(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056818
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】安全層を伴うバッテリーセル
(51)【国際特許分類】
H01M 50/572 20210101AFI20240416BHJP
H01M 10/04 20060101ALI20240416BHJP
H01M 50/109 20210101ALI20240416BHJP
【FI】
H01M50/572
H01M10/04 Z
H01M50/109
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024018153
(22)【出願日】2024-02-08
(62)【分割の表示】P 2022166366の分割
【原出願日】2018-08-14
(31)【優先権主張番号】15/677,921
(32)【優先日】2017-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/016,466
(32)【優先日】2018-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】315014051
【氏名又は名称】デュラセル、ユーエス、オペレーションズ、インコーポレーテッド
(71)【出願人】
【識別番号】503196798
【氏名又は名称】ナショナル テクノロジー アンド エンジニアリング ソリューションズ オブ サンディア, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100137523
【弁理士】
【氏名又は名称】出口 智也
(72)【発明者】
【氏名】マイケル、ポジン
(72)【発明者】
【氏名】ウォルター、フレッド、パクストン
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン、ジェームズ、ケール
(57)【要約】 (修正有)
【課題】バッテリーセルが水溶液又は湿潤組織に晒されるときに、組織の損傷及び/又は電気分解から保護できる水応答性安全層を伴うバッテリーセルを提供する。
【解決手段】バッテリー50は、第1の極及び第2の極を備えるハウジングと、ポリマー材料を備えるとともに、第1の極及び第2の極のうちの少なくとも一方に隣接して位置される複合水応答性安全層64であって、複合水応答性安全層が水溶液との接触時にバッテリーを1.5V未満に短絡させるようになっており、複合水応答性安全層が少なくとも1つの金属塩を更に含む、複合水応答性安全層と、を備える。
【選択図】
図2B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリーであって、
ハウジングであって、第1の極及び第2の極を備えるハウジングと、
ポリマー材料を備えるとともに、前記第1の極及び前記第2の極のうちの少なくとも一方に隣接して位置される複合水応答性安全層であって、前記複合水応答性安全層が水溶液との接触時に前記バッテリーを1.5V未満に短絡させるようになっており、前記複合水応答性安全層が少なくとも1つの金属塩を更に含む、複合水応答性安全層と、
を備える、バッテリー。
【請求項2】
前記ポリマー材料は、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸、ポリアクリレート、ポリビニルアルコール及び改質ポリビニルアルコール、水溶性アクリレートコポリマー、ポリビニルエステル、ポリビニルピロリドン、プルラン、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、低粘度グレードのヒドロキシプロピルセルロース、多糖類、水溶性天然ポリマー、改質デンプン、及び、前述したものの共重合体のグループのうちの1つまたは複数から選択される1つまたは複数のポリマー材料を含む、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項3】
前記ポリマー材料は、生物学的に不活性な材料である、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項4】
前記複合水応答性安全層が、酸化されていない状態の金属粉末をさらに含む、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項5】
前記金属粉末は、ビスマス(0)(Bi)、銅(0)(Cu)、鉄(0)(Fe)、インジウム(0)(In)、鉛(0)(Pb)、ニッケル(0)(Ni)、マグネシウム(0)(Mg)、水銀(0)(Hg)、銀(0)(Ag)、スズ(0)(Sn)、亜鉛(0)(Zn)、これらの合金、及び、これらの任意の組み合わせから成るグループから選択される1つ又は複数の金属粉末を含む、請求項4に記載のバッテリー。
【請求項6】
少なくとも1つの前記極の外部表面と接触する金属層をさらに有する、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項7】
金属層が前記負極(バッテリーのアノードに対応する)に接触し、ビスマス(0)(Bi)、インジウム(0)(In)、鉛(0)(Pb)、水銀(0)(Hg)、スズ(0)(Sn)、亜鉛(0)(Zn)、これらの合金、及び、これらの任意の組み合わせから成るグループから選択される金属を含む、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項8】
前記複合水応答性安全層は、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、酸化ポリエチレン(PEO)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、及び、これらの任意の組み合わせから選択される1つまたは複数のポリマーを含み、前記金属塩は、硫酸銅(CuSO4)を含む、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項9】
前記複合水応答性安全層は、亜鉛(Zn)粒子をさらに有する、請求項8に記載のバッテリー。
【請求項10】
前記硫酸銅は、前記複合水応答性安全層の総重量に基づいて、少なくとも5重量%の量で存在する、請求項8に記載のバッテリー。
【請求項11】
前記複合水応答性安全層は、安定剤およびポロゲンのグループのうちの1つまたは複数から選択される添加剤をさらに含む、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項12】
前記正極が絶縁ガスケットによって前記負極から電子的に分離され、前記複合水応答性安全層が前記絶縁ガスケットに隣接して位置され、前記複合水応応答性安全層が前記正極(バッテリーのカソードに対応する)と前記負極(バッテリーのアノードに対応する)との間で延びて前記正極及び前記負極の両方と接触する、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項13】
前記複合水応答性安全層は、前記正極と前記負極との間で、前記正極及び前記負極の少なくとも一方の外周にわたって連続的に延在する、請求項12に記載のバッテリー。
【請求項14】
前記複合応答性安全層は、前記正極と前記第負極との間で、前記正極及び前記負極の少なくとも一方の外周の一部にわたって延在する、請求項12に記載のバッテリー。
【請求項15】
前記バッテリーは、AAAA、AAAバッテリー、AAバッテリー、Bバッテリー、Cバッテリー、Dバッテリー、9Vバッテリー、CR2バッテリー、CR123Aバッテリー、1/3Nバッテリー、ボタンセル、及び、コインセルから選択される、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項16】
前記複合水応答性安全層は、第2の金属塩をさらに含む、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項17】
前記第2の金属塩は水不溶性であり、前記第1の金属塩は水溶性である、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項18】
方法であって、
第1の極および第2の極を備えるバッテリーハウジングを用意するステップと、
組成物が前記第1の極及び前記第2の極のうちの少なくとも一方に隣接して位置するように前記極間に組成物を堆積させることによって前記バッテリーハウジングの前記第1の極及び前記第2の極間に複合水応答性安全層を形成するステップであって、前記組成物がポリマー材料及び少なくとも1つの金属塩を含み、前記複合水応答性安全層が水溶液との接触時にバッテリーを1.5V未満に短絡させるようになっており、前記複合水応答性安全層が前記バッテリーの外部表面に配置される、ステップと、
を備える、方法。
【請求項19】
前記ポリマー材料は、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸、ポリアクリレート、ポリビニルアルコール及び改質ポリビニルアルコール、水溶性アクリレートコポリマー、ポリビニルエステル、ポリビニルピロリドン、プルラン、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、低粘度グレードのヒドロキシプロピルセルロース、多糖類、水溶性天然ポリマー、改質デンプン、及び、前述したものの共重合体のグループのうちの1つまたは複数から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記組成物を堆積する前に、前記負極上に亜鉛金属の少なくとも1つのドットを堆積するステップをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
この出願は、2017年8月15日に出願された米国特許出願第15/677,921号の一部継続出願である2018年6月22日に出願された米国特許出願第16/016,466号の優先権を主張し、これらの特許出願はいずれも、その全体が参照により本願に組み入れられるとともに、本願の一部を構成する。
【0002】
連邦政府出資の研究又は開発に関する声明
この発明は、Procter&Gamble CompanyとSandia National Laboratoriesとの間のCRADA(SC03/1672)の下で行われ、米国エネルギー省のために運営された。Duracell Company及びその子会社Duracell U.S.Operations、Inc.は、CRADA(SC03/1672)に基づくProcter&Gamble Companyの利益承継者である。政府は、この発明において特定の権利を有する。
【0003】
本開示は、バッテリーセルに関し、より詳細には、バッテリーセルが水溶液又は湿潤組織に晒されるときに、組織の損傷及び/又は電気分解から保護できる水応答性安全層を伴うバッテリーセルに関する。
【背景技術】
【0004】
本明細書中で与えられる背景の説明は、一般に、本開示の前後関係を提示することを目的としている。
【0005】
電気化学セル又はバッテリーは、一般に、電気エネルギー源として使用される。小型バッテリーは、消費者製品の給電において特に役立つ。小型バッテリーには様々なセルタイプがある。一般的な小型バッテリーセルタイプは、AAA、AA、B、C、D、9V、CR2、及び、CR123Aである。ボタンセル(コインセルと呼ばれることもある幅の広いセルも含む)として知られる他のタイプの小型バッテリーは、腕時計、カメラ、電卓、車両等のためのキーレスエントリーシステム、レーザーポインタ、グルコメーターなどを含むがこれらの限定されない様々な製品に給電するために頻繁に使用される。
図1は、カソード缶14内に配置されるカソード12と、アノードカップ18内に配置されるアノード16とを備える代表的なボタンセル10の構造を示す。セパレータ20がアノード16をカソード12から物理的に分離して電子的に絶縁する。絶縁ガスケット22が、電解質損失を防止するとともにセル内への周囲の大気成分の侵入を防いでカソード缶14をアノードカップ18から絶縁するべくセルを密閉するのに役立つ。ボタンセルは、通常は長い耐用年数、例えば、一般に腕時計の連続使用においては1年をはるかに超える耐用年数を有する。更に、殆どのボタンセルは、自己放電が少なく、そのため、負荷がかかっていないときに比較的長時間にわたってそれらの電荷を保持する。
【0006】
ボタンセルバッテリーは、多くの携帯できる消費者電子機器において一般的であるが、これらのバッテリー、特に2016リチウムセル及び2032リチウムセルなどの直径が20mmのコインセルのサイズ、形状、及び、外観は、乳児、幼児、及び、ペットに嚥下の危険をもたらす可能性がある。これらの危険は、特に周りの他人が知らないうちにセルが飲み込まれる場合に、身体的危害をもたらす可能性がある。また、これらのボタンセルバッテリーの一部は、他のセルよりも比較的大きな危険をもたらす可能性があり、この危険を消費者が十分に理解していない場合がある。例えば、リチウムと二酸化マンガンとの化学反応に基づく2016 3Vリチウムセル及び2032 3Vリチウムセルなどのコインセルバッテリーは、それらが人の喉に容易に詰まり得るようなサイズであり、したがって、体液の電気分解、或いは、例えば飲み込んだ場合の食道/臓器組織の燃焼を引き起こす可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
1つの態様において、本開示は、ハウジングであって、第1及び第2の極を備えるハウジングと、ポリマー材料を備えるとともに、第1及び第2の極のうちの少なくとも一方に隣接して位置される複合水応答性安全層であって、該複合水応答性安全層が水溶液との接触時に電子非伝導状態から電子伝導状態へと変化するようになっており、複合水応答性安全層が少なくとも1つの金属塩を更に含む、複合水応答性安全層とを備えるバッテリーを提供する。
【0008】
バッテリー1つの改良において、複合水応答性安全層の少なくとも1つの金属塩は、少なくとも第1の金属塩及び第2の金属塩を備える。
【0009】
他の態様において、本開示は、第1及び第2の極を備えるバッテリーハウジングを用意するステップと、組成物が第1及び第2の極のうちの少なくとも一方に隣接するように極間に組成物を堆積させることによってバッテリーハウジングの第1及び第2の極間に複合水応答性安全層を形成するステップであって、組成物がポリマー材料及び少なくとも1つの金属塩を含み、複合水応答性安全層が水溶液との接触時に電子非伝導状態から電子伝導状態へと変化するようになっている、ステップとを含む方法を提供する。
【0010】
本方法の1つの改良において、組成物の少なくとも1つの金属塩は、少なくとも第1の金属塩及び第2の金属塩を含む。
【0011】
本明細書は、本発明を形成すると見なされる主題を特に指摘して明確に請求する特許請求の範囲で締めくくられるが、本発明は、添付図面と併せて解釈される以下の説明からより良く理解される。以下で説明される図は、本明細書中に開示されるバッテリーセルの様々な態様を描く。各図が本明細書中に開示されるバッテリーセルの典型的な態様を描くことが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2A】水溶液と接触したときに電子非伝導状態から電子伝導状態に変化するようになっている複合水応答性安全層を有するコインセルの形態を成すバッテリーの一例を示す。
【
図2B】水溶液と接触したときに電子非伝導状態から電子伝導状態に変化するようになっている複合水応答性安全層を有するコインセルの形態を成すバッテリーの一例を示す。
【
図3】一例に係るプロトタイプバッテリー形態の概略図であり、複合水応答性安全層がポリエチレングリコール(PEG)、金属塩、及び、金属粉末を備えるポリマーマトリクスを備える。
【
図4】複合水応答性安全層が水溶液に晒された状態の一例に係る
図3のプロトタイプバッテリー形態を使用する異なる試験における経時的な電圧変化のプロットである。
【
図5】バッテリーの負極と正極との間の特定の位置に堆積された複合水応答性安全層を有する一例に係るボタンセルの形態を成すバッテリーの一例を示す。
【
図6】複合水応答性安全層が水溶液に晒された状態の一例に係る
図5のバッテリー形態に関する異なる試験における経時的な電圧変化のプロットである。
【
図7】水溶液に晒されたときに複合水応答性安全層を伴う一例のバッテリーセルが短絡するのに要する時間を例示するグラフを示す。
【
図8】水溶液に晒されたときに複合水応答性安全層を伴う他の例のバッテリーセルが短絡するのに要する時間を例示するグラフを示す。
【
図9】水溶液に晒されたときに複合水応答性安全層を伴う更なる他の典型的なバッテリーセルが短絡するのに要する時間を例示するグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
電気化学セル又はバッテリーは一次バッテリー又は二次バッテリーであってもよい。一次バッテリーは、例えば消耗するまで一回だけ放電されてその後に廃棄されるようになっている。一次バッテリーは、例えば、David LindenのHandbook of Batteries(McGraw-Hill、第4版、2011年)に記載される。二次バッテリーは充電されるようになっている。二次バッテリーは放電され、その後、何度も、例えば50回を超えて、100回を超えて、又は、1000回を超えて再充電されてもよい。二次バッテリーは、例えば、David LindenのHandbook of Batteries(McGraw-Hill、第4版、2011年)に記載される。バッテリーは、水溶性又は非水溶性電解質を含んでもよい。したがって、バッテリーは、様々な電気化学的結合及び電解質の組み合わせを含んでもよい。消費者バッテリーは、一次バッテリー又は二次バッテリーのいずれかであってもよい。しかしながら、バッテリーに蓄えられる電荷に起因して及び露出した極に起因して、消費者バッテリー、特に小型バッテリーを湿潤組織に晒されたときに消費者が傷付かないように保護することが有益である。特に、消費者を電気分解又は火傷に晒さないようにバッテリーを保護することが有益であり、電気分解又は火傷はいずれも例えばバッテリーが飲み込まれる場合に起こり得る。バッテリーの正極及び負極が湿った体液に晒される場合には、水の電気分解が生じて水酸化物イオンが発生をもたらし、それにより、組織、特に負極に隣接する組織の燃焼が起こり得る。本出願は、そのような状況でバッテリーを短絡させ、それにより、セル電圧を下げて、組織損傷を効果的に防止するための技術について記載する。
【0014】
本開示は、複合水応答性安全層が唾液、胃液、又は、他の流体の形態を成す水溶液に晒されるときなど、湿らされるときに電気化学的に生成される短絡をもたらすことができる安全なレベルの良性材料を内部に組み込むポリマーを含む複合水応答性安全層及び/又はポリマーを含む複合水応答性及びpH応答性安全層を伴うバッテリーセルを提供する。結果として生じる短絡は、バッテリーセルの電圧を所望の閾値レベル未満に低下させ、それにより、水の電気分解及びそれに伴う有害な電気化学的に生成されるイオン(例えば、水酸化物イオン)の形成を低減及び/又は効果的に防止することができる。望ましい閾値レベルは様々となり得るが、本明細書中で詳述される幾つかの例において、セルは、好適には、1.4V未満、1.3V未満、1.2V未満、1.1V未満、1.0V未満、0.9V未満、0.8V未満、0.7V未満、0.6V未満、0.5V未満、0.4V未満、0.3V未満、0.2V未満、0.1V未満を含む1.5V未満まで、更には約0Vまで短絡され得る。好適には、複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層の単なる適用は、通常の使用状態下でバッテリーセル性能に影響を及ぼさず、したがって、例えば、バッテリーは、複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層がバッテリーに設けられる前後で実質的に同じ電圧及び容量を有する。複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層を組み込むバッテリーが、ボタンセル、より詳細にはコインセルを使用して本明細書で例示及び説明されるが、一般的には、AAAA、AAA、AA、B、C、D、9V、CR2、CR123A、1/3N、ボタンセル、及び、コインセルなどの一般的な消費者バッテリーを含むがこれらに限定されない任意のバッテリータイプが、本開示に係る複合水応答性安全性及び/又は複合水及びpH応答性安全層を含むように改変されてもよい。一般に、バッテリーセルの電圧を約1.2V未満に短絡すると、水の電気分解が完全に防止されるが、1.5V未満に電圧を下げると、さもなければ起こるであろう電気分解の量を減らすのに役立つ。したがって、好ましい実施形態では、食道組織の著しい燃焼が生じることが2時間後まで分からないため、セルの電圧が2時間(又は7200秒)以内に1.5V未満、より好ましくは1.2V未満に低下される。
【0015】
本明細書中で使用される「水応答性」という用語は、空気に晒されたときに電子非伝導状態から電子伝導状態へと移行しない複合安全層を指す。代わりに、複合安全層が電子非伝導状態から電子伝導状態へと移行する前に特定量の水分を吸収することが必要である。したがって、複合水応答性安全層自体は吸湿性である。特に、複合水応答性安全層に含まれる各構成要素は一般に吸湿性ではなく、別の言い方をすれば、複合水応答性安全層は、一般に、吸湿性の構成要素と非吸湿性の構成要素とを含む。結果として、大気は、複合水応答性安全層を電子非伝導状態から電子伝導状態へと移行させない、したがって短絡させないはずである。しかしながら、複合水応答性安全層は、高湿度環境に長時間にわたって晒された場合に短絡する可能性がある。例えば、本明細書中に記載される複合水応答性安全層を有するセルは、好ましくは、最大90%の相対湿度値(約20℃~約50℃の間の温度で、例えば約30℃で又は約40℃で)を有する環境下で少なくとも2時間、少なくとも12時間、少なくとも10日間、少なくとも30日間、及び/又は、少なくとも60日間にわたって保存され得る。加えて、本明細書中に記載される複合水応答性安全層を有するセルは、好ましくは、最大65%の相対湿度値(約20℃~約50℃の間の温度で、例えば約30℃で又は約40℃で)を有する環境下で少なくとも2日間、少なくとも10日間、少なくとも60日間、及び/又は、少なくとも90日間にわたって保存され得る。
【0016】
本明細書中で使用される「水応答性及びpH応答性」という用語は、水のみに晒されたときに電子非伝導状態から電子伝導状態へと必ずしも移行しない複合安全層を指す。具体的には、水応答性及びpH応答性複合安全層は、第1の所定のpH範囲を有する水溶液と接触するときに非伝導状態のままであり、第2の異なる所定のpH範囲を有する水溶性流体との接触に応じて非伝導状態から伝導状態へと移行する。
【0017】
1つの実施形態では、酸性又は中性に近いpH値を有する水溶液中で非伝導状態のままであって、複合水応答性及びpH応答性安全層を5.0を超える、例えば約5.0~約12.0、約5.5~約8.0、約6.0~約7.8、約6.2~約7.6、約8.0~約10.0、約10.0~約12.0、又は、12.0を超えるpHを有する水溶性流体と接触させることに応じて非伝導状態から伝導状態に変化する、複合水応答性及びpH応答正複合安全層が提供される。したがって、水の電気分解の結果として変えられる唾液のpH又は体液のpHは、デンドライト成長とそれに伴うセルの短絡とを促進させ得る。一例として、複合水応答性及びpH応答性安全層は、ポリマー、例えば、ポリ酢酸ビニル、炭酸アンモニウムなどの塩、及び、金属粉、例えば、銅粉末又は亜鉛粉末を備えてもよい。複合水応答性及びpH応答性安全層を唾液などのアルカリ性媒体と接触させると、炭酸アンモニウムがアンモニアと炭酸陰イオンとを形成し、また、金属粉末が酸化してバッテリーの負極で還元され得る金属陽イオンを形成する可能性があり、それにより、デンドライト金属構造が、複合水応答性安全層内で成長して、安全な状態下で、例えば人や幼児がバッテリーセルを飲み込むときに、負極を正極に電子的に接続し得る。
【0018】
他の実施形態では、中性又は酸性のpH、例えば7.0未満のpHを有する水溶液中で非伝導状態のままであって、複合水応答性層を7.0を超える、例えば約8.0~約12.0のアルカリ性pHを有する水溶性流体と接触させることに応じて非伝導状態から伝導状態へと変化する、複合水応答性及びpH応答性安全層が提供される。一例として、複合水応答性及びpH応答性安全層は、ポリマー、例えば、ポリ酢酸ビニル、塩化アンモニウムなどの水溶性塩、及び、炭酸銅などの水不溶性銅金属塩を備えてもよい。複合水応答性及びpH応答性安全層と唾液などのアルカリ性媒体とを接触させると、塩化アンモニウム(NH4Cl)が安全層の近傍及び安全層内で溶解し得る。水の電気分解に起因して負電極で生成された水酸化物イオンは、アンモニウムイオンを脱プロトン化してアンモニア水(NH3)を形成する。水溶性/可溶性アンモニアは、実質的に不溶性の金属塩炭酸銅と反応して、バッテリーの負極で還元され得る可溶性の複合イオンCu(NH3)4
2+を形成することができ、それにより、デンドライト金属構造が、複合水応答性及びpH応答性層内で成長して、安全な状態下で、例えば人や幼児がバッテリーセルを飲み込むときに、負極を正極に電子的に接続し得る。
【0019】
複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層は、ポリマー材料を備える。任意の数のポリマーを単独で又は組み合わせて使用して、複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層を形成してもよい。好ましい実施形態では、複合水応答性安全層中及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層中のポリマーのうちの少なくとも1つが吸湿性ポリマーであるが、複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層は、そこに含まれる金属塩によって吸湿性にされる場合もある。ポリエチレングリコール(PEG)に加えて、他のポリマー又はその組み合わせを使用して層マトリクスを形成することができる。非限定的な例は、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリメチルメタクリル酸を含むがこれに限定されないポリアクリル酸(PAA)、ポリアミド(PA)、ポリメチルメタクリレートなどのポリメタクリレートを含むがこれに限定されないポリアクリレート、ポリビニルアルコール及び改質ポリビニルアルコール、アクリレートコポリマー、ポリ酢酸ビニル、ポリ(ビニルブチレート)、ポリ(ビニルプロピオネート)、及び、ポリ(ビニルホルメート)を含むがこれらに限定されないポリビニルエステル、ポリビニルピロリドン、プルラン、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、低粘度グレードのヒドロキシプロピルセルロース、多糖類、グアーガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、及び、デンプンを含むがこれらに限定されない水溶性天然ポリマー、エトキシル化デンプン及びヒドロキシプロピル化デンプンを含むがこれらに限定されない改質デンプン、ポリ(エチレン-酢酸ビニル)などのポリビニルエステル共重合体を含むがこれに限定されない前述したものの共重合体、及び、前述したもののいずれかの共重合体を含むが、これらに限定されない。ポリマーは、毒性がない又は毒性が殆どない生物学的に不活性な材料であることが好ましい。ポリマーの重量平均分子量は、限定されないが、一般に少なくとも1kD、例えば1kD~1000kD、5kD~750kD、50kD~750kD、例えば約500kDである。
【0020】
実施形態において、複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層は金属塩を備える。金属塩がバッテリーの負極で還元可能な犠牲物質をもたらすため、デンドライト金属構造が、複合水応答性膜内で成長して、安全な状態下で、例えば人や幼児がバッテリーセルを飲み込むときに、負極を正極に電子的に接続することができ、それにより、バッテリーセルが唾液、胃液、又は、他の流体の形態を成す水溶液に晒され、その結果、水の著しい電気分解並びにそれに伴う水酸化物イオンの生成及び組織の燃焼を伴うことなくセルが戦略的に短絡する。銅(II)(Cu+2)、鉄(II)(Fe+2)、水銀(II)(Hg+2)、ニッケル(II)(Ni+2)、銀(I)(Ag+)及び同様のものなどの遷移金属陽イオン、及び、亜鉛(II)(Zn+2)、ビスマス(III)(Bi+3)、インジウム(III)(In+3)、鉛(II)(Pb+2)、スズ(II)(Sn+2)、並びに、これらの組み合わせなどの他の金属陽イオンを含むがこれらに限定されない陽イオンを備える適切な金属塩が使用されてもよい。酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重炭酸塩、重硫酸塩、重酒石酸塩、ホウ酸塩、臭化物、酪酸塩、ショウノウ酸塩、ショウノウスルホン酸塩、炭酸塩、塩化物、クエン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、二塩酸塩、二リン酸塩、ドデシル硫酸塩、エデト酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、グルコヘプトン酸塩、グルコメート、グルタミン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプトネート、ヘキサン酸塩、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヨウ化水素酸塩、水酸化物、ヒドロキシエタンスルホン酸塩、ヒドロキシナフトエート、ヨウ化物、乳酸塩、ラクトビオン酸、ラウリン酸塩、ラウリン酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、マンデル酸塩、メシレート、メタンスルホン酸塩、メチルブロミド、メチル硝酸塩、メチル硫酸塩、ムケート、2-ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピクレート、ピバレート、ポリガラクツロン酸塩、プロピオン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、亜酢酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、タンアテ、酒石酸塩、テオフィリネート、チオシアネート、トリエチオダイド、トルエンスルホネート、ウンデカン酸、バレレート、及び、これらの混合物を含むがこれらに限定されない陰イオンを備える代表的な金属塩が使用されてもよい。特定の金属塩としては、炭酸ビスマス、塩化ビスマス、硫酸ビスマス、硝酸ビスマス、サブサリチル酸ビスマス、酸化ビスマス、炭酸銅、塩化銅、硫酸銅、シュウ酸銅、水酸化銅、炭酸鉄、塩化鉄、硫酸鉄、炭酸インジウム、塩化インジウム、硫酸インジウム、炭酸鉛、塩化鉛、硫酸鉛、炭酸水銀、塩化水銀、硫酸水銀、炭酸ニッケル、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、炭酸銀、塩化銀、硫酸銀、炭酸スズ、スズ塩化物、硫酸スズ、炭酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、それらの水和物、それらの塩基性塩(水酸化物塩、酸化物塩)、及び、これらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。また、炭酸アンモニウム((NH4)2CO3)や塩化アンモニウム(NH4Cl)などの非金属塩が金属塩と組み合わせて使用されてもよい。更に、バッテリーの負極で還元可能な犠牲物質をもたらさないが例えば保湿剤としての機能を果たすことによって及び/又は複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層の伝導性を高めることによって電子非伝導状態から電子伝導状態への移行をサポートできる塩化ナトリウム(NaCl)などの他の金属塩が含まれてもよい。
【0021】
本明細書中で使用される「炭酸銅」という用語は、炭酸銅(II)(炭酸第二銅及び中性炭酸銅としても知られている)及び塩基性炭酸銅(塩基性炭酸第二銅、水酸化銅、及び、マラカイトとしても知られている)を指すために使用される。したがって、本明細書中で使用される炭酸銅(更なる説明を伴わない)という用語は、(中性)炭酸銅(II)(CuCO3)及び塩基性炭酸銅(CuCO3・Cu(OH)2)の両方を指す。一般に、この用語は、本明細書中では、塩基性炭酸銅を指すために使用されるが、中性又は塩基性の表示によって更に特定されない場合には、両方の材料が意図されると理解されるべきである。
【0022】
1つの改良において、複合水応答性安全層の少なくとも1つの金属塩は、少なくとも第1の金属塩及び第2の金属塩を備える。水不溶性の炭酸銅などの第2の金属塩が硫酸銅などの水溶性塩と組み合わせて存在する場合、セルは、好適には、長期間にわたって高い相対湿度に晒された後であっても、セル電圧の変化を示さない。本明細書中で使用される「水溶性」とは、(約25℃、約pH7で)100mg/Lを超える、150mg/Lを超える、200mg/Lを超える、1000mg/Lを超える、及び/又は、100g/Lを超える水への溶解度を有する溶質を指す。一例として、硫酸銅は、(約25℃、約pH7で)約220 g/Lの水溶解度を有する。一方、「水不溶性」とは、(約25℃、約pH7で)10mg/L未満、7.5mg/L未満、5mg/L未満、2.5mg/L未満、及び/又は、1mg/L未満の水への溶解度を有する溶質を指す。一例として、炭酸銅(II)は、(約25℃、約pH7で)約1.46mg/Lである水への溶解度を有し、また、塩基性炭酸銅は、(約25℃、約pH7で)約4.68mg/Lの水への溶解度を有する。水不溶性塩と水溶性塩との組み合わせが使用される場合には、水不溶性塩と水溶性塩との間に少なくとも10倍、少なくとも100倍、少なくとも1000倍、及び/又は、少なくとも10,000倍の水溶解度の大きさの差が存在する場合がある。例えば、硫酸銅は、塩基性炭酸銅よりも10,000倍上回って水に溶ける。他の例において、水不溶性塩と水溶性塩との間の水溶解度の比率は、少なくとも約1:10(例えば、少なくとも約1:100、1:1,000、1:10,000、又は、それ以上)となり得る。
【0023】
多くの塩における水溶解度値は、時として文献において見出され得るが、ここでは「フラスコ法」又は「カラム溶出法」のいずれかを使用して決定される。参照により本願に組み入れられるEPA OPPTS 830.7840(水溶解度)に記載されるように、カラム溶出は溶解度が低い(10mg/L未満の溶解度)物質に関して使用され、また、フラスコ法は、溶解度が更に高い(10mg/Lを超える溶解度)物質に関して使用される。
【0024】
要するに、水溶解度は、関連するpH(例えば、7.0などの約5.5~約8.5のpH)及び関連する温度(例えば、約25℃などの約20℃~30℃の温度)の水において決定される。フラスコ法では、試験物質が最初に粉砕によって粉々にされて容器に入れられて秤量され、これにより、予備試験により決定された量の約5倍の量が容器に入れられて秤量された後、指示された量の水が容器に加えられる(例:1L)。飽和が達成されると、混合物が試験温度まで冷却され、平衡に達するまで攪拌が行われる。水溶液(未溶解粒子を含んではならない)中に溶解した試験物質の質量濃度は、任意の有用な方法論(ガス又は液体クロマトグラフィー、滴定、測光、及び/又は、ボルタンメトリー)によって分析的に決定され得る。ガスクロマトグラフィーが好ましい。カラム溶出法では、不活性担体(ビーズ、シリカ、砂など)を伴う過剰な試験物質を含むマイクロカラムが水で溶出され、また、溶出液中の物質の質量濃度は、溶出液の濃度が一定であるときに決定される。この方法は、不活性支持材料上に細かく分布される物質が充填されたカラムから一定温度の水で試験物質を溶出することに基づいている。飽和溶液がカラムから抜け出るように水の流量が調整されるべきである。飽和は、異なる流量の連続的比率の溶出液において質量濃度-適切な方法で決定される-が一定のときに達成される。これは、濃度が時間又は溶出量に対してプロットされるときに水平域によって示される。前述のように、水溶液に溶解した試験物質の質量濃度は、任意の有用な方法論(例えば、ガス又は液体クロマトグラフィー、滴定、測光、及び/又は、ボルタンメトリー)によって分析的に決定され得る。ガスクロマトグラフィーが好ましい。
【0025】
溶解度を決定するための更なる詳細としては、例えば、経済協力開発機構(OECD)、「試験番号105:水溶解度」、1995年7月27日に採択されたOECD化学物質試験ガイドライン(7pp.);OECD-環境局:化学物質委員会と化学物質、農薬、バイオテクノロジーに関する作業部会の合同会議、「水溶性媒体中の金属及び金属化合物の変換/溶解に関するガイダンス文書」、OECDテスト及び評価シリーズ、29号、7月23日、2001年(19pp.);「化学物質の登録、評価、認可、制限(REACH)に関する欧州議会及び理事会の規則(EC)No 1907/2006に基づく試験方法の規定、2008年5月30日の議会規則(EC)No.440/2008)」公式J.European Union L142、Part.A.6(p.57-66)、2008年5月31日、(739pp.);米国環境保護庁、「製品特性試験ガイドライン-OPPTS 830.7860水溶解度(発電機カラム法)」、EPA 712-C-96-042、1996年8月(19pp.)及び米国環境保護庁、「製品特性試験ガイドライン-OPPTS 830.7840、水溶解度:カラム溶出法、シェイクフラスコ法」、EPA 712-C-98-041、1998年3月(14pp.)における詳細が挙げられ、これらのそれぞれは、参照によりその全体が本願に組み入れられる。
【0026】
1つの実施形態において、複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層は、ポリマーを備えるが、(添加)金属塩が実質的にない。これに関して、負極の金属材料は、酸化され、それにより、デンドライト成長のための犠牲物質として役立つことができるイオン源をもたらし得る。したがって、他の実施形態において、本開示は、ハウジングを備えるバッテリーを提供し、ハウジングは第1及び第2の極を備え、複合水応答性安全層は、ポリマー材料を備えるとともに、第1及び第2の極の少なくとも一方に隣接して位置され、複合水応答性安全層は、水溶液と接触されるときに電子非伝導状態から電子伝導状態へと変化するようになっている。
【0027】
実施形態において、複合水応答性及びpH応答性安全層は非金属塩を備える。特定の非金属塩は、炭酸アンモニウム((NH4)2CO3)及び塩化アンモニウム(NH4Cl)を含むがこれらに限定されない。
【0028】
複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層は、随意的には、還元剤を更に備えてもよい。本明細書中で使用される「還元剤」という用語は、一般に、有機還元剤、無機還元剤、又は、その完全に還元された状態の金属元素又は金属合金の粒子を指す。還元剤は、負電極から遠く離れた場所であってもセル電位の印加を伴うことなく可溶性金属イオンを導電性元素金属に還元することができる(つまり、金属の無電解析出が起こる)。金属の無電解析出は、架橋デンドライト部分をそれらが複合水応答性安全膜中で成長する際にもたらして、バッテリー極間に電子接続を確立し、それにより、セルの短絡を促進させるのに役立ち得る。したがって、1つの実施形態において、複合水応答性安全層は、ポリマー材料と、亜鉛粉末などの金属粉末と、それに含まれる硫酸銅などの粉末金属塩とを含んでもよい。乾燥状態では、亜鉛と硫酸銅との間の反応が防止され、安全層が非導電性である。偶然の摂取の場合のように水溶性環境に晒されると、銅が溶解して銅イオンを生成することができ、銅イオンは、亜鉛金属によって還元されて銅デンドライトをもたらし、銅デンドライトは、成長して隣接するデンドライトに接続し、それにより、バッテリー極間の隙間にまたがる導電経路がもたらされ、その結果、セルが短絡する。アスコルビン酸又はアスコルビン酸塩、トコフェロール、水素化ホウ素ナトリウム、アルミニウム(0)(Al)、カルシウム(0)(Ca)、鉄(0)(Fe)、マグネシウム(0)(Mg)、ニッケル(0)(Ni)、スズ(0)(Sn)、チタン(0)(Ti)、亜鉛(0)(Zn)、並びに、それらの合金及び組み合わせを含むがこれらに限定されない還元剤が使用されてもよい。
【0029】
複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層は、随意的に、金属粉末を更に備えてもよい。本明細書中で使用される「金属粉末」という用語は、一般に、その完全に還元された状態の金属元素又は金属合金の粒子を指す。金属粒子は、約0.1μm~約500μm、例えば約0.50μm~約100μm、及び/又は、約1μm~約50μmの粒径を有してもよい。金属粉末は、水応答性安全層中及び/又は水応答性及びpH応答性安全層中において還元された形態のままとなることができ、その中でそれらが成長する際に架橋デンドライト部分を助け、それにより、バッテリー極間で電子的接続を確立し、その結果、セルの短絡を促進させる。ビスマス(0)(Bi)、銅(0)(Cu)、鉄(0)(Fe)、インジウム(0)(In)、鉛(0)(Pb)、マグネシウム(0)(Mg)、水銀(0)(Hg)、ニッケル(0)(Ni)、銀(0)(Ag)、スズ(0)(Sn)、亜鉛(0)(Zn)、並びに、それらの合金及び組み合わせを含むがこれらに限定されない元素金属が使用されてもよい。更に、金属粉末は、正極によって酸化可能であり、それにより、デンドライト成長の犠牲物質としての機能を果たすことができるイオン源をもたらす。また、金属粉末は、同時にデンドライト成長のためのブリッジ及び犠牲物質としての機能を果たすこともできる。したがって、更なる他の実施形態において、複合水応答性安全層は、その中に金属塩を実質的に含むことなく、前述したようなポリマー材料と金属粉末とを含んでもよい。
【0030】
複合水応答性安全層は、1つ以上のポリマー、1つ以上の金属塩、及び、随意的に1つ以上の金属粉末を含んでもよい。複合水応答性安全膜をもたらすために、金属塩と金属粉末との任意の組み合わせが1つ以上のポリマーと組み合わせて含まれてもよい。金属塩、ポリマー、及び、随意的な金属粉末のいずれかは、粒径を小さくするためにボールミリングを含むがこれに限定されない様々な方法によって処理されてもよい。金属塩、ポリマー、及び、随意的な金属粉末の組み合わせは、金属塩、ポリマー、及び、随意的な金属粉末を備える安全ポリマー層をもたらすために堆積されてもよい。
【0031】
一般に、ポリマー、1つ以上の金属塩、及び、随意的な金属粉末の組み合わせは、処理を促進するための溶媒を含んでもよい。一般に、溶媒は限定される必要がない。適切な溶媒としては、脂肪族溶媒、芳香族溶媒、及び、イソパラフィン溶媒が挙げられるが、これらに限定されない。具体例としては、アセトン、酢酸エチル、トルエン、キシレン、テルピネオール、n-メチル-2-ピロリドン、ヘキサン、ペンタン、及び、ジグリムが挙げられるが、これらに限定されない。溶媒を利用することにより、スピンキャスティングなどの溶媒キャスト法を使用して、複合水応答性安全層をもたらすことができる。加えて、溶媒を利用することにより、インクジェット印刷堆積及び様々な既知の噴射方法を使用して、複合水応答性安全層を堆積させることができる。直接インク書き込み(本明細書中で説明するように組成物がノズルから押し出されてバッテリーに直接に塗布される)、及び、フレキソ印刷、グラビア印刷、パッド印刷などの接触印刷技術を含むがこれらに限定されない他の堆積方法が使用されてもよい。更に、転写印刷、複合水応答性安全層を除去してバッテリー表面に直接に適用できる(ステッカーの貼り付けに似ている)ように複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層を形成するための組成物が基材上又は裏張り上に堆積されて乾燥される技術が使用されてもよい。同じ溶媒と方法とを使用して、複合水応答性及びpH応答性安全層をもたらすことができる。
【0032】
バッテリー表面は、任意の適切な表面活性化技術、例えば、アルゴン又はコロナ処理を含むがこれらに限定されないプラズマ処理、UV/オゾン処理、火炎処理、酸処理や塩基処理等を含むがこれらに限定されない化学処理によって活性化されてもよい。
堆積前のそのような処理は、バッテリー表面に対する複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層の接着力を高める場合がある。接着促進剤、特にシラン接着促進剤は、特に表面がUV/オゾン処理を使用して活性化された後に、バッテリー表面に対する複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層の接着力を高めることが分かってきた。代表的な接着促進剤としては、ジエトキシジメチルシランなどのジアルコキシシラン、ジエトキシ(メチル)ビニルシラン;1,3-ジエトキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン;ジメトキシジメチルシラン;ジメトキシジメチルシラン;ジメトキシメチルビニルシラン;及び、メチルジエトキシシラン;エトキシトリメチルシランやメトキシトリメチルシランなどのモノアルコキシシラン;3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(「APTES」)などのトリアルコキシシラン;(クロロメチル)トリエトキシシラン;トリエトキシ(エチル)シラン;トリエトキシメチルシラン;トリエトキシメチルシラン;トリエトキシビニルシラン;トリメトキシメチルシラン;トリメトキシメチルシラン;ビニルトリメトキシシラン;及び、ビニルトリメトキシシラン;tert-ブチルトリクロロシランなどのトリハロシラン;ジ-n-オクチルジクロロシラン;ヘキサクロロジシラン;メチルトリクロロシラン;メチルトリクロロシラン;トリクロロ(ジクロロメチル)シラン;トリクロロビニルシラン;1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタンなどのビスシラン;1,2-ビス(トリメトキシシリル)エタン;1,2-ビス(トリクロロシリル)エタン;及び、ビス(トリクロロシリル)メタン;及び、これらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層は、安定剤、ポロゲン、及び/又は、顔料などの添加剤を更に備えてもよい。安定剤を使用して、組成物のレオロジーを維持して、組成物が急速に沈降しないようにしてもよい。典型的な安定剤としては、それぞれEfka(登録商標)PU及びEfka(登録商標)PAの商標名(BASF Corporation)で入手可能なポリウレタン系及びポリアクリル系分散剤などの分散剤、Aerosil(登録商標)(Evonik)及びCAB-O-SIL(登録商標)の商標名(Cabot Corporation)で入手可能なヒュームドシリカ及びヒュームドアルミナレオロジー添加剤を含むがこれらに限定されないヒュームド金属酸化物レオロジー添加剤、及び、エチレンジアミン四酢酸ナトリウムなどのキレート剤が挙げられる。勿論、他の金属酸化物レオロジー添加剤が使用されてもよい。ポロゲンは、湿潤を促進して接着を促すために使用されてもよい。典型的なポロゲンとしては、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、クエン酸、水溶性糖類(例えば、グルコース、スクロース、フルクトースなど)、ポリエチレングリコール、塩化ナトリウム、及び、酢酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。顔料は、所望の審美的効果を与えるために使用されてもよく、顔料、染料、及び、それらの組み合わせから選択されてもよい。
【0034】
ポリマー材料は、複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層の重量に基づいて、5重量%~90重量%、例えば10重量%~85重量%の量で存在してもよい。金属塩は、複合水応答性安全層の重量に基づいて、5重量%~95重量%、例えば10重量%~90重量%の量で存在してもよい。同様に、非金属塩は、複合水応答性及びpH応答性安全層の重量に基づいて、5重量%~95重量%、例えば10重量%~90重量%の量で存在してもよい。金属粉末は、存在する場合、複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層の重量に基づいて、5重量%~95重量%、例えば10重量%~90重量%の量で存在してもよい。接着促進剤は、存在する場合、複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層の重量に基づいて、0.1重量%~5重量%、例えば0.25重量%~2.0重量%の量で存在してもよい。レオロジー添加剤は、存在する場合、複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層の重量に基づいて、0.1重量%~7.5重量%、例えば0.25重量%~5.0重量%の量で存在してもよい。着色剤は、存在する場合、複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層の重量に基づいて、1重量%~35重量%、例えば2.5重量%~30重量%の量で存在してもよい。
【0035】
複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層は、正極と負極との間の隙間上に配置され、一般に、30μm~1000μm、例えば30μm~100μm、50μm~200μm、100μm~300μm、50μm~500μm、及び/又は、100μm~1000μmの厚さを有する。一般に、複合水応答性安全層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層は、アノードカップとカソード缶との間に画定される外周の少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、又は、ほぼ100%を覆う。一般に、複合水応答性層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層は、アノードカップの一部及びカソード缶の一部の両方と接触するが、以下で更に詳しく説明するように、一般に、バッテリー極のうちの1つだけとの接触で十分である。実施形態において、複合水応答性層及び/又は複合水応答性及びpH応答性安全層は、200μm~2000μmの幅を有する(コインセルにおける正極と負極との間の隙間に対応する)。
【0036】
図2A及び
図2Bは、任意のタイプの一次又は二次バッテリーであってもよく且つ図示の例ではボタンセルタイプのバッテリーであるバッテリー50を示す。バッテリー50は、バッテリーを取り囲むバッテリーハウジングを含み、ハウジングはカソード缶54及びアノードカップ58を含み、カソード缶54はハウジング内にカソード52を収容し、アノードカップ58はハウジング内にアノード56を収容し、カソード52及びアノード56はセル50内のセパレータ60によって電子的に分離される。カソード缶54及びアノードカップ58のそれぞれは、バッテリー50の異なる極を形成する。
【0037】
カソード缶54及びアノードカップ58は、カソード52の横方向の範囲にわたって、例えば実質的にバッテリー50の直径にわたって延びるセパレータ60によって離間される。缶54とカップ58とを電子的に分離して、絶縁ガスケット62がカソード缶54内へと延び、それにより、電解質損失を防ぐべくセルも密閉するアノードカップ58を取り囲む絶縁バッファがもたらされる。
【0038】
図示のように、バッテリー50は、絶縁ガスケット62の少なくとも一部を取り囲む複合水応答性安全層64を更に含み、複合水応答性安全層64は、アノードカップ58の一部及びカソード缶54の一部の両方と接触する。複合水応答性安全層64は、バッテリーセル10の通常の動作状態に対応する電子非伝導状態から、セルを安全状態に、一般的には唾液、胃液、又は、他の水溶性流体に晒すことによって引き起こされる電子伝導状態へと変化する電子短絡層である。例えば、安全な状態は、人又は幼児がバッテリーセル50を飲み込むとき、バッテリーセル50を唾液、胃液、又は、他の水溶性流体の形態の水溶液に晒すことであり得る。本明細書中で更に説明するように、複合水応答性安全層64は、水溶液と接触すると、例えば唾液又は胃液、水、又は、他の水溶性流体などの水溶液との接触に応じて、電子非伝導状態から電子伝導状態へと変わる。
【0039】
代表的な例において、複合水応答性安全層64は、ポリエチレングリコール(PEG)、約10重量%の亜鉛(Zn)粒子(約20メッシュサイズ)、及び、約10重量%の硫酸銅(CuSO4)粒子を約50℃に保持された攪拌プレート上のガラスバイアル内で混ぜ合わせた後に絶縁ガスケット62の少なくとも一部上又はその周囲に組成物を堆積させることによって形成される。絶縁ガスケット62の少なくとも一部を酸化金属成分を含む組成物で覆うことにより、例えば人又は幼児がバッテリーセル50を飲み込むときに、安全状態下でデンドライト金属構造が成長してアノードをカソードに電気的に接続できるように還元可能な犠牲物質が負極で有利にもたらされ、それにより、バッテリーセル50が唾液、胃液、又は、他の流体の形態を成す水溶液に晒され、その結果、戦略的に、水の著しい電気分解とそれに伴う水酸化物イオンの生成及び組織の燃焼とを伴うことなくボタンセルが短絡する。複合水応答性層は、アノードカップ58の一部及びカソード缶54の一部の両方と接触するように示されるが、例えば、装置が複合水応答性層のデンドライトと他のバッテリー極との間で電子的接触を確立するのに役立つ接触パッドを備えることができるため、一般にバッテリー極の一方のみとの接触で十分である。
【0040】
本開示に係る複合水応答性安全層で用いるためのポリマーマトリクスを評価するために、
図3に示されるように、2リード線試験が行われた。サンプル材料組成物の50μLのサンプルが2本の亜鉛配線間に(約200μm離れて)堆積された。組成物は、試験されるべき材料に応じて異なる。図示の例において、組成物は、ポリエチレングリコール(PEG)、10重量%の亜鉛粒子(Zn粉末)、及び、10重量%の硫酸銅、CuSO
4粒子を含むポリマーマトリクスを備えた。定格3.0ボルトのCR2032ボタンセルリチウムバッテリーをシミュレートするために、2本の亜鉛配線への電圧源が3Vに設定され、また、電流コンプライアンスが30mA(CR2032バッテリーの最大電流)に設定された。唾液代用溶液の200μLアリコート(具体的には、25%リンゲル液)がポリマーマトリクス上に堆積された。電位は最大1時間にわたって監視された。
【0041】
それぞれが複合水応答性安全層を有する異なるCR2032バッテリーに関する幾つかの繰り返し試験の結果が
図4に示される。各試験は異なる開始時間で実行されたが、それぞれの試験は、アノード及びカソードが短絡してわずか90秒で有効バッテリー電圧を3Vから1V未満まで低下させることを示している。
【0042】
図5は、カソード缶102、アノードカップ104、及び、ポリマー層106を伴うバッテリーセル100の他の例を示す。セルが水溶液に晒されるときに良好な金属デンドライト成長を妨げ得る金属デンドライト成長中の水素バブリングの発生の抑制に役立つように、本明細書中に開示されるように、露出したアノードカップ104を最初にZn層108でメッキした後、例えば、アノードカップ104上に亜鉛金属のドットをメッキした後にそこで1つ以上のポリマー材料と1つ以上の金属塩とを含む組成物上にわたって随意的に1つ以上の金属粉末と更に組み合わせて堆積することによって複合水応答性安全層106が形成された。Zn層108は、局所的に、水素過電圧を増大させ、それにより、亜鉛層が堆積された特定の位置での水素バブリングを有利に抑制する。或いは、スズ(Sn)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)、鉛(Pb)、亜鉛(Zn)、及び、水銀(Hg)を含む水素放出の(負電極の材料、一般にNi又はステンレス鋼の水素過電圧と比べて)かなり高い過電圧を有する他の金属層を単独で又は組み合わせて使用して、水素バブリングを抑制し、カソード缶102とアノードカップ104との間の金属デンドライト短絡接続の形成を促進することができる。
【0043】
アセトンと溶解又は懸濁したポリエチレングリコール(4000g/molの重量平均分子量を有する)、硫酸銅粉末(スラリー中の15重量%の溶解又は懸濁した固体)、及び、亜鉛金属ダスト(スラリー中の15重量%の溶解又は懸濁した固体))とを含む組成物がホットプレート上で約50℃まで加熱されてテフロンコーティングされた磁気攪拌棒で完全に混合された。この組成物のサンプル(15μL)は、Zn層108を有するバッテリー100の半分のクリップエッジ112の周りの位置へとピペットで入れられた。
【0044】
したがって、複合水応答性安全層106は、特に複合水応答性安全層がアノードカップ104の外周に沿って好ましくはアノードカップ104の外周と接触して配置されるとともにカソード缶102の外周に沿って好ましくはカソード缶102の外周と接触して配置されるようにアノードカップ104のバッテリー表面の周囲に実質的に連続した層として形成されてもよく、或いは、より一般的には、バッテリーセル100の上端を介して示されるように第1及び第2(例えば、正及び負)のバッテリー極間に配置されてもよい。バッテリーセル100の底部を介して示される他の例において、複合水応答性安全層106は、連続的である必要はなく、むしろ、周期的に位置され(例えば、堆積され、層状にされるなど)、例えば、
図5に示されるように離散ドット110として堆積されてもよい。
【0045】
バッテリーが25%リンガー水溶液中に浸漬されたときのバッテリー100にわたる電圧の直接的な測定値は、外部バッテリーセルの短絡を確認するために使用された。結果は、
図6に示されるように、セル短絡を来たしてセル短絡がバッテリーセル100の電圧を1V未満の非脅威値まで低下させるのに役立つように金属デンドライトが成長したことを示した。
【0046】
図7に示される例において、複合水応答性安全層は、約12.5重量%のポリ酢酸ビニル(PVAc)、約4.16重量%の酸化ポリエチレン(PEO)、約8.33重量%の硫酸銅粒子(CuSO
4)、及び、約75重量%の塩基性炭酸銅粒子(マラカイトとしても知られるCuCO
3・Cu(OH)
2)を備える。好適には、
図7に示されるように、セルの電圧は、水溶液と接触すると非常に迅速且つ効率的に低下する。電圧降下は20分間しか示されないが、時間が経過するにつれて電圧は更に低くなる。加えて、前述の混合物を備える複合水応答性安全層を有するセルは、少なくとも2時間にわたって90%の相対湿度に晒された後であってもセル電圧の変化を示さなかった。
【0047】
図8に示される例において、複合水応答性安全層は、約16.75重量%のポリ酢酸ビニル(PVAc)、約6.25重量%の酸化ポリエチレン(PEO)、約12.5重量%の硫酸銅粒子(CuSO
4)、及び、約62.5重量%の塩基性炭酸銅粒子(CuCO
3・Cu(OH)
2)を備える。好適には、
図8に示されるように、セルの電圧は、水溶液と接触すると非常に迅速且つ効率的に低下する。
図8では電圧降下が20分間しか示されないが、時間が経過するにつれて電圧は更に低くなる。それと一致して、以下の表に見られるように、2時間後、前述の安全層を備えるセルの電圧が1.2Vをはるかに下回り、また、pHは、比較的中性であり、したがって組織を火傷させることができなかった。
【表1】
加えて、前述の混合物を備える複合水応答性安全層を有するセルは、少なくとも2時間にわたって90%の相対湿度に晒された後であってもセル電圧の変化を示さなかった。
【0048】
図9に示される例において、複合水応答性安全層は、約16.67重量%のポリ酢酸ビニル(PVAc 500K、約50万の重量平均分子量を有するポリ酢酸ビニル)、約41.67重量%の硫酸銅粒子(CuSO
4)、及び、約41.67重量%の塩基性炭酸銅粒子(CuCO
3・Cu(OH)
2)を備える。一般に、約400mgのポリ酢酸ビニルが約1mLのキシレン中に溶解され、また、それに対して約1gのボールミル粉砕されたCuSO
4と1gのボールミル粉砕されたCuCO
3・Cu(OH)
2とが加えられた。組成物がシリンジ内に充填され、また、組成物は、室温で平衡化できるようにされた後、第1及び第2のバッテリー極間の隙間でセル上に堆積された。堆積後、組成物は空気中で乾燥できるようにされた(約24時間)。好適には、
図9に示されるように、セルの電圧は、水溶液と接触すると非常に迅速且つ効率的に低下する。実際に、これらのセルでは、400秒未満で電圧が1.2V未満に低下する。
【0049】
他の具体例において、複合水応答性安全層は、約22重量%のPEG 6K(約6000の重量平均分子量を有するポリエチレングリコール)、約2重量%のPMMA 75K(約75,000の重量平均分子量を有するポリメチルメタクリレート)、約38重量%の亜鉛粒子(Zn粉末)、及び、約38重量%の硫酸銅CuSO4粒子を備える。一般に、ポリマー成分がアセトン中に溶解され、また、それに対して亜鉛粒子及びボールミル粉砕されたCuSO4が加えられた。配合物の粘度はテルピネオールで調整された。ノズル工具を使用して、配合物は、アノードカップの外周に沿ってアノードカップの外周と接触して堆積されるとともに、カソード缶の外周に沿ってカソード缶の外周と接触して堆積され、それにより、第1及び第2のバッテリー極間の隙間に複合水応答性安全層を形成する。また、キシレンもアセトンの代わりに使用され、キシレンは、エアロゾル及びマイクロディスペンシング(インクジェット印刷など)堆積にとって好ましい。
【0050】
更なる特定の例において、複合水応答性安全層は、約17重量%のPVAc 100K(約100,000の重量平均分子量を有するポリビニルアセテート)、約41.5重量%の亜鉛粒子(Zn粉末)、及び、約41.5重量%の硫酸銅CuSO4粒子を備える。一般に、ポリマーは約60℃でキシレン中に溶解され、また、それに対して亜鉛粒子及びボールミル粉砕されたCuSO4が加えられた。配合物は、エアブラシを使用したエアロゾル印刷によって堆積された。マスキングを使用して、堆積を促進させ、したがって、第1及び第2のバッテリー極間の隙間に複合水応答性安全層が形成された。
【0051】
更なる特定の例において、複合水応答性安全層は、約29重量%のPVAc 100K(約100,000の重量平均分子量を有するポリビニルアセテート)及び約71重量%の硫酸銅CuSO4粒子を備える。一般に、ポリマーは約50℃でキシレン中に溶解され、また、それに対してボールミル粉砕されたCuSO4及び着色剤、具体的にはフタロシアニンブルーBN顔料が加えられた。配合物は、ノズル工具を使用した直接的な書き込み/押し出しによって第1及び第2のバッテリー極間の隙間に堆積された。
【0052】
更なる付加的な特定の例において、複合水応答性安全層は、約1gのPVAc 500K(約500,000の重量平均分子量を有するポリ酢酸ビニル)、約2.5gの硫酸銅CuSO4、粒子、及び、約2.5gの塩基性炭酸銅粒子(CuCO3・Cu(OH)2)を備えるインク組成物から調製された。一般に、ポリ酢酸ビニルが約70℃で約5mLのキシレン中及び約50又は約100mgのヒュームドシリカレオロジー添加剤CAB-O-SIL-EH-5中に溶解され、その後、インク配合物を形成するためにボールミル粉砕されたCuSO4及びCuCO3・Cu(OH)2が加えられた。配合物は、約0.41mmのチップ直径を有するノズルを使用する直接書き込み印刷によって第1及び第2のバッテリー極間の隙間に堆積された。より高い濃度のヒュームドシリカレオロジー添加剤を伴う配合物は、より高い分解能を示した。
【0053】
更なる例A~Dが表2にしたがって調製された。
【表2】
【0054】
全ての試薬を更なる処理又は精製を伴うことなく受けられたように使用できる。しかしながら、望ましいレオロジー特性及び沈降防止特性を配合物に与えるために、塩基性炭酸銅が、最初に溶媒(アセトン)中に分散され、その後、2時間にわたって湿式ボールミル粉砕されて(Retsch Mixer Mill MM200、Retsch GmbH)粒度を約1~30μmまで減少された。結果として得られるスラリーを濾過した後、固体が容器内に配置されて乾燥された(空気又は真空)。硫酸銅が30分間にわたって乾式ボールミル粉砕された。硫酸銅及び(3-アミノプロピル)トリエトキシシランが使用するまでデシケーター内に保管された。
【0055】
テフロンコーティングされた磁気マイクロ攪拌棒を伴う20mLのガラスバイアル内で、それぞれの例A-Dごとに磁気攪拌プレート上での連続攪拌を伴って200mgのPVAc(500kD)が2mLのトルエン中に溶解された。PVAcが完全に溶解されたとき(最大で1時間)、塩基性炭酸銅(500mg)、硫酸銅(500mg)、着色剤(例A、B,Dのそれぞれにおいて、200mgカーボンブラック、100mgスーパーカッパー、400mgタイタンブラック、例Cは更なる顔料を何ら含まない)、及び、Aerosil-200(30mg)が加えられて5~10分間にわたって混合され、それにより、均一に分散されたスラリーが生成された。デシケーター又は他の水分のない環境での保管時、混合物は少なくとも1週間にわたって安定性を示した。沈殿が生じた場合、混合物中の固体成分を再分散させるのに激しい攪拌/混合で十分である。
【0056】
接着力を高めるために表面が洗浄されて活性化された。受け取ったままのセルは、洗浄されて、数分間にわたってUV/オゾン処理を使用して活性化された。一滴の脱イオン水が活性化された表面を容易に濡らして10度未満の接触角を有する場合に、十分な活性化が確認された。活性化された表面は、活性化後できるだけ早く(最良の結果を得るために1時間以内に)、全ての成分を再懸濁するように混合された配合物でコーティングされた(5-10分)。堆積の少し前に(そうでなければ完全な)配合物にAPTESが加えられ、また。配合物は更に5分間攪拌された。典型的な堆積量は、10~15μLであり、20μL以下である。配合物は、手動で又は第1及び第2のバッテリー極の間の隙間でノズル工具を使用して押し出すことにより堆積された。
【0057】
レオメーターを使用して行った測定は、コーティングが低せん断(0.001s-1のせん断速度で>1,000,000Pa・s)でゲルであり且つ高せん断(100s-1のせん断速度で1,000Pa・s)で粘稠液であることを示した。
【0058】
例Aに係る複合安全膜を伴うバッテリーは、不動態化性能及び相対湿度70%(40℃)での耐湿性に関して評価された。複合水応答性安全膜は、好適には、16日間を超えて70%の相対湿度に晒された後であってもセル電圧に変化がないことを実証した。更に、水溶液との接触時にセルの電圧が低下し、それにより、2時間後、前述の安全層を備えるセルの電圧が1.2Vを大きく下回り、実際には0.1V未満となり、pHが中性であり、したがって組織を火傷させることができない。
【0059】
この明細書の全体にわたって、複数の事例は、単一の事例として説明される構成要素又は構造を実施し得る。幾つかの構成例において別個の構成要素として与えられる構造及び機能は、組み合わされた構造又は構成要素として実装されてもよい。同様に、単一の構成要素として与えられる構造及び機能は、別個の構成要素として実装されてもよい。これら及び他の変形、修正、付加、及び、改良は、本明細書中の主題の範囲内にある。
【0060】
本明細書中で使用される「1つの実施形態」又は「一実施形態」への任意の言及は、その実施形態に関連して記載される特定の要素、特徴、構造、又は、特性が少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。本明細書中の様々な箇所における「1つの実施形態では」という表現の出現は、必ずしも全てが同じ実施形態に言及しているとは限らない。
【0061】
本明細書中で使用される用語「備える」、「備えている」、「含む」、「含んでいる」、「有する」、「有している」、又は、これらの任意の他の変形は、非排他的な包含を網羅するように意図される。例えば、要素のリストを含むプロセス、方法、物品、又は、装置は、必ずしもそれらの要素のみに限定されず、明示的に挙げられていない或いはそのようなプロセス、方法、物品、又は、装置に固有の他の要素を含んでもよい。更に、反対のことが明示的に述べられなければ、「又は」は、包括的な「又は」を指し、排他的な「又は」を指すのではない。例えば、要素A又はBは、以下のいずれか1つによって満たされる。すなわち、Aが存在しBが存在せず、Aが存在せずBが存在し、及び、AとBの両方が存在する。
【0062】
更に、「1つ(a)」又は「1つ(an)」の使用は、本明細書中の実施形態の要素及び構成要素を説明するために使用される。これは単に便宜上及び説明の一般的な意味を与えるために行われる。この説明及び以下の特許請求の範囲は、1つの或いは少なくとも1つを含むように読まれるべきであり、また、それが別のことを意味していることが明らかでなければ、単数形は複数形も含む。
【0063】
全ての可能な実施形態を説明することは不可能ではないにしても実用的でないので、詳細な説明は一例として解釈されるべきであり、全ての可能な実施形態を説明するものではない。現在の技術又はこの出願の出願日以降に開発された技術のいずれかを使用して、多数の代替的な実施形態を実施することができる。