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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056672
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】光学フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 3/26 20060101AFI20240416BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240416BHJP
   G02B 5/02 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
B32B3/26 Z
B32B27/00 M
G02B5/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023183576
(22)【出願日】2023-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2022172770
(32)【優先日】2022-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】503415910
【氏名又は名称】株式会社 スワコー
(72)【発明者】
【氏名】池上 和明
(72)【発明者】
【氏名】藤森 伸
【テーマコード(参考)】
2H042
4F100
【Fターム(参考)】
2H042BA04
2H042BA15
2H042BA20
4F100AA17A
4F100AJ04B
4F100AK01C
4F100AK02B
4F100AK42B
4F100AT00B
4F100BA03
4F100CB05C
4F100DB04
4F100DD07
4F100EH66A
4F100EJ32
4F100GB41
4F100JL13C
4F100JN01B
4F100JN30A
(57)【要約】
【課題】光学フィルムの側面における白化現象の発生を抑制し、外観が良好な光学フィルムを提供すること。
【解決手段】第一の主表面S1及び第二の主表面S2を有するシート状の透明基材1と、第一の主表面S1に形成された光学的コーティング層2と、第二の主表面S2に形成された粘着層3とを有する光学フィルムFであって、第一の主表面S1及び第二の主表面S2と直交する側面sfに複数の微小凹凸aを有し、側面の厚さ方向における任意の10箇所の微小凹凸aの最大高さと最大深さとの差が2μmから20μmの範囲内にあり、かつ任意の10箇所で測定された微小凹凸aの高さの標準偏差が0.2から9.0の範囲内である光学フィルム。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の主表面及び第二の主表面を有するシート状の透明基材と、前記第一の主表面に形成された光学的コーティング層と、前記第二の主表面に形成された粘着層とを有する光学フィルムであって、
前記第一の主表面及び第二の主表面と直交する側面に複数の微小凹凸を有し、前記側面の厚さ方向における任意の10箇所の前記微小凹凸の最大高さと最大深さとの差が2μmから20μmの範囲内にあり、かつ前記任意の10箇所で測定された前記微小凹凸の高さの標準偏差が0.2から9.0の範囲内であることを特徴とする光学フィルム。
【請求項2】
前記側面は、回転工具によって切削加工された切削加工面であって、厚さ方向と直交する方向に周期的に形成された複数の段差を有することを特徴とする請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記第一の主表面と前記側面とが実質的に直角に交差していることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
前記側面の一部を構成する前記粘着層の露出面は、連続した面を形成していることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学フィルム。
【請求項5】
前記側面との境界領域における前記第一の主表面であって、前記側面から3.0mmまでの内側の領域の平坦度が0.01mm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学フィルム。
【請求項6】
前記側面との境界領域における前記光学的コーティング層であって、前記側面から3.0mmまでの内側の領域には、長さ0.1mm以上のクラック及び層間剥離が存在しないことを特徴とする請求項1又は2に記載の光学フィルム。
【請求項7】
前記粘着層の露出面における長手方向の2本の境界線の直線度が何れも6.0μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的コーティング層と粘着層とを有する光学フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
カーナビゲーションシステムのような車載用の表示装置やタブレットPCのような携帯用の表示装置などに用いられるディスプレイの前面板として、カバーガラスや透明樹脂パネルが用いられている。このようなカバーガラス等の一方の主面には、反射防止機能などを有する光学的コーティング層が透明基材に形成されてなる樹脂製の光学フィルムを、粘着層を介して貼着したものが広く採用されている。この光学フィルムには、表示装置のデザイン性の観点から、主面と共に側面にも美観が求められている。
【0003】
このような光学フィルムをカバーガラスに対応した形状に外形加工する方法として、特許文献1のプレス加工(打ち抜き加工)や特許文献2のレーザー切断法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6900534号公報
【特許文献2】特開2009-86675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、プレス加工によれは、光学フィルムの側面及びその近傍にダレ、バリ、せん断面及び破断面が形成されて、大きな段差が発生してしまう。特に、粘着層は透明基材や光学的コーティング層と硬度が異なり粘弾性を有するため、プレス加工に伴って、粘着層の一部が切断方向に移動したり、移動した部分に粘着層の欠落が生じたりする。すると、これらの大きな段差や粘着層の欠落部分が乱反射して、白く視認されるいわゆる「白化現象」による外観不良が生じてしまう。
【0006】
しかも、プレス加工によれば、光学フィルムを金型や切断刃で切断する際に光学フィルムに局所的な応力が加わるため、光学的コーティング層の一部であるハードコート層に微細クラックが生じたり、透明基材と光学的コーティング層の側面に層間剥離が発生したりする。特に、微細クラックや層間剥離は、光学フィルムの側面と主表面との境界領域の3.0mm程度内側の主表面に発生し、目視で確認できる0.1mm以上の長さものとなることがある。これらの微細クラックや層間剥離は、例えば車載用表示装置のような過酷な環境下では、表示面全体に拡大成長して画面が見づらくなるという問題が生じている。
【0007】
一方、レーザー加工によれば、レーザー光を照射された透明基材等が溶融して、光学フィルムの側面及び切断部近傍に大きな段差が発生してしまい、プレス加工と同様に、この大きな段差に起因して白化現象による外観不良が生じてしまう。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、光学フィルムの側面に複数の微細段差を形成し、これらの微小凹凸の高さのばらつきを所定範囲内に抑制することで、白化現象が生じることなく外観が良好な光学フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる光学フィルムは、第一の主表面及び第二の主表面を有するシート状の透明基材と、前記第一の主表面に形成された光学的コーティング層と、前記第二の主表面に形成された粘着層とを有する光学フィルムであって、前記第一の主表面及び第二の主表面と直交する側面に複数の微小凹凸を有し、前記側面の厚さ方向における任意の10箇所の前記微小凹凸の最大高さと最大深さとの差が2μmから20μmの範囲内にあり、かつ前記任意の10箇所で測定された前記微小凹凸の高さの標準偏差が0.2から9.0の範囲内であることを特徴とする光学フィルムである。
【0010】
本発明の光学フィルムによれば、側面に複数の微小凹凸を有し、当該側面の厚さ方向における任意の10箇所の微小凹凸の最大高さと最大深さとの差が2μmから20μmの範囲内にあり、かつ任意の10箇所で測定された微小凹凸の高さの標準偏差が0.2から9.0の範囲内とすることで、白化現象の発生を抑止し外観に優れた光学フィルムを低コストで提供することができる。
【0011】
また、本発明にかかる光学フィルムの前記側面は、回転工具によって切削加工された切削加工面であって、厚さ方向と直交する方向、すなわち側面の長手方向に沿って周期的に形成された複数の段差を有することを特徴とすることができる。
【0012】
かかる構成により、周期的に形成された複数の段差自体は白化現象が生じない程度の高さに抑えられた上で、各段差間の領域は段差よりも高さが低い比較的滑らかな面となっているため、一層白化現象の発生を抑止することができる。
【0013】
また、本発明にかかる光学フィルムは、前記第一の主表面と前記側面とが実質的に直角に交差していることを特徴とすることができる。なお、実質的に直角に交差するとは、製造公差からもたらされる角度を含み、90度±2度の角度を含むことができ、角部がわずかな丸みを帯びていてもよい。
【0014】
このように、第一の主表面と側面とが実質的に直角に交差するように構成することで、角部及びその近傍の白化現象の発生を抑止することができる。
【0015】
また、本発明にかかる光学フィルムは、前記側面の一部を構成する前記粘着層の露出面が連続した面を形成していることを特徴とすることができる。
【0016】
このように、側面の一部を構成する粘着層の露出面が連続した面を形成することで、粘着層の欠落、いわゆる「糊欠け」が生じることなく、糊欠けに起因する白化現象の発生を抑止することができる。
【0017】
また、本発明にかかる光学フィルムは、前記側面との境界領域における前記第一の主表面であって、前記側面から3.0mmまでの内側の領域の平坦度が0.01mm以下であることを特徴とすることができる。
【0018】
第一の主表面は全面にわたって極めて平坦な品質が要求されるが、外形加工の影響により側面との境界領域(主表面の外周領域)の平坦度が悪化する傾向がある。本発明のように平坦度が0.01mmとなるように構成することで、側面との境界領域における第一の主表面において白化現象の要因となる部分が存在しないので、外観に優れた光学フィルムを提供できる。このような平坦度が良好な構成は、側面をエンドミル等の回転工具によって切削加工することで形成することができる。
【0019】
また、本発明にかかる光学フィルムは、前記側面との境界領域における前記光学的コーティング層であって、前記側面から3.0mmまでの内側の領域には、長さ0.1mm以上のクラック及び層間剥離が存在しないことを特徴とすることができる。
【0020】
このように構成することで、主として光学フィルムの側面に発生する白化現象を抑止しつつ、光学的コーティング層の主面側の境界領域において外観不良を招く長さ0.1mm以上のクラック及び層間剥離が存在しないので、外観に優れた光学フィルムを提供できる。
【0021】
また、本発明にかかる光学フィルムは、前記粘着層の露出面における長手方向の2本の境界線の直線度が何れも6.0μm以下であることを特徴とすることができる。
【0022】
粘着層は透明基材や光学的コーティング層に比べて粘弾性が高く、粘着層が露出する面において直線度が悪化する傾向にある。特に直線度が6.0μmを超えると白化現象が顕著になるが、上記構成により粘着層に起因する白化現象の発生を抑止することができる。なお、本発明における直線度の定義については後述する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、側面及びその近傍に白化現象が生じることなく、外観が良好な光学フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係る光学フィルムを備えた光学フィルム製品の一実施形態を示す斜視図である。
図2】本発明に係る光学フィルムを備えた光学フィルム製品の拡大側面図である。
図3】本発明に係る光学フィルムを備える光学フィルム製品の側面を光学顕微鏡で観察した画像である。
図4】本発明に係る光学フィルムを備える光学フィルム製品の副材料の一部を剥がした状態を示す説明図である。
図5】直線度を説明するための説明図である。
図6】本発明の実施例と比較例について、光学フィルム製品の側面を顕微鏡で観察した画像を整理した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0026】
(光学フィルムの構成)
図1は、本発明に係る光学フィルムFを備えた光学フィルム製品Pの一実施形態を示す斜視図である。図2は、本実施形態の光学フィルムFを備えた光学フィルム製品Pの拡大側面図である。なお、以下の説明において、同じ構成を示す場合には同じ符号を付し、重複する構成の説明を省略することがある。
【0027】
光学フィルム製品Pの形状、サイズ、厚さなどは、装着される表示装置によって異なるが、図1にその一例を示すように、x軸に沿った長さLxは400mm~1500mm、y軸に沿った長さLyは100mm~500mm、z軸に沿った厚さtは100μm~500μm程度である。本実施形態において、x軸とy軸で規定されるxy平面が主表面Sであり、x軸とz軸で規定されるxz平面及びy軸とz軸で規定されるyz平面が側面sfである。なお、x軸に沿った線やy軸に沿った線は必ずしも直線でなくてもよく、それらの中間位置に凹部や凸部を画するものでもよい。また、主表面に円形や矩形状の貫通孔が形成されていてもよい。
【0028】
図2に示すように、本形態の光学フィルムFは、互いに平行な第一の主表面S1及び第二の主表面S2を有するシート状の透明基材1と、第一の主表面S1に形成された光学的コーティング層2と、二の主表面S2に形成された粘着層3とを有している。本形態の光学フィルムFの側面において、透明基材1と光学的コーティング層2との境界線が第一の主表面S1として表れ、透明基材1と粘着層3との境界線が第二の主表面S2として表れている。透明基材1は、PET、TAC、COPなど透過率が80%以上の樹脂製のフィルムであって、厚さは50μmから300μmであり可撓性を有している。光学的コーティング層2は、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム等の金属酸化物を、蒸着法、スパッタリング法、高周波放電プラズマ法、イオンビーム法等の公知の成膜法で10μm以下の厚さに形成した層であって、反射防止、ハードコート、防指紋、UVカット等の機能を有する。粘着層3は、表示装置の画像表示セル(ガラスまたは樹脂製カバーパネル)との貼り合わせに用いられる。粘着剤層3を構成する粘着剤は特に制限されず、アクリル系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、フッ素系ポリマー等をベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。粘着層3の厚さは、10~100μmとすることが望ましい。なお、以下の説明において、光学的コーティング層を単にコーティング層と称することがある。
【0029】
本形態の光学フィルムFを光学フィルム製品Pとして出荷する場合、コーティング層2を保護する目的で保護フィルム5が、保護フィルム粘着層6を介してコーティング層2の表面に貼られる。また、光学フィルムFの粘着層3には、製品同士の粘着等を防止する目的で剥離フィルム4が貼られる。したがって、光学フィルム製品Pとしては、図2に示すように、上から保護フィルム5、保護フィルム粘着層6、コーティング層2、透明基材1、粘着層3、剥離フィルム4の順に積層され、製品全体の厚さは100~500μm程度になる。なお、光学フィルムFを構成するコーティング層2、透明基材1、粘着層3以外の部材を、本形態の説明において副材料と呼ぶこととする。
【0030】
図3は、本形態の光学フィルムFを備える光学フィルム製品Pの側面を光学顕微鏡で観察した画像である。図3に示すように、光学フィルムFの第一の主表面S1及び第二の主表面S2と直交する側面には、長手方向に延在する複数の筋が略平行に形成されており、この側面を厚さ方向に表面粗さ測定装置でトレースしたとき、複数の微小凹凸aを有していることが分かる。具体的な測定結果は後述するが、側面の厚さ方向における任意の10箇所の微小凹凸の最大高さpと最大深さvとの差(p-v)は、2μmから20μmの範囲内にある。また、任意の10箇所で測定された微小凹凸の高さ、すなわち最大高さpと最大深さvとの差(p-v)の標準偏差は0.2から9.0の範囲内である。
【0031】
微小凹凸の最大高さpと最大深さvとの差(p-v)が20μmを超えると、光学フィルムFの側面を目視したとき白化現象が認められてしまう。差(p-v)が20μm以下であれば外観不良となるような白化現象は生じないが、差(p-v)が2μm未満となるような平滑面を形成する場合は、側面の研磨やエッチングなどの表面加工が必要になるため、加工コストが高くなる。したがって、差(p-v)を2μmから20μmの範囲内とすることで、比較的低コストで白化現象が生じない光学フィルムFとすることができる。
【0032】
また、標準偏差はデータの散らばりの度合いを示す指標であるから、最大高さpと最大深さvとの差(p-v)の標準偏差が9.0を超えると、差(p-v)のばらつきが大きくなり過ぎて、局所的な白化現象が生じることがある。逆に、差(p-v)の標準偏差が2.0未満になると、過剰品質的な加工が必要となり加工コストが嵩む。したがって、差(p-v)の標準偏差を0.2から9.0の範囲内とすることで、比較的低コストで白化現象が生じない光学フィルムFとすることができる。
【0033】
本形態の光学フィルムFの側面は、回転工具によって切削加工された切削加工面であって、図3中の一点鎖線で示す領域に表れるように、厚さ方向と直交する方向に周期的に形成された複数の段差bを有している。また、保護フィルム5や剥離フィルム4といった副材料の側面も、周期的に形成された複数の段差bを有している。ここで、厚さ方向と直交する方向とは、光学フィルムFの長手方向(紙面上の横方向)であり、複数の段差bは長手方向に略一定の間隔で形成されている。これらの段差bは、光学フィルムFの側面において前記差(p-v)が最も大きい部位になるが、この段差b自体は白化現象が生じない程度の高さの20μm以下に抑えられている。一方、各段差b間の領域は段差bよりも差(p-v)が小さく比較的滑らかな面となっているため、白化現象の発生を抑止することができる。
【0034】
本形態の光学フィルムFは、第一の主表面S1と側面とが実質的に直角に交差していることが望ましい。従来のプレス加工によって外形を形成すると、第一の主表面S1の角部にダレやバリが発生したり、レーザー加工によってビード痕、ヒュームが発生したりして、これらが白化現象を発生させる要因となる。そこで、第一の主表面S1の角部を実質的に直角に形成することで、白化現象の発生を抑止することができる。
【0035】
本形態の光学フィルムFは、側面の一部を構成する粘着層3の露出面が連続した面を形成している。側面に白化現象が生じる要因として、比較的大きな段差の存在のほか、粘着層3の欠落(糊欠け)が挙げられる。光学フィルムFの厚さ方向に切断応力が加わると、粘弾性を有する粘着層3が移動または変形して糊欠けが生じるが、回転工具による切削加工のような、厚さ方向に切断応力が加わらない切削加工された切削加工面にあっては、粘着層3の欠落がない。したがって、粘着層3の露出面が連続した面を形成している。このような粘着層3の露出面が連続した面を形成することで、糊欠けに起因する白化現象の発生を抑止することができる。
【0036】
図4は、本形態に係る光学フィルムFと副材料を有する光学フィルム製品Pの保護フィルム5、保護フィルム粘着層2及び剥離フィルム4の一部を剥がした状態を示す説明図である。なお、図4において、光学フィルムFの側面sfは、第一の主表面S1及び第二の主表面S2と直交する面であり、y軸とz軸で規定されるyz平面及びx軸とz軸で規定されるxz面である。本形態の光学フィルムFにおいて、図4に示すように、側面sfとの境界領域における第一の主表面S1であって、側面から3.0mmまでの内側の領域S11の平坦度が0.01mm以下となっている。側面sfから3.0mmよりも離れた領域、すなわち第一の主表面S1の内側領域は、側面sfの加工に伴う変形や粗面化等の影響が受けにくいが、側面sfから3.0mmまでの内側の領域S11は側面の加工に伴う変形などの影響が受けやすく、当該領域S11の平坦度の程度が白化現象の発生を左右する。この平坦度が0.01mmを超えると、白化現象が発生するおそれがあるが、平坦度が0.01mm以下であると白化現象の発生を抑止することができる。
【0037】
本形態の光学フィルムFにおいて、側面sfとの境界領域におけるコーティング層2であって、側面から3.0mmまでの内側の領域S11のコーティング層2には、長さ0.1mm以上のクラック及び層間剥離が存在しないことが望ましい。長さ0.1mm以上のクラック及び層間剥離が存在すると、クラックや層間剥離が集中する箇所などでは白化現象が発生するおそれがあるが、上記構成により白化現象の発生を抑止することができる。
【0038】
また、本発明にかかる光学フィルムFは、粘着層3の露出面における厚さ方向(z軸)と直交する方向(x軸及びy軸、長手方向)に2本の境界線c1、c2を有し、これらの境界線c1、c2の直線度が何れも6.0μm以下であることが望ましい。図5に示すように、境界線c1は透明基材1の第二の主表面S2と粘着層3の境界を表す線であり、境界線c2は粘着層3と剥離フィルム4との境界を表す線である。なお、透明基材1は粘着層3よりもはるかに剛性が高いため、境界線c1の直線度は比較的小さい数値を示す(すなわち、直線的である)が、剥離フィルム4は透明基材1よりも薄く可撓性があるため、境界線c2直線度が境界線c1よりも大きな数値になる傾向にある。
【0039】
ここで、本発明における「直線度」の定義および測定方法について、図5を参照して説明する。まず、光学顕微鏡または電子顕微鏡を用いて被検体となる光学フィルムの粘着層3を含む側面を観察し、画面範囲が500~1000μmとなるように撮影する。撮影画像上の境界線c2側の最も第二の主表面S2に近い点p1に接する基準直線Lを引く。
次に、同一画面範囲において基準直線Lから厚さ方向に最も離れた点p2を特定する。この点p2と基準直線Lとの最短距離を、第1評価領域のMAX-MIN値とする。なお、点p2に接するように基準直線Lを引き、Lから厚さ方向に最も離れた点p1との最短距離をMAX-MIN値としてもよい。
次に、同一の被検体(光学フィルム)の観察位置を1mm以上ずらして、上記と同様に第2評価領域のMAX-MIN値を測定する。以下、同様の手順を繰り返し、第10評価領域のMAX-MIN値まで測定し、10箇所の評価領域におけるMAX-MIN値を求める。
最後に、これら十点のMAX-MIN値の平均値を算出する。この十点平均値を本発明における「直線度」と定義する。
【0040】
直線度の値が小さいほど直線的な境界線であり、粘着層3のダレや欠けが少なくなり、これらに起因する白化現象が生じ難くなる。逆に、直線度の値が大きくなるほど境界線が直線性を欠き、厚さ方向に粘着層3が局所的に突出する部分や欠落する部分が存在することになり、これらに起因する白化現象が生じ易くなる。
発明者らは、鋭意研究の結果、直線度が6.0μmを超えるとダレが欠けによって白化現象が生じてしまうという知見を得た。したがって、直線度を6.0μm以下にすることで、白化現象の発生を抑止することができる。
【0041】
上述したように、本発明にかかる光学フィルムFは以下の特徴を有する。
(1)第一の主表面S1及び第二の主表面2と直交する側面sfに複数の微小凹凸aを有し、側面sfの厚さ方向における任意の10箇所の微小凹凸aの最大高さpと最大深さvとの差(p-v)が2μmから20μmの範囲内にあり、かつ任意の10箇所で測定された微小凹凸aの高さの標準偏差が0.2から9.0の範囲内である。
ことを特徴とする
(2)光学フィルムFの側面sfに、厚さ方向と直交する方向に周期的に形成された複数の段差bを有する。
(3)第一の主表面S1と側面sfとが実質的に直角に交差している。
(4)側面sfの一部を構成する粘着層3の露出面は、連続した面を形成している。
(5)側面sfとの境界領域における第一の主表面S1であって、側面から3.0mmまでの内側の領域S11の平坦度が0.01mm以下である。
(6)側面sfとの境界領域におけるコーティング層2であって、側面から3.0mmまでの内側の領域S11には、長さ0.1mm以上のクラック及び層間剥離が存在しない。
(7)粘着層3の露出面における長手方向の2本の境界線の直線度が何れも6.0μm以下である。
【0042】
これらの特徴を有する光学フィルムFを製造する方法として、以下のように切削加工を採用することで、比較的低コストで高品質の光学フィルムを安定的に得ることができる。
【0043】
(光学フィルムの製造方法)
ここで、本形態の光学フィルムFを備える光学フィルム製品Pの製造方法にかかる一実施形態を説明する。
【0044】
まず、図1に示したような、保護フィルム5、保護フィルム粘着層6、コーティング層2、透明基材1、粘着層3、剥離フィルム4の順に積層された大判のフィルム素材を用意する。そして、プレス加工や切断加工などによって、光学フィルム製品Pのサイズよりも一回り大きなサイズで、かつ、製品形状に近い形状となるように外形加工を行う。なお、一回り大きなサイズは仕上げ寸法よりも2mm~5mm程度大きい外形サイズであることが望ましい。次いで、外形加工されたフィルム素材を数十枚から百数十枚程度積層して積層体を形成する。
【0045】
次に、この積層体を一対のパッド押圧体で厚さ方向に挟持した状態で、側面をエンドミル等の回転工具により外形に沿って切削加工して、積層体の外形を所望の形状及び所望のサイズに加工する。このとき、一方のパッド押圧体のx方向に沿った長さが、積層体のx方向に沿った長さよりも長く設定され、他方のパッド押圧体のy方向に沿った長さが、積層体のy方向に沿った長さよりも長く設定されることが望ましい。
さらに、互いにz方向に逆向きに立設する2本のエンドミルを用いて、各エンドミルごとに積層体の側面の周方向において切削加工領域を割り当てて加工することが望ましい。こうすることで、エンドミルが積層体の側面を周方向に沿って連続的に一周できないような固定の仕方で積層体が固定されている場合においても、当該積層体の側面を全周に渡って切削加工することが可能となる。
なお、上述の光学フィルムFの製造方法は、本願出願人が2021年6月25日に国際出願(PCT/JP2021/024258)した発明を利用することができる。ただし、本発明にかかる光学フィルムFの製造方法は上記方法に限定されるものではない。
【0046】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更を加えることができる。
【実施例0047】
(顕微鏡による観察)
本発明にかかる光学フィルム(実施例1)を備える光学フィルム製品の側面をx軸方向(側面に直交する方向)から電子顕微鏡及び光学顕微鏡で観測すると共に、側面と主表面との境界領域をz軸方向からデジタル顕微鏡で観察した。電子顕微鏡としては走査電子顕微鏡を使用し、加速電圧5kV、焦点距離WD9~24mmの条件で観察し、光学フィルムの任意の箇所を撮影した。
また、比較例として、光学フィルム製品の外形加工をプレス加工で行ったもの(比較例1)と、レーザー加工で行ったもの(比較例2)についても同様に顕微鏡で観察した。
【0048】
実施例1と比較例1及び比較例2の撮影画像を図6に示す。なお、電子顕微鏡と光学顕微鏡は、試料(光学フィルム)の側面を撮影した画像で、デジタル顕微鏡は第一の主表面側から側面との境界領域を撮影した画像である。
【0049】
図6の電子顕微鏡写真及び光学顕微鏡写真に示すように、実施例1の光学フィルムの側面には、微小凹凸や周期的に現れる複数の段差が認められたが、いずれも極めて小さな凹凸や段差であるため、デジタル顕微鏡写真に示すように、白化現象は確認されなかった。
【0050】
一方、比較例1と比較例2の電子顕微鏡写真及び光学顕微鏡写真から明らかなように、粘着層の粘着剤が大きく移動して糊欠けが生じたり、所々で素材の溶融が生じたりして、全体的に大きな凹凸が認められる。そのため、各比較例のデジタル顕微鏡写真に示すように、白化現象が確認された。
【0051】
(表面粗さの測定)
本発明にかかる光学フィルム(実施例2)を備える光学フィルム製品の側面の表面について、精密非接触三次元測定装置(三鷹精機株式会社製NH-3SPs)を用いて測定し、得られた表面のプロファイル曲線より、JIS・B0601に準じ、十点平均表面粗さRzをはじめ算術平均表面粗さRaを求めた。
また、比較例として、光学フィルム製品の外形加工をプレス加工で行ったもの(比較例3)と、レーザー加工で行ったもの(比較例4)についても同様に測定した。
表1に実施例2、比較例3、比較例4の十点平均表面粗さRzの測定結果を示し、表2にこれらの測定結果から算出した標準偏差を示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
表1、表2から明らかなように、実施例2の十点平均表面粗さRzは比較的値が小さく、かつ数値のばらつきの目安である標準偏差も小さい。したがって、このような光学フィルムにあっては白化現象の発生を抑止することができる。これに対して、比較例3、4の十点平均表面粗さRzは非常に大きく、しかも標準偏差も大きいため、このような光学フィルムにあっては白化現象の発生を招いてしまう。
【0055】
(直進度)
本発明にかかる光学フィルム(実施例3)を備える光学フィルム製品の側面を光学顕微鏡で観察した。
また、比較例として、光学フィルム製品の外形加工をプレス加工で行ったもの(比較例5)と、レーザー加工で行ったもの(比較例6)についても同様に顕微鏡で観察した。
【0056】
実施例3、比較例5、比較例6の撮影画像(画面範囲671μm)をもとに、上述した「直線度」の定義および測定方法に則って、それぞれのサンプルの直線度を算出した。なお、各サンプルの撮影画像上に表れる2本の境界線c1、c2のうち、明らかに直線度が悪いと認められたものについては片方の境界線の直線度を算出し、両者が同程度の場合は、両方の境界線の直線度を算出して、数値が大きい方(直線度が悪い方)をその評価領域のMAX-MIN値とした。表3に、実施例3、比較例5、比較例6の10箇所の評価領域におけるMAX-MIN値、及びその十点平均値である直線度の測定結果を示す。
【0057】
【表3】
【0058】
表3に示すように、実施例3の直線度は4.418μmであった。局所的に6.0μmを超えた評価領域(No.4)はあったものの、10箇所の評価領域におけるMAX-MIN値の平均値は白化現象が生じやすくなる6.0μmを下回っていることが確認された。これに対して、比較例5、6の直線度はいずれも6.0μm超であり、側面を目視したところ白化現象が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の光学フィルムは、白化現象が生じにくい外観に優れた光学フィルムとして、車載ディスプレイ、家電・パソコン等ディスプレイに利用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 透明基材
2 光学的コーティング層
3 粘着層
4 剥離フィルム
5 保護フィルム
6 保護フィルム粘着層
a 微小凹凸
b 段差
c1,c2 境界線
F 光学フィルム
P 光学フィルム製品
S1 第一の主表面
S2 第二の主表面
sf 側面
図1
図2
図3
図4
図5
図6