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特開2024-5670歯車ユニット、波動歯車装置、ロボット、および歯車ユニットの製造方法
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  • 特開-歯車ユニット、波動歯車装置、ロボット、および歯車ユニットの製造方法 図1
  • 特開-歯車ユニット、波動歯車装置、ロボット、および歯車ユニットの製造方法 図2
  • 特開-歯車ユニット、波動歯車装置、ロボット、および歯車ユニットの製造方法 図3
  • 特開-歯車ユニット、波動歯車装置、ロボット、および歯車ユニットの製造方法 図4
  • 特開-歯車ユニット、波動歯車装置、ロボット、および歯車ユニットの製造方法 図5
  • 特開-歯車ユニット、波動歯車装置、ロボット、および歯車ユニットの製造方法 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005670
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】歯車ユニット、波動歯車装置、ロボット、および歯車ユニットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
F16H1/32 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105952
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】ニデック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】塩野 郁弥
(72)【発明者】
【氏名】前田 賢司
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027FA37
3J027FB32
3J027GB03
3J027GC07
3J027GC22
3J027GD04
3J027GD07
3J027GD08
3J027GD12
3J027GD13
3J027GE01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】可撓性歯車の応力集中による劣化を抑制する。
【解決手段】波動歯車装置の歯車ユニット19は、可撓性歯車20と、可撓性歯車に固定されたブッシュ26およびスペーサ27を有する。可撓性歯車は、板状のダイヤフラム部21と、曲げ部22と、筒状の胴部と、複数の外歯を有する。曲げ部は、ダイヤフラム部の径方向外側の端部から、径方向外側へ向かうにつれて徐々に軸方向一方側へ曲がる。胴部は、曲げ部の軸方向一方側の端部から軸方向一方側へ延びる。複数の外歯は、胴部の外周面に設けられる。ブッシュは、中心軸に対して垂直に広がるとともに、ダイヤフラム部の軸方向一方側の面に接触する第1接触面を有する。スペーサは、中心軸に対して垂直に広がるとともに、ダイヤフラム部の軸方向他方側の面に接触する第2接触面を有する。第1接触面の径方向外側の端部および第2接触面の径方向外側の端部は、ダイヤフラム部と曲げ部の境界に位置する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波動歯車装置に使用される歯車ユニットであって、
可撓性歯車と、
前記可撓性歯車に固定されたブッシュおよびスペーサと、
を有し、
前記可撓性歯車は、
中心軸に対して垂直に広がる板状のダイヤフラム部と、
前記ダイヤフラム部の径方向外側の端部から、径方向外側へ向かうにつれて徐々に軸方向一方側へ曲がる曲げ部と、
前記曲げ部の軸方向一方側の端部から軸方向一方側へ延びる筒状の胴部と、
前記胴部の外周面に設けられた複数の外歯と、
を有し、
前記ブッシュは、
前記中心軸に対して垂直に広がるとともに、前記ダイヤフラム部の軸方向一方側の面に接触する第1接触面
を有し、
前記スペーサは、
前記中心軸に対して垂直に広がるとともに、前記ダイヤフラム部の軸方向他方側の面に接触する第2接触面
を有し、
前記第1接触面の径方向外側の端部および前記第2接触面の径方向外側の端部は、前記ダイヤフラム部と前記曲げ部の境界に位置する、歯車ユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の歯車ユニットであって、
前記胴部は、
前記曲げ部の軸方向一方側の端部から軸方向一方側へ延びる第1胴部と、
前記第1胴部の軸方向一方側の端部から軸方向一方側へ延び、前記複数の外歯の径方向内側に位置する第2胴部と、
を含み、
前記第1胴部の径方向の厚みは、前記ダイヤフラム部の軸方向の厚みよりも薄く、
前記曲げ部の厚みが、前記ダイヤフラム部から前記第1胴部へ向かうにつれて、徐々に薄くなる、歯車ユニット。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の歯車ユニットであって、
前記ブッシュは、
前記第1接触面の径方向外側の端部から、径方向外側へ向かうにつれて徐々に軸方向一方側へ曲がる第1湾曲面
をさらに有し、
前記第1湾曲面の曲率半径は、前記曲げ部の曲率半径よりも小さい、歯車ユニット。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の歯車ユニットであって、
前記スペーサは、
前記第2接触面の径方向外側の端部から、径方向外側へ向かうにつれて徐々に軸方向他方側へ曲がる第2湾曲面
をさらに有する、歯車ユニット。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の歯車ユニットであって、
前記可撓性歯車は絞り加工品である、歯車ユニット。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の歯車ユニットであって、
前記可撓性歯車は、オーステナイト系のステンレス鋼により形成されている、歯車ユニット。
【請求項7】
請求項6に記載の歯車ユニットであって、
前記ステンレス鋼の加工硬化指数であるn値は、0.3以上である、歯車ユニット。
【請求項8】
請求項1または請求項2に記載の歯車ユニットであって、
前記曲げ部は、表面に複数のディンプルを有する、歯車ユニット。
【請求項9】
請求項1または請求項2に記載の歯車ユニットと、
前記胴部の径方向内側に配置された波動発生器と、
前記胴部の径方向外側に配置された剛性歯車と、
を備え、
前記剛性歯車は、内周面に複数の内歯を有し、
前記複数の外歯の一部と、前記複数の内歯の一部とが噛み合う、波動歯車装置。
【請求項10】
請求項9に記載の波動歯車装置を備えたロボット。
【請求項11】
波動歯車装置に使用される歯車ユニットの製造方法であって、
a)可撓性歯車を作製する工程と、
b)前記可撓性歯車にブッシュおよびスペーサを固定する工程と、
を有し、
前記可撓性歯車は、
中心軸に対して垂直に広がる板状のダイヤフラム部と、
前記ダイヤフラム部の径方向外側の端部から、径方向外側へ向かうにつれて徐々に軸方向一方側へ曲がる曲げ部と、
前記曲げ部の軸方向一方側の端部から軸方向一方側へ延びる筒状の胴部と、
前記胴部の外周面に設けられた複数の外歯と、
を有し、
前記工程a)では、金属板を絞り加工することにより、前記曲げ部および前記胴部を形成し、
前記工程b)では、
前記ダイヤフラム部の軸方向一方側の面に、前記ブッシュの軸方向他方側の面である第1接触面を接触させるとともに、
前記ダイヤフラム部の軸方向他方側の面に、前記スペーサの軸方向一方側の面である第2接触面を接触させ、
前記第1接触面の径方向外側の端部および前記第2接触面の径方向外側の端部を、前記ダイヤフラム部と前記曲げ部の境界に配置する、歯車ユニットの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車ユニット、波動歯車装置、ロボット、および歯車ユニットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、可撓性歯車と剛性歯車とを備える波動歯車装置が知られている。この種の波動歯車装置は、主に減速機として用いられる。従来の波動歯車装置については、例えば、特開2017-180486号公報および特開2018-087611号公報に開示されている。
【0003】
特開2017-180486号公報および特開2018-087611号公報の歯車装置(1)が備える可撓性歯車(3)は、一端が開口したカップ状をなし、その開口側の端部に外歯(33)が形成されている。また、可撓性歯車(3)は、軸線(a)まわりの円筒状の胴部(31)と、胴部(31)の軸線(a)方向での他端部側に接続されている底部(32)とを有する。これにより、胴部(31)の底部(32)とは反対側の端部を径方向に撓み易くし、剛性歯車(2)に対する可撓性歯車(3)の良好な撓み噛み合いを実現する。また、底部(32)には、入力軸や出力軸が接続される。
【0004】
また、可撓性歯車(3)は、金属製の円柱状の素材(10)に、据え込鍛造工程や絞り加工工程を行うことにより、形成される。据え込鍛造工程においては、素材(10)が軸線方向(α)に加圧されることによって、円板状の板体(11)が形成される。絞り加工工程においては、板体(11)が絞り加工されることによって、胴部(31)および底部(32)を有する筒体(12)が形成される。さらに、転造等によって、筒体(12)に外歯(33)が形成される。
【特許文献1】特開2017-180486号公報
【特許文献2】特開2018-087611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特に絞り加工によって可撓性歯車を形成する場合、作業の性質上、底部の厚みが略一定となる。このため、波動歯車装置の駆動時に、可撓性歯車が剛性歯車と噛み合いながら撓み、回転する際に、可撓性歯車において変形による応力が局所的に集中する箇所が発生する。この場合、波動歯車装置を長期間駆動することにより、可撓性歯車の劣化に繋がる虞がある。
【0006】
本発明の目的は、底部の厚みが略一定である可撓性歯車の耐久性を向上させることにより、可撓性歯車が長期間に亘って剛性歯車と噛み合いながら撓み、回転する場合でも、可撓性歯車の劣化を抑制できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、波動歯車装置に使用される歯車ユニットであって、可撓性歯車と、前記可撓性歯車に固定されたブッシュおよびスペーサと、を有し、前記可撓性歯車は、中心軸に対して垂直に広がる板状のダイヤフラム部と、前記ダイヤフラム部の径方向外側の端部から、径方向外側へ向かうにつれて徐々に軸方向一方側へ曲がる曲げ部と、前記曲げ部の軸方向一方側の端部から軸方向一方側へ延びる筒状の胴部と、前記胴部の外周面に設けられた複数の外歯と、を有し、前記ブッシュは、前記中心軸に対して垂直に広がるとともに、前記ダイヤフラム部の軸方向一方側の面に接触する第1接触面を有し、前記スペーサは、前記中心軸に対して垂直に広がるとともに、前記ダイヤフラム部の軸方向他方側の面に接触する第2接触面を有し、前記第1接触面の径方向外側の端部および前記第2接触面の径方向外側の端部は、前記ダイヤフラム部と前記曲げ部の境界に位置する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、可撓性歯車の底部を形成する板状のダイヤフラム部を、ブッシュとスペーサとの間に挟むことにより、波動歯車装置の駆動時に、ダイヤフラム部が撓むことを抑制できる。また、波動歯車装置の駆動時に、可撓性歯車の変形による応力を曲げ部に作用させることができる。これにより、可撓性歯車において応力が集中することによる劣化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の例示的な実施形態に係る波動歯車装置の縦断面図である。
図2図2は、本発明の例示的な実施形態に係る波動歯車装置の横断面図である。
図3図3は、本発明の例示的な実施形態に係る歯車ユニットの部分縦断面図である。
図4図4は、本発明の例示的な実施形態に係る歯車ユニットの製造手順を示すフローチャートである。
図5図5は、本発明の例示的な実施形態に係る中間成形品の概要図である。
図6図6は、ロボットの概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本願の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本願では、波動歯車装置の中心軸と平行な方向を「軸方向」、波動歯車装置の中心軸に直交する方向を「径方向」、波動歯車装置の中心軸を中心とする円弧に沿う方向を「周方向」、とそれぞれ称する。
【0011】
また、本願では、後述する図1および図3において、軸方向を左右方向とし、右側を「軸方向一方側」、左側を「軸方向他方側」として、各部の形状や位置関係を説明する。ただし、この左右方向の定義により、本発明に係る歯車ユニットを含む波動歯車装置の製造時または使用時の向きを限定する意図はない。また、本願において「平行な方向」とは、幾何学的に厳密に平行な場合に限定されない。発明の効果を奏する程度に平行であればよい。また、本願において「直交する方向」とは、幾何学的に厳密に直交する場合に限定されない。発明の効果を奏する程度に直交であればよい。
【0012】
<1.波動歯車装置の構成>
以下では、本発明の例示的な実施形態に係る波動歯車装置100の構成について説明する。図1は、本発明の例示的な実施形態に係る波動歯車装置100の縦断面図である。図2は、図1のII-II位置から見たときの波動歯車装置100の横断面図である。
【0013】
波動歯車装置100は、後述する剛性歯車10と可撓性歯車20との差動を利用して、入力された回転運動を変速する装置である。本実施形態の波動歯車装置100は、例えば、アクチュエータ等に組み込まれ、モータから得られる動力を減速する減速機として用いられる。ただし、波動歯車装置100は、小型ロボットの関節等の様々な装置に組み込まれて、各種の回転運動を変速するものであってもよい。
【0014】
図1および図2に示すように、波動歯車装置100は、剛性歯車10と、歯車ユニット19と、波動発生器30とを有する。また、波動歯車装置100には、外部から動力を得るための入力軸(図示省略)が設けられている。入力軸は、例えば、モータの回転部に接続され、中心軸C1を中心として軸方向に円柱状に延びる。また、入力軸は、モータの回転部とともに、中心軸C1を中心として回転する。
【0015】
剛性歯車10は、中心軸C1を中心として円環状に拡がる部材である。剛性歯車10は、可撓性歯車20の後述する胴部23の径方向外側に配置される。剛性歯車10の剛性は、剛性歯車10の径方向内側に配置される可撓性歯車20の後述する第2胴部232の剛性よりも、はるかに高い。したがって、剛性歯車10は、実質的に剛体とみなすことができる。図2に示すように、剛性歯車10は、内周面に、複数の内歯11を有する。複数の内歯11は、それぞれ、径方向内方へ突出する。また、複数の内歯11は、周方向に沿って、一定のピッチで配列される。本実施形態では、剛性歯車10は、波動歯車装置100が搭載される装置の枠体に固定される。
【0016】
図3は、本発明の例示的な実施形態に係る歯車ユニット19の部分縦断面図である。図1図3に示すように、歯車ユニット19は、可撓性歯車20と、ブッシュ26と、スペーサ27とを有する。本実施形態では、可撓性歯車20、ブッシュ26、およびスペーサ27はそれぞれ、オーステナイト系のステンレス鋼により形成される。また、可撓性歯車20は、板状のダイヤフラム部21と、曲げ部22と、筒状の胴部23と、複数の外歯24とを有する。なお、詳細を後述するとおり、可撓性歯車20は、絞り加工により形成される。すなわち、可撓性歯車20は、絞り加工品である。
【0017】
ダイヤフラム部21は、中心軸C1に対して垂直に広がる部位である。また、ダイヤフラム部21は、中心軸C1の周囲に円環状かつ平板状に拡がる。ダイヤフラム部21は、胴部23の後述する第2胴部232よりも剛性が高く、撓み難い。また、ダイヤフラム部21の軸方向の厚みd1(図3参照)は、ダイヤフラム部21全体に亘って、略一定である。ダイヤフラム部21には、中心孔210と、複数の貫通孔211とが、形成されている。中心孔210は、中心軸C1に沿って、ダイヤフラム部21を軸方向に貫通する。複数の貫通孔211はそれぞれ、中心孔210よりも径方向外側において、中心軸C1と平行に、ダイヤフラム部21を軸方向に貫通する。また、複数の貫通孔211は、中心軸C1の周囲において、互いに周方向に等間隔に形成されている。
【0018】
曲げ部22は、ダイヤフラム部21の径方向外側の端部から、径方向外側へ向かうにつれて徐々に軸方向一方側へ曲がる部位である。図3において、ダイヤフラム部21と曲げ部22との境界は、二点鎖線B1で示される。
【0019】
胴部23は、曲げ部22の軸方向一方側の端部から軸方向一方側へ延びる筒状の部位である。胴部23は、中心軸C1の周囲において、中心軸C1に沿って筒状に延びる。図1に示すように、胴部23は、第1胴部231と、第2胴部232とを含む。
【0020】
第1胴部231は、曲げ部22の軸方向一方側の端部から軸方向一方側へ延びる部位である。図3において、第1胴部231と曲げ部22との境界は、二点鎖線B2で示される。第2胴部232は、第1胴部231の軸方向一方側の端部から軸方向一方側へ延び、複数の外歯24の径方向内側に位置する部位である。また、第2胴部232は、剛性歯車10の径方向内側に配置される。また、第2胴部232は、可撓性を有し、径方向に撓み可能である。
【0021】
複数の外歯24は、胴部23の外周面に設けられる。複数の外歯24は、それぞれ、径方向外方へ突出する。複数の外歯24は、周方向に沿って、一定のピッチで配列される。上記の剛性歯車10が有する内歯11の数と、可撓性歯車20が有する外歯24の数とは、僅かに相違する。
【0022】
ブッシュ26は、中心軸C1に対して垂直に広がる部材である。ブッシュ26は、フランジ部261と、固定部262とを有する。フランジ部261は、中心軸C1の周囲に円環状かつ平板状に拡がる部位である。フランジ部261は、ダイヤフラム部21の軸方向一方側に配置され、ダイヤフラム部21に接触する。これにより、図3に示すように、ブッシュ26において、ダイヤフラム部21の軸方向一方側の面に接触する第1接触面CS1が形成されている。また、フランジ部261には、複数の貫通孔260が形成されている。複数の貫通孔260はそれぞれ、中心軸C1と平行に、フランジ部261を軸方向に貫通する。また、複数の貫通孔260は、中心軸C1の周囲において、互いに周方向に等間隔に形成されている。
【0023】
また、図3に示すように、ブッシュ26における径方向外側の端部付近には、第1湾曲面CS3が形成されている。第1湾曲面CS3は、第1接触面CS1の径方向外側の端部から、径方向外側へ向かうにつれて徐々に軸方向一方側へ曲がる。すなわち、本実施形態では、ブッシュ26のうち可撓性歯車20に近接する周縁部には、第1湾曲面CS3が形成され、滑らかな形状となっている。また、第1湾曲面CS3の曲率半径は、曲げ部22の曲率半径よりも小さい。
【0024】
固定部262は、フランジ部261の径方向内側の端部から、中心軸C1に沿って軸方向他方側へ筒状に延びる部位である。固定部262は、ダイヤフラム部21の中心孔210と、スペーサ27の後述する中心孔270とを貫通する。固定部262の径方向内側には、例えば、減速後の動力を取り出すための出力軸(図示省略)が挿入される。出力軸の外周面には、例えば、雄ねじが形成される。固定部262の内周面には、例えば、雌ねじが形成される。出力軸は、固定部262の内周面に、ねじ止めにより固定される。
【0025】
スペーサ27は、中心軸C1に対して垂直に広がる部材である。スペーサ27は、中心軸C1の周囲に円環状かつ平板状に拡がる部位である。スペーサ27は、ダイヤフラム部21の軸方向他方側に配置され、ダイヤフラム部21に接触する。これにより、図3に示すように、スペーサ27において、ダイヤフラム部21の軸方向他方側の面に接触する第2接触面CS2が形成されている。また、スペーサ27には、中心孔270と、複数の締結孔271とが形成されている。中心孔270は、中心軸C1に沿って、スペーサ27を軸方向に貫通する。複数の締結孔271はそれぞれ、中心孔270よりも径方向外側において、中心軸C1と平行に形成されている。複数の締結孔271はそれぞれ、スペーサ27の軸方向一方側の面から他方側へ向かって形成されている。また、複数の締結孔271は、中心軸C1の周囲において、互いに周方向に等間隔に形成されている。
【0026】
また、図3に示すように、スペーサ27における径方向外側の端部付近には、第2湾曲面CS4が形成されている。第2湾曲面CS4は、第2接触面CS2の径方向外側の端部から、径方向外側へ向かうにつれて徐々に軸方向他方側へ曲がる。すなわち、本実施形態では、スペーサ27のうち可撓性歯車20に近接する周縁部には、第2湾曲面CS4が形成され、滑らかな形状となっている。
【0027】
ダイヤフラム部21は、複数の貫通孔211のそれぞれと、ブッシュ26の複数の貫通孔260のそれぞれと、を貫通する複数の締結部材28を、スペーサ27の複数の締結孔271に締結することにより、ブッシュ26およびスペーサ27に固定される。すなわち、ブッシュ26およびスペーサ27はそれぞれ、ダイヤフラム部21を有する可撓性歯車20に固定される。このように、ブッシュ26とスペーサ27の間にダイヤフラム部21を挟みつつ固定することにより、波動歯車装置100の駆動時に、ダイヤフラム部21が撓むことを抑制できる。なお、上記の締結孔271は、例えば「ねじ孔」であり、締結部材28は、例えば「ねじ」である。
【0028】
また、上記のとおり、ブッシュ26の径方向内側には、減速後の動力を取り出すための出力軸(図示省略)が固定される。これにより、ダイヤフラム部21を含む可撓性歯車20と、ブッシュ26およびスペーサ27とを、出力軸に対して、相対回転不能に固定することができる。なお、可撓性歯車20、ブッシュ26、およびスペーサ27を含む歯車ユニット19のより詳細な構造および製造方法については、後述する。
【0029】
波動発生器30は、可撓性歯車20を撓み変形させるための機構である。波動発生器30は、可撓性歯車20の胴部23の径方向内側に配置される。波動発生器30は、非真円カム31と、可撓軸受32とを有する。
【0030】
非真円カム31は、中心軸C1を中心として環状に拡がる部材である。本実施形態の非真円カム31は、楕円形のカムプロフィールを有する。つまり、非真円カム31は、周方向の位置によって異なる外径を有する。図1および図2に示すように、非真円カム31は、可撓性歯車20の第2胴部232の径方向内側に配置される。非真円カム31の径方向内側には、上記の入力軸(図示省略)が、相対回転不能に固定される。入力軸および非真円カム31は、外部のモータ等から得られる動力によって、減速前の回転数で回転する。
【0031】
可撓軸受32は、内輪321と、複数のボール322と、弾性変形可能な外輪323とを有する。内輪321は、非真円カム31の外周面に固定される。また、本実施形態では、外輪323は、可撓性歯車20の第2胴部232の内周面に固定される。複数のボール322は、内輪321と外輪323との間に介在し、周方向に沿って配列される。外輪323は、回転する非真円カム31のカムプロフィールを反映するように、内輪321およびボール322を介して弾性変形(撓み変形)する。
【0032】
このような構成の波動歯車装置100において、上記の入力軸に動力が供給されると、入力軸および非真円カム31が一体的に回転する。また、上記のとおり、非真円カム31は、周方向の位置によって異なる外径を有する。これにより、可撓軸受32を介して、可撓性歯車20の第2胴部232の内周面が径方向内側から押されることにより、第2胴部232が楕円状に撓み変形する。これにより、図2に示すように、非真円カム31および第2胴部232がなす楕円の長軸の両端の2箇所で、外歯24と内歯11とが噛み合う。一方、当該楕円の当該2箇所以外の位相位置では、外歯24と内歯11とは噛み合わない。つまり、本実施形態では、複数の外歯24は、複数の内歯11に対して、周方向において部分的に噛み合う。すなわち、本実施形態では、複数の外歯24の一部と、複数の内歯11の一部とが噛み合う。
【0033】
非真円カム31が回転すると、非真円カム31および第2胴部232がなす楕円の長軸の位置が周方向に移動するので、内歯11と外歯24との噛み合い位置も周方向に移動する。ここで、上記のとおり、剛性歯車10が有する内歯11の数と、可撓性歯車20が有する外歯24の数とは、僅かに相違する。このため、非真円カム31の1回転ごとに、内歯11と外歯24との噛み合い位置が僅かに変化する。その結果、可撓性歯車20は、剛性歯車10に対して、当該内歯11と外歯24とのとの歯数の違いによって、相対回転する。これにより、波動歯車装置100は、外部のモータ等から入力軸を介して波動発生器30に入力された動力を減速して、可撓性歯車20に固定された出力軸から出力することができる。
【0034】
<2.歯車ユニットの詳細な構造および製造方法>
次に、可撓性歯車20、ブッシュ26、およびスペーサ27を含む歯車ユニット19のより詳細な構造および製造方法について、説明する。図4は、歯車ユニット19の製造手順を示すフローチャートである。
【0035】
図4に示すように、可撓性歯車20を製造するときには、まず、可撓性歯車20の母材となる金属板を準備する(ステップS1)。上記のとおり、可撓性歯車20は、オーステナイト系のステンレス鋼を用いて形成される。すなわち、金属板には、オーステナイト系のステンレス鋼の材料が用いられる。一般に、これらのオーステナイト系のステンレス鋼は、面心立方格子の結晶構造を有し、比較的硬度が低い。しかしながら、オーステナイト系のステンレス鋼を冷間加工すると、塑性変形により誘起されてオーステナイトがマルテンサイトに変態し、加工硬化する。この結果、当該マルテンサイト相が形成された後の強度が高まる。なお、この変態量は、変形量に依存する。
【0036】
また、ステンレス鋼の加工硬化指数であるn値は、0.3以上である。すなわち、金属板には、加工硬化指数であるn値が、概ね0.3以上であるステンレス鋼が用いられる。ここで、n値とは、例えば、JIS Z 2253:2020に従い、測定対象である各鋼板から、「JIS13号B引張試験片」を採取して引張試験を実施し、「荷重(引張強さ)-伸び曲線」から求まる「真応力(σ)-真歪み(ε)曲線」を近似的に「σ=Fε」で表したときの指数n値として、両対数グラフに真応力(σ)-真歪み(ε)値をプロットしたときの傾きから、算出することができる。一般に、n値が大きいほど、成形性に優れ、加工硬化が生じやすく、変形を一様化することができる。
【0037】
次に、図4に示すように、金属板に対して、絞り加工を行う(ステップS2)。絞り加工を行う際には、例えば、円板状の金属板を、円柱状の金型の先端面に取り付け、所定の圧力で接触させる。この結果、有底筒状の中間成形品60が形成される。図5は、中間成形品60の概要図である。
【0038】
なお、中間成形品60のうち、金型の先端面に接触していた平板状の部位61は、その後に孔(上記の中心孔210および複数の貫通孔211)の形成等の加工が施されることによって、可撓性歯車20のダイヤフラム部21となる部位である。また、中間成形品60のうち、金型の側面に接触していた部位62は、可撓性歯車20の胴部23および複数の外歯24となる部位である。また、中間成形品60のうち、金型の先端の角部に接触していた部位63は、可撓性歯車20の曲げ部22となる部位である。
【0039】
次に、部位62のうち、先端側に位置する部位621に、凹凸形状を有する外歯形成ローラ(図示省略)を押し付けつつ、上記の金型の中心軸を中心とした周方向に転がすことによって、外歯24を形成(転造)する(ステップS3)。ただし、部位621に対して、切削等の別の手法によって、外歯24を形成してもよい。これにより、部位621は、外周面に複数の外歯24が形成された第2胴部232となる。また、部位62のうち、部位621よりも底部(部位61)側に位置する部位622は、可撓性歯車20の第1胴部231となる。
【0040】
上記のとおり、部位621は、外歯24が形成される過程で、外歯形成ローラによって押し付けられて変形する。これにより、部位621を構成する金属板中のオーステナイトが塑性変形する。そして、塑性変形により誘起されてオーステナイトがマルテンサイトに変態し、加工硬化する。この結果、部位621の強度が高まる。
【0041】
次に、図4に示すように、外歯24を形成した後の可撓性歯車20に対し、ショットピーニングを施す(ステップS4)。ここで、ショットピーニングとは、無数の小さな球体を衝突させることによって、表面を改質する表面処理である。本実施形態では、外歯24が外周面に設けられた第2胴部232を中心に、胴部23および曲げ部22に、ショットピーニングを施す。ショットピーニングを行った後、外歯24,胴部23,および曲げ部22はそれぞれ、表面に複数のディンプル(小さな丸い窪み)を有する。
【0042】
これにより、外歯24,胴部23,および曲げ部22の表面付近のオーステナイトが塑性変形する。そして、塑性変形により誘起されてオーステナイトがマルテンサイトに変態し、加工硬化する。すなわち、ショットピーニングにより、外歯24,胴部23,および曲げ部22の表面が、よりマルテンサイト化する。これにより、外歯24,胴部23,および曲げ部22の強度がさらに高まり、可撓性歯車20の耐久性が向上する。この結果、長期間に亘って波動歯車装置100が駆動して、可撓性歯車20が剛性歯車10と噛み合いながら撓み、回転する場合でも、外歯24,胴部23,および曲げ部22が、劣化することを抑制できる。
【0043】
上記のとおり、本実施形態では、オーステナイト系のステンレス鋼からなる金属板を用いて可撓性歯車20を形成する過程で、まず、絞り加工を行うことによって、ダイヤフラム部21,曲げ部22,第1胴部231,および第2胴部232を形成する。次に、歯型転造を行うことによって、第2胴部232の外周面に外歯24を形成する。さらに、外歯24,胴部23,および曲げ部22に、ショットピーニングを施す。これにより、各工程を経るにつれて、これらに含まれるマルテンサイト相の占有率が上昇し、加工硬化する。この結果、形成された可撓性歯車20における残留応力が大きくなり、強度がさらに高まる。
【0044】
また、本実施形態では、n値の高いオーステナイト系のステンレス鋼を用いて可撓性歯車20を形成することにより、絞り加工、歯型転造、ショットピーニング等を行う際の変形を一様化することができるため、最終製品としての精度を向上することができる。
【0045】
なお、上記のとおり、本実施形態では、ブッシュ26およびスペーサ27も、それぞれ可撓性歯車20と同じステンレス鋼を用いて形成される。なお、ブッシュ26およびスペーサ27が形成される過程で、ブッシュ26およびスペーサ27のそれぞれの径の±1%が許容公差とされる。そして、上記のとおり、ブッシュ26およびスペーサ27はそれぞれ、可撓性歯車20のダイヤフラム部21に、複数の締結部材28を用いて固定される(ステップS5)。
【0046】
すなわち、波動歯車装置100に使用される歯車ユニット19は、a)可撓性歯車20を作製する工程と、b)可撓性歯車20にブッシュ26およびスペーサ27を固定する工程と、を経て、製造される。また、工程a)では、金属板を絞り加工することにより、曲げ部22および胴部23を形成する。また、工程b)では、ダイヤフラム部21の軸方向一方側の面に、ブッシュ26の軸方向他方側の面である第1接触面CS1を接触させるとともに、ダイヤフラム部21の軸方向他方側の面に、スペーサ27の軸方向一方側の面である第2接触面CS2を接触させる。
【0047】
そして、ダイヤフラム部21,ブッシュ26,およびスペーサ27の径方向内側に、出力軸が固定される。これにより、波動歯車装置100の駆動時には、可撓性歯車20は、剛性歯車10に噛み合いながら撓み、ブッシュ26,スペーサ27,および出力軸とともに、中心軸C1を中心として減速後の回転数で回転する。なお、上記のとおり、ブッシュ26とスペーサ27の間にダイヤフラム部21を挟むことにより、波動歯車装置100の駆動時に、ダイヤフラム部21が撓む量を抑制できる。
【0048】
しかしながら、本実施形態のように、絞り加工によって可撓性歯車20を形成する場合、作業の性質上、可撓性歯車20のダイヤフラム部21が略一定の厚みとなる。このため、従来の構造を有するブッシュ26およびスペーサ27を用いる場合、波動歯車装置100の駆動時に、可撓性歯車20が剛性歯車10と噛み合いながら撓み、回転する際に、可撓性歯車20において変形による応力が局所的に集中する箇所が発生していた。特に、ダイヤフラム部21のうち、ブッシュ26の第1接触面CS1の径方向外側の端部に接触する箇所や、スペーサ27の第2接触面CS2の径方向外側の端部に接触する箇所において、応力が局所的に集中していた。
【0049】
そこで、本発明では、ブッシュ26およびスペーサ27として、従来よりも径方向に大きなものが用いられる。そして、ブッシュ26のうち第1接触面CS1の径方向外側の端部、およびスペーサ27のうち第2接触面CS2の径方向外側の端部を、それぞれダイヤフラム部21と曲げ部22の境界(図3の二点鎖線B1参照)に配置する。ただし、ブッシュ26のうち第1接触面CS1の径方向外側の端部、およびスペーサ27のうち第2接触面CS2の径方向外側の端部は、それぞれダイヤフラム部21と曲げ部22の境界に完全に一致して配置されなくてもよい。例えば、ブッシュ26のうち第1接触面CS1の径方向外側の端部、およびスペーサ27のうち第2接触面CS2の径方向外側の端部は、それぞれダイヤフラム部21と曲げ部22の境界から、ブッシュ26およびスペーサ27のそれぞれの径に対して±1%程度ずれていてもよい。
【0050】
また、本発明では、ブッシュ26およびスペーサ27として従来よりも径方向に大きなものを用いることにより、波動歯車装置100の駆動時に、可撓性歯車20の変形による応力を、曲げ部22に作用させることができる。上記のとおり、曲げ部22は、径方向外側へ向かうにつれて徐々に軸方向一方側へ曲がる。このため、可撓性歯車20が剛性歯車10と噛み合いながら撓み、回転する際に、曲げ部22は滑らかに変形しやすく、応力を逃がしやすい形状となっている。本実施形態では、このような曲げ部22に応力を作用させることによって、応力による可撓性歯車20の劣化を抑制できる。また、上記のとおり、可撓性歯車20の曲げ部22は、絞り加工およびショットピーニング等を経て形成される過程で、よりマルテンサイト化し、強度がさらに高まっている。これにより、可撓性歯車20の耐久性が向上するため、長期間に亘って可撓性歯車20が剛性歯車10と噛み合いながら撓み、回転する場合でも、可撓性歯車20の劣化をさらに抑制できる。
【0051】
また、図3に示すように、可撓性歯車20の曲げ部22の厚みは、ダイヤフラム部21から第1胴部231へ向かうにつれて、徐々に薄くなる。また、第1胴部231の径方向の厚みd2は、ダイヤフラム部21の軸方向の厚みd1よりも薄い。このように、曲げ部22の厚みが徐々に変化することにより、波動歯車装置100の駆動時に、曲げ部22に作用する応力をさらに分散させることができる。この結果、応力による可撓性歯車20の劣化を、より抑制できる。
【0052】
また、上記のとおり、ブッシュ26のうち可撓性歯車20に近接する周縁部には、第1湾曲面CS3が形成され、滑らかな形状となっている。すなわち、第1接触面CS1の径方向外側の端部に角が生じない。このため、可撓性歯車20が剛性歯車10に噛み合いながら撓み、回転する際に、ダイヤフラム部21と曲げ部22の境界部が、角との接触により劣化することを防止できる。また、第1湾曲面CS3の曲率半径は、曲げ部22の曲率半径よりも小さい。これにより、可撓性歯車20が剛性歯車10と噛み合いながら撓み、回転する際に、ダイヤフラム部21と曲げ部22の境界部付近の部位が、ブッシュ26と干渉して可撓性歯車20の回転が妨げられることを抑制できる。
【0053】
また、上記のとおり、スペーサ27のうち可撓性歯車20に近接する周縁部には、第2湾曲面CS4が形成され、滑らかな形状となっている。すなわち、第2接触面CS2の径方向外側の端部に角が生じない。このため、可撓性歯車20が剛性歯車10に噛み合いながら撓み、回転する際に、ダイヤフラム部21と曲げ部22の境界部が、角との接触により劣化することを防止できる。
【0054】
<3.変形例>
以上、本発明の例示的な実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。
【0055】
上記の実施形態では、可撓性歯車20の成形方法として、絞り加工を例に挙げて説明した。しかしながら、可撓性歯車20の成形方法はこれに限られない。可撓性歯車20は、切削、鍛造、鋳造、またはプレス加工等の他の方法によって成形されてもよい。
【0056】
図6は、波動歯車装置100が組み込まれる先の変形例としての、波動歯車装置100を搭載したロボット200の概要図である。本変形例のロボット200は、例えば、工業製品の製造ラインにおいて、部品の搬送、加工、組立等の作業を行う、いわゆる産業用ロボットである。図6に示すように、ロボット200は、ベースフレーム201、アーム202、モータ203、および波動歯車装置100を有する。
【0057】
アーム202は、ベースフレーム201に対して、回動可能に支持されている。モータ203および波動歯車装置100は、ベースフレーム201とアーム202との間の関節部に、組み込まれている。モータ203に駆動電流が供給されると、モータ203から回転運動が出力される。また、モータ203から出力される回転運動は、波動歯車装置100により減速されて、アーム202へ伝達される。これにより、ベースフレーム201に対してアーム202が、減速後の速さで回動する。
【0058】
また、歯車ユニットを含む波動歯車装置の細部の形状については、上記の実施形態の各図に示された形状と相違していてもよい。
【0059】
<4.総括>
なお、本技術は、以下のような構成をとることが可能である。
(1):波動歯車装置に使用される歯車ユニットであって、
可撓性歯車と、
前記可撓性歯車に固定されたブッシュおよびスペーサと、
を有し、
前記可撓性歯車は、
中心軸に対して垂直に広がる板状のダイヤフラム部と、
前記ダイヤフラム部の径方向外側の端部から、径方向外側へ向かうにつれて徐々に軸方向一方側へ曲がる曲げ部と、
前記曲げ部の軸方向一方側の端部から軸方向一方側へ延びる筒状の胴部と、
前記胴部の外周面に設けられた複数の外歯と、
を有し、
前記ブッシュは、
前記中心軸に対して垂直に広がるとともに、前記ダイヤフラム部の軸方向一方側の面に接触する第1接触面
を有し、
前記スペーサは、
前記中心軸に対して垂直に広がるとともに、前記ダイヤフラム部の軸方向他方側の面に接触する第2接触面
を有し、
前記第1接触面の径方向外側の端部および前記第2接触面の径方向外側の端部は、前記ダイヤフラム部と前記曲げ部の境界に位置する、歯車ユニット。
【0060】
(2):(1)に記載の歯車ユニットであって、
前記胴部は、
前記曲げ部の軸方向一方側の端部から軸方向一方側へ延びる第1胴部と、
前記第1胴部の軸方向一方側の端部から軸方向一方側へ延び、前記複数の外歯の径方向内側に位置する第2胴部と、
を含み、
前記第1胴部の径方向の厚みは、前記ダイヤフラム部の軸方向の厚みよりも薄く、
前記曲げ部の厚みが、前記ダイヤフラム部から前記第1胴部へ向かうにつれて、徐々に薄くなる、歯車ユニット。
【0061】
(3):(1)または(2)に記載の歯車ユニットであって、
前記ブッシュは、
前記第1接触面の径方向外側の端部から、径方向外側へ向かうにつれて徐々に軸方向一方側へ曲がる第1湾曲面
をさらに有し、
前記第1湾曲面の曲率半径は、前記曲げ部の曲率半径よりも小さい、歯車ユニット。
【0062】
(4):(1)から(3)までのいずれか1つに記載の歯車ユニットであって、
前記スペーサは、
前記第2接触面の径方向外側の端部から、径方向外側へ向かうにつれて徐々に軸方向他方側へ曲がる第2湾曲面
をさらに有する、歯車ユニット。
【0063】
(5):(1)から(4)までのいずれか1つに記載の歯車ユニットであって、
前記可撓性歯車は絞り加工品である、歯車ユニット。
【0064】
(6):(1)から(5)までのいずれか1つに記載の歯車ユニットであって、
前記可撓性歯車は、オーステナイト系のステンレス鋼により形成されている、歯車ユニット。
【0065】
(7):(6)に記載の歯車ユニットであって、
前記ステンレス鋼の加工硬化指数であるn値は、0.3以上である、歯車ユニット。
【0066】
(8):(1)から(7)までのいずれか1つに記載の歯車ユニットであって、
前記曲げ部は、表面に複数のディンプルを有する、歯車ユニット。
【0067】
(9):(1)から(8)までのいずれか1つに記載の歯車ユニットと、
前記胴部の径方向内側に配置された波動発生器と、
前記胴部の径方向外側に配置された剛性歯車と、
を備え、
前記剛性歯車は、内周面に複数の内歯を有し、
前記複数の外歯の一部と、前記複数の内歯の一部とが噛み合う、波動歯車装置。
【0068】
(10):(9)に記載の波動歯車装置を備えたロボット。
【0069】
(11):波動歯車装置に使用される歯車ユニットの製造方法であって、
a)可撓性歯車を作製する工程と、
b)前記可撓性歯車にブッシュおよびスペーサを固定する工程と、
を有し、
前記可撓性歯車は、
中心軸に対して垂直に広がる板状のダイヤフラム部と、
前記ダイヤフラム部の径方向外側の端部から、径方向外側へ向かうにつれて徐々に軸方向一方側へ曲がる曲げ部と、
前記曲げ部の軸方向一方側の端部から軸方向一方側へ延びる筒状の胴部と、
前記胴部の外周面に設けられた複数の外歯と、
を有し、
前記工程a)では、金属板を絞り加工することにより、前記曲げ部および前記胴部を形成し、
前記工程b)では、
前記ダイヤフラム部の軸方向一方側の面に、前記ブッシュの軸方向他方側の面である第1接触面を接触させるとともに、
前記ダイヤフラム部の軸方向他方側の面に、前記スペーサの軸方向一方側の面である第2接触面を接触させ、
前記第1接触面の径方向外側の端部および前記第2接触面の径方向外側の端部を、前記ダイヤフラム部と前記曲げ部の境界に配置する、歯車ユニットの製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本願は、歯車ユニット、波動歯車装置、ロボット、および歯車ユニットの製造方法に利用できる。
【符号の説明】
【0071】
10 剛性歯車
11 内歯
19 歯車ユニット
20 可撓性歯車
21 ダイヤフラム部
22 曲げ部
23 胴部
24 外歯
26 ブッシュ
27 スペーサ
30 波動発生器
31 非真円カム
32 可撓軸受
100 波動歯車装置
200 ロボット
231 第1胴部
232 第2胴部
C1 中心軸
CS1 ブッシュの第1接触面
CS2 スペーサの第2接触面
CS3 ブッシュの第1湾曲面
CS4 スペーサの第2湾曲面
d1 ダイヤフラム部の軸方向の厚み
d2 第1胴部の径方向の厚み
図1
図2
図3
図4
図5
図6