(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056677
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】管理センター
(51)【国際特許分類】
F17C 5/06 20060101AFI20240416BHJP
H01M 8/00 20160101ALI20240416BHJP
H01M 8/0606 20160101ALI20240416BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20240416BHJP
G06Q 50/06 20240101ALI20240416BHJP
C25B 15/02 20210101ALI20240416BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240416BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240416BHJP
【FI】
F17C5/06
H01M8/00 Z
H01M8/0606
H01M8/04 J
G06Q50/06
C25B15/02
C25B9/00 A
C25B1/04
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023215492
(22)【出願日】2023-12-21
(62)【分割の表示】P 2020031886の分割
【原出願日】2020-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】清家 匡
(72)【発明者】
【氏名】蓑田 愛
(72)【発明者】
【氏名】前田 征児
(57)【要約】
【課題】水素供給システムのエネルギー効率を高める。
【解決手段】管理センター40は、水素を供給する水素製造拠点30を管理する管理装置42を備える。管理装置42は、電力需給を調整するための指令に基づいて、水素製造拠点30に含まれる、電力を消費する電解反応により水素を製造する電解装置の消費電力量を調整する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を供給する水素製造拠点を管理する管理装置を備える管理センターであって、
前記管理装置は、電力需給を調整するための指令に基づいて、前記水素製造拠点に含まれる、電力を消費する電解反応により水素を製造する電解装置の消費電力量を調整する、
管理センター。
【請求項2】
前記管理装置は、前記電解装置の調整余力に基づいて、前記電解装置の消費電力の調整量を決定する、
請求項1に記載の管理センター。
【請求項3】
前記調整余力は、前記電解装置の運転余力に基づく、
請求項2に記載の管理センター。
【請求項4】
前記調整余力は、前記水素製造拠点が有する水素タンクの蓄圧余力に基づく、
請求項2に記載の管理センター。
【請求項5】
前記調整余力は、前記水素製造拠点が有する水素タンクの水素在庫量の現在値に基づく、
請求項2に記載の管理センター。
【請求項6】
前記調整余力は、水素の需要量に基づく、
請求項2に記載の管理センター。
【請求項7】
前記管理装置は、前記電解装置に電力を供給する商用電力網の時間別の電気料金に基づいて、前記電解装置の消費電力の調整量を決定する、
請求項1に記載の管理センター。
【請求項8】
前記管理装置は、前記電解装置の消費電力量を調整する場合、前記電解装置の運転計画を更新する、
請求項1に記載の管理センター。
【請求項9】
前記管理装置は、複数の電解装置の消費電力の調整量の配分率を決定する、
請求項1に記載の管理センター。
【請求項10】
前記管理装置は、前記電解装置の調整余力に基づいて、前記電解装置の運転出力を指令する、
請求項1に記載の管理センター。
【請求項11】
前記管理装置は、電力需給を調整するための指令と、前記水素製造拠点から水素が供給される水素ステーションにおける水素の需要量および供給量とに基づいて、前記水素製造拠点に含まれる水素製造装置の消費電力量を管理する、
請求項1に記載の管理センター。
【請求項12】
前記管理装置は、電力需給を調整するための指令に基づいて、再生可能エネルギーを利用して水素を製造する電解装置、および再生可能エネルギーを利用して有機ハイドライドを製造する電解装置の少なくとも一方の消費電力量を調整する、
請求項1に記載の管理センター。
【請求項13】
水素を供給する複数の水素製造拠点を管理する管理装置を備える管理センターであって、
前記管理装置は、電力需給を調整するための指令に基づいて、再生可能エネルギーを利用して水素を製造する複数の電解装置の消費電力量を調整する、
管理センター。
【請求項14】
燃料電池車自動車に水素を供給する水素ステーションと、前記水素ステーションへ供給する水素を製造する水素製造拠点とを管理する管理装置を備える管理センターであって、
前記管理装置は、電力需給を調整するための指令と、前記水素ステーションにおける水素の需要量および供給量とに基づいて、前記水素製造拠点に含まれる水素製造装置の消費電力量を管理する、
管理センター。
【請求項15】
前記管理装置は、前記水素製造装置の調整余力に基づいて、前記水素製造装置の消費電力の調整量を決定する、
請求項14に記載の管理センター。
【請求項16】
前記管理装置は、前記水素製造装置に電力を供給する商用電力網の時間別の電気料金に基づいて、前記水素製造装置の消費電力の調整量を決定する、
請求項14に記載の管理センター。
【請求項17】
前記管理装置は、前記水素製造装置の消費電力量を調整する場合、前記水素製造装置の運転計画を更新する、
請求項14に記載の管理センター。
【請求項18】
前記管理装置は、前記水素製造装置の調整余力に基づいて、前記水素製造装置の運転出力を決定する、
請求項14に記載の管理センター。
【請求項19】
前記管理装置は、前記水素製造拠点に含まれる再生可能エネルギーを利用して水素を製造する電解装置、および有機ハイドライド製造拠点に含まれる再生可能エネルギーを利用して有機ハイドライドを製造する電解装置の少なくとも一方の消費電力量を調整する、
請求項14に記載の管理センター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管理装置を備える管理センターに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、クリーンエネルギーとして水素が注目されており、水素を燃料とする燃料電池自動車が普及しつつある。燃料電池自動車のさらなる普及のためには、燃料供給インフラとして水素ステーションを整備する必要がある。水素ステーションでは、水素を圧縮して蓄圧器に貯め、高圧の水素を、ディスペンサーを介して燃料電池自動車に充填する。燃料となる水素は、都市ガスや液化石油ガスなどを水蒸気改質する方法、メチルシクロヘキサンなどの有機ハイドライドを脱水素化する方法などにより製造される。
【0003】
一般に水素ステーションには、オンサイト型とオフサイト型という2つの方式がある。オンサイト型の水素ステーションは、自身が備える水素製造装置によって水素を製造して燃料電池自動車に供給する。一方、オフサイト型の水素ステーションは、他の拠点で製造された水素を調達して燃料電池自動車に供給する。水素の輸送には、水素トレーラーや水素運搬船などが用いられる。
【0004】
近年、太陽光や風力などの再生可能エネルギーによる発電量が拡大している。再生可能エネルギーによる発電量は時間変動が大きいため、電力需給バランスを調整するための調整力が必要とされている。例えば、再生可能エネルギーによる余剰電力を用いて水素を製造して貯蔵し、貯蔵された水素を水素ステーションに輸送して利用したり、発電に利用したりする需給調整システムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-111984号公報
【特許文献2】特開2019-144897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水素を高効率で輸送するには、水素を高圧に圧縮したり、極低温に冷却したりする必要があり、多量の水素を貯蔵して輸送するにはコストがかかる。また、水電解反応により製造した水素を発電に利用する場合、エネルギー効率の観点において好ましくない。
【0007】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、水素供給システムのエネルギー効率を高める技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様は、水素を供給する水素製造拠点を管理する管理装置を備える管理センターである。管理装置は、電力需給を調整するための指令に基づいて、水素製造拠点に含まれる、電力を消費する電解反応により水素を製造する電解装置の消費電力量を調整する。
【0009】
本発明のさらに別の態様は、水素を供給する複数の水素製造拠点を管理する管理装置を備える管理センターである。管理装置は、電力需給を調整するための指令に基づいて、再生可能エネルギーを利用して水素を製造する複数の電解装置の消費電力量を調整する。
【0010】
本発明のさらに別の態様は、燃料電池車自動車に水素を供給する水素ステーションと、水素ステーションへ供給する水素を製造する水素製造拠点とを管理する管理装置を備える管理センターである。管理装置は、電力需給を調整するための指令と、水素ステーションにおける水素の需要量および供給量とに基づいて、水素製造拠点に含まれる水素製造装置の消費電力量を管理する。
【0011】
以上の構成要素の任意の組合せ、本開示の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水素供給システムのエネルギー効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施の形態に係る水素ステーションの構成を模式的に示す図である。
【
図2】
図2(a)~(c)は、水素の需給計画の一例を示すグラフである。
【
図3】
図3(a),(b)は、水素の製造計画の更新例を示すグラフである。
【
図4】実施の形態に係る水素供給システムの構成を模式的に示す図である。
【
図5】実施の形態に係る水素需給管理方法の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明を詳細に説明する前に、まず概要を説明する。本実施の形態は、水素を燃料とする燃料電池自動車に水素を供給するための水素ステーションに関し、特に、水素を製造するための水電解装置を備える水素ステーションに関する。水電解装置は、商用電力網から供給される電力を消費して水を電気分解することで、水素をその場で製造できる。
【0015】
商用電力網では、電力を安定供給するために、電力需給をバランスさせる必要があり、商用電力網を運営する電力会社は、多様な発電方式を組み合わせることで電力需要の変動に対応している。近年、風力発電や太陽光発電といった再生可能エネルギーによる発電量が増加傾向にあるが、風力や日照量といった天候に発電量が左右されるため、人為的に発電量を制御することが困難である。そこで、電力供給量のみを調整するのではなく、電力需要量を調整して電力需給をバランスさせるためのデマンドレスポンスの仕組みが利用されつつある。
【0016】
デマンドレスポンスでは、電力需給のギャップに対し、電力を消費する需要家が電力消費量を調整する。電力消費量を調整した需要家には、その調整量に応じた報酬が支払われる。例えば、好天時に太陽光発電による電力供給量が増加して電力需要が不足する場合、電力消費量を上げることで電力需給の調整がなされる。逆に、悪天時に太陽光発電による電力供給量が減少して電力需要が超過する場合、電力消費量を下げることで電力需給の調整がなされる。電力需給の調整は、アグリゲータといわれる仲介業者を介して管理されることがある。アグリゲータは、電力供給側から要請される調整目標量を小分けにして多数の需要家に分配し、多数の需要家が協調して電力消費量を調整できるようにする。また、デマンドレスポンスの入札制度も存在し、電力供給側またはアグリゲータが指令する調整量に対して入札することで、電力消費量を調整する権利を取得し、調整実績に応じて報酬を受けることができる。
【0017】
商用電力網の需給調整にはリアルタイム性が要求され、例えば、5分以内や30分以内といった短時間で指令された調整力を提供する必要がある。また、電力需給の調整力を提供する場合、30分や1時間などの指定された時間にわたって連続して消費電力量を調整する必要がある。本実施の形態では、水素ステーションに設置される水電解装置の消費電力量を調整することで、商用電力網における電力需給ギャップを緩和させるための調整力を提供する。このとき、水素ステーションにおける水素の需給計画に基づいて、水電解装置の消費電力の調整余力を算出することで、水素の供給に影響を与えない範囲で調整力を迅速に提供できるようにする。さらに、複数の水素ステーションに設置される複数の水電解装置の消費電力量を連携して制御することで、入札に最低限必要な調整力を確保できるようにする。
【0018】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一又は同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項中に「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合には、この用語はいかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0019】
図1は、実施の形態に係る水素ステーション10の機能構成を模式的に示す図である。水素ステーション10は、水電解装置12と、圧縮機14と、蓄圧器16と、プレクーラー17と、ディスペンサー18と、制御装置20と、を備える。水素ステーション10は、自身が水素製造機能を備えるオンサイト型の水素ステーションであり、水電解装置12を運転させることで水素を製造する。
【0020】
水電解装置12は、商用電力網90から供給される電力を消費する電解反応により水素ガスを製造する。水電解装置12の種類として、例えば、固体高分子形、アルカリ形、固体酸化物形などが挙げられる。水電解装置12は、水素ステーション10に設置して運用する観点から固体高分子形であることが望ましい。固体高分子形の場合、他の形式に比べて省スペース化が可能であり、アルカリの処理が不要となる。また、固体高分子形では、水電解装置12を水素ステーション10に輸送して設置する際の振動に強いという利点も挙げられる。
【0021】
水電解装置12には定格出力が定められており、定格出力を維持して運転することが推奨される。水電解装置12の定格出力の一例は1,600kWであり、このときの水素製造能力は320Nm3/hである。水電解装置12は、定格出力とは異なる出力であっても運転可能であり、最小定格から最大定格の範囲内で出力を調整できる。水電解装置12の出力を調整すると、出力に応じて消費電力量が変化するとともに、出力に応じて水素ガスの製造量も変化する。水電解装置12の最小定格は、定格出力の10%~50%であり、一例を挙げれば定格出力の20%(例えば320kW)である。水電解装置12の最大定格は、定格出力の120%~200%であり、一例を挙げれば定格出力の150%(例えば2,400kW)である。
【0022】
圧縮機14は、水電解装置12が製造する水素ガスを圧縮し、圧縮前の水素ガスよりも高圧の水素ガス(昇圧水素ガスともいう)を生成する。圧縮機14としては、例えば、一般的な金属ピストンを用いる往復式圧縮機(レシプロ式)、ピストンを不揮発性のイオン液体で代用するイオニック式圧縮機、ステンレス膜を金属製のヘッドに押し付けることで昇圧するダイヤフラム式圧縮機などが挙げられる。圧縮機14は、電力需給の調整に伴って頻繁に発生しうる負荷変動に対応するため、追従性および耐久性が優れている往復式圧縮機であることが好ましい。圧縮機14で生成された昇圧水素ガスは、蓄圧器16に蓄圧される。圧縮機14は、他の拠点で製造された水素ガスを受け入れてもよく、例えば、水素トレーラー94を通じて水素ステーション10に搬入される水素ガスを圧縮して昇圧水素ガスを生成してもよい。
【0023】
蓄圧器16は、高圧蓄圧器22と、中間蓄圧器24とを含む。高圧蓄圧器22は、ディスペンサー18を通じて燃料電池自動車92に充填するための高圧水素を貯蔵する。高圧蓄圧器22に蓄圧される水素ガスの圧力は、例えば82MPaである。中間蓄圧器24は、水素ステーション10が在庫として確保すべき水素ガスを貯蔵する。中間蓄圧器24に蓄圧される水素ガスの圧力は、例えば45MPaである。中間蓄圧器24の容量の一例は、1,500Nm3である。
【0024】
中間蓄圧器24に蓄圧される水素ガスは、圧縮機14で圧縮することで、高圧蓄圧器22に蓄圧することができる。また、中間蓄圧器24に蓄圧される水素ガスは、圧縮機14で圧縮した後、高圧蓄圧器22を経由せずに燃料電池自動車92に充填することもできる。例えば、水電解装置12の製造能力を超える水素需要が生じた場合、中間蓄圧器24に貯蔵される水素ガスを用いることで、水素需要を賄うことができる。中間蓄圧器24は、他の水素ステーションに供給するための水素ガスを貯蔵することもできる。例えば、中間蓄圧器24に貯蔵される水素ガスを水素トレーラー96等に充填することで、他の水素ステーションに水素ガスを供給してもよい。なお、中間蓄圧器24は必須の構成ではなく、水素ステーション10に中間蓄圧器24が設けられなくてもよい。
【0025】
プレクーラー17は、ディスペンサー18を介して燃料電池自動車92に供給される高圧水素を所定の温度(例えば-40℃)に冷却する。プレクーラー17は、例えば、高圧水素を冷却するための冷凍機(不図示)を有する。冷却された高圧水素を燃料電池自動車92の水素タンクに充填することで、高圧水素の充填時における燃料電池自動車92の水素タンクの温度上昇を低減できる。
【0026】
ディスペンサー18は、水素ステーション10に来た燃料電池自動車92に高圧水素を供給する。燃料電池自動車92に充填される水素ガスの圧力は、各国の規定や法規で定められ、日本では例えば70MPaである。燃料電池自動車92に1回の充填で供給される水素ガスの量は、例えば30Nm3である。
【0027】
制御装置20は、水素ステーション10に設置される各種機器の動作を制御する。制御装置20は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現される。制御装置20の各種機能は、ハードウェアおよびソフトウェアの組み合わせによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には当然に理解されるところである。
【0028】
制御装置20は、水素ステーション10における水素の需給計画に基づいて動作する。水素の需給計画には、水素ステーション10における水素ガスの需要量、供給量および在庫量の時間別の計画が定められる。
【0029】
水素ガスの需要量は、ディスペンサー18から燃料電池自動車92に充填される水素ガスの充填量の予測値に対応する。充填量の時間別の予測値は、例えば、水素ステーション10に来るであろう燃料電池自動車92の単位時間あたりの予測台数に1回あたりの充填量(例えば30Nm3)を積算することで算出できる。水素ガスの需要量は、1日単位で予測されてもよく、1日あたりの水素ガスの需要量から時間別の水素ガスの需要量が算出されてもよい。水素ガスの需要量には、水素トレーラー96などを通じて他の拠点に供給する水素ガスの出荷量が含まれてもよい。
【0030】
水素ガスの供給量は、水電解装置12が製造する水素ガスの製造量に対応する。水素ガスの製造量は、水電解装置12の時間別の運転出力に基づいて算出できる。水素ガスの供給量には、水素トレーラー94などを通じて他の拠点から供給を受ける水素ガスの入荷量が含まれてもよい。
【0031】
水素ガスの在庫量は、蓄圧器16に貯蔵される水素ガスの蓄圧残量である。水素ガスの在庫量は、高圧蓄圧器22の蓄圧残量のみを含んでもよいし、高圧蓄圧器22と中間蓄圧器24の蓄圧量の合計値であってもよい。水素ガスの在庫量は、高圧蓄圧器22および中間蓄圧器24とは異なる水素タンクの蓄圧量を含んでもよい。例えば、高圧蓄圧器22および中間蓄圧器24とは別に水素ステーション10に常設される水素タンクの蓄圧量が含まれてもよいし、水素ステーション10に一時保管される水素カードルや水素シリンダーの蓄圧量が含まれてもよい。
【0032】
図2(a)~(c)は、水素の需給計画の一例を示すグラフである。
図2(a)は、時間別の水素需要量を示し、ディスペンサー18から燃料電池自動車92への時間別の水素充填量を示す。水素需要量は、時間帯に応じて大きく変動する。深夜0時~5時の水素需要は少ないが、朝5時~6時頃から需要が増加し、10時~11時頃に需要の第1ピークが見られる。その後、昼12時~15時頃に需要が減少した後、15時頃から需要が増加し、夕方17時~19時頃に需要の第2ピークが見られる。その後、夜19時~24時にかけて需要が徐々に低下していく。なお、
図2(a)に示される水素需要量は一例であり、水素ステーション10の場所や天候、季節、曜日といった要因によって様々に変化しうる。
【0033】
図2(b)は、時間別の水素供給量を示し、水電解装置12により製造される時間別の水素製造量を示す。水素供給量は、需要量とは対照的に時間帯によらずにほぼ一定である。水電解装置12は、水蒸気改質による水素製造装置に比べて、負荷変動および起動停止が速いという特徴がある。しかしながら、水電解装置12は、電極の劣化等を防止するといった耐久性の観点から、できるだけ出力を一定に維持して運転することが好ましい。
図2(b)のグラフにおいて、水電解装置12を定格出力(例えば1,600kW)で運転させたときの水素製造量320Nm
3/hを破線で示している。図示する例では、水電解装置12が定格出力の80%~100%で運転しており、時間帯に応じて運転出力が段階的に設定されている。具体的には、定格出力の80%、90%または100%となるように運転出力が設定されている。なお、水電解装置12の運転出力は、より小刻みに設定されてもよく、例えば1%刻みで設定可能であってもよいし、1kW単位で設定可能であってもよい。
【0034】
図2(c)は、時間別の水素在庫量を示し、蓄圧器16に蓄圧される水素ガスの蓄圧残量を示す。蓄圧器16の蓄圧残量は、
図2(a)の水素需要量に応じて減少し、
図2(b)の水素供給量に応じて増加する。蓄圧器16の蓄圧残量の変化量は、水電解装置12による水素製造量からディスペンサー18による水素需要量の差分に対応する。したがって、水素需要量よりも水素製造量が多い時間帯(例えば22時~8時)では、蓄圧残量が増加し、水素需要量よりも水素製造量が少ない時間帯(例えば8時~21時)では、蓄圧残量が減少する。
【0035】
水電解装置12の運転計画は、水素の需要量と在庫量に基づいて決定される。水電解装置12の運転計画は、水素の需給に応じて水素の在庫量が時間経過とともに変動する状況下において、水素の在庫量が所定の下限値(例えば100Nm
3)から上限値(例えば1,500Nm
3)の範囲内に収まるように決定される。例えば、1日の水素需要量と水素供給量が対応するように水電解装置12の運転計画を決定することで、水素の在庫量を所定の範囲内に収めることができる。一例を挙げると、1日の水素需要量(例えば6,300Nm
3)を24時間で除算することで、1時間あたりの水素製造量(例えば263Nm
3/h)を決定でき、水素製造量に対応する運転出力(例えば定格出力の82%)を決定できる。このとき、蓄圧器16の蓄圧残量が下限値を下回ったり、上限値を超えたりすることがないように、時間別の水素製造量が調整される。
図2(c)の例では、在庫が最大となる7時~8時頃において在庫量が上限値に到達せず、在庫が最小となる21時~22時頃において在庫が下限値に到達しないように、水電解装置12の運転計画が作成されている。水電解装置12の運転計画は、商用電力網90における時間別の電気料金に基づいて調整されてもよく、例えば、電気料金の安い時間帯(例えば深夜)の運転出力を相対的に高くし、電気料金の高い時間帯(例えば日中)の運転出力を相対的に低くしてもよい。
【0036】
制御装置20は、商用電力網90に電力需給の調整力を提供する必要がある場合、水電解装置12の消費電力の調整余力を算出する。ここで、水電解装置12の調整余力とは、水素ステーション10の運営に支障が生じない範囲で、水電解装置12の消費電力を増加または減少させることのできる消費電力量の増減幅である。制御装置20は、水素の需給計画、水電解装置12の運転出力の現在値、蓄圧器16の蓄圧残量の現在値などに基づいて、水電解装置12の調整余力を算出する。
【0037】
まず、水電解装置12の消費電力を上げる場合について説明する。水電解装置12の運転出力は、水電解装置12の最大定格まで増加させることができる。したがって、水電解装置12の増加方向の調整余力は、水電解装置12の運転出力の現在値と最大定格の差によって制約される。例えば、水電解装置12が定格出力で運転しており、最大定格が定格出力の150%である場合、水電解装置12の増加方向の調整余力は、定格出力の50%となる。なお、水電解装置12の運転出力の現在値と最大定格の差を「運転余力」ともいう。
【0038】
水電解装置12の消費電力を上げた場合、当初の需給計画に比べて水素の製造量が増えることで蓄圧器16の蓄圧残量が上限に達するおそれがある。蓄圧器16の最大蓄圧量を超えて水素を貯蔵することはできないため、水電解装置12の調整余力は、蓄圧器16の蓄圧余力によっても制約される。蓄圧器16の蓄圧余力は、蓄圧器16の蓄圧残量の現在値と最大蓄圧量の差である。例えば、蓄圧残量の現在値が1,300Nm3であり、最大蓄圧量が1,500Nm3である場合、蓄圧余力は200Nm3である。
【0039】
電力需給の調整には指定された時間(例えば30分や1時間)にわたって消費電力を上げた状態を維持する必要があり、この間の水素製造量が蓄圧余力(例えば200Nm3)を超えないようにしなければならない。したがって、蓄圧余力(例えば200Nm3)を電力需給調整時間(例えば0.5時間)で除算した値(例えば400Nm3/h)が1時間あたりの製造量の上限値となる。このとき、水電解装置12の出力の上限値は、製造量の上限値(例えば400Nm3/h)に対応する運転出力(例えば定格出力の125%)となる。このとき、水電解装置12の増加方向の調整余力は、運転出力の現在値と出力上限値の差となる。例えば、水電解装置12が定格出力で運転しており、出力上限値が定格出力の125%であれば、水電解装置12の増加方向の調整余力は、定格出力の25%となる。
【0040】
なお、蓄圧器16の蓄圧余力は、水素の需要量を加味して計算されてもよい。例えば、電力需給調整時間帯においてディスペンサー18から燃料電池自動車92に水素が充填されれば、その分だけ蓄圧器16の蓄圧余力が増えることになる。したがって、蓄圧器16の蓄圧余力として、電力需給調整時間帯における水素需要量を加算してもよい。例えば、蓄圧残量の現在値が1,300Nm3であり、最大蓄圧量が1,500Nm3であり、電力需給調整時間帯の水素需要量が300Nm3である場合、蓄圧余力を1,500-1,300+300=500Nm3としてもよい。また、電力需給調整時間帯の水素需要量に対して所定の安全係数(例えば0.5)を掛け合わせた値(例えば150Nm3)を蓄圧余力に加味してもよい。安全係数を設定することで、水素需要の実績が予測よりも少ない場合に蓄圧余力がなくなる可能性を低減できる。
【0041】
制御装置20は、水電解装置12の運転余力および蓄圧器16の蓄圧余力の双方に基づいて、水電解装置12の調整余力を算出する。具体的には、水電解装置12の運転余力に基づく調整余力と、蓄圧器16の蓄圧余力に基づく調整余力のうち、相対的に小さい値を水電解装置12の調整余力とする。例えば、水電解装置12の運転余力に基づく調整余力が定格出力の50%であり、蓄圧器16の蓄圧余力に基づく調整余力が定格出力の25%である場合、水電解装置12の調整余力を25%とする。制御装置20は、水電解装置12の運転余力または蓄圧器16の蓄圧余力のいずれかに基づいて、水電解装置12の調整余力を決定してもよい。
【0042】
つづいて、水電解装置12の消費電力を下げる場合について説明する。水電解装置12の運転出力は、水電解装置12の最小定格まで減少させることができる。したがって、水電解装置12の減少方向の調整余力は、水電解装置12の運転出力の現在値と最小定格の差によって制約される。例えば、水電解装置12が定格出力で運転しており、最小定格が定格出力の20%である場合、水電解装置12の減少方向の調整余力は、定格出力の80%となる。なお、水電解装置12の運転出力の現在値と最小定格の差を「運転余力」ともいう。
【0043】
水電解装置12の消費電力を下げた場合、当初の需給計画に比べて水素の製造量が減ることで蓄圧器16の蓄圧残量が下限に達するおそれがある。例えば、蓄圧器16が空になってしまうと、水素ステーション10に来た燃料電池自動車92に水素を供給できなくなり、水素ステーション10の運営に支障をきたす。したがって、水電解装置12の調整余力は、電力需給調整時間帯における水素需要量によっても制約される。水素需要に対応するためには、水素需要量から蓄圧残量の現在値を減算した水素不足量を電力需給調整時間帯に製造しなければならない。例えば、電力需給調整時間帯の水素需要量が240Nm3であり、蓄圧残量の現在値が144Nm3である場合、水素不足量は96Nm3である。このとき、水素不足量(例えば96Nm3)を電力需給調整時間(例えば1時間)で除算した値(例えば96Nm3/h)が1時間あたりの製造量の下限値となる。水電解装置12の出力下限値は、製造量の下限値(例えば96Nm3/h)に対応する運転出力(例えば定格出力の30%)となる。このとき、水電解装置12の減少方向の調整余力は、運転出力の現在値と出力下限値の差となる。例えば、水電解装置12が定格出力で運転しており、出力下限値が定格出力の30%であれば、水電解装置12の減少方向の調整余力は、定格出力の70%となる。
【0044】
なお、電力需給調整時間帯の水素不足量は、バッファとなる蓄圧残量の下限値(例えば100Nm3)を加味して計算されてもよい。蓄圧残量の下限値は、高圧蓄圧器22の容量に一致してもよいし、高圧蓄圧器22の容量にさらにバッファを加えた値としてもよい。蓄圧残量の下限値を高圧蓄圧器22の容量以上の値とすることで、高圧蓄圧器22に高圧水素が満充填された状態を維持でき、水素ステーション10に来所した燃料電池自動車92に水素ガスを常時即時に供給できる。また、電力需給調整時間帯の水素需要量に対して所定の安全係数(例えば2)を掛け合わせた値(例えば192Nm3)を用いて、水素不足量を算出してもよい。安全係数を設定することで、水素需要の実績が予測よりも多くなった場合に水素の在庫がなくなる可能性を低減できる。
【0045】
制御装置20は、水電解装置12の運転余力および電力需給調整時間帯の水素不足量の双方に基づいて、水電解装置12の調整余力を算出する。具体的には、水電解装置12の運転余力に基づく調整余力と、電力需給調整時間帯の水素不足量に基づく調整余力のうち、相対的に小さい値を水電解装置12の調整余力とする。例えば、水電解装置12の運転余力に基づく調整余力が定格出力の80%であり、蓄圧器16の蓄圧余力に基づく調整余力が定格出力の70%である場合、水電解装置12の調整余力を70%とする。制御装置20は、水電解装置12の運転余力または電力需給調整時間帯の水素不足量のいずれかに基づいて、水電解装置12の調整余力を決定してもよい。
【0046】
制御装置20は、商用電力網90に電力需給の調整力を提供する場合、算出した調整余力の範囲内で水電解装置12の消費電力量を調整する。制御装置20は、例えば、電力供給側またはアグリゲータから指令された調整目標量に近づくように、調整余力の範囲内で水電解装置12の消費電力量を調整する。制御装置20は、水電解装置12の消費電力量を調整した場合、消費電力の調整量の実績値を算出してもよい。例えば、電力需給調整時間帯の水電解装置12の消費電力量を計測し、当初の運転計画に基づく消費電力量または調整直前の消費電力量との差分を算出することで、調整量の実績値を求めてもよい。
【0047】
制御装置20は、商用電力網90に電力需給の調整力を提供する場合、消費電力量の調整によって生じた水素製造量の過不足が解消または緩和されるように水電解装置12の運転計画を更新してもよい。例えば、電力需給調整時間帯において消費電力を上げた場合、電力需給調整時間帯とは別の時間帯の運転出力を当初の計画に比べて下げてもよい。逆に、電力需給調整時間帯において消費電力を下げた場合、電力需給調整時間帯とは別の時間帯の運転出力を当初の計画に比べて上げてもよい。運転計画を更新する場合には、上述の運転計画の作成時と同様、時間別の在庫量が所定の下限値から上限値の範囲内に収まるように決定される。
【0048】
図3(a),(b)は、水素の製造計画の更新例を示すグラフである。
図3(a)は、消費電力を上げる調整がなされた場合の時間別の製造計画を示す。
図3(a)では、9時~9時30分の30分間において電力消費量を上げる調整がなされ、当初計画に対して符号81で示される部分の水素製造量が上乗せされている。上乗せされた水素製造量を調整するため、10時~13時の3時間にわたって水素製造量が調整され、当初計画に対して符号82で示される部分の水素製造量が差し引かれている。
図3(b)は、消費電力を下げる調整がなされた場合の時間別の製造計画を示す。
図3(b)では、9時~10時の1時間において電力消費量を下げる調整がなされ、当初計画に対して符号83で示される部分の水素製造量が差し引かれている。差し引かれた水素製造量を調整するため、12時~17時の5時間にわたって水素製造量が調整され、当初計画に対して符号84で示される部分の水素製造量が上乗せされている。
【0049】
図3に示す例では、電力需給の調整時間(例えば30分や1時間)に比べて、水素製造量の調整時間(例えば3時間や5時間)が長くなるように製造計画が更新されている。このように製造計画を更新することで、水電解装置12の運転出力の変動を抑制することができ、水電解装置12の出力をより安定させることができる。なお、電力需給の調整時間と水素製造量の調整時間が同じとなるように製造計画を更新してもよいし、電力需給の調整時間に比べて水素製造量の調整時間が短くなるように製造計画を更新してもよい。また、水素製造量を調整する時間帯は、電力需給調整時間帯の直後であってもよいし、電力需給調整時間帯から時間を空けて設定されてもよい。水素製造量を調整する時間帯は、電力需給が調整された当日であってもよいし、翌日以降であってもよい。また、電力需給の調整が指令されてから電力需給を調整するまでの時間が長い場合、電力需給調整時間帯の前に水素製造量が調整されてもよい。
【0050】
図2および
図3に示す例では、水電解装置12の運転計画を1日単位で作成する場合について示した。別の実施の形態では、水電解装置12の運転出力が都度決定されてもよく、例えば、現在時刻から所定時間(例えば30分や1時間)が経過するまでの直近期間における水電解装置12の運転計画のみが定められてもよい。例えば、直近期間の水素需要量の予測値と、水素在庫量の現在値とに基づいて、直近期間の水素製造量が決定されてもよい。この場合、水電解装置12の調整余力についても都度算出されてもよく、水電解装置12の運転出力の現在値、直近期間の水素製造量の予定値、直近期間の水素需要量の予測値および水素在庫量の現在値に基づいて、水電解装置12の調整余力が算出されてもよい。このようにして算出された調整余力に基づいて、水電解装置12の直近期間における消費電力量が調整されてもよい。その他、水素需要量の予測値を用いずに水電解装置12の運転計画の決定および調整余力の算出がなされてもよい。例えば、水素在庫量の現在値のみに基づいて、水電解装置12の運転計画の決定および調整余力の算出がなされてもよい。
【0051】
つづいて、複数の水素ステーションにおける消費電力量の連携制御について説明する。水素を燃料とする燃料電池自動車が普及させるには、利便性向上のために様々な場所に水素ステーションを整備する必要がある。ガソリンや軽油等の給油所と同様、幹線道路沿いに大型の水素ステーションを設置したり、市街地に小型の水素ステーションを設置したりする形態が考えられる。ガソリンや軽油等の場合、大規模な石油精製工場で製造された燃料を運搬船や鉄道、タンクローリーなどを用いて各給油所に輸送する必要がある。一方、水素の場合、小型の水電解装置を用いて水素を現地製造できるため、輸送コストを抑制できる。また、場所や需要、コスト等の要因によって水電解装置を設置できないような小型の水素ステーションの場合であっても、近隣の水素ステーションまたは水素製造拠点で製造される水素を輸送することで、輸送コストを低減できる。さらに、複数の水素ステーションに設置される各水電解装置の消費電力量を連携して調整することで、商用電力網の電力需給に対して大きな調整力を提供できる。これにより、出力変動の大きい再生可能エネルギーを効率的に利用しつつ、水素の輸送コストも抑制できるため、社会全体でのエネルギー効率を高めることができる。
【0052】
図4は、実施の形態に係る水素供給システム50の構成を模式的に示す図である。水素供給システム50は、複数の水素ステーション10a,10b,10c,10d,10e,10f,10g,10hと、水素製造拠点30と、管理センター40とを備える。水素供給システム50は、特定の地域全体に水素を供給するための水素供給網である。
【0053】
複数の水素ステーション10a~10hは、複数のオンサイト型水素ステーション(オンサイトSTともいう)10a,10bと、複数のオフサイト型水素ステーション(オフサイトSTともいう)10c~10hとを含む。
図4の例では、二箇所のオンサイトSTと六箇所のオフサイトSTが含まれるが、オンサイトSTおよびオフサイトSTの数は特に限られず、図示される例よりも少数または多数の水素ステーションが含まれてもよい。
【0054】
オンサイトST10a,10bは、水素を製造する設備を有する。例えば、オンサイトST10aは、水電解装置12aと、圧縮機14aと、蓄圧器16aと、プレクーラー17aと、ディスペンサー18aと、制御装置20aとを有し、上述の実施の形態に係る水素ステーション10と同様に構成される。また、オンサイトST10bは、水電解装置12bと、圧縮機14bと、蓄圧器16bと、プレクーラー17bと、ディスペンサー18bと、制御装置20bとを有し、上述の実施の形態に係る水素ステーション10と同様に構成される。
【0055】
オフサイトST10c~10hは、水素を製造する設備を有していない。例えば、オフサイトST10cは、圧縮機14cと、蓄圧器16cと、プレクーラー17cと、ディスペンサー18cと、制御装置20cとを有するが、水電解装置を有しない。したがって、オフサイトST10c~10hは、上述の実施の形態に係る水素ステーション10から水電解装置12を削除したものと同様に構成される。オフサイトST10c~10hは、他の拠点で製造された水素を調達して水素を供給する。
図4の例では、オンサイトST10aまたは水素製造拠点30にて製造された水素ガスを水素トレーラー98a,98bを用いて各オフサイトST10c~10hに輸送する。
【0056】
水素製造拠点30は、水素を製造する設備を有するが、燃料電池自動車92に水素を供給するための設備を有していない。水素製造拠点30は、水電解装置32と、圧縮機34と、蓄圧器36と、制御装置38とを有するが、プレクーラーおよびディスペンサーを有しない。水素製造拠点30は、オンサイトST10a,10bの水電解装置12a,12bに比べて大型の水電解装置32を有してもよく、オンサイトST10a,10bよりも水素製造能力が高くてもよい。
【0057】
水素製造拠点30の制御装置38は、水素の供給先となるオフサイトST10e~10hの水素需給に基づいて、水電解装置32の製造計画を作成する。水素製造拠点30の制御装置38は、商用電力網90の電力需給の調整が必要となる場合、供給先のオフサイトST10e~10hの水素需給および水素在庫量、水電解装置32の製造計画、蓄圧器36の蓄圧残量などに基づいて、水電解装置32の消費電力の調整余力を算出する。水電解装置32の調整余力は、上述の実施の形態に係る水素ステーション10における調整余力と同様の方法で算出できる。
【0058】
水素供給システム50に含まれる複数のオンサイトST10a,10bおよび水素製造拠点30は、共通の商用電力網90から供給される電力を消費して水素を製造する。したがって、水素供給システム50に含まれる複数のオンサイトST10a,10bおよび水素製造拠点30は、共通の商用電力網90に対して電力需給の調整力を有する。
【0059】
管理センター40は、水素供給システム50の全体の水素需給を管理するための管理装置42を備える。管理装置42は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現される。管理装置42の各種機能は、ハードウェアおよびソフトウェアの組み合わせによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には当然に理解されるところである。
【0060】
管理装置42は、複数の水素ステーション10a~10hおよび水素製造拠点30のそれぞれの制御装置と接続されており、各拠点の水素の需給計画の作成を支援する。例えば、オンサイトST10aは、水電解装置12aで製造する水素ガスの一部を二箇所のオフサイトST10c,10dに供給する必要がある。管理装置42は、供給先のオフサイトST10c,10dの水素ガスの需要量および在庫量をオンサイトST10aに通知し、供給先の水素需要を加味した需給計画をオンサイトST10aが作成できるようにする。同様に、水素製造拠点30は、水電解装置32で製造する水素ガスを四箇所のオフサイトST10e~10hに供給する必要がある。管理装置42は、供給先のオフサイトST10e~10hの水素ガスの需要量および在庫量を水素製造拠点30に通知し、供給先の水素需要に応じた製造計画を水素製造拠点30が作成できるようにする。管理装置42は、オンサイトST10aまたは水素製造拠点30からオフサイトST10c~10hへの水素ガスの輸送計画を作成してもよい。管理装置42は、各拠点の水素の需給計画を一括して作成してもよい。
【0061】
管理装置42は、商用電力網90の電力需給を調整するための指令を取得する。管理装置42は、例えば、商用電力網90の電力会社やアグリゲータが発行する調整指令をインターネット経由で受信する。その他、電話やFAX、電子メールなどで調整指令を受け、指令を受けた担当者が調整指令の内容を管理装置42に入力してもよい。調整指令には、電力需給を調整すべき時間帯と電力需給の調整目標量が含まれる。
【0062】
管理装置42は、商用電力網90の電力需給を調整する指令を取得した場合、複数のオンサイトST10a,10bおよび水素製造拠点30の水電解装置12a,12b,32の消費電力の調整余力を取得する。管理装置42は、複数のオンサイトST10a,10bおよび水素製造拠点30の制御装置20a,20b,38に対し、水電解装置12a,12b,32の調整余力の算出を要請する。管理装置42は、調整余力の算出を要請する場合、電力需給を調整すべき時間帯を指定してもよい。各拠点の制御装置20a,20b,38は、管理装置42からの要請に基づいて、水電解装置12a,12b,32の調整余力を算出し、算出した調整余力を管理装置42に送信する。各拠点の制御装置20a,20b,38は、各拠点の水素の需給計画の最新情報を管理装置42に送信してもよい。例えば、各拠点の水素ガスの製造量や蓄圧残量の現在値を管理装置42に送信してもよい。なお、管理装置42が各拠点の水素の需給計画に基づいて、各拠点の水電解装置12a,12b,32の消費電力の調整余力を算出してもよい。
【0063】
管理装置42は、各拠点の水電解装置12a,12b,32の消費電力の調整余力に基づいて、各拠点の調整余力の範囲内で、水素供給システム50の全体での消費電力の調整量を決定する。管理装置42は、例えば、各拠点の調整余力の合計値をシステム全体での調整量とする。管理装置42は、システム全体での調整量を各拠点の調整余力の合計値よりも低くしてもよい。例えば、電力需給の調整目標量が1,000kW単位や5,000kW単位などで段階的に設定される場合、段階的な調整目標量と一致するようにシステム全体での調整量を決定してもよい。管理装置42は、各拠点の調整余力の合計値の範囲内で、電力需給の調整権を獲得するための入札に参加し、落札した調整量に基づいてシステム全体での調整量を決定してもよい。
【0064】
管理装置42は、システム全体での調整量を各拠点に配分し、各拠点の消費電力の調整量を決定する。管理装置42は、各拠点の消費電力の調整量を均等配分してもよく、各拠点の調整余力に共通する配分率を乗算した値を各拠点の調整量としてもよい。配分率は、各拠点の消費電力の調整余力の合計値に対するシステム全体での調整量の比率に相当する。例えば、各拠点の消費電力の調整余力の合計値が5,800kWであり、システム全体での調整量が5,000kWであれば、配分率は86.2%である。
【0065】
管理装置42は、各拠点の消費電力の調整量を傾斜配分してもよい。すなわち、拠点ごとに消費電力の調整量の配分率を異ならせてもよい。管理装置42は、各拠点の調整余力の大きさに応じて各拠点の調整量を決定してもよい。例えば、調整余力が相対的に小さい拠点については配分率を相対的に小さくし、調整余力が相対的に大きい拠点については配分率を相対的に大きくしてもよい。管理装置42は、各拠点の水素ガスの製造量や蓄圧残量の現在値に基づいて、各拠点の消費電力の調整量を傾斜配分してもよい。また、各拠点の水電解装置の製造能力が拠点ごとに異なる場合(例えば、600Nm3/h、300Nm3/hおよび100Nm3/hの場合)、各拠点の製造能力に応じて消費電力の調整量を傾斜配分してもよい。各拠点の水電解装置の製造能力の現在値に応じた調整がなされてもよく、例えば、経年使用による劣化等に起因した水電解装置の出力低下を考慮した調整がなされてもよい。その他、一部の拠点(例えば、オンサイトST10a)については消費電力を調整せず、残りの拠点(例えば、オンサイトST10bおよび水素製造拠点30)のみ消費電力を調整してもよい。
【0066】
管理装置42は、消費電力を調整すべき拠点に対し、電力需給を調整する時間帯と消費電力の調整量を指令する。管理装置42は、消費電力の調整量を指令する代わりに、各拠点の水電解装置の運転出力を指令してもよい。指令された拠点の制御装置は、指定された時間帯における水電解装置の運転出力を調整することで、指令された消費電力の調整量が実現されるようにする。各拠点が連携して消費電力を調整することで、電力会社やアグリゲータから指令される電力需給の調整目標量を水素供給システム50の全体で実現することができる。
【0067】
図5は、実施の形態に係る水素需給管理方法の流れを示すフローチャートである。管理装置42は、商用電力網90の電力需給を調整するための指令を取得する(S10)。各拠点の制御装置20a,20b,38は、管理装置42からの指令に基づいて、各拠点の水電解装置12a,12b,32の消費電力の調整余力を個別に算出する(S12)。管理装置42は、各拠点の調整余力の範囲内で、各拠点の水電解装置12a,12b,32の消費電力の調整量を決定する(S14)。各拠点の制御装置20a,20b,38は、決定された調整量に基づいて、各拠点の水電解装置12a,12b,32の消費電力を調整する(S16)。
【0068】
本実施の形態によれば、単独の電解装置では実現できないような大きな調整力を商用電力網90に対して提供できる。例えば、再生可能エネルギーによる発電量が多い場合に各電解装置の運転出力を上げることで、再生可能エネルギーを利用した水素製造量の比率を高めることができる。また、再生可能エネルギーによる発電が見込まれない場合に各電解装置の運転出力を下げることで、再生可能エネルギーに由来しない電力を利用した水素製造量の比率を高めることができる。これにより、出力変動の大きい再生可能エネルギーを効率的に利用できる。また、水電解装置を用いて水素を現地で生産して現地で消費できるため、水素の輸送コストも抑制できる。したがって、本実施の形態によれば、社会全体でのエネルギー効率の向上に寄与できる。
【0069】
上述の実施の形態において、複数のオフサイトST10c~10hの少なくとも一つは、複数の拠点から水素ガスの供給を受けてもよい。例えば、オフサイトST10cは、複数のオンサイトST10a,10bから水素ガスの供給を受けてもよいし、オンサイトST10aおよび水素製造拠点30の双方から水素ガスの供給を受けてもよい。また、複数のオンサイトST10a,10bの少なくとも一つは、水素製造拠点30から水素ガスの供給を受けてもよい。つまり、水素製造拠点30は、複数のオフサイトST10e~10hのみならず、複数のオンサイトST10a,10bの少なくとも一つに水素ガスを供給してもよい。水素供給システム50は、ハブ型水素ステーションを含んでもよい。ハブ型水素ステーションは、他拠点(水素製造拠点またはオンサイト型水素ステーション)から水素ガスの供給を受けるとともに、他拠点(オフサイト型またはオンサイト型水素ステーション)に水素ガスを供給するよう構成される。ハブ型水素ステーションは、水電解装置を有するオンサイト型であってもよいし、水電解装置を有しないオフサイト型であってもよい。
【0070】
上述の実施の形態において、水素供給システム50は、水素製造拠点30を備えなくてもよい。水素供給システム50は、水電解装置とは異なる電解装置を有する拠点を備えてもよい。例えば、商用電力網90から供給される電力を消費する電解反応により有機ハイドライドを製造する電解装置を有する有機ハイドライド製造拠点を備えてもよい。有機ハイドライドは、脱水素反応により容易に水素ガスを生成する液体であり、例えば、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、デカリンおよびその誘導体、2-プロパノール等である。例えば、トルエンに水由来の水素を付加する電解反応によりメチルシクロヘキサンを製造することができ、メチルシクロヘキサンの脱水素反応により水素ガスを製造できる。有機ハイドライドは液体であるため、水素ガスに比べて輸送コストが低い。そこで、水素供給システム50において、有機ハイドライドを製造し、製造した有機ハイドライドを別拠点に輸送し、別拠点において有機ハイドライドから水素ガスを製造してもよい。
【0071】
水素供給システム50は、有機ハイドライド製造拠点と、有機ハイドライドの脱水素反応により水素を製造するオンサイト型水素ステーションとを備えてもよい。水素供給システム50は、有機ハイドライド製造拠点が有する電解装置の消費電力を調整することで、商用電力網90に電力需給の調整力を提供してもよい。有機ハイドライド製造拠点における消費電力の調整余力は、有機ハイドライド製造拠点における有機ハイドライドの需給計画に基づいて決定されてもよい。有機ハイドライドの需給計画は、有機ハイドライドの需要量、製造量および在庫量の時間別計画を含んでもよい。有機ハイドライドの需要量は、供給先となるオンサイト型水素ステーションの水素の需給計画に基づいて決定されてもよい。
【0072】
有機ハイドライドの供給先は、オンサイト型水素ステーションではなく、燃料電池自動車への充填設備を有しない水素製造拠点であってもよい。この水素製造拠点は、有機ハイドライドの脱水素反応により水素を製造する水素製造装置を有する。この水素製造拠点は、オフサイト型水素ステーションに水素ガスを供給してもよい。この水素製造拠点の需給計画は、供給先となるオフサイト型水素ステーションの水素の需給計画に基づいて決定される。このようにして、有機ハイドライド製造拠点、水素製造拠点およびオフサイト型水素ステーションの組み合わせにより水素供給網が構築されてもよい。この場合、有機ハイドライド製造拠点における消費電力の調整余力は、最終的な水素の供給先となるオフサイト型水素ステーションにおける水素の需給計画に基づいて決定されてもよい。
【0073】
上述の実施の形態において、水素供給システムは、オンサイト型水素ステーションを備えない構成であってもよい。この場合、水素供給システムは、複数の水素製造拠点と、複数のオフサイト型水素ステーションとを備えてもよい。各水素製造拠点は、上述の水素製造拠点30と同様、水電解装置と、圧縮機と、蓄圧器と、制御装置とを有してもよい。各オフサイト型水素ステーションは、上述のオフサイトST10c~10hと同様、圧縮機と、蓄圧器と、プレクーラーと、ディスペンサーと、制御装置とを有してもよい。各オフサイト型水素ステーションは、複数の水素製造拠点の少なくとも一つから水素ガスの供給を受けてもよい。各水素製造拠点の需給計画は、供給先となるオフサイト型水素ステーションの水素の需給計画に基づいて決定されてもよい。このとき、複数の水素製造拠点に設置される複数の水電解装置の消費電力を調整することで、商用電力網に電力需給の調整力が提供されてもよい。
【0074】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明した。前述した実施の形態は、本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施の形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。設計変更が加えられた新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形それぞれの効果をあわせもつ。前述の実施の形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「本実施の形態の」、「本実施の形態では」等の表記を付して強調しているが、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。以上の構成要素の任意の組み合わせも、本発明の態様として有効である。
【符号の説明】
【0075】
10…水素ステーション、12…水電解装置、14…圧縮機、16…蓄圧器、17…プレクーラー、18…ディスペンサー、20…制御装置、22…高圧蓄圧器、24…中間蓄圧器、30…水素製造拠点、32…水電解装置、34…圧縮機、36…蓄圧器、38…制御装置、42…管理装置、50…水素供給システム、90…商用電力網、92…燃料電池自動車。