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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005667
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】コンクリート背面空洞診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/12 20060101AFI20240110BHJP
   E21D 11/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
G01N29/12
E21D11/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105941
(22)【出願日】2022-06-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 刊行物名: 「第34回日本道路会議 予稿集」 発行者 :公益社団法人日本道路協会 発行日 :2021年11月4日 刊行物名: 「令和3年度土木学会全国大会第76回年次学術講演会 予稿集」 発行者 :公益社団法人土木学会 発行日 :2021年9月8日 刊行物名: 「日本保全学会 第17回学術講演会 要旨集」 発行者 :一般社団法人 日本保全学会 発行日 :2021年7月6日 集会名: 「第13回インフラ先端技術コンソーシアム トンネル分科会」 主催者 :インフラ先端技術コンソーシアム 開催日 :2021年11月9日
(71)【出願人】
【識別番号】000165697
【氏名又は名称】原子燃料工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 敏
(72)【発明者】
【氏名】礒部 仁博
(72)【発明者】
【氏名】松永 嵩
(72)【発明者】
【氏名】藤吉 宏彰
【テーマコード(参考)】
2D155
2G047
【Fターム(参考)】
2D155LA15
2D155LA16
2G047AA10
2G047BC04
2G047CA03
2G047EA10
(57)【要約】
【課題】背面空洞の発生状況および補修状況を非破壊、高い精度で診断できるコンクリート背面空洞診断方法を提供する。
【解決手段】打音検査を用いて施工コンクリートの振動波形を計測し振動波形を周波数解析することにより振動波形の周波数分布を取得する打音検査ステップと、周波数分布を評価した結果に基づいて背面空洞の発生状況を判定する評価ステップとが設けられており、打音検査ステップにおいて、シャープな周波数ピークが計測されなかった場合には背面空洞なしと判定する一方、シャープな周波数ピークが計測された場合には、シャープな周波数ピークが計測された点を起点として少なくとも1方向に複数点の連続的な計測を実施し、複数点の連続的な計測の結果起点から離れるに従い周波数ピークが急激にブロードになったときは背面空洞なしと判定し、次第にブロードになったときは背面空洞が発生していると判定するコンクリート背面空洞診断方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
施工コンクリートにおける背面空洞の発生状況を診断するコンクリート背面空洞診断方法であって、
デジタル打音検査を用いて前記施工コンクリートの振動波形を計測し、前記振動波形を周波数解析することにより、前記振動波形の周波数分布を取得する打音検査ステップと、
取得された周波数分布を評価し、評価結果に基づいて背面空洞の発生状況を判定する評価ステップとが設けられており、
前記打音検査ステップにおいて、シャープな周波数ピークが計測されなかった場合には、背面空洞なしと判定する一方、
シャープな周波数ピークが計測された場合には、シャープな周波数ピークが計測された測定点を起点として少なくとも1方向に複数点の連続的な計測を実施し、
前記複数点の連続的な計測の結果、測定点が前記起点から離れるに従い前記周波数ピークが、急激にブロードになったときは、背面空洞なしと判定し、
次第にブロードになったときは、前記起点の背面部分に背面空洞が発生していると判定することを特徴とするコンクリート背面空洞診断方法。
【請求項2】
施工コンクリートにおける背面空洞の発生状況を診断するコンクリート背面空洞診断方法であって、
デジタル打音検査を用いて前記施工コンクリートの振動波形を計測し、前記振動波形を周波数解析することにより、前記振動波形の周波数分布を取得する打音検査ステップと、
取得された周波数分布を評価し、評価結果に基づいて背面空洞の発生状況を判定する評価ステップとが設けられており、
前記打音検査ステップにおいて、シャープな周波数ピークが計測されなかった場合には、背面空洞なしと判定する一方、
シャープな周波数ピークが計測された場合には、シャープな周波数ピークが計測された測定点を起点として少なくとも1方向に複数点の連続的な計測を実施し、
前記複数点の連続的な計測の結果、異なる周波数帯にそれぞれシャープな周波数ピークが計測された場合、
測定点が低周波数帯の周波数ピークが計測された測定点から離れるに従って、高周波数帯の周波数ピークが、急激にシャープになったときには、背面空洞なしと判定し、
次第にシャープになったときには、前記低周波数帯の周波数ピークが計測された測定点の背面部分に背面空洞が発生していると判定することを特徴とするコンクリート背面空洞診断方法。
【請求項3】
施工コンクリートにおける背面空洞の発生状況を診断するコンクリート背面空洞診断方法であって、
前記背面空洞の発生位置を想定する背面空洞発生位置想定ステップと、
デジタル打音検査を用いて前記施工コンクリートの振動波形を計測し、前記振動波形を周波数解析することにより前記振動波形の周波数分布を取得する打音検査ステップと、
取得された周波数分布を評価し、評価結果に基づいて背面空洞の発生状況を判定する評価ステップとが設けられており、
背面空洞発生位置想定ステップは、前記施工コンクリートの施工方法に基づいて背面空洞発生位置を想定し、
前記発生位置想定ステップで前記背面空洞が地盤側に発生すると想定された場合、
前記打音検査ステップにおいて、シャープな周波数ピークが計測されなかったときには、背面空洞なしと判定し、
シャープな周波数ピークが計測されたときには、シャープな周波数ピークが計測された測定点を起点とし、少なくとも1方向に複数点の連続的な計測を実施し、
前記複数点の連続的な計測の結果、測定点が前記起点から離れるに従って周波数ピークが急激にブロードになったときは、背面空洞なしと判定し、
周波数ピークが次第にブロードになったときは、前記起点の背面部分の地盤側に背面空洞が発生していると判定することを特徴とするコンクリート背面空洞診断方法。
【請求項4】
施工コンクリートにおける背面空洞の発生状況を診断するコンクリート背面空洞診断方法であって、
前記背面空洞の発生位置を想定する背面空洞発生位置想定ステップと、
デジタル打音検査を用いて前記施工コンクリートの振動波形を計測し、前記振動波形を周波数解析することにより前記振動波形の周波数分布を取得する打音検査ステップと、
取得された周波数分布を評価し、評価結果に基づいて背面空洞の発生状況を判定する評価ステップとが設けられており、
背面空洞発生位置想定ステップは、前記施工コンクリートの施工方法に基づいて背面空洞発生位置を想定し、
前記背面空洞発生位置想定ステップで前記背面空洞が施工コンクリート側に発生すると想定された場合、
前記打音検査ステップにおいて、たわみ振動が計測されなかったときには、背面空洞なしと判定し、
たわみ振動が計測されたときには、たわみ振動が計測された測定点を起点とし、少なくとも1方向に複数点の連続的な計測を実施し、
複数点の連続的な計測の結果、前記起点に近づくに従ってたわみ振動が次第に支配的になったときは、前記起点の背面部分の施工コンクリート側に背面空洞が発生していると判定することを特徴とするコンクリート背面空洞診断方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のコンクリート背面空洞診断方法において、背面空洞が発生していると判定された場合、
測定点を背面空洞が発生していると判定された前記測定点から、複数方向にシャープな周波数ピークまたはたわみ振動が計測されない位置にまで広げることにより、前記背面空洞の面的な広がりの大きさを計測することを特徴とするコンクリート背面空洞診断方法。
【請求項6】
背面空洞の面的な広がりの大きさと深さとの関係を予めデータベースにしておき、請求項5に記載のコンクリート背面空洞診断方法において計測された背面空洞の面的な広がりの大きさを基に、背面空洞の深さを推定することを特徴とするコンクリート背面空洞診断方法。
【請求項7】
請求項5に記載のコンクリート背面空洞診断方法において計測された背面空洞の面的な広がりの大きさと、請求項6に記載のコンクリート背面空洞診断方法において推定された背面空洞の深さとに基づいて、背面空洞の体積を推定することを特徴とするコンクリート背面空洞診断方法。
【請求項8】
背面空洞有りと判定された後、前記背面空洞に充填材を充填することにより補修された背面空洞の補修状況を診断するコンクリート背面空洞診断方法であって、
デジタル打音検査を用いて前記施工コンクリートの振動波形を計測し、前記振動波形を周波数解析することにより前記振動波形の周波数分布を取得する打音検査ステップと、
取得された周波数分布を評価し、評価結果に基づいて前記充填材の充填度合いを判定する評価ステップとが設けられており、
前記評価ステップは、補修箇所の打音検査で取得された周波数分布のコンクリート板厚の縦波共振の周波数ピークのシャープさに基づいて、前記充填度合いを判定することを特徴とするコンクリート背面空洞診断方法。
【請求項9】
背面空洞有りと判定された後、前記背面空洞に充填材を充填することにより補修された背面空洞の補修状況を診断するコンクリート背面空洞診断方法であって、
デジタル打音検査を用いて前記施工コンクリートの振動波形を計測し、前記振動波形を周波数解析することにより前記振動波形の周波数分布を取得する打音検査ステップと、
取得された周波数分布を評価し、評価結果に基づいて前記充填材の充填度合いを判定する評価ステップとが設けられており、
前記評価ステップは、補修箇所の打音検査で取得された周波数分布のたわみ振動の周波数ピークのシャープさに基づいて、前記充填度合いを判定することを特徴とするコンクリート背面空洞診断方法。
【請求項10】
打音検査の振動特性の取得手段として、AEセンサ、マイクロフォン、加速度センサのいずれかを用いることを特徴とする請求項1ないし請求項4、請求項8、請求項9のいずれか1項に記載のコンクリート背面空洞診断方法。
【請求項11】
振動波形の周波数解析手段として、高速フーリエ(FFT)解析、ウェーブレット解析、短時間FFT解析のいずれかを用いることを特徴とする請求項1ないし請求項4、請求項8、請求項9のいずれか1項に記載のコンクリート背面空洞診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート背面空洞診断方法に関し、より詳しくは、トンネルや擁壁の地盤の表面を覆う覆工コンクリートや路面を覆うコンクリートなどにおける背面空洞の発生状況および補修状況を非破壊で診断するコンクリート背面空洞診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルや擁壁などで地山および地盤(以下、これらを総称して「地盤」ともいう)を覆う覆工コンクリートと地盤の表面との間には、背面空洞と称される空洞が発生する場合がある。例えば、トンネルでは、覆工コンクリートを打設する時に背面空洞が生じる場合がある。また、経年的な風化、地下水により地山が流出して、背面空洞が発生する場合もある。
【0003】
また、トンネル周辺地山の地下水の水位が路面よりも高いと、コンクリート舗装された路面の下が地下水で満たされ、重交通の走行による舗装板の振動によって、路面の裏側で液状化を発生することがある。この液状化は、細粒分の中央排水孔への流出を招いて、コンクリート舗装の路面下に背面空洞(「路面下空洞」ともいわれる)を発生させる。
【0004】
このような背面空洞が広く厚く存在すると、土圧が均等に覆工コンクリートに作用せず覆工コンクリートの変形を招く、周辺地山の緩みが増大し土圧が増す、地震発生時等に上部の岩塊が落下するなどし、程度によっては、突発性崩壊事故が発生するなどの問題が生じる。そして、このような背面空洞は、トンネル周辺地山以外のコンクリート舗装道路においても発生し、施工コンクリートにおいて問題となっている。
【0005】
そこで、従来より、背面空洞の発生状況を非破壊で調べることが提案されている。
【0006】
例えば、検査対象に弾性波を入射することによって生じる、反射エコーや波の周波数、位相などを用いる方法(例えば、特許文献1、2)、検査対象を打撃した時の対象物の共振振動及びたわみ振動を用いる方法(例えば、特許文献1)、画像機器、赤外線検出器、電磁波レーダの3つの計測機器を併用する方法(例えば、特許文献3)、赤外線熱画像を解析することによって得られる検査対象の表面温度挙動を用いる方法(例えば、特許文献4)など、種々の診断方法が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-286619号公報
【特許文献2】特開2020-56688号公報
【特許文献3】特開2002-257744号公報
【特許文献4】特開平10-10064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記した従来の検査技術では、高い精度の検査ができているとは言えなかった。例えば、背面空洞は、目視点検や画像機器を用いた観察では検知できず、従来の打音検査でも検出できない。また、赤外線による検出には温度変化が必要なため、適用時期が限定され、且つ、検出可能な深さは、5cm程度が限界である。また、電磁波レーダは、鉄筋が密な箇所、背面空洞に水が滞留する箇所、あるいは剥落防止用シート等が施工された箇所には適用できない、もしくは十分な計測精度が得られない。
【0009】
そこで、本発明は、施工箇所、診断対象部位、診断時期の制約を受けること無く、背面空洞の発生状況および補修状況を非破壊で、かつ高い精度で診断することのできるコンクリート背面空洞診断方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討を行った結果、以下に記載する発明により上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
請求項1に記載の発明は、
施工コンクリートにおける背面空洞の発生状況を診断するコンクリート背面空洞診断方法であって、
デジタル打音検査を用いて前記施工コンクリートの振動波形を計測し、前記振動波形を周波数解析することにより、前記振動波形の周波数分布を取得する打音検査ステップと、
取得された周波数分布を評価し、評価結果に基づいて背面空洞の発生状況を判定する評価ステップとが設けられており、
前記打音検査ステップにおいて、シャープな周波数ピークが計測されなかった場合には、背面空洞なしと判定する一方、
シャープな周波数ピークが計測された場合には、シャープな周波数ピークが計測された測定点を起点として少なくとも1方向に複数点の連続的な計測を実施し、
前記複数点の連続的な計測の結果、測定点が前記起点から離れるに従い前記周波数ピークが、急激にブロードになったときは、背面空洞なしと判定し、
次第にブロードになったときは、前記起点の背面部分に背面空洞が発生していると判定することを特徴とするコンクリート背面空洞診断方法である。
【0012】
請求項2に記載の発明は、
施工コンクリートにおける背面空洞の発生状況を診断するコンクリート背面空洞診断方法であって、
デジタル打音検査を用いて前記施工コンクリートの振動波形を計測し、前記振動波形を周波数解析することにより、前記振動波形の周波数分布を取得する打音検査ステップと、
取得された周波数分布を評価し、評価結果に基づいて背面空洞の発生状況を判定する評価ステップとが設けられており、
前記打音検査ステップにおいて、シャープな周波数ピークが計測されなかった場合には、背面空洞なしと判定する一方、
シャープな周波数ピークが計測された場合には、シャープな周波数ピークが計測された測定点を起点として少なくとも1方向に複数点の連続的な計測を実施し、
前記複数点の連続的な計測の結果、異なる周波数帯にそれぞれシャープな周波数ピークが計測された場合、
測定点が低周波数帯の周波数ピークが計測された測定点から離れるに従って、高周波数帯の周波数ピークが、急激にシャープになったときには、背面空洞なしと判定し、
次第にシャープになったときには、前記低周波数帯の周波数ピークが計測された測定点の背面部分に背面空洞が発生していると判定することを特徴とするコンクリート背面空洞診断方法である。
【0013】
請求項3に記載の発明は、
施工コンクリートにおける背面空洞の発生状況を診断するコンクリート背面空洞診断方法であって、
前記背面空洞の発生位置を想定する背面空洞発生位置想定ステップと、
デジタル打音検査を用いて前記施工コンクリートの振動波形を計測し、前記振動波形を周波数解析することにより前記振動波形の周波数分布を取得する打音検査ステップと、
取得された周波数分布を評価し、評価結果に基づいて背面空洞の発生状況を判定する評価ステップとが設けられており、
背面空洞発生位置想定ステップは、前記施工コンクリートの施工方法に基づいて背面空洞発生位置を想定し、
前記発生位置想定ステップで前記背面空洞が地盤側に発生すると想定された場合、
前記打音検査ステップにおいて、シャープな周波数ピークが計測されなかったときには、背面空洞なしと判定し、
シャープな周波数ピークが計測されたときには、シャープな周波数ピークが計測された測定点を起点とし、少なくとも1方向に複数点の連続的な計測を実施し、
前記複数点の連続的な計測の結果、測定点が前記起点から離れるに従って周波数ピークが急激にブロードになったときは、背面空洞なしと判定し、
周波数ピークが次第にブロードになったときは、前記起点の背面部分の地盤側に背面空洞が発生していると判定することを特徴とするコンクリート背面空洞診断方法である。
【0014】
請求項4に記載の発明は、
施工コンクリートにおける背面空洞の発生状況を診断するコンクリート背面空洞診断方法であって、
前記背面空洞の発生位置を想定する背面空洞発生位置想定ステップと、
デジタル打音検査を用いて前記施工コンクリートの振動波形を計測し、前記振動波形を周波数解析することにより前記振動波形の周波数分布を取得する打音検査ステップと、
取得された周波数分布を評価し、評価結果に基づいて背面空洞の発生状況を判定する評価ステップとが設けられており、
背面空洞発生位置想定ステップは、前記施工コンクリートの施工方法に基づいて背面空洞発生位置を想定し、
前記背面空洞発生位置想定ステップで前記背面空洞が施工コンクリート側に発生すると想定された場合、
前記打音検査ステップにおいて、たわみ振動が計測されなかったときには、背面空洞なしと判定し、
たわみ振動が計測されたときには、たわみ振動が計測された測定点を起点とし、少なくとも1方向に複数点の連続的な計測を実施し、
複数点の連続的な計測の結果、前記起点に近づくに従ってたわみ振動が次第に支配的になったときは、前記起点の背面部分の施工コンクリート側に背面空洞が発生していると判定することを特徴とするコンクリート背面空洞診断方法である。
【0015】
請求項5に記載の発明は、
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のコンクリート背面空洞診断方法において、背面空洞が発生していると判定された場合、
測定点を背面空洞が発生していると判定された前記測定点から、複数方向にシャープな周波数ピークまたはたわみ振動が計測されない位置にまで広げることにより、前記背面空洞の面的な広がりの大きさを計測することを特徴とするコンクリート背面空洞診断方法である。
【0016】
請求項6に記載の発明は、
背面空洞の面的な広がりの大きさと深さとの関係を予めデータベースにしておき、請求項5に記載のコンクリート背面空洞診断方法において計測された背面空洞の面的な広がりの大きさを基に、背面空洞の深さを推定することを特徴とするコンクリート背面空洞診断方法である。
【0017】
請求項7に記載の発明は、
請求項5に記載のコンクリート背面空洞診断方法において計測された背面空洞の面的な広がりの大きさと、請求項6に記載のコンクリート背面空洞診断方法において推定された背面空洞の深さとに基づいて、背面空洞の体積を推定することを特徴とするコンクリート背面空洞診断方法である。
【0018】
請求項8に記載の発明は、
背面空洞有りと判定された後、前記背面空洞に充填材を充填することにより補修された背面空洞の補修状況を診断するコンクリート背面空洞診断方法であって、
デジタル打音検査を用いて前記施工コンクリートの振動波形を計測し、前記振動波形を周波数解析することにより前記振動波形の周波数分布を取得する打音検査ステップと、
取得された周波数分布を評価し、評価結果に基づいて前記充填材の充填度合いを判定する評価ステップとが設けられており、
前記評価ステップは、補修箇所の打音検査で取得された周波数分布のコンクリート板厚の縦波共振の周波数ピークのシャープさに基づいて、前記充填度合いを判定することを特徴とするコンクリート背面空洞診断方法である。
【0019】
請求項9に記載の発明は、
背面空洞有りと判定された後、前記背面空洞に充填材を充填することにより補修された背面空洞の補修状況を診断するコンクリート背面空洞診断方法であって、
デジタル打音検査を用いて前記施工コンクリートの振動波形を計測し、前記振動波形を周波数解析することにより前記振動波形の周波数分布を取得する打音検査ステップと、
取得された周波数分布を評価し、評価結果に基づいて前記充填材の充填度合いを判定する評価ステップとが設けられており、
前記評価ステップは、補修箇所の打音検査で取得された周波数分布のたわみ振動の周波数ピークのシャープさに基づいて、前記充填度合いを判定することを特徴とするコンクリート背面空洞診断方法である。
【0020】
請求項10に記載の発明は、
打音検査の振動特性の取得手段として、AEセンサ、マイクロフォン、加速度センサのいずれかを用いることを特徴とする請求項1ないし請求項4、請求項8、請求項9のいずれか1項に記載のコンクリート背面空洞診断方法である。
【0021】
請求項11に記載の発明は、
振動波形の周波数解析手段として、高速フーリエ(FFT)解析、ウェーブレット解析、短時間FFT解析のいずれかを用いることを特徴とする請求項1ないし請求項4、請求項8、請求項9のいずれか1項に記載のコンクリート背面空洞診断方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、施工箇所、診断対象部位、診断時期の制約を受けること無く、背面空洞の発生状況および補修状況を非破壊で、かつ高い精度で診断することのできるコンクリート背面空洞診断方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の1実施の形態のコンクリート背面空洞診断方法の手順を示すフロー図である。
図2】振動波形の1例を示す図である。
図3】周波数ピークのシャープさの判定方法の1例を示す図である。
図4】本発明の他の1実施の形態のコンクリート背面空洞診断方法の手順を示すフロー図である。
図5】(a)は、ケース1で背面空洞が無い箇所における周波数分布の1例を示す図であり、(b)は、同箇所の覆工コンクリートの縦波共振を示す図である。
図6】(a)は、ケース1で背面空洞が有る箇所における周波数分布の1例を示す図であり、(b)は、同箇所の覆工コンクリートの縦波共振を示す図である。
図7】(a)は、ケース1におけるコンクリート背面空洞診断方法を説明する図であり、(b)は、同診断方法で取得された周波数分布の1例を示す図である。
図8】(a)は、ケース2で背面空洞が無い箇所における周波数分布の1例を示す図であり、(b)は、同箇所の覆工コンクリートの縦波共振を示す図である。
図9】(a)は、ケース2で背面空洞が有る箇所における周波数分布の1例を示す図であり、(b)は、同箇所の覆工コンクリートの縦波共振を示す図である。
図10】(a)は、ケース2におけるコンクリート背面空洞診断方法を説明する図であり、(b)は、同診断方法で取得された周波数分布の1例を示す図である。
図11】(a)は、背面空洞への充填材の充填度合いの評価方法を説明する図であり、(b)は、同評価方法で取得された充填材充填箇所の周波数分布を示す図である。
図12】(a)は、ケース1におけるコンクリート背面空洞診断方法を説明する図であり、(b)は、同診断方法で取得された周波数分布図である。
図13】(a)は、ケース2におけるコンクリート背面空洞診断方法を説明する図であり、(b)は、同診断方法で取得された周波数分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。
【0025】
[1]背面空洞診断方法の概要
本発明のコンクリート背面空洞診断方法(以下、単に「背面空洞診断方法」ともいう)は、デジタル打音検査、即ち、診断対象を打撃することによって発生させた振動の振動波形を周波数解析することにより振動の周波数分布を取得し、取得した周波数分布に基づいて背面空洞の発生状況を診断する。これにより、後述するように、診断対象が施工されている場所、診断対象部位、診断時期の制約を受けることなく、背面空洞の発生状況を非破壊、かつ高い精度で診断することができる。
【0026】
本発明者等は、背面空洞が発生した施工コンクリートにおいては、工法の如何を問わずコンクリート板厚方向の縦波共振によるシャープな周波数ピークが計測されること、そして、シャープな周波数ピークが計測されるケースとしては、背面空洞が発生しているケースの他に、施工コンクリートに浮き、あるいは剥離が発生しているケース、または背面空洞、浮き、剥離の何れも発生していないケースが挙げられるが、背面空洞発生に伴う振動の挙動は、これら他のケースとは異なっている点に着目した。
【0027】
即ち、背面空洞が発生したことによって計測されるシャープな周波数ピークは、測定点がシャープな周波数ピークが計測された測定点から離れるに従って次第にブロードになる。また、背面空洞が発生した場合、測定点がシャープな周波数ピークが計測された点から離れた測定点で、異なる周波数帯に、前記測定点から離れるに従って次第にシャープになる周波数ピークが計測される。本発明者等は、このような挙動の差に基づけば、背面空洞発生による周波数ピークを他のケースにおける周波数ピークと識別することができることに思い至り、本発明を完成するに至った。
【0028】
[2]背面空洞診断方法の詳細
以下、第1~第4の実施の形態を挙げて、背面空洞診断方法の詳細について説明する。なお、以下では、トンネルにおいて施工されたコンクリート(覆工コンクリート)における背面空洞の発生を例に挙げて説明しているが、コンクリート舗装道路における背面空洞の発生についても同様に考えることができる。
【0029】
1.第1の実施の形態
図1は、第1の実施の形態の背面空洞診断方法における背面空洞の有無の診断の手順を示すフロー図である。
【0030】
(1)打音検査ステップ
a.振動波形の取得
まず、覆工コンクリート表面への打撃(加振)により発生した振動波形を取得する。具体的には、診断対象の覆工コンクリートの表面の所定の箇所に、センサを取り付けた後、ハンマを用いて打撃することにより加振を加え、この加振に応じて生じた衝撃弾性波の振動波形をセンサにより取得する。
【0031】
取得された振動波形の一例を図2に示す。なお、図2において、横軸は加振開始からの経過時間(Time:ms)、縦軸は振幅(Amplitude:mV)である。
【0032】
なお、打撃に使用する治具としては、打音点検用に一般的に用いられており、重さも軽く、持ち運びに便利なテストハンマが好ましいが、プラスチックハンマ、ゴムハンマ、木ハンマ、鉄ハンマなど、対象に振動を与えることができて振動波形が取得可能なハンマであれば、テストハンマに替えて使用してもよい。また、ハンマに替えて、鉄球を用いて打音してもよい。
【0033】
また、センサとしては、AE(Acoustic Emission)センサ、振動を取得可能な加速度センサ、マイクロフォン等が用いられる。これらのセンサは、安価である上に、取り扱いが容易であり、測定に特別のスキルを必要としない。また、多くの使用実績があり、信頼性が高い。中でも、AEセンサ、加速度センサは、測定対象に接触させて使用することができ、測定結果が周辺環境の影響を受けにくいため、雑音が発生しやすいトンネルや舗装道路を対象とする場合には、AEセンサ、加速度センサを用いることによって、より高い精度で測定を行うことができる。
【0034】
b.周波数分布取得
次に、得られた振動波形の周波数解析を行い、振動強度の周波数分布を取得する。周波数解析に、高速フーリエ(FFT)解析、ウェーブレット解析、短時間FFT解析を適用した場合には、信号強度に依らない解析結果を得ることができ、信頼性の高い周波数分布を取得することができる。
【0035】
(2)評価ステップ
まず、取得された周波数分布にシャープな周波数ピークが計測されているか否かを評価する。計測された周波数ピークがシャープであるか否かは、例えば、ピークの半値幅、ピーク面積をファクターとして、あるいは、図3に示すように振動強度にしきい値を設定し、このしきい値における周波数ピークの幅、即ち、周波数範囲をファクターとして、公知の方法、例えば、背面空洞有りの場合、無しの場合、それぞれについて予め取得した上記ファクターに関する複数のデータに基づいて判断することができる。
【0036】
具体的には、取得したファクターについてのデータをクラスタリング解析し、解析結果に基づいて判断する。あるいは、前記ファクターにしきい値を設定し、診断対象の測定値がしきい値との比較においてシャープであるための条件を満たしているか否かで判断する。例えば、半値幅、しきい値におけるピークの幅については、しきい値以下である場合にシャープと判定し、ピーク面面積については、しきい値以上である場合にシャープであると判定する。
【0037】
なお、周波数分布の評価でシャープな周波数ピークが計測されなかった場合には、背面空洞なしと判定する。
【0038】
一方、シャープな周波数ピークが計測された場合には、シャープな周波数ピークが計測された点を起点として、少なくとも1方向に複数点の連続的な測定を実施し、それぞれの測定点における周波数分布を取得する。
【0039】
前記複数点の連続的な測定の結果、測定点が前記起点から離れるに従い前記周波数ピークが、急激にブロードになったとき、前記周波数ピークは浮き、剥離の発生によるものであり、背面空洞なしと判定する。一方、次第にブロードになったとき、背面空洞が発生していると判定する。
【0040】
そして、前記複数点の連続的な測定の結果、元の周波数ピークとは異なる周波数帯に発生した周波数ピークが急激にシャープになった場合には、背面空洞の発生はないが、浮き、剥離が発生していると判定する。
【0041】
一方、前記複数点の連続的な測定の結果、シャープな周波数ピークが計測され、測定点から離れるに従って元の周波数ピークとは異なる周波数帯に次第にシャープになる周波数ピークが現れたときは、背面空洞ありと判定する。
【0042】
なお、上記複数点の連続的な測定において測定点の数は、3点以上が好ましく4点以上がより好ましい。また、測定点の間隔は、診断対象の大きさなどに応じて適宜決定される。また最初は間隔を大きく設定し、シャープからブロードへの変化またはブロードからシャープに変化した間で、間隔を小さく設定することで確実に変化のスピードが緩やかか、急激かを判定することができる。なお、この判定は、前記と同様に、しきい値を設定して行う。
【0043】
2.第2の実施の形態
背面空洞の発生位置は、「地盤側」、即ち、地盤のコンクリートとの対向面に空洞が生じているケース1と、「覆工コンクリート側」、即ち、覆工コンクリートの地盤との対向面に空洞が生じているケース2とに区分される。
【0044】
本実施の形態のコンクリート背面空洞診断方法は、先ず、背面空洞が発生すると仮定した場合、背面空洞の発生位置、具体的には、背面空洞が「地盤側」と「覆工コンクリート側」のいずれに発生するかを想定する背面空洞発生位置想定ステップが設けられており、想定される背面空洞の発生位置に応じて診断を進める点において、第1の実施の形態と相違する。
【0045】
(1)背面空洞発生位置想定ステップ
ここでは、前記したように、「地盤側」、即ち、地盤のコンクリートとの対向面に空洞が発生しているケースをケース1とし、「覆工コンクリート側」、即ち、覆工コンクリートの地盤との対向面に空洞が発生しているケースをケース2とする。ケース1の場合は、背面空洞の発生位値にコンクリート板厚の縦波共振による周波数ピークが計測される。一方、ケース2の場合は、背面空洞の発生位置でたわみ振動が発生するため、さらに、たわみ振動の有無とその挙動について調べ、その結果に基づいて背面空洞の発生状況を診断する。
【0046】
ケース1とケース2のどちらに区分されるかは、覆工コンクリートの施工工法によって決まる。施工工法には、在来工法の矢板工法と近年主流になっているNATM工法(New Austrian Tunneling Method:新オーストリアトンネル工法)とがあり、矢板工法で施工された覆工コンクリートの場合は、ケース1に区分され、NATM工法で施工された覆工コンクリートの場合は、ケース2に区分され、背面空洞の発生位置は、覆工コンクリートの施工工法によって想定することができる。そして、施工方法は、施工記録から識別することが可能である。
【0047】
(2)打音検査ステップ
図4は、本実施の形態のコンクリート背面空洞診断方法の手順を示すフロー図である。まず、第1の実施の形態と同じ方法を用いて覆工コンクリート表面への打撃(加振)により発生した振動波形を取得し、次に、得られた振動波形の周波数解析を行い、振動波形の周波数分布を取得する。なお、本ステップの実施方法は、ケース1、ケース2に共通である。
【0048】
(3)評価ステップ
次に、取得した周波数分布の評価を行い、背面空洞の発生状況を判定する。なお、本ステップは、ケース1とケース2で実施方法が異なる。以下、ケース1とケース2に分けて説明する。
【0049】
(a)ケース1の場合
まず、取得された周波数分布が、シャープな周波数ピークが計測されているか否かを評価する。そして、周波数分布がブロードでシャープな周波数ピークが計測されていない場合には、背面空洞なしと判定する。なお、周波数ピークがシャープか否かは、第1の実施の形態と同じ方法を用いて判定する。
【0050】
図5(a)に、ケース1において背面空洞が無いときの周波数分布の1例を示す。図5(a)に示すように、背面空洞が無いときにはブロードな周波数分布となる。即ち、打撃によりコンクリート板厚の縦波共振が発生するが、矢板工法で施工された覆工コンクリートは、背面が地盤と直接接触しているため、背面空洞が無い場合には、板厚方向の振動が抑制される。また、打撃によって発生させた板厚方向の共振振動のエネルギーは、図5(b)に示すように、地山に伝播することによって振動強度が低下する。このため、覆工コンクリートの表面では振動が計測されない、あるいは、周波数ピークの高さが低くなる。これにより、シャープな周波数ピークが無く、ブロードな周波数分布が観測された箇所には、背面空洞が存在していないと判定することができる。
【0051】
一方、シャープな周波数ピークが有ると判断された場合、背面空洞が存在する可能性有りと判定し、次のステップへ進む。
【0052】
図6(a)に、シャープな周波数ピークを有する周波数分布の1例を示す。このようなシャープな周波数ピークを有する周波数分布となるのは、下記の(式1)で与えられる固有周波数f(Hz)を有するコンクリート板厚の縦波共振による周波数ピークが計測されたためである。この周波数ピークが計測されたことにより、図6(b)に示すような背面空洞が存在している可能性が示唆される。
【0053】
【数1】
【0054】
一方、縦波共振による周波数ピークは、コンクリート板厚の縦波共振に限られず、たわみ振動によっても計測される。このたわみ振動は、コンクリート内に浮き、剥離が生じることにより、覆工コンクリート内に空洞が形成されている場合に発生する。このため、縦波共振による周波数ピークが、背面空洞によるものか、浮き、剥離によるものかを識別する必要がある。
【0055】
たわみ振動の固有周波数f(Hz)は、下記の(式2)で与えられ、通常はコンクリート板厚の縦波共振の固有周波数よりも低周波数であるが、両者の周波数が近い場合があり、確実に識別することは難しい。
【0056】
【数2】
【0057】
そこで、縦波共振によるシャープな周波数ピークが計測された場合には、測定点を縦波共振によるシャープな周波数ピークが計測された位置を起点として、少なくとも1方向にシャープな周波数ピークが計測されない位置にまで広げ、前記方向に沿って測定点を所定の間隔で移動させながら連続的に周波数分布を取得する。
【0058】
そして、測定点が起点から離れるに従って周波数ピークが徐々にブロードになる(ブロードになる傾向が緩やか)か否かを判定する。その結果、急激にブロードになっている場合には、背面空洞ではなく、コンクリートに浮きまたは剥離があると判定する。一方、徐々にブロードになった場合には、背面空洞有りと判定する。
【0059】
図7(a)に地盤側に背面空洞が有り、かつ、浮き、剥離箇所も存在するコンクリート構造物の例を示す。図7(a)において、シャープな周波数ピーク計測された測定点dおよびhを起点として、シャープな周波数ピーク観測されない位置にまで計測範囲を広げる。具体的には、測定点dに対しては、測定点dから測定点aに向かって、c、b、aの順に測定点を移動させながら、連続的に周波数分布を取得する。同様に、測定点hに対しては、測定点hから測定点eに向かって、g、f、eの順に測定点を移動させながら、連続的に周波数分布を取得する。
【0060】
図7(b)に各測定点で取得された周波数分布を示す。図7(b)より、測定点をdからaに向けて移動させた場合には、測定点d、c、bでは、縦波共振による周波数ピークが計測され、測定点が移動するに従って、振動強度および周波数ピークが徐々にブロードになっていくことが分かる。一方、測定点をhからeに向けて移動させた場合には、測定点h、gでは、縦波共振によるシャープな周波数ピークが計測されているが、gからfに移動したとき、突然、シャープな周波数ピークが消失していることが分かる。
【0061】
この結果より、以下のように結論付けられると考えられる。即ち、測定点b、cにおいてややシャープな縦波共振が計測されたのは、測定点dにおける縦波共振がb、cにまで及んだ結果と考えることができ、測定点aからdに至るまでの範囲には覆工コンクリートの板厚に変動がない、即ち、覆工コンクリートの内部に空洞が無いことを示している。
【0062】
一方、測定点gからfに移動したときの周波数ピークの急激な変化は、縦波共振が計測される範囲が局所的であり、周囲にまで及ぶことがなく、測定点gからhにかけて覆工コンクリートの板厚が極端に小さくなって、浮き、剥離による空洞が覆工コンクリートの内部に生じていることを示している。このように、周波数分布の傾向の差により、背面空洞と浮き、剥離とを明確に識別することができる。
【0063】
(b)ケース2の場合
ケース2の場合、即ち、覆工コンクリート側に背面空洞が発生していると想定される場合、背面空洞が発生すると、背面空洞の発生箇所ではたわみ振動が発生する。このため、まず取得された周波数分布に、たわみ振動が有るか否かを評価する。そして、たわみ振動が無い場合、背面空洞無しと判定する。
【0064】
なお、ケース2の場合、計測された周波数ピークがたわみ振動であるか否かは、後述するように、振動の周波数によって判定することができる。
【0065】
図8(a)に、ケース2において背面空洞が無いときの周波数分布の1例を示す。背面空洞が無い場合には、図8(a)に示すように、コンクリート板厚の縦波共振周波数にのみ周波数ピークが計測される。これは、NATM工法で施工された覆工コンクリートは、図8(b)に示すように打設コンクリートの背面に、吹付コンクリート層、その上に防水シートが一般に設けられており、吹付コンクリート層および防水シートが存在することによって、板厚方向の振動が抑制されず、また、打撃によって発生した板厚方向の共振振動のエネルギーが地盤に伝播されないからである。
【0066】
これに対して、覆工コンクリート側に背面空洞が存在する箇所では、図9(a)に示すように、たわみ振動の共振周波数に周波数ピークを有する一方、コンクリート板厚の縦波共振周波数に周波数ピークが無い周波数分布が取得される。これは、図9(b)に示すように、背面空洞が存在する部分では局部的に覆工コンクリートの板厚が小さいために、たわみ振動が発生すると考えることができ、たわみ振動の周波数ピークが支配的な周波数分布が取得された場合、コンクリート側に背面空洞が存在する可能性があると考えられる。
【0067】
なお、コンクリート板厚の縦波共振と背面空洞発生によるたわみ振動とは、周波数の違いにより容易に区別することができる。即ち、ケース2の場合、たわみ振動は、周波数がコンクリート板厚の縦波共振より低く、両者の間には大きな開きがある。例えば、図8(a)に示すように、コンクリート板厚の縦波共振の周波数は8000Hzであるのに対して、たわみ振動の場合は、図9(a)に示すように1000Hzと極端に低くなっている。
【0068】
一方、前記したように、たわみ振動は、コンクリート内部に形成された空洞によっても発生する。このため、たわみ振動が支配的な周波数分布が取得された場合には、前記のように背面空洞が存在する可能性有りと判定した上で次のステップへと進む。
【0069】
次のステップでは、測定点をたわみ振動の周波数ピークが有りと評価された測定点から少なくとも1方向にたわみ振動の周波数ピークが計測されない位置にまで広げ、前記方向に沿ってたわみ振動の周波数ピークが計測されない位置からたわみ振動の周波数ピークが有りと評価された測定点に向かって、所定の間隔で複数箇所の連続的な打音検査を実施し、各測定点における周波数分布からたわみ振動が支配的になる傾向が緩やかか否かを評価する。そして、この傾向が緩やかである場合に背面空洞有りと判定する。
【0070】
図10(a)に覆工コンクリート側に背面空洞が有り、かつ、浮き、剥離箇所が有るコンクリート構造物の例を示す。図10(a)において、たわみ振動の周波数ピークが支配的な測定点dおよびhからたわみ振動が計測されていない位置にまで計測範囲を広げ、測定点dに対しては、コンクリート板厚の縦波共振のみが計測された測定点aから測定点dに向けて測定点を移動させながら連続的に周波数分布を取得する。同様に、測定点hに対しては、コンクリート板厚の縦波共振のみが計測された測定点eから測定点hに向けて測定点を移動させながら連続的に周波数分布を取得する。
【0071】
図10(b)に各測定点で取得された周波数分布を示す。測定点をaからdに向けて移動させると、測定点b、c、dでコンクリート板厚の縦波共振の周波数ピークが徐々に小さくなり、一方、たわみ振動の周波数ピークが徐々に大きくなっている。即ち、測定点aから測定点dに向かって、たわみ振動の周波数ピークが支配的になる傾向が緩やかに増大している。これは、背面空洞が有る場合、測定点aからdに向かって板厚が徐々に減少するためである。
【0072】
一方、覆工コンクリート内部に浮き、剥離により形成された空洞が有る場合、空洞が形成されている部分の外から空洞が形成されている部分に移るときにコンクリートの板厚が急激に低下する。このため、測定点をeからhに向けて移動させる途中のfからgへの移動において、振動がコンクリート板厚の縦波共振支配からたわみ振動支配へと急変する。このようなたわみ振動が支配的となる傾向の差により、背面空洞と浮き、剥離とを識別することができる。
【0073】
3.第3の実施の形態
背面空洞診断は、単に、背面空洞の有無を判定するだけでなく、背面空洞有りと判定された診断対象の背面空洞の大きさを推定することができれば、補修の必要性を判断することが可能となり、より好ましい。本実施の形態は、背面空洞の大きさを推定する方法に関する。
【0074】
具体的には、診断対象のどこか1箇所に背面空洞有りと判定された場合、ケース1においては、前記のように、シャープな周波数ピークが有りと評価された検査位置から、例えば、放射状の複数方向にシャープな周波数ピークが計測されない位置にまで広げ、各方向に沿って所定の間隔で、複数の測定点を設けて各測定点の周波数分布を取得する。一方、ケース2においては、たわみ振動の周波数ピークが有りと評価された検査位置から放射状の複数方向にたわみ振動の周波数ピークが計測されない位置にまで広げ、各方向に沿って所定の間隔で、測定点を設けて各測定点の周波数分布を取得する。これにより、背面空洞の輪郭を確定することができ、背面空洞の面的な広がり、即ち、面積を求めることができる。
【0075】
さらに、過去の現場保守経験、モックアップ試験、理論解析により空洞面積と空洞深さの関係を求め、これをデータベース化しておくことにより、上記により求められた背面空洞の面積の大きさに基づいて診断対象の空洞の深さを推定することができ、背面空洞の面積および深さから背面空洞の体積を推定することもできる。
【0076】
4.第4の実施の形態
背面空洞は、空洞内に充填材を充填することで補修される。補修状況は、充填材の充填度合いによって評価されており、この評価に本実施の形態の診断方法を適用することで補修状況を定量的に評価することができる。
【0077】
図11(a)はケース1において背面空洞への充填材の充填度合いを評価する方法を示す模式図である。図11(a)に示すように、補修箇所でデジタル打音検査を実施する。ケース1の場合、背面空洞が存在する箇所では縦波共振の周波数ピークが計測される。補修前は、シャープな周波数ピークが計測されるが充填材を充填することで周波数ピークのシャープさが低下する。そして、このシャープさは、図11(b)に示すように充填度合いによって異なり、充填度合いが高いほどシャープさが鈍くなりブロードになる。
【0078】
また、周波数ピークのシャープさを、例えば、ピークの半値幅を用いて定量化し、一方、前記のように現場微破壊試験、モックアップ試験、理論解析によって、充填材の充填度合いと周波数ピークのシャープさ、例えば半値幅の関係を予め関係付けしておくことで、充填材の充填度合いを定量的に評価することができる。
【0079】
一方、ケース2の場合、充填材を充填することで、たわみ振動の振動強度が低下する。そして、この振動強度は、充填度合いによって異なり、充填度合いが高いほど低くなる。そこで、たわみ振動の振動強度、例えば周波数ピークのシャープさ、例えば半値幅を評価尺度に用いて充填材の充填度合いを定量的に評価することができる。
【0080】
[3]本実施の形態の効果
上記した各実施の形態により、以下の効果を得ることができる。
【0081】
1.弾性波の反射エコーや周波数、位相などの分析では背面空洞は検出できないが、本発明ではコンクリート板厚の共振周波数のピークのシャープさ、もしくはたわみ振動の有無から背面空洞を検出することが可能である。
【0082】
2.赤外線を用いてコンクリート表面の温度変化から背面空洞を検出する技術では、温度変化の小さい時期には適用できないなどの制限があるが、本発明では測定時期による制限を受けることなく、背面空洞の検出が可能である。
【0083】
3.測定対象の共振振動およびたわみ振動を用いて背面空洞を検出する場合、地盤側や路面下に背面空洞がある場合はたわみ振動が生じにくく、検出できないが、本発明ではコンクリート板厚の共振周波数のピークのシャープさから背面空洞を検出することが可能である。
【0084】
4.従来技術では、背面空洞と背面空洞以外の変状(浮き、剥離)の識別が出来ず、適切な補修方法の決定が困難という課題があるが、本発明では、複数個所の連続的な測定で得られる周波数分布の傾向から、背面空洞と背面空洞以外(浮き、はく離)を識別することが可能である。
【0085】
5.背面空洞への充填材の充填度合いを、共振周波数の周波数ピークの形状や高さにより評価可能である。
【実施例0086】
以下、トンネルの覆工コンクリートの診断を実施した例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。
【0087】
1.実施例1
ケース1に該当するトンネルの覆工コンクリートを対象として診断を行った。図12(a)に診断の結果判明した、背面空洞、浮き、剥離の位置と一部の計測箇所の位置を示す。なお、周波数解析は、FEMを用いて行った。
【0088】
図12(a)のa~hまでの各測定点における周波数分布を図12(b)に示す。測定点g、hを除く複数の位置に共通して、2000Hzに周波数ピークが計測され、この周波数ピークは、縦波共振の周波数ピークと判定された。
【0089】
また、測定点aと測定点dでは周波数分布が異なっており、測定点aでは縦波共振の周波数ピークの高さが低くブロードなのに対して測定点dでは縦波共振の周波数ピークの高さが高いことが分かった。また、測定点a、b、cの比較でaからcの間で縦波共振振動の周波数ピークの高さが徐々に増しており、測定点dの背面部分には背面空洞が有ると判定された。そして、測定点dの周囲で複数の方向に沿ってこのような操作を繰り返し実施し、測定点を増やすことで、図12(a)に示す範囲に背面空洞が存在すると判定された。
【0090】
また、測定点g、hで1500Hz、即ち、縦波共振動より低周波数側に鋭い周波数ピークが計測され、この周波数ピークは、たわみ振動の周波数ピークと判定された。また、測定点fとgの近い距離の間で周波数分布が急変し、縦波共振振動の周波数ピークが消失し、たわみ振動が支配的になっていることから、このたわみ振動はコンクリートの浮き、剥離によってコンクリート内に空洞が生じたために計測されたものと判定された。
【0091】
2.実施例2
ケース2に該当するトンネルを対象として診断を行った。図13(a)に診断の結果判明した、背面空洞、浮き、剥離の位置と一部の計測箇所の位置を示す。なお、振動波形の取得、周波数解析は、実施例1と同じ方法を用いて行った。
【0092】
図13(a)の測定点a~hまでの各計測箇所における周波数分布を図13(b)に示す。測定点a、b、e、fの複数の位置に共通して、5000Hz付近に周波数ピークが計測され、この周波数ピークは縦波共振の周波数ピークと判定された。
【0093】
また、測定点aとdでは周波数分布が異なっており、測定点dでは3000Hz程度、即ち、縦波共振動の周波数ピークより低週数側に最も強度が高く、測定点aでは計測されていない周波数ピークが計測された。この周波数ピークは、たわみ振動の周波数ピークであり、測定点dではたわみ振動が支配的であると判定された。また、測定点a~dの比較で測定点a~dの間でたわみ振動が徐々に支配的になっており、測定点dには背面空洞が存在すると判定された。そして、測定点dの周囲で複数方向に沿ってこのような操作を繰り返し実施し、測定点を増やすことで、図13(a)に示す範囲に背面空洞が存在すると判定された。
【0094】
また、測定点g、hで1000Hz程度、即ち、縦波共振動より低周波数側に鋭い周波数ピークが計測され、この周波数ピークは、たわみ振動の周波数ピークと判定された。また、測定点fとgの近い距離の間で周波数分布が急変し、縦波共振振動の周波数ピークが消失し、たわみ振動が支配的になっていることから、このたわみ振動はコンクリートの浮き、剥離によってコンクリート内に空洞が生じたために計測されたものと判定された。
【0095】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図9
図10
図11
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