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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056834
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】抗NPR1抗体およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20240416BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240416BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240416BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240416BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240416BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240416BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20240416BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240416BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20240416BHJP
   A61P 7/10 20060101ALI20240416BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240416BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20240416BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20240416BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20240416BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240416BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20240416BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20240416BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20240416BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240416BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240416BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240416BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20240416BHJP
【FI】
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 N
A61P9/12
A61P7/10
A61P3/10
A61P27/06
A61P3/04
A61P9/04
A61P11/00
A61P11/06
A61P13/12
A61P19/00
A61P27/02
A61P29/00
A61P35/00
C07K16/28 ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024019151
(22)【出願日】2024-02-13
(62)【分割の表示】P 2021522004の分割
【原出願日】2019-10-18
(31)【優先権主張番号】62/749,557
(32)【優先日】2018-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/755,720
(32)【優先日】2018-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・ダン
(72)【発明者】
【氏名】ジア・スー
(72)【発明者】
【氏名】ジェイソン・マスタイティス
(72)【発明者】
【氏名】ジェスパー・グロマーダ
(72)【発明者】
【氏名】ローリ・モートン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ナトリウム利尿ペプチド受容体(NPR1)タンパク質に結合するモノクロナール抗体およびその使用方法を提供する。
【解決手段】NPR1タンパク質に特異的に結合する抗体またはその抗原結合性フラグメントの重鎖可変領域(HCVR)および/または軽鎖可変領域(LCVR)をコードするポリヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチド分子であって、該抗体またはその抗原結合性フラグメントが、特定のアミノ酸配列を含むHCVR内に含まれる3つの重鎖相補性決定領域(CDR)(HCDR1、HCDR2およびHCDR3);および特定のアミノ酸配列を含むLCVR内に含まれる3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)を含む、単離されたポリヌクレオチド分子。本発明の抗体は、NPR1活性を活性化するのに有用であり、そのためヒトにおけるNPR1関連の疾患、障害または状態を処置または予防する手段を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウム利尿ペプチド受容体1(NPR1)タンパク質に特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合性フラグメントであって、該抗体またはその抗原結合性フラグメントが、水素/重水素交換によって決定されるように、NPR1の細胞外ドメイン(配列番号:194のアミノ酸29~347)内に含まれる1つまたはそれ以上のアミノ酸と相互作用し、該抗体またはその抗原結合性フラグメントが(i)心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の存在下または非存在下で、ヒトNPR1を発現する細胞に結合する;かつ/または(ii)NPR1に結合し、NPR1を活性化する、単離された抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項2】
抗体または抗原結合性フラグメントが、(a)配列番号:194のアミノ酸29~45;(b)配列番号:194のアミノ酸331~347;(c)配列番号:194のアミノ酸336~347;(d)配列番号:194のアミノ酸331~335;および(e)配列番号:194のアミノ酸70~81;からなる群から選択されるアミノ酸配列と相互作用する、請求項1に記載の単離された抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項3】
抗体またはその抗原結合性フラグメントが、(a)配列番号:194のアミノ酸29~45;および(b)配列番号:194のアミノ酸336~347からなる群から選択されるアミノ酸配列と相互作用する、請求項2に記載の単離された抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項4】
抗体またはその抗原結合性フラグメントが、ANPの存在下で、(a)配列番号:194のアミノ酸29~45;および(b)配列番号:194のアミノ酸331~347からなる群から選択されるアミノ酸配列と相互作用する、請求項2に記載の単離された抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項5】
抗体またはその抗原結合性フラグメントが、ANPの存在下で、(a)配列番号:194のアミノ酸29~45;(b)配列番号:194のアミノ酸70~81;および(c)配列番号:194のアミノ酸331~335からなる群から選択されるアミノ酸配列と相互作用する、請求項2に記載の単離された抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項6】
心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の存在下でナトリウム利尿ペプチド受容体1(NPR1)タンパク質に特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合性フラグメントであって、該抗体またはその抗原結合性フラグメントが、水素/重水素交換によって決定されるように、(a)配列番号:194のアミノ酸29~45;および(b)配列番号:194のアミノ酸331~335からなる群から選択されるアミノ酸配列と相互作用するが、配列番号:194のアミノ酸70~81とは相互作用せず、抗体またはその抗原結合性フラグメントが(i)ANPの存在下または非存在下で、ヒトNPR1を発現する細胞に結合する;かつ/または(ii)NPR1に結合し、NPR1を活性化する、単離された抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項7】
抗体が完全ヒトモノクローナル抗体である、請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項8】
抗体が、(a)完全ヒトモノクローナル抗体である;(b)表面プラズモン共鳴法で測定されるように、ANPおよび/または脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の非存在下、25℃および37℃で、690nM未満の解離定数(K)で、単量体のヒトNPR1に結合する;(c)表面プラズモン共鳴法で測定されるように、ANPまたはBNPの非存在下、25℃および37℃で、42nM未満のKで、二量体のヒトNPR1に結合
する;(d)表面プラズモン共鳴法で測定されるように、25℃および37℃で、80nM未満のKで、ANPと複合体形成したヒトNPR1に結合する;(e)表面プラズモン共鳴法で測定されるように、25℃および37℃で、20nM未満のKで、BNPと複合体形成したヒトNPR1に結合する;(f)表面プラズモン共鳴法で測定されるように、ANPおよび/またはBNPの非存在下、25℃および37℃で、365nM未満のKで、単量体のサルNPR1に結合する;(g)表面プラズモン共鳴法で測定されるように、ANPまたはBNPの非存在下、25℃および37℃で、30nM未満のKで、二量体のサルNPR1に結合する;(h)表面プラズモン共鳴法で測定されるように、25℃および37℃で、10nM未満のKで、ANPと複合体形成したサルNPR1に結合する;(i)表面プラズモン共鳴法で測定されるように、25℃および37℃で、10nM未満のKで、BNPと複合形成したサルNPR1に結合する;(j)マウスNPR1とは結合しない;(k)ヒトNPR1(ANPなし)またはANPと複合体形成したNPR1を発現する細胞に、5nM未満のEC50で結合する;(l)カルシウムフラックス細胞ベースのバイオアッセイで測定されるように、385nM未満のEC50でNPR1を活性化する;(m)正常血圧および高血圧のマウスに投与したときに、全身血圧を低下させ、全身血圧および平均動脈血圧の低下は、単回用量の投与で28日まで持続する;および(n)食事誘発性肥満マウスに投与したときに、耐糖能が改善される;からなる群から選択される1つまたはそれ以上の特性を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項9】
抗体または抗原結合性フラグメントが、重鎖可変領域(HCVR)内に含まれる3つの重鎖相補性決定領域(CDR)(HCDR1、HCDR2およびHCDR3);および軽鎖可変領域(LCVR)内に含まれる3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)を含み、該HCVRが、表1に記載のHCVR配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項10】
表1に記載のLCVR配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するLCVRを含む、請求項9に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項11】
(a)配列番号:4、20、36、52、68、84、100、116、132、148、164、および180からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するHCDR1ドメイン;
(b)配列番号:6、22、38、54、70、86、102、118、134、150、166、および182からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するHCDR2ドメイン;
(c)配列番号:8、24、40、56、72、88、104、120、136、152、168、および184からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するHCDR3ドメイン;
(d)配列番号:12、28、44、60、76、92、108、124、140、156、172、および188からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するLCDR1ドメイン;
(e)配列番号:14、30、46、62、78、94、110、126、142、158、174、および190からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するLCDR2ドメイン;および
(f)配列番号:16、32、48、64、80、96、112、128、144、160、176、および192からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するLCDR3ドメイン
を含む、請求項9または10に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項12】
配列番号:2/10、18/26、34/42、50/58、66/74、82/90、98/106、114/122、130/138、146/154、162/170、および178/186からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む、請求項11に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項13】
(a)配列番号:4、6、8、12、14、および16;ならびに(b)配列番号:68、70、72、76、78、および80からなる群から選択されるCDRを含む、請求項12に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項14】
配列番号:2/10、および66/74からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む、請求項13に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項15】
ナトリウム利尿ペプチド受容体1(NPR1)タンパク質に結合する抗体またはその抗原結合性フラグメントであって、該抗体または抗原結合性フラグメントが、HCVR内に含まれる3つの重鎖CDR(HCDR1、HCDR2およびHCDR3);およびLCVR内に含まれる3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)を含み、該HCVRが、
(i)配列番号:2、18、34、50、66、82、98、114、130、146、162、および178からなる群から選択されるアミノ酸配列;
(ii)配列番号:2、18、34、50、66、82、98、114、130、146、162、および178からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列;
(iii)配列番号:2、18、34、50、66、82、98、114、130、146、162、および178からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列;または
(iv)配列番号:2、18、34、50、66、82、98、114、130、146、162、および178からなる群から選択されるアミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列が12個を超えないアミノ酸置換を有するアミノ酸配列
を含み、LCVRが
(a)配列番号:10、26、42、58、74、90、106、122、138、154、170、および186からなる群から選択されるアミノ酸配列;
(b)配列番号:10、26、42、58、74、90、106、122、138、154、170、および186からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列;
(c)配列番号:10、26、42、58、74、90、106、122、138、154、170、および186からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列;または
(d)配列番号:10、26、42、58、74、90、106、122、138、154、170、および186からなる群から選択されるアミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列が10個を超えないアミノ酸置換を有するアミノ酸配列
を含む、抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項16】
配列番号:2、18、34、50、66、82、98、114、130、146、162、および178からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するHCVRを含む、請求項15に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項17】
配列番号:10、26、42、58、74、90、106、122、138、154、170、および186からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するLCVRを含む、請求項15に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項18】
配列番号:2、18、34、50、66、82、98、114、130、146、162、および178からなる群から選択されるHCVR内に含まれる3つのCDR;ならびに配列番号:10、26、42、58、74、90、106、122、138、154、170、および186からなる群から選択されるLCVR内に含まれる3つのCDRを含む、請求項15~17のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項19】
配列番号:2/10、18/26、34/42、50/58、66/74、82/90、98/106、114/122、130/138、146/154、162/170、および178/186からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む、請求項15~18のいずれか1項に記載の抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項20】
(a)配列番号:4、20、36、52、68、84、100、116、132、148、164、および180からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するHCDR1ドメイン;
(b)配列番号:6、22、38、54、70、86、102、118、134、150、166、および182からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するHCDR2ドメイン;
(c)配列番号:8、24、40、56、72、88、104、120、136、152、168、および184からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するHCDR3ドメイン;
(d)配列番号:12、28、44、60、76、92、108、124、140、156、172、および188からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するLCDR1ドメイン;
(e)配列番号:14、30、46、62、78、94、110、126、142、158、174、および190からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するLCDR2ドメイン;および
(f)配列番号:16、32、48、64、80、96、112、128、144、160、176、および192からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するLCDR3ドメイン
を含む、請求項15に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項21】
(a)配列番号:4、6、8、12、14、および16;ならびに(b)配列番号:68、70、72、76、78、および80からなる群から選択されるCDRを含む、請求項20に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項22】
配列番号:2/10、および66/74からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む、請求項21に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項23】
HCVRの3つのCDRであって、HCVRが、配列番号:2、18、34、50、66、82、98、114、130、146、162、および178からなる群から選択されるアミノさん配列を有する、HCVRの3つのCDR;ならびに、LCVRの3つのCDRであって、LCVRが配列番号:10、26、42、58、74、90、106、122、138、154、170、および186からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、LCVRの3つのCDRを含む、ナトリウム利尿ペプチド受容体1(NPR1)タンパク質を活性化する単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項24】
ナトリウム利尿ペプチド受容体1(NPR1)タンパク質への結合に関して、請求項1~23のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメントと競合する抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項25】
請求項1~23のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメントと同じエピトープに結合する抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項26】
請求項1~25のいずれか1項に記載のナトリウム利尿ペプチド受容体1(NPR1)タンパク質に結合する単離された抗体またはその抗原結合性フラグメントと、薬学的に許容される担体または希釈剤とを含む医薬組成物。
【請求項27】
請求項1~25のいずれか1項に記載された抗体のHCVRをコードするポリヌクレオチド配列を含む、単離されたポリヌクレオチド分子。
【請求項28】
請求項1~25のいずれか1項に記載された抗体のLCVRをコードするポリヌクレオチド配列を含む、単離されたポリヌクレオチド分子。
【請求項29】
請求項27に記載のポリヌクレオチド配列および/または請求項28に記載のポリヌクレオチド配列を含むベクター。
【請求項30】
請求項29に記載のベクターを発現する宿主細胞。
【請求項31】
抗NPR1抗体またはその抗原結合性フラグメントを製造する方法であって、請求項30に記載の宿主細胞を、抗体またはフラグメントの産生を可能にする条件下で培養し、そうして産生された抗体またはフラグメントを回収することを含む方法。
【請求項32】
抗体またはその抗原結合性フラグメントを、許容可能な担体を含む医薬組成物として製剤化することをさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
NPR1関連の疾患または障害の少なくとも1つの症状または徴候を処置、予防または改善する方法であって、請求項1~25のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメントの治療上有効な量を含む医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む方法。
【請求項34】
NPR1関連の疾患または障害が、高血圧、心不全、肥満、腎不全、慢性腎臓病、黄斑浮腫、緑内障、脳卒中、肺障害、肺線維症、炎症、喘息、骨格成長障害、骨折、糖尿病、および癌からなる群から選択される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
医薬組成物が、それを必要とする対象に予防的または治療的に投与される、請求項33または34に記載の方法。
【請求項36】
医薬組成物を第2の治療剤と組み合わせて投与する、請求項33~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
第2の治療剤が、アルドステロン拮抗剤、アルファ-アドレナリン遮断剤、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、動脈性血管拡張剤、自律神経節性血管拡張剤、ベータ-アドレナリン遮断剤、カテコラミン枯渇性交感神経弛緩剤、中枢性アルファ-2アドレナリン作動剤、カルシウムチャネル遮断剤、利尿剤、レニン阻害剤、抗凝固剤、抗血小板剤、コレステロール低下剤、血管拡張剤、ジギタリス、手術、埋め込み型デバイス、抗腫瘍療法、インスリン、GLP1アゴニスト、メトホルミン、透析、骨髄刺激剤、血液濾過、生活習慣の改善、および栄養補助食品からなる群から選択される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
医薬組成物が皮下、静脈内、皮内、腹腔内、または筋肉内に投与される、請求項33~37のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年10月18日にPCT国際特許出願として出願されており、2018年10月23日に出願された米国仮出願第62/749,557号、および2018年11月5日に出願された第62/755,720号の優先権の利益を主張するものであり、それぞれの開示内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、ナトリウム利尿ペプチド受容体1(NPR1)に特異的に結合する抗体および抗体の抗原結合性フラグメント、ならびにそれらの抗体を用いた治療および診断方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ナトリウム利尿ペプチド受容体1(NPR1;NPR-Aとしても知られる)は、GTPからサイクリックGMPへの変換を触媒する酵素であるグアニルシクラーゼ受容体の細胞表面ファミリーに属する。NPR1は、腎臓、肺、副腎、血管系、脳、肝臓、内皮および脂肪組織に高度に発現され、心臓では低レベルである。それは、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)および脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)への結合によって活性化される。NPR1活性化およびシグナル伝達は、多くの組織に関わる多くの生理的反応を引き起こす。ANP-NPR1システムは、血管弛緩、ナトリウム利尿、利尿、内皮透過性ならびに脂肪分解および免疫細胞機能のような非心血管機能における役割についてよく研究されている(非特許文献1)。NPR1が活性化されると、ナトリウム利尿(腎臓による塩分の排泄)が起こり、血圧が低下する。
【0004】
NPR1に対するモノクローナル抗体は、最初に1995年にKitanoらによって非特許文献2に記載された。活性化またはアゴニスト抗NPR1抗体は、例えば、特許文献1および特許文献2ならびに特許文献3に開示されている。
【0005】
NPR1タンパク質に高い親和性で特異的に結合し、それを活性化する完全ヒト抗体は、例えば、高血圧、肥満、心不全などの予防や処置に重要な役割を果たす可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第9090695号
【特許文献2】米国特許第20160168251号
【特許文献3】WO2010065293
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Potter 2011,Pharmacol.Ther.130:71-82
【非特許文献2】Kitanoら,1995,Immunol.Lett.47:215-22
【発明の概要】
【0008】
本発明は、ナトリウム利尿ペプチド受容体1(NPR1)タンパク質に特異的に結合する抗体およびその抗原結合性フラグメントを提供する。特定の実施形態では、抗NPR1抗体は、NPR1に高親和性で結合し、NPR1を活性化するか、または活性化されたコンフォメーションを安定化させる完全ヒト抗体である。本発明の抗体は、特に、NPR1タンパク質の活性化または活性の増加に有用である。特定の実施形態では、抗体は、対象
におけるNPR1関連の疾患または障害の少なくとも1つの症状または徴候を予防、処置または改善するのに有用である。特定の実施形態では、抗体は、NPR1関連の疾患または障害を有する、またはそのリスクがある対象に、予防的または治療的に投与され得る。特定の実施形態では、抗体は、高血圧を患っている対象の全身血圧を低下させるために使用される。そのような抗体は、それを必要とする対象に投与したときに、心不全などの障害の治療として使用することができる。
【0009】
ある特定の実施形態では、抗体は、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)または脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の存在下または非存在下でNPR1に結合し、すなわち、抗体は「ペプチド非依存性結合剤」である。このような抗体は、内因性リガンドの濃度が異なっていても、NPR1に結合して活性化させるため使用することができるので有利である。このような抗体は、それを必要とする患者に投与したとき、処置における(リガンド濃度に関する)患者間のばらつきを避けるために有利に使用することができる。さらに、本明細書に開示された抗体は、NPR1に高い親和性で結合し、(標準的な治療薬と比較して)改善された薬物動態特性を有する。この抗体は、25mg/kgの用量で、マウスにおいて最大11日のt1/2を示した。この抗体は、それを必要とする対象に投与したときに、血圧を低下させ、低下した血圧を28日間も維持する効果がある。本発明の抗体の単回投与により、血圧の持続的な低下が得られた。このような抗体は、NPR1関連の疾患または障害(例えば、高血圧)を有する対象において、より少ない投与頻度で優れた有効性を提供するために使用することができる。
【0010】
本発明の抗体は、全長(例えば、IgG1またはIgG4抗体)であってもよいし、または抗原結合性部分(例えば、Fab、F(ab’)またはscFvフラグメント)のみを含んでいてもよく、機能性に影響を与えるために、例えば、宿主中での持続性を高めるために、または残存するエフェクター機能を排除するために、改変してもよい(Reddyら,2000,J.Immunol.164:1925-1933)。特定の実施形態では、抗体は二重特異性であってもよい。
【0011】
第1の態様では、本発明は、NPR1に特異的に結合する単離された組換えモノクローナル抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。
【0012】
いくつかの実施形態では、本発明は、ナトリウム利尿ペプチド受容体1(NPR1)タンパク質に特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合性フラグメントであって、抗体またはその抗原結合性フラグメントが水素/重水素交換によって決定されるように、NPR1の細胞外ドメイン(配列番号:194のアミノ酸29~347)内に含まれる1つまたはそれ以上のアミノ酸と相互作用し、抗体またはその抗原結合性フラグメントが(i)心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の存在下または非存在下で、ヒトNPR1を発現する細胞に結合し、かつ/または、(ii)NPR1に結合し、NPR1を活性化する、抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。
【0013】
いくつかの実施形態では、抗体は完全ヒトモノクローナル抗体である。
【0014】
本発明の例示的な抗NPR1抗体は、本明細書の表1および表2に記載されている。表1は、例示的な抗体の重鎖可変領域(HCVR)、軽鎖可変領域(LCVR)、重鎖相補性決定領域(HCDR)(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)、および軽鎖相補性決定領域(LCDR)(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)のアミノ酸配列識別子を示す。表2は、例示的な抗体のHCVR、LCVR、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3の核酸配列識別子を示す。
【0015】
本発明は、表1に記載されたHCVRのアミノ酸配列のいずれかから選択されたアミノ
酸配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含むHCVRを含む抗体、またはその抗原結合性フラグメントを提供する。
【0016】
また、本発明は、表1に記載されたLCVRのアミノ酸配列のいずれかから選択されたアミノ酸配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含むLCVRを含む抗体、またはその抗原結合性フラグメントを提供する。
【0017】
また、本発明は、表1に記載されたLCVRアミノ酸配列のいずれかと対になった表1に記載されたHCVRアミノ酸配列のいずれかを含んでなるHCVRおよびLCVRアミノ酸配列対(HCVR/LCVR)を含む抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。特定の実施形態によれば、本発明は、表1に記載の例示的な抗NPR1抗体のいずれかに含まれるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む抗体、またはその抗原結合性フラグメントを提供する。特定の実施形態では、HCVR/LCVRアミノ酸配列対は、配列番号:2/10(例えば、mAb22033)、および66/74(例えば、mAb22810)のうちの1つから選択される。
【0018】
また、本発明は、HCVRおよびLCVRを含む抗体またはその抗原結合性フラグメントであって、該HCVRが12個を超えないアミノ酸置換を有する表1に記載のアミノ酸配列を含み、かつ/または該LCVRが10個を超えないアミノ酸置換を有する表1に記載のアミノ酸配列を含む、抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。例えば、本発明は、HCVRおよびLCVRを含む抗体またはその抗原結合性フラグメントであって、該HCVRが表1に記載のアミノ酸配列を含み、該アミノ酸配列が1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12個のアミノ酸置換を有する、抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。別の例では、本発明は、HCVRおよびLCVRを含む抗体またはその抗原結合性フラグメントであって、該LCVRが表1に記載のアミノ酸配列を含み、該アミノ酸配列が1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個のアミノ酸置換を有する、抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。一実施形態では、本発明は、HCVRおよびLCVRを含む抗体またはその抗原結合性フラグメントであって、該HCVRが表1に記載のアミノ酸配列を含み、該アミノ酸配列が少なくとも1つのアミノ酸置換を有し、かつ/または該LCVRが表1に記載のアミノ酸配列を含み、該アミノ酸配列が少なくとも1つのアミノ酸置換を有する、抗NPR1抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。
【0019】
また、本発明は、表1に記載されたHCDR1アミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含む重鎖CDR1(HCDR1)を含む、抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。
【0020】
また、本発明は、表1に記載されたHCDR2アミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含む重鎖CDR2(HCDR2)を含む、抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。
【0021】
また、本発明は、表1に記載されたHCDR3アミノ酸配列のいずれかから選択されたアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含む重鎖CDR3(HCDR3)を含む、抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。
【0022】
また、本発明は、表1に記載されたLCDR1アミノ酸配列のいずれかから選択されたアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含む軽鎖CDR1(LCDR1)を含む、抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。
【0023】
また、本発明は、表1に記載されたLCDR2アミノ酸配列のいずれかから選択されたアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含む軽鎖CDR2(LCDR2)を含む、抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。
【0024】
また、本発明は、表1に記載されたLCDR3アミノ酸配列のいずれかから選択されたアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含む軽鎖CDR3(LCDR3)を含む、抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。
【0025】
また、本発明は、表1に記載のLCDR3アミノ酸配列のいずれかと対になった表1に記載のHCDR3アミノ酸配列のいずれかを含んでなるHCDR3およびLCDR3アミノ酸配列対(HCDR3/LCDR3)を含む、抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。特定の実施形態によれば、本発明は、表1に記載された例示的な抗NPR1抗体のいずれかに含まれるHCDR3/LCDR3アミノ酸配列対を含む、抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。特定の実施形態では、HCDR3/LCDR3アミノ酸配列対は、配列番号:8/16(例えば、mAb22033)、および72/80(例えば、mAb22810)からなる群から選択される。
【0026】
また、本発明は、HCVRおよびLCVRを含む抗体またはその抗原結合性フラグメントであって、該HCVRが、表1に記載のアミノ酸配列と1アミノ酸だけ異なるアミノ酸配列を含むHCDR1、表1に記載のアミノ酸配列と1アミノ酸だけ異なるアミノ酸配列を含むHCDR2、および表1に記載のアミノ酸配列と1アミノ酸だけ異なるアミノ酸配列を含むHCDR3を含む、抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。特定の実施形態では、本発明は、HCVRおよびLCVRを含む抗体またはその抗原結合性フラグメントであって、該LCVRが、表1に記載のアミノ酸配列と1アミノ酸だけ異なるアミノ酸配列を含むLCDR1、表1に記載のアミノ酸配列と1アミノ酸だけ異なるアミノ酸配列を含むLCDR2、および表1に記載のアミノ酸配列と1アミノ酸だけ異なるアミノ酸配列を含むLCDR3を含む、抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。例えば、本発明は、HCVRおよびLCVRを含む抗体またはその抗原結合性フラグメントであって、該HCVRが、配列番号:4のアミノ酸配列または配列番号:4と1アミノ酸だけ異なるアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号:6のアミノ酸配列または配列番号:6と1アミノ酸だけ異なるアミノ酸配列を含むHCDR2、および配列番号:8のアミノ酸配列または配列番号:8と1アミノ酸だけ異なるアミノ酸配列を含むHCDR3を含む、抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。別の例示的な実施形態では、本発明は、HCVRおよびLCVRを含む抗体またはその抗原結合性フラグメントであって、該LCVRが、配列番号:12のアミノ酸配列または配列番号:12と1アミノ酸だけ異なるアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号:14のアミノ酸配列または配列番号:14と1アミノ酸だけ異なるアミノ酸配列を含むLCDR2、および配列番号:16のアミノ酸配列または配列番号:16と1アミノ酸だけ異なるアミノ酸配列を含むLCDR3を含む、抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。
【0027】
また、本発明は、表1に記載の例示的な抗体のいずれかに含まれる6つのCDRのセット(すなわち、HCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3)を含む、抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。特定の実施形態では
、HCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3アミノ酸配列セットは、配列番号:4-6-8-12-14-16(例えば、mAb22033)、および68-70-72-76-78-80(例えば、mAb22810)からなる群から選択される。
【0028】
関連する実施形態において、本発明は、表1に記載の例示的な抗体のいずれかによって定義されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対内に含まれる6つのCDRのセット(すなわち、HCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3)を含む、抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。例えば、本発明は、配列番号:2/10(例えば、mAb22033)、および66/74(例えば、mAb22810)からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対内に含まれるHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3アミノ酸配列セットを含む、抗体またはその抗原結合性フラグメントを含む。HCVRおよびLCVRアミノ酸配列内のCDRを同定するための方法および技術は、当技術分野でよく知られており、本明細書に開示されて特定されたHCVRおよび/またはLCVRアミノ酸配列内のCDRを同定するために使用することができる。CDRの境界を特定するために使用することができる例示的な規約には、例えば、Kabat定義、Chothia定義、およびAbM定義が含まれる。一般的には、Kabat定義は配列多様性に基づいており、Chothia定義は構造ループ領域の位置に基づいており、AbM定義はKabatアプローチとChothiaアプローチの間の妥協点である。例えば、Kabat,“Sequences of Proteins of Immunological Interest,” National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991);Al-Lazikaniら,J.Mol.Biol.273:927-948(1997);およびMartinら, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:9268-9272(1989)に記載されている。また、抗体内のCDR配列を特定するために、公共のデータベースも利用可能である。
【0029】
特定の実施形態では、本発明は、NPR1に特異的に結合する抗体またはその抗原結合性フラグメントであって、該抗体またはその抗原結合性フラグメントが、重鎖可変領域(HCVR)内に含まれる3つの重鎖相補性決定領域(CDR)(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)および軽鎖可変領域(LCVR)に含まれる3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)を含み、HCVRは、(i)配列番号:2、18、34、50、66、82、98、114、130、146、162、および178からなる群から選択されるアミノ酸配列;(ii)配列番号:2、18、34、50、66、82、98、114、130、146、162、および178からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一性を有するアミノ酸配列;(iii)配列番号:2、18、34、50、66、82、98、114、130、146、162、および178からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも95%同一性を有するアミノ酸配列;または(iv)配列番号:2、18、34、50、66、82、98、114、130、146、162、および178からなる群から選択されるアミノ酸配列であって、該アミノ酸配列が12個を超えないアミノ酸置換を有するアミノ酸配列;を含み、LCVRは、(a)配列番号:10、26、42、58、74、90、106、122、138、154、170、および186からなる群から選択されるアミノ酸配列;(b)配列番号:10、26、42、58、74、90、106、122、138、154、170、および186からなる群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一性を有するアミノ酸配列;(c)配列番号:10、26、42、58、74、90、106、122、138、154、170、および186からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも95%同一性を有するアミノ酸配列;または(d)配列番号:10、26、42、58、74、90、106、122、138、154、170、および186からなる群から選択されるアミノ酸配列であって、該アミノ酸配列が10個を超えないアミノ酸置換を
有するアミノ酸配列;を含む、抗体またはその抗原結合性フラグメントを含む。
【0030】
特定の好ましい実施形態では、本発明は、アゴニスト様式でNPR1に特異的に結合する、すなわち、NPR1の結合および/または活性を増強または誘導する抗体を含む。
【0031】
本発明は、改変されたグリコシル化パターンを有する抗NPR1抗体を含む。いくつかの実施形態では、望ましくないグリコシル化部位を除去するための改変が有用であり、すなわち、例えば、抗体依存性細胞傷害性(ADCC)機能を高めるために、オリゴ糖鎖上に存在するフコース部分を欠く抗体が有用でありうる(Shieldら(2002)JBC 277:26733参照)。他の用途では、補体依存性細胞傷害性(CDC)を改変するために、ガラクトシル化の改変を行うことができる。
【0032】
特定の実施形態では、本発明は、NPR1に対するpH依存性の結合を示す抗体およびその抗原結合性フラグメントを提供する。例えば、本発明は、酸性pHよりも中性pHで高い親和性でNPR1と結合する(すなわち、酸性pHでは結合が減少する)抗体およびその抗原結合性フラグメントを含む。
【0033】
また、本発明は、NPR1への特異的結合に関して、HCVRのCDRおよびLCVRのCDRを含む抗体またはその抗原結合性フラグメントと競合する抗体およびその抗原結合性フラグメントであって、HCVRおよびLCVRがそれぞれ、表1に記載されたHCVRおよびLCVRの配列から選択されたアミノ酸配列を有する、抗体およびその抗原結合性フラグメントを提供する。
【0034】
また、本発明は、NPR1への結合に関して、HCVRのCDRおよびLCVRのCDRを含む参照抗体またはその抗原結合性フラグメントと交差競合する抗体およびその抗原結合性フラグメントであって、HCVRおよびLCVRがそれぞれ、表1に記載されたHCVRおよびLCVRの配列から選択されたアミノ酸配列を有する、抗体およびその抗原結合性フラグメントを提供する。
【0035】
また、本発明は、HCVRの3つのCDRおよびLCVRの3つのCDRを含む参照抗体またはその抗原結合性フラグメントと同じエピトープに結合する抗体およびその抗原結合性フラグメントであって、HCVRおよびLCVRがそれぞれ、表1に記載のHCVRおよびLCVRの配列から選択されたアミノ酸配列を有する、抗体およびその抗原結合性フラグメントを提供する。
【0036】
また、本発明は、NPR1のそのリガンド(例えば、ANPまたはBNP)への結合を増加または安定化させる単離された抗体およびその抗原結合性フラグメントを提供する。いくつかの実施形態では、NPR1のANPへの結合を活性化する抗体またはその抗原結合性フラグメントは、NPR1上のANPと同じエピトープに結合してもよいし、またはNPR1上のANPと異なるエピトープに結合してもよい。
【0037】
特定の実施形態では、本発明の抗体または抗原結合性フラグメントは、NPR1の第1のエピトープに対する第1の結合特異性と、NPR1の第2のエピトープに対する第2の結合特異性とを含む二重特異性であり、第1のエピトープと第2のエピトープとは区別され、重複していない。
【0038】
特定の実施形態では、本発明は、以下の特徴:(a)完全ヒトモノクローナル抗体である;(b)表面プラズモン共鳴法で測定されるように、ANPおよび/またはBNPの非存在下、25℃および37℃で、690nM未満の解離定数(K)で、単量体のヒトNPR1に結合する;(c)表面プラズモン共鳴法で測定されるように、ANPまたはBN
Pの非存在下、25℃および37℃で、42nM未満のKで二量体のヒトNPR1に結合する;(d)表面プラズモン共鳴法で測定されるように、25℃および37℃で、80nM未満のKで、ANPと複合体形成したヒトNPR1に結合する;(e)表面プラズモン共鳴法で測定されるように、25℃および37℃で、20nM未満のKで、BNPと複合体形成したヒトNPR1に結合する;(f)表面プラズモン共鳴法で測定されるように、ANPおよび/またはBNPの非存在下、25℃および37℃で、365nM未満のKで、単量体のサルNPR1に結合する;(g)表面プラズモン共鳴法で測定されるように、ANPまたはBNPの非存在下、25℃および37℃で、30nM未満のKで、二量体のサルNPR1に結合する;(h)表面プラズモン共鳴法で測定されるように、25℃および37℃で、10nM未満のKで、ANPと複合体形成したサルNPR1に結合する;(i)表面プラズモン共鳴法で測定されるように、25℃および37℃で10nM未満のKでBNPと複合形成したサルNPR1に結合する;(j)マウスNPR1とは結合しない;(k)ヒトNPR1(ANPなし)またはANPと複合体形成したNPR1を発現する細胞に、5nM未満のEC50で結合する;(l)カルシウムフラックス細胞ベースのバイオアッセイ(calcium flux cell-based bioassay)で測定されるように、385nM未満のEC50でNPR1を活性化する;(m)正常血圧および高血圧のマウスに投与したときに、全身の血圧を低下させ、全身血圧および平均動脈血圧の低下は、単回投与で28日まで持続する;(n)食事誘発性肥満マウスに投与したときに、耐糖能が改善される;および(o)表1に記載のHCVR配列からなる群から選択されたアミノ酸配列を含むHCVRおよび表1に記載のLCVR配列からなる群から選択されたアミノ酸配列を含むLCVRを含む;の1つまたはそれ以上を有する単離された抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。
【0039】
第2の態様では、本発明は、抗NPR1抗体またはその一部をコードする核酸分子を提供する。例えば、本発明は、表1に記載されたHCVRアミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供する。特定の実施形態では、核酸分子は、表2に記載されたHCVR核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含む。
【0040】
また、本発明は、表1に記載されたLCVRアミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供する。特定の実施形態において、核酸分子は、表2に記載されたLCVR核酸配列のいずれかから選択されたポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含む。
【0041】
また、本発明は、表1に記載されたHCDR1アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供する。特定の実施形態において、核酸分子は、表2に記載されたHCDR1核酸配列のいずれかから選択されたポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含む。
【0042】
また、本発明は、表1に記載されたHCDR2アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供する。特定の実施形態において、核酸分子は、表2に記載されたHCDR2核酸配列のいずれかから選択されたポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含む。
【0043】
また、本発明は、表1に記載されたHCDR3アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供する。特定の実施形態において、核酸分子は、表2に記載されたHCDR3
核酸配列のいずれかから選択されたポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含む。
【0044】
また、本発明は、表1に記載されたLCDR1アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供する。特定の実施形態において、核酸分子は、表2に記載されたLCDR1核酸配列のいずれかから選択されたポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含む。
【0045】
また、本発明は、表1に記載されたLCDR2アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供する。特定の実施形態において、核酸分子は、表2に記載されたLCDR2核酸配列のいずれかから選択されたポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含む。
【0046】
また、本発明は、表1に記載されたLCDR3アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供する。特定の実施形態において、核酸分子は、表2に記載されたLCDR3核酸配列のいずれかから選択されたポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含む。
【0047】
また、本発明は、HCVRをコードする核酸分子であって、HCVRは3つのCDRのセット(すなわち、HCDR1-HCDR2-HCDR3)を含み、HCDR1-HCDR2-HCDR3のアミノ酸配列セットは、表1に記載された例示的な抗体のいずれかによって定義された通りである、核酸分子を提供する。
【0048】
また、本発明は、LCVRをコードする核酸分子であって、LCVRは3つのCDRのセット(すなわち、LCDR1-LCDR2-LCDR3)を含み、LCDR1-LCDR2-LCDR3のアミノ酸配列セットは、表1に記載された例示的な抗体のいずれかによって定義された通りである、核酸分子を提供する。
【0049】
また、本発明は、HCVRおよびLCVRの両方をコードする核酸分子であって、HCVRが、表1に記載されたHCVRアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列を含み、LCVRが、表1に記載されたLCVRアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列を含む、核酸分子を提供する。特定の実施形態では、核酸分子は、表2に記載されたHCVR核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列、および表1に記載されたLCVR核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含む。本発明のこの態様による特定の実施形態では、核酸分子はHCVRおよびLCVRをコードし、HCVRおよびLCVRはいずれも表1に記載された同じ抗NPR1抗体に由来する。
【0050】
関連する態様において、本発明は、抗体の重鎖および/または軽鎖可変領域を含むポリペプチドを発現することができる組換え発現ベクターを提供する。例えば、本発明は、上述の核酸分子のいずれか、すなわち、表2に記載されたHCVR、LCVR、および/またはCDR配列のいずれかをコードする核酸分子を含む組換え発現ベクターを含む。特定の実施形態では、本発明は、(a)NPR1に結合する抗体のHCVRをコードする核酸
配列を含む核酸分子であって、HCVRが表1に記載の配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む核酸分子、および/または(b)NPR1に結合する抗体のLCVRをコードする核酸配列を含む核酸分子であって、LCVRが表1に記載の配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む核酸分子を含む発現ベクターを提供する。また、本発明の範囲には、このようなベクターが導入された宿主細胞、および抗体または抗体フラグメントの産生を可能にする条件下で宿主細胞を培養して抗体またはその一部を産生し、産生された抗体および抗体フラグメントを回収する方法も含まれる。特定の実施形態では、宿主細胞は、哺乳類細胞または原核生物細胞を含む。特定の実施形態では、宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞または大腸菌(E.coli)細胞である。特定の実施形態では、本発明は、本発明の抗体またはその抗原結合性フラグメントを製造する方法を提供し、該方法は、プロモーターに作動可能に連結された本発明の抗体またはその抗原結合性フラグメントのHCVRおよび/またはLCVRをコードする核酸配列を含む発現ベクターを宿主細胞に導入することと、核酸配列の発現に有利な条件で宿主細胞を培養することと、培養液および/または宿主細胞から抗体またはその抗原結合性フラグメントを単離することとを含む。単離された抗体または抗原結合性フラグメントは、従来技術で知られているいずれかの方法を用いて精製することができる。
【0051】
第3の態様では、本発明は、NPR1に特異的に結合する少なくとも1つの組換えモノクローナル抗体またはその抗原結合性フラグメントの治療有効量と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供する。関連する態様において、本発明は、抗NPR1抗体と第2の治療剤との組み合わせである組成物を特徴とする。一実施形態では、第2の治療剤は、抗NPR1抗体と有利に組み合わされる任意の薬剤である。抗NPR1抗体と有利に組み合わされる例示的な薬剤には、限定されないが、NPR1に結合し、かつ/またはNPR1活性を活性化する他の薬剤(他の抗体またはその抗原結合性フラグメントなどを含む)、および/または、NPR1に直接結合しないが、それにもかかわらず、NPR1関連の疾患または障害の少なくとも1つの症状または徴候を処置または改善する薬剤(本明細書の他の場所に開示される)が含まれる。本発明の抗NPR1抗体を含む追加の併用療法(combination therapies)および合剤(co-formulations)は、本明細書の別の場所に開示されている。
【0052】
第4の態様では、本発明は、本発明の抗NPR1抗体または抗体の抗原結合部分を用いて、対象におけるNPR1に関連する疾患または障害を処置する治療方法を提供し、該治療方法は、本発明の抗体または抗体の抗原結合性フラグメントを含む治療有効量の医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む。処置される障害は、NPR1活性の増強によって向上、改善、阻害または予防される任意の疾患または状態(例えば、高血圧)である。特定の実施形態では、本発明は、治療上有効な量の本発明の抗NPR1抗体またはその抗原結合性フラグメントを、それを必要とする対象に投与することを含む、NPR1関連の疾患または障害を予防または処置する方法を提供する。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、NPR1関連の疾患または障害を有するか、またはそのリスクがある対象に、予防的または治療的に投与することができる。特定の実施形態では、本発明の抗体またはその抗原結合性フラグメントは、それを必要とする対象に第2の治療剤と組み合わせて投与される。第2の治療剤は、アルドステロン拮抗剤、アルファ-アドレナリン遮断剤、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、細動脈拡張剤、自律神経節性血管拡張剤、ベータ-アドレナリン遮断剤、カテコラミン枯渇性交感神経遮断剤、中枢性アルファ-2アドレナリン作動剤、カルシウムチャネル遮断剤、利尿剤、レニン阻害剤、抗凝固剤、抗血小板剤、コレステロール低下剤、血管拡張剤、ジギタリス、手術、埋め込み型デバイス、抗腫瘍療法、インスリン、GLP1アゴニスト、メトホルミン、透析、骨髄刺激剤、血液濾過、生活習慣の改善、栄養補助食品、および当技術分野で知られている他の任意の薬物または療法からなる群から選択することができる。特定の実施形態では、第2の治療剤は、本発明の抗体またはその抗原結合性フラグメン
トに関連する可能性のある副作用が発生した場合に、これを打ち消すまたは軽減するのに役立つ薬剤であってもよい。抗体またはそのフラグメントは、皮下、静脈内、皮内、腹腔内、経口、または筋肉内に投与してもよい。抗体またはそのフラグメントは、対象の体重の約0.1mg/kgから約100mg/kgの用量で投与してもよい。特定の実施形態では、本発明の抗体は、10mgから600mgの間で構成される1つまたはそれ以上の用量で投与してもよい。
【0053】
また、本発明は、NPR1の結合および/または活性の活性化から恩恵を受ける疾患または障害の処置のための薬剤の製造における、本発明の抗NPR1抗体またはその抗原結合性フラグメントの使用を含む。
【0054】
他の実施形態は、続く詳細な説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1】正常血圧のNPR1hu/huマウスの収縮期血圧における選択された抗NPR1アゴニスト抗体の効果を示す図である。遠隔測定された(telemeterd)正常血圧のNPR1hu/huマウスを、体重に基づいて群にランダム化した。動物には、表30に記載したように、NPR1アゴニスト抗体またはPBS対照を25mg/kgで単回皮下注射した。すべての値は、3~7日目のベースラインからの変化の平均値±標準誤差であり、各群あたりn=3~9である。統計-ダネット法による一元配置分散分析;*p<.05対PBS対照。
図2】正常血圧のNPR1hu/huマウスの収縮期血圧における抗NPR1抗体mAb22033の効果を示す図である。遠隔測定された正常血圧のNPR1hu/huマウスを体重の等しい5群にランダム化し、表32に記載の用量のmAb22033を単回皮下注射した。アイソタイプコントロールとしてIgG4抗体を用いた。すべての値は平均値±標準誤差、1群あたりn=4~6。統計-ダネット法による二元配置分散分析。
図3】正常血圧のNPR1hu/huマウスの拡張期血圧における抗NPR1抗体mAb22033の効果を示す図である。遠隔測定された正常血圧のNPR1hu/huマウスを体重の等しい5群にランダム化し、表32に記載の用量のmAb22033を単回皮下注射した。アイソタイプコントロールとしてIgG4抗体を用いた。すべての値は平均値±標準誤差、1群あたりn=4~6。統計-ダネット法による二元配置分散分析。
図4】正常血圧のNPR1hu/huマウスの心拍数における抗NPR1抗体mAb22033の効果を示す図である。遠隔測定された正常血圧のNPR1hu/huマウスを体重の等しい5群にランダム化し、表32に記載の用量のmAb22033を単回皮下注射した。アイソタイプコントロールとしてIgG4抗体を用いた。すべての値は平均値±標準誤差、1群あたりn=4~6。統計-ダネット法による二元配置分散分析。
図5】正常血圧のNPR1hu/huマウスの平均動脈血圧における抗NPR1抗体mAb22033の効果を示す図である。テ遠隔測定された正常血圧のNPR1hu/huマウスを体重の等しい5群にランダム化し、表32に記載の用量のmAb22033を単回皮下注射した。アイソタイプコントロールとしてIgG4抗体を用いた。すべての値は平均値±標準誤差、1群あたりn=4~6。統計-ダネット法による二元配置分散分析。
図6図6Aおよび図6Bは、正常血圧のNPR1hu/huマウスの左心室機能における抗NPR1抗体mAb22033の効果を示す図である。遠隔測定された体重の等しい5群にランダム化し、表32に記載の用量のmAb22033を単回皮下注射した正常血圧NPR1hu/huマウスにおける収縮末期容積(%)(図6A);および拡張末期容積(%)(図6B)。アイソタイプコントロールとしてIgG4抗体を用いた。心エコー検査は、投与後28日目に麻酔をかけたマウスの短軸において、高周波超音波システムおよびプローブを用いて行った。すべての値は平均値±標準誤差、1群あたりn=6~7。統計-ダネット法による一元配置分散分析;*p<.05対IgG4アイソタイプコントロール。
図7図7Aおよび図7Bは、正常血圧NPR1hu/huマウスの左心室機能における抗NPR1抗体mAb22033の効果を示す図である。体重の等しい5群にランダム化し、表32に記載された用量のmAb22033を単回皮下注射した、遠隔測定された正常血圧のNPR1hu/huマウスにおける短縮率(%)(図7A);および駆出率(%)(図7B)。アイソタイプコントロールとしてIgG4抗体を用いた。心エコー検査は、投与後28日目に麻酔をかけたマウスの短軸において、高周波超音波システムおよびプローブを用いて行った。すべての値は平均値±標準誤差、1群あたりn=6~7。統計-ダネット法による一元配置分散分析。
図8】高血圧のNPR1hu/huマウスの収縮期血圧における2つの抗NPR1抗体の単回投与の効果を示す図である。遠隔測定された高血圧のNPR1hu/huマウスを収縮期血圧の等しい6群にランダム化し、表36に記載した用量のmAb22033またはmAb22810を単回皮下投与した。アイソタイプコントロールとしてIgG4抗体を用いた。すべての値は平均値±標準誤差、1群あたりn=4~6。統計-ダネット法による二元配置分散分析;*p<.05 mAb22033 25mg/kg対コントロール;#p<.05 mAb22033 5mg/kg対コントロール;!p<.05 mAb22810 19mg/kg対コントロール。
図9】高血圧のNPR1hu/huマウスの拡張期血圧における2つの抗NPR1抗体の単回投与の効果を示す図である。遠隔測定された高血圧のNPR1hu/huマウスを収縮期血圧の等しい6群にランダム化し、表36に記載した用量のmAb22033またはmAb22810を単回皮下投与した。アイソタイプコントロールとしてIgG4抗体を用いた。すべての値は平均値±標準誤差、1群あたりn=3~6。統計-ダネット法による二元配置分散分析;*p<.05 mAb22033 25mg/kg対コントロール;#p<.05 mAb22033 5mg/kg対コントロール;!p<.05 mAb22810 19mg/kg対コントロール;%p<.05 mAb22810 5mg/kg対コントロール。
図10】高血圧のNPR1hu/huマウスの心拍数における2つの抗NPR1抗体の単回投与の効果を示す図である。遠隔測定された高血圧のNPR1hu/huマウスを収縮期血圧の等しい6群にランダム化し、表36に記載した用量のmAb22033またはmAb22810を単回皮下投与した。アイソタイプコントロールとしてIgG4抗体を用いた。すべての値は平均値±標準誤差、1群あたりn=3~6。統計-ダネット法による二元配置分散分析;*p<.05 mAb22033 25mg/kg対コントロール;#p<.05 mAb22033 5mg/kg対コントロール。
図11】高血圧のNPR1hu/huマウスの平均動脈血圧における2つの抗NPR1抗体の単回投与の効果を示す図である。遠隔測定された高血圧のNPR1hu/huマウスを収縮期血圧の等しい6群にランダム化し、表36に記載した用量のmAb22033またはmAb22810を単回皮下投与した。アイソタイプコントロールとしてIgG4抗体を用いた。すべての値は平均値±標準誤差、1群あたりn=3~6。統計-ダネット法による二元配置分散分析;*p<.05 mAb22033 25mg/kg対コントロール;#p<.05 mAb22033 5mg/kg対コントロール;!p<.05 mAb22810 19mg/kg対コントロール。
図12】高血圧のNPR1hu/huマウスの収縮期血圧における抗NPR1抗体の単回投与および反復投与の効果を示す図である。遠隔測定された高血圧のNPR1hu/huマウスを収縮期血圧の等しい5群にランダム化し、表40に記載した用量のmAb22033を単回皮下投与または週2回3週間のいずれかで投与した。アイソタイプコントロールとしてIgG4抗体を用いた。すべての値は平均値±標準誤差、1群あたりn=3~6。矢印はマウスに投与した用量を示す。統計-ダネット法による二元配置分散分析;*p<.05 mAb22033 25mg/kg対コントロール;#p<.05 mAb22033 5mg/kg対コントロール;!p<.05 mAb22033 50mg/kg対コントロール。
図13】高血圧のNPR1hu/huマウスの拡張期血圧における抗NPR1抗体の単回投与および反復投与の効果を示す図である。遠隔測定された高血圧のNPR1hu/huマウスを収縮期血圧の等しい5群にランダム化し、表40に記載した用量のmAb22033を単回皮下投与または週2回3週間のいずれかで投与した。アイソタイプコントロールとしてIgG4抗体を用いた。すべての値は平均値±標準誤差、1群あたりn=3~6。矢印はマウスに投与した用量を示す。統計-ダネット二元配置分散分析。
図14】高血圧症のNPR1hu/huマウスの心拍数における抗NPR1抗体の単回投与および反復投与の効果を示す図である。遠隔測定された高血圧のNPR1hu/huマウスを収縮期血圧の等しい5群にランダム化し、表40に記載した用量のmAb22033を単回皮下投与または週2回3週間のいずれかで投与した。アイソタイプコントロールとしてIgG4抗体を用いた。すべての値は平均値±標準誤差、1群あたりn=3~6。矢印はマウスに投与した用量を示す。統計-ダネット法による二元配置分散分析。
図15】高血圧のNPR1hu/huマウスの平均動脈血圧における抗NPR1抗体の単回投与および反復投与の効果を示す図である。遠隔測定された高血圧のNPR1hu/huマウスを収縮期血圧の等しい5群にランダム化し、表40に記載した用量のmAb22033を単回皮下投与または週2回3週間のいずれかで投与した。アイソタイプコントロールとしてIgG4抗体を用いた。すべての値は平均値±標準誤差、1群あたりn=3~6。矢印はマウスに投与した用量を示す。統計-ダネット法による二元配置分散分析;*p<.05 mAb22033 25mg/kg対コントロール;#p<.05 mAb22033 5mg/kg対コントロール;!p<.05 mAb22033 50mg/kg対コントロール。
図16図16Aおよび図16Bは、高血圧症のNPR1hu/huマウスの心機能における抗NPR1抗体の単回投与および反復投与の効果を示す。収縮期血圧が等しい5つの群にランダム化され、表40に記載した用量のmAb22033を単回皮下投与または週2回3週間投与した、遠隔測定された高血圧NPR1hu/huマウスにおける収縮末期容積%(図16A);および収縮末期容積%(図16B)。アイソタイプコントロールとしてIgG4抗体を用いた。心エコー検査は、投与後21日目に、麻酔をかけたマウスに高周波超音波装置およびプローブを用いて短軸において行った。すべての値は平均値±標準誤差、1群あたりn=5~6。統計-ダネット法による一元配置分散分析。
図17図17Aおよび図17Bは、高血圧のNPR1hu/huマウスの心機能における抗NPR1抗体の単回投与および反復投与の効果を示す図である。収縮期血圧が等しい5群にランダム化し、表40に記載した用量のmAb22033を単回皮下投与または週2回3週間投与した、遠隔測定された高血圧のNPR1hu/huマウスにおける短縮率(%)(図17A);および駆出率(%)(図17B)。アイソタイプコントロールとしてIgG4抗体を用いた。心エコー検査は、投与後21日目に、麻酔をかけたマウスに高周波超音波装置およびプローブを用いて短軸において行った。すべての値は平均値±標準誤差、1群あたりn=5~6。統計-ダネット法による一元配置分散分析。
図18図18Aは、mAb22810 NPR1アゴニストmAb、hFc.FGF21またはアイソタイプコントロールmAbの投与後の体重の変化を示す図である。図18Bおよび図18Cは、それぞれEchoMRIによって測定された、投与6週間後の総脂肪量および総除脂肪量を示す図である。NPR1ヒト化マウスは、60%高脂肪食を10週間摂取させることで肥満にした。この期間の後,マウスを体重の等しい3群にランダム化し、表44に示す用量および頻度で皮下注射の処置を行った。アイソタイプコントロールとしてヒトIgG4抗体を用いた。すべての値は平均値±標準誤差、1群あたりn=10である。*=P<0.05対アイソタイプコントロール;**=P<0.01対アイソタイプコントロール。体重については二元配置分散分析+Tukey、脂肪量と除脂肪量については一元配置分散分析+Bonferonniによる統計。
図19図19A図19Bおよび図19Cは、mAb22810 NPR1アゴニストmAb、hFc.FGF21またはアイソタイプコントロールmAbのいずれかで1週間処理した後の各昼/夜サイクルの平均値として分類された、VO図19A)、VCO図19B)またはエネルギー消費量(図19C)の変化を示す図である。投与1週間後、各群のマウスをColumbia Instruments代謝ケージシステム(CLAMS)に1週間入れ、代謝パラメータを記録した。マウスは、ストレスを最小限にするため、測定の1週間前からケージに馴らした。アイソタイプコントロールとしてヒトIgG4抗体を用いた。すべての値は平均値±標準誤差、1群あたりn=5~6。**=P<0.01対アイソタイプコントロール、***=P<0.001対アイソタイプコントロール。一元配置分散分析+Bonferonniによる統計。
図20図20Aは、mAb22810 NPR1アゴニストmAb、hFc.FGF21またはアイソタイプコントロールmAbのいずれかで2週間処置した後の、経口ブドウ糖負荷試験(グルコース2g/kg)によって測定される耐糖能の変化を示す。図20Bは、Aの試験開始時に記録した一晩絶食後の血糖値を示す。2週間の処置後、各群のマウスを清潔なケージ内で一晩絶食させ、翌朝、2g/kgの経口グルコース負荷を与えた。その後、T0、T15、T30、T60、T90、T120において、手持ちのグルコメーターを用いて尾静脈からグルコースを記録した。アイソタイプコントロールとして、ヒトIgG4抗体を用いた。すべての値は平均値±標準誤差、各群n=10。hFc.FGF2群:**=P<0.01対アイソタイプコントロール、***=P<0.001対アイソタイプコントロール、****=P<0.0001対アイソタイプコントロール。mAb22810群:++=P<0.01対アイソタイプコントロール。oGTTについては二元配置分散分析+Bonferonni、空腹時血糖値については一元配置分散分析+Bonferonniによる統計。
図21図21Aは、mAb22033 NPR1アゴニストmAb、hFc.FGF21またはアイソタイプコントロールmAbの投与後の体重の変化を示す。図21Bおよび図21Cは、EchoMRIで測定した、処置6週間後の総脂肪量および総除脂肪量をそれぞれ示す。NPR1ヒト化マウスに、60%高脂肪食を10週間摂取させることで肥満にした。この期間の後,マウスを体重の等しい3つの群にランダム化し、表45に記載した用量および頻度で皮下注射の処置を行った。アイソタイプコントロールとしてヒトIgG4抗体を用いた。すべての値は平均値±標準誤差、1群あたりn=10である。*=P<0.05対アイソタイプコントロール、****=P<0.0001対アイソタイプコントロール。体重については二元配置分散分析+Tukey、脂肪量と除脂肪量については一元配置分散分析+Bonferonniによる統計。
図22図22A図22Bおよび図22Cは、mAb22033 NPR1アゴニストmAb、hFc.FGF21またはアイソタイプコントロールmAbのいずれかで1週間処置した後の、VO図22A)、VCO図22B)またはエネルギー消費量(図22C)の変化を、各昼/夜サイクルの平均値として分割して示した図である。投与1週間後、各群のマウスをColumbia Instrumentsのメタボリックケージシステム(CLAMS)に1週間入れ、代謝パラメータを記録した。マウスは、ストレスを最小限にするため、測定前の1週間ケージに慣らした。アイソタイプコントロールとしてヒトIgG4抗体を用いた。すべての値は平均値±標準誤差、1群あたりn=5~6。****=P<0.0001対アイソタイプコントロール。一元配置分散分析+Bonferonniによる統計。
図23図23Aおよび23Bは、血糖値(図23A)および空腹時血糖値(図23B)によって示される、耐糖能における抗NPR1抗体mAb22033の効果を示す。4週間の処置後、各群のマウスを清潔なケージ内で一晩絶食させ、翌朝、2g/kgの経口グルコース負荷を与えた。その後、T0、T15、T30、T60、T90およびT120において、手持ちのグルコメーターを用いて尾静脈からグルコースを記録した。アイソタイプコントロールとして、ヒトIgG4抗体を用いた。すべての値は平均値±標準誤差、各群n=10。hFc.FGF21群:***=P<0.001対アイソタイプコントロール、****=P<0.0001対アイソタイプコントロール。mAb22033群:+=P<0.05対アイソタイプコントロール、++=P<0.01対アイソタイプコントロール。oGTTは二元配置分散分析+Bonferonni、空腹時血糖は一元配置分散分析+Bonferonniによる統計。
【発明を実施するための形態】
【0056】
本発明の方法を記載する前に、本発明は、特定の方法、および記載された実験条件に限定されるものではなく、そのような方法および条件は変更されうることを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明するためだけのものであり、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるため、限定することを意図したものではないことを理解されたい。
【0057】
特に定義されていない限り、本明細書に使用されるすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を持つ。本明細書に記載されたものと類似のまたは同等のあらゆる方法および材料が、本発明の実施または試験に使用できるが、好ましい方法および材料をここに記載する。本明細書に記載されたすべての出版物は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0058】
定義
用語「NPR1」は、「NPRA」とも呼ばれ、ナトリウム利尿ペプチド受容体1(ナトリウム利尿ペプチド受容体Aとも呼ばれる)のことである。NPR1は、ホモ二量体の膜貫通型グアニル酸シクラーゼであり、cGMPの合成を触媒する酵素である。NPR1は、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)および脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の両方の受容体であり、リガンドの結合に伴い、細胞外ドメインの構造変化を起こす(Ogawaら 2004,J.Biol.Chem.279:28625-31)。このタンパク質は、細胞外リガンド結合ドメイン、単一の膜貫通領域、細胞内タンパク質キナーゼ様相同ドメイン、およびグアニリルシクラーゼ触媒ドメインを含む4つの異なる領域を有する。完全長のNPR1タンパク質のアミノ酸配列は、UniProtKB/Swiss-Protに受入番号P16066.1(配列番号:193)として提供されているアミノ酸配列によって例示される。用語「NPR1」は、組換えNPR1タンパク質またはそのフラグメントを含む。また、この用語は、例えば、ヒスチジンタグ、マウスもしくはヒトFc、またはROR1(例えば、配列番号:194~199)などのシグナル配列に結合したNPR1タンパク質またはそのフラグメントを包含する。
【0059】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、ジスルフィド結合で相互に連結された2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖の4本のポリペプチド鎖で構成される免疫グロブリン分子(すなわち「完全な抗体分子」)、ならびにその多量体(例えばIgM)またはその抗原結合性フラグメントを指すものとする。各重鎖は、重鎖可変領域(「HCVR」または「V」)および重鎖定常領域(ドメインC1、C2およびC3で構成される)で構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(「LCVR」または「V」)および軽鎖定常領域(「C」)で構成される。VおよびV領域は、さらにフレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存性の高い領域と、その領域に散在する相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域とに分けることができる。各VおよびVは、3つのCDRおよび4つのFRで構成されており、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって、以下の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で配置されている。本発明のある実施形態では、抗体(またはその抗原結合性フラグメント)のFRは、ヒト生殖細胞系列の配列と同一であってもよいし、天然もしくは人工的に改変されていてもよい。アミノ酸共通配列は、2つまたはそれ以上のCDRのサイド-バイ-サイド分析(side-by-side analysis)に基づいて定義してもよい。
【0060】
1つもしくはそれ以上のCDR残基の置換または1つもしくはそれ以上のCDRの省略も可能である。結合のため1つまたは2つのCDRを省略することができる抗体が、科学文献に記載されている。Padlanら(1995 FASEB J.9:133-13
9)は、公開されている結晶構造に基づいて、抗体とその抗原との間の接触領域を分析し、CDR残基の約5分の1から3分の1だけが実際に抗原に接触すると結論付けた。また、Padlanは、1つまたは2つのCDRが抗原と接触するアミノ酸を持たない多くの抗体を発見した(またVajdosら 2002 J Mol Biol 320:415-428も参照のこと)。
【0061】
抗原に接触していないCDR残基は、先行研究に基づいて(例えば、CDRH2のH60-H65残基は必要ないことが多い)、Chothia CDRの外側にあるKabat CDRの領域から、分子モデリングおよび/または経験的に同定することができる。CDRまたはその残基が省略された場合は、通常、他のヒト抗体配列またはそのような配列の共通認識において対応する位置を占めるアミノ酸で置換される。CDR内の置換位置および置換するアミノ酸は、経験的に選択することもできる。経験的な置換は、保存的置換または非保存的置換であることができる。
【0062】
本明細書に開示された完全ヒト抗NPR1モノクローナル抗体は、対応する生殖細胞系列の配列と比較して、重鎖および軽鎖可変ドメインのフレームワークおよび/またはCDR領域における1つまたはそれ以上のアミノ酸置換、挿入および/または欠失を含んでもよい。そのような変異は、本明細書に開示されたアミノ酸配列を、例えば公的な抗体配列データベースから入手可能な生殖細胞系列の配列と比較することにより、容易に確認することができる。本発明には、本明細書に開示されたアミノ酸配列のいずれかに由来する抗体およびその抗原結合性フラグメントが含まれ、ここでは、1つまたはそれ以上のフレームワークおよび/またはCDR領域内の1つまたはそれ以上のアミノ酸が、抗体が由来する生殖細胞系列の対応する残基、または別のヒト生殖細胞系列の対応する残基、または対応する生殖細胞系列の残基の保存的アミノ酸置換に変異している(このような配列変化を、本明細書では「生殖細胞系列の変異」と総称する)。当業者は、本明細書に開示された重鎖および軽鎖可変領域配列から始めて、1つまたはそれ以上の個々の生殖細胞系列変異またはその組み合わせを含む多数の抗体および抗原結合性フラグメントを容易に作製することができる。特定の実施形態では、Vおよび/またはVドメイン内のフレームワーク残基および/またはCDR残基のすべてが、抗体が由来する元の生殖細胞系列に見られる残基に変異して戻る。他の実施形態では、特定の残基のみ、例えば、FR1の最初の8つのアミノ酸内、もしくはFR4の最後の8つのアミノ酸内に見出される変異した残基のみ、またはCDR1、CDR2、もしくはCDR3内に見出される変異した残基のみが元の生殖細胞系列に変異して戻る。他の実施形態では、フレームワーク残基および/またはCDR残基の1つまたはそれ以上が、異なる生殖細胞系列(すなわち、抗体がもともと由来する生殖細胞系列とは異なる生殖細胞系列)の対応する残基に変異する。さらに、本発明の抗体は、フレームワークおよび/またはCDR領域内の2つまたはそれ以上の生殖細胞系列変異の任意の組み合わせを含むことができ、例えば、特定の個々の残基が特定の生殖細胞系列の配列の対応する残基に変異している一方で、元の生殖細胞系列の配列と異なる特定の他の残基は維持されるか、または異なる生殖細胞系列の配列の対応する残基に変異している。一旦得られれば、1つまたはそれ以上の生殖細胞系列変異を含む抗体および抗原結合性フラグメントは、結合特異性の向上、結合親和性の向上、拮抗的生物学的特性の向上または強化、免疫原性の低下などの1つまたはそれ以上の所望の特性について容易に試験することができる。このような一般的な方法で得られた抗体および抗原結合性フラグメントは、本発明に包含される。
【0063】
また、本発明は、1つまたはそれ以上の保存的置換を有する、本明細書に開示されたHCVR、LCVR、および/またはCDRアミノ酸配列のいずれかの変異体を含む完全ヒト抗NPR1モノクローナル抗体を含む。例えば、本発明には、本明細書に開示されたHCVR、LCVR、および/またはCDRアミノ酸配列のいずれかに対して、例えば、10またはそれ未満、8またはそれ未満、6またはそれ未満、4またはそれ未満などの保存
的アミノ酸置換を有するHCVR、LCVR、および/またはCDRアミノ酸配列を有する抗NPR1抗体が含まれる。
【0064】
本明細書で使用される「ヒト抗体」、または「完全ヒト抗体」という用語は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体を含むものとする。本発明のヒトmAbは、例えばCDR、特にCDR3に、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列によってコードされていないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダム変異もしくは部位特異的変異誘発によって、またはインビボでの体細胞変異によって導入された変異)を含んでもよい。しかし、本明細書で使用する「ヒト抗体」または「完全ヒト抗体」という用語は、他の哺乳類種(例えば、マウス)の生殖細胞系列に由来するCDR配列が、ヒトFR配列に移植されたmAbを含むことを意図していない。この用語には、非ヒト哺乳動物または非ヒト哺乳動物の細胞内で組換え的に産生された抗体が含まれる。この用語は、ヒト対象から単離された、またはヒト対象で生成された抗体を含むことを意図していない。
【0065】
本明細書で使用される「組換え」という用語は、例えば、DNAスプライシングおよびトランスジェニック発現を含む組換えDNA技術として当技術分野で知られている技術または方法によって作成、発現、単離、または入手された本発明の抗体またはその抗原結合性フラグメントを意味する。その用語は、非ヒト哺乳動物(トランスジェニック非ヒト哺乳動物、例えばトランスジェニックマウスを含む)もしくは細胞(例えばCHO細胞)発現系で発現させた抗体、または組換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離した抗体を指す。
【0066】
「特異的に結合する」または「に特異的に結合する」などの用語は、抗体またはその抗原結合性フラグメントが、生理的条件下で比較的安定した抗原との複合体を形成することを意味する。特異的な結合は、少なくとも約1×10-8Mまたはそれ未満の平衡解離定数によって特徴づけることができる(例えば、Kが小さいほど結合がより強固であることを示す)。2つの分子が特異的に結合するかどうかを決定する方法は、当技術分野でよく知られており、例えば、平衡透析、表面プラズモン共鳴などがある。本明細書に記載されるように、表面プラズモン共鳴、例えばBIACORE(商標)によって、NPR1に特異的に結合する抗体が同定されている。さらに、NPR1の1つのドメインと1つまたはそれ以上の追加の抗原に結合する多特異性抗体、またはNPR1の2つの異なる領域に結合する二重特異性は、それでも、本明細書で使用されるように、「特異的に結合する」抗体とみなされる。
【0067】
「高親和性」抗体という用語は、表面プラズモン共鳴、例えばBIACORE(商標)または溶液アフィニティELISAによって測定される、少なくとも10-8M;好ましくは10-9M;より好ましくは10-10M、さらに好ましくは10-11MのKとして表される、NPR1に対する結合親和性を有するmAbを意味する。
【0068】
用語「スローオフレート(slow off rate)」、「Koff」または「kd」は、表面プラズモン共鳴、例えばBIACORE(商標)によって決定される、1×10-3-1またはそれ未満、好ましくは1×10-4-1またはそれ未満の速度定数で、NPR1から解離する抗体を意味する。
【0069】
本明細書で使用される、抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合性フラグメント」などの用語には、抗原と特異的に結合して複合体を形成する、天然に存在する、酵素的に入手可能な、合成の、または遺伝子操作されたポリペプチドまたは糖タンパク質が含まれる。本明細書で使用される、抗体の「抗原結合性フラグメント」または「抗体フラグメント」という用語は、NPR1タンパク質に結合する能力を保持する抗体の1つまたはそれ
以上のフラグメントを意味する。
【0070】
特定の実施形態において、本発明の抗体または抗体フラグメントは、リガンドもしくは治療用部分(「イムノコンジュゲート」)、第2の抗NPR1抗体、またはNPR1関連の疾患もしくは障害を処置するのに有用な他の治療用部分などの部分に結合されてもよい。
【0071】
本明細書で使用される「単離された抗体」とは、異なる抗原特異性を有する他の抗体(Ab)を実質的に含まない抗体を指すことを意図している(例えば、NPR1またはそのフラグメントを特異的に結合する単離された抗体は、NPR1以外の抗原を特異的に結合するAbを実質的に含まない)。
【0072】
本明細書で使用される「活性化抗体」または「アゴニスト抗体」(すなわち「NPR1活性を増加または増強する抗体」または「活性化されたコンフォメーションを安定化する抗体」)は、NPR1への結合がNPR1の少なくとも1つの生物学的活性の活性化をもたらす抗体を指すものとする。例えば、本発明の抗体は、それを必要とする対象に投与すると、全身血圧を低下させることができる。
【0073】
「表面プラズモン共鳴」とは、例えばBIACORE(商標)システム(Pharmacia Biosensor AB、スウェーデン、ウップサラおよびニュージャージー州ピスカタウェイ)を用いて、バイオセンサーマトリックス内のタンパク質濃度の変化を検出することで、リアルタイムの生体分子相互作用を分析することができる光学現象のことである。
【0074】
本明細書で使用される用語「K」は、特定の抗体-抗原相互作用の平衡解離定数を指すものとする。
【0075】
「エピトープ」という用語は、パラトープとして知られる抗体分子の可変領域にある特定の抗原結合部位と相互作用する抗原決定基を意味する。1つの抗原が1つよりも多いエピトープを持つこともありうる。そのため、異なる抗体は抗原の異なる領域に結合することがあり、異なる生物学的効果を有することがありうる。また、用語「エピトープ」とは、B細胞および/またはT細胞が反応する抗原上の部位のことである。また、それは、抗体が結合する抗原の領域のことでもある。エピトープは、構造的または機能的なものとして定義されうる。機能的エピトープは、一般的に構造的エピトープのサブセットであり、相互作用の親和性に直接寄与する残基を有する。また、エピトープは、立体構造的、すなわち非線形のアミノ酸で構成されていてもよい。特定の実施形態では、エピトープは、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル基、またはスルホニル基などの分子の化学的に活性な表面グループである決定基を含んでいてもよく、また、特定の実施形態では、特定の三次元構造特性、および/または特定の電荷特性を有していてもよい。
【0076】
本明細書で使用される「交差競合」という用語は、抗体またはその抗原結合性フラグメントが抗原に結合し、別の抗体またはその抗原結合性フラグメントの結合を阻害または遮断することを意味する。また、この用語には、2つの抗体間の両方向における競合、すなわち、第2の抗体に結合してその結合を阻害する第1の抗体、およびその逆も含まれる。特定の実施形態では、第1の抗体および第2の抗体は、同じエピトープに結合してもよい。あるいは、第1の抗体と第2の抗体とは、異なるが重複するエピトープに結合してもよく、一方の抗体の結合が立体障害を介して第2の抗体の結合を阻害または遮断するようになっていてもよい。抗体間の交差競合は、当技術分野で知られている方法、例えば、リアルタイム・ラベルフリー・バイオレイヤーインターフェロメトリーアッセイ(real-time,label-free bio-layer interferometry
assay)によって測定することができる。2つの抗体間の交差競合は、自己-自己結合(self-self binding)によるバックグラウンド信号よりも小さい第2の抗体の結合として表してもよい(ここで、第1および第2の抗体は同じ抗体である)。2つの抗体間の交差競合は、例えば、ベースラインの自己-自己結合によるバックグラウンド結合よりも小さい第2の抗体の結合%(ここで、第1および第2の抗体は同じ抗体である)として表してもよい。
【0077】
核酸またはそのフラグメントに言及するときの「実質的同一性」または「実質的に同一」という用語は、別の核酸(またはその相補鎖)により適切なヌクレオチドの挿入または欠失を伴って最適に整列させたときに、後述するFASTA、BLASTまたはGAPなどの配列同一性の任意の周知のアルゴリズムによって測定して、ヌクレオチド塩基の少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%、96%、97%、98%または99%のヌクレオチド配列の同一性があることを示す。参照核酸分子と実質的同一性を有する核酸分子は、特定の例では、参照核酸分子によってコードされるポリペプチドと同じまたは実質的に類似したアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードすることができる。
【0078】
ポリペプチドに適用される「実質的な類似性」または「実質的に類似した」という用語は、2つのペプチド配列が、デフォルトのギャップウェイトを用いたプログラムGAPまたはBESTFITなどによって最適に整列させた場合、少なくとも90%の配列同一性、さらに好ましくは少なくとも95%、98%または99%の配列同一性を共有することを意味する。好ましくは、残基の位置は、同一ではなく、保存的アミノ酸置換によって異なる。「保存的アミノ酸置換」とは、あるアミノ酸残基が、類似の化学的性質(例えば、電荷や疎水性)を有する側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基で置換されたものである。一般的に、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能的特性を実質的に変化させない。2つまたはそれ以上のアミノ酸配列が保存的な置換によって互いに異なる場合、置換の保存的な性質に関する補正のために、類似性の割合または程度を上方に調整してもよい。この調整を行うための手段は、当業者にはよく知られている。例えば、Pearson(1994)Methods Mol.Biol.24:307-33を参照し、これは本明細書に参照により組み込まれている。類似の化学的性質を有する側鎖を有するアミノ酸のグループの例としては、1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシン;2)脂肪族-ヒドロキシル側鎖:セリンおよびスレオニン;3)アミド含有側鎖:アスパラギンおよびグルタミン;4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファン;5)塩基性側鎖:リジン、アルギニンおよびヒスチジン;6)酸性側鎖:アスパラギン酸およびグルタミン酸;ならびに7)硫黄含有側鎖:システインおよびメチオニンが含まれる。好ましい保存的アミノ酸置換基は:バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタミン-アスパラギン酸、およびアスパラギン-グルタミンである。あるいは、保守的置換とは、Gonnetetら(1992)Science 256:1443 45に開示されたPAM250対数尤度行列において正の値を持つ変化のことであり、参照により本明細書に組み込まれる。また、「適度な保存的」置換とは、PAM250対数尤度行列において非負値を有する任意の変化である。
【0079】
ポリペプチドの配列類似性は、通常、配列解析ソフトウェアを用いて測定される。タンパク質分析ソフトウェアは、保存的アミノ酸置換を含む様々な置換、欠失および他の修飾に割り当てられた類似性の尺度を用いて、類似の配列を照合する。例えば、GCGソフトウェアには、GAPやBESTFITなどのプログラムが含まれており、これらをデフォルトのパラメータで使用して、異なる種の生物からの相同ポリペプチドなどの近縁ポリペプチド間の、または野生型タンパク質とそのムテインとの間の、配列相同性または配列同一性を決定することができる。例えば、GCG Version 6.1を参照のこと。また、ポリペプチド配列は、デフォルトまたは推奨パラメータを用いてFASTA;GC
Gバージョン6.1のプログラムを用いて比較することができる。FASTA(例えば、FASTA2およびFASTA3)は、クエリー配列とサーチ配列との間で最もよくオーバーラップする領域のアラインメントおよび配列同一性パーセントを提供する(前出のPearson(2000))。本発明の配列を、異なる生物からの多数の配列を含むデータベースと比較する場合の別の好ましいアルゴリズムは、デフォルトのパラメータを用いたコンピュータプログラムBLAST、特にBLASTPまたはTBLASTNである。例えば、Altschulら(1990)J.Mol.Biol.215:403-410および(1997)Nucleic Acids Res.25:3389-3402を参照し、これらはそれぞれ参照により本明細書に組み込まれる。
【0080】
「治療上有効な量」とは、それを投与するための所望の効果をもたらす量を意味する。正確な量は、処置の目的によって異なり、当業者であれば知られている技術を用いて確認できるであろう(例えば、Lloyd(1999)The Art,Science and Technology of Pharmaceutical Compoundingを参照のこと)。
【0081】
本明細書で使用される「対象」という用語は、高血圧などのNPR1関連の疾患または障害の改善、予防および/または処置を必要とする動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトを指す。この用語には、そのような疾患や障害を有する、またはそのリスクがあるヒト対象も含まれる。
【0082】
本明細書で使用される「処置する」、「処置すること」、または「処置」という用語は、それを必要とする対象への本発明の抗体などの治療剤の投与による、NPR1関連の疾患または障害の少なくとも1つの症状または徴候の重症度の軽減または改善を指す。該用語には、疾患の進行または症状/徴候の悪化の抑制が含まれる。また、該用語には、本発明の抗体などの治療剤を投与することにより、疾患の予後が良好になること、すなわち、対象の疾患がなくなりうる、または疾患が軽減されうることも含まれる。治療剤は、対象に治療用量で投与してもよい。
【0083】
「予防する」、「予防すること」または「予防」という用語は、本発明の抗体の投与により、NPR1に関連する疾患もしくは障害、またはそのような疾患もしくは障害のなんらかの症状もしくは徴候の発現を抑制することを指す。
【0084】
抗体の抗原結合性フラグメント
本明細書で使用される「抗体」という用語は、特に他に示さない限り、2つの免疫グロブリン重鎖および2つの免疫グロブリン軽鎖を含む抗体分子(すなわち「完全な抗体分子」)だけでなく、その抗原結合性フラグメントも包含することが理解される。本明細書で使用される、抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合性フラグメント」などの用語は、抗原と特異的に結合して複合体を形成する、天然由来の、酵素的に入手可能な、合成の、または遺伝子操作されたポリペプチドまたは糖タンパク質を含む。本明細書で使用される、抗体の「抗原結合性フラグメント」または「抗体フラグメント」という用語は、NPR1タンパク質に特異的に結合する能力を保持する抗体の1つまたはそれ以上のフラグメントのことである。抗体フラグメントには、Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント、Fvフラグメント、dAbフラグメント、CDRを含むフラグメント、または孤立CDRが含まれる。特定の実施形態では、用語「抗原結合性フラグメント」は、多特異性抗原結合分子のポリペプチドフラグメントを指す。抗体の抗原結合性フラグメントは、例えば、タンパク質消化などの任意の適切な標準的技術または抗体の可変ドメインおよび(場合により)定常ドメインをコードするDNAの操作および発現を含む組換え遺伝子操作技術を用いて、完全な抗体分子から誘導することができる。このようなDNAは、知られており、かつ/または、例えば商業的供給源、DNAライブラリー(例えば、ファージ
抗体ライブラリーを含む)から容易に入手可能であるか、または合成することができる。DNAは、化学的に、または分子生物学的技術を用いて配列決定および操作して、例えば、1つまたはそれ以上の可変ドメインおよび/または定常ドメインを適切な構成に配置する、またはコドンを導入し、システイン残基を作成し、アミノ酸を修飾、追加、もしくは削除することができる。
【0085】
抗原結合性フラグメントの非限定的な例としては、(i)Fabフラグメント;(ii)F(ab’)フラグメント;(iii)Fdフラグメント;(iv)Fvフラグメント;(v)一本鎖Fv(scFv)分子;(vi)dAbフラグメント;および(vii)抗体の超可変領域(例えば、CDR3ペプチドなどの孤立した相補性決定領域(CDR))または制約されたFR3-CDR3-FR4ペプチドを模倣したアミノ酸残基からなる最小認識ユニット、が挙げられる。ドメイン特異的抗体、シングルドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDRグラフト抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ(一価のナノボディ、二価のナノボディなど)、小型モジュール免疫医薬品(SMIP)、鮫の可変IgNARドメインなどの他の改変分子も、本明細書で使用される「抗原結合性フラグメント」という表現に包含される。
【0086】
抗体の抗原結合性フラグメントは、典型的には、少なくとも1つの可変ドメインを含む。可変ドメインは、任意のサイズまたはアミノ酸組成であってもよく、一般的には、少なくとも1つのCDRを含み、これは1つまたはそれ以上のフレームワーク配列を有するフレームに隣接するかまたはフレーム内にある。Vドメインに関連するVドメインを有する抗原結合性フラグメントでは、VドメインおよびVドメインは、互いに任意の適切な配置に位置付けされうる。例えば、可変領域は二量体であり、V-V、V-VまたはV-Vの二量体を含みうる。あるいは、抗体の抗原結合性フラグメントは、単量体のVまたはVドメインを含んでもよい。
【0087】
特定の実施形態では、抗体の抗原結合性フラグメントは、少なくとも1つの定常ドメインに共有結合された少なくとも1つの可変ドメインを含んでもよい。本発明の抗体の抗原結合性フラグメント内に見出されうる可変ドメインおよび定常ドメインの非限定的で例示的な構成には、(i)V-C1;(ii)V-C2;(iii)V-C3;(iv)V-C1-C2;(v)V-C1-C2-C3;(vi)V-C2-C3;(vii)V-C;(viii)V-C1;(ix)V-C2;(x)V-C3;(xi)V-C1-C2;(xii)V-C1-C2-C3;(xiii)V-C2-C3;および(xiv)V-Cが含まれる。上に挙げた例示的な構成のいずれかを含む、可変ドメインおよび定常ドメインの任意の構成において、可変ドメインおよび定常ドメインは、互いに直接連結されていてもよいし、または完全なもしくは部分的なヒンジもしくはリンカー領域によって連結されていてもよい。ヒンジ領域は、少なくとも2つ(例えば、5、10、15、20、40、60またはそれ以上)のアミノ酸から構成されていてもよく、その結果、単一のポリペプチド分子内の隣接する可変ドメインおよび/または定常ドメインの間に柔軟性または半柔軟性のある連結部が形成される。さらに、本発明の抗体の抗原結合性フラグメントは、上記の可変ドメイン構成および定常ドメイン構成のいずれかが、互いに、かつ/または1つもしくはそれ以上の単量体VもしくはVドメインと(例えば、ジスルフィド結合によって)非共有結合した、ホモ二量体またはヘテロ二量体(または他の多量体)を含んでもよい。
【0088】
完全な抗体分子と同様に、抗原結合性フラグメントは、単一特異性または多特異性(例えば、二重特異性)であってもよい。抗体の多特異性抗原結合性フラグメントは、典型的には、少なくとも2つの異なる可変ドメインを含み、各可変ドメインは、別々の抗原または同じ抗原上の異なるエピトープに特異的に結合することができる。本明細書で開示され
た例示的な二重特異性抗体フォーマットを含む任意の多特異性抗体フォーマットは、当技術分野で利用可能な常用技術を使用して、本発明の抗体の抗原結合性フラグメントに関連して使用するために適合させることができる。
【0089】
ヒト抗体の調製
トランスジェニックマウスにおいてヒト抗体を調製する方法は当分野で知られている。このような知られた方法はいずれも、本発明に関連して、NPR1に特異的に結合するヒト抗体を調製するために使用することができる。
【0090】
以下のいずれか1つを含む免疫原を用いて、NPR1タンパク質に対する抗体を産生することができる。特定の実施形態では、本発明の抗体は、全長天然NPR1タンパク質(例えば、UniProtKB/Swiss-Prot受入番号P16066.1参照)、または該タンパク質もしくはそのフラグメントをコードするDNAで免疫されたマウスから得られる。あるいは、該タンパク質またはそのフラグメントを、標準的な生化学的技術を用いて製造し、修飾して免疫原として使用してもよい。
【0091】
いくつかの実施形態では、免疫原は、大腸菌(E.coli)または任意の他の真核細胞もしくは哺乳動物細胞、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞で発現させた組換えNPR1タンパク質またはそのフラグメントであってもよい(例えば、配列番号:194~199)。
【0092】
VELOCIMMUNE(登録商標)技術(例えば、US6,596,541,Regeneron Pharmaceuticals,VELOCIMMUNE(登録商標)参照)またはモノクローナル抗体を生成するための他の知られた方法を用いて、ヒト可変領域およびマウス定常領域を有する、NPR1に対する高親和性キメラ抗体を最初に単離する。VELOCIMMUNE(登録商標)技術には、マウスが抗原刺激に反応してヒト可変領域およびマウス定常領域を含む抗体を産生するように、内在性マウス定常領域部位に作動可能に連結されたヒトの重鎖および軽鎖可変領域を含むゲノムを持つトランスジェニックマウスを作製することが含まれる。抗体の重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAを単離し、ヒト重鎖および軽鎖の定常領域をコードするDNAに作動可能に連結する。次に、このDNAを、完全なヒト抗体を発現できる細胞中で発現させる。
【0093】
一般に、VELOCIMMUNE(登録商標)マウスに目的の抗原を曝露させ、抗体を発現するマウスからリンパ細胞(B細胞など)を回収する。このリンパ系細胞を骨髄腫細胞株と融合させて不死化ハイブリドーマ細胞株を調製し、このようなハイブリドーマ細胞株をスクリーニングし、選択して目的の抗原に特異的な抗体を産生するハイブリドーマ細胞株を同定することができる。重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAを単離し、重鎖および軽鎖の望ましいアイソタイプの定常領域に連結してもよい。このような抗体タンパク質は、CHO細胞などの細胞で産生してもよい。あるいは、抗原特異的なキメラ抗体または軽鎖および重鎖の可変領域をコードするDNAを、抗原特異的なリンパ球から直接単離してもよい。
【0094】
最初に、ヒト可変領域およびマウス定常領域を有する高親和性キメラ抗体を単離する。以下の実験セクションのように、親和性、選択性、エピトープなどを含めた望ましい特性について抗体を特徴付けし、選択する。マウス定常領域を所望のヒト定常領域で置換して、本発明の完全ヒト抗体、例えば、野生型または改変IgG1またはIgG4を産生する。
【0095】
選択された定常領域は、特定の用途に応じて変化してもよいが、高親和性の抗原結合および標的特異性の特性は可変領域に存在する。
【0096】
生物学的同等物(Bioequivalents)
本発明の抗NPR1抗体および抗体フラグメントは、記載された抗体のものから変化しているが、NPR1タンパク質と結合する能力を保持するアミノ酸配列を有するタンパク質を包含する。このような変異型抗体および抗体フラグメントは、親配列と比較してアミノ酸の1つまたはそれ以上の付加、欠失、または置換を含むが、記載された抗体と本質的に同等の生物学的活性を示す。同様に、本発明の抗体をコードするDNA配列は、開示された配列と比較して、ヌクレオチドの1つまたはそれ以上の付加、欠失、または置換を含むが、本発明の抗体または抗体フラグメントと本質的に生物学的に同等な抗体または抗体フラグメントをコードする配列を包含する。
【0097】
2つの抗原結合タンパク質、すなわち抗体は、例えば、単回投与または複数回投与のいずれかの類似した実験条件下で同じモル用量を投与したときに、吸収の速度および程度が有意差を示さない医薬的同等物または医薬的代替物である場合、生物学的に同等であると考えられる。いくつかの抗体は、吸収の程度は同等であるが、吸収の速度は同等ではない場合、同等物または医薬代替物とみなされるものがあるが、それでも、そのような吸収速度の違いは意図的なものであり、表示に反映されており、例えば慢性的な使用において有効な体内薬物濃度を達成するために必須ではなく、研究された特定の医薬品にとって医学的に重要ではないと考えられるため、生物学的に同等であるとみなしてもよい。
【0098】
一実施形態では、2つの抗原結合タンパク質は、それらの安全性、純度、または効力に臨床的に意味のある差がない場合、生物学的に同等である。
【0099】
一実施形態では、2つの抗原結合タンパク質は、患者が基準製品と生物学的製品との間で1回またはそれ以上切り替えることができ、そのような切り替えを行わずに治療を継続した場合と比較して、免疫原性の臨床的に有意な変化を含む副作用のリスクにおける予想される増加がない、または有効性の低下がない場合、生物学的に同等である。
【0100】
一実施形態では、2つの抗原結合タンパク質は、それらの両方が、1つまたは複数の使用条件に関して共通の1つまたは複数の作用機構によって、そのような機構が知られている範囲で作用する場合、生物学的に同等である。
【0101】
生物学的同等性は、インビボおよび/またはインビトロの方法で実証することができる。生物学的同等性の尺度には、例えば(a)血液、血漿、血清、または他の生物学的流体中の抗体またはその代謝物の濃度を時間の関数として測定する、ヒトまたは他の哺乳動物におけるインビボ試験;(b)ヒトのインビボバイオアベイラビリティデータと相関があり、合理的に予測できるインビトロ試験;(c)抗体(またはその標的)の適切な急性薬理効果を時間の関数として測定する、ヒトまたは他の哺乳動物におけるインビボ試験、および(d)抗体の安全性、有効性、またはバイオアベイラビリティもしくは生物学的同等性を確立する、十分に管理された臨床試験が含まれる。
【0102】
本発明の抗体の生物学的同等な変異体は、例えば、残基もしくは配列の様々な置換を行うか、または生物学的活性に必要のない末端もしくは内部の残基もしくは配列を削除することによって構築することができる。例えば、生物学的活性に必須ではないシステイン残基を削除するか、または他のアミノ酸で置換して、再生時に不必要なまたは間違った分子内ジスルフィド結合が形成されるのを防ぐことができる。他の文脈では、生物学的に同等な抗体は、抗体のグリコシル化特性を変更するアミノ酸変化、例えば、グリコシル化を排除または除去する変異を含む、抗体変異体を含むことができる。
【0103】
Fc変異体を含む抗NPR1抗体
本発明の特定の実施形態によれば、FcRn受容体に対する抗体の結合を、例えば中性pHと比較して酸性pHで増強または減少させる1つまたはそれ以上の変異を含むFcドメインを含む抗NPR1抗体が提供される。例えば、本発明は、FcドメインのC2またはC3領域に変異を含む抗NPR1抗体を含み、該変異は、酸性環境(例えば、pHが約5.5から約6.0の範囲にあるエンドソーム内)においてFcドメインのFcRnへの親和性を増加させる。このような変異は、動物に投与したときに抗体の血清半減期の増加をもたらすことがありうる。このようなFc修飾の非限定的な例としては、例えば、位置250(例えば、EまたはQ);250および428(例えば、LまたはF);252(例えば、L/Y/F/WまたはT)、254(例えば、SまたはT)、および256(例えば、S/R/Q/E/DまたはT)での修飾;または位置428および/または433(例えば、H/L/R/S/P/QまたはK)および/または434(例えば、A、W、H、FまたはY[N434A、N434W、N434H、N434FまたはN434Y])での修飾;または位置250および/または428での修飾;または位置307または308(例えば、308F、V308F)および434の修飾が含まれる。一実施形態では、修飾は、428L(例えば、M428L)および434S(例えば、N434S)修飾;428L、259I(例えば、V259I)、および308F(例えば、V308F)修飾;433K(例えば、H433K)および434(例えば、434Y)修飾;252、254、および256(例えば、252Y、254T、および256E)修飾;250Qおよび428L修飾(例えば、T250QおよびM428L);ならびに307および/または308修飾(例えば、308Fまたは308P)を含む。さらに別の実施形態では、修飾は、265A(例えば、D265A)および/または297A(例えば、N297A)修飾を含む。
【0104】
例えば、本発明は、250Qおよび248L(例えば、T250QおよびM248L);252Y、254Tおよび256E(例えば、M252Y、S254TおよびT256E);428Lおよび434S(例えば、M428LおよびN434S);257Iおよび311I(例えば、P257IおよびQ311I);257Iおよび434H(例えば、P257IおよびN434H);376Vおよび434H(例えば、D376VおよびN434H);307A、380Aおよび434A(例えば、T307A、E380AおよびN434A);および433Kおよび434F(例えば、H433KおよびN434F)からなる群から選択される1つまたはそれ以上の変異の対または群を含むFcドメインを含む抗NPR1抗体を含む。前述のFcドメイン変異および本明細書に開示された抗体可変ドメイン内の他の変異のすべての可能な組み合わせは、本発明の範囲内で企図される。
【0105】
また、本発明には、キメラ重鎖定常(C)領域を含む抗NPR1抗体であって、キメラC領域が、1つよりも多い免疫グロブリンアイソタイプのC領域に由来するセグメントを含む、抗NPR1抗体が含まれる。例えば、本発明の抗体は、ヒトIgG1、ヒトIgG2またはヒトIgG4分子に由来するC2ドメインの一部または全部と、ヒトIgG1、ヒトIgG2またはヒトIgG4分子に由来するC3ドメインの一部または全部とを組み合わせてなるキメラC領域を含んでもよい。特定の実施形態によれば、本発明の抗体は、キメラヒンジ領域を有するキメラC領域を含む。例えば、キメラヒンジは、ヒトIgG1、ヒトIgG2またはヒトIgG4ヒンジ領域に由来する「上部ヒンジ」アミノ酸配列(EU番号付けによる位置216から227までのアミノ酸残基)と、ヒトIgG1、ヒトIgG2またはヒトIgG4ヒンジ領域に由来する「下部ヒンジ」配列(EU番号付けによる位置228から236までのアミノ酸残基)とを組み合わせたものであってもよい。特定の実施形態によれば、キメラヒンジ領域は、ヒトIgG1またはヒトIgG4の上部ヒンジに由来するアミノ酸残基と、ヒトIgG2の下部ヒンジに由来するアミノ酸残基とを含む。本明細書に記載のキメラC領域を含む抗体は、特定の実施形態において、抗体の治療特性または薬物動態特性に悪影響を及ぼすことなく、改変されたF
cエフェクター機能を示すことができる。(例えば、米国特許出願公開2014/0243504号を参照し、この開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。
【0106】
本発明の抗体の生物学的特性
一般に、本発明の抗体は、NPR1タンパク質に結合し、その活性を高めることによって機能する。例えば、本発明には、ANPまたはBNPのいずれかの非存在下で(例えば、25℃または37℃で)単量体のヒトNPR1タンパク質を、例えば本明細書の実施例3に定義されるようなアッセイフォーマットを用いて表面プラズモン共鳴によって測定される690nM未満のKで結合する抗体および抗体の抗原結合性フラグメントが含まれる。特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、例えば、本明細書の実施例3に定義されるようなアッセイフォーマットまたは実質的に同様のアッセイを用いて、表面プラズモン共鳴によって測定される、約650nM未満、約500nM未満、約400nM未満、約300nM未満、約200nM未満、約100nM未満、約50nM未満、または約25nM未満のKでNPR1と結合する。
【0107】
また、本発明には、ANPまたはBNPのいずれかの非存在下で(例えば、25℃または37℃で)、二量体ヒトNPR1タンパク質を、例えば本明細書の実施例3に定義されるようなアッセイフォーマットを用いて表面プラズモン共鳴によって測定される42nM未満のKで結合する抗体およびその抗原結合性フラグメントが含まれる。特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、例えば、本明細書の実施例3に定義されるようなアッセイフォーマットまたは実質的に同様のアッセイを用いて、表面プラズモン共鳴によって測定される約40nM未満、約30nM未満、約20nM未満、約10nM未満、約5nM未満、約1nM未満、または約0.5nM未満のKでNPR1と結合する。
【0108】
また、本発明には、例えば、本明細書の実施例3に定義されるようなアッセイフォーマットを用いて、表面プラズモン共鳴によって測定されるように、ANPと複合体化したヒトNPR1タンパク質(例えば、25℃または37℃で)を、80nM未満のKで結合する抗体および抗体の抗原結合性フラグメントが含まれる。特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、例えば、本明細書の実施例3に定義されるようなアッセイフォーマットまたは実質的に同様のアッセイを用いて、表面プラズモン共鳴によって測定されるように、約70nM未満、約50nM未満、約25nM未満、約10nM未満、約5nM未満、約1nM未満、または約0.5nM未満のKでNPR1と結合する。
【0109】
また、本発明には、例えば、本明細書の実施例3に定義されるようなアッセイフォーマットを使用して、表面プラズモン共鳴によって測定されるように、BNPと複合体化したヒトNPR1タンパク質を(例えば、25℃または35℃で)、20nM未満のKで結合する抗体および抗体の抗原結合性フラグメントが含まれる。特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、例えば、本明細書の実施例3に定義されるようなアッセイフォーマットまたは実質的に同様のアッセイを用いて、表面プラズモン共鳴によって測定されるように、約15nM未満、約10nM未満、約5nM未満、約1nM未満、または約0.5nM未満のKでNPR1と結合する。
【0110】
また、本発明には、例えば、本明細書の実施例3に定義されるようなアッセイフォーマットを用いて、表面プラズモン共鳴によって測定されるように、ANPまたはBNPのいずれかの非存在下で(例えば、25℃または37℃で)単量体のサルNPR1タンパク質を365nM未満のKで結合する抗体およびその抗原結合性フラグメントも含まれる。特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、例えば、本明細書の実施例3で定義されたアッセイフォーマットまたは実質的に同様のアッセイを用いて、表面
プラズモン共鳴によって測定されるように、約360nM未満、約300nM未満、約150nM未満、約100nM未満、約50nM未満、約25nM未満、約10nM未満、約5nM未満、約1nM未満、または約0.5nM未満のKでNPR1と結合する。
【0111】
また、本発明には、例えば、本明細書の実施例3に定義されるようなアッセイフォーマットを用いて、表面プラズモン共鳴によって測定されるように、ANPまたはBNPのいずれかの非存在下で(例えば、25℃または37℃で)、二量体のサルNPR1タンパク質を30nM未満のKで結合する抗体およびその抗原結合性フラグメントも含まれる。特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、例えば、本明細書の実施例3に定義されるようなアッセイフォーマットまたは実質的に同様のアッセイを用いて、表面プラズモン共鳴によって測定されるように、約20nM未満、約10nM未満、約5nM未満、約1nM未満、または約0.5nM未満のKでNPR1と結合する。
【0112】
また、本発明には、例えば、本明細書の実施例3に定義されるようなアッセイフォーマットを使用して、表面プラズモン共鳴によって測定されるように、10nM未満のKで、ANPと複合体化したサルNPR1タンパク質(例えば、25℃または37℃で)と結合する抗体および抗体の抗原結合性フラグメントも含まれる。特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、例えば、本明細書の実施例3に定義されるようなアッセイフォーマットまたは実質的に同様のアッセイを用いて、表面プラズモン共鳴によって測定されるように、約9nM未満、約8nM未満、約5nM未満、約1nM未満、または約0.5nM未満のKでNPR1と結合する。
【0113】
また、本発明には、例えば、本明細書の実施例3に定義されるようなアッセイフォーマットを使用して、表面プラズモン共鳴によって測定されるように、BNPと複合体化した二量体サルNPR1タンパク質(例えば、25℃または37℃で)と10nM未満のKで結合する抗体および抗体の抗原結合性フラグメントも含まれる。特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、例えば、本明細書の実施例3に定義されるようなアッセイフォーマットまたは実質的に同様のアッセイを用いて、表面プラズモン共鳴によって測定されるように、約9nM未満、約8nM未満、約5nM未満、約1nM未満、または約0.5nM未満のKDでNPR1と結合する。
【0114】
また、本発明には、例えば、本明細書の実施例5に記載されるようなアッセイフォーマットまたは実質的に同様のアッセイを用いて測定した場合に、ANPを含むまたは含まないヒトNPR1を発現する細胞に、5nM未満、4nM未満、3nM未満、2nM未満、1nM未満、または0.5nM未満のEC50で結合する抗体およびその抗原結合性フラグメントも含まれる。
【0115】
また、本発明は、例えば、本明細書の実施例6に定義されるようなアッセイフォーマットを使用した、カルシウムフラックス細胞ベースのバイオアッセイによって測定されるように、385nM未満のEC50でNPR1を活性化する抗体およびその抗原結合性フラグメントを含む。特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、例えば本明細書の実施例6に定義されるようなアッセイフォーマットを用いたカルシウムフラックス細胞ベースのバイオアッセイ、または実質的に同様のアッセイによって測定されるように、約300nM未満、約200nM未満、約100nM未満、約50nM未満、約10nM未満、または約1nM未満のEC50でNPR1を活性化する。
【0116】
また、本発明は、例えば本明細書の実施例8に示すように、NPR1に結合し、それを必要とする対象に単回投与したときに28日を超える間、対象の全身血圧を低下させる抗体および抗体の抗原結合性フラグメントを含む。
【0117】
また、本発明は、例えば本明細書の実施例11に示すように、NPR1に結合し、それを必要とする対象に投与したときに空腹時血糖値を低下させる抗体および抗体の抗原結合性フラグメントを含む。
【0118】
一実施形態では、本発明は、ANPまたはBNPの存在下または非存在下でNPR1タンパク質に特異的に結合し、NPR1の活性を増加させる単離された組換え抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供し、該抗体またはそのフラグメントは、以下の特徴:(a)完全ヒトモノクローナル抗体である;(b)表面プラズモン共鳴法で測定されるように、ANPおよび/またはBNPの非存在下、25℃および37℃で、690nM未満の解離定数(K)で、単量体のヒトNPR1に結合する;(c)表面プラズモン共鳴法で測定されるように、ANPまたはBNPの非存在下、25℃および37℃で、42nM未満のKで二量体のヒトNPR1に結合する;(d)表面プラズモン共鳴法で測定されるように、25℃および37℃で、80nM未満のKで、ANPと複合体形成したヒトNPR1に結合する;(e)表面プラズモン共鳴法で測定されるように、25℃および37℃で、20nM未満のKで、BNPと複合体形成したヒトNPR1に結合する;(f)表面プラズモン共鳴法で測定されるように、ANPおよび/またはBNPの非存在下、25℃および37℃で、365nM未満のKで、単量体のサルNPR1に結合する;(g)表面プラズモン共鳴法で測定されるように、ANPまたはBNPの非存在下、25℃および37℃で、30nM未満のKで、二量体のサルNPR1に結合する;(h)表面プラズモン共鳴法で測定されるように、25℃および37℃で、10nM未満のKで、ANPと複合体形成したサルNPR1に結合する;(i)表面プラズモン共鳴法で測定されるように、25℃および37℃で10nM未満のKでBNPと複合形成したサルNPR1に結合する;(j)マウスNPR1とは結合しない;(k)ヒトNPR1(ANPの非存在下)またはANPと複合体形成したNPR1を発現する細胞に、5nM未満のEC50で結合する;(l)カルシウムフラックス細胞ベースのバイオアッセイで測定されるように、385nM未満のEC50でNPR1を活性化する;(m)正常血圧および高血圧のマウスに投与したときに、全身の血圧を低下させ、全身血圧および平均動脈血圧の低下は、単回投与で28日まで持続する;(n)食事誘発性肥満マウスに投与したときに、耐糖能が改善される;および(o)表1に記載のHCVR配列からなる群から選択されたアミノ酸配列を含むHCVRと、表1に記載のLCVR配列からなる群から選択されたアミノ酸配列を含むLCVRとを含む;の1つまたはそれ以上を示す。
【0119】
本発明の抗体は、前述の生物学的特性の1つもしくはそれ以上、またはそれらの組み合わせを有していてもよい。本発明の抗体の他の生物学的特性は、本明細書の実施例を含む本開示の検討から当業者に明らかになるであろう。
【0120】
エピトープマッピングおよび関連技術
本発明には、NPR1タンパク質分子の1つまたはそれ以上の領域内に見出される1つまたはそれ以上のアミノ酸と相互作用する抗NPR1抗体が含まれる。抗体が結合するエピトープは、NPR1タンパク質分子の前述のドメインのいずれか内に位置する3つまたはそれ以上(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20またはそれ以上)のアミノ酸の単一の連続した配列から構成されていてもよい(例えば、ドメイン内の線形エピトープ)。あるいは、エピトープは、タンパク質分子の前述のドメインのいずれかまたは両方内に位置する複数の連続しないアミノ酸(またはアミノ酸配列)から構成されていてもよい(例えば、コンフォメーションエピトープ)。
【0121】
抗体がポリペプチドまたはタンパク質内の「1つまたはそれ以上のアミノ酸と相互作用する」か、どうかを決定するために、当業者に知られている様々な技術を使用することができる。例示的な技術には、例えば、Antibodies,Harlow and L
ane(Cold Spring Harbor Press,Cold Spring
Harbor,NY)に記載されているような、常用のクロスブロッキングアッセイが含まれる。他の方法としては、アラニンスキャニング突然変異分析、ペプチドブロット分析(Reineke(2004)Methods Mol.Biol.248:443-63)、ペプチド切断分析結晶学的研究、NMR分析などがある。さらに、抗原のエピトープ切除、エピトープ抽出、化学修飾などの方法を用いることができる(Tomer(2000)Prot.Sci.9:487-496)。抗体が相互作用するポリペプチド内のアミノ酸を同定するために使用できる別の方法は、質量分析によって検出される水素/重水素交換である。一般的には、水素/重水素交換法では、目的のタンパク質を重水素標識した後、重水素標識されたタンパク質に抗体を結合させることを含む。次に、タンパク質/抗体複合体を水中に移動させると、抗体複合体によって保護されたアミノ酸内の交換可能なプロトンは、界面の部分ではないアミノ酸内の交換可能なプロトンよりも遅い速度で重水素-水素逆交換を行う。その結果、タンパク質と抗体の界面の部分を形成するアミノ酸は重水素を保持し、そのため界面に含まれないアミノ酸と比較して相対的に高い質量を示すことになる。抗体の解離後、標的タンパク質をプロテアーゼで切断し、質量分析を行うことで、抗体が相互作用する特定のアミノ酸に対応する重水素標識された残基が明らかになる。例えば、Ehring(1999)Analytical Biochemistry 267:252-259;EngenおよびSmith(2001)Anal.Chem.73:256A-265Aを参照のこと。
【0122】
用語「エピトープ」は、B細胞および/またはT細胞が反応する抗原上の部位を意味する。B細胞エピトープは、連続したアミノ酸、またはタンパク質の三次折り畳み(tertiary folding)によって並置された非連続のアミノ酸の両方から形成することができる。連続したアミノ酸から形成されたエピトープは、変性溶媒にさらされても保持されるのに対し、三次折り畳みによって形成されたエピトープは、変性溶媒で処理されると典型的には失われる。エピトープは、通常、少なくとも3つ、より一般的には、少なくとも5または8~10個のアミノ酸が独特の空間的コンフォメーションを形成している。
【0123】
修飾支援プロファイリング(Modification-Assisted Profiling)(MAP)は、抗原構造に基づく抗体プロファイリング(Antigen Structure-based Antibody Profiling)(ASAP)とも呼ばれ、化学的または酵素的に修飾された抗原表面に対する各抗体の結合プロファイルの類似性に応じて、同一の抗原に向けられた多数のモノクローナル抗体(mAb)を分類する方法である(US2004/0101920参照、本明細書ではその全体が参照により具体的に組み込まれる)。各カテゴリーは、他のカテゴリーで表されるエピトープと明確に異なるか、または部分的に重なる独特のエピトープを反映してもよい。この技術により、遺伝的に同一の抗体を迅速にフィルタリングすることができ、遺伝的に異なる抗体に焦点を当てた特性評価が可能になる。MAPをハイブリドーマのスクリーニングに適用すると、所望の特性を持つmAbを産生する希少なハイブリドーマクローンの同定を容易にすることができる。MAPは、本発明の抗体を、異なるエピトープを結合する抗体のグループに分類するために使用することができる。
【0124】
特定の実施形態では、本発明は、NPR1の細胞外ドメイン内に見出される1つまたはそれ以上のエピトープと相互作用する抗NPR1抗体およびその抗原結合性フラグメントを含む。エピトープは、NPR1の細胞外ドメイン内に位置する3つまたはそれ以上(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20またはそれ以上)のアミノ酸の1つまたは以上の連続した配列で構成されていてもよい。あるいは、エピトープは、NPR1内に位置する複数の非連続のアミノ酸(またはアミノ酸配列)から構成されてもよい。
【0125】
本発明には、表1に記載された特定の例示的な抗体のいずれかと同じエピトープ、またはエピトープの一部に結合する抗NPR1抗体が含まれる。同様に、本発明には、表1に記載された具体的な例示的抗体のいずれかとNPR1タンパク質またはそのフラグメントへの結合を競合する抗NPR1抗体も含まれる。例えば、本発明は、NPR1タンパク質への結合を、表1に記載の1つまたはそれ以上の抗体と交差競合する抗NPR1抗体を含む。
【0126】
ある抗体が参照抗NPR1抗体と同じエピトープに結合するか、または結合を競合するかどうかは、当分野で知られている常用の方法を用いて容易に決定することができる。例えば、試験抗体が本発明の参照抗NPR1抗体と同じエピトープに結合するかどうかを決定するために、参照抗体を飽和状態でNPR1タンパク質またはペプチドに結合させる。次に、NPR1タンパク質分子に結合する試験抗体の能力を評価する。参照抗NPR1抗体との飽和結合後に試験抗体がNPR1に結合できる場合、試験抗体は参照抗NPR1抗体とは異なるエピトープに結合すると結論づけることができる。一方、参照抗NPR1抗体との飽和結合後、試験抗体がNPR1タンパク質に結合できない場合、試験抗体は、本発明の参照抗NPR1抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合している可能性がある。
【0127】
抗体が参照抗NPR1抗体との結合を競合するかどうかを決定するために、上述の結合方法を2つの方向性で実施する。第1の方向性では、参照抗体を飽和状態でNPR1タンパク質に結合させた後、試験抗体のNPR1分子への結合を評価する。第2の方向性では、試験抗体を飽和状態でNPR1分子に結合させた後、参照抗体のNPR1分子への結合を評価する。両方の方向性において、第1の(飽和)抗体のみがNPR1分子に結合することができる場合、試験抗体と参照抗体とはNPR1への結合について競合すると結論付けられる。当業者によって理解されるように、参照抗体との結合を競合する抗体は、必ずしも参照抗体と同一のエピトープに結合するとは限らず、重複または隣接するエピトープに結合することによって参照抗体の結合を立体的に遮断することができる。
【0128】
2つの抗体は、それぞれが別の抗体の抗原への結合を競合的に阻害(遮断)する場合、同じまたはオーバーラップエピトープに結合する。すなわち、1倍、5倍、10倍、20倍または100倍の過剰な一方の抗体は、競合的結合アッセイで測定すると、他方の結合を少なくとも50%、好ましくは75%、90%または99%までさえ阻害する(例えば、Junghansら、Cancer Res.1990 50:1495-1502参照)。あるいは、一方の抗体の結合を減少または排除する抗原のアミノ酸変異が、他方の抗体の結合を減少または排除する場合、2つの抗体は同じエピトープを有している。一方の抗体の結合を減少または排除するいくつかのアミノ酸変異が、他方の抗体の結合を減少または排除する場合、2つの抗体はオーバーラップエピトープを有する。
【0129】
次に、追加の常用実験(例えば、ペプチド変異および結合分析)を行って、試験抗体の結合が観察されないのは、実際には参照抗体と同じエピトープに結合しているためなのか、または結合が観察されないのは立体的な遮断(または別の現象)が原因であるのかを確認することができる。この種の実験は、ELISA、RIA、表面プラズモン共鳴、フローサイトメトリー、または当分野で利用可能なその他の定量的もしくは定性的な抗体結合アッセイを用いて行うことができる。
【0130】
特定の実施形態において、本発明は、ナトリウム利尿ペプチド受容体1(NPR1)タンパク質に特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合性フラグメントであって、該抗体またはその抗原結合性フラグメントが、水素/重水素交換によって決定されるNPR1の細胞外ドメイン(配列番号:194のアミノ酸29~347)内に含まれる1つ
またはそれ以上のアミノ酸と相互作用し、かつ該抗体またはその抗原結合性フラグメントが(i)心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の存在下または非存在下で、ヒトNPR1を発現する細胞に結合する;かつ/または(ii)NPR1に結合し、NPR1を活性化する、単離された抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。一実施形態では、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、(a)配列番号:194のアミノ酸29~45;(b)配列番号:194のアミノ酸331~347;(c)配列番号:194のアミノ酸336~347;(d)配列番号:194のアミノ酸331~335;および(e)配列番号:194のアミノ酸70~81からなる群から選択されるアミノ酸配列と相互作用する。一実施形態では、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、(a)配列番号:194のアミノ酸29~45;および(b)配列番号:194のアミノ酸336~347からなる群から選択されるアミノ酸配列と相互作用する。一実施形態では、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、ANPの存在下で、(a)配列番号:194のアミノ酸29~45;および(b)配列番号:194のアミノ酸331~347からなる群から選択されるアミノ酸配列と相互作用する。一実施形態では、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、ANPの存在下で、(a)配列番号:194のアミノ酸29~45;(b)配列番号:194のアミノ酸70~81;および(c)配列番号:194のアミノ酸331~335からなる群から選択されるアミノ酸配列と相互作用する。一実施形態では、本発明は、ANPの存在下でNPR1タンパク質に特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合性フラグメントであって、該抗体またはその抗原結合性フラグメントが、水素/重水素交換によって決定されるように、(a)配列番号:194のアミノ酸29~45;および(b)配列番号:194のアミノ酸331~347からなる群から選択されるアミノ酸配列と相互作用するが、配列番号:194のアミノ酸70~81とは相互作用せず、該抗体またはその抗原結合性フラグメントが、(i)ANPの存在下または非存在下で、ヒトNPR1を発現する細胞に結合する;かつ/または(ii)NPR1に結合し、NPR1を活性化する;単離された抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。
【0131】
免疫複合体
本発明は、NPR1に関連する疾患または障害(例えば、高血圧)を処置するために、治療部分に結合したヒト抗NPR1モノクローナル抗体(「免疫複合体」)を包含する。本明細書で使用される「免疫複合体」という用語は、放射性薬剤、サイトカイン、インターフェロン、標的もしくはレポーター部位、酵素、ペプチドもしくはタンパク質または治療剤に化学的もしくは生物学的に結合した抗体を指す。抗体は、標的と結合できる限り、放射性薬剤、サイトカイン、インターフェロン、標的またはレポーター部位、酵素、ペプチド、治療剤などと、分子に沿って任意の位置で結合することができる。免疫複合体の例としては、抗体薬物複合体および抗体-毒素融合タンパク質が挙げられる。ある実施形態では、薬剤は、NPR1タンパク質に対する第2の異なる抗体であってもよい。抗NPR1抗体に結合されうる治療部位のタイプは、処置すべき状態および達成すべき所望の治療効果を考慮することになる。免疫複合体を形成するのに適した薬剤の例は、当技術分野で知られており、例えば、WO05/103081を参照のこと。
【0132】
多特性抗体
本発明の抗体は、単一特異性、二重特異性、または多特異性であってもよい。多特異性抗体は、1つの標的ポリペプチドの異なるエピトープに特異的であってもよいし、または1つより多い標的ポリペプチドに特異的な抗原結合ドメインを含んでもよい。例えば、Tuttら、1991、J.Immunol.147:60-69;Kuferら、2004、Trends Biotechnol.22:238-244参照。
【0133】
本発明の多特異性抗原結合分子のいずれか、またはその変異体は、当業者に知られているように、標準的な分子生物学的技術(例えば、組換えDNAおよびタンパク質発現技術
)を用いて構築することができる。
【0134】
いくつかの実施形態では、NPR1特異的抗体は、NPR1タンパク質の異なるドメインに結合する可変領域が一緒に連結されて、単一の結合分子内で二重ドメイン特異性を付与する二重特異的フォーマット(「二重特異的」)で生成される。適切に設計された二重特異性は、特異性および結合力の両方を高めることにより、全体的なNPR1タンパク質の阻害効果を高めることができる。個々のドメイン(例えば、N-末端ドメインのセグメント)に特異性を有するか、または1つのドメイン内の異なる領域に結合することができる可変領域は、各領域が別々のエピトープに同時に結合するか、または1つのドメイン内の異なる領域に結合することを可能にする構造的骨格上で対になっている。二重特異性の一例では、1つのドメインに対する特異性を有する結合剤(binder)の重鎖可変領域(V)を、2つ目のドメインに対する特異性を有する一連の結合剤の軽鎖可変領域(V)と組み替えて、Vの元々の特異性を損なわずにVと対になることができる非同系(non-cogate)のVパートナーを特定する。このようにして、単一のVセグメント(例えば、V1)を2つの異なるVドメイン(例えば、V1およびV2)と組み合わせて、2つの結合「アーム(arm)」(V1-V1およびV2-V1)を含む二重特異性を生成することができる。単一のVセグメントを使用することで、システムの複雑さが軽減され、それによって、二重特異性を生成するために使用されるクローニング、発現、および精製プロセスが単純化され、効率が向上する(例えば、US2011/0195454およびUS2010/0331527を参照)。
【0135】
別法として、1より多いドメインおよび第2の標的を結合する抗体、例えば、限定されるわけではないが、第2の異なる抗NPR1抗体は、本明細書に記載された技術、または当業者に知られている他の技術を用いて、二重特異性フォーマットで調製してもよい。異なる領域に結合する抗体可変領域を、例えばNPR1の細胞外ドメインの関連部位に結合する可変領域と一緒に連結して、単一の結合分子内に二重抗原特異性を付与してもよい。この性質の適切に設計された二重特異性は、二重の機能を果たす。細胞外ドメインに対して特異性を有する可変領域は、細胞外ドメインの外側に対して特異性を有する可変領域と組み合わされ、それぞれの可変領域が別々の抗原に結合できる構造的骨格上で対になっている。
【0136】
本発明の文脈で使用することができる例示的な二重特異性抗体フォーマットは、第1の免疫グロブリン(Ig)C3ドメインおよび第2のIg C3ドメインの使用を含み、該第1および第2のIg C3ドメインは、少なくとも1つのアミノ酸だけ互いに異なり、少なくとも1つのアミノ酸の違いは、アミノ酸の違いがない二重特異性抗体と比較して、プロテインAに対する二重特異性抗体の結合を減少させる。一実施形態では、第1のIg C3ドメインはプロテインAを結合し、第2のIg C3ドメインは、H95R修飾(IMGTエクソンナンバリングによる;EUナンバリングによるH435R)のようなプロテインA結合を減少または消失させる変異を含む。第2のC3は、Y96F修飾(IMGTによる;EUによるY436F)をさらに含んでもよい。第2のC3内に見出されうるさらなる修飾には、IgG1抗体の場合、D16E、L18M、N44S、K52N、V57M、およびV82I(IMGTによる;EUによるD356E、L358M、N384S、K392N、V397M、およびV422I);IgG2抗体の場合、N44S、K52N、およびV82I(IMGT;EUによるN384S、K392N、およびV422I);ならびにIgG4抗体の場合、Q15R、N44S、K52N、V57M、R69K、E79Q、およびV82I(IMGTによる;EUによるQ355R、N384S、K392N、V397M、R409K、E419Q、およびV422I)が含まれる。上述の二重特異性抗体のフォーマットのバリエーションは、本発明の範囲内で企図されている。
【0137】
本発明の文脈で使用することができる他の例示的な二重特異性フォーマットには、限定されないが、例えば、scFvベースまたは二重特性抗体の二重特異性フォーマット、IgG-scFv融合体、二重可変ドメイン(DVD)-Ig、クアドローマ(Quadroma)、ノブス-イントゥ-ホールズ(knobs-into-holes)、共通軽鎖(例えば、ノブス-イントゥ-ホールズを有する共通軽鎖)、CrossMab、CrossFab、(SEED)ボディ、ロイシンジッパー、デュオボディ(Duobody)、IgG1/IgG2、二重作用Fab(DAF)-IgG、およびMab二重特異性フォーマット(前述のフォーマットのレビューについては、例えば、Kleinら、2012、mAbs 4:6、1-11、およびそこに引用された文献を参照のこと)。また、二重特異性抗体は、ペプチド/核酸複合体を用いて構築することができ、例えば、直交する化学反応性(orthogonal chemical reactivity)を有する非天然アミノ酸を用いて、部位特異的な抗体-オリゴヌクレオチド複合体を生成し、これはその後、所定の組成、価数、および形状を有する多量体複合体を自己組織化可能である(例えば、Kazaneら,J.Am.Chem.Soc.[Epub:12月4日,2012年]参照)。
【0138】
治療的投与および製剤
本発明は、本発明の抗NPR1抗体またはその抗原結合性フラグメントを含んでなる治療用組成物を提供する。本発明による治療用組成物は、適切な担体、賦形剤、および改善された移送、送達、耐性などを提供するために製剤に組み込まれる他の薬剤とともに投与される。多数の適切な製剤は、すべての製薬化学者に知られている処方集に見出すことができる:Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Company,ペンシルバニア州、イーストン。これらの製剤には、例えば、散剤、ペースト剤、軟膏、ゼリー、ワックス、油、脂質、脂質(カチオン性またはアニオン性)含有ベシクル(例えばLIPOFECTIN(商標))、DNAコンジュゲート、無水吸収ペースト、水中油型および油中水型エマルション、エマルションカーボワックス(様々な分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル、ならびにカーボワックス含有半固体混合物が含まれる。また、Powellらの「Compendium of excipients for parenteral formulations」PDA(1998)J Pharm Sci Technol 52:238-311を参照のこと。
【0139】
抗体の用量は、投与されるべき対象の年齢および体格、標的疾患、状態、投与経路などによって異なることがありうる。本発明の抗体を成人患者の疾患もしくは障害の処置、またはそのような疾患の予防に用いるときは、通常、本発明の抗体を約0.1~約100mg/kg体重の単回用量で投与するのが有利である。状態の重症度に応じて、処置の頻度および期間を調整することができる。特定の実施形態では、本発明の抗体またはその抗原結合性フラグメントは、少なくとも約0.1mg~約800mg、約1~約600mg、約5~約500mg、または約10~約400mgの初期用量として投与することができる。特定の実施形態では、初回用量に続いて、抗体またはその抗原結合性フラグメントの2回目または複数回の後に続く用量の投与を、初期用量のものとほぼ同じまたはそれより少ない量で投与することができ、後に続く用量は少なくとも1日から3日、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも5週間、少なくとも6週間、少なくとも7週間、少なくとも8週間、少なくとも9週間、少なくとも10週間、少なくとも12週間、または少なくとも14週間離される。
【0140】
様々な送達システム、例えば、リポソーム中のカプセル化、微粒子、マイクロカプセル、変異型ウイルスを発現することができる組換え細胞、受容体依存性エンドサイトーシスが知られており、本発明の医薬組成物を投与するために使用することができる(例えば、Wuら(1987)J.Biol.Chem.262:4429-4432参照)。導入
方法としては、皮内、経皮、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外および経口経路が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本組成物は、任意の都合のよい経路、例えば、注入またはボーラス注射によって、上皮または皮膚粘膜裏層(例えば、口腔粘膜、直腸および腸粘膜など)からの吸収によって投与することができ、他の生物学的活性剤と一緒に投与することができる。投与は、全身または局所的に行うことができる。医薬組成物は、ベシクル、特にリポソームで送達することもできる(例えば、Langer(1990)Science 249:1527-1533参照)。
【0141】
また、本発明の抗体を送達するためのナノ粒子の使用も、本明細書において企図される。抗体結合ナノ粒子は、治療および診断の両方の用途に使用することができる。抗体結合ナノ粒子、ならびに調製および使用の方法は、Arruebo,M.ら,2009(「Antibody-conjugated nanoparticles for biomedical applications」J.Nanomat. Volume 2009, Article ID 439389,24頁,doi:10.1155/2009/439389)に詳細に記載されており、参照により本明細書に組み込まれる。ナノ粒子を開発し、標的細胞に対する医薬組成物に含まれる抗体に結合させてもよい。また、薬物送達用のナノ粒子は、例えば、US8257740、またはUS8246995に記載されており、それぞれその全体が本明細書に組み込まれる。
【0142】
特定の状況では、医薬組成物を制御放出システムで送達することができる。一実施形態では、ポンプを使用してもよい。別の実施形態では、ポリマー材料を使用することができる。さらに別の実施形態では、制御放出システムを組成物の標的に近接して配置することができ、そのため、全身用量のごく一部しか必要としない。
【0143】
注射用製剤は、静脈内、皮下、頭蓋内、腹腔内および筋肉内の注射、点滴注入などのための剤形を含んでもよい。これらの注射用製剤は、公知の方法で調製してもよい。
【0144】
本発明の医薬組成物は、標準的な針および注射器を用いて、皮下または静脈内に送達することができる。さらに、皮下送達に関して、ペン型送達デバイスは、本発明の医薬組成物の送達に適用するのが容易である。このようなペン型送達デバイスは、再利用可能または使い捨てであることができる。再利用可能なペン型送達デバイスは、一般に、医薬組成物を含む交換可能なカートリッジを利用する。カートリッジ内のすべての医薬組成物が投与され、カートリッジが空になると、空のカートリッジを容易に廃棄して医薬組成物を含む新しいカートリッジと交換することができる。その後、ペン型送達デバイスを再利用することができる。使い捨てペン型送達デバイスでは、交換可能なカートリッジがない。というよりも、使い捨てペン型送達デバイスは、デバイス内のリザーバーに保持された医薬組成物であらかじめ充填されている。リザーバーが空になると、デバイス全体が廃棄される。
【0145】
有利には、上述の経口または非経口使用のための医薬組成物は、活性成分の用量に適合するのに適した単位用量の剤形に調製される。このような単位用量の剤形としては、例えば、錠剤、ピル、カプセル、注射剤(アンプル)、座剤などが挙げられる。含まれる抗体の量は、一般的に単位用量の剤形あたり約5~約500mgであり、特に注射剤の形態では約5~約300mg、その他の剤形では約10~約300mgで含まれることが好ましい。
【0146】
抗体の治療的使用
本発明の抗体は、NPR1に関連する疾患もしくは障害もしくは状態の処置、および/もしくは予防、ならびに/またはそのような疾患、障害もしくは状態に関連する少なくとも1つの症状の改善に有用である。特定の実施形態では、本発明の抗体またはその抗原結
合性フラグメントは、NPR1に関連する疾患または障害または状態を有する患者に治療用量で投与してもよい。
【0147】
特定の実施形態において、本発明の抗体は、高血圧、心不全、肥満、腎不全、慢性腎臓病、黄斑浮腫、緑内障、脳卒中、肺障害、肺線維症、炎症、喘息、骨格成長障害、骨折、糖尿病、および癌からなる群から選択される、NPR1に関連する疾患または障害の少なくとも1つの症状または徴候を処置または予防するために有用である。
【0148】
また、本明細書では、本発明の1つまたはそれ以上の抗体を、NPR1関連の疾患または障害に罹患するリスクのある対象に予防的に使用することも企図される。
【0149】
本発明の一実施形態では、本発明の抗体は、本明細書に開示された疾患、障害または状態に罹患している患者を処置するための医薬組成物または薬剤の調製に使用される。本発明の別の実施形態では、本抗体は、本明細書に開示された疾患、障害または状態を処置または改善するために有用な、当業者に知られている任意の他の薬剤または任意の他の療法との補助療法として使用される。
【0150】
併用療法
併用療法は、本発明の抗体と、本発明の抗体または本発明の抗体の生物学的に活性なフラグメントと有利に組み合わせうる任意の追加の治療剤とを含んでもよい。本発明の抗体は、NPR1関連の疾患または障害の処置に使用される1つまたはそれ以上の薬物または治療法と相乗的に組み合わせてもよい。いくつかの実施形態では、本発明の抗体は、疾患または状態の1つまたはそれ以上の症状を改善するために、第2の治療剤と組み合わせてもよい。
【0151】
疾患、障害または状態に応じて、本発明の抗体は、限定されるわけではないが、以下を含む1つまたはそれ以上の追加の治療剤と組み合わせて使用することができる:アルドステロン拮抗剤(例えば、エプレレノン、スピロノラクトン)、アルファ-アドレナリン遮断剤(例えば、ドキサゾシン、フェノキシベンザミン、フェントラミン、プラゾシン、テラゾシン)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤(例えば、ベナゼプリル、カプトプリル、エナラプリル、フォシノプリル、リシノプリル、モエキシプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリル、トランドラプリル)、動脈性血管拡張剤(例えば、ヒドラジン、ミノキシジル)、自律神経節性血管拡張剤(例:メカミラミン)、ベータ-アドレナリン遮断剤(アセブトロール、アテノロール、ベタキソロール、ビソプロロール、カルベジロール、カルテオロール、エスモロール、ラベトロル、メトプロロール、ナドロール、ペンブテロール、ピンドロール、プロプラノロール、チモロール)、カテコラミン枯渇性交感神経遮断剤(例えば、デセルピジン、レセルピン)、中枢性アルファ-2アドレナリンアゴニスト(例えば、クロニジン、グアナベンツ、グアンファシン、メチルドパ)、カルシウム拮抗剤(ジルチアゼム、ベラパミル、アムロジピン、フェロジピン、イスラジピン、ニカジピン、ニフェジピン、ニソルジピン)、利尿剤(例えば、ブメタニド、エタクリニック酸、フロセミド、トルセミド、クロロチアジド、ヒドロクロロチアジド、ヒドロフルメチアジド、メチクロチアジド、ポリチアジド、クロルタリドン、インダパミド、メトラゾン)、レニン阻害剤(例えば、アリスキレン)、抗凝固剤(例えば、クマダン、ダビガトラン、アピキサバン)、抗血小板剤(例えば、アスピリン、クロピドグレル)、コレステロール低下剤(例えば、スタチン、アリロクマブなどのPCSK9阻害剤)、血管拡張剤(例えば、ミノキシジル、ヒドラジン、硝酸塩)、ジギタリス、手術(例えば、血管形成術、冠動脈バイパス術、心臓移植)、埋め込み型機器(例えば、弁置換、除細動器、左心室補助装置、ペースメーカー)、抗腫瘍療法(例えば、化学療法剤、手術、放射線、PD-1阻害剤)、インスリン、GLP1アゴニスト(例えば、エキセナチド、リラグルチド、リキシセナチド、アルビグルチド、デュラグルチド、セマグルチド)、メト
ホルミン、透析、骨髄刺激剤、血液濾過、生活習慣の改善、ならびに栄養補助食品など。
【0152】
本明細書で使用される「と組み合わせて」という用語は、本発明の抗NPR1抗体の投与前に、投与と同時に、または投与後に、追加の治療活性成分を投与してもよいことを意味する。また、「と組み合わせて」という用語は、抗NPR1抗体および第2の治療剤の逐次的または同時的な投与を含む。
【0153】
追加の治療活性成分は、本発明の抗NPR1抗体の投与前に対象に投与してもよい。例えば、第1成分が、第2成分の投与の1週間前、72時間前、60時間前、48時間前、36時間前、24時間前、12時間前、6時間前、5時間前、4時間前、3時間前、2時間前、1時間前、30分前、または30分未満前に投与される場合、第1成分は第2成分の「前に」投与されるとみなしてもよい。他の実施形態では、本発明の抗NPR1抗体の投与後に、追加の治療活性成分を対象に投与してもよい。例えば、第1成分が、第2成分の投与の30分後、1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、12時間後、24時間後、36時間後、48時間後、60時間後、72時間後、またはそれより後に投与された場合、第1成分は第2成分の「後に」投与されたとみなしてもよい。さらに他の実施形態では、追加の治療活性成分を、本発明の抗NPR1抗体の投与と同時に対象に投与してもよい。本発明の目的のための「同時」投与には、例えば、抗NPR1抗体および追加の治療活性成分を対象に単一の剤形で、または互いに約30分もしくはそれ未満の内に対象に投与される別々の剤形で投与することが含まれる。別々の剤形で投与する場合、各剤形を同じ経路で投与してもよいし(例えば、抗NPR1抗体および追加の治療活性成分の両方を静脈内に投与してもよい、など)、代わりに、各剤形を異なる経路で投与してもよい(例えば、抗NPR1抗体を静脈内に投与してもよく、追加の治療活性成分を経口投与してもよい、など)。いずれにしても、本開示の目的では、成分を単一の剤形で投与すること、同じ経路で別々の剤形で投与すること、または異なる経路で別々の剤形で投与することは、すべて「同時投与」とみなされる。本開示の目的では、追加の治療活性成分の「投与前」、「投与と同時」、または「投与後」(これらの用語は本明細書に定義されている)の抗NPR1抗体の投与は、追加の治療活性成分「と組み合わせた」抗NPR1抗体の投与とみなす。
【0154】
本発明は、本発明の抗NPR1抗体が、本明細書の他の箇所に記載されているような1つまたはそれ以上の追加の治療活性成分と共配合されている医薬組成物を含む。
【0155】
抗体の診断的使用
本発明の抗体は、例えば、診断目的で、サンプル中のNPR1を検出および/または測定するために使用してもよい。いくつかの実施形態では、NPR1に関連する疾患または障害を検出するためのアッセイにおいて、本発明の1つまたはそれ以上の抗体を使用することを企図している。NPR1の例示的な診断アッセイは、例えば、患者から得たサンプルを本発明の抗NPR1抗体と接触させることを含み、その際、抗NPR1抗体は、検出可能な標識もしくはレポーター分子で標識されているか、または患者サンプルからNPR1を選択的に単離するための捕捉リガンドとして使用される。別法として、非標識の抗NPR1抗体を、それ自体で検出可能に標識された二次抗体と組み合わせて診断用途に使用することもできる。検出可能な標識またはレポーター分子は、H、14C、32P、35S、または125Iなどの放射性同位元素;フルオレセインイソチオシアネートまたはローダミンなどの蛍光もしくは化学発光部分;またはアルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、もしくはルシフェラーゼなどの酵素である。サンプル中のNPR1を検出または測定するために使用できる特定の例示的なアッセイには、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、および蛍光活性化セルソーティング(FACS)が含まれる。
【0156】
本発明によるNPR1診断アッセイに使用できるサンプルには、患者から得られるなんらかの組織または液体サンプルが含まれ、これらのサンプルは、正常なまたは病的な状態で検出可能な量のNPR1タンパク質またはそのフラグメントを含む。一般的には、健康な患者(例えば、NPR1に関連する疾患を患ってない患者)から得られた特定のサンプル中のNPR1タンパク質のレベルを測定して、NPR1のベースラインまたは標準レベルを最初に確立する。次に、このベースラインのNPR1レベルを、NPR1に関連する状態、またはそのような状態に関連する症状を有することが疑われる人から得られたサンプルで測定したNPR1レベルと比較することができる。
【0157】
NPR1タンパク質に特異的な抗体は、追加の標識もしくは部位を含まないか、またはN-末端もしくはC-末端の標識もしくは部位を含んでもよい。一実施形態では、標識または部位はビオチンである。結合アッセイでは、標識の位置(もしあれば)によって、ペプチドが結合している表面に対するペプチドの向きが決まることがある。例えば、表面がアビジンでコーティングされている場合、N-末端にビオチンを含むペプチドは、ペプチドのC-末端部分が表面の遠位になるように配向される。
【0158】
実施例
以下の実施例は、本発明の方法および組成物の製造および使用方法の完全な開示および説明を当業者に提供するために提示されたものであり、本発明者らがその発明とみなす範囲を限定することを意図したものではない。使用する数(例えば、量、温度など)に関して正確性を確保するようにしているが、いくらかの実験的な誤差および逸脱を考慮する必要がある。別段の指示がない限り、部は重量部、分子量は平均分子量、温度は摂氏度で、室温は約25℃、圧力は大気圧またはその近くである。
【0159】
実施例1:ナトリウム利尿ペプチド受容体1(NPR1)に対するヒト抗体の産生
NPR1タンパク質に対するヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン重鎖およびカッパ軽鎖可変領域をコードするDNAを含むVELOCIMMUNE(商標)マウスにおいて産生した。このマウスを、ハイドロダイナミックDNAデリバリーにより、ヒトNPR1およびマウスANP DNAで免疫し、マウスANPと複合体形成したヒトNPR1タンパク質の細胞外ドメインでブーストした。
【0160】
抗体免疫応答は、NPR1特異的免疫測定法によってモニターした。所望の免疫応答が得られたとき、脾臓細胞を採取し、マウスの骨髄腫細胞と融合させて、その生存能力を維持し、ハイブリドーマ細胞株を形成した。このハイブリドーマ細胞株をスクリーニングし、NPR1特異的な抗体を生成する細胞株を選択した。この細胞株を用いて、いくつかの抗NPR1キメラ抗体(すなわち、ヒト可変ドメインおよびマウス定常ドメインを有する抗体)を得た。
【0161】
また、抗NPR1抗体は、骨髄腫細胞と融合することなく、抗原陽性のマウスB細胞から直接単離され、このことは、米国特許7582298号に記載されており、その全体は参照により本明細書に組み込まれる。この方法を用いて、いくつかの完全ヒト抗NPR1抗体(すなわち、ヒト可変ドメインおよびヒト定常ドメインを有する抗体)を得た。
【0162】
上に開示したように産生された例示的な抗体は、mAb22033、mAb22035、mAb22805、mAb22809、mAb22810、mAb25479、mAb25491、mAb25497、mAb25498、mAb25502、mAb25508、およびmAb25545として指定した。
【0163】
本実施例の方法に従って産生された例示的な抗体の生物学的特性を、以下に示す実施例で詳細に説明する。
【0164】
実施例2:重鎖および軽鎖可変領域のアミノ酸およびヌクレオチド配列
表1は、本発明の選択された抗NPR1抗体の重鎖および軽鎖可変領域ならびにCDRのアミノ酸配列識別子を示す。
【0165】
【表1】
【0166】
対応する核酸配列の識別子を表2に示す。
【0167】
【表2】
【0168】
本明細書で言及する抗体は、典型的には完全にヒトの可変領域を有するが、ヒトまたはマウスの定常領域を有してもよい。当業者であれば理解できるように、特定のFcアイソタイプを有する抗体は、異なるFcアイソタイプを有する抗体に変換することができる(例えば、マウスIgG1 Fcを持つ抗体は、ヒトIgG4を持つ抗体に変換することができるなど)が、いずれにしても、表2に示した数字の識別子で示される可変ドメイン(CDRを含む)は同じままであり、抗原に対する結合特性は、Fcドメインの性質にかかわらず、同一または実質的に類似していることが予想される。特定の実施形態では、マウスIgG1 Fcを有する選択された抗体は、ヒトIgG4 Fcを有する抗体に変換される。一実施形態では、IgG4 Fcドメインは、米国特許第20100331527号に開示されているような2つまたはそれ以上のアミノ酸変化を含む。一実施形態では、ヒトIgG4 Fcは、二量体の安定化を促進するために、ヒンジ領域(S108P)におけるセリンからプロリンへの変異を含む。特に指示がない限り、以下の実施例で使用するすべての抗体は、ヒトIgG4アイソタイプを含む。
【0169】
以下の実施例で使用するコントロール構築物
本明細書に開示された実験は、比較のために、以下のコントロール構築物(抗NPR1抗体):「コンパレータ1(Comparator 1)」、米国特許第20120114659号による抗体「mAb5591」のVH/VL配列を有するヒトNPR1に対するモノクローナル抗体(Morphosys)を含む。
【0170】
実施例3:表面プラズモン共鳴によるNPR1への抗体の結合
実験手順
精製された抗NPR1モノクローナル抗体(mAb)に結合する異なるNPR1試薬の平衡解離定数(K)を、リアルタイム表面プラズモン共鳴ベースのBiacore 4000バイオセンサーを用いて測定した。すべての結合試験は、10mM HEPES、150mM NaCl、3mM EDTA、0.05%v/v Surfactant Tween-20、pH7.4(HBS-ET)のランニングバッファーを用いて、25℃および37℃で行った。 Biacore CM5センサーチップ表面を、まず、マウス抗ヒトFc特異的mAb(GE Healthcare,#BR100839)またはヤギ抗ヒトFcγ特異的ポリクローナル抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories,#BR-1008-39)のいずれかでアミンカップリングにより誘導体化し、抗NPR1 mAbを捕捉した。結合試験は、C末端myc-myc-ヘキサヒスチジンで発現させたヒトNPR1細胞外ドメイン(hNPR1-MMH)(配列番号:194)、C末端myc-myc-ヘキサヒスチジンで発現させたサルNPR1細胞外ドメイン(mfNPR1-MMH)(配列番号:195)、C末端myc-myc-ヘキサヒスチジン発現させたマウスNPR1細胞外ドメイン(mNPR1-MMH)(配列番号:196)、C末端マウスIgG2aで発現させたヒトNPR1細胞外ドメイン(hNPR1-mFc)(配列番号:197)、C末端マウスIgG2aで発現させたサルNPR1細胞外ドメイン(mfNPR1-mFc)(配列番号:198)、C末端マウスIgG2aで発現させたマウスNPR1細胞外ドメイン(mNPR1-mFc)(配列番号:199)、hNPR1-mFc+hANP、hNPR1-mFc+hBNP、mfNPR1-mFc+hANP、mfNPR1-mFc+hBNP、mNPR1-mFc+mANP、mNPR1-mFc+mBNPにおいて実施した。異なる濃度のhNPR1-MMH、mfNPR1-MMH(100nM~3.7nM、3倍連続希釈または100nM~6.25nM、4倍連続希釈);hNPR1-mFc、mfNPR1.mFc(100nM~1.56nM、4倍連続希釈、または100nM~3.7nM、3倍連続希釈);mNPR1.mmh(100nM)、10倍濃度のhANPまたはhBNPと複合体形成したhNPR1-mFcまたはmfNPR1-mFc(100nM、25nM、6.25nMまたは100nM~3.7nM、3倍連続希釈);HBS-ETランニングバッファーで調製された、10倍濃度のmANPもしくはmBNPと複合体形成した
mNPR1.mFc(100nM、25nM、100nM-3.7nM、3倍連続希釈)または10倍濃度のhANPと複合体形成したhNPR1-hFcもしくはhNPR1-hFc(100nM~6.25nM、4倍連続希釈)を、30μL/分の流速で4分間注入する一方、HBS-ETランニングバッファー中で、異なるNPR1試薬を結合したmAbの解離を10分間モニターした。各サイクルの終わりに、マウス抗ヒトFc特異的mAb表面の場合は20mMリン酸を10秒注入するか、ヤギ抗ヒトFcγ特異的ポリクローナル抗体の場合は10mMグリシン、HCl、pH1.5を40秒注入するか、または10mMグリシン pH1.5の1分注入を2回して、NPR1 mAb捕捉表面を再生した。結合速度(k)および解離速度(k)は,Scrubber 2.0c曲線適合ソフトウェアを用いて,リアルタイムの結合センサグラムを質量輸送制限のある1:1結合モデルに適合させることにより決定した。結合解離平衡定数(K)および解離半減期(t1/2)は、動態速度から以下のように算出した。
【0171】
【数1】
【0172】
結果
25℃および37℃で本発明の選択された抗NPR1抗体に結合する異なるNPR1タンパク質の結合動態パラメータを表3~26に示す。
【0173】
【表3】
【0174】
【表4】
【0175】
【表5】
【0176】
【表6】
【0177】
【表7】
【0178】
【表8】
【0179】
【表9】
【0180】
【表10】
【0181】
【表11】
【0182】
【表12】
【0183】
【表13】
【0184】
【表14】
【0185】
【表15】
【0186】
【表16】
【0187】
【表17】
【0188】
【表18】
【0189】
【表19】
【0190】
【表20】
【0191】
【表21】
【0192】
【表22】
【0193】
【表23】
【0194】
【表24】
【0195】
【表25】
【0196】
【表26】
【0197】
表3~6に示すように、選択された抗NPR1抗体は、単量体のヒトおよびサルNPR1に結合した。
【0198】
表9~20に示すように、抗体は、ANPまたはBNPの存在下および非存在下の両方で、ヒトおよびサルのNPR1二量体に結合した。
【0199】
mAb25502がANP/BNPの存在下でmNPR1に結合したことを除いて、抗体はマウスNPR1に結合しなかった(表21~26)。
【0200】
実施例4:選択された抗NPR1アゴニストモノクローナル抗体間の交差競合
実験手順
抗NPR1モノクローナル抗体のパネル内の結合競争は、Octet HTXバイオセンサープラットフォーム(Pall ForteBio Corp.)上のリアルタイム、ラベルフリーバイオ-レイヤーインターフェロメトリーアッセイを用いて決定した。実験全体は、10mM HEPES、150mM NaCl、3mM EDTA、0.05%v/v Surfactant Tween-20、1mg/mL、BSA、pH7.4(HBS-EBT)緩衝液を用いて、25℃で1000rpmの速度でプレートを振盪して行った。2つの抗体がそれぞれのエピトープに結合するために互いに競合するかどうかを評価するために、C-末端マウスIgG2aを発現させた100nMのリコンビナントヒトNPR1(hNPR1-mFc;配列番号:453)を、まず2μMのヒトANPと共に少なくとも2時間インキュベートした。最初に、抗マウスFc抗体をコーティングしたOctetバイオセンサーチップ(Fortebio Inc,#18-5090)
をhNPR1-mFc/hANP複合体を含むウェルに45秒間浸漬することにより、約0.3-0.5nmのリコンビナントhNPR1-mFc/hANP複合体を捕捉した。次に、抗原を捕捉したバイオセンサーチップを、mAb-1の50μg/mL溶液を含むウェルに5分間浸漬することにより、第1の抗NPR1モノクローナル抗体(mAb-1と称する)で飽和させた。次に、バイオセンサーチップを、第2の抗NPR1モノクローナル抗体(mAb-2と呼ぶ)の50μg/mLの溶液を含むウェルに3分間浸漬した。バイオセンサーチップを、実験の各ステップの間にHBS-EBT緩衝液で洗浄した。実験の全過程でリアルタイムの結合応答をモニターし,各ステップの終了時の結合応答を記録した。mAb-1とプレ複合体形成した(pre-complexed)hNPR1-mFc/hANPに結合するmAb-2の応答を比較し、異なる抗NPR1モノクローナル抗体の競合/非競合挙動を決定した。
【0201】
結果
【表27-1】
【表27-2】
【0202】
表27は、選択された抗NPR1抗体間の交差競合を示す。
【0203】
実施例5:NPR1を発現する細胞への抗体の結合
実験手順
リガンドの1つ、ヒトANP(hANP)を用いて、または用いることなく、ヒトNPR1(hNPR1)を発現する細胞に結合する抗ヒト(h)NPR1モノクローナル抗体の能力を、電気化学発光(ECL)に基づく検出を用いて決定した。
【0204】
簡潔には、ヒトNPR1(アミノ酸M1-G1061、UniProtKB-P16066)をコードするネオマイシン耐性pLVX.hNPR1.myc.DDK発現プラスミドでヒト胚性腎臓(HEK)293細胞をトランスフェクトすることにより、HEK293/hNPR1.myc.DKK発現細胞を設計した。非トランスフェクトHEK293細胞は、市販のa-hNRP1抗体を用いた蛍光活性化セルソーティング(FACS)によりNPR1の発現が検出されず、非特異的結合コントロールとして含めた。
【0205】
実験は、以下の手順に従って実施した。上述の株の細胞を、Ca2+/Mg2+を含まない1xPBS緩衝液で1回洗浄し、酵素を含まない細胞溶解液(Enzyme Free Cell Dissociation Solution)を用いて37℃で10分間インキュベートし、フラスコから細胞を剥離した。すべての細胞をCa2+/Mg2+を含む1xPBSで1回洗浄し、Cellometer(商標)オートT4セルカウンター(Nexcelom Bioscience)でカウントした。約2.0x10個のHEK293/hNPR1.myc.DDKまたはHEK293細胞を96ウェル炭素電極プレート(MULTI- ARRAY high bind plate, Meso
Scale Discovery (MSD、メリーランド州、ロックビル))に別々に播種し、37℃で1時間(h)インキュベートした。非特異的結合部位は,Ca2+/Mg2+を含む1xPBS中の2%BSA(w/v)により、室温(RT)で1時間ブロックした。HEK293/hNPR1.myc.DDK細胞は、10nMヒトANP(Tocris、ミネソタ州、ミネアポリス)を含む、または含まないサンプル希釈緩衝液中、室温で0.5時間インキュベートし、HEK293細胞はサンプル希釈緩衝液のみで同じ条件でインキュベートした。洗浄せずに、1.7pMから100nMの範囲の抗NPR1、COMP1、もしくはアイソタイプコントロール抗体の連続希釈液、または抗体を含まない緩衝液を、プレートに結合した細胞に室温で1時間加えた。その後、プレートを洗浄し、細胞洗浄ヘッドを備えたAquaMax2000プレートウォッシャー(MDS Analytical Technologies、カリホルニア州、サニーベール)を用いて、結合していない抗体および/またはhANPを除去した。プレートに結合した抗体を、重鎖および軽鎖に特異的なSULFO-TAG(商標)コンジュゲートヤギポリクローナル抗ヒトIgG抗体(Jackson Immunoresearch、ペンシルバニア州、ウエストグローブ)を用いて、室温で1時間検出した。
【0206】
洗浄後、プレートを製造者の推奨手順に従ってRead Buffer(MSD、メリーランド州、ロックビル)で現像し、発光シグナルをSECTOR Imager 600(MSD、メリーランド州、ロックビル)で記録した。相対光単位(RLU)で測定した発光強度を記録して、各抗体の濃度範囲での結合強度を示した。10nM hANPを用いて、または用いることなくNPR1遺伝子改変細胞に結合する3.7nM抗体で検出したシグナルを、hANPなしで親細胞に結合する同じ濃度の抗体と比較した比率を、NPR1結合の特異性の指標として報告した。結合比が3またはそれ以上の抗体を特異的結合剤とし、結合比が3未満の抗体を非結合剤とした。
【0207】
さらに、直接結合シグナル(RLU)を抗体濃度の関数として分析し、R統計パッケージ(オープンソース)を用いてシグモイド形(4パラメータロジスティック)用量応答モデルでデータを適合させた。EC50値は、最大結合シグナルの50%が検出される抗体濃度として定義され、10nM hANPを用いてまたは用いることなくNPR1遺伝子改変細胞に対する結合力を示すものとして決定された。EC50値は特異的結合剤についてのみ報告し、表28において比率が3より下の抗体には(-)を付けた。
【0208】
結果
表28は、ヒトNPR1またはNPR1-ANP複合体を発現するように設計された細胞に対する選択された抗NPR1抗体の結合を示す。
【0209】
【表28】
【0210】
表28の結果が示すように、すべての抗NPR1抗体は、10nMのhANPの存在下で、比率≧2でhNPR1改変細胞に特異的に結合した。10nM hANP存在下でのHEK293/hNPR1.myc.DDK細胞におけるこれらの抗体の効力は、EC50値が0.15nMから3.7nMの範囲であった。5つの抗体とコンパレータ1は、10nMのhANPの存在下でのみNPR1改変細胞に特異的に結合し、ペプチド依存性NPR1結合剤に分類された。他の7つの抗体は、10nMのhANPを用いておよび用いることなしにhNPR1改変細胞に結合し、これらの抗体はペプチド非依存性NPR1結合剤として分類された。hANPを添加していないHEK293/hNPR1.myc.DDK細胞におけるこれらの抗体の効力は、EC50値が0.49nMから4.6nMの範囲であった。
【0211】
実施例6:アゴニスト抗NPR1モノクローナル抗体によるNPR1の活性化
実験手順
ヒトナトリウム利尿ペプチド受容体1(hNPR1)の転写活性化を評価するために、HEK293にサイクリックヌクレオチドゲートチャネルアルファ2(CNGA2)およびhNPR1を安定的に発現させることによって安定した細胞株を作成した。CNGA2は、cGMPによって活性化されるカルシウムチャネルであるため、cGMP発生のセンサーとして使用することができる(Wunderら、2005、PMID:157667
16)。NPR1がリガンドによって活性化され、cGMPが生成されると(Zoisら、2014、PMID:24820868)、CNGA2が活性化され、蛍光Ca++インジケーターを用いてカルシウム流入量を測定することができる。hNPR1、HEK293/hNPR1.MycDDK/CNGA2.Myc HS、または略称HEK293/CNGA2/hNPR1を高発現する細胞株を選別し、10%FBS、NEAA、pen/strep/glut、100μg/mLハイグロマイシン、500μg/mL G418 硫酸塩を含むDMEM中で維持した。
【0212】
ANPの非存在下でのヒトNPR1シグナル伝達における抗hNPR1抗体の効果を測定するためにバイオアッセイを行った。バイオアッセイのために、HEK293/CNGA2/hNPR1細胞を、10%FBS、NEAA、pen/strep/glutを含むDMEM中で30,000細胞/ウェルでブラッククリアボトムPDLプレートに播種し、37℃および5%COで一晩インキュベートした。翌朝、培地を除去し、プロベネシド入りFLUO4-NWアッセイバッファ(Thermo Scientific)80μlを用いて37℃で30分間細胞に負荷をかけた。精製したhNPR1抗体またはアイソタイプコントロール抗体を1:3で約0.4nM~1μMに連続希釈し(8ポイント)、またはANPを1:3で約0.3pM~2nMに連続希釈し(10ポイント)、FLIPR TETRA(登録商標)(Molecular Devices)を用いてアッセイプレートに移した。ベースラインと反応画像を撮影した。用量反応曲線は、最大-最小または曲線下面積(ここに示す)に基づいて決定し、その結果をPrism(商標)6ソフトウェア(GraphPad)の非線形回帰(4パラメータロジスティック)を用いて分析し、EC50値を得た。抗体の活性化%は、ANPによって達成されたRFUの最大範囲を超える、抗体によって達成されたRFUの最大範囲を計算した。
【0213】
結果
表29は、抗NPR1抗体によるヒトNPR1の活性化を示す。
【0214】
【表29】
【0215】
本発明の選択された抗NPR1抗体によるhNPR1の活性化は、2つの実験(実験IおよびII)においてHEK293/CNGA2/hNPR1のカルシウムフラックス活性を測定することによって試験した(表29)。表29(実験I)に示すように、11個の精製NPR1抗体はCa2+フラックスの活性化を示し、最大活性化は55~130%の範囲であり、EC50は83.7~383.9nMの範囲であった。19個の抗体は、最大活性化が31%未満と弱い活性化を示した(データは示さず)。実験IIでは、9個の抗NPR1抗体が、41.6~>200nMのEC50で57~129%の最大活性化を示した(表29)。ANPはEC50が60.5~98.8pMであった。コントロールhIgG4アイソタイプ抗体では活性化は見られなかった。
【0216】
実施例7:アゴニスト抗NPR1モノクローナル抗体の単回投与による正常血圧のNPR1hu/huマウスの全身血圧における効果
実験手順
本研究の目的は、遠隔測定された正常血圧のNPR1hu/huマウスにおいて、選択したNPR1アゴニスト抗体がベースラインの全身血圧に及ぼす効果を評価することであった。
【0217】
10~20週齢の雄NPR1hu/hu(n=50)マウスにPA-C10遠隔計測器(DSI、ミネアポリス州、セントポール)を移植し、7日間回復させた後、群(群1~1
2)に割り当てた(表30)。
【0218】
【表30】
【0219】
動物は、標準的な条件(温度64°F~84°F(18℃~29℃)、相対湿度30%~70%)で個別に飼育し、12時間の明/12時間の暗サイクルを維持した。餌(Research Diets Standard pellet chow)および水は自由に与えた。
【0220】
試験タンパク質またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を、0日目に適切な動物に単回皮下注射で投与した。各動物の用量体積は、直近の体重測定に基づいて決定した。
【0221】
試験期間中、1分毎に収縮期血圧、拡張期血圧、平均動脈圧、心拍数を10秒間収集した。有効性の急性評価は、試験3日目から試験7日目までに集計したデータで行った。NPR1アゴニスト抗体の慢性的な効果は、毎日24時間データを収集し、28日にわたる平均で評価した。データはすべて平均値±標準誤差で示した。
【0222】
結果
NPR1アゴニスト抗体の最初のインビボスクリーニングにおいて、投与後3日目から7日目のPBS投与対照動物と比較すると、9つの抗体(mAb22033、mAb25479、mAb25497、mAb22805、mAb25545、mAb22809、mAb25491、mAb25502およびmAb22810)では、全身血圧が有意に低下し、1つの抗体(mAb22035)では効果がなかったことが実証された(図1)。投与後3日目から7日目までの収縮期血圧のベースラインからの変化の平均値で評価した血圧低下の大きさは、-3.2±0.2(mAb25497N)から-11.5±0.8(mAb22810)mmHgの範囲であった。
【0223】
NPR1アゴニスト抗体の慢性的な効果を28日にわたって評価した(表31)。
【0224】
【表31】
【0225】
正常血圧のNPR1hu/huマウスにおいて、0日目に単回皮下注射を行ったところ、1つの抗体(mAb22035)では血圧が約4~7mmHg有意に上昇し、残りの抗体では全身血圧が2~11mmHg低下した。全身血圧の上昇および低下に対する心拍数の反応は変わりやすく、いくつかの群では上昇し、他では低下した。
【0226】
実施例8:正常血圧のNPR1hu/huマウスの全身血圧におけるアゴニスト抗NPR1モノクローナル抗体の用量効果
実験手順
本研究の目的は、遠隔測定された正常血圧NPR1hu/huマウスにおいて、NPR1アゴニスト抗体mAb22033の全身血圧における用量反応を評価することであった。約20週齢の雄NPR1hu/hu(n=30)マウスにPA-C10遠隔計測器(DSI、ミネソタ州、セントポール)を移植し、7日間回復させてから、群(群1~5)に割り当てた(表32)。
【0227】
【表32】
【0228】
動物は、標準的な条件(温度64°F~84°F(18℃~29℃)、相対湿度30%~70%)で個別に飼育し、12時間の明/12時間の暗サイクルを維持した。餌(Research Diets Standard pellet chow)および水は自由に与えた。
【0229】
試験タンパク質は、0日目に1回、皮下注射で適切な動物に投与した。各動物の用量体積は、直近の体重測定値に基づいた。尿および血清バイオマーカー評価のために、28日目に尿を採取し、試験14日目および試験終了時に血液サンプルを採取した。心エコー図は、利尿前の28日目に実施した。
【0230】
試験期間中、収縮期血圧、拡張期血圧、平均動脈圧、および心拍数を毎分10秒間収集した。図示した遠隔測定データは、試験の生存部分の期間中、生存信号を有する動物から得た。
【0231】
結果
血圧(図2、3および5)は、正常血圧NPR1hu/huマウスにmAb22033を単回投与した後、最大4週間10~15mmHg低下した。全ての用量におけるピーク圧低下は同様であり、血圧効果の持続期間は1mg/kgで約10日、50mg/kgでは28日より長かった。
【0232】
【表33】
【0233】
尿中のcGMP濃度(表34)は、50mg/kg群で28日目に有意に増加し、他のすべての用量ではコントロールと同様のレベルであった。
【0234】
【表34】
【0235】
相対的な心臓重量(表35)は、50mg/kg群でより低く、1、5および25mg/kg群では減少傾向にあった。体重(表35)、絶対心臓重量(表35)、標準血清(ALT、AMYLAS、AST、CHOL、CKNAC、CREA、DHDL、IP、TRIG、TP、UA、UN、MG、NEFA)または尿(ALB、GLUH、CREA、PRO、CA、IP、MG、UN、AMYLAS、UA、NA、K、CL)の化学的性質に有意な効果は認められなかった。
【0236】
【表35】
【0237】
mAb22033の投与後、心機能(図6および7A)が向上し、25mg/kg用量群で収縮末期容積が統計的に有意に減少し(図7A)、25および50mg/kg用量群で最も明らかなように、短縮率(図7C)および駆出率(図7B)の両方において増加傾向にあった。
【0238】
重要な所見として、NPR1アゴニストmAb、mAb22033は、収縮期血圧および平均動脈血圧を有意に低下させ、最大28日持続した。心拍数の代償的増加は、最初にすべての群で観察され、アイソタイプコントロールmAbと比較して、50mg/kg mAb22033用量群では持続的で軽微な増加があった。
【0239】
実施例9:高血圧NPR1hu/huマウスの全身血圧におけるアゴニスト抗NPR1モノクローナル抗体の単回投与の効果
実験手順
本研究の目的は、遠隔測定されたアンジオテンシンII-(Ang II)誘発性高血圧NPR1hu/huマウスの全身血圧におけるNPR1アゴニスト抗体(mAb22033またはmAb22810)の単回投与の効果を評価することであった。約13週齢の雄NPR1hu/hu(n=36)マウスにPA-C10遠隔計測器(DSI、ミネソタ州、セントポール)を移植し、7日間回復させてから、群(群1~6)に割り当てた(表36)。
【0240】
【表36】
【0241】
次に、動物に浸透圧ミニポンプ(Alzet Micro-Osmotic Pump;Model 1004;Lot 10335-14)を移植した。ミニポンプにはアンジオテンシンII酢酸塩(Bachem;ロット#1066804)を充填し、1.5mg/kg/日のアンジオテンシンIIを送達するために、平均ポンピング速度を0.11μL/時に設定した。ミニポンプは投与開始の3日前に肩甲骨部の皮下に移植した。動物は標準的な条件(温度64°F~84°F(18℃~29℃)、相対湿度30%~70%)で個別に飼育し、12時間の明/12時間の暗サイクルを維持した。餌(Research Diets Standard pellet chow)および水は自由に与えた。
【0242】
試験タンパク質は、3日目に1回、適切な動物に皮下注射で皮下投与した。各動物の用量体積は、直近の体重測定に基づいた。
【0243】
試験期間中、収縮期血圧、拡張期血圧、平均動脈圧、および心拍数を毎分10秒間収集した。尿は14日目および20日目に採取した。
【0244】
結果
NPR1アゴニストmAb(mAb22033またはmAb22810)の単回投与は、アンジオテンシン-II誘発性高血圧NPR1hu/huマウスに投与したときに、全身血圧を有意に低下させた(図8、9および11)。23日平均血圧(表37)は、IgG4アイソタイプコントロールと比較して、mAb22033またはmAb22810のいずれかを投与した動物において、すべて有意に低かった。
【0245】
【表37】
【0246】
【表38】
【0247】
【表39】
【0248】
心拍数効果(図10)は、急性的に有意に増加し、慢性的にはより緩やかな増加を示した。23日平均心拍数(表37)は、アイソタイプコントロール動物と比較して、すべての試験物質投与群で有意に高かった。尿中cGMPレベルは、mAb22033またはmAb22810のいずれかを投与したほとんどの群でより高い傾向があり、25mg/kg mAb22033の動物では、14日目および20日目にIgGアイソタイプコントロール動物と比較して尿中cGMPレベルが有意に増加した(表38)。体重、絶対的または相対的な臓器重量への効果は見られなかった(表39)。
【0249】
実施例10:高血圧症のNPR1hu/huマウスの全身血圧におけるアゴニスト抗NPR1モノクローナル抗体の反復投与の効果
実験手順
本研究の目的は、遠隔測定されたアンジオテンシンII-(Ang II)誘発性高血圧NPR1hu/huマウスの全身血圧におけるNPR1アゴニスト抗体mAb22033の反復投与の効果を評価することであった。約26週齢の雄NPR1hu/hu(n=30)マウスにPA-C10遠隔計測器(DSI、ミネソタ州、セントポール)を移植し、7日間回復させた後、群(群1~5)に割り付けた(表40)。
【0250】
【表40】
【0251】
その後、動物に浸透圧ミニポンプ(Alzet Micro-Osmotic Pump; Model 1004; Lot 10335-14)を移植した。ミニポンプには、アンジオテンシンII酢酸塩(Bachem;ロット#1066804)を充填し、1.5mg/kg/日のアンジオテンシンIIを送達するために、平均ポンピング速度を0.11μL/時に設定した。ミニポンプは投与開始の7日前に肩甲骨部の皮下に移植した。動物は標準的な条件(温度64°F~84°F(18°C~29°C)、相対湿度30%~70%)で個別に飼育し、12時間の明/12時間の暗サイクルを維持した。餌(Research Diets Standard pellet chow)および水は自由に与えた。
【0252】
収縮期血圧に基づいて動物を群に層別化した。試験タンパク質を、皮下注射により、0日目に1回(群5)、または6日目に始めて3週間、週2回(群1~4)、適切な動物に投与した。各動物の用量体積は、直近の体重測定に基づいた。
【0253】
試験期間中、収縮期血圧、拡張期血圧、平均動脈圧、および心拍数を毎分10秒間計測した。
【0254】
結果
NPR1アゴニストmAb22033の単回または反復投与は、アンジオテンシン-I
I誘導高血圧NPR1hu/huマウスにおいて、全身血圧(図12、13および15)を正常血圧に近いレベルまで低下させた。mAb22033の1、5、または25mg/kgの反復投与は、用量依存的に収縮期血圧を低下させ、週2回3週間投与後、各群のベースラインに対する最大低下は、それぞれ11、19、および39mmHgであった。50mg/kgの単回投与では、7日目までに収縮期血圧は31mmHg低下し、その後、徐々により高血圧レベルに戻った。21日平均血圧(表41)は、IgG4アイソタイプコントロールと比較して、mAb22033の単回投与または反復投与のいずれかを受けた動物において、すべて有意により低かった。
【0255】
【表41】
【0256】
【表42】
【0257】
【表43】
【0258】
mAb22033の急性効果を分析し、初回投与の24時間以内に10~20mmHgの血圧低下があった。心拍数効果(図14)は変動し、21日の投与期間中により高い値およびより低い値が観察された。21日平均心拍数(表41)は、5および25mg/kgの反復投与群で有意により低く、50mg/kgの単回投与群でより高い傾向があった。尿中cGMPレベルは、25mg/kg反復投与群で有意に上昇し、他の全ての群ではIgG4アイソタイプコントロールmAb投与動物と比較して統計学的に有意ではない上昇傾向を示した(表43)。体重、絶対的もしくは相対的な臓器重量、標準的な血清もしくは尿の化学的性質、または心機能における効果は観察されなかった(表42および図16~17)。
【0259】
実施例11:食事誘発性肥満(DIO)マウスの体重、代謝率およびグルコース恒常性における抗NPR1アゴニスト抗体の効果
実験1
この実験では、食事誘発性肥満(DIO)マウスの体重、代謝率およびグルコース恒常性におけるmAb22810 NPR1アゴニストmAbの効果を試験した。
【0260】
30匹の雄NPR1hu/huマウスに60%高脂肪食を10週間与え、その後3群(群あたりn=10):アイソタイプコントロール(ヒトIgG4)抗体、NPR1アゴニスト抗体mAb22810、またはhFc.FGF21にランダム化した。FGF21は、肥満マウスモデルにおいて耐糖能の改善、エネルギー消費量の増加、および体重の減少が証明されている分子である(Veniant MM,Endocrinology,2
012,PMID:22798348)。本試験では、それをエンドポイントのポジティブコントロールとして使用した。処置は、生理食塩水ビヒクル中、毎週(コントロール抗体およびmAb22810に関して)または週2回(hFc.FGF21に関して)のいずれかで皮下注射(S.C.)により投与した。表44は、試験における群、動物の数および用量を示す。
【0261】
【表44】
【0262】
個々の体重を、投与前およびその後は週2回記録した。試験の第2週目の間に、マウスを代謝ケージに入れてエネルギー消費量を評価した。試験の第3週目の間に経口グルコース耐性を評価し、6週間の処置後にEchoMRIにより体組成を測定した。
【0263】
図18Aは、mAb22810 NPR1アゴニストmAb、hFc.FGF21またはアイソタイプコントロールmAbの投与後の体重における変化を示す。図18Bおよび図18Cは、EchoMRIによって測定された、処置6週間後の総脂肪量および総除脂肪量をそれぞれ示している。重要な所見は、hFc.FGF21分子が処置期間中に体重および脂肪蓄積の有意な減少をもたらしたのに対し、mAb22810 NPR1アゴニスト抗体はそうではなかったということである。
【0264】
図19A-Cは、mAb22810 NPR1アゴニストmAb、hFc.FGF21またはアイソタイプコントロールmAbのいずれかで1週間処置した後の、VO(A)、VCO(B)またはエネルギー消費量(C)の変化を、各昼夜サイクルの平均値として分割して示す。重要な所見は、hFc.FGF21分子が処置期間中にVO、VCOおよびエネルギー消費量の有意な増加をもたらしたのに対し、mAb22810 NPR1アゴニスト抗体はそうではなかったということである。
【0265】
図20Aは、mAb22810 NPR1アゴニストmAb、hFc.FGF21またはアイソタイプコントロールmAbのいずれかによる2週間の処置後の、経口ブドウ糖負荷試験(2g/kgグルコース)によって測定される耐糖能における変化を示す。図20Bは、Aの試験開始時に記録した一晩絶食後の血糖値を示す。重要な所見は、mAb22810とhFc.FGF21の両分子が、2週間後に耐糖能の有意な改善をもたらしたことである。さらに、mAb22810による耐糖能の改善は、体重またはエネルギー消費量の変化とは無関係であった(図18および19に示すとおり)。
【0266】
実験2
この実験は、食事誘発性肥満(DIO)マウスの体重、代謝率およびグルコース恒常性におけるmAb22033 NPR1アゴニストmAbの効果を説明する。
【0267】
30匹の雄NPR1hu/huマウスに60%高脂肪食を10週間与えた後、3群:アイソタイプコントロール(ヒトIgG4)抗体、NPR1アゴニスト抗体mAb22033、またはポジティブコントロールとしてhFc.FGF21にランダム化した(群あたりn=10)。処置は、生理食塩水ビヒクル中で、週1回(コントロール抗体およびmAb22033の場合)または週2回(hFc.FGF21の場合)のいずれかで皮下注射(S.C.)により投与した。表45は、試験における群、動物の数、および用量を示す。
【0268】
【表45】
【0269】
個々の体重を、投与前およびその後に週2回記録した。試験の第2週目の間に、マウスを代謝ケージに入れてエネルギー消費量を評価した。試験の第4週目の間に経口ブドウ糖耐性を評価し、6週間の処置後にEchoMRIにより体組成を測定した。
【0270】
図21Aは、mAb22033 NPR1アゴニストmAb、hFc.FGF21またはアイソタイプコントロールmAbの投与後の体重における変化を示す。図21Bおよび図21Cは、EchoMRIで測定した、6週間の処置後の総脂肪量および総除脂肪量をそれぞれ示す。重要な所見は、hFc.FGF21分子が処置期間にわたって体重および脂肪蓄積における有意な減少をもたらしたのに対し、mAb22033 NPR1アゴニスト抗体はそうではなかったということである。
【0271】
図22A-Cは、mAb22033 NPR1アゴニストmAb、hFc.FGF21またはアイソタイプコントロールmAbのいずれかで1週間処置した後のVO(A)、VCO(B)またはエネルギー消費量(C)の変化を、各昼夜サイクルの平均値として分割して示す。重要な所見は、hFc.FGF21分子が処置期間中にVO、VCOおよびエネルギー消費量における有意な増加をもたらしたのに対し、mAb22033 NPR1アゴニスト抗体はそうではなかったということである。
【0272】
図23Aは、mAb22033 NPR1アゴニストmAb、hFc.FGF21またはアイソタイプコントロールmAbのいずれかによる4週間の処置後の、経口ブドウ糖負荷試験(2g/kgグルコース)によって測定される耐糖能における変化を示す。図23Bは、Aの試験開始時に記録した一晩絶食した後の血糖値を示す。重要な所見は、mAb22033およびhFc.FGF21の両分子が、2週間後に耐糖能における有意な改善をもたらしたことである。さらに、mAb22033による耐糖能における改善は、体重またはエネルギー消費量の変化とは無関係であった(図21および図22に示すとおり)。
【0273】
実施例12:HDXエピトープマッピング
抗NPR1抗体によって認識されるヒトNPR1のエピトープを決定するために、mAb22033およびmAb22810について、それぞれ水素-重水素交換(HDX)研究を行った。事前の社内実験では、NPR1のmAb22810への結合には、ANPペプチドの存在が必要であることが示されている。したがって、NPR1/mAb22033複合体を用いる従来のHDX実験に加えて、NPR1/ANP/mAb22033複合体およびNPR1/ANP/mAb22810複合体についてもHDX実験を行った。
【0274】
この研究のために、抗NPR1抗体(mAb22033およびmAb22810)を、製造者のプロトコルに従って、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)アガロースビーズ(GE Lifescience,cat #17-0906-01)に共有結合させた。CHO細胞で発現された組換えヒトNPR1タンパク質は、C末端myc-myc-ヘキサヒスチジンタグ(配列番号:194)を有するヒトNPR1タンパク質のエクトドメイン(Uniprot accession #P16066)を含む。ANPペプチ
ドはTOCRISから購入した(cat #1906)。
【0275】
重水素化緩衝液は、137mM NaCl、2.7mM KCl、8mM NaHPO、および2mM KHPOを含むDO中で調製した(pD=7.4)。抗原-オン(antigen-on)」または「複合体-オン(complex-on)」のいずれかの実験では、30μL抗体ビーズスラリー(15μLビーズに相当)をhNPR1.mmhまたはhNPR1.mmh/ANP複合体と混合した。混合物を室温で穏やかに回転させながらインキュベートした。抗体ビーズからhNPR1.mmhを溶出にさせながら、0.075%氷冷TFAを用いて重水素化をクエンチした。クエンチしたサンプルを直ちにWaters HDX Managerに注入し、オンラインでペプシン消化を行った(Waters Enzymate BEHペプシンカラム、2.1x30mm)。消化されたペプチドを、0℃でACQUITY UPLC BEH C18 1.7μm、2.1x5mm VanGuardプレカラムで捕捉し,1%-30% B(移動相A:水中の0.1%ギ酸、移動相B:アセトニトリル中の0.1%ギ酸)の8分間の勾配分離を用いてACQUITY UPLC BEH C18 1.7μm、2.1x50mmカラムに溶出した。質量分析計は、コーン電圧37V、スキャン時間0.5秒、質量/電荷範囲50-1700Thに設定した。
【0276】
mAb22033によって認識されるhNPR.mmh結合エピトープをマッピングするために、2セットのH/D交換実験を行った。最初の実験では、「抗原-オン」フォーマット(抗原のみのHDXの後、抗体ビーズに結合)を使用した。「抗原-オン」実験では,hNPR1.mmhをDOで調製したリン酸緩衝液(PBS-D、pD=7.4)中、室温で3分および8分(2つの別々の予備実験で)重水素化した。続いて、重水素化したhNPR1.mmhをPBS-Dで洗浄したmAb22033ビーズに加えて、室温で2分間インキュベートした結果、総重水素化時間は、それぞれ5分と10分となった。その後、氷冷した0.075%トリフルオロ酢酸(TFA)水溶液を用いて、結合したhNPR.mmhをビーズから溶出した。溶出したhNPR.mmhを、オンラインでのペプシン消化、続いて消化性ペプチド質量測定のため、直ちにWaters HDX管理システムに注入した。
【0277】
第2の実験は、「複合体-オン」フォーマット(複合体化した抗原/抗体ビーズのHDX)と呼ばれる。この実験では、まずhNPR.mmhを通常のPBS(pH=7.4)中でmAb22033ビーズに2分間結合させた。その後、複合体をPBS-D(pD=7.4)で5分または10分(別々の予備実験で)インキュベートして重水素化した。次のステップ(溶出、注入、ペプシン消化、およびMS分析)は、前の「抗原-オン」手順に記載されているように実施した。
【0278】
ペプチドの同定および重水素取り込み測定のために、重水素化されていないhNPR1.mmhからのLC-MSデータを最初に処理し、Waters ProteinLynx Global Server(PLGS)ソフトウェアを介してhNPR1.mmhを含むデータベースに対して検索した。同定されたペプチドをDynamXソフトウェアにインポートし、2つの基準:1)アミノ酸あたりの最小産物:0.3、および2)複製ファイル閾値:2でフィルタリングした。次に、DynamXソフトウェアにより、2つの時点での各ペプチドの保持時間および質量精度(<30ppm)に基づいて、「抗原-オン」、「複合体-オン」実験から各ペプチドの重水素取り込み量を決定することができた。同定されたすべてのペプチドは、偽陽性のヒットを最小限にするために、手作業で検査およびスクリーニングした。
【0279】
検出したすべてのペプチドのセントロイド値(centroid values)または平均質量対電荷比(m/z)を計算し、2つの時点での「抗原-オン」実験と「複合体
-オン」実験の間で比較した。「複合体-オン」の重水素化後と比較して「抗原-オン」の重水素化後に増加した質量を示したペプチドは、抗体結合の結果として重水素交換から保護されたアミノ酸を含み、したがって結合エピトープ領域を示している。
【0280】
NPR1/mAb22033 HDX実験では、hNPR1.mmhから合計101個のペプチドが同定され、74%の配列カバー率(sequence coverage)を示した。これらのペプチドのうち、29~50および328~347のアミノ酸を含む10個のペプチドは、表46に示すように、「複合体オン」の重水素化と比較して、「抗原-オン」の重水素化の後に有意に質量が増加した。
【0281】
【表46】
【0282】
2つのペプチド、アミノ酸46~54および328~335は、「抗原-オン」および「複合体-オン」の手順の間で重水素の取り込みの差を示さなかったので、29~50および328~347のペプチドにおける重水素交換から保護される領域は、残基29~45および336~347に減少された。したがって、アミノ酸29~45および336~347を含む2つのセグメントが、hNPR1.mmhタンパク質に結合する抗体mAb22033のエピトープとして同定される。
【0283】
NPR1/ANP/mAb22033 HDX実験では、hNPR.mmhから合計95個のペプチドが同定され、68%の配列カバー率を示した。これらのペプチドのうち、29~50および331~347にまたがるアミノ酸を含む9つのペプチドは、表47に示すように、「複合体オン」の重水素交換と比較して、「抗原オン」の重水素交換後に有意に質量が増加した。
【0284】
【表47】
【0285】
別のペプチドであるアミノ酸46~54は、「抗原-オン」と「複合体-オン」の手順の間で重水素の取り込みの差を示さなかったので、29~50ペプチドの重水素交換から保護される領域は、残基29~45に減少された。したがって、アミノ酸29~45および331~347を含む2つのセグメントが、hNPR1.mmh/ANPタンパク質複合体に結合する抗体mAb22033のエピトープとして同定される。
【0286】
NPR1/ANP/mAb22810 HDX実験では、hNPR.mmhから合計93個のペプチドが同定され、70%の配列カバー率を示した。これらのペプチドのうち、29~50、70~81および331~347にまたがるアミノ酸をカバーする10個のペプチドは、表48に示すように、「複合体-オン」の重水素交換と比較して、「抗原-オン」の重水素交換後に有意に質量が増加した。
【0287】
【表48】
【0288】
3つのペプチド、アミノ酸46~54、336~347、337~347は、「抗原-オン」と「複合体-オン」の手順の間で重水素の取り込みの差を示さなかったので、29~50、および331~347のペプチドの重水素交換から保護される領域は、残基29~45および331~335に減少される。したがって、アミノ酸29~45、70~81および331~335を含む3つのセグメントが、hNPR1.mmh/ANPタンパク質複合体に結合する抗体mAb22810のエピトープとして同定される。
【0289】
実施例13:ヒト化NPR1マウスにおけるNPR1抗体の硝子体内注射による眼圧低下
本実施例は、ヒト化NPR1マウスの眼圧(IOP)における例示的なヒトNPR1抗体mAb22033の硝子体内注射(IVT)の効果を記載する。
【0290】
方法:ヒト化NPR1マウス(NPR1hu/hu)を、VelociGene technology(Regeneron)を用いて産生した。ヒト化NPR1または野生型(WT)マウスに、40μg mAb22033またはコントロールAbの単回硝子体内注射を行った。眼圧は注射後4日間、毎日測定した。2回目の実験では、用量反応を調べるために、40、12.6、もしくは4μgのmAb22033または40μgのコントロールAbを硝子体内に注射し、眼圧を毎日監視した。別の実験では、長期送達Abの効果を調べるために、NPR1抗体またはeGFPを発現するAAV2ベクターを注射し、眼圧を7週間にわたって追跡した。
【0291】
結果:NPR1hu/huマウスへの40μgのmAb22033の硝子体内注射では、コントロール抗体と比較して、1日目から3日目まで眼圧が有意に低下した。平均眼圧変化量は5mmHgであった。しかし、WTマウスでは眼圧低下効果がなかった。用量反応試験では、40または12.6μgのmAb22033の硝子体内注射で同様の眼圧低下効果が得られたが、40μgのmAb22033の効果は12.6μgよりも長く持続した。4μgのNPR1抗体の硝子体内注射では眼圧が低下しなかった。AAV2-GFPまたはAAV2-NPR1抗体の硝子体内注射後、すべての実験時点で眼圧効果は見られ
なかった。これは、NPR1抗体の発現が低いこと、すなわち全眼球ライセート中に10ngしか検出されなかったことに起因すると考えられる。
【0292】
結論:ヒト化NPR1マウスにヒトNPR1抗体(mAb22033)を硝子体内投与すると、眼圧が有意に低下したことから、緑内障疾患における眼圧低下のためのアゴニスト抗NPR1抗体の可能性が示された。
【0293】
実施例14:電子顕微鏡による抗体-NPR1複合体の構造解析
方法
多角度光散乱によるサイズ排除クロマトグラフィー(SEC-MALS)滴定
様々な抗体と異なるモル比で複合体化した、C末端myc-myc-6xHisタグを有するヒトNPR1細胞外ドメイン(hNPR1-mmh;配列番号:194)のいくつかの滴定シリーズを調製した。試験した抗体は、mAb22033、REGN5308(mAb22033のFabフラグメント)、mAb22810、およびREGN5314(mAb22810のFabフラグメント)であった。すべての滴定シリーズは、hNPR1-mmhに対して2倍モル過剰の心房性ナトリウム利尿因子(ANP、Tocris)を用いてまたは用いることなしに両方で行った。PBS中4℃で一晩インキュベートした後、複合体をSEC-MALSシステムに注入した。このシステムは、AKTAマイク
ロシステム(GE Healthcare Life Sciences)上のSuperdex 200 Increase 10/300 Glカラム、続いてminiDAWN TreosおよびOptilab T-rEX(Wyatt Technology Corporation)で構成されている。リン酸塩緩衝液は電子顕微鏡のネガティブ染色と適合しないため、SECカラムは50mM Tris pH7.5、150mM NaClのランニングバッファーで平衡化し、以下に調製した大規模複合体はすべてこの緩衝液中であった。サイズ排除クロマトグラフィーのデータはUnicorn(Version 5.20 General Electric Company)を用いて評価し、MALSデータはASTRA(Version 7.0.0.69 Wyatt
Technology)を用いて評価した。
【0294】
ネガティブ染色電子顕微鏡サンプル調製
ネガティブ染色電子顕微鏡で使用するために、hNPR1の複合体をより大スケールで調製した。以下のように5つのサンプル:サンプル1=hNPR1-mmh(配列番号:194)単独;サンプル2=hNPR1-Fc(配列番号:197)単独;サンプル3=hNPR1-mmh+ANP、モル比1:2;サンプル4=hNPR1-mmh+REGN5308;モル比1:1.5;サンプル5=hNPR1-mmh+ANP+REGN5308、モル比1:2:1.5を調製した。サンプル1、3、4、5は、SEC-MALS実験と同じ方法でサイズ排除クロマトグラフィーにより精製した。ピーク画分を集め、-80℃で凍結し、EM分析のためにNanoImaging Services, Inc.に送った。サンプル2は,PBSに溶解した2.62mg/mlのストック溶液から直接採取し、50mM Tris、pH7.5+150mM NaClに緩衝液交換した後、1.5mg/mlに希釈し、-80℃で凍結し、他のサンプルと一緒に送った。
【0295】
ネガティブ染色電子顕微鏡データの収集および処理
5つのタンパク質サンプルは、ギ酸ウラニル(NanoImaging Services)を用いて標準的な方法でネガティブ染色EMグリッドを調製した。グリッドは、C-フラットホーリーカーボングリッド上に置かれた連続カーボンの薄層を含んでいた。TEM像は、Tecnai T12電子顕微鏡(FEI/Thermo Fisher)を用いて120keVで動作させ、FEI Eagle 4k x 4k CCDカメラを用いて室温で収集した。画像は、さまざまな公称倍率、主に67,000倍および110,000倍で収集した。収集した画像をさらに社内で処理した。
【0296】
NanoImaging顕微鏡写真を眼により目視検査し、汚れのコントラストが悪い画像、全体の画像の約1/5を削除した。残りの画像を倍率によって分けた。110,000倍の画像は、画像あたりの粒子数が少ないため、さらなる分析にはあまり役に立たなかった。そのため、その後の処理工程はすべて67,000倍の画像を用いて行った。すべての画像はCTFFIND4を用いてCTF補正を行った。
【0297】
EM粒子ピッキングおよび2Dクラス平均化
5つのネガティブ染色サンプルすべての粒子分布は非常に良好で、均一な粒子サイズ、ごくわずかな凝集、および良好な粒子密度であった。サンプル4および5では、初期段階の手動ピッキングおよび2Dクラス平均化から得られたオートピッキングテンプレートでRelionを用いて粒子をピッキングした。サンプル4(hNPR1+REGN5308)では、合計75枚の顕微鏡写真から19184個の良好な粒子を選択した。サンプル5(hNPR1+ANP+REGN5308)では、合計88枚の顕微鏡写真から20318個の良好な粒子を最初に選択した。Relionを用いた初期の2Dクラス平均化は、両データセットにおいて実質的に不均一性を示し、相当な数のクラスがREGN5308 Fabのみ、またはNPR1のみを示した。
【0298】
サンプル5の2Dクラス平均化は、FabのみまたはNPR1のみに対応する粒子を排除することでさらに精密化された。残りの9219個の粒子を使用して新しい2Dクラス平均を計算し、これはNPR1+REGN5308複合体のより良好な分布図を示し、少数の複合体がNPR1二量体に結合した1つのFabのみを含む一方で、大多数の複合体が2つのFabを含むことが明らかになった。1つのFabの複合体を除去すると、粒子セットはさらに6728個の粒子に減少した。
【0299】
ネガティブ染色EMデータからの3D画像再構築
NPR1-ANP-REGN5308複合体の初期3Dモデルは、確率的勾配降下法の「3D初期モデル」手順を用いて、解像度を40Åに制限してRelionで構築した。次に、このモデルをさらに60Åまでローパスフィルターをかけて、予想段階の解像度を25Åに限定して、上記の6728個の粒子をRelionで3Dクラス分類する際の基準として使用した。その後、「ゴールドスタンダード」FSCで測定して最終的な解像度22Åで、最良の3DクラスをRelionで収束するまでさらに精密化した。なお、3Dクラス分類または精密化の際には、2回転対称(two-fold symmetry)は考慮しなかった。3D再構成の結果得られた密度マップでは、ANP結合NPR1の結晶構造(PDBコード1T34)と一致した、正方形の粒子の片側に結合した2つのFabを示した、。
【0300】
低温電子顕微鏡サンプルの調製とデータ収集
NPR1-ANP-REGN5308複合体のサンプルを、上述のネガティブ染色EMサンプルと同様の方法で、クライオ電子顕微鏡(cryoEM)用に調製した。最終複合体濃度は、50mM Tris、pH7.5、150mM NaCl中で0.8mg/mlであった。UltrAuFoilグリッド(Quantifoil Micro Tools GmbH)およびVitrobot(FEI/Thermo Fisher)を用いて、標準的な手法でCryoEMサンプルを調製した。データ収集は、300kVの電圧で動作するTitan Krios電子顕微鏡(FEI/Thermo Fisher)で、計数モードのK2直接電子検出器およびGIFエネルギーフィルタ(Gatan, Inc)を用いて行った。倍率130,000倍(1.04Å/ピクセル)、デフォーカス範囲-0.5~-1.5ミクロン、および総線量45.44e/Åで1409本の動画を収集した。データ収集はLeginonソフトウェアで制御した。
【0301】
CryoEMデータの処理および構造決定
すべてのcryoEM動画は、cisTEMパッケージを使用して、動き補正、線量加重(dose-weighted)、CTF補正した。その後、画像を手作業で検査して、厚い氷、CTFパラメータ不良(フィット分解能が6Åより悪い)、粒子なし、汚染があるものなどを除去した。このフィルタリング後に1172枚の画像が残り、次に、これをcisTEMの非テンプレート式粒子ピッキングに使用して、872915個の粒子位置を得た。2Dクラス分類で不良粒子を除去した後、最初に生成した出発3D基準体積によるcisTEMを用いた3D自動精密化では、686709個の粒子が含まれていた。3D精密化により、フーリエ・シェル相関曲線から推定される2.8Åの解像度で単一解に収束した。
【0302】
次に、この3Dマップを、上述のネガティブ染色EM 3Dマップに組み込まれたモデルから出発して、構造精密化に使用した。両方のNPR1分子のN末端とC末端のドメインを、EMマップ中に剛体として実空間精密化し、その後、モデルがEM密度と一致しないいくつかの場所では、手作業で再構築した。REGN5308のホモロジーモデルは、手作業でEM密度に配置した。CDR領域を注意深く観察することで、軽鎖に対する重鎖の向きを決定することができた。このモデルのCDR領域は、EM密度に合わせるために大規模な再構築が必要であった。最後に、Phenixを用いた実空間位置の精密化により最新の複合体の構造モデルを作成した。
【0303】
結果/考察
多角度光散乱を用いたサイズ排除クロマトグラフィー(SEC-MALS)滴定
hNPR1-mmhとmAb22033との相互作用において、hNPR1-mmh自体は、ANPの存在下および非存在下で、分子量約110kDaの二量体として振る舞い、ANPがNPR1に結合すると分子量がわずかに増加した。hNPR1-mmhそれ自体では、遊離単量体のピークは観察されなかった。ANP非存在下でmAb22033を用いた滴定は、複合体の2つの主要な種:1つのNPR1二量体に1つのIgGが結合した分子量を有する種、および2つのNPR1二量体に1つのIgGが結合した分子量を有する種を示した。しかし、ANPの存在下でNPR1にmAb22033を加えると、NPR1およびIgGの「ペーパードール(paper doll)」ポリマーを表す可能性のある、より高分子量の種が形成された。
【0304】
続いて、mAb22033のFabフラグメント、REGN5308を考慮してシステムを単純化した。hNPR1-mmhおよびREGN5308の複合体では、ANPのない同じ複合体と比べて、結合したANPにより非常に異なるSECプロファイルを示す。NPR1-REGN5308複合体は、約155kDaの分子量を有しており、NPR1二量体あたり結合した1つのFab結合と一致する。ANPの存在下では、NPR1-ANP-REGN5308複合体の分子量は約50kDa増加し、NPR1二量体あたり結合した2つのFabと一致する。本発明者らは、以前に記載されたANP結合によるNPR1の構造変化(Ogawa,Hら、2004)が2つ目のFabの結合を可能にしており、そして、完全なIgG mAb22033で観察されたペーパードールポリマーの成長には、2Fab+2NPR1+ANPの複合体が必要であると提案している(さらなる考察は下記参照)。
【0305】
また、hNPR1-mmhおよびmAb22810を用いた滴定も実施した。SEC-MALS分析では、mAb22810サンプルのごく一部が二量体であり、標準的なIgGの分子量の150kDaに対して、約315kDaの分子量であることが示された。NPR1-mAb22810-ANP複合体を用いたSEC-MALS滴定では、430~700kDaの範囲にある種の不均一な混合物が示された。このプロファイルは複雑すぎて信頼性の高い解釈ができなかったが、これはおそらくmAb22810タンパク質に含
まれるIgG二量体不純物が原因である。mAb22810のFabフラグメント、REGN5314を用いたSEC-MALS滴定では、ANPの非存在下でNPR1に対するREGN5314の結合は、SECによって単離できる複合体種を生成するには、弱すぎる、または一時的であることが示された。ANPが存在する場合、単一のNPR1-REGN5314-ANP複合体が、約170kDaの分子量で形成され、NPR1の二量体あたり結合した1つのFabと一致している。
【0306】
ネガティブ染色2Dクラス平均
hNPR1+REGN5308およびhNPR1+ANP+REGN5308の複合体をさらにネガティブ染色電子顕微鏡によって分析した。複合体粒子の2Dクラス分類および平均化により、サンプルの実質的な不均一性が明らかになった。EMグリッド上の粒子の大部分は、hNPR1のみ、またはREGN5308 Fabのみにクラス分類することができた。画像処理用に提出されたタンパク質サンプルは精製された均一な複合体であったため、これらの複合体はネガティブ染色グリッドの作成過程で成分に解離していると考えられる。しかし、複合体のかなりの部分は無傷で残っており、分析に使用することができる。
【0307】
hNPR1+REGN5308のネガティブ染色2Dクラス平均は、単一のFabのみがhNPR1二量体に結合しているのが見られる「ワンアーム型(one armed)」複合体を示しており、SEC-MALSの結果と一致している。これに対して、hNPR1+ANP+REGN5308のネガティブ染色2Dクラス平均では、2つのFabが二量体に結合した「ツーアーム型(two armed)」の複合体を示している。異なる平均は、実際の3次元複合体の異なる投影図を表している。1つのクラス平均では、hNPR1二量体は側面から見て、密度の2つのローブがあり、一方は2つの単量体のN末端ドメインが互いに重なり合ったものに相当し、もう一方のローブは2つの重なり合ったC-末端ドメインに相当する。この向きでは、結合した2つのFabは、NPR1の密度の頂部にある「ウサギの耳」のように見える。別の見方をすると、hNPR1の4つのすべてのドメインは、正方形を形成する4つの密度の塊として見ることができ、正方形の上の2つのREGN5308 Fabは、お互いに交差して逆V字を作っている。hNPR1+ANP+REGN5308のクラス平均では、「ワンアーム型」複合体も見られたが、これらは、遊離Fabおよび遊離NPR1を生成したのと同じ複合体の解離によるものと考えられる。
【0308】
hNPR1+ANP+REGN5308のcryoEMデータから算出された2Dクラス平均は、ネガティブ染色データと比較して、複合体の異なる見解を示しており、特に「ウサギの耳」の向きは存在しない。しかし、他のcryoEMの2Dクラス平均は、ネガティブ染色データの対応する平均と密接に一致させることができる。cryoEMのデータでは、複合体の解離の証拠があまり見られず、これは、おそらく出発試料がより均質であることと、低温凍結条件が溶液中の複合体の固有のコンフォメーションをよりよく保つことによるものと考えられる。
【0309】
3D画像の再構成
2Dクラス平均を出発点として使用し、hNPR1+ANP+REGN5308のcryoEM密度の3次元マップを構築した。この再構築手順は、複合体直径の大まかな推定を超えて、複合体の予想される形状またはサイズに関するなんらかの事前情報を必要としないので、得られるcryoEMマップは、抗体-標的複合体がどのように形成されるべきかという予想に偏ることはない。次に、既知のhNPR1+ANPの結晶構造を、既知のFab構造とのホモロジーによって生成されたREGN5308のFabのモデルとともに、このEM密度マップに配置し、精密化した。NPR1およびFabの構造は手作業でおよその位置に配置し、次にPhenixを使って正しい位置に剛体として精密化した
。cryoEMマップの解像度は、NPR1:抗体接触界面の残基、特にホモロジーによって正確にモデル化することができないREGN5308相補性決定領域(CDR)の残基を手作業で再構築するのに十分である。現在の構造モデルでは、すべての抗体のCDR残基およびNPR1の残基を接触させて配置している。モデルのより遠い領域(NPR1のC末端ドメイン、および抗体Fabsの定常ドメイン)は、現在のcryoEMマップと、以前に決定されたNPR1のX線結晶構造情報(PDBコード1T34)と、単離された抗体構造とを組み合わせてモデル化している。
【0310】
NPR1上のmAb22033エピトープ:hNPR1+ANP+REGN5308構造の検査により、NPR1のどの残基がREGN5308 Fab(ひいては親IgG mAb22033)に接触しているかが明らかになった。このエピトープは、NPR1のアミノ酸の4つの独立した区間:残基2~4、41~45、47、73~79、332、336~344、347(配列番号:194に従って番号が付けられている)から構成されており、それらが組み合わさって3次元的に連続した表面を形成している。前の水素/重水素交換(HDX)質量分析実験では、これらの残基のいくつかが重要であると同定されたが(実施例12参照)、cryoEM構造では、エピトープのより詳細が得られる。
【0311】
mAb22033の構造的作用機構
NPR1抗体複合体のこのモデルにおける2つのFabは、Fab可変ドメインおよびFab定常ドメインの間の「エルボー」近くの地点で、互いに約10Å以内にある。この2つのFabのC末端は約100Åとかなり離れているので、1つのIgG分子の2つのアームにはなり得ない。また、Fabは、モデル化されたANPペプチドに特に接近しておらず(最接近時の距離は約30Å)、FabとANPとの間に直接的な相互作用があるとは考えられない。
【0312】
NPR1のN末端ドメイン上の結合部位に対するFabの固定された位置および相対的な向きを仮定すると、REGN5308 FabのANP依存的な結合の説明が明らかになる。NPR1はANPが結合すると、二量体化したまま一方のNPR1単量体が他方のNPR1単量体に対して回転するという構造変化を起こすことが示されている。この回転を2つのNPR1+2つのFab複合体の半分に適用すると、NPR1二量体がANPを含まないNPR1の結晶構造に似たモデルができあがる。しかし、ここでは、REGN5308 Fabの一方が、もう片方のFabと立体的に衝突する位置に回転するという、物理的に不可能な状況になっている。この立体的な干渉が、ANP非存在下でNPR1の二量体に1つのREGN5308 Fabしか結合できない理由である。2つのモノマー上の両方の抗体結合部位は等しくアクセス可能であるが、最初のFabの結合が2番目のFabの結合をブロックする。
【0313】
この効果を逆に考えると、ANPを含むNPR1二量体に2つのFabが結合していると、両方のFabが結合している限り、この複合体がANPのない構造に緩んで戻るのを防ぐことができる。ここで見られる効果が細胞表面で維持されると仮定すると、平衡状態では、下流のシグナル伝達が可能な活性状態にあるNPR1分子の割合が増えることになる。抗体の結合によるもう一つの可能な効果は、上述したように抗体とNPR1+ANPとのオリゴマークラスターの形成である。この効果は、各NPR1二量体が2つの別々のIgG分子から2つのFabアームを結合できる場合にのみ可能である。ANPが存在しない場合、各NPR1二量体には1つのFabアームしか結合できず、複合体形成は、各Fabアームに結合したNPR1二量体と共にIgGを最大1つしか含ない、はるかに小さな種で停止する。これらの効果、受容体のクラスター化および受容体の活性状態の延長の両方が、NPR1受容体におけるmAb22033の活性化効果を説明することができる。
【0314】
本発明は、本明細書に記載された特定の実施形態によって範囲が限定されるものではない。実際、本明細書に記載されたものに加えて、本発明の様々な変更が、前述の説明および添付の図面から当業者に明らかになるであろう。このような変更は、添付の特許請求の範囲に含まれることが意図される。
図1
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【配列表】
2024056834000001.app
【手続補正書】
【提出日】2024-02-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウム利尿ペプチド受容体1(NPR1)タンパク質に特異的に結合する抗体またはその抗原結合性フラグメントの重鎖可変領域(HCVR)および/または軽鎖可変領域(LCVR)をコードするポリヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチド分子であって、該抗体またはその抗原結合性フラグメントが、配列番号:2のアミノ酸配列を含むHCVR内に含まれる3つの重鎖相補性決定領域(CDR)(HCDR1、HCDR2およびHCDR3);および配列番号:10のアミノ酸配列を含むLCVR内に含まれる3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)を含む、単離されたポリヌクレオチド分子。
【請求項2】
抗体またはその抗原結合性フラグメントが、配列番号:2のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性を有するHCVRを含む、請求項1に記載の単離されたポリヌクレオチド分子。
【請求項3】
抗体またはその抗原結合性フラグメントが、配列番号:10のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性を有するLCVRを含む、請求項1に記載の単離されたポリヌクレオチド分子。
【請求項4】
抗体またはその抗原結合性フラグメントが、
(a)配列番号:4のアミノ酸配列を有するHCDR1;
(b)配列番号:6のアミノ酸配列を有するHCDR2;
(c)配列番号:8のアミノ酸配列を有するHCDR3;
(d)配列番号:12のアミノ酸配列を有するLCDR1;
(e)配列番号:14のアミノ酸配列を有するLCDR2;および
(f)配列番号:16のアミノ酸配列を有するLCDR3
を含む、請求項1に記載の単離されたポリヌクレオチド分子。
【請求項5】
抗体またはその抗原結合性フラグメントが、配列番号:2/10のHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む、請求項1に記載の単離されたポリヌクレオチド分子。
【請求項6】
抗体またはその抗原結合性フラグメントが、水素/重水素交換によって決定されるように、NPR1の細胞外ドメイン(配列番号:194のアミノ酸29~347)内に含まれる1つまたはそれ以上のアミノ酸と相互作用し、該抗体またはその抗原結合性フラグメントが(i)心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の存在下または非存在下で、ヒトNPR1を発現する細胞に結合する;かつ/または(ii)NPR1を活性化する、請求項1に記載の単離されたポリヌクレオチド分子。
【請求項7】
抗体またはその抗原結合性フラグメントが、(a)配列番号:194のアミノ酸29~45;および(b)配列番号:194のアミノ酸336~347からなる群から選択されるアミノ酸配列と相互作用する、請求項1に記載の単離されたポリヌクレオチド分子。
【請求項8】
抗体またはその抗原結合性フラグメントが、ANPの存在下で、(a)配列番号:194のアミノ酸29~45;および(b)配列番号:194のアミノ酸331~347からなる群から選択されるアミノ酸配列と相互作用する、請求項1に記載の単離されたポリヌクレオチド分子。
【請求項9】
抗体が完全ヒトモノクローナル抗体である、請求項1に記載の単離されたポリヌクレオチド分子。
【請求項10】
抗体が、(a)完全ヒトモノクローナル抗体である;(b)表面プラズモン共鳴法で測定されるように、ANPおよび/または脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の非存在下、25℃および37℃で、690nM未満の解離定数(K)で、単量体のヒトNPR1に結合する;(c)表面プラズモン共鳴法で測定されるように、ANPまたはBNPの非存在下、25℃および37℃で、42nM未満のKで、二量体のヒトNPR1に結合する;(d)表面プラズモン共鳴法で測定されるように、25℃および37℃で、80nM未満のKで、ANPと複合体形成したヒトNPR1に結合する;(e)表面プラズモン共鳴法で測定されるように、25℃および37℃で、20nM未満のKで、BNPと複合体形成したヒトNPR1に結合する;(f)表面プラズモン共鳴法で測定されるように、ANPおよび/またはBNPの非存在下、25℃および37℃で、365nM未満のKで、単量体のサルNPR1に結合する;(g)表面プラズモン共鳴法で測定されるように、ANPまたはBNPの非存在下、25℃および37℃で、30nM未満のKで、二量体のサルNPR1に結合する;(h)表面プラズモン共鳴法で測定されるように、25℃および37℃で、10nM未満のKで、ANPと複合体形成したサルNPR1に結合する;(i)表面プラズモン共鳴法で測定されるように、25℃および37℃で、10nM未満のKで、BNPと複合形成したサルNPR1に結合する;(j)マウスNPR1とは結合しない;(k)ヒトNPR1(ANPなし)またはANPと複合体形成したNPR1を発現する細胞に、5nM未満のEC50で結合する;(l)カルシウムフラックス細胞ベースのバイオアッセイで測定されるように、385nM未満のEC50でNPR1を活性化する;(m)正常血圧および高血圧のマウスに投与したときに、全身血圧を低下させ、全身血圧および平均動脈血圧の低下は、単回用量の投与で28日まで持続する;および(n)食事誘発性肥満マウスに投与したときに、耐糖能が改善される;からなる群から選択される1つまたはそれ以上の特性を有する、請求項1に記載の単離されたポリヌクレオチド分子。
【請求項11】
請求項1に記載のポリヌクレオチド配列を含むベクター。
【請求項12】
請求項11に記載のベクターを発現する宿主細胞。
【請求項13】
抗NPR1抗体またはその抗原結合性フラグメントを製造する方法であって、請求項1
2に記載の宿主細胞を、抗体またはフラグメントの産生を可能にする条件下で培養し、そうして産生された抗体またはフラグメントを回収することを含む方法。
【請求項14】
抗体またはその抗原結合性フラグメントを、許容可能な担体を含む医薬組成物として製剤化することをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【外国語明細書】