(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056708
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】癌を治療するためのキメラ抗原受容体改変T細胞の使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20240416BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240416BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240416BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240416BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240416BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240416BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240416BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240416BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240416BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240416BHJP
C07K 14/705 20060101ALN20240416BHJP
C07K 16/30 20060101ALN20240416BHJP
C12N 5/0783 20100101ALN20240416BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C07K19/00
C12N5/10
C12N15/63 Z
A61K35/17
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61P35/00
A61P35/02
C12N15/13
C12N15/12
C07K14/705
C07K16/30
C12N5/0783
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024007477
(22)【出願日】2024-01-22
(62)【分割の表示】P 2021146980の分割
【原出願日】2011-12-09
(31)【優先権主張番号】61/502,649
(32)【優先日】2011-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/421,470
(32)【優先日】2010-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】500429103
【氏名又は名称】ザ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ ペンシルバニア
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】ジューン カール エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】リバイン ブルース エル.
(72)【発明者】
【氏名】ポーター デビッド エル.
(72)【発明者】
【氏名】カロス マイケル ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ミローヌ マイケル シー.
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ヒトにおける癌を治療するための組成物および方法を提供する。
【解決手段】本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するように遺伝子改変されたT細胞を投与する段階を含み、該CARは抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、およびCD3ζシグナル伝達ドメインを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キメラ抗原受容体(CAR)をコードする単離された核酸配列であって、該CARが抗原結合
ドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達領域およびCD3ζシグナル伝達ドメイン
を含み、該CD3ζシグナル伝達ドメインがSEQ ID NO:24のアミノ酸配列を含む、単離され
た核酸配列。
【請求項2】
前記CARがSEQ ID NO:12のアミノ酸配列を含む、請求項1記載の単離された核酸配列。
【請求項3】
SEQ ID NO:8の核酸配列を含む、請求項1記載の単離された核酸配列。
【請求項4】
前記抗原結合ドメインが抗体またはその抗原結合フラグメントである、請求項1記載の
単離された核酸配列。
【請求項5】
前記抗原結合フラグメントがFabまたはscFvである、請求項4記載の単離された核酸配列
。
【請求項6】
前記抗原結合ドメインが腫瘍抗原と結合する、請求項1記載の単離された核酸配列。
【請求項7】
前記腫瘍抗原が血液悪性腫瘍と関連する、請求項6記載の単離された核酸配列。
【請求項8】
前記腫瘍抗原が固形腫瘍と関連する、請求項6記載の単離された核酸配列。
【請求項9】
前記腫瘍抗原が、CD19、CD20、CD22、ROR1、メソテリン、CD33/IL3Ra、c-Met、PSMA、
糖脂質F77、EGFRvIII、GD-2、NY-ESO-1 TCR、MAGE A3 TCR、およびこれらの任意の組み合
わせからなる群より選択される、請求項6記載の単離された核酸配列。
【請求項10】
前記共刺激シグナル伝達領域が、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS
、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、CD83と特異的に
結合するリガンド、およびこれらの任意の組み合わせからなる群より選択される共刺激分
子の細胞内ドメインを含む、請求項1記載の単離された核酸配列。
【請求項11】
前記CD3ζシグナル伝達ドメインがSEQ ID NO:18の核酸配列によってコードされる、請
求項1記載の単離された核酸配列。
【請求項12】
抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達領域およびCD3ζシグナル伝
達ドメインを含み、該CD3ζシグナル伝達ドメインがSEQ ID NO:24のアミノ酸配列を含む
、単離されたキメラ抗原受容体(CAR)。
【請求項13】
SEQ ID NO:12のアミノ酸配列を含む、請求項12記載の単離されたCAR。
【請求項14】
前記抗原結合ドメインが抗体またはその抗原結合フラグメントである、請求項12記載の
単離されたCAR。
【請求項15】
前記抗原結合フラグメントがFabまたはscFvである、請求項14記載の単離されたCAR。
【請求項16】
前記抗原結合ドメインが腫瘍抗原と結合する、請求項12記載の単離されたCAR。
【請求項17】
前記腫瘍抗原が血液悪性腫瘍と関連する、請求項16記載の単離されたCAR。
【請求項18】
前記腫瘍抗原が固形腫瘍と関連する、請求項16記載の単離されたCAR。
【請求項19】
前記腫瘍抗原が、CD19、CD20、CD22、ROR1、メソテリン、CD33/IL3Ra、c-Met、PSMA、
糖脂質F77、EGFRvIII、GD-2、NY-ESO-1 TCR、MAGE A3 TCR、およびこれらの任意の組み合
わせからなる群より選択される、請求項16記載の単離されたCAR。
【請求項20】
前記共刺激シグナル伝達領域が、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS
、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、CD83と特異的に
結合するリガンド、およびこれらの任意の組み合わせからなる群より選択される共刺激分
子の細胞内ドメインを含む、請求項12記載の単離されたCAR。
【請求項21】
キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列を含む細胞であって、該CARが抗原結合
ドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、および、SEQ ID NO:24のアミノ
酸配列を含むCD3ζシグナル伝達ドメインを含む、細胞。
【請求項22】
前記CARがSEQ ID NO:12のアミノ酸配列を含む、請求項21記載の細胞。
【請求項23】
前記核酸がSEQ ID NO:8の核酸配列を含む、請求項21記載の細胞。
【請求項24】
前記抗原結合ドメインが抗体またはその抗原結合フラグメントである、請求項21記載の
細胞。
【請求項25】
前記抗原結合フラグメントがFabまたはscFvである、請求項24記載の細胞。
【請求項26】
前記抗原結合ドメインが腫瘍抗原と結合する、請求項21記載の細胞。
【請求項27】
前記腫瘍抗原が血液悪性腫瘍と関連する、請求項26記載の細胞。
【請求項28】
前記腫瘍抗原が固形腫瘍と関連する、請求項26記載の細胞。
【請求項29】
前記腫瘍抗原が、CD19、CD20、CD22、ROR1、メソテリン、CD33/IL3Ra、c-Met、PSMA、
糖脂質F77、EGFRvIII、GD-2、NY-ESO-1 TCR、MAGE A3 TCR、およびこれらの任意の組み合
わせからなる群より選択される、請求項26記載の細胞。
【請求項30】
前記共刺激シグナル伝達領域が、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS
、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、CD83と特異的に
結合するリガンド、およびこれらの任意の組み合わせからなる群より選択される共刺激分
子の細胞内ドメインを含む、請求項21記載の細胞。
【請求項31】
前記CD3ζシグナル伝達ドメインがSEQ ID NO:18の核酸配列によってコードされる、請
求項21記載の細胞。
【請求項32】
T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)および調節性T細胞
からなる群より選択される、請求項21記載の細胞。
【請求項33】
前記抗原結合ドメインがその対応する抗原と結合した場合に抗腫瘍免疫を呈する、請求
項21記載の細胞。
【請求項34】
キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列を含むベクターであって、該CARが抗原
結合ドメイン、共刺激シグナル伝達領域およびCD3ζシグナル伝達ドメインを含み、該CD3
ζシグナル伝達ドメインがSEQ ID NO:24のアミノ酸配列を含む、ベクター。
【請求項35】
前記CARがSEQ ID NO:12のアミノ酸配列を含む、請求項34記載のベクター。
【請求項36】
CARをコードする単離された核酸配列がSEQ ID NO:8の核酸配列を含む、請求項34記載
のベクター。
【請求項37】
前記抗原結合ドメインが抗体またはその抗原結合フラグメントである、請求項34記載の
ベクター。
【請求項38】
前記抗原結合フラグメントがFabまたはscFvである、請求項37記載のベクター。
【請求項39】
前記抗原結合ドメインが腫瘍抗原と結合する、請求項34記載のベクター。
【請求項40】
前記腫瘍抗原が血液悪性腫瘍と関連する、請求項39記載のベクター。
【請求項41】
前記腫瘍抗原が固形腫瘍と関連する、請求項39記載のベクター。
【請求項42】
前記腫瘍抗原が、CD19、CD20、CD22、ROR1、メソテリン、CD33/IL3Ra、c-Met、PSMA、
糖脂質F77、EGFRvIII、GD-2、NY-ESO-1 TCR、MAGE A3 TCR、およびこれらの任意の組み合
わせからなる群より選択される、請求項39記載のベクター。
【請求項43】
前記共刺激シグナル伝達領域が、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS
、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、CD83と特異的に
結合するリガンド、およびこれらの任意の組み合わせからなる群より選択される共刺激分
子の細胞内ドメインを含む、請求項34記載のベクター。
【請求項44】
前記CD3ζシグナル伝達ドメインがSEQ ID NO:18の核酸配列によってコードされる、請
求項34記載のベクター。
【請求項45】
哺乳動物において標的細胞集団または組織に対するT細胞媒介性免疫応答を刺激するた
めの方法であって、CARを発現するように遺伝子改変された細胞の有効量を該哺乳動物に
投与する段階を含み、該CARが抗原結合ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、および、SEQ
ID NO:24のアミノ酸配列を含むCD3ζシグナル伝達ドメインを含み、該抗原結合ドメイ
ンが該標的細胞集団または組織を特異的に認識するように選択される、方法。
【請求項46】
哺乳動物において抗腫瘍免疫を与える方法であって、CARを発現するように遺伝子改変
された細胞の有効量を該哺乳動物に投与する段階を含み、該CARが抗原結合ドメイン、共
刺激シグナル伝達領域、および、SEQ ID NO:24のアミノ酸配列を含むCD3ζシグナル伝達
ドメインを含み、それにより、該哺乳動物において抗腫瘍免疫を与える、方法。
【請求項47】
腫瘍抗原の発現亢進と関連する疾患、障害または病状を有する哺乳動物を治療する方法
であって、CARを発現するように遺伝子改変された細胞の有効量を該哺乳動物に投与する
段階を含み、該CARが抗原結合ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、および、SEQ ID NO:
24のアミノ酸配列を含むCD3ζシグナル伝達ドメインを含み、それにより、該哺乳動物を
治療する、方法。
【請求項48】
前記細胞が自己T細胞である、請求項47記載の方法。
【請求項49】
前記腫瘍抗原が、CD19、CD20、CD22、ROR1、メソテリン、CD33/IL3Ra、c-Met、PSMA、
糖脂質F77、EGFRvIII、GD-2、NY-ESO-1 TCR、MAGE A3 TCR、およびこれらの任意の組み合
わせからなる群より選択される、請求項47記載の方法。
【請求項50】
慢性リンパ性白血病を有するヒトを治療する方法であって、CARを発現するように遺伝
子操作されたT細胞を該ヒトに投与する段階を含み、該CARが抗原結合ドメイン、共刺激シ
グナル伝達領域、および、SEQ ID NO:24のアミノ酸配列を含むCD3ζシグナル伝達ドメイ
ンを含む、方法。
【請求項51】
前記ヒトが少なくとも1つの化学療法薬に対して抵抗性である、請求項50記載の方法。
【請求項52】
前記慢性リンパ性白血病が治療抵抗性のCD19+白血病およびリンパ腫である、請求項50
記載の方法。
【請求項53】
癌と診断されたヒトにおいて、遺伝子操作されたT細胞の存続集団を生じさせる方法で
あって、CARを発現するように遺伝子操作されたT細胞を該ヒトに投与する段階を含み、該
CARが抗原結合ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、および、SEQ ID NO:24のアミノ酸配
列を含むCD3ζシグナル伝達ドメインを含み、該遺伝子操作されたT細胞の存続集団が投与
後少なくとも1カ月間にわたって該ヒトの内部で存続する、方法。
【請求項54】
前記遺伝子操作されたT細胞の存続集団が、前記ヒトに投与されたT細胞、該ヒトに投与
されたT細胞の子孫、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1つ
の細胞を含む、請求項53記載の方法。
【請求項55】
前記遺伝子操作されたT細胞の存続集団がメモリーT細胞を含む、請求項53記載の方法。
【請求項56】
前記癌が慢性リンパ性白血病である、請求項53記載の方法。
【請求項57】
前記慢性リンパ性白血病が治療抵抗性のCD19+白血病およびリンパ腫である、請求項56
記載の方法。
【請求項58】
前記遺伝子操作されたT細胞の存続集団が、投与後少なくとも3カ月間にわたって前記ヒ
トの内部で存続する、請求項53記載の方法。
【請求項59】
前記遺伝子操作されたT細胞の存続集団が、投与後少なくとも4カ月間、5カ月間、6カ月
間、7カ月間、8カ月間、9カ月間、10カ月間、11カ月間、12カ月間、2年間または3年間に
わたって前記ヒトの内部で存続する、請求項53記載の方法。
【請求項60】
前記慢性リンパ性白血病が治療される、請求項56記載の方法。
【請求項61】
癌と診断されたヒトにおいて、遺伝子操作されたT細胞の集団を増大(expand)させる
方法であって、CARを発現するように遺伝子操作されたT細胞を該ヒトに投与する段階を含
み、該CARが抗原結合ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、および、SEQ ID NO:24のアミ
ノ酸配列を含むCD3ζシグナル伝達ドメインを含み、投与された該遺伝子操作されたT細胞
が、該ヒトにおいて子孫T細胞の集団を生成する、方法。
【請求項62】
前記ヒトにおける前記子孫T細胞がメモリーT細胞を含む、請求項61記載の方法。
【請求項63】
前記T細胞が自己T細胞である、請求項61記載の方法。
【請求項64】
前記ヒトが少なくとも1つの化学療法薬に対して抵抗性である、請求項61記載の方法。
【請求項65】
前記癌が慢性リンパ性白血病である、請求項61記載の方法。
【請求項66】
前記慢性リンパ性白血病が治療抵抗性のCD19+白血病およびリンパ腫である、請求項65
記載の方法。
【請求項67】
前記子孫T細胞の集団が、投与後少なくとも3カ月間にわたって前記ヒトの内部で存続す
る、請求項61記載の方法。
【請求項68】
前記子孫T細胞の集団が、投与後少なくとも4カ月間、5カ月間、6カ月間、7カ月間、8カ
月間、9カ月間、10カ月間、11カ月間、12カ月間、2年間または3年間にわたって前記ヒト
の内部で存続する、請求項61記載の方法。
【請求項69】
前記癌が治療される、請求項61記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2010年12月9日に提出された米国仮出願第61/421,470号、および2011年6月2
9日に提出された米国仮出願第61/502,649号の優先権を主張し、これらはすべて、その全
体が参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
慢性リンパ性白血病(CLL)を含むB細胞悪性腫瘍を有する患者の大多数は、その疾患の
ために死亡すると考えられる。これらの患者を治療するための1つのアプローチは、キメ
ラ抗原受容体(CAR)の発現を通じて、腫瘍細胞上に発現される抗原を標的とするようにT
細胞を遺伝子改変することである。CARは、細胞表面抗原をヒト白血球抗原に依存しない
様式で認識するように設計された抗原受容体である。CARを発現する遺伝子改変細胞を、
これらの型の患者を治療するために用いる取り組みは、極めて限定的な成果しか上げてい
ない。例えば、Brentjens et al., 2010, Molecular Therapy, 18:4, 666-668;Morgan e
t al., 2010, Molecular Therapy, published online February 23, 2010, pages 1-9;
および、Till et al., 2008, Blood, 112:2261-2271(非特許文献1~3)を参照。
【0003】
ほとんどの癌では、腫瘍特異的抗原はまだあまり明確になっていないが、B細胞悪性腫
瘍では、CD19が注目される腫瘍標的である。CD19の発現は正常B細胞および悪性B細胞に限
られ(Uckun, et al. Blood, 1988, 71:13-29(非特許文献4))、そのため、CD19はCAR
を安全に試験するための標的として広く受け入れられている。CARは内因性T細胞受容体と
類似した様式でT細胞活性化を誘発しうるものの、CAR+ T細胞のインビボでの増大(expan
sion)が限定的なこと、輸注後の細胞の急速な消失、および臨床活性が期待にそぐわない
ことが、この技術の臨床適用に対する主な障害となっている(Jena, et al., Blood, 201
0, 116:1035-1044(非特許文献5);非特許文献4)。
【0004】
このため、インビボで増大(expand)しうるCARを用いる癌の治療のための組成物およ
び方法が、当技術分野では至急求められている。本発明はこの要求に応える。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Brentjens et al., 2010, Molecular Therapy, 18:4, 666-668
【非特許文献2】Morgan et al., 2010, Molecular Therapy, published online February 23, 2010, pages 1-9
【非特許文献3】Till et al., 2008, Blood, 112:2261-2271
【非特許文献4】Uckun, et al. Blood, 1988, 71:13-29
【非特許文献5】Jena, et al., Blood, 2010, 116:1035-1044
【発明の概要】
【0006】
本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする単離された核酸配列であって、CARが
抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、およびCD3ζシグナル伝
達ドメインを含み、該CD3ζシグナル伝達ドメインがSEQ ID NO:24のアミノ酸配列を含む
、単離された核酸配列を提供する。
【0007】
1つの態様において、核酸配列は、SEQ ID NO:12のアミノ酸配列を含むCARをコードす
る。
【0008】
1つの態様において、CARをコードする核酸配列は、SEQ ID NO:8の核酸配列を含む。
【0009】
1つの態様において、CARにおける抗原結合ドメインは、抗体またはその抗原結合フラグ
メントである。好ましくは、抗原結合フラグメントはFabまたはscFvである。
【0010】
1つの態様において、CARにおける抗原結合ドメインは腫瘍抗原と結合する。1つの態様
において、腫瘍抗原は血液悪性腫瘍と関連する。もう1つの態様において、腫瘍抗原は固
形腫瘍と関連する。さらにもう1つの態様において、腫瘍抗原は、CD19、CD20、CD22、ROR
1、メソテリン、CD33/IL3Ra、c-Met、PSMA、糖脂質F77、EGFRvIII、GD-2、NY-ESO-1 TCR
、MAGE A3 TCR、およびこれらの任意の組み合わせからなる群より選択される。
【0011】
1つの態様において、CARにおける共刺激シグナル伝達領域は、CD27、CD28、4-1BB、OX4
0、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG
2C、B7-H3、CD83と特異的に結合するリガンド、およびこれらの任意の組み合わせからな
る群より選択される共刺激分子の細胞内ドメインを含む。
【0012】
1つの態様において、CARにおけるCD3ζシグナル伝達ドメインは、SEQ ID NO:18の核酸
配列によってコードされる。
【0013】
本発明はまた、抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、および
CD3ζシグナル伝達ドメインを含む単離されたCARであって、該CD3ζシグナル伝達ドメイ
ンがSEQ ID NO:24のアミノ酸配列を含む、CARも提供する。
【0014】
本発明はまた、CARをコードする核酸配列を含む細胞であって、CARが抗原結合ドメイン
、膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、および、SEQ ID NO:24のアミノ酸配列を
含むCD3ζシグナル伝達ドメインを含む、細胞も提供する。
【0015】
1つの態様において、CARを含む細胞は、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、細胞傷
害性Tリンパ球(CTL)、および調節性T細胞からなる群より選択される。
【0016】
1つの態様において、CARを含む細胞は、CARの抗原結合ドメインがその対応する抗原と
結合した場合に抗腫瘍免疫を呈する。
【0017】
本発明はまた、CARをコードする核酸配列を含むベクターであって、CARが抗原結合ドメ
イン、共刺激シグナル伝達領域およびCD3ζシグナル伝達ドメインを含み、該CD3ζシグナ
ル伝達ドメインがSEQ ID NO:24のアミノ酸配列を含む、ベクターも提供する。
【0018】
本発明はまた、哺乳動物において標的細胞集団または組織に対するT細胞媒介性免疫応
答を刺激するための方法も提供する。1つの態様において、本方法は、CARを発現するよう
に遺伝子改変された細胞の有効量を哺乳動物に投与する段階を含み、該CARが抗原結合ド
メイン、共刺激シグナル伝達領域、および、SEQ ID NO:24のアミノ酸配列を含むCD3ζシ
グナル伝達ドメインを含み、該抗原結合ドメインが該標的細胞集団または組織を特異的に
認識するように選択される。
【0019】
本発明はまた、哺乳動物において抗腫瘍免疫を与える方法も提供する。1つの態様にお
いて、本方法は、CARを発現するように遺伝子改変された細胞の有効量を哺乳動物に投与
する段階を含み、該CARが抗原結合ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、および、SEQ ID
NO:24のアミノ酸配列を含むCD3ζシグナル伝達ドメインを含み、それにより、該哺乳動
物において抗腫瘍免疫を与える。
【0020】
本発明はまた、腫瘍抗原の発現亢進と関連する疾患、障害または病状を有する哺乳動物
を治療する方法も提供する。1つの態様において、本方法は、CARを発現するように遺伝子
改変された細胞の有効量を哺乳動物に投与する段階を含み、該CARが抗原結合ドメイン、
共刺激シグナル伝達領域、および、SEQ ID NO:24のアミノ酸配列を含むCD3ζシグナル伝
達ドメインを含み、それにより、該哺乳動物を治療する。
【0021】
1つの態様において、細胞は自己T細胞である。
【0022】
1つの態様において、腫瘍抗原は、CD19、CD20、CD22、ROR1、メソテリン、CD33/IL3Ra
、c-Met、PSMA、糖脂質F77、EGFRvIII、GD-2、NY-ESO-1 TCR、MAGE A3 TCR、およびこれ
らの任意の組み合わせからなる群より選択される。
【0023】
本発明はまた、慢性リンパ性白血病を有するヒトを治療する方法も提供する。1つの態
様において、本方法は、CARを発現するように遺伝子操作されたT細胞をヒトに投与する段
階を含み、該CARが抗原結合ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、および、SEQ ID NO:24
のアミノ酸配列を含むCD3ζシグナル伝達ドメインを含む。
【0024】
1つの態様において、ヒトは少なくとも1つの化学療法薬に対して抵抗性である。
【0025】
1つの態様において、慢性リンパ性白血病は治療抵抗性のCD19+白血病およびリンパ腫で
ある。
【0026】
本発明はまた、癌と診断されたヒトにおいて、遺伝子操作されたT細胞の存続集団(per
sisting population)を生じさせる方法も含む。1つの態様において、本方法は、CARを発
現するように遺伝子操作されたT細胞をヒトに投与する段階を含み、該CARが抗原結合ドメ
イン、共刺激シグナル伝達領域、および、SEQ ID NO:24のアミノ酸配列を含むCD3ζシグ
ナル伝達ドメインを含み、遺伝子操作されたT細胞の存続集団は、投与後少なくとも1カ月
間にわたってヒトの内部で存続する。
【0027】
1つの態様において、遺伝子操作されたT細胞の存続集団は、ヒトに投与されたT細胞、
該ヒトに投与されたT細胞の子孫、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される
少なくとも1つの細胞を含む。
【0028】
1つの態様において、遺伝子操作されたT細胞の存続集団は、メモリーT細胞を含む。
【0029】
1つの態様において、遺伝子操作されたT細胞の存続集団は、投与後少なくとも3カ月間
にわたってヒトの内部で存続する。もう1つの態様において、遺伝子操作されたT細胞の存
続集団は、投与後少なくとも4カ月間、5カ月間、6カ月間、7カ月間、8カ月間、9カ月間、
10カ月間、11カ月間、12カ月間、2年間または3年間にわたってヒトの内部で存続する。
【0030】
1つの態様においては、慢性リンパ性白血病が治療される。
【0031】
本発明はまた、癌と診断されたヒトにおいて、遺伝子操作されたT細胞の集団を増大さ
せる方法も提供する。1つの態様において、本方法は、CARを発現するように遺伝子操作さ
れたT細胞をヒトに投与する段階を含み、該CARが抗原結合ドメイン、共刺激シグナル伝達
領域、および、SEQ ID NO:24のアミノ酸配列を含むCD3ζシグナル伝達ドメインを含み、
投与された該遺伝子操作されたT細胞は、ヒトにおいて子孫T細胞の集団を生成する。
【0032】
1つの態様において、ヒトにおける子孫T細胞はメモリーT細胞を含む。
【0033】
1つの態様において、T細胞は自己T細胞である。
【0034】
もう1つの態様において、ヒトは少なくとも1つの化学療法薬に対して抵抗性である。
【0035】
1つの態様において、癌は慢性リンパ性白血病である。もう1つの態様において、慢性リ
ンパ性白血病は治療抵抗性のCD19+白血病およびリンパ腫である。
【0036】
1つの態様において、子孫T細胞の集団は、投与後少なくとも3カ月間にわたってヒトの
内部で存続する。もう1つの態様において、子孫T細胞の集団は、投与後少なくとも4カ月
間、5カ月間、6カ月間、7カ月間、8カ月間、9カ月間、10カ月間、11カ月間、12カ月間、2
年間または3年間にわたってヒトの内部で存続する。
【0037】
1つの態様においては、癌が治療される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
本発明の好ましい態様の以下の詳細な説明は、添付の図面と併せて読むことにより、よ
り良く理解されるであろう。本発明を実例で説明するために、現時点で好ましい態様を図
面として示している。しかし、本発明は、図面中に示された態様の厳密な配置および手段
には限定されないことが理解されるべきである。
【
図1A】遺伝子移入ベクターおよび導入遺伝子の画像である。主要な機能的エレメントを示している、レンチウイルスベクターおよび導入遺伝子を描写している。FMC63マウスモノクローナル抗体由来の抗CD19 scFv、ヒトCD8αのヒンジおよび膜貫通ドメイン、ならびにヒト4-1BBおよびCD3ζのシグナル伝達ドメインの発現を導く、水疱性口内炎ウイルスプロテインGの偽型臨床グレードレンチウイルスベクター(pELPs 19BBzと命名)を作製した。導入遺伝子の構成性発現は、EF-1α(伸長因子-1αプロモーター);LTR、長末端反復配列;RRE、rev応答エレメント(cPPT)およびセントラルターミネーション配列(CTS)を含めることによって導いた。図は正確な縮尺通りではない。
【
図1B】遺伝子改変T細胞の製造の一連の画像である。T細胞の製造を描写している。自己細胞をアフェレーシスを介して入手し、T細胞を単核細胞の水簸によって濃縮し、洗浄した上で、残留性の白血病細胞を、陽性選択およびT細胞の活性化のための抗CD3/CD28でコーティングした常磁性ビーズの添加によって枯渇させた。細胞活性化の時点でレンチウイルスベクターを添加し、培養開始後の第3日に洗浄除去した。細胞を揺動式プラットフォーム装置(WAVE Bioreactor System)にて8~12日間増大させた。培養の最終日に、磁場に通過させることによってビーズを除去し、CART19 T細胞を採取して、輸注可能な媒体中で凍結保存した。
【
図1C】臨床試験プロトコールのデザインの略図の一連の画像である。臨床試験プロトコールのデザインを描写している。患者に対して記載の通りのリンパ除去化学療法を行い、その後に1回目のCART19輸注を、静脈内への自然流下(gravity flow drip)によって15~20分の期間にわたって行った。輸注は、化学療法の完了後1~5日の時点で開始する、3日間にわたる分割投与アプローチ(10%、30%、60%)を用いて行った。エンドポイントアッセイを試験第4週に実施した。能動的モニタリングの完了時に、対象を、FDAの指導に準拠した長期経過観察のための恒久的プロトコールに移行させた。
【
図2A】血液におけるCART19細胞の持続的なインビボ増大および存続性を明示している一連の画像である。UPN 01から入手した試料である、全血から単離されたDNAを、CART19配列を検出および定量するための認定アッセイを用いるQ-PCR分析に一括して供した。各データポイントは100~200ngのゲノムDNAに対する3件ずつの測定値の平均を表しており、最大% CVは1.56%未満であった。アッセイの合格/不合格パラメーターには、増幅の勾配および効率、ならびに参照基準試料の増幅に関してあらかじめ定めた範囲を含めた。標準曲線の範囲によって確定されたアッセイの定量下限は、導入遺伝子2コピー/μgゲノムDNAであった;その数を下回る試料の値は推定値とみなし、反復試験値(replicate)3件のうち少なくとも2件で、15%の値を% CVに用いてCt値が生成される場合に提示した。CART19細胞は、第0日、第1日および第2日に輸注した。
【
図2B】血液におけるCART19細胞の持続的なインビボ増大および存続性を明示している一連の画像である。UPN 02から入手した試料である、全血から単離されたDNAを、CART19配列を検出および定量するための認定アッセイを用いるQ-PCR分析に一括して供した。各データポイントは100~200ngのゲノムDNAに対する3件ずつの測定値の平均を表しており、最大% CVは1.56%未満であった。アッセイの合格/不合格パラメーターには、増幅の勾配および効率、ならびに参照基準試料の増幅に関してあらかじめ定めた範囲を含めた。標準曲線の範囲によって確定されたアッセイの定量下限は、導入遺伝子2コピー/μgゲノムDNAであった;その数を下回る試料の値は推定値とみなし、反復試験値(replicate)3件のうち少なくとも2件で、15%の値を% CVに用いてCt値が生成される場合に提示した。CART19細胞は、第0日、第1日、第2日および第11日に輸注した。
【
図2C】血液におけるCART19細胞の持続的なインビボ増大および存続性を明示している一連の画像である。UPN 03から入手した試料である、全血から単離されたDNAを、CART19配列を検出および定量するための認定アッセイを用いるQ-PCR分析に一括して供した。各データポイントは100~200ngのゲノムDNAに対する3件ずつの測定値の平均を表しており、最大% CVは1.56%未満であった。アッセイの合格/不合格パラメーターには、増幅の勾配および効率、ならびに参照基準試料の増幅に関してあらかじめ定めた範囲を含めた。標準曲線の範囲によって確定されたアッセイの定量下限は、導入遺伝子2コピー/μgゲノムDNAであった;その数を下回る試料の値は推定値とみなし、反復試験値(replicate)3件のうち少なくとも2件で、15%の値を% CVに用いてCt値が生成される場合に提示した。CART19細胞は、第0日、第1日および第2日に輸注した。
【
図2D】骨髄におけるCART19細胞の持続的なインビボ増大および存続性を明示している一連の画像である。UPN 01から入手した試料である、骨髄から単離されたDNAを、CART19配列を検出および定量するための認定アッセイを用いるQ-PCR分析に一括して供した。各データポイントは100~200ngのゲノムDNAに対する3件ずつの測定値の平均を表しており、最大% CVは1.56%未満であった。アッセイの合格/不合格パラメーターには、増幅の勾配および効率、ならびに参照基準試料の増幅に関してあらかじめ定めた範囲を含めた。標準曲線の範囲によって確定されたアッセイの定量下限は、導入遺伝子2コピー/μgゲノムDNAであった;その数を下回る試料の値は推定値とみなし、反復試験値(replicate)3件のうち少なくとも2件で、15%の値を% CVに用いてCt値が生成される場合に提示した。CART19細胞は、第0日、第1日および第2日に輸注した。
【
図2E】骨髄におけるCART19細胞の持続的なインビボ増大および存続性を明示している一連の画像である。UPN 02から入手した試料である、骨髄から単離されたDNAを、CART19配列を検出および定量するための認定アッセイを用いるQ-PCR分析に一括して供した。各データポイントは100~200ngのゲノムDNAに対する3件ずつの測定値の平均を表しており、最大% CVは1.56%未満であった。アッセイの合格/不合格パラメーターには、増幅の勾配および効率、ならびに参照基準試料の増幅に関してあらかじめ定めた範囲を含めた。標準曲線の範囲によって確定されたアッセイの定量下限は、導入遺伝子2コピー/μgゲノムDNAであった;その数を下回る試料の値は推定値とみなし、反復試験値(replicate)3件のうち少なくとも2件で、15%の値を% CVに用いてCt値が生成される場合に提示した。CART19細胞は、第0日、第1日、第2日および第11日に輸注した。
【
図2F】骨髄におけるCART19細胞の持続的なインビボ増大および存続性を明示している一連の画像である。UPN 03から入手した試料である、骨髄から単離されたDNAを、CART19配列を検出および定量するための認定アッセイを用いるQ-PCR分析に一括して供した。各データポイントは100~200ngのゲノムDNAに対する3件ずつの測定値の平均を表しており、最大% CVは1.56%未満であった。アッセイの合格/不合格パラメーターには、増幅の勾配および効率、ならびに参照基準試料の増幅に関してあらかじめ定めた範囲を含めた。標準曲線の範囲によって確定されたアッセイの定量下限は、導入遺伝子2コピー/μgゲノムDNAであった;その数を下回る試料の値は推定値とみなし、反復試験値(replicate)3件のうち少なくとも2件で、15%の値を% CVに用いてCt値が生成される場合に提示した。CART19細胞は、第0日、第1日および第2日に輸注した。
【
図3A】CAR T細胞の輸注の前後の血清のサイトカインを明示している画像である;CART19細胞の輸注後の表記の日における、UPN 01における、血清サイトカイン、ケモカインおよびサイトカイン受容体の変化の長期間にわたる測定値の連続的評価。試料を、Luminexビーズアレイ技術、ならびに組み立て済みの検証された多重キットを用いる多重分析に供した。変化倍数が3以上であった分析物を表示し、ベースラインからの相対的変化としてプロットした。各時点での各分析物に関する絶対値を、組換えタンパク質を利用した8点の3倍希釈系列にわたる標準曲線から導き出し、標準曲線に関して観測/期待されるカットオフ値の80~120%によって定量上限および定量下限(ULOQ、LLOQ)を決定した。試料を2件ずつ評価して平均値を算出しており、% CVは大半のケースで10%未満であった。絶対値に関する広範囲の状況での連結データ提示に対応するように、データは各分析物に関するベースライン値に対する変化倍数として提示している。ベースライン値が検出不能であった場合には、最小標準曲線値の2分の1をベースライン値として用いた。分析物に関する標準曲線の範囲およびベースライン(第0日の)値(UPN01について括弧内に記載)、いずれもpg/ml単位:IL1-Rα:35.5~29,318(689);IL-6:2.7~4,572(7);IFN-γ:11.2~23,972(2.8);CXCL10:2.1~5,319(481);MIP-1β:3.3~7,233(99.7);MCP-1:4.8~3,600(403);CXCL9:48.2~3,700(1,412);IL2-Rα:13.4~34,210(4,319);IL-8:2.4~5,278(15.3);lL-10:6.7~13,874(8.5);MIP-1α:7.1~13,778(57.6)。
【
図3B】CAR T細胞の輸注の前後の血清のサイトカインを明示している画像である;CART19細胞の輸注後の表記の日における、UPN 02における、血清サイトカイン、ケモカインおよびサイトカイン受容体の変化の長期間にわたる測定値の連続的評価。試料を、Luminexビーズアレイ技術、ならびに組み立て済みの検証された多重キットを用いる多重分析に供した。変化倍数が3以上であった分析物を表示し、ベースラインからの相対的変化としてプロットした。各時点での各分析物に関する絶対値を、組換えタンパク質を利用した8点の3倍希釈系列にわたる標準曲線から導き出し、標準曲線に関して観測/期待されるカットオフ値の80~120%によって定量上限および定量下限(ULOQ、LLOQ)を決定した。試料を2件ずつ評価して平均値を算出しており、% CVは大半のケースで10%未満であった。絶対値に関する広範囲の状況での連結データ提示に対応するように、データは各分析物に関するベースライン値に対する変化倍数として提示している。ベースライン値が検出不能であった場合には、最小標準曲線値の2分の1をベースライン値として用いた。分析物に関する標準曲線の範囲およびベースライン(第0日の)値(UPN02について括弧内に記載)、いずれもpg/ml単位:IL1-Rα:35.5~29,318(301);IL-6:2.7~4,572(10.1);IFN-γ:11.2~23,972(ND);CXCL10:2.1~5,319(115);MIP-1β:3.3~7,233(371);MCP-1:4.8~3,600(560);CXCL9:48.2~3,700(126);IL2-Rα:13.4~34,210(9,477);IL-8:2.4~5,278(14.5);lL-10:6.7~13,874(5.4);MIP-1α:7.1~13,778(57.3)。
【
図3C】CAR T細胞の輸注の前後の血清のサイトカインを明示している画像である;CART19細胞の輸注後の表記の日における、UPN 03における、血清サイトカイン、ケモカインおよびサイトカイン受容体の変化の長期間にわたる測定値の連続的評価。試料を、Luminexビーズアレイ技術、ならびに組み立て済みの検証された多重キットを用いる多重分析に供した。変化倍数が3以上であった分析物を表示し、ベースラインからの相対的変化としてプロットした。各時点での各分析物に関する絶対値を、組換えタンパク質を利用した8点の3倍希釈系列にわたる標準曲線から導き出し、標準曲線に関して観測/期待されるカットオフ値の80~120%によって定量上限および定量下限(ULOQ、LLOQ)を決定した。試料を2件ずつ評価して平均値を算出しており、% CVは大半のケースで10%未満であった。絶対値に関する広範囲の状況での連結データ提示に対応するように、データは各分析物に関するベースライン値に対する変化倍数として提示している。ベースライン値が検出不能であった場合には、最小標準曲線値の2分の1をベースライン値として用いた。分析物に関する標準曲線の範囲およびベースライン(第0日の)値(UPN03について括弧内に記載)、いずれもpg/ml単位:IL1-Rα:35.5~29,318(287);IL-6:2.7~4,572(8.7);IFN-γ:11.2~23,972(4.2);CXCL10:2.1~5,319(287);MIP-1β:3.3~7,233(174);MCP-1:4.8~3,600(828);CXCL9:48.2~3,700(177);IL2-Rα:13.4~34,210(610);IL-8:2.4~5,278(14.6);lL-10:6.7~13,874(0.7);MIP-1α:7.1~13,778(48.1)。
【
図3D】CAR T細胞の輸注の前後の骨髄のサイトカインを明示している画像である;CART19細胞の輸注後の表記の日における、UPN 03由来の骨髄における血清サイトカイン、ケモカインおよびサイトカイン受容体の連続的評価。試料を、Luminexビーズアレイ技術、ならびに組み立て済みの検証された多重キットを用いる多重分析に供した。変化倍数が3以上であった分析物を表示し、絶対値としてプロットした。各時点での各分析物に関する絶対値を、組換えタンパク質を利用した8点の3倍希釈系列にわたる標準曲線から導き出し、標準曲線に関して観測/期待されるカットオフ値の80~120%によって定量上限および定量下限(ULOQ、LLOQ)を決定した。試料を2件ずつ評価して平均値を算出しており、% CVは大半のケースで10%未満であった。絶対値に関する広範囲の状況での連結データ提示に対応するように、データは各分析物に関するベースライン値に対する変化倍数として提示している。ベースライン値が検出不能であった場合には、最小標準曲線値の2分の1をベースライン値として用いた。分析物に関する標準曲線の範囲およびベースライン(第0日の)値(UPN03について括弧内に記載)、いずれもpg/ml単位:IL1-Rα:35.5~29,318(287);IL-6:2.7~4,572(8.7);IFN-γ:11.2~23,972(4.2);CXCL10:2.1~5,319(287);MIP-1β:3.3~7,233(174);MCP-1:4.8~3,600(828);CXCL9:48.2~3,700(177);IL2-Rα:13.4~34,210(610);IL-8:2.4~5,278(14.6);lL-10:6.7~13,874(0.7);MIP-1α:7.1~13,778(48.1)。
【
図4】
図4A~4Dで構成される
図4は、インビボでの長期にわたる表面CART19発現および機能的なメモリーCARの樹立を描写している一連の画像である。
図4Aは、CARを発現するCD3+リンパ球の検出、ならびに末梢および骨髄におけるB細胞の欠如を描写している。CART19細胞輸注後の第169日にUPN 03から入手した、新たに処理した末梢血または骨髄の単核細胞を、CAR19の表面発現(上)またはB細胞の存在(下)に関して、フローサイトメトリーによって評価した;対照として、健常ドナーND365から入手したPBMCを染色した。CD3+細胞集団およびB細胞集団に対するゲーティング戦略を
図9に提示している。CD3+リンパ球におけるCAR19発現を評価するために、試料をCD14-PE-Cy7およびCD16-PE-Cy7(ダンプチャンネル)ならびにCD3-FITCに対する抗体で共染色し、CD3+に対する陽性ゲーティングを行い、CD8+およびCD8-リンパ球区画におけるCAR19発現に関して、CD8a-PEおよびAlexa-647結合抗CAR19イディオタイプ抗体による共染色によって評価した。プロット内のデータはダンプチャンネル陰性/CD3陽性細胞集団に対してゲーティングされている。B細胞の存在を評価するために、試料をCD14-APCおよびCD3-FITCに対する抗体で共染色し(ダンプチャンネル)、CD20-PEおよびCD19-PE-Cy-7に対する抗体による共染色によって、ダンプチャンネル陰性画分におけるB細胞の存在に関して評価した。いずれの場合にも、
図4Bおよび4Cに描写されているように、非染色対照に対する陰性ゲート象限が確定された。CD4+(
図4B)およびCD8+(
図4C)T細胞サブセットのT細胞免疫表現型判定を示している。T細胞輸注後の第56日および第169日にアフェレーシスによって入手したUPN 03由来の凍結末梢血試料を、因子を添加せずに培地中に一晩静置し、洗浄して、T細胞の記憶、活性化および枯渇のマーカーの発現に関する多パラメーター免疫表現型判定に供した。
図8に描写したようなゲーティング戦略は、ダンプチャンネル(CD14、CD16、Live/Dead Aqua)陰性およびCD3陽性の細胞に対する初期ゲーティング、ならびにその後のCD4+およびCD8+細胞に対する陽性ゲートを伴う。ゲートおよび象限は、FMO対照(CAR、CD45RA、PD-1、CD25、CD127、CCR7)を用いて、または陽性細胞集団(CD3、CD4、CD8)および明確に描出されるサブセット(CD27、CD28、CD57)に対するゲーティングによって確定された;データは、事象の客観的可視化のための二指数(bi-exponential)変換後に提示した。
図4Dは、存続CAR細胞の機能的応答能(competence)を描写している。T細胞輸注後の第56日および第169日にアフェレーシスによって入手したUPN 03由来の凍結末梢血試料を、因子を加えずに培地中で一晩静置し、洗浄した上で、CD19を発現する標的細胞を認識する能力を、CD107脱顆粒アッセイを用いてエクスビボで直接的に評価した。抗CD28、抗CD49dおよびCD107-FITCの存在下における2時間のインキュベーション後に、細胞混合物を採取し、洗浄して、CART19細胞がCD19を発現する標的に対して反応して脱顆粒を行う能力を評価するための多パラメーターフローサイトメトリー分析に供した。ゲーティング戦略には、ダンプチャンネル(CD14-PE-Cy7、CD16-PE-Cy7、Live/Dead Aqua)陰性およびCD3-PE-陽性の細胞に対する初期ゲート、ならびにその後のCD8-PE-テキサスレッド陽性細胞に対するゲーティングを含めた;提示されているデータは、CD8+ゲート集団に関するものである。いずれの場合にも、陰性ゲート象限が非染色対照に対して確定された。
【
図5A】CART19細胞の輸注後の臨床的奏効を評価する実験の結果を描写している画像である。UPN 02を、2サイクルのリツキシマブおよびベンダムスチンで治療したところ、奏効がわずかであったことを描写している(R/B、矢印)。ベンダムスチンのみの投与の4日後から、CART19 T細胞を輸注した(B、矢印)。リツキシマブおよびベンダムスチンに対して抵抗性の白血病は、輸注から18日以内にリンパ球絶対数(ALC)が60,600/μlから200/μlに減少したことによって指し示されるように、血液から急速に除去された。疲労感および非感染性発熱症候群を理由として、輸注後の第18日にコルチコステロイド治療を開始した。基準線(点線)は、ALCに関する正常上限を指し示している。
【
図5B】CART19細胞の輸注後の臨床的奏効を評価する実験の結果を描写している画像である。患者UPN 01および03由来の連続的な骨髄生検試料または血塊標本をCD20に関して染色した実験例の結果を描写している。両方の患者に存在した白血病の治療前浸潤は治療後標本には存在せず、これは細胞密度(cellularity)および三血球系造血の正常化を伴った。UPN 01は骨髄中にも血液中にも、フローサイトメトリー、細胞遺伝学検査および蛍光インサイチューハイブリダイゼーションによる評価で検出されるCLL細胞も、フローサイトメトリーによって検出される正常B細胞も有しなかった。UPN 03は、第+23日のフローサイトメトリーによって、残留性の正常CD5陰性B細胞を5%有することが確かめられ、それらがポリクローナル性であることも示された;第+176日に正常B細胞は検出されなかった。
【
図5C】CART19細胞の輸注後の臨床的奏効を評価する実験の結果を描写している画像である。化学療法抵抗性の全身性リンパ節症の急速な消散を評価するために連続CTイメージングを用いた実験の結果を描写している。両側性の腋窩腫瘤が、矢印および丸印によって指し示されるように、輸注後の第83日(UPN 01)および第31日(UPN 03)までに消散した。
【
図6】
図6A~6Cで構成される
図6は、UPN 01、02、03について流血中のリンパ球絶対数および総CART19+細胞を描写している一連の画像である。対象3人全員について、CBC値によるリンパ球絶対数を用い、かつ血液容量5.0Lと仮定した上で、流血中のリンパ球の総数(正常細胞とCLL細胞の合計)を総CART19+細胞に対してプロットしている。流血中のCART19細胞の総数は、
図2に描写したように、タンデムCBC値をリンパ球絶対数およびQ-PCR表示値とともに用いることによって算出し、本明細書中の別所に記載したようにして、コピー数/ng DNAを平均%表示値に換算した。Q-PCR %表示値は、輸注製剤のフローサイトメトリー特性、およびCART19細胞を染色によって直接的に計数するための同時フローサイトメトリーデータが入手可能であった試料からのデータとよく相関すること(偏差の2倍未満)が見いだされた。
【
図7】
図7A~7Dで構成される
図7は、T細胞輸注後71日のUPN-01 PBMCにおけるCART19陽性細胞の直接的なエクスビボ検出を伴う実験を描写している一連の画像である。輸注後の第71日にアフェレーシス直後に収集したか、またはアフェレーシス時点でT細胞製剤の製造のために凍結して(ベースライン)、染色前に生存性を保って解凍したかのいずれかであるUPN-01 PBMCを、CAR19モイエティーを表面で発現するCART19細胞の存在を検出するためのフローサイトメトリー分析に供した。リンパ球におけるCAR19の発現を評価するために、試料をCD3-PEおよびAlexa-647結合抗CAR19イディオタイプ抗体で共染色するか、またはCD3-PEのみ(CAR19に対してはFMO)で共染色した。
図7Aは、初期リンパ球ゲートを前方散乱および側方散乱(FSC 対 SSC)に基づいて確定し、その後にCD3+細胞に対するゲーティングを行ったことを描写している。
図7BはCD3+リンパ球ゲートを描写している;
図7CはCARイディオタイプ染色を描写している;
図7Dは、CARイディオタイプFMOを描写している。CAR19陽性ゲートが、CAR19 FMO試料に対して確定された。
【
図8】
図8A~8Cで構成される
図8は、UPN 03血液標本において多染性フローサイトメトリーを用いることによってCART19発現を同定するためのゲーティング戦略を描写している一連の画像である。
図8Cに関するゲーティング戦略はUPN 03の第56日試料について示されており、これはUPN 03の第169日試料に対して用いた戦略の代表である。
図8Aは一次ゲートを描写している:ダンプ(CD14、CD16、LIVE/dead Aqua)陰性、CD3陽性。
図8Bは二次ゲートを描写している:CD4陽性、CD8陽性。
図8Cは三次ゲートを描写している:CAR19陽性およびCAR19陰性、これはCAR FMO試料(最も右側のパネル)に対して確定された。
【
図9】血液標本および骨髄標本におけるCART19発現およびB細胞を直接同定するためのゲーティング戦略を描写している。末梢および骨髄における、CARを発現するCD3+リンパ球の検出およびB細胞の欠如を示している、
図4Aに関するゲーティング戦略:左のプロット:細胞ゲート;上のパネル:CD3+細胞に対する陽性ゲート、下のパネル:B細胞に対する陰性ゲート(CD14陰性、CD3陰性)。NC365、健常ドナー由来の末梢血対照細胞。
【
図10】患者の背景および奏効性をまとめた画像である。
【
図11】CART-19細胞の製造過程を描写している。
【
図12A】患者における臨床的奏効を描写している画像である。患者由来のT細胞を感染させるために用いたレンチウイルスベクターを示している。FMC63マウスモノクローナル抗体に由来する抗CD19 scFv、ヒトCD8αのヒンジドメインおよび膜貫通ドメイン、ならびにヒト4-1BBおよびCD3ζのシグナル伝達ドメインの発現を導く、水疱性口内炎ウイルスプロテインGの臨床グレード偽型レンチウイルスベクター(pELPs 19-BB-z)を作製した。一番下にあるCAR19導入遺伝子の詳細は、主要な機能的エレメントを示している。この図は正確な縮尺通りではない。3'LTRは3'長末端反復配列を表す;5'LTR、5'長末端反復配列;Amp R、アンピシリン耐性遺伝子;Bovine GH Poly A、ポリアデニル化尾部を有するウシ成長ホルモン;cPPT/CTS、セントラルターミネーション配列を有する中心ポリプリントラクト;EF-1α、伸長因子1-α;env、エンベロープ;gag、群特異的抗原;pol、ポリメラーゼおよび逆転写酵素をコードするHIV遺伝子;R、反復配列;RRE、rev応答エレメント;scFv、単鎖可変フラグメント;TM、膜貫通性;ならびにWPRE、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント。
【
図12B】患者における臨床的奏効を描写している画像である。CART19細胞の初回輸注後の第1日~第28日の血清クレアチニン、尿酸および乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)のレベルを示している。ピークレベルは腫瘍溶解症候群による入院時と一致した。
【
図12C】患者における臨床的奏効を描写している画像である。化学療法から3日後(CART19細胞輸注の前、第-1日)ならびにCART19細胞輸注から23日後および6カ月後に入手した骨髄生検標本を示している(ヘマトキシリンおよびエオシン)。ベースライン標本は、細胞密度全体の40%に相当する小さな成熟リンパ球の主として間質性の凝集物により浸潤された、三血球系造血を伴う過形成性骨髄(60%)を示している。第23日に入手した標本は、慢性リンパ性白血病(CLL)に関して陰性であった残留性リンパ性凝集物(10%)を示し、これはT細胞およびCD5陰性B細胞の混合物を伴った。輸注後6カ月で入手した標本は、リンパ性凝集物を伴わない三血球系造血を示し、CLLは存在しないままであった。
【
図12D】患者における臨床的奏効を描写している画像である。患者を試験に組み入れる前、ならびに初回輸注から31日後および104日後に得た造影CTスキャンを示している。輸注前のCTスキャンからは、1~3cmの両側性腫瘤が見てとれる。腋窩リンパ節症の縮退は輸注後1カ月以内に起こり、持続的であった。矢印は、治療法の前のさまざまな腫大リンパ節、および治療法の後の同等なCTスキャン上でのリンパ節の反応を強調表示している。
【
図13】
図13A~13Eで構成される
図13は、キメラ抗原受容体T細胞輸注の前後の血清および骨髄のサイトカインを描写している一連の画像である。サイトカインインターフェロン-γ(
図13A)、インターフェロン-γで刺激したケモカインC-X-Cモチーフケモカイン10(CXCL10)(
図13B)およびC-X-Cモチーフリガンド9(CXCL9)(
図13C)、ならびにインターロイキン-6(
図13D)の連続的測定値を、表記の時点で測定した。これらの炎症性サイトカインおよびケモカインの増加は、腫瘍溶解症候群の発現と一致した。ベースラインでは低レベルのインターロイキン-6が検出されたが、一方、ベースラインでのインターフェロン-γ、CXCL9およびCXCL10は検出限界未満であった。分析物に関する標準曲線の範囲、および括弧内に提示した患者におけるベースライン値は、以下の通りであった:インターフェロン-γ、11.2~23,972pg/ml(1.4pg/ml);CXCL10、2.1~5319pg/ml(274pg/ml);CXCL9、48.2~3700pg/ml(177pg/ml);インターロイキン-6、2.7~4572pg/ml(8.3pg/ml);腫瘍壊死因子α(TNF-α)、1.9~4005pg/ml(検出不能);および、可溶性インターロイキン-2受容体、13.4~34,210pg/ml(644pg/ml)。
図13Eは、骨髄における免疫応答の誘導を示している。骨髄吸引液から入手した上澄み液中のサイトカインTNF-α、インターロイキン-6、インターフェロン-γ、ケモカインCXCL9および可溶性インターロイキン-2受容体を、CART19細胞の輸注の前後の表記の日に測定した。インターロイキン-6、インターフェロン-γ、CXCL9および可溶性インターロイキン-2受容体のレベルの上昇は、腫瘍溶解症候群、キメラ抗原受容体T細胞浸潤のピーク、および白血病性浸潤物の根絶と一致した。
【
図14A】インビボでのキメラ抗原受容体T細胞の増大および存続性を描写している一連の画像である。キメラ抗原受容体T細胞輸注の前後の連続的な時点で収集した患者の全血の試料からゲノムDNA(gDNA)を単離して、定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)分析のために用いた。導入遺伝子DNA、およびCAR19を発現するリンパ球のパーセンテージに基づく評価では、キメラ抗原受容体T細胞は、末梢血における初期生着レベルの1000倍を上回る高さのレベルまで増大した。キメラ抗原受容体T細胞のピークレベルは、腫瘍溶解症候群と時間的に相関した。第0日に入手した血液試料は、ベースラインではPCRシグナルを有しなかった。
【
図14B】インビボでのキメラ抗原受容体T細胞の増大および存続性を描写している一連の画像である。キメラ抗原受容体T細胞輸注の前後の連続的な時点で収集した患者の骨髄吸引液の試料からゲノムDNA(gDNA)を単離して、定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)分析のために用いた。導入遺伝子DNA、およびCAR19を発現するリンパ球のパーセンテージに基づく評価では、キメラ抗原受容体T細胞は、骨髄における初期生着レベルの1000倍を上回る高さのレベルまで増大した。キメラ抗原受容体T細胞のピークレベルは、腫瘍溶解症候群と時間的に相関した。第1日に入手した骨髄試料は、ベースラインではPCRシグナルを有しなかった。
【
図14C】インビボでのキメラ抗原受容体T細胞の増大および存続性を描写している一連の画像である。ベースラインでの骨髄吸引液のフローサイトメトリー分析からは、免疫グロブリンκ軽鎖染色による評価でクローン性であったCD19+CD5+細胞を主体とする浸潤が示され、T細胞は乏しかった。輸注後の第31日の時点ではCD5+ T細胞が存在し、正常B細胞も悪性B細胞も検出されなかった。数字は、各象限における細胞の相対頻度を指し示している。x軸およびy軸はいずれもlog 10尺度を示している。ゲーティング戦略には、左側の枠内のCD19+およびCD5+細胞に対する初期ゲーティング、ならびにその後のCD19+CD5+サブセット(右側の枠)上での免疫グロブリンκおよびλ発現の同定を含めた。
【発明を実施するための形態】
【0039】
詳細な説明
本発明は、血液悪性腫瘍および固形腫瘍を非限定的に含む癌を治療するための組成物お
よび方法に関する。本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するように形質導入され
たT細胞の養子細胞移入の戦略に関する。CARとは、特異的な抗腫瘍細胞免疫活性を呈する
キメラタンパク質を作製するために、抗体に基づく所望の抗原(例えば、腫瘍抗原)に対
する特異性と、T細胞受容体を活性化する細胞内ドメインとを組み合わせた分子のことで
ある。
【0040】
本発明は、全体として、所望のCARを安定して発現するように遺伝子改変されたT細胞の
使用に関する。CARを発現するT細胞を、本明細書では、CAR T細胞またはCAR改変T細胞と
称する。細胞を、抗体結合ドメインをその表面で安定して発現し、MHCに依存しない新規
な抗原特異性を付与するように遺伝子改変することが好ましい。場合によっては、T細胞
は一般に、特異的抗体の抗原認識ドメインとCD3-ζ鎖またはFcγRIタンパク質の細胞内ド
メインとを組み合わせて単一のキメラタンパク質としたCARを安定して発現するように遺
伝子改変される。
【0041】
1つの態様において、本発明のCARは、抗原認識ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞質
ドメインを有する細胞外ドメインを含む。1つの態様においては、CARの中のドメインの1
つに天然に付随する膜貫通ドメインを用いる。もう1つの態様において、膜貫通ドメイン
を、受容体複合体の他のメンバーとの相互作用を最小限に抑えるために、同じまたは異な
る表面膜タンパク質の膜貫通ドメインに対するそのようなドメインの結合を避けるように
選択すること、またはそのためのアミノ酸置換によって選択もしくは改変することもでき
る。好ましくは、膜貫通ドメインはCD8αヒンジドメインである。
【0042】
細胞質ドメインに関して、本発明のCARは、CD28および/または4-1BBシグナル伝達ドメ
インを単独で、または本発明のCARに関連して有用な他の任意の所望の細胞質ドメインと
組み合わせて含むように設計することができる。1つの態様において、CARの細胞質ドメイ
ンは、CD3-ζのシグナル伝達ドメインをさらに含むように設計することができる。例えば
、CARの細胞質ドメインは、CD3-ζ、4-1BBおよびCD28のシグナル伝達モジュール、ならび
にこれらの組み合わせを非限定的に含みうる。したがって、本発明は、CAR T細胞、およ
び養子療法のためのそれらの使用の方法に関する。
【0043】
1つの態様において、本発明のCAR T細胞は、所望のCAR、例えば抗CD19、CD8αのヒンジ
および膜貫通ドメイン、ならびにヒト4-1BBおよびCD3ζのシグナル伝達ドメインを含むCA
Rを含むレンチウイルスベクターを細胞に導入することによって作製することができる。
本発明のCAR T細胞は、インビボで複製して、持続的腫瘍制御につながる可能性のある長
期存続性をもたらすことができる。
【0044】
1つの態様において、本発明は、CARを発現する遺伝子改変T細胞を、癌を有するかまた
は癌を有するリスクのある患者の治療のために、リンパ球輸注を用いて投与することに関
する。自己リンパ球輸注を治療に用いることが好ましい。治療を必要とする患者から自己
PBMCを収集し、T細胞を活性化した上で、本明細書に記載された当技術分野において公知
の方法を用いて増大させ、続いて患者に輸注して戻す。
【0045】
さらにもう1つの態様において、本発明は、全体として、CLLを発症するリスクのある患
者の治療に関する。本発明はまた、患者における化学療法および/または免疫療法がその
患者における著しい免疫抑制をもたらし、それにより、患者がCLLを発症するリスクが高
まるような悪性腫瘍または自己免疫疾患を治療することも含む。
【0046】
本発明は、CD3-ζおよび4-1BBの共刺激ドメインの両方を含む抗CD19 CARを発現するT細
胞(CART19 T細胞とも称する)を用いることを含む。本発明のCART19 T細胞は、頑強なイ
ンビボT細胞増大を起こすことができ、血液および骨髄において、より延長した時間にわ
たって高レベルであり続けることのできるCD19特異的メモリー細胞を樹立することができ
る。場合によっては、患者に輸注された本発明のCART19 T細胞は、進行した化学療法抵抗
性CLLの患者において、白血病細胞をインビボで排除することができる。しかし、本発明
はCART19 T細胞には限定されない。より正確には、本発明は、CD137(4-1BB)シグナル伝
達ドメイン、CD28シグナル伝達ドメイン、CD3ζシグナルドメイン、およびこれらの任意
の組み合わせの群から選択される1つまたは複数の細胞内ドメインと融合した、あらゆる
抗原結合モイエティーを含む。
【0047】
定義
別に定める場合を除き、本明細書で用いる技術用語および科学用語はすべて、本発明が
属する技術分野の当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本明
細書中に記載されたものと同様または同等な任意の方法および材料を本発明の試験のため
に実地に用いることができるが、本明細書では好ましい材料および方法について説明する
。本発明の説明および特許請求を行う上では、以下の専門用語を用いる。
【0048】
また、本明細書中で用いる専門用語は、特定の態様を説明することのみを目的とし、限
定的であることは意図しないことも理解される必要がある。
【0049】
「1つの(a)」および「1つの(an)」という冠詞は、本明細書において、その冠詞の
文法的目的語の1つまたは複数(すなわち、少なくとも1つ)を指して用いられる。一例と
して、「1つの要素」は、1つの要素または複数の要素を意味する。
【0050】
量、時間的長さなどの測定可能な値に言及する場合に本明細書で用いる「約」は、特定
された値からの±20%または±10%、より好ましくは±5%、さらにより好ましくは±1%
、いっそうより好ましくは±0.1%のばらつきを範囲に含むものとするが、これはそのよ
うなばらつきが、開示された方法を実施する上で妥当なためである。
【0051】
「活性化」とは、本明細書で用いる場合、検出可能な細胞増殖を誘導するように十分に
刺激されたT細胞の状態のことを指す。また、活性化が、サイトカイン産生の誘導および
検出可能なエフェクター機能を伴うこともある。「活性化されたT細胞」という用語は、
とりわけ、細胞分裂を行っているT細胞のことを指す。
【0052】
「抗体」という用語は、抗原と特異的に結合する免疫グロブリン分子のことを指す。抗
体は、天然供給源または組換え供給源に由来する無傷の免疫グロブリンであってもよく、
無傷の免疫グロブリンの免疫応答部分であってもよい。抗体は典型的には、免疫グロブリ
ン分子のテトラマーである。本発明における抗体は、例えば、ポリクローナル抗体、モノ
クローナル抗体、Fv、FabおよびF(ab)2、ならびに単鎖抗体およびヒト化抗体を含む、種
々の形態で存在しうる(Harlow et al., 1999, In: Using Antibodies: A Laboratory Ma
nual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, NY;Harlow et al., 1989, In: Antibodi
es: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor, New York;Houston et al., 1988, Pro
c. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883;Bird et al., 1988, Science 242:423-426)。
【0053】
「抗体フラグメント」という用語は、無傷の抗体の一部分のことを指し、無傷の抗体の
抗原決定可変領域のことも指す。抗体フラグメントの例には、Fab、Fab'、F(ab')2、およ
びFvフラグメント、直鎖状抗体、ScFv抗体、ならびに抗体フラグメントから形成される多
重特異性抗体が非限定的に含まれる。
【0054】
「抗体重鎖」とは、本明細書で用いる場合、天然に存在するコンフォメーションにある
すべての抗体分子中に存在する2種類のポリペプチド鎖のうち、大きい方のことを指す。
【0055】
「抗体軽鎖」とは、本明細書で用いる場合、天然に存在するコンフォメーションにある
すべての抗体分子中に存在する2種類のポリペプチド鎖のうち、小さい方のことを指す。
κ軽鎖およびλ軽鎖とは、2つの主要な抗体軽鎖アイソタイプのことを指す。
【0056】
本明細書で用いる「合成抗体」とは、組換えDNA技術を用いて作製される抗体、例えば
、本明細書に記載のバクテリオファージによって発現される抗体のことを意味する。この
用語はまた、抗体をコードするDNA分子の合成によって作製される抗体であって、そのDNA
分子が抗体タンパク質またはその抗体を指定するアミノ酸配列を発現し、そのDNA配列ま
たはアミノ酸配列が、利用可能であって当技術分野において周知であるDNA配列またはア
ミノ酸配列の合成技術を用いて得られたような抗体も意味するとみなされるべきである。
【0057】
本明細書で用いる「抗原」または「Ag」という用語は、免疫応答を誘発する分子と定義
される。この免疫応答には、抗体産生、または特異的免疫適格細胞の活性化のいずれかま
たは両方が含まれうる。当業者は、事実上すべてのタンパク質またはペプチドを含む任意
の高分子が抗原としての役を果たしうることを理解するであろう。その上、抗原が組換え
DNAまたはゲノムDNAに由来してもよい。当業者は、免疫応答を惹起するタンパク質をコー
ドするヌクレオチド配列または部分ヌクレオチド配列を含む任意のDNAが、それ故に、本
明細書中でその用語が用いられる通りの「抗原」をコードすることを理解するであろう。
その上、当業者は、抗原が遺伝子の完全長ヌクレオチド配列のみによってコードされる必
要はないことも理解するであろう。本発明が複数の遺伝子の部分ヌクレオチド配列の使用
を非限定的に含むこと、およびこれらのヌクレオチド配列が所望の免疫応答を惹起するさ
まざまな組み合わせで並べられていることは直ちに明らかである。さらに、当業者は、抗
原が「遺伝子」によってコードされる必要が全くないことも理解するであろう。抗原を合
成して作製することもでき、または生物試料から得ることもできることは直ちに明らかで
ある。そのような生物試料には、組織試料、腫瘍試料、細胞または生体液が非限定的に含
まれうる。
【0058】
本明細書で用いる「抗腫瘍効果」という用語は、腫瘍体積の減少、腫瘍細胞の数の減少
、転移の数の減少、期待余命の延長、または癌性病状に付随するさまざまな生理的症状の
改善によって明らかになる生物学的効果のことを指す。「抗腫瘍効果」はまた、腫瘍のそ
もそもの発生を予防する、本発明のペプチド、ポリヌクレオチド、細胞および抗体の能力
によっても明らかになる。
【0059】
「自己抗原」という用語は、本発明によれば、免疫系によって外来性であると誤って認
識されるあらゆる自己抗原のことを意味する。自己抗原には、細胞表面受容体を含む、細
胞タンパク質、リンタンパク質、細胞表面タンパク質、細胞脂質、核酸、糖タンパク質が
非限定的に含まれる。
【0060】
本明細書で用いる「自己免疫疾患」は、自己免疫反応に起因する障害と定義される。自
己免疫疾患は、自己抗原に対する不適切かつ過剰な反応の結果である。自己免疫疾患の例
には、とりわけ、アジソン病、円形脱毛症(alopecia greata)、強直性脊椎炎、自己免
疫性肝炎、自己免疫性耳下腺炎、クローン病、糖尿病(1型)、栄養障害型表皮水疱症、
精巣上体炎、糸球体腎炎、グレーブス病、ギラン・バレー(Guillain-Barr)症候群、橋
本病、溶血性貧血、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、重症筋無力症、尋常性天疱
瘡、乾癬、リウマチ熱、関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群
、脊椎関節症、甲状腺炎、血管炎、尋常性白斑、粘液水腫、悪性貧血、潰瘍性大腸炎が非
限定的に含まれる。
【0061】
本明細書で用いる場合、「自己」という用語は、後にその個体に再び導入される、同じ
個体に由来する任意の材料を指すものとする。
【0062】
「同種」とは、同じ種の異なる動物に由来する移植片のことを指す。
【0063】
「異種」とは、異なる種の動物に由来する移植片のことを指す。
【0064】
本明細書で用いる「癌」という用語は、異常細胞の急速かつ制御不能な増殖を特徴とす
る疾患と定義される。癌細胞は局所的に広がることもあれば、または血流およびリンパ系
を通じて身体の他の部分に広がることもある。さまざまな癌の例には、乳癌、前立腺癌、
卵巣癌、子宮頸癌、皮膚癌、膵癌、結腸直腸癌、腎癌、肝臓癌、脳悪性腫瘍、リンパ腫、
白血病、肺癌などが非限定的に含まれる。
【0065】
「共刺激リガンド」には、この用語が本明細書で用いられる場合、T細胞上のコグネイ
ト共刺激分子と特異的に結合し、それにより、例えば、ペプチドが負荷されたMHC分子のT
CR/CD3複合体への結合によって与えられる一次シグナルに加えて、増殖、活性化、分化
などを非限定的に含むT細胞応答を媒介するシグナルも与えることのできる、抗原提示細
胞(例えば、aAPC、樹状細胞、B細胞など)上の分子が含まれる。共刺激リガンドには、C
D7、B7-1(CD80)、B7-2(CD86)、PD-L1、PD-L2、4-1BBL、OX40L、誘導性共刺激リガン
ド(ICOS-L)、細胞内接着分子(ICAM)、CD30L、CD40、CD70、CD83、HLA-G、MICA、MICB
、HVEM、リンホトキシンβ受容体、3/TR6、ILT3、ILT4、HVEM、Tollリガンド受容体に結
合するアゴニストまたは抗体、およびB7-H3に特異的に結合するリガンドが非限定的に含
まれる。共刺激リガンドはまた、とりわけ、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、PD-
1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3などの、
ただしこれらに限定されない、T細胞上に存在する共刺激分子に特異的に結合する抗体、
およびCD83に特異的に結合するリガンドも範囲に含む。
【0066】
「共刺激分子」とは、共刺激リガンドに特異的に結合し、それにより、増殖などの、た
だしこれに限定されない、T細胞による共刺激応答を媒介する、T細胞上のコグネイト結合
パートナーのことを指す。共刺激分子には、MHCクラスI分子、BTLAおよびTollリガンド受
容体が非限定的に含まれる。
【0067】
「共刺激シグナル」とは、本明細書で用いる場合、TCR/CD3連結などの一次シグナルと
の組み合わせで、T細胞の増殖、および/または鍵となる分子のアップレギュレーション
もしくはダウンレギュレーションを導く分子のことを指す。
【0068】
「疾患」とは、動物が恒常性を維持することができず、その疾患が改善しなければその
動物の健康が悪化し続ける、動物の健康状態のことを指す。対照的に、動物における「障
害」とは、その動物が恒常性を維持することはできるが、その動物の健康状態が、障害の
非存在下にあるよりもより不都合である健康状態のことである。治療されないままであっ
ても、障害は必ずしもその動物の健康状態のさらなる低下を引き起こすとは限らない。
【0069】
本明細書で用いる「有効量」とは、治療的または予防処置的な有益性をもたらす量のこ
とを意味する。
【0070】
「コードする」とは、所定のヌクレオチド配列(すなわち、rRNA、tRNAおよびmRNA)ま
たは所定のアミノ酸配列のいずれか、およびそれに起因する生物学的特性を有する、生物
過程において他のポリマーおよび高分子の合成のためのテンプレートとして働く、遺伝子
、cDNAまたはmRNAなどのポリヌクレオチド中の特定のヌクレオチド配列の固有の特性のこ
とを指す。すなわち、遺伝子は、その遺伝子に対応するmRNAの転写および翻訳によって細
胞または他の生体系においてタンパク質が産生される場合、そのタンパク質をコードする
。mRNA配列と同一であって通常は配列表として提示されるヌクレオチド配列を有するコー
ド鎖と、遺伝子またはcDNAの転写のためのテンプレートとして用いられる非コード鎖の両
方を、タンパク質、またはその遺伝子もしくはcDNAの他の産物をコードすると称すること
ができる。
【0071】
本明細書で用いる場合、「内因性」とは、生物体、細胞、組織もしくは系に由来するか
、またはその内部で産生される任意の材料のことを指す。
【0072】
本明細書で用いる場合、「外因性」という用語は、生物体、細胞、組織もしくは系に導
入されるか、またはそれらの外部で産生される任意の材料のことを指す。
【0073】
本明細書で用いる「発現」という用語は、そのプロモーターによって作動する特定のヌ
クレオチド配列の転写および/または翻訳と定義される。
【0074】
「発現ベクター」とは、発現させようとするヌクレオチド配列と機能的に連結した発現
制御配列を含む組換えポリヌクレオチドを含むベクターのことを指す。発現ベクターは、
発現のために十分なシス作用エレメントを含む;発現のための他のエレメントは、宿主細
胞によって、またはインビトロ発現系において供給されうる。発現ベクターには、組換え
ポリヌクレオチドを組み入れたコスミド、プラスミド(例えば、裸のもの、またはリポソ
ーム中に含まれるもの)およびウイルス(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、ア
デノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)といった、当技術分野において公知であるすべ
てのものが含まれる。
【0075】
「相同な」とは、2つのポリペプチドの間または2つの核酸分子の間の配列類似性または
配列同一性のことを指す。比較する2つの配列の両方において、ある位置が同じ塩基また
はアミノ酸モノマーサブユニットによって占められている場合、例えば、2つのDNA分子の
それぞれにおいて、ある位置がアデニンによって占められている場合には、それらの分子
はその位置で相同である。2つの配列間の相同度(percent of homology)は、2つの配列
が共通して持つ一致する位置または相同な位置の数を、比較する位置の数によって除算し
た上で100を掛けた関数である。例えば、2つの配列中の10個の位置のうち6個が一致する
かまたは相同であるならば、2つの配列は60%相同である。一例として、DNA配列ATTGCCお
よびTATGGCは50%の相同性を有する。一般に、比較は、最大の相同性が得られるように2
つの配列のアラインメントを行った上で行われる。
【0076】
「免疫グロブリン」または「Ig」という用語は、本明細書で用いる場合、抗体として機
能するタンパク質のクラスと定義される。B細胞によって発現される抗体は、BCR(B細胞
受容体)または抗原受容体と称されることも時にある。このタンパク質のクラスに含まれ
る5つのメンバーは、IgA、IgG、IgM、IgDおよびIgEである。IgAは、唾液、涙液、母乳、
消化管分泌物、ならびに気道および泌尿生殖路の粘液分泌物などの身体分泌物中に存在す
る主要な抗体である。IgGは、最も一般的な流血中抗体である。IgMは、ほとんどの哺乳動
物で一次免疫応答において産生される主な免疫グロブリンである。これは凝集反応、補体
固定および他の抗体応答において最も効率的な免疫グロブリンであり、細菌およびウイル
スに対する防御に重要である。IgDは抗体機能が判明していない免疫グロブリンであるが
、抗原受容体として働いている可能性がある。IgEは、アレルゲンに対する曝露時にマス
ト細胞および好塩基球からのメディエーターの放出を引き起こすことによって即時型過敏
症を媒介する免疫グロブリンである。
【0077】
本明細書で用いる場合、「説明材料(instructional material」には、本発明の組成物
および方法の有用性を伝えるために用いうる、刊行物、記録、略図または他の任意の表現
媒体が含まれる。本発明のキットの説明材料は、例えば、本発明の核酸、ペプチドおよび
/もしくは組成物を含む容器に添付してもよく、または核酸、ペプチドおよび/もしくは
組成物を含む容器と一緒に出荷してもよい。または、説明材料および化合物がレシピエン
トによって一体として用いられることを意図して、説明材料を容器と別に出荷してもよい
。
【0078】
「単離された」とは、天然の状態から変更されるかまたは取り出されたことを意味する
。例えば、生きた動物に天然に存在する核酸またはペプチドは「単離されて」いないが、
その天然の状態で共存する物質から部分的または完全に分離された同じ核酸またはペプチ
ドは、「単離されて」いる。単離された核酸またはタンパク質は、実質的に精製された形
態で存在することもでき、または例えば宿主細胞などの非ネイティブ性環境で存在するこ
ともできる。
【0079】
本発明に関連して、一般的に存在する核酸塩基に関しては以下の略語を用いる。「A」
はアデノシンのことを指し、「C」はシトシンのことを指し、「G」はグアノシンのことを
指し、「T」はチミジンのことを指し、「U」はウリジンのことを指す。
【0080】
別に指定する場合を除き、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」には、相互
に縮重型であって、同じアミノ酸配列をコードする、すべてのヌクレオチドが含まれる。
タンパク質またはRNAをコードするヌクレオチド配列という語句には、タンパク質をコー
ドするヌクレオチド配列が一部の型においてイントロンを含みうる限り、イントロンも含
まれうる。
【0081】
本明細書で用いる「レンチウイルス」とは、レトロウイルス科(Retroviridae)ファミ
リーの属のことを指す。レンチウイルスは、非分裂細胞を感染させうるという点で、レト
ロウイルスの中でも独特である;それらはかなりの量の遺伝情報を宿主細胞のDNA中に送
達することができるため、それらは遺伝子送達ベクターの最も効率的な方法の1つである
。HIV、SIVおよびFIVはすべて、レンチウイルスの例である。レンチウイルスに由来する
ベクターは、インビボでかなり高いレベルの遺伝子移入を達成するための手段を与える。
【0082】
「モジュレートする」という用語は、本明細書で用いる場合、治療もしくは化合物の非
存在下でのその対象における反応のレベルと比較して、および/または他の点では同一で
あるが治療を受けていない対象における反応のレベルと比較して、対象における反応のレ
ベルの検出可能な増加または減少を媒介することを意味する。この用語は、対象、好まし
くはヒトにおいて、ネイティブ性のシグナルまたは反応を擾乱させるか、および/または
それに影響を及ぼして、それにより、有益な治療反応を媒介することを範囲に含む。
【0083】
別に指定する場合を除き、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」には、相互
に縮重型であって、かつ同じアミノ酸配列をコードする、すべてのヌクレオチドが含まれ
る。タンパク質およびRNAをコードするヌクレオチド配列が、イントロンを含んでもよい
。
【0084】
「機能的に連結した」という用語は、調節配列と異種核酸配列との間の、後者の発現を
結果的にもたらす機能的連結のことを指す。例えば、第1の核酸配列が第2の核酸配列との
機能的関係の下で配置されている場合、第1の核酸配列は第2の核酸配列と機能的に連結し
ている。例えば、プロモーターがコード配列の転写または発現に影響を及ぼすならば、プ
ロモーターはコード配列と機能的に連結している。一般に、機能的に連結したDNA配列は
連続しており、2つのタンパク質コード領域を連結することが必要な場合には、同一のリ
ーディングフレーム内にある。
【0085】
「過剰発現された」腫瘍抗原または腫瘍抗原の「過剰発現」という用語は、患者の特定
の組織または臓器の内部にある固形腫瘍のような疾患領域からの細胞における腫瘍抗原の
発現が、その組織または臓器からの正常細胞における発現のレベルに比して異常なレベル
であることを指し示すことを意図している。腫瘍抗原の過剰発現を特徴とする固形腫瘍ま
たは血液悪性腫瘍を有する患者は、当技術分野において公知の標準的なアッセイによって
判定することができる。
【0086】
免疫原性組成物の「非経口的」投与には、例えば、皮下(s.c.)、静脈内(i.v.)、筋
肉内(i.m.)または胸骨内の注射法または輸注法が含まれる。
【0087】
「患者」、「対象」、「個体」などの用語は、本明細書において互換的に用いられ、本
明細書に記載の方法を適用しうる、インビトロまたはインサイチューの別を問わない、任
意の動物またはその細胞のことを指す。ある非限定的な態様において、患者、対象または
個体はヒトである。
【0088】
本明細書で用いる「ポリヌクレオチド」という用語は、ヌクレオチドの連鎖と定義され
る。その上、核酸はヌクレオチドのポリマーである。したがって、本明細書で用いる核酸
およびポリヌクレオチドは互換的である。当業者は、核酸がポリヌクレオチドであり、そ
れらはモノマー性「ヌクレオチド」に加水分解されうるという一般知識を有する。モノマ
ー性ヌクレオチドは、ヌクレオシドに加水分解されうる。本明細書で用いるポリヌクレオ
チドには、組換え手段、すなわち通常のクローニング技術およびPCR(商標)などを用い
て組換えライブラリーまたは細胞ゲノムから核酸配列をクローニングすること、および合
成手段を非限定的に含む、当技術分野で利用可能な任意の手段によって得られる、すべて
の核酸配列が非限定的に含まれる。
【0089】
本明細書で用いる場合、「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」という
用語は互換的に用いられ、ペプチド結合によって共有結合したアミノ酸残基で構成される
化合物のことを指す。タンパク質またはペプチドは、少なくとも2つのアミノ酸を含まな
くてはならず、タンパク質またはペプチドの配列を構成しうるアミノ酸の最大数に制限は
ない。ポリペプチドには、ペプチド結合によって相互に結合した2つまたはそれ以上のア
ミノ酸を含む任意のペプチドまたはタンパク質が含まれる。本明細書で用いる場合、この
用語は、例えば、当技術分野において一般的にはペプチド、オリゴペプチドおよびオリゴ
マーとも称される短鎖、ならびに当技術分野において一般にタンパク質と称される長鎖の
両方のことを指し、それらには多くの種類がある。「ポリペプチド」には、いくつか例を
挙げると、例えば、生物学的活性断片、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、
ホモダイマー、ヘテロダイマー、ポリペプチドの変異体、修飾ポリペプチド、誘導体、類
似体、融合タンパク質が含まれる。ポリペプチドには、天然ペプチド、組換えペプチド、
合成ペプチド、またはこれらの組み合わせが含まれる。
【0090】
本明細書で用いる「プロモーター」という用語は、ポリヌクレオチド配列の特異的転写
を開始させるために必要な、細胞の合成機構または導入された合成機構によって認識され
るDNA配列と定義される。
【0091】
本明細書で用いる場合、「プロモーター/調節配列」という用語は、プロモーター/調
節配列と機能的に連結した遺伝子産物の発現のために必要とされる核酸配列を意味する。
ある場合には、この配列はコアプロモーター配列であってよく、また別の場合には、この
配列が、遺伝子産物の発現に必要とされるエンハンサー配列および他の制御エレメントを
も含んでもよい。プロモーター/制御配列は、例えば、組織特異的な様式で遺伝子産物を
発現させるものであってもよい。
【0092】
「構成性」プロモーターとは、遺伝子産物をコードするかまたは特定するポリヌクレオ
チドと機能的に連結された場合に、細胞のほとんどまたはすべての生理学的条件下で、そ
の遺伝子産物が細胞内で産生されるようにするヌクレオチド配列のことである。
【0093】
「誘導性」プロモーターとは、遺伝子産物をコードするかまたは特定するポリヌクレオ
チドと機能的に連結された場合に、実質的にはそのプロモーターに対応する誘導物質が細
胞内に存在する場合にのみ、その遺伝子産物が細胞内で産生されるようにするヌクレオチ
ド配列のことである。
【0094】
「組織特異的」プロモーターとは、遺伝子産物をコードするかまたは特定するポリヌク
レオチドと機能的に連結された場合に、実質的には細胞がそのプロモーターに対応する組
織型の細胞である場合にのみ、その遺伝子産物が細胞内で産生されるようにするヌクレオ
チド配列のことである。
【0095】
「特異的に結合する」という用語は、抗体に関して本明細書で用いる場合、試料中の特
異的な抗原を認識するが、他の分子は実質的に認識もせず、それらと結合もしない抗体の
ことを意味する。例えば、1つの種由来の抗原と特異的に結合する抗体が、1つまたは複数
の種由来のその抗原と結合してもよい。しかし、そのような種間反応性はそれ自体では、
抗体の分類を特異的として変更させることはない。もう1つの例において、抗原と特異的
に結合する抗体が、その抗原の異なるアレル形態と結合してもよい。しかし、そのような
交差反応性はそれ自体では、抗体の分類を特異的として変更させることはない。場合によ
っては、「特異的結合」または「特異的に結合する」という用語を、抗体、タンパク質ま
たはペプチドの第2の化学種との相互作用に言及して、その相互作用が、化学種での特定
の構造(例えば、抗原決定基またはエピトープ)の存在に依存することを意味して用いる
ことができる;例えば、ある抗体は、タンパク質全体ではなく特定のタンパク質構造を認
識してそれと結合する。抗体がエピトープ「A」に対して特異的であるならば、エピトー
プAを含有する分子(または遊離した非標識A)の存在は、標識「A」およびその抗体を含
む反応において、その抗体と結合した標識Aの量を減少させると考えられる。
【0096】
「刺激」という用語は、刺激分子(例えば、TCR/CD3複合体)がそのコグネイトリガン
ドと結合して、それにより、TCR/CD3複合体を介するシグナル伝達などの、ただしこれに
は限定されないシグナル伝達イベントを媒介することによって誘導される、一次応答のこ
とを意味する。刺激は、TGF-βのダウンレギュレーション、および/または細胞骨格構造
の再構築などのような、ある種の分子の発現の改変を媒介してもよい。
【0097】
「刺激分子」とは、この用語が本明細書で用いられる場合、抗原提示細胞上に存在する
コグネイト刺激リガンドに特異的に結合する、T細胞上の分子のことを意味する。
【0098】
「刺激リガンド」とは、本明細書で用いる場合、抗原提示細胞(例えば、aAPC、樹状細
胞、B細胞など)上に存在する場合に、T細胞上のコグネイト結合パートナー(本明細書で
は「刺激分子」と称する)と特異的に結合して、それにより、活性化、免疫応答の開始、
増殖などを非限定的に含む、T細胞による一次応答を媒介することのできるリガンドのこ
とを意味する。刺激リガンドは当技術分野において周知であり、とりわけ、ペプチドが負
荷されたMHCクラスI分子、抗CD3抗体、スーパーアゴニスト抗CD28抗体およびスーパーア
ゴニスト抗CD2抗体を範囲に含む。
【0099】
「対象」という用語は、免疫応答を惹起させることができる、生きている生物(例えば
、哺乳動物)を含むことを意図している。対象の例には、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラ
ット、およびそれらのトランスジェニック種が含まれる。
【0100】
本明細書で用いる場合、「実質的に精製された」細胞とは、他の細胞型を本質的に含ま
ない細胞のことである。また、実質的に精製された細胞とは、その天然の状態に本来付随
する他の細胞型から分離された細胞のことも指す。場合によっては、実質的に精製された
細胞の集団とは、均一な細胞集団のことを指す。また別の場合には、この用語は、単に、
天然の状態において本来付随する細胞から分離された細胞のことを指す。いくつかの態様
において、細胞はインビトロで培養される。他の態様において、細胞はインビトロでは培
養されない。
【0101】
本明細書で用いる「治療的」という用語は、治療および/または予防処置のことを意味
する。治療効果は、疾病状態の抑制、寛解または根絶によって得られる。
【0102】
「治療的有効量」という用語は、研究者、獣医、医師または他の臨床専門家が詳しく調
べようとしている、組織、系または対象の生物学的または医学的な反応を誘発すると考え
られる対象化合物の量のことを指す。「治療的有効量」という用語には、投与された場合
に、治療される障害または疾患の徴候または症状のうち1つもしくは複数の発生を予防す
るか、またはそれをある程度改善するのに十分な、化合物の量が含まれる。治療的有効量
は、化合物、疾患およびその重症度、ならびに治療される対象の年齢、体重などに応じて
異なると考えられる。
【0103】
ある疾患を「治療する」とは、この用語が本明細書で用いられる場合、対象が被ってい
る疾患または障害の少なくとも1つの徴候または症状の頻度または重症度を軽減すること
を意味する。
【0104】
本明細書で用いる「トランスフェクトされた」または「形質転換された」または「形質
導入された」という用語は、外因性核酸が宿主細胞内に移入または導入される過程のこと
を指す。「トランスフェクトされた」または「形質転換された」または「形質導入された
」細胞とは、外因性核酸によってトランスフェクトされた、形質転換された、または形質
導入されたもののことである。この細胞には初代対象細胞およびその子孫が含まれる。
【0105】
本明細書で用いる「転写制御下」または「機能的に連結した」という語句は、プロモー
ターが、RNAポリメラーゼによる転写の開始およびポリヌクレオチドの発現を制御するた
めに正しい位置および向きにあることを意味する。
【0106】
「ベクター」とは、単離された核酸を含み、かつその単離された核酸を細胞の内部に送
達するために用いうる組成物のことである。直鎖状ポリヌクレオチド、イオン性または両
親媒性化合物と会合したポリヌクレオチド、プラスミドおよびウイルスを非限定的に含む
数多くのベクターが、当技術分野において公知である。したがって、「ベクター」という
用語は、自律複製性プラスミドまたはウイルスを含む。この用語は、例えばポリリジン化
合物、リポソームなどのような、細胞内への核酸の移入を容易にする非プラスミド性およ
び非ウイルス性の化合物も含むと解釈されるべきである。ウイルスベクターの例には、ア
デノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクターなどが非
限定的に含まれる。
【0107】
範囲:本開示の全体を通じて、本発明のさまざまな局面を、範囲形式で提示することが
できる。範囲形式による記載は、単に便宜上かつ簡潔さのためであって、本発明の範囲に
対する柔軟性のない限定とみなされるべきではないことが理解される必要がある。したが
って、ある範囲の記載は、その範囲内におけるすべての可能な部分的範囲とともに、個々
の数値も具体的に開示されていると考慮されるべきである。例えば、1~6などの範囲の記
載は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの部分的範囲とともに、その範囲内の個
々の数、例えば、1、2、2.7、3、4、5、5.3および6も、具体的に開示されていると考慮さ
れるべきである。これは範囲の幅広さとは関係なく適用される。
【0108】
説明
本発明は、さまざまな疾患の中でもとりわけ、癌を治療するための組成物および方法を
提供する。癌は、血液悪性腫瘍、固形腫瘍、原発性または転移性の腫瘍であってよい。好
ましくは、癌は血液悪性腫瘍であり、より好ましくは、癌は慢性リンパ性白血病(CLL)
である。本発明の組成物および方法を用いて治療しうる他の疾患には、ウイルス感染症、
細菌感染症および寄生虫感染症、ならびに自己免疫疾患が含まれる。
【0109】
1つの態様において、本発明は、CARを発現するように操作された細胞(例えば、T細胞
)であって、抗腫瘍性を呈するCAR T細胞を提供する。本発明のCARは、T細胞抗原受容体
複合体ζ鎖(例えば、CD3ζ)の細胞内シグナル伝達ドメインと融合した抗原結合ドメイ
ンを有する細胞外ドメインを含むように操作することができる。本発明のCARは、T細胞で
発現された場合に、抗原結合特異性に基づく抗原認識を再誘導することができる。例示的
な抗原はCD19であるが、これはこの抗原が悪性B細胞上で発現されるためである。しかし
、本発明は、CD19のターゲティングには限定されない。より正確には、本発明は、そのコ
グネイト抗原と結合した場合に腫瘍細胞に影響を及ぼし、その結果、腫瘍細胞が成長でき
なくなるか、死滅するように促されるか、または患者における腫瘍総量(tumor burden)
が漸減するかもしくは消失する他の様式で影響を受けるような、あらゆる抗原結合モイエ
ティーを含む。抗原結合モイエティーは、共刺激分子およびζ鎖のうち1つまたは複数か
らの細胞内ドメインと融合していることが好ましい。抗原結合モイエティーは、CD137(4
-1BB)シグナル伝達ドメイン、CD28シグナル伝達ドメイン、CD3ζシグナルドメイン、お
よびこれらの任意の組み合わせの群から選択される1つまたは複数の細胞内ドメインと融
合していることが好ましい。
【0110】
1つの態様において、本発明のCARは、CD137(4-1BB)シグナル伝達ドメインを含む。こ
れは、本発明が一部には、CARにより媒介されるT細胞応答を、共刺激ドメインの付加によ
ってさらに強化しうるという発見に基づくためである。例えば、CD137(4-1BB)シグナル
伝達ドメインを含めることにより、CD137(4-1BB)を発現するように操作されていないこ
と以外は同一なCAR T細胞と比較して、CAR T細胞の抗腫瘍活性およびインビボ存続性が有
意に増加した。
【0111】
組成物
本発明は、細胞外および細胞内のドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)を含む。細
胞外ドメインは、別の言い方では抗原結合モイエティーとも称される標的特異的結合エレ
メントを含む。細胞内ドメイン、または別の言い方では細胞質ドメインは、共刺激シグナ
ル伝達領域およびζ鎖部分を含む。共刺激シグナル伝達領域とは、共刺激分子の細胞内ド
メインを含む、CARの一部分のことを指す。共刺激分子とは、抗原に対するリンパ球の効
率的な反応のために必要とされる、抗原受容体またはそのリガンド以外の細胞表面分子の
ことである。
【0112】
CARの細胞外ドメインと膜貫通ドメインとの間、またはCARの細胞質ドメインと膜貫通ド
メインとの間に、スペーサードメインを組み入れてもよい。本明細書で用いる場合、「ス
ペーサードメイン」という用語は、一般に、ポリペプチド鎖中の膜貫通ドメインを、細胞
外ドメインまたは細胞質ドメインのいずれかと連結させる働きをするオリゴペプチドまた
はポリペプチドのことを意味する。スペーサードメインは、最大で300アミノ酸、好まし
くは10~100アミノ酸、最も好ましくは25~50アミノ酸で構成されうる。
【0113】
抗原結合モイエティー
1つの態様において、本発明のCARは、別の言い方では抗原結合モイエティーとも称され
る標的特異的結合エレメントを含む。モイエティーの選択は、標的細胞の表面を規定する
リガンドの種類および数によって決まる。例えば、抗原結合ドメインを、特定の疾病状態
と関連する標的細胞上の細胞表面マーカーとして作用するリガンドを認識するように選択
することができる。このように、本発明のCARにおける抗原モイエティードメインとして
作用しうる細胞表面マーカーの例には、ウイルス感染、細菌感染症および寄生虫感染症、
自己免疫疾患ならびに癌細胞と関連するものが含まれる。
【0114】
1つの態様において、本発明のCARは、腫瘍細胞上の抗原と特異的に結合する所望の抗原
結合モイエティーを作製することによって、関心対象の腫瘍抗原を標的とするように操作
することができる。本発明に関連して、「腫瘍抗原」または「過剰増殖性(hyperporolif
erative)障害抗原」または「過剰増殖性障害と関連する抗原」とは、癌などの特定の過
剰増殖性障害に共通する抗原のことを指す。本明細書で考察する抗原は、単に一例として
含めているに過ぎない。リストは排他的であることを意図してはおらず、そのほかの例も
当業者には容易に明らかとなるであろう。
【0115】
腫瘍抗原とは、免疫応答、特にT細胞媒介性免疫応答を誘発する腫瘍細胞によって産生
されるタンパク質のことである。本発明の抗原結合モイエティーの選択は、治療される癌
の具体的な種類に依存すると考えられる。腫瘍抗原は当技術分野において周知であり、こ
れには例えば、神経膠腫関連抗原、癌胎児性抗原(CEA)、β-ヒト絨毛性ゴナドトロピン
、αフェトプロテイン(AFP)、レクチン反応性AFP、チログロブリン、RAGE-1、MN-CA IX
、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、RU1、RU2(AS)、腸カルボキシルエステラーゼ、mut hs
p70-2、M-CSF、プロスターゼ、前立腺特異的抗原(PSA)、PAP、NY-ESO-1、LAGE-1a、p53
、プロステイン、PSMA、Her2/neu、サバイビンおよびテロメラーゼ、前立腺癌腫瘍抗原-
1(PCTA-1)、MAGE、ELF2M、好中球エラスターゼ、エフリンB2、CD22、インスリン増殖因
子(IGF)-I、IGF-II、IGF-I受容体ならびにメソテリンが含まれる。
【0116】
1つの態様において、腫瘍抗原は、悪性腫瘍と関連する1つまたは複数の抗原性癌エピト
ープを含む。悪性腫瘍は、免疫攻撃のための標的抗原としての役を果たしうる数多くのタ
ンパク質を発現する。これらの分子には、黒色腫におけるMART-1、チロシナーゼおよびGP
100、ならびに前立腺癌における前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)および前立腺特異的
抗原(PSA)などの組織特異的抗原が非限定的に含まれる。他の標的分子には、腫瘍遺伝
子HER-2/Neu/ErbB-2などの形質転換関連分子の群に属するものがある。標的抗原のさら
にもう1つの群には、腫瘍胎児性抗原などの癌胎児性抗原(CEA)がある。B細胞リンパ腫
において、腫瘍特異的イディオタイプ免疫グロブリンは、個々の腫瘍に固有である、真に
腫瘍特異的である免疫グロブリン抗原で構成される。CD19、CD20およびCD37などのB細胞
分化抗原は、B細胞リンパ腫における標的抗原の別の候補である。これらの抗原のいくつ
か(CEA、HER-2、CD19、CD20、イディオタイプ)は、モノクローナル抗体を用いる受動免
疫療法の標的として用いられ、ある程度の成果を上げている。
【0117】
本発明において言及される腫瘍抗原の種類は、腫瘍特異的抗原(TSA)または腫瘍関連
抗原(TAA)であってもよい。TSAは腫瘍細胞に固有であり、体内の他の細胞上には存在し
ない。TAA関連抗原は腫瘍細胞に固有ではなく、抗原に対する免疫寛容の状態を誘導する
ことができない条件下で、正常細胞上でも発現される。腫瘍上での抗原の発現は、免疫系
が抗原に応答することを可能にする条件下で起こりうる。TAAは、免疫系が未熟であって
応答することができない胎児発生中に正常細胞上で発現される抗原であってよく、または
それらは、正常細胞上に極めて低いレベルで通常存在するが、腫瘍細胞上でははるかに高
いレベルで発現される抗原であってもよい。
【0118】
TSA抗原またはTAA抗原の非限定的な例には、以下のものが含まれる:MART-1/MelanA(
MART-1)、gp100(Pmel 17)、チロシナーゼ、TRP-1、TRP-2などの分化抗原、およびMAGE
-1、MAGE-3、BAGE、GAGE-1、GAGE-2、p15などの腫瘍特異的多系列抗原;過剰発現される
胎児抗原、例えばCEAなど;過剰発現される腫瘍遺伝子および突然変異した腫瘍抑制遺伝
子、例えばp53、Ras、HER-2/neuなど;染色体転座に起因する固有の腫瘍抗原;BCR-ABL
、E2A-PRL、H4-RET、IGH-IGK、MYL-RARなど;ならびに、ウイルス抗原、例えばエプスタ
イン・バーウイルス抗原EBVAならびにヒトパピローマウイルス(HPV)抗原E6およびE7な
ど。その他の大型のタンパク質ベースの抗原には、TSP-180、MAGE-4、MAGE-5、MAGE-6、R
AGE、NY-ESO、p185erbB2、p180erbB-3、c-met、nm-23H1、PSA、TAG-72、CA 19-9、CA 72-
4、CAM 17.1、NuMa、K-ras、β-カテニン、CDK4、Mum-1、p 15、p 16、43-9F、5T4、791T
gp72、α-フェトプロテイン、β-HCG、BCA225、BTAA、CA 125、CA 15-3\CA 27.29\BCAA
、CA 195、CA 242、CA-50、CAM43、CD68\P1、CO-029、FGF-5、G250、Ga733\EpCAM、HTg
p-175、M344、MA-50、MG7-Ag、MOV18、NB/70K、NY-CO-1、RCAS1、SDCCAG16、TA-90\Mac
-2結合タンパク質\シクロフィリンC関連タンパク質、TAAL6、TAG72、TLP、およびTPSが
含まれる。
【0119】
1つの好ましい態様において、CARの抗原結合モイエティー部分は、CD19、CD20、CD22、
ROR1、メソテリン、CD33/IL3Ra、c-Met、PSMA、糖脂質F77、EGFRvIII、GD-2、MY-ESO-1 T
CR、MAGE A3 TCRなどを非限定的に含む抗原を標的とする。
【0120】
標的にすることが望まれる抗原に応じて、本発明のCARを、所望の抗原標的に対して特
異的な適切な抗原結合モイエティーを含むように操作することができる。例えば、標的に
することが望まれる抗原がCD19であるならば、CD19に対する抗体を、本発明のCARに組み
入れるための抗原結合モイエティーとして用いることができる。
【0121】
1つの態様において、本発明のCARの抗原結合モイエティー部分は、CD19を標的とする。
好ましくは、本発明のCARにおける抗原結合モイエティー部分は抗CD19 scFVであり、ここ
で抗CD19 scFVの核酸配列はSEQ ID:14に示された配列を含む。1つの態様において、抗CD
19 scFVは、SEQ ID NO:20のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。もう1つの態様
において、本発明のCARの抗CD19 scFV部分は、SEQ ID NO:20に示されたアミノ酸配列を
含む。
【0122】
膜貫通ドメイン
膜貫通ドメインに関して、CARは、CARの細胞外ドメインと融合した膜貫通ドメインを含
むように設計することができる。1つの態様においては、CARの中のドメインの1つに天然
に付随する膜貫通ドメインを用いる。場合によっては、膜貫通ドメインを、受容体複合体
の他のメンバーとの相互作用を最小限に抑えるために、同じまたは異なる表面膜タンパク
質の膜貫通ドメインに対するそのようなドメインの結合を避けるように選択すること、ま
たはそのためのアミノ酸置換によって選択もしくは改変することもできる。
【0123】
膜貫通ドメインは、天然供給源または合成供給源のいずれに由来してもよい。供給源が
天然である場合には、ドメインは任意の膜結合タンパク質または膜貫通タンパク質に由来
しうる。本発明において特に有用性のある膜貫通領域は、T細胞受容体のα、βまたはζ
鎖、CD28、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、C
D86、CD134、CD137、CD154に由来しうる(すなわち、それらの少なくとも膜貫通領域を含
む)。または、膜貫通ドメインが合成性であってもよく、この場合には、それは主として
、ロイシンおよびバリンなどの疎水性残基を含むと考えられる。好ましくは、フェニルア
ラニン、トリプトファンおよびバリンのトリプレットが合成膜貫通ドメインの各末端に認
められるであろう。任意で、好ましくは長さが2~10アミノ酸である短いオリゴペプチド
またはポリペプチドのリンカーが、CARの膜貫通ドメインと細胞質シグナル伝達ドメイン
との間の連鎖を形成してもよい。グリシン-セリンのダブレットは特に適したリンカーと
なる。
【0124】
好ましくは、本発明のCARにおける膜貫通ドメインはCD8膜貫通ドメインである。1つの
態様において、CD8膜貫通ドメインは、SEQ ID NO:16の核酸配列を含む。1つの態様にお
いて、CD8膜貫通ドメインは、SEQ ID NO:22のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む
。もう1つの態様において、CD8膜貫通ドメインは、SEQ ID NO:22のアミノ酸配列を含む
。
【0125】
場合によっては、本発明のCARの膜貫通ドメインは、CD8αヒンジドメインを含む。1つ
の態様において、CD8ヒンジドメインは、SEQ ID NO:15の核酸配列を含む。1つの態様に
おいて、CD8ヒンジドメインは、SEQ ID NO:21のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含
む。もう1つの態様において、CD8ヒンジドメインはSEQ ID NO:21のアミノ酸配列を含む
。
【0126】
細胞質ドメイン
本発明のCARの細胞質ドメイン、または別の言い方では細胞内シグナル伝達ドメインは
、CARが入れられた免疫細胞の正常なエフェクター機能のうち少なくとも1つの活性化の原
因となる。「エフェクター機能」という用語は、細胞の特化した機能のことを指す。例え
ば、T細胞のエフェクター機能は、細胞溶解活性、またはサイトカインの分泌を含むヘル
パー活性であろう。したがって、「細胞内シグナル伝達ドメイン」という用語は、エフェ
クター機能シグナルを伝達して、細胞が特化した機能を遂行するように導く、タンパク質
の部分を指す。通常は細胞内シグナル伝達ドメインの全体を使用しうるが、多くの場合に
は、その鎖全体を用いることは必要でない。細胞内シグナル伝達ドメインの短縮部分(tr
uncated portion)が用いられる範囲内において、そのような短縮部分は、それがエフェ
クター機能シグナルを伝達する限り、無傷の鎖の代わりに用いることができる。細胞内シ
グナル伝達ドメインという用語は、それ故に、エフェクター機能シグナルを伝達するのに
十分な、細胞内シグナル伝達ドメインの任意の短縮部分を含むものとする。
【0127】
本発明のCARに用いるための細胞内シグナル伝達ドメインの好ましい例には、抗原と受
容体との係合後にシグナル伝達を惹起するように協調的に作用するT細胞受容体(TCR)お
よび補助受容体の細胞質配列、ならびに、同じ機能的能力を有する、これらの配列の任意
の誘導体または変異体および任意の合成配列が含まれる。
【0128】
TCRのみを通じて生成されるシグナルは、T細胞の完全な活性化のためには不十分である
こと、および二次シグナルまたは共刺激シグナルも必要とされることが公知である。この
ため、T細胞活性化は、2つの別個のクラスの細胞質シグナル伝達配列によって媒介される
と言うことができる:TCRを通じての抗原依存的な一次活性化を惹起するもの(一次細胞
質シグナル伝達配列)、および、抗原非依存的な様式で作用して二次シグナルまたは共刺
激シグナルをもたらすもの(二次細胞質シグナル伝達配列)。
【0129】
一次細胞質シグナル伝達配列は、刺激的な方式または阻害的な方式で、TCR複合体の一
次活性化を調節する。刺激的な様式で作用する一次細胞質シグナル伝達配列は、免疫受容
体活性化チロシンモチーフ(immunoreceptor tyrosine-based activation motif)すなわ
ちITAMとして知られるシグナル伝達モチーフを含有しうる。
【0130】
本発明において特に有用性のある、ITAMを含有する一次細胞質シグナル伝達配列の例に
は、TCRζ、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD5、CD22、CD79a、CD79b、およびCD6
6dに由来するものが含まれる。本発明のCARにおける細胞質シグナル伝達分子は、CD3ζに
由来する細胞質シグナル伝達配列を含むことが特に好ましい。
【0131】
1つの好ましい態様において、CARの細胞質ドメインは、CD3-ζシグナル伝達ドメインを
、それ自体で、または本発明のCARの文脈において有用な他の任意の所望の細胞質ドメイ
ンと組み合わせて含むように、設計することができる。例えば、CARの細胞質ドメインは
、CD3ζ鎖部分および共刺激シグナル伝達領域を含むことができる。共刺激シグナル伝達
領域とは、共刺激分子の細胞内ドメインを含む、CARの一部分のことを指す。共刺激分子
とは、抗原に対するリンパ球の効率的な反応のために必要とされる、抗原受容体またはそ
のリガンド以外の細胞表面分子のことである。そのような分子の例には、CD27、CD28、4-
1BB(CD137)、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2
、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、およびCD83と特異的に結合するリガンドなどが含まれる。
したがって、本発明は、主として4-1BBを共刺激シグナル伝達エレメントとして用いて例
示されるものの、他の共刺激エレメントも本発明の範囲内にある。
【0132】
本発明のCARの細胞質シグナル伝達部分の内部の細胞質シグナル伝達配列は、ランダム
な順序または指定された順序で互いに連結させることができる。任意で、好ましくは長さ
が2~10アミノ酸である短いオリゴペプチドまたはポリペプチドのリンカーが連鎖を形成
してもよい。グリシン-セリンのダブレットは特に適したリンカーとなる。
【0133】
1つの態様において、細胞質ドメインは、CD3-ζのシグナル伝達ドメインおよびCD28の
シグナル伝達ドメインを含むように設計される。もう1つの態様において、細胞質ドメイ
ンは、CD3-ζのシグナル伝達ドメインおよび4-1BBのシグナル伝達ドメインを含むように
設計される。さらにもう1つの態様において、細胞質ドメインは、CD3-ζのシグナル伝達
ドメインならびにCD28および4-1BBのシグナル伝達ドメインを含むように設計される。
【0134】
1つの態様において、本発明のCARにおける細胞質ドメインは、4-1BBのシグナル伝達ド
メインおよびCD3-ζのシグナル伝達ドメインを含むように設計され、ここで4-1BBのシグ
ナル伝達ドメインはSEQ ID NO:17に示された核酸配列を含み、CD3-ζのシグナル伝達ド
メインはSEQ ID NO:18に示された核酸配列を含む。
【0135】
1つの態様において、本発明のCARにおける細胞質ドメインは、4-1BBのシグナル伝達ド
メインおよびCD3-ζのシグナル伝達ドメインを含むように設計され、ここで4-1BBのシグ
ナル伝達ドメインはSEQ ID NO:23のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含み、CD3-ζ
のシグナル伝達ドメインはSEQ ID NO:24のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。
【0136】
1つの態様において、本発明のCARにおける細胞質ドメインは、4-1BBのシグナル伝達ド
メインおよびCD3-ζのシグナル伝達ドメインを含むように設計され、ここで4-1BBのシグ
ナル伝達ドメインはSEQ ID NO:23に示されたアミノ酸配列を含み、CD3-ζのシグナル伝
達ドメインはSEQ ID NO:24に示されたアミノ酸配列を含む。
【0137】
ベクター
本発明は、CARの配列を含むDNA構築物を範囲に含み、ここでその配列は、細胞内ドメイ
ンの核酸配列と機能的に連結された抗原結合モイエティーの核酸配列を含む。本発明のCA
Rにおいて用いうる例示的な細胞内ドメインには、CD3-ζ、CD28、4-1BBなどの細胞内ドメ
インが非限定的に含まれる。場合によっては、CARは、CD3-ζ、CD28、4-1BBなどの任意の
組み合わせを含みうる。
【0138】
1つの態様において、本発明のCARは、抗CD19 scFv、ヒトCD8のヒンジおよび膜貫通ドメ
イン、ならびにヒト4-1BBおよびCD3ζのシグナル伝達ドメインを含む。1つの態様におい
て、本発明のCARは、SEQ ID NO:8に示された核酸配列を含む。もう1つの態様において、
本発明のCARは、SEQ ID NO:12のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。もう1つの
態様において、本発明のCARは、SEQ ID NO:12に示されたアミノ酸配列を含む。
【0139】
所望の分子をコードする核酸配列は、当技術分野において公知の組換え方法、例えば、
標準的な手法を用いて、その遺伝子を発現する細胞からのライブラリーをスクリーニング
することによって、それを含むことが公知であるベクターから遺伝子を導き出すことによ
って、またはそれを含有する細胞および組織から直接的に単離することなどによって、入
手することができる。または、関心対象の遺伝子を、クローニングするのではなくて、合
成によって作製することもできる。
【0140】
本発明はまた、本発明のDNAが挿入されたベクターも提供する。レンチウイルスなどの
レトロウイルスに由来するベクターは、長期的遺伝子移入を達成するための適したツール
であるが、これはそれらが、導入遺伝子の長期的で安定的な組み込み、および娘細胞にお
けるその伝播を可能にするためである。レンチウイルスベクターは、マウス白血病ウイル
スなどのオンコレトロウイルスに由来するベクターを上回る利点を有するが、これはそれ
らが、肝細胞などの非増殖性細胞の形質導入も行うことができるためである。また、それ
らには免疫原性が低いという利点も加わっている。
【0141】
概要を述べると、CARをコードする天然性または合成性の核酸の発現は、典型的には、C
ARポリペプチドまたはその部分をコードする核酸をプロモーターと機能的に連結させて、
その構築物を発現ベクター中に組み入れることによって達成される。ベクターは、真核生
物における複製および組み込みのために適している。典型的なクローニングベクターは、
転写ターミネーターおよび翻訳ターミネーター、開始配列、ならびに所望の核酸配列の発
現の調節のために有用なプロモーターを含有する。
【0142】
また、本発明の発現構築物を、標準的な遺伝子送達プロトコールを用いる核酸免疫処置
および遺伝子治療のために用いることもできる。遺伝子送達のための方法は、当技術分野
において公知である。例えば、米国特許第5,399,346号、第5,580,859号、第5,589,466号
を参照されたく、これらはその全体が参照により本明細書に組み入れられる。もう1つの
態様において、本発明は、遺伝子療法ベクターを提供する。
【0143】
核酸は、さまざまな種類のベクター中にクローニングすることができる。例えば、核酸
を、プラスミド、ファージミド、ファージ誘導体、動物ウイルスおよびコスミドを非限定
的に含むベクター中にクローニングすることができる。特に関心が持たれるベクターには
、発現ベクター、複製ベクター、プローブ生成ベクターおよびシークエンシングベクター
が含まれる。
【0144】
さらに、発現ベクターを、ウイルスベクターの形態で細胞に与えることもできる。ウイ
ルスベクター技術は当技術分野において周知であり、例えば、Sambrookら(2001, Molecu
lar Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York)、な
らびにウイルス学および分子生物学の他のマニュアルに記載されている。ベクターとして
有用なウイルスには、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペス
ウイルスおよびレンチウイルスが非限定的に含まれる。一般に、適したベクターは、少な
くとも1つの生物において機能する複製起点、プロモーター配列、好都合な制限エンドヌ
クレアーゼ部位、および1つまたは複数の選択可能なマーカーを含有する(例えば、WO 01
/96584号;WO 01/29058号;および米国特許第6,326,193号を参照)。
【0145】
数多くのウイルスベースの系が、哺乳動物細胞への遺伝子移入のために開発されている
。例えば、レトロウイルスは、遺伝子送達系のための好都合なプラットフォームとなる。
当技術分野において公知の手法を用いて、選択された遺伝子をベクターに挿入し、レトロ
ウイルス粒子の中にパッケージングすることができる。続いて、組換えウイルスを単離し
て、対象の細胞にインビボまたはエクスビボで送達することができる。数多くのレトロウ
イルス系が当技術分野において公知である。いくつかの態様においては、アデノウイルス
ベクターを用いる。数多くのアデノウイルスベクターが当技術分野において公知である。
1つの態様においては、レンチウイルスベクターを用いる。
【0146】
そのほかのプロモーターエレメント、例えばエンハンサーなどは、転写開始の頻度を調
節する。典型的には、これらは開始部位の30~110bp上流の領域に位置するが、数多くの
プロモーターは、開始部位の下流にも機能的エレメントを含むことが最近示されている。
多くの場合、プロモーターエレメント間の間隔には柔軟性があり、そのため、エレメント
が互いに対して逆位になったり移動したりしてもプロモーター機能は保持される。チミジ
ンキナーゼ(tk)プロモーターでは、反応性の低下を起こすことなく、プロモーターエレ
メント間の間隔を50bpまで隔てることができる。プロモーターによっては、個々のエレメ
ントが協調的に、または独立して、転写を活性化しうるように思われる。
【0147】
適したプロモーターの一例は、サイトメガロウイルス(CMV)最初期プロモーター配列
である。このプロモーター配列は、それと機能的に連結した任意のポリヌクレオチド配列
の高レベルの発現を作動させることのできる、強力な構成性プロモーター配列である。適
したプロモーターのもう1つの例は、伸長成長因子-1α(Elongation Growth Factor-1α
)(EF-1α)である。しかし、シミアンウイルス40(SV40)初期プロモーター、マウス乳
腺腫瘍ウイルス(MMTV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)長末端反復配列(LTR)プロモー
ター、MoMuLVプロモーター、トリ白血病ウイルスプロモーター、エプスタイン・バーウイ
ルス最初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、ならびに、アクチンプロモ
ーター、ミオシンプロモーター、ヘモグロビンプロモーターおよびクレアチンキナーゼプ
ロモーターなどの、ただしこれらには限定されないヒト遺伝子プロモーターを非限定的に
含む、他の構成性プロモーター配列を用いることもできる。さらに、本発明は、構成性プ
ロモーターの使用に限定されるべきではない。誘導性プロモーターも本発明の一部として
想定している。誘導性プロモーターの使用により、それと機能的に連結しているポリヌク
レオチド配列の発現を、そのような発現が所望である場合には有効にし、発現が所望でな
い場合には発現を無効にすることができる、分子スイッチがもたらされる。誘導性プロモ
ーターの例には、メタロチオネイン(metallothionine)プロモーター、グルココルチコ
イドプロモーター、プロゲステロンプロモーターおよびテトラサイクリンプロモーターが
非限定的に含まれる。
【0148】
CARポリペプチドまたはその部分の発現を評価する目的で、ウイルスベクターによって
トランスフェクトまたは感染させようとする細胞の集団からの発現細胞の同定および選択
を容易にするために、細胞に導入される発現ベクターに、選択マーカー遺伝子もしくはレ
ポーター遺伝子またはその両方を含有させることもできる。他の局面において、選択マー
カーを別個のDHA小片上に保有させて、同時トランスフェクション手順に用いることもで
きる。宿主細胞における発現を可能にするために、選択マーカー遺伝子およびレポーター
遺伝子をいずれも、適切な調節配列に隣接させることができる。有用な選択マーカーには
、例えば、neoなどの抗生物質耐性遺伝子が含まれる。
【0149】
レポーター遺伝子は、トランスフェクトされた可能性のある細胞を同定するため、およ
び調節配列の機能性を評価するために用いられる。一般に、レポーター遺伝子とは、レシ
ピエント生物または組織に存在しないかまたはそれらによって発現されず、かつ、その発
現が何らかの容易に検出可能な特性、例えば、酵素活性によって顕在化するポリペプチド
をコードする、遺伝子のことである。レポーター遺伝子の発現は、そのDNAがレシピエン
ト細胞に導入された後の適した時点でアッセイされる。適したレポーター遺伝子には、ル
シフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラー
ゼ、分泌性アルカリホスファターゼをコードする遺伝子、または緑色蛍光性タンパク質の
遺伝子が含まれうる(例えば、Ui-Tei et al., 2000 FEBS Letters 479:79-82)。適した
発現系は周知であり、公知の手法を用いて調製すること、または販売されているものを入
手することができる。一般に、レポーター遺伝子の最も高レベルでの発現を示す最小限の
5'フランキング領域を有する構築物が、プロモーターとして同定される。そのようなプロ
モーター領域をレポーター遺伝子と連結させて、プロモーターにより作動する転写を作用
物質がモジュレートする能力を評価するために用いることができる。
【0150】
細胞に遺伝子を導入して発現させる方法は、当技術分野において公知である。発現ベク
ターに関連して、ベクターは、宿主細胞、例えば、哺乳動物細胞、細菌細胞、酵母細胞ま
たは昆虫細胞に、当技術分野における任意の方法によって容易に導入することができる。
例えば、発現ベクターを、当該技術分野のいずれの方法によっても、宿主細胞、例えば哺
乳動物細胞、細菌細胞、酵母細胞または昆虫細胞にベクターを容易に導入することができ
る。例えば、発現ベクターを、物理的、化学的または生物学的手段によって宿主細胞に導
入することができる。
【0151】
宿主細胞にポリヌクレオチドを導入するための物理的方法には、リン酸カルシウム沈殿
法、リポフェクション、微粒子銃法、マイクロインジェクション、エレクトロポレーショ
ンなどが含まれる。ベクターおよび/または外因性核酸を含む細胞を作製するための方法
は、当技術分野において周知である。例えば、Sambrookら(2001, Molecular Cloning: A
Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York)を参照されたい。宿
主細胞へのポリヌクレオチドの導入のために好ましい方法の1つは、リン酸カルシウムト
ランスフェクションである。
【0152】
関心対象のポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための生物学的方法には、DNAベク
ターおよびRNAベクターの使用が含まれる。ウイルスベクター、特にレトロウイルスベク
ターは、哺乳動物細胞、例えばヒト細胞に遺伝子を挿入するために最も広く使用される方
法となっている。他のウイルスベクターは、レンチウイルス、ポックスウイルス、単純ヘ
ルペスウイルスI型、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルスなどに由来しうる。例え
ば、米国特許第5,350,674号および第5,585,362号を参照されたい。
【0153】
ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための化学的手段には、コロイド分散系、例え
ば高分子複合体、ナノカプセル、マイクロスフェア、ビーズなど、ならびに、水中油型エ
マルション、ミセル、混合ミセルおよびリポソームを含む脂質ベースの系が含まれる。イ
ンビトロおよびインビボで送達媒体として用いるための例示的なコロイド系の1つは、リ
ポソーム(例えば、人工膜小胞)である。
【0154】
非ウイルス性送達系を利用する場合には、例示的な送達媒体の1つはリポソームである
。脂質製剤の使用を、宿主細胞への核酸の導入のために想定している(インビトロ、エク
スビボまたはインビボ)。もう1つの局面において、核酸を脂質と付随させてもよい。脂
質と付随した核酸をリポソームの水性内部の中に封入し、リポソームの脂質二重層の内部
に配置させ、リポソームおよびオリゴヌクレオチドの両方と付随する連結分子を介してリ
ポソームと連結させ、リポソーム内に封じ込め、リポソームと複合体化させ、脂質を含有
する溶液中に分散させ、脂質と混合し、脂質と配合し、脂質中に懸濁物として含有させ、
ミセル中に含有させるかもしくは複合体化させ、または他の様式で脂質と付随させること
ができる。脂質、脂質/DNAまたは脂質/発現ベクターが付随する組成物は、溶液中のい
かなる特定の構造にも限定されない。例えば、それらは二重層構造の中に、ミセルとして
、または「崩壊した」構造として存在しうる。それらはまた、溶液中に単に点在していて
、大きさも形状も均一でない凝集物を形成する可能性があってもよい。脂質とは、天然脂
質または合成脂質であってよい脂肪性物質のことである。例えば、脂質には、細胞質中に
天然に存在する脂肪小滴、ならびに長鎖脂肪族炭化水素およびそれらの誘導体を含む化合
物のクラス、例えば脂肪酸、アルコール、アミン、アミノアルコールおよびアルデヒドな
どが含まれる。
【0155】
使用に適した脂質は、販売元から入手することができる。例えば、ジミリスチルホスフ
ァチジルコリン(「DMPC」)はSigma, St. Louis, MOから入手することができ;ジアセチ
ルホスファート(「DCP」)はK & K Laboratories(Plainview, NY)から入手することが
でき;コレステロール(「Choi」)はCalbiochem-Behringから入手することができ;ジミ
リスチルホスファチジルグリセロール(「DMPG」)および他の脂質は、Avanti Polar Lip
ids, Inc.(Birmingham, AL)から入手することができる。クロロホルムまたはクロロホ
ルム/メタノール中にある脂質の貯蔵溶液は、約-20℃で保存することができる。クロロ
ホルムはメタノールよりも容易に蒸発するので、それを唯一の溶媒として用いることが好
ましい。「リポソーム」とは、閉じた脂質二重層または凝集物の生成によって形成される
、種々の単層および多重層の脂質媒体を包含する総称である。リポソームは、リン脂質二
重層膜による小胞構造および内部の水性媒質を有するものとして特徴づけることができる
。多重層リポソームは、水性媒質によって隔てられた複数の脂質層を有する。それらはリ
ン脂質を過剰量の水性溶液中に懸濁させると自発的に形成される。脂質成分は自己再配列
を起こし、その後に閉鎖構造の形成が起こり、水および溶解溶質を脂質二重層の間に封じ
込める(Ghosh et al., 1991 Glycobiology 5:505-10)。しかし、溶液中で通常の小胞構
造とは異なる構造を有する組成物も想定している。例えば、脂質がミセル構造をとっても
よく、または単に脂質分子の不均一な凝集物として存在してもよい。また、リポフェクタ
ミン-核酸複合体も想定している。
【0156】
宿主細胞における組換えDNA配列の存在を確かめる目的で、宿主細胞に外因性核酸を導
入するため、または他の様式で細胞を本発明の阻害因子に曝露させるために用いられる方
法にかかわらず、種々のアッセイを用いることができる。そのようなアッセイには、例え
ば、当業者に周知の「分子生物学的」アッセイ、例えば、サザンブロット法およびノーザ
ンブロット法、RT-PCRおよびPCRなど;「生化学的」アッセイ、例えば、免疫学的手段(E
LlSAおよびウエスタンブロット)または本発明の範囲内にある作用物質を同定するための
本明細書に記載のアッセイにによって、特定のペプチドの有無を検出すること、などが含
まれる。
【0157】
T細胞の供給源
本発明のT細胞の増大および遺伝子改変の前に、T細胞の供給源を対象から入手する。T
細胞は、末梢血単核細胞、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位由来の組織
、腹水、胸水、脾臓組織、および腫瘍を含む、数多くの供給源から入手することができる
。本発明のある態様において、当技術分野において入手可能な任意のさまざまなT細胞株
を用いることができる。本発明のある態様において、T細胞は、フィコール(商標)分離
などの、当業者に公知の任意のさまざまな手法を用いて対象から収集された血液ユニット
から得られる。1つの好ましい態様において、個体の流血由来の細胞はアフェレーシスに
よって入手される。アフェレーシス産物は、典型的には、T細胞、単球、顆粒球、B細胞を
含むリンパ球、他の有核白血球、赤血球、および血小板を含む。1つの態様においては、
アフェレーシスによって収集された細胞を、血漿画分を除去するために洗浄した上で、そ
の後の処理段階のために細胞を適切な緩衝液または培地中に配置することができる。本発
明の1つの態様においては、これらの細胞をリン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄する。1つの
代替的な態様において、洗浄溶液はカルシウムを含まず、かつ、マグネシウムを含まない
か、またはすべてではないものの多くの二価カチオンを含まない。この場合にも、驚くべ
きことに、カルシウム非存在下での最初の活性化段階により、活性化の増強がもたらされ
る。当業者は容易に理解するであろうが、洗浄段階は、半自動化された「フロースルー」
遠心分離機(例えば、Cobe 2991細胞プロセッサー、Baxter CytoMate、またはHaemonetic
s Cell Saver 5など)を製造元の指示に従って用いることなどによって、当技術分野にお
いて公知の方法によって実現することができる。洗浄の後に、細胞を、例えば、Ca2+非含
有、Mg2+非含有PBS、PlasmaLyte A、または緩衝剤を含むかもしくは含まない他の食塩液
といった、種々の生体適合性緩衝液中に再懸濁させることができる。または、アフェレー
シス試料の望ましくない成分を除去して、細胞を培養培地中に直接再懸濁させてもよい。
【0158】
もう1つの態様においては、赤血球を溶解させた上で、例えばPERCOLL(商標)勾配での
遠心分離によるか、または向流遠心分離溶出法によって単球を枯渇させることによって、
T細胞を末梢血リンパ球から単離する。CD3+、CD28+、CD4+、CD8+、CD45RA+、およびCD45R
O+T細胞といったT細胞の特定の部分集団を、陽性選択法または陰性選択法によってさらに
単離することができる。例えば、1つの好ましい態様において、T細胞は、DYNABEADS(登
録商標)M-450 CD3/CD28 Tなどの抗CD3/抗CD28(すなわち、3x28)結合ビーズとの、所
望のT細胞の陽性選択に十分な期間にわたるインキュベーションによって単離される。1つ
の態様において、この期間は約30分間である。1つのさらなる態様において、この期間は
、30分間~36時間またはそれ以上、およびそれらの間の全ての整数値の範囲にわたる。1
つのさらなる態様において、この期間は、少なくとも1時間、2時間、3時間、4時間、5時
間または6時間である。さらにもう1つの好ましい態様において、この期間は10~24時間で
ある。1つの好ましい態様において、インキュベーション期間は24時間である。白血病の
患者からのT細胞の単離のためには、24時間といった比較的長いインキュベーション時間
を用いることにより、細胞収量を増やすことができる。腫瘍組織または免疫機能低下個体
から腫瘍内浸潤リンパ球(TIL)を単離する際のように、他の細胞型と比較してT細胞がわ
ずかしか存在しないあらゆる状況で、T細胞を単離するために比較的長いインキュベーシ
ョン時間を用いることができる。さらに、比較的長いインキュベーション時間の使用によ
り、CD8+ T細胞の捕捉効率を高めることもできる。したがって、単にこの時間を短縮また
は延長することによって、T細胞はCD3/CD28ビーズへの結合が可能になるか、および/ま
たはビーズのT細胞に対する比を増加もしくは減少することにより(本明細書でさらに説
明するように)、T細胞の部分集団は、培養開始時もしくはこの過程の他の時点で、これ
についてもしくはこれに対して優先的に選択されうる。加えて、ビーズまたは他の表面上
の抗CD3および/または抗CD28抗体の比を増加または減少することにより、T細胞部分集団
は、培養開始時もしくは他の望ましい時点で、これについてまたはこれに対して優先的に
選択される。当業者は、本発明の状況において複数回の選択を使用することができること
を認めると思われる。ある態様においては、この選択手順を実行し、活性化および増大の
過程において「選択されない」細胞を使用することが望ましいことがある。「選択されな
い」細胞に、さらに選択を施すこともできる。
【0159】
陰性選択によるT細胞集団の濃縮は、陰性選択された細胞への独自の表面マーカーに対
する抗体の組合せにより実行することができる。1つの方法は、陰性選択された細胞上に
存在する細胞表面マーカーに対するモノクローナル抗体カクテルを使用する、負磁気免疫
接着またはフローサイトメトリーによる細胞ソーティングおよび/または選択である。例
えば、陰性選択によってCD4+細胞を濃縮するためのモノクローナル抗体カクテルは、典型
的には、CD14、CD20、CD11b、CD16、HLA-DR、およびCD8に対する抗体を含む。ある態様に
おいて、典型的にはCD4+、CD25+、CD62Lhi、GITR+、およびFoxP3+を発現する調節性T細胞
を濃縮するかまたは陽性選択することが望ましいことがある。または、ある態様において
は、抗C25結合ビーズまたは他の類似の選択方法によって、調節性T細胞を枯渇させる。
【0160】
陽性または陰性選択によって望ましい細胞集団を単離するために、細胞および表面(例
えば、ビーズなどの粒子)の濃度を変化させることができる。ある態様においては、細胞
とビーズの最大接触を確実にするために、ビーズおよび細胞が一緒に混合される容積の著
しい減少(すなわち、細胞の濃度の増加)が望ましいことがある。例えば、1つの態様に
おいては、細胞20億個/mlの濃度を用いる。1つの態様において、細胞10億個/mlの濃度
を用いる。さらなる態様においては、細胞10000万個/mlよりも高いものを用いる。さら
なる態様においては、1000万個/ml、1500万個/ml、2000万個/ml、2500万個/ml、3000
万個/ml、3500万個/ml、4000万個/ml、4500万個/mlまたは5000万個/mlの細胞濃度を
用いる。さらにもう1つの態様においては、7500万個/ml、8000万個/ml、8500万個/ml
、9000万個/ml、9500万個/ml、または10000万個/mlからの細胞濃度を用いる。さらな
る態様においては、12500万個/mlまたは15000万個/mlの濃度を用いることができる。高
濃度を用いることにより、増加した細胞収量、細胞活性化および細胞増大を生じることが
できる。さらに、高い細胞濃度の使用は、CD28陰性T細胞のような、または多くの腫瘍細
胞が存在する試料(すなわち、白血病血、腫瘍組織など)からの、関心のある標的抗原を
弱く発現する細胞の捕捉効率を高めることができる。そのような細胞集団は、治療的価値
があり、かつ得ることが望ましい。例えば、高い濃度の細胞の使用は、通常弱くCD28を発
現するCD8+ T細胞をより効率的に選択することを可能にする。
【0161】
1つの関連した態様においては、より低い濃度の細胞を用いることが望ましいことがあ
る。T細胞および表面(例えばビーズなどの粒子)の混合物の高度の希釈により、粒子と
細胞間の相互作用は最小化される。これにより、これらの粒子と結合する所望の抗原を大
量発現する細胞が選択される。例えば、CD4+ T細胞は、より高いレベルのCD28を発現し、
希釈した濃度でCD8+ T細胞よりもより効率的に捕捉される。1つの態様において、用いら
れる細胞濃度は、5×106個/mlである。もう1つの態様において、用いられる濃度は、約1
×105個/ml~1×106個/ml、およびその間の任意の整数であることができる。
【0162】
他の態様において、細胞を、回転器にて、さまざまな時間にわたって、さまざまな速度
で、2~10℃または室温のいずれかで、インキュベートすることもできる。
【0163】
また、刺激のためのT細胞を、洗浄段階の後に凍結することもできる。理論に拘束され
ることは望まないが、凍結段階およびそれに続く解凍段階は、細胞集団における顆粒球お
よびある程度の単球を除去することによって、より均一な製剤を提供する。血漿および血
小板を除去する洗浄段階の後に、これらの細胞を凍結液中に懸濁させてもよい。多くの凍
結液およびパラメーターが当技術分野において公知であり、かつこの状況において有用で
あるが、1つの方法は、20% DMSOおよび8%ヒト血清アルブミンを含有するPBS、または、
10%デキストラン40および5%デキストロース、20%ヒト血清アルブミンおよび7.5% DMS
O、または31.25% Plasmalyte-A、31.25%デキストロース5%、0.45% NaCl、10%デキス
トラン40および5%デキストロース、20%ヒト血清アルブミンおよび7.5% DMSO、または
例えばHespanおよびPlasmaLyte Aを含有する他の適した細胞凍結培地の使用を伴い、続い
てこれらの細胞は、1分間に1℃の速度で-80℃に凍結され、液体窒素貯蔵タンク内で気相
中に貯蔵される。その他の制御された凍結法に加え、即時-20℃または液体窒素中の制御
されない凍結を使用してもよい。
【0164】
ある態様においては、凍結保存細胞を本明細書に記載の通りに解凍および洗浄して、室
温で1時間静置した後に、本発明の方法を用いる活性化を行う。
【0165】
また、本発明に関連して、本明細書に記載されたような増大された細胞が必要となる前
の期間での、対象からの血液試料またはアフェレーシス産物の収集も想定している。その
ために、増大させようとする細胞の供給源を、必要な任意の時点で収集し、T細胞などの
所望の細胞を、本明細書に記載された説明されたもののような、T細胞療法による恩恵を
受けると考えられる任意のさまざまな疾患または病状に対するT細胞療法に後に用いるた
めに単離して凍結することができる。1つの態様においては、血液試料またはアフェレー
シス物を、全般的に健常な対象から採取する。ある態様においては、血液試料またはアフ
ェレーシス物を、疾患を発症するリスクがあるが、まだ疾患を発症していない全般的に健
常な対象から採取し、関心対象の細胞を、後に用いるために単離して凍結する。ある態様
においては、T細胞を増大させ、凍結して、後の時点で用いる。ある態様においては、本
明細書に記載されたような特定の疾患の診断後間もなく、しかしいかなる治療も行わない
うちに、患者から試料を収集する。1つのさらなる態様においては、細胞を、ナタリズマ
ブ、エファリズマブ、抗ウイルス薬、化学療法、放射線療法、例えばシクロスポリン、ア
ザチオプリン、メトトレキサート、ミコフェノレートおよびFK506などの免疫抑制剤、抗
体、または他の免疫除去薬、例えばCAMPATH、抗CD3抗体、サイトキサン、フルダラビン、
シクロスポリン、FK506、ラパマイシン、ミコフェノール酸、ステロイド、FR901228、お
よび照射などの作用因子による治療を非限定的に含む、任意のさまざまな妥当な治療様式
の前の対象由来の血液試料またはアフェレーシス物から単離する。これらの薬物は、カル
シウム依存性ホスファターゼカルシニューリンを阻害するか(シクロスポリンおよびFK50
6)、または増殖因子で誘導されるシグナル伝達にとって重要なp70S6キナーゼを阻害する
(ラパマイシン)(Liu et al., Cell, 66:807-815,1991;Henderson et al., Immun., 7
3:316-321,1991;Bierer et al., Curr. Opin. Immun., 5:763-773,1993)。1つのさらな
る態様においては、細胞を患者のために単離して、骨髄移植もしくは幹細胞移植、フルダ
ラビンなどの化学療法薬、外部ビーム照射療法(XRT)、シクロホスファミド、またはOKT
3もしくはCAMPATHなどの抗体のいずれかを用いるT細胞除去療法とともに(例えば、その
前、同時またはその後に)、後に用いるために凍結する。もう1つの態様においては、細
胞を事前に単離した上で、CD20と反応する薬剤、例えばリツキサンなどによるB細胞除去
療法後の治療のために後で用いるために凍結する。
【0166】
本発明の1つのさらなる態様においては、T細胞を、治療後に患者から直接入手する。こ
れに関して、ある種の癌治療、特に免疫系を障害を及ぼす薬物による治療の後には、患者
が通常であれば治療から回復中であると考えられる治療後間もない時点で、得られるT細
胞の品質が、それらがエクスビボで増大する能力の点で最適であるか改善されていること
が観察されている。同様に、本明細書に記載された方法を用いるエクスビボ操作の後にも
、これらの細胞は生着およびインビボ増大の増強のために好ましい状態にある可能性があ
る。したがって、本発明に関連して、この回復相の間に、T細胞、樹状細胞、または造血
系統の他の細胞を含む血液細胞を収集することを想定している。さらに、ある態様におい
ては、動員(例えば、GM-CSFによる動員)レジメンおよび条件付けレジメンを用いて、特
定の細胞型の再増殖、再循環、再生および/または増大にとって有利に働く状態を、特に
治療法の後のある規定された時間枠の間に、対象において作り出すことができる。例示的
な細胞型には、T細胞、B細胞、樹状細胞および免疫系の他の細胞が含まれる。
【0167】
T細胞の活性化および増大
所望のCARを発現させるためのT細胞の遺伝子改変の前または後のいずれかにおいて、一
般に、例えば、米国特許第6,352,694号;第6,534,055号;第6,905,680号;第6,692,964号
;第5,858,358号;第6,887,466号;第6,905,681 号;第7,144,575号;第7,067,318号;第
7,172,869号;第7,232,566号;第7,175,843号;第5,883,223号;第6,905,874号;第6,797
,514号;第6,867,041号;ならびに米国特許出願公開第20060121005号に記載された方法を
用いて、T細胞を活性化して増大させることができる。
【0168】
一般に、本発明のT細胞は、CD3/TCR複合体関連シグナルを刺激する作用物質、およびT
細胞の表面上の共刺激分子を刺激するリガンドが結びつけられた表面との接触によって増
大させられる。特に、T細胞集団は、本明細書に記載されたように、例えば、表面上に固
定化された抗CD3抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは抗CD2抗体との接触によっ
て、またはカルシウムイオノフォアを伴うプロテインキナーゼCアクチベーター(例えば
、ブリオスタチン)との接触などによって、刺激することができる。T細胞の表面上のア
クセサリー分子の同時刺激のためには、アクセサリー分子と結合するリガンドが用いられ
る。例えば、T細胞の集団を、T細胞の増殖を刺激するのに適した条件下で、抗CD3抗体お
よび抗CD28抗体と接触させることができる。CD4+ T細胞またはCD8+ T細胞のいずれかの増
殖を刺激するためには、抗CD3抗体および抗CD28抗体。抗CD28抗体の例には、9.3、B-T3、
XR-CD28(Diaclone, Besancon, France)が含まれ、当技術分野において一般に公知であ
る他の方法と同様に用いることができる(Berg et al., Transplant Proc. 30(8):3975-3
977, 1998;Haanen et al., J. Exp. Med. 190(9):13191328, 1999;Garland et al., J.
Immunol Meth. 227(1-2):53-63, 1999)。
【0169】
ある態様において、T細胞に対する一次刺激シグナルおよび共刺激シグナルは、さまざ
まなプロトコールによって与えることができる。例えば、各シグナルを与える作用物質は
、溶液中にあってもよく、または表面と結びつけてもよい。表面と結びつける場合、これ
らの作用物質を同じ表面に結びつけてもよく(すなわち、「シス」フォーメーション)、
または別々の表面に結びつけてもよい(すなわち、「トランス」フォーメーション)。ま
たは、一方の作用物質を溶液中の表面に結びつけ、もう一方の作用物質が溶液中にあって
もよい。1つの態様においては、共刺激シグナルを与える作用物質を細胞表面と結合させ
、一次活性化シグナルを与える作用物質は溶液中にあるか、または表面と結びつける。あ
る態様においては、両方の作用物質が溶液中にあってもよい。もう1つの態様において、
これらの物質は可溶形態にあり、続いて、Fc受容体を発現する細胞または抗体またはこれ
らの物質と結合する他の結合物質などの表面と架橋結合することができる。これに関して
は、例えば、本発明においてT細胞を活性化および増大させるために用いることを想定し
ている人工抗原提示細胞(aAPC)についての、米国特許出願公開第20040101519号および
第20060034810号を参照されたい。
【0170】
1つの態様においては、2種の作用物質を、同じビーズ上に、すなわち「シス」か、また
は別々のビーズ上に、すなわち「トランス」かのいずれかとして、ビーズ上に固定化する
。一例として、一次活性化シグナルを与える作用物質は抗CD3抗体またはその抗原結合フ
ラグメントであり、共刺激シグナルを与える作用物質は抗CD28抗体またはその抗原結合フ
ラグメントである;そして、両方の作用物質を等モル量で同じビーズに同時固定化する。
1つの態様においては、CD4+ T細胞の増大およびT細胞増殖のためにビーズと結合させる各
抗体を1:1の比で用いる。本発明のある局面においては、ビーズと結合させる抗CD3:CD2
8抗体の比として、1:1の比を用いて観察される増大と比較してT細胞増大の増加が観察さ
れるようなものを用いる。1つの特定の態様においては、1:1の比を用いて観察される増
大と比較して約1~約3倍の増加が観察される。1つの態様においては、ビーズと結合させ
るCD3:CD28抗体の比は、100:1~1:100、およびそれらの間のすべての整数の範囲にあ
る。本発明の1つの局面においては、抗CD3抗体よりも多くの抗CD28抗体が粒子と結合され
、すなわちCD3:CD28の比は1未満である。本発明のある態様において、ビーズと結合させ
る抗CD28抗体と抗CD3抗体との比は、2:1よりも大きい。1つの特定の態様においては、ビ
ーズと結合させる抗体に1:100のCD3:CD28比を用いる。もう1つの態様においては、ビー
ズと結合させる抗体に1:75のCD3:CD28比を用いる。さらなる態様においては、ビーズと
結合させる抗体に1:50のCD3:CD28比を用いる。もう1つの態様においては、ビーズと結
合させる抗体に1:30のCD3:CD28比を用いる。1つの好ましい態様においては、ビーズと
結合させる抗体に1:10のCD3:CD28比を用いる。もう1つの態様においては、ビーズと結
合させる抗体に1:3のCD3:CD28比を用いる。さらにもう1つの態様においては、ビーズと
結合させる抗体に3:1のCD3:CD28比を用いる。
【0171】
T細胞または他の細胞標的を刺激するには、粒子と細胞との比として1:500~500:1お
よびその間の任意の整数値を用いることができる。当業者が容易に理解するように、粒子
と細胞との比は、標的細胞に対する粒子サイズに依存しうる。例えば、小さいサイズのビ
ーズは2、3個の細胞と結合しうるに過ぎないが、一方、より大きいビーズは多くと結合し
うると考えられる。ある態様において、細胞と粒子との比は1:100~100:1およびその間
の任意の整数値の範囲にあり、さらなる態様において、この比は1:9~9:1およびその間
の任意の整数値を含み、これを同じくT細胞を刺激するために用いることができる。T細胞
の刺激をもたらす、抗CD3および抗CD28が結びついた粒子とT細胞との比は、上述したよう
にさまざまでありうるが、いくつかの好ましい値には、1:100、1:50、1:40、1:30、1
:20、1:10、1:9、1:8、1:7、1:6、1:5、1:4、1:3、1:2、1:1、2:1、3:1、4
:1、5:1、6:1、7:1、8:1、9:1、10:1および15:1が含まれ、1つの好ましい比は、
T細胞1個につき粒子が少なくとも1:1である。1つの態様においては、1:1またはそれ未
満である粒子と細胞との比を用いる。1つの特定の態様において、好ましい粒子:細胞比
は1:5である。さらなる態様において、粒子と細胞との比は、刺激の日に応じて変化しう
る。例えば、1つの態様において、粒子と細胞との比は第1日に1:1~10:1であり、その
後最長10日間にわたって毎日または1日おきに追加の粒子を細胞に添加して、最終的な比
が1:1~1:10となる(添加の日の細胞数に基づく)。1つの特定の態様において、粒子と
細胞との比は刺激の1日目に1:1であり、刺激の3日目および5日目に1:5に調節される。
もう1つの態様において、粒子は毎日または1日おきに添加され、最終的な比は1日目に1:
1であり、刺激の3日目および5日目には1:5である。もう1つの態様において、粒子と細胞
との比は刺激の1日目に2:1であり、刺激の3日目および5日目に1:10に調節される。もう
1つの態様において、粒子は毎日または1日おきに添加され、最終的な比は1日目に1:1で
あり、刺激の3日目および5日目には1:10である。当業者は、さまざまな他の比が、本発
明における使用に適することを理解するであろう。特に、比は粒子サイズならびに細胞の
サイズおよび型に応じて多様であると考えられる。
【0172】
本発明のさらなる態様においては、T細胞などの細胞を、作用物質でコーティングされ
たビーズと一緒にし、その後にビーズと細胞を分離した上で、続いて細胞を培養する。1
つの代替的な態様においては、培養の前に、作用物質でコーティングされたビーズと細胞
を分離せずに、一緒に培養する。1つのさらなる態様においては、ビーズおよび細胞を磁
力などの力の印加によってまず濃縮して、細胞表面マーカーの連結を増加させて、それに
より、細胞刺激を誘導する。
【0173】
例として、抗CD3および抗CD28が結びつけられた常磁性ビーズ(3x28ビーズ)をT細胞と
接触させることによって、細胞表面タンパク質を連結させることができる。1つの態様に
おいては、細胞(例えば、104~109個のT細胞)およびビーズ(例えば、DYNABEADS(登録
商標)M-450 CD3/CD28 T常磁性ビーズ、1:1の比)を、緩衝液中、好ましくはPBS(カル
シウムおよびマグネシウムなどの二価カチオンを含まない)中で一緒にする。この場合も
、当業者は、あらゆる細胞濃度を用いうることを容易に理解するであろう。例えば、標的
細胞が試料中に非常に稀であって、試料のわずかに0.01%を構成してもよく、または試料
の全体(すなわち、100%)が関心対象の標的細胞で構成されてもよい。したがって、あ
らゆる細胞数が本発明の状況の範囲に含まれる。ある態様においては、粒子と細胞を一緒
にして混合する容積を著しく減らして(すなわち、細胞の濃度を高めて)、細胞と粒子の
最大の接触を確実にすることが望ましいと考えられる。例えば、1つの態様においては、
細胞約20億個/mlの濃度を用いる。もう1つの態様においては、細胞10000万個/ml超を用
いる。1つのさらなる態様においては、1000万個、1500万個、2000万個、2500万個、3000
万個、3500万個、4000万個、4500万個、または5000万個/mlの細胞濃度を用いる。さらに
もう1つの態様においては、7500万個、8000万個、8500万個、9000万個、9500万個または1
0000万個/mlの細胞濃度を用いる。さらなる態様において、細胞12500または15000万個/
mlの濃度を用いることができる。高濃度を用いることにより、細胞収量、細胞活性化、お
よび細胞増大の増加がもたらされうる。さらに、高い細胞濃度を用いることにより、CD28
陰性T細胞のように関心対象の標的抗原を弱く発現する細胞のより効率的な捕捉が可能に
なる。ある態様においては、そのような細胞集団は治療的価値を有する可能性があり、入
手することが望ましいと考えられる。例えば、高濃度の細胞を用いることにより、通常は
比較的弱いCD28発現を有するCD8+ T細胞のより効率的な選択が可能にある。
【0174】
本発明の1つの態様においては、混合物を、数時間(約3時間)~約14日間、またはその
間の任意の整数値単位の時間にわたって培養しうる。もう1つの態様において、混合物を2
1日間培養しうる。本発明の1つの態様においては、ビーズとT細胞を約8日間一緒に培養す
る。もう1つの態様においては、ビーズとT細胞は2~3日間一緒に培養する。数回の刺激サ
イクルも望ましく、その結果、T細胞の培養時間は60日間またはそれより長くなる。T細胞
の培養に適した条件には、血清(例えばウシ胎仔血清またはヒト血清)、インターロイキ
ン-2(IL-2)、インスリン、IFN-γ、IL-4、IL-7、GM-CSF、IL-10、IL-12、IL-15、TGFβ
およびTNF-α、または当業者に公知である細胞増殖のための他の添加物を含む、増殖およ
び生存のために必要な因子を含みうる適切な培地(例えば、最小必須培地またはRPMI Med
ium 1640または、X-vivo 15(Lonza))が含まれる。細胞の増殖のための他の添加剤には
、界面活性剤、プラスマネート、および還元剤、例えばN-アセチル-システインおよび2-
メルカプトエタノールなどが非限定的に含まれる。培地には、アミノ酸、ピルビン酸ナト
リウムおよびビタミンが添加された、血清非含有であるか、またはT細胞の増殖および増
大のために十分な、適量の血清(または血漿)もしくは規定されたホルモンのセットおよ
び/もしくは一定量のサイトカインが加えられた、RPMI 1640、AIM-V、DMEM、MEM、α-ME
M、F-12、X-Vivo 15、およびX-Vivo 20が含まれうる。ペニシリンおよびストレプトマイ
シンなどの抗生物質は実験培養物のみに含められ、対象に輸注される細胞の培養物には含
められない。標的細胞は、増殖を支えるために必要な条件下、例えば適切な温度(例えば
、37℃)および雰囲気(例えば、空気+5% CO2)の下で維持される。
【0175】
多様な刺激時間にわたって曝露されたT細胞は、異なる特性を示しうる。例えば、典型
的な血液またはアフェレーシスを受けた末梢血単核細胞産物は、ヘルパーT細胞集団(TH
、CD4+)を、細胞傷害性またはサプレッサーT細胞集団(TC、CD8+)よりも多く有する。C
D3受容体およびCD28受容体を刺激することによるT細胞のエクスビボ増大では、約8~9日
目より前には主としてTH細胞からなるT細胞集団が生じるが、約8~9日目以後、T細胞の集
団はTC細胞の集団を次第に多く含むようになる。したがって、治療の目的によっては、主
としてTH細胞で構成されるT細胞集団を対象に輸注することが有利な場合がある。同様に
、TC細胞の抗原特異的サブセットが単離されている場合には、このサブセットをより高度
に増大させることが有益な場合がある。
【0176】
さらに、CD4およびCD8マーカーのほかに、他の表現型マーカーも、細胞増大の過程で顕
著に、しかし大部分は再現性を伴って変動する。このため、そのような再現性により、活
性化T細胞製剤を特定の目的に合わせて作ることが可能になる。
【0177】
治療適用
本発明は、レンチウイルスベクター(LV)によって形質導入された細胞(例えば、T細
胞)を範囲に含む。例えば、LVは、特異的抗体の抗原認識ドメインを、CD3-ζ、CD28、4-
1BBの細胞内ドメインまたはこれらの任意の組み合わせと組み合わせたCARをコードする。
このため、場合によっては、形質導入されたT細胞は、CARにより媒介されるT細胞応答を
誘発することができる。
【0178】
本発明は、一次T細胞の特異性を腫瘍抗原に向けて再誘導するためのCARの使用を提供す
る。したがって、本発明はまた、哺乳動物において標的細胞集団または組織に対するT細
胞媒介性免疫応答を刺激するための方法であって、CARを発現するT細胞を哺乳動物に投与
する段階を含み、該CARが、所定の標的と特異的に相互作用する結合モイエティー、例え
ばヒトCD3ζの細胞内ドメインを含むζ鎖部分、および共刺激シグナル伝達領域を含む、
方法を提供する。
【0179】
1つの態様において、本発明は、CARを発現するようにT細胞を遺伝子改変し、そのCAR T
細胞をそれを必要とするレシピエントに輸注する、一種の細胞療法を含む。輸注された細
胞は、レシピエントにおける腫瘍細胞を死滅させることができる。抗体療法とは異なり、
CAR T細胞はインビボで複製して、持続的腫瘍制御につながりうる長期存続性をもたらす
ことができる。
【0180】
1つの態様において、本発明のCAR T細胞は、頑強なインビボT細胞増大を起こすことが
でき、より延長した時間にわたって存続することができる。もう1つの態様において、本
発明のCAR T細胞は、あらゆる追加的な腫瘍形成または増殖を阻害するように再活性化さ
れうる、特異的なメモリーT細胞になることができる。例えば、本発明のCART19細胞が頑
強なインビボT細胞増大を起こして、血液および骨髄において延長した時間にわたって高
レベルに存続して、かつ特異的なメモリーT細胞を形成しうることは予想外であった。い
かなる特定の理論にも拘束されることは望まないが、CAR T細胞は、インビボでサロゲー
ト抗原を発現する標的細胞に遭遇するとセントラルメモリー様状態に分化することができ
、その後にそれを排除することができる。
【0181】
いかなる特定の理論にも拘束されることは望まないが、CAR改変T細胞によって誘発され
る抗腫瘍免疫応答は、能動的な免疫応答でも受動的な免疫応答でもありうる。加えて、CA
Rにより媒介される免疫応答は、CAR改変T細胞がCARにおける抗原結合モイエティーに対し
て特異的な免疫応答を誘導する養子免疫療法アプローチの一部となりうる。例えば、CART
19細胞は、CD19を発現する細胞に対して特異的な免疫応答を誘発する。
【0182】
本明細書に開示されたデータは、FMC63マウスモノクローナル抗体に由来する抗CD19 sc
Fv、ヒトCD8αのヒンジおよび膜貫通ドメイン、ならびにヒト4-1BBおよびCD3ζのシグナ
ル伝達ドメインを含むレンチウイルスベクターを具体的に開示しているが、本発明は、本
明細書中の別所に記載されたような構築物の構成要素のそれぞれに関してあらゆるさまざ
まな変形物を含むとみなされるべきである。すなわち、本発明は、抗原結合モイエティー
に対して特異的な、CARにより媒介されるT細胞応答を生じさせるための、CARにおける任
意の抗原結合モイエティーの使用を含む。例えば、本発明のCARにおける抗原結合モイエ
ティーは、癌の治療を目的として腫瘍抗原を標的とすることができる。
【0183】
治療しうる可能性のある癌には、血管が発達していないか、またはまだ実質的に血管が
発達していない腫瘍、ならびに血管が発達した腫瘍が含まれる。癌は非固形腫瘍(血液腫
瘍、例えば、白血病およびリンパ腫)を含んでもよく、または固形腫瘍を含んでもよい。
本発明のCARを用いて治療される癌の種類には、癌腫、芽細胞腫および肉腫、ある種の白
血病またはリンパ性悪性腫瘍、良性および悪性腫瘍、ならびに悪性腫瘍、例えば、肉腫、
癌腫および黒色腫が非限定的に含まれる。成人腫瘍/癌および小児腫瘍/癌も含められる
。
【0184】
血液悪性腫瘍は、血液または骨髄の癌である。血液(または造血器)悪性腫瘍の例には
、白血病、急性白血病(急性リンパ性白血病、急性骨髄急性白血病、急性骨髄性白血病、
ならびに骨髄芽球性、前骨髄球性、骨髄単球性、単球性の白血病および赤白血病など)、
慢性白血病(慢性骨髄球性(顆粒球性)白血病、慢性骨髄性白血病および慢性リンパ性白
血病など)、真性赤血球増加症、リンパ腫、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫(無症候型
およびハイグレード型)、多発性骨髄腫、ワルデンストローム・マクログロブリン血症、
重鎖病、骨髄異形成症候群、毛様細胞白血病および骨髄異形成が含まれる。
【0185】
固形腫瘍とは、通常は嚢胞も液体領域も含まない組織の異常腫瘤のことである。固形腫
瘍は良性のことも悪性のこともある。さまざまな種類の固形腫瘍が、それを形成する細胞
の種類によって名付けられている(肉腫、癌腫およびリンパ腫など)。肉腫および癌腫な
どの固形腫瘍の例には、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫および他の肉
腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、リンパ性悪性
腫瘍、膵癌、乳癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、肝細胞癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌
、汗腺癌、甲状腺髄様癌、甲状腺乳頭癌、褐色細胞種 皮脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、髄
様癌、気管支癌、腎細胞癌、肝癌、胆管癌、絨毛癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、精巣腫
瘍、セミノーマ、膀胱癌、黒色腫、ならびにCNS腫瘍(神経膠腫(脳幹神経膠腫および混
合神経膠腫など)、神経膠芽細胞腫(多形性神経膠芽細胞腫としても知られる)、星状細
胞腫、CNSリンパ腫、胚細胞腫、髄芽細胞腫、神経鞘腫、頭蓋咽頭腫、上衣細胞腫、松果
体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、乏突起細胞腫、髄膜腫(menangioma)、神経芽細胞腫、
網膜芽細胞腫および脳転移など)が含まれる。
【0186】
1つの態様において、本発明のCARのモイエティー部分と結合する抗原は、特定の癌を治
療するように設計される。例えば、CD19を標的とするように設計されたCARを、プレB ALL
(小児適応)、成人ALL、マントル細胞リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、同種
骨髄移植後サルベージなどを非限定的に含む癌および障害を治療するために用いることが
できる。
【0187】
もう1つの態様において、CARを、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫を治療するために、C
D22を標的とするように設計することができる。
【0188】
1つの態様において、CD19、CD20、CD22およびROR1を標的とするCARの組み合わせを用い
て治療しうる癌および障害には、プレB ALL(小児適応)、成人ALL、マントル細胞リンパ
腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、同種骨髄移植後サルベージなどが非限定的に含ま
れる。
【0189】
1つの態様において、CARを、中皮腫、膵癌、卵巣癌などを治療するために、メソテリン
を標的とするように設計することができる。
【0190】
1つの態様において、CARを、急性骨髄性白血病などを治療するために、標的CD33/IL3Ra
を標的とするように設計することができる。
【0191】
1つの態様において、CARを、トリプルネガティブ乳癌、非小細胞肺癌などを治療するた
めに、c-Metを標的とするように設計することができる。
【0192】
1つの態様において、CARを、前立腺癌などを治療するために、PSMAを標的とするように
設計することができる。
【0193】
1つの態様において、CARを、前立腺癌などを治療するために、糖脂質F77を標的とする
ように設計することができる。
【0194】
1つの態様において、CARを、神経膠芽細胞腫(gliobastoma)などを治療するために、E
GFRvIIIを標的とするように設計することができる。
【0195】
1つの態様において、CARを、神経芽細胞腫、黒色腫などを治療するために、GD-2を標的
とするように設計することができる。
【0196】
1つの態様において、CARを、骨髄腫、肉腫、黒色腫などを治療するために、NY-ESO-1 T
CRを標的とするように設計することができる。
【0197】
1つの態様において、CARを、骨髄腫、肉腫、黒色腫などを治療するために、MAGE A3 TC
Rを標的とするように設計することができる。
【0198】
しかし、本発明は、本明細書に開示された抗原標的および疾患のみに限定されるとみな
されるべきではない。より正確には、本発明は、疾患を治療するためにCARを用いうる疾
患と関連するあらゆる抗原標的を含むとみなされるべきである。
【0199】
本発明のCAR改変T細胞はまた、哺乳動物におけるエクスビボ免疫処置および/またはイ
ンビボ治療法のためのワクチンの一種としても役立つことができる。好ましくは、哺乳動
物はヒトである。
【0200】
エクスビボ免疫処置に関しては、細胞を哺乳動物に投与する前に、以下の少なくとも1
つをインビトロで行う:i)細胞の増大、ii)CARをコードする核酸を細胞に導入すること
、および/またはiii)細胞の凍結保存。
【0201】
エクスビボ手順は当技術分野において周知であり、以下でより詳細に考察する。手短に
述べると、細胞を哺乳動物(好ましくはヒト)から単離した上で、本明細書で開示された
CARを発現するベクターによって遺伝子改変する(すなわち、インビトロで形質導入また
はトランスフェクトを行う)。CAR改変細胞を哺乳動物レシピエントに投与することによ
り、治療的利益を得ることができる。哺乳動物レシピエントはヒトであってよく、CAR改
変細胞はレシピエントに対して自己であることができる。または、細胞がレシピエントに
対して同種、同系または異種であることもできる。
【0202】
造血幹細胞および始原細胞のエクスビボ増大のための手順は、参照により本明細書に組
み入れられる米国特許第5,199,942号に記載されており、これを本発明の細胞に適用する
ことができる。他の適した方法は当技術分野において公知であり、このため、本発明は、
エクスビボ細胞の増大のいかなる特定の方法にも限定されない。手短に述べると、T細胞
のエクスビボ培養および増大は以下を含む:(1)CD34+造血幹細胞および始原細胞を哺乳
動物から、末梢血採取物または骨髄エクスプラントから収集すること;ならびに(2)そ
のような細胞をエクスビボを増大させること。米国特許第5,199,942号に記載された細胞
増殖因子のほかに、flt3-L、IL-1、IL-3およびc-kitリガンドなどの他の因子を、細胞の
培養および増大のために用いることができる。
【0203】
エクスビボ免疫処置に関して細胞ベースのワクチンを用いることに加えて、本発明はま
た、患者における抗原に向けての免疫応答を誘発するためのインビボ免疫処置のための組
成物および方法も提供する。
【0204】
一般に、本明細書に記載の通りに活性化および増大された細胞は、免疫機能が低下した
個体において生じる疾患の治療および予防に利用することができる。特に、本発明のCAR
改変T細胞は、CCLの治療に用いられる。ある態様において、本発明の細胞は、CCLを発症
するリスクのある患者の治療に用いられる。したがって、本発明は、CCLの治療または予
防のための方法であって、それを必要とする対象に対して、本発明のCAR改変T細胞の治療
的有効量を投与する段階を含む方法を提供する。
【0205】
本発明のCAR改変T細胞は、単独で、または希釈剤および/またはIL-2もしくは他のサイ
トカインもしくは細胞集団などの他の成分と組み合わせた薬学的組成物として投与するこ
とができる。手短に述べると、本発明の薬学的組成物は、本明細書に記載の標的細胞集団
を、1つまたは複数の薬学的または生理的に許容される担体、希釈剤または添加剤と組み
合わせて含みうる。そのような組成物は、中性緩衝食塩水、リン酸緩衝食塩水などの緩衝
液;ブドウ糖、マンノース、ショ糖またはデキストラン、マンニトールのような炭水化物
;タンパク質;ポリペプチドまたはグリシンのようなアミノ酸;酸化防止剤;EDTAまたは
グルタチオンのようなキレート剤;アジュバント(例えば、水酸化アルミニウム);並び
に保存剤を含有してもよい。本発明の組成物は、静脈内投与用に製剤されることが好まし
い。
【0206】
本発明の薬学的組成物は、治療(または予防)される疾患に適した方法で投与すること
ができる。投与量および投与回数は、患者の状態、並びに患者の疾患の種類および重症度
などの因子により決定されるが、適量は臨床試験により決定され得る。
【0207】
「免疫学的有効量」、「抗腫瘍的有効量」、「腫瘍阻害的有効量」または「治療量」が
指示される場合、投与される本発明の組成物の正確な量は、年齢、体重、腫瘍サイズ、感
染症または転移の程度、および患者(対象)の状態の個体差を考慮して、医師が決定する
ことができる。一般に、本明細書に記載のT細胞を含む薬学的組成物は、細胞104~109個
/kg体重、好ましくは細胞105~106個/kg体重であって、これらの範囲内のすべての整数
値を含む投与量で投与することができる。また、T細胞組成物をこれらの用量で多回投与
することもできる。細胞は、免疫療法において一般的に公知である輸注手法を用いること
によって投与することができる(例えば、Rosenberg et al., New Eng. J. of Med. 319:
1676, 1988を参照)。特定の患者に関する最適な投与量および治療レジメンは、疾患の徴
候に関して患者をモニタリングして、それに応じて治療を調節することによって、医療の
当業者によって容易に決定されうる。
【0208】
ある態様においては、活性化されたT細胞を対象に投与し、続いてその後に血液を再び
採取して(またはアフェレーシスを行って)、それ由来のT細胞を本発明に従って活性化
した上で、これらの活性化および増大されたT細胞を患者に再び輸注することが望まれる
と考えられる。この過程を2、3週毎に複数回行うことができる。ある態様において、T細
胞は10cc~400ccの採取血から活性化させることができる。ある態様において、T細胞は20
cc、30cc、40cc、50cc、60cc、70cc、80cc、90ccまたは100ccの採取血から再活性化され
る。理論に拘束されるわけではないが、この複数回の採血/複数回の再輸注プロトコール
を用いることは、T細胞のある特定の集団を選別するために役立つ可能性がある。
【0209】
本組成物の投与は、エアゾール吸引、注射、経口摂取、輸液、植え付けまたは移植を含
む、任意の好都合な様式で実施することができる。本明細書に記載された組成物は、患者
に対して、皮下、皮内、腫瘍内、結節内、髄内、筋肉内、静脈内(i.v.)注射により、ま
たは腹腔内に投与することができる。1つの態様において、本発明のT細胞組成物は、患者
に対して、皮内注射または皮下注射によって投与される。もう1つの態様において、本発
明のT細胞組成物は、好ましくは静脈内注射によって投与される。T細胞の組成物を腫瘍内
、リンパ節内または感染部位に直接注射してもよい。
【0210】
本発明のある態様においては、本明細書に記載の方法、またはT細胞を治療的レベルま
で増大させることが当技術分野において公知である他の方法を用いて活性化および増大さ
れた細胞を、MS患者に対する抗ウイルス療法、シドホビルおよびインターロイキン-2、シ
タラビン(ARA-Cとしても公知)もしくはナタリズマブ治療、乾癬患者に対するエファリ
ズマブ治療、またはPML患者に対する他の治療などの薬剤による治療を非限定的に含む、
任意のさまざまな妥当な治療様式とともに(例えば、前に、同時に、または後に)患者に
投与する。さらなる態様において、本発明のT細胞を、化学療法、放射線照射、免疫抑制
剤、例えばシクロスポリン、アザチオプリン、メトトレキサート、ミコフェノレートおよ
びFK506など、抗体、またはCAMPATHなどの他の免疫除去薬、抗CD3抗体または他の抗体療
法、サイトキシン、フルダリビン、シクロスポリン、FK506、ラパマイシン、ミコフェノ
ール酸、ステロイド、FR901228、サイトカイン、および照射と組み合わせて用いてもよい
。これらの薬物は、カルシウム依存型ホスファターゼのカルシニューリンを阻害するか(
シクロスポリンおよびFK506)、または増殖因子が誘導したシグナル伝達に重要であるp70
S6キナーゼを阻害する(ラパマイシン)かのいずれかである(Liu et al., Cell, 66:807
-815, 1991;Henderson et al., Immun., 73:316-321, 1991;Bierer et al., Curr. Opi
n. Immun. 5:763-773, 1993)。1つのさらなる態様において、本発明の細胞組成物は、骨
髄移植、フルダラビンなどの化学療法薬、外部ビーム照射(XRT)、シクロホスファミド
、またはOKT3もしくはCAMPATHなどの抗体のいずれかを用いるT細胞除去療法と組み合わせ
て(例えば、その前、同時またはその後に)、患者に投与される。もう1つの態様におい
て、本発明の細胞組成物は、CD20と反応する薬剤、例えばリツキサンなどによるB細胞除
去療法の後に投与される。例えば、1つの態様において、対象は、高用量の化学療法薬に
続いて末梢血幹細胞移植を行う標準治療を受けることができる。ある態様においては、移
植後に、対象は本発明の増大された免疫細胞の輸注を受ける。1つの追加的な態様におい
て、増大された細胞は、手術の前または後に投与される。
【0211】
患者に投与される上記の治療の投与量は、治療される病状および治療のレシピエントの
正確な性質に応じて異なると考えられる。ヒトへの投与に関する投与量の増減は、当技術
分野において許容される実践に従って行うことができる。例えば、CAMPATHの用量は、一
般に成人患者について1~約100mgの範囲であり、通常は1~30日の期間にわたって毎日投
与される。好ましい一日量は1~10mg/日であるが、場合によっては、最大40mg/日までの
より多くの用量を用いることもできる(米国特許第6,120,766号に記載)。
【実施例0212】
実験例
ここで本発明を、以下の実験例を参照しながら説明する。これらの例は例示のみを目的
として提供されるものであり、本発明はこれらの例に限定されるとは全くみなされるべき
ではなく、本明細書で提供される教示の結果として明らかになる任意かつすべての変更も
範囲に含むとみなされるべきである。
【0213】
それ以上の説明がなくても、当業者は、前記の説明および以下の例示的な例を用いて、
本発明の化合物を作成して利用し、請求される方法を実施することができる。以下の実施
例は、このため、本発明の好ましい態様を具体的に指摘しており、本開示の残りを限定す
るものとは全くみなされるべきでない。
【0214】
実施例1:キメラ受容体を発現するT細胞は、進行した白血病の患者においてメモリー効果
および強力な抗腫瘍効果を成立させる
キメラ抗原受容体(CAR)を発現するように操作されたリンパ球について、過去の臨床
試験では極めてわずかなインビボ増大および抗腫瘍効果しか実証されていない。本明細書
で提示された結果は、CD137を含むCAR T細胞が、進行した慢性リンパ性白血病(CLL)を
有する、治療された患者3人中3人において、輸注後に交差耐性のない強力な臨床活性を有
することを実証している。操作されたT細胞はインビボで1000倍を上回って増大し、骨髄
に輸送されて、機能的CARを少なくとも6カ月にわたって高レベルで発現し続けた。平均し
て、輸注された各CAR+ T細胞は少なくとも1000個のCLL細胞を根絶させた。血液および骨
髄におけるCD19特異的な免疫応答が実証され、これは患者3人中2人における完全寛解を伴
った。細胞の一部分はメモリーCAR+ T細胞として存続したが、このことは、B細胞悪性腫
瘍の有効な治療のためのこのMHC非拘束的アプローチの潜在能力を指し示している。
【0215】
これらの実験に用いた材料および方法について以下に説明する。
【0216】
材料および方法
一般的な検査の説明
研究試料の処理、凍結および検査分析は、試料の受け取り、処理、凍結および分析のた
めの確立されたSOPおよび/またはプロトコールを用いて優良試験所基準(Good Laborato
ry Practice)の規範に則って運用されている、University of PennsylvaniaのTranslati
onal and Correlative Studies Laboratoryで行った。アッセイ成績およびデータ報告に
より、MIATA指針が裏づけられている(Janetzki et al., 2009, Immunity 31:527-528)
。
【0217】
プロトコールのデザイン
図1に図示したように臨床試験(NCT01029366)を実施した。少なくとも2回の前治療レ
ジメン後に持続性疾患を有し、かつ同種幹細胞移植には適格でなかったCD19陽性血液悪性
腫瘍の患者を、この試験に対して適格とした。腫瘍病期再判定後に、CART19製造のための
末梢血T細胞をアフェレーシスによって収集し、対象に対して、輸注の前の週に、
図10に
明記した通りの単回コースの化学療法を行った。CART19細胞を、
図10に表記した用量での
3日分割投与レジメン(10%、30%および60%)を用いる静脈内輸注によって投与し、可
能であれば、第10日に2回目の用量を投与した;2回目の輸注のために十分な細胞を有して
いたのは患者UPN 02のみであった。対象を毒性および奏効性に関して、頻回な間隔で少な
くとも6カ月間にわたって評価した。プロトコールは、US Food and Drug Administration
のRecombinant DNA Advisory Committee、およびUniversity of PennsylvaniaのInstitut
ional Review Boardによる承認を受けた。輸注の最初の日を試験第0日に設定した。
【0218】
対象:臨床的概要
臨床的概要を
図10に示し、詳細な病歴を本明細書中の他所に提示している。患者UPN 01
は、55歳の時にステージIIのB細胞CLLと初めて診断された。この患者は無症候性であり、
進行性リンパ球増加症、血小板減少症、リンパ節肥大および脾腫に対する治療法が必要と
なるまで、およそ1~1/2年間の観察を受けた。この時間の経過の間に、患者は数系統の
前治療を受けた。最も直近の治療法は、CART19細胞輸注の2カ月前の2サイクルのペントス
タチン、シクロホスファミドおよびリツキシマブであったが、奏効性は極めてわずかであ
った。この患者は続いて、CART-19細胞輸注の前にリンパ除去化学療法として1サイクルの
ベンダムスチンを投与された。
【0219】
患者UPN 02は、疲労および白血球増加症を呈した68歳の時に初めてCLLと診断された。
この患者は4年間にわたって比較的安定していたが、その時点で患者は、治療を要する進
行性白血球増加症(195,000/μl)、貧血および血小板減少症を発症した。核型分析によ
り、CLL細胞に染色体17pの欠失があることが示された。疾患進行のために患者はアレムツ
ズマブによる治療を受けて部分的奏効が得られたが、1年半以内に患者は進行性疾患とな
った。患者を再びアレムツズマブで18週間治療したところ、部分的奏効および1年間の無
増悪期間が得られた。患者は続いて2サイクルのベンダムスチンおよびリツキシマブを投
与されたが、有意な奏効性はみられなかった(
図5A)。患者はCART-19細胞輸注の前に、
リンパ除去化学療法としてベンダムスチン単剤を投与された。
【0220】
患者UPN 03は、50歳の時に無症候性のステージI CLLを呈し、それから数年間の経過観
察を受けた。患者は治療を必要とする進行性白血球増加症(白血球数92,000/μl)およ
び進行性リンパ節肥大を起こした。患者は2サイクルのリツキシマブおよびフルダラビン
を投与され、その結果、血球数の正常化および有意な改善がもたらされたが、リンパ節肥
大の完全な解消には至らなかった。患者はおよそ3年間の無増悪期間を得た。核型検査に
より、細胞が染色体17pの欠失を含むことが示され、FISHにより、細胞200個のうち170個
でTP53欠失が実証された。それから数年を経るうちに、患者は進行性白血球増加症および
リンパ節肥大のために3系統の異なる治療法(
図10)を必要とし、最後にアレムツズマブ
を投与され、CART19細胞輸注の6カ月前に部分的奏効が得られた。患者はCART-19細胞輸注
の前に、リンパ除去化学療法としてペントスタチンおよびシクロホスファミドを投与され
た。
【0221】
ベクターの作製
記載の通りに(Milone et al., 2009, Mol Ther. 17:1453-1464)、CD19-BB-z導入遺伝
子(GeMCRIS 0607-793)を設計して構築した。レンチウイルスベクターは、記載の通りに
(Zufferey et al., 1997, Nature biotechnol 15:871-875)、Lentigen Corporationに
おいて、3プラスミド作製アプローチを用いる優良製造規範に従って作製された。
【0222】
CART19細胞製剤の調製
抗CD3および抗CD28モノクローナル抗体でコーティングした常磁性ポリスチレンビーズ
を用いるT細胞調製の方法は記載されている(Laport et al., 2003, Blood 102:2004-201
3)。レンチウイルス形質導入は記載の通りに行った (Levine et al., 2006, Proc Natl
Acad Sci U S A 103:17372-17377)。
【0223】
腫瘍総量の算出のための方法
ベースラインでのCLL総量を、
図10に示したように推定した。骨髄、血液および二次リ
ンパ組織におけるCLL細胞の量を、下記の通りに算出した。
【0224】
骨髄:健常成人において、骨髄は全体重のおよそ5%に相当する(Woodard et al., 196
0, Phys Med Biol, 5:57-59;Bigler et al., 1976, Health Phys 31:213-218)。腸骨稜
試料における骨髄では、不活性(脂肪)骨髄のパーセンテージが年齢とともに高くなり、
5歳時の全骨髄の20%から35歳までに約50%となり、その時から65歳までは安定に保たれ
るが、その後は75歳までに不活性骨髄が約67%に増加する(Hartsock et al., 1965, Am
J Clin Path 43:326-331)。活性(赤色)骨髄および不活性(脂肪)骨髄の骨内総重量に
関する国際基準値は、35歳の男性では現在それぞれ1170gおよび2480gに設定されている(
Basic anatomical and physiological data for use in radiological protection:The S
keleton in Annals of the ICRP, Vol. 25 (ed. Smith, H.) 58-68 (A report of a Task
Group of Committee 2 of the International Commission on Radiological Protection
, Oxford, 1995))。35~65歳の成人男性では骨髄は体重全体の5.0%に相当し、1.6%が
活性(赤色)骨髄、3.4%が不活性(脂肪)骨髄で構成される(Basic anatomical and ph
ysiological data for use in radiological protection:The Skeleton in Annals of th
e ICRP, Vol. 25 (ed, Smith, H.) 58-68 (A report of a Task Group of Committee 2 o
f the International Commission on Radiological Protection, Oxford, 1995))。骨髄
生検標本および吸引液標本に基づき、表1に示したように、ベースラインでの患者3人のCL
L細胞の重量を算出した。続いて、総CLL骨髄量のこれらの推定値を、1Kg=細胞10
12個を
用いて骨髄内の総CLL細胞数に換算し、その結果得られた数を
図10に示した。これらの算
出は、CLLが骨髄内で均一な分布を有するという仮定に基づく。患者UPN 01については、
ベンダムスチン化学療法の前に入手した骨髄生検試料、ならびにベンダムスチン後および
CART19輸注の前に入手した吸引液についての算出値を示している。第-1日吸引液に関する
数字は、第-14日生検標本と比較して精度が低いが、これは第-1日吸引液の技術的限界に
起因する。患者UPN 02では、CLLによる骨髄の完全な置き換えを示す単一の治療前生検標
本が得られた。この患者ではCART19後の第30日に変化のない標本が得られた。患者UPN 03
に関する骨髄での総量は、化学療法後およびCART19生検前に基づいて算出した。
【0225】
【0226】
血液:CART19輸注前の血液中にかなりのCLL腫瘍総量を有したのは患者UPN 02のみであ
った。フローサイトメトリーにより、細胞は、薄い表面κ拘束CD5+ CD10- CD19+ CD20(
薄い)+ CD23(可変)+ IgM-B細胞集団を伴うクローン集団としての典型的な表現型を示
した。CLL細胞のおよそ35%はCD38を共発現した。CLL負荷量は3サイクルのベンダムスチ
ン化学療法を行っても消失せず、CART19輸注の時点も存在していた。CART19輸注の時点で
、血中CLL数は55,000個/μLであった。血液量を5.0Lと仮定した上で、患者UPN 02は第0
日に、血中に2.75×1011個のCLL細胞を有していた。患者UPN 01および03における総WBC数
が正常であったことを考慮して、これらの患者における流血中疾患負荷量は計算しなかっ
たが、このことは全身負荷量の幾分過小な推定値をもたらしたと考えられる。
【0227】
二次リンパ組織:リンパ節症および脾腫の体積を、横断CTスキャンにて、FDAにより認
可されたソフトウエアを用いて定量した。体積は胸部、腹部および骨盤のみについてであ
る。T1椎体から総大腿動脈の分岐レベルまでの腫瘤を全患者で測定し、一部の患者では鼠
径部における節も含めた。頭/頸部および四肢における節は分析から除外し、ベースライ
ンのCLL標的細胞数からも除外したが、これは同じく全身負荷量の幾分過小な推定値につ
ながったと考えられる。患者UPN 01および03は、6カ月を超えて持続的な完全寛解を有し
、このため、式(ベースライン体積 - 3カ月目の体積)を、腫瘍総量のベースラインから
の減少を決定するために用いた;患者UPN 02はリンパ節肥大に関して疾患安定であり、こ
のため、ベースライン腫瘍量は、年齢を一致させた健常男性による脾臓体積基準値を差し
引くことによって推定した(Harris et al., 2010, Eur J Radiol 75:e97-e101)。ベー
スライン腫瘍量を、細胞密度アプローチ(1Kg/L密度、および1Kg=細胞10
12個)または
体積アプローチ(CLL細胞は直径10μMであり、球状と仮定すると600fLである)を用いてC
LL細胞に換算し、両方の値を
図10に提示している。入手可能なCTスキャンから算出した、
患者3人における二次リンパ組織中の腫瘍体積は、以下の表2に示されている。
【0228】
【0229】
患者UPN 01に関するベースラインのCTスキャンを、2サイクルのペントスタチン/シク
ロホスファミド/リツキシマブの8日後に行ったところ、以前のCTスキャンと比較して、
この化学療法レジメンに対する奏効は全く示されなかった。この患者はCART19の前に1サ
イクルのベンダムスチンを受けており、それ故に、UPN 01について第-37日から第+31日ま
での腫瘍体積の変化がベンダムスチンならびにCART19の寄与による可能性を否定できない
。同様に、UPN 03に関する腫瘍体積の変化は、1サイクルのペンタスタチン/シクロホス
ファミドおよびCART19の併用効果を反映している。
【0230】
患者における有効なインビボE:T比を推定するための方法
輸注したCAR T細胞と、死滅した腫瘍細胞の数とのE:T比を、CAR T細胞注射の時点で存
在した腫瘍細胞の数、および注入したCAR T細胞の数を用いて算出した(Carpenito et al
., 2009, Proc Natl Acad Sci U S A 106:3360-3365)。本発明に関しては、
図10に示し
たCART19+ T細胞の数を用いたが、これは、インビボに存在するCART19+ T細胞の絶対数を
十分な精度または正確さで決定することができないためである。血液および骨髄における
CART19増大に関して入手可能であったデータは、
図2および
図6に描写されているように頑
強である。しかし、二次リンパ組織などの他の部位へのCART19の輸送について決定するこ
とは不可能であり、このため、腫瘍の最大縮小時点でインビボで達成されたCART19細胞の
総数についてはかなり不確実さがある。有効なE:T比の算出には、表3からの算出値を用
いた。
【0231】
(表3)インビボで達成されたCART19 E:T比の算出値
【0232】
1=密度・体積法の平均
2=患者UPN02は骨髄で反応がみられず、脾臓およびリンパ節においてCTによって測定した
腫瘍量についてリンパ節肥大の部分的縮小がみられた(細胞3.1E+11個)。血中での反応
については
図5Aを参照。
【0233】
試料の処理および凍結
ラベンダートップ(K2EDTA)またはレッドトップ(添加物なし)のバキュテナーチュー
ブ(Becton Dickinson)内に試料(末梢血、骨髄)を収集し、採取から2時間以内にTCSL
に搬送した。確立された検査SOPに従って、試料は受け取って30分以内に処理した。末梢
血および骨髄の単核細胞を、Ficoll-Paque(GE Health care, 17-1440-03)を用いるFico
ll密度勾配遠心分離によって精製し、4%ヒト血清アルブミン(Gemini Bio-Products, 80
0-120)、2%ヘタスターチ(Novaplus, NDC0409-7248-49)および10% DMSO(Sigma, D26
50)を加えたRPMI(Gibco 11875-135)中で、5100 Cryo 1゜凍結容器を用いて凍結した;
-80℃で24~72時間おいた後、長期貯蔵のために細胞を液体窒素中に移した。アフェレー
シス試料は、Hospital of the University of Pennsylvania Blood Bankを通じて入手し
、Ficoll勾配精製によってCVPF中で処理した上で、上記のように凍結した。解凍直後の生
存度は、評価時点で85%を上回った。血清単離のためには、試料を室温で1.5~2時間凝固
させ;遠心分離によって血清を単離して、単回使用のための100μlアリコートを-80℃で
凍結した。
【0234】
細胞株
K562(CML、CD19陰性)はATCC(CCL-243)から入手した。Carmine Carpenito氏から寄
贈いただいたK562/CD19は、CD19分子を発現するように100%の頻度でレンチウイルスに
より形質導入されたK562である。CD19陽性の非T、非B ALL前駆B細胞株であり(Hurwitz e
t al., 1979, Int J Cancer 23:174-180)、CD19抗原を発現することが確かめられたNALM
-6は、Laurence Cooper氏から寄贈いただいた。上記の細胞株は、10%ウシ胎仔血清(Hyc
lone)および1% Pen-Strep(Gibco, 15140-122)を加えたR10培地(RPMI 1640(Gibco,
11875)中で維持した。健常ドナー由来の末梢単核細胞(ND365)は、University of Penn
sylvaniaのHuman Immunology Coreからアフェレーシスによって入手し、処理して、上記
のように凍結した。
【0235】
DNAの単離およびQ-PCR分析
ラベンダートップ(K3EDTA)のBDバキュテナーチューブ(Becton Dickinson)内に全血
または骨髄試料を収集した。QIAamp DNA blood midiキット(Qiagen)および確立された
検査SOPを用いて全血からゲノムDNAを直接単離し、分光光度計によって定量した上で、-8
0℃で貯蔵した。ゲノムDNA試料に対するQ-PCR分析は、123~200ngのゲノムDNA/時点、AB
I Taqman技術、および組み込まれたCD19 CAR導入遺伝子配列を検出するための検証済みの
アッセイを用いて一括して行った。標準曲線勾配およびr
2値、参照基準試料(1000コピー
/プラスミドスパイク)を正確に定量する能力、ならびに健常ドナーDNA試料における増
幅がみられないことを含む、合格/不合格のパラメーター範囲を、認定試験および事前に
設定した許容範囲を用いて算出した。CD19 CAR導入遺伝子用のプライマー/プローブは、
記載の通りとした(Milone et al., 2009, Mol Ther 17:1453-1464)。コピー数/単位DN
Aを決定するために、100ngの非形質導入対照ゲノムDNAにスパイクした10
6-5コピーのレン
チウイルスプラスミドからなる8点標準曲線を作成した。各データポイント(試料、標準
曲線、参照基準試料)を3件ずつ評価して、平均値を報告した。患者UPN 01の場合、報告
された値はすべて、3件中3件の反復試料における正のCt値から導き出され、% CVは0.46
%未満であった。患者UPN 02の場合は、第+177日の試料(3件中2件の反復試料が正、% C
V高値)を除き、報告された値はすべて、3件中3件の反復試料において正のCt値から導き
出され、% CVは0.72%未満であった。患者UPN 03の場合は、第+1日の試料(3件中2件の
反復試料が正、0.8% CV)および第+3日の試料(3件中2件の反復試料が陽性、0.67% CV
)を除き、報告された値はすべて、3件中3件の反復試料において正のCt値から導き出され
、% CVは1.56%未満であった。アッセイに関する定量下限(LLOQ)を標準曲線から求め
たところ、2コピー/μg DNA(10コピー/200ngの投入DNA)であった;LLOQよりも少ない
平均値(すなわち、定量不能と報告)は概算値とみなされる。調べるDNAの品質を管理す
るための並行した増幅反応は、12~20ngの投入ゲノムDNA、CDKN1A遺伝子(GENEBANK:Z85
996)の上流の非転写ゲノム配列に対して特異的なプライマー/プローブの組み合わせ(
センスプライマー:
、アンチセンスプライマー:
、プローブ:
、および対照ゲノムDNAの希釈によって作成した8点標準曲線を用いて行った;これらの増
幅反応により、相関係数(CF)(検出ng/投入ng)が得られた。導入遺伝子のコピー数/
μg DNAは、以下の式に従って算出した:CD19標準曲線から算出されたコピー数/投入DNA
(ng)×CF×1000ng。このアッセイの精度は、輸注した細胞製剤の表示値を、以下の式に
従ったQ-PCRによって定量する能力によって判定した:平均表示値=検出されたコピー数
/投入DNA×6.3pg DNA/male体細胞×CFと、CAR特異的検出試薬を用いるフローサイトメ
トリー導入遺伝子の陽性度の対比。これらの盲検判定により、UPN 01輸注製剤については
22.68%の表示値(フローサイトメトリーによれば22.6%)、UPN 02輸注製剤については3
2.33%の表示値(フローサイトメトリーによれば23%)、およびUPN 03輸注製剤について
は4.3%の表示値(フローサイトメトリーによれば4.7%の表示)が得られた。
【0236】
サイトカイン分析
可溶性サイトカイン因子の定量は、Luminexビーズアレイ技術およびLife technologies
(Invitrogen)から購入したキットを用いて行った。アッセイは製造元のプロトコールに
従って行い、3倍希釈系列を用いて8点標準曲線を作成した。それぞれの標準点および試料
について、1:3希釈で2件ずつ評価した;2件ずつの測定に関する算出% CVは15%未満で
あった。データはBioplex 200で取得し、Bioplex Managerバージョン5.0ソフトウエアに
より、5パラメーターのロジスティック回帰分析を用いて分析した。標準曲線の定量範囲
を80~120%(観測値/期待値)の範囲で決定した。個々の分析物の定量範囲は、図の説
明文中に報告されている。
【0237】
CARの機能を検出するための細胞アッセイ
解凍およびTCM中での一晩の静置の後に、標的細胞に対する反応としてのCD107脱顆粒を
測定することによって細胞を機能性に関して評価した。脱顆粒アッセイは、48ウェルプレ
ート中の最終容積500μl中で1×106個のPBMCおよび0.25×106個の標的細胞を用いて、本
質的には記載された通りに(Berts et al., 2003, J Immunol Methods 281:6578)、CD49
d(Becton Dickinson)、抗CD28、モメンシン(e-Bioscience)およびCD107a-FITC抗体(
eBiosciences)の存在下において37℃で2時間かけて行った。
【0238】
抗体試薬
以下の抗体を、これらの試験のために用いた:Alexa647結合マウス抗CD19 CAR抗体であ
るMDA-CARは、Bipulendu Jena博士およびLaurence Cooper博士(MD Anderson Cancer Cen
ter)から寄贈いただいた。多パラメーター免疫表現型検査用および機能的アッセイ用:
抗CD3-A700、抗CD8-PE-Cy7、抗PD-1-FITC 抗CD25-AF488、抗CD28-PercP-Cy5.5、抗CD57-e
F450、抗CD27-APC-eF780、抗CD17-APC-eF780、抗CD45RA-eF605NC、CD107a-FITC(すべてe
-Bioscienceによる)、抗CD4-PE-テキサスレッドおよびLive/Dead Aqua(Life Technolo
giesによる)、ならびに抗CD14-V500、抗CD16-V500(Becton Dickinsonによる)。一般的
な免疫表現型判定のためのもの:CD3-PE、CD14-APC、CD14-PE-Cy7、CD16-FITC、CD16PE-C
y7、CD19-PE-Cy7、CD20-PE、すべてBecton Dickinsonによる。
【0239】
多パラメーターフローサイトメトリー
Ficoll-Paque処理後に新鮮なままで、または凍結した場合には一晩静置した後で、細胞
を、5%ヒトAB血清(GemCall, 100-512)、1% Hepes(Gibco, 15630-080)、1% Pen-St
rep(Gibco, 15140-122)、1% Glutamax(Gibco, 35050-061)および0.2% N-アセチル
システイン(American Regent, NDC0517-7610-03)を加えたT細胞培地(TCM)(X-vivo 1
5(Lonza, 04-418Q)中にて2×106個/mlの密度で、フローサイトメトリーによって評価
した。多パラメーター免疫表現型検査を、FMO着色料を本文に記載された通りに用いて、
合計4×106個の細胞/条件に対して行った。製造元によって推奨される抗体および試薬の
濃度を用いて、細胞を1×106個/100μl PBSの密度で氷上にて30分間染色し、洗浄し、0.
5%パラホルムアルデヒド中に再懸濁させた上で、上記の抗体の組み合わせの検出用およ
び分離用の青色(488nm) 紫色(405nm)、緑色(532)および赤色(633nm)レーザーな
らびに適切なフィルターセットを装着した改変LSRII(BD Immunocytometry systems)を
用いて取得した。各着色料について、最低限100,000個のCD3+細胞を取得した。機能的ア
ッセイのためには、細胞を洗浄し、表面マーカーに関して染色して、0.5%パラホルムア
ルデヒド中に再懸濁させた上で、上記のように取得した;各染色条件について最低限50,0
00件のCD3+イベントを収集した。補正値は個々の抗体着色料およびBD補正ビーズ(Becton
Dickinson)を用いて確定し、かつ装置によって自動的に算出および適用された。データ
はFlowJoソフトウエア(バージョン8.8.4、Treestar)。一般的な免疫表現型検査のため
には、青色(488)および赤色(633nm)レーザーを装着したAccuri C6細胞計算器を用い
て細胞を取得した。補正値は個々の抗体着色料およびBD補正ビーズ(Becton Dickinson)
を用いて確定し、手作業で算出した。データはC-Flowソフトウエア分析パッケージ(バー
ジョン1.0.264.9、Accuri細胞計算器)を用いて分析した。
【0240】
患者の既往歴および治療法に対する反応
臨床治療の概要を
図10に示している。患者UPN 01は最初、55歳の時にステージIIのB細
胞CLLと診断された。この患者は無症候性であり、進行性リンパ球増加症、血小板減少症
、リンパ節肥大および脾腫に対する治療法が必要となるまで、およそ1~1/2年の観察を
受けた。4サイクルのフルダラビンの後に、この患者の血球数は完全に正常化し、CTスキ
ャンによれば完全奏効が得られた。進行は5カ月以内に認められ、無症候性リンパ球増加
症、血小板減少症、およびリンパ節肥大の増大が見られた。患者はおよそ3年間にわたっ
て症状を伴わずに観察されたが、その後、進行性リンパ球増加症、貧血、および血小板減
少症に対して、リツキシマブおよびフルダラビンによる治療が必要となった。患者は4サ
イクルのリツキシマブおよびフルダラビンによる治療を受け、血球数の部分的改善が得ら
れた。この患者では1年以内に再び、白血球増加症(WBC数150,000/μl)および血小板減
少症(血小板数30,000/μl)として顕在化した、治療法を必要とする進行が起こり、ア
レムツズマブによる治療を受けて、血球数は正常化した。進行は13カ月以内に認められた
。患者はそこでリツキシマブ単剤の投与を受けたが、有意な奏効はみられず、続いてリツ
キシマブ、シクロホスファミド、ビンクリスチンおよびプレドニゾン(R-CVP)の投与を2
サイクル受けたものの、極めてわずかな奏効しかみられず、続いてレナリドミドの投与を
受けた。レナリドミドは毒性のために中止された。患者は2サイクルのペントスタチン、
シクロホスファミドおよびリツキシマブを投与されたが、奏効は極めてわずかであった。
【0241】
その後、この患者は、CART19細胞輸注の4日前に、リンパ除去化学療法として1サイクル
のベンダムスチンを投与された。治療法の前の時点で、WBC 14,200/μl、ヘモグロビン1
1.4gm/dl、血小板数78,000/μlであり、ALCは8000/μlであった。CTスキャンによって
びまん性リンパ節肥大が示され、骨髄にはCLLが広範に浸潤していた(細胞の67%)。患
者は1.6×107個のCART-19/kgを投与された(FACSによる評価では合計1.13×109個のCART
19細胞)。輸注毒性はみられなかった。ベンダムスチン投与からおよそ10日後およびCART
19細胞輸注から6日後に患者は好中球減少性になり、初回CART19輸注の10日後から、患者
は発熱、硬直および一過性低血圧を起こした。同時に、胸部X線およびCTスキャンによっ
て左上葉の肺炎が判明し、抗生物質によって治療された。発熱はおよそ2週間持続し、好
中球が回復した時点で解消した。患者はそれ以上は感染症状も体質症状も起こさなかった
。
【0242】
図5に描写されているように、この患者では急速かつ完全な奏効が達成された。輸注か
ら1カ月後~6カ月後の間に、体内の流血中CLL細胞はフローサイトメトリーによって検出
されなかった。形態学的検査およびフローサイトメトリー検査により、CART-19細胞輸注
から1カ月後、3カ月後および6カ月後の骨髄で、リンパ性浸潤物の持続的欠如が示されて
いる。輸注から1カ月後および3カ月後のCTスキャンにより、異常リンパ節肥大の完全消散
が示されている。この患者は持続性の白血球減少症(WBC 1000~3900/μl)および血小
板減少症(血小板数ほぼ100,000/μl)、ならびに軽度の低ガンマグロブリン血症(IgG
525mg/dL、正常値650~2000mg/dL)を有しているが、感染性合併症はない。
【0243】
患者UPN 02は、77歳の時点でCART19細胞による治療を受けた。この患者は冠動脈疾患の
関連病歴があり、疲労および白血球増加症を呈した68歳の時、2000年に初めてCLLと診断
された。患者は4年間比較的安定していたが、その時点で患者は、治療を要する進行性白
血球増加症(195,000個/μl)、貧血および血小板減少症を発症した。その時の遺伝子検
査により、CLL細胞に染色体17pの欠失があることが示された。疾患進行のために、患者は
アレムツズマブによる12週間のコースによる治療を受け、部分的奏効および血球数の改善
が得られた。1年半以内に、患者は進行性白血球増加症、貧血、血小板減少症および脾腫
を生じた。核型分析により、染色体17pの欠失が確かめられたが、この時は染色体13qの欠
失も認められた。患者を再びアレムツズマブで18週間治療したところ、白血球増加症の改
善、ならびに貧血および脾腫の安定化が得られた。患者は1年以内に、進行性白血球増加
症、貧血および血小板減少症の所見を示した。治療には2サイクルのベンダムスチンおよ
びリツキシマブが含められ、その結果、
図5Aに示されているように、疾患の安定がもたら
されたが、有意な改善はみられなかった。
【0244】
この患者は、CART-19細胞輸注の前に、リンパ除去化学療法としてベンダムスチン単剤
の投与を受けた。患者は4.3×106個のCART19細胞/kg(合計4.1×108個)の輸注を3回に
分けて受けたが、102゜という高い一過性発熱が24時間にわたって併発した。初回輸注後
の第11日に、患者は4.1×108個(4.3×106個/kg)のCART19細胞の追加投与を受け、この
輸注には発熱、硬直、および低酸素症を伴わない息切れが併発し、24時間の入院が必要と
なった。心虚血の所見は認められず、症状は解消した。CART-19初回輸注後の第15日およ
びCART19細胞追加輸注後の第4日に、患者は高熱(最高104°F)、悪寒および硬直のため
に入院した。血液および尿培養およびCXRによる広範な検査を行ったものの、感染源を同
定することはできなかった。患者は息切れを訴えたが、低酸素症はみられなかった。心エ
コー図検査により、重度の運動低下が示された。駆出率は20%であった。患者はプレドニ
ゾン1mg/kgを1日間、0.3mg/kgをおよそ1週間投与された。これにより、発熱および心機
能不全の急速な消失がもたらされた。
【0245】
図5Aに描写されているように、高熱の発生に一致して、この患者では末梢血からのリン
パ球の急速な減少がみられた。患者の白血球数は正常化したものの、患者は持続性の流血
中CLL、安定した中程度の貧血および血小板減少症を有した。骨髄では、高度の末梢血細
胞除去を行ったにもかかわらず、治療の1カ月後にCLLの持続性広範浸潤が示され、CTスキ
ャンからはリンパ節肥大および脾腫の部分的縮小が示された。CART19細胞輸注から5カ月
後に、患者は進行性リンパ球増加症を発症した。輸注から9カ月後に、この患者はリンパ
球増加症(16,500/μl)を、安定した中程度の貧血および血小板減少症、および安定し
たリンパ節肥大とともに呈した。患者は依然として無症候性であり、それ以上の治療法は
受けなかった。
【0246】
患者UPN 03は50歳の時に無症候性のステージI CLLと診断され、6年間にわたって経過観
察を受けた。その後、患者は、治療を必要とする進行性白血球増加症(白血球数92,000/
μl)および進行性リンパ節肥大を生じた。患者は2サイクルのリツキシマブおよびフルダ
ラビンを投与され、その結果、血球数の正常化、および、リンパ節肥大の完全消散ではな
いものの有意な改善がもたらされた。この患者ではおよそ3年間の無増悪期間が得られた
が、その後の6カ月で、治療を必要とする急速進行性白血球増加症(WBC 165,000/μl)
および進行性リンパ節肥大が起こった。患者が1サイクルのフルダラビン、ならびに3サイ
クルのリツキシマブおよびフルダラビンの投与を受けたところ、血球数の正常化、および
触知しうるリンパ節肥大の消散が得られた。患者はおよそ20カ月間の無増悪期間を得たが
、その後、患者は再び、急速進行性白血球増加症およびリンパ節肥大を発症した。この時
点で骨髄はCLLによって広範に浸潤されており、核型検査によって細胞が染色体17pの欠失
を含むことが示され、FISHにより、細胞200個のうち170個でTP53欠失が実証された。患者
は1サイクルのリツキシマブおよびベンダムスチン、その後に4サイクルのベンダムスチン
単独(リツキシマブに対する重度のアレルギー反応のため)の投与を受けた。患者は初期
には血球数が正常化したが、治療法を中止すると間もなく、進行性白血球増加症およびリ
ンパ節肥大が起こった。
【0247】
患者UPN3から自己T細胞をアフェレーシスによって収集し、凍結保存した。この患者を
続いて、アレムツズマブによって11週間治療したところ、優れた血液学的奏効が得られた
。リンパ節肥大は改善したものの、完全消散には至らなかった。この患者ではその後6カ
月にわたって活動性ではあるが安定した疾患がみられた。その後に患者は、CART19細胞輸
注の前に、リンパ除去化学療法としてペントスタチンおよびシクロホスファミドを投与さ
れた。
【0248】
化学療法の3日後であるが細胞輸注の前の時点で、骨髄は過形成性(60%)であり、CLL
の関与がおよそ40%であった。表3および(Bonyhadi et al., 2005, J Immunol 174:2366
-2375)に描写されているように、CLL患者からのアフェレーシス収集物に伴う製造上の限
界が理由で、患者には、1.46×105個のCART19+細胞/kg(合計1.42×107個のCART19+細胞
)を3日間にわたって輸注した。輸注毒性はみられなかった。初回輸注から14日後に、患
者は悪寒、102°Fもの高い発熱、硬直、悪心および下痢を起こすようになり、対症治療を
受けた。患者は呼吸器症状も心症状も起こさなかった。輸注後の第22日までに、LDHおよ
び尿酸の上昇によって顕在化した腫瘍溶解症候群が診断され、腎不全も併発した。患者は
入院し、補液蘇生およびラスブリカーゼによる治療を受けたところ、尿酸値および腎機能
は急速に正常化した。CXR、血液、尿および便培養による詳細な臨床評価を行ったが、い
ずれも陰性または正常であった。
【0249】
形態学的検査、フローサイトメトリー、細胞遺伝学検査およびFISH分析によれば、CART
-19輸注から1カ月以内に患者の流血中CLLは血液および骨髄から消失しており、CTスキャ
ンからは異常リンパ節肥大の消散が示された(
図5C)。患者の寛解は、CART19細胞の初回
輸注から8カ月を過ぎても持続していた。
【0250】
実験の結果を以下に記す。
【0251】
臨床プロトコール
図1に描写されているように、進行した化学療法抵抗性CLLの患者3人をパイロット臨床
試験に組み入れた。
図10に示されているように、患者は全員、さまざまな化学療法および
生物学的レジメンによる広範な前治療を受けた。患者のうち2人はp53欠損性CLLを有して
おり、この欠失は従来の治療法に対する奏効不良および急速な進行を予測させる(Dohner
et al., 1995, Blood, 851580-1589)。患者はそれぞれ、予備化学療法の後に多くの腫
瘍総量を有しており、これには広範な骨髄浸潤(40~95%)およびリンパ節症が含まれた
;患者UPN 02はまた、顕著な末梢リンパ球増加症も有していた。CART19 T細胞は
図1Bに描
写したように調製され、各患者についての細胞製造および製剤の特性決定の詳細は表4に
示されている。患者は全員、CART19 T細胞輸注の1~4日前に、リンパ除去化学療法による
前治療を受けた。
図1Aに描写したような4-1BB共刺激シグナル伝達ドメインを組み入れたC
ARの予備試験という理由から、分割投与細胞輸注計画を用いた。
【0252】
(表4)アフェレーシス産物およびCART19製剤のリリース基準
【0253】
1=2回目の用量
2=第12日時点でLOQを下回り、かつ、ベクター世代によるプラスミドDNAの持ち越しと整
合するように以前の増大時よりも減少しているアッセイ値。情報補正としてFDAに提出。
3=FACSによる表面染色に基づく製剤リリース
4=外部DSMCおよびIRBにより、リリース基準に対して許諾された治療上の例外
【0254】
CART19のインビボ増大および存続性ならびに骨髄への輸送
CD3/CD28ビーズを用いて増大された、4-1BBシグナル伝達ドメインを発現するCAR+ T細
胞は、4-1BBを持たないCARよりも改良されていると考えられる。血液および骨髄における
CART19細胞の定量的追跡を可能にするQ-PCRアッセイを開発した。
図2Aおよび2Cに描写さ
れているように、患者は全員、血液中のCART19細胞の増大および存続性を少なくとも6カ
月にわたって有していた。注目されることとして、患者UPN 01およびUPN 03では、輸注後
の最初の1カ月の間に、血液中のCAR+ T細胞の1,000~10,000倍への増大が生じた。ピーク
増大レベルは、患者UPN 01(第15日)および患者UPN 03(第23日)における輸注後臨床症
状の発生と一致した。その上、患者3人全員で、一次速度論を用いてモデル化しうる初期
減衰の後、輸注後の第90日から第180日までにCART19 T細胞レベルは安定化した。重要な
こととして、すべての患者で、CART19 T細胞は骨髄にも輸送されたが、
図2D~2Fに描写さ
れているように、血液中で観察されたレベルよりも5分の1~10分の1という低いレベルで
あった。患者UPN 01および03では、骨髄において対数線形減衰がみられ、消失T1/2はほぼ
35日であった。
【0255】
CART19輸注後の血液区画および骨髄区画における特異的免疫応答の誘導
図3に描写されているように、すべての患者から血清試料を収集して、サイトカインレ
ベルを定量的に決定するためにバッチ分析を行い、CART19細胞の毒性を評価するため、お
よびその機能に関する所見を得るために、一群のサイトカイン、ケモカインおよび他の可
溶性因子を評価した。試験した30種の分析物のうち11種はベースラインから3倍またはそ
れ以上の変化を生じ、これには4種のサイトカイン(IL-6、1NF-γ、IL-8およびIL-10)、
5種のケモカイン(MIP-1α、MIP-1β、MCP-1、CXCL9、CXCL10)ならびにIL-1RαおよびIL
-2Rαに対する可溶性受容体が含まれた。これらのうち、インターフェロン-γはベースラ
インからの相対的変化が最も大きかった。興味深いことに、UPN 01およびUPN 03における
サイトカイン上昇のピーク時間は、各患者における前述した臨床症状および血液中のCART
19細胞のピークレベルと時間的に相関した。患者UPN 02では中程度の変化しか認められな
かったが、これはおそらくこの患者に与えられたコルチコステロイド治療の結果と考えら
れる。4-1BBシグナル伝達ドメインを有するCAR+ T細胞を開発することの前臨床段階での
根拠の1つは、CD28シグナル伝達ドメインと比較してIL-2分泌を誘発する性向が弱いこと
であったとはいえ、患者の血清中での可溶性IL-2の上昇は検出されなかった(Milone et
al., 2009, Mol Ther. 17:1453-1464)。CAR+ T細胞が、かなりの量のIL-2を分泌するCAR
によって、または輸注後の外因性IL-2の供与によって誘発されうると考えられる細胞であ
る調節性T細胞によって抑制される可能性が以前の研究(Lee et al., 2011, Cancer Res
71:2871-2881)で示されていることからみて、これは持続的な臨床活性と関係している可
能性がある。さらに、
図3Dに描写されているように、UPN 03の骨髄吸引液からの上清でサ
イトカイン分泌の頑強な誘導が観察され、これは腫瘍溶解症候群の発症および完全寛解と
も一致した。
【0256】
血液中でのメモリーCART19細胞の集団の長期的発現および樹立
CARにより媒介される癌免疫療法における核心的な課題は、最適化された細胞製造およ
び共刺激ドメインが、遺伝子改変されたT細胞の存続性を増強するか否か、および患者に
おけるCAR+メモリーT細胞の樹立を可能にするか否かである。以前の研究では、輸注後のT
細胞上のCARの頑強な増大、長期にわたる存続性および/または発現は実証されていない
(Kershaw et al., 2006, Clin Cancer Res 12:6106-6115;Lamers et al., 2006, J Cli
n Oncol 24:e20-e22;Till et al., 2008, Blood, 112, 2261-2271;Savoldo et al., 20
11, J Clin Invest doi:10.1172/JC146110)。輸注から169日後の血液および骨髄の両方
からの試料のフローサイトメトリー分析により、UPN 03(
図4Aおよび4B)におけるCAR19
を発現する細胞の存在、および
図4Aに描写されているようにB細胞の欠如が明らかになっ
た。注目されることとして、
図2および
図6に描写されているように、Q-PCRアッセイによ
れば、患者3人の全員が4カ月およびそれ以後の時点で存続CAR+細胞を有する。フローサイ
トメトリーによるCAR+細胞のインビボ頻度は、CART19導入遺伝子に関するPCRアッセイか
ら得られた値とよく一致した。重要なこととして、
図4Aに描写されているように、患者UP
N 03では、CD16陽性サブセットまたはCD14陽性サブセットでCAR19+細胞が検出不能であっ
たため、CD3+細胞のみがCAR19を発現した。
図7に描写されているように、患者UPN 01の血
液中では輸注後の第71日にもCAR発現がT細胞の4.2%の表面上で検出された。
【0257】
次に、多染性フローサイトメトリーを用いることにより、抗CARイディオタイプ抗体(M
DA-647)および
図8に示されたゲーティング戦略を用いて、UPN 03におけるCART19細胞の
発現、表現型および機能をさらに特徴づけるための詳細な試験を行った。CAR19発現に基
づき、CD8+細胞およびCD4+細胞の両方においてメモリーおよび活性化のマーカーの発現に
著しい差が観察された。
図4Cに描写されているように、第56日の時点で、CART19 CD8+細
胞は、抗原への長期的および頑強な曝露に整合するように、主としてエフェクターメモリ
ー表現型(CCR7-CD27-CD28-)を提示した。対照的に、CAR陰性CD8+細胞はエフェクター細
胞およびセントラルメモリー細胞の混合物からなり、細胞のあるサブセットはCCR7発現を
伴い、CD27+/CD28-およびCD27+/CD28+画分にかなりの数があった。CART19細胞集団およ
びCAR陰性細胞集団は両方ともCD57をかなり発現したものの、CART19細胞ではこの分子はP
D-1とともに均一に共発現され、このことはこれらの細胞の高度な複製履歴を反映してい
る可能性がある。CAR陰性細胞集団とは対照的に、CART19 CD8+集団はすべて、CD25および
CD127の両方の発現を欠いていた。第169日までに、CAR陰性細胞集団の表現型は第56日の
試料に類似したままであったが、CART19集団は、とりわけCCR7の発現、より高レベルのCD
27およびCD28といったセントラルメモリー細胞の特徴を有する少数集団、ならびにPD-1陰
性、CD57陰性かつCD127陽性であるCAR+細胞を含むようになった。
【0258】
CD4+区画では、
図4Bに描写されているように、第56日の時点で、CART19細胞は、CCR7を
一様に欠くこと、ならびにCD57+区画およびCD57-区画の両方に分布するCD27+/CD28+/PD
-1+細胞が優位であること、ならびにCD25およびCD127の発現が本質的に存在しないことに
よって特徴づけられた。対照的に、CAR陰性細胞はこの時点でCCR7、CD27およびPD-1の発
現に関して異種混交的であり、CD127を発現し、CD25+/CD127-(調節性T細胞の可能性の
ある)集団もかなり含んでいた。第169日までに、CAR+CD4+細胞ではすべて、CD28発現は
一様に陽性のままであったが、CART19 CD4+細胞のある画分は、CCR7の発現を伴い、CD27-
細胞のパーセンテージがより高く、PD-1陰性サブセットが出現し、かつCD127発現を獲得
するというセントラルメモリー表現型に向かった。CAR陰性細胞はその第56日の対応物と
かなり一致したままであったが、ただし、CD27発現の低下、CD25+/CD127-細胞のパーセ
ンテージの減少は例外であった。
【0259】
CART19細胞は血液中で6カ月後もエフェクター機能を保ちうる
CAR+ T細胞を用いた以前の試験の限界には、短い存続性およびインビボ増殖が不十分で
あることのほかに、輸注したT細胞のインビボでの機能的活性の急速な損失もあった。患
者UPN 01および03における高レベルのCART19細胞存続性およびCAR19分子の表面発現によ
り、凍結保存した末梢血試料から回収した細胞における抗CD19特異的エフェクター機能を
直接検査するという機会がもたらされた。患者UPN 03からのPBMCを、CD19発現に関して陽
性または陰性のいずれかである標的細胞とともに培養した(
図4d)。表面CD107a発現によ
る評価で、CART19 T細胞の頑強なCD19特異的エフェクター機能が、CD19陰性標的細胞とは
異なる、CD19陽性標的細胞に対する特異的脱顆粒によって実証された。注目されることと
して、標準的なフローサイトメトリー染色での同じエフェクター細胞におけるCAR19の表
面発現に関して
図8に描写されているように、CD19陽性標的に対するCART19集団の曝露に
より、表面CAR-19の急速な内部移行が誘導された。NALM-6株はCD80もCD86も発現しないこ
とからみて、標的細胞上の共刺激分子の存在は、CART19細胞の脱顆粒を誘発するために必
要ではなかった(Brentjens et al., 2007, Clin Cancer Res 1:5426-5435)。エフェク
ター機能は輸注後の第56日の時点で明らかであり、第169日の時点でも保たれた。CAR+お
よびCAR-T細胞の頑強なエフェクター機能を、薬理刺激によって実証することも可能と考
えられる。
【0260】
CART19細胞の臨床的活性
いずれの患者においても、輸注後の4日間には、一過性の発熱反応以外に目立った毒性
は観察されなかった。しかし、すべての患者で、その後、初回輸注後の第7日~第21日の
間に、目立った臨床的毒性および検査値上の毒性が生じた。これらの毒性は短期的かつ可
逆的であった。標準的な基準によれば(Hallek et al., 2008, Blood 111:5446)、これ
までに治療した3人の患者のうち、CART19輸注後6カ月を上回った時点でのCRは2人であり
、PRは1人である。各患者についての既往歴および治療法に対する反応の詳細は、
図10に
描写されている。
【0261】
手短に述べると、患者UPN 01は、輸注の10日後から、硬直および一過性低血圧を伴う発
熱症候群を発症した。発熱はおよそ2週間持続してから解消した;この患者ではこれ以上
に体質症状を起こさなかった。この患者では、
図5に描写されているように、急速かつ完
全な奏効が達成された。輸注後1カ月~6カ月の間に、フローサイトメトリーにより、血液
中の流血中CLL細胞は全く検出されなかった。
図5Bに描写されているように、形態学的検
査およびフローサイトメトリー検査により、CART-19細胞輸注後1カ月、3カ月および6カ月
の骨髄では、リンパ性浸潤物の持続的欠如が示されている。
図5Cに描写されているように
、輸注後1カ月および3カ月のCTスキャンにより、リンパ節肥大の消散が示されている。完
全寛解は、この報告の時点から10カ月超にわたって持続した。
【0262】
患者UPN 02は2サイクルのベンダムスチンおよびリツキシマブによって治療され、その
結果、
図5Aに描写されているように、疾患の安定がもたらされた。この患者は、CART19 T
細胞輸注の前に、リンパ除去化学療法としてベンダムスチンの3回目の投与を受けた。患
者は40℃に至る発熱、硬直および呼吸困難を発症し、初回輸注後の第11日であってCART19
細胞の2回目の追加投与の当日に、24時間の入院が必要となった。発熱および体質症状は
持続し、患者は第15日に一過性心機能不全を起こした;コルチコステロイド療法を第18日
に開始した後に、症状はすべて消失した。CART19輸注の後に、高熱の発生と同時に、この
患者では、
図5Aに描写されているように末梢血からのp53欠損性CLL細胞の急速な消失、お
よびリンパ節肥大の部分的縮小が起こり、骨髄では、高度の末梢血細胞除去を行ったにも
かかわらず、治療の1カ月後にはCLLの持続性広範浸潤が示された。患者は無症候性のまま
であった。
【0263】
患者UPN 03は、CART19細胞輸注の前に、ペントスタチンおよびシクロホスファミドをリ
ンパ除去化学療法として投与された。化学療法の3日後であるが細胞輸注の前の時点で、
骨髄は過形成性(60%)であり、CLLの関与がおよそ50%であった。この患者は低用量のC
ART19細胞(1.5×10
5個のCAR+T細胞/kgを3日間に分けて)の投与を受けた。この場合も
急性輸注毒性はみられなかった。しかし、初回輸注から14日後に、患者は硬直、発熱、悪
心および下痢を起こし始めた。輸注後の第22日までに、入院を必要とする腫瘍溶解症候群
と診断された。患者の体質症状は消散し、CART19輸注から1カ月以内に、形態学的検査、
フローサイトメトリー、細胞遺伝学検査およびFISH分析によれば、患者の流血中CLLは血
液および骨髄から消失した。
図5Bおよび5Cに描写されているように、CTスキャンによって
、異常リンパ節肥大の消散が示された。完全寛解はCART19細胞の初回輸注から8カ月を上
回って持続した。
【0264】
インビボでのCART19エフェクターとCLL標的細胞との比の検討
前臨床試験により、ヒト化マウスで大きな腫瘍を除去することができたこと、および、
2.2×10
7個のCARの輸注によって、インビボでのE:T比が1:42となる1×10
9個の細胞で構
成される腫瘍を根絶させることができたことが示されているが(Carpenito et al., 2009
, Proc Natl Acad Sci U S A 106:3360-3365)、これらの計算は注射後のT細胞の増大を
考慮に入れていない。 CLL腫瘍総量の経時的な推定により、輸注されたCAR+ T細胞の数に
基づく、3人の対象においてインビボで達成された腫瘍縮小および推定CART19 E:T比の算
出が可能になった。骨髄、血液および二次リンパ組織におけるCLL量(CLL load)を測定
することによって、腫瘍総量を算出した。
図10に示されたベースライン腫瘍総量は、各患
者がCART19輸注の前に10
12個という桁数のCLL細胞(すなわち、腫瘍量1kg)を有していた
ことを指し示している。患者UPN 03は、第-1日(すなわち、化学療法の後およびCART19輸
注の前)の時点で、骨髄内での推定ベースライン腫瘍総量がCLL細胞8.8×10
11個であり、
二次リンパ組織における腫瘍量の計測値は、体積分析用CTスキャン分析の方法に応じてCL
L細胞3.3~5.5×10
11個であった。UPN 03にはCART19細胞が1.4×10
7個しか輸注されなか
ったことと、初期腫瘍総量の推定値(CLL細胞1.3×10
12個)を用いた上で、さらに治療後
にはCLL細胞が全く検出不能であったことを考慮すると、1:93,000という際立ったE:T比
が達成された。同様の計算により、UPN 01およびUPN 02については、表3に示されたよう
に、1:2200および1:1000というインビボでの有効E:T比が算出された。最終的には、CA
RT19 T細胞による連続死滅の寄与と、1,000倍を上回るインビボでのCART19増大とが相ま
って、CART19細胞によって媒介される強力な抗白血病効果の原因になっている可能性が高
い。
【0265】
キメラ受容体を発現するT細胞は、進行した白血病の患者においてメモリー効果および強
力な抗腫瘍効果を成立させる
CARのインビボ発現およびエフェクター機能が限定されていることは、第一世代CARを試
験する治験において中心的な限界となってきた(Kershaw et al., 2006, Clin Cancer Re
s 12:6106-6115;Lamers et al., 2006, J Clin Oncol 24:e20-e22;Till et al., 2008,
Blood, 112, 2261-2271;Park et al., 2007, Mol Ther 15:825833;Pule et al., 2008
, Nat Med 14:1264-1270)。4-1BBシグナル伝達モジュールを含むCARの存続性の強化を実
証した前臨床モデリングに基づき(Milone et al., 2009, Mol Ther. 17:1453-1464;Car
penito et al., 2009, Proc Natl Acad Sci U S A 106:3360-3365)、レンチウイルスベ
クター技術によって操作された第二世代のCARを開発するための実験をデザインした。こ
の第二世代のCARは、慢性HIV感染の状況で安全であることが見いだされた(Levine et al
., 2006, Proc Natl Acad Sci U S A 103:17372-17377)。今回の結果は、この第二世代C
ARをT細胞において発現させ、セントラルメモリーT細胞の生着を促すように設計された条
件下で培養した場合に(Rapoport et al., 2005, Nat Med 11:1230-1237;Bondanza et a
l., 2006, Blood 107:1828-1836)、以前の報告と比較して輸注後のCAR T細胞の増大の向
上が観察されたことを示している。CART19細胞はCD19特異的なメモリー細胞を樹立させ、
これまでに達成されていないインビボでのE:T比で腫瘍細胞を死滅させる。
【0266】
CART19は4-1BBシグナル伝達ドメインを組み入れた初のCAR治験であり、レンチウイルス
ベクター技術を用いた初めてのものである。今回の結果は腫瘍部位へのCARの効率的な輸
送を実証しており、CD19特異性を呈する「腫瘍浸潤リンパ球」の事実上の樹立を伴う。顕
著なインビボ増大により、患者から直接回収したCARがインビボでエフェクター機能を数
カ月にわたって保ちうることの初めての実証が可能となった。以前の研究では、ウイルス
特異的T細胞への第一世代CARの導入が一次T細胞にとって好ましいことが示唆された(Pul
e et al., 2008, Nat Med 14:1264-1270)が、最適な共刺激を受けた一次T細胞に導入さ
れた第二世代CARを用いた結果はこの考え方に疑問を投げかける。いかなる特定の理論に
も拘束されることは望まないが、臨床的効果が著明かつ空前無比であり、患者3人のすべ
てでキログラム規模の腫瘍総量の溶解が起こり、患者のうち2人では危険な恐れのある高
レベルのサイトカインの遅延放出が伴うという、警告を促す事項が提起された。古典的な
サイトカインストーム効果は観察されなかった。しかし、本研究は、3日という期間をか
けたCART19の慎重な輸注によって、この可能性を軽減するように設計した。
【0267】
極めて低用量のCARが強力な臨床的奏効を誘発しうることが見いだされた。これはCART1
9ベクターのデザインの安全性を実証したパイロット試験であった。以前の試験で検討さ
れたものよりも数桁少ないCART19細胞の用量が臨床的有益性を有しうるという観察所見は
、CAR療法のより大きな規模での将来の実施のため、およびCD19以外の標的に向けられたC
ARを試験する試験のデザインのために重要な意味を有するであろう。
【0268】
本研究はさらに、CART19がセントラルメモリーT細胞およびエフェクターT細胞の両方で
発現されることを指し示しており、このことは、以前の報告と比較したそれらの長期生存
に寄与している可能性が高い。いかなる特定の理論にも拘束されることは望まないが、CA
R T細胞は、インビボでサロゲート抗原を発現する標的細胞(例えば、CLL腫瘍細胞または
正常B細胞)に遭遇するとセントラルメモリー様の状態に分化して、その後にそれを排除
することができる。事実、4-1BBのシグナル伝達は、TCRシグナル伝達に関連してメモリー
の発達を促進することが報告されている(Sabbagh et al., 2007, Trends Immunol 28:33
3-339)。
【0269】
CART19の増殖性および生存性の拡大により、これまで報告されていなかったCAR T細胞
の薬物動態の諸局面が明らかになった。血清および骨髄におけるサイトカイン放出の動態
はピークCART19レベルと相関しており、そのため、CD19を発現する細胞標的が限定的にな
った時点で遅延を開始させることが可能である。CART19の生存性の拡大の機序は、4-1BB
ドメインの前記の組み入れ、または天然のTCRおよび/もしくはCARを通じてのシグナル伝
達と関係している可能性もある。興味深い可能性は、生存性の拡大が、骨髄標本で同定さ
れたCART19の集団と関係していることであり、これはCD19 CARを骨髄内でB細胞始原細胞
と遭遇させることによって維持しうるという仮説を生み出す。この問いかけと関係するの
は、インビボでCART19細胞の初期増大を作動させるものは何かということである。稀な例
外はあるが(Savoldo et al., 201 1, J Clin Invest doi:10.1172/JCI46110;Pule et a
l., 2008, Nat Med 14:1264-1270)、本研究はIL-2輸注を省いた唯一の試験であり、その
ため、CART19細胞は、おそらくは恒常性サイトカインに反応するか、またはさらに可能性
が高いものとしては白血病標的および/または正常B細胞上に発現されるCD19に反応して
増大した可能性が高い。後者の場合には、CART19の自己再生が正常細胞上で起こって、「
自己ワクチン接種/追加接種」を介したCARメモリーの機序をもたらし、それ故に、長期
的な腫瘍免疫監視機構をもたらした可能性があるため、これは、正常APC上の標的、例え
ばCD19およびCD20などに対して向けられたCARの注目される特徴と考えうる可能性がある
。CART19恒常性の機序については、細胞の内因性および外因性の存続機構を解明するため
にさらに研究が必要であろう。これらの成果の以前には、ほとんどの研究者はCAR療法を
免疫療法の一過性形態と捉えていたが、最適化されたシグナル伝達ドメインを備えたCAR
は、寛解の誘導および強化、ならびに長期的な免疫監視機構のいずれにおいても役割を果
たす可能性がある。
【0270】
強力な抗白血病効果が、p53欠損性白血病の患者2人を含む、患者3人のすべてで観察さ
れた。CARを用いた以前の研究では、リンパ除去化学療法による抗腫瘍効果を区別するこ
とが困難であった。しかし、本研究においてインビボCAR増大と同時に、おそらくはそれ
に依存して起こった、フルダラビン抵抗性患者における腫瘍溶解の動態を兼ね備えた遅延
サイトカイン放出は、CART19が強力な抗腫瘍効果を媒介することを指し示している。今回
の結果は、CARの効果を増強する上での化学療法の役割を否定するものではない。
【0271】
インビボでCAR T細胞の持続的機能を得るために必要な鍵となる特徴について十分な理
解を得るためには、ベクター、導入遺伝子および細胞製造手順と、他の施設で進行中の試
験による結果との徹底的な比較が必要であろう。抗体療法とは異なり、CAR改変T細胞はイ
ンビボで複製する潜在能力を有しており、長期存続性は持続的な腫瘍制御につながりうる
であろう。非交差耐性キラーT細胞で構成される汎用的(off the shelf)療法が利用可能
であれば、B細胞悪性腫瘍の患者の転帰を改善しうる可能性がある。例えばリツキシマブ
およびベバシズマブ(bevicizumab)などの薬剤を用いる抗体療法の限界は、治療法が、
不便である上に費用もかかる反復的な抗体輸注を必要とすることにある。CART19細胞の単
回輸注後にT細胞上で発現された抗CD19 scFvによる長期にわたる抗体療法の送達(この場
合、現在までに治療した患者3人中3人で少なくとも6カ月にわたって)には、便利さおよ
び費用節約を含む、数多くの実用上の利点がある。
【0272】
実施例2:慢性リンパ性白血病におけるキメラ抗原受容体改変T細胞
CD137(T細胞における共刺激受容体[4-1BB])およびCD3-ζ(T細胞抗原受容体のシグ
ナル伝達成分)のシグナル伝達ドメインを結びつけた、B細胞抗原CD19に対する特異性を
有するキメラ抗原受容体を発現するレンチウイルスベクターを設計した。治療抵抗性慢性
リンパ性白血病(CLL)の患者に再輸注した、低用量(体重1kg当たりおよそ1.5×105個)
の自己キメラ抗原受容体改変T細胞は、インビボで初期生着レベルの1000倍を上回る高い
レベルまで増大したことが観察された。また、患者が腫瘍溶解症候群の遅延発症を呈して
、完全寛解が得られたことも観察された。
【0273】
腫瘍溶解症候群を除いて、キメラ抗原受容体T細胞と関係のある他の唯一のグレード3/
4毒性作用は、リンパ球減少症のみであった。組換え細胞は血液および骨髄において少な
くとも6カ月にわたって高レベルで存続し、キメラ抗原受容体を発現し続けた。特異的免
疫応答が骨髄で検出され、これはCD19を発現する正常B細胞および白血病細胞の喪失を伴
った。寛解は治療10カ月後も継続中である。低γグロブリン血症は、予想された慢性毒性
作用であった。
【0274】
これらの実験で使用した材料および方法について、以下で説明する。
【0275】
材料および方法
試験手順
以前に報告したように(Milone et al., 2009, Mol Ther, 17:1453-64)、自己不活性
化レンチウイルスベクター(GeMCRIS 0607-793)を設計して、前臨床安全性試験に供した
。T細胞の調製方法も以前に記載されている(Porter et al, 2006, Blood, 107:1325-31
)。血液および骨髄におけるキメラ抗原受容体T細胞を検出するために、定量的ポリメラ
ーゼ連鎖反応(PCR)分析を行った。定量下限は標準曲線から求めた;定量下限を下回る
平均値(すなわち、報告可能ではあるが定量不能である)は概算値とみなす。アッセイの
定量下限は、ゲノムDNA 1μg当たり25コピーであった。
可溶性因子の分析は、単回使用用にアリコートに分けて-80℃で貯蔵した、全血および
骨髄由来の血清を用いて行った。可溶性サイトカイン因子の定量は、Luminex bead-array
技術および試薬(Life Technologies)を用いて行った。
【0276】
1回目のアフェレーシス
12~15リットルのアフェレーシス手順をアフェレーシスセンターで実施する。この手順
の間に、CART-19 T細胞作製のために末梢血単核細胞(PBMC)を入手する。単回の白血球
アフェレーシスにより、CART-19 T細胞を製造するために少なくとも50×109個の白血球を
採取する。ベースライン血液の白血球も入手して凍結保存する。
【0277】
細胞減少(cytroreductive)化学療法
化学療法の完了から1~2日後にCART-19細胞を投与しうるように、化学療法を輸注のお
よそ5~10日前に開始する。化学療法の開始のタイミングは、このため、レジメンの長さ
に依存する。この化学療法の目的は、CART-19細胞の生着および恒常的増大を促進するた
めにリンパ球減少症を誘導することである。疾患腫瘍総量も減らすように化学療法を選択
してもよい。細胞減少化学療法の選択および投与は地域の腫瘍専門医が行う。化学療法の
選択は、患者の基礎疾患および過去の治療法に基づく。フルダラビン(30mg/m2/日×3
日)およびシクロホスファミド(300mg/m2/日×3日)が選択すべき薬剤であるが、これ
は養子免疫療法を進める上でこれらの薬剤の使用の経験が最も豊富なためである。CHOP、
HyperCVAD、EPOCH、DHAP、ICEまたは他のレジメンを含む、FDA認可薬を用いる他のいくつ
かの許容されるレジメンも適切である。
【0278】
病期再判定評価
化学療法の完了時に、ベースライン腫瘍総量測定値を得る目的で、限定的な病期再判定
を行う。これには、イメージング、身体的診察および微小残存病変(MRD)評価が含まれ
る。対象は以下の輸注前検査を行う:身体的診察、有害事象の文書記録、ならびに血液学
検査、生化学検査および妊娠検査のための採血(該当する場合)。
【0279】
CART-19 T細胞の調製
CD19に対する特異性を有する細胞外単鎖抗体(scFv)を発現するように自己T細胞を操
作する。細胞外scFvは、悪性細胞および正常B細胞の表面に発現が限られる分子であるCD1
9を発現する細胞に対して、形質導入T細胞の特異性を再誘導することができる。CD19 scF
vに加えて、TCRζ鎖、または4-1BBおよびTCRζのシグナル伝達モジュールで構成される縦
列シグナル伝達ドメインのいずれかで構成される細胞内シグナル伝達分子も発現するよう
に細胞に形質導入する。scFvはマウスモノクローナル抗体に由来し、それ故にマウス配列
を含有しており、シグナル伝達ドメインはすべてがネイティブ性ヒト配列のものである。
CART-19 T細胞は、アフェレーシスによってT細胞を単離して、レンチウイルスベクター技
術(Dropulic et al., 2006, Human Gene Therapy, 17:577-88;Naldini et al., 1996,
Science, 272:263-7;Dull et al., 1998, J Virol, 72:8463-71)を用いてscFv:TCRζ:4
-1BBをCD4およびCD8 T細胞に導入することによって製造される。何人かの患者には、競合
的再増殖実験のために対照scFv:TCRζ:を細胞の一部分に導入する。これらの受容体は、M
HC非依存的な様式で抗原と結合する点で「万能的(universal)」であり、このため、単
一の受容体構築物を、CD19抗原陽性腫瘍を有する患者の集団を治療するために用いること
ができる。
【0280】
CAR構築物はUniversity of Pennsylvaniaで開発され、臨床グレードのベクターはLenti
gen Corporationで製造された。CART-19細胞は、University of PennsylvaniaのClinical
Cell and Vaccine Production Facilityで、
図11に示された過程に従って製造される。
細胞培養が終わったところで、細胞を輸注可能な凍結媒体中で凍結保存する。合計2.5×1
0
9~5×10
9個の細胞の輸注物を含むCART-19形質導入T細胞の単回用量を、1つまたは2つの
バッグに入れる。各バッグは、以下の輸注可能グレード試薬(% v/v)を含有する凍結
媒体のアリコート(容積は用量に依存)を含む:31.25 plasmalyte-A、31.25 デキストロ
ース(5%)、0.45 NaCl、最大7.50のDMSO、1.00 デキストラン40、5.00 ヒト血清アルブ
ミンと、バッグ当たりおよそ2.5~5×10
9個の自己T細胞。安全性を高めるために、初回用
量は細胞のほぼ10%を第0日に、30%を第1日に、60%を第2日とする分割用量として第0日
、第1日および第2日に投与する。
【0281】
貯蔵
CART-19形質導入T細胞を含有するバッグ(容量10~100ml)は監視下にある-135℃冷凍
庫内で血液銀行の条件下で貯蔵する。輸注バッグは必要時まで冷凍庫で貯蔵する。
【0282】
細胞の解凍
治験薬剤部(investigational pharmacy)で細胞の記録をとった後に、凍結細胞をドラ
イアイス中にて対象のベッドサイドまで搬送する。36℃~38℃に維持した水浴を用いて、
細胞をベッドサイドで一度に1バッグずつ解凍する。細胞がちょうど解凍するまで、バッ
グを丁寧にもみほぐす。凍結塊を容器内に残さないようにすべきである。CART-19細胞製
剤のバッグが損傷もしくは漏出しているように見えるか、または別の形で損なわれている
ように見える場合には、それを輸注すべきではない。
【0283】
前投薬
T細胞輸注後の副作用には、一過性の発熱、悪寒および/または悪心が含まれうる。対
象には、CART-19細胞の輸注の前に、アセトアミノフェン650mgの内服、および塩酸ジフェ
ンヒドラミン25~50mgの内服または静脈内注射による前投薬を行うことが推奨される。こ
れらの投薬を、必要に応じて6時間毎に繰り返してもよい。患者がアセトアミノフェンに
よって緩和しない発熱を続けるようであれば、1コースの非ステロイド性抗炎症薬の投薬
を処方してもよい。患者には、命に危険のある緊急時を除き、いかなる時もヒドロコルチ
ゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン(ソルメドロール(Solu-Medrol))またはデキサ
メタゾン(デカドロン(Decadron))などの全身性コルチコステロイドを投与しないこと
が推奨されるが、これはT細胞に有害作用を及ぼす可能性があるためである。急性輸注反
応に対してコルチコステロイドが必要な場合には、初回用量にヒドロコルチゾン100mgが
推奨される。
【0284】
投与/輸注
輸注は化学療法の完了から1~2日後に開始する。初回輸注の日に、患者には分画を含む
CBC、ならびにCD3、CD4およびCD8数の評価を行うが、これは化学療法を一つにはリンパ球
減少症を誘導するために行うためである。いかなる特定の理論にも拘束されることは望ま
ないが、2.5~5×109個のCART-19細胞という初回静脈内用量がこのプロトコールには最適
であると考えられている。健常成人には約1×1012個のT細胞が存在するため、提唱される
総用量はT細胞の体内総量の約0.5%に相当する(Roederer, 1995, Nat Med, 1:621-7;Ma
callan et al., 2003, Eur J Immunol, 33: 2316-26)。1回目の用量は分割投与を用いて
第0日(10%)、第1日(30%)および第2日(60%)に投与する。対象は隔離された部屋
で輸注を受ける。本明細書中の別所に記載したように、細胞は患者のベッドサイドで解凍
する。解凍した細胞は忍容しうる限りできるだけ速い輸注速度で投与し、その結果、輸注
の持続時間はおよそ10~15分となる。形質導入されたT細胞は、三方活栓付きの18ゲージ
のラテックス非含有Y型輸血セットによって、毎分およそ10mL~20mLの流速で急速静脈内
輸注によって投与する。輸注の持続時間はおよそ15分とする。CART-19改変細胞のバッグ
を1つまたは2つ、氷上にて搬送し、細胞を低温のまま対象に投与する。CART-19細胞の混
合物を投与される対象では、混合を促す目的で、Y-アダプターを用いて細胞を同時に投与
する。対象には本明細書中の別所に記載したように輸注および前投薬を行う。対象のバイ
タルサインの評価およびパルスオキシメトリー検査を、投与の前、輸注の終了時、および
その後は15分毎に1時間、そしてこれらが安定して良好になるまで行う。ベースラインCAR
T-19レベルの決定のための血液試料は、輸注前および輸注20分後に入手する。先行して彼
らに行った細胞減少化学療法による毒性を来した患者では、これらの毒性が消失するまで
輸注スケジュールを遅らせる。T細胞輸注を遅らせる根拠となる具体的な毒性には以下が
含まれる:1)肺:飽和度を95%超に保つために酸素補給が必要、または胸部X線上の進行
性である放射線学的異常の存在;2)心臓:医学的管理によってコントロールされていな
い新たな心不整脈。3)昇圧サポートを必要とする低血圧。4)活動性感染症:T細胞輸注
から48時間以内の細菌、真菌またはウイルスに関する血液培養が陽性。カリウムおよび尿
酸に関する血清試料を収集し、初回輸注の前ならびに以後の各輸注の2時間後。
【0285】
生着および存続性を評価するための輸注後臨床検査
対象は初回CART-19細胞輸注後の第4日および第10日に再受診して、血清サイトカインレ
ベルに関する採血、およびCART-19細胞の存在を評価するためのCART-19 PCRを受ける。対
象は3週間にわたって週1回ずつ再受診して、以下を受ける:身体的診察、有害事象の文書
記録、ならびに血液学検査、生化学検査、CART-19細胞の生着および存続性、および臨床
検査のための採血。
【0286】
2回目の輸注
いかなる特定の理論にも拘束されることは望まないが、患者に対するCART-19細胞の2回
目の用量は、彼らが1回目の用量に対して十分な忍容性を示し、かつ十分なCART-19細胞が
製造されたならば、第11日に投与しうると考えられている。用量は合計2~5×109個の細
胞とする。カリウムおよび尿酸に関する血清試料を輸注2時間後に収集する。
【0287】
2回目のアフェレーシス
2リットルのアフェレーシス手順をアフェレーシスセンターで行う。研究調査のためにP
BMCを入手して凍結保存する。対象は以下を受ける:身体的診察、有害事象の文書記録、
ならびに血液学検査、生化学検査、CART-19細胞の生着および存続性、および臨床検査の
ための採血。加えて、腫瘍総量測定値を得る目的で病期再判定を行う。病期再判定検査は
病型別に判定し、イメージング、MRD評価、骨髄吸引および生検、ならびに/またはリン
パ節生検を含む。
【0288】
輸注後2~6カ月の毎月の評価
対象にCART-19細胞輸注後の2~6カ月は月1回再受診させる。これらの試験受診時に対象
は以下を受ける:併用薬、身体的診察、有害事象の文書記録、ならびに血液学検査、生化
学検査、CART-19細胞の生着および存続性、および臨床検査のための採血。CART-19細胞輸
注後2~6カ月の時点で、検出可能なRCLの存在の可能性を否定するためにHIV DNAアッセイ
を行う。
【0289】
輸注2年後までの年4回の評価
輸注2年後まで、対象を年4回評価する。これらの試験受診時に、対象は以下を受ける:
併用薬、身体的診察、有害事象の文書記録、ならびに血液学検査、生化学検査、CART-19
細胞の生着および存続性、および臨床検査のための採血。CART-19細胞輸注後3カ月および
6カ月の時点で、検出可能なRCLの存在の可能性を否定するためにHIV DNAアッセイを行う
。
【0290】
実験の結果について以下に記す。
【0291】
患者病歴
患者は1996年にステージI CLLの診断を受けた。この男性はまず、6年間の観察後に、進
行性白血球増加症およびリンパ節肥大に対する治療を必要とした。2002年に、彼は2サイ
クルのリツキシマブ+フルダラビンによって治療された;この治療の結果、血球数の正常
化およびリンパ節肥大の部分的消散がもたらされた。2006年に、彼は疾患進行のために4
サイクルのリツキシマブおよびフルダラビンを受け、再び血球数の正常化およびリンパ節
肥大の部分的縮退が得られた。この奏効の後に、20カ月間の無増悪期間および2年間の無
治療期間があった。2009年2月に、彼は急速進行性白血球増加症および再発性リンパ節肥
大を有した。彼の骨髄はCLLにより広範に浸潤されていた。細胞遺伝学的分析により、細
胞15個のうち3個が染色体17pの欠失を含むことが示され、蛍光インサイチューハイブリダ
イゼーション(FISH)検査からは、細胞200個のうち170個が染色体17p上のTP53に関わる
欠失を有することが示された。彼はリツキシマブおよびベンダムスチンを1サイクル投与
され、ベンダムスチンをさらに3サイクル、リツキシマブを伴わずに受けた(重度のアレ
ルギー反応のため)。この治療の結果、リンパ球増加症の一過性に過ぎない改善が生じた
。コンピュータ断層撮影(CT)により、治療法の後に進行性リンパ節肥大が実証された。
【0292】
自己T細胞を白血球アフェレーシスによって収集し、凍結保存した。患者は続いてアレ
ムツズマブ(抗CD52、成熟リンパ球、細胞表面抗原)を11週間投与され、造血の改善およ
びリンパ節肥大の部分的消散を得た。次の6カ月間は、彼の疾患は安定しており、持続的
で広範な骨髄病変および複数の1~3cmリンパ節がみられるびまん性リンパ節肥大を伴った
。2010年7月に、この患者はキメラ抗原受容体改変T細胞の第1相臨床試験に組み入れられ
た。
【0293】
細胞輸注
この患者からの自己T細胞を解凍して、CD19特異的キメラ抗原受容体を発現するように
レンチウイルスによる形質導入を行った(
図12A);レンチウイルスベクターおよび関連
配列の配列識別名は表5に描写されている。細胞輸注の4日前に、患者はリンパ球の除去の
ためにデザインされた、リツキシマブを伴わない化学療法を受けた(ペントスタチンを体
表面積1m
2当たり4mgの用量で、およびシクロホスファミドを1m
2当たり600mgの用量で)(
Lamanna et al., 2006, J Clin Oncol, 24:1575-81)。化学療法の3日後、しかし細胞輸
注の前に、骨髄は過形成性であり、CLLの関与がおよそ40%であった。白血病細胞はκ軽
鎖ならびにCD5、CD19、CD20およびCD23を発現した。細胞遺伝学的分析により、2種の別個
のクローンが示され、これらはいずれも染色体17pおよびTP53座位の喪失をもたらした(4
6,XY,del(17)(p12)[5]/46,XY,der(17)t(17;21)(q10;q10)[5]/46,XY[14])。化学療法の4
日後に、患者は、5%が形質導入されている合計3×10
8個のT細胞、すなわち合計1.42×10
7個の形質導入細胞(1.46×10
5個/kg)を、3日連続の毎日の静脈内輸注にて分割投与さ
れた(第1日に10%、第2日に30%、および第3日に60%)。輸注後サイトカインは投与し
なかった。輸注の毒性作用は認められなかった。
【0294】
(表5)pELPS-CD19-BBz移入ベクターの配列識別名
【0295】
臨床的奏効および評価
初回輸注の14日後に、患者は悪寒および微熱を有するようになり、グレード2の疲労を
伴った。以後の5日間で、悪寒は強まり、彼の体温は39.2℃(102.5°F)に上昇し、これ
に硬直、発汗、無食欲、悪心および下痢が伴った。彼には呼吸器症状も心症状もみられな
かった。発熱を理由として、胸部放射線検査ならびに血液、尿および便の培養を行ったと
ころ、いずれも陰性または正常であった。輸注後の第22日に腫瘍溶解症候群が診断された
(
図12B)。尿酸レベルは10.6mg/dl(630.5μmol/l)であり、リンレベルは4.7mg/dl
(1.5mmol/l)(正常範囲、2.4~4.7mg/dl[0.8~1.5mmol/l])であり、乳酸デヒド
ロゲナーゼレベルは1130U /l(正常範囲、98~192)であった。急性腎障害の所見がみら
れ、クレアチニンレベル2.60mg/dl(229.8μmol/l)(ベースラインレベル、<1.0mg/
dl[<88.4μmol/l])。患者は入院し、補液蘇生およびラスブリカーゼによる治療を受
けた。尿酸レベルは24時間以内、クレアチニンレベルは3日以内に正常範囲に復帰した;
彼は入院第4日に退院した。乳酸デヒドロゲナーゼレベルは徐々に低下し、以後1カ月をか
けて正常になった。
【0296】
CART19細胞輸注後の第28日までに、リンパ節肥大は触知不能となり、第23日の時点で骨
髄内のCLLの所見は認められなかった(
図12C)。核型はその時点で細胞15個中15個とも正
常であり(46,XY)、FISH検査は、検査した細胞200個中198個でTP53欠失に関して陰性で
あった;これは陰性対照における正常範囲内にあると判断される。フローサイトメトリー
分析によって残留性CLLは示されず、B細胞は検出不能であった(CD5+CD10-CD19+CD23+リ
ンパ球ゲート内の細胞の1%未満)。輸注後の第31日に行ったCTスキャンにより、リンパ
節肥大の消散が示された(
図12D)。
【0297】
CART19細胞輸注の3カ月後および6カ月後に、身体的診察で目立った点は依然としてなく
、触知可能なリンパ節肥大は認めず、CART19細胞輸注の3カ月後に行ったCTスキャンによ
り、持続的寛解が示された(
図12D)。3カ月および6カ月の時点での骨髄検査からも、形
態学的分析、核型分析(46,XY)またはフローサイトメトリー分析のいずれによってもCLL
の所見は示されず、正常B細胞の継続的な欠如も示された。寛解は少なくとも10カ月間持
続した。
【0298】
CART19細胞の毒性
細胞輸注には急性毒性作用はなかった。認められた唯一の重篤な(グレード3または4の
)有害事象は、上記のグレード3の腫瘍溶解症候群のみであった。患者にはベースライン
でグレード1のリンパ球減少症があり、第1日からはグレード2または3のリンパ球減少症が
始まり、治療法後少なくとも10カ月間続いた。リンパ球絶対数140個/m3のグレード4のリ
ンパ球減少症が第19日に記録されたが、第22日から少なくとも10カ月まで、リンパ球絶対
数は390~780個/m3の範囲であり(グレード2または3のリンパ球減少症)、患者は第19日
から第26日まで一過性のグレード1血小板減少症(血小板数、98,000~131,000/m3)を、
第17日から第33日までグレード1または2の好中球減少症(好中球絶対数、1090~1630/m3
)を有した。試験治療とおそらく関係すると考えられた他の徴候および症状には、初回輸
注17日後に生じて第33日までに消失したグレード 1および2のアミノトランスフェラーゼ
レベルおよびアルカリホスファターゼレベルの上昇、ならびに発熱、悪寒、発汗、筋肉痛
、頭痛および疲労からなるグレード1および2の体質症状が含まれた。グレード2の低γグ
ロブリン血症は静脈内免疫グロブリン輸注によって是正された。
【0299】
血清および骨髄のサイトカインの分析
患者の臨床的奏効には、炎症性サイトカインのレベルの遅延上昇が伴い(
図13Aから
図1
3Dまで)、インターフェロン-γ、インターフェロン-γ応答性ケモカインCXCL9およびCXC
L10、ならびにインターロイキン-6のレベルは、ベースラインレベルの160倍もの高さとな
った。サイトカインレベルの一時的上昇は臨床症状と平行関係にあり、CART19細胞の初回
輸注の17~23日後がピークであった。
【0300】
連続的骨髄吸引液からの上清をサイトカインに関して測定したところ、免疫活性化の所
見が示された(
図13E)。インターフェロン-γ、CXCL9、インターロイキン-6および可溶
性インターロイキン-2受容体の有意な増加が、T細胞輸注前日のベースラインレベルとの
比較で認められた;値はCART19細胞の初回輸注後の第23日にピークとなった。骨髄サイト
カインの増加は、骨髄からの白血病細胞の排除と一致した。血清および骨髄の腫瘍壊死因
子αは変化のないままであった。
【0301】
キメラ抗原受容体T細胞の増大および存続
リアルタイムPCRでは、抗CD19キメラ抗原受容体(CAR19)をコードするDNAが、初回輸
注後の第1日から検出された(
図14A)。輸注後の第21日までにインビボでの細胞の3-log
を上回る増大が認められた。ピークレベルで、血液中のCART19細胞は流血中リンパ球の20
%超に相当した;これらのピークレベルは体質症状、腫瘍溶解症候群(
図12B)および血
清サイトカインレベルの上昇(
図13Aから
図13Dまで)の発生と一致した。CART19細胞は輸
注6カ月後に高レベルで検出可能なままであったものの、その値はピークレベルから10分
の1に減少した。血液中でのキメラ抗原受容体T細胞の倍加時間はおよそ1.2日であり、消
失半減期は31日であった。
【0302】
骨髄におけるキメラ抗原受容体T細胞
CART19細胞は骨髄標本において初回輸注23日後から同定され(
図14B)、少なくとも6カ
月間持続し、減衰半減期は34日であった。骨髄におけるCART19細胞の最も高いレベルは初
回輸注の23日後の初回評価時に同定され、サイトカイン分泌プロファイルによって指し示
されるように、免疫応答の誘導と一致した(
図13E)。骨髄吸引液のフローサイトメトリ
ー分析により、ベースラインでCD5+CD19+細胞のクローン増大が指し示され、これは輸注
後1カ月、および輸注後3カ月に入手した試料にはみられなかった(データ非提示)。正常
B細胞は治療後に検出されなかった(
図14C)。
【0303】
遺伝子改変された自己CART19細胞による治療
本明細書に記載されたのは、CD3-ζおよびCD137(4-1BB)シグナル伝達ドメインを連結
させた抗CD19を発現するレンチウイルスベクターによる形質導入を通じてCD19を標的とす
るように遺伝子改変された自己T細胞による治療から3週間後の、腫瘍溶解症候群の遅延発
症および完全奏効である。遺伝子改変された細胞は、輸注後少なくとも6カ月間にわたっ
て骨髄に高レベルで存在した。骨髄におけるCD19特異的免疫応答の生成は、サイトカイン
の一時的放出および白血病細胞の除去によって明示され、それはキメラ抗原受容体T細胞
の浸潤のピークと一致した。細胞免疫療法後の腫瘍溶解症候群の発症は、これまで報告さ
れていない(Baeksgaard et al., 2003, Cancer Chemother Pharacol, 51: 187-92)。
【0304】
特異的腫瘍抗原を標的とするように自己T細胞を遺伝子操作することは、癌療法のため
の注目される戦略の1つである(Sadelain et al., 2009, Curr Opin Immunol, 21: 215-2
3;Jena et al., 2010, Blood, 116: 1035-44)。本明細書に記載されたアプローチの重
要な特徴は、キメラ抗原受容体T細胞がHLAに拘束されない様式で腫瘍標的を認識すること
ができ、その結果、非常にさまざまな組織学的特徴を有する腫瘍に対して「汎用的」なキ
メラ抗原受容体を構築することができることである。HIV由来レンチウイルスベクターを
癌療法のために用いたが、これはレトロウイルスベクターの使用を上回るいくつかの利点
があるアプローチである(June et al., 2009, Nat Rev Immunol, 9:704-16)。
【0305】
キメラ抗原受容体T細胞の以前の試験では、客観的腫瘍反応は中程度であり、改変され
た細胞のインビボ増殖は持続的でなかった(Kershaw et al., 2006, Clin Cancer Res, 1
2:6106-15;Till et al., 2008, Blood, 112:2261-71;Pule et al., 2008, Nat Med, 14
:1264-70)。Brentjensらは、CD28シグナル伝達ドメインを連結させたCD19を標的とする
キメラ抗原受容体の臨床試験の予備的結果を報告し、進行したCLLの患者3人中2人で一過
性腫瘍反応を見いだした(Brentjens et al., 2010, Mol Ther, 18:666-8);しかし、キ
メラ抗原受容体は流血中から急速に消失した。
【0306】
輸注された極めて低用量のキメラ抗原受容体T細胞が、臨床に明白な抗腫瘍効果をもた
らすと考えられることは予想外であった。事実、輸注された用量の1.5×105個/kgのキメ
ラ抗原受容体T細胞は、キメラ抗原受容体またはトランスジェニックT細胞受容体を発現す
るように改変されたT細胞の以前の試験で用いられたよりも数桁少なかった(Kershaw et
al., 2006, Clin Cancer Res, 12:6106-15;Brentjens et al., 2010, Mol Ther, 18:666
-8;Morgan et al., 2010, Mol Ther, 18:843-51;Johnson et al., 2009, Blood, 114:5
35-46)。いかなる特定の理論にも束縛されることは望まないが、化学療法はキメラ抗原
受容体の効果を増強しうると推測される。
【0307】
患者の血液および骨髄におけるCART19細胞の長期にわたる存続性は、4-1BBシグナル伝
達ドメインを含めたことに起因する。マウス配列を含む単鎖Fv抗体フラグメントを発現す
るCART19細胞が拒絶されなかったことからみて、CART19細胞により媒介される正常B細胞
の排除が、キメラ抗原受容体に対する免疫寛容の誘導を促した可能性が高い。この患者に
おいて検出可能なCD19陽性白血病細胞が存在しなかったことを考慮すれば、いかなる特定
の理論にも束縛されることは望まないが、キメラ抗原受容体T細胞の恒常性は、少なくと
も一部には初期B細胞始原細胞により、それらが骨髄内に出現した時点で送達された刺激
によって達成された可能性がある。本発明は、「メモリー」キメラ抗原受容体T細胞を維
持させる新たな機序が存在する可能性があるという発見に関する。
【0308】
CD19は注目される腫瘍標的であるものの、その発現が正常細胞および悪性B細胞に限ら
れるため、キメラ抗原受容体T細胞の存続が長期的なB細胞欠乏を媒介する可能性について
は懸念がある。実際に、この患者において、B細胞は輸注後少なくとも6カ月間にわたって
血液および骨髄から失われた。この患者は再発性感染症を有しなかった。リツキシマブを
用いるCD20を通じてのB細胞のターゲティングは、B細胞悪性腫瘍の患者に対する有効で比
較的安全な戦略であり、長期的なB細胞リンパ球減少症は管理可能である(Molina, 2008,
Ann Rev Med, 59:237-50)。リツキシマブによって治療された患者は、治療法の中止か
ら数カ月以内にB細胞が回復することが報告されている。そのような回復が、抗B細胞性の
T細胞がインビボに存続する患者で起こるか否かはまだ明らかではない。
【0309】
TP53欠失を伴うCLLを有する患者では、標準療法の後に短期的な寛解が得られる(Dohne
r et al,, 1995, Blood, 85:1580-9)。同種骨髄移植は、進行CLLの患者における長期寛
解を誘導している唯一のアプローチである(Gribben et al., 2011, Biol Blood Marrow
Transplant, 17:Suppl:S63-S70)。しかし、その結果生じる強力な移植片対腫瘍効果には
、慢性移植片対宿主病の頻度が高いことによる高度の病態が伴い、これは高齢患者‐CLL
に罹患していることが典型的である‐では多くの場合、特に重症である(Gribben et al.
, 2011, Biol Blood Marrow Transplant, 17:Suppl:S63-S70;Sorror et al., 2008, Blo
od, 111:446-52)。本明細書に提示されたデータは、遺伝子改変された自己T細胞がこの
限界を克服しうる可能性を示唆する。
【0310】
腫瘍溶解症候群およびサイトカイン分泌の遅延発現と、それに相まった活発なインビボ
でのキメラ抗原受容体T細胞の増大および顕著な抗白血病活性は、CART19細胞の実質的お
よび持続的なエフェクター機能を指し示す証拠となるものである。本明細書に記載された
実験は、この療法の効力を強く示しており、強力なシグナル伝達ドメインと連結されたキ
メラ抗原受容体の形質導入を通じてCD19(および他の標的)を標的とするように遺伝子改
変された自己T細胞の詳細な研究の支えともなる。抗体媒介療法とは異なり、キメラ抗原
受容体改変T細胞はインビボで複製する潜在能力を有し、長期存続性は持続的な腫瘍制御
につながりうると考えられる。進行CLLの他の2人の患者もこのプロトコールに従ってCART
19輸注を受け、3人全員で腫瘍の奏効が得られた。これらの知見は、B細胞新生物に対する
CD19再誘導T細胞の継続的研究に正当な根拠を与えるものである。
【0311】
本明細書に引用された特許、特許出願および刊行物のそれぞれおよびすべての開示内容
は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。具体的な態様を参照しながら本発
明を開示してきたが、本発明の真の趣旨および範囲を逸脱することなく、本発明の他の態
様および変形物も当業者によって考案されうることは明らかである。添付された特許請求
の範囲は、そのようなすべての態様および等価な変形物を含むことを意図している。
【0312】
規則46.4に基づく説明書
条約第19条に基づく特許請求の範囲に対する補正の結果として、新たな請求の範囲第70
項~第89項が追加された。したがって、請求の範囲第1項~第89項が、本出願において出
願中である。
請求の範囲第1項から第69項までは変更がない。
新たな請求の範囲第70項~第89項は、本明細書において開示された特徴を説明している
。具体的には、独立請求項である特許請求の範囲第70項および第81項は、SEQ ID NO:9を
説明している。新たな請求の範囲第70項~第89項の裏づけは、とりわけ、ページ上では、
出願時の本明細書の、第87ページの表5における第1行~第31行、および
図12に見られる。
特許請求の範囲に対するこれらの補正によって、新規事項が追加されることはない。
本明細書に引用された特許、特許出願および刊行物のそれぞれおよびすべての開示内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。具体的な態様を参照しながら本発明を開示してきたが、本発明の真の趣旨および範囲を逸脱することなく、本発明の他の態様および変形物も当業者によって考案されうることは明らかである。添付された特許請求の範囲は、そのようなすべての態様および等価な変形物を含むことを意図している。
本発明は以下を提供する。
[1]
キメラ抗原受容体(CAR)をコードする単離された核酸配列であって、該CARが抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達領域およびCD3ζシグナル伝達ドメインを含み、該CD3ζシグナル伝達ドメインがSEQ ID NO:24のアミノ酸配列を含む、単離された核酸配列。
[2]
前記CARがSEQ ID NO:12のアミノ酸配列を含む、請求項1記載の単離された核酸配列。
[3]
SEQ ID NO:8の核酸配列を含む、請求項1記載の単離された核酸配列。
[4]
前記抗原結合ドメインが抗体またはその抗原結合フラグメントである、請求項1記載の単離された核酸配列。
[5]
前記抗原結合フラグメントがFabまたはscFvである、請求項4記載の単離された核酸配列。
[6]
前記抗原結合ドメインが腫瘍抗原と結合する、請求項1記載の単離された核酸配列。
[7]
前記腫瘍抗原が血液悪性腫瘍と関連する、請求項6記載の単離された核酸配列。
[8]
前記腫瘍抗原が固形腫瘍と関連する、請求項6記載の単離された核酸配列。
[9]
前記腫瘍抗原が、CD19、CD20、CD22、ROR1、メソテリン、CD33/IL3Ra、c-Met、PSMA、糖脂質F77、EGFRvIII、GD-2、NY-ESO-1 TCR、MAGE A3 TCR、およびこれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項6記載の単離された核酸配列。
[10]
前記共刺激シグナル伝達領域が、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、CD83と特異的に結合するリガンド、およびこれらの任意の組み合わせからなる群より選択される共刺激分子の細胞内ドメインを含む、請求項1記載の単離された核酸配列。
[11]
前記CD3ζシグナル伝達ドメインがSEQ ID NO:18の核酸配列によってコードされる、請求項1記載の単離された核酸配列。
[12]
抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達領域およびCD3ζシグナル伝達ドメインを含み、該CD3ζシグナル伝達ドメインがSEQ ID NO:24のアミノ酸配列を含む、単離されたキメラ抗原受容体(CAR)。
[13]
SEQ ID NO:12のアミノ酸配列を含む、請求項12記載の単離されたCAR。
[14]
前記抗原結合ドメインが抗体またはその抗原結合フラグメントである、請求項12記載の単離されたCAR。
[15]
前記抗原結合フラグメントがFabまたはscFvである、請求項14記載の単離されたCAR。
[16]
前記抗原結合ドメインが腫瘍抗原と結合する、請求項12記載の単離されたCAR。
[17]
前記腫瘍抗原が血液悪性腫瘍と関連する、請求項16記載の単離されたCAR。
[18]
前記腫瘍抗原が固形腫瘍と関連する、請求項16記載の単離されたCAR。
[19]
前記腫瘍抗原が、CD19、CD20、CD22、ROR1、メソテリン、CD33/IL3Ra、c-Met、PSMA、糖脂質F77、EGFRvIII、GD-2、NY-ESO-1 TCR、MAGE A3 TCR、およびこれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項16記載の単離されたCAR。
[20]
前記共刺激シグナル伝達領域が、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、CD83と特異的に結合するリガンド、およびこれらの任意の組み合わせからなる群より選択される共刺激分子の細胞内ドメインを含む、請求項12記載の単離されたCAR。
[21]
キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列を含む細胞であって、該CARが抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、および、SEQ ID NO:24のアミノ酸配列を含むCD3ζシグナル伝達ドメインを含む、細胞。
[22]
前記CARがSEQ ID NO:12のアミノ酸配列を含む、請求項21記載の細胞。
[23]
前記核酸がSEQ ID NO:8の核酸配列を含む、請求項21記載の細胞。
[24]
前記抗原結合ドメインが抗体またはその抗原結合フラグメントである、請求項21記載の細胞。
[25]
前記抗原結合フラグメントがFabまたはscFvである、請求項24記載の細胞。
[26]
前記抗原結合ドメインが腫瘍抗原と結合する、請求項21記載の細胞。
[27]
前記腫瘍抗原が血液悪性腫瘍と関連する、請求項26記載の細胞。
[28]
前記腫瘍抗原が固形腫瘍と関連する、請求項26記載の細胞。
[29]
前記腫瘍抗原が、CD19、CD20、CD22、ROR1、メソテリン、CD33/IL3Ra、c-Met、PSMA、糖脂質F77、EGFRvIII、GD-2、NY-ESO-1 TCR、MAGE A3 TCR、およびこれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項26記載の細胞。
[30]
前記共刺激シグナル伝達領域が、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、CD83と特異的に結合するリガンド、およびこれらの任意の組み合わせからなる群より選択される共刺激分子の細胞内ドメインを含む、請求項21記載の細胞。
[31]
前記CD3ζシグナル伝達ドメインがSEQ ID NO:18の核酸配列によってコードされる、請求項21記載の細胞。
[32]
T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)および調節性T細胞からなる群より選択される、請求項21記載の細胞。
[33]
前記抗原結合ドメインがその対応する抗原と結合した場合に抗腫瘍免疫を呈する、請求項21記載の細胞。
[34]
キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列を含むベクターであって、該CARが抗原結合ドメイン、共刺激シグナル伝達領域およびCD3ζシグナル伝達ドメインを含み、該CD3ζシグナル伝達ドメインがSEQ ID NO:24のアミノ酸配列を含む、ベクター。
[35]
前記CARがSEQ ID NO:12のアミノ酸配列を含む、請求項34記載のベクター。
[36]
CARをコードする単離された核酸配列がSEQ ID NO:8の核酸配列を含む、請求項34記載のベクター。
[37]
前記抗原結合ドメインが抗体またはその抗原結合フラグメントである、請求項34記載のベクター。
[38]
前記抗原結合フラグメントがFabまたはscFvである、請求項37記載のベクター。
[39]
前記抗原結合ドメインが腫瘍抗原と結合する、請求項34記載のベクター。
[40]
前記腫瘍抗原が血液悪性腫瘍と関連する、請求項39記載のベクター。
[41]
前記腫瘍抗原が固形腫瘍と関連する、請求項39記載のベクター。
[42]
前記腫瘍抗原が、CD19、CD20、CD22、ROR1、メソテリン、CD33/IL3Ra、c-Met、PSMA、糖脂質F77、EGFRvIII、GD-2、NY-ESO-1 TCR、MAGE A3 TCR、およびこれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項39記載のベクター。
[43]
前記共刺激シグナル伝達領域が、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、CD83と特異的に結合するリガンド、およびこれらの任意の組み合わせからなる群より選択される共刺激分子の細胞内ドメインを含む、請求項34記載のベクター。
[44]
前記CD3ζシグナル伝達ドメインがSEQ ID NO:18の核酸配列によってコードされる、請求項34記載のベクター。
[45]
哺乳動物において標的細胞集団または組織に対するT細胞媒介性免疫応答を刺激するための方法であって、CARを発現するように遺伝子改変された細胞の有効量を該哺乳動物に投与する段階を含み、該CARが抗原結合ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、および、SEQ ID NO:24のアミノ酸配列を含むCD3ζシグナル伝達ドメインを含み、該抗原結合ドメインが該標的細胞集団または組織を特異的に認識するように選択される、方法。
[46]
哺乳動物において抗腫瘍免疫を与える方法であって、CARを発現するように遺伝子改変された細胞の有効量を該哺乳動物に投与する段階を含み、該CARが抗原結合ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、および、SEQ ID NO:24のアミノ酸配列を含むCD3ζシグナル伝達ドメインを含み、それにより、該哺乳動物において抗腫瘍免疫を与える、方法。
[47]
腫瘍抗原の発現亢進と関連する疾患、障害または病状を有する哺乳動物を治療する方法であって、CARを発現するように遺伝子改変された細胞の有効量を該哺乳動物に投与する段階を含み、該CARが抗原結合ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、および、SEQ ID NO: 24のアミノ酸配列を含むCD3ζシグナル伝達ドメインを含み、それにより、該哺乳動物を治療する、方法。
[48]
前記細胞が自己T細胞である、請求項47記載の方法。
[49]
前記腫瘍抗原が、CD19、CD20、CD22、ROR1、メソテリン、CD33/IL3Ra、c-Met、PSMA、糖脂質F77、EGFRvIII、GD-2、NY-ESO-1 TCR、MAGE A3 TCR、およびこれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項47記載の方法。
[50]
慢性リンパ性白血病を有するヒトを治療する方法であって、CARを発現するように遺伝子操作されたT細胞を該ヒトに投与する段階を含み、該CARが抗原結合ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、および、SEQ ID NO:24のアミノ酸配列を含むCD3ζシグナル伝達ドメインを含む、方法。
[51]
前記ヒトが少なくとも1つの化学療法薬に対して抵抗性である、請求項50記載の方法。
[52]
前記慢性リンパ性白血病が治療抵抗性のCD19+白血病およびリンパ腫である、請求項50記載の方法。
[53]
癌と診断されたヒトにおいて、遺伝子操作されたT細胞の存続集団を生じさせる方法であって、CARを発現するように遺伝子操作されたT細胞を該ヒトに投与する段階を含み、該CARが抗原結合ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、および、SEQ ID NO:24のアミノ酸配列を含むCD3ζシグナル伝達ドメインを含み、該遺伝子操作されたT細胞の存続集団が投与後少なくとも1カ月間にわたって該ヒトの内部で存続する、方法。
[54]
前記遺伝子操作されたT細胞の存続集団が、前記ヒトに投与されたT細胞、該ヒトに投与されたT細胞の子孫、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1つの細胞を含む、請求項53記載の方法。
[55]
前記遺伝子操作されたT細胞の存続集団がメモリーT細胞を含む、請求項53記載の方法。
[56]
前記癌が慢性リンパ性白血病である、請求項53記載の方法。
[57]
前記慢性リンパ性白血病が治療抵抗性のCD19+白血病およびリンパ腫である、請求項56記載の方法。
[58]
前記遺伝子操作されたT細胞の存続集団が、投与後少なくとも3カ月間にわたって前記ヒトの内部で存続する、請求項53記載の方法。
[59]
前記遺伝子操作されたT細胞の存続集団が、投与後少なくとも4カ月間、5カ月間、6カ月間、7カ月間、8カ月間、9カ月間、10カ月間、11カ月間、12カ月間、2年間または3年間にわたって前記ヒトの内部で存続する、請求項53記載の方法。
[60]
前記慢性リンパ性白血病が治療される、請求項56記載の方法。
[61]
癌と診断されたヒトにおいて、遺伝子操作されたT細胞の集団を増大(expand)させる方法であって、CARを発現するように遺伝子操作されたT細胞を該ヒトに投与する段階を含み、該CARが抗原結合ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、および、SEQ ID NO:24のアミノ酸配列を含むCD3ζシグナル伝達ドメインを含み、投与された該遺伝子操作されたT細胞が、該ヒトにおいて子孫T細胞の集団を生成する、方法。
[62]
前記ヒトにおける前記子孫T細胞がメモリーT細胞を含む、請求項61記載の方法。
[63]
前記T細胞が自己T細胞である、請求項61記載の方法。
[64]
前記ヒトが少なくとも1つの化学療法薬に対して抵抗性である、請求項61記載の方法。
[65]
前記癌が慢性リンパ性白血病である、請求項61記載の方法。
[66]
前記慢性リンパ性白血病が治療抵抗性のCD19+白血病およびリンパ腫である、請求項65記載の方法。
[67]
前記子孫T細胞の集団が、投与後少なくとも3カ月間にわたって前記ヒトの内部で存続する、請求項61記載の方法。
[68]
前記子孫T細胞の集団が、投与後少なくとも4カ月間、5カ月間、6カ月間、7カ月間、8カ月間、9カ月間、10カ月間、11カ月間、12カ月間、2年間または3年間にわたって前記ヒトの内部で存続する、請求項61記載の方法。
[69]
前記癌が治療される、請求項61記載の方法。