である,請求項1乃至3の何れかに記載の融合蛋白質。
【請求項39】
該hGBAが配列番号37で示されるアミノ酸配列を有する野生型hGBAに対して90%以上の同一性を有するものであり,該HSAが配列番号3で示されるアミノ酸配列を有する野生型HSAに対して90%以上の同一性を有するものである,請求項38に記載の融合蛋白質。
【請求項40】
該hGBAが,配列番号37で示される野生型hGBAのアミノ酸配列に対して1~10個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項38に記載の融合蛋白質。
【請求項41】
該hGBAが,配列番号37で示される野生型hGBAのアミノ酸配列に対して1~5個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項38に記載の融合蛋白質。
【請求項42】
該hGBAが,配列番号37で示される野生型hGBAのアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項38に記載の融合蛋白質。
【請求項43】
該hGBAが,配列番号37で示される野生型hGBAのアミノ酸配列に対して1個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項38に記載の融合蛋白質。
【請求項44】
該アミノ酸の置換が,側鎖が水酸化反応され得るアミノ酸であるアミノ酸ファミリー内での置換である,請求項43に記載の融合蛋白質。
【請求項45】
該HSAが,配列番号3で示される野生型HSAのアミノ酸配列に対して1~10個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項38乃至44の何れかに記載の融合蛋白質。
【請求項46】
該HSAが,配列番号3で示される野生型HSAのアミノ酸配列に対して1~5個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項38乃至44の何れかに記載の融合蛋白質。
【請求項47】
該HSAが,配列番号3で示される野生型HSAのアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項38乃至44の何れかに記載の融合蛋白質。
【請求項48】
該hGBAが配列番号37で示される野生型hGBAのアミノ酸配列を含んでなるものであり,該HSAが配列番号3で示される野生型HSAのアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項38に記載の融合蛋白質。
【請求項49】
該hGBAが配列番号37で示される野生型hGBAのアミノ酸配列を含んでなるものであり,該HSAが配列番号12で示される野生型HSAのアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項38に記載の融合蛋白質。
【請求項50】
該hGBAが配列番号37で示される野生型hGBAのアミノ酸配列を含んでなるものであり,該HSAが配列番号13で示される野生型HSAのアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項38に記載の融合蛋白質。
【請求項51】
該hGBAのC末端に,直接又はリンカーを介して,該HSAが結合したものである,請求項38乃至50の何れかに記載の融合蛋白質。
【請求項52】
該HSAのC末端に,直接又はリンカーを介して,該hGBAが結合したものである,請求項38乃至50の何れかに記載の融合蛋白質。
【請求項53】
該リンカーが,1~150個のアミノ酸からなるペプチド鎖である,請求項51又は52に記載の融合蛋白質。
【請求項54】
該リンカーが,以下の(a)~(g)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるものである,請求項53に記載の融合蛋白質:
(a)Gly;
(b)Ser;
(c)Gly Ser;
(d)Gly Gly Ser;
(e)配列番号9で示されるアミノ酸配列;
(f)配列番号10で示されるアミノ酸配列;及び,
(g)配列番号11で示されるアミノ酸配列。
【請求項55】
該リンカーが,以下の(a)~(g)からなる群から選択されるアミノ酸配列が2~10回反復したアミノ酸配列からなるものである,請求項53に記載の融合蛋白質:
(a)Gly;
(b)Ser;
(c)Gly Ser;
(d)Gly Gly Ser;
(e)配列番号9で示されるアミノ酸配列;
(f)配列番号10で示されるアミノ酸配列;及び,
(g)配列番号11で示されるアミノ酸配列。
【請求項56】
該リンカーが,以下の(a)~(g)からなる群から選択されるアミノ酸配列が2~6回反復したアミノ酸配列からなるものである,請求項53に記載の融合蛋白質:
(a)Gly;
(b)Ser;
(c)Gly Ser;
(d)Gly Gly Ser;
(e)配列番号9で示されるアミノ酸配列;
(f)配列番号10で示されるアミノ酸配列;及び,
(g)配列番号11で示されるアミノ酸配列。
【請求項57】
該リンカーが,以下の(a)~(g)からなる群から選択されるアミノ酸配列が3~5回反復したアミノ酸配列からなるものである,請求項53に記載の融合蛋白質:
(a)Gly;
(b)Ser;
(c)Gly Ser;
(d)Gly Gly Ser;
(e)配列番号9で示されるアミノ酸配列;
(f)配列番号10で示されるアミノ酸配列;及び,
(g)配列番号11で示されるアミノ酸配列。
【請求項58】
該リンカーが,Gly Serで示されるアミノ酸配列からなるものである,請求項53に記載の融合蛋白質。
【請求項59】
配列番号39で示されるアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなる,請求項52に記載の融合蛋白質。
【請求項60】
配列番号39で示されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなる,請求項52に記載の融合蛋白質。
【請求項61】
該融合蛋白質が,配列番号39で示されるアミノ酸配列に対して1~10個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項60に記載の融合蛋白質。
【請求項62】
該融合蛋白質が,配列番号39で示されるアミノ酸配列に対して1~5個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項60に記載の融合蛋白質。
【請求項63】
該融合蛋白質が,配列番号39で示されるアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項60に記載の融合蛋白質。
【請求項64】
配列番号41で示されるアミノ酸配列を含んでなる,請求項51に記載の融合蛋白質。
【請求項65】
配列番号41で示されるアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなる,請求項51に記載の融合蛋白質。
【請求項66】
配列番号41で示されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなる,請求項51に記載の融合蛋白質。
【請求項67】
該融合蛋白質が,配列番号41で示されるアミノ酸配列に対して1~10個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項66に記載の融合蛋白質。
【請求項68】
該融合蛋白質が,配列番号41で示されるアミノ酸配列に対して1~5個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項66に記載の融合蛋白質。
【請求項69】
該融合蛋白質が,配列番号41で示されるアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項66に記載の融合蛋白質。
【請求項70】
配列番号41で示されるアミノ酸配列を含んでなる,請求項51に記載の融合蛋白質。
【請求項71】
通常の野生型のhGBAの比活性と比較して,10%以上の比活性を有するものである,請求項38乃至70の何れかに記載の融合蛋白質。
【請求項72】
請求項1乃至71の何れかに記載の融合蛋白質をコードする遺伝子を含んでなるDNA。
【請求項73】
請求項72に記載のDNAを含んでなる発現ベクター。
【請求項74】
請求項73に記載の発現ベクターで形質転換された哺乳動物細胞。
【請求項75】
請求項74に記載の哺乳動物細胞を無血清培地で培養するステップを含む,融合蛋白質の製造方法。
【請求項76】
請求項1乃至71の何れかに記載の融合蛋白質と,抗体との結合体であって,該抗体が脳血管内皮細胞上の受容体と結合することにより,該融合蛋白質が血液脳関門(BBB)を通過することのできるものである,結合体。
【請求項77】
該脳血管内皮細胞上の受容体が,インスリン受容体,トランスフェリン受容体,レプチン受容体,リポタンパク質受容体,及びIGF受容体からなる群から選択されるものである,請求項76に記載の結合体。
【請求項78】
該脳血管内皮細胞上の受容体が,トランスフェリン受容体である,請求項76に記載の結合体。
【請求項79】
該抗体が,Fab抗体,F(ab’)抗体,F(ab’)抗体,単一ドメイン抗体,一本鎖抗体,又はFc抗体の何れかである,請求項76乃至78の何れかに記載の結合体。
【請求項80】
該融合蛋白質が,該抗体の軽鎖のC末端側又はN末端側の何れかに結合しているものである,請求項76乃至79の何れかに記載の結合体。
【請求項81】
該融合蛋白質が,該抗体の重鎖のC末端側又はN末端側の何れかに結合しているものである,請求項76乃至79の何れかに記載の結合体。
【請求項82】
該融合蛋白質が,該抗体の軽鎖のC末端側若しくはN末端側の何れか,又は重鎖のC末端側若しくはN末端側の何れかに,リンカー配列を介して結合しているものである,請求項76乃至81の何れかに記載の結合体。
【請求項83】
該リンカー配列が,1~50個のアミノ酸残基からなるものである,請求項82に記載の結合体。
【請求項84】
該リンカー配列が,1個のグリシン,1個のセリン,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Ser-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,配列番号9のアミノ酸配列,配列番号10のアミノ酸配列,配列番号11のアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が1~10個連続してなるアミノ酸配列からなる群より選ばれるアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項83に記載の結合体。
【請求項85】
請求項76乃至84の何れかに記載の結合体をコードする遺伝子を含んでなるDNA。
【請求項86】
請求項85に記載のDNAを含んでなる発現ベクター。
【請求項87】
請求項86に記載の発現ベクターで形質転換された哺乳動物細胞。
【請求項88】
請求項87に記載の哺乳動物細胞を無血清培地で培養するステップを含む,生理活性を有する蛋白質とSAとの融合蛋白質と抗体との結合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,血清アルブミン(SA)と生理活性を有する蛋白質(生理活性蛋白質)とを結合させた融合蛋白質及びその製造方法に関する。かかる融合蛋白質は,例えば,SAのC末端と生理活性蛋白質のN末端を結合させたものに関する。生理活性蛋白質には,これを哺乳動物細胞等の宿主細胞に当該生理活性蛋白質をコードする遺伝子を導入して組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,発現量が低く,及び/又は,活性が低いものがある。本発明は,活性の高い組換え蛋白質として効率よく製造できる,かかるSAと生理活性蛋白質との融合蛋白質に関し,また当該融合蛋白質を製造するための方法に関する。但し,SAと融合させるべき生理活性蛋白質に特に制限なく,全ての生理活性蛋白質をSAとの融合蛋白質とさせることができる。
【0002】
本発明は,特に血清アルブミン(SA)とリソソーム酵素とを結合させた融合蛋白質に関し,例えば,SAのC末端とリソソーム酵素のN末端,もしくはリソソーム酵素のC末端とSAのN末端とを直接又はリンカーを介して結合させたものに関する。リソソーム酵素には,これを哺乳動物細胞等の宿主細胞に当該リソソーム酵素をコードする遺伝子を導入して組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,発現量が低く,及び/又は,活性が低いものがある。本発明は,活性の高い組換え蛋白質として効率よく製造できる,かかるリソソーム酵素とSAとの融合蛋白質に関し,また当該融合蛋白質を製造するための方法に関する。但し,リソソーム酵素と融合させるべき生理活性蛋白質に特に制限なく,全てのリソソーム酵素をSAとの融合蛋白質とさせることができる。
【0003】
本発明は,また特に血清アルブミン(SA)とガラクトシルセラミダーゼ(GALC)とを結合させた融合蛋白質に関し,例えば,SAのC末端とGALCのN末端,もしくはGALCのC末端とSAのN末端とを直接又はリンカーを介して結合させたものに関する。GALCは,これを哺乳動物細胞等の宿主細胞にGALCをコードする遺伝子を導入して組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,発現量が低く,及び/又は,活性が低い場合がある。本発明は,活性の高い組換え蛋白質として効率よく製造できる,かかるGALCとSAとの融合蛋白質に関し,また当該融合蛋白質を製造するための方法に関する。
【0004】
本発明は,また特に血清アルブミン(SA)とグルコセレブロシダーゼ(GBA)とを結合させた融合蛋白質に関し,例えば,SAのC末端とGBAのN末端,もしくはGBAのC末端とSAのN末端とを直接又はリンカーを介して結合させたものに関する。GBAは,これを哺乳動物細胞等の宿主細胞にGBAをコードする遺伝子を導入して組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,発現量が低く,及び/又は活性が低い場合がある。本発明は,活性の高い組換え蛋白質として効率よく製造できる,かかるGBAとSAとの融合蛋白質に関し,また当該融合蛋白質を製造するための方法に関する。
【0005】
本発明は,血清アルブミン(SA)とサイトカインとを結合させた融合蛋白質に関し,例えば,SAのC末端とサイトカインのN末端,もしくはサイトカインのC末端とSAのN末端とを直接又はリンカーを介して結合させたものに関する。サイトカインには,これを哺乳動物細胞等の宿主細胞に当該サイトカインをコードする遺伝子を導入して組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,発現量が低く,及び/又は,活性が低いものがある。本発明は,活性の高い組換え蛋白質として効率よく製造できる,かかるサイトカインとSAとの融合蛋白質に関し,また当該融合蛋白質を製造するための方法に関する。但し,サイトカインと融合させるべき生理活性蛋白質に特に制限なく,全てのサイトカインをSAとの融合蛋白質とさせることができる。
【0006】
本発明は,特に血清アルブミン(SA)とインターロイキンとを結合させた融合蛋白質に関し,例えば,SAのC末端とインターロイキンのN末端,もしくはインターロイキンのC末端とSAのN末端とを直接又はリンカーを介して結合させたものに関する。インターロイキンには,これを哺乳動物細胞等の宿主細胞に当該インターロイキンをコードする遺伝子を導入して組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,発現量が低く,及び/又は活性が低いものがある。本発明は,活性の高い組換え蛋白質として効率よく製造できる,かかるインターロイキンとSAとの融合蛋白質に関し,また当該融合蛋白質を製造するための方法に関する。但し,インターロイキンと融合させるべき生理活性蛋白質に特に制限なく,全てのインターロイキンをSAとの融合蛋白質とさせることができる。
【0007】
本発明は,特に血清アルブミン(SA)とインターロイキン10(IL-10)とを結合させた融合蛋白質に関し,例えば,SAのC末端とIL-10のN末端,もしくはIL-10のC末端とSAのN末端とを直接又はリンカーを介して結合させたものに関する。IL-10は,これを哺乳動物細胞等の宿主細胞にIL-10をコードする遺伝子を導入して組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,発現量が低く,及び/又は,活性が低い場合がある。本発明は,活性の高い組換え蛋白質として効率よく製造できる,かかるIL-10とSAとの融合蛋白質に関し,また当該融合蛋白質を製造するための方法に関する。
【0008】
本発明は,血清アルブミン(SA)と神経栄養因子とを結合させた融合蛋白質に関し,例えば,SAのC末端と神経栄養因子のN末端,もしくは神経栄養因子のC末端とSAのN末端とを直接又はリンカーを介して結合させたものに関する。神経栄養因子には,これを哺乳動物細胞等の宿主細胞に当該神経栄養因子をコードする遺伝子を導入して組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,発現量が低く,及び/又は,活性が低いものがある。本発明は,活性の高い組換え蛋白質として効率よく製造できる,かかる神経栄養因子とSAとの融合蛋白質に関し,また当該融合蛋白質を製造するための方法に関する。但し,神経栄養因子と融合させるべき生理活性蛋白質に特に制限なく,全ての神経栄養因子をSAとの融合蛋白質とさせることができる。
【0009】
本発明は,特に血清アルブミン(SA)と脳由来神経栄養因子(BDNF)とを結合させた融合蛋白質に関し,例えば,SAのC末端とBDNFのN末端,もしくはBDNFのC末端とSAのN末端とを直接又はリンカーを介して結合させたものに関する。BDNFは,これを哺乳動物細胞等の宿主細胞にBDNFをコードする遺伝子を導入して組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,発現量が低く,及び/又は,活性が低い場合がある。本発明は,活性の高い組換え蛋白質として効率よく製造できる,かかるBDNFとSAとの融合蛋白質に関し,また当該融合蛋白質を製造するための方法に関する。
【0010】
本発明は,また特に血清アルブミン(SA)と神経成長因子(NGF)とを結合させた融合蛋白質に関し,例えば,SAのC末端とNGFのN末端,もしくはNGFのC末端とSAのN末端とを直接又はリンカーを介して結合させたものに関する。NGFは,これを哺乳動物細胞等の宿主細胞にNGFをコードする遺伝子を導入して組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,発現量が低く,及び/又は,活性が低い場合がある。本発明は,活性の高い組換え蛋白質として効率よく製造できる,かかるNGFとSAとの融合蛋白質に関し,また当該融合蛋白質を製造するための方法に関する。
【0011】
本発明は,また特に血清アルブミン(SA)とニューロトロフィン3(NT-3)とを結合させた融合蛋白質に関し,例えば,SAのC末端とNT-3のN末端,もしくはNT-3のC末端とSAのN末端とを直接又はリンカーを介して結合させたものに関する。NT-3は,これを哺乳動物細胞等の宿主細胞にNT-3をコードする遺伝子を導入して組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,発現量が低く,及び/又は,活性が低い場合がある。本発明は,活性の高い組換え蛋白質として効率よく製造できる,かかるNT-3とSAとの融合蛋白質に関し,また当該融合蛋白質を製造するための方法に関する。
【0012】
本発明は,また特に血清アルブミン(SA)とニューロトロフィン4(NT-4)とを結合させた融合蛋白質に関し,例えば,SAのC末端とNT-4のN末端,もしくはNT-4のC末端とSAのN末端とを直接又はリンカーを介して結合させたものに関する。NT-4は,これを哺乳動物細胞等の宿主細胞にNT-4をコードする遺伝子を導入して組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,発現量が低く,及び/又は,活性が低い場合がある。本発明は,活性の高い組換え蛋白質として効率よく製造できる,かかるNT-4とSAとの融合蛋白質に関し,また当該融合蛋白質を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0013】
リソソーム病の一種であるクラッベ病は,ガラクトシルセラミドリピドーシス,又はグロボイド細胞白質ジストロフィーとしても知られ,リソソーム内においてスフィンゴ脂質の分解に必要となるガラクトシルセラミダーゼ(ガラクトセレブロシダーゼ,GALC)の,遺伝子異常に伴う当該酵素の活性低下又は欠損を原因とする遺伝子疾患である。ガラクトシルセラミダーゼ(GALC)は,ガラクトシルスフィンゴシン,ガラクトセレブロシド等を基質とし,これら基質の分子中のガラクトースエステル結合を加水分解する反応を触媒する作用を持つ。クラッベ病の患者では,GALCの欠損により,基質であるガラクトシルスフィンゴシン等が体内に蓄積する。ガラクトシルスフィンゴシンは強い細胞毒性を持つことが知られており,その蓄積により,中枢神経・末梢神経の髄鞘又はミエリンが破壊される脱髄が引き起こされる。クラッベ病は進行性の疾患であり,重症例では,知的障害,麻痺,失明,難聴,仮性球麻痺が認められる。クラッベ病は発症の時期により,生後3ヶ月~6ヶ月程度で発症し易刺激性,退行等がみられ2~3年で死亡することが多い乳児型,生後6ヶ月~3歳程度で発症し易刺激性,精神運動発達遅延,退行がみられる後期乳児型,3歳~10歳程度で発症し視力障害,歩行障害,失調等がみられ緩やかに進行する若年型,及び10歳程度以降で発症し精神症状等がみられる成人型に分類される。
【0014】
リソソーム病の一種であるゴーシェ病は,リソソーム内において生体糖脂質であるグルコセレブロシドの分解に必要となるグルコセレブロシダーゼ(β-グルコシダーゼ,GBA)の,遺伝子異常に伴う当該酵素の活性低下又は欠損を原因とする遺伝子疾患である。グルコセレブロシダーゼ(GBA)は,グルコセレブロシドを基質とし,当該基質の分子中の糖と脂質の脱水縮合部位を加水分解する反応を触媒する作用を持つ。ゴーシェ病の患者では,GBAの欠損により,基質であるグルコセレブロシド等が体内に蓄積する。グルコセレブロシドは,特に肝臓・脾臓・骨などのマクロファージに蓄積することにより,脾機能の低下に伴う貧血や血小板減少,あるいは肝脾腫,骨痛,骨折,中枢神経障害等が引き起こされる。中枢神経障害は,グルコセレブロシドのリゾ体であるグルコシルスフィンゴシンの脳内蓄積が影響していると考えられている。ゴーシェ病は神経症状の有無と重症度により,最も軽度であり発症年齢が幼児から成人にわたる,神経症状を伴わず肝臓・脾臓の肥大,貧血,血小板の減少,骨折等の症状が緩慢に経過するI型(非神経型),乳児期に発症しI型の症状に加えて精神運動発達遅滞,痙攣,項部後屈などの神経症状が急速に進行して2歳までに酸素欠乏によって死亡する最も重篤なII型(急性神経型),及び乳幼児期に徐々に発症しII型に比べ緩慢な経過を辿る進行性のIII型(亜急性神経型)に分類される。
【0015】
クラッベ病及びゴーシェ病以外のリソソーム病もリソソーム酵素の遺伝的欠損を原因とする。リソソーム病の中でもファブリー病,ハンター症候群等に関しては,遺伝的に欠損する酵素を遺伝子組み換え技術により組換え酵素として製造し,これを患者に投与する酵素補充療法が行われている。
【0016】
ヒトGALC(hGALC)をコードする遺伝子は,1993年に単離されている(非特許文献1)。しかし,この遺伝子を用いて製造された組換えヒトGALC(rhGALC)を有効成分として含む,クラッベ病の酵素補充療法として用いるための医薬品はない。
【0017】
ヒトGBA(hGBA)をコードする遺伝子は,1986年に単離されている(非特許文献2)。しかし,この遺伝子を用いて製造された組換えヒトGBA(rhGBA)を有効成分として含む,ゴーシェ病の酵素補充療法として用いるための医薬品はない。
【0018】
サイトカインの一種であるIL-10は,Th2細胞で産生される抗炎症性のサイトカインであり,Th1細胞のサイトカイン産生を阻害することができ,免疫応答を抑制する働きを持つ。当該抗炎症作用により,IL-10は,多くの炎症性疾患,すなわち,神経傷害性疼痛,多発性硬化症,脊髄傷害,ALS,神経炎症,関節炎および関節の他の疾患に関連する症状,及び自己免疫疾患等に効果があることが期待されている。また,免疫抑制作用を有する一方で,IL-10は抗癌作用を有する可能性も報告されている(非特許文献3)。ヒトIL-10をコードする遺伝子は,1991年に単離されている(非特許文献4)。しかし,この遺伝子を用いて製造された組換えヒトIL-10(rhIL-10)を有効成分として含む,炎症性疾患又は癌の治療薬として用いるための医薬品はない。
【0019】
神経栄養因子の一種であるBDNFは,標的細胞表面上にある特異的受容体TrkBに結合し,神経細胞の生存・成長・シナプスの機能亢進などの神経細胞の成長を調節する機能を持つ神経系の液性蛋白質である。当該神経発達作用により,BDNFは,アルツハイマー病,パーキンソン病,ハンチントン病などの神経変性疾患,筋萎縮性側策硬化症などの脊髄変性疾患,この他,糖尿病性神経障害,脳虚血性疾患,Rett症候群などの発達障害,統合失調症,うつ病およびRett症候群等,多様な疾患の治療剤としての開発が期待されている。ヒトBDNFをコードする遺伝子は,1993年に単離されている(非特許文献5,6)。しかし,この遺伝子を用いて製造された組換えヒトBDNF(rhBDNF)を有効成分として含む,神経変性疾患等の治療薬として用いるための医薬品はない。
【0020】
神経栄養因子の一種であるNGFは,末梢神経系において交感神経細胞および脊髄感覚ニューロンの生存及び成長を促進し,中枢神経系において,また特に前脳基底核において,コリン作動性神経細胞の生存及び分化を促進する機能を有する蛋白質である。特に樹状突起の機能低下を防ぐ作用により,NGFは,アルツハイマー病,パーキンソン病,ハンチントン病などの神経変性疾患のための治療剤としての開発が期待されているが,脳機能の老化・変性の予防,脳機能の改善,認知症の予防及び治療,神経ネットワークの構築による記憶学習能の向上,及び神経伝達物質の作用増強等にも効果を有することが期待される。ヒトNGFを構成するα,β,及びγの3つのサブユニットのうち少なくともβサブユニットをコードする遺伝子は,1990年に単離されている(非特許文献7)。しかし,ヒトNGFをコードする遺伝子を用いて製造された組換えヒトNGF(rhNGF)を有効成分として含む,神経変性疾患等の治療薬として用いるための医薬品はない。
【0021】
神経栄養因子の一種であるNT-3は,Trkレセプター,特にTrkCを通したシグナル伝達を行い,神経細胞及びグリア細胞の生存と成長及び神経新生の促進に関与することが知られており,神経伝達の促進や神経の修復,特に視細胞の分化や再生を促進する作用が注目されている。従ってNT-3は,神経変性疾患のための治療剤としての開発が期待されている。ヒトNT-3をコードする遺伝子は,1991年に単離されている(非特許文献8)。しかし,ヒトNT-3をコードする遺伝子を用いて製造された組換えヒトNT-3(rhNT-3)を有効成分として含む,神経変性疾患等の治療薬として用いるための医薬品はない。
【0022】
神経栄養因子の一種であるNT-4は,Trkレセプター,特にTrkBを通したシグナル伝達を行い, NT-3と同様に抹消神経系ニューロンや中枢神経系ニューロンの成長と生存を促進する。従ってNT-4は,神経変性疾患のための治療剤としての開発が期待されている。ヒトNT-4をコードする遺伝子は,1992年に単離されている(非特許文献9)。しかし,ヒトNT-4をコードする遺伝子を用いて製造された組換えヒトNT-4(rhNT-4)を有効成分として含む,神経変性疾患等の治療薬として用いるための医薬品はない。
【0023】
生体内に投与したときに,投与後に速やかに分解されて活性を消失する成長ホルモンを,血清アルブミンとの融合蛋白質として製造する方法が知られている(非特許文献10)。血清アルブミンと融合させた成長ホルモンは,生体内での安定性が増加する。従って,通常,成長ホルモンは,皮下に毎日投与されるべきところ,血清アルブミンとの融合蛋白質とすることで,その投与回数を減ずることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】Chen YQ. Hum Mol Genet. 2(11). 1841-5 (1993)
【非特許文献2】Tsuji S. J Biol Chem. 261(1). 50-3 (1986)
【非特許文献3】Mumm JB. Cancer Cell. 20(6). 781-96 (2011)
【非特許文献4】Vieira P. Proc Natl Acad Sci USA. 88(4). 1172-6 (1991)
【非特許文献5】Metsis M. Proc Natl Acad Sci USA. 90(19). 8802-8806 (1993)
【非特許文献6】Timmusk T. Neuron.10(3). 475-89 (1993)
【非特許文献7】Borsani G. Nucleic Acids Res.18(13). 4020 (1990)
【非特許文献8】Maisonpierre PC. Genomics. 10(3). 558-68 (1991)
【非特許文献9】Ip NY. Proc Natl Acad Sci USA.89(7). 3060-4 (1992)
【非特許文献10】Poznansky MJ. FEBS. 239. 18-22 (1988)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明の目的の一つは,通常ではCHO細胞等の宿主細胞を用いて組換え蛋白質として発現させたときに,発現量が低く,及び/又は,活性が低い生理活性物質を,血清アルブミン(SA)との融合蛋白質の形態で提供することである。かかる融合蛋白質は,活性の高い組換え蛋白質として効率よく製造できる。また,当該融合蛋白質の製造方法も提供される。
本発明の他の目的の一つは,通常ではCHO細胞等の宿主細胞を用いて組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,発現量が低く,及び/又は,活性が低いリソソーム酵素を,血清アルブミンとの融合蛋白質の形態で提供することである。かかる融合蛋白質は,活性の高い組換え蛋白質として効率よく製造できる。また,当該融合蛋白質の製造方法も提供される。ここで,リソソーム酵素としては,例えば,hGALC,hGBAが挙げられる。
【0026】
なお,組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させるときには,組換え蛋白質をコードする遺伝子の5’側に,リーダーペプチドをコードするDNA配列がインフレームで配置される。これにより,発現した組換え蛋白質が細胞から分泌されるようになる。かかるリーダーペプチドは,組換え蛋白質のN末端に,SAが位置する場合はSAのリーダーペプチド,リソソーム酵素が位置する場合はリソソーム酵素のリーダーペプチド,サイトカインが位置する場合はサイトカインのリーダーペプチド,神経栄養因子が位置する場合は神経栄養因子のリーダーペプチドであることが好ましい。但し,これらに替えて,リーダーペプチドを,成長ホルモンのリーダーペプチド等の異種蛋白質のリーダーペプチド,又は人工的なリーダーペプチドとすることもできる。
【0027】
本発明の他の目的の一つは,通常ではCHO細胞等の宿主細胞を用いて組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,発現量が低く,及び/又は,活性が低いサイトカインを,血清アルブミンとの融合蛋白質の形態で提供することである。かかる融合蛋白質は,活性の高い組換え蛋白質として効率よく製造できる。また,当該融合蛋白質の製造方法も提供される。ここで,サイトカインとしては,例えば,インターロイキンであり,特にhIL-10である。
本発明の他の目的の一つは,通常ではCHO細胞等の宿主細胞を用いて組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,発現量が低く,及び/又は,活性が低い神経栄養因子を,血清アルブミンとの融合蛋白質の形態で提供することである。かかる融合蛋白質は,活性の高い組換え蛋白質として効率よく製造できる。また,当該融合蛋白質の製造方法も提供される。ここで,神経栄養因子としては,例えば,hBDNF,hNGF,hNT-3,及びhNT-4が挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記目的に向けた研究において,本発明者らは,鋭意検討を重ねた結果,本明細書において詳述する,ヒトリソソーム酵素であるhGALC又はhGBAのN末端又はC末端に直接又はリンカーを介してHSAが結合した融合蛋白質を,当該融合蛋白質をコードする遺伝子を組み込んだ発現ベクターを導入した宿主細胞を培養して発現させたときの組換え融合蛋白質の発現量(当該組換え融合蛋白質の野生型ヒトリソソーム酵素に対応する部分の発現量に換算)が,野生型ヒトリソソーム酵素をコードする遺伝子を組み込んだ発現ベクターを導入した宿主細胞を培養して発現させたときの組換え野生型ヒトリソソーム酵素の発現量と比較して,格段に増加することを見出し,本発明を完成した。
また上記目的に向けた研究において,本発明者らは,鋭意検討を重ねた結果,本明細書において詳述する,ヒトサイトカインであるhIL-10のN末端又はC末端に直接又はリンカーを介してHSAが結合した融合蛋白質を,当該融合蛋白質をコードする遺伝子を組み込んだ発現ベクターを導入した宿主細胞を培養して発現させたときの組換え融合蛋白質の活性が,野生型hIL-10をコードする遺伝子を組み込んだ発現ベクターを導入した宿主細胞を培養して発現させたときの組換え野生型hIL-10の活性と比較して,格段に増加することを見出し,本発明を完成した。
また上記目的に向けた研究において,本発明者らは,鋭意検討を重ねた結果,本明細書において詳述する,ヒト神経栄養因子であるhBDNF,hNGF,hNT-3,又はhNT-4のN末端又はC末端に直接又はリンカーを介してHSAが結合した融合蛋白質を,当該融合蛋白質をコードする遺伝子を組み込んだ発現ベクターを導入した宿主細胞を培養して発現させたときの組換え融合蛋白質の活性が,野生型ヒト神経栄養因子をコードする遺伝子を組み込んだ発現ベクターを導入した宿主細胞を培養して発現させたときの組換え野生型ヒト神経栄養因子の活性と比較して,格段に増加することを見出し,本発明を完成した。
すなわち,本発明は以下を含むものである。
1.リソソーム酵素と,血清アルブミン(SA)を含んでなる,融合蛋白質。
2.該リソソーム酵素が,ヒトリソソーム酵素である,上記1に記載の融合蛋白質。
3.該SAが,ヒト血清アルブミン(HSA)である,上記1又は2に記載の融合蛋白質。
4.該リソソーム酵素が,配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する野生型ヒトガラクトシルセラミダーゼに対して80%以上の同一性を有するヒトガラクトシルセラミダーゼ(hGALC)であって,該SAが,配列番号3で示されるアミノ酸配列を有する野生型ヒト血清アルブミンに対して80%以上の同一性を有するヒト血清アルブミン(HSA)である,上記1乃至3の何れかに記載の融合蛋白質。
5.該hGALCが配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する野生型hGALCに対して90%以上の同一性を有するものであり,該HSAが配列番号3で示されるアミノ酸配列を有する野生型HSAに対して90%以上の同一性を有するものである,上記4に記載の融合蛋白質。
6.該hGALCが,配列番号1で示される野生型hGALCのアミノ酸配列に対して1~10個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,上記4に記載の融合蛋白質。
7.該hGALCが,配列番号1で示される野生型hGALCのアミノ酸配列に対して1~5個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,上記4に記載の融合蛋白質。
8.該hGALCが,配列番号1で示される野生型hGALCのアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,上記4に記載の融合蛋白質。
9.該hGALCが,配列番号1で示される野生型hGALCのアミノ酸配列に対して1個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を含んでなるものである,上記4に記載の融合蛋白質。
10.該アミノ酸の置換が,側鎖が水酸化反応され得るアミノ酸であるアミノ酸ファミリー内での置換である,上記9に記載の融合蛋白質。
11.該HSAが,配列番号3で示される野生型HSAのアミノ酸配列に対して1~10個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,上記4乃至10の何れかに記載の融合蛋白質。
12.該HSAが,配列番号3で示される野生型HSAのアミノ酸配列に対して1~5個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,上記4乃至10の何れかに記載の融合蛋白質。
13.該HSAが,配列番号3で示される野生型HSAのアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,上記4乃至10の何れかに記載の融合蛋白質。
14.該hGALCが配列番号1で示される野生型hGALCのアミノ酸配列を含んでなるものであり,該HSAが配列番号3で示される野生型ヒト血清アルブミンのアミノ酸配列を含んでなるものである,上記4に記載の融合蛋白質。
15.該hGALCが配列番号1で示される野生型hGALCのアミノ酸配列を含んでなるものであり,該HSAが配列番号12で示される野生型ヒト血清アルブミンのアミノ酸配列を含んでなるものである,上記4に記載の融合蛋白質。
16.該hGALCが配列番号1で示される野生型hGALCのアミノ酸配列を含んでなるものであり,該HSAが配列番号13で示される野生型ヒト血清アルブミンのアミノ酸配列を含んでなるものである,上記4に記載の融合蛋白質。
17.該hGALCのC末端に,直接又はリンカーを介して,該HSAが結合したものである,上記4乃至16の何れかに記載の融合蛋白質。
18.該HSAのC末端に,直接又はリンカーを介して,該hGALCが結合したものである,上記4乃至16の何れかに記載の融合蛋白質。
19.該リンカーが,1~150個のアミノ酸からなるペプチド鎖である,上記17又は18に記載の融合蛋白質。
20.該リンカーが,以下の(a)~(g)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるものである,上記19に記載の融合蛋白質:
(a)Gly;
(b)Ser;
(c)Gly Ser;
(d)Gly Gly Ser;
(e)配列番号9で示されるアミノ酸配列;
(f)配列番号10で示されるアミノ酸配列;及び,
(g)配列番号11で示されるアミノ酸配列。
21.該リンカーが,以下の(a)~(g)からなる群から選択されるアミノ酸配列が2~10回反復したアミノ酸配列からなるものである,上記19に記載の融合蛋白質:
(a)Gly;
(b)Ser;
(c)Gly Ser;
(d)Gly Gly Ser;
(e)配列番号9で示されるアミノ酸配列;
(f)配列番号10で示されるアミノ酸配列;及び,
(g)配列番号11で示されるアミノ酸配列。
22.該リンカーが,以下の(a)~(g)からなる群から選択されるアミノ酸配列が2~6回反復したアミノ酸配列からなるものである,上記19に記載の融合蛋白質:
(a)Gly;
(b)Ser;
(c)Gly Ser;
(d)Gly Gly Ser;
(e)配列番号9で示されるアミノ酸配列;
(f)配列番号10で示されるアミノ酸配列;及び,
(g)配列番号11で示されるアミノ酸配列。
23.該リンカーが,以下の(a)~(g)からなる群から選択されるアミノ酸配列が3~5回反復したアミノ酸配列からなるものである,上記19に記載の融合蛋白質:
(a)Gly;
(b)Ser;
(c)Gly Ser;
(d)Gly Gly Ser;
(e)配列番号9で示されるアミノ酸配列;
(f)配列番号10で示されるアミノ酸配列;及び,
(g)配列番号11で示されるアミノ酸配列。
24.該リンカーが,Gly Serで示されるアミノ酸配列からなるものである,上記19に記載の融合蛋白質。
25.配列番号5で示されるアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなる,上記18に記載の融合蛋白質。
26.配列番号5で示されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなる,上記18に記載の融合蛋白質。
27.該融合蛋白質が,配列番号5で示されるアミノ酸配列に対して1~10個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,上記26に記載の融合蛋白質。
28.該融合蛋白質が,配列番号5で示されるアミノ酸配列に対して1~5個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,上記26に記載の融合蛋白質。
29.該融合蛋白質が,配列番号5で示されるアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,上記26に記載の融合蛋白質。
30.配列番号5で示されるアミノ酸配列を含んでなる,上記18に記載の融合蛋白質。
31.配列番号7で示されるアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなる,上記17に記載の融合蛋白質。
32.配列番号7で示されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなる,上記17に記載の融合蛋白質。
33.該融合蛋白質が,配列番号7で示されるアミノ酸配列に対して1~10個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,上記32に記載の融合蛋白質。
34.該融合蛋白質が,配列番号7で示されるアミノ酸配列に対して1~5個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,上記32に記載の融合蛋白質。
35.該融合蛋白質が,配列番号7で示されるアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,上記32に記載の融合蛋白質。
36.配列番号7で示されるアミノ酸配列を含んでなる,上記17に記載の融合蛋白質。
37.通常の野生型のhGALCの比活性と比較して,10%以上の比活性を有するものである,上記4乃至36の何れかに記載の融合蛋白質。
38.該リソソーム酵素が,配列番号37で示されるアミノ酸配列を有する野生型ヒトグルコセレブロシダーゼに対して80%以上の同一性を有するヒトグルコセレブロシダーゼ(hGBA)であって,該SAが,配列番号3で示されるアミノ酸配列を有する野生型ヒト血清アルブミンに対して80%以上の同一性を有するヒト血清アルブミン(HSA)である,上記1乃至3の何れかに記載の融合蛋白質。
39.該hGBAが配列番号37で示されるアミノ酸配列を有する野生型hGBAに対して90%以上の同一性を有するものであり,該HSAが配列番号3で示されるアミノ酸配列を有する野生型HSAに対して90%以上の同一性を有するものである,上記38に記載の融合蛋白質。
40.該hGBAが,配列番号37で示される野生型hGBAのアミノ酸配列に対して1~10個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,上記38に記載の融合蛋白質。
41.該hGBAが,配列番号37で示される野生型hGBAのアミノ酸配列に対して1~5個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,上記38に記載の融合蛋白質。
42.該hGBAが,配列番号37で示される野生型hGBAのアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,上記38に記載の融合蛋白質。
43.該hGBAが,配列番号37で示される野生型hGBAのアミノ酸配列に対して1個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を含んでなるものである,上記38に記載の融合蛋白質。
44.該アミノ酸の置換が,側鎖が水酸化反応され得るアミノ酸であるアミノ酸ファミリー内での置換である,上記43に記載の融合蛋白質。
45.該HSAが,配列番号3で示される野生型HSAのアミノ酸配列に対して1~10個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,上記38乃至44の何れかに記載の融合蛋白質。
46.該HSAが,配列番号3で示される野生型HSAのアミノ酸配列に対して1~5個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,上記38乃至44の何れかに記載の融合蛋白質。
47.該HSAが,配列番号3で示される野生型HSAのアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,上記38乃至44の何れかに記載の融合蛋白質。
48.該hGBAが配列番号37で示される野生型hGBAのアミノ酸配列を含んでなるものであり,該HSAが配列番号3で示される野生型HSAのアミノ酸配列を含んでなるものである,上記38に記載の融合蛋白質。
49.該hGBAが配列番号37で示される野生型hGBAのアミノ酸配列を含んでなるものであり,該HSAが配列番号12で示される野生型HSAのアミノ酸配列を含んでなるものである,上記38に記載の融合蛋白質。
50.該hGBAが配列番号37で示される野生型hGBAのアミノ酸配列を含んでなるものであり,該HSAが配列番号13で示される野生型HSAのアミノ酸配列を含んでなるものである,上記38に記載の融合蛋白質。
51.該hGBAのC末端に,直接又はリンカーを介して,該HSAが結合したものである,上記38乃至50の何れかに記載の融合蛋白質。
52.該HSAのC末端に,直接又はリンカーを介して,該hGBAが結合したものである,上記38乃至50の何れかに記載の融合蛋白質。
53.該リンカーが,1~150個のアミノ酸からなるペプチド鎖である,上記51又は52に記載の融合蛋白質。
54.該リンカーが,以下の(a)~(g)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるものである,上記53に記載の融合蛋白質:
(a)Gly;
(b)Ser;
(c)Gly Ser;
(d)Gly Gly Ser;
(e)配列番号9で示されるアミノ酸配列;
(f)配列番号10で示されるアミノ酸配列;及び,
(g)配列番号11で示されるアミノ酸配列。
55.該リンカーが,以下の(a)~(g)からなる群から選択されるアミノ酸配列が2~10回反復したアミノ酸配列からなるものである,上記53に記載の融合蛋白質:
(a)Gly;
(b)Ser;
(c)Gly Ser;
(d)Gly Gly Ser;
(e)配列番号9で示されるアミノ酸配列;
(f)配列番号10で示されるアミノ酸配列;及び,
(g)配列番号11で示されるアミノ酸配列。
56.該リンカーが,以下の(a)~(g)からなる群から選択されるアミノ酸配列が2~6回反復したアミノ酸配列からなるものである,上記53に記載の融合蛋白質:
(a)Gly;
(b)Ser;
(c)Gly Ser;
(d)Gly Gly Ser;
(e)配列番号9で示されるアミノ酸配列;
(f)配列番号10で示されるアミノ酸配列;及び,
(g)配列番号11で示されるアミノ酸配列。
57.該リンカーが,以下の(a)~(g)からなる群から選択されるアミノ酸配列が3~5回反復したアミノ酸配列からなるものである,上記53に記載の融合蛋白質:
(a)Gly;
(b)Ser;
(c)Gly Ser;
(d)Gly Gly Ser;
(e)配列番号9で示されるアミノ酸配列;
(f)配列番号10で示されるアミノ酸配列;及び,
(g)配列番号11で示されるアミノ酸配列。
58.該リンカーが,Gly Serで示されるアミノ酸配列からなるものである,上記53に記載の融合蛋白質。
59.配列番号39で示されるアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなる,上記52に記載の融合蛋白質。
60.配列番号39で示されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなる,上記52に記載の融合蛋白質。
61.該融合蛋白質が,配列番号39で示されるアミノ酸配列に対して1~10個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,上記60に記載の融合蛋白質。
62.該融合蛋白質が,配列番号39で示されるアミノ酸配列に対して1~5個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,上記60に記載の融合蛋白質。
63.該融合蛋白質が,配列番号39で示されるアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,上記60に記載の融合蛋白質。
64.配列番号41で示されるアミノ酸配列を含んでなる,上記51に記載の融合蛋白質。
65.配列番号41で示されるアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなる,上記51に記載の融合蛋白質。
66.配列番号41で示されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなる,上記51に記載の融合蛋白質。
67.該融合蛋白質が,配列番号41で示されるアミノ酸配列に対して1~10個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,上記66に記載の融合蛋白質。
68.該融合蛋白質が,配列番号41で示されるアミノ酸配列に対して1~5個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,上記66に記載の融合蛋白質。
69.該融合蛋白質が,配列番号41で示されるアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が置換,欠失又は/及び付加されたアミノ酸配列を含んでなるものである,上記66に記載の融合蛋白質。
70.配列番号41で示されるアミノ酸配列を含んでなる,上記51に記載の融合蛋白質。
71.通常の野生型のhGBAの比活性と比較して,10%以上の比活性を有するものである,上記38乃至70の何れかに記載の融合蛋白質。
72,上記1乃至71の何れかに記載の融合蛋白質をコードする遺伝子を含んでなるDNA。
73.上記72に記載のDNAを含んでなる発現ベクター。
74.上記73に記載の発現ベクターで形質転換された哺乳動物細胞。
75.上記74に記載の哺乳動物細胞を無血清培地で培養するステップを含む,融合蛋白質の製造方法。
76.上記1乃至170の何れかに記載の融合蛋白質と,抗体との結合体。
77.リソソーム酵素,血清アルブミン及び抗体との結合体。
78.以下の(1)~(6)から選択されるものである,上記77の結合体:
(1)該リソソーム酵素のC末端に,直接又はリンカーを介して,血清アルブミンが結合し,更にそのC末端に,直接又はリンカーを介して,該抗体が結合したものである結合体;
(2)該リソソーム酵素のC末端に,直接又はリンカーを介して,抗体が結合し,更にそのC末端に,直接又はリンカーを介して,該血清アルブミンが結合したものである結合体;
(3)該血清アルブミンのC末端に,直接又はリンカーを介して,該リソソーム酵素が結合し,更にそのC末端に,直接又はリンカーを介して,該抗体が結合したものである結合体;
(4)該血清アルブミンのC末端に,直接又はリンカーを介して,該抗体が結合し,更にそのC末端に,直接又はリンカーを介して,該リソソーム酵素が結合したものである結合体;
(5)該抗体のC末端に,直接又はリンカーを介して,該リソソーム酵素が結合し,更にそのC末端に,直接又はリンカーを介して,該血清アルブミンが結合したものである結合体;
(6)該抗体のC末端に,直接又はリンカーを介して,該血清アルブミンが結合し,更にそのC末端に,直接又はリンカーを介して,該リソソーム酵素が結合したものである結合体。
79.該抗体が,血管内皮細胞上に発現する受容体に対する抗体である,上記76乃至78の結合体。
80.該血管内皮細胞上の受容体が,インスリン受容体,トランスフェリン受容体,レプチン受容体,リポタンパク質受容体,及びIGF受容体からなる群から選択されるものである,上記79に記載の結合体。
81.該血管内皮細胞上の受容体が,トランスフェリン受容体である,上記79に記載の結合体。
82.該抗体が,Fab抗体,F(ab’)抗体,F(ab’)抗体,単一ドメイン抗体,一本鎖抗体,VHH,又はFc抗体の何れかである,上記76乃至81の何れかに記載の結合体。
83.該融合蛋白質が,該抗体の軽鎖のC末端側又はN末端側の何れかに結合しているものである,上記76乃至82の何れかに記載の結合体。
84.該融合蛋白質が,該抗体の重鎖のC末端側又はN末端側の何れかに結合しているものである,上記76乃至82の何れかに記載の結合体。
85.該融合蛋白質が,該抗体の軽鎖のC末端側若しくはN末端側の何れか,又は重鎖のC末端側若しくはN末端側の何れかに,リンカー配列を介して結合しているものである,上記76乃至82の何れかに記載の結合体。
86.該リンカー配列が,1~50個のアミノ酸残基からなるものである,上記78乃至85に記載の結合体。
87.該リンカー配列が,1個のグリシン,1個のセリン,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Ser-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,配列番号9のアミノ酸配列,配列番号10のアミノ酸配列,配列番号11のアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が1~10個連続してなるアミノ酸配列からなる群より選ばれるアミノ酸配列を含んでなるものである,上記86に記載の結合体。
88.上記76乃至87の何れかに記載の結合体をコードする遺伝子を含んでなるDNA。
89.上記88に記載のDNAを含んでなる発現ベクター。
90.上記89に記載の発現ベクターで形質転換された哺乳動物細胞。
91.上記90に記載の哺乳動物細胞を無血清培地で培養するステップを含む,生理活性を有する蛋白質とSAとの融合蛋白質と抗体との結合体の製造方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば,例えば,活性のある組換え蛋白質として発現させることが比較的困難なヒトリソソーム酵素を,HSAとの融合蛋白質の形態で提供することができる。かかる融合蛋白質は,活性の高い組換え蛋白質として効率よく製造できるので,当該リソソーム酵素の欠損するリソソーム病の患者の酵素補充療法のために用いる薬剤として,医療機関に安定して供給することができる。また,本発明によれば,例えば,活性のある組換え蛋白質として発現させることが比較的困難なサイトカインを,HSAとの融合蛋白質の形態で提供することができる。かかる融合蛋白質は,組換え蛋白質として効率よく製造できるので,薬剤として,医療機関に安定して供給することができる。また,本発明によれば,例えば,活性のある組換え蛋白質として発現させることが比較的困難なヒト神経栄養因子を,HSAとの融合蛋白質の形態で提供することができる。かかる融合蛋白質は,組換え蛋白質として効率よく製造できるので,薬剤として,医療機関に安定して供給することができる。なお,本発明の効果は,これらに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】N末端側からHSA,リンカー及びhGALCを順に有する一本鎖ポリペプチドの融合蛋白質を模式的に示す。リンカーは,ペプチドリンカーであり,融合蛋白質はHSAのC末端と該リンカーのN末端がペプチド結合により結合し,かつ該リンカーのC末端とhGALCのN末端がペプチド結合により結合したものである。
図2】N末端側からHSA,リンカー及びhGBAを順に有する一本鎖ポリペプチドの融合蛋白質を模式的に示す。リンカーは,ペプチドリンカーであり,融合蛋白質はHSAのC末端と該リンカーのN末端がペプチド結合により結合し,かつ該リンカーのC末端とhGBAのN末端がペプチド結合により結合したものである。
図3】N末端側からhGALC,リンカー及びHSAを順に有する一本鎖ポリペプチドの融合蛋白質を模式的に示す。リンカーは,ペプチドリンカーであり,融合蛋白質はhGALCのC末端と該リンカーのN末端がペプチド結合により結合し,かつ該リンカーのC末端とHSAのN末端がペプチド結合により結合したものである。
図4】N末端側からhGBA,リンカー及びHSAを順に有する一本鎖ポリペプチドの融合蛋白質を模式的に示す。リンカーは,ペプチドリンカーであり,融合蛋白質はhGBAのC末端と該リンカーのN末端がペプチド結合により結合し,かつ該リンカーのC末端とHSAのN末端がペプチド結合により結合したものである。
図5】N末端側からHSA,リンカー及びhIL-10を順に有する一本鎖ポリペプチドの融合蛋白質を模式的に示す。リンカーは,ペプチドリンカーであり,融合蛋白質はHSAのC末端と該リンカーのN末端がペプチド結合により結合し,かつ該リンカーのC末端とhIL-10のN末端がペプチド結合により結合したものである。
図6】N末端側からhIL-10,リンカー及びHSAを順に有する一本鎖ポリペプチドの融合蛋白質を模式的に示す。リンカーは,ペプチドリンカーであり,融合蛋白質はhIL-10のC末端と該リンカーのN末端がペプチド結合により結合し,かつ該リンカーのC末端とHSAのN末端がペプチド結合により結合したものである。
図7】N末端側からHSA,リンカー及びhBDNFを順に有する一本鎖ポリペプチドの融合蛋白質を模式的に示す。リンカーは,ペプチドリンカーであり,融合蛋白質はHSAのC末端と該リンカーのN末端がペプチド結合により結合し,かつ該リンカーのC末端とhBDNFのN末端がペプチド結合により結合したものである。
図8】N末端側からHSA,リンカー及びhNGFを順に有する一本鎖ポリペプチドの融合蛋白質を模式的に示す。リンカーは,ペプチドリンカーであり,融合蛋白質はHSAのC末端と該リンカーのN末端がペプチド結合により結合し,かつ該リンカーのC末端とhNGFのN末端がペプチド結合により結合したものである。
図9】N末端側からHSA,リンカー及びhNT-3を順に有する一本鎖ポリペプチドの融合蛋白質を模式的に示す。リンカーは,ペプチドリンカーであり,融合蛋白質はHSAのC末端と該リンカーのN末端がペプチド結合により結合し,かつ該リンカーのC末端とhNT-3のN末端がペプチド結合により結合したものである。
図10】N末端側からHSA,リンカー及びhNT-4を順に有する一本鎖ポリペプチドの融合蛋白質を模式的に示す。リンカーは,ペプチドリンカーであり,融合蛋白質はHSAのC末端と該リンカーのN末端がペプチド結合により結合し,かつ該リンカーのC末端とhNT-4のN末端がペプチド結合により結合したものである。
図11】N末端側からhBDNF,リンカー及びHSAを順に有する一本鎖ポリペプチドの融合蛋白質を模式的に示す。リンカーは,ペプチドリンカーであり,融合蛋白質はhBDNFのC末端と該リンカーのN末端がペプチド結合により結合し,かつ該リンカーのC末端とHSAのN末端がペプチド結合により結合したものである。
図12】N末端側からhNGF,リンカー及びHSAを順に有する一本鎖ポリペプチドの融合蛋白質を模式的に示す。リンカーは,ペプチドリンカーであり,融合蛋白質はhNGFのC末端と該リンカーのN末端がペプチド結合により結合し,かつ該リンカーのC末端とHSAのN末端がペプチド結合により結合したものである。
図13】N末端側からhNT-3,リンカー及びHSAを順に有する一本鎖ポリペプチドの融合蛋白質を模式的に示す。リンカーは,ペプチドリンカーであり,融合蛋白質はhNT-3のC末端と該リンカーのN末端がペプチド結合により結合し,かつ該リンカーのC末端とHSAのN末端がペプチド結合により結合したものである。
図14】N末端側からhNT-4,リンカー及びHSAを順に有する一本鎖ポリペプチドの融合蛋白質を模式的に示す。リンカーは,ペプチドリンカーであり,融合蛋白質はhNT-4のC末端と該リンカーのN末端がペプチド結合により結合し,かつ該リンカーのC末端とHSAのN末端がペプチド結合により結合したものである。
図15】一過性発現による野生型hGALC,HSA-hGALC,及びhGALC-HSAの発現量の確認実験の結果を示す図。上段(a)の棒グラフの縦軸は,培養上清中に含まれる酵素の発現量を酵素活性(μM/時間)で示す。黒棒は野生型hGALCの酵素活性を,白棒はHSA-hGALCの酵素活性を,斜線棒はhGALC-HSAの酵素活性を,それぞれ示す。中段(b)は,培養上清のSDS-pageによる分析結果であり,下段(c)は,培養上清のウエスタンブロッティングによる分析結果であり,野生型hGALC及びHSAとhGALCとの融合蛋白質に相当するバンドの位置がそれぞれ示されている。左から順に,一過性発現における培養開始6日後,7日後,8日後の分析結果を示す。
図16】一過性発現による野生型hGALC,HSA-hGALC,及びhGALC-HSAのSE-HPLC分析における溶出プロフィールを示す図。縦の破線はBuffer由来のピークの位置を示し,縦の直線はHSA-hGALC及びhGALC-HSAの単量体に相当するピークの位置を示す。
図17】pCI MCS-modifiedベクター(プラスミド)の構造を示す模式図
図18】Dual(+)pCI-neoベクター(プラスミド)の構造を示す模式図
図19】一過性発現による野生型hGALC,Fab-HSA-hGALC,HSA-hGALC-Fab,Fab-hGALC-HSA,及びhGALC-HSA-Fabの発現量の確認実験の結果を示す図。縦軸は,培養上清中に含まれる酵素の発現量を酵素活性(μM/時間)で示す。
図20】一過性発現によるFab-HSA-hGALC,HSA-hGALC-Fab,Fab-hGALC-HSA,及びhGALC-HSA-FabのSE-HPLC分析における溶出プロフィールを示す図。縦の破線はBuffer由来のピークの位置を示す。
図21】pEmIGS-hGBAベクター(プラスミド)の構造を示す模式図
図22】pCIneo-hGBAベクター(プラスミド)の構造を示す模式図
図23】pCIneo-HSA-hGBAベクター(プラスミド)の構造を示す模式図
図24】一過性発現による野生型hGBA,HSA-hGBA,及びhGBA-HSAの発現量の確認実験(活性測定)の結果を示す図。縦軸は,培養上清中に含まれる酵素の発現量を酵素活性(μM/時間)で示す。
図25】一過性発現による野生型hGBA,HSA-hGBA,及びhGBA-HSAの発現量の確認実験(SDS-PAGE)の結果を示す図。野生型hGBA,及びHSAとhGBAとの融合蛋白質に相当するバンドの位置がそれぞれ示されている。
図26】一過性発現による野生型mIL-10,mIL-10-MSA,及びMSA-mIL-10の発現量の確認実験(ELISA)の結果を示す図。縦軸は,培養上清中に含まれる各蛋白質の発現量を濃度(mol/L)で示す。
図27】一過性発現による野生型mIL-10,mIL-10-MSA,及びMSA-mIL-10の発現量の確認実験(SDS-PAGE)の結果を示す図。野生型mIL-10,及びMSAとmIL-10との融合蛋白質に相当するバンドの位置がそれぞれ示されている。
図28】一過性発現による野生型ヒト神経栄養因子,及びHSAとヒト神経栄養因子との融合蛋白質の発現量の確認実験(ELISA)の結果を示す図。縦軸は,培養上清中に含まれる各蛋白質の発現量を濃度(mol/L)で示す。黒棒は各野生型ヒト神経栄養因子の濃度を,白棒は各ヒト神経栄養因子-HSA融合蛋白質の濃度を,斜線棒は各HSA-ヒト神経栄養因子融合蛋白質の濃度を,それぞれ示す。ヒト神経栄養因子は4種類あり,図中左からhBDNF,hNGF,hNT-4,及びhNT-4の結果が示されている。
図29】一過性発現による野生型ヒト神経栄養因子,及びHSAとヒト神経栄養因子との融合蛋白質の発現量の確認実験(SDS-PAGE)の結果を示す図。レーン(a)は野生型ヒト神経栄養因子に,レーン(b)はヒト神経栄養因子-HSA融合蛋白質に,レーン(c)はHSA-ヒト神経栄養因子融合蛋白質に,それぞれ対応する。野生型ヒト神経栄養因子及びHSAとヒト神経栄養因子との融合蛋白質に相当するバンドの位置がそれぞれ示されている。ヒト神経栄養因子は4種類あり,図中左からhBDNF,hNGF,hNT-4,及びhNT-4の結果が示されている。
図30】一過性発現による野生型ヒト神経栄養因子及びHSAとヒト神経栄養因子との融合蛋白質の発現量の確認実験(ウエスタンブロッティング)の結果を示す図。レーン(a)は野生型ヒト神経栄養因子に,レーン(b)はヒト神経栄養因子-HSA融合蛋白質に,レーン(c)はHSA-ヒト神経栄養因子融合蛋白質に,それぞれ対応する。野生型ヒト神経栄養因子及びHSAとヒト神経栄養因子との融合蛋白質に相当するバンドの位置がそれぞれ示されている。ヒト神経栄養因子は4種類あり,図中左からhBDNF,hNGF,hNT-4,及びhNT-4の結果が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明において,血清アルブミン(SA)と融合させるべき蛋白質の種類に特に制限はないが,当該蛋白質をコードする遺伝子を宿主細胞に組込んで組換え蛋白質として発現されたときに,発現量が低く,及び/又は,活性が低いものである。かかる蛋白質としては,例えば,リソソーム酵素,サイトカイン,インターロイキン,及び神経栄養因子,若しくはこれらと抗体の融合蛋白質が挙げられる。なお,インターロイキンはサイトカインに属するものであり,特にヘルパーT細胞から分布されるサイトカインの総称である。
【0032】
リソソーム酵素としては,特にガラクトシルセラミダーゼ(GALC)及びグルコセレブロシダーゼ(GBA),若しくはこれらと抗体又はリガンドの融合蛋白質が挙げられる。但し,リソソーム酵素については,GALCとGBAに限られない。SAと結合させることにより,組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,発現量,及び/又は,活性を高めることができる他のリソソーム酵素も,SAと結合させるべきリソソーム酵素に含まれる。これら他のリソソーム酵素と抗体又はリガンドの融合蛋白質についても同様である。更には,本発明は,組換え蛋白質として製造が容易なリソソーム酵素にも応用が可能である。すなわち,リリソソーム酵素に特に限定はなく,例えば,イズロン酸-2-スルファターゼ,α-L-イズロニダーゼ,β-ガラクトシダーゼ,GM2活性化蛋白質,β-ヘキソサミニダーゼA,β-ヘキソサミニダーゼB,N-アセチルグルコサミン1-フォスフォトランスフェラーゼ,α-マンノシダーゼ,β-マンノシダーゼ,サポシンC,アリールスルファターゼA,α-L-フコシダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ,酸性スフィンゴミエリナーゼ,α-ガラクトシダーゼA,β-グルクロニダーゼ,ヘパランN-スルファターゼ,α-N-アセチルグルコサミニダーゼ,アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ,N-アセチルグルコサミン6-硫酸スルファターゼ,酸性セラミダーゼ,アミロ-1,6-グルコシダーゼ,シアリダーゼ,パルミトイル蛋白質チオエステラーゼ-1,トリペプチジルペプチダーゼ-1,ヒアルロニダーゼ-1,酸性α-グルコシダーゼ,CLN1及びCLN2であってもよい。
【0033】
サイトカインとしては,特にインターロイキンであり,例えば,IL-10,及びこれと抗体又はリガンドの融合蛋白質が挙げられる。但し,サイトカインについては,IL-10に限られない。SAと結合させることにより,組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,発現量,及び/又は,活性を高めることができる他のサイトカインも,SAと結合させるべきサイトカインに含まれる。これら他のサイトカインと抗体又はリガンドの融合蛋白質についても同様である。但し,本発明は,組換え蛋白質として製造が容易なサイトカインにも応用が可能である。つまり,融合蛋白質には,IL-10以外のサイトカインとSAとの融合蛋白質,更にはこれらと抗体の融合蛋白質も包含される。ここで,サイトカインに特に限定はないが,例えば,IL-1,IL-2,IL-3,IL-4,IL-5,IL-6,IL-7,IL-8,IL-9,IL-11,IL-12,IL-13,IL-14,IL-15,IL-16,IL-17,IL-18,及びIL-19~IL-36であってもよい。
【0034】
神経栄養因子としては,特にBDNF,NGF,NT-3,及びNT-4及びこれらと抗体の融合蛋白質が挙げられる。但し,神経栄養因子については,これらに限られない。SAと結合させることにより,組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,発現量,及び/又は,活性を高めることができる他の神経栄養因子も,SAと結合させるべき神経栄養因子に含まれる。これら神経栄養因子と抗体の融合蛋白質についても同様である。更には,本発明は,組換え蛋白質として製造が容易な神経栄養因子にも応用が可能である。すなわち,神経栄養因子に特に限定はなく,例えば,グリア細胞株神経栄養因子(GDNF),NT-5であってもよい。
【0035】
SAと融合させる蛋白質の生物種に特に限定はないが,好ましくはヒトに由来するものであり,例えばヒトリソソーム酵素,ヒトサイトカイン,ヒト成長栄養因子である。
【0036】
血清アルブミン(SA)とリソソーム酵素との融合蛋白質は,リソソーム病に対する酵素補充療法における治療剤として使用できる。例えば,SAと融合させたグルコセレブロシダーゼ(GBA)はゴーシェ病における治療剤として,ガラクトシルセラミダーゼ(GALC)はクラッベ病における治療剤として使用できる。
【0037】
本明細書において,単に「ヒトリソソーム酵素」というときは,通常の野生型のヒトリソソーム酵素に加え,当該ヒトリソソーム酵素の種類に対応する酵素活性を有する等のヒトリソソーム酵素としての機能を有するものである限り,野生型のヒトリソソーム酵素のアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,置換,欠失,及び/又は付加(本明細書において,アミノ酸残基の「付加」は,配列の末端又は内部に残基を追加することを意味する。)されたものに相当するヒトリソソーム酵素の変異体も特に区別することなく包含する。ヒト以外の動物種のリソソーム酵素についても同様である。
【0038】
なお,ここで,ヒトリソソーム酵素がヒトリソソーム酵素としての機能を有するというときは,ヒトリソソーム酵素が,通常の野生型のヒトリソソーム酵素の比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性を保持することをいう。ここで比活性とは蛋白質の質量当たりの酵素活性のことをいう。なお,ヒトリソソーム酵素とその他の蛋白質との融合蛋白質の比活性は,融合蛋白質の中でヒトリソソーム酵素に相当する部分の質量当たりの酵素活性として求められる。ヒト以外の動物種のリソソーム酵素についても同様のことがいえる。なお,ここで融合蛋白質におけるヒトリソソーム酵素の比活性は,当該融合蛋白質の単位質量当たりのヒトリソソーム酵素の酵素活性(μM/時間/mg蛋白質)に(当該融合蛋白質の分子量/当該融合蛋白質中のヒトリソソーム酵素に相当する部分の分子量)を乗じて算出される。
【0039】
野生型のヒトリソソーム酵素のアミノ酸配列中のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基で置換する場合,置換するアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。野生型のヒトリソソーム酵素のアミノ酸配列中のアミノ酸残基を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。野生型のヒトリソソーム酵素のN末端又はC末端のアミノ酸残基を1個欠失させたアミノ酸配列からなるヒトリソソーム酵素の変異体,野生型のヒトリソソーム酵素のN末端又はC末端のアミノ酸残基を2個欠失させたアミノ酸配列からなるヒトリソソーム酵素の変異体等も,ヒトリソソーム酵素である。また,これらアミノ酸残基の置換と欠失を組み合わせた変異を野生型のヒトリソソーム酵素のアミノ酸配列に加えることもできる。ヒト以外の動物種のリソソーム酵素についても同様のことがいえる。
【0040】
野生型のヒトリソソーム酵素のアミノ酸配列にアミノ酸残基を付加する場合,アミノ酸残基はヒトリソソーム酵素のアミノ酸配列中に又は当該アミノ酸配列のN末端若しくはC末端に,1個又は複数個のアミノ酸残基が付加される。このとき付加されるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。また,これらアミノ酸残基の付加と上記の置換を組み合わせた変異を野生型のヒトリソソーム酵素のアミノ酸配列に加えることもでき,これらアミノ酸残基の付加と上記の欠失を組み合わせた変異を野生型のヒトリソソーム酵素のアミノ酸配列に加えることもできる。ヒト以外の動物種のリソソーム酵素についても同様のことがいえる。
【0041】
更に,上記のアミノ酸残基の置換及び欠失,及び付加の3種類を組み合わせた変異を野生型のヒトリソソーム酵素のアミノ酸配列に加えることもできる。例えば,野生型のヒトリソソーム酵素のアミノ酸配列に対し,1~10個のアミノ酸残基を欠失させ,1~10個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1~10個のアミノ酸残基を付加させたものもヒトリソソーム酵素であり,野生型のヒトリソソーム酵素のアミノ酸配列に対し,1~5個のアミノ酸残基を欠失させ,1~5個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1~5個のアミノ酸残基を付加させたものもヒトリソソーム酵素であり,野生型のヒトリソソーム酵素のアミノ酸配列に対し,1~3個のアミノ酸残基を欠失させ,1~3個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1~3個のアミノ酸残基を付加させたものもヒトリソソーム酵素であり,野生型のヒトリソソーム酵素のアミノ酸配列に対し,1又は2個のアミノ酸残基を欠失させ,1又は2個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1又は2個のアミノ酸残基を付加させたものもヒトリソソーム酵素であり,野生型のヒトリソソーム酵素のアミノ酸配列に対し,1個のアミノ酸残基を欠失させ,1個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1個のアミノ酸残基を付加させたものもヒトリソソーム酵素である。ヒト以外の動物種のリソソーム酵素についても同様のことがいえる。
【0042】
ヒトリソソーム酵素変異体における通常の野生型ヒトリソソーム酵素と比較したときの各変異の位置及びその形式(欠失,置換,及び付加)は,両ヒトリソソーム酵素のアミノ酸配列のアラインメントにより,容易に確認することができる。ヒト以外の動物種のリソソーム酵素についても同様のことがいえる。
【0043】
ヒトリソソーム酵素変異体のアミノ酸配列は,通常の野生型ヒトリソソーム酵素のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,85%以上の同一性を示し,90%以上の同一性を示し,又は,95%以上の同一性を示し,例えば,98%以上,又は99%以上の同一性を示すものである。ヒト以外の動物種のリソソーム酵素変異体についても同様のことがいえる。
【0044】
野生型ヒトリソソーム酵素のアミノ酸配列とヒトリソソーム酵素変異体のアミノ酸配列との同一性,周知の相同性計算アルゴリズムを用いて容易に算出することができる。例えば,そのようなアルゴリズムとして,BLAST(Altschul SF. J Mol .Biol. 215. 403-10, (1990)),Pearson及びLipmanの類似性検索法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 85. 2444 (1988)),Smith及びWatermanの局所相同性アルゴリズム(Adv. Appl. Math. 2. 482-9(1981))等がある。ヒト以外の動物種のリソソーム酵素, GALC, GBA,MSA及びヒト以外の動物種SAについても同様のことがいえる。これらアルゴリズムは,本明細書全体を通じて,他の蛋白質の野生型のアミノ酸配列と,当該他の蛋白質の変異体のアミノ酸配列の相同性計算アルゴリズムとしても適用することができる。
【0045】
本明細書において,単に「ヒトガラクトシルセラミダーゼ」,「ヒトガラクトセレブロシダーゼ」,又は「hGALC」というときは,配列番号1で示される643個のアミノ酸残基からなる通常の野生型のhGALCに加え,ガラクトセレブロシド及び/又はガラクトシルスフィンゴシン等のスフィンゴ脂質を分解することのできる酵素活性を有する等のhGALCとしての機能を有するものである限り,配列番号1で示されるアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,置換,欠失,及び/又は付加(本明細書において,アミノ酸残基の「付加」は,配列の末端又は内部に残基を追加することを意味する。)されたものに相当するhGALCの変異体も特に区別することなく包含する。野生型のhGALCは,例えば,配列番号2で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。
【0046】
本明細書において,単に「マウスガラクトシルセラミダーゼ」,「マウスガラクトセレブロシダーゼ」,又は「mGALC」というときは,配列番号14で示されるアミノ酸配列を有する通常の野生型のmGALCに加え,ガラクトセレブロシド及び/又はガラクトシルスフィンゴシン等のスフィンゴ脂質を分解することのできる酵素活性を有する等のmGALCとしての機能を有するものである限り,配列番号14で示されるアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,置換,欠失,及び/又は付加(本明細書において,アミノ酸残基の「付加」は,配列の末端又は内部に残基を追加することを意味する。)されたものに相当するmGALCの変異体も特に区別することなく包含する。野生型のmGALCは,例えば,配列番号15で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。
【0047】
なお,ここで,hGALCがhGALCとしての機能を有するというときは,hGALCが,通常の野生型のhGALCの比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性を保持することをいう。ここで比活性とは蛋白質の質量当たりの酵素活性のことをいう。なお,hGALCとその他の蛋白質との融合蛋白質の比活性は,融合蛋白質の中でhGALCに相当する部分の質量当たりの酵素活性として求められる。mGALCについても同様のことがいえる。なお,ここで融合蛋白質におけるhGALCの比活性は,当該融合蛋白質の単位質量当たりのhGALCの酵素活性(μM/時間/mg蛋白質)に(当該融合蛋白質の分子量/当該融合蛋白質中のhGALCに相当する部分の分子量)を乗じて算出される。
【0048】
野生型のhGALCのアミノ酸配列中のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基で置換する場合,置換するアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。野生型のhGALCのアミノ酸配列中のアミノ酸残基を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。野生型のhGALCのN末端又はC末端のアミノ酸残基を1個欠失させた642個のアミノ酸残基からなるhGALCの変異体,野生型のhGALCのN末端又はC末端のアミノ酸残基を2個欠失させた641個のアミノ酸残基からなるhGALCの変異体等も,hGALCである。また,これらアミノ酸残基の置換と欠失を組み合わせた変異を野生型のhGALCのアミノ酸配列に加えることもできる。ヒト以外の動物種のGALCについても同様のことがいえる。
【0049】
野生型のhGALCのアミノ酸配列にアミノ酸残基を付加する場合,アミノ酸残基はhGALCのアミノ酸配列中に又は当該アミノ酸配列のN末端若しくはC末端に,1個又は複数個のアミノ酸残基が付加される。このとき付加されるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。また,これらアミノ酸残基の付加と上記の置換を組み合わせた変異を野生型のhGALCのアミノ酸配列に加えることもでき,これらアミノ酸残基の付加と上記の欠失を組み合わせた変異を野生型のhGALCのアミノ酸配列に加えることもできる。ヒト以外の動物種のGALCについても同様のことがいえる。
【0050】
更に,上記のアミノ酸残基の置換及び欠失,及び付加の3種類を組み合わせた変異を野生型のhGALCのアミノ酸配列に加えることもできる。例えば,配列番号1で示される野生型のhGALCのアミノ酸配列に対し,1~10個のアミノ酸残基を欠失させ,1~10個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1~10個のアミノ酸残基を付加させたものもhGALCであり,配列番号1で示される野生型のhGALCのアミノ酸配列に対し,1~5個のアミノ酸残基を欠失させ,1~5個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1~5個のアミノ酸残基を付加させたものもhGALCであり,配列番号1で示される野生型のhGALCのアミノ酸配列に対し,1~3個のアミノ酸残基を欠失させ,1~3個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1~3個のアミノ酸残基を付加させたものもhGALCであり,配列番号1で示される野生型のhGALCのアミノ酸配列に対し,1又は2個のアミノ酸残基を欠失させ,1又は2個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1又は2個のアミノ酸残基を付加させたものもhGALCであり,配列番号1で示される野生型のhGALCのアミノ酸配列に対し,1個のアミノ酸残基を欠失させ,1個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1個のアミノ酸残基を付加させたものもhGALCである。ヒト以外の動物種のGALCについても同様のことがいえる。
【0051】
hGALC変異体における通常の野生型hGALCと比較したときの各変異の位置及びその形式(欠失,置換,及び付加)は,両hGALCのアミノ酸配列のアラインメントにより,容易に確認することができる。ヒト以外の動物種のGALCについても同様のことがいえる。
【0052】
hGALC変異体のアミノ酸配列は,配列番号1で示される通常の野生型hGALCのアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,85%以上の同一性を示し,90%以上の同一性を示し,又は,95%以上の同一性を示し,例えば,98%以上,又は99%以上の同一性を示すものである。ヒト以外の動物種のGALCについても同様のことがいえる。
【0053】
本明細書において,単に「ヒトグルコセレブロシダーゼ」,「ヒトβ-グルコシダーゼ」,又は「hGBA」というときは,配列番号37で示される497個のアミノ酸残基からなる通常の野生型のhGBAに加え,ガラクトセレブロシド及び/又はガラクトシルスフィンゴシン等の糖脂質を分解することのできる酵素活性を有する等のhGBAとしての機能を有するものである限り,配列番号37で示されるアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,置換,欠失,及び/又は付加(本明細書において,アミノ酸残基の「付加」は,配列の末端又は内部に残基を追加することを意味する。)されたものに相当するhGBAの変異体も特に区別することなく包含する。野生型のhGBAは,例えば,配列番号38で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。
【0054】
本明細書において,単に「マウスグルコセレブロシダーゼ」,「マウスβ-グルコシダーゼ」,又は「mGBA」というときは,配列番号43で示されるアミノ酸配列を有する通常の野生型のmGBAに加え,ガラクトセレブロシド及び/又はガラクトシルスフィンゴシン等の糖脂質を分解することのできる酵素活性を有する等のmGBAとしての機能を有するものである限り,配列番号43で示されるアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,置換,欠失,及び/又は付加(本明細書において,アミノ酸残基の「付加」は,配列の末端又は内部に残基を追加することを意味する。)されたものに相当するmGBAの変異体も特に区別することなく包含する。野生型のmGBAは,例えば,配列番号44で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。
【0055】
なお,ここで,hGBAがhGBAとしての機能を有するというときは,hGBAが,通常の野生型のhGBAの比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性を保持することをいう。ここで比活性とは蛋白質の質量当たりの酵素活性のことをいう。なお,hGBAとその他の蛋白質との融合蛋白質の比活性は,融合蛋白質の中でhGBAに相当する部分の質量当たりの酵素活性として求められる。なお,ここで融合蛋白質におけるhGBAの比活性は,当該融合蛋白質の単位質量当たりのhGBAの酵素活性(μM/時間/mg蛋白質)に(当該融合蛋白質の分子量/当該融合蛋白質中のhGBAに相当する部分の分子量)を乗じて算出される。ヒト以外の動物種のGBAについても同様のことがいえる。
【0056】
野生型のhGBAのアミノ酸配列中のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基で置換する場合,置換するアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。野生型のhGBAのアミノ酸配列中のアミノ酸残基を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。野生型のhGBAのN末端又はC末端のアミノ酸残基を1個欠失させた496個のアミノ酸残基からなるhGBAの変異体,野生型のhGBAのN末端又はC末端のアミノ酸残基を2個欠失させた495個のアミノ酸残基からなるhGBAの変異体等も,hGBAである。また,これらアミノ酸残基の置換と欠失を組み合わせた変異を野生型のhGBAのアミノ酸配列に加えることもできる。ヒト以外の動物種のGBAについても同様のことがいえる。
【0057】
野生型のhGBAのアミノ酸配列にアミノ酸残基を付加する場合,アミノ酸残基はhGBAのアミノ酸配列中に又は当該アミノ酸配列のN末端若しくはC末端に,1個又は複数個のアミノ酸残基が付加される。このとき付加されるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。また,これらアミノ酸残基の付加と上記の置換を組み合わせた変異を野生型のhGBAのアミノ酸配列に加えることもでき,これらアミノ酸残基の付加と上記の欠失を組み合わせた変異を野生型のhGBAのアミノ酸配列に加えることもできる。ヒト以外の動物種のGBAについても同様のことがいえる。
【0058】
更に,上記のアミノ酸残基の置換及び欠失,及び付加の3種類を組み合わせた変異を野生型のhGBAのアミノ酸配列に加えることもできる。例えば,配列番号37で示される野生型のhGBAのアミノ酸配列に対し,1~10個のアミノ酸残基を欠失させ,1~10個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1~10個のアミノ酸残基を付加させたものもhGBAであり,配列番号37で示される野生型のhGBAのアミノ酸配列に対し,1~5個のアミノ酸残基を欠失させ,1~5個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1~5個のアミノ酸残基を付加させたものもhGBAであり,配列番号37で示される野生型のhGBAのアミノ酸配列に対し,1~3個のアミノ酸残基を欠失させ,1~3個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1~3個のアミノ酸残基を付加させたものもhGBAであり,配列番号37で示される野生型のhGBAのアミノ酸配列に対し,1又は2個のアミノ酸残基を欠失させ,1又は2個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1又は2個のアミノ酸残基を付加させたものもhGBAであり,配列番号37で示される野生型のhGBAのアミノ酸配列に対し,1個のアミノ酸残基を欠失させ,1個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1個のアミノ酸残基を付加させたものもhGBAである。ヒト以外の動物種のGBAについても同様のことがいえる。
【0059】
hGBA変異体における通常の野生型hGBAと比較したときの各変異の位置及びその形式(欠失,置換,及び付加)は,両hGBAのアミノ酸配列のアラインメントにより,容易に確認することができる。ヒト以外の動物種のGBAについても同様のことがいえる。
【0060】
hGBA変異体のアミノ酸配列は,配列番号37で示される通常の野生型hGBAのアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,85%以上の同一性を示し,90%以上の同一性を示し,又は,95%以上の同一性を示し,例えば,98%以上,又は99%以上の同一性を示すものである。ヒト以外の動物種のGBAについても同様のことがいえる。
【0061】
本発明において,血清アルブミン(SA)の生物種に特に限定はないが,好ましくはヒト血清アルブミン(HSA)である。
【0062】
本発明において,「ヒト血清アルブミン」又は「HSA」というときは,配列番号3で示されるアミノ酸配列を有する585個のアミノ酸からなる野生型のヒト血清アルブミンに加え,配列番号3で示されるアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,置換,欠失,及び/又は付加(本明細書において,アミノ酸残基の「付加」は,配列の末端又は内部に残基を追加することを意味する。)されたものに相当するHSAの変異体も特に区別することなく包含する。野生型のHSAは,例えば,配列番号4で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。
【0063】
ヒト血清アルブミンは,これを野生型ヒトリソソーム酵素と結合させた融合蛋白質としてCHO等の宿主細胞を用いて組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,少なくとも1種類の野生型ヒトリソソーム酵素について,当該野生型ヒトリソソーム酵素を同様の手法により組換え蛋白質として発現させたときと比較して,ヒトリソソーム酵素としての発現量を増加させることができるものである。特に,ヒト血清アルブミンは,これを野生型hGALC又は野生型hGBAと結合させた融合蛋白質としてCHO等の宿主細胞を用いて組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,これら野生型酵素を同様の手法により組換え蛋白質として発現させたときと比較して,酵素としての発現量を増加させることができるものである。なお,ここでヒト血清アルブミンは,血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等のヒト血清アルブミンとしての機能を有するものであることが好ましいが,これに限定されない。
【0064】
本発明において,「マウス血清アルブミン」又は「MSA」というときは,配列番号16で示されるアミノ酸配列を有する野生型のマウス血清アルブミンに加え,配列番号16で示されるアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,置換,欠失,及び/又は付加(本明細書において,アミノ酸残基の「付加」は,配列の末端又は内部に残基を追加することを意味する。)されたものに相当するMSAの変異体も特に区別することなく包含する。野生型のMSAは,例えば,配列番号17で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。また,MSAは,血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等のMSAとしての機能を有するものであることが好ましいが,これに限定されない。
【0065】
本発明において,「血清アルブミン」又は「SA」というときは,ヒト以外の他の哺乳動物の血清アルブミンを含む包括的な概念であり,マウス血清アルブミン(MSA)及びウシ血清アルブミン(BSA)もこれに含まれる。血清アルブミンは,これを野生型ヒトリソソーム酵素と結合させた融合蛋白質としてCHO等の宿主細胞を用いて組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,少なくとも1種類の野生型ヒトリソソーム酵素について,当該野生型ヒトリソソーム酵素を同様の手法により組換え蛋白質として発現させたときと比較して,ヒトリソソーム酵素としての発現量を増加させることができるものである。特に,血清アルブミンは,これを野生型hGALC又は野生型hGBAと結合させた融合蛋白質としてCHO等の宿主細胞を用いて組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,これら野生型酵素を同様の手法により組換え蛋白質として発現させたときと比較して,酵素としての発現量を増加させることができるものである。
【0066】
ヒト血清アルブミン(HSA)には,野生型のバリアントが複数あることが知られている。ヒト血清アルブミンRedhillはその一つである。ヒト血清アルブミンRedhillは,585個のアミノ酸からなる上記の通常のヒト血清アルブミンのアミノ酸配列と比べて,そのN末端から320番目のアミノ酸残基がアラニンでなくトレオニンであり,且つそのN末端にアルギニン残基が一つ付加している点で異なり,配列番号12で示される586個のアミノ酸からなる。上記アラニンのトレオニンへの変化により,ヒト血清アルブミンRedhillではそのアミノ酸配列中にAsn-Tyr-Thrで表される配列が生じ,この配列中のAsn(アスパラギン)残基がN-結合型グリコシド化される。このヒト血清アルブミンRedhillも野生型のHSAである。
【0067】
配列番号3で示される野生型のHSAのアミノ酸配列のN末端から320番目のアミノ酸残基であるアラニンをトレオニンで置換させた,配列番号13で示される585個のアミノ酸からなるヒト血清アルブミン(HSA-A320T)は,HSA変異体の好適な一例である。また,配列番号13で示されるHSA変異体のN末端からアミノ酸残基である318番目のアスパラギンを保存しつつ,319番目のアミノ酸残基であるチロシンをプロリン以外のアミノ酸に置換させたものも,HSA変異体の好適な一例である。以下,本発明の一実施形態において許容される野生型のHSAアミノ酸配列に加えられる変異について詳述するが,当該変異は,ヒト血清アルブミンRedhill,配列番号13で示されるHSA変異体,又はヒト以外の動物種の血清アルブミンへも適用し得る。
【0068】
野生型のHSA又はHSA-A320Tのアミノ酸配列中のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基で置換する場合,置換するアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。野生型又はHSA-A320TのHSAのアミノ酸配列中のアミノ酸残基を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。野生型又はHSA-A320TのHSAのN末端又はC末端のアミノ酸残基を1個欠失させたHSAの変異体,野生型又はHSA-A320TのHSAのN末端又はC末端のアミノ酸残基を2個欠失させたHSAの変異体も,HSAである。また,これらアミノ酸残基の置換と欠失を組み合わせた変異を野生型又はHSA-A320TのHSAのアミノ酸配列に加えることもできる。ヒト以外の動物種のSAについても同様のことがいえる。
【0069】
野生型のHSA又はHSA-A320Tのアミノ酸配列にアミノ酸残基を付加する場合,アミノ酸残基はHSAのアミノ酸配列中に又は当該アミノ酸配列のN末端若しくはC末端に,1個又は複数個のアミノ酸残基が付加される。このとき付加されるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。野生型又はHSA-A320TのHSAのN末端又はC末端にアミノ酸残基を1個付加させたHSAの変異体,野生型又はHSA-A320TのHSAのN末端又はC末端にアミノ酸残基を2個付加させたHSAの変異体等も,HSAである。また,これらアミノ酸残基の付加と上記の置換を組み合わせた変異を野生型又はHSA-A320TのHSAのアミノ酸配列に加えることもでき,これらアミノ酸残基の付加と上記の欠失を組み合わせた変異を野生型又はHSA-A320TのHSAのアミノ酸配列に加えることもできる。ヒト以外の動物種のSAについても同様のことがいえる。
【0070】
更に,上記のアミノ酸残基の置換及び欠失,及び付加の3種類を組み合わせた変異を野生型又はHSA-A320TのHSAのアミノ酸配列に加えることもできる。例えば,配列番号3で示される野生型のHSAのアミノ酸配列に対し,1~10個のアミノ酸残基を欠失させ,1~10個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1~10個のアミノ酸残基を付加させたものもHSAであり,配列番号3で示される野生型のHSAのアミノ酸配列に対し,1~5個のアミノ酸残基を欠失させ,1~5個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1~5個のアミノ酸残基を付加させたものもHSAであり,配列番号3で示される野生型のHSAのアミノ酸配列に対し,1~3個のアミノ酸残基を欠失させ,1~3個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1~3個のアミノ酸残基を付加させたものもHSAであり,配列番号3で示される野生型のHSAのアミノ酸配列に対し,1又は2個のアミノ酸残基を欠失させ,1又は2個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1又は2個のアミノ酸残基を付加させたものもHSAであり,配列番号3で示される野生型のHSAのアミノ酸配列に対し,1個のアミノ酸残基を欠失させ,1個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1個のアミノ酸残基を付加させたものもHSAである。ヒト以外の動物種のSAについても同様のことがいえる。
【0071】
HSA変異体における通常の野生型HSAと比較したときの各変異の位置及びその形式(欠失,置換,及び付加)は,両HSAのアミノ酸配列のアラインメントにより,容易に確認することができる。ヒト以外の動物種のSAについても同様のことがいえる。
【0072】
HSA変異体のアミノ酸配列は,配列番号3で示される通常の野生型HSAのアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,85%以上の同一性を示し,90%以上の同一性を示し,又は,95%以上の同一性を示し,例えば,98%以上,又は99%以上の同一性を示すものである。ヒト以外の動物種のSAについても同様のことがいえる。
【0073】
なお,本発明の一実施形態におけるHSAは,これを野生型ヒトリソソーム酵素と結合させた融合蛋白質としてCHO等の宿主細胞を用いて組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,野生型ヒトリソソーム酵素を同様の手法により組換え蛋白質として発現させたときと比較して,少なくとも1種類の野生型ヒトリソソーム酵素について,培養上清中のヒトリソソーム酵素としての発現量が,濃度あるいは酵素活性換算で,少なくとも1.1倍以上,1.2倍以上,1.5倍以上,2倍以上,2.5倍以上,又は3.5倍以上,例えば,1.1~4倍,1.5~3.6倍,2~3.6倍等となるようにすることができるものである。
【0074】
また,本発明の一実施形態におけるHSAは,これを野生型hGALCと結合させた融合蛋白質としてCHO等の宿主細胞を用いて組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,野生型hGALCを同様の手法により組換え蛋白質として発現させたときと比較して,培養上清中のhGALCとしての発現量が,濃度あるいは酵素活性換算で,少なくとも1.1倍以上,1.2倍以上,1.5倍以上,2倍以上,2.5倍以上,又は3.5倍以上,例えば,1.1~4倍,1.5~3.6倍,2~3.6倍等となるようにすることができるものである。
【0075】
また,本発明の一実施形態におけるHSAは,これを野生型hGBAと結合させた融合蛋白質としてCHO等の宿主細胞を用いて組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,野生型hGBAを同様の手法により組換え蛋白質として発現させたときと比較して,培養上清中のhGBAとしての発現量が,濃度あるいは酵素活性換算で,少なくとも1.1倍以上,1.2倍以上,1.5倍以上,2倍以上,2.5倍以上,又は3.5倍以上,例えば,1.1~4倍,1.5~3.6倍,2~3.6倍,10~20倍等となるようにすることができるものである。
【0076】
本発明において「保存的アミノ酸置換」というときは,アミノ酸のそれらの側鎖及び化学的性質で関連性のあるアミノ酸ファミリー内でアミノ酸を置換することをいう。このようなアミノ酸ファミリー内での置換は,元の蛋白質の機能に大きな変化をもたらさないことが予測される。かかるアミノ酸ファミリーとしては,例えば以下の(1)~(12)で示されるものがある:
(1)酸性アミノ酸であるアスパラギン酸とグルタミン酸,
(2)塩基性アミノ酸であるヒスチジン,リシン,及びアルギニン,
(3)芳香族アミン酸であるフェニルアラニン,チロシン,及びトリプトファン,
(4)水酸基を有するアミノ酸(ヒドロキシアミノ酸)であるセリンとトレオニン,
(5)疎水性アミノ酸であるメチオニン,アラニン,バリン,ロイシン,及びイソロイシン,
(6)中性の親水性アミノ酸であるシステイン,セリン,トレオニン,アスパラギン,及びグルタミン,
(7)ペプチド鎖の配向に影響するアミノ酸であるグリシンとプロリン,
(8)アミド型アミノ酸(極性アミノ酸)であるアスパラギンとグルタミン,
(9)脂肪族アミノ酸である,アラニン,ロイシン,イソロイシン,及びバリン,
(10)側鎖の小さいアミノ酸であるアラニン,グリシン,セリン,及びトレオニン,
(11)側鎖の特に小さいアミノ酸であるアラニンとグリシン,
(12)分岐鎖を有するアミノ酸であるバリン,ロイシン,及びイソロイシン,
(13)側鎖が水酸化反応され得るアミノ酸であるプロリンとセリン。
ヒト以外の動物種のリソソーム酵素,GALC,GBA,SAについても同様のことがいえる。
【0077】
野生型ヒトリソソーム酵素及びHSAのアミノ酸配列中のアミノ酸の他のアミノ酸への置換は,好ましくは保存的アミノ酸置換である。ヒト以外の動物種のリソソーム酵素及びSAについても同様である。また,特に,上記の保存的アミノ酸置換は,hGALC及びhGBAの野生型に適用される。
【0078】
上記の野生型又は変異型のヒトリソソーム酵素,例えばhGALC又はhGBAであって,これを構成するアミノ酸が糖鎖により修飾されたものもヒトリソソーム酵素である。また,上記の野生型又は変異型のヒトリソソーム酵素であって,これを構成するアミノ酸がリン酸により修飾されたものもヒトリソソーム酵素である。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものもヒトリソソーム酵素である。また,上記の野生型又は変異型のヒトリソソーム酵素であって,これを構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものもヒトリソソーム酵素である。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。また,ヒト以外の動物種のリソソーム酵素,GALC,及びGBAについても同様のことがいえる。
【0079】
つまり,糖鎖により修飾されたヒトリソソーム酵素,例えばhGALC又はhGBAは,元のアミノ酸配列を有するヒトリソソーム酵素に含まれるものとする。また,リン酸により修飾されたヒトリソソーム酵素は,元のアミノ酸配列を有するヒトリソソーム酵素に含まれるものとする。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものも,元のアミノ酸配列を有するヒトリソソーム酵素に含まれるものとする。また,ヒトリソソーム酵素を構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものも,元のアミノ酸配列を有するヒトリソソーム酵素に含まれるものとする。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒト以外の動物種のリソソーム酵素,GALC,及びGBAについても同様のことがいえる。
【0080】
上記の野生型又は変異型のHSAであって,これを構成するアミノ酸が糖鎖により修飾されたものもHSAである。また,上記の野生型又は変異型のHSAであって,これを構成するアミノ酸がリン酸により修飾されたものもHSAである。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものもHSAである。また,上記の野生型又は変異型のHSAであって,これを構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものもHSAである。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒト以外の動物種のSAについても同様のことがいえる。
【0081】
つまり,糖鎖により修飾されたHSAは,元のアミノ酸配列を有するHSAに含まれるものとする。また,リン酸により修飾されたHSAは,元のアミノ酸配列を有するHSAに含まれるものとする。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものも,元のアミノ酸配列を有するHSAに含まれるものとする。また,HSAを構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものも,元のアミノ酸配列を有するHSAに含まれるものとする。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒト以外の動物種のSAについても同様のことがいえる。
【0082】
本発明は,その一実施形態において,野生型又は変異型のヒトリソソーム酵素のアミノ酸配列を含むポリペプチドと,野生型又は変異型のSAのアミノ酸配列を含むポリペプチドとを結合させた,融合蛋白質に関する。ここで,「ポリペプチドを結合させる」というときは,直接又はリンカーを介して間接的に,共有結合により異なるポリペプチドを結合させることをいう。ここで,SAは好ましくはHSAである。また,ヒトリソソーム酵素は,例えばhGALC,又はhGBAである。
【0083】
2つの異なるポリペプチドを結合させる方法としては,例えば,一方のポリペプチドをコードする遺伝子の下流に,インフレームで他方のポリペプチドをコードする遺伝子を結合させたDNA断片を組み込んだ発現ベクターを作製し,この発現ベクターを用いて形質転換させた宿主細胞を培養することにより,組換え蛋白質として発現させる方法が一般的である。得られた組換え蛋白質は,2つのポリペプチドが,直接又は別のアミノ酸配列を介してペプチド結合した,一本鎖ポリペプチドである。
【0084】
本発明の一実施形態において,「SA-ヒトリソソーム酵素融合蛋白質」又は「SA-ヒトリソソーム酵素」の語は,SAのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,ヒトリソソーム酵素のアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,ヒトリソソーム酵素としての機能を有するものを示す。ここで,SAの動物種に特に限定はないが,好ましくは霊長類,マウス,ウシ等の哺乳動物のSAであり,より好ましくは霊長類のSAであり,更に好ましくはHSAである。SA-ヒトリソソーム酵素融合蛋白質において,ヒトリソソーム酵素がヒトリソソーム酵素としての機能を有するというときは,ヒトリソソーム酵素が,通常の野生型のヒトリソソーム酵素の比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性を保持することをいう。なお,ここでSA-ヒトリソソーム酵素融合蛋白質におけるヒトリソソーム酵素の比活性は,当該融合蛋白質の単位質量当たりのヒトリソソーム酵素の酵素活性(μM/時間/mg蛋白質)に(当該融合蛋白質の分子量/当該融合蛋白質中のヒトリソソーム酵素に相当する部分の分子量)を乗じて算出される。
【0085】
本発明の一実施形態において,「HSA-ヒトリソソーム酵素融合蛋白質」又は「HSA-ヒトリソソーム酵素」の語は,HSAのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,ヒトリソソーム酵素のアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,ヒトリソソーム酵素としての機能を有するものを示す。ここでHSA-ヒトリソソーム酵素融合蛋白質がヒトリソソーム酵素としての機能を有するというときは,上記のSA-ヒトリソソーム酵素融合蛋白質における定義を適用することができる。
【0086】
SA-ヒトリソソーム酵素融合蛋白質において,SAは血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等のSAとしての機能を有するものであることが好ましいが,これに限定されない。HSA-ヒトリソソーム酵素融合蛋白質においても同様である。
【0087】
本発明の一実施形態において,ヒト以外の動物種のSAのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,ヒト以外の動物種のリソソーム酵素のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,ヒトリソソーム酵素としての機能を有するものは,「(ヒト以外の動物種)SA-(ヒト以外の動物種)リソソーム酵素融合蛋白質」と表記される。例えば,マウスSAとマウスリソソーム酵素の融合蛋白質は,「MSA-マウスリソソーム酵素融合蛋白質」又は「MSA-マウスリソソーム酵素」と表記される。これら融合蛋白質についても,リソソーム酵素としての機能を有するというときは,上記のSA-ヒトリソソーム酵素融合蛋白質における定義を適用することができる。
【0088】
野生型HSAと野生型ヒトリソソーム酵素との融合蛋白質であるHSA-ヒトリソソーム酵素融合蛋白質に変異を加える場合,HSA部分にのみ変異を加えヒトリソソーム酵素部分には変異を加えないことも,HSA部分には変異を加えずにヒトリソソーム酵素部分にのみ変異を加えることも,また,HSA部分とヒトリソソーム酵素部分の何れにも変異を加えることもできる。HSA部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となる。ヒトリソソーム酵素部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型ヒトリソソーム酵素に変異が加えられたヒトリソソーム酵素のアミノ酸配列となる。HSA部分とヒトリソソーム酵素部分の何れにも変異を加える場合にあっては,HSA部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となり,ヒトリソソーム酵素部分のアミノ酸配列は上述した野生型ヒトリソソーム酵素に変異が加えられたヒトリソソーム酵素のアミノ酸配列となる。ヒト以外の動物種の野生型SA(野生型MSAを含む)と野生型ヒトリソソーム酵素との融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0089】
HSA-ヒトリソソーム酵素融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸が糖鎖により修飾されたものもHSA-ヒトリソソーム酵素融合蛋白質である。また,HSA-ヒトリソソーム酵素融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸がリン酸により修飾されたものもHSA-ヒトリソソーム酵素融合蛋白質である。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものもHSA-ヒトリソソーム酵素融合蛋白質である。また,HSA-ヒトリソソーム酵素融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものもHSA-ヒトリソソーム酵素融合蛋白質である。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒト以外の動物種のSAとヒトリソソーム酵素との融合蛋白質(SA-ヒトリソソーム酵素),及びヒト以外の動物種のSAとヒト以外の動物種のリソソーム酵素との融合蛋白質,例えばMSA-マウスリソソーム酵素融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0090】
つまり,糖鎖により修飾されたHSA-ヒトリソソーム酵素融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するHSA-ヒトリソソーム酵素融合蛋白質に含まれるものとする。また,リン酸により修飾されたHSA-ヒトリソソーム酵素融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するHSA-ヒトリソソーム酵素融合蛋白質に含まれるものとする。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものも,元のアミノ酸配列を有するHSA-ヒトリソソーム酵素融合蛋白質に含まれるものとする。また,HSA-ヒトリソソーム酵素融合蛋白質を構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものも,元のアミノ酸配列を有するHSA-ヒトリソソーム酵素融合蛋白質に含まれるものとする。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒト以外の動物種のSAとヒトリソソーム酵素との融合蛋白質(SA-ヒトリソソーム酵素),及びヒト以外の動物種のSAとヒト以外の動物種のリソソーム酵素との融合蛋白質,例えばMSA-マウスリソソーム酵素融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0091】
また,HSA-ヒトリソソーム酵素融合蛋白質であって,これを構成するヒトリソソーム酵素が,ヒトリソソーム酵素の前駆体であるものもHSA-ヒトリソソーム酵素融合蛋白質である。ここで前駆体というときは,HSA-ヒトリソソーム酵素融合蛋白質として生合成されたものであって,当該生合成後に,ヒトリソソーム酵素として機能する部分が,製造過程において又は生体に投与したときに当該生体内において,当該融合蛋白質から切り離されて,単独でもヒトリソソーム酵素としての機能を発揮することができるタイプのものをいう。この場合,HSA-ヒトリソソーム酵素融合蛋白質は生合成された後に,加水分解酵素等により,特定の箇所で切断され,HSAを含む部分と成熟型のヒトリソソーム酵素を含む部分が分離することがある。この場合,得られるヒトリソソーム酵素はHSAとの融合蛋白質ではないが,当該ヒトリソソーム酵素が製造される過程で,一旦,HSA-ヒトリソソーム酵素融合蛋白質が合成されることになる。従って,かかる方法によりヒトリソソーム酵素を製造する場合,当該製造方法は,HSA-ヒトリソソーム酵素融合蛋白質の製造方法に含まれる。ヒト以外の動物種のSAとヒトリソソーム酵素との融合蛋白質(SA-ヒトリソソーム酵素),及びヒト以外の動物種のSAとヒト以外の動物種のリソソーム酵素との融合蛋白質,例えばMSA-マウスリソソーム酵素融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0092】
本発明の一実施形態において,「SA-hGALC融合蛋白質」又は「SA-hGALC」の語は,SAのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,hGALCのアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,hGALCとしての機能を有するものを示す。ここで,SAの動物種に特に限定はないが,好ましくは哺乳動物のSAであり,より好ましくは霊長類のSAであり,更に好ましくはHSAである。SA-hGALC融合蛋白質において,hGALCがhGALCとしての機能を有するというときは,hGALCが,通常の野生型のhGALCの比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性を保持することをいう。なお,ここでSA-hGALC融合蛋白質におけるhGALCの比活性は,当該融合蛋白質の単位質量当たりのhGALCの酵素活性(μM/時間/mg蛋白質)に(当該融合蛋白質の分子量/当該融合蛋白質中のhGALCに相当する部分の分子量)を乗じて算出される。
【0093】
本発明の一実施形態において,「HSA-hGALC融合蛋白質」又は「HSA-hGALC」の語は,HSAのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,hGALCのアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,hGALCとしての機能を有するものを示す。ここでHSA-hGALC融合蛋白質がhGALCとしての機能を有するというときは,上記のSA-hGALC融合蛋白質における定義を適用することができる。
【0094】
本発明の一実施形態において,ヒト以外の動物種のSAのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,ヒト以外の動物種のGALCのN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,GALCとしての機能を有するものは,「(ヒト以外の動物種)SA-(ヒト以外の動物種)GALC融合蛋白質」と表記される。例えば,マウスSAとマウスGALCの融合蛋白質は,「MSA-マウスGALC融合蛋白質」又は「MSA-マウスGALC」と表記される。これら融合蛋白質についても,GALCとしての機能を有するというときは,上記のSA-hGALC融合蛋白質における定義を適用することができる。また,これら融合蛋白質において,SAは血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等のSAとしての機能を有するものであることが好ましいが,これに限定されない。
【0095】
本発明の一実施形態において好ましいHSA-hGALC融合蛋白質は,例えば配列番号5で示されるアミノ酸配列を有するものである。配列番号5で示されるHSA-hGALC融合蛋白質は,野生型HSAのC末端にリンカー配列Gly-Serを介して野生型hGALCが結合したものである。配列番号5で示されるHSA-hGALC融合蛋白質は,例えば,配列番号6で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。また,配列番号5で示されるアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,他のアミノ酸残基へ置換され,欠失し,或いは付加等の変異が加えられたアミノ酸配列を有するものも,hGALCとしての機能を有するものである限りHSA-hGALC融合蛋白質に含まれる。HSA-hGALC融合蛋白質は,血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等のヒト血清アルブミンとしての機能を有するものであることが好ましいが,これに限定されない。
【0096】
本発明の一実施形態において,「MSA-mGALC融合蛋白質」又は「MSA-mGALC」の語は,MSAのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,mGALCのアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,mGALCとしての機能を有するものを示す。好ましいMSA-mGALC融合蛋白質は,例えば配列番号18で示されるアミノ酸配列を有するものである。配列番号18で示されるMSA-mGALC融合蛋白質は,野生型MSAのC末端にリンカー配列Gly-Serを介して野生型mGALCが結合したものである。配列番号18で示されるMSA-mGALC融合蛋白質は,例えば,配列番号19で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。また,配列番号18で示されるアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,他のアミノ酸残基へ置換され,欠失し,或いは付加等の変異が加えられたアミノ酸配列を有するものも,mGALCとしての機能を有するものである限りMSA-mGALC融合蛋白質に含まれる。MSA-mGALC融合蛋白質は,血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等のマウス血清アルブミンとしての機能を有するものであることが好ましいが,これに限定されない。
【0097】
野生型HSAと野生型hGALCとの融合蛋白質であるHSA-hGALC融合蛋白質に変異を加える場合,HSA部分にのみ変異を加えhGALC部分には変異を加えないことも,HSA部分には変異を加えずにhGALC部分にのみ変異を加えることも,また,HSA部分とhGALC部分の何れにも変異を加えることもできる。HSA部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となる。hGALC部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型hGALCに変異が加えられたhGALCのアミノ酸配列となる。HSA部分とhGALC部分の何れにも変異を加える場合にあっては,HSA部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となり,hGALC部分のアミノ酸配列は上述した野生型hGALCに変異が加えられたhGALCのアミノ酸配列となる。配列番号5で示されるアミノ酸配列を有するHSA-hGALC融合蛋白質についても同様である。また,配列番号18で示されるアミノ酸配列を有するものを含む,MSA-mGALC融合蛋白質についても同様のことがいえる。配列番号18で示されるアミノ酸配列を有するMSA-mGALC融合蛋白質は,例えば配列番号19で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。ヒト以外の動物種の野生型SA(野生型MSAを含む)と野生型hGALCとの融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0098】
配列番号5で示されるアミノ酸配列を有するHSA-hGALC融合蛋白質に変異を加える場合について,以下例示する。配列番号5で示されるアミノ酸配列中のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基で置換する場合,置換するアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。アミノ酸残基を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。アミノ酸残基を付加する場合,アミノ酸残基は配列番号5で示されるアミノ酸配列中に又は当該アミノ酸配列のN末端若しくはC末端に,1個又は複数個のアミノ酸残基が付加される。HSA-hGALC融合蛋白質は,これらアミノ酸残基の置換,欠失,及び付加を組み合わせたものであってもよい。変異は,HSA部分にのみ加えても,hGALC部分にのみ加えても,又は両方の部分に加えてもよい。ヒト以外の動物種のSAとhGALCとの融合蛋白質(SA-hGALC),及びヒト以外の動物種のSAとヒト以外の動物種のGALCとの融合蛋白質,例えばMSA-マウスGALCとの融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0099】
配列番号5で示されるアミノ酸配列に変異を加えたときの各変異の位置及びその形式(欠失,置換,及び付加)は,変異前後のアミノ酸配列のアラインメントにより,容易に確認することができる。変異を加えたアミノ酸配列は,配列番号5で示されるアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,85%以上の同一性を示し,90%以上の同一性を示し,又は,95%以上の同一性を示し,例えば,98%以上,又は99%以上の同一性を示すものである。
【0100】
HSA-hGALC融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸が糖鎖により修飾されたものもHSA-hGALC融合蛋白質である。また,HSA-hGALC融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸がリン酸により修飾されたものもHSA-hGALC融合蛋白質である。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものもHSA-hGALC融合蛋白質である。また,HSA-hGALC融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものもHSA-hGALC融合蛋白質である。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒト以外の動物種のSAとhGALCとの融合蛋白質(SA-hGALC),及びヒト以外の動物種のSAとヒト以外の動物種のGALCとの融合蛋白質,例えばMSA-マウスリソソーム酵素との融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0101】
つまり,糖鎖により修飾されたHSA-hGALC融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するHSA-hGALC融合蛋白質に含まれるものとする。また,リン酸により修飾されたHSA-hGALC融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するHSA-hGALC融合蛋白質に含まれるものとする。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものも,元のアミノ酸配列を有するHSA-hGALC融合蛋白質に含まれるものとする。また,HSA-hGALC融合蛋白質を構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものも,元のアミノ酸配列を有するHSA-hGALC融合蛋白質に含まれるものとする。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒト以外の動物種のSAとhGALCとの融合蛋白質(SA-hGALC),及びヒト以外の動物種のSAとヒト以外の動物種のGALCとの融合蛋白質,例えばMSA-マウスGALCとの融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0102】
また,HSA-hGALC融合蛋白質であって,これを構成するhGALCが,hGALCの前駆体であるものもHSA-hGALC融合蛋白質である。ここで前駆体というときは,HSA-hGALC融合蛋白質として生合成されたものであって,当該生合成後に,hGALCとして機能する部分が,製造過程において又は生体に投与したときに当該生体内において,当該融合蛋白質から切り離されて,単独でもhGALCとしての機能を発揮することができるタイプのものをいう。この場合,HSA-hGALC融合蛋白質は生合成された後に,加水分解酵素等により,特定の箇所で切断され,HSAを含む部分と成熟型のhGALCを含む部分が分離することがある。この場合,得られるhGALCはHSAとの融合蛋白質ではないが,当該hGALCが合成される過程で,一旦,HSA-hGALC融合蛋白質が合成されることになる。従って,かかる方法によりhGALCを製造する場合,当該製造方法は,HSA-hGALC融合蛋白質の製造方法に含まれる。ヒト以外の動物種のSAとhGALCとの融合蛋白質(SA-hGALC),及びヒト以外の動物種のSAとヒト以外の動物種のGALCとの融合蛋白質,例えばMSA-マウスGALC融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0103】
本発明の一実施形態において,「SA-hGBA融合蛋白質」又は「SA-hGBA」の語は,SAのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,hGBAのアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,hGBAとしての機能を有するものを示す。ここで,SAの動物種に特に限定はないが,好ましくは哺乳動物のSAであり,より好ましくは霊長類のSAであり,更に好ましくはHSAである。SA-hGBA融合蛋白質において,hGBAがhGBAとしての機能を有するというときは,hGBAが,通常の野生型のhGBAの比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性を保持することをいう。なお,ここでSA-hGBA融合蛋白質におけるhGBAの比活性は,当該融合蛋白質の単位質量当たりのhGBAの酵素活性(μM/時間/mg蛋白質)に(当該融合蛋白質の分子量/当該融合蛋白質中のhGBAに相当する部分の分子量)を乗じて算出される。
【0104】
本発明の一実施形態において,「HSA-hGBA融合蛋白質」又は「HSA-hGBA」の語は,HSAのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,hGBAのアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,hGBAとしての機能を有するものを示す。ここでHSA-hGBA融合蛋白質がhGALCとしての機能を有するというときは,上記のSA-hGBA融合蛋白質における定義を適用することができる。
【0105】
本発明の一実施形態において,ヒト以外の動物種のSAのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,ヒト以外の動物種のGBAのN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,GBAとしての機能を有するものは,「(ヒト以外の動物種)SA-(ヒト以外の動物種)GBA融合蛋白質」と表記される。例えば,マウスSAとマウスGBAの融合蛋白質は,「MSA-マウスGBA融合蛋白質」又は「MSA-マウスGBA」と表記される。これら融合蛋白質についても,GBAとしての機能を有するというときは,上記のSA-hGBA融合蛋白質における定義を適用することができる。また,これら融合蛋白質において,SAは血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等のSAとしての機能を有するものであることが好ましいが,これに限定されない。
【0106】
本発明の一実施形態において好ましいHSA-hGBA融合蛋白質は,例えば配列番号39で示されるアミノ酸配列を有するものである。配列番号39で示されるHSA-hGBA融合蛋白質は,野生型HSAのC末端に配列番号9で示されるアミノ酸配列を有するリンカー配列を介して野生型hGBAが結合したものである。配列番号39で示されるHSA-hGBA融合蛋白質は,例えば,配列番号40で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。また,配列番号39で示されるアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,他のアミノ酸残基へ置換され,欠失し,或いは付加等の変異が加えられたアミノ酸配列を有するものも,hGBAとしての機能を有するものである限りHSA-hGBA融合蛋白質に含まれる。HSA-hGBA融合蛋白質は,血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等のヒト血清アルブミンとしての機能を有するものであることが好ましいが,これに限定されない。
【0107】
本発明の一実施形態において,「MSA-mGBA融合蛋白質」又は「MSA-mGBA」の語は,MSAのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,mGBAのアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,mGBAとしての機能を有するものを示す。好ましいMSA-mGBA融合蛋白質は,例えば配列番号45で示されるアミノ酸配列を有するものである。配列番号45で示されるMSA-mGBA融合蛋白質は,野生型MSAのC末端に配列番号9で示されるアミノ酸配列を有するリンカー配列を介して野生型mGBAが結合したものである。配列番号45で示されるMSA-mGBA融合蛋白質は,例えば,配列番号46で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。また,配列番号45で示されるアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,他のアミノ酸残基へ置換され,欠失し,或いは付加等の変異が加えられたアミノ酸配列を有するものも,mGBAとしての機能を有するものである限りMSA-mGBA融合蛋白質に含まれる。MSA-mGBA融合蛋白質は,血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等のマウス血清アルブミンとしての機能を有するものであることが好ましいが,これに限定されない。
【0108】
野生型HSAと野生型hGBAとの融合蛋白質であるHSA-hGBA融合蛋白質に変異を加える場合,HSA部分にのみ変異を加えhGBA部分には変異を加えないことも,HSA部分には変異を加えずにhGBA部分にのみ変異を加えることも,また,HSA部分とhGBA部分の何れにも変異を加えることもできる。HSA部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となる。hGBA部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型hGBAに変異が加えられたhGBAのアミノ酸配列となる。HSA部分とhGBA部分の何れにも変異を加える場合にあっては,HSA部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となり,hGBA部分のアミノ酸配列は上述した野生型hGBAに変異が加えられたhGBAのアミノ酸配列となる。配列番号39で示されるアミノ酸配列を有するHSA-hGBA融合蛋白質についても同様である。また,配列番号45で示されるアミノ酸配列を有するものを含む,MSA-mGBA融合蛋白質についても同様のことがいえる。配列番号45で示されるアミノ酸配列を有するMSA-mGBA融合蛋白質は,例えば配列番号46で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。ヒト以外の動物種の野生型SA(野生型MSAを含む)と野生型hGBAとの融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0109】
配列番号39で示されるアミノ酸配列を有するHSA-hGBA融合蛋白質に変異を加える場合について,以下例示する。配列番号39で示されるアミノ酸配列中のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基で置換する場合,置換するアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。アミノ酸残基を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。アミノ酸残基を付加する場合,アミノ酸残基は配列番号39で示されるアミノ酸配列中に又は当該アミノ酸配列のN末端若しくはC末端に,1個又は複数個のアミノ酸残基が付加される。HSA-hGBA融合蛋白質は,これらアミノ酸残基の置換,欠失,及び付加を組み合わせたものであってもよい。変異は,HSA部分にのみ加えても,hGBA部分にのみ加えても,又は両方の部分に加えてもよい。ヒト以外の動物種のSAとhGBAとの融合蛋白質(SA-hGBA),及びヒト以外の動物種のSAとヒト以外の動物種のGBAとの融合蛋白質,例えばMSA-マウスGBAとの融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0110】
配列番号39で示されるアミノ酸配列に変異を加えたときの各変異の位置及びその形式(欠失,置換,及び付加)は,変異前後のアミノ酸配列のアラインメントにより,容易に確認することができる。変異を加えたアミノ酸配列は,配列番号39で示されるアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,85%以上の同一性を示し,90%以上の同一性を示し,又は,95%以上の同一性を示し,例えば,98%以上,又は99%以上の同一性を示すものである。
【0111】
HSA-hGBA融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸が糖鎖により修飾されたものもHSA-hGBA融合蛋白質である。また,HSA-hGBA融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸がリン酸により修飾されたものもHSA-hGBA融合蛋白質である。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものもHSA-hGBA融合蛋白質である。また,HSA-hGBA融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものもHSA-hGBA融合蛋白質である。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒト以外の動物種のSAとhGBAとの融合蛋白質(SA-hGBA),及びヒト以外の動物種のSAとヒト以外の動物種のGBAとの融合蛋白質,例えばMSA-マウスGBAとの融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0112】
つまり,糖鎖により修飾されたHSA-hGBA融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するHSA-hGBA融合蛋白質に含まれるものとする。また,リン酸により修飾されたHSA-hGBA融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するHSA-hGBA融合蛋白質に含まれるものとする。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものも,元のアミノ酸配列を有するHSA-hGBA融合蛋白質に含まれるものとする。また,HSA-hGBA融合蛋白質を構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものも,元のアミノ酸配列を有するHSA-hGBA融合蛋白質に含まれるものとする。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒト以外の動物種のSAとhGBAとの融合蛋白質(SA-hGBA),及びヒト以外の動物種のSAとヒト以外の動物種のGBAとの融合蛋白質,例えばMSA-マウスGBAとの融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0113】
また,HSA-hGBA融合蛋白質であって,これを構成するhGBAが,hGBAの前駆体であるものもHSA-hGBA融合蛋白質である。ここで前駆体というときは,HSA- hGBA融合蛋白質として生合成されたものであって,当該生合成後に,hGBAとして機能する部分が,製造過程において又は生体に投与したときに当該生体内において,当該融合蛋白質から切り離されて,単独でもhGBAとしての機能を発揮することができるタイプのものをいう。この場合,HSA-hGBA融合蛋白質は生合成された後に,加水分解酵素等により,特定の箇所で切断され,HSAを含む部分と成熟型のhGBAを含む部分が分離することがある。この場合,得られるhGBAはHSAとの融合蛋白質ではないが,当該hGBAが合成される過程で,一旦,HSA-hGBA融合蛋白質が合成されることになる。従って,かかる方法によりhGBAを製造する場合,当該製造方法は,HSA-hGBA融合蛋白質の製造方法に含まれる。ヒト以外の動物種のSAとhGBAとの融合蛋白質(SA-hGBA),及びヒト以外の動物種のSAとヒト以外の動物種のGBAとの融合蛋白質,例えばMSA-マウスGBA融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0114】
本発明の一実施形態において,「ヒトリソソーム酵素-SA融合蛋白質」又は「ヒトリソソーム酵素-SA」の語は,ヒトリソソーム酵素のアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,SAのアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,ヒトリソソーム酵素としての機能を有するものを示す。ヒトリソソーム酵素-SA融合蛋白質において,ヒトリソソーム酵素がヒトリソソーム酵素としての機能を有するというときは,ヒトリソソーム酵素が,通常の野生型のヒトリソソーム酵素の比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性を保持することをいう。なお,ここでヒトリソソーム酵素-SA融合蛋白質におけるヒトリソソーム酵素の比活性は,当該融合蛋白質の単位質量当たりのヒトリソソーム酵素の酵素活性(μM/時間/mg蛋白質)に(当該融合蛋白質の分子量/当該融合蛋白質中のヒトリソソーム酵素に相当する部分の分子量)を乗じて算出される。
【0115】
本発明の一実施形態において,「ヒトリソソーム酵素-HSA融合蛋白質」又は「ヒトリソソーム酵素-HSA」の語は,ヒトリソソーム酵素のアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,HSAのアミノ酸配列のN末端が結合されている,アミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,ヒトリソソーム酵素としての機能を有するものを示す。ここでヒトリソソーム酵素-HSA融合蛋白質がヒトリソソーム酵素としての機能を有するというときは,上記のヒトリソソーム酵素-SAにおける定義を適用することができる。
【0116】
ヒトリソソーム酵素-SA融合蛋白質において,SAは血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等のSAとしての機能を有するものであることが好ましいが,これに限定されない。ヒトリソソーム酵素-HSA融合蛋白質においても同様である。
【0117】
本発明の一実施形態において,ヒト以外の動物種のリソソーム酵素のアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,ヒト以外の動物種のSAのN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,ヒトリソソーム酵素としての機能を有するものは,「(ヒト以外の動物種)リソソーム酵素-(ヒト以外の動物種)SA融合蛋白質」と表記される。例えば,マウスリソソーム酵素とマウスSAとの融合蛋白質は,「マウスリソソーム酵素-MSA融合蛋白質」又は「マウスリソソーム酵素-MSA」と表記される。これら融合蛋白質についても,リソソーム酵素としての機能を有するというときは,上記のヒトリソソーム酵素-SA融合蛋白質における定義を適用することができる。
【0118】
野生型ヒトリソソーム酵素と野生型HSAとの融合蛋白質であるヒトリソソーム酵素-HSA融合蛋白質に変異を加える場合,ヒトリソソーム酵素部分にのみ変異を加えHSA部分には変異を加えないことも,ヒトリソソーム酵素部分には変異を加えずにHSA部分にのみ変異を加えることも,また,ヒトリソソーム酵素部分とHSA部分の何れにも変異を加えることもできる。ヒトリソソーム酵素部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型ヒトリソソーム酵素に変異が加えられたヒトリソソーム酵素のアミノ酸配列となる。HSA部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となる。ヒトリソソーム酵素部分とHSA部分の何れにも変異を加える場合にあっては,ヒトリソソーム酵素部分のアミノ酸配列は上述した野生型ヒトリソソーム酵素に変異が加えられたヒトリソソーム酵素のアミノ酸配列となり,HSA部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となる。野生型ヒトリソソーム酵素とヒト以外の動物種の野生型SA(野生型MSAを含む)との融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0119】
ヒトリソソーム酵素-HSA融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸が糖鎖により修飾されたものもヒトリソソーム酵素-HSA融合蛋白質である。また,ヒトリソソーム酵素-HSA融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸がリン酸により修飾されたものもヒトリソソーム酵素-HSA融合蛋白質である。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものもヒトリソソーム酵素-HSA融合蛋白質である。また,ヒトリソソーム酵素-HSA融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものもヒトリソソーム酵素-HSA融合蛋白質である。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒトリソソーム酵素とヒト以外の動物種のSAとの融合蛋白質(ヒトリソソーム酵素-SA),及びヒト以外の動物種のリソソーム酵素とヒト以外の動物種のSAとの融合蛋白質,例えばマウスリソソーム酵素-MSAについても同様のことがいえる。
【0120】
つまり,糖鎖により修飾されたヒトリソソーム酵素-HSA融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するヒトリソソーム酵素-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。また,リン酸により修飾されたヒトリソソーム酵素-HSA融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するヒトリソソーム酵素-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものも,元のアミノ酸配列を有するヒトリソソーム酵素-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。また,ヒトリソソーム酵素-HSA融合蛋白質を構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものも,元のアミノ酸配列を有するヒトリソソーム酵素-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒトリソソーム酵素とヒト以外の動物種のSAとの融合蛋白質(ヒトリソソーム酵素-SA),及びヒト以外の動物種のリソソーム酵素とヒト以外の動物種のSAとの融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0121】
また,ヒトリソソーム酵素-HSA融合蛋白質であって,これを構成するヒトリソソーム酵素が,ヒトリソソーム酵素の前駆体であるものもヒトリソソーム酵素-HSA融合蛋白質である。
【0122】
本発明の一実施形態において,「hGALC-SA融合蛋白質」又は「hGALC-SA」の語は,hGALCのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,SAのアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,hGALCとしての機能を有するものを示す。hGALC-SA融合蛋白質において,hGALCがhGALCとしての機能を有するというときは,hGALCが,通常の野生型のhGALCの比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性を保持することをいう。なお,ここでhGALC-SA融合蛋白質におけるhGALCの比活性は,当該融合蛋白質の単位質量当たりのhGALCの酵素活性(μM/時間/mg蛋白質)に(当該融合蛋白質の分子量/当該融合蛋白質中のhGALCに相当する部分の分子量)を乗じて算出される。
【0123】
本発明の一実施形態において,「hGALC-HSA融合蛋白質」又は「hGALC-HSA」の語は,hGALCのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,HSAのアミノ酸配列のN末端が結合されている,アミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,hGALCとしての機能を有するものを示す。ここでhGALC-HSA融合蛋白質がhGALCとしての機能を有するというときは,上記のhGALC-SA融合蛋白質における定義を適用することができる。
【0124】
本発明の一実施形態において,ヒト以外の動物種のGALCのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,ヒト以外の動物種のSAのN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,GALCとしての機能を有するものは,「(ヒト以外の動物種)GALC-(ヒト以外の動物種)SA融合蛋白質」と表記される。例えば,マウスGALCとマウスSAの融合蛋白質は,「マウスGALC-MSA融合蛋白質」又は「マウスGALC-MSA」と表記される。これら融合蛋白質についても,GALCとしての機能を有するというときは,上記のhGALC-HSA融合蛋白質における定義を適用することができる。また,これら融合蛋白質において,SAは血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等のSAとしての機能を有するものであることが好ましいが,これに限定されない。
【0125】
本発明の一実施形態において好ましいhGALC-HSA融合蛋白質は,例えば配列番号7で示されるアミノ酸配列を有するものである。配列番号7で示されるhGALC-HSA融合蛋白質は,野生型hGALCのC末端にリンカー配列Gly-Serを介して野生型HSAが結合したものである。配列番号7で示されるhGALC-HSA融合蛋白質は,例えば,配列番号8で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。また,配列番号7で示されるアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,他のアミノ酸残基へ置換され,欠失し,或いは付加等の変異が加えられたアミノ酸配列を有するものも,hGALCとしての機能を有するものである限りhGALC-HSA融合蛋白質に含まれる。hGALC-HSA融合蛋白質は,血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等のヒト血清アルブミンとしての機能を有するものであることが好ましいが,これに限定されない。
【0126】
本発明の一実施形態において,「mGALC-MSA融合蛋白質」又は「mGALC-MSA」の語は,mGALCのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,MSAのアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,mGALCとしての機能を有するものを示す。好ましいmGALC-MSA融合蛋白質は,例えば配列番号20で示されるアミノ酸配列を有するものである。配列番号20で示されるmGALC-MSA融合蛋白質は,野生型mGALCのC末端にリンカー配列Gly-Serを介して野生型MSAが結合したものである。配列番号20で示されるmGALC-MSA融合蛋白質は,例えば,配列番号21で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。また,配列番号20で示されるアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,他のアミノ酸残基へ置換され,欠失し,或いは付加等の変異が加えられたアミノ酸配列を有するものも,mGALCとしての機能を有するものである限りmGALC-MSA融合蛋白質に含まれる。mGALC-MSA融合蛋白質は,血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等のマウス血清アルブミンとしての機能を有するものであることが好ましいが,これに限定されない。
【0127】
野生型hGALCと野生型HSAとの融合蛋白質であるhGALC-HSA融合蛋白質に変異を加える場合,hGALC部分にのみ変異を加えHSA部分には変異を加えないことも,hGALC部分には変異を加えずにHSA部分にのみ変異を加えることも,また,hGALC部分とHSA部分の何れにも変異を加えることもできる。hGALC部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型hGALCに変異が加えられたhGALCのアミノ酸配列となる。HSA部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となる。hGALC部分とHSA部分の何れにも変異を加える場合にあっては,hGALC部分のアミノ酸配列は上述した野生型hGALCに変異が加えられたhGALCのアミノ酸配列となり,HSA部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となる。配列番号7で示されるアミノ酸配列を有するhGALC-HSA融合蛋白質についても同様である。また,配列番号20で示されるアミノ酸配列を有するものを含む,mGALC-MSA融合蛋白質についても同様のことがいえる。配列番号20で示されるアミノ酸配列を有するmGALC-MSA融合蛋白質は,例えば配列番号21で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。野生型hGALCとヒト以外の動物の野生型SA(野生型MSAを含む)との融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0128】
野生型hGALCと野生型HSAとの融合蛋白質であるhGALC-HSA融合蛋白質に変異を加える場合,HSA部分にのみ変異を加えhGALC部分には変異を加えないことも,HSA部分には変異を加えずにhGALC部分にのみ変異を加えることも,また,HSA部分とhGALC部分の何れにも変異を加えることもできる。HSA部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となる。hGALC部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型hGALCに変異が加えられたhGALCのアミノ酸配列となる。HSA部分とhGALC部分の何れにも変異を加える場合にあっては,HSA部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となり,hGALC部分のアミノ酸配列は上述した野生型hGALCに変異が加えられたhGALCのアミノ酸配列となる。配列番号7で示されるアミノ酸配列を有するhGALC-HSA融合蛋白質についても同様である。また,配列番号20で示されるアミノ酸配列を有するものを含む,mGALC-MSA融合蛋白質についても同様のことがいえる。配列番号20で示されるアミノ酸配列を有するmGALC-MSA融合蛋白質は,例えば配列番号21で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。野生型hGALCとヒト以外の動物の野生型SA(hGALC-SA)との融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0129】
配列番号7で示されるアミノ酸配列を有するhGALC-HSA融合蛋白質に変異を加える場合について,以下例示する。配列番号7で示されるアミノ酸配列中のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基で置換する場合,置換するアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。アミノ酸残基を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。アミノ酸残基を付加する場合,アミノ酸残基は配列番号7で示されるアミノ酸配列中に又は当該アミノ酸配列のN末端若しくはC末端に,1個又は複数個のアミノ酸残基が付加される。hGALC-HSA融合蛋白質は,これらアミノ酸残基の置換,欠失,及び付加を組み合わせたものであってもよい。変異は,HSA部分にのみ加えても,hGALC部分にのみ加えても,又は両方の部分に加えてもよい。ヒト以外の動物種のSAとGALCとの融合蛋白質(SA-GALC),及びヒト以外の動物種のSAとヒト以外の動物種のGALCとの融合蛋白質,例えばMSA-マウスGALCとの融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0130】
配列番号7で示されるアミノ酸配列に変異を加えたときの各変異の位置及びその形式(欠失,置換,及び付加)は,変異前後のアミノ酸配列のアラインメントにより,容易に確認することができる。変異を加えたアミノ酸配列は,配列番号7で示されるアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,85%以上の同一性を示し,90%以上の同一性を示し,又は,95%以上の同一性を示し,例えば,98%以上,又は99%以上の同一性を示すものである。
【0131】
hGALC-HSA融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸が糖鎖により修飾されたものもhGALC-HSA融合蛋白質である。また,hGALC-HSA融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸がリン酸により修飾されたものもhGALC-HSA融合蛋白質である。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものもhGALC-HSA融合蛋白質である。また,hGALC-HSA融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものもhGALC-HSA融合蛋白質である。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒト以外の動物種のGALCとSAとの融合蛋白質(GALC-SA),及びヒト以外の動物種のGALCとヒト以外の動物種のSAとの融合蛋白質,例えばマウスGALCとMSAとの融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0132】
つまり,糖鎖により修飾されたhGALC-HSA融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するhGALC-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。また,リン酸により修飾されたhGALC-HSA融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するhGALC-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものも,元のアミノ酸配列を有するhGALC-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。また,hGALC-HSA融合蛋白質を構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものも,元のアミノ酸配列を有するhGALC-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒト以外の動物種のGALCとSAとの融合蛋白質(GALC-SA),及びヒト以外の動物種のGALCとヒト以外の動物種のSAとの融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0133】
また,hGALC-HSA融合蛋白質であって,これを構成するhGALCが,hGALCの前駆体であるものもHSA-hGALC融合蛋白質である。
【0134】
本発明の一実施形態において,「hGBA-SA融合蛋白質」又は「hGBA-SA」の語は,hGBAのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,SAのアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,hGBAとしての機能を有するものを示す。ここで,SAの動物種に特に限定はないが,好ましくは哺乳動物のSAであり,より好ましくは霊長類のSAであり,更に好ましくはHSAである。hGBA-SA融合蛋白質において,hGBAがhGBAとしての機能を有するというときは,hGBAが,通常の野生型のhGBAの比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性を保持することをいう。なお,ここでhGBA-SA融合蛋白質におけるhGBAの比活性は,当該融合蛋白質の単位質量当たりのhGBAの酵素活性(μM/時間/mg蛋白質)に(当該融合蛋白質の分子量/当該融合蛋白質中のhGBAに相当する部分の分子量)を乗じて算出される。
【0135】
本発明の一実施形態において,「hGBA-HSA融合蛋白質」又は「hGBA-HSA」の語は,hGBAのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,HSAのアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,hGBAとしての機能を有するものを示す。ここでhGBA-HSA融合蛋白質がhGALCとしての機能を有するというときは,上記のSA-hGBA融合蛋白質における定義を適用することができる。
【0136】
本発明の一実施形態において,ヒト以外の動物種のGBAのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,ヒト以外の動物種のSAのN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,GBAとしての機能を有するものは,「(ヒト以外の動物種)GBA-(ヒト以外の動物種)SA融合蛋白質」と表記される。例えば,マウスGBAとマウスSAの融合蛋白質は,「マウスGBA-MSA融合蛋白質」又は「マウスGBA-MSA」と表記される。これら融合蛋白質についても,GBAとしての機能を有するというときは,上記のhGBA-HSA融合蛋白質における定義を適用することができる。また,これら融合蛋白質において,SAは血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等のSAとしての機能を有するものであることが好ましいが,これに限定されない。
【0137】
本発明の一実施形態において好ましいhGBA-HSA融合蛋白質は,例えば配列番号41で示されるアミノ酸配列を有するものである。配列番号41で示されるhGBA-HSA融合蛋白質は,野生型hGBAのC末端に配列番号9で示されるアミノ酸配列を有するリンカー配列を介して野生型HSAが結合したものである。配列番号41で示されるhGBA-HSA融合蛋白質は,例えば,配列番号42で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。また,配列番号41で示されるアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,他のアミノ酸残基へ置換され,欠失し,或いは付加等の変異が加えられたアミノ酸配列を有するものも,hGBAとしての機能を有するものである限りhGBA-HSA融合蛋白質に含まれる。hGBA-HSA融合蛋白質は,血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等のヒト血清アルブミンとしての機能を有するものであることが好ましいが,これに限定されない。
【0138】
本発明の一実施形態において,「mGBA-MSA融合蛋白質」又は「mGBA-MSA」の語は,mGBAのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,MSAのアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,mGBAとしての機能を有するものを示す。好ましいmGBA-MSA融合蛋白質は,例えば配列番号47で示されるアミノ酸配列を有するものである。配列番号47で示されるmGBA-MSA融合蛋白質は,野生型mGBAのC末端に配列番号9で示されるアミノ酸配列を有するリンカー配列を介して野生型MSAが結合したものである。配列番号47で示されるmGBA-MSA融合蛋白質は,例えば,配列番号48で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。また,配列番号47で示されるアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,他のアミノ酸残基へ置換され,欠失し,或いは付加等の変異が加えられたアミノ酸配列を有するものも,mGBAとしての機能を有するものである限りmGBA-MSA融合蛋白質に含まれる。mGBA-MSA融合蛋白質は,血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等のマウス血清アルブミンとしての機能を有するものであることが好ましいが,これに限定されない。
【0139】
野生型hGBAと野生型HSAとの融合蛋白質であるhGBA-HSA融合蛋白質に変異を加える場合,hGBA部分にのみ変異を加えHSA部分には変異を加えないことも,hGBA部分には変異を加えずにHSA部分にのみ変異を加えることも,また,hGBA部分とHSA部分の何れにも変異を加えることもできる。hGBA部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型hGBAに変異が加えられたhGBAのアミノ酸配列となる。HSA部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となる。hGBA部分とHSA部分の何れにも変異を加える場合にあっては,hGBA部分のアミノ酸配列は上述した野生型hGBAに変異が加えられたhGBAのアミノ酸配列となり,HSA部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となる。配列番号41で示されるアミノ酸配列を有するhGBA-HSA融合蛋白質についても同様である。また,配列番号47で示されるアミノ酸配列を有するものを含む, mGBA-MSA融合蛋白質についても同様のことがいえる。配列番号47で示されるアミノ酸配列を有するmGBA-MSA融合蛋白質は,例えば配列番号48で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。野生型hGBAとヒト以外の動物種の野生型SA(野生型MSAを含む)との融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0140】
配列番号41で示されるアミノ酸配列を有するhGBA-HSA融合蛋白質に変異を加える場合について,以下例示する。配列番号41で示されるアミノ酸配列中のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基で置換する場合,置換するアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。アミノ酸残基を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。アミノ酸残基を付加する場合,アミノ酸残基は配列番号41で示されるアミノ酸配列中に又は当該アミノ酸配列のN末端若しくはC末端に,1個又は複数個のアミノ酸残基が付加される。hGBA-HSA融合蛋白質は,これらアミノ酸残基の置換,欠失,及び付加を組み合わせたものであってもよい。変異は,HSA部分にのみ加えても,hGBA部分にのみ加えても,又は両方の部分に加えてもよい。hGBAとヒト以外の動物種のSAとの融合蛋白質(hGBA-SA),及びヒト以外の動物種のGBAとヒト以外の動物種のSAとの融合蛋白質,例えばマウスGBA-MSA融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0141】
配列番号41で示されるアミノ酸配列に変異を加えたときの各変異の位置及びその形式(欠失,置換,及び付加)は,変異前後のアミノ酸配列のアラインメントにより,容易に確認することができる。変異を加えたアミノ酸配列は,配列番号41で示されるアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,85%以上の同一性を示し,90%以上の同一性を示し,又は,95%以上の同一性を示し,例えば,98%以上,又は99%以上の同一性を示すものである。
【0142】
hGBA-HSA融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸が糖鎖により修飾されたものもhGBA-HSA融合蛋白質である。また,hGBA-HSA融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸がリン酸により修飾されたものもhGBA-HSA融合蛋白質である。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものもhGBA-HSA融合蛋白質である。また,hGBA-HSA融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものもhGBA-HSA融合蛋白質である。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。hGBAとヒト以外の動物種のSAとの融合蛋白質(hGBA-SA),及びヒト以外の動物種のGBAとヒト以外の動物種のSAとの融合蛋白質,例えばマウスGBA-MSA融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0143】
つまり,糖鎖により修飾されたhGBA-HSA融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するhGBA-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。また,リン酸により修飾されたhGBA-HSA融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するhGBA-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものも,元のアミノ酸配列を有するhGBA-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。また,hGBA-HSA融合蛋白質を構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものも,元のアミノ酸配列を有するhGBA-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。hGBAとヒト以外の動物種のSAとの融合蛋白質(hGBA-SA),及びヒト以外の動物種のGBAとヒト以外の動物種のSAとの融合蛋白質,例えばマウスGBA-MSA融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0144】
また,hGBA-HSA融合蛋白質であって,これを構成するhGBAが,hGBAの前駆体であるものもHSA-hGALC融合蛋白質である。
【0145】
本発明の一実施形態において,「SAとリソソーム酵素との融合蛋白質」,「リソソーム酵素とSAとの融合蛋白質」,又は「血清アルブミンとリソソーム酵素との融合蛋白質」,というときは,上記の「SA-リソソーム酵素融合蛋白質」及び「リソソーム酵素-SA融合蛋白質」のいずれをも含むものとする。また,「SAとGALCとの融合蛋白質」,「GALCとSAとの融合蛋白質」,又は「血清アルブミンとガラクトシルセラミダーゼとの融合蛋白質」,というときは,上記の「SA-GALC融合蛋白質」及び「GALC-SA融合蛋白質」のいずれをも含むものとする。また,「SAとGBAとの融合蛋白質」,「GBAとSAとの融合蛋白質」,又は「血清アルブミンとグルコセレブロシダーゼとの融合蛋白質」,というときは,上記の「SA-GBA融合蛋白質」及び「GBA-SA融合蛋白質」のいずれをも含むものとする。SAがHSAである場合,リソソーム酵素がヒトリソソーム酵素である場合,GALCがhGALCである場合,及びGBAがhGBAである場合も同様である。
【0146】
以下,SAとリソソーム酵素について,HSAとhGALCとの融合蛋白質及びHSAとhGBAとの融合蛋白質を例にとり融合蛋白質の製造法等について詳述するが,これらの記載事項はSAがヒト以外のものである融合蛋白質,リソソーム酵素がGALC及びGBA以外のものである場合にも適用され得る。例えば,ヒト以外の動物種のSAとhGALC又はhGBAとの融合蛋白質,ヒト以外の動物種のSAとヒト以外の動物種のGALC又はGBAとの融合蛋白質,MSAとmGALC又はmGBAとの融合蛋白質についても適用される。
【0147】
本発明の一実施形態の融合蛋白質において,SAとリソソーム酵素とは,直接又はリンカーを介して結合される。ここで,「リンカー」というときは,2種類の蛋白質を結合させるときに用いられる構造体,又は2種類またはそれ以上の蛋白質を融合させたときに,いずれの蛋白質にも属さない部分のことをいう。リンカーにはペプチドリンカーと非ペプチドリンカーがある。融合蛋白質の一部を構成するペプチドリンカーを単にリンカーということもできる。また,ペプチドリンカーのアミノ酸配列をリンカー配列ということができる。SAとリソソーム酵素の融合蛋白質にあっては,SAのアミノ酸配列とリソソーム酵素のアミノ酸配列のいずれにも属さない部分のことをいう。つまり,リンカーはSAとリソソーム酵素との間に介在するペプチド鎖のことである。リンカーは,種々の機能を有する。その機能には,SAとリソソーム酵素との間にあってSAとリソソーム酵素とを結合する機能の他,SA及びリソソーム酵素の,融合蛋白質分子内での距離を離すことにより相互の干渉を低減させる機能,SAとリソソーム酵素との間にあってSAとリソソーム酵素とを連結するヒンジとなって,融合蛋白質の立体構造に柔軟性を与える機能等が含まれる。融合蛋白質の分子内において,リンカーは,これら機能の少なくとも一つを発揮する。このことは,例えばSAがHSAであっても,また例えばリソソーム酵素がヒトリソソーム酵素,例えばhGALC又はhGBAであっても,同様である。
【0148】
SAとリソソーム酵素との融合蛋白質において,リンカーのアミノ酸配列は,融合蛋白質分子の中にあって,リンカーとしての機能が発揮されるものである限り特に限定はない。また,ペプチドリンカーの長さにも,融合蛋白質分子の中にあって,リンカーとしての機能が発揮されるものである限り特に限定はない。ペプチドリンカーは一個又は複数個のアミノ酸から構成されるものである。ペプチドリンカーが複数個のアミノ酸から構成される場合,そのアミノ酸の個数は,好ましくは2~50個であり,より好ましくは5~30個であり,更に好ましくは10~25個である。ペプチドリンカーの好適な例として,Gly-Ser,Gly-Gly-Ser,又は配列番号9~11で示されるアミノ酸配列(これらをあわせて基本配列という)からなるもの,及びこれらを含むものが挙げられる。例えば,ペプチドリンカーは,基本配列が2~10回反復したアミノ酸配列を含むものであり,基本配列が2~6回反復したアミノ酸配列を含むものであり,基本配列が3~5回反復したアミノ酸配列を含むものである。これらのアミノ酸配列中の1個又は複数個のアミノ酸が,欠失,他のアミノ酸へ置換,付加等されたものであってもよい。アミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1又は2個である。アミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1又は2個である。アミノ酸を付加する場合,付加されるアミノ酸の個数は,好ましくは1又は2個である。これらアミノ酸の欠失,置換,及び付加を組み合わせて,所望のリンカー部のアミノ酸配列とすることもできる。ペプチドリンカーは一つのアミノ酸からなるものであってもよく,リンカーを構成するアミノ酸は,例えばグリシン,セリンである。このことは,例えばSAがHSAであっても,また例えばリソソーム酵素がヒトリソソーム酵素,例えばhGALC又はhGBAであっても,同様である。
【0149】
HSAとhGALCとの融合蛋白質は,HSAをコードする遺伝子の下流又は上流に,インフレームでhGALCをコードする遺伝子を結合させたDNA断片を組み込んだ発現ベクターを作製し,この発現ベクターを導入して形質転換させた宿主細胞を培養することにより,組換え蛋白質として作製することができる。また,HSAとhGBAとの融合蛋白質は,HSAをコードする遺伝子の下流又は上流に,インフレームでhGBAをコードする遺伝子を結合させたDNA断片を組み込んだ発現ベクターを作製し,この発現ベクターを導入して形質転換させた宿主細胞を培養することにより,組換え蛋白質として作製することができる。このようにして組換え蛋白質として作製される融合蛋白質は,一本鎖ポリペプチドからなる。また,本発明において,組換え蛋白質として作製された融合蛋白質のことを,組換え融合蛋白質という。
【0150】
組換え融合蛋白質としてHSA-hGALC融合蛋白質を作製する場合,HSAをコードする遺伝子の下流にインフレームでhGALCをコードする遺伝子を結合させることにより,HSAのアミノ酸配列のC末端にhGALCのアミノ酸配列を有する融合蛋白質を得ることができる。逆に,HSAをコードする遺伝子の上流にインフレームでhGALCをコードする遺伝子を結合させることにより,HSAのアミノ酸配列のN末端にhGALCのアミノ酸配列を有するhGALC-HSA融合蛋白質が得られる。また,HSAをコードする遺伝子の下流にインフレームでhGBAをコードする遺伝子を結合させることにより,HSAのアミノ酸配列のC末端にhGBAのアミノ酸配列を有するHSA-hGBA融合蛋白質を得ることができる。逆にHSAをコードする遺伝子の上流にインフレームでhGBAをコードする遺伝子を結合させることにより,HSAのアミノ酸配列のN末端にhGBAのアミノ酸配列を有するhGBA-HSA融合蛋白質が得られる。いずれの場合においても,組換え融合蛋白質として作製される融合蛋白質は,一本鎖ポリペプチドである。
【0151】
なお,本発明において,「一本鎖ポリペプチド」というときは,一つのN末端と一つのC末端を有するポリペプチドであって,枝分かれするペプチド鎖のないポリペプチドのことをいう。この条件を満たす限り,分子内ジスルフィド結合を有するもの,糖鎖,脂質,リン脂質等で修飾されたものも一本鎖ポリペプチドである。また,一本鎖ポリペプチドが非共有結合によりダイマー等の複合体を形成した場合にあっては,当該複合体を形成する個々のペプチド鎖は一本鎖ポリペプチドと理解され,当該複合体自体は,一本鎖ポリペプチドの集合体であると理解される。
【0152】
融合蛋白質の一本鎖ポリペプチド内で,HSAのアミノ酸配列がhGALC又はhGBAのアミノ酸配列のN末端側に位置する場合,HSAのC末端とhGALC又はhGBAのN末端が,ペプチド結合により直接,又はリンカーを介して結合される。図1にN末端側からHSA,リンカー及びhGALCを順に有する一本鎖ポリペプチドのHSA-hGALC融合蛋白質を模式的に示す。該HSA-hGALC融合蛋白質はHSAのC末端と該リンカーのN末端がペプチド結合により結合し,該リンカーのC末端とhGALCのN末端がペプチド結合により結合したものである。また,図2にN末端側からHSA,リンカー及びhGBAを順に有する一本鎖ポリペプチドのHSA-hGBA融合蛋白質を模式的に示す。該HSA-hGBA融合蛋白質はHSAのC末端と該リンカーのN末端がペプチド結合により結合し,該リンカーのC末端とhGBAのN末端がペプチド結合により結合したものである。
【0153】
また,融合蛋白質の一本鎖ポリペプチド内で,hGALC又はhGBAのアミノ酸配列がHSAのアミノ酸配列のN末端に位置する場合,hGALC又はhGBAのC末端とHSAのN末端が,ペプチド結合により直接,又はリンカーを介して結合される。図3にN末端側からhGALC,リンカー及びHSAを順に有する一本鎖ポリペプチドのhGALC-HSA融合蛋白質を模式的に示す。該hGALC-HSA融合蛋白質はhGALCのC末端と該リンカーのN末端がペプチド結合により結合し,該リンカーのC末端とHSAのN末端がペプチド結合により結合したものである。また,図4にN末端側からhGBA,リンカー及びHSAを順に有する一本鎖ポリペプチドのhGBA-HSA融合蛋白質を模式的に示す。該hGBA-HSA融合蛋白質はhGBAのC末端と該リンカーのN末端がペプチド結合により結合し,該リンカーのC末端とHSAのN末端がペプチド結合により結合したものである。
【0154】
本発明の一実施形態において,HSAとhGALCとの融合蛋白質というときは,組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,同一条件で野生型のhGALCを組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたときと比較して,培養上清中のhGALCとしての発現量が,濃度あるいは酵素活性換算で,少なくとも1.1倍以上,1.2倍以上,1.5倍以上,2倍以上,2.5倍以上,又は3.5倍以上,例えば,1.1~4倍,1.5~3.6倍,2~3.6倍等となることを特徴とする融合蛋白質である。また,本発明の一実施形態において,HSAとhGBAとの融合蛋白質というときは,組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,同一条件で野生型のhGBAを組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたときと比較して,培養上清中のhGBAとしての発現量が,濃度あるいは酵素活性換算で,少なくとも1.1倍以上,1.2倍以上,1.5倍以上,2倍以上,2.5倍以上,又は3.5倍以上,例えば,1.1~4倍,1.5~3.6倍,2~3.6倍,10~20倍等となることを特徴とする融合蛋白質である。ここで同一条件下とは,発現ベクター,宿主細胞,培養条件等が同一であることをいう。このとき用いられる好ましい宿主細胞は,CHO細胞,NS/0細胞等の哺乳動物細胞であるが,特にCHO細胞である。
【0155】
かかるHSAとhGALCとの融合蛋白質の好ましい実施形態として,以下の(1)及び(2)が挙げられる:
(1)配列番号3で示される野生型のHSAのアミノ酸配列のC末端に,配列番号1で示される野生型のhGALCのアミノ酸配列のN末端が,Gly-Serで表されるリンカーを介して結合したものである,配列番号5で示されるアミノ酸配列を有するもの,
(2)配列番号1で示される野生型のhGALCのアミノ酸配列のC末端に,配列番号3で示される野生型のHSAのアミノ酸配列のN末端が,Gly-Serで表されるリンカーを介して結合したものである,配列番号7で示されるアミノ酸配列を有するもの。
【0156】
また,かかるHSAとhGBAとの融合蛋白質の好ましい実施形態として,以下の(1)及び(2)が挙げられる:
(1)配列番号3で示される野生型のHSAのアミノ酸配列のC末端に,配列番号37で示される野生型のhGBAのアミノ酸配列のN末端が,配列番号9で示されるアミノ酸配列を有するリンカーを介して結合したものである,配列番号39で示されるアミノ酸配列を有するもの,
(2)配列番号37で示される野生型のhGBAのアミノ酸配列のC末端に,配列番号3で示される野生型のHSAのアミノ酸配列のN末端が,配列番号9で示されるアミノ酸配列を有するリンカーを介して結合したものである,配列番号41で示されるアミノ酸配列を有するもの。
【0157】
本発明の一実施形態におけるHSAとhGALCとの融合蛋白質は,組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,同一条件下で野生型のhGALCを組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたときと比較して,培養上清中のhGALCとしての発現量が,濃度あるいは酵素活性換算で増加することを特徴とするものである。従って,HSAとhGALCとの融合蛋白質は,組換え蛋白質として製造したときに,野生型のhGALCと比較して生産効率を上昇させることができるので,生産コストを低減することができる。また,本発明の一実施形態におけるHSAとhGBAとの融合蛋白質は,組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,同一条件下で野生型のhGBAを組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたときと比較して,培養上清中のhGBAとしての発現量が,濃度あるいは酵素活性換算で増加することを特徴とするものである。従って,HSAとhGBAとの融合蛋白質は,組換え蛋白質として製造したときに,野生型のhGBAと比較して生産効率を上昇させることができるので,生産コストを低減することができる。なお,組換え蛋白質を有効成分として含有する医薬品は,非常に高価であることが知られている。従って,同一条件で製造したときに得られる組換え蛋白質の量を数パーセント,例えば3~9%上昇させることにも,多大な経済的効果がある。同様のことは,ヒトリソソーム酵素,例えば,hGALC,hGBAについてもいえる。
【0158】
なお,本明細書において,組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたHSAとhGALCとの融合蛋白質と,同一条件下で組換え蛋白質として宿主細胞で発現させた野生型のhGALCの,発現量を比較するときは,好ましくは発現した蛋白質の質量で比較するのではなく,発現した蛋白質のGALC酵素活性で比較される。HSAとhGBAとの融合蛋白質,ヒト以外の動物種のSAとhGALC又はhGBAとの融合蛋白質,及びヒト以外の動物種のSAとヒト以外の動物種のGALC又はGBAとの融合蛋白質,例えば,MSAとmGALC又はmGBAと融合蛋白質の発現量についても同様とする。
【0159】
HSAとhGALCとの融合蛋白質及びHSAとhGBAとの融合蛋白質は,当該融合蛋白質をコードする遺伝子を組み込んだ発現ベクターを用いて形質転換させた宿主細胞を培養することにより,組換え蛋白質として製造することができる。
【0160】
このとき用いられる宿主細胞は,かかる発現ベクターを導入することによりHSAとhGALCとの融合蛋白質又はHSAとhGBAとの融合蛋白質を発現させることができるものである限り特に制限はなく,哺乳動物細胞,酵母,植物細胞,昆虫細胞等の真核生物細胞の何れであってもよいが,哺乳動物細胞が特に好適である。
【0161】
哺乳動物細胞を宿主細胞として使用する場合,該哺乳動物細胞の種類について特に限定はないが,ヒト,マウス,チャイニーズハムスター由来の細胞が好ましく,特にチャイニーズハムスター卵巣細胞由来のCHO細胞,又はマウス骨髄腫に由来するNS/0細胞が好ましい。またこのときHSAとhGALCとの融合蛋白質又はHSAとhGBAとの融合蛋白質をコードする遺伝子を含むDNA断片を組み込んで発現させるために用いる発現ベクターは,哺乳動物細胞内に導入したとき該遺伝子の発現をもたらすものであれば特に限定なく用いることができる。発現ベクターに組み込まれた該遺伝子は,哺乳動物細胞内で遺伝子の転写の頻度を調節することができるDNA配列(遺伝子発現制御部位)の下流に配置される。本発明において用いることのできる遺伝子発現制御部位としては,例えば,サイトメガロウイルス由来のプロモーター,SV40初期プロモーター,ヒト伸長因子-1α(EF-1α)プロモーター,ヒトユビキチンCプロモーター等が挙げられる。
【0162】
目的の蛋白質をコードする遺伝子の下流側に内部リボソーム結合部位(IRES: internal ribosome entry site)を介して,選択マーカーとしてグルタミン合成酵素(GS)を配置した発現ベクターが知られている(国際特許公報WO2012/063799,WO2013/161958)。これら文献に記載された発現ベクターは,HSAとhGALCとの融合蛋白質又はHSAとhGBAとの融合蛋白質の製造に特に好適に使用することができる。
【0163】
なお,本発明の一実施形態において,「内部リボソーム結合部位」とは,mRNA鎖の内部に存在する,リボソームが直接結合し且つキャップ構造非依存性に翻訳を開始し得る領域(構造),又は転写されることにより該領域を生じるDNA鎖の領域(構造)である。また,本発明において,「内部リボソーム結合部位をコードする遺伝子」とは,転写されることにより該領域を生じるDNA鎖の領域(構造)である。内部リボソーム結合部位は,一般に,IRES(internal ribosome entry site)と称され,ピコルナウイルス科のウイルス(ポリオウイルス,ライノウイルス,マウス脳心筋炎ウイルスなど),口蹄疫ウイルス,A型肝炎ウイルス,C型肝炎ウイルス,コロナウイルス,ウシ腸内ウイルス,サイラーのネズミ脳脊髄炎ウイルス,コクサッキーB型ウイルス等のウイルスの5'非翻訳領域,ヒト免疫グロブリン重鎖結合蛋白質,ショウジョウバエアンテナペディア,ショウジョウバエウルトラビトラックス等の遺伝子の5'非翻訳領域に見出されている。ピコルナウイルスの場合,そのIRESは,mRNAの5'非翻訳領域に存在する約450bpからなる領域である。ここで「ウイルスの5'非翻訳領域」とは,ウイルスのmRNAの5'非翻訳領域,又は転写されることにより該領域を生じるDNA鎖の領域(構造)である。
【0164】
例えば,目的の蛋白質を発現させるための発現ベクターであって,第1の遺伝子発現制御部位,並びに,その下流に該蛋白質をコードする遺伝子,更に下流に内部リボソーム結合部位,及び更に下流にグルタミン合成酵素をコードする遺伝子を含み,且つ,上記第1の遺伝子発現制御部位の又はこれとは別の第2の遺伝子発現制御部位の下流にジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子又は薬剤耐性遺伝子を更に含んでなる発現ベクターは,HSAとhGALCとの融合蛋白質又はHSAとhGBAとの融合蛋白質の製造に好適に使用できる。この発現ベクターにおいて,第1の遺伝子発現制御部位又は第2の遺伝子発現制御部位としては,サイトメガロウイルス由来のプロモーター,SV40初期プロモーター,ヒト伸長因子-1αプロモーター(hEF-1αプロモーター),ヒトユビキチンCプロモーターが好適に用いられるが,hEF-1αプロモーターが特に好適である。
【0165】
また,内部リボソーム結合部位としては,ピコルナウイルス科のウイルス(マウス脳心筋炎ウイルスを含む),口蹄疫ウイルス,A型肝炎ウイルス,C型肝炎ウイルス,コロナウイルス,ウシ腸内ウイルス,サイラーのネズミ脳脊髄炎ウイルス,コクサッキーB型ウイルスからなる群より選択されるウイルスのゲノム,又はヒト免疫グロブリン重鎖結合蛋白質遺伝子,ショウジョウバエアンテナペディア遺伝子,ショウジョウバエウルトラビトラックス遺伝子からなる群から選択される遺伝子の5’非翻訳領域に由来するものが好適に用いられるが,マウス脳心筋炎ウイルスゲノムの5’非翻訳領域に由来する内部リボソーム結合部位が特に好適である。マウス脳心筋炎ウイルスゲノムの5’非翻訳領域に由来する内部リボソーム結合部位を用いる場合,野生型のもの以外に,野生型の内部リボソーム結合部位に含まれる複数の開始コドンのうちの一部が破壊されたものも好適に使用できる。また,この発現ベクターにおいて,好適に用いられる薬剤耐性遺伝子は,好ましくはピューロマイシン又はネオマイシン耐性遺伝子であり,より好ましくはピューロマイシン耐性遺伝子である。
【0166】
また,例えば,目的の蛋白質を発現させるための発現ベクターであって,ヒト伸長因子-1αプロモーター,その下流に該蛋白質をコードする遺伝子,更に下流にマウス脳心筋炎ウイルスゲノムの5’非翻訳領域に由来する内部リボソーム結合部位,及び更に下流にグルタミン合成酵素をコードする遺伝子を含み,且つ別の遺伝子発現制御部位及びその下流にジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子を更に含む発現ベクターであって,該内部リボソーム結合部位が,野生型の内部リボソーム結合部位に含まれる複数の開始コドンのうちの一部が破壊されたものである発現ベクターは,HSAとhGALCとの融合蛋白質又はHSAとhGBAとの融合蛋白質の製造に好適に使用できる。このような発現ベクターとして,WO2013/161958に記載された発現ベクターが挙げられる。
【0167】
また,例えば,目的の蛋白質を発現させるための発現ベクターであって,ヒト伸長因子-1αプロモーター,その下流に該蛋白質をコードする遺伝子,更に下流にマウス脳心筋炎ウイルスゲノムの5’非翻訳領域に由来する内部リボソーム結合部位,及び更に下流にグルタミン合成酵素をコードする遺伝子を含み,且つ別の遺伝子発現制御部位及びその下流に薬剤耐性遺伝子を更に含む発現ベクターであって,該内部リボソーム結合部位が,野生型の内部リボソーム結合部位に含まれる複数の開始コドンのうちの一部が破壊されたものである発現ベクターは,HSAとhGALCとの融合蛋白質又はHSAとhGBAとの融合蛋白質の製造に好適に使用できる。このような発現ベクターとして,WO2012/063799に記載されたpE-mIRES-GS-puro及びWO2013/161958に記載されたpE-mIRES-GS-mNeoが挙げられる。
【0168】
野生型のマウス脳心筋炎ウイルスゲノムの5’非翻訳領域に由来する内部リボソーム結合部位の3’末端には,3つの開始コドン(ATG)が存在している。上記のpE-mIRES-GS-puro及びpE-mIRES-GS-mNeoは,開始コドンのうちの一部が破壊されたIRESを有する発現ベクターである。
【0169】
HSAとhGALCとの融合蛋白質又はHSAとhGBAとの融合蛋白質は,これをコードする遺伝子を組み込んだ発現ベクターを導入した宿主細胞を培養することにより,細胞中又は培地中に発現させることができる。哺乳動物細胞が宿主細胞である場合のHSAとhGALCとの融合蛋白質又はHSAとhGBAとの融合蛋白質の発現方法について,以下に詳述する。
【0170】
哺乳動物細胞の培養のための培地としては,哺乳動物細胞を培養して増殖させることのできるものであれば,特に限定なく用いることができるが,好ましくは無血清培地が用いられる。本発明において,組換え蛋白質生産用培地として用いられる無血清培地としては,例えば,アミノ酸を3~700 mg/L,ビタミン類を0.001~50 mg/L,単糖類を0.3~10 g/L,無機塩を0.1~10000 mg/L,微量元素を0.001~0.1 mg/L,ヌクレオシドを0.1~50 mg/L,脂肪酸を0.001~10 mg/L,ビオチンを0.01~1 mg/L,ヒドロコルチゾンを0.1~20 μg/L,インシュリンを0.1~20 mg/L,ビタミンB12を0.1~10 mg/L,プトレッシンを0.01~1 mg/L,ピルビン酸ナトリウムを10~500 mg/L,及び水溶性鉄化合物を含有する培地が好適に用いられる。所望により,チミジン,ヒポキサンチン,慣用のpH指示薬及び抗生物質等を培地に添加してもよい。
【0171】
組換え蛋白質生産用培地として用いられる無血清培地として,DMEM/F12培地(DMEMとF12の混合培地)を基本培地として用いてもよく,これら各培地は当業者に周知である。更にまた,無血清培地として,炭酸水素ナトリウム,L-グルタミン,D-グルコース,インスリン,ナトリウムセレナイト,ジアミノブタン,ヒドロコルチゾン,硫酸鉄(II),アスパラギン,アスパラギン酸,セリン及びポリビニルアルコールを含むものである,DMEM(HG)HAM改良型(R5)培地を使用してもよい。更には市販の無血清培地,例えば,CD OptiCHOTM培地,CHO-S-SFM II培地又はCD CHO培地(Thermo Fisher Scientific社),EX-CELLTM302培地又はEX-CELLTM325-PF培地(SAFC Biosciences社)等を基本培地として使用することもできる。
【0172】
HSAとhGALCとの融合蛋白質は,これをコードする遺伝子を組み込んだ発現ベクターを導入した宿主細胞を上記の無血清培地で培養して組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,同一条件で野生型のhGALCを組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたときと比較して,培養上清中のhGALCとしての発現量が,濃度あるいは酵素活性換算で,少なくとも1.1倍以上,1.2倍以上,1.5倍以上,2倍以上,2.5倍以上,又は3.5倍以上,例えば,1.1~4倍,1.5~3.6倍,2~3.6倍等となることを特徴とする。
【0173】
また,HSAとhGBAとの融合蛋白質は,これをコードする遺伝子を組み込んだ発現ベクターを導入した宿主細胞を上記の無血清培地で培養して組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,同一条件で野生型のhGBAを組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたときと比較して,培養上清中のhGBAとしての発現量が,濃度あるいは酵素活性換算で,少なくとも1.1倍以上,1.2倍以上,1.5倍以上,2倍以上,2.5倍以上,又は3.5倍以上,例えば,1.1~4倍,1.5~3.6倍,2~3.6倍,10~20倍等となることを特徴とする。ここで同一条件下とは,発現ベクター,宿主細胞,培養条件等が同一であることをいう。このとき用いられる宿主細胞は,好ましくは哺乳動物細胞,特に,CHO細胞,NS/0細胞等の組換え蛋白質の製造に用いられる通常の細胞である。
【0174】
野生型のhGALCは,これをコードする遺伝子を組込んだ発現ベクターで形質転換させた宿主細胞を用いて組換え体として発現させたとき,当該宿主細胞の生存率が低下等の理由により,組換え体として効率的に製造することが困難である。しかし,hGALCをHSAとの融合蛋白質として発現させることにより,野生型のhGALCを発現させたときに観察される宿主細胞の生存率の低下が抑制される。HSAとhGALCとの融合蛋白質は,これをコードする遺伝子を組み込んだ発現ベクターを導入した哺乳動物細胞を無血清培地で培養して組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,野生型hGALCを同一条件で組換え蛋白質として発現させたときと比較して,発現量が増加する。この発現量の増加には上記の生存率の低下の抑制が寄与しているものと考えられる。ヒト以外の動物種のSAとhGALCの融合蛋白質,ヒト以外の動物種のSAとヒト以外の動物種のGALCの融合蛋白質についても同様である。なお,当該融合蛋白質の発現に用いられる宿主細胞は,好ましくは哺乳動物細胞,特に,CHO細胞,NS/0細胞等の組換え蛋白質の製造に用いられる通常の細胞である。つまり,本発明の一実施形態は,SAとGALCとの組換え融合蛋白質,特にHSAとhGALCとの組換え融合蛋白質である。
【0175】
hGALC及びhGBAを発現させたときの宿主細胞の生存率の低下は,死細胞が増加することを意味する。死細胞からは,その内容物が流出するので,それらが夾雑物となり,発現した融合蛋白質の,その後の精製工程において,夾雑物を除去する工程が必要となる。つまり,hGALC及びhGBAは,HSAとの融合蛋白質の形態で発現させることにより,培養中に生じる死細胞数を減じて夾雑物を減少させることができるので,発現した融合蛋白質の精製を容易にすることができる。これにより精製時における精製効率を高めることもできる。また,精製後の融合蛋白質に含まれる夾雑物の量を減少させることもできる。
【0176】
HSAとhGALCとの融合蛋白質又はHSAとhGBAとの融合蛋白質をコードする宿主細胞を培養することにより,細胞内又は培地中に発現させることができる。これらの融合蛋白質は,カラムクロマトグラフィー等の方法により不純物から分離し,精製することができる。精製されたHSAとhGALCとの融合蛋白質又はHSAとhGBAとの融合蛋白質は,医薬組成物として使用することができる。特に,HSAとhGALCとの融合蛋白質は,クラッベ病(ガラクトシルセラミドリピドーシス,又はグロボイド細胞白質ジストロフィー)を対象疾患とする医薬組成物として使用することができる。また特に,HSAとhGBAとの融合蛋白質は,ゴーシェ病を対象疾患とする医薬組成物として使用することができる。なお,本明細書において医薬組成物というときは,有効成分としての融合蛋白質に加えて,薬学的に許容可能な賦形剤を含む組成物のことをいう。
【0177】
HSAとhGALCとの融合蛋白質又はHSAとhGBAとの融合蛋白質を有効成分として含有してなる医薬組成物は,注射剤として静脈内,筋肉内,腹腔内,皮下又は脳室内に投与することができる。それらの注射剤は,凍結乾燥製剤又は水性液剤として供給することができる。水性液剤とする場合,バイアルに充填した形態としてもよく,注射器に予め充填したものであるプレフィルド型の製剤として供給することもできる。凍結乾燥製剤の場合,使用前に水性媒質に溶解し復元して使用する。水性液剤中に含まれるHSAとhGALCとの融合蛋白質又はHSAとhGBAとの融合蛋白質における,総蛋白質に占める単量体の比率(単量体の質量/総蛋白質の質量×100(%))は,好ましくは70%以上,より好ましくは80%以上,更に好ましくは90%以上,例えば95%以上であり95%以上である。凍結乾燥製剤を水性媒質に溶解し復元した溶液についても同じことがいえる。
【0178】
HSAとhGALCとの融合蛋白質又はHSAとhGBAとの融合蛋白質は,更に,抗体又はリガンドとの結合体とすることができる。例えば,本発明の一実施形態におけるHSAとhGALCとの融合蛋白質は,脳血管内皮細胞上の受容体と特異的に結合することのできる抗体又はリガンドとの結合体とすることができる。また例えば,本発明の一実施形態におけるHSAとhGBAとの融合蛋白質は,脳血管内皮細胞上の受容体と特異的に結合することのできる抗体又はリガンドとの結合体とすることができる。HSAとhGALCとの融合蛋白質又はHSAとhGBAとの融合蛋白質は,脳血管内皮細胞上の受容体と特異的に結合することのできる抗体又はリガンドとの結合体とすることにより,脳血管内皮細胞上の受容体に結合できるようになる。脳血管内皮細胞上の受容体に結合した融合蛋白質は,血液脳関門(BBB)を通過して,中枢神経系(CNS)の組織に到達できる。従って,HSAとhGALCとの融合蛋白質又はHSAとhGBAとの融合蛋白質は,かかる抗体又はリガンドとの結合体とすることで,血液脳関門(BBB)を通過させて,中枢神経系(CNS)において機能を発揮させるようにすることができる。
【0179】
本発明で「リガンド」というときは,特定の物質に親和性を有する物質,特に特定の物質に親和性を有す蛋白質のことをいう。本発明における一実施例において,かかるリガンドは,脳血管内皮細胞上に存在する受容体に対して親和性を有する物質,特に蛋白質である。脳血管内皮細胞上に存在する受容体としては,例えば,インスリン受容体,トランスフェリン受容体,レプチン受容体,リポ蛋白質受容体,及びIGF受容体であり,特にトランスフェリン受容体であるが,これらに限定されるものでない。また,当該受容体は好ましくはヒト由来の受容体である。インスリン受容体,トランスフェリン受容体,レプチン受容体,リポ蛋白質受容体,及びIGF受容体に対するリガンドは,それぞれ,インスリン,トランスフェリン,レプチン,リポ蛋白質,及びIGF(IGF-1及びIGF-2)である。これらリガンドは全長であっても,受容体に対する親和性を有する限り,その断片であってもよく,また野生型であっても,野生型に置換,欠失,又は/及び付加を導入した変異体であってもよい。
【0180】
HSAとhGALCとの融合蛋白質と抗体との結合体において,hGALCがhGALCとしての機能を有するというときは,hGALCが,通常の野生型のhGALCの比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性,例えば90%以上,95%以上の比活性を有することをいう。なお,ここで当該結合体におけるhGALCの比活性は,当該結合体の単位質量当たりのhGALCの酵素活性(μM/時間/mg蛋白質)に(当該結合体の分子量/当該結合体中のhGALCに相当する部分の分子量)を乗じて算出される。
【0181】
また,HSAとhGBAとの融合蛋白質と抗体との結合体において,hGBAがhGBAとしての機能を有するというときは,hGBAが,通常の野生型のhGBAの比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性,例えば90%以上,95%以上の比活性を有することをいう。なお,ここで当該結合体におけるhGBAの比活性は,当該結合体の単位質量当たりのhGBAの酵素活性(μM/時間/mg蛋白質)に(当該結合体の分子量/当該結合体中のhGBAに相当する部分の分子量)を乗じて算出される。
【0182】
本発明の一実施形態において,HSAとhGALCとの融合蛋白質と抗体との結合体というときは,当該結合体を組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,同一条件で野生型のhGALCを組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたときと比較して,培養上清中のhGALCとしての発現量が,濃度あるいは酵素活性換算で,少なくとも1.1倍以上,1.2倍以上,1.5倍以上,2倍以上,2.5倍以上,又は3.5倍以上,例えば,1.1~4倍,1.5~3.6倍,2~3.6倍等となることを特徴とするものである。また,本発明の一実施形態において,HSAとhGBAとの融合蛋白質と抗体との結合体というときは,当該結合体を組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,同一条件で野生型のhGBAを組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたときと比較して,培養上清中のhGBAとしての発現量が,濃度あるいは酵素活性換算で,少なくとも1.1倍以上,1.2倍以上,1.5倍以上,2倍以上,2.5倍以上,又は3.5倍以上,例えば,1.1~4倍,1.5~3.6倍,2~3.6倍,10~20倍等となることを特徴とするものである。
【0183】
サイトカイン,特にインターロイキンの中には,野生型のものをコードする遺伝子を組込んだ発現ベクターを導入した宿主細胞を用いて組換え蛋白質として発現させた場合に,発現量が限定的であるため大量に製造することが困難なものがある。IL-10はそのようなインターロイキンの一つである。本発明の一実施形態は,このような組換え蛋白質として製造が困難なサイトカインを,SAとの融合蛋白質とした組換え蛋白質である。かかる組換え蛋白質は,これをコードする遺伝子を組込んだ発現ベクターを導入した宿主細胞を用いて,大量に製造することが,対応する野生型サイトカインと比較して,容易になる。ここで,SAと結合させるサイトカインの動物種に特に制限はないが,好ましくはヒトサイトカインである。また,サイトカインと結合させるSAの動物種に特に制限はないが,好ましくはHSAである。
【0184】
本明細書において,単に「ヒトサイトカイン」というときは,通常の野生型のヒトサイトカインに加え,当該ヒトサイトカインの種類に対応する生理活性を有する等のヒトサイトカインとしての機能を有するものである限り,野生型のヒトサイトカインのアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,置換,欠失,及び/又は付加(本明細書において,アミノ酸残基の「付加」は,配列の末端又は内部に残基を追加することを意味する。)されたものに相当するヒトサイトカインの変異体も特に区別することなく包含する。ヒト以外の動物種のサイトカインについても同様である。また,インターロイキンについても同様である。
【0185】
なお,ここで,ヒトサイトカインがヒトサイトカインとしての機能を有するというときは,ヒトサイトカインが,通常の野生型のヒトサイトカインの比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性を保持することをいう。ここで比活性とは蛋白質の質量当たりの生理活性のことをいう。なお,ヒトサイトカインとその他の蛋白質との融合蛋白質の比活性は,融合蛋白質の中でヒトサイトカインに相当する部分の質量当たりの生理活性として求められる。なお,ここで融合蛋白質におけるヒトサイトカインの比活性は,当該融合蛋白質の単位質量当たりのヒトサイトカインの生理活性に(当該融合蛋白質の分子量/当該融合蛋白質中のヒトサイトカインに相当する部分の分子量)を乗じて算出される。ヒト以外の動物種のサイトカインについても同様である。また,インターロイキンについても同様である。
【0186】
野生型のヒトサイトカインのアミノ酸配列中のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基で置換する場合,置換するアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。野生型のヒトサイトカインのアミノ酸配列中のアミノ酸残基を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。野生型のヒトサイトカインのN末端又はC末端のアミノ酸残基を1個欠失させたアミノ酸配列からなるヒトサイトカインの変異体,野生型のヒトサイトカインのN末端又はC末端のアミノ酸残基を2個欠失させたアミノ酸配列からなるヒトサイトカインの変異体等も,ヒトサイトカインである。また,これらアミノ酸残基の置換と欠失を組み合わせた変異を野生型のヒトサイトカインのアミノ酸配列に加えることもできる。ヒト以外の動物種のサイトカインについても同様である。また,インターロイキンについても同様である。
【0187】
野生型のヒトサイトカインのアミノ酸配列にアミノ酸残基を付加する場合,アミノ酸残基はヒトサイトカインのアミノ酸配列中に又は当該アミノ酸配列のN末端若しくはC末端に,1個又は複数個のアミノ酸残基が付加される。このとき付加されるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。また,これらアミノ酸残基の付加と上記の置換を組み合わせた変異を野生型のヒトサイトカインのアミノ酸配列に加えることもでき,これらアミノ酸残基の付加と上記の欠失を組み合わせた変異を野生型のヒトサイトカインのアミノ酸配列に加えることもできる。ヒト以外の動物種のサイトカインについても同様である。また,インターロイキンについても同様である。
【0188】
更に,上記のアミノ酸残基の置換及び欠失,及び付加の3種類を組み合わせた変異を野生型のヒトサイトカインのアミノ酸配列に加えることもできる。例えば,野生型のヒトサイトカインのアミノ酸配列に対し,1~10個のアミノ酸残基を欠失させ,1~10個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1~10個のアミノ酸残基を付加させたものもヒトサイトカインであり,野生型のヒトサイトカインのアミノ酸配列に対し,1~5個のアミノ酸残基を欠失させ,1~5個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1~5個のアミノ酸残基を付加させたものもヒトサイトカインであり,野生型のヒトサイトカインのアミノ酸配列に対し,1~3個のアミノ酸残基を欠失させ,1~3個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1~3個のアミノ酸残基を付加させたものもヒトサイトカインであり,野生型のヒトサイトカインのアミノ酸配列に対し,1又は2個のアミノ酸残基を欠失させ,1又は2個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1又は2個のアミノ酸残基を付加させたものもヒトサイトカインであり,野生型のヒトサイトカインのアミノ酸配列に対し,1個のアミノ酸残基を欠失させ,1個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1個のアミノ酸残基を付加させたものもヒトサイトカインである。ヒト以外の動物種のサイトカインについても同様である。また,インターロイキンについても同様である。
【0189】
ヒトサイトカイン変異体における通常の野生型ヒトサイトカインと比較したときの各変異の位置及びその形式(欠失,置換,及び付加)は,両ヒトサイトカインのアミノ酸配列のアラインメントにより,容易に確認することができる。ヒト以外の動物種のサイトカインについても同様である。また,インターロイキンについても同様である。
【0190】
ヒトサイトカイン変異体のアミノ酸配列は,通常の野生型ヒトサイトカインのアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,85%以上の同一性を示し,90%以上の同一性を示し,又は,95%以上の同一性を示し,例えば,98%以上,又は99%以上の同一性を示すものである。ヒト以外の動物種のサイトカインについても同様である。また,インターロイキンについても同様である。
【0191】
本明細書において,単に「ヒトインターロイキン10」,「ヒトIL-10」,又は「hIL-10」というときは,配列番号24で示される160個のアミノ酸残基からなる通常の野生型のhIL-10に加え,免疫反応を鎮静化する抑制性サイトカインとしての生理活性を有する等のhIL-10としての機能を有するものである限り,配列番号24で示されるアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,置換,欠失,及び/又は付加(本明細書において,アミノ酸残基の「付加」は,配列の末端又は内部に残基を追加することを意味する。)されたものに相当するhIL-10の変異体も特に区別することなく包含する。野生型のhIL-10は,例えば,配列番号49で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。ヒト以外の動物種のIL-10についても同様である。
【0192】
なお,ここで,hIL-10がhIL-10としての機能を有するというときは,hIL-10が,通常の野生型のhIL-10の比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性を保持することをいう。ここで比活性とは蛋白質の質量当たりの生理活性のことをいう。なお,hIL-10とその他の蛋白質との融合蛋白質の比活性は,融合蛋白質の中でhIL-10に相当する部分の質量当たりの生理活性として求められる。なお,ここで融合蛋白質におけるhIL-10の比活性は,当該融合蛋白質の単位質量当たりのhIL-10の生理活性に(当該融合蛋白質の分子量/当該融合蛋白質中のhIL-10に相当する部分の分子量)を乗じて算出される。ヒト以外の動物種のIL-10についても同様である。
【0193】
野生型のhIL-10のアミノ酸配列中のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基で置換する場合,置換するアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。野生型のhIL-10のアミノ酸配列中のアミノ酸残基を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。野生型のhIL-10のN末端又はC末端のアミノ酸残基を1個欠失させた159個のアミノ酸残基からなるhIL-10の変異体,野生型のhIL-10のN末端又はC末端のアミノ酸残基を2個欠失させた158個のアミノ酸残基からなるhIL-10の変異体等も,hIL-10である。また,これらアミノ酸残基の置換と欠失を組み合わせた変異を野生型のhIL-10のアミノ酸配列に加えることもできる。ヒト以外の動物種のIL-10についても同様である。
【0194】
野生型のhIL-10のアミノ酸配列にアミノ酸残基を付加する場合,アミノ酸残基はhIL-10のアミノ酸配列中に又は当該アミノ酸配列のN末端若しくはC末端に,1個又は複数個のアミノ酸残基が付加される。このとき付加されるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。また,これらアミノ酸残基の付加と上記の置換を組み合わせた変異を野生型のhIL-10のアミノ酸配列に加えることもでき,これらアミノ酸残基の付加と上記の欠失を組み合わせた変異を野生型のhIL-10のアミノ酸配列に加えることもできる。ヒト以外の動物種のIL-10についても同様である。
【0195】
更に,上記のアミノ酸残基の置換及び欠失,及び付加の3種類を組み合わせた変異を野生型のhIL-10のアミノ酸配列に加えることもできる。例えば,配列番号24で示される野生型のhIL-10のアミノ酸配列に対し,1~10個のアミノ酸残基を欠失させ,1~10個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1~10個のアミノ酸残基を付加させたものもhIL-10であり,配列番号24で示される野生型のhIL-10のアミノ酸配列に対し,1~5個のアミノ酸残基を欠失させ,1~5個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1~5個のアミノ酸残基を付加させたものもhIL-10であり,配列番号24で示される野生型のhIL-10のアミノ酸配列に対し,1~3個のアミノ酸残基を欠失させ,1~3個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1~3個のアミノ酸残基を付加させたものもhIL-10であり,配列番号24で示される野生型のhIL-10のアミノ酸配列に対し,1又は2個のアミノ酸残基を欠失させ,1又は2個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1又は2個のアミノ酸残基を付加させたものもhIL-10であり,配列番号24で示される野生型のhIL-10のアミノ酸配列に対し,1個のアミノ酸残基を欠失させ,1個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1個のアミノ酸残基を付加させたものもhIL-10である。ヒト以外の動物種のIL-10についても同様である。
【0196】
hIL-10変異体における通常の野生型hIL-10と比較したときの各変異の位置及びその形式(欠失,置換,及び付加)は,両hIL-10のアミノ酸配列のアラインメントにより,容易に確認することができる。ヒト以外の動物種のIL-10についても同様である。
【0197】
hIL-10変異体のアミノ酸配列は,配列番号24で示される通常の野生型hIL-10のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,85%以上の同一性を示し,90%以上の同一性を示し,又は,95%以上の同一性を示し,例えば,98%以上,又は99%以上の同一性を示すものである。ヒト以外の動物種のIL-10についても同様である。
【0198】
野生型ヒトサイトカインのアミノ酸配列中のアミノ酸の他のアミノ酸への置換,野生型ヒトサイトカインのアミノ酸配列中のアミノ酸の他のアミノ酸への置換,及び野生型hIL-10のアミノ酸配列中のアミノ酸の他のアミノ酸への置換は,好ましくは保存的アミノ酸置換である。ヒト以外の動物種のサイトカイン,インターロイキン及びIL-10についても同様である。
【0199】
上記の野生型又は変異型のヒトサイトカインであって,これを構成するアミノ酸が糖鎖により修飾されたものもヒトサイトカインである。また,上記の野生型又は変異型のヒトサイトカインであって,これを構成するアミノ酸がリン酸により修飾されたものもヒトサイトカインである。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものもヒトサイトカインである。また,上記の野生型又は変異型のヒトサイトカインであって,これを構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものもヒトサイトカインである。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒト以外の動物種のサイトカインについても同様である。また,インターロイキン及びIL-10についても同様である。
【0200】
つまり,糖鎖により修飾されたヒトサイトカインは,元のアミノ酸配列を有するヒトサイトカインに含まれるものとする。また,リン酸により修飾されたヒトサイトカインは,元のアミノ酸配列を有するヒトサイトカインに含まれるものとする。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものも,元のアミノ酸配列を有するヒトサイトカインに含まれるものとする。また,ヒトサイトカインを構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものも,元のアミノ酸配列を有するヒトサイトカインに含まれるものとする。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒト以外の動物種のサイトカインについても同様である。また,インターロイキン及びIL-10についても同様である。
【0201】
本発明の一実施形態において,野生型のヒトサイトカインは,HSAと融合させた組換え蛋白質として製造される。かかる融合蛋白質は,CHO等の宿主細胞を用いて組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,野生型ヒトサイトカインを同様の手法により組換え蛋白質として発現させたときと比較して,培養上清中のヒトサイトカインとしての発現量が,濃度あるいは生理活性換算で,少なくとも1.1倍以上,1.2倍以上,1.5倍以上,2倍以上,2.5倍以上,又は3.5倍以上,例えば,1.1~4倍,1.5~3.6倍,2~3.6倍,3~4倍等となるようにすることができる。
【0202】
また,本発明の一実施形態において,hIL-10が,HSAと融合させた組換え蛋白質として製造される。かかる融合蛋白質は,CHO等の宿主細胞を用いて組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,野生型hIL-10を同様の手法により組換え蛋白質として発現させたときと比較して,培養上清中のhIL-10としての発現量が,濃度あるいは生理活性換算で,少なくとも1.1倍以上,1.2倍以上,1.5倍以上,2倍以上,2.5倍以上,又は3.5倍以上,例えば,1.1~4倍,1.5~3.6倍,2~3.6倍,3~4倍等となるようにすることができる。
【0203】
つまり,本発明の一実施形態は,サイトカインのアミノ酸配列を含むポリペプチドと,SAのアミノ酸配列を含むポリペプチドとを結合させた,融合蛋白質である。ここで,「ポリペプチドを結合させる」というときは,直接又はリンカーを介して間接的に,共有結合により異なるポリペプチドを結合させることをいう。ここで,サイトカイン及びSAは好ましくはヒト由来のものである。
【0204】
また,本発明の一実施形態は,IL-10のアミノ酸配列を含むポリペプチドと,SAのアミノ酸配列を含むポリペプチドとを結合させた,融合蛋白質である。ここで,「ポリペプチドを結合させる」というときは,直接又はリンカーを介して間接的に,共有結合により異なるポリペプチドを結合させることをいう。ここで,IL-10及びSAは好ましくはヒト由来のものである。
【0205】
2つの異なるポリペプチドを結合させる方法としては,例えば,一方のポリペプチドをコードする遺伝子の下流に,インフレームで他方のポリペプチドをコードする遺伝子を結合させたDNA断片を組み込んだ発現ベクターを作製し,この発現ベクターを用いて形質転換させた宿主細胞を培養することにより,組換え蛋白質として発現させる方法が一般的である。得られた組換え蛋白質は,2つのポリペプチドが,直接又は別のアミノ酸配列を介してペプチド結合した,一本鎖ポリペプチドである。
【0206】
本発明の一実施形態において,「SA-ヒトサイトカイン融合蛋白質」又は「SA-ヒトサイトカイン」の語は,SAのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,ヒトサイトカインのアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,ヒトサイトカインとしての機能を有するものを示す。ここで,SAの動物種に特に限定はないが,好ましくは哺乳動物のSAであり,より好ましくは霊長類のSAであり,更に好ましくはHSAである。SA-ヒトサイトカイン融合蛋白質において,ヒトサイトカインがヒトサイトカインとしての機能を有するというときは,ヒトサイトカインが,通常の野生型のヒトサイトカインの比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性を保持することをいう。なお,ここでSA-ヒトサイトカイン融合蛋白質におけるヒトサイトカインの比活性は,当該融合蛋白質の単位質量当たりのヒトサイトカインの生理活性に(当該融合蛋白質の分子量/当該融合蛋白質中のヒトサイトカインに相当する部分の分子量)を乗じて算出される。
【0207】
本発明の一実施形態において,「HSA-ヒトサイトカイン融合蛋白質」又は「HSA-ヒトサイトカイン」の語は,HSAのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,ヒトサイトカインのアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,ヒトサイトカインとしての機能を有するものを示す。ここでHSA-ヒトサイトカイン融合蛋白質がヒトサイトカインとしての機能を有するというときは,上記のSA-ヒトサイトカイン融合蛋白質における定義を適用することができる。
【0208】
SA-ヒトサイトカイン融合蛋白質において,SAは血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等のSAとしての機能を有するものであることが好ましいが,これに限定されない。HSA-ヒトリソソーム酵素融合蛋白質においても同様である。
【0209】
野生型HSAと野生型ヒトサイトカインとの融合蛋白質であるHSA-ヒトサイトカイン融合蛋白質に変異を加える場合,HSA部分にのみ変異を加えヒトサイトカイン部分には変異を加えないことも,HSA部分には変異を加えずにヒトサイトカイン部分にのみ変異を加えることも,また,HSA部分とヒトサイトカイン部分の何れにも変異を加えることもできる。HSA部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となる。ヒトサイトカイン部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型ヒトサイトカインに変異が加えられたヒトサイトカインのアミノ酸配列となる。HSA部分とヒトサイトカイン部分の何れにも変異を加える場合にあっては,HSA部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となり,ヒトサイトカイン部分のアミノ酸配列は上述した野生型ヒトサイトカインに変異が加えられたヒトサイトカインのアミノ酸配列となる。ヒト以外の動物種の野生型のSAとヒトサイトカインとの融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0210】
HSA-ヒトサイトカイン融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸が糖鎖により修飾されたものもHSA-ヒトサイトカイン融合蛋白質である。また,HSA-ヒトサイトカイン融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸がリン酸により修飾されたものもHSA-ヒトサイトカイン融合蛋白質である。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものもHSA-ヒトサイトカイン融合蛋白質である。また,HSA-ヒトサイトカイン融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものもHSA-ヒトサイトカイン融合蛋白質である。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒト以外の動物種のSAとヒトサイトカインとの融合蛋白質(SA-ヒトサイトカイン)についても同様のことがいえる。
【0211】
つまり,糖鎖により修飾されたHSA-ヒトサイトカイン融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するHSA-ヒトサイトカイン融合蛋白質に含まれるものとする。また,リン酸により修飾されたHSA-ヒトサイトカイン融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するHSA-ヒトサイトカイン融合蛋白質に含まれるものとする。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものも,元のアミノ酸配列を有するHSA-ヒトサイトカイン融合蛋白質に含まれるものとする。また,HSA-ヒトサイトカイン融合蛋白質を構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものも,元のアミノ酸配列を有するHSA-ヒトサイトカイン融合蛋白質に含まれるものとする。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。その他の動物のSAとヒトサイトカインとの融合蛋白質(SA-ヒトサイトカイン)についても同様のことがいえる。ヒト以外の動物種のSAとヒトサイトカインとの融合蛋白質(SA-ヒトサイトカイン)についても同様のことがいえる。
【0212】
また,HSA-ヒトサイトカイン融合蛋白質であって,これを構成するヒトサイトカインが,ヒトサイトカインの前駆体であるものもHSA-ヒトサイトカイン融合蛋白質である。ここで前駆体というときは,HSA-ヒトサイトカイン融合蛋白質として生合成されたものであって,当該生合成後に,ヒトサイトカインとして機能する部分が,製造過程において又は生体に投与したときに当該生体内において,当該融合蛋白質から切り離されて,単独でもヒトサイトカインとしての機能を発揮することができるタイプのものをいう。この場合,HSA-ヒトサイトカイン融合蛋白質は生合成された後に,加水分解酵素等により,特定の箇所で切断され,HSAを含む部分と成熟型のヒトサイトカインを含む部分とが分離することがある。この場合,得られるヒトサイトカインはHSAとの融合蛋白質ではないが,当該サイトカインが製造される過程で,一旦,HSA-ヒトサイトカイン融合蛋白質が合成されることになる。従って,かかる方法によりヒトサイトカインを製造する場合,当該製造方法は,HSA-ヒトサイトカインの製造方法に含まれる。ヒト以外の動物種のSAとヒトサイトカインとの融合蛋白質(SA-ヒトサイトカイン),及びヒト以外の動物種のSAとヒト以外の動物種のサイトカインとの融合蛋白質,例えばMSA-マウスサイトカイン融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0213】
本発明の一実施形態において,「SA-hIL-10融合蛋白質」又は「SA-hIL-10」の語は,SAのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,hIL-10のアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,hIL-10としての機能を有するものを示す。ここで,SAの動物種に特に限定はないが,好ましくは哺乳動物のSAであり,より好ましくは霊長類のSAであり,更に好ましくはHSAである。SA-hIL-10融合蛋白質において,hIL-10がhIL-10としての機能を有するというときは,hIL-10が,通常の野生型のhIL-10の比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性を保持することをいう。なお,ここでSA-hIL-10融合蛋白質におけるhIL-10の比活性は,当該融合蛋白質の単位質量当たりのhIL-10の生理活性に(当該融合蛋白質の分子量/当該融合蛋白質中のhIL-10に相当する部分の分子量)を乗じて算出される。
【0214】
本発明の一実施形態において,「HSA-hIL-10融合蛋白質」又は「HSA-hIL-10」の語は,HSAのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,hIL-10のアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,hIL-10としての機能を有するものを示す。ここでHSA-hIL-10融合蛋白質がhIL-10としての機能を有するというときは,上記のSA-hIL-10融合蛋白質における定義を適用することができる。また,これら融合蛋白質において,SAは血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等のSAとしての機能を有するものであることが好ましいが,これに限定されない。
【0215】
本発明の一実施形態において好ましいHSA-hIL-10融合蛋白質は,例えば配列番号50で示されるアミノ酸配列を有するものである。配列番号50で示されるHSA-hIL-10融合蛋白質は,野生型HSAのC末端に直接野生型hIL-10が結合したものである。配列番号50で示されるHSA-hIL-10融合蛋白質は,例えば,配列番号51で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。また,配列番号50で示されるアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,他のアミノ酸残基へ置換され,欠失し,或いは付加等の変異が加えられたアミノ酸配列を有するものも,hIL-10としての機能を有するものである限りHSA-hIL-10融合蛋白質に含まれる。HSA-hIL-10融合蛋白質は,血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等のヒト血清アルブミンとしての機能を有するものであることが好ましいが,これに限定されない。
【0216】
配列番号50で示されるアミノ酸配列に変異を加えたときの各変異の位置及びその形式(欠失,置換,及び付加)は,変異前後のアミノ酸配列のアラインメントにより,容易に確認することができる。変異を加えたアミノ酸配列は,配列番号50で示されるアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,85%以上の同一性を示し,90%以上の同一性を示し,又は,95%以上の同一性を示し,例えば,98%以上,又は99%以上の同一性を示すものである。
【0217】
野生型HSAと野生型hIL-10との融合蛋白質であるHSA-hIL-10融合蛋白質に変異を加える場合,HSA部分にのみ変異を加えhIL-10部分には変異を加えないことも,HSA部分には変異を加えずにhIL-10部分にのみ変異を加えることも,また,HSA部分とhIL-10部分の何れにも変異を加えることもできる。HSA部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となる。hIL-10部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型hIL-10に変異が加えられたhIL-10のアミノ酸配列となる。HSA部分とhIL-10部分の何れにも変異を加える場合にあっては,HSA部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となり,hIL-10部分のアミノ酸配列は上述した野生型hIL-10に変異が加えられたhIL-10のアミノ酸配列となる。配列番号50で示されるアミノ酸配列を有するHSA-hIL-10融合蛋白質についても同様である。ヒト以外の動物種の野生型SAと野生型hIL-10との融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0218】
配列番号50で示されるアミノ酸配列を有するHSA-hIL-10融合蛋白質に変異を加える場合について,以下例示する。配列番号50で示されるアミノ酸配列中のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基で置換する場合,置換するアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。アミノ酸残基を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。アミノ酸残基を付加する場合,アミノ酸残基は配列番号50で示されるアミノ酸配列中に又は当該アミノ酸配列のN末端若しくはC末端に,1個又は複数個のアミノ酸残基が付加される。HSA-hIL-10融合蛋白質は,これらアミノ酸残基の置換,欠失,及び付加を組み合わせたものであってもよい。変異は,HSA部分にのみ加えても,hIL-10部分にのみ加えても,又は両方の部分に加えてもよい。
【0219】
配列番号50で示されるアミノ酸配列に変異を加えたときの各変異の位置及びその形式(欠失,置換,及び付加)は,変異前後のアミノ酸配列のアラインメントにより,容易に確認することができる。変異を加えたアミノ酸配列は,配列番号50で示されるアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,85%以上の同一性を示し,90%以上の同一性を示し,又は,95%以上の同一性を示し,例えば,98%以上,又は99%以上の同一性を示すものである。
【0220】
HSA-hIL-10融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸が糖鎖により修飾されたものもHSA-hIL-10融合蛋白質である。また,HSA-hIL-10融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸がリン酸により修飾されたものもHSA-hIL-10融合蛋白質である。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものもHSA-hIL-10融合蛋白質である。また,HSA-hIL-10融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものもHSA-hIL-10融合蛋白質である。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。その他の動物のSAとhIL-10との融合蛋白質(SA-hIL-10)についても同様のことがいえる。ヒト以外の動物種のSAとhIL-10との融合蛋白質(SA-hIL-10)についても同様のことがいえる。
【0221】
つまり,糖鎖により修飾されたHSA-hIL-10融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するHSA-hIL-10融合蛋白質に含まれるものとする。また,リン酸により修飾されたHSA-hIL-10融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するHSA-hIL-10融合蛋白質に含まれるものとする。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものも,元のアミノ酸配列を有するHSA-hIL-10融合蛋白質に含まれるものとする。また,HSA-hIL-10融合蛋白質を構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものも,元のアミノ酸配列を有するHSA-hIL-10融合蛋白質に含まれるものとする。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒト以外の動物種のSAとhIL-10との融合蛋白質(SA-hIL-10)についても同様のことがいえる。
【0222】
また,HSA-hIL-10融合蛋白質であって,これを構成するhIL-10が,hIL-10の前駆体であるものもHSA-hIL-10融合蛋白質である。ここで前駆体というときは,HSA-hIL-10融合蛋白質として生合成されたものであって,当該生合成後に,hIL-10として機能する部分が,製造過程において又は生体に投与したときに当該生体内において,当該融合蛋白質から切り離されて,単独でもhIL-10としての機能を発揮することができるタイプのものをいう。この場合,HSA-hIL-10融合蛋白質は生合成された後に,加水分解酵素等により,特定の箇所で切断され,HSAを含む部分と成熟型のhIL-10を含む部分が分離することがある。この場合,得られるhIL-10はHSAとの融合蛋白質ではないが,当該hIL-10が合成される過程で,一旦,HSA-hIL-10融合蛋白質が合成されることになる。従って,かかる方法によりhIL-10を製造する場合,当該製造方法は,HSA-hIL-10融合蛋白質の製造方法に含まれる。ヒト以外の動物種のSAとhIL-10との融合蛋白質(SA-hIL-10)についても同様のことがいえる。
【0223】
本発明の一実施形態において,「ヒトサイトカイン-SA融合蛋白質」又は「ヒトサイトカイン-SA」の語は,ヒトサイトカインのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,SAのアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,ヒトサイトカインとしての機能を有するものを示す。ヒトサイトカイン-SA融合蛋白質において,ヒトサイトカインがヒトサイトカインとしての機能を有するというときは,ヒトサイトカインが,通常の野生型のヒトサイトカインの比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性を保持することをいう。なお,ここでヒトサイトカイン-SA融合蛋白質におけるヒトサイトカインの比活性は,当該融合蛋白質の単位質量当たりのヒトサイトカインの生理活性に(当該融合蛋白質の分子量/当該融合蛋白質中のヒトサイトカインに相当する部分の分子量)を乗じて算出される。
【0224】
本発明の一実施形態において,「ヒトサイトカイン-HSA融合蛋白質」又は「ヒトサイトカイン-HSA」の語は,ヒトサイトカインのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,HSAのアミノ酸配列のN末端が結合されている,アミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,ヒトサイトカインとしての機能を有するものを示す。ここでヒトサイトカイン-HSA融合蛋白質がヒトサイトカインとしての機能を有するというときは,上記のヒトサイトカイン-SAにおける定義を採用することができる。
【0225】
ヒトサイトカイン-SA融合蛋白質において,SAは血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等のSAとしての機能を有するものであることが好ましいが,これに限定されない。ヒトサイトカイン-HSA融合蛋白質においても同様である。
【0226】
野生型ヒトサイトカインと野生型HSAとの融合蛋白質であるヒトサイトカイン-HSA融合蛋白質に変異を加える場合,ヒトサイトカイン部分にのみ変異を加えHSA部分には変異を加えないことも,ヒトサイトカイン部分には変異を加えずにHSA部分にのみ変異を加えることも,また,ヒトサイトカイン部分とHSA部分の何れにも変異を加えることもできる。ヒトサイトカイン部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型ヒトサイトカインに変異が加えられたヒトサイトカインのアミノ酸配列となる。HSA部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となる。ヒトサイトカイン部分とHSA部分の何れにも変異を加える場合にあっては,ヒトサイトカイン部分のアミノ酸配列は上述した野生型ヒトサイトカインに変異が加えられたヒトサイトカインのアミノ酸配列となり,HSA部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となる。野生型ヒトサイトカインとそのヒト以外の動物種の野生型SAとの融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0227】
ヒトサイトカイン-HSA融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸が糖鎖により修飾されたものもヒトサイトカイン-HSA融合蛋白質である。また,ヒトサイトカイン-HSA融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸がリン酸により修飾されたものもヒトサイトカイン-HSA融合蛋白質である。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものもヒトサイトカイン-HSA融合蛋白質である。また,ヒトサイトカイン-HSA融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものもヒトサイトカイン-HSA融合蛋白質である。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒトサイトカインとヒト以外の動物種のSAとの融合蛋白質(ヒトサイトカイン-SA)についても同様のことがいえる。
【0228】
つまり,糖鎖により修飾されたヒトサイトカイン-HSA融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するヒトサイトカイン-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。また,リン酸により修飾されたヒトサイトカイン-HSA融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するヒトサイトカイン-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものも,元のアミノ酸配列を有するヒトサイトカイン-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。また,ヒトサイトカイン-HSA融合蛋白質を構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものも,元のアミノ酸配列を有するヒトサイトカイン-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒトサイトカインとヒト以外の動物種のSAとの融合蛋白質(ヒトサイトカイン-SA)についても同様のことがいえる。
【0229】
また,ヒトサイトカイン-HSA融合蛋白質であって,これを構成するヒトサイトカインが,ヒトサイトカインの前駆体であるものもヒトサイトカイン-HSA融合蛋白質である。ヒトサイトカインとヒト以外の動物種のSAとの融合蛋白質(ヒトサイトカイン-SA)についても同様のことがいえる。
【0230】
本発明の一実施形態において,「hIL-10-SA融合蛋白質」又は「hIL-10-SA」の語は,hIL-10のアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,SAのアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,hIL-10としての機能を有するものを示す。hIL-10-SA融合蛋白質において,hIL-10がhIL-10としての機能を有するというときは,hIL-10が,通常の野生型のhIL-10の比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性を保持することをいう。なお,ここでhIL-10-SA融合蛋白質におけるhIL-10の比活性は,当該融合蛋白質の単位質量当たりのhIL-10の生理活性に(当該融合蛋白質の分子量/当該融合蛋白質中のhIL-10に相当する部分の分子量)を乗じて算出される。
【0231】
本発明の一実施形態において,「hIL-10-HSA融合蛋白質」又は「hIL-10-HSA」の語は,hIL-10のアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,HSAのアミノ酸配列のN末端が結合されている,アミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,hIL-10としての機能を有するものを示す。ここでhIL-10-HSA融合蛋白質がhIL-10としての機能を有するというときは,上記のhIL-10-SAにおける定義を適用することができる。また,これら融合蛋白質において,SAは血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等のSAとしての機能を有するものであることが好ましいが,これに限定されない。
【0232】
本発明の一実施形態において好ましいhIL-10-HSA融合蛋白質は,例えば配列番号52で示されるアミノ酸配列を有するものである。配列番号52で示されるhIL-10-HSA融合蛋白質は,野生型hIL-10のC末端に直接野生型HSAが結合したものである。配列番号52で示されるhIL-10-HSA融合蛋白質は,例えば,配列番号53で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。また,配列番号52で示されるアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,他のアミノ酸残基へ置換され,欠失し,或いは付加等の変異が加えられたアミノ酸配列を有するものも,hIL-10としての機能を有するものである限りhIL-10-HSA融合蛋白質に含まれる。hIL-10-HSA融合蛋白質は,血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等のヒト血清アルブミンとしての機能を有するものであることが好ましいが,これに限定されない。
【0233】
配列番号52で示されるアミノ酸配列に変異を加えたときの各変異の位置及びその形式(欠失,置換,及び付加)は,変異前後のアミノ酸配列のアラインメントにより,容易に確認することができる。変異を加えたアミノ酸配列は,配列番号52で示されるアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,85%以上の同一性を示し,90%以上の同一性を示し,又は,95%以上の同一性を示し,例えば,98%以上,又は99%以上の同一性を示すものである。
【0234】
野生型hIL-10と野生型HSAとの融合蛋白質であるhIL-10-HSA融合蛋白質に変異を加える場合,HSA部分にのみ変異を加えhIL-10部分には変異を加えないことも,HSA部分には変異を加えずにhIL-10部分にのみ変異を加えることも,また,HSA部分とhIL-10部分の何れにも変異を加えることもできる。HSA部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となる。hIL-10部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型hIL-10に変異が加えられたhIL-10のアミノ酸配列となる。HSA部分とhIL-10部分の何れにも変異を加える場合にあっては,HSA部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となり,hIL-10部分のアミノ酸配列は上述した野生型hIL-10に変異が加えられたhIL-10のアミノ酸配列となる。配列番号52で示されるアミノ酸配列を有するhIL-10-HSA融合蛋白質についても同様である。野生型hIL-10とヒト以外の動物種の野生型SA(hIL-10-SA)との融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0235】
配列番号52で示されるアミノ酸配列を有するhIL-10-HSA融合蛋白質に変異を加える場合について,以下例示する。配列番号52で示されるアミノ酸配列中のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基で置換する場合,置換するアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。アミノ酸残基を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。アミノ酸残基を付加する場合,アミノ酸残基は配列番号52で示されるアミノ酸配列中に又は当該アミノ酸配列のN末端若しくはC末端に,1個又は複数個のアミノ酸残基が付加される。hIL-10-HSA融合蛋白質は,これらアミノ酸残基の置換,欠失,及び付加を組み合わせたものであってもよい。変異は,HSA部分にのみ加えても,hIL-10部分にのみ加えても,又は両方の部分に加えてもよい。
【0236】
配列番号52で示されるアミノ酸配列に変異を加えたときの各変異の位置及びその形式(欠失,置換,及び付加)は,変異前後のアミノ酸配列のアラインメントにより,容易に確認することができる。変異を加えたアミノ酸配列は,配列番号52で示されるアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,85%以上の同一性を示し,90%以上の同一性を示し,又は,95%以上の同一性を示し,例えば,98%以上,又は99%以上の同一性を示すものである。
【0237】
hIL-10-HSA融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸が糖鎖により修飾されたものもhIL-10-HSA融合蛋白質である。また,hIL-10-HSA融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸がリン酸により修飾されたものもhIL-10-HSA融合蛋白質である。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものもhIL-10-HSA融合蛋白質である。また,hIL-10-HSA融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものもhIL-10-HSA融合蛋白質である。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒト以外の動物種のSAとhIL-10との融合蛋白質(SA-hIL-10)についても同様のことがいえる。
【0238】
つまり,糖鎖により修飾されたhIL-10-HSA融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するhIL-10-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。また,リン酸により修飾されたhIL-10-HSA融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するhIL-10-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものも,元のアミノ酸配列を有するhIL-10-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。また,hIL-10-HSA融合蛋白質を構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものも,元のアミノ酸配列を有するhIL-10-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒト以外の動物種のSAとhIL-10との融合蛋白質(SA-hIL-10)についても同様のことがいえる。
【0239】
また,hIL-10-HSA融合蛋白質であって,これを構成するhIL-10が,hIL-10の前駆体であるものもhIL-10-HSA融合蛋白質である。ヒト以外の動物種のSAとhIL-10との融合蛋白質(SA-hIL-10)についても同様のことがいえる。ヒト以外の動物種のSAとhIL-10との融合蛋白質(SA-hIL-10),及びヒト以外の動物種のSAとヒト以外の動物種のIL-10との融合蛋白質,例えばMSA-マウスIL-10との融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0240】
本発明の一実施形態において,「HSAとヒトサイトカインとの融合蛋白質」,「ヒトサイトカインとHSAとの融合蛋白質」,又は「ヒト血清アルブミンとヒトサイトカインとの融合蛋白質」,というときは,上記の「HSA-ヒトサイトカイン融合蛋白質」及び「ヒトサイトカインHSA融合蛋白質」のいずれをも含むものとする。また,「HSAとhIL-10との融合蛋白質」,「hIL-10とHSAとの融合蛋白質」,又は「ヒト血清アルブミンとヒトサイトカイン10との融合蛋白質」,というときは,上記の「HSA-hIL-10融合蛋白質」及び「hIL-10-HSA融合蛋白質」のいずれをも含むものとする。
【0241】
以下,HSAとhIL-10との融合蛋白質について製造法等につき詳述するが,これらの記載事項は,サイトカインがIL-10以外のものである場合,SAがヒト以外の動物種である場合,サイトカインがヒト以外の動物種である場合にも適用され得る。例えば,ヒト以外の動物種のSAとhIL-10との融合蛋白質,ヒト以外の動物種のSAとヒト以外の動物種のIL-10との融合蛋白質についても適用される。
【0242】
本発明の一実施形態の融合蛋白質において,SAとサイトカインとは,直接又はリンカーを介して結合される。ここで,「リンカー」というときは,SAのアミノ酸配列とサイトカインのアミノ酸配列のいずれにも属さない部分のことをいう。つまり,リンカーはSAとサイトカインとの間に介在するペプチド鎖のことである。リンカーは,種々の機能を有する。その機能には,SAとサイトカインとの間にあってSAとサイトカインとを結合する機能の他,SA及びサイトカインの,融合蛋白質分子内での距離を離すことにより相互の干渉を低減させる機能,SAとサイトカインとの間にあってSAとサイトカインとを連結するヒンジとなって,融合蛋白質の立体構造に柔軟性を与える機能等が含まれる。融合蛋白質の分子内において,リンカーは,これら機能の少なくとも一つを発揮する。このことは,例えばSAがHSAであっても,また例えばサイトカインがヒトサイトカイン,例えばhIL-10であっても,同様である。
【0243】
SAとサイトカインとの融合蛋白質において,ペプチドリンカーのアミノ酸配列は,融合蛋白質分子の中にあって,リンカーとしての機能が発揮されるものである限り特に限定はない。また,ペプチドリンカーの長さにも,融合蛋白質分子の中にあって,リンカーとしての機能が発揮されるものである限り特に限定はない。ペプチドリンカーは一個又は複数個のアミノ酸から構成されるものである。ペプチドリンカーが複数個のアミノ酸から構成される場合,そのアミノ酸の個数は,好ましくは2~50個であり,より好ましくは5~30個であり,更に好ましくは10~25個である。ペプチドリンカーの好適な例として,Gly-Ser,Gly-Gly-Ser,又は配列番号9~11で示されるアミノ酸配列(これらをあわせて基本配列という)からなるもの,及びこれらを含むものが挙げられる。例えば,ペプチドリンカーは,基本配列が2~10回反復したアミノ酸配列を含むものであり,基本配列が2~6回反復したアミノ酸配列を含むものであり,基本配列が3~5回反復したアミノ酸配列を含むものである。これらのアミノ酸配列中の1個又は複数個のアミノ酸が,欠失,他のアミノ酸へ置換,付加等されたものであってもよい。アミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1又は2個である。アミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1又は2個である。アミノ酸を付加する場合,付加されるアミノ酸の個数は,好ましくは1又は2個である。これらアミノ酸の欠失,置換,及び付加を組み合わせて,所望のリンカー部のアミノ酸配列とすることもできる。ペプチドリンカーは一つのアミノ酸からなるものであってもよく,リンカーを構成するアミノ酸は,例えばグリシン,セリンである。
【0244】
HSAとhIL-10との融合蛋白質は,HSAをコードする遺伝子の下流又は上流に,インフレームでhIL-10をコードする遺伝子を結合させたDNA断片を組み込んだ発現ベクターを作製し,この発現ベクターを導入して形質転換させた宿主細胞を培養することにより,組換え蛋白質として作製することができる。このようにして組換え蛋白質として作製される融合蛋白質は,一本鎖ポリペプチドからなる。
【0245】
組換え融合蛋白質として融合蛋白質を作製する場合,HSAをコードする遺伝子の下流にインフレームでhIL-10をコードする遺伝子を結合させることにより,HSAのアミノ酸配列のC末端にhIL-10のアミノ酸配列を有するHSA-hIL-10融合蛋白質を得ることができる。逆に,HSAをコードする遺伝子の上流にインフレームでhIL-10をコードする遺伝子を結合させることにより,HSAのアミノ酸配列のN末端にhIL-10のアミノ酸配列を有するhIL-10-HSA融合蛋白質が得られる。いずれの場合においても,組換え融合蛋白質として作製される融合蛋白質は,一本鎖ポリペプチドである。
【0246】
融合蛋白質の一本鎖ポリペプチド内で,HSAのアミノ酸配列がhIL-10のアミノ酸配列のN末端側に位置する場合,HSAのC末端とhIL-10のN末端が,ペプチド結合により直接,又はリンカーを介して結合される。図5にN末端側からHSA,リンカー及びhIL-10を順に有する一本鎖ポリペプチドのHSA-hIL-10融合蛋白質を模式的に示す。該HSA-hIL-10融合蛋白質はHSAのC末端と該リンカーのN末端がペプチド結合により結合し,該リンカーのC末端とhIL-10のN末端がペプチド結合により結合したものである。
【0247】
また,融合蛋白質の一本鎖ポリペプチド内で,hIL-10のアミノ酸配列がHSAのアミノ酸配列のN末端に位置する場合,hIL-10のC末端とHSAのN末端が,ペプチド結合により直接,又はリンカーを介して結合される。図6にN末端側からhIL-10,リンカー及びHSAを順に有する一本鎖ポリペプチドのhIL-10-HSA融合蛋白質を模式的に示す。該hIL-10-HSA融合蛋白質はhIL-10のC末端と該リンカーのN末端がペプチド結合により結合し,該リンカーのC末端とHSAのN末端がペプチド結合により結合したものである。
【0248】
本発明の一実施形態において,HSAとhIL-10との融合蛋白質というときは,組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,同一条件で野生型のhIL-10を組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたときと比較して,培養上清中のhIL-10としての発現量が,濃度あるいは生理活性換算で,少なくとも1.1倍以上,1.2倍以上,1.5倍以上,2倍以上,2.5倍以上,又は3.5倍以上,例えば,1.1~4倍,1.5~3.6倍,2~3.6倍,3~4倍等となることを特徴とする融合蛋白質である。ここで同一条件下とは,発現ベクター,宿主細胞,培養条件等が同一であることをいう。このとき用いられる好ましい宿主細胞は,CHO細胞,NS/0細胞等の哺乳動物細胞であるが,特にCHO細胞である。
【0249】
かかるHSAとhIL-10との融合蛋白質の好ましい実施形態として,以下の(1)~(4)が挙げられる:
(1)配列番号3で示される野生型のHSAのアミノ酸配列のC末端に,配列番号24で示される野生型のhIL-10のアミノ酸配列のN末端が直接結合したものである,配列番号50で示されるアミノ酸配列を有するもの,
(2)配列番号24で示される野生型のhIL-10のアミノ酸配列のC末端に,配列番号3で示される野生型のHSAのアミノ酸配列のN末端が直接結合したものである,配列番号52で示されるアミノ酸配列を有するもの。
(3)配列番号3で示される野生型のHSAのアミノ酸配列のC末端に,配列番号24で示される野生型のhIL-10のアミノ酸配列のN末端が配列番号9で示されるリンカーを介して結合したものである,配列番号54で示されるアミノ酸配列を有するもの,
(4)配列番号24で示される野生型のhIL-10のアミノ酸配列のC末端に,配列番号3で示される野生型のHSAのアミノ酸配列のN末端が配列番号9で示されるリンカーを介して結合したものである,配列番号55で示されるアミノ酸配列を有するもの。
【0250】
また,かかるHSAとhIL-10との融合蛋白質の好ましい実施形態として,配列番号3で示される野生型のHSAのアミノ酸配列のN末端から320番目のアミノ酸残基であるアラニンをトレオニンで置換させた,配列番号13で示される585個のアミノ酸からなるヒト血清アルブミン(HSA-A320T)を用いたものである,以下の(5)~(8)がさらに挙げられる:
(5)配列番号13で示されるヒト血清アルブミン(HSA-A320T)のアミノ酸配列のC末端に,配列番号24で示される野生型のhIL-10のアミノ酸配列のN末端が直接結合したものである,配列番号56で示されるアミノ酸配列を有するもの,
(6)配列番号24で示される野生型のhIL-10のアミノ酸配列のC末端に,配列番号13で示されるヒト血清アルブミン(HSA-A320T)のアミノ酸配列のN末端が直接結合したものである,全体として配列番号57で示されるアミノ酸配列を有するもの。
(7)配列番号13で示されるヒト血清アルブミン(HSA-A320T)のアミノ酸配列のC末端に,配列番号24で示される野生型のhIL-10のアミノ酸配列のN末端が配列番号9で示されるリンカーを介して結合したものである,配列番号58で示されるアミノ酸配列を有するもの,
(8)配列番号24で示される野生型のhIL-10のアミノ酸配列のC末端に,配列番号13で示されるヒト血清アルブミン(HSA-A320T)のアミノ酸配列のN末端が配列番号9で示されるリンカーを介して結合したものである,配列番号59で示されるアミノ酸配列を有するもの。
【0251】
本発明の一実施形態におけるHSAとhIL-10との融合蛋白質は,組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,同一条件下で野生型のhIL-10を組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたときと比較して,培養上清中のhIL-10としての発現量が,濃度あるいは生理活性換算で増加することを特徴とするものである。従って,HSAとhIL-10との融合蛋白質は,組換え蛋白質として製造したときに,野生型のhIL-10と比較して生産効率を上昇させることができるので,生産コストを低減することができる。なお,組換え蛋白質を有効成分として含有する医薬品は,非常に高価であることが知られている。従って,同一条件で製造したときに得られる組換え蛋白質の量を数パーセント,例えば3~9%上昇させることにも,多大な経済的効果がある。同様のことは,サイトカイン,例えばhIL-10についてもいえる。
【0252】
なお,本明細書において,組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたHSAとhIL-10との融合蛋白質と,同一条件下で組換え蛋白質として宿主細胞で発現させた野生型のhIL-10の,発現量を比較するときは,発現した蛋白質の質量で比較するのではなく,発現した蛋白質の分子数またはhIL-10生理活性で比較するものとする。ヒト以外の動物種のSAとhIL-10との融合蛋白質,SAとその他のサイトカインとの融合蛋白質についても同様とする。
【0253】
HSAとhIL-10との融合蛋白質は,上述したHSAとhGALCとの融合蛋白質又はHSAとhGBAとの融合蛋白質を製造するために用いることのできる,発現ベクター,宿主細胞,培地等を用いて製造することができる。なお,これに限らず,SAとサイトカインとの融合蛋白質全般についても同様のことがいえる。
が好まし
【0254】
HSAとhIL-10との融合蛋白質は,これをコードする遺伝子を組み込んだ発現ベクターを導入した宿主細胞を上記の無血清培地で培養して組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,同一条件で野生型のhIL-10を組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたときと比較して,培養上清中のhIL-10としての発現量が,濃度あるいは生理活性換算で,少なくとも1.1倍以上,1.2倍以上,1.5倍以上,2倍以上,2.5倍以上,又は3.5倍以上,例えば,1.1~4倍,1.5~3.6倍,2~3.6倍,3~4倍等となることを特徴とする。ここで同一条件下とは,発現ベクター,宿主細胞,培養条件等が同一であることをいう。このとき用いられる宿主細胞は,好ましくは哺乳動物細胞,特に,CHO細胞,NS/0細胞等の組換え蛋白質の製造に用いられる通常の細胞である。
【0255】
野生型のhIL-10は,これをコードする遺伝子を組込んだ発現ベクターで形質転換させた宿主細胞を用いて組換え体として発現させたときの発現量が低い傾向にあり,効率よく組換え体として大量に製造することが困難である。しかし,hIL-10は,hIL-10をHSAとの融合蛋白質として発現させることにより,組換え体として比較的発現量を増加させることができる。つまり,HSAとhIL-10との融合蛋白質は,これをコードする遺伝子を組み込んだ発現ベクターを導入した宿主を無血清培地で培養して組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,野生型hIL-10を同一条件で組換え蛋白質として発現させたときと比較して,効率よく発現させることができるので,大量生産に適している。ヒト以外の動物種のSAとhIL-10の融合蛋白質についても同様である。なお,当該融合蛋白質の発現に用いられる宿主細胞は,好ましくは哺乳動物細胞,特に,CHO細胞,NS/0細胞等の組換え蛋白質の製造に用いられる通常の細胞である。つまり,本発明の一実施形態は,SAとIL-10との組換え融合蛋白質,特にHSAとhIL-10との組換え融合蛋白質である。
【0256】
HSAとhIL-10との融合蛋白質をコードする宿主細胞を培養することにより,細胞内又は培地中に発現させることができる。HSAとhIL-10との融合蛋白質は,カラムクロマトグラフィー等の方法により不純物から分離し,精製することができる。精製されたHSAとhIL-10との融合蛋白質は,医薬組成物として使用することができる。特に,HSAとhIL-10との融合蛋白質は,炎症性疾患又は癌を対象疾患とする医薬組成物として使用することができる。
【0257】
HSAとhIL-10との融合蛋白質を有効成分として含有してなる医薬組成物は,注射剤として静脈内,筋肉内,腹腔内,皮下又は脳室内に投与することができる。それらの注射剤は,凍結乾燥製剤又は水性液剤として供給することができる。水性液剤とする場合,バイアルに充填した形態としてもよく,注射器に予め充填したものであるプレフィルド型の製剤として供給することもできる。凍結乾燥製剤の場合,使用前に水性媒質に溶解し復元して使用する。
【0258】
HSAとhIL-10との融合蛋白質は,更に,抗体又はリガンドとの結合体とすることができる。例えば,本発明の一実施形態におけるHSAとhIL-10との融合蛋白質は,脳血管内皮細胞上の受容体と特異的に結合することのできる抗体又はリガンドとの結合体とすることができる。HSAとhIL-10との融合蛋白質又はHSAとhGBAとの融合蛋白質は,脳血管内皮細胞上の受容体と特異的に結合することのできる抗体又はリガンドとの結合体とすることにより,脳血管内皮細胞上の受容体に結合できるようになる。脳血管内皮細胞上の受容体に結合した融合蛋白質は,血液脳関門(BBB)を通過して,中枢神経系(CNS)の組織に到達できる。従って,HSAとhIL-10との融合蛋白質は,かかる抗体又はリガンドとの結合体とすることで,血液脳関門(BBB)を通過させて,中枢神経系(CNS)において機能を発揮させるようにすることができる。
【0259】
HSAとhIL-10との融合蛋白質と抗体との結合体において,hIL-10がhIL-10としての機能を有するというときは,hIL-10が,通常の野生型のhIL-10の比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性,例えば90%以上,95%以上の比活性を有することをいう。なお,ここで当該結合体におけるhIL-10の比活性は,当該結合体の単位質量当たりのhIL-10の生理活性に(当該結合体の分子量/当該結合体中のhIL-10に相当する部分の分子量)を乗じて算出される。
【0260】
本発明の一実施形態において,HSAとhIL-10との融合蛋白質と抗体との結合体というときは,当該結合体を組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,同一条件で野生型のhIL-10を組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたときと比較して,培養上清中のhIL-10としての発現量が,濃度あるいは生理活性換算で,少なくとも1.1倍以上,1.2倍以上,1.5倍以上,2倍以上,2.5倍以上,又は3.5倍以上,例えば,1.1~4倍,1.5~3.6倍,2~3.6倍,3~4倍等となることを特徴とするものである。
【0261】
神経栄養因子の中には,野生型のものをコードする遺伝子を組込んだ発現ベクターを導入した宿主細胞を用いて組換え蛋白質として発現させた場合に,発現量が限定的であるため大量に製造することが比較的困難なものがある。そのような神経栄養因子には,例えば,BDNF(脳由来神経栄養因子),NGF(神経成長因子),NT-3(ニューロトロフィン-3),NT-4(ニューロトロフィン-4),及びNT-5(ニューロトロフィン-5)がある。NT-4とNT-5の構造の違いは種間変異であり,これらは同一の因子であると考えられているため,NT-4/5等と表記される場合があるが,本明細書においてはNT-4と表記するものとする本発明の一実施形態は,このような組換え蛋白質として製造が比較的困難な神経栄養因子を,SAとの融合蛋白質とした組換え蛋白質である。かかる組換え蛋白質は,これをコードする遺伝子を組込んだ発現ベクターを導入した宿主細胞を用いて,大量に製造することが,対応する神経栄養因子と比較して,容易になる。ここで,SAと結合させる神経栄養因子の動物種に特に制限はないが,好ましくはヒト神経栄養因子である。また,神経栄養因子と結合させるSAの動物種に特に制限はないが,好ましくはHSAである。
【0262】
本明細書において,単に「ヒト神経栄養因子」というときは,通常の野生型のヒト神経栄養因子に加え,当該ヒト神経栄養因子の種類に対応する生理活性を有する等のヒト神経栄養因子としての機能を有するものである限り,野生型のヒト神経栄養因子のアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,置換,欠失,及び/又は付加(本明細書において,アミノ酸残基の「付加」は,配列の末端又は内部に残基を追加することを意味する。)されたものに相当するヒト神経栄養因子の変異体も特に区別することなく包含する。ヒト以外の動物種の神経栄養因子についても同様である。
【0263】
なお,ここで,ヒト神経栄養因子がヒト神経栄養因子としての機能を有するというときは,ヒト神経栄養因子が,通常の野生型のヒト神経栄養因子の比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性を保持することをいう。ここで比活性とは蛋白質の質量当たりの生理活性のことをいう。なお,ヒト神経栄養因子とその他の蛋白質との融合蛋白質の比活性は,融合蛋白質の中でヒト神経栄養因子に相当する部分の質量当たりの生理活性として求められる。なお,ここで融合蛋白質におけるヒト神経栄養因子の比活性は,当該融合蛋白質の単位質量当たりのヒト神経栄養因子の生理活性に(当該融合蛋白質の分子量/当該融合蛋白質中のヒト神経栄養因子に相当する部分の分子量)を乗じて算出される。ヒト以外の動物種の神経栄養因子についても同様である。
【0264】
野生型のヒト神経栄養因子のアミノ酸配列中のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基で置換する場合,置換するアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。野生型のヒト神経栄養因子のアミノ酸配列中のアミノ酸残基を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。野生型のヒト神経栄養因子のN末端又はC末端のアミノ酸残基を1個欠失させたアミノ酸配列からなるヒト神経栄養因子の変異体,野生型のヒト神経栄養因子のN末端又はC末端のアミノ酸残基を2個欠失させたアミノ酸配列からなるヒト神経栄養因子の変異体等も,ヒト神経栄養因子である。また,これらアミノ酸残基の置換と欠失を組み合わせた変異を野生型のヒト神経栄養因子のアミノ酸配列に加えることもできる。ヒト以外の動物種の神経栄養因子についても同様である。
【0265】
野生型のヒト神経栄養因子のアミノ酸配列にアミノ酸残基を付加する場合,アミノ酸残基はヒト神経栄養因子のアミノ酸配列中に又は当該アミノ酸配列のN末端若しくはC末端に,1個又は複数個のアミノ酸残基が付加される。このとき付加されるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。また,これらアミノ酸残基の付加と上記の置換を組み合わせた変異を野生型のヒト神経栄養因子のアミノ酸配列に加えることもでき,これらアミノ酸残基の付加と上記の欠失を組み合わせた変異を野生型のヒト神経栄養因子のアミノ酸配列に加えることもできる。ヒト以外の動物種の神経栄養因子についても同様である。
【0266】
更に,上記のアミノ酸残基の置換及び欠失,及び付加の3種類を組み合わせた変異を野生型のヒト神経栄養因子のアミノ酸配列に加えることもできる。例えば,野生型のヒト神経栄養因子のアミノ酸配列に対し,1~10個のアミノ酸残基を欠失させ,1~10個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1~10個のアミノ酸残基を付加させたものもヒト神経栄養因子であり,野生型のヒト神経栄養因子のアミノ酸配列に対し,1~5個のアミノ酸残基を欠失させ,1~5個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1~5個のアミノ酸残基を付加させたものもヒト神経栄養因子であり,野生型のヒト神経栄養因子のアミノ酸配列に対し,1~3個のアミノ酸残基を欠失させ,1~3個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1~3個のアミノ酸残基を付加させたものもヒト神経栄養因子であり,野生型のヒト神経栄養因子のアミノ酸配列に対し,1又は2個のアミノ酸残基を欠失させ,1又は2個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1又は2個のアミノ酸残基を付加させたものもヒト神経栄養因子であり,野生型のヒト神経栄養因子のアミノ酸配列に対し,1個のアミノ酸残基を欠失させ,1個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1個のアミノ酸残基を付加させたものもヒト神経栄養因子である。ヒト以外の動物種の神経栄養因子についても同様である。
【0267】
ヒト神経栄養因子変異体における通常の野生型ヒト神経栄養因子と比較したときの各変異の位置及びその形式(欠失,置換,及び付加)は,両ヒト神経栄養因子のアミノ酸配列のアラインメントにより,容易に確認することができる。ヒト以外の動物種の神経栄養因子についても同様である。
【0268】
ヒト神経栄養因子変異体のアミノ酸配列は,通常の野生型ヒト神経栄養因子のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,85%以上の同一性を示し,90%以上の同一性を示し,又は,95%以上の同一性を示し,例えば,98%以上,又は99%以上の同一性を示すものである。ヒト以外の動物種の神経栄養因子についても同様である。
【0269】
野生型ヒト神経栄養因子のアミノ酸配列中のアミノ酸の他のアミノ酸への置換換は,好ましくは保存的アミノ酸置換である。ヒト以外の動物種の神経栄養因子についても同様である。
【0270】
上記の野生型又は変異型のヒト神経栄養因子であって,これを構成するアミノ酸が糖鎖により修飾されたものもヒト神経栄養因子である。また,上記の野生型又は変異型のヒト神経栄養因子であって,これを構成するアミノ酸がリン酸により修飾されたものもヒト神経栄養因子である。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものもヒト神経栄養因子である。また,上記の野生型又は変異型のヒト神経栄養因子であって,これを構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものもヒト神経栄養因子である。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒト以外の動物種の神経栄養因子についても同様である。
【0271】
つまり,糖鎖により修飾されたヒト神経栄養因子は,元のアミノ酸配列を有するヒト神経栄養因子に含まれるものとする。また,リン酸により修飾されたヒト神経栄養因子は,元のアミノ酸配列を有するヒト神経栄養因子に含まれるものとする。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものも,元のアミノ酸配列を有するヒト神経栄養因子に含まれるものとする。また,ヒト神経栄養因子を構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものも,元のアミノ酸配列を有するヒト神経栄養因子に含まれるものとする。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒト以外の動物種の神経栄養因子についても同様である。
【0272】
本明細書において,単に「ヒト脳由来神経栄養因子」,「ヒトBDNF」,又は「hBDNF」というときは,配列番号60で示される119個のアミノ酸残基からなる通常の野生型のhBDNFに加え,標的細胞表面上にある特異的受容体TrkBに結合し,神経細胞の発生,成長,維持,及び再生を促進させる神経栄養因子としての生理活性を有する等のhBDNFとしての機能を有するものである限り,配列番号60で示されるアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,置換,欠失,及び/又は付加(本明細書において,アミノ酸残基の「付加」は,配列の末端又は内部に残基を追加することを意味する。)されたものに相当するhBDNFの変異体も特に区別することなく包含する。野生型のhBDNFは,例えば,配列番号61で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。ヒト以外の動物種のBDNFについても同様である。
【0273】
なお,ここで,hBDNFがhBDNFとしての機能を有するというときは,hBDNFが,通常の野生型のhBDNFの比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性を保持することをいう。ここで比活性とは蛋白質の質量当たりの生理活性のことをいう。なお,hBDNFとその他の蛋白質との融合蛋白質の比活性は,融合蛋白質の中でhBDNFに相当する部分の質量当たりの生理活性として求められる。なお,ここで融合蛋白質におけるhBDNFの比活性は,当該融合蛋白質の単位質量当たりのhBDNFの生理活性に(当該融合蛋白質の分子量/当該融合蛋白質中のhBDNFに相当する部分の分子量)を乗じて算出される。ヒト以外の動物種のBDNFについても同様である。
【0274】
野生型のhBDNFのアミノ酸配列中のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基で置換する場合,置換するアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。野生型のhBDNFのアミノ酸配列中のアミノ酸残基を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。野生型のhBDNFのN末端又はC末端のアミノ酸残基を1個欠失させた118個のアミノ酸残基からなるhBDNFの変異体,野生型のhBDNFのN末端又はC末端のアミノ酸残基を2個欠失させた117個のアミノ酸残基からなるhBDNFの変異体等も,hBDNFである。また,これらアミノ酸残基の置換と欠失を組み合わせた変異を野生型のhBDNFのアミノ酸配列に加えることもできる。ヒト以外の動物種のBDNFについても同様である。
【0275】
野生型のhBDNFのアミノ酸配列にアミノ酸残基を付加する場合,アミノ酸残基はhBDNFのアミノ酸配列中に又は当該アミノ酸配列のN末端若しくはC末端に,1個又は複数個のアミノ酸残基が付加される。このとき付加されるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。また,これらアミノ酸残基の付加と上記の置換を組み合わせた変異を野生型のhBDNFのアミノ酸配列に加えることもでき,これらアミノ酸残基の付加と上記の欠失を組み合わせた変異を野生型のhBDNFのアミノ酸配列に加えることもできる。ヒト以外の動物種のBDNFについても同様である。
【0276】
更に,上記のアミノ酸残基の置換及び欠失,及び付加の3種類を組み合わせた変異を野生型のhBDNFのアミノ酸配列に加えることもできる。例えば,配列番号60で示される野生型のhBDNFのアミノ酸配列に対し,1~10個のアミノ酸残基を欠失させ,1~10個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1~10個のアミノ酸残基を付加させたものもhBDNFであり,配列番号60で示される野生型のhBDNFのアミノ酸配列に対し,1~5個のアミノ酸残基を欠失させ,1~5個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1~5個のアミノ酸残基を付加させたものもhBDNFであり,配列番号60で示される野生型のhBDNFのアミノ酸配列に対し,1~3個のアミノ酸残基を欠失させ,1~3個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1~3個のアミノ酸残基を付加させたものもhBDNFであり,配列番号60で示される野生型のhBDNFのアミノ酸配列に対し,1又は2個のアミノ酸残基を欠失させ,1又は2個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1又は2個のアミノ酸残基を付加させたものもhBDNFであり,配列番号60で示される野生型のhBDNFのアミノ酸配列に対し,1個のアミノ酸残基を欠失させ,1個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1個のアミノ酸残基を付加させたものもhBDNFである。ヒト以外の動物種のBDNFについても同様である。
【0277】
hBDNF変異体における通常の野生型hBDNFと比較したときの各変異の位置及びその形式(欠失,置換,及び付加)は,両hBDNFのアミノ酸配列のアラインメントにより,容易に確認することができる。ヒト以外の動物種のBDNFについても同様である。
【0278】
hBDNF変異体のアミノ酸配列は,配列番号60で示される通常の野生型hBDNFのアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,85%以上の同一性を示し,90%以上の同一性を示し,又は,95%以上の同一性を示し,例えば,98%以上,又は99%以上の同一性を示すものである。
【0279】
本明細書において,単に「ヒト神経成長因子」,「ヒトNGF」,又は「hNGF」というときは,配列番号62で示される120個のアミノ酸残基からなる通常の野生型のhNGFに加え,神経軸策の伸長及び神経伝達物質の合成促進作用,神経細胞の維持作用,細胞損傷時の修復作用,及び脳神経の機能回復を促し老化を防止する作用等の神経栄養因子としての生理活性を有する等のhNGFとしての機能を有するものである限り,配列番号62で示されるアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,置換,欠失,及び/又は付加(本明細書において,アミノ酸残基の「付加」は,配列の末端又は内部に残基を追加することを意味する。)されたものに相当するhNGFの変異体も特に区別することなく包含する。野生型のhNGFは,例えば,配列番号63で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。ヒト以外の動物種のNGFについても同様である。
【0280】
なお,ここで,hNGFがhNGFとしての機能を有するというときは,hNGFが,通常の野生型のhNGFの比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性を保持することをいう。ここで比活性とは蛋白質の質量当たりの生理活性のことをいう。なお,hNGFとその他の蛋白質との融合蛋白質の比活性は,融合蛋白質の中でhNGFに相当する部分の質量当たりの生理活性として求められる。なお,ここで融合蛋白質におけるhNGFの比活性は,当該融合蛋白質の単位質量当たりのhNGFの生理活性に(当該融合蛋白質の分子量/当該融合蛋白質中のhNGFに相当する部分の分子量)を乗じて算出される。ヒト以外の動物種のNGFについても同様である。
【0281】
野生型のhNGFのアミノ酸配列中のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基で置換する場合,置換するアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。野生型のhNGFのアミノ酸配列中のアミノ酸残基を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。野生型のhNGFのN末端又はC末端のアミノ酸残基を1個欠失させた119個のアミノ酸残基からなるhNGFの変異体,野生型のhNGFのN末端又はC末端のアミノ酸残基を2個欠失させた118個のアミノ酸残基からなるhNGFの変異体等も,hNGFである。また,これらアミノ酸残基の置換と欠失を組み合わせた変異を野生型のhNGFのアミノ酸配列に加えることもできる。ヒト以外の動物種のNGFについても同様である。
【0282】
野生型のhNGFのアミノ酸配列にアミノ酸残基を付加する場合,アミノ酸残基はhNGFのアミノ酸配列中に又は当該アミノ酸配列のN末端若しくはC末端に,1個又は複数個のアミノ酸残基が付加される。このとき付加されるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。また,これらアミノ酸残基の付加と上記の置換を組み合わせた変異を野生型のhNGFのアミノ酸配列に加えることもでき,これらアミノ酸残基の付加と上記の欠失を組み合わせた変異を野生型のhNGFのアミノ酸配列に加えることもできる。ヒト以外の動物種のNGFについても同様である。
【0283】
更に,上記のアミノ酸残基の置換及び欠失,及び付加の3種類を組み合わせた変異を野生型のhNGFのアミノ酸配列に加えることもできる。例えば,配列番号62で示される野生型のhNGFのアミノ酸配列に対し,1~10個のアミノ酸残基を欠失させ,1~10個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1~10個のアミノ酸残基を付加させたものもhNGFであり,配列番号62で示される野生型のhNGFのアミノ酸配列に対し,1~5個のアミノ酸残基を欠失させ,1~5個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1~5個のアミノ酸残基を付加させたものもhNGFであり,配列番号62で示される野生型のhNGFのアミノ酸配列に対し,1~3個のアミノ酸残基を欠失させ,1~3個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1~3個のアミノ酸残基を付加させたものもhNGFであり,配列番号62で示される野生型のhNGFのアミノ酸配列に対し,1又は2個のアミノ酸残基を欠失させ,1又は2個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1又は2個のアミノ酸残基を付加させたものもhNGFであり,配列番号62で示される野生型のhNGFのアミノ酸配列に対し,1個のアミノ酸残基を欠失させ,1個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1個のアミノ酸残基を付加させたものもhNGFである。ヒト以外の動物種のNGFについても同様である。
【0284】
hNGF変異体における通常の野生型hNGFと比較したときの各変異の位置及びその形式(欠失,置換,及び付加)は,両hNGFのアミノ酸配列のアラインメントにより,容易に確認することができる。ヒト以外の動物種のNGFについても同様である。
【0285】
hNGF変異体のアミノ酸配列は,配列番号62で示される通常の野生型hNGFのアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,85%以上の同一性を示し,90%以上の同一性を示し,又は,95%以上の同一性を示し,例えば,98%以上,又は99%以上の同一性を示すものである。
【0286】
本明細書において,単に「ヒトニューロトロフィン-3」,「ヒトNT-3」,又は「hNT-3」というときは,配列番号64で示される119個のアミノ酸残基からなる通常の野生型のhNT-3に加え,TrkCを介して作用し神経細胞の生存維持ならびに分化促進に必要な神経成長因子としての生理活性を有する等のhNT-3としての機能を有するものである限り,配列番号64で示されるアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,置換,欠失,及び/又は付加(本明細書において,アミノ酸残基の「付加」は,配列の末端又は内部に残基を追加することを意味する。)されたものに相当するhNT-3の変異体も特に区別することなく包含する。野生型のhNT-3は,例えば,配列番号65で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。ヒト以外の動物種のhNT-3についても同様である。
【0287】
なお,ここで,hNT-3がhNT-3としての機能を有するというときは,hNT-3が,通常の野生型のhNT-3の比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性を保持することをいう。ここで比活性とは蛋白質の質量当たりの生理活性のことをいう。なお,hNT-3とその他の蛋白質との融合蛋白質の比活性は,融合蛋白質の中でhNT-3に相当する部分の質量当たりの生理活性として求められる。なお,ここで融合蛋白質におけるhNT-3の比活性は,当該融合蛋白質の単位質量当たりのhNT-3の生理活性に(当該融合蛋白質の分子量/当該融合蛋白質中のhNT-3に相当する部分の分子量)を乗じて算出される。ヒト以外の動物種のhNT-3についても同様である。
【0288】
野生型のhNT-3のアミノ酸配列中のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基で置換する場合,置換するアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。野生型のhNT-3のアミノ酸配列中のアミノ酸残基を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。野生型のhNT-3のN末端又はC末端のアミノ酸残基を1個欠失させた118個のアミノ酸残基からなるhNT-3の変異体,野生型のhNT-3のN末端又はC末端のアミノ酸残基を2個欠失させた117個のアミノ酸残基からなるhNT-3の変異体等も,hNT-3である。また,これらアミノ酸残基の置換と欠失を組み合わせた変異を野生型のhNT-3のアミノ酸配列に加えることもできる。ヒト以外の動物種のhNT-3についても同様である。
【0289】
野生型のhNT-3のアミノ酸配列にアミノ酸残基を付加する場合,アミノ酸残基はhNT-3のアミノ酸配列中に又は当該アミノ酸配列のN末端若しくはC末端に,1個又は複数個のアミノ酸残基が付加される。このとき付加されるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。また,これらアミノ酸残基の付加と上記の置換を組み合わせた変異を野生型のhNT-3のアミノ酸配列に加えることもでき,これらアミノ酸残基の付加と上記の欠失を組み合わせた変異を野生型のhNT-3のアミノ酸配列に加えることもできる。ヒト以外の動物種のhNT-3についても同様である。
【0290】
更に,上記のアミノ酸残基の置換及び欠失,及び付加の3種類を組み合わせた変異を野生型のhNT-3のアミノ酸配列に加えることもできる。例えば,配列番号64で示される野生型のhNT-3のアミノ酸配列に対し,1~10個のアミノ酸残基を欠失させ,1~10個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1~10個のアミノ酸残基を付加させたものもhNT-3であり,配列番号64で示される野生型のhNT-3のアミノ酸配列に対し,1~5個のアミノ酸残基を欠失させ,1~5個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1~5個のアミノ酸残基を付加させたものもhNT-3であり,配列番号64で示される野生型のhNT-3のアミノ酸配列に対し,1~3個のアミノ酸残基を欠失させ,1~3個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1~3個のアミノ酸残基を付加させたものもhNT-3であり,配列番号64で示される野生型のhNT-3のアミノ酸配列に対し,1又は2個のアミノ酸残基を欠失させ,1又は2個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1又は2個のアミノ酸残基を付加させたものもhNT-3であり,配列番号64で示される野生型のhNT-3のアミノ酸配列に対し,1個のアミノ酸残基を欠失させ,1個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1個のアミノ酸残基を付加させたものもhNT-3である。ヒト以外の動物種のhNT-3についても同様である。
【0291】
hNT-3変異体における通常の野生型hNT-3と比較したときの各変異の位置及びその形式(欠失,置換,及び付加)は,両hNT-3のアミノ酸配列のアラインメントにより,容易に確認することができる。ヒト以外の動物種のhNT-3についても同様である。
【0292】
hNT-3変異体のアミノ酸配列は,配列番号64で示される通常の野生型hNT-3のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,85%以上の同一性を示し,90%以上の同一性を示し,又は,95%以上の同一性を示し,例えば,98%以上,又は99%以上の同一性を示すものである。
【0293】
本明細書において,単に「ヒトニューロトロフィン-4」,「ヒトNT-4」,又は「hNT-4」というときは,配列番号66で示される130個のアミノ酸残基からなる通常の野生型のhNT-4に加え,TrkBを介して作用し神経細胞の生存維持ならびに分化促進に必要な神経成長因子としての生理活性を有する等のhNT-4としての機能を有するものである限り,配列番号66で示されるアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,置換,欠失,及び/又は付加(本明細書において,アミノ酸残基の「付加」は,配列の末端又は内部に残基を追加することを意味する。)されたものに相当するhNT-4の変異体も特に区別することなく包含する。野生型のhNT-4は,例えば,配列番号67で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。ヒト以外の動物種のhNT-4についても同様である。
【0294】
なお,ここで,hNT-4がhNT-4としての機能を有するというときは,hNT-4が,通常の野生型のhNT-4の比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性を保持することをいう。ここで比活性とは蛋白質の質量当たりの生理活性のことをいう。なお,hNT-4とその他の蛋白質との融合蛋白質の比活性は,融合蛋白質の中でhNT-4に相当する部分の質量当たりの生理活性として求められる。なお,ここで融合蛋白質におけるhNT-4の比活性は,当該融合蛋白質の単位質量当たりのhNT-4の生理活性に(当該融合蛋白質の分子量/当該融合蛋白質中のhNT-4に相当する部分の分子量)を乗じて算出される。ヒト以外の動物種のhNT-4についても同様である。
【0295】
野生型のhNT-4のアミノ酸配列中のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基で置換する場合,置換するアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。野生型のhNT-4のアミノ酸配列中のアミノ酸残基を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。野生型のhNT-4のN末端又はC末端のアミノ酸残基を1個欠失させた129個のアミノ酸残基からなるhNT-4の変異体,野生型のhNT-4のN末端又はC末端のアミノ酸残基を2個欠失させた128個のアミノ酸残基からなるhNT-4の変異体等も,hNT-4である。また,これらアミノ酸残基の置換と欠失を組み合わせた変異を野生型のhNT-4のアミノ酸配列に加えることもできる。ヒト以外の動物種のhNT-4についても同様である。
【0296】
野生型のhNT-4のアミノ酸配列にアミノ酸残基を付加する場合,アミノ酸残基はhNT-4のアミノ酸配列中に又は当該アミノ酸配列のN末端若しくはC末端に,1個又は複数個のアミノ酸残基が付加される。このとき付加されるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。また,これらアミノ酸残基の付加と上記の置換を組み合わせた変異を野生型のhNT-4のアミノ酸配列に加えることもでき,これらアミノ酸残基の付加と上記の欠失を組み合わせた変異を野生型のhNT-4のアミノ酸配列に加えることもできる。ヒト以外の動物種のhNT-4についても同様である。
【0297】
更に,上記のアミノ酸残基の置換及び欠失,及び付加の3種類を組み合わせた変異を野生型のhNT-4のアミノ酸配列に加えることもできる。例えば,配列番号66で示される野生型のhNT-4のアミノ酸配列に対し,1~10個のアミノ酸残基を欠失させ,1~10個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1~10個のアミノ酸残基を付加させたものもhNT-4であり,配列番号66で示される野生型のhNT-4のアミノ酸配列に対し,1~5個のアミノ酸残基を欠失させ,1~5個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1~5個のアミノ酸残基を付加させたものもhNT-4であり,配列番号66で示される野生型のhNT-4のアミノ酸配列に対し,1~3個のアミノ酸残基を欠失させ,1~3個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1~3個のアミノ酸残基を付加させたものもhNT-4であり,配列番号66で示される野生型のhNT-4のアミノ酸配列に対し,1又は2個のアミノ酸残基を欠失させ,1又は2個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1又は2個のアミノ酸残基を付加させたものもhNT-4であり,配列番号66で示される野生型のhNT-4のアミノ酸配列に対し,1個のアミノ酸残基を欠失させ,1個のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換させ,及び1個のアミノ酸残基を付加させたものもhNT-4である。ヒト以外の動物種のhNT-4についても同様である。
【0298】
hNT-4変異体における通常の野生型hNT-4と比較したときの各変異の位置及びその形式(欠失,置換,及び付加)は,両hNT-4のアミノ酸配列のアラインメントにより,容易に確認することができる。ヒト以外の動物種のhNT-4についても同様である。
【0299】
hNT-4変異体のアミノ酸配列は,配列番号66で示される通常の野生型hNT-4のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,85%以上の同一性を示し,90%以上の同一性を示し,又は,95%以上の同一性を示し,例えば,98%以上,又は99%以上の同一性を示すものである。
【0300】
野生型hBDNF又のアミノ酸配列中のアミノ酸の他のアミノ酸への置換,野生型hNGFのアミノ酸配列中のアミノ酸の他のアミノ酸への置換,野生型hNT-3のアミノ酸配列中のアミノ酸の他のアミノ酸への置換,野生型hNT-4のアミノ酸配列中のアミノ酸の他のアミノ酸への置換は,例えば,保存的アミノ酸置換である。ヒト以外の動物種のこれらの神経栄養因子についても同様のことがいえる。
【0301】
上記の野生型又は変異型のhBDNF,hNGF,hNT-3,又はhNT-4であって,これを構成するアミノ酸が糖鎖により修飾されたものも,それぞれhBDNF,hNGF,hNT-3,又はhNT-4である。また,これらの野生型又は変異型のヒト神経栄養因子であって,これを構成するアミノ酸がリン酸により修飾されたものについても同様である。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものについても同様である。また,これらの野生型又は変異型のヒト神経栄養因子であって,これを構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものについても同様である。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。hBDNF,hNGF,hNT-3,及びhNT-4についても同様のことがいえる。また,ヒト以外の動物種のこれらの神経栄養因子についても同様のことがいえる。
【0302】
つまり,糖鎖により修飾されたhBDNF,hNGF,hNT-3,又はhNT-4は,元のアミノ酸配列を有するhBDNF,hNGF,hNT-3,又はhNT-4に,それぞれ含まれるものとする。また,リン酸により修飾されたこれらのヒト神経栄養因子についても同様である。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものについても同様である。また,これらのヒト神経栄養因子を構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものについても同様である。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換がある。また,ヒト以外の動物種の神経栄養因子についても同様のことがいえる。
【0303】
本発明の一実施形態は,野生型の神経栄養因子をHSAと融合させた組換え蛋白質である。かかる融合蛋白質は,CHO等の宿主細胞を用いて組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,野生型ヒト神経栄養因子を同様の手法により組換え蛋白質として発現させたときと比較して,培養上清中のヒト神経栄養因子としての発現量が,濃度あるいは生理活性換算で,少なくとも1.1倍以上,1.2倍以上,1.5倍以上,2倍以上,2.5倍以上,又は3.5倍以上,例えば,1.1~4倍,1.5~3.6倍,2~3.6倍,10~20倍,20~30倍等となるようにすることができる。
【0304】
また,本発明の一実施形態は,野生型hBDNFをHSAと融合させた組換え蛋白質である。かかる融合蛋白質は,CHO等の宿主細胞を用いて組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,野生型hBDNFを同様の手法により組換え蛋白質として発現させたときと比較して,培養上清中のhBDNFとしての発現量が,濃度あるいは生理活性換算で,少なくとも1.1倍以上,1.2倍以上,1.5倍以上,2倍以上,2.5倍以上,又は3.5倍以上,例えば,1.1~4倍,1.5~3.6倍,2~3.6倍,10~20倍,20~30倍等となるようにすることができる。
【0305】
また,本発明の一実施形態は,野生型hNGFをHSAと融合させた組換え蛋白質である。かかる融合蛋白質は,CHO等の宿主細胞を用いて組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,野生型hNGFを同様の手法により組換え蛋白質として発現させたときと比較して,培養上清中のhNGFとしての発現量が,濃度あるいは生理活性換算で,少なくとも1.1倍以上,1.2倍以上,1.5倍以上,2倍以上,2.5倍以上,又は3.5倍以上,例えば,1.1~4倍,1.5~3.6倍,2~3.6倍,10~20倍,20~30倍等となるようにすることができる。
【0306】
また,本発明の一実施形態は,野生型hNT-3をHSAと融合させた組換え蛋白質である。かかる融合蛋白質は,CHO等の宿主細胞を用いて組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,野生型hNT-3を同様の手法により組換え蛋白質として発現させたときと比較して,培養上清中のhNT-3としての発現量が,濃度あるいは生理活性換算で,少なくとも1.1倍以上,1.2倍以上,1.5倍以上,2倍以上,2.5倍以上,又は3.5倍以上,例えば,1.1~4倍,1.5~3.6倍,2~3.6倍,10~20倍,20~30倍等となるようにすることができる。
【0307】
また,本発明の一実施形態は,野生型hNT-4をHSAと融合させた組換え蛋白質である。かかる融合蛋白質は,CHO等の宿主細胞を用いて組換え蛋白質として発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,野生型hNT-4を同様の手法により組換え蛋白質として発現させたときと比較して,培養上清中のhNT-4としての発現量が,濃度あるいは生理活性換算で,少なくとも1.1倍以上,1.2倍以上,1.5倍以上,2倍以上,2.5倍以上,又は3.5倍以上,例えば,1.1~4倍,1.5~3.6倍,2~3.6倍,10~20倍,20~30倍等となるようにすることができる。
【0308】
本発明の一実施形態は,ヒト神経栄養因子のアミノ酸配列を含むポリペプチドと,SAのアミノ酸配列を含むポリペプチドとを結合させた,融合蛋白質に関する。ここで,「ポリペプチドを結合させる」というときは,直接又はリンカーを介して間接的に,共有結合により異なるポリペプチドを結合させることをいう。ここで,神経栄養因子は好ましくはヒト神経栄養因子である。また,SAは好ましくはHSAである。また,ヒト神経栄養因子は,例えばhBDNF,hNGF,hNT-3,又はhNT-4である。ヒト以外の動物種の神経栄養因子についても同様である。
【0309】
2つの異なるポリペプチドを結合させる方法としては,例えば,一方のポリペプチドをコードする遺伝子の下流に,インフレームで他方のポリペプチドをコードする遺伝子を結合させたDNA断片を組み込んだ発現ベクターを作製し,この発現ベクターを用いて形質転換させた宿主細胞を培養することにより,組換え蛋白質として発現させる方法が一般的である。得られた組換え蛋白質は,2つのポリペプチドが,直接又は別のアミノ酸配列を介してペプチド結合した,一本鎖ポリペプチドである。
【0310】
本発明の一実施形態において,「SA-ヒト神経栄養因子融合蛋白質」又は「SA-ヒト神経栄養因子」の語は,SAのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,ヒト神経栄養因子のアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,ヒト神経栄養因子としての機能を有するものを示す。ここで,SAの動物種に特に限定はないが,好ましくは哺乳動物のSAであり,より好ましくは霊長類のSAであり,更に好ましくはHSAである。SA-ヒト神経栄養因子融合蛋白質において,ヒト神経栄養因子がヒト神経栄養因子としての機能を有するというときは,ヒト神経栄養因子が,通常の野生型のヒト神経栄養因子の比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性を保持することをいう。なお,ここでSA-ヒト神経栄養因子融合蛋白質におけるヒト神経栄養因子の比活性は,当該融合蛋白質の単位質量当たりのヒト神経栄養因子の生理活性に(当該融合蛋白質の分子量/当該融合蛋白質中のヒト神経栄養因子に相当する部分の分子量)を乗じて算出される。
【0311】
本発明の一実施形態において,「HSA-ヒト神経栄養因子融合蛋白質」又は「HSA-ヒト神経栄養因子」の語は,HSAのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,ヒト神経栄養因子のアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,ヒト神経栄養因子としての機能を有するものを示す。ここでHSA-ヒト神経栄養因子融合蛋白質がヒト神経栄養因子としての機能を有するというときは,上記のSA-神経栄養因子融合蛋白質における定義を適用することができる。
【0312】
SA-ヒト神経栄養因子融合蛋白質において,SAは血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等のSAとしての機能を有するものであることが好ましいが,これに限定されない。HSA-ヒト神経栄養因子融合蛋白質においても同様である。HSA-hBDNF融合蛋白質,HSA-hNGF融合蛋白質,HSA-hNT-3融合蛋白質,及びHSA-hNT-4融合蛋白質についても同様である。
【0313】
野生型HSAと野生型ヒト神経栄養因子との融合蛋白質であるHSA-ヒト神経栄養因子融合蛋白質に変異を加える場合,HSA部分にのみ変異を加えヒト神経栄養因子部分には変異を加えないことも,HSA部分には変異を加えずにヒト神経栄養因子部分にのみ変異を加えることも,また,HSA部分とヒト神経栄養因子部分の何れにも変異を加えることもできる。HSA部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となる。ヒト神経栄養因子部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型ヒト神経栄養因子に変異が加えられたヒト神経栄養因子のアミノ酸配列となる。HSA部分とヒト神経栄養因子部分の何れにも変異を加える場合にあっては,HSA部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となり,ヒト神経栄養因子部分のアミノ酸配列は上述した野生型ヒト神経栄養因子に変異が加えられたヒト神経栄養因子のアミノ酸配列となる。ヒト以外の動物種の野生型SAと野生型ヒト神経栄養因子との融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0314】
HSA-ヒト神経栄養因子融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸が糖鎖により修飾されたものもHSA-ヒト神経栄養因子融合蛋白質である。また,HSA-ヒト神経栄養因子融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸がリン酸により修飾されたものもHSA-ヒト神経栄養因子融合蛋白質である。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものもHSA-ヒト神経栄養因子融合蛋白質である。また,HSA-ヒト神経栄養因子融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものもHSA-ヒト神経栄養因子融合蛋白質である。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒト以外の動物種のSAとヒト神経栄養因子との融合蛋白質(SA-ヒト神経栄養因子)についても同様のことがいえる。
【0315】
つまり,糖鎖により修飾されたHSA-ヒト神経栄養因子融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するHSA-ヒト神経栄養因子融合蛋白質に含まれるものとする。また,リン酸により修飾されたHSA-ヒト神経栄養因子融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するHSA-ヒト神経栄養因子融合蛋白質に含まれるものとする。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものも,元のアミノ酸配列を有するHSA-ヒト神経栄養因子融合蛋白質に含まれるものとする。また,HSA-ヒト神経栄養因子融合蛋白質を構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものも,元のアミノ酸配列を有するHSA-ヒト神経栄養因子融合蛋白質に含まれるものとする。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒト以外の動物種のSAとヒト神経栄養因子との融合蛋白質(SA-ヒト神経栄養因子)についても同様のことがいえる。
【0316】
また,HSA-ヒト神経栄養因子融合蛋白質であって,これを構成するヒト神経栄養因子が,ヒト神経栄養因子の前駆体であるものもHSA-ヒト神経栄養因子融合蛋白質である。ここで前駆体というときは,HSA-ヒト神経栄養因子融合蛋白質として生合成されたものであって,当該生合成後に,ヒト神経栄養因子として機能する部分が,製造過程において又は生体に投与したときに当該生体内において,当該融合蛋白質から切り離されて,単独でもヒト神経栄養因子としての機能を発揮することができるタイプのものをいう。この場合,HSA-ヒト神経栄養因子融合蛋白質は生合成された後に,加水分解酵素等により,特定の箇所で切断され,HSAを含む部分と成熟型ヒト神経栄養因子を含む部分とが分離することがある。この場合,得られるヒト神経栄養因子はHSAとの融合蛋白質ではないが,当該神経栄養因子が製造される過程で,一旦,HSA-ヒト神経栄養因子融合蛋白質が合成されることになる。従って,かかる方法によりヒト神経栄養因子を製造する場合,当該製造方法は,HSA-ヒト神経栄養因子の製造方法に含まれる。ヒト以外の動物種のSAとヒト神経栄養因子との融合蛋白質(SA-ヒト神経栄養因子)についても同様のことがいえる。
【0317】
本発明の一実施形態において,「SA-hBDNF融合蛋白質」又は「SA-hBDNF」の語は,SAのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,hBDNFのアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,hBDNFとしての機能を有するものを示す。ここで,SAの動物種に特に限定はないが,好ましくは哺乳動物のSAであり,より好ましくは霊長類のSAであり,更に好ましくはHSAである。SA-hBDNF融合蛋白質において,hBDNFがhBDNFとしての機能を有するというときは,hBDNFが,通常の野生型のhBDNFの比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性を保持することをいう。なお,ここでSA-hBDNF融合蛋白質におけるhBDNFの比活性は,当該融合蛋白質の単位質量当たりのhBDNFの生理活性に(当該融合蛋白質の分子量/当該融合蛋白質中のhBDNFに相当する部分の分子量)を乗じて算出される。
【0318】
本発明の一実施形態において,「HSA-hBDNF融合蛋白質」又は「HSA-hBDNF」の語は,HSAのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,hBDNFのアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,hBDNFとしての機能を有するものを示す。ここでHSA-hBDNF融合蛋白質がhBDNFとしての機能を有するというときは,上記のSA-hBDNF融合蛋白質における定義を適用することができる。
【0319】
本発明の一実施形態において好ましいHSA-hBDNF融合蛋白質は,例えば配列番号68で示されるアミノ酸配列を有するものである。配列番号68で示されるHSA-hBDNF融合蛋白質は,野生型HSAのC末端にリンカー配列Gly-Serを介して野生型hBDNFが結合したものである。配列番号68で示されるHSA-hBDNF融合蛋白質は,例えば,配列番号69で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。また,配列番号68で示されるアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,他のアミノ酸残基へ置換され,欠失し,或いは付加等の変異が加えられたアミノ酸配列を有するものも,hBDNFとしての機能を有するものである限りHSA-hBDNF融合蛋白質に含まれる。HSA-hBDNF融合蛋白質は,血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等のヒト血清アルブミンとしての機能を有するものであることが好ましいが,これに限定されない。
【0320】
野生型HSAと野生型hBDNFとの融合蛋白質であるHSA-hBDNF融合蛋白質に変異を加える場合,HSA部分にのみ変異を加えhBDNF部分には変異を加えないことも,HSA部分には変異を加えずにhBDNF部分にのみ変異を加えることも,また,HSA部分とhBDNF部分の何れにも変異を加えることもできる。HSA部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となる。hBDNF部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型hBDNFに変異が加えられたhBDNFのアミノ酸配列となる。HSA部分とhBDNF部分の何れにも変異を加える場合にあっては,HSA部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となり,hBDNF部分のアミノ酸配列は上述した野生型hBDNFに変異が加えられたhBDNFのアミノ酸配列となる。配列番号68で示されるアミノ酸配列を有するHSA-hBDNF融合蛋白質についても同様である。ヒト以外の動物種の野生型SAと野生型hBDNFとの融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0321】
配列番号68で示されるアミノ酸配列を有するHSA-hBDNF融合蛋白質に変異を加える場合について,以下例示する。配列番号68で示されるアミノ酸配列中のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基で置換する場合,置換するアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。アミノ酸残基を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。アミノ酸残基を付加する場合,アミノ酸残基は配列番号68で示されるアミノ酸配列中に又は当該アミノ酸配列のN末端若しくはC末端に,1個又は複数個のアミノ酸残基が付加される。HSA-hBDNF融合蛋白質は,これらアミノ酸残基の置換,欠失,及び付加を組み合わせたものであってもよい。変異は,HSA部分にのみ加えても,hIL-10部分にのみ加えても,又は両方の部分に加えてもよい。
【0322】
配列番号68で示されるアミノ酸配列に変異を加えたときの各変異の位置及びその形式(欠失,置換,及び付加)は,変異前後のアミノ酸配列のアラインメントにより,容易に確認することができる。変異を加えたアミノ酸配列は,配列番号68で示されるアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,85%以上の同一性を示し,90%以上の同一性を示し,又は,95%以上の同一性を示し,例えば,98%以上,又は99%以上の同一性を示すものである。
【0323】
HSA-hBDNF融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸が糖鎖により修飾されたものもHSA-hBDNF融合蛋白質である。また,HSA-hBDNF融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸がリン酸により修飾されたものもHSA-hBDNF融合蛋白質である。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものもHSA-hBDNF融合蛋白質である。また,HSA-hBDNF融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものもHSA-hBDNF融合蛋白質である。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒト以外の動物種のSAとhBDNFとの融合蛋白質(SA-hBDNF)についても同様のことがいえる。
【0324】
つまり,糖鎖により修飾されたHSA-hBDNF融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するHSA-hBDNF融合蛋白質に含まれるものとする。また,リン酸により修飾されたHSA-hBDNF融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するHSA-hBDNF融合蛋白質に含まれるものとする。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものも,元のアミノ酸配列を有するHSA-hBDNF融合蛋白質に含まれるものとする。また,HSA-hBDNF融合蛋白質を構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものも,元のアミノ酸配列を有するHSA-hBDNF融合蛋白質に含まれるものとする。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒト以外の動物種のSAとhBDNFとの融合蛋白質(SA-hBDNF)についても同様のことがいえる。
【0325】
また,HSA-hBDNF融合蛋白質であって,これを構成するhBDNFが,hBDNFの前駆体であるものもHSA-hBDNF融合蛋白質である。ここで前駆体というときは,HSA-hBDNF融合蛋白質として生合成されたものであって,当該生合成後に,hBDNFとして機能する部分が,製造過程において又は生体に投与したときに当該生体内において,当該融合蛋白質から切り離されて,単独でもhBDNFとしての機能を発揮することができるタイプのものをいう。この場合,HSA-hBDNF融合蛋白質は生合成された後,加水分解酵素等により,特定の箇所で切断され,HSAを含む部分と成熟型のhBDNFを含む部分とが分離することがある。得られるhBDNFはHSAとの融合蛋白質ではないが,hBDNFが製造される過程で,一旦,HSA-hBDNF融合蛋白質が合成されることになる。従って,かかる方法によりhBDNFを製造する場合,当該製造方法は,HSA-hBDNF融合蛋白質の製造方法に含まれる。ヒト以外の動物種のSAとhBDNFとの融合蛋白質(SA-hBDNF)についても同様のことがいえる。
【0326】
本発明の一実施形態において,「SA-hNGF融合蛋白質」又は「SA-hNGF」の語は,SAのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,hNGFのアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,hNGFとしての機能を有するものを示す。ここで,SAの動物種に特に限定はないが,好ましくは哺乳動物のSAであり,より好ましくは霊長類のSAであり,更に好ましくはHSAである。SA-hNGF融合蛋白質において,hNGFがhNGFとしての機能を有するというときは,hNGFが,通常の野生型のhNGFの比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性を保持することをいう。なお,ここでSA-hNGF融合蛋白質におけるhNGFの比活性は,当該融合蛋白質の単位質量当たりのhNGFの生理活性に(当該融合蛋白質の分子量/当該融合蛋白質中のhNGFに相当する部分の分子量)を乗じて算出される。
【0327】
本発明の一実施形態において,「HSA-hNGF融合蛋白質」又は「HSA-hNGF」の語は,HSAのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,hNGFのアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,hNGFとしての機能を有するものを示す。ここでHSA-hNGF融合蛋白質がhNGFとしての機能を有するというときは,上記のSA-hNGF融合蛋白質における定義を適用することができる。
【0328】
本発明の一実施形態において好ましいHSA-hNGF融合蛋白質は,例えば配列番号70で示されるアミノ酸配列を有するものである。配列番号70で示されるHSA-hNGF融合蛋白質は,野生型HSAのC末端にリンカー配列Gly-Serを介して野生型hNGFが結合したものである。配列番号70で示されるHSA-hNGF融合蛋白質は,例えば,配列番号71で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。また,配列番号70で示されるアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,他のアミノ酸残基へ置換され,欠失し,或いは付加等の変異が加えられたアミノ酸配列を有するものも,hNGFとしての機能を有するものである限りHSA-hNGF融合蛋白質に含まれる。HSA-hNGF融合蛋白質は,血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等のヒト血清アルブミンとしての機能を有するものであることが好ましいが,これに限定されない。
【0329】
野生型HSAと野生型hNGFとの融合蛋白質であるHSA-hNGF融合蛋白質に変異を加える場合,HSA部分にのみ変異を加えhNGF部分には変異を加えないことも,HSA部分には変異を加えずにhNGF部分にのみ変異を加えることも,また,HSA部分とhNGF部分の何れにも変異を加えることもできる。HSA部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となる。hNGF部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型hNGFに変異が加えられたhNGFのアミノ酸配列となる。HSA部分とhNGF部分の何れにも変異を加える場合にあっては,HSA部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となり,hNGF部分のアミノ酸配列は上述した野生型hNGFに変異が加えられたhNGFのアミノ酸配列となる。配列番号70で示されるアミノ酸配列を有するHSA-hNGF融合蛋白質についても同様である。ヒト以外の動物種の野生型SAと野生型hNGFとの融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0330】
配列番号70で示されるアミノ酸配列を有するHSA-hNGF融合蛋白質に変異を加える場合について,以下例示する。配列番号70で示されるアミノ酸配列中のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基で置換する場合,置換するアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。アミノ酸残基を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。アミノ酸残基を付加する場合,アミノ酸残基は配列番号70で示されるアミノ酸配列中に又は当該アミノ酸配列のN末端若しくはC末端に,1個又は複数個のアミノ酸残基が付加される。HSA-hNGF融合蛋白質は,これらアミノ酸残基の置換,欠失,及び付加を組み合わせたものであってもよい。変異は,HSA部分にのみ加えても,hNGF部分にのみ加えても,又は両方の部分に加えてもよい。ヒト以外の動物種のSAとhNGFとの融合蛋白質(SA-hNGF)についても同様のことがいえる。
【0331】
配列番号70で示されるアミノ酸配列に変異を加えたときの各変異の位置及びその形式(欠失,置換,及び付加)は,変異前後のアミノ酸配列のアラインメントにより,容易に確認することができる。変異を加えたアミノ酸配列は,配列番号70で示されるアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,85%以上の同一性を示し,90%以上の同一性を示し,又は,95%以上の同一性を示し,例えば,98%以上,又は99%以上の同一性を示すものである。
【0332】
HSA-hNGF融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸が糖鎖により修飾されたものもHSA-hNGF融合蛋白質である。また,HSA-hNGF融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸がリン酸により修飾されたものもHSA-hNGF融合蛋白質である。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものもHSA-hNGF融合蛋白質である。また,HSA-hNGF融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものもHSA-hNGF融合蛋白質である。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。変異は,HSA部分にのみ加えても,hNGF部分にのみ加えても,又は両方の部分に加えてもよい。ヒト以外の動物種のSAとhNGFとの融合蛋白質(SA-hNGF)についても同様のことがいえる。
【0333】
つまり,糖鎖により修飾されたHSA-hNGF融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するHSA-hNGF融合蛋白質に含まれるものとする。また,リン酸により修飾されたHSA-hNGF融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するHSA-hNGF融合蛋白質に含まれるものとする。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものも,元のアミノ酸配列を有するHSA-hNGF融合蛋白質に含まれるものとする。また,HSA-hNGF融合蛋白質を構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものも,元のアミノ酸配列を有するHSA-hNGF融合蛋白質に含まれるものとする。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。変異は,HSA部分にのみ加えても,hNGF部分にのみ加えても,又は両方の部分に加えてもよい。ヒト以外の動物種のSAとhNGFとの融合蛋白質(SA-hNGF)についても同様のことがいえる。
【0334】
また,HSA-hNGF融合蛋白質であって,これを構成するhNGFが,hNGFの前駆体であるものもHSA-hNGF融合蛋白質である。ここで前駆体というときは,HSA-hNGF融合蛋白質として生合成されたものであって,当該生合成後に,hNGFとして機能する部分が,製造過程において又は生体に投与したときに当該生体内において,当該融合蛋白質から切り離されて,単独でもhNGFとしての機能を発揮することができるタイプのものをいう。この場合,HSA-hNGF融合蛋白質は生合成された後に,加水分解酵素等により,特定の箇所で切断され,HSAを含む部分と成熟型のhNGFを含む部分とが分離することがある。得られるhNGFはHSAとの融合蛋白質ではないが,hNGFが製造される過程で,一旦,HSA-hNGF融合蛋白質が合成されることになる。従って,かかる方法によりhNGFを製造する場合,当該製造方法は,HSA-hNGF融合蛋白質の製造方法に含まれる。変異は,HSA部分にのみ加えても,hNGF部分にのみ加えても,又は両方の部分に加えてもよい。ヒト以外の動物種のSAとhNGFとの融合蛋白質(SA-hNGF)についても同様のことがいえる。
【0335】
本発明の一実施形態において,「SA-hNT-3融合蛋白質」又は「SA-hNT-3」の語は,SAのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,hNT-3のアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,hNT-3としての機能を有するものを示す。ここで,SAの動物種に特に限定はないが,好ましくは哺乳動物のSAであり,より好ましくは霊長類のSAであり,更に好ましくはHSAである。SA-hNT-3融合蛋白質において,hNT-3がhNT-3としての機能を有するというときは,hNT-3が,通常の野生型のhNT-3の比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性を保持することをいう。なお,ここでSA-hNT-3融合蛋白質におけるhNT-3の比活性は,当該融合蛋白質の単位質量当たりのhNT-3の生理活性に(当該融合蛋白質の分子量/当該融合蛋白質中のhNT-3に相当する部分の分子量)を乗じて算出される。
【0336】
本発明の一実施形態において,「HSA-hNT-3融合蛋白質」又は「HSA-hNT-3」の語は,HSAのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,hNT-3のアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,hNT-3としての機能を有するものを示す。ここでHSA-hNT-3融合蛋白質がhNT-3としての機能を有するというときは,上記のSA-hNT-3融合蛋白質における定義を適用することができる。
【0337】
本発明の一実施形態において好ましいHSA-hNT-3融合蛋白質は,例えば配列番号72で示されるアミノ酸配列を有するものである。配列番号72で示されるHSA-hNT-3融合蛋白質は,野生型HSAのC末端にリンカー配列Gly-Serを介して野生型hNT-3が結合したものである。配列番号72で示されるHSA-hNT-3融合蛋白質は,例えば,配列番号73で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。また,配列番号72で示されるアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,他のアミノ酸残基へ置換され,欠失し,或いは付加等の変異が加えられたアミノ酸配列を有するものも,hNT-3としての機能を有するものである限りHSA-hNT-3融合蛋白質に含まれる。HSA-hNT-3融合蛋白質は,血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等のヒト血清アルブミンとしての機能を有するものであることが好ましいが,これに限定されない。
【0338】
野生型HSAと野生型hNT-3との融合蛋白質であるHSA-hNT-3融合蛋白質に変異を加える場合,HSA部分にのみ変異を加えhNT-3部分には変異を加えないことも,HSA部分には変異を加えずにhNT-3部分にのみ変異を加えることも,また,HSA部分とhNT-3部分の何れにも変異を加えることもできる。HSA部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となる。hNT-3部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型hNT-3に変異が加えられたhNT-3のアミノ酸配列となる。HSA部分とhNT-3部分の何れにも変異を加える場合にあっては,HSA部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となり,hNT-3部分のアミノ酸配列は上述した野生型hNT-3に変異が加えられたhNT-3のアミノ酸配列となる。配列番号72で示されるアミノ酸配列を有するHSA-hNT-3融合蛋白質についても同様である。ヒト以外の動物種の野生型SAと野生型hNT-3との融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0339】
配列番号72で示されるアミノ酸配列を有するHSA-hNT-3融合蛋白質に変異を加える場合について,以下例示する。配列番号72で示されるアミノ酸配列中のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基で置換する場合,置換するアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。アミノ酸残基を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。アミノ酸残基を付加する場合,アミノ酸残基は配列番号72で示されるアミノ酸配列中に又は当該アミノ酸配列のN末端若しくはC末端に,1個又は複数個のアミノ酸残基が付加される。HSA-hNT-3融合蛋白質は,これらアミノ酸残基の置換,欠失,及び付加を組み合わせたものであってもよい。変異は,HSA部分にのみ加えても,hGALC部分にのみ加えても,又は両方の部分に加えてもよい。
【0340】
配列番号72で示されるアミノ酸配列に変異を加えたときの各変異の位置及びその形式(欠失,置換,及び付加)は,変異前後のアミノ酸配列のアラインメントにより,容易に確認することができる。変異を加えたアミノ酸配列は,配列番号72で示されるアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,85%以上の同一性を示し,90%以上の同一性を示し,又は,95%以上の同一性を示し,例えば,98%以上,又は99%以上の同一性を示すものである。
【0341】
HSA-hNT-3融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸が糖鎖により修飾されたものもHSA-hNT-3融合蛋白質である。また,HSA-hNT-3融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸がリン酸により修飾されたものもHSA-hNT-3融合蛋白質である。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものもHSA-hNT-3融合蛋白質である。また,HSA-hNT-3融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものもHSA-hNT-3融合蛋白質である。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒト以外の動物種のSAとhNT-3との融合蛋白質(SA-hNT-3)についても同様のことがいえる。
【0342】
つまり,糖鎖により修飾されたHSA-hNT-3融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するHSA-hNT-3融合蛋白質に含まれるものとする。また,リン酸により修飾されたHSA-hNT-3融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するHSA-hNT-3融合蛋白質に含まれるものとする。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものも,元のアミノ酸配列を有するHSA-hNT-3融合蛋白質に含まれるものとする。また,HSA-hNT-3融合蛋白質を構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものも,元のアミノ酸配列を有するHSA-hNT-3融合蛋白質に含まれるものとする。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒト以外の動物種のSAとhNT-3との融合蛋白質(SA-hNT-3)についても同様のことがいえる。
【0343】
また,HSA-hNT-3融合蛋白質であって,これを構成するhNT-3が,hNT-3の前駆体であるものもHSA-hNT-3融合蛋白質である。ここで前駆体というときは,HSA-hNT-3融合蛋白質として生合成されたものであって,当該生合成後に,hNT-3として機能する部分が,製造過程において又は生体に投与したときに当該生体内において,当該融合蛋白質から切り離されて,単独でもhNT-3としての機能を発揮することができるタイプのものをいう。この場合,HSA-hNT-3融合蛋白質は生合成された後に,加水分解酵素等により,特定の箇所で切断され,HSAを含む部分と成熟型のhNT-3を含む部分とが分離することがある。得られるhNT-3はHSAとの融合蛋白質ではないが,当該hNT-3が合成される過程で,一旦,HSA-hNT-3融合蛋白質が合成されることになる。従って,かかる方法によりhNT-3を製造する場合,当該製造方法は,HSA-hNT-3融合蛋白質の製造方法に含まれる。ヒト以外の動物種のSAとhNT-3との融合蛋白質(SA-hNT-3)についても同様のことがいえる。
【0344】
本発明の一実施形態において,「SA-hNT-4融合蛋白質」又は「SA-hNT-4」の語は,SAのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,hNT-4のアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,hNT-4としての機能を有するものを示す。ここで,SAの動物種に特に限定はないが,好ましくは哺乳動物のSAであり,より好ましくは霊長類のSAであり,更に好ましくはHSAである。SA-hNT-4融合蛋白質において,hNT-4がhNT-4としての機能を有するというときは,hNT-4が,通常の野生型のhNT-4の比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性を保持することをいう。なお,ここでSA-hNT-4融合蛋白質におけるhNT-4の比活性は,当該融合蛋白質の単位質量当たりのhNT-4の生理活性に(当該融合蛋白質の分子量/当該融合蛋白質中のhNT-4に相当する部分の分子量)を乗じて算出される。
【0345】
本発明の一実施形態において,「HSA-hNT-4融合蛋白質」又は「HSA-hNT-4」の語は,HSAのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,hNT-4のアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,hNT-4としての機能を有するものを示す。ここでHSA-hNT-4融合蛋白質がhNT-4としての機能を有するというときは,上記のSA-hNT-4融合蛋白質における定義を適用することができる。
【0346】
本発明の一実施形態において好ましいHSA-hNT-4融合蛋白質は,例えば配列番号74で示されるアミノ酸配列を有するものである。配列番号74で示されるHSA-hNT-4融合蛋白質は,野生型HSAのC末端にリンカー配列Gly-Serを介して野生型hNT-4が結合したものである。配列番号74で示されるHSA-hNT-4融合蛋白質は,例えば,配列番号75で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。また,配列番号74で示されるアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,他のアミノ酸残基へ置換され,欠失し,或いは付加等の変異が加えられたアミノ酸配列を有するものも,hNT-4としての機能を有するものである限りHSA-hNT-4融合蛋白質に含まれる。HSA-hNT-4融合蛋白質は,血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等のヒト血清アルブミンとしての機能を有するものであることが好ましいが,これに限定されない。
【0347】
野生型HSAと野生型hNT-4との融合蛋白質であるHSA-hNT-4融合蛋白質に変異を加える場合,HSA部分にのみ変異を加えhNT-4部分には変異を加えないことも,HSA部分には変異を加えずにhNT-4部分にのみ変異を加えることも,また,HSA部分とhNT-4部分の何れにも変異を加えることもできる。HSA部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となる。hNT-4部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型hNT-4に変異が加えられたhNT-4のアミノ酸配列となる。HSA部分とhNT-4部分の何れにも変異を加える場合にあっては,HSA部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となり,hNT-4部分のアミノ酸配列は上述した野生型hNT-4に変異が加えられたhNT-4のアミノ酸配列となる。配列番号74で示されるアミノ酸配列を有するHSA-hNT-4融合蛋白質についても同様である。ヒト以外の動物種の野生型SAと野生型hNT-4との融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0348】
配列番号74で示されるアミノ酸配列を有するHSA-hNT-4融合蛋白質に変異を加える場合について,以下例示する。配列番号74で示されるアミノ酸配列中のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基で置換する場合,置換するアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。アミノ酸残基を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。アミノ酸残基を付加する場合,アミノ酸残基は配列番号74で示されるアミノ酸配列中に又は当該アミノ酸配列のN末端若しくはC末端に,1個又は複数個のアミノ酸残基が付加される。HSA-hNT-4融合蛋白質は,これらアミノ酸残基の置換,欠失,及び付加を組み合わせたものであってもよい。変異は,HSA部分にのみ加えても,hNT-4部分にのみ加えても,又は両方の部分に加えてもよい。ヒト以外の動物種のSAとhNT-3との融合蛋白質(SA-hNT-4)についても同様のことがいえる。
【0349】
配列番号74で示されるアミノ酸配列に変異を加えたときの各変異の位置及びその形式(欠失,置換,及び付加)は,変異前後のアミノ酸配列のアラインメントにより,容易に確認することができる。変異を加えたアミノ酸配列は,配列番号74で示されるアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,85%以上の同一性を示し,90%以上の同一性を示し,又は,95%以上の同一性を示し,例えば,98%以上,又は99%以上の同一性を示すものである。
【0350】
HSA-hNT-4融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸が糖鎖により修飾されたものもHSA-hNT-4融合蛋白質である。また,HSA-hNT-4融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸がリン酸により修飾されたものもHSA-hNT-4融合蛋白質である。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものもHSA-hNT-4融合蛋白質である。また,HSA-hNT-4融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものもHSA-hNT-4融合蛋白質である。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒト以外の動物種のSAとhNT-3との融合蛋白質(SA-hNT-4)についても同様のことがいえる。
【0351】
つまり,糖鎖により修飾されたHSA-hNT-4融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するHSA-hNT-4融合蛋白質に含まれるものとする。また,リン酸により修飾されたHSA-hNT-4融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するHSA-hNT-4融合蛋白質に含まれるものとする。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものも,元のアミノ酸配列を有するHSA-hNT-4融合蛋白質に含まれるものとする。また,HSA-hNT-4融合蛋白質を構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものも,元のアミノ酸配列を有するHSA-hNT-4融合蛋白質に含まれるものとする。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒト以外の動物種のSAとhNT-3との融合蛋白質(SA-hNT-4)についても同様のことがいえる。
【0352】
また,HSA-hNT-4融合蛋白質であって,これを構成するhNT-4が,hNT-4の前駆体であるものもHSA-hNT-4融合蛋白質である。ここで前駆体というときは,HSA-hNT-4融合蛋白質として生合成されたものであって,当該生合成後に,hNT-4として機能する部分が,製造過程において又は生体に投与したときに当該生体内において,当該融合蛋白質から切り離されて,単独でもhNT-4としての機能を発揮することができるタイプのものをいう。この場合,HSA-hNT-4融合蛋白質は生合成された後に,加水分解酵素等により,特定の箇所で切断され,HSAを含む部分とhNT-4を含む部分とが分離することがある。得られるhNT-4はHSAとの融合蛋白質ではないが,当該hNT-4が合成される過程で,一旦,HSA-hNT-4融合蛋白質が合成されることになる。従って,かかる方法によりhNT-4を製造する場合,当該製造方法は,HSA-hNT-4融合蛋白質の製造方法に含まれる。ヒト以外の動物種のSAとhNT-4との融合蛋白質(SA-hNT-4)についても同様のことがいえる。
【0353】
本発明の一実施形態において,「ヒト神経栄養因子-SA融合蛋白質」又は「ヒト神経栄養因子-SA」の語は,ヒト神経栄養因子のアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,SAのアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,ヒト神経栄養因子としての機能を有するものを示す。ヒト神経栄養因子-SA融合蛋白質において,ヒト神経栄養因子がヒト神経栄養因子としての機能を有するというときは,ヒト神経栄養因子が,通常の野生型のヒト神経栄養因子の比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性を保持することをいう。なお,ここでヒト神経栄養因子-SA融合蛋白質におけるヒト神経栄養因子の比活性は,当該融合蛋白質の単位質量当たりのヒト神経栄養因子の生理活性に(当該融合蛋白質の分子量/当該融合蛋白質中のヒト神経栄養因子に相当する部分の分子量)を乗じて算出される。
【0354】
本発明の一実施形態において,「ヒト神経栄養因子-HSA融合蛋白質」又は「ヒト神経栄養因子-HSA」の語は,ヒト神経栄養因子のアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,HSAのアミノ酸配列のN末端が結合されている,アミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,ヒト神経栄養因子としての機能を有するものを示す。ここでヒト神経栄養因子-HSA融合蛋白質がヒト神経栄養因子としての機能を有するというときは,上記の神経栄養因子-HSA融合蛋白質における定義を適用することができる。
【0355】
ヒト神経栄養因子-SA融合蛋白質において,SAは血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等のSAとしての機能を有するものであることが好ましいが,これに限定されない。ヒト神経栄養因子-HSA融合蛋白質においても同様である。hBDNF-HSA融合蛋白質,hNGF-HSA融合蛋白質,hNT-3-HSA融合蛋白質,hNT-4-HSA融合蛋白質についても同様である。
【0356】
本発明の一実施形態において,ヒト以外の動物種の神経栄養因子のアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,ヒト以外の動物種のSAのN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,神経栄養因子としての機能を有するものは,「(ヒト以外の動物種)神経栄養因子-(ヒト以外の動物種)SA融合蛋白質」と表記される。例えば,マウス神経栄養因子とマウスSAの融合蛋白質は,「マウス神経栄養因子-MSA融合蛋白質」又は「マウス神経栄養因子-MSA」と表記される。これら融合蛋白質についても,神経栄養因子としての機能を有するというときは,上記のヒト神経栄養因子-SA融合蛋白質における定義を適用することができる。また,これら融合蛋白質において,SAは血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等のSAとしての機能を有するものであることが好ましいが,これに限定されない。
【0357】
野生型ヒト神経栄養因子と野生型HSAとの融合蛋白質であるヒト神経栄養因子-HSA融合蛋白質に変異を加える場合,ヒト神経栄養因子部分にのみ変異を加えHSA部分には変異を加えないことも,ヒト神経栄養因子部分には変異を加えずにHSA部分にのみ変異を加えることも,また,ヒト神経栄養因子部分とHSA部分の何れにも変異を加えることもできる。ヒト神経栄養因子部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型ヒト神経栄養因子に変異が加えられたヒト神経栄養因子のアミノ酸配列となる。HSA部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となる。ヒト神経栄養因子部分とHSA部分の何れにも変異を加える場合にあっては,ヒト神経栄養因子部分のアミノ酸配列は上述した野生型ヒト神経栄養因子に変異が加えられたヒト神経栄養因子のアミノ酸配列となり,HSA部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となる。野生型ヒト神経栄養因子とヒト以外の動物種の野生型SAとの融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0358】
ヒト神経栄養因子-HSA融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸が糖鎖により修飾されたものもヒト神経栄養因子-HSA融合蛋白質である。また,ヒト神経栄養因子-HSA融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸がリン酸により修飾されたものもヒト神経栄養因子-HSA融合蛋白質である。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものもヒト神経栄養因子-HSA融合蛋白質である。また,ヒト神経栄養因子-HSA融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものもヒト神経栄養因子-HSA融合蛋白質である。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒト神経栄養因子とヒト以外の動物種のSAとの融合蛋白質(ヒト神経栄養因子-SA)についても同様のことがいえる。
【0359】
つまり,糖鎖により修飾されたヒト神経栄養因子-HSA融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するヒト神経栄養因子-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。また,リン酸により修飾されたヒト神経栄養因子-HSA融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するヒト神経栄養因子-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものも,元のアミノ酸配列を有するヒト神経栄養因子-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。また,ヒト神経栄養因子-HSA融合蛋白質を構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものも,元のアミノ酸配列を有するヒト神経栄養因子-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒト神経栄養因子とヒト以外の動物種のSAとの融合蛋白質(ヒト神経栄養因子-SA)についても同様のことがいえる。
【0360】
また,ヒト神経栄養因子-HSA融合蛋白質であって,これを構成するヒト神経栄養因子が,ヒト神経栄養因子の前駆体であるものもヒト神経栄養因子-HSA融合蛋白質である。但し,ヒト神経栄養因子の前駆体が,ヒト神経栄養因子としての機能を示さない場合には,これがインビボ又はインビトロでプロセシングされてヒト神経栄養因子としての機能を示すものに転換されるものであることが必要である。
【0361】
本発明の一実施形態において,「hBDNF-SA融合蛋白質」又は「hBDNF-SA」の語は,hBDNFのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,SAのアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,hBDNFとしての機能を有するものを示す。hBDNF-SA融合蛋白質において,hBDNFがhBDNFとしての機能を有するというときは,hBDNFが,通常の野生型のhBDNFの比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性を保持することをいう。なお,ここでhBDNF-SA融合蛋白質におけるhBDNFの比活性は,当該融合蛋白質の単位質量当たりのhBDNFの生理活性に(当該融合蛋白質の分子量/当該融合蛋白質中のhBDNFに相当する部分の分子量)を乗じて算出される。
【0362】
本発明の一実施形態において,「hBDNF-HSA融合蛋白質」又は「hBDNF-HSA」の語は,hBDNFのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,HSAのアミノ酸配列のN末端が結合されている,アミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,hBDNFとしての機能を有するものを示す。ここでhBDNF-HSA融合蛋白質がhBDNFとしての機能を有するというときは,上記のhBDNF-SA融合蛋白質における定義を適用することができる。
【0363】
本発明において,ヒト以外の動物種のBDNFのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,ヒト以外の動物種のSAのN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,BDNFとしての機能を有するものは,「(ヒト以外の動物種)BDNF-(ヒト以外の動物種)SA融合蛋白質」と表記される。例えば,マウスBDNFとマウスSAの融合蛋白質は,「マウスBDNF-マウスSA融合蛋白質」又は「マウスBDNF-MSA」と表記される。これら融合蛋白質についても,BDNFとしての機能を有するというときは,上記のhBDNF-SA融合蛋白質における定義を適用することができる。
【0364】
本発明の一実施形態において好ましいhBDNF-HSA融合蛋白質は,例えば配列番号76で示されるアミノ酸配列を有するものである。配列番号76で示されるhBDNF-HSA融合蛋白質は,野生型hBDNFのC末端にリンカー配列Gly-Serを介して野生型HSAが結合したものである。配列番号76で示されるhBDNF-HSA融合蛋白質は,例えば,配列番号77で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。また,配列番号76で示されるアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,他のアミノ酸残基へ置換され,欠失し,或いは付加等の変異が加えられたアミノ酸配列を有するものも,hBDNFとしての機能を有するものである限りhBDNF-HSA融合蛋白質に含まれる。hBDNF-HSA融合蛋白質は,血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等のヒト血清アルブミンとしての機能を有するものであることが好ましいが,これに限定されない。
【0365】
配列番号76で示されるアミノ酸配列に変異を加えたときの各変異の位置及びその形式(欠失,置換,及び付加)は,変異前後のアミノ酸配列のアラインメントにより,容易に確認することができる。変異を加えたアミノ酸配列は,配列番号76で示されるアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,85%以上の同一性を示し,90%以上の同一性を示し,又は,95%以上の同一性を示し,例えば,98%以上,又は99%以上の同一性を示すものである。
【0366】
野生型hBDNFと野生型HSAとの融合蛋白質であるhBDNF-HSA融合蛋白質に変異を加える場合,HSA部分にのみ変異を加えhBDNF部分には変異を加えないことも,HSA部分には変異を加えずにhBDNF部分にのみ変異を加えることも,また,HSA部分とhBDNF部分の何れにも変異を加えることもできる。HSA部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となる。hBDNF部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型hBDNFに変異が加えられたhBDNFのアミノ酸配列となる。HSA部分とhBDNF部分の何れにも変異を加える場合にあっては,HSA部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となり,hBDNF部分のアミノ酸配列は上述した野生型hBDNFに変異が加えられたhBDNFのアミノ酸配列となる。配列番号76で示されるアミノ酸配列を有するhBDNF-HSA融合蛋白質についても同様である。野生型hBDNFとヒト以外の動物種の野生型SA(hBDNF-SA)との融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0367】
配列番号76で示されるアミノ酸配列を有するhBDNF-HSA融合蛋白質に変異を加える場合について,以下例示する。配列番号76で示されるアミノ酸配列中のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基で置換する場合,置換するアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。アミノ酸残基を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。アミノ酸残基を付加する場合,アミノ酸残基は配列番号76で示されるアミノ酸配列中に又は当該アミノ酸配列のN末端若しくはC末端に,1個又は複数個のアミノ酸残基が付加される。hBDNF-HSA融合蛋白質は,これらアミノ酸残基の置換,欠失,及び付加を組み合わせたものであってもよい。変異は,HSA部分にのみ加えても,hBDNF部分にのみ加えても,又は両方の部分に加えてもよい。hBDNFとヒト以外の動物種のSAとの融合蛋白質(hBDNF-SA)についても同様のことがいえる。
【0368】
hBDNF-HSA融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸が糖鎖により修飾されたものもhBDNF-HSA融合蛋白質である。また,hBDNF-HSA融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸がリン酸により修飾されたものもhBDNF-HSA融合蛋白質である。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものもhBDNF-HSA融合蛋白質である。また,hBDNF-HSA融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものもhBDNF-HSA融合蛋白質である。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。hBDNFとヒト以外の動物種のSAとの融合蛋白質(hBDNF-SA)についても同様のことがいえる。
【0369】
つまり,糖鎖により修飾されたhBDNF-HSA融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するhBDNF-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。また,リン酸により修飾されたhBDNF-HSA融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するhBDNF-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものも,元のアミノ酸配列を有するhBDNF-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。また,hBDNF-HSA融合蛋白質を構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものも,元のアミノ酸配列を有するhBDNF-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。hBDNFとヒト以外の動物種のSAとの融合蛋白質(hBDNF-SA)についても同様のことがいえる。
【0370】
また,hBDNF-HSA融合蛋白質であって,これを構成するhBDNFが,hBDNFの前駆体であるものもhBDNF-HSA融合蛋白質である。但し,hBDNFが前駆体であるhBDNF-HSA融合蛋白質が,hBDNFとしての機能を示さない場合には,これがインビボ又はインビトロでプロセシングされてhBDNFとしての機能を示すものに転換されるものであることが必要である。
【0371】
本発明の一実施形態において,「hNGF-SA融合蛋白質」又は「hNGF-SA」の語は,hNGFのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,SAのアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,hNGFとしての機能を有するものを示す。hNGF-SA融合蛋白質において,hNGFがhNGFとしての機能を有するというときは,hNGFが,通常の野生型のhNGFの比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性を保持することをいう。なお,ここでhNGF-SA融合蛋白質におけるhNGFの比活性は,当該融合蛋白質の単位質量当たりのhNGFの生理活性に(当該融合蛋白質の分子量/当該融合蛋白質中のhNGFに相当する部分の分子量)を乗じて算出される。
【0372】
本発明の一実施形態において,「hNGF-HSA融合蛋白質」又は「hNGF-HSA」の語は,hNGFのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,HSAのアミノ酸配列のN末端が結合されている,アミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,hNGFとしての機能を有するものを示す。ここでhNGF-HSA融合蛋白質がhNGFとしての機能を有するというときは,上記のhNGF-SA融合蛋白質における定義を適用することができる。
【0373】
本発明の一実施形態において,ヒト以外の動物種のNGFのアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,ヒト以外の動物種のSAのN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,NGFとしての機能を有するものは,「(ヒト以外の動物種)NGF-(ヒト以外の動物種)SA融合蛋白質」と表記される。例えば,マウスNGFとマウスSAの融合蛋白質は,「マウスNGF-マウスSA融合蛋白質」又は「マウスNGF-MSA」と表記される。これら融合蛋白質についても,NGFとしての機能を有するというときは,上記のhNGF-SA融合蛋白質における定義を適用することができる。また,
【0374】
本発明の一実施形態において好ましいhNGF-HSA融合蛋白質は,例えば配列番号78で示されるアミノ酸配列を有するものである。配列番号78で示されるhNGF-HSA融合蛋白質は,野生型hNGFのC末端にリンカー配列Gly-Serを介して野生型HSAが結合したものである。配列番号78で示されるhNGF-HSA融合蛋白質は,例えば,配列番号79で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。また,配列番号78で示されるアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,他のアミノ酸残基へ置換され,欠失し,或いは付加等の変異が加えられたアミノ酸配列を有するものも,hNGFとしての機能を有するものである限りhNGF-HSA融合蛋白質に含まれる。hNGF-HSA融合蛋白質は,血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等のヒト血清アルブミンとしての機能を有するものであることが好ましいが,これに限定されない。
【0375】
配列番号78で示されるアミノ酸配列に変異を加えたときの各変異の位置及びその形式(欠失,置換,及び付加)は,変異前後のアミノ酸配列のアラインメントにより,容易に確認することができる。変異を加えたアミノ酸配列は,配列番号78で示されるアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,85%以上の同一性を示し,90%以上の同一性を示し,又は,95%以上の同一性を示し,例えば,98%以上,又は99%以上の同一性を示すものである。
【0376】
野生型hNGFと野生型HSAとの融合蛋白質であるhNGF-HSA融合蛋白質に変異を加える場合,HSA部分にのみ変異を加えhNGF部分には変異を加えないことも,HSA部分には変異を加えずにhNGF部分にのみ変異を加えることも,また,HSA部分とhNGF部分の何れにも変異を加えることもできる。HSA部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となる。hNGF部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型hNGFに変異が加えられたhNGFのアミノ酸配列となる。HSA部分とhNGF部分の何れにも変異を加える場合にあっては,HSA部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となり,hNGF部分のアミノ酸配列は上述した野生型hNGFに変異が加えられたhNGFのアミノ酸配列となる。配列番号78で示されるアミノ酸配列を有するhNGF-HSA融合蛋白質についても同様である。野生型hNGFとヒト以外の動物種の野生型SA(hNGF-SA)との融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0377】
配列番号78で示されるアミノ酸配列を有するhNGF-HSA融合蛋白質に変異を加える場合について,以下例示する。配列番号78で示されるアミノ酸配列中のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基で置換する場合,置換するアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。アミノ酸残基を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。アミノ酸残基を付加する場合,アミノ酸残基は配列番号78で示されるアミノ酸配列中に又は当該アミノ酸配列のN末端若しくはC末端に,1個又は複数個のアミノ酸残基が付加される。hNGF-HSA融合蛋白質は,これらアミノ酸残基の置換,欠失,及び付加を組み合わせたものであってもよい。変異は,HSA部分にのみ加えても,hNGF部分にのみ加えても,又は両方の部分に加えてもよい。ヒト以外の動物種のNGFとHSAとの融合蛋白質(NGF-SA),及びヒト以外の動物種のNGFとヒト以外の動物種のSAとの融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0378】
hNGF-HSA融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸が糖鎖により修飾されたものもhNGF-HSA融合蛋白質である。また,hNGF-HSA融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸がリン酸により修飾されたものもhNGF-HSA融合蛋白質である。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものもhNGF-HSA融合蛋白質である。また,hNGF-HSA融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものもhNGF-HSA融合蛋白質である。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。hNGFとヒト以外の動物種のSAとの融合蛋白質(hNGF-SA)についても同様のことがいえる。
【0379】
つまり,糖鎖により修飾されたhNGF-HSA融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するhNGF-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。また,リン酸により修飾されたhNGF-HSA融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するhNGF-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものも,元のアミノ酸配列を有するhNGF-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。また,hNGF-HSA融合蛋白質を構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものも,元のアミノ酸配列を有するhNGF-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。hNGFとヒト以外の動物種のSAとの融合蛋白質(hNGF-SA)についても同様のことがいえる。
【0380】
また,hNGF-HSA融合蛋白質であって,これを構成するhNGFが,hNGFの前駆体であるものもhNGF-HSA融合蛋白質である。但し,hNGFが前駆体であるhNGF-HSA融合蛋白質が,hNGFとしての機能を示さない場合には,これがインビボ又はインビトロでプロセシングされてhNGFとしての機能を示すものに転換されるものであることが必要である。hNGFとヒト以外の動物種のSAとの融合蛋白質(hNGF-SA)についても同様のことがいえる。
【0381】
本発明の一実施形態において,「hNT-3-SA融合蛋白質」又は「hNT-3-SA」の語は,hNT-3のアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,SAのアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,hNT-3としての機能を有するものを示す。hNT-3-SA融合蛋白質において,hNT-3がhNT-3としての機能を有するというときは,hNT-3が,通常の野生型のhNT-3の比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性を保持することをいう。なお,ここでhNT-3-SA融合蛋白質におけるhNT-3の比活性は,当該融合蛋白質の単位質量当たりのhNT-3の生理活性に(当該融合蛋白質の分子量/当該融合蛋白質中のhNT-3に相当する部分の分子量)を乗じて算出される。
【0382】
本発明の一実施形態において,「hNT-3-HSA融合蛋白質」又は「hNT-3-HSA」の語は,hNT-3のアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,HSAのアミノ酸配列のN末端が結合されている,アミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,hNT-3としての機能を有するものを示す。ここでhNT-3-HSA融合蛋白質がhNT-3としての機能を有するというときは,上記のhNT-3-SA融合蛋白質における定義を適用することができる。
【0383】
本発明の一実施形態において,ヒト以外の動物種のNT-3のアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,ヒト以外の動物種のSAのN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,NT-3としての機能を有するものは,「(ヒト以外の動物種)NT-3-(ヒト以外の動物種)SA融合蛋白質」と表記される。例えば,マウスNT-3とマウスSAの融合蛋白質は,「マウスNT-3-マウスSA融合蛋白質」又は「マウスNT-3-MSA」と表記される。これら融合蛋白質についても,NT-3としての機能を有するというときは,上記のhNT-3-SA融合蛋白質における定義を適用することができる。
【0384】
本発明の一実施形態において好ましいhNT-3-HSA融合蛋白質は,例えば配列番号80で示されるアミノ酸配列を有するものである。配列番号80で示されるhNT-3-HSA融合蛋白質は,野生型hNT-3のC末端にリンカー配列Gly-Serを介して野生型HSAが結合したものである。配列番号80で示されるhNT-3-HSA融合蛋白質は,例えば,配列番号81で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。また,配列番号80で示されるアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,他のアミノ酸残基へ置換され,欠失し,或いは付加等の変異が加えられたアミノ酸配列を有するものも,hNT-3としての機能を有するものである限りhNT-3-HSA融合蛋白質に含まれる。hNT-3-HSA融合蛋白質は,血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等のヒト血清アルブミンとしての機能を有するものであることが好ましいが,これに限定されない。
【0385】
配列番号80で示されるアミノ酸配列に変異を加えたときの各変異の位置及びその形式(欠失,置換,及び付加)は,変異前後のアミノ酸配列のアラインメントにより,容易に確認することができる。変異を加えたアミノ酸配列は,配列番号80で示されるアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,85%以上の同一性を示し,90%以上の同一性を示し,又は,95%以上の同一性を示し,例えば,98%以上,又は99%以上の同一性を示すものである。
【0386】
野生型hNT-3と野生型HSAとの融合蛋白質であるhNT-3-HSA融合蛋白質に変異を加える場合,HSA部分にのみ変異を加えhNT-3部分には変異を加えないことも,HSA部分には変異を加えずにhNT-3部分にのみ変異を加えることも,また,HSA部分とhNT-3部分の何れにも変異を加えることもできる。HSA部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となる。hNT-3部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型hNT-3に変異が加えられたhNT-3のアミノ酸配列となる。HSA部分とhNT-3部分の何れにも変異を加える場合にあっては,HSA部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となり,hNT-3部分のアミノ酸配列は上述した野生型hNT-3に変異が加えられたhNT-3のアミノ酸配列となる。配列番号80で示されるアミノ酸配列を有するhNT-3-HSA融合蛋白質についても同様である。野生型hNT-3とヒト以外の動物種の野生型SA(hNT-3-SA)との融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0387】
配列番号80で示されるアミノ酸配列を有するhNT-3-HSA融合蛋白質に変異を加える場合について,以下例示する。配列番号80で示されるアミノ酸配列中のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基で置換する場合,置換するアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。アミノ酸残基を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。アミノ酸残基を付加する場合,アミノ酸残基は配列番号80で示されるアミノ酸配列中に又は当該アミノ酸配列のN末端若しくはC末端に,1個又は複数個のアミノ酸残基が付加される。hNT-3-HSA融合蛋白質は,これらアミノ酸残基の置換,欠失,及び付加を組み合わせたものであってもよい。変異は,HSA部分にのみ加えても,hNT-3部分にのみ加えても,又は両方の部分に加えてもよい。hNT-3とヒト以外の動物種のSAとの融合蛋白質(hNT-3-SA)についても同様のことがいえる。
【0388】
hNT-3-HSA融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸が糖鎖により修飾されたものもhNT-3-HSA融合蛋白質である。また,hNT-3-HSA融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸がリン酸により修飾されたものもhNT-3-HSA融合蛋白質である。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものもhNT-3-HSA融合蛋白質である。また,hNT-3-HSA融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものもhNT-3-HSA融合蛋白質である。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。hNT-3とヒト以外の動物種のSAとの融合蛋白質(hNT-3-SA)についても同様のことがいえる。
【0389】
つまり,糖鎖により修飾されたhNT-3-HSA融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するhNT-3-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。また,リン酸により修飾されたhNT-3-HSA融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するhNT-3-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものも,元のアミノ酸配列を有するhNT-3-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。また,hNT-3-HSA融合蛋白質を構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものも,元のアミノ酸配列を有するhNT-3-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。hNT-3とヒト以外の動物種のSAとの融合蛋白質(hNT-3-SA)についても同様のことがいえる。
【0390】
また,hNT-3-HSA融合蛋白質であって,これを構成するhNT-3が,hNT-3の前駆体であるものもhNT-3-HSA融合蛋白質である。但し,hNT-3が前駆体であるhNT-3-HSA融合蛋白質が,hNT-3としての機能を示さない場合には,これがインビボ又はインビトロでプロセシングされてhNT-3としての機能を示すものに転換されるものであることが必要である。hNT-3とヒト以外の動物種のSAとの融合蛋白質(hNT-3-SA)についても同様のことがいえる。
【0391】
本発明の一実施形態において,「hNT-4-SA融合蛋白質」又は「hNT-4-SA」の語は,hNT-4のアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,SAのアミノ酸配列のN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,hNT-4としての機能を有するものを示す。hNT-4-SA融合蛋白質において,hNT-4がhNT-4としての機能を有するというときは,hNT-4が,通常の野生型のhNT-4の比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性を保持することをいう。なお,ここでhNT-4-SA融合蛋白質におけるhNT-4の比活性は,当該融合蛋白質の単位質量当たりのhNT-4の生理活性に(当該融合蛋白質の分子量/当該融合蛋白質中のhNT-4に相当する部分の分子量)を乗じて算出される。
【0392】
本発明の一実施形態において,「hNT-4-HSA融合蛋白質」又は「hNT-4-HSA」の語は,hNT-4のアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,HSAのアミノ酸配列のN末端が結合されている,アミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,hNT-4としての機能を有するものを示す。ここでhNT-4-HSA融合蛋白質がhNT-4としての機能を有するというときは,上記のhNT-4-SA融合蛋白質における定義を適用することができる。
【0393】
本発明の一実施形態において,ヒト以外の動物種のNT-4のアミノ酸配列のC末端に,直接又はリンカーを介して,ヒト以外の動物種のSAのN末端が結合されているアミノ酸配列を有する融合蛋白質であって,NT-4としての機能を有するものは,「(ヒト以外の動物種)NT-4-(ヒト以外の動物種)SA融合蛋白質」と表記される。例えば,マウスNT-4とマウスSAの融合蛋白質は,「マウスNT-4-マウスSA融合蛋白質」又は「マウスNT-4-MSA」と表記される。これら融合蛋白質についても,NT-4としての機能を有するというときは,上記のhNT-4-SA融合蛋白質における定義を適用することができる。
【0394】
本発明の一実施形態において好ましいhNT-4-HSA融合蛋白質は,例えば配列番号82で示されるアミノ酸配列を有するものである。配列番号82で示されるhNT-4-HSA融合蛋白質は,野生型hNT-4のC末端にリンカー配列Gly-Serを介して野生型HSAが結合したものである。配列番号82で示されるhNT-4-HSA融合蛋白質は,例えば,配列番号83で示される塩基配列を有する遺伝子にコードされる。また,配列番号82で示されるアミノ酸配列に対し,1個又は複数個のアミノ酸残基が,他のアミノ酸残基へ置換され,欠失し,或いは付加等の変異が加えられたアミノ酸配列を有するものも,hNT-4としての機能を有するものである限りhNT-4-HSA融合蛋白質に含まれる。hNT-4-HSA融合蛋白質は,血中の内因性の物質及び薬剤等の外因性の物質を結合して運搬する機能等のヒト血清アルブミンとしての機能を有するものであることが好ましいが,これに限定されない。
【0395】
配列番号82で示されるアミノ酸配列に変異を加えたときの各変異の位置及びその形式(欠失,置換,及び付加)は,変異前後のアミノ酸配列のアラインメントにより,容易に確認することができる。変異を加えたアミノ酸配列は,配列番号82で示されるアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,85%以上の同一性を示し,90%以上の同一性を示し,又は,95%以上の同一性を示し,例えば,98%以上,又は99%以上の同一性を示すものである。
【0396】
野生型hNT-4と野生型HSAとの融合蛋白質であるhNT-4-HSA融合蛋白質に変異を加える場合,HSA部分にのみ変異を加えhNT-4部分には変異を加えないことも,HSA部分には変異を加えずにhNT-4部分にのみ変異を加えることも,また,HSA部分とhNT-4部分の何れにも変異を加えることもできる。HSA部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となる。hNT-4部分にのみ変異を加える場合にあっては,当該部分のアミノ酸配列は上述した野生型hNT-4に変異が加えられたhNT-4のアミノ酸配列となる。HSA部分とhNT-4部分の何れにも変異を加える場合にあっては,HSA部分のアミノ酸配列は上述した野生型HSAに変異が加えられたHSAのアミノ酸配列となり,hNT-4部分のアミノ酸配列は上述した野生型hNT-4に変異が加えられたhNT-4のアミノ酸配列となる。配列番号82で示されるアミノ酸配列を有するhNT-4-HSA融合蛋白質についても同様である。野生型hNT-4とヒト以外の動物種の野生型SA(hNT-4-SA)との融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0397】
配列番号82で示されるアミノ酸配列を有するhNT-4-HSA融合蛋白質に変異を加える場合について,以下例示する。配列番号82で示されるアミノ酸配列中のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基で置換する場合,置換するアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。アミノ酸残基を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸残基の個数は,1~10個であり,1~5個であり,又は1~3個であり,例えば,1個又は2個である。アミノ酸残基を付加する場合,アミノ酸残基は配列番号82で示されるアミノ酸配列中に又は当該アミノ酸配列のN末端若しくはC末端に,1個又は複数個のアミノ酸残基が付加される。hNT-4-HSA融合蛋白質は,これらアミノ酸残基の置換,欠失,及び付加を組み合わせたものであってもよい。変異は,HSA部分にのみ加えても,hNT-4部分にのみ加えても,又は両方の部分に加えてもよい。hNT-4とヒト以外の動物種のSAとの融合蛋白質(hNT-4-SA)についても同様のことがいえる。
【0398】
hNT-4-HSA融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸が糖鎖により修飾されたものもhNT-4-HSA融合蛋白質である。また,hNT-4-HSA融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸がリン酸により修飾されたものもhNT-4-HSA融合蛋白質である。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものもhNT-4-HSA融合蛋白質である。また,hNT-4-HSA融合蛋白質であって,これを構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものもhNT-4-HSA融合蛋白質である。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒト以外の動物種のNT-4とHSAとの融合蛋白質(NT-4-SA),及びヒト以外の動物種のNT-4とヒト以外の動物種のSAとの融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0399】
つまり,糖鎖により修飾されたhNT-4-HSA融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するhNT-4-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。また,リン酸により修飾されたhNT-4-HSA融合蛋白質は,元のアミノ酸配列を有するhNT-4-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。また,糖鎖及びリン酸以外のものにより修飾されたものも,元のアミノ酸配列を有するhNT-4-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。また,hNT-4-HSA融合蛋白質を構成するアミノ酸の側鎖が,置換反応等により変換したものも,元のアミノ酸配列を有するhNT-4-HSA融合蛋白質に含まれるものとする。かかる変換としては,システイン残基のホルミルグリシンへの変換があるが,これに限られるものではない。ヒト以外の動物種のNT-4とHSAとの融合蛋白質(NT-4-SA),及びヒト以外の動物種のNT-4とヒト以外の動物種のSAとの融合蛋白質についても同様のことがいえる。
【0400】
また,hNT-4-HSA融合蛋白質であって,これを構成するhNT-4が,hNT-4の前駆体であるものもhNT-4-HSA融合蛋白質である。但し,hNT-4が前駆体であるhNT-4-HSA融合蛋白質が,hNT-4としての機能を示さない場合には,これがインビボ又はインビトロでプロセシングされてhNT-4としての機能を示すものに転換されるものであることが必要である。
【0401】
本発明の一実施形態において,「HSAとヒト神経栄養因子との融合蛋白質」,「ヒト神経栄養因子とHSAとの融合蛋白質」,又は「ヒト血清アルブミンとヒト神経栄養因子との融合蛋白質」,というときは,上記の「HSA-ヒト神経栄養因子融合蛋白質」及び「ヒト神経栄養因子-HSA融合蛋白質」のいずれをも含む。これらのことは,SAがヒト以外の動物種である場合にも,又は,神経成長因子がヒト以外の動物種である場合にも適用される。
【0402】
また,「HSAとhBDNFとの融合蛋白質」,「hBDNFとHSAとの融合蛋白質」,又は「ヒト血清アルブミンとヒト脳神経由来栄養因子との融合蛋白質」,というときは,上記の「HSA-hBDNF融合蛋白質」及び「hBDNF-HSA融合蛋白質」のいずれをも含む。これらのことは,SAがヒト以外の動物種である場合にも,又は,BDNFがヒト以外の動物種である場合にも適用される。
【0403】
また,「HSAとhNGFとの融合蛋白質」,「hNGFとHSAとの融合蛋白質」,又は「ヒト血清アルブミンとヒト神経成長因子との融合蛋白質」,というときは,上記の「HSA-hNGF融合蛋白質」及び「hNGF-HSA融合蛋白質」のいずれをも含む。これらのことは,SAがヒト以外の動物種である場合にも,又は,NGFがヒト以外の動物種である場合にも適用される。
【0404】
また,「HSAとhNT-3との融合蛋白質」,「hNT-3とHSAとの融合蛋白質」,又は「ヒト血清アルブミンとヒトニューロトロフィン-3との融合蛋白質」,というときは,上記の「HSA-hNT-3融合蛋白質」及び「hNT-3-HSA融合蛋白質」のいずれをも含む。これらのことは,SAがヒト以外の動物種である場合にも,又は,NT-3がヒト以外の動物種である場合にも適用される。
【0405】
また,「HSAとhNT-4との融合蛋白質」,「hNT-4とHSAとの融合蛋白質」,又は「ヒト血清アルブミンとヒトニューロトロフィン-4との融合蛋白質」,というときは,上記の「HSA-hNT-4融合蛋白質」及び「hNT-4-HSA融合蛋白質」のいずれをも含む。これらのことは,SAがヒト以外の動物種である場合にも,又は,NT-4がヒト以外の動物種である場合にも適用される。
【0406】
本発明の一実施形態のSAと神経栄養因子との融合蛋白質において,SAと神経栄養因子とは,直接又はリンカーを介して結合される。ここで,「リンカー」というときは,SAのアミノ酸配列と神経栄養因子のアミノ酸配列のいずれにも属さない部分のことをいう。つまり,リンカーはSAと神経栄養因子との間に介在するペプチド鎖のことである。リンカーは,種々の機能を有する。その機能には,SAと神経栄養因子との間にあってSAと神経栄養因子とを結合する機能の他,SA及び神経栄養因子の,融合蛋白質分子内での距離を離すことにより相互の干渉を低減させる機能,SAと神経栄養因子との間にあってSAと神経栄養因子とを連結するヒンジとなって,融合蛋白質の立体構造に柔軟性を与える機能等が含まれる。融合蛋白質の分子内において,リンカーは,これら機能の少なくとも一つを発揮する。これらのことは,SAの動物種,及び神経成長因子の動物種にかかわらず適用される。神経栄養因子がBDNF,NGF,NT-3又はNT-4である場合に限らず,他の神経栄養因子であっても適用される。
【0407】
以下,HSAとhBDNFとの融合蛋白質,HSAとhNGFとの融合蛋白質,HSAとhNT-3との融合蛋白質,及びHSAとhNT-4との融合蛋白質を例にとり,SAと神経栄養因子との融合蛋白質の製造法等について詳述する。ここで詳述される事項は,SAがヒト以外の動物種である場合にも,又は,BDNF,NGF,NT-3又は,NT-4がヒト以外の動物種である場合にも,適用することができる。また,BDNF,NGF,NT-3又は,NT-4以外の神経栄養因子にも適用することができる。
【0408】
HSAとhBDNFとの融合蛋白質は,HSAをコードする遺伝子の下流又は上流に,インフレームでhBDNFをコードする遺伝子を結合させたDNA断片を組み込んだ発現ベクターを作製し,この発現ベクターを導入して形質転換させた宿主細胞を培養することにより,組換え蛋白質として作製することができる。また,HSAとhNGFとの融合蛋白質は,HSAをコードする遺伝子の下流又は上流に,インフレームでhNGFをコードする遺伝子を結合させたDNA断片を組み込んだ発現ベクターを作製し,この発現ベクターを導入して形質転換させた宿主細胞を培養することにより,組換え蛋白質として作製することができる。また,HSAとhNT-3との融合蛋白質は,HSAをコードする遺伝子の下流又は上流に,インフレームでhNT-3をコードする遺伝子を結合させたDNA断片を組み込んだ発現ベクターを作製し,この発現ベクターを導入して形質転換させた宿主細胞を培養することにより,組換え蛋白質として作製することができる。また,HSAとhNT-4との融合蛋白質は,HSAをコードする遺伝子の下流又は上流に,インフレームでhNT-4をコードする遺伝子を結合させたDNA断片を組み込んだ発現ベクターを作製し,この発現ベクターを導入して形質転換させた宿主細胞を培養することにより,組換え蛋白質として作製することができる。このようにして組換え蛋白質として作製される融合蛋白質は,一本鎖ポリペプチドからなる。
【0409】
組換え融合蛋白質として融合蛋白質を作製する場合,HSAをコードする遺伝子の下流にインフレームでhBDNFをコードする遺伝子を結合させることにより,HSAのアミノ酸配列のC末端にhBDNFのアミノ酸配列を有する融合蛋白質を得ることができる。逆に,HSAをコードする遺伝子の上流にインフレームでhBDNFをコードする遺伝子を結合させることにより,HSAのアミノ酸配列のN末端にhBDNFのアミノ酸配列を有する融合蛋白質が得られる。また,組換え融合蛋白質として融合蛋白質を作製する場合,HSAをコードする遺伝子の下流にインフレームでhNGFをコードする遺伝子を結合させることにより,HSAのアミノ酸配列のC末端にhNGFのアミノ酸配列を有する融合蛋白質を得ることができる。逆に,HSAをコードする遺伝子の上流にインフレームでhNGFをコードする遺伝子を結合させることにより,HSAのアミノ酸配列のN末端にhNGFのアミノ酸配列を有する融合蛋白質が得られる。また,組換え融合蛋白質として融合蛋白質を作製する場合,HSAをコードする遺伝子の下流にインフレームでhNT-3をコードする遺伝子を結合させることにより,HSAのアミノ酸配列のC末端にhNT-3のアミノ酸配列を有する融合蛋白質を得ることができる。逆に,HSAをコードする遺伝子の上流にインフレームでhNT-3をコードする遺伝子を結合させることにより,HSAのアミノ酸配列のN末端にhNT-3のアミノ酸配列を有する融合蛋白質が得られる。また,組換え融合蛋白質として融合蛋白質を作製する場合,HSAをコードする遺伝子の下流にインフレームでhNT-4をコードする遺伝子を結合させることにより,HSAのアミノ酸配列のC末端にhNT-4のアミノ酸配列を有する融合蛋白質を得ることができる。逆に,HSAをコードする遺伝子の上流にインフレームでhNT-4をコードする遺伝子を結合させることにより,HSAのアミノ酸配列のN末端にhNT-4のアミノ酸配列を有する融合蛋白質が得られる。いずれの場合においても,組換え融合蛋白質として作製される融合蛋白質は,一本鎖ポリペプチドである。
【0410】
融合蛋白質の一本鎖ポリペプチド内で,HSAのアミノ酸配列がhBDNF,hNGF,hNT-3又はhNT-4のアミノ酸配列のN末端側に位置する場合,HSAのC末端とhBDNF,hNGF,hNT-3又はhNT-4のN末端が,ペプチド結合により直接,又はリンカーを介して結合される。ここで「リンカー」とは,当該一本鎖ポリペプチド内において,HSAのC末端とhBDNF,hNGF,hNT-3又はhNT-4のN末端との間に存在する,HSA及びhBDNF,hNGF,hNT-3又はhNT-4のいずれにも属さないアミノ酸配列を有する部分のことをいう。図7にN末端側からHSA,リンカー及びhBDNFを順に有する一本鎖ポリペプチドのHSA-hBDNF融合蛋白質を模式的に示す。該HSA-hBDNF融合蛋白質はHSAのC末端と該リンカーのN末端がペプチド結合により結合し,該リンカーのC末端とhBDNFのN末端がペプチド結合により結合したものである。また,図8にN末端側からHSA,リンカー及びhNGFを順に有する一本鎖ポリペプチドのHSA-hNGF融合蛋白質を模式的に示す。該HSA-hNGF融合蛋白質はHSAのC末端と該リンカーのN末端がペプチド結合により結合し,該リンカーのC末端とhNGFのN末端がペプチド結合により結合したものである。また,図9にN末端側からHSA,リンカー及びhNT-3を順に有する一本鎖ポリペプチドのHSA-hNT-3融合蛋白質を模式的に示す。該HSA-hNT-3融合蛋白質はHSAのC末端と該リンカーのN末端がペプチド結合により結合し,該リンカーのC末端とhNT-3のN末端がペプチド結合により結合したものである。また,図10にN末端側からHSA,リンカー及びhNT-4を順に有する一本鎖ポリペプチドのHSA-hNT-4融合蛋白質を模式的に示す。該HSA-hNT-4融合蛋白質はHSAのC末端と該リンカーのN末端がペプチド結合により結合し,該リンカーのC末端とhNT-4のN末端がペプチド結合により結合したものである。
【0411】
また,融合蛋白質の一本鎖ポリペプチド内で,hBDNF,hNGF,hNT-3又はhNT-4のアミノ酸配列がHSAのアミノ酸配列のN末端に位置する場合,hBDNF,hNGF,hNT-3又はhNT-4のC末端とHSAのN末端が,ペプチド結合により直接,又はリンカーを介して結合される。ここで「リンカー」とは,当該一本鎖ポリペプチド内において,hBDNF,hNGF,hNT-3又はhNT-4のC末端及びHSAのN末端との間に存在する,HSA及びhBDNF,hNGF,hNT-3又はhNT-4のいずれにも属さないアミノ酸配列を有する部分のことをいう。図11にN末端側からhBDNF,リンカー及びHSAを順に有する一本鎖ポリペプチドのhBDNF-HSA融合蛋白質を模式的に示す。該hBDNF-HSA融合蛋白質はhBDNFのC末端と該リンカーのN末端がペプチド結合により結合し,該リンカーのC末端とHSAのN末端がペプチド結合により結合したものである。また,図12にN末端側からhNGF,リンカー及びHSAを順に有する一本鎖ポリペプチドのhNGF-HSA融合蛋白質を模式的に示す。該hNGF-HSA融合蛋白質はhNGFのC末端と該リンカーのN末端がペプチド結合により結合し,該リンカーのC末端とHSAのN末端がペプチド結合により結合したものである。また,図13にN末端側からhNT-3,リンカー及びHSAを順に有する一本鎖ポリペプチドのhNT-3-HSA融合蛋白質を模式的に示す。該hNT-3-HSA融合蛋白質はhNT-3のC末端と該リンカーのN末端がペプチド結合により結合し,該リンカーのC末端とHSAのN末端がペプチド結合により結合したものである。また,図14にN末端側からhNT-4,リンカー及びHSAを順に有する一本鎖ポリペプチドのhNT-4-HSA融合蛋白質を模式的に示す。該hNT-4-HSA融合蛋白質はhNT-4のC末端と該リンカーのN末端がペプチド結合により結合し,該リンカーのC末端とHSAのN末端がペプチド結合により結合したものである。
【0412】
ペプチドリンカーのアミノ酸配列は,融合蛋白質分子の中にあって,リンカーとしての機能が発揮されるものである限り特に限定はない。また,ペプチドリンカーの長さにも,融合蛋白質分子の中にあって,リンカーとしての機能が発揮されるものである限り特に限定はない。ペプチドリンカーは一個又は複数個のアミノ酸から構成されるものである。ペプチドリンカーが複数個のアミノ酸から構成される場合,そのアミノ酸の個数は,好ましくは2~50個であり,より好ましくは5~30個であり,更に好ましくは10~25個である。ペプチドリンカーの好適な例として,Gly-Ser,Gly-Gly-Ser,又は配列番号9~11で示されるアミノ酸配列(これらをあわせて基本配列という)からなるもの,及びこれらを含むものが挙げられる。例えば,ペプチドリンカーは,基本配列が2~10回反復したアミノ酸配列を含むものであり,基本配列が2~6回反復したアミノ酸配列を含むものであり,基本配列が3~5回反復したアミノ酸配列を含むものである。これらのアミノ酸配列中の1個又は複数個のアミノ酸が,欠失,他のアミノ酸へ置換,付加等されたものであってもよい。アミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1又は2個である。アミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1又は2個である。アミノ酸を付加する場合,付加されるアミノ酸の個数は,好ましくは1又は2個である。これらアミノ酸の欠失,置換,及び付加を組み合わせて,所望のリンカー部のアミノ酸配列とすることもできる。ペプチドリンカーは一つのアミノ酸からなるものであってもよく,リンカーを構成するアミノ酸は,例えばグリシン,セリンである。
【0413】
本発明の一実施形態において,
(1)HSAとhBDNFとの融合蛋白質というときは,組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,同一条件下で野生型のhBDNFを組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたときと比較して,培養上清中のhBDNFとしての発現量が,濃度あるいは生理活性換算で,少なくとも1.1倍以上,1.2倍以上,1.5倍以上,2倍以上,2.5倍以上,又は3.5倍以上,例えば,1.1~4倍,1.5~3.6倍,2~3.6倍,10~20倍,20~30倍等となることを特徴とする融合蛋白質であり,
(2)本発明の一実施形態において,HSAとhNGFとの融合蛋白質というときは,組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,同一条件下で野生型のhNGFを組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたときと比較して,培養上清中のhNGFとしての発現量が,濃度あるいは生理活性換算で,少なくとも1.1倍以上,1.2倍以上,1.5倍以上,2倍以上,2.5倍以上,又は3.5倍以上,例えば,1.1~4倍,1.5~3.6倍,2~3.6倍,10~20倍,20~30倍等となることを特徴とする融合蛋白質であり,
(3)本発明の一実施形態において,HSAとhNT-3との融合蛋白質というときは,組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,同一条件下で野生型のhNT-3を組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたときと比較して,培養上清中のhNT-3としての発現量が,濃度あるいは生理活性換算で,少なくとも1.1倍以上,1.2倍以上,1.5倍以上,2倍以上,2.5倍以上,又は3.5倍以上,例えば,1.1~4倍,1.5~3.6倍,2~3.6倍,10~20倍,20~30倍等となることを特徴とする融合蛋白質であり,
(4)本発明の一実施形態において,HSAとhNT-4との融合蛋白質というときは,組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,同一条件下で野生型のhNT-4を組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたときと比較して,培養上清中のhNT-4としての発現量が,濃度あるいは生理活性換算で,少なくとも1.1倍以上,1.2倍以上,1.5倍以上,2倍以上,2.5倍以上,又は3.5倍以上,例えば,1.1~4倍,1.5~3.6倍,2~3.6倍,10~20倍,20~30倍等となることを特徴とする融合蛋白質である。
【0414】
上記(1)~(4)の実施形態において,同一条件下とは,発現ベクター,宿主細胞,培養条件等が同一であることをいう。このとき用いられる好ましい宿主細胞は,CHO細胞,NS/0細胞等の哺乳動物細胞であるが,特にCHO細胞である。
【0415】
かかるHSAとhBDNFとの融合蛋白質の好ましい実施形態として,以下の(1)~(4)が挙げられる:
(1)配列番号3で示される野生型のHSAのアミノ酸配列のC末端に,配列番号60で示される野生型のhBDNFのアミノ酸配列のN末端がリンカー配列Gly-Serを介して結合したものである,配列番号68で示されるアミノ酸配列を有するもの,
(2)配列番号60で示される野生型のhBDNFのアミノ酸配列のC末端に,配列番号3で示される野生型のHSAのアミノ酸配列のN末端がリンカー配列Gly-Serを介して結合したものである,配列番号76で示されるアミノ酸配列を有するもの。
(3)配列番号3で示される野生型のHSAのアミノ酸配列のC末端に,配列番号84で示される野生型のhBDNF(プロ体)のアミノ酸配列のN末端がリンカー配列Gly-Serを介して結合したものである,配列番号85で示されるアミノ酸配列を有するもの,
(4)配列番号84で示される野生型のhBDNF(プロ体)のアミノ酸配列のC末端に,配列番号3で示される野生型のHSAのアミノ酸配列のN末端がリンカー配列Gly-Serを介して結合したものである,配列番号86で示されるアミノ酸配列を有するもの。
【0416】
また,かかるHSAとhNGFとの融合蛋白質の好ましい実施形態として,以下の(1)~(4)が挙げられる:
(1)配列番号3で示される野生型のHSAのアミノ酸配列のC末端に,配列番号62で示される野生型のhNGFのアミノ酸配列のN末端がリンカー配列Gly-Serを介して結合したものである,配列番号70で示されるアミノ酸配列を有するもの,
(2)配列番号62で示される野生型のhNGFのアミノ酸配列のC末端に,配列番号3で示される野生型のHSAのアミノ酸配列のN末端がリンカー配列Gly-Serを介して結合したものである,配列番号78で示されるアミノ酸配列を有するもの。
(3)配列番号3で示される野生型のHSAのアミノ酸配列のC末端に,配列番号87で示される野生型のhNGF(プロ体)のアミノ酸配列のN末端がリンカー配列Gly-Serを介して結合したものである,配列番号88で示されるアミノ酸配列を有するもの,
(4)配列番号87で示される野生型のhNGF(プロ体)のアミノ酸配列のC末端に,配列番号3で示される野生型のHSAのアミノ酸配列のN末端がリンカー配列Gly-Serを介して結合したものである,配列番号89で示されるアミノ酸配列を有するもの。
【0417】
また,かかるHSAとhNT-3との融合蛋白質の好ましい実施形態として,以下の(1)~(4)が挙げられる:
(1)配列番号3で示される野生型のHSAのアミノ酸配列のC末端に,配列番号64で示される野生型のhNT-3のアミノ酸配列のN末端がリンカー配列Gly-Serを介して結合したものである,配列番号72で示されるアミノ酸配列を有するもの,
(2)配列番号64で示される野生型のhNT-3のアミノ酸配列のC末端に,配列番号3で示される野生型のHSAのアミノ酸配列のN末端がリンカー配列Gly-Serを介して結合したものである,配列番号80で示されるアミノ酸配列を有するもの。
(3)配列番号3で示される野生型のHSAのアミノ酸配列のC末端に,配列番号90で示される野生型のhNT-3(プロ体)のアミノ酸配列のN末端がリンカー配列Gly-Serを介して結合したものである,配列番号91で示されるアミノ酸配列を有するもの,
(4)配列番号90で示される野生型のhNT-3(プロ体)のアミノ酸配列のC末端に,配列番号3で示される野生型のHSAのアミノ酸配列のN末端がリンカー配列Gly-Serを介して結合したものである,配列番号92で示されるアミノ酸配列を有するもの。
【0418】
また,かかるHSAとhNT-4との融合蛋白質の好ましい実施形態として,以下の(1)~(4)が挙げられる:
(1)配列番号3で示される野生型のHSAのアミノ酸配列のC末端に,配列番号66で示される野生型のhNT-4のアミノ酸配列のN末端がリンカー配列Gly-Serを介して結合したものである,配列番号74で示されるアミノ酸配列を有するもの,
(2)配列番号66で示される野生型のhNT-4のアミノ酸配列のC末端に,配列番号3で示される野生型のHSAのアミノ酸配列のN末端がリンカー配列Gly-Serを介して結合したものである,配列番号82で示されるアミノ酸配列を有するもの。
(3)配列番号3で示される野生型のHSAのアミノ酸配列のC末端に,配列番号93で示される野生型のhNT-4(プロ体)のアミノ酸配列のN末端がリンカー配列Gly-Serを介して結合したものである,配列番号94で示されるアミノ酸配列を有するもの,
(4)配列番号93で示される野生型のhNT-4(プロ体)のアミノ酸配列のC末端に,配列番号3で示される野生型のHSAのアミノ酸配列のN末端がリンカー配列Gly-Serを介して結合したものである,配列番号95で示されるアミノ酸配列を有するもの。
【0419】
本発明の一実施形態におけるHSAとhBDNFとの融合蛋白質は,組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,同一条件下で野生型のhBDNFを組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたときと比較して,培養上清中のhBDNFとしての発現量が,濃度あるいは生理活性換算で増加することを特徴とするものである。従って,HSAとhBDNFとの融合蛋白質は,組換え蛋白質として製造したときに,野生型のhBDNFと比較して生産効率を上昇させることができるので,生産コストを低減することができる。なお,組換え蛋白質を有効成分として含有する医薬品は,非常に高価であることが知られている。従って,同一条件で製造したときに得られる組換え蛋白質の量を数パーセント,例えば3~9%上昇させることにも,多大な経済的効果がある。同様のことは,神経栄養因子,例えば,hBDNF,hNGF,hNT-3,及びhNT-4についてもいえる。
【0420】
なお,本明細書において,組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたHSAとhBDNFとの融合蛋白質と,同一条件下で組換え蛋白質として宿主細胞で発現させた野生型のhBDNFの,発現量を比較するときは,発現した蛋白質の質量で比較するのではなく,発現した蛋白質の分子数またはhBDNF生理活性で比較するものとする。このルールは,HSAとhNGFとの融合蛋白質,HSAとhNT-3との融合蛋白質,HSAとhNT-4との融合蛋白質についても適用される。また,このルールは,融合蛋白質中を構成するSAの動物種,及び神経成長因子の動物種にかかわらず適用される。
【0421】
HSAとhBDNFとの融合蛋白質,HSAとhNGFとの融合蛋白質,HSAとhNT-3との融合蛋白質,及びHSAとhNT-4との融合蛋白質は,当該融合蛋白質をコードする遺伝子を組み込んだ発現ベクターを用いて形質転換させた宿主細胞を培養することにより,組換え蛋白質として製造することができる。このとき,上述したHSAとhGALCとの融合蛋白質又はHSAとhGBAとの融合蛋白質を製造するために用いることのできる,発現ベクター,宿主細胞,培地等を用いて製造することができる。
【0422】
HSAとhBDNFとの融合蛋白質,HSAとhNGFとの融合蛋白質,HSAとhNT-3との融合蛋白質,又はHSAとhNT-4との融合蛋白質をコードする宿主細胞を培養することにより,細胞内又は培地中に発現させることができる。これらの融合蛋白質は,カラムクロマトグラフィー等の方法により不純物から分離し,精製することができる。
【0423】
精製されたHSAとhBDNFとの融合蛋白質,HSAとhNGFとの融合蛋白質,HSAとhNT-3との融合蛋白質,又はHSAとhNT-4との融合蛋白質は,医薬組成物として使用することができる。特に,HSAとhBDNFとの融合蛋白質は,アルツハイマー病,パーキンソン病,ハンチントン病などの神経変性疾患,筋萎縮性側策硬化症などの脊髄変性疾患,この他,糖尿病性神経障害,脳虚血性疾患,Rett症候群などの発達障害,統合失調症,うつ病およびRett症候群等を対象疾患とする医薬組成物として使用することができる。また特に,HSAとhNGFとの融合蛋白質は,アルツハイマー病,パーキンソン病,ハンチントン病などの神経変性疾患等を対象疾患とする医薬組成物として使用することができる。また特に,HSAとhNT-3との融合蛋白質及びHSAとhNT-4との融合蛋白質は,神経変性疾患等を対象疾患とする医薬組成物として使用することができる。
【0424】
HSAとhBDNFとの融合蛋白質,HSAとhNGFとの融合蛋白質,HSAとhNT-3との融合蛋白質,又はHSAとhNT-4との融合蛋白質を有効成分として含有してなる医薬組成物は,注射剤として静脈内,筋肉内,腹腔内,皮下又は脳室内に投与することができる。それらの注射剤は,凍結乾燥製剤又は水性液剤として供給することができる。水性液剤とする場合,バイアルに充填した形態としてもよく,注射器に予め充填したものであるプレフィルド型の製剤として供給することもできる。凍結乾燥製剤の場合,使用前に水性媒質に溶解し復元して使用する。
【0425】
HSAとhBDNFとの融合蛋白質,HSAとhNGFとの融合蛋白質,HSAとhNT-3との融合蛋白質,又はHSAとhNT-4との融合蛋白質は,これらを更に抗体又はリガンドと結合させた結合体とすることができる。例えば,HSAとhBDNF又はリガンドとの融合蛋白質,HSAとhNGFとの融合蛋白質,HSAとhNT-3との融合蛋白質,及びHSAとhNT-4との融合蛋白質は,それぞれ脳血管内皮細胞上の受容体と特異的に結合することのできる抗体又はリガンドとの結合体とすることができる。HSAとhBDNF,HSAとhNGF,HSAとhNT-3,及びHSAとhNT-4との融合蛋白質は,脳血管内皮細胞上の受容体と特異的に結合することのできる抗体又はリガンドとの結合体とすることにより,脳血管内皮細胞上の受容体に結合できるようになる。脳血管内皮細胞上の受容体に結合した融合蛋白質は,血液脳関門(BBB)を通過して,中枢神経系(CNS)の組織に到達できる。従って,これら融合蛋白質は,かかる抗体又はリガンドとの結合体とすることで,血液脳関門(BBB)を通過させて,中枢神経系(CNS)において機能を発揮させるようにすることができる。SAがヒト以外の動物種のSAである場合,BDNF,NGF,hNT-3,及びhNT-4が,ヒト以外の動物種のものである場合にも同様である。また,神経栄養因子が,BDNF,NGF,hNT-3,及びhNT-4以外の神経栄養因子である場合でも同様である。
【0426】
HSAとhBDNFとの融合蛋白質と抗体又はリガンドとの結合体において,hBDNFがhBDNFとしての機能を有するというときは,hBDNFが,通常の野生型のhBDNFの比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性,例えば90%以上,95%以上の比活性を有することをいう。なお,ここで当該結合体におけるhBDNFの比活性は,当該結合体の単位質量当たりのhBDNFの生理活性に(当該結合体の分子量/当該結合体中のhBDNFに相当する部分の分子量)を乗じて算出される。これらは,SAがヒト以外の動物種に由来するものである場合にも,BDNFがヒト以外の動物種に由来するものである場合にも適用される。
【0427】
また,HSAとhNGFとの融合蛋白質と抗体又はリガンドとの結合体において,hNGFがhNGFとしての機能を有するというときは,hNGFが,通常の野生型のhNGFの比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性,例えば90%以上,95%以上の比活性を有することをいう。なお,ここで当該結合体におけるhNGFの比活性は,当該結合体の単位質量当たりのhNGFの生理活性に(当該結合体の分子量/当該結合体中のhNGFに相当する部分の分子量)を乗じて算出される。これらは,SAがヒト以外の動物種に由来するものである場合にも,NGFがヒト以外の動物種に由来するものである場合にも適用される。
【0428】
また,HSAとhNT-3との融合蛋白質と抗体又はリガンドとの結合体において,hNT-3がhNT-3としての機能を有するというときは,hNT-3が,通常の野生型のhNT-3の比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性,例えば90%以上,95%以上の比活性を有することをいう。なお,ここで当該結合体におけるhNT-3の比活性は,当該結合体の単位質量当たりのhNT-3の生理活性に(当該結合体の分子量/当該結合体中のhNT-3に相当する部分の分子量)を乗じて算出される。これらは,SAがヒト以外の動物種に由来するものである場合にも,NT-3がヒト以外の動物種に由来するものである場合にも適用される。
【0429】
また,HSAとhNT-4との融合蛋白質と抗体又はリガンドとの結合体において,hNT-4がhNT-4としての機能を有するというときは,hNT-4が,通常の野生型のhNT-4の比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性,例えば90%以上,95%以上の比活性を有することをいう。なお,ここで当該結合体におけるhNT-4の比活性は,当該結合体の単位質量当たりのhNT-4の生理活性に(当該結合体の分子量/当該結合体中のhNT-4に相当する部分の分子量)を乗じて算出される。これらは,SAがヒト以外の動物種に由来するものである場合にも,NT-4がヒト以外の動物種に由来するものである場合にも適用される。
【0430】
本発明の一実施形態において,HSAとhBDNFとの融合蛋白質と抗体又はリガンドとの結合体というときは,当該結合体を組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,同一条件で野生型のhBDNFを組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたときと比較して,培養上清中のhBDNFとしての発現量が,濃度あるいは生理活性換算で,少なくとも1.1倍以上,1.2倍以上,1.5倍以上,2倍以上,2.5倍以上,又は3.5倍以上,例えば,1.1~4倍,1.5~3.6倍,2~3.6倍,10~20倍,20~30倍等となることを特徴とするものである。
【0431】
また,本発明の一実施形態において,HSAとhNGFとの融合蛋白質と抗体又はリガンドとの結合体というときは,当該結合体を組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,同一条件で野生型のhNGFを組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたときと比較して,培養上清中のhNGFとしての発現量が,濃度あるいは生理活性換算で,少なくとも1.1倍以上,1.2倍以上,1.5倍以上,2倍以上,2.5倍以上,又は3.5倍以上,例えば,1.1~4倍,1.5~3.6倍,2~3.6倍,10~20倍,20~30倍等となることを特徴とするものである。
【0432】
また,本発明の一実施形態において,HSAとhNT-3との融合蛋白質と抗体又はリガンドとの結合体というときは,当該結合体を組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,同一条件で野生型のhNT-3を組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたときと比較して,培養上清中のhNT-3としての発現量が,濃度あるいは生理活性換算で,少なくとも1.1倍以上,1.2倍以上,1.5倍以上,2倍以上,2.5倍以上,又は3.5倍以上,例えば,1.1~4倍,1.5~3.6倍,2~3.6倍,10~20倍,20~30倍等となることを特徴とするものである。
【0433】
また,本発明の一実施形態において,HSAとhNT-4との融合蛋白質と抗体又はリガンドとの結合体というときは,当該結合体を組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたとき,特に組換え蛋白質を細胞から分泌して培養液中に蓄積するように発現させたときに,同一条件で野生型のhNT-4を組換え蛋白質として宿主細胞で発現させたときと比較して,培養上清中のhNT-4としての発現量が,濃度あるいは生理活性換算で,少なくとも1.1倍以上,1.2倍以上,1.5倍以上,2倍以上,2.5倍以上,又は3.5倍以上,例えば,1.1~4倍,1.5~3.6倍,2~3.6倍,10~20倍,20~30倍等となることを特徴とするものである。
【0434】
神経栄養因子の中には,野生型のものをコードする遺伝子を組込んだ発現ベクターを導入した宿主細胞を用いて組換え蛋白質として発現させた場合に,発現量が限定的であるため大量に製造することが困難なものがある。かかる神経栄養因子としてBDNF,NGF,NT-3,及びNT-4が挙げられる。本発明の一実施形態は,このような組換え蛋白質として製造が困難な神経栄養因子を,SAとの融合蛋白質とした組換え蛋白質である。かかる組換え蛋白質は,これをコードする遺伝子を組込んだ発現ベクターを導入した宿主細胞を用いて,大量に製造することが,対応する野生型神経栄養因子と比較して,容易になる。ここで,SAと結合させる神経栄養因子の動物種に特に制限はないが,好ましくはヒト神経栄養因子である。また,神経栄養因子と結合させるSAの動物種に特に制限はないが,好ましくはHSAである。
【0435】
本発明において,「抗体」の語は,主としてヒト抗体,マウス抗体,ヒト化抗体,ラクダ科動物(アルパカを含む)由来の抗体,ヒト抗体と他の哺乳動物の抗体とのキメラ抗体,及びマウス抗体と他の哺乳動物の抗体とのキメラ抗体のことをいうが,特定の抗原に特異的に結合する性質を有するものである限り,これらに限定されるものではなく,また,抗体の動物種にも特に制限はない。
【0436】
本発明において,「ヒト抗体」の語は,その蛋白質全体がヒト由来の遺伝子にコードされている抗体をいう。但し,遺伝子の発現効率を上昇させる等の目的で,元のヒトの遺伝子に,元のアミノ酸配列に変化を与えることなく変異を加えた遺伝子にコードされる抗体も,「ヒト抗体」に含まれる。また,ヒト抗体をコードする2つ以上の遺伝子を組み合わせて,あるヒト抗体の一部を他のヒト抗体の一部に置き換えて作製した抗体も,「ヒト抗体」である。ヒト抗体は,軽鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)と重鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)を有する。軽鎖の3箇所のCDRは,N末端側にあるものから順にCDR1,CDR2及びCDR3という。重鎖の3箇所のCDRも,N末端側にあるものから順にCDR1,CDR2及びCDR3という。あるヒト抗体のCDRを,その他のヒト抗体のCDRに置き換えることにより,ヒト抗体の抗原特異性,親和性等を改変した抗体も,ヒト抗体に含まれる。
【0437】
本発明において,元のヒト抗体の遺伝子を改変することにより,元の抗体のアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えた抗体も,「ヒト抗体」に含まれる。元の抗体のアミノ酸配列中のアミノ酸を他のアミノ酸で置換する場合,置換するアミノ酸の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。元の抗体のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えた抗体も,ヒト抗体である。アミノ酸を付加する場合,元の抗体のアミノ酸配列中若しくはN末端又はC末端に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個のアミノ酸を付加する。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えた抗体も,ヒト抗体である。変異を加えた抗体のアミノ酸配列は,元の抗体のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,より好ましくは90%以上の同一性を示し,更に好ましくは,95%以上の同一性を示し,更により好ましくは98%以上の同一性を示す。ヒト抗体に上記の変異を加える場合,当該変異は抗体の可変領域に加えることができる。抗体の可変領域に上記の変異を加える場合,当該変異は可変領域のCDRとフレームワーク領域の何れに加えてもよいが,特にフレームワーク領域に加えられる。即ち,「ヒト由来の遺伝子」というときは,ヒト由来の元の遺伝子に加えて,これに改変を加えることにより得られる遺伝子も含まれる。
【0438】
本発明において,「ヒト化抗体」の語は,可変領域の一部(例えば,特にCDRの全部又は一部)のアミノ酸配列がヒト以外の哺乳動物由来であり,それ以外の領域がヒト由来である抗体のことをいう。例えば,ヒト化抗体として,ヒト抗体を構成する軽鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)と重鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)を,他の哺乳動物のCDRに置き換えることによって作製された抗体が挙げられる。ヒト抗体の適切な位置に移植されるCDRの由来となる他の哺乳動物の生物種は,ヒト以外の哺乳動物である限り特に限定はないが,好ましくは,マウス,ラット,ウサギ,ウマ,又はヒト以外の霊長類であり,より好ましくはマウス及びラットであり,更に好ましくはマウスである。また,元のヒト化抗体のアミノ酸配列に上記のヒト抗体に加えることのできる変異と同様の変異を加えた抗体も,「ヒト化抗体」に含まれる。
【0439】
本発明において,「キメラ抗体」の語は,2つ以上の異なる種に由来する,2つ以上の異なる抗体の断片が連結されてなる抗体のことをいう。
【0440】
ヒト抗体と他の哺乳動物の抗体とのキメラ抗体とは,ヒト抗体の一部がヒト以外の哺乳動物の抗体の一部によって置き換えられた抗体である。抗体は,以下に説明するFc領域,Fab領域及びヒンジ部とからなる。このようなキメラ抗体の具体例として,Fc領域がヒト抗体に由来する一方でFab領域が他の哺乳動物の抗体に由来するキメラ抗体が挙げられる。ヒンジ部は,ヒト抗体又は他の哺乳動物の抗体のいずれかに由来する。逆に,Fc領域が他の哺乳動物に由来する一方でFab領域がヒト抗体に由来するキメラ抗体が挙げられる。ヒンジ部は,ヒト抗体又は他の哺乳動物の抗体のいずれかに由来する。
【0441】
また,抗体は,可変領域と定常領域とからなるということもできる。キメラ抗体の他の具体例として,重鎖の定常領域(C)と軽鎖の定常領域(C)がヒト抗体に由来する一方で,重鎖の可変領域(V)及び軽鎖の可変領域(V)が他の哺乳動物の抗体に由来するもの,逆に,重鎖の定常領域(C)と軽鎖の定常領域(C)が他の哺乳動物の抗体に由来する一方で,重鎖の可変領域(V)及び軽鎖の可変領域(V)がヒト抗体に由来するものも挙げられる。ここで,他の哺乳動物の生物種は,ヒト以外の哺乳動物である限り特に限定はないが,好ましくは,マウス,ラット,ウサギ,ウマ,又はヒト以外の霊長類であり,例えばマウスである。
【0442】
本発明の一実施形態における抗体は,2本の免疫グロブリン軽鎖(又は単に「軽鎖」)と2本の免疫グロブリン重鎖(又は単に「重鎖」)の計4本のポリペプチド鎖からなる基本構造を有する。但し,「抗体」というときは,この基本構造を有するものに加え,
(1)1本の軽鎖と1本の重鎖の計2本のポリペプチド鎖からなるもの,
(2)本来の意味での抗体の基本構造からFc領域が欠失したものであるFab領域からなるもの及びFab領域とヒンジ部の全部若しくは一部とからなるもの(Fab,F(ab’)及びF(ab’)を含む),
(3)軽鎖のC末端側にリンカーを,そして更にそのC末端側に重鎖を結合させてなるものである一本鎖抗体,
(4)重鎖のC末端側にリンカーを,そして更にそのC末端側に軽鎖を結合させてなるものである一本鎖抗体,
(5)本来の意味での抗体の基本構造からFab領域が欠失したものであるFc領域からなるものであって,且つ当該Fc領域のアミノ酸配列が特定の抗原に特異的に結合する性質を有するように改変されたもの(Fc抗体),
(6)後述する単一ドメイン抗体も,「抗体」に含まれる。
【0443】
本発明の一実施形態における抗体は,ラクダ科動物(アルパカを含む)由来の抗体である。ラクダ科動物の抗体には,ジスルフィド結合により連結された2本の重鎖からなるものがある。この2本の重鎖からなる抗体を重鎖抗体という。VHHは,重鎖抗体を構成する重鎖の可変領域を含む1本の重鎖からなる抗体,又は重鎖抗体を構成する定常領域(CH)を欠く1本の重鎖からなる抗体である。VHHも本発明の実施形態における抗体の一つである。その他,ジスルフィド結合により連結された2本の軽鎖からなる抗体も本発明の実施形態における抗体の一つである。この2本の軽鎖からなる抗体を軽鎖抗体という。ラクダ科動物由来の抗体(VHHを含む)をヒトに投与したときの抗原性を低減させるために,ラクダ科動物の抗体のアミノ酸配列に変異を加えたものも,本発明の一実施形態における抗体である。ラクダ科動物の抗体のアミノ酸に変異を加える場合,本明細書に記載の抗体に加えることのできる変異と同様の変異を加えることができる。
【0444】
本発明の一実施形態における抗体は,サメ由来の抗体である。サメの抗体は,ジスルフィド結合により連結された2本の重鎖からなる。この2本の重鎖からなる抗体を重鎖抗体という。VNARは,重鎖抗体を構成する重鎖の可変領域を含む1本の重鎖からなる抗体,又は重鎖抗体を構成する定常領域(CH)を欠く1本の重鎖からなる抗体である。VNARも本発明の実施形態における抗体の一つである。サメ由来の抗体(VNARを含む)をヒトに投与したときの抗原性を低減させるために,サメの抗体のアミノ酸配列に変異を加えたものも,本発明の一実施形態における抗体である。サメの抗体のアミノ酸に変異を加える場合,本明細書に記載の抗体に加えることのできる変異と同様の変異加えることができる。サメの抗体をヒト化したものも本発明の実施形態における抗体の一つである。
【0445】
2本の軽鎖と2本の重鎖の計4本のポリペプチド鎖からなる基本構造を有する抗体は,軽鎖の可変領域(V)に3箇所の相補性決定領域(CDR)と重鎖の可変領域(V)に3箇所の相補性決定領域(CDR)を有する。軽鎖の3箇所のCDRは,N末端側にあるものから順にCDR1,CDR2及びCDR3という。重鎖の3箇所のCDRも,N末端側にあるものから順にCDR1,CDR2及びCDR3という。ただし,これらCDRの一部又は全部が不完全であるか,又は存在しないものであっても,特定の抗原に特異的に結合する性質を有するものである限り,抗体に含まれる。軽鎖及び重鎖の可変領域(V及びV)のCDR以外の領域は,フレームワーク領域(FR)という。FRは,N末端側にあるものから順にFR1,FR2,FR3及びFR4という。通常,CDRとFRはN末端側から順に,FR1,CDR1,FR2,CDR2,FR3,CDR3,FR4の順で存在する。
【0446】
本発明の一実施形態において,元の抗体のアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えた抗体も,抗体に含まれる。元の抗体のアミノ酸配列中のアミノ酸を他のアミノ酸で置換する場合,置換するアミノ酸の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。元の抗体のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたものも,抗体である。アミノ酸を付加する場合,元の抗体のアミノ酸配列中若しくはN末端又はC末端に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個のアミノ酸を付加する。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたものも,抗体である。変異を加えた抗体のアミノ酸配列は,元の抗体のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,より好ましくは85%以上の同一性を示し,更に好ましくは,90%以上,95%以上,又は98%以上の同一性を示す。
【0447】
本発明の一実施形態において,元の抗体の可変領域のアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えた抗体も,抗体に含まれる。元の抗体のアミノ酸配列中のアミノ酸を他のアミノ酸で置換する場合,置換するアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。元の抗体のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたものも,抗体である。アミノ酸を付加する場合,元の抗体のアミノ酸配列中若しくはN末端又はC末端に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個のアミノ酸を付加する。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたものも,抗体である。変異を加えた抗体のアミノ酸配列は,元の抗体のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,より好ましくは85%以上の同一性を示し,更に好ましくは,90%以上,95%以上,又は98%以上の同一性を示す。抗体の可変領域に変異を加える場合,当該変異は可変領域のCDRとフレームワーク領域の何れに加えてもよいが,特にフレームワーク領域に加えられる。
【0448】
本発明の一実施形態において,元の抗体の可変領域のフレームワーク領域にアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えた抗体も,抗体に含まれる。元の抗体のアミノ酸配列中のアミノ酸を他のアミノ酸で置換する場合,置換するアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。元の抗体のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたものも,抗体である。アミノ酸を付加する場合,元の抗体のアミノ酸配列中若しくはN末端又はC末端に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個のアミノ酸を付加する。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたものも,抗体である。変異を加えた抗体のアミノ酸配列は,元の抗体のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,より好ましくは85%以上の同一性を示し,更に好ましくは,90%以上,95%以上,又は98%以上の同一性を示す。
【0449】
本発明の一実施形態において,元の抗体の可変領域のCDR領域にアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えた抗体も,抗体に含まれる。元の抗体のアミノ酸配列中のアミノ酸を他のアミノ酸で置換する場合,置換するアミノ酸の個数は,好ましくは1~5個,より好ましくは1~3個,更に好ましくは1又は2個である。元の抗体のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~5個,より好ましくは1~3個,更に好ましくは1又は2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたものも,抗体である。アミノ酸を付加する場合,元の抗体のアミノ酸配列中若しくはN末端又はC末端に,好ましくは1~5個,よりに好ましくは1~3個,更に好ましくは1又は2個のアミノ酸を付加する。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたものも,抗体である。変異を加えた抗体のアミノ酸配列は,元の抗体のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,より好ましくは85%以上の同一性を示し,更に好ましくは,90%以上,95%以上,又は98%以上の同一性を示す。
【0450】
本発明の一実施形態において,Fabとは,可変領域とC領域(軽鎖の定常領域)を含む1本の軽鎖と,可変領域とC1領域(重鎖の定常領域の部分1)を含む1本の重鎖が,それぞれに存在するシステイン残基同士でジスルフィド結合により結合した分子のことをいう。Fabにおいて,重鎖は,可変領域とC1領域(重鎖の定常領域の部分1)に加えて,更にヒンジ部の一部を含んでもよいが,この場合のヒンジ部は,ヒンジ部に存在して抗体の重鎖どうしを結合するシステイン残基を欠くものである。Fabにおいて,軽鎖と重鎖とは,軽鎖の定常領域(C領域)に存在するシステイン残基と,重鎖の定常領域(C1領域)又はヒンジ部に存在するシステイン残基との間で形成されるジスルフィド結合により結合する。Fabを形成する重鎖のことをFab重鎖という。Fabは,ヒンジ部に存在して抗体の重鎖どうしを結合するシステイン残基を欠いているので,1本の軽鎖と1本の重鎖とからなる。Fabを構成する軽鎖は,可変領域とC領域を含む。Fabを構成する重鎖は,可変領域とC1領域からなるものであってもよく,可変領域,C1領域に加えてヒンジ部の一部を含むものであってもよい。但しこの場合,ヒンジ部で2本の重鎖の間でジスルフィド結合が形成されないように,ヒンジ部は重鎖間を結合するシステイン残基を含まないように選択される。F(ab’)においては,その重鎖は可変領域とC1領域に加えて,重鎖どうしを結合するシステイン残基を含むヒンジ部の全部又は一部を含む。F(ab’)2は2つのF(ab’)が互いのヒンジ部に存在するシステイン残基どうしでジスルフィド結合により結合した分子のことをいう。F(ab’)又はF(ab’)2を形成する重鎖のことをFab’重鎖という。また,複数の抗体が直接又はリンカーを介して結合してなるニ量体,三量体等の重合体も,抗体である。更に,これらに限らず,抗体分子の一部を含み,且つ,抗原に特異的に結合する性質を有するものは何れも,本発明でいう「抗体」に含まれる。即ち,軽鎖というときは,軽鎖に由来し,その可変領域の全て又は一部のアミノ酸配列を有するものが含まれる。また,重鎖というときは,重鎖に由来し,その可変領域の全て又は一部のアミノ酸配列を有するものが含まれる。従って,可変領域の全て又は一部のアミノ酸配列を有する限り,例えば,Fc領域が欠失したものも,重鎖である。
【0451】
また,ここでFc又はFc領域とは,抗体分子中の,C2領域(重鎖の定常領域の部分2),及びC3領域(重鎖の定常領域の部分3)からなる断片を含む領域のことをいう。
【0452】
更には,本発明の一実施形態における抗体は,
(7)上記(2)で示したFab,F(ab’)又はF(ab’)2を構成する軽鎖と重鎖を,リンカーを介して結合させて,それぞれ一本鎖抗体としたscFab,scF(ab’),及びscF(ab’)2も含まれる。ここで,scFab,scF(ab’),及びscF(ab’)2にあっては,軽鎖のC末端側にリンカーを,そして更にそのC末端側に重鎖を結合させてなるものでもよく,また,重鎖のC末端側にリンカーを,そして更にそのC末端側に軽鎖を結合させてなるものでもよい。更には,軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域をリンカーを介して結合させて一本鎖抗体としたscFvも,抗体に含まれる。scFvにあっては,軽鎖の可変領域のC末端側にリンカーを,そして更にそのC末端側に重鎖の可変領域を結合させてなるものでもよく,また,重鎖の可変領域のC末端側にリンカーを,そして更にそのC末端側に軽鎖の可変領域を結合させてなるものでもよい。
【0453】
更には,本明細書でいう「抗体」には,完全長抗体,上記(1)~(7)に示されるものに加えて,(1)~(7)を含むより広い概念である,完全長抗体の一部が欠損したものである抗原結合性断片(抗体フラグメント)のいずれの形態も含まれる。抗原結合性断片には,重鎖抗体,軽鎖抗体,VHH,VNAR,及びこれらの一部が欠損したものも含まれる。
【0454】
「抗原結合性断片」の語は,抗原との特異的結合活性の少なくとも一部を保持している抗体の断片のことをいう。結合性断片の例としては,Fab,Fab’,F(ab’)2,可変領域(Fv),重鎖可変領域(V)と軽鎖可変領域(V)とを適当なリンカーで連結させた一本鎖抗体(scFv),重鎖可変領域(V)と軽鎖可変領域(V)を含むポリペプチドの二量体であるダイアボディ,scFvの重鎖(H鎖)に定常領域の一部(C3)が結合したものの二量体であるミニボディ,その他の低分子化抗体等を包含する。但し,抗原との結合能を有している限りこれらの分子に限定されない。
【0455】
本発明の一実施形態において,「一本鎖抗体」というときは,軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列のC末端側にリンカーが結合し,更にそのC末端側に重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列が結合してなり,特定の抗原に特異的に結合することのできる蛋白質をいう。また,重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列のC末端側にリンカーが結合し,更にそのC末端側に軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列が結合してなり,特定の抗原に特異的に結合することのできる蛋白質も,「一本鎖抗体」である。重鎖のC末端側にリンカーを介して軽鎖が結合した一本鎖抗体にあっては,通常,重鎖は,Fc領域が欠失している。軽鎖の可変領域は,抗体の抗原特異性に関与する相補性決定領域(CDR)を3つ有している。同様に,重鎖の可変領域も,CDRを3つ有している。これらのCDRは,抗体の抗原特異性を決定する主たる領域である。従って,一本鎖抗体には,重鎖の3つのCDRが全てと,軽鎖の3つのCDRの全てとが含まれることが好ましい。但し,抗体の抗原特異的な親和性が維持される限り,CDRの1個又は複数個を欠失させた一本鎖抗体とすることもできる。
【0456】
一本鎖抗体において,抗体の軽鎖と重鎖の間に配置されるリンカーは,好ましくは2~50個,より好ましくは8~50個,更に好ましくは10~30個,更により好ましくは12~18個又は15~25個,例えば15個若しくは25個のアミノ酸残基から構成されるペプチド鎖である。そのようなリンカーは,これにより両鎖が連結されてなる抗hTfR抗体がhTfRに対する親和性を保持する限り,そのアミノ酸配列に限定はないが,好ましくは,グリシンのみ又はグリシンとセリンから構成されるものであり,例えば,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号9),アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号10),アミノ酸配列Ser-Gly-Gly-Gly-Gly(配列番号11),又はこれらのアミノ酸配列が2~10回,あるいは2~5回繰り返された配列を含むものである。例えば,重鎖の可変領域の全領域からなるアミノ酸配列のC末端側に,リンカーを介して軽鎖の可変領域を結合させる場合,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号9)の3個が連続したものに相当する計15個のアミノ酸を含むリンカーが好適である。
【0457】
本発明の一実施形態において,単一ドメイン抗体とは,単一の可変領域で抗原に特異的に結合する性質を有する抗体のことをいう。単一ドメイン抗体には,可変領域が重鎖の可変領域のみからなる抗体(重鎖単一ドメイン抗体),可変領域が軽鎖の可変領域のみからなる抗体(軽鎖単一ドメイン抗体)が含まれる。VHH,VNARは単一ドメイン抗体の一種である。
【0458】
本発明の一実施形態において,「ヒトトランスフェリン受容体」の語は,配列番号22に示されるアミノ酸配列を有する膜蛋白質をいう。本発明の抗体は,その一実施態様において,配列番号22で示されるアミノ酸配列中N末端側から89番目のシステイン残基からC末端のフェニルアラニンまでの部分(トランスフェリン受容体の細胞外領域)に対して特異的に結合するものであるが,これに限定されない。
【0459】
所望の蛋白質に対する抗体の作製方法としては,当該蛋白質をコードする遺伝子を組み込んだ発現ベクターを導入した細胞を用いて,組換え蛋白質を作製し,この組換え蛋白質を用いてマウス等の動物を免疫して得る方法が一般的である。免疫後の動物から組換え蛋白質に対する抗体産生細胞を取り出し,これとミエローマ細胞とを融合させることにより,組換え蛋白質に対する抗体の産生能を有するハイブリドーマ細胞を作製することができる。
【0460】
また,マウス等の動物より得た免疫系細胞を体外免疫法により所望の蛋白質で免疫することによっても,当該蛋白質に対する抗体を産生する細胞を取得できる。体外免疫法を用いる場合,その免疫系細胞が由来する動物種に特に限定はないが,好ましくは,マウス,ラット,ウサギ,モルモット,イヌ,ネコ,ウマ,及びヒトを含む霊長類であり,より好ましくは,マウス,ラット及びヒトであり,更に好ましくはマウス及びヒトである。マウスの免疫系細胞としては,例えば,マウスの脾臓から調製した脾細胞を用いることができる。ヒトの免疫系細胞としては,ヒトの末梢血,骨髄,脾臓等から調製した細胞を用いることができる。ヒトの免疫系細胞を体外免疫法により免疫した場合,組換え蛋白質に対するヒト抗体を得ることができる。
【0461】
体外免疫法により免疫系細胞を免疫した後,細胞をミエローマ細胞と融合させることにより,抗体産生能を有するハイブリドーマ細胞を作製することができる。また,免疫後の細胞からmRNAを抽出してcDNAを合成し,このcDNAを鋳型としてPCR反応により免疫グロブリンの軽鎖及び重鎖をコードする遺伝子を含むDNA断片を増幅し,これらを用いて人工的に抗体遺伝子を再構築することもできる。
【0462】
上記方法により得られたままのハイブリドーマ細胞には,目的外の蛋白質を抗原として認識する抗体を産生する細胞も含まれる。また,所望の蛋白質に対する抗体を産生するハイブリドーマ細胞の全てが,当該蛋白質に対して高親和性を有する等の所望の特性を示す抗体を産生するとも限らない。
【0463】
同様に,人工的に再構築した抗体遺伝子には,目的外の蛋白質を抗原として認識する抗体をコードする遺伝子も含まれる。また,所望の蛋白質に対する抗体をコードする遺伝子の全てが,当該蛋白質に対して高親和性を有する等の所望の特性を示す抗体をコードするものとも限らない。
【0464】
従って,上記で得られたままのハイブリドーマ細胞から,所望の特性を有する抗体を産生するハイブリドーマ細胞を選択するステップが必要となる。また,人工的に再構築した抗体遺伝子にあっては,当該抗体遺伝子から,所望の特性を有する抗体をコードする遺伝子を選択するステップが必要となる。例えば,所望の蛋白質に対して高親和性を示す抗体(高親和性抗体)を産生するハイブリドーマ細胞,又は高親和性抗体をコードする遺伝子を選択する方法として,以下に詳述する方法が有効である。
【0465】
例えば,所望の蛋白質に対して高親和性の抗体を産生するハイブリドーマ細胞を選択する場合,当該蛋白質をプレートに添加してこれに保持させた後,ハイブリドーマ細胞の培養上清を添加し,次いで当該蛋白質と結合していない抗体をプレートから除去し,プレートに保持された抗体の量を測定する方法が用いられる。この方法によれば,プレートに添加したハイブリドーマ細胞の培養上清に含まれる抗体の当該蛋白質に対する親和性が高いほど,プレートに保持される抗体の量が多くなる。従って,プレートに保持された抗体の量を測定し,より多くの抗体が保持されたプレートに対応するハイブリドーマ細胞を,当該蛋白質に対して相対的に高い親和性を有する抗体を産生する細胞株として選択することができる。この様にして選択された細胞株から,mRNAを抽出してcDNAを合成し,このcDNAを鋳型として,当該蛋白質に対する抗体をコードする遺伝子を含むDNA断片をPCR法を用いて増幅することにより,高親和性抗体をコードする遺伝子を単離することもできる。
【0466】
上記の人工的に再構築した抗体遺伝子から,高親和性を有する目的の蛋白質に対する抗体をコードする遺伝子を選択する場合は,一旦,人工的に再構築した抗体遺伝子を発現ベクターに組み込み,この発現ベクターをホスト細胞に導入する。このとき,ホスト細胞として用いる細胞としては,人工的に再構築した抗体遺伝子を組み込んだ発現ベクターを導入することにより抗体遺伝子を発現させることのできる細胞であれば原核細胞,真核細胞を問わず特に限定はないが,ヒト,マウス,チャイニーズハムスター等の哺乳動物由来の細胞が好ましく,特にチャイニーズハムスター卵巣由来のCHO細胞,又はマウス骨髄腫に由来するNS/0細胞が好ましい。また,抗体遺伝子をコードする遺伝子を組み込んで発現させるために用いる発現ベクターは,哺乳動物細胞内に導入させたときに,該遺伝子を発現させるものであれば特に限定なく用いることができる。発現ベクターに組み込まれた該遺伝子は,哺乳動物細胞内で遺伝子の転写の頻度を調節することができるDNA配列(遺伝子発現制御部位)の下流に配置される。本発明において用いることのできる遺伝子発現制御部位としては,例えば,サイトメガロウイルス由来のプロモーター,SV40初期プロモーター,ヒト伸長因子-1アルファ(EF-1α)プロモーター,ヒトユビキチンCプロモーター等が挙げられる。
【0467】
このような発現ベクターが導入された哺乳動物細胞は,発現ベクターに組み込まれた上述の人工的に再構築した抗体を発現するようになる。このようにして得た,人工的に再構築した抗体を発現する細胞から,所望の蛋白質に対する抗体に対して高親和性を有する抗体を産生する細胞を選択する場合,当該蛋白質をプレートに添加してこれに保持させた後,当該蛋白質に細胞の培養上清を接触させ,次いで,当該蛋白質と結合していない抗体をプレートから除去し,プレートに保持された抗体の量を測定する方法が用いられる。この方法によれば,細胞の培養上清に含まれる抗体の当該蛋白質に対する親和性が高いほど,プレートに保持された抗体の量が多くなる。従って,プレートに保持された抗体の量を測定し,より多くの抗体が保持されたプレートに対応する細胞を,当該蛋白質に対して相対的に高い親和性を有する抗体を産生する細胞株として選択することができ,ひいては,当該蛋白質に対して高親和性を有する抗体をコードする遺伝子を選択できる。このようにして選択された細胞株から,当該蛋白質に対する抗体をコードする遺伝子を含むDNA断片を,PCR法を用いて増幅することにより,高親和性抗体をコードする遺伝子を単離することもできる。
【0468】
本発明の一実施形態におけるSAとリソソーム酵素との融合蛋白質,SAとサイトカインとの融合蛋白質,又はSAと神経栄養因子との融合蛋白質を,抗体と結合させた結合体を製造する方法としては,融合蛋白質と抗体とを非ペプチドリンカー又はペプチドリンカーを介して結合させる方法がある。非ペプチドリンカーとしては,ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,エチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体,ポリオキシエチル化ポリオール,ポリビニルアルコール,多糖類,デキストラン,ポリビニルエーテル,生分解性高分子,脂質重合体,キチン類,及びヒアルロン酸,又はこれらの誘導体,若しくはこれらを組み合わせたものを用いることができる。ペプチドリンカーは,ペプチド結合した1~50個のアミノ酸から構成されるペプチド鎖若しくはその誘導体であって,そのN末端とC末端が,それぞれ融合蛋白質又は抗体のいずれかと共有結合を形成することにより,融合蛋白質と抗体とを結合させるものである。ここで,SA,リソソーム酵素,サイトカイン,神経栄養因子は,それぞれヒト由来のものでもよく,ヒト以外の動物種由来のものであってもよい。
【0469】
融合蛋白質と抗体の結合体は,融合蛋白質と抗体とを別々に製造し,次いで,これらを非ペプチドリンカー又はペプチドリンカーと反応させて,リンカーの一端に融合蛋白質結合させ,他の一端に抗体を結合させることにより製造される。融合蛋白質と抗体は,それぞれ組換え蛋白質として製造したものを用いることができる。この製造方法によれば,例えば,HSAとヒトリソソーム酵素との融合蛋白質と抗体が非ペプチドリンカー又はペプチドリンカーを介して結合した結合体,HSAとヒトサイトカインとの融合蛋白質と抗体が非ペプチドリンカー又はペプチドリンカーを介して結合した結合体,HSAとヒト神経栄養因子との融合蛋白質と抗体が非ペプチドリンカー又はペプチドリンカーを介して結合した結合体が製造される。
【0470】
かかる製造方法により,例えば,HSAとhGALCとの融合蛋白質,HSAとhGBAとの融合蛋白質,HSAとhIL-10との融合蛋白質,HSAとhBDNFとの融合蛋白質,HSAとhNGFとの融合蛋白質,HSAとhNT-3との融合蛋白質,又はHSAとhNT-4との融合蛋白質が,抗体又はリガンドと,非ペプチドリンカー又はペプチドリンカーを介して抗体と結合した結合体を取得することができる。
【0471】
本発明の一実施形態におけるSAとリソソーム酵素との融合蛋白質,SAとサイトカインとの融合蛋白質,又はSAと神経栄養因子との融合蛋白質を,抗体又はリガンドと結合させた結合体を製造する方法としては,これら融合蛋白質のC末端又はN末端を,リンカーを介して又は直接,抗体又はリガンドのN末端又はC末端にペプチド結合により結合させたものとして製造する方法がある。かかる結合体は,以下に例示する製造方法により,組換え蛋白質として製造することができる。
【0472】
例えば,抗体と,HSAとhGALCとの融合蛋白質とは,抗体の重鎖又は軽鎖のC末端側又はN末端側に,リンカーを介して又は直接に,それぞれ融合蛋白質のN末端又はC末端をペプチド結合により結合させたものとして製造できる。このように抗体と,HSAとhGALCとの融合蛋白質とを結合させてなる結合体は,抗体の重鎖又は軽鎖をコードするcDNAの3’末端側又は5’末端側に,直接又はリンカーをコードするDNA断片を挟んで,HSAとhGALCとの融合蛋白質をコードするcDNAがインフレームで配置されたDNA断片を,哺乳動物細胞用の発現ベクターに組み込み,この発現ベクターを導入した哺乳動物細胞を培養することにより,結合体である蛋白質として得ることができる。この哺乳動物細胞には,HSAとhGALCとの融合蛋白質をコードするDNA断片を重鎖と結合させる場合にあっては,抗体の軽鎖をコードするcDNA断片を組み込んだ哺乳動物細胞用の発現ベクターも,同じホスト細胞に導入されることができ,また,HSAとhGALCとの融合蛋白質をコードするDNA断片を軽鎖と結合させる場合にあっては,抗体の重鎖をコードするcDNA断片を組み込んだ哺乳動物細胞用の発現ベクターも,同じホスト細胞に導入されることができる。抗体が一本鎖抗体又はVHHである場合,抗体とHSAとhGALCとの融合蛋白質とを結合させた結合体は,HSAとhGALCとの融合蛋白質をコードするcDNAの5’末端側又は3’末端側に,直接,又はリンカーをコードするDNA断片を挟んで,一本鎖抗体又はVHHをコードするcDNAを連結したDNA断片を,(哺乳動物細胞,酵母等の真核生物又は大腸菌等の原核生物細胞用の)発現ベクターに組み込み,この発現ベクターを導入したこれらの細胞中で発現させることにより,組換え蛋白質として得ることができる。HSAとhGBAとの融合蛋白質と抗体との結合体,HSAとhIL-10との融合蛋白質と抗体との結合体,HSAとhBDNFとの融合蛋白質と抗体との結合体,HSAとhNGFとの融合蛋白質と抗体との結合体,HSAとhNT-3との融合蛋白質と抗体との結合体,及びHSAとhNT-4との融合蛋白質と抗体との結合体も,HSAとhGALCとの融合蛋白質と抗体の結合体と同様にして組換え蛋白質として得ることができる。
【0473】
抗体,HSA及びhGALCは,HSAとhGALCとの間に抗体を介在させる形態の結合体とすることもできる。この場合,HSAのC末端に,リンカーを介して又は直接に,抗体の重鎖又は軽鎖のN末端を結合させ,更にそのC末端に,リンカーを介して又は直接に,hGALCを,それぞれペプチド結合により結合させたものとして製造できる。又は,hGALCのC末端に,リンカーを介して又は直接に,抗体の重鎖又は軽鎖のN末端を結合させ,更にそのC末端に,リンカーを介して又は直接に,HSAを,それぞれペプチド結合により結合させたものとして製造できる。抗体が一本鎖抗体又はVHHであっても,抗体,HSA及びhGALCは,HSAとhGALCとの間に抗体を介在させる形態の融合蛋白質とすることができる。この場合,HSAのC末端に,リンカーを介して又は直接に,一本鎖抗体又はVHHのN末端を結合させ,更にそのC末端に,リンカーを介して又は直接にhGALCを,それぞれペプチド結合により結合させたものとして製造できる。又は,hGALCのC末端にリンカーを介して又は直接に,一本鎖抗体又はVHHのN末端を,更にそのC末端にリンカーを介して又は直接にHSAを,それぞれペプチド結合により結合させたものとして製造できる。同様の結合体は,hGALC以外のリソソーム酵素,例えばhGBAについても製造することができ,また,サイトカイン,例えば,hIL-10についても製造することができ,また,神経栄養因子,例えば,hBDNF,hNGF,hNT-3,hNT-4についても製造することができる。このように,抗体を介在させる形態の結合体も,便宜上,抗体と他のヒトリソソーム酵素とHSAとの融合蛋白質,抗体と他のヒトサイトカインとHSAとの融合蛋白質,及び抗体と他のヒト神経栄養因子とHSAとの融合蛋白質という。
【0474】
上記の手法は,他のヒトリソソーム酵素とHSAとの融合蛋白質,他のヒトサイトカインとHSAとの融合蛋白質,又は他のヒト神経栄養因子とHSAとの融合蛋白質と,抗体との結合体の製造にも応用できる。また,SAがヒト以外の動物種であるものである結合体,リソソーム酵素,サイトカイン,及び神経栄養因子がヒト以外の動物種である結合体の製造にも応用できる。
【0475】
上述したHSAとhGALCとの融合蛋白質又はHSAとhGBAとの融合蛋白質を製造するために用いることのできる,発現ベクター,宿主細胞,培地等は,上記の融合蛋白質と抗体との結合体の製造においても用いることができる。
【0476】
抗体,HSA及びhGALCとの結合体の好ましい実施形態として,以下の(1)~(4)が挙げられる。すなわち:
(1)抗体の重鎖のC末端に直接又はリンカーを介してHSAとhGALCとの融合蛋白質が結合した結合体と,抗体の軽鎖とを含むもの;
(2)抗体の重鎖のN末端に直接又はリンカーを介してHSAとhGALCとの融合蛋白質が結合した結合体と,抗体の軽鎖とを含むもの;
(3)抗体の軽鎖のC末端に直接又はリンカーを介してHSAとhGALCとの融合蛋白質が結合した結合体と,抗体の重鎖とを含むもの;
(4)抗体の軽鎖のN末端に直接又はリンカーを介してHSAとhGALCとの融合蛋白質が結合した結合体と,抗体の重鎖とを含むもの;
(5)HSAのC末端に直接又はリンカーを介して一本鎖抗体又はVHHが結合し,更にそのC末端にhGALCが結合した結合体;
(6)hGALCのC末端に直接又はリンカーを介して一本鎖抗体又はVHHが結合し,更にそのC末端にHSAが結合した結合体。
(1)の好適な一例として,配列番号25のアミノ酸配列を有するFab重鎖のC末端に,配列番号9が3回繰り返されるアミノ酸配列を有するリンカー,更にそのC末端に配列番号3のアミノ酸配列を有するHSA,更にそのC末端に配列番号9のアミノ酸配列を有するリンカー,更にそのC末端に配列番号1のアミノ酸配列を有するhGALCが結合した結合体Aと,配列番号23の軽鎖とを含むものが挙げられる。ここで結合体Aは配列番号28のアミノ酸配列を有する。
(2)の好適な一例として,配列番号3のアミノ酸配列を有するHSAのC末端に,配列番号9のアミノ酸配列を有するリンカー,更にそのC末端に配列番号1のアミノ酸配列を有するhGALC,更にそのC末端に配列番号9が3回繰り返されるアミノ酸配列を有するリンカー,更にそのC末端に配列番号25のアミノ酸配列を有するFab重鎖が結合した結合体Bと,配列番号23の軽鎖とを含むものが挙げられる。ここで当該結合体Bは配列番号30のアミノ酸配列を有する。
(3)の好適な一例として,配列番号25のアミノ酸配列を有するFab重鎖のC末端に,配列番号9が3回繰り返されるアミノ酸配列を有するリンカー,更にそのC末端に配列番号1のアミノ酸配列を有するhGALC,更にそのC末端に配列番号9のアミノ酸配列を有するリンカー,更にそのC末端に配列番号3のアミノ酸配列を有するHSAが結合した結合体Cと,配列番号23の軽鎖とを含むものが挙げられる。ここで当該結合体Cは配列番号32のアミノ酸配列を有する。
(4)の好適な一例として,配列番号1のアミノ酸配列を有するhGALCのC末端に,配列番号9のアミノ酸配列を有するリンカー,更にそのC末端に配列番号3のアミノ酸配列を有するHSA,更にそのC末端に配列番号9が3回繰り返されるアミノ酸配列を有するリンカー,更にそのC末端に配列番号25のアミノ酸配列を有するFab重鎖が結合した結合体Dと,配列番号23の軽鎖とを含むものが挙げられる。ここで当該結合体Cは配列番号34のアミノ酸配列を有する。
【0477】
抗体,HSA及びhGBAとの結合体の好ましい実施形態として,以下の(1)~(4)が挙げられる。すなわち:
(1)抗体の重鎖のC末端に直接又はリンカーを介してHSAとhGBAとの融合蛋白質が結合した結合体と,抗体の軽鎖とを含むもの;
(2)抗体の重鎖のN末端に直接又はリンカーを介してHSAとhGBAとの融合蛋白質が結合した結合体と,抗体の軽鎖とを含むもの;
(3)抗体の軽鎖のC末端に直接又はリンカーを介してHSAとhGBAとの融合蛋白質が結合した結合体と,抗体の重鎖とを含むもの;
(4)抗体の軽鎖のN末端に直接又はリンカーを介してHSAとhGBAとの融合蛋白質が結合した結合体と,抗体の重鎖とを含むもの;
(5)HSAのC末端に直接又はリンカーを介して一本鎖抗体又はVHHが結合し,更にそのC末端にhGBAが結合した結合体;
(6)hGBAのC末端に直接又はリンカーを介して一本鎖抗体又はVHHが結合し,更にそのC末端にHSAが結合した結合体。
【0478】
抗体,HSA及びhIL-10との結合体の好ましい実施形態として,以下の(1)~(4)が挙げられる。すなわち:
(1)抗体の重鎖のC末端に直接又はリンカーを介してHSAとhIL-10との融合蛋白質が結合した結合体と,抗体の軽鎖とを含むもの;
(2)抗体の重鎖のN末端に直接又はリンカーを介してHSAとhIL-10との融合蛋白質が結合した結合体と,抗体の軽鎖とを含むもの;
(3)抗体の軽鎖のC末端に直接又はリンカーを介してHSAとhIL-10との融合蛋白質が結合した結合体と,抗体の重鎖とを含むもの;
(4)抗体の軽鎖のN末端に直接又はリンカーを介してHSAとhIL-10との融合蛋白質が結合した結合体と,抗体の重鎖とを含むもの;
(5)HSAのC末端に直接又はリンカーを介して一本鎖抗体又はVHHが結合し,更にそのC末端にhIL-10が結合した結合体;
(6)hIL-10のC末端に直接又はリンカーを介して一本鎖抗体又はVHHが結合し,更にそのC末端にHSAが結合した結合体。
【0479】
抗体,HSA及びhBDNFとの結合体の好ましい実施形態として,以下の(1)~(4)が挙げられる。すなわち:
(1)抗体の重鎖のC末端に直接又はリンカーを介してHSAとhBDNFとの融合蛋白質が結合した結合体と,抗体の軽鎖とを含むもの;
(2)抗体の重鎖のN末端に直接又はリンカーを介してHSAとhBDNFとの融合蛋白質が結合した結合体と,抗体の軽鎖とを含むもの;
(3)抗体の軽鎖のC末端に直接又はリンカーを介してHSAとhBDNFとの融合蛋白質が結合した結合体と,抗体の重鎖とを含むもの;
(4)抗体の軽鎖のN末端に直接又はリンカーを介してHSAとhBDNFとの融合蛋白質が結合した結合体と,抗体の重鎖とを含むもの;
(5)HSAのC末端に直接又はリンカーを介して一本鎖抗体又はVHHが結合し,更にそのC末端にhBDNFが結合した結合体;
(6)hBDNFのC末端に直接又はリンカーを介して一本鎖抗体又はVHHが結合し,更にそのC末端にHSAが結合した結合体。
【0480】
抗体,HSA及びhNGFの結合体の好ましい実施形態として,以下の(1)~(4)が挙げられる。すなわち:
(1)抗体の重鎖のC末端に直接又はリンカーを介してHSAとhNGFとの融合蛋白質が結合した結合体と,抗体の軽鎖とを含むもの;
(2)抗体の重鎖のN末端に直接又はリンカーを介してHSAとhNGFとの融合蛋白質が結合した結合体と,抗体の軽鎖とを含むもの;
(3)抗体の軽鎖のC末端に直接又はリンカーを介してHSAとhNGFとの融合蛋白質が結合した結合体と,抗体の重鎖とを含むもの;
(4)抗体の軽鎖のN末端に直接又はリンカーを介してHSAとhNGFとの融合蛋白質が結合した結合体と,抗体の重鎖とを含むもの;
(5)HSAのC末端に直接又はリンカーを介して一本鎖抗体又はVHHが結合し,更にそのC末端にhNGFが結合した結合体;
(6)hNGFのC末端に直接又はリンカーを介して一本鎖抗体又はVHHが結合し,更にそのC末端にHSAが結合した結合体。
【0481】
抗体,HSA及びhNT-3の結合体の好ましい実施形態として,以下の(1)~(4)が挙げられる。すなわち:
(1)抗体の重鎖のC末端に直接又はリンカーを介してHSAとhNT-3との融合蛋白質が結合した結合体と,抗体の軽鎖とを含むもの;
(2)抗体の重鎖のN末端に直接又はリンカーを介してHSAとhNT-3との融合蛋白質が結合した結合体と,抗体の軽鎖とを含むもの;
(3)抗体の軽鎖のC末端に直接又はリンカーを介してHSAとhNT-3との融合蛋白質が結合した結合体と,抗体の重鎖とを含むもの;
(4)抗体の軽鎖のN末端に直接又はリンカーを介してHSAとhNT-3との融合蛋白質が結合した結合体と,抗体の重鎖とを含むもの;
(5)HSAのC末端に直接又はリンカーを介して一本鎖抗体又はVHHが結合し,更にそのC末端にhNT-3が結合した結合体;
(6)hNT-3のC末端に直接又はリンカーを介して一本鎖抗体又はVHHが結合し,更にそのC末端にHSAが結合した結合体。
【0482】
抗体,HSA及びhNT-4の結合体の好ましい実施形態として,以下の(1)~(4)が挙げられる。すなわち:
(1)抗体の重鎖のC末端に直接又はリンカーを介してHSAとhNT-4との融合蛋白質が結合した結合体と,抗体の軽鎖とを含むもの;
(2)抗体の重鎖のN末端に直接又はリンカーを介してHSAとhNT-4との融合蛋白質が結合した結合体と,抗体の軽鎖とを含むもの;
(3)抗体の軽鎖のC末端に直接又はリンカーを介してHSAとhNT-4との融合蛋白質が結合した結合体と,抗体の重鎖とを含むもの;
(4)抗体の軽鎖のN末端に直接又はリンカーを介してHSAとhNT-4との融合蛋白質が結合した結合体と,抗体の重鎖とを含むもの;
(5)HSAのC末端に直接又はリンカーを介して一本鎖抗体又はVHHが結合し,更にそのC末端にhNT-4が結合した結合体;
(6)hNT-4のC末端に直接又はリンカーを介して一本鎖抗体又はVHHが結合し,更にそのC末端にHSAが結合した結合体。
【0483】
SAとリソソーム酵素との融合蛋白質,SAとサイトカインとの融合蛋白質,又は,SAと神経栄養因子との融合蛋白質と,抗体とを,リンカーを介して結合させる場合のリンカーについて,以下に詳述する。これらのリンカーは,特に,HSAとhGALCとの融合蛋白質,HSAとhGBAとの融合蛋白質,HSAとhIL-10との融合蛋白質,HSAとhBDNFとの融合蛋白質,HSAとhNGFとの融合蛋白質,HSAとhNT-3との融合蛋白質,又はHSAとhNT-4との融合蛋白質と,抗体とを,結合させる場合のリンカーとしても好適である。
【0484】
抗体又はリガンドと融合蛋白質との間に配置されるリンカーは,好ましくは1~60個又は1~50個,より好ましくは1~17個,更に好ましくは1~10個,更により好ましくは1~5個のアミノ酸から構成されるペプチド鎖であるが,リンカーを構成するアミノ酸の個数は,1個,2個,3個,1~17個,1~10個,10~40個,20~34個,23~31個,25~29個,27個等と適宜調整できる。そのようなリンカーは,これにより連結された抗体が脳血管内皮細胞上の受容体との親和性を保持し,且つ当該リンカーにより連結された融合蛋白質が,生理的条件下で当該融合蛋白質の生理活性を発揮できる限り,そのアミノ酸配列に限定はないが,好ましくは,グリシンとセリンから構成されるものである。例えば,グリシン又はセリンのいずれか1個のアミノ酸からなるもの,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Ser-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号9),アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号10),アミノ酸配列Ser-Gly-Gly-Gly-Gly(配列番号11),又はこれらのアミノ酸配列が1~10個,あるいは2~5個連続してなる配列を含むものが挙げられる。1~50個のアミノ酸からなる配列,2~17個,2~10個,10~40個,20~34個,23~31個,25~29個,又は27個のアミノ酸からなる配列等を有するものである。例えば,アミノ酸配列Gly-Serを含むものはリンカーとして好適に用いることができる。また,アミノ酸配列Gly-Serに続いてアミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号9)が5個連続してなる計27個のアミノ酸配列を含むものはリンカーとして好適に用いることができる。更には,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号9)が5個連続してなる計25個のアミノ酸配列を含むものもリンカーとして好適に用いることができる。
なお,本発明において,1つのペプチド鎖に複数のリンカーが含まれる場合,便宜上,各リンカーはN末端側から順に,第1のリンカー,第2のリンカーというように命名する。
【0485】
SAとリソソーム酵素との融合蛋白質,SAとサイトカインとの融合蛋白質,又は,SAと神経栄養因子との融合蛋白質と結合させるべき抗体の具体的な例として,以下の抗ヒトトランスフェリン受容体抗体(抗hTfR抗体)が挙げられる。例えば,
(1)軽鎖の可変領域が,CDR1として配列番号96のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号97のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号98のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなり,かつ重鎖の可変領域が,CDR1として配列番号99のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号100のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号101のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなるもの,及び
(2)軽鎖の可変領域が,CDR1として配列番号96のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号97のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号98のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなり,かつ重鎖の可変領域が,CDR1として配列番号102のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号103のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号104のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなるもの,
である。ただし,これらに限られず,上記アミノ酸配列に対しては適宜,置換,欠失,付加等の変異を加えることができる。なお,上記(1)及び(2)の抗hTfR抗体はヒト化抗hTfR抗体である。また,上記(1)及び(2)の抗hTfR抗体はFabであっても良い。
【0486】
上記(1)及び(2)の抗hTfR抗体は,特に,HSAとhGALCとの融合蛋白質,HSAとhGBAとの融合蛋白質,HSAとhIL-10との融合蛋白質,HSAとhBDNFとの融合蛋白質,HSAとhNGFとの融合蛋白質,HSAとhNT-3との融合蛋白質,又はHSAとhNT-4との融合蛋白質と結合させるべき抗体として好適なものである。
【0487】
上記(1)及び(2)の抗hTfR抗体に置換,付加,欠失等を加えたものも,ヒトトランスフェリン受容体への親和性を保持するものである限り,結合体を構成する抗体とすることができる。
【0488】
上記(1)及び(2)の抗hTfR抗体の軽鎖のアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1又は2個である。軽鎖のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1又は2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。
【0489】
上記(1)及び(2)の抗hTfR抗体の軽鎖のアミノ酸配列にアミノ酸を付加する場合,軽鎖のアミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1又は2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えた軽鎖のアミノ酸配列は,元の軽鎖のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を有し,より好ましくは90%以上の同一性を示し,更に好ましくは,95%以上の同一性を示す。
【0490】
上記(1)及び(2)の抗hTfR抗体の重鎖のアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1又は2個である。重鎖のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1又は2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。
【0491】
上記(1)及び(2)の抗hTfR抗体の重鎖のアミノ酸配列にアミノ酸を付加する場合,重鎖のアミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1又は2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えた重鎖のアミノ酸配列は,元の重鎖のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を有し,より好ましくは90%以上の同一性を示し,更に好ましくは,95%以上の同一性を示す。
【0492】
また,SAとリソソーム酵素との融合蛋白質,SAとサイトカインとの融合蛋白質,又は,SAと神経栄養因子との融合蛋白質と結合させるべき抗体の具体的な例として,以下の抗hTfR重鎖抗体可変領域(VHH)ペプチド(hTfR親和性ペプチド)が挙げられる。すなわち,
(3)hTfR親和性ペプチドであって,CDR1として配列番号105又は配列番号106のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号107又は配列番号108のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号109又は配列番号110のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなるもの,及び
(4)hTfR親和性ペプチドであって,CDR1として配列番号105又は配列番号106のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号111又は配列番号112のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号109又は配列番号110のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなるもの。
である。ただし,これらに限られず,上記アミノ酸配列に対しては適宜,置換,欠失,付加等の変異を加えることができる。なお,上記(3)及び(4)のhTfR親和性ペプチドは本明細書でいう抗体に含まれる。
【0493】
上記(3)及び(4)のhTfR親和性ペプチドは,特に,HSAとhGALCとの融合蛋白質,HSAとhGBAとの融合蛋白質,HSAとhIL-10との融合蛋白質,HSAとhBDNFとの融合蛋白質,HSAとhNGFとの融合蛋白質,HSAとhNT-3との融合蛋白質,又はHSAとhNT-4との融合蛋白質と結合させるべき抗体として好適なものである。
【0494】
上記(3)及び(4)のhTfR親和性ペプチドに置換,付加,欠失等を加えたものも,ヒトトランスフェリン受容体への親和性を保持するものである限り,結合体を構成する抗体とすることができる。
【0495】
上記(3)及び(4)のhTfR親和性ペプチドのアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1又は2個である。hTfR親和性ペプチドのアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1又は2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。
【0496】
上記(3)及び(4)のhTfR親和性ペプチドのアミノ酸配列にアミノ酸を付加する場合,軽鎖のアミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1又は2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えた軽鎖のアミノ酸配列は,元のhTfR親和性ペプチドのアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を有し,より好ましくは90%以上の同一性を示し,更に好ましくは,95%以上の同一性を示す。
【0497】
HSAとhGALCとの融合蛋白質は,脳血管内皮細胞上の受容体に対する抗体又はリガンドと結合させた結合体とすることにより,血液脳関門を通過させて脳内で機能を発揮させることができる。従って,当該結合体は,GALCの欠損を原因とする中枢神経系の疾患,例えばクラッベ病の治療のための血中投与用薬剤の製造のために使用することができる。また,当該結合体は,GALCの欠損を原因とする中枢神経系の疾患,例えばクラッベ病の治療上有効量を,該当する患者に血中投与(点滴静注等の静脈注射を含む)することを含む,治療方法において使用することができる。血中投与された当該結合体は,脳内に到達する他,GALCを発現する他の臓器や器官にも到達することができる。また,当該薬剤は,当該疾患の発症を予防するために用いることもできる。
【0498】
HSAとhGBAとの融合蛋白質は,脳血管内皮細胞上の受容体に対する抗体又はリガンドと結合させた結合体とすることにより,血液脳関門を通過させて脳内で機能を発揮させることができる。従って,当該結合体は,GBAの欠損を原因とする中枢神経系の疾患,例えばゴーシェ病の治療のための血中投与用薬剤の製造のために使用することができる。また,当該結合体は,GBAの欠損を原因とする中枢神経系の疾患,例えばゴーシェ病の治療上有効量を,該当する患者に血中投与(点滴静注等の静脈注射を含む)することを含む,治療方法において使用することができる。血中投与された当該結合体は,は,脳内に到達する他,他の臓器や器官にも到達することができる。また,当該薬剤は,当該疾患の発症を予防するために用いることもできる。
【0499】
HSAとhIL-10との融合蛋白質は,脳血管内皮細胞上の受容体に対する抗体又はリガンドと結合させた結合体とすることにより,血液脳関門を通過させて脳内で機能を発揮させることができる。従って,当該結合体は,中枢神経系の疾患の治療のための血中投与用薬剤の製造のために使用することができる。また,当該結合体は,中枢神経系の疾患の治療上有効量を,該当する患者に血中投与(点滴静注等の静脈注射を含む)することを含む,治療方法において使用することができる。血中投与された当該結合体は,は,脳内に到達する他,IL-10によって治療効果を発揮することのできる他の臓器や器官にも到達することができる。また,当該薬剤は,当該疾患の発症を予防するために用いることもできる。
【0500】
HSAとhBDNFとの融合蛋白質は,脳血管内皮細胞上の受容体に対する抗体又はリガンドと結合させた結合体とすることにより,血液脳関門を通過させて脳内で機能を発揮させることができる。従って,当該結合体は,中枢神経系の疾患の治療のための血中投与用薬剤の製造のために使用することができる。また,当該結合体は,中枢神経系の疾患の治療上有効量を,該当する患者に血中投与(点滴静注等の静脈注射を含む)することを含む,治療方法において使用することができる。血中投与された当該結合体は,は,脳内に到達する他,BDNFによって治療効果を発揮することのできる他の臓器や器官にも到達することができる。また,当該薬剤は,当該疾患の発症を予防するために用いることもできる。
【0501】
HSAとhNGFとの融合蛋白質は,脳血管内皮細胞上の受容体に対する抗体又はリガンドと結合させた結合体とすることにより,血液脳関門を通過させて脳内で機能を発揮させることができる。従って,当該結合体は,中枢神経系の疾患の治療のための血中投与用薬剤の製造のために使用することができる。また,当該結合体は,中枢神経系の疾患の治療上有効量を,該当する患者に血中投与(点滴静注等の静脈注射を含む)することを含む,治療方法において使用することができる。血中投与された当該結合体は,脳内に到達する他,NGFによって治療効果を発揮することのできる他の臓器や器官にも到達することができる。また,当該薬剤は,当該疾患の発症を予防するために用いることもできる。
【0502】
HSAとhNT-3との融合蛋白質は,脳血管内皮細胞上の受容体に対する抗体又はリガンドと結合させた結合体とすることにより,血液脳関門を通過させて脳内で機能を発揮させることができる。従って,当該結合体は,中枢神経系の疾患の治療のための血中投与用薬剤の製造のために使用することができる。また,当該結合体は,は,中枢神経系の疾患の治療上有効量を,該当する患者に血中投与(点滴静注等の静脈注射を含む)することを含む,治療方法において使用することができる。血中投与された当該結合体は,脳内に到達する他,NT-3によって治療効果を発揮することのできる他の臓器や器官にも到達することができる。また,当該薬剤は,当該疾患の発症を予防するために用いることもできる。
【0503】
HSAとhNT-4との融合蛋白質は,脳血管内皮細胞上の受容体に対する抗体又はリガンドと結合させた結合体とすることにより,血液脳関門を通過させて脳内で機能を発揮させることができる。従って,当該結合体は,中枢神経系の疾患の治療のための血中投与用薬剤の製造のために使用することができる。また,当該結合体は,中枢神経系の疾患の治療上有効量を,該当する患者に血中投与(点滴静注等の静脈注射を含む)することを含む,治療方法において使用することができる。血中投与された当該結合体は,脳内に到達する他,NT-4によって治療効果を発揮することのできる他の臓器や器官にも到達することができる。また,当該薬剤は,当該疾患の発症を予防するために用いることもできる。
【0504】
HSAとhGALCとの融合蛋白質,HSAとhGBAとの融合蛋白質,HSAとhIL-10との融合蛋白質,HSAとhBDNFとの融合蛋白質,HSAとhNGFとの融合蛋白質,HSAとhNT-3との融合蛋白質,及びHSAとhNT-4との融合蛋白質は,それぞれ脳血管内皮細胞上の受容体に対する抗体又はリガンドと結合させることにより,血中に投与して中枢神経系(CNS)において薬効を発揮させるべき薬剤として使用することができる。かかる薬剤は,一般に点滴静脈注射等による静脈注射,皮下注射,筋肉注射により患者に投与されるが,投与経路には特に限定はない。
【0505】
HSAとhGALCとの融合蛋白質と抗体との結合体において,hGALCがhGALCとしての機能を有するというときは,hGALCが,通常の野生型のhGALCの比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性,例えば90%以上,95%以上の比活性を有することをいう。また,HSAとhGALCとの融合蛋白質と抗体以外の蛋白質との結合体において,hGALCがhGALCとしての機能を有するというときは,hGALCが,通常の野生型のhGALCの比活性を100%としたときに,好ましくは10%以上の比活性を,より好ましくは20%以上の比活性を,更に好ましくは50%以上の比活性を,より更に好ましくは80%以上の比活性,例えば90%以上,95%以上の比活性を有することをいう。なお,ここで当該結合体におけるhGALCの比活性は,当該結合体の単位質量当たりのhGALCの酵素活性(μM/時間/mg蛋白質)に(当該結合体の分子量/当該結合体中のhGALCに相当する部分の分子量)を乗じて算出される。HSAとhGBAとの融合蛋白質と抗体との結合体についても同様のことがいえる。また,HSAとhIL-10との融合蛋白質と抗体との結合体,HSAとhBDNFとの融合蛋白質と抗体との結合体,HSAとhNGFとの融合蛋白質と抗体との結合体,HSAとhNT-3との融合蛋白質と抗体との結合体,及びHSAとhNT-4との融合蛋白質と抗体との結合体についても同様のことがいえるが,もっとも,hIL-10,hBDNF,hNGF,hNT-3,及びhNT-4は酵素ではないため,その比活性とは酵素活性ではなく,hIL-10,hBDNF,hNGF,hNT-3,又はhNT-4それぞれの蛋白質の生理活性に基づくものである。
【0506】
本発明の一実施形態におけるSAとリソソーム酵素との融合蛋白質,SAとサイトカインとの融合蛋白質,又はSAと神経栄養因子との融合蛋白質は,リガンドとの結合体とすることもできる。ここで,SA,リソソーム酵素,サイトカイン,及び神経栄養因子は,何れもヒト由来のものであっても,ヒト以外の動物種由来のものであってもよい。例えば,SAとリソソーム酵素との融合蛋白質としては,HSAとhGALCとの融合蛋白質及びHSAとhGBAとの融合蛋白質,SAとサイトカインとの融合蛋白質としてはHSAとhIL-10との融合蛋白質,及びSAと神経栄養因子との融合蛋白質としては,HSAとhBDNFとの融合蛋白質,HSAとhNGFとの融合蛋白質,HSAとhNT-3との融合蛋白質,並びにHSAとhNT-4との融合蛋白質があげられる。
【0507】
ここで,リガンドは,例えば,脳血管内皮細胞上の受容体と特異的に結合することのできるものであり,例えばインスリン受容体,トランスフェリン受容体,レプチン受容体,リポ蛋白質受容体,及びIGF受容体である。インスリン受容体,トランスフェリン受容体,レプチン受容体,リポ蛋白質受容体,及びIGF受容体のそれぞれに対応するリガンドは,インスリン,レプチン,リポ蛋白質及びIGF(IGF-1,IGF-2)である。リガンドは野生型のものであっても,ターゲットとなる受容体に特異的に結合できるものである限り,野生型に変異を加えたものであってもよい。また,ターゲットとなる受容体に特異的に結合できるものである限り,リガンドの断片であってもよい。これらのリガンドは,特に,HSAとhGALCとの融合蛋白質,HSAとhGBAとの融合蛋白質,HSAとhIL-10との融合蛋白質,HSAとhBDNFとの融合蛋白質,HSAとhNGFとの融合蛋白質,HSAとhNT-3との融合蛋白質,又はHSAとhNT-4との融合蛋白質と結合させるリガンドとして好適である。
【0508】
例えば,リガンドがトランスフェリン(Tf)である場合,トランスフェリンはヒトTfであってもヒト以外の動物種のTfであってもよいが,好ましくはヒトTfである。また,トランスフェリンは野生型であってもよく,トランスフェリン受容体(TfR)への親和性を有するものである限り,変異を導入したものであってもよい。変異は,例えば1~2個のアミノ酸の置換,付加,又は欠失である。また,トランスフェリンは全長であってもよく,トランスフェリン受容体(TfR)への親和性を有するものである限り,その断片であってもよい。インスリン,レプチン,リポ蛋白質及びIGF(IGF-1,IGF-2)についても同様のことがいえる。
【0509】
本発明の一実施例におけるSAとリソソーム酵素との融合蛋白質,SAとサイトカインとの融合蛋白質,又はSAと神経栄養因子との融合蛋白質と,リガンドとの結合体は,以下の(1)又は(2)の方法により製造することができる:
(1)融合蛋白質とリガンドとを非ペプチドリンカー又はペプチドリンカーを介して結合体とする;
(2)融合蛋白質とリガンドとを,リンカー配列を介して又は直接,ペプチド結合により結合させた組換え蛋白質として製造する。
【0510】
上記(1)の場合,非ペプチドリンカーとしては,ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,エチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体,ポリオキシエチル化ポリオール,ポリビニルアルコール,多糖類,デキストラン,ポリビニルエーテル,生分解性高分子,脂質重合体,キチン類,及びヒアルロン酸,又はこれらの誘導体,若しくはこれらを組み合わせたものを用いることができる。ペプチドリンカーは,ペプチド結合した1~50個のアミノ酸から構成されるペプチド鎖若しくはその誘導体であって,そのN末端とC末端が,それぞれ融合蛋白質又はリガンドのいずれかと共有結合を形成することにより,融合蛋白質とリガンドとを結合させるものである。融合蛋白質とリガンドは,それぞれ組換え蛋白質として製造される。
【0511】
上記(2)の場合,融合蛋白質とリガンドは,融合蛋白質のC末端に,リンカー配列を介して又は直接,リガンドのN末端が結合した組換え蛋白質として,又はリガンドのC末端に,リンカー配列を介して又は直接,融合蛋白質のN末端が結合した組換え蛋白質として製造される。かかる組換え蛋白質を製造するために用いられる発現ベクター,宿主細胞,培地は,上記のHSAとhGALCとの融合蛋白質の製造に用いられるものを応用することができる。
【0512】
本発明の一実施形態におけるSAとリソソーム酵素との融合蛋白質,SAとサイトカインとの融合蛋白質,又はSAと神経栄養因子との融合蛋白質は,抗体及びリガンドに限らず,その他の蛋白質(A)との結合体とすることもできる。ここで,SA,リソソーム酵素,サイトカイン,及び神経栄養因子は,何れもヒト由来のものであっても,ヒト以外の動物種由来のものであってもよい。例えば,SAとリソソーム酵素との融合蛋白質としては,HSAとhGALCとの融合蛋白質及びHSAとhGBAとの融合蛋白質,SAとサイトカインとの融合蛋白質としてはHSAとhIL-10との融合蛋白質,及びSAと神経栄養因子との融合蛋白質としては,HSAとhBDNFとの融合蛋白質,HSAとhNGFとの融合蛋白質,HSAとhNT-3との融合蛋白質,並びにHSAとhNT-4との融合蛋白質があげられる。
【0513】
本発明の一実施例におけるSAとリソソーム酵素との融合蛋白質,SAとサイトカインとの融合蛋白質,又はSAと神経栄養因子との融合蛋白質と,蛋白質(A)との結合体は,以下の(1)又は(2)の方法により製造することができる:
(1)融合蛋白質と蛋白質(A)とを非ペプチドリンカー又はペプチドリンカーを介して結合体とする;
(2)融合蛋白質と蛋白質(A)とを,リンカー配列を介して又は直接,ペプチド結合により結合させた組換え蛋白質として製造する。
【0514】
上記(1)の場合,非ペプチドリンカーとしては,ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,エチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体,ポリオキシエチル化ポリオール,ポリビニルアルコール,多糖類,デキストラン,ポリビニルエーテル,生分解性高分子,脂質重合体,キチン類,及びヒアルロン酸,又はこれらの誘導体,若しくはこれらを組み合わせたものを用いることができる。ペプチドリンカーは,ペプチド結合した1~50個のアミノ酸から構成されるペプチド鎖若しくはその誘導体であって,そのN末端とC末端が,それぞれ融合蛋白質又は蛋白質(A)のいずれかと共有結合を形成することにより,融合蛋白質と蛋白質(A)とを結合させるものである。融合蛋白質と蛋白質(A)は,それぞれ組換え蛋白質として製造される。
【0515】
上記(2)の場合,融合蛋白質とリガンドは,融合蛋白質のC末端に,リンカー配列を介して又は直接,リガンドのN末端が結合した組換え蛋白質として,又はリガンドのC末端に,リンカー配列を介して又は直接,融合蛋白質のN末端が結合した組換え蛋白質として製造される。かかる組換え蛋白質を製造するために用いられる発現ベクター,宿主細胞,培地は,HSAとhGALCとの融合蛋白質の製造に用いられるものを応用することができる。
【0516】
HSAとhGALCとの融合蛋白質と抗体の結合体,及びHSAとhGALCとの融合蛋白質とリガンド又は蛋白質(A)との結合体は,何れもクラッベ病(ガラクトシルセラミドリピドーシス,又はグロボイド細胞白質ジストロフィー)を対象疾患とする医薬組成物として使用することができる。
【0517】
HSAとhGBAとの融合蛋白質と抗体の結合体,及びHSAとhGBAとの融合蛋白質とリガンド又は蛋白質(A)との結合体は,何れもゴーシェ病を対象疾患とする医薬組成物として使用することができる。
【0518】
HSAとhIL-10との融合蛋白質と抗体の結合体,及びHSAとhIL-10との融合蛋白質とリガンド又は蛋白質(A)との結合体は,何れも炎症性疾患,神経傷害性疼痛,多発性硬化症,脊髄傷害,ALS,神経炎症,関節炎および関節の他の疾患に関連する症状,及び自己免疫疾患等を対象疾患とする医薬組成物として使用することができる。
【0519】
HSAとhBDNFとの融合蛋白質と抗体の結合体,及びHSAとhBDNFとの融合蛋白質とリガンド又は蛋白質(A)との結合体は,何れもアルツハイマー病,パーキンソン病,ハンチントン病などの神経変性疾患,筋萎縮性側策硬化症などの脊髄変性疾患,糖尿病性神経障害,脳虚血性疾患,Rett症候群などの発達障害,統合失調症,うつ病およびRett症候群等を対象疾患とする医薬組成物として使用することができる。
【0520】
HSAとhNGFとの融合蛋白質と抗体の結合体,及びHSAとhNGFとの融合蛋白質とリガンド又は蛋白質(A)との結合体は,何れもアルツハイマー病,パーキンソン病,ハンチントン病などの神経変性疾患等を対象疾患とする医薬組成物として使用することができる。
【0521】
HSAとhNT-3との融合蛋白質と抗体の結合体,及びHSAとhNT-3との融合蛋白質とリガンド又は蛋白質(A)との結合体は,何れも神経変性疾患等を対象疾患とする医薬組成物として使用することができる。
【0522】
HSAとhNT-4との融合蛋白質と抗体の結合体,及びHSAとhNT-4との融合蛋白質とリガンド又は蛋白質(A)との結合体は,何れも神経変性疾患等を対象疾患とする医薬組成物として使用することができる。
【0523】
HSAとhGALCとの融合蛋白質と抗体の結合体,又はHSAとhGALCとの融合蛋白質とリガンド又は蛋白質(A)との結合体を有効成分として含有してなる医薬組成物は,注射剤として静脈内,筋肉内,腹腔内,皮下又は脳室内に投与することができる。それらの注射剤は,凍結乾燥製剤又は水性液剤として供給することができる。水性液剤とする場合,バイアルに充填した形態としてもよく,注射器に予め充填したものであるプレフィルド型の製剤として供給することもできる。凍結乾燥製剤の場合,使用前に水性媒質に溶解し復元して使用する。水性液剤中に含まれるHSAとhGALCとの融合蛋白質と抗体の結合体における,総蛋白質に占める単量体の比率(単量体の質量/総蛋白質の質量×100(%))は,好ましくは70%以上,より好ましくは80%以上,更に好ましくは90%以上,例えば95%以上であり95%以上である。凍結乾燥製剤を水性媒質に溶解し復元した溶液についても同じことがいえる。以上のことは,HSAとhGBAとの融合蛋白質と抗体の結合体,又はHSAとhGBAとの融合蛋白質とリガンド又は蛋白質(A)との結合体を有効成分として含有してなる医薬組成物,HSAとhIL-10との融合蛋白質と抗体の結合体,又はHSAとhIL-10との融合蛋白質とリガンド又は蛋白質(A)との結合体を有効成分として含有してなる医薬組成物,HSAとhBDNFとの融合蛋白質と抗体の結合体,又はHSAとhBDNFとの融合蛋白質とリガンド又は蛋白質(A)との結合体を有効成分として含有してなる医薬組成物,HSAとhNGFとの融合蛋白質と抗体の結合体,又はHSAとhNGFとの融合蛋白質とリガンド又は蛋白質(A)との結合体を有効成分として含有してなる医薬組成物,HSAとNT-3との融合蛋白質と抗体の結合体,又はHSAとhNT-3との融合蛋白質とリガンド又は蛋白質(A)との結合体を有効成分として含有してなる医薬組成物,及びHSAとNT-4との融合蛋白質と抗体の結合体,又はHSAとhNT-4との融合蛋白質とリガンド又は蛋白質(A)との結合体を有効成分として含有してなる医薬組成物,についても適用し得る。
【0524】
野生型hGALCは,組換え体蛋白質として発現させたとき,2量体,4量体等の多量体として取得される。これに対して,HSAとhGALCとの融合蛋白質は,組換え体蛋白質として発現させたとき,そのほとんどが単量体として取得される。組換え体蛋白質として製造されたHSAとhGALCとの融合蛋白質における,総蛋白質に占める単量体の比率(単量体の質量/総蛋白質の質量×100(%))は,好ましくは70%以上,より好ましくは80%以上,更に好ましくは90%以上,例えば95%以上であり95%以上である。
【0525】
HSAとhGALCとの融合蛋白質,例えばHSA-hGALC及びhGALC-HSAは,組換え蛋白質として発現させたとき,単量体として均質なものを取得することができるので,製造管理の観点からも,hGALCをHSAとの融合蛋白質として製造するhGALCの製造方法は,hGALCの製造方法として優れたものということができる。
【0526】
また,HSAとhGALCとの融合蛋白質と抗体の結合体は,組換え体蛋白質として発現させたとき,そのほとんどが単量体として取得される。組換え体蛋白質として製造された当該結合体における,総蛋白質に占める単量体の比率(単量体の質量/総蛋白質の質量×100(%))は,好ましくは70%以上,より好ましくは80%以上,更に好ましくは90%以上,例えば95%以上であり95%以上である。
【0527】
HSAとhGALCとの融合蛋白質と抗体の結合体は,組換え蛋白質として発現させたとき,単量体として均質なものを取得することができるので,製造管理の観点からも,hGALCをHSA及び抗体との融合蛋白質として製造する方法は,hGALCの製造方法として優れたものということができる。
【0528】
SAとリソソーム酵素との融合蛋白質,SAとサイトカインとの融合蛋白質,又はSAと神経栄養因子との融合蛋白質は,当該結合体をコードする遺伝子を含む核酸分子は,遺伝子治療に用いることができる。また,これら融合蛋白質の何れかと抗体との結合体をコードする遺伝子を含む核酸分子は,これら融合蛋白質の何れかとリガンドとの結合体をコードする遺伝子を含む核酸分子,これら融合蛋白質の何れかと蛋白質(A)との結合体をコードする遺伝子を含む核酸分子も,遺伝子治療に用いることができる。
【0529】
ここで,融合蛋白質は,例えば,HSAとhGALCとの融合蛋白質,HSAとhGBAとの融合蛋白質,HSAとhIL-10との融合蛋白質,HSAとhBDNFとの融合蛋白質,HSAとhNGFとの融合蛋白質,HSAとhNT-3との融合蛋白質,又はHSAとhNT-4との融合蛋白質である。また,抗体は,例えば抗トランスフェリン受容体抗体である。また,リガンドは,例えばトランスフェリン又はその断片である。
【0530】
本発明の一実施形態における,遺伝子治療に用いることのできる核酸分子としては,例えば以下に示す塩基配列を含むものが挙げられる:
(1)第一の逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,その下流に遺伝子発現制御部位を含む塩基配列,更に下流に融合蛋白質をコードする塩基配列,更に下流に第二の逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列;
(2)第一の長い末端反復(LTR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,その下流に遺伝子発現制御部位を含む塩基配列,更に下流に融合蛋白質をコードする塩基配列,更に下流に第二の長い末端反復(LTR)又はその機能的等価物を含む塩基配列;
(3)リーダー又はその機能的等価物を含む塩基配列,その下流に遺伝子発現制御部位を含む塩基配列,更に下流に融合蛋白質をコードする塩基配列,更に下流にトレイラー又はその機能的等価物を含む塩基配列;
(4)第一の逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,その下流に遺伝子発現制御部位を含む塩基配列,更に下流に融合蛋白質と抗体との結合体をコードする塩基配列,更に下流に第二の逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列;
(5)第一の長い末端反復(LTR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,その下流に遺伝子発現制御部位を含む塩基配列,更に下流に融合蛋白質と抗体との結合体をコードする塩基配列,更に下流に第二の長い末端反復(LTR)又はその機能的等価物を含む塩基配列;
(6)リーダー又はその機能的等価物を含む塩基配列,その下流に遺伝子発現制御部位を含む塩基配列,更に下流に融合蛋白質と抗体との結合体をコードする塩基配列,更に下流にトレイラー又はその機能的等価物を含む塩基配列;
(7)第一の逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,その下流に遺伝子発現制御部位を含む塩基配列,更に下流に融合蛋白質とリガンドとの結合体をコードする塩基配列,更に下流に第二の逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列;
(8)第一の長い末端反復(LTR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,その下流に遺伝子発現制御部位を含む塩基配列,更に下流に融合蛋白質とリガンドとの結合体をコードする塩基配列,更に下流に第二の長い末端反復(LTR)又はその機能的等価物を含む塩基配列;
(9)リーダー又はその機能的等価物を含む塩基配列,その下流に遺伝子発現制御部位を含む塩基配列,更に下流に融合蛋白質とリガンドとの結合体をコードする塩基配列,更に下流にトレイラー又はその機能的等価物を含む塩基配列;
(10)第一の逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,その下流に遺伝子発現制御部位を含む塩基配列,更に下流に融合蛋白質と蛋白質(A)との結合体をコードする塩基配列,更に下流に第二の逆方向末端反復(ITR)又はその機能的等価物を含む塩基配列;
(11)第一の長い末端反復(LTR)又はその機能的等価物を含む塩基配列,その下流に遺伝子発現制御部位を含む塩基配列,更に下流に融合蛋白質と蛋白質(A)との結合体をコードする塩基配列,更に下流に第二の長い末端反復(LTR)又はその機能的等価物を含む塩基配列;及び
(12)リーダー又はその機能的等価物を含む塩基配列,その下流に遺伝子発現制御部位を含む塩基配列,更に下流に融合蛋白質と蛋白質(A)との結合体をコードする塩基配列,更に下流にトレイラー又はその機能的等価物を含む塩基配列。
【0531】
本発明において「核酸分子」というときは,主に,デオキシリボヌクレオチドがホスホジエステル結合により重合したものであるDNA,リボヌクレオチドがホスホジエステル結合により重合したものであるRNAの何れかのことをいう。
【0532】
「核酸分子」がDNAである場合のDNAは一重鎖(一本鎖)でもよく,又,相補鎖を伴う二重鎖であってもよい。DNAが一重鎖である場合のDNAは,(+)鎖であっても(-)鎖であってもよい。DNAを構成する個々のデオキシリボヌクレオチドは,DNAに含まれる蛋白質をコードする遺伝子が哺乳動物(特にヒト)の細胞内でmRNAに翻訳されることができる限り,天然に存在する型のものであってもよく,天然型に修飾を加えたものであってもよい。本発明の一実施形態において,DNAを構成する個々のデオキシリボヌクレオチドは,哺乳動物(特にヒト)の細胞内で,DNAに含まれる蛋白質をコードする遺伝子がmRNAに翻訳され,且つ,DNAの全部又は一部が複製されることができるものである限り,天然に存在する型のものであってもよく,天然型に修飾を加えたものであってもよい。
【0533】
また,「核酸分子」がRNAである場合のRNAは一重鎖(一本鎖)でもよく,相補鎖を伴う二重鎖であってもよい。RNAが一本鎖である場合のRNAは,(+)鎖であっても(-)鎖であってもよい。本発明の一実施形態において,RNAを構成する個々のリボヌクレオチドは,RNAに含まれる蛋白質をコードする遺伝子が哺乳動物(特にヒト)の細胞内でDNAに逆転写されることができる限り,天然に存在する型のものであってもよく,修飾されたものであってもよい。また,本発明の一実施形態において,RNAを構成する個々のリボヌクレオチドは,RNAに含まれる蛋白質をコードする遺伝子が哺乳動物(特にヒト)の細胞内で蛋白質に翻訳されることができる限り,天然に存在する型のものであってもよく,修飾されたものであってもよい。リボヌクレオチドの修飾は,例えば,RNAのRNaseによる分解を抑制し,RNAの細胞内における安定性を高めるために行われる。
【0534】
本発明の一実施形態において,逆方向末端反復(ITR)というときは,ウイルスゲノムの末端に存在する,同じ配列が反復して存在する塩基配列のことをいう。ITRとして,アデノ随伴ウイルスに由来するもの,及びアデノウイルスに由来するものは好適に用いることができる。例えば,アデノ随伴ウイルスのITRは,おおよそ145塩基の鎖長の領域であり,複製開始点等として機能する。本発明の一実施形態において,核酸分子中には,逆方向末端反復(ITR)が2つ存在し,それぞれ第一の逆方向末端反復(ITR),第二の逆方向末端反復(ITR)という。ここで,2つのITRの間に,融合蛋白質をコードする遺伝子を配置したときに,その5’側に位置するITRを第一の逆方向末端反復(ITR)といい,3’側に位置するITRを第二の逆方向末端反復(ITR)という。逆方向末端反復(ITR)は,複製開始点としての機能,宿主細胞への遺伝子挿入等の,本来のITRの機能の少なくも一つを有するものである限り,何れのウイルス由来のものであってもよく,アデノ随伴ウイルスのITRは好適なものの一つである。
【0535】
ITRがアデノ随伴ウイルスである場合の,AAVの血清型に特に限定はなく,血清型1,2,3,4,5,6,7,8,9,10又は11の何れのものであってもよい。例えば,血清型2のAAVの逆方向末端反復(ITR)は,第一のITRが配列番号113で示される塩基配列を含み,第二のITRが配列番号114で示される塩基配列を含む。
【0536】
また,ITRは,野生型のITRに限らず,野生型のITRの塩基配列に置換,欠失,付加等の改変を加えたものであってもよい。野生型のITRの塩基配列の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。野生型のITRの塩基配列を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。野生型のITRに塩基を付加する場合,ITRの塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個の塩基が付加される。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えたITRの塩基配列は,野生型のITRの塩基配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,より好ましくは85%以上の同一性を示し,更に好ましくは90%以上の同一性を示し,更に好ましくは,95%以上の同一性を示し,更に好ましくは98%以上の同一性を示す。
【0537】
ITRの機能的等価物とは,機能的にITRに代えて用いることができるものをいう。また, ITRに基づいて人工的に構築されたITRも,ITRを代替することができるものである限り, ITRの機能的等価物である。
【0538】
AAVのITRの機能的等価物とは,機能的にAAVのITRに代えて用いることができるものをいう。また,AAVのITRに基づいて人工的に構築されたITRも,AAVのITRを代替することができるものである限り,AAVのITRの機能的等価物である。
【0539】
人工的に構築された第1のAAVの逆方向末端反復(第一のAAV-ITR)の機能的等価物として,配列番号115で示される塩基配列を有するものが挙げられる(第一のAAV-ITRの機能的等価物)。この配列番号115で示される塩基配列に,置換,欠失,変異を加えたものも,機能的に第一のAAVのITRに代えて用いることができるものである限り,第一のAAV-ITRの機能的等価物に含まれる。配列番号115で示される塩基配列中の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。配列番号115で示される塩基配列中の塩基を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたITRも,第一のAAV-ITRの機能的等価物である。配列番号115で示される塩基配列に塩基を付加する場合,当該塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個の塩基を付加する。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたITRも,第一のAAV-ITRの機能的等価物に含まれる。変異を加えたITRの塩基配列は,配列番号115で示される塩基配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,より好ましくは85%以上の同一性を示し,更に好ましくは90%以上の同一性を示し,更に好ましくは,95%以上の同一性を示し,更により好ましくは98%以上の同一性を示す。
【0540】
また,人工的に構築された第2の逆方向末端反復(第二のAAV-ITR)の機能的等価物として,配列番号116で示される塩基配列を有するものが挙げられる(第二のAAV-ITRの機能的等価物)。この配列番号116で示される塩基配列に,置換,欠失,変異を加えたものも,機能的に第二のAAVのITRに代えて用いることができるものである限り,第二のAAVのITRの機能的等価物に含まれる。配列番号116で示される塩基配列中の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。配列番号116で示される塩基配列中の塩基を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたITRも,第二のAAVのITRの機能的等価物である。配列番号116で示される塩基配列に塩基を付加する場合,当該塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個の塩基を付加する。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたITRも,第二のAAVのITRの機能的等価物に含まれる。変異を加えたITRの塩基配列は,配列番号116で示される塩基配列と,好ましくは85%以上の同一性を示し,より好ましくは85%以上の同一性を示し,更に好ましくは90%以上の同一性を示し,更に好ましくは,95%以上の同一性を示し,更により好ましくは98%以上の同一性を示す。
【0541】
本発明の一実施形態において,長い末端反復(LTR)というときは,例えば,真核生物のレトロトランスポゾン,又はレトロウイルスゲノム,レンチウイルスゲノム等の末端に存在する,同じ配列が数百から数千回反復して存在する塩基配列のことをいう。本発明の一実施形態において,核酸分子中には,長い末端反復(LTR)が2つ存在し,それぞれ第一の長い末端反復(LTR),第二の長い末端反復(LTR)という。ここで,2つのLTRの間に,融合蛋白質をコードする遺伝子を配置したときに,5’側に位置するLTRを第一の長い末端反復(LTR)といい,3’側に位置するLTRを第二の長い末端反復(LTR)という。長い末端反復(LTR)は,複製開始点としての機能,宿主細胞への遺伝子挿入等の,本来のLTRの機能の少なくも一つを有するものである限り,何れのウイルス由来のものであってもよく,好適なものとしてはレトロウイルスゲノム及びレンチウイルスが挙げられる。またLTRは野生型のLTRに限らず,野生型のLTRの塩基配列に置換,欠失,付加等の改変を加えたものであってもよい。
【0542】
野生型のLTRの塩基配列の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。野生型のLTRの塩基配列を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。野生型のLTRに塩基を付加する場合,LTRの塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個の塩基が付加される。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えたLTRの塩基配列は,野生型のLTRの塩基配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,より好ましくは85%以上の同一性を示し,更に好ましくは90%以上の同一性を示し,更に好ましくは,95%以上の同一性を示し,更により好ましくは98%以上の同一性を示す。
【0543】
LTRの機能的等価物とは,機能的にLTRに代えて用いることができるものをいう。また,LTRに基づいて人工的に構築されたLTRも,LTRを代替することができるものである限り, LTRの機能的等価物である。
【0544】
レンチウイルスのLTRの機能的等価物とは,機能的にレンチウイルスのLTRに代えて用いることができるものをいう。また,レンチウイルスのLTRに基づいて人工的に構築されたLTRも,レンチウイルスのLTRを代替することができるものである限り,レンチウイルスのLTRの機能的等価物である。
【0545】
レトロウイルスのLTRの機能的等価物とは,機能的にレトロウイルスのLTRに代えて用いることができるものをいう。また,レトロウイルスのLTRに基づいて人工的に構築されたLTRも,レトロウイルスのLTRを代替することができるものである限り,レトロウイルスのLTRの機能的等価物である。
【0546】
第一のLTRの機能的等価物として,配列番号117で示される塩基配列を有するものが挙げられる。この配列番号117で示される塩基配列に,置換,欠失,変異を加えたものも,機能的に第一のLTRとして用いることができるものである限り,第一のLTRの機能的等価物に含まれる。配列番号117で示される塩基配列中の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~20個,更に好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。配列番号117で示される塩基配列中の塩基を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたLTRも,第一のLTRの機能的等価物である。配列番号117で示される塩基配列に塩基を付加する場合,当該塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個の塩基を付加する。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたLTRも,第一のLTRの機能的等価物に含まれる。変異を加えたLTRの塩基配列は,配列番号117で示される塩基配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,より好ましくは85%以上の同一性を示し,更に好ましくは90%以上の同一性を示し,更に好ましくは95%以上の同一性を示し,更により好ましくは98%以上の同一性を示す。
【0547】
また,第二のLTRの機能的等価物として,配列番号118で示される塩基配列を有するものが挙げられる。この配列番号118で示される塩基配列に,置換,欠失,変異を加えたものも,機能的に第二のLTRとして用いることができるものである限り,第二のLTRの機能的等価物に含まれる。配列番号118で示される塩基配列中の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。配列番号118で示される塩基配列中の塩基を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたLTRも,第二のLTRの機能的等価物である。配列番号118で示される塩基配列に塩基を付加する場合,当該塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個の塩基を付加する。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたLTRも,第二のLTRの機能的等価物に含まれる。変異を加えたLTRの塩基配列は,配列番号118で示される塩基配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,より好ましくは85%以上の同一性を示し,更に好ましくは90%以上の同一性を示し,更に好ましくは,95%以上の同一性を示し,更により好ましくは98%以上の同一性を示す。
【0548】
本発明の一実施形態において,リーダー及びトレイラーというときは,ウイルスゲノムの末端に存在する,互いに部分的に相補な塩基配列のことをいう。リーダー及びトレイラーとして,センダイウイルスに由来するものは好適に用いることができる。センダイウイルスのリーダー及びトレイラーは,何れも約50塩基の鎖長の領域である。通常,5’側にリーダー,3’側にトレイラーが位置する。
【0549】
本発明の一実施形態において好適に用いられるものとして,配列番号119で示される塩基配列を有するセンダイウイスル由来のリーダーと,配列番号120で示される塩基配列を有するセンダイウイスル由来のトレイラーが挙げられる。
【0550】
野生型のセンダイウイスル由来のリーダー及びトレイラーに変異を加えたものも,本発明において好適に使用できる。塩基配列の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。野生型のリーダー又は/及びトレイラーの塩基配列を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。塩基を付加する場合,リーダー又は/及びトレイラーの塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個の塩基が付加される。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えた塩基配列は,野生型の塩基配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,より好ましくは85%以上の同一性を示し,更に好ましくは90%以上の同一性を示し,更に好ましくは,95%以上の同一性を示し,更により好ましくは98%以上の同一性を示す。
【0551】
本発明の一実施形態において,融合蛋白質の遺伝子の発現を制御する遺伝子発現制御部位を含む塩基配列として用いることのできる塩基配列に,それが融合蛋白質をコードする遺伝子が導入される先の哺乳動物(特にヒト)の細胞,組織又は生体内で,この融合蛋白質を発現させることができるものである限り,特に制限はないが,サイトメガロウイルス由来のプロモーター(任意選択でエンハンサーを含む),SV40初期プロモーター,ヒト伸長因子-1α(EF-1α)プロモーター,ヒトユビキチンCプロモーター,レトロウイルスのラウス肉腫ウイルスLTRプロモーター,ジヒドロ葉酸還元酵素プロモーター,及びβ-アクチンプロモーター,ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター,マウスアルブミンプロモーター,ヒトアルブミンプロモーター,及びヒトα-1アンチトリプシンプロモーターを含むものが好適である。例えば,マウスαフェトプロテインエンハンサーの下流にマウスアルブミンプロモーターを含む配列番号121で示される塩基配列を有する合成プロモーター(マウスαフェトプロテインエンハンサー/マウスアルブミンプロモーター)は遺伝子発現制御部位として好適に利用できる。マウスαフェトプロテインエンハンサー/マウスアルブミンプロモーターの下流に配列番号122で示される塩基配列を有するニワトリβアクチン/MVMキメライントロンをその下流に配置させてもよい。かかるイントロンを配置することにより,遺伝子発現制御部位で制御される蛋白質の発現量を増加させることができる。なお,配列番号121で示される塩基配列において,1~219番目の塩基配列がマウスαフェトプロテインエンハンサーであり,241~549番目の塩基配列がマウスアルブミンプロモーターである。
【0552】
遺伝子制御部位は,臓器特異的又は細胞種特異的に発現する遺伝子のプロモーターであってもよい。臓器特異的発現プロモーター又は細胞種特異的発現プロモーターを用いることにより,核酸分子に組込んだ融合蛋白質をコードする遺伝子を,所望の臓器又は細胞で特異的に発現させることができる。
【0553】
本発明の一実施形態における核酸分子は,第一の逆方向末端反復(ITR)と第二の逆方向末端反復(ITR)の間に,融合蛋白質と抗体との結合体をコードする遺伝子を含むものである。ここで,融合蛋白質は例えば,HSAとhGALCとの融合蛋白質,HSAとhGBAとの融合蛋白質,HSAとhIL-10との融合蛋白質,HSAとhBDNFとの融合蛋白質,HSAとhNGFとの融合蛋白質,HSAとhNT-3との融合蛋白質,又はHSAとhNT-4との融合蛋白質であり,抗体は例えば,抗トランスフェリン受容体抗体である。以下の(1)~(4)は当該核酸分子の例示である:
(1)第一の逆方向末端反復(ITR)と第二の逆方向末端反復(ITR)の間に,融合蛋白質と抗体との結合体をコードする遺伝子を含むものであって,当該遺伝子が,抗体の軽鎖をコードする遺伝子の下流に内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列,その下流に抗体の重鎖のC末端側又はN末端側に融合蛋白質を直接又はリンカーを介して結合させた結合体をコードする塩基配列を含むもの;
(2)第一の逆方向末端反復(ITR)と第二の逆方向末端反復(ITR)の間に,融合蛋白質と抗体との結合体をコードする遺伝子を含むものであって,当該遺伝子が,抗体の重鎖のC末端側又はN末端側に融合蛋白質を直接又はリンカーを介して結合させた結合体をコードする遺伝子の下流に内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列,その下流に抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むもの;
(3)第一の逆方向末端反復(ITR)と第二の逆方向末端反復(ITR)の間に,融合蛋白質と抗体との結合体をコードする遺伝子を含むものであって,当該遺伝子が,抗体の重鎖をコードする遺伝子の下流に内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列,その下流に抗体の軽鎖のC末端側又はN末端側に融合蛋白質を直接又はリンカーを介して結合させた結合体をコードする塩基配列を含むもの;及び
(4)第一の逆方向末端反復(ITR)と第二の逆方向末端反復(ITR)の間に,融合蛋白質と抗体との結合体をコードする遺伝子を含むものであって,当該遺伝子が,抗体の軽鎖のC末端側又はN末端側に融合蛋白質を直接又はリンカーを介して結合させた結合体をコードする遺伝子の下流に内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列,その下流に抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むもの。
【0554】
上記(1)~(4)において,核酸分子は,第一の逆方向末端反復(ITR)と融合蛋白質と抗体との結合体をコードする遺伝子の間に,遺伝子発現制御部位を含む塩基配列をさらに含むものであってもよい。また,上記(1)~(4)において,内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列を,遺伝子発現制御部位を含む塩基配列に代えてもよい。なお,これに限らず,核酸分子が2つの遺伝子発現制御部位を有する場合,便宜上,第一の逆方向末端反復(ITR)側から順に,第一の遺伝子発現制御部位及び第一の遺伝子発現制御部位とする。また,上記(1)~(4)において,内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列を,2A自己切断ペプチドをコードする塩基配列に代えてもよい。豚テッショウウイルス由来2Aペプチドは,2A自己切断ペプチドの好適な一例である。
【0555】
本発明の一実施形態における核酸分子は,第一の長い末端反復(LTR)と第二の長い末端反復(LTR)の間に,融合蛋白質と抗体との結合体をコードする遺伝子を含むものである。ここで,融合蛋白質は例えば,HSAとhGALCとの融合蛋白質,HSAとhGBAとの融合蛋白質,HSAとhIL-10との融合蛋白質,HSAとhBDNFとの融合蛋白質,HSAとhNGFとの融合蛋白質,HSAとhNT-3との融合蛋白質,又はHSAとhNT-4との融合蛋白質であり,抗体は例えば,抗トランスフェリン受容体抗体である。以下の(1)~(4)は当該核酸分子の例示である:
(1)第一の長い末端反復(LTR)と第二の長い末端反復(LTR)の間に,融合蛋白質と抗体との結合体をコードする遺伝子を含むものであって,当該遺伝子が,抗体の軽鎖をコードする遺伝子の下流に内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列,その下流に抗体の重鎖のC末端側又はN末端側に融合蛋白質を直接又はリンカーを介して結合させた結合体をコードする塩基配列を含むもの;
(2)第一の長い末端反復(LTR)と第二の長い末端反復(LTR)の間に,融合蛋白質と抗体との結合体をコードする遺伝子を含むものであって,当該遺伝子が,抗体の重鎖のC末端側又はN末端側に融合蛋白質を直接又はリンカーを介して結合させた結合体をコードする遺伝子の下流に内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列,その下流に抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むもの;
(3)第一の長い末端反復(LTR)と第二の長い末端反復(LTR)の間に,融合蛋白質と抗体との結合体をコードする遺伝子を含むものであって,当該遺伝子が,抗体の重鎖をコードする遺伝子の下流に内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列,その下流に抗体の軽鎖のC末端側又はN末端側に融合蛋白質を直接又はリンカーを介して結合させた結合体をコードする塩基配列を含むもの;
(4)第一の長い末端反復(LTR)と第二の長い末端反復(LTR)の間に,融合蛋白質と抗体との結合体をコードする遺伝子を含むものであって,当該遺伝子が,抗体の軽鎖のC末端側又はN末端側に融合蛋白質を直接又はリンカーを介して結合させた結合体をコードする遺伝子の下流に内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列,その下流に抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むもの。
上記(1)~(4)において,核酸分子は,第一の長い末端反復(LTR)と融合蛋白質と抗体との結合体をコードする遺伝子の間に,遺伝子発現制御部位を含む塩基配列をさらに含むものであってもよい。また,上記(1)~(4)において,内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列を,遺伝子発現制御部位を含む塩基配列に代えてもよい。なお,これに限らず,核酸分子が2つの遺伝子発現制御部位を有する場合,便宜上,第一の逆方向末端反復(ITR)側から順に,第一の遺伝子発現制御部位及び第一の遺伝子発現制御部位とする。また,上記(1)~(4)において,内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列を,2A自己切断ペプチドをコードする塩基配列に代えてもよい。豚テッショウウイルス由来2Aペプチドは,2A自己切断ペプチドの好適な一例である。
【0556】
上記内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列を含む核酸分子にあっては,遺伝子発現制御部位から融合蛋白質を構成する一方のペプチド鎖の,内部リボソーム結合部位をコードする塩基配列から他方のペプチド鎖の発現が制御されることになる。両ペプチド鎖は,細胞内で対をなして融合蛋白質と抗体との結合体が形成される。
【0557】
本発明の一実施形態における核酸分子は,AAVベクター系において用いることができる。野生型のAAVが宿主細胞のヒト細胞に単独で感染すると,ウイルスゲノムは,ウイルスゲノムの両端に存在する逆方向末端反復(ITR)を介して,第19番染色体に部位特異的に組み込まれる。宿主細胞のゲノム中に取り込まれたウイルスゲノムの遺伝子はほとんど発現しないが,細胞がヘルパーウイルスに感染するとAAVは宿主ゲノムから切り出され,感染性ウイルスの複製が開始される。ヘルパーウイルスがアデノウイルスの場合,ヘルパー作用を担う遺伝子はE1A,E1B,E2A,VA1,及びE4である。ここで,宿主細胞が,アデノウイルスのE1A,E1Bでトランスフォームしたヒト胎児腎組織由来細胞であるHEK293細胞の場合にあっては,E1A及びE1B遺伝子は,宿主細胞において元々発現している。
【0558】
野生型AAVゲノムは2つの遺伝子rep及びcapを含む。rep遺伝子から産生されるrep蛋白質(rep78,rep68,rep52及びrep40)は,カプシド形成に必須であるとともに,ウイルスゲノムの染色体への組み込みに介在する。cap遺伝子は3つのカプシド蛋白質(VP1,VP2及びVP3)の産生を担う。
【0559】
野生型AAVのゲノムでは,両端にITRが存在し,ITRの間にrep遺伝子及びcap遺伝子が存在する。このゲノムがカプシドに内包されてAAVビリオンが形成される。組換えAAVビリオン(rAAVビリオン)は,rep遺伝子及びcap遺伝子を含む領域を,外来の蛋白質をコードする遺伝子で置換したものが,カプシドに内包されたものである。
【0560】
rAAVビリオンは,外来の遺伝子を細胞に送達するためのベクターとして治療目的に用いられる。
【0561】
外来の遺伝子を細胞,組織,又は生体内に導入するために用いられる組換えAAVビリオンの生産には,通常,(1)AAV等のウイルスに由来する第一の逆方向末端反復(ITR)を含む塩基配列と第二の逆方向末端反復(ITR)を含む塩基配列,及びこれら2つのITRの間に配置された所望の蛋白質をコードする遺伝子を含む構造を有するプラスミド(プラスミド1),(2)前記ITR配列に挟まれた領域(ITR配列を含む)の塩基配列を宿主細胞のゲノム中に組み込むために必要な機能を有するAAV Rep遺伝子と,AAVのカプシド蛋白質をコードする遺伝子とを含むプラスミド(プラスミド2),及び(3)アデノウイルスのE2A領域,E4領域,及びVA1 RNA領域を含むプラスミド(プラスミド3)の3種類のプラスミドが用いられる。但し,これに限らず,プラスミド1~3のうちの2つを連結させて一つのプラスミドとしたものと,残りの一つのプラスミドの2種類のプラスミドを用いることもできる。更に,プラスミド1~3を連結させて一つのプラスミドとしたものを用いることもできる。本発明の一実施形態における所望の蛋白質は,融合蛋白質と抗体との結合体である。ここで,融合蛋白質は例えば,HSAとhGALCとの融合蛋白質,HSAとhGBAとの融合蛋白質,HSAとhIL-10との融合蛋白質,HSAとhBDNFとの融合蛋白質,HSAとhNGFとの融合蛋白質,HSAとhNT-3との融合蛋白質,又はHSAとhNT-4との融合蛋白質であり,抗体は例えば,抗トランスフェリン受容体抗体である。
【0562】
一般に,組換えAAVビリオンの生産には,まず,これら3種類のプラスミドが,アデノウイルスのE1a遺伝子とE1b遺伝子がゲノム中に組み込まれたHEK293細胞等の宿主細胞に一般的なトランスフェクション手法により導入される。そうすると第一の逆方向末端反復(ITR)を含む塩基配列と第二の逆方向末端反復(ITR)を含む塩基配列,及びこれら2つのITRの間に配置された所望の蛋白質をコードする遺伝子を含む領域が宿主細胞で複製され,生じた一重鎖DNAがAAVのカプシド蛋白質にパッケージングされて,組換えAAVビリオンが形成される。この組換えAAVビリオンは,感染力を有するので,外来の遺伝子を細胞,組織,又は生体内に導入するために用いることができる。本発明の一実施形態における外来の遺伝子は,融合蛋白質と抗体との結合体をコードする遺伝子である。導入先の細胞等ではこの遺伝子から該結合体が発現するようになる。ここで,融合蛋白質は例えば,HSAとhGALCとの融合蛋白質,HSAとhGBAとの融合蛋白質,HSAとhIL-10との融合蛋白質,HSAとhBDNFとの融合蛋白質,HSAとhNGFとの融合蛋白質,HSAとhNT-3との融合蛋白質,又はHSAとhNT-4との融合蛋白質であり,抗体は例えば,抗トランスフェリン受容体抗体である。
【0563】
アデノ随伴ウイルス(AAV)のRep蛋白質は,AAVのrep遺伝子にコードされる。Rep蛋白質は,例えばAAVゲノムを,当該ゲノム中に存在するITRを介して,宿主細胞のゲノム中に組み込むために必要な機能を有する。Rep蛋白質は複数のサブタイプが存在するが,AAVゲノムの宿主細胞のゲノムへの組み込みには,Rep68とRep78の2種類が必要とされる。Rep68とRep78は,同一の遺伝子から選択的スプライシングにより転写される2種類のmRNAの翻訳産物である。AAVのRep蛋白質というときは,少なくともRep68とRep78の2種類の蛋白質を含むものである。
【0564】
本発明の一実施形態において,アデノ随伴ウイルスのRep蛋白質をコードする塩基配列(Rep領域の塩基配列)というときは,少なくともRep68とRep78をコードする塩基配列,又はこれに変異を加えた塩基配列のことをいう。Rep蛋白質は,好ましくは血清型2のAAVのものであることが好ましいが,これに限定されることはなく,血清型1,3,4,5,6,7,8,9,10又は11の何れのものであってもよい。野生型の血清型2のAAVのRep蛋白質をコードする塩基配列の好ましい一例として配列番号123で示される塩基配列を有するものが挙げられる。
【0565】
また,Rep68は,その機能を発揮する限り,血清型1,2,3,4,5,6,7,8,9,10又は11の何れかのAAVの野生型のRep68のアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の改変がなされた変異体であってもよい。これら変異を加えたRep68も,Rep68に含まれる。
【0566】
野生型のRep68のアミノ酸配列中のアミノ酸を他のアミノ酸で置換する場合,置換するアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。野生型のRep68のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたRep68も,Rep68である。アミノ酸を付加する場合,野生型のRep68のアミノ酸配列中若しくはN末端又はC末端に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個のアミノ酸を付加する。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたRep68も,Rep68に含まれる。変異を加えたRep68のアミノ酸配列は,野生型のRep68のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,より好ましくは85%以上の同一性を示し,更に好ましくは90%以上の同一性を示し,更に好ましくは,95%以上の同一性を示し,更に好ましくは98%以上の同一性を示す。
【0567】
また,Rep78は,その機能を発揮する限り,血清型1,2,3,4,5,6,7,8,9,10又は11の何れかのAAVの野生型のRep78のアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の改変がなされた変異体であってもよい。これら変異を加えたRep78も,Rep78に含まれる。
【0568】
野生型のRep78のアミノ酸配列中のアミノ酸を他のアミノ酸で置換する場合,置換するアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。野生型のRep78のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたRep78も,Rep78である。アミノ酸を付加する場合,野生型のRep78のアミノ酸配列中若しくはN末端又はC末端に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個のアミノ酸を付加する。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたRep78も,Rep78に含まれる。変異を加えたRep78のアミノ酸配列は,野生型のRep78のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,より好ましくは85%以上の同一性を示し,更に好ましくは90%以上の同一性を示し,更に好ましくは,95%以上の同一性を示し,更に好ましくは98%以上の同一性を示す。
【0569】
AAVのRep蛋白質の機能的等価物とは,Rep68にあっては,機能的にRep68に代えて用いることができるものをいい,Rep78にあっては,機能的にRep78に代えて用いることができるものをいう。Rep蛋白質の機能的等価物は,野生型のRep蛋白質の変異体であってもよい。
【0570】
配列番号123で示される塩基配列は,機能的なRep68及びRep78をコードするものである限り,置換,欠失,付加等の改変を加えることができる。配列番号123で示される塩基配列中の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。配列番号123で示される塩基配列中の塩基を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたものも,Rep蛋白質をコードする塩基配列として使用できる。塩基を付加する場合,配列番号123で示される塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個の塩基を付加する。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたものも,Rep蛋白質をコードする核酸分子として使用できる。変異を加えた塩基配列は,配列番号123で示される塩基配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,より好ましくは85%以上の同一性を示し,更に好ましくは90%以上の同一性を示し,更に好ましくは,95%以上の同一性を示し,更に好ましくは98%以上の同一性を示す。但し,これら変異を加える場合において,Rep蛋白質のRep68とRep78とをコードする遺伝子の開始コドンをACGとすることが好ましい。
【0571】
本発明の一実施形態においてアデノ随伴ウイルスのCap蛋白質をコードする塩基配列(Cap領域の塩基配列)というときは,少なくともAAVのカプシドを構成する蛋白質の一種であるVP1をコードする塩基配列,又はこれに変異を加えた塩基配列を含む塩基配列のことをいう。VP1は,好ましくは血清型8のAAVのものであることが好ましいが,これに限定されることはなく,血清型1,2,3,4,5,6,7,8,9,10又は11の何れのものであってもよい。血清型8のCap領域の塩基配列の好適例として,配列番号124で示される塩基配列を含むものが挙げられる。
【0572】
また,VP1は,その機能を発揮する限り,血清型1,2,3,4,5,6,7,8,9,10又は11の何れかのAAVの野生型のVP1のアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の改変がなされたものであってもよい。本発明の一実施形態において,これら変異を加えたVP1も,VP1に含まれる。
【0573】
配列番号124で示される塩基配列中の塩基を他の塩基で置換する場合,置換する塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。配列番号124で示される塩基配列中の塩基を欠失させる場合,欠失させる塩基の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個である。また,これら塩基の置換と欠失を組み合わせた変異を加えたものも,Cap蛋白質をコードする塩基配列として使用できる。塩基を付加する場合,配列番号124で示される塩基配列中若しくは5’末端又は3’末端に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~3個の塩基を付加する。これら塩基の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えたものも,Cap蛋白質をコードする核酸分子として使用できる。変異を加えた塩基配列は,配列番号124で示される塩基配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,より好ましくは85%以上の同一性を示し,更に好ましくは90%以上の同一性を示し,更に好ましくは,95%以上の同一性を示し,更により好ましくは98%以上の同一性を示す。
【0574】
AAVベクターにより,第一のITRと第二のITRとの間に外来の遺伝子を含む核酸分子がパッケージングされた組換えAAVビリオンを得ることができる。組換えAAVビリオンは,感染力を有するので,外来の遺伝子を細胞,組織,又は生体内に導入するために用いることができる。本発明の一実施形態における外来の遺伝子は,融合蛋白質と抗体との結合体をコードする遺伝子である。ここで,融合蛋白質は例えば,HSAとhGALCとの融合蛋白質,HSAとhGBAとの融合蛋白質,HSAとhIL-10との融合蛋白質,HSAとhBDNFとの融合蛋白質,HSAとhNGFとの融合蛋白質,HSAとhNT-3との融合蛋白質,又はHSAとhNT-4との融合蛋白質であり,抗体は例えば,抗トランスフェリン受容体抗体である。当該遺伝子が導入された細胞等ではこの遺伝子から融合蛋白質が発現するようになる。第一のITRと第二のITRとの間に外来の遺伝子を含む核酸分子がパッケージングされた組換えビリオンであって,細胞等に遺伝子を導入するために用いることができるものとして,AAVベクター系以外に,アデノウイルスベクター系がある。アデノウイルスベクター系においては,第一のITRと第二のITRとの間に外来の遺伝子を含む核酸分子がパッケージングされた組換えアデノウイルスビリオンが得られる。組換えアデノウイルスビリオンは,感染力を有するので,外来の遺伝子を細胞,組織,又は生体内に導入するために用いることができる。
【0575】
レンチウイルスはレトロウイルス科の亜科の一つであるオルトレトロウイルス亜科のうちレンチウイルス属に属するウイルスであり,一本鎖の(+)鎖RNAゲノム(ssRNA)を有する。レンチウイルスのゲノムは必須遺伝子としてgag(カプシド蛋白質を含む構造蛋白質をコードする領域),pol(逆転写酵素を含む酵素群をコードする領域),env(宿主細胞への結合に必要なエンベロープ蛋白質をコードする領域)を含み,これらが2つのLTR(5’LTR及び3’LTR)に挟まれている。またこれらに加え,レンチウイルスのゲノムは,補助遺伝子として,Rev(ウイルスRNA内に存在するRRE(rev responsive element)に結合してウイルスRNAを核から細胞質に輸送する機能を有する蛋白質をコードする領域),tat(5’LTR内にあるTARに結合してLTRのプロモーター活性を上昇させる機能を有する蛋白質をコードする領域),その他vif,vpr,vpu,nef等を含む。
【0576】
レンチウイルスはエンベロープウイルスであり,エンベロープが細胞膜と融合することで細胞に感染する。また,レンチウイルスはRNAウイルスであり,ビリオン中には逆転写酵素が存在する。レンチウイルスの感染後,逆転写酵素により,(+)鎖RNAゲノムから一本鎖のプラス鎖DNAが複製され,更に二重鎖DNAが合成される。この二重鎖DNAからビリオンの構成成分である蛋白質が発現し,これに(+)鎖RNAゲノムがパッケージングされることによりビリオンが増殖する。本発明の一実施形態において,レンチウイルスベクターは,レンチウイルスの一種であるHIV-1のゲノムに基づき開発されたものがあるが,これに限られるものではない。
【0577】
第一世代レンチウイルスベクターは,パッケージングプラスミド,Envプラスミド,及び導入プラスミドの3種のプラスミドからなる。パッケージングプラスミドはCMVプロモーター等の制御下にgag及びpolの各遺伝子を有する。EnvプラスミドはCMVプロモーター制御下にenv遺伝子を有する。導入プラスミドは,5’LTR,RRE,CMVプロモーター制御下に所望の蛋白質をコードする遺伝子,及び3’LTRを有する。これらを宿主細胞に一般的なトランスフェクション手法により導入することで,第一のLTRと第二のLTRとの間に外来の遺伝子を含む核酸分子がカプシド蛋白質中にパッケージングされた組換えビリオンが得られる。第一世代レンチウイルスベクターのパッケージングプラスミドには,ウイルス由来のrev,tat,vif,vpr,vpu,及びnefの各補助遺伝子も含まれる。ここにおいて本発明の一実施形態における所望の蛋白質は,融合蛋白質と抗体との結合体である。ここで,融合蛋白質は例えば,HSAとhGALCとの融合蛋白質,HSAとhGBAとの融合蛋白質,HSAとhIL-10との融合蛋白質,HSAとhBDNFとの融合蛋白質,HSAとhNGFとの融合蛋白質,HSAとhNT-3との融合蛋白質,又はHSAとhNT-4との融合蛋白質であり,抗体は例えば,抗トランスフェリン受容体抗体である。なお,所望の蛋白質をコードする遺伝子を制御するプロモーターをCMVプロモーター以外のプロモーター,例えばSV40初期プロモーター,ヒト伸長因子-1α(EF-1α)プロモーター,ヒトユビキチンCプロモーター,レトロウイルスのラウス肉腫ウイルスLTRプロモーター,ジヒドロ葉酸還元酵素プロモーター,β-アクチンプロモーター,ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター,マウスアルブミンプロモーター,ヒトアルブミンプロモーター,及びヒトα-1アンチトリプシンプロモーターを含むものが好適である。例えば,マウスαフェトプロテインエンハンサーの下流にマウスアルブミンプロモーターを含む配列番号121で示される塩基配列を有する合成プロモーター(マウスαフェトプロテインエンハンサー/マウスアルブミンプロモーター)等とすることもできる。
【0578】
第二世代レンチウイルスベクターも,第一世代と同じくパッケージングプラスミド,Envプラスミド(エンベローププラスミド),及び導入プラスミドの3種のプラスミドからなる。但し,パッケージングプラスミドから,必須遺伝子でないvif,vpr,vpu,及びnefの各補助遺伝子は削除されている。
【0579】
第三世代レンチウイルスベクターは,パッケージングプラスミド,Envプラスミド(エンベローププラスミド),Revプラスミド,及び導入プラスミドの4種のプラスミドからなる。第三世代では,第二世代でパッケージングプラスミドにあったrevを独立させてRevプラスミドとしている。また,パッケージングプラスミドからtatが削除されている。更に,導入プラスミドの5’LTR内のTARがCMVプロモーターに置き換えられている。
【0580】
組換えビリオンは,感染力を有するので,外来の遺伝子を細胞,組織,又は生体内に導入するために用いることができる。本発明の一実施形態における外来の遺伝子は,融合蛋白質と抗体との結合体をコードする遺伝子である。当該遺伝子が導入された細胞等ではこの遺伝子から結合体が発現するようになる。ここで,融合蛋白質は例えば,HSAとhGALCとの融合蛋白質,HSAとhGBAとの融合蛋白質,HSAとhIL-10との融合蛋白質,HSAとhBDNFとの融合蛋白質,HSAとhNGFとの融合蛋白質,HSAとhNT-3との融合蛋白質,又はHSAとhNT-4との融合蛋白質であり,抗体は例えば,抗トランスフェリン受容体抗体である。
【0581】
レトロウイルスは,一本鎖の(+)鎖RNAゲノム(ssRNA)を有する。ウイルスゲノムには,gag(カプシド蛋白質を含む構造蛋白質をコード),pol(逆転写酵素を含む酵素群をコード),env(宿主細胞への結合に必要なエンベロープ蛋白質をコード)及びパッケージングシグナル(Ψ)の各遺伝子がコードされており,これらが2つの長い末端反復(LTR,5’LTR及び3’LTR)に挟まれている。レトロウイルスは宿主細胞に感染すると,(+)鎖RNA及び逆転写酵素が細胞内に移行し,2本鎖DNAへと逆転写される。
【0582】
レトロウイルスベクターは主にマウス白血病ウイルスに基づき開発され,病原性を失わせ安全性を高めることを目的として,その感染力を保ちつつ自己複製能を欠損させるためにウイルスゲノムが分割されている。第1世代レトロウイルスベクターは,パッケージングプラスミド(パッケージングシグナルを除いたウイルスゲノム)と導入プラスミド(パッケージングシグナル,gagの一部,外来遺伝子の両端を5’LTR及び3’LTRで挟んだもの)からなる。したがって,パッケージングプラスミドと導入プラスミドに共通して存在するgag配列部分で相同組み換えが起こると自己複製可能なレトロウイルス,すなわちRC(Replication competent)ウイルスが出現する。第2世代レトロウイルスベクターでは,第1世代のパッケージングプラスミドの3'側のLTRをポリA付加シグナルに置換している。これにより,RCウイルスが発生するためにはgag配列及びポリA付加シグナル上流の2か所で同時に相同組み換えが起こる必要があり,その発生確率は非常に低く,安全性が高められている。第3世代は3つのプラスミドから構成されており,第2世代のパッケージングプラスミドがさらにgag/polをコードするプラスミドとenvをコードするプラスミドに分割されている。これにより,RCウイルスが発生するためには3か所で同時に相同組み換えが生じる必要があり,その発生確率は極めて低く,さらに安全性が高められている。
【0583】
一般に,組換えレトロウイルスビリオンの生産には,まず,これらパッケージングプラスミドと導入プラスミドが,宿主細胞に一般的なトランスフェクション手法により導入される。そうすると5’LTR及び3’LTR,及びこれら2つのLTRの間に配置された所望の蛋白質をコードする遺伝子を含む領域が宿主細胞で複製され,生じた一本鎖の(+)鎖RNAがレトロウイルスのカプシド蛋白質にパッケージングされて,組換えレトロウイルスビリオンが形成される。この組換えレトロウイルスビリオンは,感染力を有するので,外来の遺伝子を細胞,組織,又は生体内に導入するために用いることができる。本発明の一実施形態における外来の遺伝子は,融合蛋白質と抗体との結合体をコードする遺伝子である。当該遺伝子が導入された細胞等ではこの遺伝子から結合体が発現するようになる。ここで,融合蛋白質は例えば,HSAとhGALCとの融合蛋白質,HSAとhGBAとの融合蛋白質,HSAとhIL-10との融合蛋白質,HSAとhBDNFとの融合蛋白質,HSAとhNGFとの融合蛋白質,HSAとhNT-3との融合蛋白質,又はHSAとhNT-4との融合蛋白質であり,抗体は例えば,抗トランスフェリン受容体抗体である。
【0584】
本発明の一実施形態において,核酸分子は,これをリポソーム,脂質ナノ粒子(Lipid Nanoparticle;LNP)等に内包させた形態とすることもできる。リポソームとは,脂質二重層を持つ球状の小胞をいい,主にリン脂質,特にホスファチジルコリンから構成される。但しこれに限らず,脂質二重層を形成する限り,リポソームは卵黄ホスファチジルエタノールアミン等の他の脂質を加えられたものであっても良い。細胞膜は主にリン脂質二重膜から構成されているため,リポソームは生体適合性に優れるという利点がある。脂質ナノ粒子は,直径10 nm~1000 nm,典型的には約200 nm未満の,脂質を主成分とする粒子をいい,疎水性(親油性)分子を内包させることができ,トリグリセリド,ジグリセリド,モノグリセリド,脂肪酸,ステロイド等の生体適合性のある脂質を主な構成成分とする。リポソーム又は脂質ナノ粒子に内包させた遺伝子を生体内に投与すると,細胞の細胞膜と直接融合,又はエンドサイトーシス等により細胞に取り込まれ,その後核に移行して遺伝子が細胞に導入されると考えられている。リポソーム又は脂質ナノ粒子による遺伝子導入方法は,ウイルスベクターを用いた遺伝子導入と比較して,導入する遺伝子の大きさに制限が無い点や,安全性が高い点において優れている。本発明の核酸分子を内包させたリポソーム,脂質ナノ粒子等は,融合蛋白質と抗体との結合体の遺伝子を細胞,組織,又は生体内に導入するために用いることができる。当該遺伝子が導入された細胞等ではこの遺伝子から融合蛋白質が発現するようになる。本明細において「リポソーム,脂質ナノ粒子等」というときは,上述のリポソーム及び脂質ナノ粒子に加え,ポリマーナノ粒子,ミセル,エマルジョン,ナノエマルジョン,マイクロスフェア,ナノスフェア,マイクロカプセル,ナノカプセル,デンドリマー,ナノゲル,金属ナノ粒子,その他薬物送達システム(DDS)として用いられることのできるあらゆるナノ・マイクロ粒子を含むものとする。
【0585】
本発明の一実施形態において,プラスミドの形態,組換ウイルスビリオンに内包された形態,又はリポソーム,脂質ナノ粒子等に内包された形態で細胞,組織,又は生体内に導入された核酸分子の挙動について,以下に(1)~(6)に例示する。但し,核酸分子の挙動はこれらに限られるものではない。
(1)一実施形態において,核酸分子は一本鎖の(+)鎖RNAであり,細胞内に導入されると,核酸分子に含まれる融合蛋白質と抗体との結合体をコードする遺伝子が翻訳されて該結合体が発現する。
(2)一実施形態において,核酸分子は一本鎖の(+)鎖RNAであり,細胞内に導入されると,該核酸分子が逆転写されて一本鎖の(+)鎖DNAとなり,次いでこのDNAが転写,翻訳されて該結合体が発現する。
(3)一実施形態において,核酸分子は一本鎖の(+)鎖RNA又は(-)鎖RNAであり,細胞内に導入されると,該核酸分子が逆転写されて二重鎖DNAとなり,次いでこのDNAが転写,翻訳されて該結合体が発現する。
(4)一実施形態において,核酸分子は一本鎖の(+)鎖又は(-)RNAであり,細胞内に導入されると,該核酸分子が逆転写されて二重鎖DNAとなり,次いでこのDNAが宿主細胞のゲノムとランダム組換え又は相同組換えを起こしてゲノム内に組込まれ,組み込まれたDNAが転写,翻訳されて該結合体が発現する。
(5)一実施形態において,核酸分子は一本鎖の(+)鎖DNAであり,細胞内に導入されると,該核酸分子が転写,翻訳されて該結合体が発現する。
(6)一実施形態において,核酸分子は二重鎖DNAであり,細胞内に導入されると,該核酸分子が転写,翻訳されて該結合体が発現する。
【0586】
プラスミドの形態,組換ウイルスビリオンに内包された形態,又はリポソーム,脂質ナノ粒子等に内包された形態の核酸分子は,細胞,組織,又は生体内に導入することができる。
【0587】
核酸分子の導入先が生体内である場合,核酸分子は,プラスミドの形態,組換ウイルスビリオンに内包された形態,又はリポソーム,脂質ナノ粒子等に内包された形態で,皮下注射,筋肉内注射,静脈内注射等の非経口的手段により投与される。
【0588】
核酸分子の導入先が細胞である場合,細胞の種類に特に限定はないが,例えば,間葉系幹細胞,歯髄由来幹細胞,造血幹細胞,胚性幹細胞,内皮幹細胞,乳腺幹細胞,腸幹細胞,肝幹細胞,膵幹細胞,神経幹細胞,及びiPS細胞である。
【0589】
核酸分子が導入された細胞は,融合蛋白質と抗体との結合体を発現するようになるので,これを治療目的で患者に移植することができる。
【実施例0590】
以下,実施例を参照して本発明を更に詳細に説明するが,本発明が実施例に限定されることは意図しない。
【0591】
以下,実施例1~13はHSAとhGALCとの融合蛋白質に関する実験結果である。
【0592】
〔実施例1〕野生型hGALC発現プラスミド,HSA-hGALC発現プラスミド及びhGALC-HSA発現プラスミドの作成
配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する野生型hGALCをコードする遺伝子を含む,配列番号2で示される塩基配列を有するDNA断片を合成した。これをMluI及びNotI(タカラバイオ社)で制限酵素処理し,アガロースゲル電気泳動にて分離した。EtBr染色を行った後,UV照射下で目的のDNA断片を含むバンドを切り出し,QIAEX II Gel Extraction Kit(QIAGEN社)を用いてゲルからDNAを抽出した。同様に,pCI-neoベクター(プロメガ社)をMluI及びNotIで制限酵素処理し,ゲル抽出,精製を行った。制限酵素で処理した各ベクターに,制限酵素で処理した各DNA断片をそれぞれ混合し,Ligation high Ver.2(東洋紡社)を用いて16℃で30~60分間ライゲーション反応を行い,DNA断片をpCIベクターに組込んだ。野生型HSA(配列番号3)のC末端と野生型hGALC(配列番号1)のN末端とをリンカー配列Gly-Serを介して結合させた融合蛋白質である,配列番号5で示されるHSA-hGALCをコードする遺伝子を含む,配列番号6で示される塩基配列を含むDNA断片,及び,野生型hGALC(配列番号1)のC末端と野生型HSA(配列番号3)のN末端とをリンカー配列Gly-Serを介して結合させた融合蛋白質である,配列番号7で示されるhGALC-HSAをコードする遺伝子を含む,配列番号8で示される塩基配列を含むDNA断片についても,それぞれ同様に,制限酵素処理,抽出,精製した後にライゲーション反応を行い,各DNA断片をpCIベクターに組込んだ。
【0593】
次いで,各ライゲーション反応液を用いて大腸菌(E. coli DH5α Competent Cells,タカラバイオ社)をそれぞれ形質転換した。得られた形質転換体が目的のプラスミドDNAを保持しているか確認するため,シングルコロニーをLB液体培地(LB Broth,Sigma-Aldrich社)で一晩培養し,FastGene Plasmid Mini Kit(日本ジェネティクス社)を用いて菌体からプラスミドDNAを精製した。精製したプラスミドDNAをMluI及びNotIで制限酵素処理し,アガロースゲル電気泳動にて分離することで,目的のインサートDNAが挿入されていることを確認した。野生型hGALC,HSA-hGALC,及びhGALC-HSAが組込まれていることを確認した各プラスミドを常法によりそれぞれ精製した。
【0594】
〔実施例2〕野生型hGALC,HSA-hGALC,及びhGALC-HSAの一過性発現
野生型hGALC,HSA-hGALC,及びhGALC-HSAの一過性発現には,実施例1で得た精製したpCI-neoベクターに野生型hGALC,HSA-hGALC,及びhGALC-HSAをそれぞれコードする遺伝子を組み込んだプラスミドを用いた。
【0595】
ExpiCHOTM Expression System(Thermo Fisher Scientific社)のHigh titerプロトコールに従い,野生型hGALC,HSA-hGALC,及びhGALC-HSAをそれぞれコードする遺伝子を組み込んだプラスミドを用いて,ExpiCHO細胞を形質転換させた。形質転換後,細胞を8日間培養し,野生型hGALC,HSA-hGALC,及びhGALC-HSAをそれぞれ培養上清中に発現させた。培養開始から6,7,及び8日後の培養液をそれぞれ遠心分離して培養上清を回収した。
【0596】
〔実施例3〕一過性発現による野生型hGALC,HSA-hGALC,及びhGALC-HSAの発現量の確認(SDS page電気泳動)
実施例2で得られた培養上清それぞれ10 μLを,8 μLの2×Sample Buffer(バイオラッド社)及び2 μLの2-Mercaptoethanolと混合し,100℃で3分間加熱することにより還元条件下で熱変性させた。熱変性後の溶液を,0.1% SDSを含む50 mM Tris緩衝液/380 mM グリシン緩衝液(pH 8.3)内に設置した5-20%ポリアクリルアミドゲルのウェルに5 μLずつ付し,25 mA定電流にて電気泳動した。電気泳動後のゲルをOriole Fluorescent Gel Stain(バイオラッド社)に浸し,室温で90分間振とうした。ゲルを純水で洗浄した後,ルミノイメージアナライザー(Amersham Imager 600RGB,サイティバ社)を用いて各蛋白質に相当するバンドが可視化された電気泳動画像を得た。
【0597】
〔実施例4〕一過性発現による野生型hGALC,HSA-hGALC及びhGALC-HSAの発現量の確認(ウエスタンブロッティング)
実施例3に記載した方法と同様に電気泳動を行い,ニトロセルロース膜と電気泳動後のゲルを,20%メタノールを含む25 mM Tris緩衝液/192 mM グリシン緩衝液に浸したブロッティングペーパーで挟み,ブロッティング装置で1.0 A,25 Vで10分間通電することで,蛋白質をニトロセルロース膜に転写した。転写後のニトロセルロース膜を5%スキムミルクを含むPBSTに浸して1時間振とうした後,0.4 μg/mLに希釈したAnti-GALC 抗体(Rabbit polyclonal to GALC,abcam社)に浸して1時間振とうした。PBSTで膜を洗浄後,0.4 μg/mLに希釈したAnti-mouse IgG (H+L), HRP Conjugate(プロメガ社)溶液に浸して30分間振とうし,再度PBSTで洗浄した。膜の転写面にHRP検出試薬(バイオラッド社)を滴下して5分間反応させ,ルミノイメージアナライザー(Amersham Imager 600RGB,サイティバ社)を用いて各蛋白質に相当するバンドが可視化されたウエスタンブロッティング画像を得た。
【0598】
〔実施例5〕一過性発現による野生型hGALC,HSA-hGALC,及びhGALC-HSAの発現量の確認(酵素活性測定)
試料溶液として,実施例2で得られた培養上清を0.5% Triton X-100を含むクエン酸緩衝液(pH4.5)で100倍希釈したものを調製した。試料溶液は,必要に応じてさらに適宜希釈して測定に供した。標準溶液として,4-MU(4-Methylumbelliferone,シグマアルドリッチ社)を0.1% BSAを含む100 mM クエン酸緩衝液(pH4.2)で75~4.39 μMに段階希釈したものを調製した。基質溶液として,hGALCの人工基質である4-Methylumbelliferyl-β-D-galactopyranoside(シグマアルドリッチ社)を0.5% Triton X-100を含むクエン酸緩衝液(pH4.5)で1 mmol/Lに希釈したものを調製した。マイクロプレートに試料溶液又は標準溶液を25 μL/well添加し,更に各ウェルに25 μLの基質溶液を添加してプレートシェイカーで撹拌し混合した。プレートを37℃で1時間静置した後,各ウェルに150 μLの200 mmol/L グリシン-NaOH緩衝液(pH10.6)を添加して反応を停止させた。次いで,蛍光プレートリーダー(Gemini XPS,モレキュラーデバイス社)を用いて各ウェルの蛍光強度を測定した(励起波長365 nm,蛍光波長460 nm)。この蛍光強度は,各ウェル中の溶液に含まれる4-MU(4-Methylumbelliferone)の濃度に比例する。標準溶液の測定結果に基づき検量線を作成し,これに各試料溶液の測定値を内挿して,酵素活性量(μM/時間)を求めた。なお,この酵素活性量の単位は,1時間当たりに分解される基質の量を示すものである。
【0599】
〔実施例6〕一過性発現による野生型hGALC,HSA-hGALC,及びhGALC-HSAの発現量の確認(結果)
図15(a)に,実施例5で測定した一過性発現による野生型hGALC,HSA-hGALC,及びhGALC-HSAの酵素活性測定の結果を示す。また,酵素活性測定の結果に基づく野生型hGALC,HSA-hGALC,及びhGALC-HSAの相対量(野生型hGALCの各測定日における発現量を1.0としたときの相対量)を表1に示す。
【0600】
【表1】
【0601】
これらの結果から,培養開始後6日後の発現量(酵素活性量換算)をみると,HSA-hGALC及びhGALC-HSAの発現量は,野生型hGALCのそれと比較して,それぞれ3.2倍及び1.5倍の値を示し,野生型のままでは組換え体として発現させたときに発現量が少なく大量に製造することが困難なhGALCを,HSA-hGALC又はhGALC-HSAの形態で発現させることにより,より多くのhGALCを組換え蛋白質として効率よく発現させることができることがわかった。培養開始後7日後及び8日後においても同様のことがいえる。
【0602】
実施例3で得た電気泳動画像とウエスタンブロッティング画像を図15(b)及び(c)にそれぞれ示す。ウエスタンブロッティング画像から,電気泳動画像上の野生型hGALC,HSA-hGALC,及びhGALC-HSAに相当するバンドを特定した。ウエスタンブロッティング画像のバンドの濃さから概算される野生型hGALC,HSA-hGALCのhGALCに相当する部分,及びhGALC-HSAのhGALCに相当する部分の発現量(分子数換算)は,図15(a)及び表1で示される発現量(酵素活性量換算)とほぼ相関するものであった。つまり,表1に発現量(酵素活性量換算)として示される発現量の相対値は,このまま,野生型hGALC,HSA-hGALCのhGALCに相当する部分,及びhGALC-HSAのhGALCに相当する部分の発現量(分子数換算)ということができる。すなわち,これらの結果は,野生型hGALCをHSAとの融合蛋白質とすることにより,野生型のままでは組換え体として大量に製造することが困難なhGALCを,融合蛋白質の形態とすることにより,比活性を低下させることなく,より多くの分子数発現させることができることを示すものである。なお,ここで融合蛋白質におけるhGALCの比活性は,当該融合蛋白質の単位質量当たりのhGALCの酵素活性(μM/時間/mg蛋白質)に(当該融合蛋白質の分子量/当該融合蛋白質中のhGALCに相当する部分の分子量)を乗じて算出される。
【0603】
〔実施例7〕野生型hGALC,HSA-hGALC,及びhGALC-HSAの一過性発現における細胞の生存率等
実施例2で実施した野生型hGALC,HSA-hGALC,及びhGALC-HSAの一過性発現において,形質転換後のExpiCHO細胞の培養開始から6,7,及び8日後における培養液中の生細胞密度及び細胞生存率を,EVE Automated Cell Counter(Nano EnTek社)を用いて測定した。野生型hGALC,HSA-hGALC,及びhGALC-HSAを発現するそれぞれの細胞について,培養開始から6,7,及び8日後における培養液中の生細胞密度及び細胞生存率の結果を表2に示す。
【0604】
【表2】
【0605】
生細胞密度については,野生型hGALC,HSA-hGALC,及びhGALC-HSAそれぞれを発現する細胞の間で大きな差はみられなかった。しかし,細胞の生存率については,HSA-hGALCを発現する細胞では培養開始6日後から8日後にかけて80%以上の高い生存率を維持し,hGALC-HSAを発現する細胞では培養開始6日後から8日後にかけて徐々に低下しながら70%以上の細胞生存率を維持した一方で,野生型hGALCを発現する細胞では培養開始6日後から8日後にかけて細胞の生存率が大きく下落し,培養開始8日後では60%まで低下した。各測定日における野生型hGALC発現細胞の生存率を1.0としたときの,生存率の相対比は,培養開始6日後ではHSA-hGALC及びhGALC-HSA発現細胞でそれぞれ1.1及び1.1,培養開始7日後ではHSA-hGALC及びhGALC-HSA発現細胞でそれぞれ1.3及び1.2,培養開始8日後ではHSA-hGALC及びhGALC-HSA発現細胞でそれぞれ1.5及び1.2であった。
【0606】
これらの結果は,野生型hGALCは,これを組換え蛋白質として発現させたときに,宿主細胞にストレスを与えてその生存率を低下させること,及び,野生型hGALCにHSAを結合させた融合蛋白質として発現させることにより,野生型hGALCが宿主細胞に与えるストレスを低減させて,生存率の低下を抑制できることを示すものと考えられる。つまり,実施例6で示された,野生型hGALCと比較したときの,HSA-hGALC又はhGALC-HSAの組換え蛋白質として発現させたときの発現量の増加の一要因として,野生型hGALCを発現させたときに宿主細胞に与えられるストレスが低減されて細胞の生存率の低下が抑制されたことが考えられる。
【0607】
〔実施例8〕まとめ
以上の結果は,hGALCを組換え蛋白質として製造する場合に,hGALCを,HSA-hGALC又はhGALC-HSAの融合蛋白質の形態で製造することにより,hGALCの比活性を低下させることなく,約1.5~3.6倍の分子数のhGALCを得ることができることを示す。つまり,hGALCをHSA-hGALC又はhGALC-HSAの融合蛋白質の形態で発現させる組換えhGALCの製造方法は,大量の組換えhGALCを製造する方法として極めて有効な手段といえる。また,死細胞からは,その内容物が流出し,それらが夾雑物となるので,培養中に死細胞が増加することは,発現した融合蛋白質の精製を困難にする可能性がある。従って,hGALCをHSA-hGALC又はhGALC-HSAの融合蛋白質の形態で発現させることにより,培養中の細胞死を抑制できるので,発現した融合蛋白質の精製を容易にすることができる。これにより精製時における精製効率を高めることもできる。
【0608】
〔実施例9〕一過性発現による野生型hGALC,HSA-hGALC,及びhGALC-HSAのSE-HPLC分析
一過性発現により得られた野生型hGALC,HSA-hGALC,及びhGALC-HSAの物性を評価するため,各蛋白質の培養上清を精製工程に供し,その後SE-HPLC分析を行った。
【0609】
〔精製工程〕
実施例2で得られた,一過性発現による野生型hGALC,HSA-hGALC,及びhGALC-HSAをそれぞれ含む8日目の培養上清に,等倍容の50 mM NaClを含有する25 mM MES緩衝液(pH 6.5)を添加した。この溶液を,50 mM NaClを含有する25 mM MES緩衝液(pH 6.5)で平衡化した,強陰イオン交換カラムであるHitrap Qカラム(cytiva社)に,一定流速で負荷させた。次いで,カラム体積の5倍容の同緩衝液を同流速で供給してカラムを洗浄した。次いで,500 mM NaClを含有する25 mM MES緩衝液(pH 6.5)を用いて,塩濃度勾配で強陰イオン交換カラムに吸着した野生型hGALC,HSA-hGALC及びhGALC-HSAを溶出させた。
【0610】
〔SE-HPLC工程〕
島津HPLCシステムLC-20A(島津製作所社)に,サイズ排除カラムクロマトグラフィーカラムであるTSKgel G3000SWXL 5 μmカラム(7.8 mm径×30 cm長,TOSOH社)をセットした。また,カラムの下流に吸光光度計を設置し,カラムからの流出液の吸光度(測定波長215 nm)を連続して測定できるようにした。10%のエタノールを含む0.2 M リン酸ナトリウム緩衝水溶液でカラムを平衡化させた後,上記精製工程で得られた野生型hGALC,HSA-hGALC,hGALC-HSAを含有する各溶出液をそれぞれカラムに負荷し,更に10%のエタノールを含む0.2 Mリン酸ナトリウム緩衝水溶液を0.5 mL/分の流速で流した。この間,カラムからの流出液の吸光度(測定波長215 nm)を測定することにより,溶出プロフィールを得た。
【0611】
〔物性評価〕
溶出プロフィールを図16に示す。野生型hGALCでは,メインピークが2つあり,それぞれのピークは溶出プロフィール上の左側から順にhGALCの四量体,及びhGALCの二量体に対応すると考えられる。一方,HSA-hGALC及びhGALC-HSAでは,ともにメインピークが1つであり,それぞれHSA-hGALC又はhGALC-HSAの単量体のピークであると考えられる。このことから,細胞に野生型hGALCを発現させた場合と比較して,HSAとhGALCとの融合蛋白質を発現させた場合には,hGALC活性を有する分子が単量体として安定的に得られていることがわかる。なお,HSA-hGALC及びhGALC-HSAのそれぞれにおいて,全発現量に占める単量体の質量比率は,90%以上である。組換え蛋白質として発現させたとき,HSA-hGALC及びhGALC-HSAは単量体として均質なものを取得することができるので,製造管理の観点からも,hGALCをHSAとの融合蛋白質として製造するhGALCの製造方法は優れたものということができる。
【0612】
〔実施例10〕抗hTfR抗体と,HSAとhGALCとの融合蛋白質との結合体を発現するプラスミドの作製
配列番号25で示されるアミノ酸配列を有する重鎖と,配列番号23で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖とからなる抗hTfR抗体(Fab)と,HSAとhGALCとの融合蛋白質との結合体として,以下に示す4種類の蛋白質を発現するプラスミドをそれぞれ作製した。
(1)抗hTfR抗体(Fab)の重鎖のC末端にリンカーを介してHSA-hGALCのN末端を結合させた融合蛋白質と,抗hTfR抗体(Fab)の軽鎖とからなる結合体(Fab-HSA-hGALCとする);
(2)抗hTfR抗体(Fab)の重鎖のN末端にリンカーを介してHSA-hGALCのC末端を結合させた融合蛋白質と,抗hTfR抗体(Fab)の軽鎖とからなる結合体(HSA-hGALC-Fabとする);
(3)抗hTfR抗体(Fab)の重鎖のC末端にリンカーを介してhGALC-HSAのN末端を結合させた融合蛋白質と,抗hTfR抗体(Fab)の軽鎖とからなる結合体(Fab-hGALC-HSAとする);及び
(4)抗hTfR抗体(Fab)の重鎖のN末端にリンカーを介してhGALC-HSAのC末端を結合させた融合蛋白質と,抗hTfR抗体(Fab)の軽鎖とからなる結合体(hGALC-HSA-Fabとする)。
【0613】
〔Dual(+)pCI-neoベクターの作製〕
5’側より,NheIサイト,AscIサイト,NruIサイト,AfeIサイト,及びNotI無効化配列を挿入したNotIサイトを含む配列番号26で示される塩基配列を有するプライマー(pCI Insert F3プライマー)を合成した。また,これと相補的な配列を含む配列番号27で示される塩基配列を有するプライマー(pCI Insert R3プライマー)を合成した。これら2つのプライマーをアニーリングさせ,両端にNheI及びNotI消化したDNAと,相補的な突出末端を有するDNA断片を得た。
【0614】
pCIベクター(プロメガ社)をNheIとNotI(タカラバイオ社)で消化し,これに上記DNA断片をライゲーション反応により挿入した。得られたプラスミドをpCI MCS-modifiedベクターとした(図17)。pCI MCS-modifiedベクターをBamHIとBglII(タカラバイオ社)で消化し,CMV immediate-earlyエンハンサー/プロモーター領域,マルチクローニングサイト,polyA配列を含むDNA断片を切り出した。pCI-neoベクター(プロメガ社)をBamHI消化及びCIAP(タカラバイオ社)処理し,切り出したDNA断片をライゲーション反応により挿入した。得られたプラスミドをDual(+)pCI-neoベクターとした(図18)。
【0615】
〔各結合体発現プラスミドの作製〕
配列番号28で示されるアミノ酸配列を有する,抗hTfR抗体(Fab)の重鎖のC末端にリンカーを介してHSA-hGALCのN末端を結合させた結合体(抗hTfR抗体Fab重鎖-HSA-hGALC)をコードする遺伝子を含む,配列番号29で示される塩基配列を含むDNA断片を制限酵素MluI及びNotI(タカラバイオ社)で消化し,Dual(+)pCI-neoベクターのMluI及びNotIサイト間に挿入した。更に,抗hTfR抗体Fab重鎖-HSA-hGALCをコードする遺伝子を挿入したDual(+)pCI-neoベクターを制限酵素AscI及びAfeI(New England BioLabs社)で消化し,これに配列番号23で示されるアミノ酸配列を有する,抗hTfR抗体(Fab)の軽鎖をコードする遺伝子を含む,配列番号36で示される塩基配列を含むDNA断片をAscI及びAfeIで消化したものを挿入した。得られたプラスミドを,Fab-HSA-hGALC発現プラスミドとした。
【0616】
同様にして,配列番号30で示されるアミノ酸配列を有する,抗hTfR抗体(Fab)の重鎖のN末端にリンカーを介してHSA-hGALCのC末端を結合させた結合体をコードする遺伝子を含む,配列番号31で示される塩基配列を含むDNA断片,及び配列番号23で示されるアミノ酸配列を有する,抗hTfR抗体(Fab)の軽鎖をコードする遺伝子を含む,配列番号36で示される塩基配列を含むDNA断片を用いて,HSA-hGALC-Fab発現プラスミドを作製した。
【0617】
同様にして,配列番号32で示されるアミノ酸配列を有する,抗hTfR抗体(Fab)の重鎖のC末端にリンカーを介してhGALC-HSAのN末端を結合させた結合体をコードする遺伝子を含む,配列番号33で示される塩基配列を含むDNA断片,及び配列番号23で示されるアミノ酸配列を有する,抗hTfR抗体(Fab)の軽鎖をコードする遺伝子を含む,配列番号36で示される塩基配列を含むDNA断片を用いて,Fab-hGALC-HSA発現プラスミドを作製した。
【0618】
同様にして,配列番号34で示されるアミノ酸配列を有する,抗hTfR抗体(Fab)の重鎖のN末端にリンカーを介してhGALC-HSAのC末端を結合させた結合体をコードする遺伝子を含む,配列番号35で示される塩基配列を含むDNA断片,及び配列番号23で示されるアミノ酸配列を有する,抗hTfR抗体(Fab)の軽鎖をコードする遺伝子を含む,配列番号36で示される塩基配列を含むDNA断片を用いて,hGALC-HSA-Fab発現プラスミドを作製した。
【0619】
〔実施例11〕各結合体の一過性発現
ExpiCHOTM Expression System(Thermo Fisher Scientific社)のHigh titerプロトコールに従い,実施例10で作製した各結合体発現プラスミドを用いて,ExpiCHO細胞をそれぞれ形質転換させた。形質転換後,細胞を8日間培養し,Fab-HSA-hGALC,HSA-hGALC-Fab,Fab-hGALC-HSA,及びhGALC-HSA-Fabをそれぞれ培養上清中に発現させた。培養開始から8日後の培養液をそれぞれ遠心分離して培養上清を回収した。
【0620】
〔実施例12〕一過性発現によるFab-HSA-hGALC,HSA-hGALC-Fab,Fab-hGALC-HSA,及びhGALC-HSA-Fabの発現量の確認(酵素活性測定)
試料溶液として実施例11で得られた培養上清を用い,実施例5に記載の方法と同様にして一過性発現によるFab-HSA-hGALC,HSA-hGALC-Fab,Fab-hGALC-HSA,及びhGALC-HSA-Fabの発現量を酵素活性測定により確認した。
【0621】
図19に,野生型hGALC,Fab-HSA-hGALC,HSA-hGALC-Fab,Fab-hGALC-HSA,及びhGALC-HSA-Fabの酵素活性測定の結果を示す。なお,野生型hGALCの酵素活性測定の結果の値は,実施例2で得られた,野生型hGALCを発現する細胞の培養開始から8日後の培養上清を試料溶液として用いて得られた実施例に記載の測定値を使用した。また,酵素活性測定の結果に基づく野生型hGALC,Fab-HSA-hGALC,HSA-hGALC-Fab,Fab-hGALC-HSA,及びhGALC-HSA-Fabの相対量(野生型hGALCの,培養開始から8日後における発現量を1.0としたときの相対量)を表3に示す。
【0622】
【表3】
【0623】
これらの結果から,培養開始後8日後の発現量(酵素活性量換算)をみると,Fab-HSA-hGALC,HSA-hGALC-Fab,Fab-hGALC-HSA,及びhGALC-HSA-Fabの発現量は,野生型hGALCのそれと比較して,それぞれ約3.8倍,約2.3倍,約3.0倍,及び約1.7倍の値を示し,野生型hGALCをHSA-hGALC又はhGALC-HSAとすることにより,これらをさらに抗体と結合させた結合体の形態であっても,より多くのhGALCを組換え蛋白質として発現させることができることがわかった。かかる複雑な構造を有し,野生型hGALCと比較して巨大な分子量を有する,抗hTfR抗体とHSAとhGALCとの融合蛋白質との結合体である,Fab-HSA-hGALC,HSA-hGALC-Fab,Fab-hGALC-HSA,及びhGALC-HSA-Fabの何れもが,組換え蛋白質として発現させたときに野生型hGALCと比較して発現量が減少すると予想されるところ,上記の結果は予想外のものであった。
【0624】
〔実施例13〕一過性発現によるFab-HSA-hGALC,HSA-hGALC-Fab,Fab-hGALC-HSA,及びhGALC-HSA-FabのSE-HPLC分析
一過性発現により得られたFab-HSA-hGALC,HSA-hGALC-Fab,Fab-hGALC-HSA,及びhGALC-HSA-Fabの物性を評価するため,各蛋白質の培養上清を精製工程に供し,その後SE-HPLC分析を行った。
【0625】
〔精製工程〕
実施例11で得られた,一過性発現によるFab-HSA-hGALC,HSA-hGALC-Fab,Fab-hGALC-HSA,及びhGALC-HSA-Fabをそれぞれ含む8日目の培養上清に,0.1倍容の2 M アルギニン溶液(pH 6.5)を添加した。この溶液を,カラム体積の5倍容の200 mM アルギニンを含有する25 mM MES緩衝液(pH6.5)で平衡化した,Capture SelectTM CH1-XLカラム(Thermo Fisher SCINTIFIC社)に負荷し,各結合体をカラムに吸着させた。Capture SelectTM CH1-XLカラムは,IgG抗体のCH1ドメインと特異的に結合する性質を有するリガンドが担体に固定化されたアフィニティーカラムである。次いで,カラム体積の5倍容の同緩衝液を供給してカラムを洗浄した。次いでカラム体積の3倍容の25 mM MES緩衝液(pH 6.5)を供給してカラムを更に洗浄した。次いで,カラム体積の5倍容の20 mM 酢酸緩衝液(pH 4.0)で,カラムに吸着した各結合体を溶出させた。溶出液は,予め250 mM MES緩衝液(pH 6.0)と2 M NaCl溶液を入れた容器に受けて,直ちに中和した。
【0626】
〔SE-HPLC工程〕
島津HPLCシステムLC-20A(島津製作所社)に,サイズ排除カラムクロマトグラフィーカラムであるTSKgel G3000SWXL 5 μmカラム(7.8 mm径×30 cm長,TOSOH社)をセットした。また,カラムの下流に吸光光度計を設置し,カラムからの流出液の吸光度(測定波長215 nm)を連続して測定できるようにした。10%のエタノールを含む0.2 M リン酸ナトリウム緩衝水溶液でカラムを平衡化させた後,上記精製工程で得られたFab-HSA-hGALC,HSA-hGALC-Fab,Fab-hGALC-HSA,及びhGALC-HSA-Fabを含有する各溶出液をそれぞれカラムに負荷し,更に10%のエタノールを含む0.2 Mリン酸ナトリウム緩衝水溶液を0.5 mL/分の流速で流した。この間,カラムからの流出液の吸光度(測定波長215 nm)を測定することにより,溶出プロフィールを得た。
【0627】
〔物性評価〕
溶出プロフィールを図20に示す。Fab-HSA-hGALC,HSA-hGALC-Fab,Fab-hGALC-HSA,及びhGALC-HSA-Fabの全てにおいて,メインピークが1つであり,それぞれFab-HSA-hGALC,HSA-hGALC-Fab,Fab-hGALC-HSA,又はhGALC-HSA-Fabの単量体のピークであると考えられる。実施例9において得られた,野生型hGALCの溶出プロファイル(図16)上で,メインピークが2種類であったことと比較すると,細胞に野生型hGALCを発現させた場合と比較して,HSAとhGALCとの融合蛋白質と抗体との結合体を発現させた場合にも,hGALC活性を有する分子が単量体として安定的に得られていることがわかる。すなわち,HSAとhGALCとの融合蛋白質を,さらに抗体との結合体とした場合にあっても,hGALCにHSAを融合させることが,hGALCの安定化に寄与していることが示された。なお,結合体のそれぞれにおいて,全発現量に占める単量体の質量比率は,90%以上である。組換え蛋白質として発現させたとき,これらの結合体は単量体として均質なものを取得することができるので,製造管理の観点からも,hGALCをHSAと抗体(ここにおいてFab)の結合体として製造するhGALCの製造方法は優れたものということができる。
【0628】
以下,実施例14~20はHSAとhGBAとの融合蛋白質に関する実験結果である。
【0629】
〔実施例14〕野生型hGBA発現プラスミドの作製
pE-neo7ベクター及びpCAGIPuroベクター(Miyahara M. et.al., J. Biol. Chem. 275, 613-618(2000))をそれぞれBamHI及びNotI(タカラバイオ社)で制限酵素処理し,アガロースゲル電気泳動にて分離した。なお,pE-neo7ベクターは国際公開公報WO2012/101998に記載の方法で作成した。EtBr染色を行った後,UV照射下で目的のDNA断片を含むバンドを切り出し,QIAEX II Gel Extraction Kit(QIAGEN社)を用いてゲルからDNAを抽出した。Ligation high Ver.2(東洋紡社)を用いて16℃で60分間ライゲーション反応を行いpEI-puroベクターを完成させた。
野生型hGBA(配列番号37)をコードする遺伝子を含む,配列番号38で示される塩基配列を有するDNA断片を合成した。これをMluI及びNotI(タカラバイオ社)で制限酵素処理し,アガロースゲル電気泳動にて分離した。EtBr染色を行った後,UV照射下で目的のDNA断片を含むバンドを切り出し,QIAEX II Gel Extraction Kit(QIAGEN社)を用いてゲルからDNAを抽出した。
当該DNA断片及びMluIとNotIで制限酵素処理したpEI-puroベクターを混合し,Ligation high Ver.2を用いて16℃で60分間ライゲーション反応を行い,pEI-puro-hGBAベクターを完成させた。
pEI-puro-hGBAベクターとpE-mIRES-GSベクターをMluIとNotIで制限酵素処理し,ゲル抽出,精製を行った。なお,pE-mIRES-GSベクターは国際公開公報WO2013/161958に記載の方法で作成した。制限酵素で処理した各ベクターを混合し,Ligation high Ver.2を用いて16℃で60分間ライゲーション反応を行い,pEmIGS-hGBAベクターを完成させた(図21
)。
pEmIGS-hGBAベクターとpCIneoベクター(プロメガ社)をMluIとNotIで制限酵素処理し,ゲル抽出,精製を行った。そして,制限酵素で処理した各ベクターを混合し,Ligation high Ver.2を用いて16℃で60分間ライゲーション反応を行い,野生型hGBA発現プラスミドであるpCIneo-hGBAベクターを完成させた(図22)。
【0630】
〔実施例15〕HSA-hGBA発現プラスミド及びhGBA-HSA発現プラスミドの作製
野生型HSA(配列番号3)のC末端と野生型hGBA(配列番号37)のN末端とを配列番号9で示されるリンカー配列を介して結合させた融合蛋白質である,配列番号39で示されるHSA-hGBAをコードする遺伝子を含む,配列番号40で示される塩基配列を有するDNA断片を合成した。これをMluI及びNotIで制限酵素処理し,アガロースゲル電気泳動にて分離した。EtBr染色を行った後,UV照射下で目的のDNA断片を含むバンドを切り出し,QIAEX II Gel Extraction Kitを用いてゲルからDNAを抽出した。同様に,pCI-neoベクター(プロメガ社)もMluI及びNotIで制限酵素処理し,ゲル抽出,精製を行った。制限酵素で処理したベクター及びDNA断片を混合し,Ligation high Ver.2を用いて16℃で60分間ライゲーション反応を行い,HSA-hGBA発現プラスミドであるpCIneo-HSA-hGBAベクターを完成させた(図23)。野生型hGBA(配列番号37)のC末端と野生型HSA(配列番号3)のN末端とを配列番号9で示されるリンカー配列を介して結合させた融合蛋白質である,配列番号41で示されるhGBA-HSAをコードする遺伝子を含む,配列番号42で示される塩基配列を有するDNA断片についても,同様にライゲーション反応を行い,hGBA-HSA発現プラスミドであるpCIneo-hGBA-HSAベクターを完成させた。
【0631】
〔実施例16〕各プラスミドの確認及び精製
実施例14及び実施例15で得られたpCIneo-hGBAベクター,pCIneo-HSA-hGBAベクター,及びpCIneo-hGBA-HSAベクターをそれぞれ含む各ライゲーション反応液を用いて大腸菌(E. coli DH5α Competent Cells,タカラバイオ社)をそれぞれ形質転換した。得られた形質転換体から,実施例1に記載と同様の手法により,野生型hGBA,HSA-hGBA,及びhGBA-HSAが組込まれている各プラスミドをそれぞれ精製した。
【0632】
〔実施例17〕野生型hGBA,HSA-hGBA,及びhGBA-HSAの一過性発現
野生型hGBA,HSA-hGBA,及びhGBA-HSAの一過性発現には,実施例16で得た精製したpCIneo-hGBAベクター,pCIneo-HSA-hGBAベクター,及びpCIneo-hGBA-HSAベクターを用いた。
【0633】
ExpiCHOTM Expression System(Thermo Fisher Scientific社)のHigh titerプロトコールに従い,pCIneo-hGBAベクター,pCIneo-HSA-hGBAベクター,及びpCIneo-hGBA-HSAベクターを用いて,ExpiCHO細胞を形質転換させた。形質転換後,細胞を8日間培養し,野生型hGBA,HSA-hGBA,及びhGBA-HSAをそれぞれ培養上清中に発現させた。8日後の培養液をそれぞれ遠心分離して培養上清を回収した。
【0634】
〔実施例18〕一過性発現による野生型hGBA,HSA-hGBA,及びhGBA-HSAの発現量の確認(酵素活性測定)
試料溶液として,実施例17で得られた培養上清を0.4 M KH2PO4/ 0.4 M K2HPO4/ 0.125% Na-taurocholate/ 0.15% TrionX-100/ 0.1% BSA溶液で適宜希釈して測定に供した。標準溶液として,4-MU(4-Methylumbelliferone,シグマアルドリッチ社)を0.4 M KH2PO4/ 0.4 M K2HPO4/ 0.125% Na-taurocholate/ 0.15% TrionX-100/ 0.1% BSA溶液で200~3.13 μMに段階希釈したものを調製した。基質溶液として,hGBAの人工基質である4-Methylumbelliferyl-β-D-glucopyranoside(シグマアルドリッチ社)を0.4 M KH2PO4/ 0.4 M K2HPO4/ 0.125% Na-taurocholate/ 0.15% TrionX-100/ 0.1% BSA溶液で4 mmol/Lに希釈したものを調製した。マイクロプレートに試料溶液又は標準溶液を10 μL/well添加し,更に各ウェルに70 μLの基質溶液を添加してプレートシェイカーで撹拌し混合した。プレートを37℃で1時間静置した後,各ウェルに200 μLの200 mM グリシン/ 50 mM Na2CO3緩衝液(pH 10.7)を添加して反応を停止させた。次いで,蛍光プレートリーダー(Gemini XPS,モレキュラーデバイス社)を用いて各ウェルの蛍光強度を測定した(励起波長365 nm,蛍光波長460 nm)。この蛍光強度は,各ウェル中の溶液に含まれる4-MU(4-Methylumbelliferone)の濃度に比例する。標準溶液の測定結果に基づき検量線を作成し,これに各試料溶液の測定値を内挿して,酵素活性量(μM/時間)を求めた。なお,この酵素活性量の単位は,1時間当たりに分解される基質の量を示すものである。
【0635】
〔実施例19〕一過性発現による野生型hGBA,HSA-hGBA,及びhGBA-HSAの発現量の確認(SDS page電気泳動)
実施例17で得られた培養上清それぞれ10 μLを,最終濃度が0.4 MとなるようDTTを添加した10 μLの2×Sample Buffer(バイオラッド社)と混合し,100℃で5分間加熱することにより還元条件下で熱変性させた。熱変性後の溶液を,0.1% SDSを含む50 mM Tris緩衝液/380 mM グリシン緩衝液(pH 8.3)内に設置した5-20%ポリアクリルアミドゲルのウェルに15 μLずつ供し,25 mA定電流にて電気泳動した。電気泳動後のゲルをOriole Fluorescent Gel Stain(バイオラッド社)に浸し,室温で60分間振とうした。ゲルを純水で洗浄した後,ルミノイメージアナライザー(Amersham Imager 600RGB,サイティバ社)を用いて各蛋白質に相当するバンドが可視化された電気泳動画像を得た。
【0636】
〔実施例20〕一過性発現による野生型hGBA,HSA-hGBA,及びhGBA-HSAの発現量の確認(結果)
図24に,実施例18で測定した一過性発現による野生型hGBA,HSA-hGBA,及びhGBA-HSAの酵素活性測定の結果を示す。また,酵素活性測定の結果に基づく野生型hGBA,HSA-hGBA,及びhGBA-HSAの相対量を表4に示す。
【0637】
【表4】
【0638】
上記の結果から,培養開始後8日後の発現量(酵素活性量換算)をみると,HSA-hGBA及びhGBA-HSAの発現量は,野生型hGBAのそれと比較して,それぞれ22倍及び18倍の値を示し,野生型のままでは組換え体として発現させたときに発現量が少なく大量に製造することが困難なhGBAを,HSA-hGBA又はhGBA-HSAの形態で発現させることにより,より多くのhGBAを組換え蛋白質として効率よく発現させることができることがわかった。
【0639】
次に,実施例19で得たSDS-PAGEの泳動画像を図25に示す。SDS-PAGEの結果は,バンド強度の比較からHSA-hGBA及びhGBA-HSAは野生型hGBAより10倍~20倍以上発現量が高く,図24及び表4で示される発現量(酵素活性量換算)とほぼ相関するものであった。すなわち,野生型のままでは組換え体として発現させたときに発現量が少なく大量に製造することが困難なhGBAを,HSA-hGBA又はhGBA-HSAの形態で発現させることにより,より多くのhGBAを組換え蛋白質として効率よく発現させることができることがわかった。
【0640】
以上の結果は,hGBAを組換え蛋白質として製造する場合に,hGBAを,HSA-hGBA又はhGBA-HSAの融合蛋白質の形態で製造することにより,約20倍の分子数のhGBAを得ることができることを示す。つまり,hGBAをHSA-hGBA又はhGBA-HSAの融合蛋白質の形態で発現させる組換えhGBAの製造方法は,大量の組換えhGBAを製造する方法として極めて有効な手段といえる。
【0641】
以下,実施例21~26はマウス血清アルブミン(MSA)とマウスIL-10(mIL-10)との融合蛋白質に関する。なお,実施例21~26において,MSAは全て配列番号16で示されるアミノ酸配列を有する野生型MSAの,320番目のアミノ酸であるアラニンをトレオニンへと置換した変異型MSA(MSA-A320T,配列番号125)を用いた。
【0642】
〔実施例21〕野生型mIL-10発現プラスミド,mIL-10-MSA発現プラスミド及びMSA-mIL-10発現プラスミドの作製
野生型mIL-10(配列番号126)をコードする遺伝子を含む配列番号127で示される塩基配列を有するDNA断片,野生型mIL-10(配列番号126)のC末端と変異型MSA(配列番号125)のN末端とを直接結合させた融合蛋白質である,配列番号128で示されるmIL-10-MSAをコードする遺伝子を含む,配列番号129で示される塩基配列を有するDNA断片,及び変異型MSA(配列番号125)のC末端と野生型mIL-10(配列番号126)のN末端とを直接結合させた融合蛋白質である,配列番号130で示されるMSA-mIL-10をコードする遺伝子を含む,配列番号131で示される塩基配列を有するDNA断片を合成した。これらをMluIおよびNotI(タカラバイオ社)で制限酵素処理し,アガロースゲル電気泳動にて分離した。EtBr染色を行った後,UV照射下で目的のDNA断片を含むバンドを切り出し,QIAEX II Gel Extraction Kit(QIAGEN社)を用いてゲルからDNAを抽出した。同様に,pCI-neoベクター(プロメガ社)をMluIおよびNotIで制限酵素処理し,ゲル抽出,精製を行った。制限酵素で処理したベクターに,制限酵素で処理した各DNA断片をそれぞれ混合し,DNA Ligation Kit Mighty Mix(タカラバイオ社)を用いて16℃で60分間ライゲーション反応を行った。
【0643】
次いで,各ライゲーション反応液を用いて大腸菌(One Shot MAX Efficiency DH10B T1 Phage-Resistant Cells,Thermo Fisher Scientific社)をそれぞれ形質転換した。得られた形質転換体から,実施例1に記載と同様の手法により,目的遺伝子が組み込まれている各プラスミドをそれぞれ精製した。
【0644】
〔実施例22〕野生型mIL-10,mIL-10-MSA及びMSA-mIL-10の一過性発現
ExpiCHO Expression System(Thermo Fisher Scientific社)のHigh Titerプロトコールに従い,野生型mIL-10,mIL-10-MSA及びMSA-mIL-10をそれぞれコードする遺伝子を組み込んだプラスミドを用いて,ExpiCHO細胞を形質転換させた。形質転換後,細胞を8日間培養し,野生型mIL-10,mIL-10-MSA及びMSA-mIL-10をそれぞれ培養上清中に発現させた。培養後,培養液を遠心分離して培養上清を回収した。
【0645】
〔実施例23〕一過性発現による野生型mIL-10,mIL-10-MSA及びMSA-mIL-10の発現量確認(SDS-page電気泳動)
実施例22で得られた培養上清6 μLを,(±)-ジチオトレイトール(富士フィルム和光純薬社)を40 mg/mLとなるように添加した4×Sample Buffer(バイオラッド社)2 μLと混合し,100℃で3分間加熱することにより還元条件下で熱変性させた。熱変性後の試料を,0.1% SDSを含む50 mM トリス緩衝液/380 mM グリシン緩衝液(pH8.3)内に設置した5-20%ポリアクリルアミドゲル(富士フィルム和光純薬社)のウェルに5 μLずつアプライし,25 mA定電流にて電気泳動した。電気泳動後のゲルをEZFluor UV 1-step Fluorescent Protein Gel Stain(メルク社)に浸し,室温で60分間振とうした。ゲルを純水で洗浄した後,ルミノイメージアナライザー(Amersham ImageQuan 800,Cytiva社)で蛋白質のバンドを検出した。
【0646】
〔実施例24〕一過性発現による野生型mIL-10,mIL-10-MSA及びMSA-mIL-10の発現量確認(ELISA)
Mouse IL-10 ELISA Kit(プロテインテック社)を用いて,ELISAを行った。実施例22で得られた培養上清をキット付属のSample Diluentで50000倍希釈し,試料溶液とした。野生型mIL-10についてはキット付属のStandardをSample Diluentで希釈したものを標準溶液とし,mIL-10-MSA及びMSA-mIL-10については下記の実施例25に示す方法で得られたそれぞれの精製品をSample Diluentで希釈したものを標準溶液とした。抗マウスIL-10抗体が固相化された96 wellプレートの各ウェルに試料溶液または標準溶液を100 μLを添加し,37℃で100分間保温した。次いでキット付属のWash Buffer 300 μLで各ウェルを4回洗浄後,mouse IL-10 detection antibodyを100 μLずつ各ウェルに添加し,37℃で60分間保温した。Wash Buffer 300 μLで各ウェルを4回洗浄後,Streptavidin-HRPを100 μLずつ各ウェルに添加し,37℃で40分間保温した。Wash Buffer 300 μLで各ウェルを4回洗浄後,TMB substrateを100 μLずつ各ウェルに添加し,37℃で発色反応させた。充分な発色が得られた後,TMB stop solutionを100 μLずつ各ウェルに添加して反応を停止させた。プレートリーダー(SpectraMax iD3,Molecular Device社)で波長450 nmにおける吸光度を測定し,解析ソフトウェア(SoftMax Pro 7.1,Molecular Device社)を用いて検量線を作成し,これに各試料溶液の測定値を内挿して,各培養上清中の濃度(物質量に換算)を算出した。
【0647】
〔実施例25〕mIL-10-MSA及びMSA-mIL-10の精製品取得
実施例24で標準溶液調製のために用いたmIL-10-MSA及びMSA-mIL-10の精製品は,下記の方法に従って得た。
【0648】
〔mIL-10-MSA発現プラスミド及びMSA-mIL-10発現プラスミドの作製〕
実施例21で作製したmIL-10-MSA発現プラスミド及びMSA-mIL-10発現プラスミドをMlu IおよびNot I(タカラバイオ社)で制限酵素処理し,mIL-10-MSA遺伝子またはMSA-mIL-10遺伝子の塩基配列を含むDNA断片をアガロースゲル電気泳動にて分離した。EtBr染色を行った後,UV照射下で目的のDNA断片を含むバンドを切り出し,FastGene Gel/PCR Extraction Kit(日本ジェネティクス社)を用いてゲルからDNAを抽出した。同様に,pE-mIRES-GS-puroベクターをMluIおよびNotIで制限酵素処理し,ゲル抽出,精製を行った。なお,mIRES-GS-puroベクターはWO2013/161958に記載の方法により構築した。制限酵素で処理したベクターに,制限酵素で処理した各DNA断片をそれぞれ混合し,Ligation high Ver.2(東洋紡社)を用いて16℃で30~60分間ライゲーション反応を行った。
【0649】
次いで,各ライゲーション反応液を用いて大腸菌(E. coli DH5α Competent Cells,タカラバイオ社)をそれぞれ形質転換した。得られた形質転換体から,実施例1に記載と同様の手法により,目的遺伝子が組み込まれている各プラスミドをそれぞれ精製した。
【0650】
〔mIL-10-MSA発現バルク細胞及びMSA-mIL-10発現バルク細胞の作製〕
遺伝子導入装置(スーパーエレクトロポレーターNEPA21,ネッパジーン社)を用いて,CHO-K1細胞の無血清馴化株に,上記で得られたmIL-10-MSA又はMSA-mIL-10をコードする遺伝子を組み込んだ発現プラスミドをそれぞれ導入し,メチオニンスルホキシミン(SIGMA社)及びPuromycin(Thermo Fisher Scientific社)を含むCD OptiCHO培地(Thermo Fisher Scientific社)にて選択培養を行った。選択培養の際には,メチオニンスルホキシミン及びPuromycinの濃度を段階的に上昇させて,最終的にメチオニンスルホキシミンの濃度を300 μM,Puromycinの濃度を10 μg/mLとした。3~4日おきに培地交換を繰り返しながら順次培養液量を拡大し,培養中の細胞の生存率が90%を超えた時点で細胞を回収し,これをmIL-10-MSA発現バルク細胞及びMSA-mIL-10発現バルク細胞とした。
【0651】
〔mIL-10-MSA発現バルク細胞及びMSA-mIL-10発現バルク細胞の培養〕
300 μMメチオニンスルホキシミン及び10 μg/mL Puromycinを含むCD OptiCHO培地に,上記で得られたmIL-10-MSA発現バルク細胞及びMSA-mIL-10発現バルク細胞を,それぞれ2×105 cells/mLの細胞密度で播種し,37℃,5% CO2存在下で振とう培養した。MSA-mIL-10発現バルク細胞は培養開始から3日目以降は32℃条件下で培養した。培養開始から10日後に培養上清を遠心分離して培養上清を回収した。
【0652】
〔mIL-10-MSA及びMSA-mIL-10の精製〕
上記で回収したmIL-10-MSA発現バルク細胞の培養上清をRapid-Flow PESメンブレンフィルターユニット(孔径0.2 μm,Thermo Fisher Scientific社)によりろ過し,100 mM NaClを含有する25 mM HEPES緩衝液(pH7.4)で平衡化したHiTrap Q HPカラム(Cytiva社)に通してmIL-10-MSAを樹脂に吸着させた。続いて100 mM NaClを含有する25 mM HEPES緩衝液(pH7.4)でカラムを洗浄し,350 mM NaClを含有する25 mM HEPES緩衝液(pH7.4)でmIL-10-MSAを樹脂から溶出させた。
【0653】
mIL-10-MSAを含むHiTrap Q HPカラムからの溶出液を5 mMリン酸を含む25 mM MES緩衝液(pH6.8)で6倍に希釈し,これを5 mMリン酸を含む25 mM MES緩衝液(pH6.8)で平衡化したCHT TypeIカラム(バイオラッド社)に通してmIL-10-MSAを樹脂に吸着させた。続いて5 mMリン酸を含む25 mM MES緩衝液(pH6.8)でカラムを洗浄し,200 mMリン酸を含む25 mM MES緩衝液(pH6.8)でmIL-10-MSAを樹脂から溶出させ,mIL-10-MSA精製品とした。同様にして,MSA-mIL-10を精製し,MSA-mIL-10精製品とした。
【0654】
〔実施例26〕一過性発現による野生型mIL-10,mIL-10-MSA及びMSA-mIL-10の発現量の確認(結果)
図26に,実施例24で測定した一過性発現による野生型mIL-10,mIL-10-MSA及びMSA-mIL-10のELISA濃度測定の結果を示す。また,ELISA濃度測定の結果に基づく野生型mIL-10,mIL-10-MSA及びMSA-mIL-10の相対量を表5に示す。
【0655】
【表5】
【0656】
上記の結果から,培養開始後8日後の発現量(濃度)をみると,mIL-10-MSA及びMSA-mIL-10の発現量は,野生型mIL-10のそれと比較して,それぞれ4.5倍及び4.2倍の値を示し,野生型のままでは組換え体として発現させたときに発現量が少なく大量に製造することが困難なIL-10を,IL-10-SA又はSA-IL-10の形態で発現させることにより,より多くのIL-10を組換え蛋白質として効率よく発現させることができることがわかった。
【0657】
次に,実施例23で得たSDS-PAGEの泳動画像を図27に示す。SDS-PAGEの結果は,バンド強度の比較からmIL-10-MSA及びMSA-mIL-10は野生型mIL-10より発現量が高く,図26及び表5で示されるELISAによる測定値に対応するものであった。野生型のままでは組換え体として発現させたときに発現量が少なく大量に製造することが困難なIL-10を,IL-10-SA又はSA-IL-10の形態で発現させることにより,より多くのIL-10を組換え蛋白質として効率よく発現させることができることがわかった。
【0658】
以上の結果は,mIL-10を組換え蛋白質として製造する場合に,mIL-10を,mIL-10-MSA又はMSA-mIL-10の融合蛋白質の形態で製造することにより,約4倍の分子数のmIL-10を得ることができることを示すものであり,さらにhIL-10を組換え蛋白質として製造する場合に,hIL-10をhIL-10-HSA又はHSA-hIL-10の融合蛋白質の形態で製造することにより,より多くの分子数のhIL-10を得ることができることを示すものである。つまり,IL-10をIL-10-SA又はSA-IL-10の融合蛋白質の形態で発現させる組換えIL-10の製造方法は,大量の組換えIL-10を製造する方法として極めて有効な手段といえる。
【0659】
以下,実施例27~33はHSAとヒト神経栄養因子(hBDNF,hNGF,hNT-3,又はhNT-4)との融合蛋白質に関する。
【0660】
〔実施例27〕野生型ヒト神経栄養因子発現プラスミドの作製
以下の(1)~(4)のDNA断片を合成した:
(1)C末端にGly-Serで示されるアミノ酸配列(以下GSという)及び6個のヒスチジンからなる配列番号195のアミノ酸配列を有するヒスチジンタグ(以下His6という)をこの順に付加した野生型hBDNF(配列番号132)をコードする遺伝子を含む配列番号133で示される塩基配列を有するDNA断片,
(2)C末端にHis6を付加した野生型hNGF(配列番号134)をコードする遺伝子を含む配列番号135で示される塩基配列を有するDNA断片,
(3)C末端にHis6を付加した野生型hNT-4(配列番号136)をコードする遺伝子を含む配列番号137で示される塩基配列を有するDNA断片,及び
(4)C末端にHis6を付加した野生型hNT-3(配列番号138)をコードする遺伝子を含む配列番号139で示される塩基配列を有するDNA断片。
【0661】
上記(1)~(4)のDNA断片をMluIおよびNotI(タカラバイオ社)で制限酵素処理し,アガロースゲル電気泳動にて分離した。EtBr染色を行った後,UV照射下で目的のDNA断片を含むバンドを切り出し,QIAEX II Gel Extraction Kit(QIAGEN社)を用いてゲルからDNAを抽出した。同様に,pCI-neoベクター(プロメガ社)をMluI及びNotIで制限酵素処理し,ゲル抽出,精製を行った。制限酵素で処理したベクターに,制限酵素で処理した各DNA断片をそれぞれ混合し,Ligation Mix(タカラバイオ社)を用いて16℃で30~60分間ライゲーション反応を行った。
【0662】
次いで,各ライゲーション反応液を用いて大腸菌(ECOSTM X Competent E. coli DH5α,ニッポンジーン社)をそれぞれ形質転換した。得られた形質転換体から,実施例1に記載と同様の手法により,目的遺伝子が組み込まれている各プラスミドをそれぞれ精製した。精製した各ベクターをそれぞれ野生型hBDNF発現ベクター,野生型hNGF発現ベクター,野生型hNT-4発現ベクター,野生型hNT-3発現ベクターとして以下の実験で用いた。
【0663】
〔実施例28〕HSAとヒト神経栄養因子との融合蛋白質を発現するプラスミドの作製
実施例27で合成した(1)~(4)のDNA断片をMluI及びBamHI(タカラバイオ社)で制限酵素処理し,アガロースゲル電気泳動にて分離した

EtBr染色を行った後,UV照射下で目的のDNA断片を含むバンドを切り出し,QIAEX II Gel Extraction Kit(QIAGEN社)を用いてゲルからDNA断片を抽出して精製した。精製したDNA断片をインサートDNA1とした。
【0664】
以下の(1)~(5)のDNA断片を合成した:
(1)C末端にHis6を付加した野生型HSA(配列番号140)をコードする遺伝子を含む配列番号141で示される塩基配列を有するDNA断片,
(2)C末端にHis6を付加した野生型hBDNF(配列番号132)をコードする遺伝子を含む配列番号133で示される塩基配列を有するDNA断片,
(3)C末端にHis6を付加した野生型hNGF(配列番号134)をコードする遺伝子を含む配列番号135で示される塩基配列を有するDNA断片,
(4)C末端にHis6を付加した野生型hNT-4(配列番号136)をコードする遺伝子を含む配列番号137で示される塩基配列を有するDNA断片,及び
(5)C末端にHis6を付加した野生型hNT-3(配列番号138)をコードする遺伝子を含む配列番号139で示される塩基配列を有するDNA断片。
上記(1)~(5)のDNA断片を鋳型として,表6に示すフォワードプライマー及びリバースプライマーを用いて,No. 1~5のPCR反応を行った。なお,便宜上,C末端にHis6を付加した野生型HSAも,以下野生型HSAと記載する。野生型hBDNF,野生型hNGF,野生型hNT-4,及び野生型hNT-3についても同様とする。
【0665】
【表6】
【0666】
上記No. 1~5のPCRで得られたDNA断片をBglIIおよびNotI(タカラバイオ社)で制限酵素処理し,ゲル抽出,精製を行った。精製したDNA断片をインサートDNA2とした。
【0667】
pCI-neoベクター(プロメガ社)をMluI及びNotIで制限酵素処理し,ゲル抽出,精製を行った。制限酵素で処理したベクターに,上記のインサートDNA1及びインサートDNA2を表7に示す組み合わせでそれぞれ混合し,Ligation Mix(タカラバイオ社)を用いて16℃で30~60分間ライゲーション反応を行った。この反応により,pCI-neoベクターに,インサートDNA1の3’末端にインサートDNA2がインフレームで連結したDNA断片が挿入される。
【0668】
なお,表7にはインサートDNA1及びインサートDNA2の各組み合わせについて,それぞれ得られる遺伝子がコードする目的の融合蛋白質を示す。本実施例における融合蛋白質の名称とその構造は下記(1)~(8)に示す通りである:
(1)hBDNF-HSA:野生型hBDNF(配列番号60)のC末端に,アミノ酸配列Gly-Serで示されるリンカーを介して野生型HSA(配列番号3)が結合し,そのさらにC末端にHis6が結合したものである,配列番号148で示されるアミノ酸配列を有する融合蛋白質;
(2)hNGF-HSA:野生型hNGF(配列番号62)のC末端に,アミノ酸配列Gly-Serで示されるリンカーを介して野生型HSA(配列番号3)が結合し,そのさらにC末端にHis6が結合したものである,配列番号149で示されるアミノ酸配列を有する融合蛋白質;
(3)hNT-4-HSA:野生型hNT-4(配列番号66)のC末端に,アミノ酸配列Gly-Serで示されるリンカーを介して野生型HSA(配列番号3)が結合し,そのさらにC末端にHis6が結合したものである,配列番号150で示されるアミノ酸配列を有する融合蛋白質;
(4)hNT-3-HSA:野生型hNT-3(配列番号64)のC末端に,アミノ酸配列Gly-Serで示されるリンカーを介して野生型HSA(配列番号3)が結合し,そのさらにC末端にHis6が結合したものである,配列番号151で示されるアミノ酸配列を有する融合蛋白質;
(5)HSA-hBDNF:野生型HSA(配列番号3)のC末端に,アミノ酸配列Gly-Serで示されるリンカーを介して野生型hBDNFのプロ体(配列番号84)が結合し,そのさらにC末端にHis6が結合したものである,配列番号152で示されるアミノ酸配列を有する融合蛋白質;
(6)HSA-hNGF:野生型HSA(配列番号3)のC末端に,アミノ酸配列Gly-Serで示されるリンカーを介して野生型hNGFのプロ体(配列番号87)が結合し,そのさらにC末端にHis6が結合したものである,配列番号153で示されるアミノ酸配列を有する融合蛋白質;
(7)HSA-hNT-4:野生型HSA(配列番号3)のC末端に,アミノ酸配列Gly-Serで示されるリンカーを介して野生型hNT-4のプロ体(配列番号93)が結合し,そのさらにC末端にHis6が結合したものである,配列番号154で示されるアミノ酸配列を有する融合蛋白質;及び
(8)HSA-hNT-3:野生型HSA(配列番号3)のC末端に,アミノ酸配列Gly-Serで示されるリンカーを介して野生型hNT-3のプロ体(配列番号90)が結合し,そのさらにC末端にHis6が結合したものである,配列番号155で示されるアミノ酸配列を有する融合蛋白質。
ここで,HSA-hBDNF,HSA-hNGF,HSA-hNT-4及びHSA-hNT-3については,HSAのC末端側に融合させるヒト神経栄養因子(hBDNF,hNGF,hNT-4又はhNT-3)として全てプロ体のものを用いているため,これらを組み換え蛋白質として発現させた場合,融合蛋白質の一部又は全ての分子が切断され最終的に単体の野生型ヒト神経栄養因子(hBDNF,hNGF,hNT-4又はhNT-3)として得られる可能性があるが,実施例30及び実施例31で得られるSDS-PAGE及びウエスタンブロッティングの結果を観察する場合を除き,全て融合蛋白質として発現しているものとして取り扱う。
【0669】
【表7】
【0670】
次いで,各ライゲーション反応液を用いて大腸菌(ECOSTM X Competent E. coli DH5α,ニッポンジーン社)を上記(1)~(8)の融合蛋白質をコードする発現ベクターを用いてそれぞれ形質転換した。得られた形質転換体から,実施例1に記載と同様の手法により,目的遺伝子が組み込まれている各プラスミドをそれぞれ精製した。
【0671】
〔実施例29〕野生型ヒト神経栄養因子及びHSAとヒト神経栄養因子との融合蛋白質の一過性発現
ExpiCHO Expression System(Thermo Fisher Scientific社)のHigh Titerプロトコールに従い,実施例27及び実施例28で得られた野生型ヒト神経栄養因子又はHSAとヒト神経栄養因子との融合蛋白質をそれぞれコードする遺伝子を組み込んだプラスミドを用いて,ExpiCHOTM細胞を形質転換させた。形質転換後,細胞を8日間培養し,野生型ヒト神経栄養因子又はHSAとヒト神経栄養因子との融合蛋白質をそれぞれ培養上清中に発現させた。培養後,培養液を遠心分離して培養上清を回収した。
【0672】
〔実施例30〕一過性発現による野生型ヒト神経栄養因子及びHSAとヒト神経栄養因子との融合蛋白質の発現量確認(SDS-PAGE)
実施例29で得られた培養上清10 μLを,8 μLの2×Sample Buffer(バイオラッド社)および2 μLの2-メルカプトエタノール(バイオラッド社)と混合し,100℃で3分間加熱することにより還元条件下で熱変性させた。熱変性後の試料を,0.1% SDSを含む50 mM トリス緩衝液/380 mM グリシン緩衝液(pH8.3)内に設置した10-20%ポリアクリルアミドゲル(富士フィルム和光純薬社)のウェルに5 μLずつアプライし,25 mA定電流にて電気泳動した。電気泳動後のゲルをOriole Fluorescent Gel Stain(バイオラッド社)に浸し,室温で90分間振とうした。ゲルを純粋で洗浄した後,ルミノイメージアナライザー(Amersham Imager 600RGB,Cytiva社)で蛋白質のバンドを検出した。
【0673】
〔実施例31〕一過性発現による野生型ヒト神経栄養因子及びHSAとヒト神経栄養因子との融合蛋白質の発現量確認(ウエスタンブロッティング)
実施例30に記載した方法と同様に電気泳動を行い,ニトロセルロース膜と電気泳動後のゲルを,20%メタノールを含む25 mM トリス緩衝液/192 mM グリシン緩衝液に浸したブロッティングペーパーで挟み,ブロッティング装置(Trans-Blot Turbo Transfer System,バイオラッド社)で1.0 A,25 Vで10分間通電することで蛋白質をニトロセルロース膜に転写した。転写後のニトロセルロース膜を,5%スキムミルクを含むTBSTに浸して1時間振とう後,0.4 μg/mLに希釈したMouse anti-His tag mAb(医学生物学研究所)溶液に浸して1時間振とうした。TBSTで膜を洗浄後,0.2 μg/mLに希釈したAnti-mouse IgG (H+L), HRP Conjugate(プロメガ社)溶液に浸して60分振とうし,再度TBSTで洗浄した。膜の転写面にHRP検出試薬(バイオラッド社)を滴下して5分間反応させ,ルミノイメージアナライザーで検出した。
【0674】
〔実施例32〕一過性発現による野生型ヒト神経栄養因子及びHSAとヒト神経栄養因子との融合蛋白質の発現量確認(ELISA)
一過性発現による野生型ヒト神経栄養因子及びHSAとヒト神経栄養因子との融合蛋白質の発現量を比較するため,Human Multi-Neurotrophin Rapid Screening ELISA Kit(Biosensis社)を用いて,ELISA測定を行った。実施例29で得られた培養上清を,キット付属のAssay diluent Aで適宜希釈したものを試料溶液として,培養上清中の野生型ヒト神経栄養因子又はHSAとヒト神経栄養因子との融合蛋白質の濃度を算出した。単体の野生型ヒト神経栄養因子又はHSAと融合させたヒト神経栄養因子の種類ごとに,下記詳述する。
【0675】
〔野生型hBDNF,及びHSAとhBDNFとの融合蛋白質の測定〕
試料溶液として,実施例29で得られた野生型hBDNF,hBDNF-HSA,又はHSA-hBDNFを発現させたExpiCHO培養上清をAssay diluent Aで10万倍希釈したものを調製した。標準溶液として,キット付属の1000 pg/mL BDNF溶液をAssay diluent Aで段階希釈し,500,250,125,63,31,16,及び8 pg/mLとしたものをそれぞれ調製した。抗BDNF抗体が固相化された96ウェルプレートの各ウェルに試料溶液または標準溶液を100 μLずつ添加し,プレートシェーカーで室温にて90分間振とうした。次いで,200 μLのWash bufferで各ウェルを5回洗浄後,BDNF detection antibody(ビオチン標識抗BDNF抗体)を100 μLずつ各ウェルに添加し,プレートシェーカーで室温にて30分間振とうした。次いで,200 μLのWash bufferで各ウェルを5回洗浄後,Streptavidin-HRPを100 μLずつ各ウェルに添加し,プレートシェーカーで室温にて30分間振とうした。200 μLのWash bufferで各ウェルを5回洗浄後,TMB substrateを100 μLずつ各ウェルに添加し,室温で静置して発色反応させた。充分な発色が得られた後,TMB stop solutionを100 μLずつ各ウェルに添加して反応を停止させた。マイクロプレートリーダー(Spectramax 190 EXT,Molecular Device社)で波長450 nmにおける吸光度を測定し,解析ソフトウェア(SoftMax Pro,Molecular Device社)を用いて検量線を作成し,これに各試料溶液の測定値を内挿して,各培養上清中の濃度(物質量に換算)を算出した。
【0676】
〔野生型hNGF,及びHSAとhNGFとの融合蛋白質の測定〕
試料溶液として,実施例29で得られた野生型hNGF,hNGF-HSA,又はHSA-hNGFを発現させたExpiCHO培養上清をAssay diluent Aで100000倍希釈したものを調製した。標準溶液として,キット付属の500 pg/mL NGF溶液をAssay diluent Aで段階希釈し,250,125,63,31,16,8,及び4 pg/mLとしたものをそれぞれ調製した。抗NGF抗体が固相化された96ウェルプレートの各ウェルに試料溶液または標準溶液を100 μLずつ添加し,プレートシェーカーで室温にて90分間振とうした。次いで,200 μLのWash bufferで各ウェルを5回洗浄後,NGF detection antibody(ビオチン標識抗NGF抗体)を100 μLずつ各ウェルに添加し,プレートシェーカーで室温にて30分間振とうした。次いで,200 μLのWash bufferで各ウェルを5回洗浄後,Streptavidin-HRPを100 μLずつ各ウェルに添加し,プレートシェーカーで室温にて30分間振とうした。200 μLのWash bufferで各ウェルを5回洗浄後,TMB substrateを100 μLずつ各ウェルに添加し,室温で静置して発色反応させた。充分な発色が得られた後,TMB stop solutionを100 μLずつ各ウェルに添加して反応を停止させた。マイクロプレートリーダー(Spectramax 190 EXT,Molecular Device社)で波長450 nmにおける吸光度を測定し,解析ソフトウェア(SoftMax Pro,Molecular Device社)を用いて検量線を作成し,これに各試料溶液の測定値を内挿して,各培養上清中の濃度(物質量に換算)を算出した。
【0677】
〔野生型hNT-4,及びHSAとhNT-4との融合蛋白質の測定〕
試料溶液として,実施例29で得られた野生型hNT-4,hNT-4-HSA,及びHSA-hNT-4を発現させたExpiCHO培養上清をAssay diluent Aで100000倍希釈したものを調製した。標準溶液として,キット付属の2000 pg/mL NT-4溶液をAssay diluent Aで段階希釈し,1000,500,250,125,63,31,及び16 pg/mLとしたものをそれぞれ調製した。抗NT-4抗体が固相化された96ウェルプレートの各ウェルに試料溶液または標準溶液を100 μLずつ添加し,プレートシェーカーで室温にて90分間振とうした。次いで,200 μLのWash bufferで各ウェルを5回洗浄後,NT-4 detection antibody(ビオチン標識抗NT-4抗体)を100 μLずつ各ウェルに添加し,プレートシェーカーで室温にて30分間振とうした。次いで,200 μLのWash bufferで各ウェルを5回洗浄後,Streptavidin-HRPを100 μLずつ各ウェルに添加し,プレートシェーカーで室温にて30分間振とうした。200 μLのWash bufferで各ウェルを5回洗浄後,TMB substrateを100 μLずつ各ウェルに添加し,室温で静置して発色反応させた。充分な発色が得られた後,TMB stop solutionを100 μLずつ各ウェルに添加して反応を停止させた。マイクロプレートリーダー(Spectramax 190 EXT,Molecular Device社)で波長450 nmにおける吸光度を測定し,解析ソフトウェア(SoftMax Pro,Molecular Device社)を用いて検量線を作成し,これに各試料溶液の測定値を内挿して,各培養上清中の濃度(モノマーを1分子として物質量に換算)を算出した。
【0678】
〔野生型hNT-3,及びHSAとhNT-3との融合蛋白質の測定〕
試料溶液として,実施例29で得られた野生型hNT-3,hNT-3-HSA,及びHSA-hNT-3を発現させたExpiCHO培養上清をAssay diluent Aで100000倍希釈したものを調製した。標準溶液として,キット付属の2000 pg/mL NT-3溶液をAssay diluent Aで段階希釈し,1000,500,250,125,63,31,及び16 pg/mLとしたものをそれぞれ調製した。抗NT-3抗体が固相化された96ウェルプレートの各ウェルに試料溶液または標準溶液を100 μLずつ添加し,プレートシェーカーで室温にて90分間振とうした。次いで,200 μLのWash bufferで各ウェルを5回洗浄後,NT-3 detection antibody(ビオチン標識抗NT-3抗体)を100 μLずつ各ウェルに添加し,プレートシェーカーで室温にて30分間振とうした。次いで,200 μLのWash bufferで各ウェルを5回洗浄後,Streptavidin-HRPを100 μLずつ各ウェルに添加し,プレートシェーカーで室温にて30分間振とうした。200 μLのWash bufferで各ウェルを5回洗浄後,TMB substrateを100 μLずつ各ウェルに添加し,室温で静置して発色反応させた。充分な発色が得られた後,TMB stop solutionを100 μLずつ各ウェルに添加して反応を停止させた。マイクロプレートリーダー(Spectramax 190 EXT,Molecular Device社)で波長450 nmにおける吸光度を測定し,解析ソフトウェア(SoftMax Pro,Molecular Device社)を用いて検量線を作成し,これに各試料溶液の測定値を内挿して,各培養上清中の濃度(モノマーを1分子として物質量に換算)を算出した。
【0679】
〔実施例33〕一過性発現による野生型ヒト神経栄養因子及びHSAとヒト神経栄養因子との融合蛋白質の発現量の確認(結果)
図28に,実施例32で測定した一過性発現による野生型ヒト神経栄養因子及びHSAとヒト神経栄養因子との融合蛋白質のELISA濃度測定の結果を示す。また,ELISA濃度測定の結果に基づく野生型ヒト神経栄養因子及びHSAとヒト神経栄養因子との融合蛋白質の相対量を表8に示す。
【0680】
【表8】
【0681】
上記の結果から,培養開始後8日後の発現量(濃度)をみると,hBDNF-HSA及びHSA-hBDNFの発現量は,野生型hBDNFのそれと比較して,それぞれ29倍及び3.0倍の値を示し,野生型のままでは組換え体として発現させたときに発現量が少なく大量に製造することが困難なhBDNFを,hBDNFとHSAとの融合蛋白質の形態で発現させることにより,より多くのhBDNFを組換え蛋白質として効率よく発現させることができることがわかった。
【0682】
また,hNGF-HSA及びHSA-hNGFの発現量は,野生型hNGFのそれと比較して,それぞれ1.6倍及び1.3倍の値を示し,野生型のままでは組換え体として発現させたときに発現量が少なく大量に製造することが困難なhNGFを,hNGFとHSAとの融合蛋白質の形態で発現させることにより,より多くのhNGFを組換え蛋白質として効率よく発現させることができることがわかった。
【0683】
また,hNT-4-HSA及びHSA-hNT-4の発現量は,野生型hNT-4のそれと比較して,それぞれ4.1倍及び1.8倍の値を示し,野生型のままでは組換え体として発現させたときに発現量が少なく大量に製造することが困難なhNT-4を,hNT-4とHSAとの融合蛋白質の形態で発現させることにより,より多くのhNT-4を組換え蛋白質として効率よく発現させることができることがわかった。
【0684】
また,hNT-3-HSAの発現量は,野生型hNT-3のそれと比較して,12倍の値を示し,野生型のままでは組換え体として発現させたときに発現量が少なく大量に製造することが困難なhNT-3を,hNT-3とHSAとの融合蛋白質の形態で発現させることにより,より多くのhNT-3を組換え蛋白質として効率よく発現させることができることがわかった。
【0685】
次に,実施例30で得たSDS-PAGEの泳動画像を図29に示す。SDS-PAGEの結果は,バンド強度の比較からhBDNF-HSA及びHSA-hBDNFは野生型hBDNFより発現量が高く,hNGF-HSA及びHSA-hNGFは野生型hNGFより発現量が高く,hNT-4-HSA及びHSA-hNT-4は野生型hNT-4より発現量が高く,hNT-3-HSA及びHSA-hNT-3は野生型hNT-3より発現量が高く,図28及び表8で示される発現量(濃度)と対応するものであった。野生型のままでは組換え体として発現させたときに発現量が少なく大量に製造することが困難なヒト神経栄養因子を,HSAとヒト神経栄養因子との融合蛋白質の形態で発現させることにより,より多くのヒト神経栄養因子を組換え蛋白質として効率よく発現させることができることがわかった。
【0686】
次に,実施例31で得たウエスタンブロッティングの泳動画像を図30に示す。ウエスタンブロッティングの結果は,バンド強度の比較からhBDNF-HSA及びHSA-hBDNFは野生型hBDNFより発現量が高く,hNGF-HSA及びHSA-hNGFは野生型hNGFより発現量が高く,hNT-4-HSA及びHSA-hNT-4は野生型hNT-4より発現量が高く,hNT-3-HSA及びHSA-hNT-3は野生型hNT-3より発現量が高く,図28及び表8で示される発現量(濃度)と対応するものであった。ただし,HSA-hBDNF,HSA-hNGF,HSA-hNT-4,及びHSA-hNT-3は,途中で切断され単体の成熟体ヒト神経栄養因子として検出されているバンドもあわせて観察した。野生型のままでは組換え体として発現させたときに発現量が少なく大量に製造することが困難なヒト神経栄養因子を,HSAとヒト神経栄養因子との融合蛋白質の形態で発現させることにより,より多くのヒト神経栄養因子を組換え蛋白質として効率よく発現させることができることがわかった。
【0687】
以上の結果は,ヒト神経栄養因子を組換え蛋白質として製造する場合に,ヒト神経栄養因子を,ヒト神経栄養因子とHSAとの融合蛋白質の形態で製造することにより,より多くの分子数のヒト神経栄養因子を得ることができることを示すものである。つまり,ヒト神経栄養因子をヒト神経栄養因子とHSAとの融合蛋白質の形態で発現させる組換えヒト神経栄養因子の製造方法は,大量の組換えヒト神経栄養因子を製造する方法として極めて有効な手段といえる。
【産業上の利用可能性】
【0688】
本発明によれば,例えば,組換え蛋白質として製造することが困難な蛋白質を,SAとの融合蛋白質の形態で組換え蛋白質として発現させることにより,効率よく工業的に生産できる。
【配列表フリーテキスト】
【0689】
配列番号1:野生型hGALCのアミノ酸配列の一例
配列番号2:野生型hGALCをコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号3:野生型HSAのアミノ酸配列の一例
配列番号4:野生型HSAをコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号5:HSA-hGALCのアミノ酸配列の一例
配列番号6:HSA-hGALCをコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号7:hGALC-HSAのアミノ酸配列の一例
配列番号8:hGALC-HSAをコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号9:リンカーのアミノ酸配列の例1
配列番号10:リンカーのアミノ酸配列の例2
配列番号11:リンカーのアミノ酸配列の例3
配列番号12:ヒト血清アルブミンRedhillのアミノ酸配列
配列番号13:変異型ヒト血清アルブミン(HSA-A320T)のアミノ酸配列
配列番号14:野生型mGALCのアミノ酸配列の一例
配列番号15:野生型mGALCをコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号16:野生型MSAのアミノ酸配列の一例
配列番号17:野生型MSAをコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号18:MSA-mGALCのアミノ酸配列の一例
配列番号19:MSA-mGALCをコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号20:mGALC-MSAのアミノ酸配列の一例
配列番号21:mGALC-MSAをコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号22:ヒトトランスフェリン受容体のアミノ酸配列
配列番号23:抗hTfR抗体の軽鎖のアミノ酸配列
配列番号24:野生型hIL-10のアミノ酸配列の一例
配列番号25:抗hTfR抗体のFab重鎖のアミノ酸配列
配列番号26:pCI Insert F3プライマー,合成配列
配列番号27:pCI Insert R3プライマー,合成配列
配列番号28:抗hTfR抗体Fab重鎖-HSA-hGALCのアミノ酸配列
配列番号29:抗hTfR抗体Fab重鎖-HSA-hGALCをコードする塩基配列,合成配列
配列番号30:HSA-hGALC-抗hTfR抗体Fab重鎖のアミノ酸配列
配列番号31:HSA-hGALC-抗hTfR抗体Fab重鎖をコードする塩基配列,合成配列
配列番号32:抗hTfR抗体Fab重鎖-hGALC-HSAのアミノ酸配列
配列番号33:抗hTfR抗体Fab重鎖-hGALC-HSAをコードする塩基配列,合成配列
配列番号34:hGALC-HSA-抗hTfR抗体Fab重鎖のアミノ酸配列
配列番号35:hGALC-HSA-抗hTfR抗体Fab重鎖をコードする塩基配列,合成配列
配列番号36:抗hTfR抗体の軽鎖をコードする塩基配列,合成配列
配列番号37:野生型hGBAのアミノ酸配列の一例
配列番号38:野生型hGBAをコードする塩基配列の一例
配列番号39:HSA-hGBAのアミノ酸配列の一例
配列番号40:HSA-hGBAをコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号41:hGBA-HSAのアミノ酸配列の一例
配列番号42:hGBA-HSAをコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号43:野生型mGBAのアミノ酸配列の一例
配列番号44:野生型mGBAをコードする塩基配列の一例
配列番号45:MSA-mGBAのアミノ酸配列の一例
配列番号46:MSA-mGBAをコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号47:mGBA-MSAのアミノ酸配列の一例
配列番号48:mGBA-MSAをコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号49:野生型hIL-10をコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号50:HSA-hIL-10のアミノ酸配列の一例
配列番号51:HSA-hIL-10をコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号52:hIL-10-HSAのアミノ酸配列の一例
配列番号53:hIL-10-HSAをコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号54:HSA-hIL-10のアミノ酸配列の一例2
配列番号55:hIL-10-HSAのアミノ酸配列の一例2
配列番号56:HSA-hIL-10のアミノ酸配列の一例3
配列番号57:hIL-10-HSAのアミノ酸配列の一例3
配列番号58:HSA-hIL-10のアミノ酸配列の一例4
配列番号59:hIL-10-HSAのアミノ酸配列の一例4
配列番号60:野生型hBDNFのアミノ酸配列の一例
配列番号61:野生型hBDNFをコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号62:野生型hNGFのアミノ酸配列の一例
配列番号63:野生型hNGFをコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号64:野生型hNT-3のアミノ酸配列の一例
配列番号65:野生型hNT-3をコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号66:野生型hNT-4のアミノ酸配列の一例
配列番号67:野生型hNT-4をコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号68:HSA-hBDNFのアミノ酸配列の一例
配列番号69:HSA-hBDNFをコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号70:HSA-hNGFのアミノ酸配列の一例
配列番号71:HSA-hNGFをコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号72:HSA-hNT-3のアミノ酸配列の一例
配列番号73:HSA-hNT-3をコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号74:HSA-hNT-4のアミノ酸配列の一例
配列番号75:HSA-hNT-4をコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号76:hBDNF-HSAのアミノ酸配列の一例
配列番号77:hBDNF-HSAをコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号78:hNGF-HSAのアミノ酸配列の一例
配列番号79:hNGF-HSAをコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号80:hNT-3-HSAのアミノ酸配列の一例
配列番号81:hNT-3-HSAをコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号82:hNT-4-HSAのアミノ酸配列の一例
配列番号83:hNT-4-HSAをコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号84:野生型hBDNF(プロ体)のアミノ酸配列の一例
配列番号85:HSA-hBDNFのアミノ酸配列の一例2
配列番号86:hBDNF-HSAのアミノ酸配列の一例2
配列番号87:野生型hNGF(プロ体)のアミノ酸配列の一例
配列番号88:HSA-hNGFのアミノ酸配列の一例2
配列番号89:hNGF-HSAのアミノ酸配列の一例2
配列番号90:野生型hNT-3(プロ体)のアミノ酸配列の一例
配列番号91:HSA-hNT-3のアミノ酸配列の一例2
配列番号92:hNT-3-HSAのアミノ酸配列の一例2
配列番号93:野生型hNT-4(プロ体)のアミノ酸配列の一例
配列番号94:HSA-hNT-4のアミノ酸配列の一例2
配列番号95:hNT-4-HSAのアミノ酸配列の一例2
配列番号96:抗hTfR抗体の軽鎖CDR1のアミノ酸配列
配列番号97:抗hTfR抗体の軽鎖CDR2のアミノ酸配列
配列番号98:抗hTfR抗体の軽鎖CDR3のアミノ酸配列
配列番号99:抗hTfR抗体の重鎖CDR1のアミノ酸配列1
配列番号100:抗hTfR抗体の重鎖CDR2のアミノ酸配列1
配列番号101:抗hTfR抗体の重鎖CDR3のアミノ酸配列1
配列番号102:抗hTfR抗体の重鎖CDR1のアミノ酸配列2
配列番号103:抗hTfR抗体の重鎖CDR2のアミノ酸配列2
配列番号104:抗hTfR抗体の重鎖CDR3のアミノ酸配列2
配列番号105:hTfR親和性ペプチドのCDR1のアミノ酸配列1
配列番号106:hTfR親和性ペプチドのCDR1のアミノ酸配列2
配列番号107:hTfR親和性ペプチドのCDR2のアミノ酸配列1
配列番号108:hTfR親和性ペプチドのCDR2のアミノ酸配列2
配列番号109:hTfR親和性ペプチドのCDR3のアミノ酸配列1
配列番号110:hTfR親和性ペプチドのCDR3のアミノ酸配列2
配列番号111:hTfR親和性ペプチドのCDR2のアミノ酸配列3
配列番号112:hTfR親和性ペプチドのCDR2のアミノ酸配列4
配列番号113:血清型2のAAVの第一の逆方向末端反復(第一のITR)の塩基配列,野生型
配列番号114:血清型2のAAVの第一の逆方向末端反復(第二のITR)の塩基配列,野生型
配列番号115:第一の逆方向末端反復(第一のITR)の塩基配列の好適な一例,合成配列
配列番号116:第二の逆方向末端反復(第二のITR)の塩基配列の好適な一例,合成配列
配列番号117:第一の長い末端反復(第一のLTR)の塩基配列の好適な一例,合成配列
配列番号118:第二の長い末端反復(第二のLTR)の塩基配列の好適な一例,合成配列
配列番号119:センダイウイルスゲノムのリーダーの塩基配列
配列番号120:センダイウイルスゲノムのトレイラーの塩基配列
配列番号121:マウスαフェトプロテインエンハンサー/マウスアルブミンプロモーターの塩基配列,合成配列
配列番号122:ニワトリβアクチン/MVMキメライントロンの塩基配列,合成配列
配列番号123:AAV2のRep領域を含む塩基配列,合成配列
配列番号124:AAV8のCap領域の塩基配列
配列番号125:変異型マウス血清アルブミン(MSA-A320T)のアミノ酸配列
配列番号126:野生型mIL-10のアミノ酸配列の一例
配列番号127:野生型mIL-10をコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号128:mIL-10-MSAのアミノ酸配列の一例
配列番号129:mIL-10-MSAをコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号130:MSA-mIL-10のアミノ酸配列の一例
配列番号131:MSA-mIL-10をコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号132:His6を付加した野生型hBDNFのアミノ酸配列
配列番号133:His6を付加した野生型hBDNFをコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号134:His6を付加した野生型hNGFのアミノ酸配列
配列番号135:His6を付加した野生型hNGFをコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号136:His6を付加した野生型hNT-4のアミノ酸配列
配列番号137:His6を付加した野生型hNT-4をコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号138:His6を付加した野生型hNT-3のアミノ酸配列
配列番号139:His6を付加した野生型hNT-3をコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号140:His6を付加した野生型HSAのアミノ酸配列
配列番号141:His6を付加した野生型HSAをコードする塩基配列の一例,合成配列
配列番号142:フォワードプライマー1,合成配列
配列番号143:フォワードプライマー2,合成配列
配列番号144:フォワードプライマー3,合成配列
配列番号145:フォワードプライマー4,合成配列
配列番号146:フォワードプライマー5,合成配列
配列番号147:リバースプライマー,合成配列
配列番号148:hBDNF-HSAのアミノ酸配列
配列番号149:hNGF-HSAのアミノ酸配列
配列番号150:hNT-4-HSAのアミノ酸配列
配列番号151:hNT-3-HSAのアミノ酸配列
配列番号152:HSA-hBDNFのアミノ酸配列
配列番号153:HSA-hNGFのアミノ酸配列
配列番号154:HSA-hNT-4のアミノ酸配列
配列番号155:HSA-hNT-3のアミノ酸配列
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【配列表】
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