(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056668
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】低収縮張力フィルム
(51)【国際特許分類】
C08L 23/08 20060101AFI20240416BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
C08L23/08
C08L21/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023176262
(22)【出願日】2023-10-11
(31)【優先権主張番号】17/963,485
(32)【優先日】2022-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】308007044
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK INNOVATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 110-728 Republic of Korea
(71)【出願人】
【識別番号】515215276
【氏名又は名称】エスケー ジオ セントリック カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ソン サン ハ
(72)【発明者】
【氏名】チェン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】パク ド ヨン
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC003
4J002BB06X
4J002BB07X
4J002BB08W
4J002GG02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】熱による収縮力が著しく低い低収縮張力包装フィルムを提供する。
【解決手段】本発明に係る低収縮張力包装フィルムは、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体である第1ポリマーと、エチレン-ビニルアセテート共重合体およびエチレン-アクリレート共重合体の中から選択されるいずれか1つ以上の共重合体を含む第2ポリマーと、を含み、前記第1ポリマーの特定の構造単位と前記第2ポリマーの特定の構造単位とのモル比が特定の範囲を満たすことで、光学的特性および機械的物性に優れるとともに、熱による収縮時にかかる張力が著しく低いという効果がある。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-不飽和カルボン酸共重合体である第1ポリマーと、
エチレン-ビニルアセテート共重合体およびエチレン-アクリレート共重合体の中から選択されるいずれか1つ以上の共重合体を含む第2ポリマーと、を含む低収縮張力包装フィルム用高分子組成物であって、
前記第1ポリマーの不飽和カルボン酸構造単位と前記第2ポリマーの水素結合性官能基とのモル比が1:1~12である、低収縮張力包装フィルム用高分子組成物。
【請求項2】
前記第1ポリマー中の不飽和カルボン酸構造単位の含量が1~10mol%である、請求項1に記載の低収縮張力包装フィルム用高分子組成物。
【請求項3】
前記第2ポリマー中の水素結合性官能基の含量が2.5mol%以上である、請求項2に記載の低収縮張力包装フィルム用高分子組成物。
【請求項4】
低収縮張力包装フィルム用高分子組成物100重量%中、前記第1ポリマーと前記第2ポリマーの重量割合は、55~90重量%:10~45重量%である、請求項1に記載の低収縮張力包装フィルム用高分子組成物。
【請求項5】
前記第1ポリマーの溶融指数(190℃/2.16kg、ASTM D1238)と前記第2ポリマーの溶融指数(190℃/2.16kg、ASTM D1238)との比が1:1~9である、請求項1に記載の低収縮張力包装フィルム用高分子組成物。
【請求項6】
ポリオレフィンエラストマー共重合体である第3ポリマーをさらに含む、請求項1に記載の低収縮張力包装フィルム用高分子組成物。
【請求項7】
低収縮張力包装フィルム用高分子組成物100重量%中、前記第1ポリマーと前記第2ポリマーと前記第3ポリマーの重量割合は、30~70重量%:10~40重量%:15~50重量%である、請求項6に記載の低収縮張力包装フィルム用高分子組成物。
【請求項8】
前記エチレン-不飽和カルボン酸共重合体は、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、またはこれらの組み合わせである、請求項1に記載の低収縮張力包装フィルム用高分子組成物。
【請求項9】
前記エチレン-アクリレート共重合体は、エチレン-(C1-C8)アルキルアクリレート共重合体である、請求項1に記載の低収縮張力包装フィルム用高分子組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の低収縮張力包装フィルム用高分子組成物から製造される包装フィルム。
【請求項11】
平均厚さが10~500μmである、請求項10に記載の包装フィルム。
【請求項12】
50μmのフィルム厚さおよび550nmの波長の光照射を基準とした光透過率が55%以上である、請求項11に記載の包装フィルム。
【請求項13】
120℃で30秒間維持した後の収縮率が30%以上である、請求項10に記載の包装フィルム。
【請求項14】
前記包装フィルムは、
前記第1ポリマーと前記第2ポリマーを混合して低収縮張力包装フィルム用高分子組成物を製造する混合ステップと、
前記低収縮張力包装フィルム用高分子組成物を押出および成形して包装フィルムを製造する押出ステップと、を含んで製造される、請求項10に記載の包装フィルム。
【請求項15】
前記混合ステップにおける混合は、相対湿度70~100%で行われる混合である、請求項14に記載の包装フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低収縮張力(Low shrink tension)フィルムに関し、具体的には、包装フィルムとして用いる場合、熱により発生する収縮張力(Shrink tension)が非常に低く、包装対象の反りなどの変形を最小化することができ、圧力により変形しやすい物品の包装材料に適した低収縮張力フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、包装フィルムは、高収縮張力フィルムが主に用いられ、熱による収縮変形が大きい特性を用いて、肉類などの食品、コンデンサおよび電池などの電子部品、蛍光灯のような家庭用から商業用に至るまで収縮包装に適した対象に幅広く用いられる。しかし、圧力により変形しやすい紙、織物、書籍、エアフィルター、ステッカーなどの物理的変形が容易な対象に高収縮張力フィルムが用いられる場合、フィルムの収縮により包装対象が損傷しやすくなり得る。したがって、圧力による変形が容易な対象は、フィルムの収縮により損傷しないように、低収縮張力包装フィルムで包装されることが重要である。
【0003】
しかし、包装フィルム分野における低収縮張力フィルムに関する研究は、高収縮張力フィルムに比べてあまり行われていない。初期の従来の低収縮張力フィルムは、収縮力が低いポリ塩化ビニルから製造されたが、加熱密封または長期保管時に毒性を有する塩化水素が放出されるという問題があり、その後、ポリオレフィン材料から製造されてきた。現在、前記ポリオレフィン材料とともに、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミドなどの材料から低収縮張力フィルムが製造されている。
【0004】
しかし、さらに低い収縮張力を有するフィルムが依然として求められており、さらには、透明性に優れ、引張強度などの機械的物性にも優れるフィルムが求められている。したがって、熱による収縮張力が従来に比べてさらに低く、優れた光学的特性および機械的物性も兼ね備えた包装フィルムに関する研究が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2020/0216661号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、熱による収縮力が著しく低い低収縮張力包装フィルムを提供することにある。
本発明の他の目的は、フィルムの製造時に円滑な成形性および加工性を確保することができ、優れた低収縮張力特性の他にも光学的特性および機械的物性などに優れる低収縮張力包装フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る低収縮張力包装フィルム用高分子組成物は、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体である第1ポリマーと、エチレン-ビニルアセテート共重合体およびエチレン-アクリレート共重合体の中から選択されるいずれか1つ以上の共重合体を含む第2ポリマーと、を含み、前記第1ポリマーの不飽和カルボン酸構造単位と前記第2ポリマーの水素結合性官能基とのモル比が1:1~12であることを特徴とする。
【0008】
本発明の一実施形態において、前記第1ポリマー中の不飽和カルボン酸構造単位の含量が1~10mol%であってもよい。
本発明の一実施形態において、前記第2ポリマー中の水素結合性官能基の含量が2.5mol%以上であってもよい。
【0009】
本発明の一実施形態において、前記高分子組成物は、前記第1ポリマー55~90重量%および前記第2ポリマー10~45重量%を含んでもよい。
本発明の一実施形態において、前記第1ポリマーの溶融指数(190℃/2.16kg、ASTM D1238)と前記第2ポリマーの溶融指数(190℃/2.16kg、ASTM D1238)との比が1:1~9であってもよい。
【0010】
本発明の一実施形態において、前記高分子組成物は、ポリオレフィンエラストマー共重合体である第3ポリマーをさらに含んでもよい。
本発明の一実施形態において、前記高分子組成物は、前記第1ポリマー30~70重量%、前記第2ポリマー10~40重量%、および前記第3ポリマー15~50重量%を含んでもよい。
【0011】
本発明の一実施形態において、前記エチレン-不飽和カルボン酸共重合体は、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、またはこれらの組み合わせであってもよい。
本発明の一実施形態において、前記エチレン-アクリレート共重合体は、エチレン-(C1-C8)アルキルアクリレート共重合体であってもよい。
【0012】
本発明に係る包装フィルムは、前記低収縮張力包装フィルム用高分子組成物から製造されてもよい。
本発明の一実施形態に係る包装フィルムは、平均厚さが10~500μmであってもよい。
【0013】
本発明の一実施形態に係る包装フィルムは、50μmのフィルム厚さおよび550nmの波長の光照射を基準とした光透過率が55%以上であってもよい。
本発明の一実施形態に係る包装フィルムは、120℃で30秒間維持した後の収縮率が30%以上であってもよい。
【0014】
本発明の一実施形態に係る包装フィルムは、前記第1ポリマーと前記第2ポリマーを混合して低収縮張力包装フィルム用高分子組成物を製造する混合ステップと、前記低収縮張力包装フィルム用高分子組成物を押出および成形して包装フィルムを製造する押出ステップと、を含んで製造されてもよい。
本発明の一実施形態において、前記混合ステップにおける混合は、相対湿度70~100%で行われてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る低収縮張力包装フィルムは、熱による収縮力が著しく低いという効果がある。
また、本発明に係る低収縮張力包装フィルムは、フィルムの製造時に円滑な成形性および加工性を確保することができ、優れた低収縮張力特性の他にも光学的特性および機械的物性などに優れるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る低収縮張力包装フィルムを詳しく説明する。
本明細書で用いられる技術用語および科学用語において、他の定義がない限り、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が通常理解している意味を有し、下記の説明において本発明の要旨を不要に曖昧にする恐れがある公知の機能および構成に関する説明は省略する。
【0017】
本明細書で用いられる用語の単数の形態は、特に指示しない限り、複数の形態も含むものと解釈されてもよい。
本明細書で用いられる数値範囲は、下限値と上限値、その範囲内での全ての値、定義される範囲の形態と幅から論理的に誘導される増分、そのうち限定された全ての値および互いに異なる形態に限定された数値範囲の上限および下限の全ての可能な組み合わせを含む。本発明の明細書において、特に定義しない限り、実験誤差または値の四捨五入により発生し得る数値範囲外の値も定義された数値範囲に含まれる。
【0018】
本明細書で言及される「含む」は、「備える」、「含有する」、「有する」、「特徴とする」などの表現と等価の意味を有する開放型記載であって、追加的に列挙されていない要素、材料、または工程を排除するものではない。
【0019】
本明細書において、特に言及せずに用いられた%の単位は、他の定義がない限り、重量%を意味する。
本明細書で言及される「層」の用語は、各材料が連続体(continuum)を形成し、幅と長さに比べて厚さが相対的に小さい寸法(dimension)を有することを意味する。したがって、本明細書において、「層」の用語により、2次元の平坦な平面として解釈されてはならない。
【0020】
本発明は、包装用フィルムに関し、異なる組成を有する2以上の高分子を含む高分子混合組成物の組成および類似の収縮率下で、各高分子間の物性の制御により、従来に比べて著しく低い収縮張力を有する包装フィルムを提供する。したがって、本発明に係るフィルムは、紙、織物、書籍、エアフィルター、ステッカーなどの物理的変形が容易な物品を対象として包装に用いられる場合、物品の損傷を引き起こさず、圧力による変形が容易な物品に好適に用いることができる。
【0021】
具体的に、本発明に係る低収縮張力包装フィルム用高分子組成物は、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体(Ethylene-unsaturated carboxylic acid copolymer)である第1ポリマーと、エチレン-ビニルアセテート共重合体(Ethylene-vinyl acetate copolymer、EVA)およびエチレン-アクリレート共重合体(Ethylene-acrylate、EA)の中から選択されるいずれか1つ以上の共重合体を含む第2ポリマーと、を含み、前記第1ポリマーの不飽和カルボン酸構造単位と前記第2ポリマーの水素結合性官能基とのモル比が1:1~12であることを特徴とする。また、前記第1ポリマーの不飽和カルボン酸構造単位と前記第2ポリマーの水素結合性官能基とのモル比は、好適には、1:1~5、より好適には、1:1~3であってもよい。
【0022】
前記低収縮張力包装フィルム用高分子組成物において、前記第1ポリマーの不飽和カルボン酸構造単位は、水素結合ドナー(H-bond donor)の特性を有し、場合によっては水素結合アクセプター(H-bond acceptor)の特性も有することができることはもちろんである。前記第2ポリマーの水素結合性官能基は、前記不飽和カルボン酸構造単位に対して水素結合アクセプターの特性を有する。具体的に、前記第2ポリマーがエチレン-ビニルアセテート共重合体である場合、その水素結合性官能基はアセテート基であってもよい。前記第2ポリマーがエチレン-アクリレート共重合体である場合、その水素結合性官能基はアクリレート基であってもよい。
【0023】
本発明において、前記第1ポリマーの不飽和カルボン酸構造単位と前記第2ポリマーの水素結合性官能基とのモル比が1:1~12の範囲を満たすことで、低収縮張力特性が著しく向上する。詳細には、第1ポリマーの不飽和カルボン酸構造単位と第2ポリマーの水素結合性官能基が水素結合を形成し、これは、熱によりフィルムが収縮する際に、共有結合を有する高分子鎖の反動(recoil)により発生する収縮張力に対して収縮張力を著しく減少させる。この際、第1ポリマーの不飽和カルボン酸構造単位と第2ポリマーの水素結合性官能基とが前述したモル比範囲を満たす場合、特に熱によりフィルムが収縮する際にかかる張力が急激に減少する。具体的に、第1ポリマーの不飽和カルボン酸構造単位は、水素結合ドナーであって、第2ポリマーの水素結合アクセプターの特性を有する水素結合性官能基との静電気引力により分子間引力が大きく形成され、熱収縮張力が大きく緩和される。これに対し、前述したモル比範囲を満たさない場合、第1ポリマーと第2ポリマーとの間の水素結合が十分に形成されず、従来に比べて低収縮張力効果が大きく現れないため、物理的変形が容易な物品を対象とする包装には適さない。
【0024】
好ましくは、前記第1ポリマーが、第1ポリマー中の不飽和カルボン酸構造単位の含量が1~10mol%、より好ましくは2~8mol%である場合、前述した熱収縮張力が大きく緩和されることができる。また、前記第1ポリマーの不飽和カルボン酸構造単位の含量が1mol%以上である場合、低収縮張力特性が大幅に向上し、10mol%以下である場合、フィルムの製造時に加工性および成形性が大幅に向上する傾向がある。この場合、第1ポリマーの不飽和カルボン酸構造単位の含量とは、第1ポリマー中の構造単位の総モルに対する不飽和カルボン酸構造単位のモル含量を意味する。
【0025】
前記第2ポリマーの水素結合性官能基の含量は、前記第1ポリマーの不飽和カルボン酸構造単位と前記第2ポリマーの水素結合性官能基とのモル比範囲と、前記第1ポリマーの不飽和カルボン酸構造単位の含量範囲を満たすように調節されてもよいが、前記水素結合性官能基が第2ポリマー中で2.5mol%以上、好適には2.5~20mol%、より好適には3~15mol%であることが、低収縮張力特性を向上できる点で好ましい。この場合、第2ポリマーの水素結合性官能基の含量とは、第2ポリマー中の構造単位の総モルに対する水素結合性官能基のモル含量を意味する。
【0026】
本発明に係る低収縮張力包装フィルム用高分子組成物の組成比は、前述したモル比範囲、または前述したモル比範囲およびmol%を満たすように適宜調節されればよく、例えば、前記第1ポリマーと前記第2ポリマーの重量割合は、55~90重量%:10~45重量%であることが好ましい。それを満たす場合、前述した高い低収縮張力特性とともに、フィルムの製造時に高い成形性および加工性を確保することができる。
【0027】
前記第2ポリマーがエチレン-ビニルアセテート共重合体およびエチレン-アクリレート共重合体の両方を含む場合、これらの含量比は大きく限定されるものではないが、例えば、第2ポリマーがエチレン-ビニルアセテート共重合体100重量部に対してエチレン-アクリレート共重合体50~200重量部を含むように用いられることが好ましい。
【0028】
好ましい一実施形態において、前記第1ポリマーの溶融指数(190℃/2.16kg、ASTM D1238)と前記第2ポリマーの溶融指数(190℃/2.16kg、ASTM D1238)との比は1:1~9、好適には1:1.5~7であることが、フィルムの製造時に高い成形性および加工性の確保とともに、前述した優れた低収縮張力特性を実現できる点で好ましい。
【0029】
本発明の一実施形態に係る低収縮張力包装フィルム用高分子組成物は、ポリオレフィンエラストマー共重合体(Polyolefin elastomer copolymer、POE)である第3ポリマーをさらに含んでもよい。それを満たす場合、適切に優れた低収縮張力特性を確保できるとともに、高分子組成物の結晶の生成をさらに阻害して透明性の向上効果を付与することができる。前記第3ポリマーが用いられる場合、低収縮張力包装フィルム用高分子組成物の組成比は大きく限定されるものではないが、例えば、前記組成物が前記第1ポリマーと前記第2ポリマーと前記第3ポリマーの重量割合は、30~70重量%:10~40重量%:15~50重量%である組成比を満たしてもよい。
【0030】
前記第1ポリマー、前記第2ポリマー、または前記第3ポリマーの重量平均分子量は、前述した特性を満たすように適宜調節されてもよく、例えば、30,000~200,000g/molであってもよい。ただし、これは具体的な一例として説明されたものにすぎず、本発明はこれに限定されて解釈されるものではない。
【0031】
本発明で言及されるエチレン-不飽和カルボン酸共重合体である第1ポリマー、エチレン-ビニルアセテート共重合体またはエチレン-アクリレート共重合体である第2ポリマー、またはポリオレフィンエラストマー共重合体である第3ポリマーは、公知の物質として、前述した物性を満たすように公知の文献を参照して製造すればよい。
【0032】
具体的に、前記エチレン-不飽和カルボン酸共重合体は、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-エタクリル酸共重合体、エチレン-クロトン酸共重合体、またはこれらの組み合わせであってもよい。より具体的に、前記エチレン-不飽和カルボン酸共重合体は、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、またはこれらの組み合わせであってもよい。
【0033】
前記エチレン-アクリレート共重合体は、エチレン系モノマーとアクリレート系モノマーが共重合した高分子であればよいが、好ましくは、エチレン-(C1-C8)アルキルアクリレート、具体的に、エチレン-(C1-C6)アルキルアクリレート共重合体であってもよい。ここで、「アルキル」は、直鎖または分岐鎖状を全て含み、1~8個の炭素原子、好ましくは1~6個の炭素原子であってもよい。具体的に、前記エチレン-アルキルアクリレート共重合体は、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ヘプチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、およびエチルヘキシルアクリレートなどから選択されるいずれか1つまたは2つ以上を含むモノマーとエチレン系モノマーが重合した高分子であってもよく、例えば、エチレン-メチルアクリレート共重合体(Ethylene-methylacrylate、EMA)、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-プロピルアクリレート共重合体、エチレン-ブチルアクリレート共重合体、エチレン-ヘプチルアクリレート共重合体、エチレン-ヘキシルアクリレート共重合体、エチレン-エチルヘキシルアクリレート共重合体などが挙げられる。
【0034】
本発明に係る第1ポリマーおよび第2ポリマー、または第1ポリマーないし第3ポリマーを含む低収縮張力包装フィルム用高分子組成物は、押出などの成形および加工手段を介してフィルムに製造され、適した物品に包装用として用いることができる。
【0035】
本発明に係る低収縮張力包装フィルム用高分子組成物から形成される包装フィルムは、前記組成物から形成される単層のフィルムであってもよく、様々な機能の付与および特定の特性の向上のために前記組成物から形成される層を含む多層の積層フィルムであってもよい。例えば、ガス(酸素など)透過率が低い特性のフィルムを提供するために、前記組成物から形成される層とガス透過率の低い層が結合した積層フィルムが提供されてもよい。
【0036】
また、本発明に係る低収縮張力包装フィルム用高分子組成物は、それより製造されるフィルムに様々な機能を付与するかまたは特定の特性を向上できるように、前記組成物とともにその他の添加剤がさらに用いられてもよい。前記その他の添加剤の例としては、難燃剤、抗酸化剤、加工安定剤、加工助剤、潤滑剤、フィラー、補強剤、耐候安定剤、帯電防止剤、スリップ剤、可塑剤、熱安定剤、滑剤、顔料、抗菌剤、および紫外線安定剤などから選択されるいずれか1つまたは2つ以上の組み合わせが挙げられる。前記その他の添加剤が用いられる場合、その使用含量は、前述した効果を実現できるとともに、その他の副作用を起こさない程度に調節されればよく、例えば、前記組成物100重量部に対して前記その他の添加剤が0.001~10重量部で用いられてもよい。前記その他の添加剤は、前記組成物とともに混合する簡単な手段により用いられてもよい。ただし、これは具体的な一例として説明されたものにすぎず、本発明はこれに限定されて解釈されるものではない。
【0037】
本発明に係る低収縮張力包装フィルム用高分子組成物から形成される包装フィルムは、従来に比べて熱収縮時にかかる張力が著しく低い。具体的に、本発明に係る包装フィルムは、120℃の比較的に高い温度で30秒間維持したときの収縮率が30%以上、好ましくは50~80%であってもよく、これは、市販製品の収縮率と類似のレベルであることができる。したがって、本発明に係る包装フィルムは、熱収縮張力が著しく低い。
【0038】
また、本発明に係る低収縮張力包装フィルム用高分子組成物から形成される包装フィルムは、50μmのフィルム厚さおよび550nmの波長の光照射を基準とした光透過率が55%以上であって、適した光透過率を有するとともに、熱収縮時に発生する張力が非常に低い。
【0039】
本発明に係る低収縮張力包装フィルム用高分子組成物から形成される包装フィルムの平均厚さは、包装用フィルムとして使用可能な程度であればよく、例えば10~500μm、好適には20~100μmであってもよい。ただし、これは具体的な一例として説明されたものにすぎず、引張強度などの機械的物性、光透過率などの光学的特性の適した要求特性に合わせて制御することができるため、本発明がこれに限定されて解釈されないことはもちろんである。
【0040】
本発明の一実施形態に係る低収縮張力包装フィルム用高分子組成物から形成される包装フィルムは、各ポリマー(第1ポリマーと第2ポリマー、または第1ポリマーないし第3ポリマー)を混合(Blending)して低収縮張力包装フィルム用高分子組成物を製造する混合ステップと、前記低収縮張力包装フィルム用高分子組成物を押出および成形して包装フィルムを製造する押出ステップと、を含んで製造されてもよい。混合温度は、各ポリマーが十分に溶融して混合できるとともに熱分解以下の温度であればよく、混合時間は、各ポリマーが十分に混合できる程度であればよい。
【0041】
前記混合ステップにおける混合時の湿度は、相対湿度0~100%で自由に行われてもよいが、相対湿度が70%以上、具体的には70~100%の環境で行われる混合(blending)である場合、各ポリマーの水素結合ドナーグループと水素結合アクセプターグループの水素結合特性の向上および製造されるフィルムの熱収縮張力をさらに向上できる点で好ましい。例えば、前記混合は、乾式混合(dry blending)または溶融混合(melt blending)であってもよい。
【0042】
前記押出ステップは、公知の高分子の押出成形手段を用いればよく、例えば、押出機で十分に混練した混合組成物がT-ダイを介してフィルムに成形されるラップフィルムの製造手段が用いられてもよい。
【0043】
以下、本発明を実施例により詳しく説明するが、これらは本発明をより詳細に説明するためのものであり、本発明の権利範囲が下記実施例により限定されるものではない。
【0044】
[実施例1~実施例4]
下記表1に記載された組成比で、第1ポリマーと第2ポリマーの混合組成物(実施例1~実施例3)、または第1ポリマーないし第3ポリマー(実施例4)の混合組成物が製造された。そして、前記混合組成物は、乾式混合により混合された後、50rpmで押出機(extruder)に供給され、周長(perimeter)が30cm、厚さが50μmのインフレーション(blown)フィルムが製造された。
【0045】
この際、第1ポリマーとしてエチレン-アクリル酸共重合体(PRIMACORTM 1410、SK geo centric)が用いられ、第2ポリマーとしてエチレン-ビニルアセテート共重合体(EVATANE(登録商標) 28-03、SK geo centric)またはエチレン-メチルアクリレート共重合体が用いられ、第3ポリマーとしてポリオレフィンエラストマー共重合体(SolumerTM 871、SK geo centric)が用いられた。また、前記エチレン-メチルアクリレート共重合体としては、コモノマーが11.8mol%のLOTRYL(登録商標) 29MA03T、またはコモノマーが7.5mol%のLOTRYL(登録商標) 20MA08Tが用いられた。
【0046】
[比較例1~比較例6]
実施例1のインフレーションフィルムに対する製造方法に下記表1の組成比を適用してインフレーションフィルムが製造された。この際、比較例2~比較例5は、コモノマーのmol%が下記表1のように異なるエチレン-アクリル酸共重合体である第1ポリマーを用い、その具体的な製造方法は、US4599392Aを参照すればよい。
【0047】
【0048】
[熱収縮張力試験]
実施例または比較例で製造されたインフレーションフィルムの収縮力(shrink force)を測定し、収縮力は次のような方法で測定した。具体的に、収縮力は、15cmに切断された実施例または比較例のフィルム3枚が積層され、2回折り畳まれて試験片が製造された。次に、前記試験片がLLOYD機械に連結されたオーブンに投入され、85℃まで加熱され、10分間維持された後の最大負荷が記録された。この際、収縮力に対する試験長さは10cmであった。それに対する収縮力の試験結果を下記表2に示す。
【0049】
[熱収縮率試験]
各実施例または比較例で製造されたインフレーションフィルムの収縮率を次のような方法で測定した。具体的に、収縮率を測定するために、実施例または比較例それぞれを15cm×15cmに切断したフィルムを積層してサンプルを製造した。その後、サンプルを120℃に加熱されたオーブンに注入した。30秒の経過後、オーブンからサンプルを取り出し、機械方向に沿って収縮した長さを記録した。収縮率の試験結果を下記表2に示す。
【0050】
また、実施例または比較例で製造されたインフレーションフィルムの光透過率(clarity)を次のような方法で測定し、その測定結果を下記表2に示す。具体的に、横および縦が3cmの規格に切断された前記インフレーションフィルムを試験片として用い、光透過率測定器(CM-5、Konica Minolta)により光透過率を測定した。この際、測定時に照射された光の波長は550nmであった。
【0051】
【0052】
前記表2を参照すると、エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)によりフィルムを製造する場合、第1ポリマーであるエチレン-アクリル酸共重合体(EAA)とともに、エチレン-ビニルアセテート共重合体(EVA)またはエチレン-メチルアクリレート共重合体(EMA)である第2ポリマーが混合されることで低収縮特性が大幅に向上することが、実施例1~4と比較例1の比較から明らかに確認される。
【0053】
また、第1ポリマーであるエチレン-アクリル酸共重合体(EAA)とともに前記第2ポリマーが混合されてフィルムが製造される場合にも、前記エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)のアクリル酸構造単位と前記第2ポリマーの水素結合性官能基とのモル比(AA:HB)が1:1~12を満たすことで大幅に向上した低収縮特性が実現されることが、実施例1~実施例4と比較例2~比較例5の比較から明らかに確認される。
【0054】
さらに、表には示されていないが、第1ポリマーの水素結合ドナーグループ(H-bond donor group)であるアクリル酸構造単位に対して第2ポリマーの水素結合アクセプターグループ(H-bond acceptor group)である水素結合性官能基が増加する場合、低収縮張力特性が向上する傾向が確認された。
【0055】
そして、第1ポリマーであるエチレン-アクリル酸共重合体(EAA)のアクリル酸構造単位が10mol%を超える場合、成形不良が発生し、フィルムの製造自体が難しくなることが観察された。
【0056】
したがって、第1ポリマーのアクリル酸構造単位と第2ポリマーの水素結合性官能基とのモル比(AA:HB)が1:1~12を満たすとともに、前記第1ポリマーのアクリル酸構造単位の含量が1~10mol%である場合、実施例の中でも最も優れた低収縮張力を示すことを前記表2から分かる。