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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056786
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】チルゼパチドの治療的使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/22 20060101AFI20240416BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20240416BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
A61K38/22
A61P9/04
A61P3/10
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024016264
(22)【出願日】2024-02-06
(62)【分割の表示】P 2022546540の分割
【原出願日】2021-01-22
(31)【優先権主張番号】62/967,867
(32)【優先日】2020-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】594197872
【氏名又は名称】イーライ リリー アンド カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】コグラン,マシュー ポール
(72)【発明者】
【氏名】ハウプト,アクセル
(72)【発明者】
【氏名】村上 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】リースマイヤー,ジェフリー スコット
(57)【要約】      (修正有)
【課題】患者における心不全の発症を治療、防止、または遅延させるための医薬組成物を提供する。
【解決手段】心不全の発症を治療、防止、または遅延させるための医薬組成物であって、有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を含み、該組成物が、週1回、前記患者に投与するものである、医薬組成物を提供する。前記心不全が、HFrEFおよびHFpEFからなる群から選択されることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における認知障害の発症を治療、防止、または遅延させる方法であって、有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を週1回、前記患者に投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記認知障害が、MCIおよび認知症からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
患者における認知低下を防止または遅延させる方法であって、有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を週1回、前記患者に投与することを含む、方法。
【請求項4】
前記患者が、2型糖尿病を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
2型糖尿病を有する患者における患者における血糖制御を改善し、認知低下を防止または遅延させる方法であって、有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を週1回、前記患者に投与することを含む、方法。
【請求項6】
前記方法が、前記患者が認知低下を経験する危険性の低減を生じる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
2型糖尿病を有する患者における血糖制御を改善する方法であって、有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を週1回、前記患者に投与することを含み、前記方法が、前記患者が認知低下を経験する危険性の低減を生じる、方法。
【請求項8】
前記患者の認知低下の危険性が、約14%低減される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記患者の、以下の転帰:認知低下、脳卒中、一過性脳虚血発作、または死亡の複合的な発生の危険性が低減される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記チルゼパチドの治療有効量が、約5.0mg、約10.0mg、および約15.0mgからなる群から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記チルゼパチドの治療有効量が、約15.0mgである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
チルゼパチドの週1回の投与が、少なくとも2年間継続される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記患者が、心血管疾患に罹患しておらず複数の心血管危険因子を有するか、または心血管疾患に罹患しているかのいずれかである、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
患者における心不全の発症を治療、防止、または遅延させる方法であって、有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を週1回、前記患者に投与することを含む、方法。
【請求項15】
前記心不全が、HFrEFおよびHFpEFからなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記心不全が、HFpEFである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
患者におけるHFpEFを防止または遅延させる方法であって、有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を週1回、前記患者に投与することを含む、方法。
【請求項18】
前記患者が、2型糖尿病を有する、請求項14~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記患者の体重が、肥満である、請求項14~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記患者の体重が、肥満ではない、請求項14~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
2型糖尿病を有する患者における患者における体重管理を改善し、HFpEFを防止または遅延させる方法であって、有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を週1回、前記患者に投与することを含む、方法。
【請求項22】
前記方法が、HFpEFによる入院の危険性の低減を提供する、請求項14~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を週1回、前記患者に投与することを含み、前記方法が、HFpEFによる死亡の危険性の低減を生じる、請求項14~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記患者の6分歩行試験が、約10%改善される、請求項14~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記患者の、以下の転帰:認知低下、HFpEFによる入院、または死亡の複合的な発生の危険性が低減される、請求項14~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記チルゼパチドの治療有効量が、約5.0mg、約10.0mg、および約15.0mgからなる群から選択される、請求項14~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記チルゼパチドの治療有効量が、約15.0mgである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
チルゼパチドの週1回の投与が、少なくとも2年間継続される、請求項14~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記患者が、心血管疾患に罹患しておらず複数の心血管危険因子を有するか、または心血管疾患に罹患しているかのいずれかである、請求項14~28のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬の分野に関する。提供されるのは、認知低下、認知障害、または認知症などの認知に関する障害を治療、防止、または遅延させることに関する方法である。提供されるのは、心不全を治療、防止、または遅延させることに関する方法である。
【背景技術】
【0002】
2型糖尿病(T2DM)を有する患者は、頻繁に、認知低下、認知障害、または認知症などの認知問題を含む多様な併存疾患を患っている。糖尿病を有する人は、糖尿病の影響を受けていない人よりも1.5~2倍、認知低下、最小限の認知障害、または認知症を経験する可能性が高い。この関係は、認知不全の他の危険因子とは無関係であり、65~74歳の糖尿病を有する人において13%、75歳以上の人において24%の有病率を占めている。糖尿病を有する人において認知不全の危険性が高いことについての単一の原因は同定されていない。グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体アゴニストを含むある特定の糖尿病治療が認知機能に利益を有し得る可能性が提唱されており、研究されている。例えば、GD Femminella,et al.,Evaluating the effects of the novel GLP-1 analogue liraglutide in Alzheimer’s disease:study protocol for a randomized controlled trial(ELAD study),20TRIALS191(2019)を参照されたい。しかしながら、T2DMを有する患者を含め、認知低下、認知障害、または認知症を治療、防止、または遅延させる療法に対する必要性は依然として残っている。
【0003】
2型糖尿病(T2DM)を有する患者は、拡張不全(HFpEF)ならびに収縮不全(HFrEF)の危険性がある。例えばJ.Ho,et al.,Predictors of New-Onset Heart Failure;Circulation: Heart Failure 6:279-286(2013)を参照されたい。HFpEFの現在の治療としては、体重減少を誘発するためのライフスタイルの変更、および併存状態の症状を緩和するための薬剤の投与を挙げることができる。肥満を治療するための手術(bariatric surgery)は、HFpEFを有する患者にある程度の利益を示した。例えば、Mikhalkova,et al.,Obesity(2018)を参照されたい。HFpEFの発生率が増加しているにもかかわらず、効果的な治療オプションはほとんど成功していない。例えば、Zheng et.al.,Drug treatment effects on outcomes in heart failure with preserved ejection fraction:a systematic review and meta-analysis,Heart.104(5):407-415(March 2018)を参照されたい。現在、HFpEFの承認された薬学的治療は存在しない。HFpEFを治療、防止、または遅延させる療法に対する必要性が存在する。HFrEFを治療、防止、または遅延させる療法に対する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、認知低下、認知障害、または認知症などの認知障害を治療、防止、または遅延させるための方法を提供する。
【0005】
したがって、本発明は、患者における認知障害の発症を治療、防止、または遅延させる方法であって、治療有効量のチルゼパチドを週1回患者に投与することを含む、方法を提供する。
【0006】
別の態様では、本発明は、患者における認知低下を防止または遅延させる方法であって、治療有効量のチルゼパチドを週1回患者に投与することを含む、方法を提供する。
【0007】
別の態様では、本発明は、2型糖尿病を有する患者における患者における血糖制御を改善し、認知低下を治療、防止、または遅延させる方法であって、治療有効量のチルゼパチドを週1回患者に投与することを含む、方法を提供する。
【0008】
別の態様では、本発明は、2型糖尿病を有し、かつ認知低下の危険性がある患者における血糖制御を改善する方法であって、治療有効量のチルゼパチドを週1回患者に投与することを含み、方法が、患者が認知低下を経験する危険性の低減を提供する、方法を提供する。
【0009】
別の態様では、本発明は、治療有効量のチルゼパチドを週1回患者に投与することを含む、患者における認知障害の発症を治療、防止、または遅延させるのに使用するためのチルゼパチドを提供する。
【0010】
別の態様では、本発明は、治療有効量のチルゼパチドを週1回患者に投与することを含む、患者における認知障害の発症を治療、防止、または遅延させるための医薬品を調製するためのチルゼパチドの使用を提供する。
【0011】
本発明は、心不全を治療、防止、または遅延させるための方法であって、有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を、かかる治療を必要とする患者に投与することを含む、方法を提供する。
【0012】
したがって、本発明は、患者におけるHFpEFの発症を治療、防止、または遅延させる方法であって、有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を週1回、患者に投与することを含む方法を提供する。
【0013】
したがって、本発明は、患者におけるHFrEFの発症を治療、防止、または遅延させる方法であって、有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を週1回、患者に投与することを含む方法を提供する。
【0014】
別の態様では、本発明は、患者におけるHFpEFを防止または遅延させる方法であって、有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を週1回患者に投与することを含む、方法を提供する。
【0015】
別の態様では、本発明は、患者におけるHFrEFを防止または遅延させる方法であって、有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を週1回患者に投与することを含む、方法を提供する。
【0016】
別の態様では、本発明は、2型糖尿病を有する患者における患者における血糖制御を改善し、HFpEFを治療、防止、または遅延させる方法であって、有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を週1回、患者に投与することを含む方法を提供する。
【0017】
別の態様では、本発明は、2型糖尿病を有する患者における患者における血糖制御を改善し、HFrEFを治療、防止、または遅延させる方法であって、有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を週1回患者に投与することを含む、方法を提供する。
【0018】
別の態様では、本発明は、2型糖尿病を有し、かつHFpEFの危険性がある患者における血糖制御を改善する方法であって、有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を週1回患者に投与することを含み、方法が、患者がHFpEFを経験する危険性の低減を提供する、方法を提供する。
【0019】
別の態様では、本発明は、2型糖尿病を有し、かつHFrEFの危険性がある患者における血糖制御を改善する方法であって、有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を週1回患者に投与することを含み、方法が、患者がHFrEFを経験する危険性の低減を提供する、方法を提供する。
【0020】
別の態様では、本発明は、肥満を有し、かつHFpEFの危険性がある患者における体重管理を改善する方法であって、有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を週1回患者に投与することを含み、方法が、患者がHFpEFを経験する危険性の低減を提供する、方法を提供する。
【0021】
別の態様では、本発明は、HFpEFの危険性のある患者においてHFpEFを治療するための方法であって、有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を週1回患者に投与することを含み、患者の体重が、患者の正常体重範囲内である、方法を提供する。
【0022】
別の態様では、本発明は、肥満を有し、かつHFrEFの危険性がある患者における体重管理を改善する方法であって、有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を週1回患者に投与することを含み、方法が、患者がHFrEFを経験する危険性の低減を提供する、方法を提供する。
【0023】
別の態様では、本発明は、有効量のチルゼパチドを週1回患者に投与することを含む、患者におけるHFpEFの発症を治療、防止、または遅延させるのに使用するためのチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を提供する。
【0024】
別の態様では、本発明は、有効量のチルゼパチドを週1回患者に投与することを含む、患者におけるHFrEFの発症を治療、防止、または遅延させるのに使用するためのチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を提供する。
【0025】
別の態様では、本発明は、治療有効量のチルゼパチドを週1回患者に投与することを含む、患者におけるHFpEFの発症を治療、防止、または遅延させるための医薬品を調製するためのチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩の使用を提供する。
【0026】
別の態様では、本発明は、治療有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を週1回患者に投与することを含む、患者におけるHFrEFの発症を治療、防止、または遅延させるための医薬品を調製するためのチルゼパチドの使用を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
US9474780は、チルゼパチドについて記載および主張する。本明細書で使用される場合、「チルゼパチド」という用語は、配列番号1のアミノ酸配列を有する任意のGIP/GLP-1受容体アゴニストを指し、当該タンパク質の承認を求める当事者が、実際にそのタンパク質をチルゼパチドとして同定しているか、またはいくつかの他の用語を使用しているかにかかわらず、Eli Lilly and Companyによって規制当局に提出されたチルゼパチドに関する全体的または部分的なデータに依存する、GIP/GLP-1受容体アゴニスト生成物の承認を求める規制提出書類の対象である任意のタンパク質を含む。チルゼパチドは、GIP/GLP-1受容体に作用し、インスリンの合成および分泌の刺激を生じ、T2DM患者における血糖制御の改善を提供することが示されている。
【0028】
認知低下
認知低下の発症または進行は、Montreal Cognitive Assessment(MoCA)およびDigit Symbol Substitution Test(DSST)などの認知力状態の測定の実施を通じて生成されるスコアに反映され得る。
【0029】
MOCAは、軽度認知障害の環境で検証され、その後、多くの臨床環境で採用されている認知力機能スクリーニング試験である。試験は、検証された解釈を使用して、参加者の第一言語でおよそ10分で実施されるように設計された1ページ30項目のアンケートで構成されている。短期記憶、視空間能力、実行機能、注意力、集中力、作業記憶、および言語を含む7つの認知領域を評価する。例えば、Nasreddine ZS,et al.The Montreal Cognitive Assessment,MoCA:a brief screening tool for mild cognitive impairment.J.AM.GERIATR.SOC.2005;53(4):695-9、Pendlebury ST,et al.,Underestimation of cognitive impairment by Mini-Mental State Examination versus the Montreal Cognitive Assessment in patients with transient ischemic attack and stroke:a population-based study.STROKE2010;41(6):1290-3を参照されたい。MOCAスコアは、正解した30項目のうちの項目数に、個人が≦12年の教育を報告した場合は1ポイントを加えたものに等しい。認知力が正常な個人における制御された検証研究では、2.2の標準偏差で27.4の平均MOCAスコアが報告されている。しかしながら、おそらく認知力が損なわれていない人の集団に基づく研究では、はるかに低い平均スコアが報告されている。例えば、Rossetti HC,et al.,Normative data for the Montreal Cognitive Assessment(MoCA)in a population-based sample.NEUROLOGY2011;77(13):1272-5を参照されたい。
【0030】
DSSTは、Wechsler Adult Intelligence Scale(第3版)の部分試験であり、視覚運動速度および協調性、学習能力、注意力、集中力、および短期記憶を含む、幅広い認知領域を評価する。Wechsler D,Manual for the Wechsler Adult Intelligence scale.NY,NY.(1955)、D W.The Wechsler Adult Intelligence Scale-Revised.NY,NY:The Psychological Corporation(1981)を参照されたい。これは、ランダムに並べられた9つの記号の行からなり、その下に空白の四角、およびページの上部に各記号を数字と結びつける手がかりがある。回答者は、2分の期間をかけて、各記号の下の空白に対応する番号を可能な限り早く埋める。スコアは、2分以内に正しく完了した連続する数字と記号とのペアの数であり、可能な最大スコアは、135である。これは、糖尿病の有無にかかわらず、認知力が損なわれていない個人における認知機能を測定するために広く使用されており、検証研究によって、将来の認知不全および欠陥を予測し、実施が比較的容易であり、言語特異性はなく、そのスコアは、身体機能および将来の認知低下についての尺度と相関することが実証されている。例えば、Rosano C,et al.,Association Between Lower Digit Symbol Substitution Test Score and Slower Gait and Greater Risk of Mortality and of Developing Incident Disability in Well-Functioning Older Adults,J.AM.GERIATR.SOC.(2008)、Knopman D,et al.,Cardiovascular risk factors and cognitive decline in middle-aged adults.NEUROLOGY.56(1):42-8(2001)を参照されたい。血糖異常を有する、認知力が損なわれていない人に関与するランダム化比較試験にDSSTが使用された場合、平均ベースラインスコアは、36~52の範囲であった。Cukierman-Yaffe T,et al.,Effects of basal insulin glargine and omega-3 fatty acid on cognitive decline and probable cognitive impairment in people with dysglycaemia:a substudy of the ORIGIN trial.THE LANCET DIABETES & ENDOCRINOLOGY2014;2(7):562-72、Launer LJ,et al.Effects of intensive glucose lowering on brain structure and function in people with type 2 diabetes(ACCORD MIND):a randomised open-label substudy.LANCET NEUROL.(2011);10(11):969-77を参照されたい。
【0031】
以前の研究では、認知力試験スコアの正常範囲は、国によって異なり得ることが示唆されている。Rossetti HC,et al.,Normative data for the Montreal Cognitive Assessment(MoCA)in a population-based sample.NEUROLOGY2011;77(13):1272-5、Thomann AE,et al.The Montreal Cognitive Assessment:Normative Data from a German-Speaking Cohort and Comparison with International Normative Samples.J.ALZHEIMER’S DIS.2018;64(2):643-55.したがって、複数の国からの個人を含む集団における実質的な低下を評価する場合、全集団の平均および標準偏差とは反対に、各時点での各個人のスコアを、出身国内で達成された値の平均ベースラインスコアおよび標準偏差に対して標準化することが望ましい場合がある。
【0032】
また以前の研究では、中年の個人の群における認知力試験スコアは、時間とともに非常にゆっくりと低下するが、一部の個人は、他の個人よりも早い低下を経験することが認められている。Cukierman-Yaffe T,et al.Effects of basal insulin glargine and omega-3 fatty acid on cognitive decline and probable cognitive impairment in people with dysglycaemia:a substudy of the ORIGIN trial.THE LANCET DIABETES & ENDOCRINOLOGY2014;2(7):562-72、Proust-Lima C,et al.,Sensitivity of four psychometric tests to measure cognitive changes in brain aging-population-based studies.AM.J.EPIDEMIOL.2007;165(3):344-50を参照されたい。これらおよび他の研究は、ベースラインから1.5以上の標準偏差の低下の閾値に基づく定義の使用を支持している。また、Group SR,et al.Effect of Intensive vs Standard Blood Pressure Control on Probable Dementia:A Randomized Clinical Trial.JAMA 2019;321(6):553-61;Group SR.A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control.N.ENGL.J.MED.2015、Biessels GJ,et al.Rationale and design of the CAROLINA(R)-cognition substudy:a randomised controlled trial on cognitive outcomes of linagliptin versus glimepiride in patients with type 2 diabetes mellitus.BMC NEUROL.2018;18(1):7を参照されたい。
【0033】
本明細書で使用される場合、「認知障害」という用語は、記憶、新しいことの学習、集中する能力、および/または人の日常生活に影響を与える意思決定における困難などの、人の認知機能における障害に関与する任意の状態を指す。かかる障害は、軽度認知障害(MCI)から軽度、中等度、および重度認知症までの範囲である。MCIは、加齢および軽度認知症と一致する予想される認知力変化間の認知障害の段階を指し、記憶力および思考力を含むが日常の活動を行う能力の喪失を含まない、わずかではあるが注目すべき測定可能な認知能力における低下によって特徴評価することができる。より重度の障害、または認知症は、日常の活動を実施する能力の喪失、ならびに重症度に応じて、読み書きおよび/または物事の意味または重要性を理解する能力の喪失と関連する。
【0034】
本明細書で提供される方法は、認知低下を経験する危険性が比較的高い患者に最も有効であり得る。ある特定の実施形態では、かかる患者は、T2DM;高血圧;高いコレステロールおよび/または肥満度のうちの1つ以上を有する患者である。
【0035】
ある特定の実施形態では、かかる患者は、心血管疾患に罹患している、および/または主要な心血管有害事象のうちの1つ以上の危険因子を有する。
【0036】
心不全
拡張不全(HFpEF)は、駆出率-各心拍で左心室から排出される血液の量を左心室が最大に満たされたときの血液の量によって除算したもののパーセンテージ-が、正常であり、50%超と定義されている、心不全の形態である。HFpEFの発生率が増加しているにもかかわらず、HFpEFを効果的に治療するための取り組みはほとんど成功していない。
【0037】
従来、心不全は、併存症状を治療するために多様な薬物を用いて治療されてきた。かかる治療としては、アルファ-アドレナリンアゴニスト、ベータ-アドレナリンアゴニスト、カルシウムチャネルアンタゴニスト、強心配糖体、利尿薬、硝酸塩、ホスホジエステラーゼ阻害剤、プラゾシン、および多様な血管拡張薬が挙げられる。これらの治療は、望ましくない副作用に関連する。例えば、アルファ-アドレナリンアゴニストは、末梢組織の浮腫に関連し得る。ある特定の治療は、薬物に対する脱感作に関連し、治療を無効にする。許容される薬学的な副作用プロファイルを有するHFpEFの治療に対して、継続的な需要が存在する。さらに、許容される薬学的な副作用プロファイルを有するHFrEFの治療に対して、継続的な需要が存在する。
【0038】
本明細書で使用される場合、「実質的な認知低下」または「SCD」という用語は、1.5以上の標準偏差のMoCAまたはDSSTなどの標準化された認知力評価における対象のスコアの有意な減少を指す。
【0039】
本明細書で使用される場合、「国別に標準化」、「国別に標準化された」などの用語は、各国内でのスコアのベースライン平均および標準偏差を計算すること、ならびにこれらのベースライン平均および標準偏差を使用して、その時点での各個人のスコアから国特異的ベースライン平均スコアを減算し、その差を国特異的ベースライン標準偏差によって除算することによって、各時点での各個人の標準化されたMOCAおよびDSSTスコアを計算することによって、認知機能スコアを正規化することを指す。
【0040】
本明細書で使用される場合、「主要な心血管有害事象」という用語は、心血管死、致命的ではない心筋梗塞、および致命的ではない脳卒中を指す。これらの事象はまた、MACEまたはMACE3事象と時折称される。これらの事象のうちのいずれかで最初に発生するのは、CVOTで頻繁に使用される複合エンドポイントである。
【0041】
主要な心血管有害事象に関して本明細書で使用される場合、「危険因子」という用語は、主要な心血管有害事象の危険性を増加させると理解されているT2DM患者の特徴を指す。かかる危険因子としては、特に以下のうちのいずれかが挙げられる:現在喫煙者(あらゆる形態のタバコ);過去6か月以内に高コレステロール血症または記録され未治療の低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)≧3.4mmol/L(130mg/dL)を治療するための、少なくとも1つの承認された脂質改変療法(例えば、アトルバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、ロバスタチン、フルバスタチン、またはピタバスタチンなどのスタチン;エボロクマブまたはアリロクマブなどのPCSK9阻害剤;およびエゼチミブ)の使用;過去6か月以内に記録され治療されたかまたは未治療の高密度リポタンパク質コレステロール(HDL-C)男性<1.0mmol/L(40mg/dL)、女性<1.3mmol/L(50mg/dL)、またはトリグリセリド≧2.3mmol/L(200mg/dL);高血圧(例えば、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、アンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)、チアジド様利尿薬、およびジヒドロピリジンカルシウムチャネル遮断薬)、または未治療の収縮期血圧(SBP)≧140mm Hgもしくは拡張期血圧(DBP)≧95mmHgを治療するための少なくとも1つの血圧を下げる医薬品の使用;男性>1.0および女性>0.8のウエスト対ヒップ比の測定値。
【0042】
本明細書で使用される場合、「改善された体重管理」は、患者の体重が、患者の臨床的に定義される正常な体重範囲内であるかまたはそれに近いことを意味する。特定の患者の「正常体重」は、熟練の臨床医に周知である適用可能な考慮事項を考慮して、臨床医によって決定され得る。典型的には、改善された体重管理は、患者が体重を減らして、患者にとって望ましい体重範囲内であるかまたはそれに近い体重に到達することを意味する。本明細書で使用される場合、「正常な体重範囲」は、熟練の臨床医が特定の患者の正常体重であると決定する体重であるべきである。正常な体重範囲は、患者の身長、および体重評価において熟練の臨床医によって考慮される他の要因に基づいて変動し得る。
【0043】
本明細書で使用される場合、「治療」、「治療する」、「治療すること」などの用語は、疾患、状態、または障害の進行を遅延または減弱させることを含むことを意味する。また、これらの用語は、障害または状態が実際に排除されていない場合でも、かつ障害または状態の進行自体が遅延または反転されない場合でも、障害または状態の1つ以上の症状を緩和、寛解、減衰、排除、または軽減することも含む。本明細書で使用される場合、「防止する」、「防止すること」、「防止」などの用語は、疾患、状態、障害、または症状の発症の回避を含むことを意味する。本明細書で使用される場合、「遅延させる」、「遅延させること」などの用語は、疾患、状態、障害、または症状の発症までの発生する期間を増加させることを含むことを意味する。
【0044】
複数の転帰に関連して本明細書で使用される場合、「複合」という用語は、転帰のうちのいずれかのうちの最初のものが発生することを指す。
【0045】
本明細書で使用される場合、「ハザード比」という用語は、対照群と比較した、エンドポイントに対する相対的な進行速度の尺度を指す。転帰に基づく臨床試験では、対照と比較した試験部門についてのハザード比の低減は、試験部門で使用される療法が、エンドポイント、すなわち本明細書に記載の研究の場合、主要な心血管有害事象の危険性を低減することを示している。
【0046】
「治療有効量」は、研究者、医師、または他の臨床医によって求められている患者の生物学的もしくは医学的応答または患者において所望の治療効果を誘発するであろう、本発明の方法または使用への本発明またはチルゼパチドを含む薬学的組成物の方法および使用でのチルゼパチドの量を意味する。チルゼパチドの有効量は、個体の疾患状態、年齢、性別、および体重、ならびに個体における所望の応答を誘発するチルゼパチドの能力などの要因に応じて変動し得る。有効量はまた、治療的に有益な影響が、毒性または有害な影響を上回る量である。ある特定の実施形態では、本明細書に記載の方法で使用するためのチルゼパチドの治療有効量は、5、10、および15mgからなる群から選択される。ある特定の実施形態では、チルゼパチドの治療有効量は、5.0mgである。ある特定の実施形態では、チルゼパチドの治療有効量は、10.0mgである。好ましい実施形態では、チルゼパチドの治療有効量は、15.0mgである。
【0047】
本発明の追加の実施形態を以下に説明する。
【0048】
認知障害
患者における認知障害の発症を治療、防止、または遅延させる方法であって、治療有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を週1回、患者に投与することを含む、方法。一実施形態では、認知障害は、MCIおよび認知症からなる群から選択される。
【0049】
患者における認知低下を防止または遅延させる方法であって、治療有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を週1回、患者に投与することを含む、方法。
【0050】
2型糖尿病を有する患者における患者における血糖制御を改善し、認知低下を治療、防止、または遅延させる方法であって、治療有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を週1回患者に投与することを含む、方法。
【0051】
一実施形態では、方法は、患者が認知低下を経験する危険性の低減を生じる。
【0052】
2型糖尿病を有する患者における血糖制御を改善する方法であって、治療有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を週1回、患者に投与することを含み、方法が、患者が認知低下を経験する危険性の低減を生じる、方法。
【0053】
患者が、2型糖尿病を有する、上の実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0054】
患者が、T2DM;高血圧;高いコレステロールおよび肥満度のうちの1つ以上を有する、上の実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0055】
一実施形態では、患者は、心血管疾患に罹患しておらず複数の心血管危険因子を有するか、または心血管疾患に罹患しているかのいずれかである。
【0056】
一実施形態では、心血管疾患の危険因子は、現在喫煙者(あらゆる形態のタバコ);過去6か月以内に高コレステロール血症または記録され未治療の低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)≧3.4mmol/L(130mg/dL)を治療するための、少なくとも1つの承認された脂質改変療法の使用;過去6か月以内に記録され治療されたかまたは未治療の高密度リポタンパク質コレステロール(HDL-C)男性<1.0mmol/L(40mg/dL)、女性<1.3mmol/L(50mg/dL)、またはトリグリセリド≧2.3mmol/L(200mg/dL);高血圧、または未治療の収縮期血圧(SBP)≧140mm Hgもしくは拡張期血圧(DBP)≧95mmHgを治療するための少なくとも1つの血圧を下げる医薬品の使用;男性>1.0および女性>0.8のウエスト対ヒップ比の測定値からなる群から選択される。
【0057】
一実施形態では、認知障害は、MCIおよび認知症からなる群から選択される。
【0058】
一実施形態では、患者の認知低下の危険性は、少なくとも約14%低減される。
【0059】
一実施形態では、主要な心血管有害事象の危険性は、少なくとも約10%低減される。
【0060】
一実施形態では、主要な心血管有害事象の危険性は、少なくとも約11%低減される。
【0061】
一実施形態では、主要な心血管有害事象の危険性は、約12%低減される。
【0062】
一実施形態では、以下の転帰:認知低下または死亡の複合的な発生の危険性が低減される。
【0063】
一実施形態では、以下の転帰:認知低下または脳卒中の複合的な発生の危険性が低減される。
【0064】
一実施形態では、以下の転帰:認知低下、脳卒中、または一過性脳虚血発作の複合的な発生の危険性が低減される。
【0065】
一実施形態では、以下の転帰:認知低下、脳卒中、一過性脳虚血発作、または死亡の複合的な発生の危険性が低減される。
【0066】
一実施形態では、心血管死の危険性は、より低い。
【0067】
一実施形態では、致命的ではない脳卒中の危険性は、より低い。
【0068】
一実施形態では、致命的ではない心筋梗塞の危険性は、より低い。
【0069】
一実施形態では、以下の転帰:レーザー療法、抗VEGF療法、もしくは網膜硝子体術を必要とする糖尿病網膜症;臨床タンパク尿;eGFRの30%低下;または慢性腎代替療法の複合的な発生の危険性が低減される。
【0070】
患者における認知障害の発症を治療、防止、または遅延させる方法であって、治療有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を週1回、患者に投与することを含む、方法。一実施形態では、認知障害は、MCIおよび認知症からなる群から選択される。
【0071】
一実施形態では、チルゼパチドの量は、約5.0mg、約10.0mg、および約15.0mgからなる群から選択される。
【0072】
一実施形態では、チルゼパチドの量は、約5.0mgである。
【0073】
一実施形態では、チルゼパチドの量は、約10.0mgである。
【0074】
一実施形態では、チルゼパチドの量は、約15.0mgである。
【0075】
一実施形態では、チルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩の週1回の投与は、少なくとも2年間継続される。
【0076】
一実施形態では、チルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩の週1回の投与は、少なくとも3年間継続される。
【0077】
一実施形態では、チルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩の週1回の投与は、少なくとも4年間継続される。
【0078】
一実施形態では、チルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩の週1回の投与は、およそ5年間継続される。
【0079】
一実施形態では、チルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩の週1回の投与は、少なくとも5.4年間継続される。
【0080】
一実施形態では、チルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩は、用量漸増プロトコルを使用して投与される。
【0081】
一実施形態では、患者はまた、主要な心血管有害事象の危険性を低減するための標準治療を施される。
【0082】
一実施形態では、患者はまた、最大耐量のACE阻害剤を投与される。
【0083】
一実施形態では、患者はまた、最大耐量のARBを投与される。
【0084】
一実施形態では、患者はまた、ベータ遮断薬を投与される。
【0085】
一実施形態では、患者はまた、カルシウムチャネル遮断薬を投与される。
【0086】
一実施形態では、患者はまた、利尿剤を投与される。
【0087】
一実施形態では、患者はまた、抗血栓剤を投与される。
【0088】
一実施形態では、患者はまた、アスピリンを投与される。
【0089】
一実施形態では、患者はまた、スタチンを投与される。
【0090】
上の実施形態のいずれかで使用するためのチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩。
【0091】
上の実施形態のうちのいずれかのための医薬品の調製におけるチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩の使用。
【0092】
心不全
患者における心不全の発症を治療、防止、または遅延させる方法であって、治療有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を週1回、患者に投与することを含む、方法。一実施形態では、心不全は、HFpEFおよびHFrEFからなる群から選択される。
【0093】
患者における心不全を防止または遅延させる方法であって、治療有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を週1回、患者に投与することを含む、方法。
【0094】
2型糖尿病を有する患者における患者における血糖制御を改善し、心不全を治療、防止、または遅延させる方法であって、治療有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を週1回患者に投与することを含む、方法。
【0095】
一実施形態では、方法は、患者がHFpEFを経験する危険性の低減を生じる。一実施形態では、方法は、患者がHFrEFを経験する危険性の低減を生じる。
【0096】
2型糖尿病を有する患者における血糖制御を改善する方法であって、治療有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を週1回、患者に投与することを含み、方法が、患者が認知低下を経験する危険性の低減を生じる、方法。
【0097】
患者が、2型糖尿病を有する、上の実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0098】
患者が、T2DM;高血圧;高いコレステロールおよび肥満度のうちの1つ以上を有する、上の実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0099】
一実施形態では、患者は、心血管疾患に罹患しておらず複数の心血管危険因子を有するか、または心血管疾患に罹患しているかのいずれかである。
【0100】
一実施形態では、心血管疾患の危険因子は、現在喫煙者(あらゆる形態のタバコ);過去6か月以内に高コレステロール血症または記録され未治療の低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)≧3.4mmol/L(130mg/dL)を治療するための、少なくとも1つの承認された脂質改変療法の使用;過去6か月以内に記録され治療されたかまたは未治療の高密度リポタンパク質コレステロール(HDL-C)男性<1.0mmol/L(40mg/dL)、女性<1.3mmol/L(50mg/dL)、またはトリグリセリド≧2.3mmol/L(200mg/dL);高血圧、または未治療の収縮期血圧(SBP)≧140mm Hgもしくは拡張期血圧(DBP)≧95mmHgを治療するための少なくとも1つの血圧を下げる医薬品の使用;男性>1.0および女性>0.8のウエスト対ヒップ比の測定値からなる群から選択される。
【0101】
一実施形態では、心不全は、HFpEFおよびHFrEFからなる群から選択される。
【0102】
一実施形態では、患者の6分歩行試験が改善される。一実施形態では、患者の6分歩行試験は、改善された運動能力を実証する。
【0103】
一実施形態では、患者のKansas City Cardiomyopathy Questionnaire Clinical Summary Score(KCCQ-CSS)が改善する。一実施形態では、改善されたKCCQ-CSSは、正味の臨床的利益と相関する。
【0104】
一実施形態では、患者の心不全の危険性は、少なくとも約14%低減される。
【0105】
一実施形態では、心不全の危険性は、少なくとも約10%低減される。
【0106】
一実施形態では、Pro-C3炎症マーカーが低減される。一実施形態では、Pro-C3炎症マーカーは、臨床的に望ましいレベルまで低減される。
【0107】
一実施形態では、CRPレベルが低減される。一実施形態では、CRPレベルは、臨床的に望ましいレベルまで低減される。
【0108】
一実施形態では、以下の転帰:HFpEFによる入院または死亡の複合的な発生の危険性が低減される。
【0109】
一実施形態では、HFpEFによる死亡または入院の危険性は、有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩で治療された患者において低減される。
【0110】
一実施形態では、以下の転帰:HFpEFまたは認知低下の複合的な発生の危険性が低減される。
【0111】
一実施形態では、以下の転帰:認知低下、HFpEFまたはHFrEFの複合的な発生の危険性が低減される。
【0112】
一実施形態では、以下の転帰:認知低下、HFpEF、または死亡の複合的な発生の危険性が低減される。
【0113】
患者における心不全の発症を治療、防止、または遅延させる方法であって、治療有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を週1回、患者に投与することを含む、方法。一実施形態では、心不全は、HFpEFおよびHFrEFからなる群から選択される。
【0114】
一実施形態では、チルゼパチドの量は、約5.0mg、約10.0mg、および約15.0mgからなる群から選択される。
【0115】
一実施形態では、チルゼパチドの量は、約5.0mgである。
【0116】
一実施形態では、チルゼパチドの量は、約10.0mgである。
【0117】
一実施形態では、チルゼパチドの量は、約15.0mgである。
【0118】
一実施形態では、患者は、少なくとも50歳である。一実施形態では、患者は、少なくとも65歳である。
【0119】
一実施形態では、チルゼパチドの週1回の投与は、少なくとも2年間継続される。
【0120】
一実施形態では、チルゼパチドの週1回の投与は、少なくとも3年間継続される。
【0121】
一実施形態では、チルゼパチドの週1回の投与は、少なくとも4年間継続される。
【0122】
一実施形態では、チルゼパチドの週1回の投与は、およそ5年間継続される。
【0123】
一実施形態では、チルゼパチドの週1回の投与は、少なくとも5.5年間継続される。
【0124】
一実施形態では、チルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩は、用量漸増プロトコルを使用して投与される。
【0125】
一実施形態では、患者はまた、主要な心血管有害事象の危険性を低減するための標準治療を施される。
【0126】
一実施形態では、患者はまた、HFrEFと併存する状態の症状を治療するための標準治療を施される。
【0127】
一実施形態では、患者はまた、最大耐量のACE阻害剤を投与される。
【0128】
一実施形態では、患者はまた、最大耐量のARBを投与される。
【0129】
一実施形態では、患者はまた、ベータ遮断薬を投与される。
【0130】
一実施形態では、患者はまた、カルシウムチャネル遮断薬を投与される。
【0131】
一実施形態では、患者はまた、利尿剤を投与される。
【0132】
一実施形態では、患者はまた、抗血栓剤を投与される。
【0133】
一実施形態では、患者はまた、アスピリンを投与される。
【0134】
一実施形態では、患者はまた、スタチンを投与される。
【0135】
上の実施形態のいずれかで使用するためのチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩。
【0136】
上の実施形態のうちのいずれかのための医薬品の調製におけるチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩の使用。
【0137】
さらなる実施形態が以下の実施例に記載されており、これらは限定的であると解釈されるものではない。
【実施例0138】
以下の表1に記載の登録基準は、多様な心血管危険因子を有するかまたは心血管疾患に罹患している、典型的な糖尿病診療で見られる患者と同様の参加者を含むように設計されている。
【表1】
【0139】
研究は、スクリーニング来診に続いて一重盲検の3週間のプラセボ導入期間からなるように設計されている。その後、患者は、チルゼパチド5、10、もしくは15mg(漸増用量プロトコルを使用して投与)またはプラセボのいずれかにランダム化され、およそ6か月間隔で追跡される。およそ1200人の患者が主要エンドポイント事象を経験し、そのように判断されるまで、患者を追跡する。
【0140】
分析は、ベースライン時、ならびに2年、5年、および研究終了時来診の、2つの異なる認知力計測-MOCAおよびDSST-の実施を通じて測定した、認知低下に対するチルゼパチドの効果の評価を含む。MOCAおよびDSST方法については、上により詳しく記載している。
【0141】
主要な認知力転帰は、国別に標準化された実質的な認知低下(SCD)であり、これは、個人のベースラインスコアからの≧1.5標準偏差のMOCAまたはDSSTスコアのいずれかの低減として定義される。国別標準化は、まず、各国内のMOCAおよびDSSTスコアのベースライン平均および標準偏差を計算することによって達成される。これらのベースライン平均および標準偏差を使用して、各時点での各参加者の標準化されたMOCAおよびDSSTスコアを計算する。これは、その時点での個人のスコアから国特異的ベースライン平均スコアを減算し、その差を国特異的ベースライン標準偏差によって除算することによって行われる。追加の認知力転帰は、死亡、脳卒中、脳卒中またはTIAによる、および脳卒中、TIA、または死亡による複合的なSCD、ならびに標準化されたMOCAおよびDSSTスコアの経時的変化を含む。
【0142】
認知力分析は、ベースラインMOCAまたはDSSTスコア、および同じタイプの少なくとも1つのフォローアップスコアを有する参加者に限定される。
【0143】
連続変数は、標準偏差を用いた平均を使用して要約し、二値変数は、パーセンテージを用いたカウント数を使用して要約する。コックス比例ハザードモデルを使用して、各個人のベースラインの標準化されたMOCAおよびDSSTスコアを考慮する前後の両方で、プラセボに対するチルゼパチドによるSCDおよびSCDに基づく複合的転帰のハザードを推定する。認知力試験の断続的な実施に起因する結果の離散的な性質に対するCoxモデルの感度は、離散時間比例オッズロジスティックモデル(discrete time proportional odds logistic model)を使用して主な分析を繰り返すことによって評価する。示されている場合、Coxモデルは、競合死亡危険性を考慮する。Fine JP,Gray RJ.A proportional hazards model for the subdistribution of a competing risk.Journal of the American Statistical Association 1999;94:496-509を参照されたい。部分群内の効果の差は、モデルに部分群、および部分群-治療相互作用項目を含めることによって調査する。最後に、標準化されたベースラインスコアを共変量として、参加者をランダム効果として、ならびに治療、来診、および治療-来診相互作用固定効果に対する固定効果を用いる反復測定線形混合効果モデルによって、標準化されたMOCAおよびDSSTスコアにおける最小二乗平均差でのチルゼパチドの効果が推定される。Senn S.Change from baseline and analysis of covariance revisited.Stat Med 2006;25(24):4334-44を参照されたい。
【0144】
統計分析は、SASソフトウェアを使用して完了する。
【0145】
実施例2
肥満およびHFpEFを有する患者において、52週間の3相最大耐量、最大15mg/週、6分歩行試験(「6MWT」)研究を行う。500人の患者の試料サイズは、プラセボとチルゼパチドで1:1にランダム化する(最大耐量は最大15mg/週)。研究は、6MWT、体重減少、Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire(「KCCQ」)、Churg-Strauss Syndrome(「CSS」)、左心室容積指数(「LAVI」)、異所性心室頻脈(「EAT」)、および例えば、左心室(「LV」)ひずみ、LV筋重量係数を含む、目的の磁気共鳴画像診断(「MRI」)測定を測定するであろう。
【0146】
実施例3
2相研究(GPGB)では、15mg/週のチルゼパチドを投与されているチルゼパチド患者は、C反応性タンパク質(「CRP」)、血管細胞接着分子1(「VCAM-1」)、および細胞間接着分子-1(「ICAM-1」)の改善を示している。血漿コラーゲンタイプIII(「Pro-C3」)バイオマーカーの改善は、10mg/週および15mg/週の患者群で観察されている。
【0147】
配列
配列番号1
チルゼパチド
YXEGTFTSDYSIXLDKIAQKAFVQWLIAGGPSSGAPPPS
式中、Xが、Aibであり、Xが、Aibであり、20位のKが、(2-[2-(2-アミノ-エトキシ)-エトキシ]-アセチル)-(γGlu)-CO-(CH18-COHでのK側鎖のイプシロン-アミノ基への結合を通じて化学的に修飾され、C末端アミノ酸が、C末端一級アミドとしてアミド化されている。
【手続補正書】
【提出日】2024-02-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における心不全の発症を治療、防止、または遅延させるための医薬組成物であって、有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を含み、該組成物が、週1回、前記患者に投与するものである、医薬組成物。
【請求項2】
前記心不全が、HFrEFおよびHFpEFからなる群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記心不全が、HFpEFである、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記患者が、2型糖尿病を有する、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記患者の体重が、肥満である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記患者の体重が、肥満ではない、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項7】
2型糖尿病を有する患者における患者における体重管理を改善し、HFpEFを防止または遅延させるための医薬組成物であって、有効量のチルゼパチドまたはその薬学的に許容される塩を含み、該組成物が、週1回、前記患者に投与するものである、医薬組成物。
【請求項8】
前記医薬組成物が、HFpEFによる入院の危険性の低減を提供する、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記医薬組成物が、HFpEFによる死亡の危険性の低減を生じる、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記患者の6分歩行試験が、約10%改善される、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記患者の、以下の転帰:認知低下、HFpEFによる入院、または死亡の複合的な発生の危険性が低減される、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記チルゼパチドの治療有効量が、約5.0mg、約10.0mg、および約15.0mgからなる群から選択される、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記チルゼパチドの治療有効量が、約15.0mgである、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
チルゼパチドの週1回の投与が、少なくとも2年間継続される、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記患者が、心血管疾患に罹患しておらず複数の心血管危険因子を有するか、または心血管疾患に罹患しているかのいずれかである、請求項3に記載の医薬組成物。
【外国語明細書】