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特開2024-56839腫瘍関連抗原に対する免疫応答を誘起するための組成物及び方法
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  • 特開-腫瘍関連抗原に対する免疫応答を誘起するための組成物及び方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056839
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】腫瘍関連抗原に対する免疫応答を誘起するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/863 20060101AFI20240416BHJP
   C12N 15/40 20060101ALI20240416BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240416BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240416BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240416BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20240416BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240416BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240416BHJP
   A61K 39/285 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
C12N15/863 Z ZNA
C12N15/40
A61K35/76
A61K48/00
A61K9/08
A61K47/64
A61P37/04
A61P35/00
A61K39/285
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024019248
(22)【出願日】2024-02-13
(62)【分割の表示】P 2022153352の分割
【原出願日】2017-01-09
(31)【優先権主張番号】62/301,885
(32)【優先日】2016-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/276,479
(32)【優先日】2016-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】518241827
【氏名又は名称】ジオバックス・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハリエット・ロビンソン
(72)【発明者】
【氏名】アルバン・ドミ
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・ヘラーステイン
(72)【発明者】
【氏名】ファーシャド・ギラッコー
(72)【発明者】
【氏名】ナサニエル・ポール・マッカーリー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】MUC1等の腫瘍関連抗原に対する免疫応答を誘起するための組成物及び方法を提供する。
【解決手段】組成物及び方法は、改変型ワクシニアアンカラ(MVA)ベクターとして、前記ベクターを投与する対象に前記腫瘍関連抗原を発現する新生物に対する防御免疫応答を誘起するための1種以上のウイルス抗原をコードするものに関する。本発明の組成物及び方法は、予防及び治療の両面で有用であり、新生物及び関連疾患を予防及び/又は治療するために使用することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TAA配列又はその断片及びマトリックスタンパク質配列をコードする配列を含む組換え改変型ワクシニアアンカラ(MVA)ウイルスベクターであって、前記TAA配列及びマトリックスタンパク質配列が、いずれもポックスウイルス発現系に適合可能なプロモーターの制御下にある、ベクター。
【請求項2】
前記TAA配列及び前記マトリックスタンパク質配列が、I、II、III、IV、V又はVIから選択される前記MVAの1又は複数の欠失部位に挿入されている、請求項1に記載の組換えベクター。
【請求項3】
前記TAA配列及び前記マトリックスタンパク質配列が、天然欠失部位、改変型天然欠失部位、又は必須若しくは非必須MVA遺伝子間で前記MVAに挿入されている、請求項1に記載の組換えベクター。
【請求項4】
前記TAA配列及び前記マトリックスタンパク質配列が、同一の天然欠失部位、改変型天然欠失部位、又は同一の必須若しくは非必須MVA遺伝子間に挿入されている、請求項1に記載の組換えベクター。
【請求項5】
前記TAA配列及び前記マトリックスタンパク質配列が、各々ポックスウイルス発現系に適合可能なプロモーターの制御下で、異なる天然欠失部位、異なる改変型欠失部位、又は異なる必須若しくは非必須MVA遺伝子間に挿入されている、請求項1に記載の組換えベクター。
【請求項6】
前記TAA配列が、2個の高度に保存された必須MVA遺伝子間に挿入されており、前記マトリックスタンパク質配列が、再編成・改変型欠失部位IIIに挿入されている、請求項1に記載の組換えベクター。
【請求項7】
前記TAA配列が、MVA遺伝子であるI8RとG1Lとの間に挿入されている、請求項1に記載の組換えベクター。
【請求項8】
前記プロモーターが、Pm2H5、PsynII及びmH5プロモーター又はその組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の組換えベクター。
【請求項9】
選択されたコドンをMVAによるタンパク質発現に最適な他の同義コドンに置換する方法、サイレント突然変異を使用してホモポリマー連続部分に割り込む方法、サイレント突然変異を使用して転写ターミネーターモチーフに割り込む方法、又は(分泌型ではなく)膜貫通型のTAAを発現させる方法から選択される1種以上の方法により、前記TAA配列が最適化されている、請求項1に記載の組換えベクター。
【請求項10】
前記組換えMVAウイルスベクターが、VLPにアセンブリされたTAAタンパク質とマトリックスタンパク質とを発現する、請求項1に記載の組換えベクター。
【請求項11】
前記TAA配列が配列番号1又は配列番号2を含む、請求項1に記載の組換えベクター。
【請求項12】
前記TAA配列が配列番号4を含む、請求項1に記載の組換えベクター。
【請求項13】
前記ベクターが、MUC-1の細胞外断片と、MUC-1の細胞内断片と、マールブルグウイルスの糖タンパク質(GP)の膜貫通ドメインとをさらに含む、請求項1に記載の組換えベクター。
【請求項14】
少なくとも1種の組換えMVAベクターと薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物であって、前記組換えMVAベクターがTAA配列を含み、前記配列がポックスウイルス発現系に適合可能なプロモーターの制御下にある、医薬組成物。
【請求項15】
前記少なくとも1種の組換えMVAベクターが、腹腔内、筋肉内、皮内、表皮、粘膜又は静脈内投与用に製剤化されている、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記組換えMVAベクターが、MUC-1の細胞外断片と、MUC-1の細胞内断片と、マールブルグウイルスの糖タンパク質(GP)の膜貫通ドメインとを含む、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項17】
処置を必要とする対象における免疫応答の誘導方法であって、免疫応答を誘導するために十分な量の少なくとも1種の組換えMVAベクターを前記対象に投与することを含み、
前記組換えMVAベクターが、TAA配列及びマトリックスタンパク質配列を含み、これらの配列がポックスウイルス発現系に適合可能なプロモーターと機能的に連結されている、方法。
【請求項18】
前記免疫応答が、体液性免疫応答、細胞性免疫応答又はその組合せである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記免疫応答が、前記TAAに対する結合抗体又は中和抗体の産生を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記免疫応答が、前記TAAに対する非中和抗体の産生を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記免疫応答が、前記TAAに対する細胞介在性免疫応答の誘起を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
新生物の増殖の予防又は抑制方法であって、処置を必要とする対象に前記新生物の増殖を予防又は抑制するために十分な量の請求項14に記載の組成物を投与することを含む、方法。
【請求項23】
がんの治療方法であって、治療を必要とする対象に前記がんを治療するために十分な量の請求項14に記載の組成物を投与することにより前記がんを治療する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願に記載する組成物及び方法は、腫瘍関連抗原(TAA)に対する免疫応答を誘起するための組成物(ワクチン組成物を含む)、その製造方法、及びその使用方法に関する。本発明の組成物及び方法は、予防及び治療の両面で有用である。
【背景技術】
【0002】
2016年に米国内で新たにがんと診断される患者は1,685,210人、がんによる死亡数は595,690人になると推定される(Cancer Facts & Figures 2016,American Cancer Society 2016)。ヒト腫瘍関連抗原(TAA)を利用したがんワクチンが、進行がん又は再発がんの患者で標準治療と併用してか又は標準治療後に、試験されている。腫瘍微小環境の極めて多様な抑制作用及び患者の免疫系に及ぼす標準治療の作用ゆえに、がんワクチンの免疫原性と治療有効性とを正しく評価することは困難であった。ヒトがんの動物モデルにおいて、予防用として投与されたワクチンは免疫原性が高く、がんの発生と進行を有効に予防する。
【0003】
ヒトTAAを利用したワクチンは、免疫原性で且つ安全であり、がん予防に重要な長期メモリーを誘発することが可能である。
【0004】
TAAの特定の1例は、ムチンファミリーのメンバーであって、膜結合型グリコシル化リンタンパク質をコードするMUC-1である。MUC1は、コアタンパク質分子量が120~225kDaであり、グリコシル化と共に250~500kDaまで増加する。また、細胞の表面から200~500nm突出している(Brayman M,Thathiah A,Carson DD,2004,Reprod Biol Endocrinol.2:4)。このタンパク質は、膜貫通ドメインを介して多数の上皮細胞の頂端面に係留されている。これらの反復配列は、セリン、スレオニン及びプロリン残基に富み、多数のo結合型糖鎖を付加することができる(Brayman M,Thathiah A,Carson DD,2004,Reprod Biol Endocrinol.2:4)。この遺伝子の種々のアイソフォームをコードする多様な選択的スプライシング転写産物変異体が、報告されている。
【0005】
MUC-1の細胞質テールは、72アミノ酸長であり、数個のリン酸化部位を含む(Singh PK,Hollingsworth MA(August 2006),Trends Cell Biol.16(9):467-476)。このタンパク質は、病原体と結合することにより防御機能を発揮すると共に、細胞内シグナル伝達機能ももつ(Linden SK et al.2009,PLoS Pathog.5(10):e1000617)。
【0006】
このタンパク質の過剰発現、細胞内局在異常及びグリコシル化における変化は、がんに関連付けられている。特に、結腸がん、乳がん、卵巣がん、肺がん及び膵臓がんでは、MUC-1過剰発現を伴うことが多い(Gendler SJ(July 2001),J.Mammary Gland Biol Neoplasia.6(3):339-353)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Cancer Facts & Figures 2016,American Cancer Society 2016
【非特許文献2】Brayman M,Thathiah A,Carson DD,2004,Reprod Biol Endocrinol.2:4
【非特許文献3】Singh PK,Hollingsworth MA(August 2006),Trends Cell Biol.16(9):467-476
【非特許文献4】Linden SK et al.2009,PLoS Pathog.5(10):e1000617
【非特許文献5】Gendler SJ(July 2001),J.Mammary Gland Biol Neoplasia.6(3):339-353
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまでのところ、米国で人体用に承認されたがんワクチンは存在していない。新生物に起因するがんを予防及び治療するための免疫原性ワクチン組成物及び使用方法が、必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願に記載する本発明の組成物及び方法は、腫瘍関連抗原(TAA)に対する免疫応答を、それを必要とする対象において誘起するのに有用である。有利なことに、前記組成物及び方法を、がん関連抗原に対して対象を免疫するために予防用として使用することもできるし、治療を必要とする対象における疾患の発症及び重症度を治療又は改善するために治療用として使用することもできる。
【0010】
第1の態様において、本発明は、腫瘍関連抗原(TAA)をコードする配列(TAA配列)とマトリックスタンパク質をコードする配列(マトリックスタンパク質配列)とを含む組換え改変型ワクシニアアンカラ(MVA)ベクターであり、前記TAA配列及びマトリックスタンパク質配列は、いずれもポックスウイルス発現系に適合可能なプロモーターの制御下にある。
【0011】
1実施形態において、前記TAA配列及び前記マトリックスタンパク質配列は、前記MVAベクターの1カ所以上の欠失部位に挿入されている。
【0012】
1実施形態において、前記TAAは、腫瘍胎児抗原/未成熟ラミニン受容体タンパク質(OFA/iLRP)、αフェトプロテイン(AFP)、がん胎児性抗原(CEA)、CA-125、MUC-1、上皮性腫瘍抗原(ETA)、チロシナーゼ、メラノーマ関連抗原(MAGE)、異常なras産物、異常なp53産物又はその免疫原性断片からなる群から選択される。
【0013】
1実施形態において、前記TAAは、MUC-1である。
【0014】
1実施形態において、前記TAAは、OFA/iLRPである。
【0015】
1実施形態において、前記TAAは、CEAである。
【0016】
1実施形態において、前記マトリックスタンパク質は、マールブルグウイルスマトリックスタンパク質である。
【0017】
1実施形態において、前記マトリックスタンパク質は、マールブルグウイルスVP40マトリックスタンパク質である。
【0018】
1実施形態において、前記マトリックスタンパク質は、エボラウイルスマトリックスタンパク質である。
【0019】
1実施形態において、前記マトリックスタンパク質は、エボラウイルスVP40マトリックスタンパク質である。
【0020】
1実施形態において、前記マトリックスタンパク質は、スーダンウイルスマトリックスタンパク質である。
【0021】
1実施形態において、前記マトリックスタンパク質は、スーダンウイルスVP40マトリックスタンパク質である。
【0022】
1実施形態において、前記マトリックスタンパク質は、1型ヒト免疫不全ウイルス(HIV-1)マトリックスタンパク質である。
【0023】
1実施形態において、前記マトリックスタンパク質は、gag遺伝子によりコードされる1型ヒト免疫不全ウイルス(HIV-1)マトリックスタンパク質である。
【0024】
1実施形態において、前記マトリックスタンパク質は、ラッサウイルスマトリックスタンパク質である。
【0025】
1実施形態において、前記マトリックスタンパク質は、ラッサウイルスZタンパク質である。
【0026】
1実施形態において、前記マトリックスタンパク質は、ラッサウイルスZタンパク質の断片である。
【0027】
1実施形態において、前記マトリックスタンパク質は、フィロウイルス科(Filoviridae)ウイルスファミリーにおけるウイルスのマトリックスタンパク質である。
【0028】
1実施形態において、前記マトリックスタンパク質は、レトロウイルス科(Retroviridae)ウイルスファミリーにおけるウイルスのマトリックスタンパク質である。
【0029】
1実施形態において、前記マトリックスタンパク質は、アレナウイルス科(Arenaviridae)ウイルスファミリーにおけるウイルスのマトリックスタンパク質である。
【0030】
1実施形態において、前記マトリックスタンパク質は、フラビウイルス科(Flaviviridae)ウイルスファミリーにおけるウイルスのマトリックスタンパク質である。
【0031】
1実施形態において、前記TAA配列及び前記マトリックスタンパク質配列は、天然欠失部位、改変型天然欠失部位、又は必須若しくは非必須MVA遺伝子間で前記MVAベクターに挿入されている。
【0032】
別の実施形態において、前記TAA配列及び前記マトリックスタンパク質配列は、同一の天然欠失部位、改変型天然欠失部位、又は同一の必須若しくは非必須MVA遺伝子間に挿入されている。
【0033】
別の実施形態において、前記TAA配列は、I、II、III、IV、V又はVIから選択される欠失部位に挿入されており、前記マトリックスタンパク質配列は、I、II、III、IV、V又はVIから選択される欠失部位に挿入されている。
【0034】
別の実施形態において、前記TAA配列及び前記マトリックスタンパク質配列は、異なる天然欠失部位、異なる改変型欠失部位、又は異なる必須若しくは非必須MVA遺伝子間に挿入されている。
【0035】
別の実施形態において、前記TAA配列は、第1の欠失部位に挿入されており、前記マトリックスタンパク質配列は、第2の欠失部位に挿入されている。
【0036】
特定の実施形態において、前記TAA配列は、2個の高度に保存された必須MVA遺伝子間に挿入されており、前記マトリックスタンパク質配列は、再編成・改変型欠失部位IIIに挿入されている。
【0037】
1実施形態において、前記欠失部位IIIは、非必須配列を除去して前記マトリックスタンパク質配列を必須遺伝子間に挿入するように改変されている。
【0038】
特定の実施形態において、前記マトリックスタンパク質配列は、MVA遺伝子であるI8RとG1Lとの間に挿入されている。
【0039】
特定の実施形態において、前記TAA配列は、生育可能な欠失突然変異体の形成を制限するように、2個の高度に保存された必須MVA遺伝子間に挿入されている。
【0040】
特定の実施形態において、前記TAAタンパク質配列は、MVA遺伝子であるI8RとG1Lとの間に挿入されている。
【0041】
1実施形態において、前記プロモーターは、Pm2H5、PsynII及びmH5プロモーター又はその組合せからなる群から選択される。
【0042】
1実施形態において、前記TAA配列は、最適化されている。特定の実施形態において、前記TAA配列は、選択されたコドンをMVAによるタンパク質発現に最適な他の同義コドンに置換する方法、サイレント突然変異を使用してホモポリマー連続部分に割り込む方法、サイレント突然変異を使用して転写ターミネーターモチーフに割り込む方法、又は(分泌型ではなく)膜貫通型のTAAを発現させる方法及びその組合せにより最適化されている。
【0043】
1実施形態において、前記組換えMVAウイルスベクターは、VLPにアセンブリされたTAAタンパク質及びマトリックスタンパク質を発現する。
【0044】
第2の態様において、本発明は、本発明の組換えMVAベクター及び薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物を提供する。
【0045】
1実施形態において、前記組換えMVAベクターは、腹腔内、筋肉内、皮内、表皮、粘膜又は静脈内投与用に製剤化されている。
【0046】
第3の態様において、本発明は、2個の組換えMVAベクターを含有する医薬組成物を提供し、各組換えMVAベクターは、TAA配列を含み、(i)第1の組換えMVAベクターのTAA配列は、第2の組換えMVAベクターのTAA配列と異なる。
【0047】
1実施形態において、前記TAA配列及び前記マトリックスタンパク質配列は、前記MVAベクターの1カ所以上の欠失部位に挿入されている。
【0048】
1実施形態において、前記TAAは、腫瘍胎児抗原/未成熟ラミニン受容体タンパク質(OFA/iLRP)、αフェトプロテイン(AFP)、がん胎児性抗原(CEA)、CA-125、MUC-1、上皮性腫瘍抗原(ETA)、チロシナーゼ、メラノーマ関連抗原(MAGE)、異常なras産物及び異常なp53産物又はその免疫原性断片からなる群から選択される。
【0049】
1実施形態において、前記TAAは、MUC-1である。
【0050】
1実施形態において、前記TAAは、腫瘍胎児抗原/未成熟ラミニン受容体タンパク質(OFA/iLRP)である。
【0051】
1実施形態において、前記TAAは、がん胎児性抗原(CEA)である。
【0052】
1実施形態において、前記第1の組換えMVAベクターのTAAは、MUC-1であり、前記第2の組換えMVAベクターのTAAは腫瘍胎児抗原/未成熟ラミニン受容体タンパク質(OFA/iLRP)である。
【0053】
1実施形態において、前記第1の組換えMVAベクターのTAAは、MUC-1であり、前記第2の組換えMVAベクターのTAAはがん胎児性抗原(CEA)である。
【0054】
1実施形態において、前記第1の組換えMVAベクターのTAAは、腫瘍胎児抗原/未成熟ラミニン受容体タンパク質(OFA/iLRP)であり、前記第2の組換えMVAベクターのTAAはがん胎児性抗原(CEA)である。
【0055】
1実施形態において、前記TAA配列及び前記マトリックスタンパク質配列は、天然欠失部位、改変型天然欠失部位、又は必須若しくは非必須MVA遺伝子間で前記MVAベクターに挿入されている。
【0056】
別の実施形態において、前記TAA配列及び前記マトリックスタンパク質配列は、同一の天然欠失部位、同一の改変型天然欠失部位、又は同一の必須若しくは非必須MVA遺伝子間に挿入されている。
【0057】
別の実施形態において、前記TAA配列は、I、II、III、IV、V又はVIから選択される欠失部位に挿入されており、前記マトリックスタンパク質配列は、I、II、III、IV、V又はVIから選択される欠失部位に挿入されている。
【0058】
別の実施形態において、前記TAA配列及び前記マトリックスタンパク質配列は、異なる天然欠失部位、異なる改変型欠失部位、又は異なる必須若しくは非必須MVA遺伝子間に挿入されている。
【0059】
別の実施形態において、前記TAA配列は、第1の欠失部位に挿入されており、前記マトリックスタンパク質配列は、第2の欠失部位に挿入されている。
【0060】
特定の実施形態において、前記TAA配列は、2個の高度に保存された必須MVA遺伝子間に挿入されており、前記マトリックスタンパク質配列は、再編成・改変型欠失部位IIIに挿入されている。
【0061】
1実施形態において、前記欠失部位IIIは、非必須配列を除去して前記マトリックスタンパク質配列を必須遺伝子間に挿入するように改変されている。
【0062】
特定の実施形態において、前記マトリックスタンパク質配列は、MVA遺伝子であるI8RとG1Lとの間に挿入されている。
【0063】
特定の実施形態において、前記TAA配列は、生育可能な欠失突然変異体の形成を制限するように、2個の高度に保存された必須MVA遺伝子間に挿入されている。
【0064】
特定の実施形態において、前記TAAタンパク質配列は、MVA遺伝子であるI8RとG1Lとの間に挿入されている。
【0065】
1実施形態において、前記プロモーターは、Pm2H5、PsynII及びmH5プロモーター又はその組合せからなる群から選択される。
【0066】
1実施形態において、前記TAA配列は、最適化されている。特定の実施形態において、前記TAA配列は、選択されたコドンをMVAによるタンパク質発現に最適な他の同義コドンに置換する方法、サイレント突然変異を使用してホモポリマー連続部分に割り込む方法、サイレント突然変異を使用して転写ターミネーターモチーフに割り込む方法、又は(分泌型ではなく)膜貫通型のTAAを発現させる方法及びその組合せにより最適化されている。
【0067】
1実施形態において、前記組換えMVAウイルスベクターは、VLPにアセンブリされたTAAタンパク質及びマトリックスタンパク質を発現する。第2の態様において、本発明は、本発明の組換えMVAベクター及び薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物を提供する。
【0068】
1実施形態において、前記組換えMVAベクターは、腹腔内、筋肉内、皮内、表皮、粘膜又は静脈内投与用に製剤化されている。
【0069】
特定の実施形態において、前記第1の組換えMVAベクターのTAA配列は、前記第2の組換えMVAベクターのTAA配列と別の生物種に由来する。
【0070】
第4の態様において、本発明は、3個以上の組換えMVAベクターを含有する医薬組成物を提供し、各組換えMVAベクターは、TAA配列を含み、(i)前記3個以上の組換えMVAベクターは、異なるTAA配列を含む。
【0071】
1実施形態において、前記TAA配列は、MUC-1、腫瘍胎児抗原/未成熟ラミニン受容体タンパク質(OFA/iLRP)、及びがん胎児性抗原(CEA)である。
【0072】
特定の実施形態において、前記TAA配列は、同一生物種に由来する。
【0073】
特定の実施形態において、前記TAA配列は、異なる生物種に由来する。
【0074】
第5の態様において、本発明は、処置を必要とする対象において新生物に対する免疫応答を誘導する方法を提供し、前記方法は、免疫応答を誘導するために十分な量の本願に記載する免疫原性ベクターを含有する組成物を、前記対象に投与することを含む。
【0075】
1実施形態において、前記免疫応答は、体液性免疫応答、細胞性免疫応答又はその組合せである。
【0076】
特定の実施形態において、前記免疫応答は、前記TAAに対する結合抗体の産生を含む。
【0077】
特定の実施形態において、前記免疫応答は、前記TAAに対する中和抗体の産生を含む。
【0078】
特定の実施形態において、前記免疫応答は、前記TAAに対する非中和抗体の産生を含む。
【0079】
特定の実施形態において、前記免疫応答は、前記TAAに対する細胞介在性免疫応答の誘起を含む。
【0080】
特定の実施形態において、前記免疫応答は、前記TAAに対する中和抗体及び非中和抗体の産生を含む。
【0081】
特定の実施形態において、前記免疫応答は、前記TAAに対する中和抗体の産生及び細胞介在性免疫の誘起を含む。
【0082】
特定の実施形態において、前記免疫応答は、前記TAAに対する非中和抗体の産生及び細胞介在性免疫の誘起を含む。
【0083】
特定の実施形態において、前記免疫応答は、前記TAAに対する中和抗体の産生、非中和抗体の産生及び細胞介在性免疫の誘起を含む。
【0084】
1実施形態において、前記新生物は、白血病(例えば骨髄芽球性白血病、前骨髄球性白血病、骨髄単球性白血病、単球性白血病、赤白血病、慢性骨髄球性(顆粒球性)白血病及び慢性リンパ球性白血病)、リンパ腫(例えばホジキン病及び非ホジキン病)、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、血管肉腫、内皮肉腫、ユーイング腫瘍、結腸がん、膵臓がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、扁平上皮がん、基底細胞がん、腺がん、腎細胞がん、肝細胞がん、ウィルムス腫瘍、子宮頸がん、子宮がん、精巣腫瘍、肺がん、小細胞肺がん、膀胱がん、上皮がん、神経膠腫、星細胞腫、乏突起神経膠腫、メラノーマ、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、異形成及び過形成から選択される。
【0085】
別の実施形態において、前記TAAは、MUC-1であり、前記新生物は腺がん(乳がん、大腸がん、膵臓がん等)、カルチノイド腫瘍、脊索腫、絨毛がん、繊維形成性小円形細胞腫瘍(DSRCT)、類上皮肉腫、濾胞樹状細胞肉腫、指状嵌入樹状細胞/細網細胞肉腫、肺病変として、II型肺胞上皮細胞病変(II型細胞過形成、II型細胞異形成、肺尖部肺胞過形成)、未分化大細胞型リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(非定型)、形質芽球性リンパ腫、原発性滲出性リンパ腫、類上皮型中皮腫、ミエローマ、形質細胞腫、神経周膜腫、腎細胞がん、滑膜肉腫(上皮領域)、胸腺がん(高頻度)、髄膜腫又はパジェット病から選択される。
【0086】
第6の態様において、本発明は、がんの治療方法として、治療を必要とする対象にがんを治療するために有効な量の本発明の組換えMVAベクターを投与することを含む方法を提供する。
【0087】
第7の態様において、本発明は、対象における新生物の増殖の抑制方法を提供し、前記方法は、新生物の増殖を抑制するために有効な量の本発明の組換えMVAベクターを前記対象に投与することを含む。
【0088】
第8の態様において、本発明は、対象における新生物の増殖の予防方法を提供し、前記方法は、予防有効量の本発明の組換えMVAベクターを前記対象に投与することを含む。
【0089】
1実施形態において、前記対象は、腫瘍細胞マーカーを発現するが、まだ無症候である。特定の実施形態では、治療の結果として症候性疾患が予防される。
【0090】
別の実施形態において、前記対象は、腫瘍細胞マーカーを発現するが、がん症状を最低限しか示していない。
【0091】
別の実施形態では、前記方法の結果として少なくとも1種のがん症状が改善される。
【0092】
第9の態様において、本発明は、組換え改変型ワクシニアアンカラ(MVA)ウイルスベクターの製造方法として、少なくとも1種のTAA配列をMVAベクターに挿入する工程を含む方法を提供し、前記少なくとも1種のTAA配列は、ポックスウイルス発現系に適合可能なプロモーターと機能的に連結されている。
【0093】
1実施形態において、前記方法は、少なくとも1種のマトリックスタンパク質配列を前記MVAベクターに挿入する工程を含み、前記少なくとも1種のTAA配列は、ポックスウイルス発現系に適合可能なプロモーターと機能的に連結されている。
【図面の簡単な説明】
【0094】
図1】MUC1のシャトルベクター(pGeo-Muc1)の模式図である。
図2】MVAベクターのデザインを図解する単純線図である。
図3】MVA-Muc1VP40ワクチンを感染させた細胞が(1)Muc1タンパク質を発現すると共に、(2)低グリコシル化Muc1を発現することを実証するウェスタンブロットである。
図4】(1)Muc1タンパク質、及び(2)低グリコシル化Muc1タンパク質の存在について、免疫染色を行った細胞の画像である。この方法で染色した細胞試料はネガティブコントロール細胞(MCF10A)、ポジティブコントロール細胞(MCF7)、MVA-Muc1VP40ワクチンを接種したHEK-293T細胞、及びMVA-Muc1VP40ワクチンを接種していないHEK-293T細胞を含む。
図5】Muc1 TAAタンパク質をコードするMVAワクチンであるMVA-Muc1VP40を接種した細胞によるウイルス様粒子(VLP)産生を示す、電子顕微鏡写真である。
図6】Muc1のO-結合型グリコシル化の標的低減の初期改変経路の模式図である。
図7】Muc1のO-結合型グリコシル化の標的低減の別の初期改変経路の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0095】
処置を必要とする対象に腫瘍関連抗原(TAA)に対する免疫応答を誘起するための、組成物及び方法を、提供する。本発明の組成物及び方法は、処置を必要とする対象における新生物の形成を予防又は遅延させるために使用されてもよく、あるいは新生物又はそれに関連する疾患(例えばがん)を治療するために使用されてもよい。1実施形態において、治療は、新生物発生、増殖及び/又はがん等の新生物関連疾患の重症度を制限する。
【0096】
理想的な免疫原性組成物又はワクチンは、安全性、有効性、防御範囲及び長期持続性の特徴を備えるが、これらの特徴の全てを備える組成物でなくても、新生物増殖を予防するために有用であるか、あるいは症状の発現前に投与した対象において症状又は疾患進行を制限するために有用であると思われる。1実施形態において、本発明は、単回免疫後に、完全ではないとしても、少なくとも部分的な防御を可能にするワクチンを提供する。
【0097】
1実施形態において、前記組成物は、腫瘍関連抗原(TAA)又はその免疫原性断片をコードする1種以上の核酸配列を含む組換えワクチン又は免疫原性ベクターである。
【0098】
1実施形態において、前記組成物は、MUC-1の細胞外断片を含む組換えワクチン又は免疫原性ベクターである。
【0099】
1実施形態において、前記組成物は、MUC-1の細胞内断片を含む組換えワクチン又は免疫原性ベクターである。
【0100】
1実施形態において、前記組成物は、MUC-1の細胞外断片及び細胞内断片を含む組換えワクチン又は免疫原性ベクターである。
【0101】
1実施形態において、前記組成物は、MUC-1の細胞外断片と、MUC-1の細胞内断片と、マールブルグウイルスの糖タンパク質(GP)の膜貫通ドメインとを含む組換えワクチン又は免疫原性ベクターである。
【0102】
1実施形態において、前記組成物は、TAAの細胞外断片と、TAAの細胞内断片と、フィロウイルス科(Filoviridae)ウイルスファミリーにおけるウイルスのGPの膜貫通ドメインとを含む組換えワクチン又は免疫原性ベクターである。
【0103】
1実施形態において、前記ベクターは、VLPを形成してTAA又はその免疫原性断片に対する免疫応答を誘起するタンパク質を発現する。
【0104】
代表的な実施形態において、前記免疫応答は、長時間持続するため、反復ブースターの必要はないが、1実施形態では、初回にプライムした免疫応答をブーストするために本願に記載する組成物を1回以上投与する。
【0105】
I.定義
ある用語を単数形で記載する場合、本願では、その用語の複数形により記載される発明の態様も想定している。文脈からそうでないことが明白である場合を除き、本明細書及び特許請求の範囲で使用する単数形は、複数の場合も含み、例えば「ペプチド」は複数のペプチドを含む。したがって、例えば、「方法」と言う場合には、本願に記載する形式及び/又は本開示の読了後に当業者に想到される形式の1種以上の方法及び/又は工程を含む。
【0106】
「抗原」なる用語は、免疫応答を誘導することが可能なタンパク質又はその断片等の物質又は分子を意味する。
【0107】
「結合抗体」又は「bAb」なる用語は、体液(例えば血清又は粘膜分泌物)から精製されたもの又は体液中に存在するものであって、特定の抗原を認識する抗体を意味する。本願で使用する抗体は、単一抗体でもよいし、複数の抗体でもよい。結合抗体は、中和抗体及び非中和抗体を含む。
【0108】
「がん」なる用語は、分化の低下、増殖速度の増加、周囲組織の浸潤を伴う特徴的な退形成を生じており、転移が可能な悪性新生物を意味する。
【0109】
「細胞介在性免疫応答」なる用語は、リンパ球により提供される免疫防御作用を意味し、例えば感作T細胞リンパ球が外来抗原を発現する細胞を直接溶解してサイトカイン(例えばIFN-γ)を分泌するときに提供される防御であり、これは、マクロファージ及びナチュラルキラー(NK)細胞のエフェクター機能を調節し、T細胞増殖及び分化を助長することができる。細胞性免疫応答は、獲得免疫応答の2番目の亜分類である。
【0110】
「保存的アミノ酸置換」なる用語は、その位置のアミノ酸残基のサイズ、極性、電荷、疎水性又は親水性に殆ど又は全く影響を与えず、免疫原性を実質的に変化させずに天然アミノ酸残基を非天然残基で置換することを意味する。例えば、これらの置換は、バリン、グリシン;グリシン、アラニン;バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸;アスパラギン、グルタミン;セリン、スレオニン;リジン、アルギニン;及びフェニルアラニン、チロシンのグループ内の置換とすることができる。ポリペプチドの配列の保存的アミノ酸修飾(及びこれをコードするヌクレオチドの対応する修飾)により、親ポリペプチドと同様の機能的特徴及び化学的特徴をもつポリペプチドを生産することができる。
【0111】
ポリペプチド又はタンパク質に関して「欠失」なる用語は、ポリペプチド又はタンパク質配列から1個以上のアミノ酸残基のコドンを除去し、両側の領域を結合することを意味する。核酸に関して、欠失なる用語は、核酸配列から1個以上の塩基を除去し、両側の領域を結合することを意味する。
【0112】
「エボラウイルス」なる用語は、ザイールエボラウイルス(Zaire ebolavirus)種のウイルスを意味し、(Kuhn,J.H.et al.2010 Arch Virol 155:2083-2103)に引証されているように国際ウイルス分類委員会(International Committee on Taxonomy of Viruses)により定められた意味である。
【0113】
タンパク性物質に関して「断片」なる用語は、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列の少なくとも2個の連続するアミノ酸残基、少なくとも5個の連続するアミノ酸残基、少なくとも10個の連続するアミノ酸残基、少なくとも15個の連続するアミノ酸残基、少なくとも20個の連続するアミノ酸残基、少なくとも25個の連続するアミノ酸残基、少なくとも40個の連続するアミノ酸残基、少なくとも50個の連続するアミノ酸残基、少なくとも60個の連続するアミノ酸残基、少なくとも70個の連続するアミノ酸残基、少なくとも80個の連続するアミノ酸残基、少なくとも90個の連続するアミノ酸残基、少なくとも100個の連続するアミノ酸残基、少なくとも125個の連続するアミノ酸残基、少なくとも150個の連続するアミノ酸残基、少なくとも175個の連続するアミノ酸残基、少なくとも200個の連続するアミノ酸残基、又は少なくとも250個の連続するアミノ酸残基のアミノ酸配列を含むペプチド又はポリペプチドを意味する。1実施形態において、前記断片は、参照ポリペプチドの全長の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%又は90%を構成する。1実施形態において、全長タンパク質の断片は、全長タンパク質の活性を維持する。別の実施形態において、全長タンパク質の前記断片は、全長タンパク質の活性を維持しない。
【0114】
核酸に関して「断片」なる用語は、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質をコードする核酸配列の少なくとも2個の連続するヌクレオチド、少なくとも5個の連続するヌクレオチド、少なくとも10個の連続するヌクレオチド、少なくとも15個の連続するヌクレオチド、少なくとも20個の連続するヌクレオチド、少なくとも25個の連続するヌクレオチド、少なくとも30個の連続するヌクレオチド、少なくとも35個の連続するヌクレオチド、少なくとも40個の連続するヌクレオチド、少なくとも50個の連続するヌクレオチド、少なくとも60個の連続するヌクレオチド、少なくとも70個の連続するヌクレオチド、少なくとも80個の連続するヌクレオチド、少なくとも90個の連続するヌクレオチド、少なくとも100個の連続するヌクレオチド、少なくとも125個の連続するヌクレオチド、少なくとも150個の連続するヌクレオチド、少なくとも175個の連続するヌクレオチド、少なくとも200個の連続するヌクレオチド、少なくとも250個の連続するヌクレオチド、少なくとも300個の連続するヌクレオチド、少なくとも350個の連続するヌクレオチド、又は少なくとも380個の連続するヌクレオチドの核酸配列を含む核酸を意味する。1実施形態において、前記断片は、参照核酸配列の全長の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%又は90%を構成する。好ましい1実施形態において、核酸の断片は、全長タンパク質の活性を維持するペプチド又はポリペプチドをコードする。別の実施形態において、前記断片は、全長タンパク質の活性を維持しないペプチド又はポリペプチドをコードする。
【0115】
本願で使用する「増殖阻害量」なる用語は、(例えば細胞増殖抑制、細胞毒性等により)細胞増殖を阻害するメカニズムに関係なく、腫瘍細胞等の標的細胞の成長又は増殖をインビトロ又はインビボで阻害する量を意味する。好ましい1実施形態において、増殖阻害量は、標的細胞の増殖又は成長をインビボ又は細胞培養で約20%超、好ましくは約50%超、最も好ましくは約75%超(例えば約75%~約100%)阻害する(即ちある程度まで遅らせ、好ましくは停止させる)。
【0116】
本願で使用する「異種配列」なる用語は、自然界において通常では別の特定の核酸又はタンパク質、ポリペプチド若しくはペプチド配列と会合しない任意の核酸、タンパク質、ポリペプチド又はペプチド配列を意味する。
【0117】
本願で使用する「異種遺伝子インサート」なる用語は、本願に記載する組換えベクターに既に挿入されているか又は挿入される予定である任意の核酸配列を意味する。異種遺伝子インサートは、単に遺伝子産物をコードする配列を意味する場合もあるし、あるいはプロモーターと、遺伝子産物をコードする配列(例えばGP、VP又はZ)と、これらに結合又は機能的に連結された任意の調節配列とを含む配列を意味する場合もある。
【0118】
「ホモポリマー連続部分」なる用語は、他のヌクレオチドを割り込ませずに同一ヌクレオチドを少なくとも4個含む配列(例えばGGGG又はTTTTTTT)を意味する。
【0119】
「体液性免疫応答」なる用語は、Ab産生の刺激を意味する。体液性免疫応答は、Tヘルパー細胞活性化及びサイトカイン産生を含む抗体産生、親和性成熟及びメモリー細胞生成を伴うアクセサリータンパク質及びイベントも意味する。体液性免疫応答は、獲得免疫応答の2つの亜分類の一方である。
【0120】
「体液性免疫」なる用語は、新生物と直接結合することができる中和Ab、又は補体(C’)介在性溶解、貪食作用及びナチュラルキラー細胞等の生得免疫応答により殺傷するために新生物細胞を認識する結合Ab等の抗体により提供される、免疫防御作用を意味する。
【0121】
「免疫原性組成物」なる用語は、抗原分子を含有する組成物であり、前記組成物を対象に投与すると、前記抗原分子に対する体液性及び/又は細胞性免疫応答が前記対象に誘起される。
【0122】
「免疫応答」なる用語は、対象(例えばヒト)の免疫系が抗原又は抗原決定基に対して起こす任意の応答を意味する。代表的な免疫応答としては、体液性免疫応答(例えば抗原特異的抗体の産生)と細胞介在性免疫応答(例えば抗原特異的T細胞の生成)が挙げられる。免疫応答を評価するためのアッセイは、当分野で公知であり、抗体反応及び遅延型過敏反応を測定するためのアッセイ等のインビボアッセイが挙げられる。1実施形態において、抗体反応を測定するためのアッセイは、主にB細胞機能及びB細胞/T細胞相互作用を測定することができる。抗体反応アッセイでは、抗原チャレンジ後に血液中の抗体力価を比較することができる。本願で使用する「抗体力価」は、各対象について免疫後の血清中の希釈倍率が免疫前の試料中の値よりも高くなった最高希釈倍率として定義することができる。インビトロアッセイは、細胞分裂能力、又は他の細胞が分裂するのを助ける能力、又はリンホカイン及び他の因子を放出し、活性化マーカーを発現し、標的細胞を溶解する能力の測定を含むことができる。インビトロアッセイでは、マウスのリンパ球とヒトのリンパ球とを比較することができる。1実施形態では、末梢血球、脾細胞又はリンパ節等の類似の起源に由来するリンパ球を比較する。一方、異なる起源に由来するリンパ球を比較することも可能であり、非限定的な例では、ヒトの末梢血球及びマウスの脾細胞が挙げられる。インビトロアッセイの場合、細胞を精製してもよい(例えばB細胞、T細胞及びマクロファージ)し、それらの天然状態のままでもよい(例えば脾細胞又はリンパ節細胞)。精製は、所望の結果が得られるならばどのような方法でもよい。マイトジェン又は特異抗原を使用して細胞の増殖能をインビトロで試験することができる。混合リンパ球反応(MLR)アッセイを使用して、特異抗原の存在下における細胞分裂能を試験することができる。培養細胞からの上清を試験し、細胞が特異的リンホカインを分泌する能力を定量することができる。細胞を培養から取出し、活性化抗原を発現する能力について試験することができる。これは、適切な任意の方法で実施することができ、非限定的な例では、活性化抗原と結合する抗体又はリガンドと、活性化抗原をコードするRNAと結合するプローブとを使用する。
【0123】
新生物又はがんをもつと診断された対象に関して、「治療転帰の改善」なる用語は、腫瘍の増殖又は腫瘍増殖に伴う検出可能な症状の遅延又は軽減を意味する。
【0124】
「免疫応答を誘導する」なる用語は、前記組成物(例えばワクチン)を投与した対象にTAAに対する体液性応答(例えば抗体の産生)又は細胞性応答(例えばT細胞の活性化)を誘発することを意味する。
【0125】
ポリペプチド又はタンパク質に関して、「挿入」なる用語は、ポリペプチド又はタンパク質配列に1個以上の非天然アミノ酸残基を付加することを意味する。通常では、ポリペプチド又はタンパク質分子内の任意の1カ所に約1~6残基以内(例えば1~4残基)を挿入する。
【0126】
「マールブルグウイルス」なる用語は、マールブルグマールブルグウイルス(Marburg marburgvirus)種のウイルスを意味し、(Kuhn,J.H.et al.2010 Arch Virol 155:2083-2103)に引証されているように国際ウイルス分類委員会(International Committee on Taxonomy of Viruses)により定められた意味である。
【0127】
「マーカー」なる用語は、疾患又は障害に伴って発現レベル又は活性が変化する任意のタンパク質又はポリヌクレオチドを意味する。
【0128】
「改変型ワクシニアアンカラ(modified vaccinia Ankara、modified vaccinia ankara、Modified Vaccinia Ankara)」又は「MVA」なる用語は、Anton Mayr博士によりニワトリ胚線維芽細胞T細胞で連続継代により開発された高度弱毒ワクシニアウイルス株又はその変異株若しくは誘導株を意味する。MVAは、(Mayr,A.et al.1975 Infection 3:6-14;Swiss Patent No.568,392)に説明されている。
【0129】
本願で使用する「新生物」なる用語は、特にがんの特徴として、身体の何らかの部分における組織の新規又は異常な増殖を意味する。
【0130】
「中和抗体」又は「NAb」なる用語は、体液(例えば血清又は粘膜分泌物)から精製されたもの又は体液中に存在する抗体であって、特定の抗原を認識し、対象(例えばヒト)における前記抗原の作用を阻害する抗体を意味する。本願で使用する抗体は、単一抗体でもよいし、複数の抗体でもよい。
【0131】
「非中和抗体」又は「nnAb」なる用語は、中和抗体以外の結合抗体を意味する。
【0132】
「機能的に連結」。第1の核酸配列が第2の核酸配列に対して機能的関係で配置されているときに、第1の核酸配列は、第2の核酸配列と機能的に連結されている。例えば、プロモーターがコーディング配列の転写又は発現に影響を与える場合、前記プロモーターは、前記コーディング配列と機能的に連結されている。一般に、機能的に連結されたDNA配列は、相互に隣接しており、必要に応じて2個のタンパク質コーディング領域を結合するように同一読み枠内にある。
【0133】
「予防する」、「予防用」及び「予防」なる用語は、療法の適用又は併用療法の適用の結果として、対象における病態(例えば腫瘍又はそれに付随する病態)の発現若しくは発症を阻害すること、又は病態の1種以上の症状の再発、発症若しくは発現を予防することを意味する。
【0134】
「プロモーター」なる用語は、転写を誘導するために十分なポリヌクレオチドを意味する。
【0135】
「予防有効量」なる用語は、病態若しくはその症状(例えば腫瘍又はそれに付随する病態若しくは症状)の発現、再発若しくは発症を予防するため、又は別の療法の予防効果を強化若しくは改善するために十分な組成物(例えば組換えMVAベクター又は医薬組成物)の量を意味する。
【0136】
「組換え」なる用語は、自然界には存在しないか又は自然界には存在しない配置で別のポリヌクレオチドと連結している、半合成又は合成起源のポリヌクレオチドを意味する。
【0137】
ウイルスベクターに関して「組換え」なる用語は、例えば組換え核酸技術を使用して異種ウイルス核酸配列を発現するようにインビトロで操作されているベクター(例えばウイルスゲノム)を意味する。
【0138】
「調節配列」、「調節配列群」なる用語は、共同してコーディング配列の転写と翻訳を可能にするプロモーター配列、ポリアデニル化シグナル、転写終結配列、上流調節ドメイン、複製起点、配列内リボソーム進入部位(「IRES」)、エンハンサー等の総称である。選択された遺伝子を転写・翻訳できる限り、必ずしもこれらの調節配列の全てが存在している必要はない。
【0139】
「シャトルベクター」なる用語は、遺伝子材料をある宿主系から別の宿主系に移動させるために有用な遺伝子ベクター(例えばDNAプラスミド)を意味する。シャトルベクターは、少なくとも1種類の宿主(例えば大腸菌)において、(他のベクターの非共存下で)単独で複製することができる。MVAベクター作製に関して、シャトルベクターは、通常ではDNAプラスミドであり、大腸菌で操作した後に、MVAベクターを感染させた培養細胞に導入し、新規組換えMVAベクターを作製することができる。
【0140】
「サイレント突然変異」なる用語は、ヌクレオチド配列によりコードされるタンパク質の一次構造を変化させないヌクレオチド配列の変異を意味し、例えば(リジンをコードする)AAAから(同じくリジンをコードする)AAGへの変異を意味する。
【0141】
「対象」なる用語は、任意の哺乳動物を意味し、限定されないが、ヒト、家畜、及び動物園の動物、スポーツ用動物又はペット動物が挙げられ、例えばイヌ、ウマ、ネコ、ウシ、ラット、マウス、モルモット等が挙げられる。「危険のある」対象の判定は、対象又は医療機関の診断試験又は所見(例えば遺伝子試験、酵素又はタンパク質マーカー、マーカー検査履歴等)による任意の自覚的又は他覚的判定により実施することができる。
【0142】
「スーダンウイルス」なる用語は、スーダンエボラウイルス(Sudan ebolavirus)種のウイルスを意味し、(Kuhn,J.H.et al.2010 Arch Virol 155:2083-2103)に引証されているように国際ウイルス分類委員会(International Committee on Taxonomy of Viruses)により定められた意味である。
【0143】
「サロゲートエンドポイント」なる用語は、臨床効果の測定の代用として使用される臨床効果の測定以外の臨床測定を意味する。
【0144】
「サロゲートマーカー」なる用語は、対象がどのように感じ、機能し、又は生存するかの直接尺度である臨床的に有意義なエンドポイントの代用として臨床試験又は動物試験で使用され、治療の効果を予測できると期待される実験室測定又は身体的徴候を意味する(Katz,R.,NeuroRx 1:189-195(2004);New drug,antibiotic,and biological drug product regulations;accelerated approval-FDA.Final rule.Fed Regist 57:58942-58960,1992.)。
【0145】
「防御のサロゲートマーカー」なる用語は、新生物増殖の抑制又は予防の臨床的に有意義なエンドポイントの代用として、臨床試験又は動物試験で使用されるサロゲートマーカーを意味する。
【0146】
「同義コドン」なる用語は、同一アミノ酸をコードするために別の核酸配列をもつコドンを使用することを意味し、例えば(どちらもリジンをコードする)AAA及びAAGが挙げられる。コドン最適化は、あるタンパク質のコドンをベクター又は宿主細胞で最も頻用される同義コドンに置換する。
【0147】
「治療有効量」なる用語は、新生物を治療するために哺乳動物に投与したときに前記新生物のこのような治療を行うために十分な前記組成物(例えば組換えMVAベクター又は医薬組成物)の量を意味する。
【0148】
「治療用」又は「治療する」なる用語は、1種類以上の療法の適用の結果として新生物が消滅又は抑制され、前記新生物に起因する病態又は1種以上の症状の進行、重症度及び/又は持続時間が抑制又は改善されることを意味する。
【0149】
「ワクチン」なる用語は、対象に投与後に免疫応答を誘発し、免疫を付与するために使用される材料を意味する。このような免疫としては、ワクチン投与後に対象が免疫原に暴露されるときに生じる細胞性又は体液性免疫応答が挙げられる。
【0150】
「ワクチンインサート」なる用語は、組換えベクターに挿入されたときに発現されるようにプロモーターと機能的に連結された異種配列をコードする核酸配列を意味する。前記異種配列は、本願に記載する糖タンパク質又はマトリックスタンパク質をコードすることができる。
【0151】
「ウイルス様粒子」又は「VLP」なる用語は、抗原的及び形態的に天然ウイルスに似た構造を意味する。
【0152】
II.腫瘍関連抗原
本発明の組成物は、腫瘍関連抗原に対する免疫応答を誘導するために有用である。
【0153】
特定の実施形態において、前記ベクターは、MUC-1を発現する。1実施形態において、前記ベクターは、低グリコシル化型のMUC-1を発現する。MUC1は、ほぼ全ての上皮細胞に存在するが、がん細胞では過剰発現され、その会合体であるグリカンは、非腫瘍関連MUC1のグリカンよりも短い(Gaidzik N et al.2013,Chem Soc Rev.42(10):4421-42)。
【0154】
膜貫通型糖タンパク質であるムチン1(MUC1)は、種々の上皮がんで異常にグリコシル化されて過剰発現され、この疾患の進行に極めて重要な役割を果たす。腫瘍関連MUC1は、その生化学的特徴、細胞内分布及び機能に関して正常細胞で発現されるMUC1と相違する。がん細胞において、MUC1は、細胞内シグナル伝達経路に関与し、その標的遺伝子の発現を転写レベル及び転写後レベルの両者で制御する(Nath,S.,Trends in Mol Med.,Volume 20,Issue 6,p332-342,June 2014)。
【0155】
A.TAAの免疫原性断片
種々の実施形態では、本願に記載するMVAベクターにより、TAAの免疫原性断片を発現させることができる。
【0156】
所定の実施形態では、本願に記載するMVAベクターにより、表1に記載するもの等の免疫原性断片を発現させることができる。
【0157】
【表1】
【0158】
1実施形態において、前記ベクターは、MUC1の免疫原性細胞外ドメイン断片を発現する。
【0159】
1実施形態において、前記ベクターは、配列
【0160】
【化1】
からなるMUC1の細胞外ドメイン断片を発現する。
【0161】
1実施形態において、前記ベクターは、配列
【0162】
【化2】
からなるMUC1の細胞外ドメイン断片を発現する。
【0163】
1実施形態において、前記ベクターは、配列
【0164】
【化3】
からなるMUC1の細胞外ドメイン断片を発現する。
【0165】
1実施形態において、前記ベクターは、配列
【0166】
【化4】
からなるMUC1の細胞外ドメイン断片を発現する。
【0167】
1実施形態において、前記ベクターは、MUC1の細胞内ドメイン断片を発現する。
【0168】
1実施形態において、ベクターは、MUC-1の細胞外断片と、MUC-1の細胞内断片と、マールブルグウイルスの糖タンパク質(GP)の膜貫通ドメインとを発現する。
【0169】
1実施形態において、ベクターは、TAAの細胞外断片と、TAAの細胞内断片と、マールブルグウイルスの糖タンパク質(GP)の膜貫通ドメインとを発現する。
【0170】
III.組換えウイルスベクター
1態様において、本発明は、腫瘍関連抗原又はその免疫原性断片をコードする1種以上の核酸配列を含む組換えウイルスベクターである。所定の実施形態において、前記組換えウイルスベクターは、ワクシニアウイルスベクターであり、より特定的には、腫瘍関連抗原又はその免疫原性断片をコードする1種以上の核酸配列を含むMVAベクターである。
【0171】
組換え遺伝子発現用途と組換え生ワクチンとしての潜在的用途とを目的とするウイルスベクターを作製するためにも、ワクシニアウイルスが使用されている(Mackett,M.et al 1982 PNAS USA 79:7415-7419;Smith,G.L.et al.1984 Biotech Genet Engin Rev 2:383-407)。このためには、DNA組換え技術により外来抗原をコードするDNA配列(遺伝子)をワクシニアウイルスのゲノムに導入する必要がある。前記遺伝子がウイルスの生活環に非必須のウイルスDNAの部位に組込まれるならば、新規に作製された組換えワクシニアウイルスを感染性にすること、即ち外来細胞に感染させ、したがって、組込まれたDNA配列を発現させることが可能である(EP特許出願第83,286号及び110,385号)。こうして作製された組換えワクシニアウイルスは、感染症の予防用生ワクチンとして使用することもできるし、真核細胞で異種タンパク質を作製するのに使用することもできる。
【0172】
天然痘ワクチン接種の望ましくない副作用を避けるために、数種のこのようなワクシニアウイルス株が開発されている。即ち、ニワトリ胚線維芽細胞でワクシニアウイルスアンカラ株(CVA)の長期連続継代により改変型ワクシニアアンカラ(MVA)が作製されている(Mayr,A.et al.1975 Infection 3:6-14;スイス特許第568,392号参照)。MVAウイルスは、アメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)からATCC No.:VR-1508として公共入手可能である。MVAは、良好な免疫原性を維持しながら、ビルレンスの低下と霊長類細胞における複製能の低下とにより明らかなように、高度に弱毒化されていることを特徴とする。MVAウイルスは、親CVA株に対するゲノムの変化を解明するように解析されている。ゲノムDNAの6カ所で合計31,000塩基対の主要な欠失(欠失I、II、III、IV、V及びVI)が確認されている(Meyer,H.et al.1991 J Gen Virol 72:1031-1038)。得られたMVAウイルスは、ニワトリ細胞に厳密に制限された宿主細胞となった。
【0173】
さらに、MVAは、非常に高度に弱毒化されていることを特徴とする。種々の動物モデルで試験した場合に、MVAは、免疫抑制動物でも無毒であることが分かった。さらに重要な点として、MVA株の優れた特性は、多数の臨床試験で実証されている(Mayr A.et al.1978 Zentralbl Bakteriol[B]167:375-390;Stickl et al.1974 Dtsch Med Wschr 99:2386-2392)。高リスク患者を含めた120,000人超におけるこれらの試験中に、MVAワクチンの使用による副作用はなかった。
【0174】
ヒト細胞におけるMVA複製は、感染後期に阻止され、成熟した感染性のビリオンへのアセンブリを防ぐことが判明した。一方、MVAは、非許容細胞でもウイルス遺伝子及び組換え遺伝子を高レベルで発現することができ、効率的で非常に安全な遺伝子発現ベクターとして機能することが報告されている(Sutter,G.and Moss,B.1992 PNAS USA 89:10847-10851)。さらに、MVAゲノム内の欠失部位IIIに外来DNA配列を挿入したMVAに基づいて、新規ワクシニアベクターワクチンが樹立されている(Sutter,G.et al.1994 Vaccine 12:1032-1040)。
【0175】
組換えMVAワクシニアウイルスは、以下に述べるように作製することができる。所定の挿入部位(例えばI8R/G1L等の2個の保存された必須MVA遺伝子間、再編成・改変型欠失部位III、又はMVAゲノム内の他の非必須部位)に隣接するMVA DNA配列の間に外来ポリペプチドをコードするDNA配列を挿入したDNAコンストラクトを作製し、MVAに感染させた細胞に導入し、相同組換えを行う。DNAコンストラクトが真核細胞に導入され、外来DNAがウイルスDNAと組換えられたら、方法自体は公知である方法により、好ましくはマーカーを使用して、所望の組換えワクシニアウイルスを単離することが可能である。挿入するDNAコンストラクトは、直鎖状でも環状でもよい。プラスミド又はポリメラーゼ連鎖反応産物が好ましい。組換えMVAベクターのこのような作製方法は、本願に援用するPCT公開WO/2006/026667に記載されている。DNAコンストラクトは、天然に存在する欠失の左右両側に配置された配列を含む。天然に存在する欠失の両側の配列の間に、外来DNA配列を挿入する。DNA配列又は遺伝子を発現させるためには、遺伝子の転写に必要な調節配列をDNAに存在させることが必要である。このような調節配列(プロモーターと呼ぶ)は、当業者に公知であり、例えばEP-A-198,328に記載されているようなワクシニア11kDa遺伝子の調節配列及び7.5kDa遺伝子の調節配列(EP-A-110,385)が挙げられる。例えばリン酸カルシウム沈殿法(Graham et al.1973 Virol 52:456-467;Wigler et al.1979 Cell 16:777-785)、エレクトロポレーション(Neumann et al.1982 EMBO J.1:841-845)、マイクロインジェクション(Graessmann et al.1983 Meth Enzymol 101:482-492)、リポソーム(Straubinger et al.1983 Meth Enzymol 101:512-527)、スフェロプラスト(Schaffher 1980 PNAS USA 77:2163-2167)又は当業者に公知の他の方法を用いて、トランスフェクションによりDNAコンストラクトをMVA感染細胞に導入することができる。
【0176】
本願に記載・試験するMVAベクターは、意外にも単回プライム又は同種プライム/ブーストレジメン後に有効であることが判明した。他のMVAベクターデザインでは、異種プライム/ブーストレジメンが必要であり、さらに他の試験報告では、MVAベクターで有効な免疫応答を誘導することができなかった。これに対して、本発明のMVAベクターデザイン及び製造方法は、有効なT細胞免疫応答及び抗体免疫応答を誘発するために有効なMVAワクチンベクターを作製するために有用である。さらに、単回同種プライムブースト後に有効な免疫応答及び抗体産生を誘発することが可能なMVAワクチンベクターの有用性は、材料の使用、商品化及び特に第三世界感染地への輸送等の点で有意義である。
【0177】
1実施形態において、本発明は、腫瘍関連抗原又はその免疫原性断片をコードする1種以上の核酸配列を含む組換えウイルスベクター(例えばMVAベクター)である。前記ウイルスベクター(例えばMVAベクター)は、当業者に公知の従来の技術を使用して作製することができる。前記1種以上の異種遺伝子インサートは、所望の免疫原性をもつポリペプチド、即ちその投与により免疫反応、細胞性免疫及び/又は体液性免疫をインビボで誘導することができるポリペプチドをコードする。免疫原性をもつポリペプチドをコードする遺伝子を導入するウイルスベクター(例えばMVAベクター)の遺伝子領域の両側に、必須領域を配置する。免疫原性をもつポリペプチドをコードする遺伝子の導入では、所望の免疫原性をもつポリペプチドをコードする遺伝子の上流に、適切なプロモーターを機能的に連結することができる。
【0178】
腫瘍関連抗原又はその免疫原性断片をコードする前記1種以上の核酸配列は、任意のTAAから選択することができる。1実施形態において、前記1種以上のTAA又はその免疫原性断片は、MUC1、MUC1の細胞外断片、MUC1の細胞内断片、腫瘍胎児抗原/未成熟ラミニン受容体タンパク質(OFA/iLRP)、OFA/iLRPの細胞外断片、OFA/iLRPの細胞内断片、がん胎児性抗原(CEA)、CEAの細胞外断片、CEAの細胞内断片又はその組合せからなる群から選択される。代表的な実施形態において、前記遺伝子は投与した対象に免疫応答を提供すること、より特定的には、前記対象に防御及び/又は治療効果を提供することが可能な免疫応答を誘導することが可能なポリペプチド又はタンパク質をコードする。
【0179】
1実施形態において、前記核酸配列は、MUC1をコードする。前記異種遺伝子インサートは、ポックスウイルス発現系に適合可能なプロモーターの制御下で前記ベクターの1カ所以上の欠失部位に挿入されている。
【0180】
別の実施形態において、前記核酸配列は、MUC1の免疫原性断片をコードする。
【0181】
1実施形態において、前記ベクターは、MUC1の免疫原性細胞外ドメイン断片を発現する。
【0182】
1実施形態において、前記ベクターは、配列
【0183】
【化5】
からなるMUC1の細胞外ドメイン断片を発現する。
【0184】
1実施形態において、前記ベクターは、配列
【0185】
【化6】
からなるMUC1の細胞外ドメイン断片を発現する。
【0186】
1実施形態において、前記ベクターは、配列
【0187】
【化7】
からなるMUC1の細胞外ドメイン断片を発現する。
【0188】
1実施形態において、前記ベクターは、配列
【0189】
【化8】
からなるMUC1の細胞外ドメイン断片を発現する。
【0190】
1実施形態において、前記ベクターは、MUC1の細胞内ドメイン断片を発現する。
【0191】
1実施形態において、前記核酸配列は、MUC1の細胞外断片及びMUC1の細胞内断片をコードする。
【0192】
1実施形態において、前記核酸配列は、マールブルグウイルスの糖タンパク質(GP)の膜貫通ドメインをコードする。
【0193】
1実施形態において、前記核酸配列は、MUC1の免疫原性細胞外ドメイン配列及びマールブルグウイルスの糖タンパク質(GP)の膜貫通ドメインをコードする。
【0194】
1実施形態において、前記核酸配列はMUC1の免疫原性細胞外ドメイン配列と、マールブルグウイルスの糖タンパク質(GP)の膜貫通ドメインと、MUC1の細胞内ドメイン配列とをコードする。
【0195】
1実施形態において、前記核酸配列は、配列
【0196】
【化9】
をもつMUC1の断片を含むMUC1の免疫原性細胞外ドメイン配列と、マールブルグウイルスの糖タンパク質(GP)の膜貫通ドメインと、MUC1の細胞内ドメイン配列とをコードする。
【0197】
1実施形態において、前記欠失部位IIIは、非必須フランキング配列を除去するように再編成・改変されている。
【0198】
代表的な実施形態において、前記ワクチンは、TAAを発現するように作製されており、例えばシャトルベクターpGeo-MUC1を使用して2個の保存された必須MVA遺伝子(I8R及びG1L)の間に挿入されたMUC1及びシャトルベクターpGeo-MUC1を使用して欠失部位IIIに挿入されたMUC1を、発現するように作製される。pGeo-MUC1は、細菌でベクターを複製可能にするアンピシリン耐性マーカーと、ベクターをMVAゲノム内の特定の位置と組換え可能にする2個のフランキング配列と、組換えMVAの選択を可能にする緑色蛍光タンパク質(GFP)選択マーカーと、MUC1をMVAゲノムに挿入後にMVAベクターからGFP配列を除去できるようにするMVA配列のフランク1の部分に相同な配列と、挿入した異種遺伝子インサートの転写を可能にする改変型H5(mH5)プロモーターと、TAA配列とから作製される。
【0199】
所定の実施形態において、前記ポリペプチド又は前記ポリペプチドをコードする核酸配列は、突然変異又は欠失(例えば内部欠失、アミノ末端若しくはカルボキシ末端の短縮、又は点突然変異)を含んでいてもよい。
【0200】
前記組換えウイルスベクターに導入される前記1個以上の遺伝子は、細胞におけるその発現を誘導する調節配列の制御下にある。
【0201】
前記ウイルスベクターの核酸材料は、例えば脂質膜に封入されてもよいし、1種以上のウイルスポリペプチドを包み込むことができる構造タンパク質(例えばカプシドタンパク質)に封入されてもよい。
【0202】
代表的な実施形態において、本発明は、TAAに由来する1種以上の遺伝子又は前記1種以上の遺伝子によりコードされる1種以上のポリペプチドを含む、組換えウイルスベクター(例えば組換えMVAベクター)である。
【0203】
多数のTAAの核酸配列が公開されており、例えばGenBank及びPubMed等の種々のデータベースから入手可能である。MUC1を含む代表的なGenBankリファレンスとしては、アクセッション番号NM_001204285に対応するものが挙げられる。
【0204】
所定の実施形態において、前記1種以上の遺伝子は、選択されたTAA又は免疫原活性を維持するその免疫原性断片の少なくとも20個、25個、30個、35個、40個、45個、50個、55個、60個、65個又は70個の連続残基にわたって選択されたTAAと実質的に一致する(例えば少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%又は100%一致する)、ポリペプチド又はその断片をコードする。
【0205】
1実施形態において、TAA又はその免疫原性断片をコードする配列は、前記MVAベクターの欠失部位I、II、III、IV、V又はVIに挿入されている。
【0206】
1実施形態において、TAA又はその免疫原性断片をコードする配列は、前記MVAベクターのI8RとG1Lとの間、又は前記MVAベクターの再編成・改変型欠失部位IIIに挿入されており、前記MVAベクターのI8RとG1Lとの間、又は前記MVAベクターの再編成・改変型欠失部位IIIにはTAA又はその免疫原性断片をコードする第2の配列が挿入されている。
【0207】
1実施形態において、前記組換えベクターは、ポックスウイルス発現系に適合可能なプロモーターと機能的に連結されたTAA又はその免疫原性断片をコードする核酸配列を第1の欠失部位に含み、ポックスウイルス発現系に適合可能なプロモーターと機能的に連結されたVLP形成タンパク質をコードする核酸配列を第2の欠失部位に含む。
【0208】
代表的な実施形態において、本発明は、細胞におけるその発現を誘導する調節配列の制御下にTAA又はその免疫原性断片をコードする少なくとも1種の異種核酸配列(例えば1種以上の配列)を含む組換えMVAベクターである。前記配列は、例えばPm2H5、PsynII又はmH5プロモーターからなる群から選択されるプロモーターの制御下におくことができる。
【0209】
本発明の組換えウイルスベクターを、対象の細胞に感染させるために使用することができ、その結果、ウイルスベクターの1種以上の異種配列(例えばTAA又はその免疫原性断片)からタンパク質産物への翻訳が促進される。本願にさらに記載するように、前記組換えウイルスベクターを、対象の1個以上の細胞に感染させるように対象に投与することができ、その結果、ウイルスベクターの1種以上のウイルス遺伝子の発現が促進され、新生物に対して治療効果又は防御効果をもつ免疫応答が賦活される。
【0210】
1実施形態において、前記組換えMVAワクチンは、前記TAA又はその免疫原性断片を含むウイルス様粒子(VLP)にアセンブリされたタンパク質を発現する。特定の理論に拘泥する意図はないが、前記TAAは、防御免疫応答を誘発するように機能し、前記マトリックスタンパク質は、VLPのアセンブリを可能にすると共にT細胞免疫応答の標的として機能し、防御免疫応答が強化されると共に交差防御が提供されると考えられる。
【0211】
1実施形態において、前記マトリックスタンパク質は、マールブルグウイルスマトリックスタンパク質である。
【0212】
1実施形態において、前記マトリックスタンパク質は、エボラウイルスマトリックスタンパク質である。
【0213】
1実施形態において、前記マトリックスタンパク質は、スーダンウイルスマトリックスタンパク質である。
【0214】
1実施形態において、前記マトリックスタンパク質は、1型ヒト免疫不全ウイルス(HIV-1)マトリックスタンパク質である。
【0215】
1実施形態において、前記マトリックスタンパク質は、gag遺伝子によりコードされる1型ヒト免疫不全ウイルス(HIV-1)マトリックスタンパク質である。
【0216】
1実施形態において、前記マトリックスタンパク質は、ラッサウイルスマトリックスタンパク質である。
【0217】
1実施形態において、前記マトリックスタンパク質は、ラッサウイルスZタンパク質である。
【0218】
1実施形態において、前記マトリックスタンパク質はラッサウイルスZタンパク質の断片である。
【0219】
1実施形態において、前記マトリックスタンパク質は、フィロウイルス科(Filoviridae)ウイルスファミリーにおけるウイルスのマトリックスタンパク質である。
【0220】
1実施形態において、前記マトリックスタンパク質は、レトロウイルス科(Retroviridae)ウイルスファミリーにおけるウイルスのマトリックスタンパク質である。
【0221】
1実施形態において、前記マトリックスタンパク質は、アレナウイルス科(Arenaviridae)ウイルスファミリーにおけるウイルスのマトリックスタンパク質である。
【0222】
1実施形態において、前記マトリックスタンパク質は、フラビウイルス科(Flaviviridae)ウイルスファミリーにおけるウイルスのマトリックスタンパク質である。
【0223】
1種以上の核酸配列を、MVAベクター用に最適化することができる。最適化としては、天然配列に由来する選択されたコドンを宿主ベクター系により最適に発現される同義コドンに置換するためにサイレント突然変異を利用する、コドン最適化が挙げられる。他の型の最適化としては、ホモポリマー連続部分又は転写終結モチーフに割り込むためにサイレント突然変異を使用する方法が挙げられる。これらの最適化ストラテジーは、各々遺伝子の安定性を改善することができ、転写産物の安定性を改善することができ、又は配列からのタンパク質発現レベルを改善することができる。代表的な実施形態では、TAA配列中のホモポリマー連続部分の数を減らしてコンストラクトを安定化させる。ワクシニア終結シグナルと同様の何らかの配列に、サイレント突然変異を導入してもよい。分泌型ではなく膜貫通型の任意のTAAを発現させるために、ヌクレオチドを追加してもよい。
【0224】
代表的な実施形態では、前記配列をMVAで発現できるようにコドン最適化し、フレームシフト突然変異による発現低下を最小限にするために、デオキシグアノシン≧5個と、デオキシシチジン≧5個と、デオキシアデノシン≧5個と、デオキシチミジン≧5個との連続を含む配列にサイレント突然変異により割り込み、分泌型ではなく膜貫通型のタンパク質を発現させるためにヌクレオチドの追加によりGP配列を改変する。
【0225】
1実施形態において、本発明は、1価であるワクチンベクター組成物を提供する。本願で使用する1価なる用語は、1種のTAAに由来する配列を含むワクチンベクター組成物を意味する。
【0226】
別の実施形態において、本発明は、2価であるワクチンを提供する。本願で使用する2価なる用語は、異なるTAAに由来する配列をもつ2個のベクターを含むワクチンベクター組成物を意味する。
【0227】
別の実施形態において、本発明は、3価であるワクチンを提供する。本願で使用する3価なる用語は、異なるTAAに由来する配列をもつ3個のベクターを含むワクチンベクター組成物を意味する。
【0228】
別の実施形態において、本発明は、4価であるワクチンを提供する。本願で使用する4価なる用語は、異なるTAAに由来する配列をもつ4個のベクターを含むワクチンベクター組成物を意味する。本願で使用する価数4と4価なる用語とは、同義である。
【0229】
本発明は、上記組換えウイルスベクターを含む宿主細胞及び前記組換えウイルスベクターを感染させた宿主から作製される単離ビリオンにも及ぶ。
【0230】
1実施形態において、前記TAAは、コア1β3ガラクトシルトランスフェラーゼ(Tシンターゼ)又はCOSMCに対するsiRNAにより過剰発現される。COSMCは、ムチン型O-グリカン生合成中にTn抗原(GalNAcα1-Ser/Thr-R)をガラクトシル化してコア1Galβ1-3GalNAcα1-Ser/Thr(T抗原)を形成する唯一の酵素である活性型Tシンターゼの発現に必要であると考えられている分子シャペロンである(Wang et al.Proc Natl Acad Sci U S A.2010 May 18;107(20):9228-9233)。
【0231】
別の実施形態において、前記TAAは、シアリルトランスフェラーゼ1により過剰発現される。シアリルトランスフェラーゼは、シアリル酸含有分子の細胞内濃度を調節する主要酵素である。
【0232】
特定の実施形態において、前記シアリルトランスフェラーゼは、ST6GALNAC1である。
【0233】
別の実施形態において、前記TAAは、シアリルトランスフェラーゼ1及びコア1β3ガラクトシルトランスフェラーゼ(Tシンターゼ)又はCOSMC(Tシンターゼ特異的分子シャペロン;C1GALT1C1)に対するsiRNAにより過剰発現される。
【0234】
IV.医薬組成物
本発明の組換えウイルスベクターは、単独で又は併用して、獣医学用又は人体用医薬組成物として容易に製剤化される。前記医薬組成物は、薬学的に許容される希釈剤、賦形剤、担体又はアジュバントを含有することができる。
【0235】
1実施形態において、本発明は、新生物を防御及び/又は治療するために有効であり、少なくとも1種のTAAポリペプチド(例えばTAA)又はその免疫原性断片を発現する組換えMVAベクターを含むワクチンである。前記ワクチン組成物は、1種以上の別の治療剤を含有していてもよい。
【0236】
前記医薬組成物は、1種、2種、3種、4種又は5種以上の異なる組換えMVAベクターを含有することができる。
【0237】
1実施形態において、本発明は、1価であるワクチンベクター組成物を提供する。本願で使用する1価なる用語は、1種類のTAA配列を含むワクチンベクター組成物を意味する。
【0238】
別の実施形態において、本発明は、2価であるワクチンを提供する。本願で使用する2価なる用語は、異なるTAAに由来する配列をもつ2個のベクターを含むワクチンベクター組成物を意味する。
【0239】
別の実施形態において、本発明は、3価であるワクチンを提供する。本願で使用する3価なる用語は、異なるTAAに由来する配列をもつ3個のベクターを含むワクチンベクター組成物を意味する。
【0240】
別の実施形態において、本発明は、4価であるワクチンを提供する。本願で使用する4価なる用語は、異なるTAAに由来する配列をもつ4個のベクターを含むワクチンベクター組成物を意味する。本願で使用する価数4と4価なる用語とは、同義である。
【0241】
本願で使用する「薬学的に許容される担体」なる用語は、例えば筋肉内、関節内(関節の内側)、静脈内、皮内、腹腔内及び皮下経路等の非経口投与に適したもの等の標準医薬担体のいずれかを表す。このような製剤の例としては、酸化防止剤、緩衝剤、制菌剤及び製剤を所期レシピエントの血液と等張にする溶質を含有する水性及び非水性の等張滅菌注射溶液と、懸濁化剤、溶解補助剤、増粘剤、安定剤及び防腐剤を添加してもよい水性及び非水性の滅菌懸濁剤とが挙げられる。代表的な薬学的に許容される担体の1例は、生理食塩水である。
【0242】
他の生理的に許容される希釈剤、賦形剤、担体又はアジュバント及びそれらの製剤も、当業者に公知である。
【0243】
1実施形態では、アジュバントを免疫応答エンハンサーとして使用する。種々の実施形態において、前記免疫応答エンハンサーはミョウバン系アジュバント、油性アジュバント、Specol、RIBI、TiterMax、Montanide ISA50又はMontanide ISA720、GM-CSF、非イオン性ブロックコポリマー系アジュバント、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDA)系アジュバントであるAS-1、AS-2、Ribi Adjuvant system系アジュバント、QS21、Quil A、SAF(マイクロフルイダイズド型のSyntexアジュバント(SAF-m))、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDA)、ヒト補体系アジュバントであるm.vaccae、ISCOMS、MF-59、SBAS-2、SBAS-4、Enhanzyn(R)、RC-529、AGP類、MPL-SE、QS7、エスチン、ジギトニン、並びにカスミソウ属(Gypsophila)及びキノア(Chenopodium quinoa)のサポニンからなる群から選択される。
【0244】
本願に記載する方法で利用される組成物は、例えば非経口、筋肉内、動脈内、血管内、静脈内、腹腔内、皮下、皮膚、経皮、眼内、吸入、口腔、舌下、舌周囲、鼻腔内、局所投与及び経口投与から選択される経路により投与され得る。好ましい投与方法を、種々の因子(例えば投与する組成物の成分及び治療する病態の重症度)により変えることができる。経口投与に適した製剤を、有効量の前記組成物を希釈剤(例えば水、生理食塩水又はPEG-400)に溶解したもの等の溶液剤、各々規定量の前記ワクチンを含むカプセル剤、サシェ剤又は錠剤から構成することができる。医薬組成物は、例えば気管支への吸入用エアゾール製剤でもよい。加圧した薬学的に、許容される噴射剤(例えばジクロロジフルオロメタン、プロパン又は窒素)とエアゾール製剤とを混合すればよい。
【0245】
本発明の目的では、治療剤又は生物活性剤を送達するのに適した医薬組成物としては、例えば錠剤、ゼラチンカプセル剤、カプセル剤、丸剤、散剤、顆粒剤、懸濁剤、乳剤、溶液剤、ゲル剤、ハイドロゲル剤、経口ゲル剤、ペースト剤、点眼剤、軟膏剤、クリーム剤、プラスター剤、ドレンチ剤、デリバリーデバイス、坐剤、浣腸剤、注射剤、インプラント剤、スプレー剤又はエアゾール剤を挙げることができる。これらの製剤は、いずれも当分野で周知の公認方法により製造され得る。例えば、各々本願に援用するRemington:The Science and Practice of Pharmacy(21st ed.),ed.A.R.Gennaro,Lippincott Williams & Wilkins,2005及びEncyclopedia of Pharmaceutical Technology,ed.J.Swarbrick,Informa Healthcare,2006参照。
【0246】
本発明の組成物を免疫賦活剤又はアジュバントと併用投与するならば、組成物(例えばワクチン)の免疫原性を有意に改善することができる。当業者に周知の適切なアジュバントとしては、例えばリン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、QS21、Quil A(並びにその誘導体及び成分)、リン酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化亜鉛、糖脂質アナログ、アミノ酸のオクタデシルエステル、ムラミルジペプチド、ポリホスファゼン、リポタンパク質、ISCOM-Matrix、DC-Chol、DDA、サイトカイン及び他のアジュバント並びにその誘導体が挙げられる。
【0247】
本願に記載する本発明の医薬組成物は、投与(例えば標的送達)直後に前記組成物を放出するように製剤化することもできるし、制御又は長期放出製剤を使用して投与後の任意の所定の期間に前記組成物を放出するように製剤化することもできる。前記医薬組成物を単独又は併用投与した場合に、(i)治療指数が狭い場合(例えば有害な副作用又は毒性反応を生じる血漿中濃度と、治療効果を生じる血漿中濃度の差が小さい場合(なお、一般に治療指数TIは半数致死用量(LD50)と半数有効用量(ED50)との比として定義される));(ii)消化管吸収部位が狭い場合;又は(iii)生物学的半減期が短いため、治療レベルを維持するには1日の投与頻度を高くする必要がある場合には、前記組成物を制御又は長期放出製剤として投与すると有用である。
【0248】
放出速度が医薬組成物の代謝速度を上回るように制御又は長期放出を得るためには、多くのストラテジーを採用することができる。例えば、製剤パラメーター及び成分(例えば適切な制御放出組成物及びコーティング)の適切な選択により、制御放出を得ることができる。適切な製剤は、当業者に公知である。例としては、1単位又は複数単位の錠剤又はカプセル剤組成物、油性溶液剤、懸濁剤、乳剤、マイクロカプセル剤、マイクロスフェア、ナノ粒子、パッチ及びリポソームが挙げられる。
【0249】
経口投与に適した製剤は、(a)有効量の前記ワクチンを水、生理食塩水又はPEG400等の希釈剤に溶解したもの等の溶液剤;(b)各々規定量の前記ワクチンを液体、固体、顆粒又はゼラチンとして含むカプセル剤、サシェ剤又は錠剤;(c)適切な液体を媒体とする懸濁剤;(d)適切な乳剤;及び(e)キチン等の多糖ポリマーから構成することができる。前記ワクチンを、単独で又は他の適切な成分と共に吸入により例えば気管支に投与するエアゾール製剤に製剤化してもよい。加圧したジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素等の許容される噴射剤に、エアゾール製剤を注入することができる。
【0250】
直腸投与に適した製剤としては、例えば前記ワクチンと坐剤基剤から構成される坐剤が挙げられる。適切な坐剤基剤としては、天然又は合成トリグリセリド又はパラフィン系炭化水素が挙げられる。さらに、前記ワクチン及び例えば液体トリグリセリド、ポリエチレングリコール及びパラフィン系炭化水素等の基剤の組合せから構成されるゼラチン直腸カプセル剤を使用することも可能である。
【0251】
免疫原性をさらに強化するために、本発明のワクチンをサイトカインと併用投与してもよい。サイトカインは、当業者に公知の方法により投与され得、例えば核酸分子をプラスミドとして投与されてもよいし、タンパク質又は融合タンパク質として投与されてもよい。
【0252】
本発明は、本発明のワクチンを含むキットも提供する。例えば、ワクチンと使用説明書とを含むキットが、本発明の範囲に含まれる。
【0253】
V.チェックポイント阻害剤及び化学療法との併用
1実施形態において、上記方法は、前記対象に標準処置療法を適用することをさらに含む。実施形態によっては、標準処置療法は、外科処置、放射線、高周波、凍結療法、超音波アブレーション、全身化学療法又はその組合せである。
【0254】
本願に記載するベクター組成物は、他の活性成分と組合せた医薬組成物として提供され得る。他の活性剤は、制限なく、限定されないが、放射性核種、免疫調節剤、抗動脈硬化薬、サイトカイン、ケモカイン、成長因子、ホルモン、薬物、プロドラッグ、酵素、オリゴヌクレオチド、siRNA、アポトーシス促進剤、光活性治療剤、細胞毒性剤、化学療法剤、毒素、他の抗体又はその抗原結合断片が挙げられる。
【0255】
別の実施形態において、前記医薬組成物は、本願に記載するTAA発現ベクターと、腫瘍クリアランスを増加するようにCD4+、CD8+エフェクターT細胞を活性化させるためのチェックポイント阻害剤とを含有する。
【0256】
種々の実施形態において、前記チェックポイント阻害剤は、抗体である。
【0257】
抗体は、獲得免疫応答の主要成分であり、外来抗原の認識と免疫応答の賦活との両面で中心的な役割を果たす。多くの免疫療法レジメンは、抗体を利用している。併用療法として有用な多数のFDA承認抗体が、存在する。これらの抗体は、アレムツズマブ、アテゾリズマブ、イピリムマブ、ニボルマブ、オファツムマブ、ペムブロリズマブ又はリツキシマブから選択され得る。
【0258】
PD-1又はPD-L1を標的とするモノクローナル抗体は、がん細胞に対する免疫応答をブーストすることができ、所定のがんの治療に非常に有望であることが分かっている。PD-1を標的とする抗体の例としては、ペムブロリズマブとニボルマブとが挙げられる。PD-L1を標的とする抗体の1例は、アテゾリズマブである。
【0259】
CTLA-4は、所定のT細胞表面に発現する別のタンパク質であり、免疫系を抑制するための1種の「オフスイッチ」として作用する。イピリムマブは、CTLA-4と結合して活性を阻害し、新生物に対する免疫応答をブーストするモノクローナル抗体である。
【0260】
別の実施形態では、樹状細胞がT細胞増殖を誘導する能力を強化するために、前記免疫原性ベクター組成物をアジュバント化学療法と併用投与する。
【0261】
種々の実施形態では、化学療法の前、後又はそれと同時に前記ベクター組成物を投与する。
【0262】
所定の実施形態において、本発明の組成物は、腫瘍又はがんをもつ対象に化学療法又は放射線療法を行う必要を減らすことが可能である。他の実施形態において、前記組成物は、腫瘍又はがんをもつ対象において放射線又は化学療法に伴う副作用の重篤度を軽減することが可能である。
【0263】
本発明の医薬組成物を、単独で投与することもできるし、他の型のがん治療ストラテジー(例えば放射線療法、化学療法、ホルモン療法、免疫療法及び本願に記載するような抗腫瘍剤)と併用投与することもできる。
【0264】
これらの方法で有用な適切な化学療法剤としては、ソラフェニブ、レゴラフェニブ、イマチニブ、エリブリン、ゲムシタビン、カペシタビン、パゾパニブ、ラパチニブ、ダブラフェニブ、スニチニブリンゴ酸塩、クリゾチニブ、エベロリムス、テムシロリムス、シロリムス、アキシチニブ、ゲフィチニブ、アナストロゾール、ビカルタミド、フルベストラント、ラリトレキセド、ペメトレキセド、ゴセレリン酢酸塩、エルロチニブ、ベムラフェニブ、ビスモデギブ、タモキシフェンクエン酸塩、パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセル、オキサリプラチン、ジブ-アフリベルセプト、ベバシズマブ、トラスツズマブ、ペルツズマブ、パニツムマブ、タキサン、ブレオマイシン、メルファラン、プルンバギン、カンプトサール、マイトマイシンC、ミトキサントロン、スマンクス、ドキソルビシン、ペグ化ドキソルビシン、フォルフィリ、5-フルオロウラシル、テモゾロミド、パシレオチド、テガフール、ギメラシル、オテラシル、イトラコナゾール、ボルテゾミブ、レナリドミド、イリノテカン、エピルビシン及びロミデプシンが挙げられる。好ましい化学療法剤はカルボプラチン、フルオロウラシル、ビンブラスチン、ゲムシタビン、シクロホスファミド、ドキソルビシン、メトトレキサート、パクリタキセル、トポテカン、エトポシド、メトトレキサート、ソラフェニブ、イリノテカン及びTarcevaである。
【0265】
がん患者で一般的に使用されているがん化学療法薬の一般名としては、ドキソルビシン、エピルビシン、5-フルオロウラシル、パクリタキセル、ドセタキセル、シスプラチン、ブレオマイシン、メルファラン、プルンバギン、イリノテカン、マイトマイシンC及びミトキサントロンが挙げられる。例えば、使用可能なもの及び臨床試験段階にあると思われる他のがん化学療法薬をいくつか挙げると、レスミノスタット、タスキニモド、レファメチニブ、ラパチニブ、Tyverb、Arenegyr、パシレオチド、Signifor、チシリムマブ、トレメリムマブ、ランソプラゾール、PrevOnco、ABT-869、リニファニブ、チバンチニブ、Tarceva、エルロチニブ、Stivarga、レゴラフェニブ、フルオロソラフェニブ、ブリバニブ、ドキソルビシンリポソーム製剤、レンバチニブ、ラムシルマブ、ペレチノイン、ルチコ、ムパルフォスタット、Teysuno、テガフール、ギメラシル、オテラシル及びオランチニブが挙げられる。
【0266】
本発明で使用することができる抗がん剤の商品名としては、NEXAVAR(ソラフェニブ)、STIVARGA(レゴラフェニブ)、AFFINITOR(エベロリムス)、GLEEVEC(イマチニブ)、HALAVEN(エリブリン)、ALIMTA(ペメトレキセド)、GEMZAR(ゲムシタビン)、VOTRIENT(パゾパニブ)、TYKERB(ラパチニブ)、TAFINIAR(ダブラフェニブ)、SUTENT(スニチニブリンゴ酸塩)、XALKORI(クリゾチニブ)、TORISEL(テムシロリムス)、INLYTA(アキシチニブ)、IRESSA(ゲフィチニブ)、ARIMEDEX(アナストロゾール)、CASODEX(ビカルタミド)、FASLODEX(フルベストラント)、TOMUDEX(ラリトレキセド)、ZOLADEX(ゴセレリン酢酸塩)、TARCEVA(エルロチニブ)、XELODA(カペシタビン)、ZELBROF(ベムラフェニブ)、ERIVEDGE(ビスモデギブ)、PERJETA(ペルツズマブ)、HERCEPTIN(トラスツズマブ)、TAXOTERE(ドセタキセル)、JEVTANA(カバジタキセル)、ELOXATIN(オキサリプラチン)、ZALTRAP(ジブ-アフリベルセプト)、AVASTIN(ベバシズマブ)、Nolvadex、Istubal及びVALODEX(タモキシフェンクエン酸塩)、TEMODAR(テモゾロミド)、SIGNIFOR(パシレオチド)、ベクティビックス(パニツムマブ)、ADRIAMYCIN(ドキソルビシン)、DOXIL(ペグ化ドキソルビシン)、ABRAXANE(パクリタキセル)、TEYSUNO(テガフール、ギメラシル、オテラシル)、ボルテゾミブ(Velcade)及びレナリドミドとの併用、ISTODAX(ロミデプシン)が挙げられる。
【0267】
ドキソルビシン(ADRIAMYCIN)及びDOXIL(ペグ化ドキソルビシンリポソーム製剤)ががん細胞を殺傷するために作用する方式は、DNAをインターカレートする方法であると考えられている。ドキソルビシンは、ニトロキシドフリーラジカルになることができ、及び/又はそれによってがん細胞中の細胞内フリーラジカル濃度を上昇させ、その結果、細胞損傷及びプログラム死を誘導することができるとも考えられる。ドキソルビシンには、心臓損傷等の潜在的に重大な全身副作用があるため、その使用が制限されている。
【0268】
5-フルオロウラシル(5-FU,Efudex)は、がんの治療に使用されるピリミジンアナログである。これは、自殺型阻害剤であり、チミジル酸シンターゼの不可逆的阻害により作用する。多くの抗がん剤と同様に、5-FUの効果は、全身で感じられるが、迅速に分裂することによりヌクレオチド合成機構の使用頻度が高いがん細胞等の細胞において、最もよく発揮される。5-FUは、身体の所々で迅速に分裂する非がん細胞(例えば消化管の内壁細胞)を殺傷する。フォルフィリは、5-FU、カンプトサール及びイリノテカン(ロイコボリン)の併用である。5-FUは、DNA分子に取込まれて合成を停止し、カンプトサールは、DNAの巻き戻し及び重複を防ぐトポイソメラーゼ阻害剤である。イリノテカン(フォリン酸、ロイコボリン)は、高用量の薬物メトトレキサートの「レスキュー」薬として使用されるビタミンB誘導体であり、5-FU(フルオロウラシル)の副作用を調節/増強/抑制する。マイトマイシンCは、強力なDNA架橋剤である。長期間使用すると、永続的な骨髄損傷を生じる恐れがある。また、肺線維症及び腎臓損傷を生じる恐れもある。
【0269】
タキサン系薬剤としては、パクリタキセル(Taxol)とドセタキセル(Taxotere)とが挙げられる。タキサン系は、細胞微小管機能を阻害する。微小管は、細胞分裂に不可欠である。タキサン系は、微小管におけるGDP結合型チューブリンを安定化させることにより、細胞分裂プロセスを阻害する。がん細胞は、分裂することができなくなる。しかし、タキサン系は、非がん細胞の細胞分裂も阻害する可能性がある。
【0270】
カルボプラチン及びオキサリプラチンを含むシスプラチン系は、有機白金錯体であり、インビボ反応し、DNAと結合して架橋を生じる。架橋したDNAは、がん細胞のアポトーシス(プログラム細胞死)を誘発する。しかし、シスプラチン系は、非がん細胞のアポトーシスも誘発する可能性がある。
【0271】
ブレオマイシンは、DNA主鎖切断を誘導する。ブレオマイシンは、DNA主鎖へのチミジンの取り込みも阻害するという報告もある。ブレオマイシンは、非がん細胞も殺傷する可能性がある。メルファラン(Alkeran)は、DNAのグアニン塩基にアルキル基を付加するナイトロジェンマスタードアルキル化剤である。メルファランの主な副作用としては、嘔吐、口内炎及び骨髄抑制が挙げられる。
【0272】
プルンバギンは、多数のがん細胞株で細胞周期停止及びアポトーシスを誘導することが示されている。同剤は、Akt/mTOR経路の阻害によりオートファジーを誘発する。同剤は、JNK依存性p53Ser15リン酸化によりG2/M細胞周期停止及びアポトーシスを誘導する。同剤は、オートファジー細胞死を促進する。同剤は、Akt/mTORシグナル伝達を阻害する。同剤は、PI5-キナーゼ依存的に細胞内ROS生成を誘導する。プルンバギンは、非がん細胞に対して毒素であり、遺伝毒素であり、突然変異原である。
【0273】
化学療法剤は、患者のがん細胞が感受性となり得る細胞経路標的に対するその特異性及び阻害能に基づいて選択され得る。本発明を実施する場合、化学療法剤は、mTORC、RAFキナーゼ、MEKキナーゼ、ホスホイノシトールキナーゼ3、線維芽細胞増殖因子受容体、マルチチロシンキナーゼ、ヒト上皮成長因子受容体、血管内皮細胞増殖因子、他の血管新生促進因子、熱ショックタンパク質;Smo(スムーズンド)受容体、FMS様チロシンキナーゼ3受容体、アポトーシスタンパク質阻害剤、サイクリン依存性キナーゼ、デアセチラーゼ、ALKチロシンキナーゼ受容体、セリン/スレオニンプロテインキナーゼPim-1、Porcupineアシルトランスフェラーゼ、ヘッジホッグ経路、プロテインキナーゼC、mDM2、グリピカン3、ChK1、肝細胞増殖因子MET受容体、上皮成長因子ドメイン様7、Notch経路、Srcファミリーキナーゼ、DNAメチルトランスフェラーゼ、DNAインターカレーター、チミジンシンターゼ、微小管機能阻害剤、DNA架橋剤、DNA主鎖切断剤、DNAアルキル化剤、JNK依存性p53Ser15リン酸化インデューサー、DNAトポイソメラーゼ阻害剤、Bcl-2及びフリーラジカル発生剤からなる群から選択される細胞経路標的を阻害するその能力により、選択することができる。
【0274】
1実施形態では、エピジェネティクスモジュレーターの前、後又はそれと同時に前記ベクター組成物を投与する。
【0275】
1実施形態では、DNAメチルトランスフェラーゼの阻害剤、ヒストンメチルトランスフェラーゼの阻害剤、ヒストンアセチルトランスフェラーゼの阻害剤、ヒストンデアセチラーゼの阻害剤及びリジンデメチラーゼの阻害剤からなる群から選択されるエピジェネティクスモジュレーターの前、後又はそれと同時に、前記ベクター組成物を投与する。
【0276】
1実施形態では、DNAメチルトランスフェラーゼの阻害剤の前、後又はそれと同時に、前記ベクター組成物を投与する。
【0277】
1実施形態では、ヒストンデアセチラーゼの阻害剤の前、後又はそれと同時に、前記ベクター組成物を投与する。
【0278】
VI.使用方法
本発明の組成物は、TAAに対する免疫応答を誘導するためのワクチンとして使用され得る。
【0279】
代表的な実施形態において、本発明は、処置を必要とする対象にTAAに対する免疫応答を誘導する方法を提供し、前記方法は、前記TAAに対する免疫応答を誘起するために有効な量の少なくとも1種のTAA又はその免疫原性断片をコードする組換えウイルスベクターを前記対象に投与することを含む。前記方法の結果として、前記対象は、前記TAAに対して部分的又は完全に免疫性となる。
【0280】
1実施形態において、本発明は、本願に記載する組成物を使用して対象における免疫応答を賦活する方法を提供する。実施形態によっては、本発明は、本願に記載する組成物を使用して対象における免疫応答を促進する方法を提供する。実施形態によっては、本発明は、本願に記載する組成物を使用して対象における免疫応答を増強する方法を提供する。実施形態によっては、本発明は、本願に記載する組成物を使用して対象における免疫応答を強化する方法を提供する。
【0281】
代表的な実施形態において、本発明は、処置を必要とする対象における新生物の治療、抑制、予防又は増殖遅延方法を提供し、前記方法は、治療有効量の本発明の組成物を前記対象に投与することを含む。治療結果として、対象の前記新生物に関連する疾患の治療プロファイルが改善される。
【0282】
代表的な実施形態において、本発明は、処置を必要とする対象におけるがんの治療方法を提供し、前記方法は、治療有効量の本発明の組成物を前記対象に投与することを含む。治療結果として、対象のがんの治療プロファイルが改善される。
【0283】
1実施形態において、前記方法は、前記1種以上の腫瘍の増殖を抑制することができ、前記1種以上の腫瘍を縮小させることができ、又は前記1種以上の腫瘍を消滅させることができる。例えば、腫瘍質量は、増加しない。所定の実施形態において、腫瘍は、その元の質量に比較して10%、25%、50%、75%、85%、90%、95%又は99%以上(又はその中間の任意の数値)縮小する。所定の実施形態において、前記縮小は、手術不能な腫瘍を必要に応じて切除できるようにするために十分である。実質的縮小の概念は、腫瘍等の身体的発育の減少を意味する「退縮」なる用語で表すこともできる。このような減少は、限定されないが、直径、質量(即ち重量)又は体積等の測定パラメーターの減少により判定することができる。この減少は、サイズが完全に小さくなるという意味ではなく、単に測定パラメーターが以前の測定よりも定量的に少なくなるという意味である。
【0284】
1実施形態において、前記方法は、腫瘍転移を予防することができる。
【0285】
代表的な実施形態において、本発明は、処置を必要とする対象における増殖性疾患の治療方法を提供し、前記方法は、治療有効量の本発明の組成物を前記対象に投与することを含む。本願で使用する「増殖性疾患」なる用語は、細胞集団の増殖が周囲の細胞よりも過剰になって調和しなくなる疾患を意味する。場合により、増殖性疾患は、腫瘍の形成をもたらす。実施形態により、前記腫瘍は、良性、前悪性又は悪性である。他の実施形態において、前記増殖性疾患は、自己免疫疾患、血管閉塞、再狭窄、アテローム動脈硬化症又は炎症性腸疾患である。1実施形態において、治療する自己免疫疾患は、I型自己免疫疾患又はII型自己免疫疾患又はIII型自己免疫疾患又はIV型自己免疫疾患からなる群から選択され得、例えば、多発性硬化症(MS)、関節リウマチ、糖尿病、I型糖尿病(真性糖尿病)、全身性エリテマトーデス(SLE)、慢性多発性関節炎、バセドウ病、自己免疫性慢性肝炎、潰瘍性大腸炎、I型アレルギー疾患、II型アレルギー疾患、III型アレルギー疾患、IV型アレルギー疾患、線維筋痛症、脱毛症、ベヒテレフ病、クローン病、重症筋無力症、神経皮膚炎、リウマチ性多発筋痛症、進行性全身性硬化症(PSS)、乾癬、ライター症候群、関節リウマチ、乾癬、血管炎等、又はII型糖尿病が挙げられる。
【0286】
1実施形態において、前記免疫応答は、体液性免疫応答、細胞性免疫応答又はその組合せである。
【0287】
特定の実施形態において、前記免疫応答は、前記TAAに対する結合抗体の産生を含む。
【0288】
特定の実施形態において、前記免疫応答は、前記TAAに対する中和抗体の産生を含む。
【0289】
特定の実施形態において、前記免疫応答は、前記TAAに対する非中和抗体の産生を含む。
【0290】
特定の実施形態において、前記免疫応答は、前記TAAに対する細胞介在性免疫応答の誘起を含む。
【0291】
特定の実施形態において、前記免疫応答は、前記TAAに対する中和抗体及び非中和抗体の産生を含む。
【0292】
特定の実施形態において、前記免疫応答は、前記TAAに対する中和抗体の産生及び細胞介在性免疫の誘起を含む。
【0293】
特定の実施形態において、前記免疫応答は、前記TAAに対する非中和抗体の産生及び細胞介在性免疫の誘起を含む。
【0294】
特定の実施形態において、前記免疫応答は、前記TAAに対する中和抗体の産生、非中和抗体の産生及び細胞介在性免疫の誘起を含む。
【0295】
所定の実施形態において、本発明の組成物は、新生物を発生する危険のある対象又は既に新生物をもつ対象を治療するためにワクチンとして使用され得る。前記組換えウイルスベクターは、TAAをコードする遺伝子若しくは配列、ウイルス様粒子(VLP)のアセンブリを促進するためのウイルスタンパク質又は前記TAAの発現及びグリコシル化を助長するための他の酵素を含む。
【0296】
一般的に、前記ワクチンは、混合物に含まれ、同時に投与されるが、別々に投与されてもよい。
【0297】
本願に記載する方法により治療する対象は、医師によりこのような病態をもつと診断された者(例えば新生物をもつ対象)とすることができる。診断は、任意の適切な手段により実施され得る。当業者に自明の通り、本発明により治療する対象は、標準検査により同定されたものでもよいし、検査を受けずに1種以上の危険因子の存在により危険が高いと同定されたものでもよい。
【0298】
例えば、まだ新生物をもっていないが、新生物を発生し易い対象又は他の点でその危険のある対象に予防投与を行うことができる。
【0299】
例えば、既に新生物をもつ対象に、対象の病態を改善するため又は安定化させるために、治療投与を行うことができる。その結果、治療プロファイルが改善される。場合により、任意の標準技術により測定した場合に、同等の未治療コントロールと比較して、治療後に疾患又はその症状を、例えば5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%又は100%改善することができる。
【0300】
例えば、がんの種類に応じて、治療プロファイルの改善は、がんの1種以上の症状の軽減、疾患の程度の低減、疾患の状態の安定化(即ち非増悪)、疾患進行の遅延若しくは減速、疾患状態の改善若しくは解消、検出可能であるか検出不能であるかに拘わらず(部分的又は完全な)寛解、腫瘍退縮、腫瘍増殖の抑制、腫瘍転移の抑制、がん細胞数の減少、末梢臓器への細胞がん細胞浸潤の抑制、無増悪期間(TTP)の改善、奏功率(RR)の改善、全生存期間(OS)の延長、次の治療開始までの期間(TNTT)の延長、若しくは最初の進行から次の治療開始までの期間の延長、又は上記の2種以上の組合せから選択することができる。
【0301】
他の実施形態では、治療の結果として、新生物に関連する疾患(例えばがん)の1種以上の症状を改善することができる。この実施形態によると、症状の改善又は不在を検出することにより、治療の確定を評価することができる。
【0302】
1実施形態において、本発明は、少なくとも1種のTAA又はその免疫原性断片をコードする組換えウイルスベクターを対象(例えばヒト)に投与することにより、前記対象に免疫応答を誘導する方法である。前記免疫応答は、細胞性免疫応答でも体液性免疫応答でもその組合せでもよい。
【0303】
前記組成物は、例えば(例えば筋肉内、動脈内、血管内、静脈内、腹腔内又は皮下)注射により投与することができる。
【0304】
当然のことながら、2種類以上の投与経路を利用して、本発明のワクチンを同時又は順次(例えばブースト)投与してもよい。さらに、タンパク質抗原、ワクシニアウイルス及び弱毒ウイルスをワクチンとして利用する等の従来の免疫アプローチと、本発明のワクチンとを併用してもよい。したがって、1実施形態では、本発明のワクチンを対象に投与(本発明のワクチンで対象を「プライム」)した後に、従来のワクチンを投与する(従来のワクチンで対象を「ブースト」する)。別の実施形態では、先ず従来のワクチンを対象に投与した後に、本発明のワクチンを投与する。さらに別の実施形態では、従来のワクチンと本発明のワクチンとを同時に投与する。
【0305】
特定のメカニズムに拘泥するものではないが、本願に記載する医薬組成物を接種すると、宿主の免疫系は、1種以上のTAA又はその免疫原性断片に特異的な分泌型及び血清型の抗体を産生し、1種以上のTAA又はその免疫原性断片に特異的な細胞介在性免疫応答を誘起することにより、前記ワクチンに応答すると考えられる。ワクチン接種の結果として、宿主は、1種以上のTAA又はその免疫原性断片に対して少なくとも部分的又は完全に免疫性になり、あるいは新生物に起因する中等度又は重度の疾患の発現に対して耐性になる。
【0306】
1態様では、新生物に関連する症状の1種以上を軽減するため、その重症度を低下させるため、又はその発生を抑制するための方法として、TAAの発現及び所望のグリコシル化とを助長する配列を任意に同時発現するTAA配列及びマトリックスタンパク質配列を含む組換えMVAウイルスベクターを含有する医薬組成物を、有効量投与することを含む方法が、提供される。
【0307】
別の態様において、本発明は、抗TAA免疫を提供する方法として、TAAを発現する組換えMVAワクチンと、VLPの形成を可能にするためのウイルスマトリックスタンパク質とを含有する医薬組成物を有効量投与することを含む方法を、提供する。
【0308】
同様に当然のことながら、本発明のワクチン組成物は、単回投与されてもよいし、複数回投与されてもよい。例えば、新生物を発生する危険が特に高い対象には、防御免疫応答を開始及び/又は維持するために、複数回免疫する必要があると思われる。分泌型及び血清型の結合抗体及び中和抗体の量とT細胞濃度とを測定することにより、誘導免疫レベルをモニターすることができ、所望の防御レベルを維持するために、必要に応じて投与量を調節又はワクチン接種を反復することができる。
【0309】
1実施形態では、少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回、少なくとも5回、少なくとも6回、少なくとも7回、少なくとも8回、又は9回以上投与を繰返す。
【0310】
1実施形態では、投与を2回繰返す。
【0311】
1実施形態では、約2~8回、約4~8回、又は約6~8回投与を行う。
【0312】
1実施形態では、約1~4週間、2~4週間、3~4週間、1週間、2週間、3週間、4週間又は4週間超の投与間隔を設ける。
【0313】
特定の1実施形態では、2回の投与の間に4週間の間隔を使用する。
【0314】
1実施形態において、本発明は、治療進捗のモニター方法を提供する。代表的な実施形態において、前記モニターは、生物学的活性、免疫応答及び/又は臨床応答を主体に重点をおく。
【0315】
1実施形態において、前記生物学的活性は、例えばアジュバント疾患状態又は進行した疾患状態の両者におけるT細胞免疫応答、制御性T細胞活性、分子遺伝学的奏功(MRD)、細胞遺伝学的奏功又は従来の腫瘍奏功である。
【0316】
1実施形態では、例えば、細胞毒性アッセイ、細胞内サイトカインアッセイ、テトラマーアッセイ又はELISPOTアッセイ等の免疫アッセイにより、免疫応答をモニターする。
【0317】
1実施形態では、例えば、応答(腫瘍退縮)、無増悪生存期間、無再発生存期間又は全生存期間等の既存定義を使用した帰結により、臨床応答をモニターする。
【0318】
1実施形態において、前記方法は、前記疾患又はその症状を治療するために十分な治療量の本願の化合物を投与した対象における診断マーカー(例えば本願の化合物、タンパク質又はその指標等により調節される本願に記載する任意標的)又は診断測定(例えばスクリーニング、アッセイ)のレベルを測定する段階を含む。前記方法で測定したマーカーレベルを健康な正常コントロール又は他の患者における既知マーカーレベルと比較し、前記対象の疾患状態を判定することができる。好ましい実施形態では、第1のレベルの測定よりも後の時点で前記対象における第2のマーカーレベルを測定し、2つのレベルを比較し、疾患の進行又は治療の有効性をモニターする。所定の好ましい実施形態では、本発明の治療の開始前に前記対象における治療前マーカーレベルを測定した後、この治療前マーカーレベルを治療開始後の前記対象におけるマーカーレベルと比較し、治療の有効性を判定することができる。
【0319】
1実施形態では、対象の病態の改善(例えば前記対象における疾患レベルの変化(例えば低下))後、必要に応じて維持用量の本発明の化合物、組成物又は併用剤を投与することができる。その後、病態の改善が維持されるレベルまで症状に応じて投与量又は投与頻度又はその両方を減らすことができる。一方、疾患症状が再発した場合には、患者に長期間にわたって間欠的な治療が必要になると思われる。
【0320】
A.投与量
前記ワクチンは、治療薬として有効で免疫原性と防御効果を生じるような量を製剤に適合可能な方法で投与される。投与量は、治療する対象により異なり、例えば個体の免疫系が抗体を合成する能力及び必要に応じて細胞介在性免疫応答を生じる能力により異なる。活性成分の厳密な必要投与量を、医師の判断により異なり、患者毎にモニターすることができる。しかし、適切な用量範囲は、当業者により容易に決定され、一般に約5.0×10TCID50~約5.0~10TCID50である。投与量はさらに、限定されないが、投与経路、患者の健康状態及び体重、並びに製剤の種類によっても異なる場合がある。
【0321】
本発明の医薬組成物は、TAAを発現する新生物に対して治療薬として有効で免疫原性及び/又は防御効果を生じるような量を投与される。投与用量は、治療する対象(例えば投与方法並びに治療する対象の年齢、体重、免疫系の能力及び一般健康状態)により異なる。前記組成物は、過度の有害な生理的影響を生じずに免疫応答を誘発する十分な発現レベルを提供するような量で投与される。本発明の組成物は、1種以上のTAA又はその免疫原性断片と大型のマトリックスタンパク質とを含有する異種ウイルスベクターであることが好ましく、例えば前記ウイルスベクターの投与量が1.0×10~9.9×1012TCID50、好ましくは1.0×10TCID50~1.0×1011TCID50 pfu、より好ましくは1.0×10~1.0×1010TCID50 pfu、最も好ましくは5.0×10~5.0×10TCID50となるように投与される。前記組成物は、例えば、少なくとも5.0×10TCID50の前記ウイルスベクター(例えば1.0×10TCID50の前記ウイルスベクター)を含有することができる。医師又は研究者は、適切な量及び投与レジメンを決定することができる。
【0322】
前記方法の組成物は、例えば1.0×10~9.9×1012TCID50、好ましくは1.0×10TCID50~1.0×1011TCID50 pfu、より好ましくは1.0×10~1.0×1010TCID50 pfu、最も好ましくは5.0×10~5.0×10TCID50の前記ウイルスベクターを含有することができる。前記組成物は、例えば少なくとも5.0×10TCID50の前記ウイルスベクター(例えば1.0×10TCID50の前記ウイルスベクター)を含有することができる。前記方法は、例えば前記組成物を前記対象に2回以上投与することを含むことができる。
【0323】
「有効量」なる用語は、対象の病態又は疾患の症状を臨床的に適切な方法で改善、抑制又は回復する(例えば新生物に関連する疾患(例えばがん)を改善、抑制若しくは回復するか又は新生物に対する有効な免疫応答を提供する)ために投与される組成物の量を意味する。前記対象におけるどのような改善も治療を達成するために十分であるとみなされる。治療に十分な量は、新生物に関連する疾患の発現又は1種以上の症状を予防する量であること、あるいは新生物に関連する疾患の1種以上の症状の重症度又は対象がこのような症状を呈する期間を(例えば本発明の組成物を投与していないコントロール対象に比較して少なくとも10%、20%又は30%、より好ましくは少なくとも50%、60%又は70%、最も好ましくは少なくとも80%、90%、95%、99%又はそれ以上)低減する量であることが好ましい。本願に記載する方法(例えば新生物に関連する疾患の治療)を実施するために十分な前記医薬組成物の使用量は、投与方法、並びに治療する対象の年齢、体重及び一般健康状態により異なる。
【0324】
なお、本発明の価値は、実際の臨床効果として実証することができない。その代わり、本発明の価値は、防御のサロゲートマーカーに対する成功として実証されると思われる。介入の臨床効果を測定しようとすることが非現実的又は非倫理的である適応症(例えば新生物に関連する疾患)について、FDAの迅速承認(Accelerated Approval)制度は、サロゲートエントポイントに対する有効性に基づく新規ワクチンの承認を認めている。したがって、本発明の価値は、防御のサロゲートマーカーを構成する免疫応答を誘導できる点にあると考えられる。
【0325】
同様に、FDAは、そのアニマルルール(Animal Rule)に基づくTAAに対するワクチンの承認を認めている。この場合、承認は、動物における有効性に基づいて行われる。
【0326】
前記方法の組成物は、例えば1.0×10~9.9×1012TCID50、好ましくは1.0×10TCID50~1.0×1011TCID50 pfu、より好ましくは1.0×10~1.0×1010TCID50 pfu、最も好ましくは5.0×10~5.0×10TCID50の前記ウイルスベクターを含有することができる。前記組成物は、例えば少なくとも5.0×10TCID50の前記ウイルスベクター(例えば1.0×10TCID50の前記ウイルスベクター)を含有することができる。前記方法は、例えば前記組成物を2回以上投与することを含むことができる。
【0327】
場合により、他の物質、特に他のTAAに対する防御応答を誘導するワクチンと本発明のTAAワクチンとを併用投与すると望ましいと思われる。例えば、インフルエンザ(Ulmer,J.B.et al.,Science 259:1745-1749(1993);Raz,E.et al.,PNAS(USA)91:9519-9523(1994))、マラリア(Doolan,D.L.et al.,J.Exp.Med.183:1739-1746(1996);Sedegah,M.et al.,PNAS(USA)91:9866-9870(1994))、及び結核(Tascon,R.C.et al.,Nat.Med.2:888-892(1996))のワクチン等の他の遺伝子免疫ワクチンと本発明のワクチン組成物とを同時、別々又は順次投与することができる。
【0328】
B.適応症
特定の実施形態において、本発明で有用な免疫原性ベクターは、新生物をもつ対象に投与されてもよいし、前立腺がん、乳がん、肺がん、肝臓がん、子宮内膜がん、膀胱がん、結腸がん、子宮頸がん、腺がん、メラノーマ、リンパ腫、神経膠腫、又は軟部組織肉腫及び骨肉腫等の肉腫と診断された対象に投与されてもよい。
【0329】
別の実施形態において、本発明は、がんの治療又は予防用としての本発明のベクターに関し、がんとしては、限定されないが、新生物、腫瘍、転移、又は無制御な細胞増殖を特徴とする任意の疾患若しくは障害、特にその多剤耐性形態が挙げられる。前記がんは、多病巣性腫瘍とすることができる。本発明の治療薬で治療する種類のがん及び増殖性疾患の例としては、限定されないが、白血病(例えば骨髄芽球性白血病、前骨髄球性白血病、骨髄単球性白血病、単球性白血病、赤白血病、慢性骨髄球性(顆粒球性)白血病及び慢性リンパ球性白血病)、リンパ腫(例えばホジキン病及び非ホジキン病)、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、血管肉腫、内皮肉腫、ユーイング腫瘍、結腸がん、膵臓がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、扁平上皮がん、基底細胞がん、腺がん、腎細胞がん、肝細胞がん、ウィルムス腫瘍、子宮頸がん、子宮がん、精巣腫瘍、肺がん、小細胞肺がん、膀胱がん、上皮がん、神経膠腫、星細胞腫、乏突起神経膠腫、メラノーマ、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、異形成及び過形成が挙げられる。特定の実施形態では、前立腺がん(例えば前立腺炎、良性前立腺肥大症、良性前立腺過形成(BPH)、前立腺傍神経節腫、前立腺腺がん、前立腺上皮内新生物、前立腺直腸瘻及び非定型前立腺間質病変)をもつ患者に本発明の治療用化合物を投与する。特に好ましい実施形態では、がん、神経膠腫、肝臓がん及び/又は結腸がんの治療に本発明の医薬を使用する。がんの治療及び/又は予防としては、限定されないが、がんに伴う症状の緩和、がんの進行の抑制、がんの退縮の促進、及び前記免疫応答の促進が挙げられる。
【0330】
本願で使用される新生物なる用語は、組織の異常な増殖を意味する。新生物は、良性でも悪性でもよく、一般に、悪性新生物をがんと呼ぶ。がんは、悪性細胞が浸潤による隣接組織への直接増殖又は転移(即ち血液又はリンパ系による輸送)による遠隔部位への着床により他の組織に浸潤できる点において、良性新生物と相違する。本発明の方法は、良性及び悪性新生物(がん)の治療に適している。
【0331】
本願の定義によると、表在性新生物は、身体の外面に局在する新生物であり、周囲組織又は身体の他の部分に広がらずに限局する。深部新生物は、深部臓器又は身体の他の深部に局在する新生物である。浸潤性新生物は、正常な組織関門を通り抜けて周囲領域に浸潤し始めた新生物であり、例えば乳管と小葉とを越えて広がっている浸潤性乳がんである。
【0332】
本願に開示する方法による治療に想定される種類の新生物の包括的なリストを分類別に挙げると、(a)腹部新生物として、腹膜新生物及び後腹膜新生物;(b)骨新生物として、大腿骨新生物、頭蓋骨新生物、顎骨新生物、下顎骨新生物、上顎骨新生物、口蓋骨新生物、鼻骨新生物、眼窩骨新生物、頭蓋底新生物及び脊椎骨新生物;c)乳房新生物として、男性乳房新生物、乳管がん及び葉状腫瘍;(d)消化管系新生物として、胆道新生物、胆管新生物、総胆管新生物、胆嚢新生物、胃腸新生物、食道新生物、腸新生物、盲腸新生物、虫垂新生物、結腸・直腸新生物、結腸・直腸大腸腺腫性ポリポーシス、結腸・直腸ガードナー症候群、結腸新生物、結腸大腸腺腫性ポリポーシス、結腸ガードナー症候群、S字結腸新生物、遺伝性非ポリポーシス結腸・直腸新生物、直腸新生物、肛門新生物、十二指腸新生物、回腸新生物、空腸新生物、胃新生物、肝臓新生物、肝細胞腺腫、肝細胞がん、膵臓新生物、膵島細胞腺腫、インスリノーマ、膵島細胞がん、ガストリノーマ、グルカゴノーマ、ソマトスタチノーマ、ビポーマ、膵臓・十二指腸がん及び腹膜新生物;(e)内分泌腺新生物として、副腎新生物、副腎皮質新生物、副腎皮質腺腫、副腎皮質がん、多発性内分泌腫瘍症、多発性内分泌腫瘍症1型、多発性内分泌腫瘍症2a型、多発性内分泌腫瘍症2b型、卵巣新生物、顆粒膜細胞腫、黄体腫、メイグス症候群、卵巣セルトリ・ライディッヒ細胞腫、莢膜細胞腫、膵臓新生物、腫瘍随伴内分泌症候群、副甲状腺新生物、下垂体新生物、ネルソン症候群、精巣新生物、精巣セルトリ・ライディッヒ細胞腫及び甲状腺新生物(f)眼の新生物として、結膜新生物、眼窩新生物、網膜新生物、網膜芽細胞腫、ぶどう膜新生物、脈絡膜新生物及び虹彩新生物;(g)脳頭頸部新生物として、食道新生物、顔面新生物、眼瞼新生物、口腔新生物、歯肉新生物、口腔白板症、毛様白板症、口唇新生物、口蓋新生物、唾液腺新生物、耳下腺新生物、舌下腺新生物、顎下腺新生物、舌新生物、耳鼻咽喉頭新生物、耳の新生物、喉頭新生物、鼻腔新生物、副鼻腔新生物、上顎洞新生物、咽頭新生物、下咽頭新生物、上咽頭新生物、上咽頭新生物、中咽頭新生物、扁桃新生物、副甲状腺新生物、甲状腺新生物及び気管新生物;(h)造血器新生物として、骨髄新生物;(i)神経系新生物として、中枢神経系新生物、脳新生物、脳室新生物、脈絡叢新生物、脈絡叢乳頭腫、テント下新生物、脳幹新生物、小脳新生物、神経細胞腫、松果体腫瘍、テント上新生物、視床下部新生物、下垂体新生物、ネルソン症候群、脳神経新生物、視神経新生物、視神経膠腫、聴神経腫瘍、神経線維腫症2型、神経系腫瘍随伴症候群、ランバート・イートン筋無力症候群、辺縁系脳炎、横断性脊髄炎、傍腫瘍性小脳変性症、傍腫瘍性ポリニューロパチー、末梢神経系新生物、脳神経新生物、聴神経腫瘍及び視神経新生物;(j)骨盤新生物;(k)皮膚新生物として、棘細胞腫、皮脂腺新生物、汗腺新生物及び基底細胞がん;(l)軟部組織新生物として、筋肉新生物及び血管新生物;(m)脾臓新生物;(n)胸部新生物として、心臓新生物、縦隔新生物、気道新生物、気管支新生物、肺新生物、気管支原性がん、非小細胞肺がん、肺野コイン状陰影、パンコースト症候群、肺芽細胞腫、肺硬化性血管腫、胸膜新生物、悪性胸水、気管新生物、胸腺新生物及び胸腺腫;(o)尿路生殖器新生物として、女性生殖器新生物、卵管新生物、子宮新生物、子宮頸部新生物、子宮内膜新生物、類内膜がん、子宮内膜間質腫瘍、子宮内膜間質肉腫、膣新生物、外陰新生物、男性生殖器新生物、陰茎新生物、前立腺新生物、精巣新生物、泌尿器新生物、膀胱新生物、腎臓新生物、腎細胞がん、腎芽細胞腫、デニス・ドラッシュ症候群、WAGR症候群、中胚葉性腎腫、尿管新生物及び尿道新生物;並びに(p)その他のがんとして、腎臓がん、肺がん、メラノーマ、白血病、バレット食道、化生前がん細胞が挙げられる。
【0333】
1実施形態において、本願に記載する免疫応答賦活ベクターは、MUC1又はその免疫原性断片を発現し、特に腺がん(乳がん、大腸がん、膵臓がん等)、カルチノイド腫瘍、脊索腫、絨毛がん、繊維形成性小円形細胞腫瘍(DSRCT)、類上皮肉腫、濾胞樹状細胞肉腫、指状嵌入樹状細胞/細網細胞肉腫、肺病変として、II型肺胞上皮細胞病変(II型細胞過形成、II型細胞異形成、肺尖部肺胞過形成)、未分化大細胞型リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(非定型)、形質芽細胞性リンパ腫、原発性滲出性リンパ腫、類上皮型中皮腫、ミエローマ、形質細胞腫、神経周膜腫、腎細胞がん、滑膜肉腫(上皮領域)、胸腺がん(高頻度)、髄膜腫又はパジェット病を治療するために有用である。
【0334】
C.投与
本願で使用する「投与」なる用語は、適正投薬量の本発明の医薬組成物を対象に与える方法を意味する。本願に記載する方法で利用される組成物は、例えば非経口、皮膚、経皮、眼内、吸入、口腔、舌下、舌周囲、鼻腔内、直腸、局所投与及び経口投与から選択される経路により投与され得る。非経口投与としては、静脈内、腹腔内、皮下、動脈内、血管内及び筋肉内投与が挙げられる。好ましい投与経路は、種々の因子(例えば投与する組成物の成分及び治療する病態の重症度)により変えることができる。
【0335】
本発明の医薬組成物(例えばワクチン)の投与は、当業者に公知の経路のいずれかにより実施され得る。投与は、例えば、筋肉内注射により行うことができる。本願に記載する方法で利用される組成物は、例えば非経口、皮膚、経皮、眼内、吸入、口腔、舌下、舌周囲、鼻腔内、直腸、局所投与及び経口投与から選択される経路により投与されてもよい。非経口投与としては、静脈内、腹腔内、皮下及び筋肉内投与が挙げられる。好ましい投与経路は、種々の因子(例えば投与する組成物の成分及び治療する病態の重症度)により変えることができる。
【0336】
さらに、本発明の組成物は、対象に単回投与されてもよいし、複数回投与されてもよい。例えば、新生物を発生する可能性が特に高い対象には、前記新生物に対する防御を開始及び/又は維持するために複数回投与される必要があると思われる。本願に記載する医薬組成物により提供される誘導免疫レベルを、例えば分泌型及び血清型の中和抗体の量を測定することによりモニターすることができる。その後、新生物の発生に対する所望の防御レベルを維持するため又は新生物の増殖を抑制するために、必要に応じて投与量を調節又は投与を反復することができる。
【0337】
ベクターの投与タイミングを調節することにより、ワクチン接種効果を強化することができる。上記プライミング組成物及びブースター組成物のいずれも、本願に記載する方法で使用されるために適している。
【0338】
1実施形態において、MVAベクターは、プライミング目的とブースト目的との両者で使用される。このようなプロトコールとしては、限定されないが、MM、MMM及びMMMMが挙げられる。
【0339】
実施形態によっては、MVAブーストを、1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回又はそれ以上投与する。
【0340】
ベクターは、任意にアジュバントの存在下で単独投与されてもよい(即ち、別種のワクチン製剤の投与下又は非投与下で(例えばタンパク質又は別の型のベクター(例えばウイルスベクター)の投与下又は非投与下で)プラスミドを1回又は数回投与されてもよい)し、代替ブースター免疫(例えば免疫の「プライム」部分のインサートと異なるものでもよいし、同類のワクチンインサートでもよいインサートを含む組換え改変型ワクシニアアンカラベクター(MVA)等の生ベクターワクチン)と併用(例えば先行)投与されてもよい。例えば、GM-CSF又は当業者に公知の他のアジュバントが挙げられる。前記アジュバントは、「遺伝子アジュバント」(即ちDNA配列により送達されるタンパク質)とすることができる。
【0341】
代表的な実施形態において、本発明は、(i)TAA又はその免疫原性断片をコードする1種以上の配列を含むDNAプラスミドを含有するプライミング組成物を投与する段階と;(ii)TAA又はその免疫原性断片をコードする1種以上の遺伝子を含む改変型ワクシニアアンカラウイルスベクターを含有するブースター組成物の1回目の投与を行う段階と;(iii)前記1回目の投与から約12~20週間後、より特定的には前記1回目の投与から約14~約18週間後、さらに特定的には前記1回目の投与から約16週間後にブースター組成物の2回目の投与を行う段階とを含む免疫方法である。
【0342】
特定の実施形態において、前記TAAは、段階(i)~(iii)で同一である。任意に、前記方法は、さらに1段階以上を含み、例えば、前記プライミング組成物若しくは別のプライミング組成物(即ち第2のプライミング組成物)をさらに1回以上投与する段階及び/又は前記ブースター組成物若しくは別のブースター組成物(即ち第2のブースター組成物)をさらに1回以上投与する段階を含む。
【0343】
以下、非限定的な実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。上記開示及び非限定的な例証として記載する以下の実験例に鑑み、さらに添付図面を参照することにより、本発明のその他の態様及び実施形態もまた、当業者に想到されよう。
【実施例0344】
[実施例1]MVAワクチンベクター
本実施例は、代表的なMVAワクチンベクターに関する情報を提供する。マールブルグウイルスのVP40タンパク質及びヒトMUC1タンパク質及びマールブルグウイルス糖タンパク質(GP)の部分から構成されるキメラタンパク質の2種類の他の遺伝子を発現するように遺伝子改変されたMVA株1974/NIHを使用して、MVAワクチンを作製する。キメラMUC1/GP遺伝子は、さらに膜貫通タンパク質をコードする特定構造をもち、ヒトMUC1遺伝子に由来する細胞外ドメインと、マールブルグウイルスの糖タンパク質に由来する膜貫通ドメインと、ヒトMUC1遺伝子の細胞内ドメインとからなる。MUC1/GPキメラタンパク質の作製方法については、下記実施例2に詳述する。MUC1/Gタンパク質とVP40タンパク質とを発現するように遺伝子改変されたMVAワクチンの作製方法、及びそれによりコードされるMUC1の低グリコシル化状態の特性決定については、下記実施例3に詳述する。
【0345】
表2は、本発明のMVAワクチンベクターのデザインに使用したGenBank配列のアクセッション番号の一覧である。
【0346】
【表2】
【0347】
[実施例2]配列最適化
実施例2は、MVAワクチンベクター用としてのMUC1配列の最適化方法を例証する。本実施例は、GEO-MUC1に含まれるMUC1配列の最適化を示す。他の株に対するワクチンに実施される方法もほぼ同様であり、同一セットの操作を含む。
【0348】
Muc1/4TR遺伝子最適化
1.天然配列から出発する。
・ヒトムチン1:NCBI参照配列:NM_001204285.1。
・GenBankからの配列をコピー/ペーストし、SeqBuilerファイル:Muc1-1TR_001204285として保存する。
タンデムリピートを1個だけ含むMuc1配列(1428nt)(配列番号5)
【0349】
【化10】
【0350】
Muc1/1TRタンパク質(475aa)(配列番号6)
【0351】
【化11】
【0352】
【化12】
【0353】
2.GeoVax社は、4個のタンデムリピートを含むMuc1遺伝子を採用することに決定した。
・Muc1-1TR_001204285にタンデムリピートを追加する。
・新しい配列をGVX-Muc1/4TR.01と命名する。
【0354】
GeoVax Muc1/4TR配列(1608nt)(配列番号7)
【0355】
【化13】
【0356】
Muc1/4TRタンパク質(535aa)(配列番号8)
【0357】
【化14】
【0358】
【化15】
【0359】
・Muc1-1TR_001204285配列をGVX-Muc1/4TR.01と整列させる。
【0360】
【化16】
【0361】
【化17】
【0362】
マールブルグVP40に由来するVLPへのMuc1の取り込み効率を上げるために、Muc1の膜貫通ドメインをマールブルグウイルス糖タンパク質の膜貫通ドメインで置換した。
【0363】
マールブルグ糖タンパク質配列(マールブルグGPの1930~2019位のTM配列)(配列番号9)
【0364】
【化18】
【0365】
マールブルグ糖タンパク質(マールブルグGPの644~673位のTM配列)(配列番号10)
【0366】
【化19】
【0367】
GeoVax Muc1/4TR配列(膜貫通ドメイン配列:Muc1/1TRの1129~1218位)(配列番号11)
【0368】
【化20】
【0369】
(膜貫通ドメイン配列:Muc1/1TRの157~186位)(配列番号12)
【0370】
【化21】
【0371】
・GVX-Muc1/4TR.01上のTM配列をマールブルグGPのTM配列:WWTSDWGVLTNLGILLLLSIAVLIALSCIC(配列番号13)で置換する。
・新しい配列をGVX-Muc1_4TRMTm.02と命名する(配列番号14)。
【0372】
【化22】
【0373】
対応するタンパク質配列(配列番号15)
【0374】
【化23】
【0375】
【化24】
【0376】
・Muc1-1TR_001204285配列をGVX-Muc1/4TR.01及びGVX-Muc1_4TRMTm.02と整列させる。
【0377】
【化25】
【0378】
3.DNA配列をワクシニアウイルス用にコドン最適化する。
【0379】
・2.1.LifeTechnolgyウェブサイトのGeneArt Gene Synthesisツールに進む。
・GO配列を入力し、指示に従う。
・配列をワクシニアウイルス用に最適化する。
・最適化された配列をコピーし、新しいSeqBuilberファイルにペーストする。
2.2.最適化された配列とレポートを保存する。
・最適化された配列をGVX-Muc1_4TRMTmVVop.03と命名する(配列番号16)。
【0380】
【化26】
【0381】
2.3.最適化された配列を翻訳する(配列番号17)。
【0382】
【化27】
【0383】
4.サイレント突然変異によりホモポリマー連続部分(G/C又はT/Aリッチ領域)に割り込む。
・≧4G/Cの領域について配列を探索する:
-複数のG又はCは確認されなかった。
・≧5A/Tの領域について配列を探索する:
-7個のA/Tリッチ領域が確認された。
-いずれも一塩基のサイレント突然変異により割り込まれていた。
-表2はMuc1に行われた全突然変異をまとめる。
【0384】
【表3】
【0385】
・配列をGVX-Muc1_4TRMTmVVop.04(SeqBuilberファイル)として保存する(配列番号18)。
【0386】
【化28】
【0387】
・GVX-Muc1_4TRMTmVVop.04を翻訳する(配列番号19)。
【0388】
【化29】
【0389】
5.ワクシニアウイルス転写ターミネーターについてGP配列を探索する。
・TNTモチーフは確認されなかった。
【0390】
6.第2の停止コドンを付加する。
・最適化された配列をGVX-Muc1_4TRMTmVVop.05と命名する。
・組換えを減らすと共にインサート安定性を増すように、タンデムリピートの配列を(可能な場合には)サイレント突然変異により改変する。
【0391】
【化30】
【0392】
・最適化した配列をGVX-Muc1_4TRMTmVVop.06と命名する。
【0393】
7.Muc1をMVA-シャトルプラスミドpLW-73にクローニングするための制限部位を付加する。
・SmaI、SalI及びPstI部位についてGVX-Muc1_4TRMTmVVop.06配列を探索する。
-Muc遺伝子にこれらの部位は存在しないので、クローニングに使用することができない。
・SmaI及びSalI制限部位を夫々Muc1遺伝子の3’及び5’に付加する。
-SmaI配列:cccggg。
-SalI配列:gtcgac。
-消化及びクローニングを助長するためにSmaIの上流に5ヌクレオチドを付加し、SalIの下流に5ヌクレオチドを付加する:gcgct。
・クローニングサイトを付加した配列をGVX-Muc1_4TRMTmVVop.05(SeqBuilberファイル)として保存する。
・Genscriptの最終配列(SeqBuilerファイル):GVX-Muc4TRMTM(配列番号29)。
【0394】
【化31】
【0395】
対応するタンパク質配列(配列番号30)
【0396】
【化32】
【0397】
・最終GVX-Muc4TRMTM配列をMuc1-1TR_001204285と整列させる。
【0398】
【化33】
【0399】
・最終GVX-Muc4TRMTM配列をGVX-Muc1_4TRMTm.01と整列させる。
【0400】
【化34】
【0401】
・最終GVX-Muc4TRMTM配列をGVX-Muc1_4TRMTm.02と整列させる。
【0402】
【化35】
【0403】
GVX-Muc4TRMTMの名称を「GVX-Muc1」と簡略化する。
・GVX-Muc4TRMTM DNA配列をもつ合成遺伝子を注文する。
・GVX-Muc4TRMTM DNA配列をpLW-73シャトルプラスミドにクローニングし、新しいプラスミドをpGeo-Muc1と命名する(図1参照)。
【0404】
[実施例3]MVAワクチン作製及び低グリコシル化型MUC1のインビトロ評価
組換えMVAワクチンは、2個の抗原発現カセットをもつMVAベクターから構成される(MVA-Muc1VP40)。一方の発現カセットは、上記実施例2に記載したように、作製されるキメラ型ヒトMuc1(以下、このコンストラクトをGVX-Muc1と呼ぶ)をコードし、MVAワクチン作製の目的でそのDNA配列をpGeo-Muc1と呼ぶシャトルプラスミド(プラスミドの画像は上記の通りである)にクローニングしたものである。もう一方の発現カセットは、マールブルグウイルスのVP40タンパク質をコードする。GVX-Muc1とVP40との発現は、分泌型ウイルス様粒子(VLP)を生成するために十分である。GVX-Muc1タンパク質は、ヒトMuc1の細胞外ドメインと、マールブルグウイルスGPの膜貫通ドメインと、ヒトMuc1の細胞内ドメインとから構成されるキメラタンパク質として発現される。マールブルグVP40タンパク質は、このタンパク質がGVX-Muc1の細胞内ドメインと膜貫通ドメインと会合している細胞の細胞質で発現され、GVX-Muc1をその表面にもつと共にVP40をその内部(内腔)空間に封入したVLPの細胞表面出芽をもたらす。ベクタープラットフォーム及び天然抗原構造のこの新規組合せにより、強力で広範且つ持続的な免疫応答を誘発すると予想されるワクチンが得られる。Bernard Moss博士の実験室で開発されたシャトルベクターを使用して、MVA-Muc1VP40ワクチン候補が作製され、NIAIDによりワクチン開発用としてGeoVax社に使用を許諾されつつある。これらのシャトルベクターは、HIV及び出血熱ウイルスワクチンを用いた本発明者らの試験において高レベル且つ非毒性の発現を生じる安定したワクチンインサートとなることが判明している。添付の模式図(図2、なお、図中の数字はMVAゲノムにおける座標を表す)に示すように、Muc1配列をMVAの2個の必須遺伝子(I8R及びG1L)の間に挿入し、VP40をA50R遺伝子とB1R遺伝子との間で再編成・改変型欠失部位IIIに挿入した。
【0405】
GVX-Muc1遺伝子とVP40遺伝子とをMVA用にコドン最適化させた。フレームシフトの原因となり得るRNAポリメラーゼエラーを減らすために、ホモポリマー連続部分(>4G/C及び>4A/T)に割り込むようにサイレント突然変異を導入した。早期終結の原因となり得るモチーフを除去するために、ワクシニア特異的ターミネーターとなるように挿入配列を編集した。全ワクチンインサートを、従来記載されているように改変型H5初期/後期ワクシニアプロモーターの制御下においた。完全なトレーサビリティを確保すると共に全工程で牛海綿状脳症/伝達性海綿状脳症(BSE/TSE)の疑いのない原料を使用していることを完全に文書化した上で、GeoVax社の専用ルームで「GLP様条件」下にベクターを作製した。
【0406】
Muc1特異的抗体を使用するウェスタンブロッティングにより、細胞で発現されるGVX-Muc1タンパク質の全長天然構造の発現を評価した。MVA-Muc1VP40ワクチンを使用し、感染多重度1.0で1時間37℃にてDF1細胞に感染させた後、培地を予め加温した新鮮な培地に交換した。37℃で48時間インキュベーション後に、細胞の上清を採取し、500×gで10分間遠心することにより清澄化した。上清を細胞から除去した後、細胞自体をプレートから回収し、冷温リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で1回洗浄後、PBS+1%Triton X-100デタージェントの溶液中で15分間氷上溶解させた。このインキュベーション後に、溶解液を1000×gで10分間遠心し、上部の液層を回収することにより、除核後上清を調製した(以下、「細胞溶解液」と言う)。細胞溶解液を10%SDS-PAGEゲルにアプライし、電気泳動法により分離した後、ニトロセルロースメンブレンに転写させ、Odysseyブロッキングバッファーでプロックした後、(1)試料中に存在するMuc1の合計量、又は(2)試料中の低グリコシル化Muc1の合計量を認識する一次抗体と共にインキュベートした。コントロールとして、親MVA(抗原発現カセットを全く含まないベクターコントロール)を感染させたDF1細胞からの上清と細胞溶解液を使用した。この分析の結果を添付のウェスタンブロット画像に示す(図3)。
【0407】
この結果、MVA-Muc1VP40ワクチンは、DF1細胞に感染し、Muc1タンパク質を発現することが明らかであり、さらに発現されたMuc1の一定の割合が低グリコシル化型であることも明らかである。
【0408】
低グリコシル化型のMuc1がMVA-Muc1VP40ワクチンによりコードされることは、前記ワクチンを感染させた細胞を免疫染色することにより又は正常グリコシル化若しくは低グリコシル化Muc1を発現することが分かっているコントロール細胞を同時染色することにより、以下のように確認される。
-コントロール細胞株MCF7及びMCF10Aは、いずれもMuc1を発現するが、293T細胞は発現しない。
-MCF7細胞は、低グリコシル化Muc1に特異的なAb(4H5)により認識される低グリコシル化Muc1を発現する。
-MCF10Aは、正常Muc1を発現する。全Muc1を検出するためには、汎用Muc1 Ab(HMPV)を使用する。
-293T細胞にMVA-Muc1VP40又はMVAコントロールウイルス(親MVA)を感染させた。
-全試料を指定のAbで染色した。
-なお、添付画像(図4)では、陰性シグナル(黄色いバックグラウンド)は、染色ネガティブコントロール及びMVAコントロール条件下にあり、陽性シグナルは、黄色いバックグラウンド上の赤茶色である。
【0409】
MVA-Muc1VP40ワクチンを感染させ、Muc1(HMPV)を認識するモノクローナル抗体で染色したDF1細胞を使用して、免疫電子顕微鏡法(EM)によりVLP形成を確認した。添付のEM画像(図5)には、(1)細胞表面からのVLP出芽を誘導するマトリックスタンパク質としてVP40タンパク質を使用するという事実の派生現象として、VLPはフィラメント状であるという点と;(2)VLPはMuc1に対する抗体で陽性染色されるという点との2点が明白に示され、このタンパク質は、出芽中のVLPに取り込まれていることが実証される。
【0410】
[実施例4]Muc1のO-結合型グリコシル化の標的低減
緒言
ムチン型O-グリコシル化は、コア1 O-グリカンGalβ3-GalNAcα1-Ser/Thrの付加によるタンパク質の修飾で開始する。これは、(1)GalNAcがアミノ酸主鎖のセリン又はスレオニンに共有結合する段階と、(2)その後、GalがGalNAcに付加される段階との2段階で行われる。コア1構造への他の糖鎖の付加によりこのコア構造から膨大な種類の他のグリコフォームが形成される。この初期修飾経路の模式図は図6に示す通りである。
【0411】
この結果、タンパク質主鎖のSer又はThr残基に、T抗原糖鎖が形成される。重要な点として、機能的Tシンターゼ(別称コア1 β3-ガラクトシルトランスフェラーゼ,遺伝子記号C1GALT1)は、Tn抗原からのT抗原の形成に関与することが分かっている唯一の酵素である。その後のコア1糖鎖構造の修飾は、T抗原の形成に完全に依存する。したがって、Tシンターゼの不在下では、コア1構造に依存するO-結合型グリコシル化は、Tn抗原の形成と共に停止する(Aryal,R.P.,Ju,T.& Cummings,R.D.,J Biol Chem 289,11630-11641(2014)参照)。なお、低グリコシル化の別のメカニズムでは、図7に示すように、α-2,6-シアリルトランスフェラーゼI(遺伝子記号ST6GALNAC1)によるTnへのシアリル酸付加の結果、末端(伸長不能な)シアリル-Tn構造(Siaα2-6GalNAcα1-Ser/Thr)が得られる。
【0412】
目的は、低グリコシル化Muc1の内因性のインビボ産生を確保することである。細胞におけるMuc1の過剰発現は、多数の細胞のグリコシル化機構を著しく妨害する可能性が高いが、グリコシル化機構に手を加えることにより、Muc1の低グリコシル化に向けて生合成経路を後押しすることは、本願の目的に適うと思われる。O-結合型グリコシル化をTn抗原及びシアリル-Tnで終結するMuc1構造は、多数の癌腫に関連付けられている公知低グリコシル化型のうちで主要な部類である。O-結合型グリコシル化合成経路に関する情報に鑑みると、Muc1の内因性低グリコシル化を誘導するメカニズムとしては2つの容易に認識し得るメカニズムを想定することができる。
(1)機能的Tシンターゼの発現をノックダウンすることにより、T抗原の形成を防ぎ、Tn抗原の増加を促進する。これは、
a.siRNA法によりTシンターゼ遺伝子の転写産物を直接標的とする方法;又は
b.COSMCはERにおけるTシンターゼのフォールディングと機能に必須且つ特異的であることが分かっているので、siRNA法によりCOSMC(遺伝子記号C1GALT1C1)の転写産物を標的とする方法の、いずれかにより実施することができ、このX関連遺伝子の突然変異は、ヒトでTn症候群と関連付けられている。
(2)O-結合型グリコシル化をシアリル-Tnで終結するように、α-2,6-シアリルトランスフェラーゼI(遺伝子記号ST6GALNAC1、本願では「ST1」と略記する)を過剰発現させる。
【0413】
方法
該当する3種類の遺伝子に関する概要データを以下に示す。
【0414】
Tシンターゼ(C1GALT1)
C1GALT1遺伝子は、66,104nt長であり、6個のエキソンから構成され、ヒト染色体7p21.3に位置する。これを転写・スプライシングすると、6244nt長mRNA(NM_020156)が得られる。開始コドンは、mRNAのnt224に位置し、CDSは224から1315までの1092ntであり、分子量計算値42kDの363アミノ酸タンパク質(NP_064541)が得られる。アミノ酸残基7~29は、膜貫通ドメインをコードすると予想され、タンパク質の細胞外ドメインは、ERの内腔に位置することが分かっているため、Tシンターゼは、II型1回膜貫通型膜タンパク質であると考えられる。
【0415】
COSMC(Tシンターゼ特異的シャペロン;C1GALT1C1)
C1GALT1C1遺伝子は、4476nt長であり、3個のエキソンから構成され、ヒトX染色体のXq24に位置する。これを転写・スプライシングすると、1915nt長mRNA(NM_152692)が得られる。開始コドンはmRNAのnt412に位置し、CDSは412から1368までの957ntであり、分子量計算値36kDの318アミノ酸タンパク質(NP_689905)が得られる。アミノ酸残基7~26は膜貫通ドメインをコードすると予想され、タンパク質の細胞外ドメインは、ERの内腔に位置することが分かっているため、COSMCはII型1回膜貫通型膜タンパク質であると考えられる。
【0416】
ST1(α-2,6-シアリルトランスフェラーゼI;ST6GALNAC1)
ST6GALNAC1遺伝子は26,064nt長であり、12個のエキソンから構成され、ヒト染色体17q25.1に位置する。これを転写・スプライシングすると、2593nt長mRNA(NM_018414)が得られる。開始コドンは、mRNAのnt201に位置し、CDSは201から2003までの1803ntであり、分子量計算値68kDの600アミノ酸タンパク質(NP_060884)が得られる。アミノ酸残基15~35は、膜貫通ドメインをコードすると予想され、タンパク質の細胞外ドメインは、転位後にERの内腔に暴露されることが分かっているため、ST1はII型1回膜貫通型膜タンパク質であると考えられる。
【0417】
ヒトTシンターゼ遺伝子とCOSMC遺伝子に適用する既存のsiRNA設計方法は、以下の通りである。
【0418】
1.標的mRNA中でAAジヌクレオチドから開始する21nt配列を見つける。
【0419】
2.以下のパラメーターに従い、2~4個の標的配列を選択する。
【0420】
GC含量が30~50%のsiRNAは、G/C含量が多いものよりも高活性である。
【0421】
4~6ヌクレオチドポリ(T)トラクトは、RNA pol IIIの終結シグナルとして機能するので、RNA pol IIIプロモーターから発現させる配列を設計する場合には、標的配列中にT又はA>4の連続部分を含まないようにする。
【0422】
mRNAには、調節タンパク質から構成される割合又は調節タンパク質と結合している割合の高い領域があるので、遺伝子配列の長さ方向の異なる位置でsiRNA標的部位を選択する。mRNA及びsiRNA力価について標的部位の位置間で相関は認められなかった。
【0423】
潜在的な標的部位を適切なゲノムデータベース(ヒト、マウス、ラット等)と比較し、他のコーディング配列と相同である連続塩基対が16~17超である標的配列を対象外とする。
【0424】
3.適切なコントロールを設計する。
【0425】
ヌクレオチド組成がsiRNAと同一であるが、ゲノムに対して有意な配列相同性をもたないネガティブコントロールsiRNAを設計する。遺伝子特異的siRNAのヌクレオチド配列をスクランブルし、探索を行い、他の遺伝子に対して相同性をもたないことを確かめる。
【0426】
同一のmRNAを標的とする他のsiRNA配列。同一遺伝子を標的とする2個以上の異なるsiRNAについてsiRNAを一度に1個ずつ使用して実験を実施する。
【0427】
この遺伝子産物のCDSは~1800nt長しかないため、MVAによるST1の発現は簡単なはずである。
【0428】
細胞株
HEK-293T細胞は、Muc1の発現に陰性であることが知られている(Mehanta,et al,PLoS ONE,2008参照)。(ヒト乳腺がんに由来する)T47D細胞は、内因的にMuc1を発現し、標準培地(RPMI)で増殖され、トランスフェクション可能である。これらの細胞は、上記文献でMuc1ノックダウン(KD)試験に使用されており、本発明者らのMuc1低グリコシル化の調査/初期特性決定試験にも使用できると思われる。T47D細胞は、ATCC(カタログ番号HTB-133)から431ドルで購入可能である。Olja FinnはMCF-7株に由来する細胞株系列には、がん検査に有用なものがあると述べている。特に、この系列のうちでMCF-10Aは、完全にグリコシル化されたMuc1を高レベルで発現することが分かっているので、これを推奨している(Oljaの論文であるCascio,et al,J Biol Chem,2011も参照)。MCF-10Aは、線維嚢胞症の36歳白人女性の乳腺に由来する形質転換型の非腫瘍形成性で接着性の上皮細胞株である。この細胞株は、ATCCによると、トラクスフェクション宿主として適切であり、431ドルで購入可能である(カタログ番号CRL-10317)。この細胞株は、Lonza社製品乳腺上皮細胞増殖培地(MEGM)にLonza MEGM Bullet Kit(ゲンタマイシン/アンホテリシン-B不添加)と100ng/mlコレラ毒素(Sigma)を添加したものを使用する。
【0429】
一過性発現コンストラクト
Origene社(www.origene.com)から遺伝子操作用に市販されている製品を検討したところ、信頼性の高いレディ・トゥ・ユーズフォーマットのRNAi試薬と、レディ・トゥ・ユーズプラスミドで信頼性の高いORFを提供していることが分かった。RNAi法の場合、本願の目的に最も適切な2種類の試薬は、合成siRNAデュプレックス又はプラスミドから発現させることができるshRNAコンストラクトであろう。できることならば、RNAi産物をMVAベクター自体から発現させることを目指しているので、MVA発現系に容易に導入できるshRNAを採用することがこれらの目的に最も適切であると思われる。Origen社は、多数の異なるフォーマットでshRNA製品を提供しているが、本発明者らはプラスミドの作製に選択可能である(Kan(r)及びCam(r)を提供する)と共にレポーターの機能をもつ(GFP及びRFPを提供する)単純な発現ベクターを必要としている。したがって、(GFPレポーターを付加したプラスミドpGFP-V-RS:カタログ番号TG306064に含まれる)C1GALT1と(RFPレポーターを付加したプラスミドpRFP-C-RS:カタログ番号TF317130に含まれる)C1GALT1C1とを標的とするshRNAコンストラクトを注文するであろう。どちらのプラスミドも、U6プロモーターによりshRNA転写を誘導する。これらのプラスミドのマップを以下に示す。
【0430】
上記shRNA製品はshRNAを4個ずつ含む。shRNA毎に個々にKDを試験するであろう。これらの製品は以下の標的配列及びmRNA座標をもつ。
【0431】
C1GALT1(Tシンターゼ)を標的とするOrigene社shRNA製品及びmRNA座標(NM_020156):
【0432】
【表4】
【0433】
C1GALT1C1(COSMC)を標的とするOrigene社shRNA製品及びmRNA座標(NM_152692):
【0434】
【表5】
【0435】
これらの遺伝子産物のKDは、RT-PCR又はWBにより評価することができる。
【0436】
ST1の発現を誘導するには、Origene社からコンストラクトを容易に入手可能である。該当する製品(カタログ番号RC216697)は全長ST6GALNAC1遺伝子をCMVプロモーターの駆動下におき、C末端にMyc及びDDK(FLAG)タグを付け、全体をOrigene社のpCMV6-Entryベクターに挿入したものである(下記RC216687参照)。
【0437】
実験計画
1.予備実験
HEK293T又はHeLa細胞の全細胞溶解液(WCL)を調製する。(rb pAbによる)Tシンターゼ及び(ms mAbによる)COSMCの検出用にWB法を最適化するためにWCLを使用する。抗ms IR700色素と抗rb IR800色素とを二次抗体として使用し、その後に同一WBで前記2種類の抗原を同時に検出できるようにするが、このような同時検出は、転写産物のshRNA KDの効果をアッセイする場合に重要であろう。
【0438】
MCF10A細胞を準備し、貯蔵する。
【0439】
無害のGFPをコードするプラスミドをMCF10A細胞にトランスフェクトし、基底レベルのトランスフェクション効率を決定する。
【0440】
MCF10A WCLを調製する。Tシンターゼ及びCOSMCの発現レベルをWBにより試験する。
【0441】
MCF10A細胞を使用して抗Muc1 AbをWB及びフローサイトメトリーで試験する。
【0442】
2.ピボタル実験
MCF10A細胞におけるTシンターゼのshRNA KD。
【0443】
Tシンターゼを標的とする4種類のshRNAプラスミドの各々を、MCF10A細胞に個々にトランスフェクトする。
【0444】
トランスフェクトした各集団のWCLを、規定時点で調製する。Tシンターゼ、COSMC、Muc1及び低グリコシル化Muc1(hgMuc1)の発現について、WCLを解析する。
【0445】
最良のKD応答を誘起するshRNAを選択する。
【0446】
MCF10A細胞に最適なshRNAをトランスフェクトする。フローサイトメトリーを使用し、Muc1とhgMuc1の表面発現について細胞を解析する。
【0447】
MCF10A細胞におけるCOSMCのshRNA KD。
【0448】
COSMCを標的とする4種類のshRNAプラスミドの各々を、MCF10A細胞に個々にトランスフェクトする。
【0449】
トランスフェクトした各集団のWCLを、規定時点で調製する。Tシンターゼ、COSMC、Muc1及び低グリコシル化Muc1(hgMuc1)の発現について、WCLを解析する。
【0450】
最良のKD応答を誘起するshRNAを選択する。
【0451】
MCF10A細胞に最適なshRNAをトランスフェクトする。フローサイトメトリーを使用し、Muc1及びhgMuc1の表面発現について、細胞を解析する。
【0452】
2.ピボタル実験(続き)
MCF10A細胞におけるST1(ST6GALNAC1シアリルトランスフェラーゼ)の異所性発現
ST1をコードするRC216697プラスミドを、CMVプロモーターの下流でMCF10A細胞にトランスフェクトする。
【0453】
生存性を評価し、トランスフェクトした細胞のWCLを、規定時点で調製する。ST1(抗DDK抗体により検出)、Muc1及び低グリコシル化Muc1(hgMuc1)の発現について、WCLを解析する。
【0454】
MCF10A細胞にRC216697プラスミドをトランスフェクトする。フローサイトメトリーを使用し、Muc1及びhgMuc1の表面発現について細胞を解析する。
【0455】
上記ピボタル実験からの結果に鑑み、検討した単一アプローチの1種を続行すべきか、又はアプローチの組合せを試みるべきかを決定する。どちらからも個別に十分な結果が得られなかった場合には、例えばshRNAによるTシンターゼとCOSMCとの二重KDを試みること、又はST1の発現を誘導するRC216697プラスミドと共にいずれかのshRNAをコトランスフェクトすることが考えられる。
【0456】
ST1を使用する場合には、ワクシニアコドン最適化形態で合成されたこの遺伝子で続行する。
【0457】
以上の記述は、単に本発明の代表的な実施形態を開示・説明するものに過ぎない。このような記述及び添付図面並びに特許請求の範囲から当業者に容易に理解される通り、以下の特許請求の範囲に記載するような本発明の趣旨及び範囲から逸脱しない限り、種々の置換え、変更及び変形が可能である。
【0458】
本願に引用する全参考資料はその内容全体を本願に援用する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
2024056839000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-02-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換え改変型ワクシニアアンカラ(MVA)ウイルスベクターであって、
(i)配列番号29の核酸配列、又は配列番号29の核酸配列に少なくとも95%同一な核酸配列を含む第一の核酸配列と、ここで、前記第一の核酸配列の発現産物は、ムチン1(MUC1)に対する免疫応答を生じる、
(ii)マールブルグウイルスVP40マトリックスタンパク質をコードする第二の核酸配列と
を含み、前記第一の核酸配列及び前記第二の核酸配列が、いずれもmH5プロモーターの制御下にあり、
第一の核酸配列が、MVA必須遺伝子I8RとG1Lとの間に挿入されており、
第二の核酸配列が、MVA遺伝子A50RとB1Rの間の、非必須フランキング配列を除去するよう構成されている改変型MVA欠失部位III領域に挿入されており、
発現すると、前記第一の核酸配列の発現産物及びVP40マトリックスタンパク質が、ともにアセンブリすることができ、ウイルス様粒子(VLP)を形成する、ベクター。
【請求項2】
第一の核酸配列が配列番号29の核酸配列を含む、請求項1に記載の組換えMVAウイルスベクター。
【請求項3】
請求項1に記載の少なくとも1種の組換えMVAウイルスベクターと薬学的に許容される担体とを含有する医薬組成物。
【請求項4】
少なくとも1種の組換えMVAウイルスベクターが、腹腔内、筋肉内、皮内、表皮、粘膜又は静脈内投与用に製剤化されている、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
免疫応答を誘導するために十分な量の請求項3に記載の医薬組成物を含む、免疫応答の誘導を必要とする対象における免疫応答を誘導するための医薬組成物。
【請求項6】
免疫応答が、体液性免疫応答、細胞性免疫応答又はその組合せである、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
新生物の増殖を予防又は抑制するために十分な量の請求項3に記載の医薬組成物を含む、新生物の増殖の予防又は抑制を必要とする対象における新生物の増殖の予防又は抑制のための医薬組成物。
【請求項8】
がんを治療するために十分な量の請求項3に記載の医薬組成物を含む、がんを治療するための医薬組成物。