(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056779
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】炭酸エステルの製造方法および炭酸エステル製造用触媒構造体
(51)【国際特許分類】
C07C 68/04 20060101AFI20240416BHJP
B01J 35/61 20240101ALI20240416BHJP
B01J 35/57 20240101ALI20240416BHJP
B01J 23/10 20060101ALI20240416BHJP
C07C 69/96 20060101ALI20240416BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240416BHJP
【FI】
C07C68/04 A
B01J35/61
B01J35/57 Z
B01J23/10 Z
C07C69/96 Z
C07B61/00 300
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024015888
(22)【出願日】2024-02-05
(62)【分割の表示】P 2020530178の分割
【原出願日】2019-07-08
(31)【優先権主張番号】P 2018130710
(32)【優先日】2018-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100156476
【弁理士】
【氏名又は名称】潮 太朗
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 公仁
(72)【発明者】
【氏名】新開 洋介
(72)【発明者】
【氏名】劉 紅玉
(72)【発明者】
【氏名】原田 英文
(72)【発明者】
【氏名】加藤 譲
(72)【発明者】
【氏名】森田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】大橋 亜珠香
(57)【要約】 (修正有)
【課題】酸化セリウムを含む十分な量の固体触媒を基材上に担持した触媒構造体を用いた際に、固体触媒の粉化および脱離が抑制され、かつ炭酸エステルの反応効率に優れた炭酸エステルの製造方法および炭酸エステル製造用触媒構造体を提供する。
【解決手段】本発明に係る炭酸エステルの製造方法は、触媒構造体および水和剤の存在下、一価アルコールおよび二酸化炭素を反応させて炭酸エステルを製造する工程を有し、前記触媒構造体は、基材と、前記基材の表面の少なくとも一部に形成され、固体触媒および無機バインダを含む触媒層とを含み、前記固体触媒は、酸化セリウムを含み、前記固体触媒の担持量が15g/m2以上200g/m2以下であり、前記無機バインダが、シリカおよび/またはアルミナを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒構造体および水和剤の存在下、一価アルコールおよび二酸化炭素を反応させて炭酸エステルを製造する工程を有し、
前記触媒構造体は、基材と、前記基材の表面の少なくとも一部に形成され、固体触媒および無機バインダを含む触媒層とを含み、
前記固体触媒は、酸化セリウムを含み、
前記固体触媒の担持量が15g/m2以上200g/m2以下であり、
前記無機バインダが、シリカおよび/またはアルミナを含む、炭酸エステルの製造方法。
【請求項2】
前記無機バインダが、シリカを含む、請求項1に記載の炭酸エステルの製造方法。
【請求項3】
さらに、前記触媒層と前記基材との間に形成された前記無機バインダからなる中間層を有する、請求項1または2に記載の炭酸エステルの製造方法。
【請求項4】
前記固体触媒の担持量が15g/m2以上150g/m2以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の炭酸エステルの製造方法。
【請求項5】
前記固体触媒の担持量が15g/m2以上70g/m2以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の炭酸エステルの製造方法。
【請求項6】
前記基材は、前記一価アルコールおよび前記二酸化炭素の流通経路となる連通孔を有し、
前記連通孔の表面に前記触媒層が形成されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の炭酸エステルの製造方法。
【請求項7】
前記固体触媒が、希土類元素の酸化物をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の炭酸エステルの製造方法。
【請求項8】
前記固体触媒が、ランタンの酸化物を含む、請求項7に記載の炭酸エステルの製造方法。
【請求項9】
前記触媒層の平均厚さが、12μm~180μmである、請求項1~8のいずれか一項に記載の炭酸エステルの製造方法。
【請求項10】
前記基材は、金属ハニカムである、請求項1~9のいずれか一項に記載の炭酸エステルの製造方法。
【請求項11】
前記水和剤が、ニトリル化合物を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の炭酸エステルの製造方法。
【請求項12】
前記水和剤が、2-シアノピリジンを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の炭酸エステルの製造方法。
【請求項13】
基材と、
前記基材の表面の少なくとも一部に形成され、固体触媒および無機バインダを含む触媒層とを含み、
前記固体触媒は、酸化セリウムを含み、
前記固体触媒の担持量が15g/m2以上200g/m2以下であり、
前記無機バインダが、シリカおよび/またはアルミナを含む、炭酸エステル製造用触媒構造体。
【請求項14】
前記固体触媒の担持量が15g/m2以上150g/m2以下である、請求項13に記載の炭酸エステル製造用触媒構造体。
【請求項15】
請求項13または14に記載の炭酸エステル製造用の触媒構造体と、
前記触媒構造体に対して、少なくとも一価アルコールおよび二酸化炭素を供給する供給路とを備えた炭酸エステル製造用装置。
【請求項16】
前記炭酸エステル製造用装置が、一価アルコールおよび二酸化炭素から生成した炭酸エステルの通過する排出路をさらに有する、請求項15に記載の炭酸エステル製造用装置。
【請求項17】
複数の前記触媒構造体が、直列に配置されている、請求項15または請求項16に記載の炭酸エステル製造用装置。
【請求項18】
複数の前記触媒構造体が並列に配置された一体型構造体を有する、請求項15または請求項16に記載の炭酸エステル製造用装置。
【請求項19】
請求項15~18のいずれか一項に記載の炭酸エステル製造用装置に、前記一価アルコールおよび二酸化炭素を含む反応基質を、0.005以上5000以下の空間速度(毎分)で循環させる工程を含む、炭酸エステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸エステルの製造方法および炭酸エステル製造用触媒構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化への関心が高まっている。温室効果ガス排出削減等の国際的枠組みを協議するCOP(Conference of the Parties)では、世界共通の長期目標として産業革命前からの平均気温の上昇を2℃よりも十分下方に保持することを目的とし、排出ピークをできるだけ早期に抑え、最新の科学に従って急激に削減することが目標とされている。COP21パリ協定では、全ての国が長期の温室効果ガス低排出開発戦略を策定・提出するように努めるべきとされており、我が国では長期的目標として2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指すことが策定された。人為的に排出されている温室効果ガスの中では、二酸化炭素の影響量が最も大きいと見積もられており、二酸化炭素削減のための対策技術開発が各所で精力的に行われている。対策技術の一つとして、排出された二酸化炭素を有用物に変換する幾つかの試みが提案されているが、二酸化炭素を別の物質に変換させるためには大きなエネルギーが必要であり、反応を促進させるための有効な触媒の開発が望まれていた。また、二酸化炭素削減に資する技術とするためには、需要の多い有用物を製造する必要がある。
【0003】
ところで、炭酸エステルは、オクタン価向上のためのガソリン添加剤、排ガス中のパーティクルを減少させるためのディーゼル燃料添加剤等の添加剤として使われるほか、ポリカーボネートやウレタン、医薬・農薬等の樹脂・有機化合物を合成する際のアルキル化剤、カルボニル化剤、溶剤等、あるいはリチウム電池の電解液、潤滑油原料、ボイラー配管の防錆用の脱酸素剤の原料として使われるなど、非常に有用な化合物である。
【0004】
炭酸エステルは、炭酸CO(OH)2の2原子の水素のうち1原子または2原子をアルキル基またはアリール基で置換した化合物の総称であり、RO-C(=O)-OR’(R、R’は飽和炭化水素基や不飽和炭化水素基を表す)の構造を有する。したがって、このような化合物を、炭酸と等価な化合物である二酸化炭素から効率よく製造することが可能であれば、二酸化炭素の削減のための有用な方策となり得る。
【0005】
二酸化炭素と液体のアルコールからの炭酸エステルの直接合成においては、酸化セリウム(CeO2)粉末や酸化亜鉛(ZrO2)粉末等の固体触媒とニトリルの水和剤との共存下で飛躍的に早く反応が進行することが知られている。特に、固体触媒として酸化セリウム粉末を用いた場合は、より早く反応が進行することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
触媒を触媒担持構造体に固定化して溶液の反応系で使用することについては、原料液の供給速度を高くすることや、触媒の原料中への溶出を防ぐことを目的としたいくつかの例が知られている(例えば特許文献2~5)。これらの例においては、触媒を触媒担持構造体に固定する際に、メッキ、溶射、蒸着、及び、塗布液による塗布などの手法を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-162523号公報
【特許文献2】特開平6-145113号公報
【特許文献3】国際公開第2016/093329号
【特許文献4】特開2013-646号公報
【特許文献5】特開2016-59901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、本発明者らは、酸化セリウム粉末が反応中に粉化しやすいという問題に直面した。そのため、酸化セリウム粉末をそのまま反応に用いた場合、粉末同士、あるいは反応器壁との接触で割れなどによる微粉化が生じるために、炭酸エステルなどの生成物と分離することが困難である。また、酸化セリウム粉末を反応器にそのまま充填した場合、反応基質の流体が反応容器中において偏流を起こしてしまう結果、工業プロセスに求められる早い液流速下の反応において、高い反応効率を得ることが困難である。
【0009】
そこで、本発明者らは、酸化セリウム粉末の反応中の粉化を抑制するため、酸化セリウムを含む触媒をハニカム等の基材(触媒担持構造体)に固定化して、触媒構造体として反応系で使用することを検討した。しかしながら、特許文献2~5に開示される方法では、触媒を基材上に最大でも5~10μmの厚み程度となる量しか固定できなかった。
そして、特許文献2~5に開示される方法で酸化セリウム粉末を基材上に担持させた場合、基材表面の単位面積当たりの触媒固定量が反応の律速となり、反応効率を向上させることは難しいことが判明した。さらに、基材上に多量の触媒を担持した場合、触媒が基材から剥離・離脱してしまう問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、酸化セリウムを含む十分な量の固体触媒を基材上に担持した触媒構造体を用いた際に、固体触媒の粉化および脱離が抑制され、かつ、長時間にわたり炭酸エステルの生成反応の効率に優れた炭酸エステルの製造方法を提供することにある。また、本発明の目的として、長時間反応を継続させた際に触媒活性が低下した場合でも、熱処理などで機能を回復させる再生処理を施すことができ、引き続き長期間に亘って継続使用することが容易となる炭酸エステル製造用触媒構造体を提供することも挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討する中で、固体触媒の基材上への固定方法を検討し、アルミナおよび/またはシリカを含む無機バインダとともに基材上に固体触媒を固定した場合、比較的多量の固体触媒を基材上に比較的強固に固定できることを知見した。そして、このような無機バインダを用いて固体触媒を固定した場合、固体触媒の活性が十分に維持されていることも見出した。検討により得られた以上のような知見を踏まえ、さらに検討を行った結果、本発明者らは、本発明に至った。
本発明の要旨は、以下に記す通りである。
【0012】
(1) 触媒構造体および水和剤の存在下、一価アルコールおよび二酸化炭素を反応させて炭酸エステルを製造する工程を有し、
前記触媒構造体は、基材と、前記基材の表面の少なくとも一部に形成され、固体触媒および無機バインダを含む触媒層とを含み、
前記固体触媒は、酸化セリウムを含み、
前記固体触媒の担持量が15g/m2以上200g/m2以下であり、
前記無機バインダが、シリカおよび/またはアルミナを含む、炭酸エステルの製造方法。
(2) 前記無機バインダが、シリカを含む、(1)に記載の炭酸エステルの製造方法。
(3) さらに、前記触媒層と前記基材との間に形成された前記無機バインダからなる中間層を有する、(1)または(2)に記載の炭酸エステルの製造方法。
(4) 前記触媒層において前記固体触媒の担持量が15g/m2以上150g/m2以下である、(1)~(3)のいずれか一項に記載の炭酸エステルの製造方法。
(5) 前記触媒層において前記固体触媒の担持量が15g/m2以上70g/m2以下である、(1)~(3)のいずれか一項に記載の炭酸エステルの製造方法。
(6) 前記基材は、前記一価アルコールおよび前記二酸化炭素の流通経路となる連通孔を有し、
前記連通孔の表面に前記触媒層が形成されている、(1)~(5)のいずれか一項に記載の炭酸エステルの製造方法。
(7) 前記固体触媒が、希土類元素の酸化物をさらに含む、(1)~(6)のいずれか一項に記載の炭酸エステルの製造方法。
(8) 前記固体触媒が、ランタンの酸化物を含む、(7)に記載の炭酸エステルの製造方法。
(9) 前記触媒層の平均厚さが、12μm~150μmである、(1)~(8)のいずれか一項に記載の炭酸エステルの製造方法。
(10) 前記基材は、金属ハニカムである、(1)~(9)のいずれか一項に記載の炭酸エステルの製造方法。
(11) 前記水和剤が、ニトリル化合物を含む、(1)~(10)のいずれか一項に記載の炭酸エステルの製造方法。
(12) 前記水和剤が、2-シアノピリジンを含む、(1)~(11)のいずれか一項に記載の炭酸エステルの製造方法。
(13) 基材と、
前記基材の表面の少なくとも一部に形成され、固体触媒および無機バインダを含む触媒層とを含み、
前記固体触媒は、酸化セリウムを含み、
前記固体触媒の担持量が15g/m2以上200g/m2以下であり、
前記無機バインダが、シリカおよび/またはアルミナを含む、炭酸エステル製造用触媒構造体。
(14) 前記固体触媒の担持量が15g/m2以上150g/m2以下である、(13)に記載の炭酸エステル製造用触媒構造体。
(15) 上記(13)または(14)に記載の炭酸エステル製造用触媒構造体と、
前記触媒構造体に対して、少なくとも一価アルコールおよび二酸化炭素を供給する供給路とを備えた炭酸エステル製造用装置。
(16) 前記炭酸エステル製造用装置が、一価アルコールおよび二酸化炭素から生成した炭酸エステルの通過する排出路をさらに有する、(16)に記載の炭酸エステル製造用装置。
(17) 複数の前記触媒構造体が、直列に配置されている、上記(15)または(16)に記載の炭酸エステル製造用装置。
(18) 複数の前記触媒構造体が並列に配置された一体型構造体を有する、上記(15)または(16)に記載の炭酸エステル製造用装置。
(19) 上記(15)~(18)のいずれか一項に記載の炭酸エステル製造用装置に、前記一価アルコールおよび二酸化炭素を含む反応基質を、0.005以上5000以下の空間速度(毎分)で循環させる工程を含む、炭酸エステルの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、酸化セリウムを含む十分な量の固体触媒を基材上に担持した触媒構造体を用いた際に、固体触媒の粉化および脱離が抑制され、かつ炭酸エステルの生成反応の効率に優れた炭酸エステルの製造方法および炭酸エステル製造用触媒構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る炭酸エステル製造用触媒構造体の部分拡大断面図である。
【
図2】本発明の他の実施形態に係る炭酸エステル製造用触媒構造体の部分拡大断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る炭酸エステル製造用触媒構造体と比較用の触媒構造体とを用いた炭酸エステル生成反応の結果(触媒活性保持率の変化)を示すグラフである。
【
図4】触媒構造体を含む炭酸エステル製造用装置の具体例を示す側面図である。
【
図5】触媒構造体を含む炭酸エステル製造用装置の具体例を示す平面図(A)、及び、底面図(B)である。
【
図6】工場規模で使用に適した触媒構造体を含む炭酸エステル製造用装置の形状の一例を示す概略図である。
【
図7】炭酸エステル製造用装置に用いられるハニカム状の基材(金属ハニカム)の具体例として、外形が円筒形のものを示す図(
図7(A))と直方体形状のものを示す図(
図7(B))である。
【
図8】炭酸エステル製造用装置等の各装置を含む炭酸エステル製造設備の具体例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また、図中の各構成要素は、説明の容易化のために適宜強調されており、図中の各構成要素の比率、寸法は、実際の各構成要素の比率、寸法を表すものではない。
【0016】
<1.炭酸エステル製造用触媒構造体>
まず、本発明の炭酸エステル製造用触媒構造体の好適な実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る炭酸エステル製造用触媒構造体の部分拡大断面図である。本実施形態に係る炭酸エステル製造用触媒構造体1(以下単に「触媒構造体」ともいう)は、水和剤の存在下、二酸化炭素および一価アルコールからの炭酸エステルの生成を触媒する。
【0017】
そして、本実施形態に係る炭酸エステル製造用触媒構造体1は、基材10と、基材10の表面の少なくとも一部に形成され、固体触媒40および無機バインダ50を含む触媒層20とを含み、固体触媒40は酸化セリウムを含み、触媒層20において固体触媒40の担持量は15g/m2以上200g/m2以下であり、無機バインダ50はシリカおよび/またはアルミナを含む。また、本実施形態においては、炭酸エステル製造用触媒構造体1は、触媒層20と基材10との間に、無機バインダ50からなる中間層30を備えている。
【0018】
(1.1.基材)
基材10は、固体触媒40を担持するための触媒担持用構造体である。このように基材10の表面上に固体触媒40を担持させることにより、粉末状の触媒をそのまま使用する場合と比較して、反応時における反応容器内での固体触媒40の偏在が抑制され、発生する反応熱での反応容器内の局所的な温度バラつきを小さくすることができる。このため、本実施形態によれば、生成物を高効率で合成することが可能である。
さらには、長時間反応を継続させた際に固体触媒40の活性が低下した場合でも、反応容器から取り出した後に熱処理などで機能を回復させる再生処理を施すことができ、引き続き長期間に亘って継続使用することが容易となる。また、詳細を後述するように、固体触媒40の成分を調整することにより、触媒機能を長時間、良好に維持することが可能となり、再生処理の頻度を低下させることができる。
【0019】
基材10としては、固体触媒40を含む触媒層20を形成可能であれば、特に限定されず、任意の形状、寸法のものを用いることができる。特に、基材10は、一価アルコールおよび二酸化炭素の流通経路となる連通孔を有していることが好ましい。基材10がこのような連通孔を有することにより、原料としての一価アルコールおよび二酸化炭素の拡散効率が向上するとともに、炭酸エステルおよび副生した水等の生成物の回収が容易となる。さらに、連通孔の表面に触媒層20を形成することにより、触媒層20と原料としての一価アルコールおよび二酸化炭素との接触面積が大きくなり、炭酸エステルの生成反応の効率が向上する。
【0020】
基材10としては、例えば、フォーム等の多孔質状、コルゲート状、ハニカム状(モノリス状)、メッシュ状、円柱状、円筒状等の形状を有することができる。基材10は、特に、多孔質状、フォーム状、ハニカム状またはメッシュ状であることが好ましい。これらは、連通孔を備える形状であるため、上述した連通孔を備えることによる効果を好適に得ることができる。特に、基材10がハニカム状である場合、基材10の物理的強度を優れたものとし、基材10の形状安定性を優れたものとしつつ、連通孔の比表面積を比較的大きなものとすることができる。
【0021】
また、ハニカムの連通孔の断面形状としても特に限定されず、三角形、四角形、六角形等の多角形、サイン波等の各種波形状(フィン形状)等であることができる。
【0022】
基材10の連通孔の孔径は、特に限定されないが、例えば0.3~6mm、好ましくは0.5~5mmである。また、基材10における連通孔の数(セル数)も特に限定されず、例えば25~1200セル/インチ2(3.9~186セル/センチ2)、好ましくは100~600セル/インチ2(15.5~93セル/センチ2)である。
【0023】
また、基材10を構成する材料としては、特に限定されず、ステンレス鋼、アルミニウム鋼等の金属材料や、コージェライト、ムライト、炭化ケイ素、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、セリア等の各種セラミック材料であることができる。
【0024】
基材10としては、金属材料またはセラミックで構成されたハニカム状の基材、すなわちセラミックハニカムまたは金属ハニカム(メタルハニカム)、特に金属ハニカムが好ましい。基材10の材料としてステンレス鋼(マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト系、オーステナイト・フェライトの二相系、及び析出強化鋼)等の金属材料を使用することにより、基材10の熱伝導性を高いものとすることができる。このため、反応で発生した熱を原料物質の移動に伴い、容易に反応容器外へ奪い去ることができ、触媒槽内の温度を均一かつ安定に保持して、触媒層20の高い触媒活性を安定的に長期に亘り発揮させることが可能となる。一方で、基材10をセラミックで形成した場合、触媒層20の基材10への密着性がより一層向上する。なお、触媒層を含まない状態の金属ハニカムの具体例を
図6に示した。
【0025】
(1.2.触媒層)
触媒層20は、後述する中間層30を介し、基材10の表面の少なくとも一部に形成されている。ただし詳細を後述するように、触媒層20が直接、基材10の表面上に積層されていてもよい。
通常、触媒層20は、基材10の連通孔の内壁面に形成される。触媒層20は、酸化セリウムを含む固体触媒40を含み、二酸化炭素と一価アルコールからの炭酸エステルの生成反応を触媒する。
【0026】
触媒層20において、固体触媒40は、少なくとも酸化セリウムを含む。酸化セリウムは、二酸化炭素と一価アルコールからの炭酸エステルの生成反応における触媒活性に優れている。一方で、酸化セリウムは、一般には粉化しやすいが、本実施形態においては後述する無機バインダ50により、基材10に強固に固定されていることから、離脱が抑制されており、粉化が防止されている。
【0027】
また、固体触媒40は、酸化セリウム以外の1種以上の触媒を含んでもよい。このような触媒としては、二酸化炭素と一価アルコールとの反応を触媒するものであればよく、例えば、スズ化合物、タリウム化合物、ニッケル化合物、バナジウム化合物、銅化合物、アルカリ炭酸塩、酸化ジルコニウム、酸化チタン、セリウム以外の希土類元素(特にその酸化物)等が挙げられる。これらのうち、触媒活性が高いことから、酸化ジルコニウムが好ましい。この場合において、酸化セリウムの固体触媒40中における割合は、例えば5原子量%以上、好ましくは20原子量%以上である。また、酸化セリウムの固体触媒40中における割合は、100原子量%であっても構わない。
【0028】
酸化セリウムの触媒を、炭酸エステルの直接合成反応を連続的に用いると、時間とともに触媒活性が低下し、触媒の再生処理が、比較的、高い頻度で必要とされる場合もあるところ、触媒成分を調整すれば、高い触媒活性が維持され得る。例えば、助触媒成分として、セリウム以外の希土類元素を添加すると、固体触媒40の触媒活性が、炭酸エステルの生成反応において長期間にわたり高いままで維持される傾向にある。
セリウムを除く希土類元素として、スカンジウム、イットリウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムが挙げられる。これらの希土類元素のうち、ランタン、プラセオジム、及び、ガドリニウムを固体触媒40に添加することが好ましく、特に、ランタンの使用が好ましい。なお、これらの金属元素は、主として酸化物として、固体触媒40中に含まれるか、もしくは固体触媒40の表層に存在する。
【0029】
固体触媒40における助触媒成分、例えば、希土類元素の酸化物の割合は、固体触媒全体の重量を基準として、0.01~10質量%であることが好ましく、0.05~5.0質量%であることがより好ましく、0.1~2.5質量%であることがさらに好ましく、0.2~2.0質量%、例えば1質量%であることが特に好ましい。
【0030】
また、触媒層20において固体触媒40の担持量は、15g/m2以上200g/m2以下である。これにより、触媒構造体1による触媒反応の反応効率を高いものとすることができる。これに対し、固体触媒40の担持量が15g/m2未満である場合、触媒構造体1による触媒反応の反応効率が十分でない恐れがある。一方で、固体触媒40の担持量が200g/m2超である場合、触媒層20深部への原料基質の拡散が障害となって、反応効率が却って低下する可能性がある。本発明者らは、固体触媒40の担持量と反応効率とが単純な正の相関を有するものではなく、高い反応効率を達成するために適切な固体触媒40の担持量の範囲が存在することを見出した。触媒構造体1がこのような比較的多量の固体触媒40を担持することにより、高い原料供給速度でも高い反応性を保持することができ、さらに反応器を比較的小型にすることができ、プラントコストを抑えることが可能である。
【0031】
触媒構造体1による触媒反応の反応効率を高くする観点から、触媒層20における固体触媒40の担持量は、例えば、10g/m2以上200g/m2以下、好ましくは15g/m2以上150g/m2以下、より好ましくは15g/m2以上70g/m2以下、さらに好ましくは15g/m2以上30g/m2以下である。
同様に、触媒構造体1による触媒反応の反応効率を高くする観点から、触媒層20における酸化セリウムの担持量は、例えば、10g/m2以上200g/m2以下、好ましくは15g/m2以上150g/m2以下、より好ましくは15g/m2以上70g/m2以下、さらに好ましくは15g/m2以上30g/m2以下である。
【0032】
なお、上述したような範囲の担持量で固体触媒40を担持した場合、触媒層20の厚さは、平均して、およそ12μm~150μm程度となり、特許文献2~5において用いられた方法によって形成される触媒層の厚み(最大5μm程度)よりも大幅に大きい。従来、このように大量の固体触媒40の反応活性を阻害することなく、担持することは困難であったが、本実施形態においては、後述する無機バインダ50により、この問題を解決している。触媒層20の厚さの平均値は、12μm~180μm程度であっても良く、好ましくは、15μm~150μm程度である。
【0033】
また、基材10の貫通孔に形成される触媒層20の厚さについては、その貫通孔の形状に起因して必ずしも均一ではない。しかしながら、ドクターブレード法等により板状の基材上に均一な触媒層を形成し、当該触媒層中の固体触媒の量と厚さに関する相関関係を得ることにより、貫通孔が形成されている場合であっても、担持された固体触媒40の重量に基づき基材10の触媒層20の平均の厚さを、見かけの厚さとして求めることができる。なお、本明細書において、触媒層20の(平均の)厚さは、いずれも上記の方法によって求めた。
【0034】
また、製造時に使用する固体触媒40の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば0.001μm以上100μm以下、好ましくは0.005μm以上100μm以下、より好ましくは0.01μm以上80μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上60μm以下、特に好ましくは1.0μm以上30μm以下であり、より一段と好ましくは、3.0μm以上15μm以下である。これにより、固体触媒40の比表面積を比較的大きなものとして触媒反応の効率を向上させるとともに、固体触媒40の無機バインダ50からの離脱を防止することができる。
【0035】
ここで、本明細書中において「平均粒子径」とは、湿式のレーザ回折・散乱法による、体積基準50%粒子径(D50)をいう。また、分散性が悪い等の理由でレーザ回折・散乱法による測定が困難な場合には、走査型電子顕微鏡観察やX線回折測定からの算出、画像イメージング法等の手法を適用することができる。
【0036】
また、触媒層20は、上述した固体触媒40とともに、当該固体触媒40を固定する無機バインダ50を含む。そして、無機バインダ50は、シリカおよび/またはアルミナを含む。本発明者らは、鋭意検討した結果、無機バインダ50として、シリカおよび/またはアルミナを用いた場合、固体触媒40の触媒活性を阻害することなく、固体触媒40を比較的多量に担持できることを見出した。またこのような無機バインダ50により、酸化セリウムを含む固体触媒40を基材10に強固に固定することが可能となり、反応中における固体触媒40の離脱や剥離が抑制される。この結果、触媒構造体1を、高い活性を維持したまま長期に使用することができる。また、無機バインダを用いると、反応温度や再生処理温度が比較的高温になっても、触媒層20が変質することなく、触媒層20と基材10との間の密着性を高く維持することが可能である。
【0037】
無機バインダ50に含まれ得るシリカおよびアルミナとしては、特に限定されず、任意の化合物を前駆体として形成されるシリカ、アルミナであることができる。また、これらのシリカ、アルミナは、非晶性であってもよいし結晶性であってもよい。
【0038】
さらに、無機バインダ50は、シリカおよびアルミナ以外の成分を含んでもよい。このような成分としては、マグネシウム、カルシウム等や、無機バインダ50の製造に伴って混入し得る不純物等が挙げられる。また、無機バインダ50においては、シリカおよびアルミナの合計量の割合が好ましくは20質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。無機バインダ50は、さらに好ましくは本質的にシリカおよび/またはアルミナからなり、特に好ましくはシリカおよび/またはアルミナからなる。
【0039】
また、無機バインダ50中において、通常シリカおよびアルミナは、微小の粒子の集合体(凝集体)として存在しており、このため無機バインダ50は多孔質である。このように無機バインダ50が多孔質であることにより、触媒層20において表面に露出していない固体触媒40の表面へ、原料としての二酸化炭素と一価アルコールが到達することができる。
【0040】
無機バインダ50の中の固形成分の粒子の比表面積は、特に限定されないが、例えば1m2/g以上1000m2/g以下、好ましくは10m2/g以上500m2/g以下であることができる。無機バインダ50の比表面積が上記の範囲であることにより、無機バインダ50中における二酸化炭素および一価アルコールの拡散速度を十分なものとし、固体触媒40表面上における反応を促進させることができるとともに、固体触媒40をより一層強固に触媒層20に固定することができる。比表面積は、BET法により測定することができる。
【0041】
なお、触媒層20における無機バインダ50の中の固形成分の担持量は、例えば1g/m2以上100g/m2以下、より好ましくは1g/m2以上40g/m2以下である。これにより、固体触媒40の露出面積を大きくして反応効率を向上させることができるとともに、固体触媒40を強固に基材10に固定することができる。
【0042】
また、触媒層20において、無機バインダ50の中の固形成分は、固体触媒1gに対し、例えば0.01g以上5g以下、好ましくは0.10g以上1.0g以下の割合で含まれる。これにより、固体触媒40の露出面積を大きくして反応効率を向上させることができるとともに、固体触媒40を強固に基材10に固定することができる。
【0043】
ここで、無機バインダ50の中の固形成分は、バインダ中に意図的に導入された無機酸化物粒子やバインダ固化物を意味する。無機バインダ中の固形成分の質量割合は、無機バインダのみを乾燥、硬化させた後の残渣分の質量を、乾燥、硬化前の無機バインダ質量で除すことで求められる。従って、無機バインダ中の固形成分の質量は、(固形成分の質量割合)×(無機バインダ塗布質量)で算出することができる。
【0044】
(1.3.中間層)
中間層30は、無機バインダ50からなる層であり、基材10と触媒層20との間に配置されている。このように、固体触媒40を含む触媒層20と基材10との間に無機バインダ50からなる中間層30が形成されることにより、触媒層20の基材10への密着性がより一層向上し、固体触媒40の触媒構造体1からの離脱が防止される。また、このような中間層30を備えることにより、触媒層20との密着性が本来低い材質の基材10を使用した場合であっても、触媒層20と基材10との間の密着性を十分なものとすることができる。
【0045】
なお、無機バインダ50の構成は、上述した触媒層20と同様であることができるため、説明を省略する。ただし、触媒層20の無機バインダ50と中間層30の無機バインダとは、その構成において異なっていてもよいし、同一であってもよい。
【0046】
また、中間層30において無機バインダ50の中の固形成分の担持量は、例えば1g/m2以上100g/m2以下、より好ましくは10g/m2以上50g/m2以下である。以上の範囲により、中間層30の凝集破壊を防止しつつ、触媒層20と基材10との間の密着性をより一層向上させることができる。
【0047】
以上説明した、本実施形態に係る炭酸エステル製造用触媒構造体1は、シリカおよび/またはアルミナを含む無機バインダ50により、比較的多量の固体触媒40が触媒層20において強固に固定されている。そして、無機バインダ50は、固体触媒40による触媒反応を阻害しない。この結果、炭酸エステル製造用触媒構造体1を用いて炭酸エステルを製造する際には、炭酸エステルの生成反応の効率が優れている。また、固体触媒40は、無機バインダ50により強固に基材10に固定されていることから、炭酸エステル製造用触媒構造体1からの離脱が防止されており、この結果、粉化も防止される。
【0048】
このような炭酸エステル製造用触媒構造体1は、工業プロセスにおいて求められる早い液流速下での反応においても、高い反応効率を得ることができる。また、固体触媒40の離脱、粉化が防止されていることから、工業プロセスにおいて求められる過酷な環境下においても、繰り返しの使用が可能であり、耐久性に優れる。
【0049】
以上、本実施形態に係る炭酸エステル製造用触媒構造体1について説明した。なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
図2は、本発明の他の実施形態に係る炭酸エステル製造用触媒構造体の部分拡大断面図である。
図2に示す炭酸エステル製造用触媒構造体1Aは、基材10上に触媒層20を備えている。そして、上述した炭酸エステル製造用触媒構造体1とは異なり、無機バインダ50からなる中間層が省略されている。このように、中間層を省略した場合であっても、シリカおよび/またはアルミナを含む無機バインダ50により、触媒層20中の固体触媒40は、十分に固定されており、炭酸エステル製造用触媒構造体1Aからの離脱、およびこれに伴う粉化が防止されている。
【0050】
なお、触媒層20と中間層30との境界は、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡、EDS(エネルギー分散型X線分光器)による元素分析等により観察することができる。
【0051】
また、触媒層20中の固体触媒40の担持量は、触媒層20中の金属成分(例えば、セリウム)の存在割合を元素分析により同定することにより、触媒層面積と触媒層20全体の担持質量を基に算出することができる。具体的には、固体触媒40の成分が酸化セリウムの場合、以下の式で求められる。
【0052】
(固体触媒の担持量)=[(触媒層の質量)×(触媒層中のセリウムの質量割合)×((酸化セリウム質量)/(セリウム質量))]/(触媒層面積)
【0053】
また、この値は、固体触媒40が存在する部分の基材10の単位面積における、固体触媒40の質量と同義であり、中間層30の有無によらず、求めることができる。
【0054】
金属成分を同定する元素分析法としては、走査型高周波誘導結合プラズマ法(ICP)を用いることができる。触媒層20と中間層30とにおける無機バインダ50の担持量は、触媒層20や中間層30を形成するために用いた無機バインダ中の固形成分割合を、上記の元素分析による金属成分割合から同様に算出することが可能である。ここで、触媒層面積とは、固体触媒40(触媒層20)が塗布(形成)されている部分の面積を指し、例えば、基材10がハニカム形状で、外周部を触媒層20で塗布しない場合、内部の連通孔を形成するとともに触媒層20が塗布されている基材10全体の表面積とする。ここで、中間層30がある場合も、固体触媒40の担持量は同一の考え方で求められる。
【0055】
<2.炭酸エステル製造用触媒構造体の製造方法>
次に、本実施形態に係る炭酸エステル製造用触媒構造体の製造方法について、炭酸エステル製造用触媒構造体1の製造方法を中心に説明する。
【0056】
まず、中間層30を形成するための、バインダ原液を用意する。バインダ原液は、適当な液性媒体、例えば水やアルコールに、無機バインダ50の材料、例えばアルミナ、シリカやこれらの前駆体を溶解または分散させることにより得ることができる。なお、バインダ原液における無機バインダ50の材料の濃度は特に限定されず、バインダ原液の基材10への付与方法に応じて適宜設定することができる。
【0057】
次に、基材10を用意し、基材10上に中間層30を形成する。具体的には、基材10上にバインダ原液を付与し、乾燥、硬化することにより行うことができる。バインダ原液の付与は、いかなる方法で行ってもよく、例えばバーコーター、ドクターブレード、ロールコーター、コンマコーター、ダイコーティング、グラビアコーティング、スピンコーティング、スリットコーティング等による塗工、インクジェット、噴霧、浸漬等により行うことができる。特に、基材10が貫通孔を有する場合、浸漬が、具体的にはバインダ原液に基材10を浸漬することが好適である。なお、中間層30の膜厚を増加させるために、バインダ液の付与を複数回、繰り返し行なってもよい。
【0058】
次いで、基材10上に付与されたバインダ原液を乾燥、硬化させ、中間層30を形成する。乾燥温度は、液性媒体が除去可能な温度であればよく、媒体に沸点に合わせて適宜設定可能であり、水の場合であれば例えば60℃以上100℃以下であることができる。また、乾燥時間は乾燥状態に合わせ、適宜設定可能である。硬化温度は、バインダ中の硬化発現成分の硬化温度に合わせて適宜設定可能であり、シロキサン系であれば、例えば120℃以上200℃以下であることができる。また、硬化時間も特に限定されず、適宜設定可能である。
【0059】
次に、触媒層20を形成するための、触媒層形成用混合液を用意する。触媒層形成用混合液は、適当な液性媒体、例えば水やアルコールに、固体触媒40、および無機バインダ50の材料、例えばアルミナ、シリカやこれらの前駆体を溶解または分散させることにより得ることができる。
【0060】
次に、基材10に積層された中間層30上、または基材10上に触媒層20を形成する。具体的には、中間層30の表面上に、または基材10の表面上に、触媒層形成用混合液を付与し、乾燥、硬化することにより行うことができる。触媒層形成用混合液の付与は、いかなる方法で行ってもよく、例えばバーコーター、ドクターブレード、ロールコーター、コンマコーター、ダイコーティング、グラビアコーティング、スピンコーティング、スリットコーティング等による塗工、インクジェット、噴霧、浸漬等により行うことができる。特に、基材10が貫通孔を有する場合、浸漬により、具体的には触媒層形成用混合液に基材10を浸漬することが好適である。なお、触媒層20の膜厚を増加させるために、触媒層形成用混合液の付与を複数回、繰り返し行なってもよい。
【0061】
次いで、基材10上に付与された触媒層形成用混合液を乾燥、硬化させ、触媒層20を形成する。これにより、本実施形態に係る触媒構造体1が得られる。乾燥温度は、液性媒体が除去可能な温度であればよく、媒体に沸点に合わせて適宜設定可能であり、水の場合であれば例えば60℃以上100℃以下であることができる。また、乾燥時間は乾燥状態に合わせ、適宜設定可能である。硬化温度は、バインダ中の硬化発現成分の硬化温度に合わせて適宜設定可能であり、シロキサン系であれば、例えば120℃以上200℃以下であることができる。また、硬化時間も特に限定されず、適宜設定可能である。
【0062】
なお、基材10に中間層30、または直接触媒層20を塗布(形成)する前に、基材10表面と中間層30または触媒層20との界面の密着性が十分でない場合がある。そこで、以下の前処理工程を行うことが好ましい。具体的には、まず、基材10表面の油分を除去するためにアルコールやアセトン等の揮発性のある有機溶剤で洗浄、乾燥する。その後、基材10をアルカリ性水溶液へ浸漬して水洗、乾燥する。その後、金属基材を酸性水溶液へ浸漬して水洗、乾燥する。あるいは、基材10を薬液処理、熱処理あるいはプラズマ処理、UV処理、コロナ処理してもよい。
【0063】
<3.炭酸エステルの製造方法>
次に、上述した炭酸エステル製造用触媒構造体を用いた炭酸エステルの製造方法について、好適な実施形態に基づき説明する。本実施形態に係る炭酸エステルの製造方法は、上述したような触媒構造体1および水和剤の存在下、一価アルコールおよび二酸化炭素を反応させて炭酸エステルを製造する工程を有する。
【0064】
まず、本実施形態に係る炭酸エステルの製造方法の説明に先立ち、本方法において生じる反応の機構について説明する。まず、触媒構造体1は、以下の式(1)で表される一価アルコールと二酸化炭素との反応を触媒する。
2ROH + CO2 ⇔ (RO)2CO + H2O (1)
【0065】
ここで、触媒構造体1の固体触媒40の触媒機構としては、塩基性点上でR-O-M(Mは固体触媒40)の形でアルコールが解離吸着し、CO2との間でRO-C(=O)-O…Mを形成し、他方、酸性点上ではHO-R…Mの形でアルコールが吸着し、両吸着種の間でRO-C(=O)-ORが生成される機構が考えられる。
【0066】
一方で、上記の式(1)で表される反応は可逆反応である。したがって、副生する水が存在する場合、生成した炭酸エステルと再度反応し、一価アルコールと二酸化炭素とに戻る。このため、副生した水を除去するために、水和剤を用いて以下の式(2)で表される水和反応を行う。
H2O + R’CN ⇒ R’C(=O)-NH2 (2)
【0067】
以上の式(2)で表される反応により水が除去される結果、式(1)における逆反応が抑制され、炭酸エステルの生成反応が促進される。なお、理由は明らかではないが、固体触媒40は、上記の式(2)の水和反応についても触媒活性を有していると考えられる。以上、本方法において生じる反応の機構について説明した。
【0068】
上述したように、本実施形態に係る炭酸エステルの製造方法は、上述したような触媒構造体1および水和剤の存在下、一価アルコールおよび二酸化炭素を反応させて炭酸エステルを製造する工程を有する。
【0069】
具体的には、反応容器中に触媒構造体1を設置し、反応容器中に水和剤、一価アルコールおよび二酸化炭素を導入することにより、炭酸エステルの反応が行われる。
【0070】
一価アルコールとしては、第一級アルコール、第二級アルコールおよび第三級アルコールから選択される1種または2種以上の化合物を用いることができる。
【0071】
具体的には、一価アルコールとして、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、n-ペンチルアルコール、n-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、ヘプタノール、ヘキサノール、フェノール等が挙げられる。
【0072】
一価アルコールの種類は、目的とする炭酸エステルの化学構造や、得られる炭酸エステルの使用方法に合わせて適宜選択することができる。
【0073】
水和剤としては、水と反応して水を除去可能であれば特に限定されないが、上記式(2)で示したようにシアノ基含有化合物が挙げられ、1種を単独でまたは2種以上で組み合わせて用いることができる。具体的には、例えばアセトニトリル、シアノエタン、1-シアノ-プロパン、2-シアノ-プロパン、シアノエチレン、フェニルアセトニトリル、ベンゾニトリル、2-シアノピリジン、2-シアノピラジン、2-シアノピリミジン、チオフェン-2-カルボニトリル、2-フルオニトリル(2-シアノフラン)等が挙げられる。特に、水の除去効率、すなわち水和反応速度の観点から2-シアノピリジンが好ましい。
【0074】
水和剤の使用量は、一価アルコールの使用量に応じて設定することができる。例えば、水和剤は、使用される一価アルコール1モルに対し0.01モル以上2モル以下、好ましくは0.1モル以上0.5モル以下である。
【0075】
炭酸エステルの生成反応の温度としては、特に限定されないが、50℃以上300℃以下とすることが好ましい。反応温度が50℃未満の場合は、その反応基質の種類によっては、反応速度が低く、炭酸エステル合成反応、水和剤による水和反応共にほとんど進行せず、炭酸エステルの生産性が低い場合がある。また反応温度が300℃を超える場合は、各反応の反応速度は高くなるが、その反応基質の種類によっては、炭酸エステルや水和反応により得られるアミドのモノマーが他のモノマーに変性したり、高分子化を起こしやすくなるため、炭酸エステルの収率が低くなる場合がある。反応温度は、さらに好ましくは100℃以上200℃以下である。但し、この反応温度は固体触媒40の種類や量、原料(一価アルコール、水和剤)の量や比により異なると考えられるため、適宜、最適条件を設定することが望ましい。
【0076】
反応圧力としては、特に限定されないが、0.1MPa以上20MPa以下(絶対圧)とすることが好ましい。反応圧力が0.1MPa(絶対圧)未満の場合は、減圧装置が必要となり、設備が複雑且つコスト高になるだけでなく、減圧にするための動力エネルギーが必要となり、エネルギー効率が悪くなる傾向がある。また反応圧力が20MPaを超える場合は、水和剤の種類によっては、水和剤による水和反応が進行しにくくなって炭酸エステルの収率が悪くなるばかりでなく、昇圧に必要な動力エネルギーが必要となり、エネルギー効率が悪くなる場合がある。また、炭酸エステルの収率を高くする観点から、反応圧力は0.1MPa以上10MPa以下(絶対圧)であることがより好ましい。
【0077】
反応時間としては特に限定されず、反応基質(原料)の種類や水和物の種類、さらに副生物の生成速度に応じて適宜設定できるが、例えば5分以上24時間以下、好ましくは15分以上8時間以下、さらに好ましくは30分以上6時間以下である。なお、連続式の反応装置を用いる場合、原料の流速を考慮して、原料が反応容器内に導入されてから反応容器から排出されるまでの時間の合計を反応時間(滞留時間)とすることができる。また、触媒構造体に反応基質を循環させて反応を行う場合、循環流量は以下の式(3)で表される空間速度で定義される。
空間速度(毎分) = 循環流量(m3/分) ÷ 触媒構造体の体積(m3) (3)
空間速度の値としては特に限定されないが、例えば毎分0.005以上5000以下、好ましくは毎分0.05以上500以下、さらに好ましくは毎分0.5以上50以下である。空間速度が小さすぎる場合は、CO2が触媒構造体通過前に消費されるため反応効率が悪くなり、副反応が増える可能性がある。一方、空間速度が大きいほどポンプのサイズが大きくなり、エネルギー効率が悪くなる恐れがある。原料を含む反応基質を、上述の範囲、例えば0.005以上5000以下の空間速度(毎分)で炭酸エステル製造用装置に循環させる工程により、炭酸エステルを効率的に製造できる。
【0078】
以上により、炭酸エステルを効率よく生産することができる。また、本実施形態においては、上述した本実施形態に係る触媒構造体1を用いていることから、固体触媒40の触媒構造体1からの離脱および粉化が防止されている。したがって、工業プロセスにおいて求められる過酷な環境下においても、触媒構造体1を繰り返し使用することができる。さらに、触媒成分の調整によって固体触媒40の活性を長時間にわたりより良好に維持することもできる。
【0079】
<4.炭酸エステル製造用装置>
次に、炭酸エステル製造用装置について、好適な実施形態に基づき説明する。炭酸エステル製造用装置は、上述の炭酸エステル製造用触媒構造体を含む。具体例を
図4及び
図5に示すように、炭酸エステル製造用装置60は、筐体(ケーシング)62を有する。筐体62は、例えば、SUS管等で形成され、筐体62の内部に炭酸エステル製造用触媒構造体1が収納される。炭酸エステル製造用装置60は、複数の炭酸エステル製造用触媒構造体1を有することが好ましく、これらの炭酸エステル製造用触媒構造体1は、例えば直列に配置される。
【0080】
炭酸エステル製造用装置60は、炭酸エステル製造用触媒構造体1に炭酸エステル製造のための原料である一価アルコールと二酸化炭素を供給可能な供給路64を備えている。
図4の矢印Aが示すように、供給路64を介して上述の原料が炭酸エステル製造用装置60に供給されると、炭酸エステル製造用触媒構造体1の内部で炭酸エステル生成反応が進行する。そして、炭酸エステル生成反応により生じた炭酸エステルは、
図4の矢印Bが示すように、未反応の原料等とともに、排出路70を通り、炭酸エステル製造用装置60の外に排出される。
【0081】
炭酸エステル生成反応の温度を調整するために、炭酸エステル製造用装置60には熱媒流体(図示せず)が供給される。熱媒流体により、炭酸エステル製造用触媒構造体1の昇温、及び、反応温度の調整が可能となる。このため、炭酸エステル製造用装置60には、熱媒流体を供給する熱媒体供給管66が設けられており、
図4の矢印Cが示すように、熱媒体供給管66の入口66Aから炭酸エステル製造用装置60に供給された熱媒流体は、
図4の矢印Dが示すように、出口66Bを介して炭酸エステル製造用装置60の外部に排出される。その後、熱媒流体は所定の温度に調整された後、熱媒体供給管66の入口66Aを介して再び炭酸エステル製造用装置60に供給される。
【0082】
なお、炭酸エステル製造用装置60の形態は、上述のものに限定されない。例えば、上述の供給路を介して供給される原料を含む流体の流量を大きくするために、炭酸エステル製造用装置を大型化に適した形状に設計しても良い。このように、炭酸エステル製造用装置のサイズが大きくなる場合は、
図6に例示されるように、炭酸エステル製造用触媒構造体1を並列に配列したものを一体とした一体型構造体2を高さ方向に直列に配置することもある。このような構造を有する炭酸エステル製造用装置60Aにおいては、長期間運転後に劣化したと考えられる触媒構造体1が配置されている一体型構造体2のみの交換が容易となり、触媒にかかる装置の運転費用を最小にできる。炭酸エステル製造用触媒構造体1を並列に配列したものを一体とした構造体2には、流体が必ず触媒構造体1を通過できるようにするためのシール構造を施すことが好ましい。また、炭酸エステル製造用装置60A内における流体の流動の均一性を確保するために、炭酸エステル製造用触媒構造体1を並列に配列したものを一体とした構造体2を高さ方向に直列に配置する際に、一段毎に空間を確保することが好ましい。炭酸エステル製造用装置断面に密に触媒構造体1を配置して装置を最小化するために、
図7(B)に示すような直方体形状の触媒構造体1Bを採用してもよい。このように、直方体形状の触媒構造体1Bを用いると、炭酸エステル製造装置の断面に複数の触媒構造体1Bを密集させることができ、収納スペースのロスを最小化できる。ただし、触媒構造体1Bの形状もまた特に限定はされず、触媒構造体1Bは、直方体形状以外の形状であっても良い。また、触媒構造体1Bは、多孔質状、フォーム状、ハニカム状またはメッシュ状の構造を有することが好ましい。
一体型構造体2は、筐体62の一部であって複数の触媒構造体1Bを支持するための固定板62Aを含むことが好ましい。固定板62Aには、触媒構造体1Bの外形に対応した枠62Bが形成されている。触媒構造体1Bは、
図6の矢印によって示されるように、枠62Bに嵌め込まれて、着脱自在に固定される。また、触媒構造体1Bの代わりに、触媒の担持されていない直方体ハニカム状の構造体1Cを一体型構造体2に加えても良い。このように、直方体状のハニカム構造を有するものの、触媒が担持されていない構造体1Cは、炭酸エステル製造用装置60Aに含まれる触媒の総量が過剰になることを防止するために採用され得る。数十個の触媒構造体1B、例えば、
図6に例示されるように、30~40個ほどの触媒構造体1Bを含む一体型構造体2において、1、2個等の若干数の触媒が担持されていない構造体1Cを配置することにより、触媒の分布量を適切なレベルに調節でき、副生物の生成量を抑えることができる。
なお上述のように、触媒構造体1が直列のみならず並列に配置されている構造、すなわち、複数の触媒構造体1を並列に並べた一体型構造体2が複数、直列に配置された構造を有する炭酸エステル製造用装置60Aは、原料を含む流体の流量が、例えば、500m
3/h以上、好ましくは、550m
3/h以上となる反応系において好適に用いられる。また、これらの値よりも小さい流量の流体を供給する場合、例えば10個以下の触媒構造体1を直列にのみ並べた炭酸エステル製造用装置60が用いられる。
【0083】
<5.炭酸エステル製造設備>
次に、炭酸エステル製造用装置等を備えた炭酸エステル製造設備について、好適な実施形態に基づき説明する。
図7に示されるように、炭酸エステル製造設備100は、炭酸エステル製造用装置60、炭酸エステル製造用装置60に原料を供給する原料の供給系、及び、生成された炭酸エステルを回収する回収系を含む。
【0084】
供給系としてのCO2貯留設備72の内圧をCO2昇圧用ポンプ73によって上昇させると、CO2貯留設備72内の二酸化炭素がバッファータンク74に供給される。一方、原料槽76にて貯留されていた原料である液体の一価アルコール、及び、2-シアノピリジンが、原料投入用ポンプ78によって原料槽76からバッファータンク74に供給される。このように、別系統でバッファータンク74に供給された二酸化炭素と一価アルコール等が、バッファータンク74で混合される。混合液は、第1フィルター80を介して炭酸エステル製造用装置60に供給される。
【0085】
炭酸エステル製造用装置60では、炭酸エステル製造用触媒構造体1により炭酸エステル生成反応が促進され、原料である一価アルコールの種類に応じた炭酸エステルが生成される。こうして生じた炭酸エステルは、第2フィルター82を介して回収系に供給される。回収系では、炭酸エステルを含む液体と、未反応の原料である一価アルコールと2-シアノピリジン等を含む液体とが分離され、反応液循環用ポンプ84の作用により、炭酸エステルを含む液体は抜液用ポンプ86に送られるとともに、一価アルコールを含む液体はバッファータンク74に戻される。抜液用ポンプ86において、炭酸エステル以外の液体が除去され、純度の高い炭酸エステルが製造される。
【実施例0086】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例及び比較例に限定されない。
【0087】
(実施例1)
1.触媒構造体の製造
酸化セリウム(ソルベイ・スペシャルケム・ジャパン製、HSA-20SP、平均粒径約10μm、不純物濃度0.02%以下)を873Kで空気雰囲気下、3時間焼成し、粉末状の固体触媒を得た。具体的には、20gの酸化セリウムをマッフル炉(ヤマト科学株式会社製FO310)中のるつぼに入れ、昇温速度10℃/minで873Kまで昇温させてから焼成した。こうして得られた固体触媒と、シリカバインダ(朝日化学工業製、スミセラム、P-750(主にシロキサン系バインダと水の混合物))と、水とを重量比で2.05:1:1となるように秤量して、触媒層調製用混合液を50g調製し、50ccビーカーに満たした。
また、触媒層と触媒被覆基材の間の中間層を作成するため、前記シリカバインダ原液50gを50ccビーカーに満たした。触媒被覆基材として、直径19mmφ、長さ20mm、100セル/インチ2の円筒形メタルハニカム(鋼種:YUS205M1、板厚:50μm、フィン(波箔)形状:サイン波、新日鉄住金マテリアルズ製)を準備した。このメタルハニカムを上述のシリカバインダ原液の入ったビーカーに入れ、液中にハニカム全体が浸かるのを確認した後、引き上げ、余分な液を窒素ガスを用いて吹き飛ばした。こうして得られたハニカム塗布品を80℃で乾燥後、150℃で硬化して、バインダ成分のシリカが約30g/m2付着した中間層被覆ハニカムを得た。この場合の中間層膜厚は、約20μmと推定された。
その後、本ハニカムを前記酸化セリウムとバインダの混合液の入ったビーカーに入れ、液中にハニカム全体が浸かるのを確認した後、引き上げ、余分な液を、窒素ガスを用いて吹き飛ばした。こうして得られたハニカム塗布品を80℃で乾燥後、150℃で硬化することで、バインダ成分のシリカおよび酸化セリウムを中間層の表面に塗布して、最終的に酸化セリウムが約15g/m2付着した、実施例に係る触媒構造体を得た。この場合の触媒層膜厚は、約14μmと推定された。また、バインダ成分のシリカについて単独で上記と同様に乾燥、硬化してBET法により比表面積を測定したところ、59m2/gであった。
【0088】
2.炭酸エステルの製造
こうして得られた触媒構造体を5個(酸化セリウム付着量として1個あたり0.3g)用い、固定床反応器となる1インチのSUS管の中央になるように固定した(
図4及び
図5参照)。1-プロパノールと2-シアノピリジンがモル比で6:1になるよう、前者を323g、後者を93g秤量して混合した混合液を、循環ポンプを用いて上述の固定床反応器に150ml/minの量で供給しながら、配管内にCO
2を導入してパージした後、全体が絶対圧で1.0MPaとなるように昇圧した。また、ヒーターで132℃となるように昇温し、目的の温度に達した時間を反応開始時間として6時間反応を進行させた。132℃で6時間反応させた後、反応器を冷却し、室温まで冷えたら常圧まで減圧して内部標準物質の1-ヘキサノールを加え、生成物を採取して、GC(ガスクロマトグラフィー)で分析した。
【0089】
合成反応の反応度合は、生成物である炭酸ジプロピル(以下、「DPrC」ともいう)の収率であるDPrC収率、および、DPrCと共に副生する水と、2-シアノピリジン(以下、「2-CP」ともいう)の水和物の2-ピコリンアミド(以下、「2-PA」ともいう)以外の生成物を副生物とした場合の、副生物とDPrCのモル比を、各成分濃度より、以下の式で算出した。ここで、副生物は、プロピルカーバメート、プロピルピコリネート、プロピルピリジン-2-カルボキシミデートなどである。
【0090】
アルコール(mol)/ニトリル基(mol)≧2の場合:
DPrC収率(mol%)=((DPrCモル量)/(ニトリル基の仕込みモル量))×100
【0091】
アルコール(mol)/ニトリル基(mol)<2の場合:
DPrC収率(mol%)=(2×(DPrCモル量)/(1-プロパノールの仕込みモル量))×100
【0092】
副生物/DPrC(mol%)=(副生物各成分のモル量の総和)/(DPrCモル量)×100
【0093】
その結果、本条件では、DPrC収率は、55mol%と高い収率になる一方、副生物/DPrCは1.0mol%に抑えられた。また、反応した後でも酸化セリウム粉末は基材から剥離せず、高い密着性を有していた。さらに、本構造体を焼成させる処理を経て繰り返し数回、上述の反応条件下で使用した場合、反応成績はほとんど変わらず、酸化セリウム粉末も基材から剥離していないことが確認された。
【0094】
具体的には、触媒の再焼成を経て繰り返し使用したことによる反応効率の低下の有無、及び、触媒の剥離の有無について、以下の基準に沿って評価したところ、実施例1ではこれらはいずれも認められなかった。なお、触媒の再焼成は、使用済みの触媒構造体を炭酸ジアルキル合成に使用したものと同じ種類のアルコールで洗浄した後、耐熱皿上に乗せた状態で、マッフル炉にてアルコールの爆発限界以下になるよう空気中の酸素濃度を空気に窒素ガスを混合することにより調整し、300℃で3時間焼成することで行った。触媒の再焼成は、触媒構造体を反応器から取り出さず反応器に固定したまま、マッフル炉を使用すること以外は前述と同様の方法により行うことも出来る。
【0095】
(反応効率の低下の有無)
炭酸エステル収率が初期使用時と比較して5mol%以上、低下した場合、反応効率の低下が「有り」とし、5mol%未満であった場合、反応効率の低下は「無し」と評価した。
(剥離の有無)
反応後の触媒構造体の重量が、反応前の重量である約8.80gと比較して0.2g以上低下した場合、触媒の剥離が「有り」とし、0.2g未満であった場合、触媒の剥離は「無し」と評価した。
なお、反応効率の低下の有無、及び、反応と焼成による触媒の剥離の有無については、後述の各実施例、比較例でも同様の方法で評価した。
【0096】
(実施例2~4)
メタルハニカムを酸化セリウム粉末の入った塗布液に複数回浸漬を繰り返すことにより、酸化セリウムを約30g/m2、70g/m2、150g/m2付着させた以外は、すべて実施例1と同様にして実施例2~4に係る触媒構造体を作成した。こうして得られた各構造体の触媒層膜厚は、各々、約20μm、約50μm、約100μmと推定された。
【0097】
各触媒構造体を用いて反応評価した結果、実施例2に係る30g/m2付着の触媒構造体では、DPrC収率は、57mol%と高い収率になる一方、副生物/DPrCは1.2mol%に抑えられた。また、実施例3に係る70g/m2付着の触媒構造体では、DPrC収率は、52mol%と高い収率になる一方、副生物/DPrCは1.4mol%に抑えられた。また、実施例4に係る150g/m2付着の触媒構造体では、DPrC収率は、42mol%と高い収率になる一方、副生物/DPrCは2.7mol%に抑えられた。また、いずれの構造体も、反応した後でも酸化セリウム粉末は基材から剥離せず、高い密着性を有していた。さらに、各構造体を実施例1と同様に再焼成させる処理を経て繰り返し数回使用した場合、反応成績はほとんど変わらず、酸化セリウム粉末も基材から剥離していないことが確認された。
【0098】
(実施例5)
実施例1と同じ酸化セリウム粉末へシリカバインダ(朝日化学工業製、スミセラム、P-700-D(主に平均粒径約5μmのシリカ粉末とシロキサン系バインダと水の混合物))と水を重量比で2:0.95:1.5となるように秤量して、触媒層調製用混合液を50g調製し、50ccビーカーに満たした。それ以外は、すべて実施例2と同様にして実施例5に係る30g/m2付着の触媒構造体を作成した。この場合の触媒層膜厚は、約20μmと推定された。本構造体を用いて反応評価した結果、DPrC収率は、54mol%と高い収率になる一方、副生物/DPrCは0.9mol%に抑えられた。また、反応した後でも酸化セリウム粉末は基材から剥離せず、高い密着性を有していた。
さらに、本構造体を実施例1と同様に再焼成させる処理を経て繰り返し数回使用した場合、反応成績はほとんど変わらず、酸化セリウム粉末も基材から剥離していないことが確認された。具体的には、実施例5に係る触媒構造体について、上記の反応性評価後に573Kで空気雰囲気下、3時間焼成することにより再生処理をした後、再度反応評価を行った。その結果、DPrC収率は54mol%、副生物/DPrCは0.9mol%となり実施例5における最初の評価と同様の結果を示した。また、反応した後でも酸化セリウム粉末は基材から剥離せず、高い密着性を有していた。
【0099】
(実施例6、7)
メタルハニカム基材として、直径19mmφ、長さ20mm、200セル/インチ2および300セル/インチ2の円筒形メタルハニカム(鋼種:YUS205M1、板厚:50μm、フィン(波箔)形状:サイン波、新日鉄住金マテリアルズ製)を用い、酸化セリウム付着量が30g/m2となるようにするほかは、すべて実施例1と同様にして実施例6および7に係る触媒構造体を作成した。この場合の触媒層膜厚は、いずれも約11μmと推定された。各構造体を用いて反応評価した結果、実施例6に係る200セル/インチ2の触媒構造体では、DPrC収率は、58mol%と高い収率になる一方、副生物/DPrCは1.1mol%に抑えられた。また、実施例7に係る300セル/インチ2の触媒構造体では、DPrC収率は、59mol%と高い収率になる一方、副生物/DPrCは1.0mol%に抑えられた。また、いずれの構造体も、反応した後でも酸化セリウム粉末は基材から剥離せず、高い密着性を有していた。さらに、各構造体を実施例1と同様に再焼成させる処理を経て繰り返し数回使用した場合、反応成績はほとんど変わらず、酸化セリウム粉末も基材から剥離していないことが確認された。
【0100】
(実施例8)
実施例1と同じ酸化セリウム粉末へシリカバインダ(朝日化学工業製、スミセラム、P-700-D(主に平均粒径約5μmのシリカ粉末とシロキサン系バインダと水の混合物))と水を重量比で2:0.95:1.5となるように秤量して、触媒層調製用混合液を50g調製し、50ccビーカーに満たした。予め、触媒層と触媒被覆基材の間の中間層となるシリカバインダの塗布を行わない以外は、すべて実施例2と同様にして30g/m2付着の実施例8に係る触媒構造体を作成した。この場合の触媒層膜厚は、約20μmと推定された。本構造体を用いて反応評価した結果、DPrC収率は、54mol%と高い収率になる一方、副生物/DPrCは0.9mol%に抑えられた。反応した後でも酸化セリウム粉末は基材から剥離せず、高い密着性を有していた。しかし、本構造体を実施例1と同様に再焼成させる処理を経て繰り返し数回使用した場合、反応成績はほとんど変わらなかったが、酸化セリウム粉末の一部が基材から剥離していることが確認された。ただしこの剥離は問題のない程度であった。
【0101】
(実施例9)
以下のように、上述の各実施例とは異なる触媒成分を採用した。
すなわち、硝酸セリウムと硝酸ジルコニウムをセリウムが20原子量%となるように溶解させた溶液に水酸化ナトリウムを導入して沈殿物を生成させた後、この沈殿物を濾過、水洗した後、1273Kで空気雰囲気下、3時間焼成した。その後、篩を用いて整粒し、平均粒径が約10μm、不純物濃度が0.1%以下の酸化セリウムジルコニウム粉末を得た。それ以外は、すべて実施例2と同様にして30g/m2付着の触媒構造体を作成した。この場合の触媒層膜厚は、約20μmと推定された。本構造体を用いて反応評価した結果、DPrC収率は、48mol%と高い収率になる一方、副生物/DPrCは0.8mol%に抑えられた。反応した後でも酸化セリウムジルコニウム粉末は基材から剥離せず、高い密着性を有していた。さらに、本構造体を実施例1と同様に再焼成させる処理を経て繰り返し数回使用した場合、反応成績はほとんど変わらず、酸化セリウムジルコニウム粉末も基材から剥離していないことが確認された。
【0102】
(実施例10~14)
実施例1と同様にして、触媒構造体を製造した。製造した触媒構造体を用い、反応評価の際、1-プロパノールの代わりに、一級アルコールであるメタノール、エタノール、n-ブタノール、二級アルコールであるイソプロパノール、三級アルコールであるtert-ブチルアルコールを用いるほかはすべて実施例1と同様にして評価を行った。その結果、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジブチル、炭酸ジイソプロピル、炭酸ジターシャリーブチルの収率は、各々、56mol%、55mol%、52mol%、48mol%、42mol%となる一方、副生物/各炭酸エステルは0.8mol%、0.9mol%、1.0mol%、1.4mol%、1.8mol%に抑えられた。また、いずれの場合も反応後に酸化セリウム粉末は基材から剥離せず、高い密着性を有していた。さらに、実施例1と同様に再焼成させる処理を経て、構造体をいずれの条件で繰り返し数回使用した場合も、反応成績はほとんど変わらず、酸化セリウム粉末も基材から剥離していないことが確認された。
【0103】
(実施例15~17)
実施例5に係る触媒構造体を使用し、反応圧力を2.0MPa、4.0MPa、8.0MPaとし、それ以外は全て実施例3と同様にして反応評価を行った。その結果、DPrC収率はそれぞれ、55mol%、55mol%、54mol%と高い収率になる一方、副生物/DPrCはそれぞれ、0.7mol%、0.6mol%、0.5mol%に抑えられた。また、反応した後でも酸化セリウム粉末は基材から剥離せず、高い密着性を有していた。さらに、実施例1と同様に再焼成させる処理を経て、本構造体をいずれの条件で繰り返し数回使用した場合も、反応成績はほとんど変わらず、酸化セリウム粉末も基材から剥離していないことが確認された。
【0104】
(実施例18)
酸化セリウム(第一稀元素製、HS、平均粒径約5μm、不純物濃度0.02%以下)を873Kで空気雰囲気下、3時間焼成し、粉末状の固体触媒を得た。その粉末を用い、酸化セリウム付着量として200g/m2とする以外はすべて実施例1と同様にして触媒構造体を作成した。この場合の触媒層膜厚は、約140μmと推定された。本構造体を用いて反応評価した結果、本条件では、DPrC収率は、40mol%となった。一方、副生物/DPrCは2.9mol%に抑えられた。また、反応した後でも酸化セリウム粉末は基材から剥離せず、高い密着性を有していた。さらに、本構造体を実施例1と同様に再焼成させる処理を経て繰り返し数回使用した場合、反応成績はほとんど変わらず、酸化セリウム粉末も基材から剥離していないことが確認された。
【0105】
(実施例19)
ハニカム基材としてSUS304を用いる以外はすべて実施例1と同様にして触媒構造体を作成し、反応評価を行った。その結果、本条件では、DPrC収率は、51mol%となった。一方、副生物/DPrCは1.2mol%に抑えられた。また、反応した後でも酸化セリウム粉末は基材から剥離せず、高い密着性を有していた。さらに、本構造体を実施例1と同様に再焼成させる処理を経て繰り返し数回使用した場合、反応成績はほとんど変わらず、酸化セリウム粉末も基材から剥離していないことが確認された。
【0106】
(実施例20)
ハニカム基材としてセラミック(日本ガイシ製、400セル/インチ2の円筒形、商品名:ハニセラム)を用いる以外はすべて実施例1と同様にして触媒構造体を作成し、反応評価を行った。その結果、本条件では、DPrC収率は、50mol%となった。一方、副生物/DPrCは1.2mol%に抑えられた。また、反応した後でも酸化セリウム粉末は基材から剥離せず、高い密着性を有していた。さらに、本構造体を実施例1と同様に再焼成させる処理を経て繰り返し数回使用した場合、反応成績はほとんど変わらず、酸化セリウム粉末も基材から剥離していないことが確認された。
(実施例21)
無機バインダとして、シリカゾル(日揮触媒化成製)を用いる以外はすべて実施例1と同様にして触媒構造体を作成し、反応評価を行った。その結果、本条件では、DPrC収率は、54mol%となった。一方、副生物/DPrCは1.1mol%に抑えられた。また、反応した後でも酸化セリウム粉末は基材から剥離せず、高い密着性を有していた。さらに、本構造体を実施例1と同様に再焼成させる処理を経て繰り返し数回使用した場合、反応成績はほとんど変わらず、酸化セリウム粉末も基材から剥離していないことが確認された。
【0107】
(実施例22)
無機バインダとして、アルミナゾル(日産化学製)を用いる以外はすべて実施例1と同様にして触媒構造体を作成し、反応評価を行った。その結果、本条件では、DPrC収率は、51mol%となった。一方、副生物/DPrCは1.2mol%に抑えられた。また、反応した後でも酸化セリウム粉末は基材から剥離せず、高い密着性を有していた。さらに、本構造体を実施例1と同様に再焼成させる処理を経て繰り返し数回使用した場合、反応成績はほとんど変わらず、酸化セリウム粉末も基材から剥離していないことが確認された。
【0108】
(実施例23)
水和剤としてベンゾニトリルを用いる以外はすべて実施例1と同様にして触媒構造体を作成し、反応評価を行った。その結果、本条件では、DPrC収率は、40mol%となった。一方、副生物/DPrCは2.8mol%に抑えられた。また、反応した後でも酸化セリウム粉末は基材から剥離せず、高い密着性を有していた。さらに、構造体を実施例1と同様に再焼成させる処理を経て本条件で繰り返し数回使用した場合、反応成績はほとんど変わらず、酸化セリウム粉末も基材から剥離していないことが確認された。
【0109】
(比較例1)
酸化セリウム粉末を塗布した後の窒素ガスの吹付圧力を高くして、最終的に酸化セリウムの付着量が8g/m2となった以外は、すべて実施例1と同様にして触媒構造体を作成した。こうして得られた構造体の触媒層膜厚は、約6μmと推定された。本構造体を用いて反応評価した結果、本条件では、DPrC収率は、30mol%にととどまった。一方、副生物/DPrCは3.6mol%まで上昇した。尚、反応後、酸化セリウム粉末は基材から剥離せず、高い密着性を有していた。
【0110】
(比較例2)
酸化セリウムの付着量を250g/m2とする以外はすべて実施例1と同様にして触媒構造体を作成した。こうして得られた構造体の触媒層膜厚は、約180μmと推定された。本構造体を用いて反応評価した結果、本条件では、DPrC収率は、22mol%にとどまった。一方、副生物/DPrCは4.5mol%まで上昇した。尚、反応後、酸化セリウム粉末は基材からの一部剥離が見られ、密着性は十分ではなかった。
【0111】
以上の結果を表1~表4にまとめて示す。
なお、各表において、「金属ハニカム1」は、100セル/インチ2の円筒形メタルハニカム(鋼種:YUS205M1、板厚:50μm、フィン(波箔)形状:サイン波、新日鉄住金マテリアルズ製)を、「金属ハニカム2」は、200セル/インチ2の円筒形メタルハニカム(鋼種:YUS205M1、板厚:50μm、フィン(波箔)形状:サイン波、新日鉄住金マテリアルズ製)を、「金属ハニカム3」は、300セル/インチ2の円筒形メタルハニカム(鋼種:YUS205M1、板厚:50μm、フィン(波箔)形状:サイン波、新日鉄住金マテリアルズ製)を、「金属ハニカム4」は、100セル/インチ2の円筒形メタルハニカム(鋼種:SUS304、板厚:50μm、フィン(波箔)形状:サイン波、新日鉄住金マテリアルズ製)を、「セラミックハニカム」は、400セル/インチ2の円筒形セラミクスハニカム(日本ガイシ製、商品名:ハニセラム)を、それぞれ示す。
また、各表において、「シリカ1」は、スミセラム、P-750(朝日化学工業製)由来のシリカを、「シリカ2」は、スミセラム、P-700-D(朝日化学工業製)由来のシリカを、「シリカ3」は、シリカゾル(日揮触媒化成製)由来のシリカを、「アルミナ」は、アルミナゾル(日産化学製)由来のアルミナを、それぞれ示す。
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
以上、実施例1~23においては、炭酸エステルが収率よく生産され、副生物の生成も抑制されていた。さらに、実施例1~23に係る触媒構造体は、繰り返しの使用においても反応効率(触媒活性)の低下が抑制されており、また、固体触媒の脱離も抑制されていた。
【0117】
これに対し、比較例1、2においては、担持した固体触媒量が多すぎまたは少なすぎた結果、炭酸エステルの収率が低く、また副生物も多く生成していた。さらに、固体触媒を多量に担持させた比較例2においては、固体触媒の剥離、離脱による反応効率の低下が観察された。
【0118】
また、固体触媒を基材に担持させずに、実施例1と同様にして反応すると、粉末の固体触媒がさらに粉化してフィルターを閉塞して運転が継続できなかった。
【0119】
(実施例24)
実施例2に係る、酸化セリウムが30g/m2付着した触媒構造体を用い、連続流通反応による評価を行った。バッファータンクを準備し、反応に用いたのと同一組成の液を445g充填した。そこから、反応器へ111g/hの速度で反応液を送液すると共に、同一量の液を反応器から抜き出した。ここでは、反応器内での反応液の滞留時間が240分であり、実施例1~7の場合の2/3であった。
【0120】
その結果、反応時間が6時間、12時間、18時間、22時間経過後の各々のDPrC収率は、いずれもほぼ29mol%で安定していた。その時点での副生物/DPrCは、0.8mol%、1.0mol%、1.0mol%、1.0mol%と飽和して安定した状態であることが確認された。また、反応した後でも酸化セリウム粉末は基材から剥離せず、高い密着性を有していた。さらに、本構造体を繰り返し数回使用した場合、反応成績はほとんど変わらず、酸化セリウム粉末も基材から剥離していないことが確認された。以上より、本発明に係る触媒構造体が、原料の流速の早い連続式の反応器においても使用可能であることが分かった。
【0121】
(実施例25)
以下のように、上述の各実施例とは異なる触媒成分を調製した。
まず、20mLのサンプル瓶に触媒前駆体としてのランタン酸化物(LaO3・6H2O)を超純水2gに溶解させた。
また、50mLのガラス製のビーカーに600℃3時間焼成済みのCeO2を2.5g入れ、ビーカー内のCeO2に対して前駆体を含む溶液を均一にさせつつ添加し、ガラス棒にてかき混ぜた。ビーカーを、予め設定温度を約80℃としたホットスターラー上に載せ、ガラス棒にてビーカー内の溶液をかき混ぜた。さらに、水を蒸発させながらガラス棒にてかき混ぜ、金属成分が均一にさせつつ、水が蒸発するまで攪拌を続けた。
さらに、超純水2gを前駆体溶液の入っていたサンプル瓶に入れ、共洗いをし、CeO2を含むビーカー内に添加した。その後も同様に、水を蒸発させながらガラス棒にてかき混ぜ、共洗い以下の操作をもう一度実施した。その後、ビーカー内の水を完全に蒸発させるため、ホットスターラー上で2時間程度乾燥させた。
ビーカー内の触媒前躯体の成分をるつぼに移して、マッフル炉にて焼成した。焼成プログラムは、2℃/minの速度で昇温して、400℃にて4時間焼成させるように設定した。
【0122】
こうして得られた実施例25の触媒と、ランタン酸化物を含まない他は上述の実施例25と同様の方法で調製した参考例としての比較用触媒とを用いて、以下の同一の条件にて炭酸エステルを生成させた。
【0123】
(炭酸エステル生成反応の条件)
・仕込みモル比:
(PrOH)/(2-CP)/(触媒(CeO
2+LaO
3またはCeO
2))
=300/50/1
・触媒:箔固定化サンプル(約150g/m
2)
・反応液量:325g
・送液・抜液量:162.5g/h
・滞留時間:2h
・反応圧力:0.9MPa
・反応温度:132℃
これらの結果を
図3に示す。
図3のグラフから明らかであるように、実施例25では、触媒の成分を調整することにより、実施例1に記載の再焼成等の再生処理なしに長時間、高い触媒活性が維持されることが確認された。すなわち、
図3のグラフに示されるように、参考例の比較用触媒を用いた場合には、反応開始直後の炭酸エステルの収率が高かったものの活性の低下が認められたのに対し、実施例25の触媒を用いた場合には、50時間の反応後も触媒活性が実質的に低下しないまま、良好なレベルで維持された。
【0124】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。