(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056849
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】水硬化性歯科用セメント、その製造方法、その製造キット及びその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 6/889 20200101AFI20240416BHJP
A61K 6/831 20200101ALI20240416BHJP
A61K 6/838 20200101ALI20240416BHJP
A61K 6/802 20200101ALI20240416BHJP
A61K 6/17 20200101ALI20240416BHJP
【FI】
A61K6/889
A61K6/831
A61K6/838
A61K6/802
A61K6/17
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024019445
(22)【出願日】2024-02-13
(62)【分割の表示】P 2022168274の分割
【原出願日】2018-07-12
(31)【優先権主張番号】102018204655.7
(32)【優先日】2018-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】514200420
【氏名又は名称】ミュールバウアー・テクノロジー・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】MUEHLBAUER TECHNOLOGY GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】ヘンリク・ベトヒャー
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン・ネフゲン
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー・ミュラー
(57)【要約】 (修正有)
【課題】他の有利な性能を同時に損なうことなく、破壊靭性を改善した水硬化性歯科用セメント、その製造方法、製造キット、及び歯の詰め物及び/又は合着材料としてのその使用を提供する。
【解決手段】酸反応性粉末、ポリプロトン酸、水及び分散されたポリマー粒子を含む、水硬化性歯科用セメントである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸反応性粉末と、ポリプロトン酸と、水及び分散されたポリマー粒子と、を含む水硬化性歯科用セメント。
【請求項2】
前記水硬化性歯科用セメントが、グラスアイオノマーセメント、より好ましくは従来のグラスアイオノマーセメントであることを特徴とする、請求項1に記載の水硬化性歯科用セメント。
【請求項3】
水分散液中(水中の)の動的光散乱法により決定した、前記ポリマー粒子の平均粒径が、約1μm未満、より好ましくは5~500nm、さらに好ましくは5~100nmであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の水硬化性歯科用セメント。
【請求項4】
前記ポリマー粒子が、前記水硬化性セメントの硬化前に水溶液中に分散されていることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の水硬化性歯科用セメント。
【請求項5】
前記セメント中の分散されたポリマー粒子の割合が、硬化前のセメントの全体の組成に基づいて、0.005重量%~10重量%、より好ましくは0.005重量%~3重量%、さらにより好ましくは0.01重量%~1重量%、さらに好ましくは0.01重量%~0.5重量%、最も好ましくは0.01重量%~0.3重量%であることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに一項に記載の水硬化性歯科用セメント。
【請求項6】
硬化前のセメントの全体の組成に基づいて、以下に記載する構成要素の1種以上を、以下に記載する定量的な割合で含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の水硬化性歯科用セメント:
20重量%~90重量%、好ましくは40重量%~85重量%の酸反応性粉末、
4.9重量%~40重量%、好ましくは7.4重量%~25重量%のポリプロトン酸、及び/又は
4.9重量%~40重量%、好ましくは7.4重量%~25重量%の水。
【請求項7】
前記酸反応性粉末が、金属酸化物、金属水酸化物、ミネラルトリオキサイドアグリゲート、ヒドロキシアパタイト、生体活性ガラス、特に酸反応性ガラス及びそれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の水硬化性歯科用セメント。
【請求項8】
前記酸反応性粉末が5μm~20μm、より好ましくは5μm~15μmの平均粒径を有するガラス粒子の第1の量と、1μm~5μm、より好ましくは2μm~3μmの平均粒径を有するガラス粒子の第2の量と、から選択されることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の水硬化性歯科用セメント。
【請求項9】
前記ポリプロトン酸が、ポリ酸及びリン酸から選択されることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の水硬化性歯科用セメント。
【請求項10】
前記水硬化性歯科用セメントが、錯形成剤、無機及び有機充填材、無機及び有機着色剤、及びこれらの混合物から成る群から選択されるさらなる追加の構成要素を含有することを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の水硬化性歯科用セメント。
【請求項11】
少なくとも、酸反応性粉末と、ポリプロトン酸と、水及び分散されたポリマー粒子と、を混合することを特徴とする、水硬化性歯科用セメントの製造方法。
【請求項12】
以下の構成要素を含む水硬化性歯科用セメントの製造キット:
a)分散されたポリマー粒子、
b)酸反応性粉末、
c)ポリプロトン酸、及び
d)水。
【請求項13】
歯科用セメントの硬化前のキットの全体的な組成に基づいて、以下に記載する構成要素の1種以上を、以下に記載する定量的な割合で含むことを特徴とする、請求項12に記載のキット:
0.005重量%~5重量%、好ましくは0.005重量%~3重量%、より好ましくは0.01重量%~1重量%、さらに好ましくは0.01重量%~0.5重量%、最も好ましくは0.01重量%~0.3重量%の分散されたポリマー粒子、
20重量%~90重量%、好ましくは40重量%~85重量%の酸反応性粉末、
4.9重量%~40重量%、好ましくは7.4重量%~25重量%、ポリプロトン酸、及び/又は
4.9重量%~40重量%、好ましくは7.4重量%~25重量%の水。
【請求項14】
前記キットが少なくとも2種の成分から構成され、前記キットの構成要素がこれらの成分に分割されることを特徴とする、請求項11及び13のいずれかに記載のキット。
【請求項15】
詰め物又は合着セメントとしての、請求項1~9のいずれか一項に記載の水硬化性歯科用セメントの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬化性歯科用セメント、水硬化性歯科用セメントの製造方法、水硬化性歯科用セメントの製造キット、及び歯の詰め物及び/又は合着材料としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
化学的観点から考えると、水硬化性歯科用セメントは粉末と液体を混合して酸塩基反応を介して凝固する物質である。この目的のために、上記歯科用セメントは、少なくとも3つの構成要素:塩基として酸反応性粉末、酸及び水を含む。
【0003】
従来のグラスアイオノマーセメント(CGIC)は、酸反応性ガラス粉末、ポリアルケン酸及び水の3つの構成要素を本質的に含む水硬化性セメントである。上記粉末は、例としては、酸反応性フルオロアルミノシリケートガラスを含む。上記液体は水を含む。上記酸は通常水溶性のポリアルケン酸であり、上記粉末中又は上記液体中に存在してもよい。
【0004】
先行技術において知られている詰め物(第III類及び第V類の虫歯、根のう蝕(Wurzelkaries)、トンネル形成術(Tunnelpraeparationen)、乳歯の虫歯及びアンダー充填材用)の従来のグラスアイオノマーセメントの例は、Alpha(R)Fil(DMG)という名称で販売されている。さらに知られている製品は、GC Fuji IX(R)及びKetac(R)Filである。
【0005】
臨界応力拡大係数KIcは、材料の破壊靭性の尺度である。知られているセメントの問題は、それらが不十分な破壊靭性しか有さないことである。本発明は、この問題を解決することを意図する。
【0006】
先行技術は、重合性成分の添加、とりわけ(メタ)アクリレート基を含んだモノマー、ポリマー及び/又は充填材の添加により、水を含む歯科用セメントの破壊靭性を改善することを目指している。しかしながら、このような重合性セメントは、従来のグラスアイオノマーセメントと比較して、例えば、低下した生体適合性などの欠点を伴う。
【0007】
特開2001-354509号公報は、改良された機械的性質、特に破壊靭性を有し、アパタイト又はフルオロアパタイトに基づく繊維を含むグラスアイオノマーセメント用の粉末混合物について記載している。上記繊維は、異方的な強化をもたらす。しかしながら、使用される繊維の欠点は、それらが望まない粗い面を生じ得ることである。
【0008】
米国特許第6860932号は、TiO2又はAl2O3粒子による破壊靭性における改善について記載している。記載された金属酸化物は、高い屈折率を有し、したがって、グラスアイオノマーセメントの不透明度を増加させ、歯のように着色することをより困難にする。
【0009】
国際公開公報第2017083039号は、アルミナ又はシリカに基づく粒子を1つの構成要素として含む、グラスアイオノマーセメントの製造キットを開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、他の有利な性能を同時に損なうことなく、破壊靭性を改善した水硬化性歯科用セメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、独立請求項に従った水硬化性歯科用セメントによって達成される。本発明は、とりわけ、酸反応性粉末、ポリプロトン酸、水及び分散されたポリマー粒子と、を含む水硬化性歯科用セメントに関する。
【0012】
さらなる有利な実施形態は、従属請求項に見出すことができる。
【0013】
最初に、本発明の文脈において使われるいくつかの用語を説明する。
【0014】
臨界応力拡大係数KIcは、材料の破壊靭性の尺度である。応力拡大係数Kは、亀裂先端の近傍における応力場の強度の尺度である。破壊が最終的に発生する応力拡大係数は、臨界応力拡大係数である。この材料性能は、破壊靭性とも呼ばれる。臨界応力拡大係数KIcは、亀裂が亀裂表面に垂直に開いたときの破壊靭性とみなす。この亀裂開口形式は、実際には最も重要である。
【0015】
「酸反応性粉末」は、本発明の文脈において、酸-塩基反応を介してポリプロトン酸と反応する粉末を意味すると理解される。適切な酸反応性粉末は、先行技術において知られており、以下でより詳細に説明される。
【0016】
「ポリプロトン酸」は、先行技術において、及び本発明の文脈において、複数のプロトンを有し、プロトンの放出が複数の解離段階にわたって段階的に起こる酸を意味することと理解される。本発明に適切なポリプロトン酸は、以下でより詳細に説明される。
【0017】
本発明の本質は、ポリマー粒子が分散した水硬化性歯科用セメント、好ましくは従来のグラスアイオノマーセメントを提供することであり、その結果、セメント中の破壊をもたらす亀裂の伝搬が妨げられる。このように、水硬化性セメントの破壊靭性は、他の性能を劣化させることなく、簡単な様式で改善される。水硬化性セメントの破壊靭性又は臨界応力拡大係数KIcの増加は、同様に詰め物の耐久性の増加をもたらし、とりわけ咀嚼負荷(auf kaulasttragende)用詰め物への適応拡大を可能にする。
【0018】
したがって、本発明の文脈において、水硬化性歯科用セメントの他の有利な性能を保持又は改善しながら、破壊靭性又は臨界応力拡大係数KIcは改善される。考慮すべき水硬化性歯科用セメント、とりわけ従来のグラスアイオノマーセメントの他の性能の例は、コンシステンシー(Konsistenz)/成形性、作業時間、硬化時間(1.5~6分)、圧縮強度(>100、>180MPa)、曲げ強度(>25MPa)、摩滅/酸侵食(<0.17mm)、光学性能(0.35~0.90のCGICの不透明度C0.70)、X線視認性(%Al)、色合い及び色安定性、自己接着/耐湿性、生体適合性/感受性、フッ化物放出及び膨張挙動である。従来のグラスアイオノマーセメントとして特定される最小要件は、ISO9917から取得される。
【0019】
本発明のさらなる利点は、本発明のポリマー粒子が毒性学的に無害であり、セメント中で非常に低い重量割合しか占めないことである。選択された歯科用セメント中の主要成分は、さらに、市販され、臨床的に認証されたセメント構成要素であり得る。とりわけ(メタ)アクリレートなどの重合性化合物の添加を省略することもできる。
【0020】
本発明の文脈において、水硬化性歯科用セメントは、グラスアイオノマーセメントが好ましく、従来のグラスアイオノマーセメント(CGIC)がより好ましい。
【0021】
従来のグラスアイオノマーセメントは、先行技術において知られている:それらは酸-塩基反応を介して硬化する。従来のグラスアイオノマーセメントに加えて、例えば、金属強化グラスアイオノマーセメント又はサーメットセメント(例えばKetac(R)Silver及びAlpha(R)Silver)及びプラスチック変性グラスアイオノマーセメント(例えばPhotac(R)Fil Quick、Vitremer(R)Fuji(R)II LC)と呼ばれるものもある。従来のグラスアイオノマーセメントの利点の1つは、例えば、硬い歯の組織へのそれらの良好な化学的接着である。
【0022】
[ポリマー粒子]
適切なポリマー粒子は、水中又は水相中でポリマー分散液を形成する。
【0023】
ポリマー粒子は、好ましくは、その表面上に、イオン性基及び/又は水相において立体的に安定化させる基を有する。
【0024】
ここで、イオン性基とは、すべての静電気的な安定化させる基、とりわけアニオン及びカチオン性基を意味すると理解される。
【0025】
ここで、立体的に安定化させる基とは、少なくとも部分的には、少なくとも水に可溶なポリマー又はオリゴマー鎖構成部分を意味すると理解される。それらは、凝集作用と凝固作用に対する水性媒体中の立体安定化の機構(ティー・エス・タドロス(T.S.Tadros)、界面現象とコロイドの安定性(Interfacial Phenomena and Colloid Stability)、1巻、基本原理、デ・グロイター(De Gruyter)社、2015年、209頁以降)に従って、エントロピー効果のために分散粒子を安定化する。ポリマー又はオリゴマー鎖構成部分として一般的に好ましい適切なポリマー鎖は、個々のポリマー粒子のより詳細な説明に記載されている。
【0026】
イオン的に及び/又は立体的に安定化させる基は、好ましくは、主として粒子のポリマーに共有結合している。
【0027】
ポリマー粒子は、好ましくは球状である。
【0028】
ポリマー粒子は、好ましくは一次及び/又は二次分散液の形態で製造される。
【0029】
加えて、ポリマー粒子の平均粒径は、約1μm未満であることが好ましく、5nm~500nmであることがより好ましく、5nm~100nmの間であることがよりいっそう好ましい。粒径は、ポリマー粒子の水分散液上で行われる動的光散乱法(例えば、マルバーン(Malvern)社のZeta-Sizer Nano-zs)によって決定することができる。ポリマー粒子は、一般に言えば、当業者に知られている方法によって光散乱測定のために処理される水分散液として製造後に既に存在している。もしポリマー粒子が乾燥固体として、例えば粉末として存在するならば、それらは、光散乱測定の前に、例えば撹拌、分散及び/又は超音波装置(例えば、バンデリン(Bandelin)社製Sonopuls 4200のような超音波ホモジナイザー)を使用して水分散液に変換される。
【0030】
ポリマー粒子は、水硬化性歯科用セメントの製造のために、すなわち水硬化性セメントの硬化の前には、水含有分散物として存在することがさらに好ましい。
【0031】
本発明の分散されたポリマー粒子は、とりわけ、分散媒としての水を用いて安定な分散相を形成することを特徴とする。ここで、「安定」とは、少なくとも1時間、好ましくは市販品の貯蔵寿命にわたって、好ましくは少なくとも6か月間、分散されたポリマー粒子が分散媒としての水に実質的に分散されたままであり、沈殿物を形成しない及び/又は塊にならない及び/又は凝集しないことを意味する。
【0032】
加えて、硬化前の歯科用セメントの全体の組成に基づいた、歯科用セメント中の分散されたポリマー粒子の割合は、少なくとも0.005重量%であることが好ましく、少なくとも0.01重量%であることがより好ましい。
【0033】
硬化前の歯科用セメントの全体の組成に基づいた、歯科用セメント中の分散されたポリマー粒子の割合は、最大で10重量%であることがさらに好ましく、最大で3重量%であることがより好ましく、最大で1重量%であることがよりいっそう好ましく、最大で0.5重量%であることがさらに好ましく、最大で0.3重量%であることが最も好ましい。
【0034】
加えて、硬化前の歯科用セメントの全体の組成に基づいた、歯科用セメント中における分散されたポリマー粒子の割合は、0.005重量%~5重量%であることがより好ましく、0.005重量%~3重量%であることがより好ましく、0.01重量%~1重量%であることがよりいっそう好ましく、0.01重量%~0.5重量%であることがさらに好ましく、0.01重量%~0.3重量%であることが最も好ましい。
【0035】
好ましいポリマー粒子は、乳化重合で製造されたポリマー粒子である。
【0036】
好ましいポリマー粒子は、任意に置換されたホモ鎖によって形成されたポリマー鎖を含む(エイチ・ジー・エリアス(H.G.Elias)、マクロモルキュール(Makromolekuele)、第1巻、化学構造と合成(Chemische Struktur und Synthesen)、6版、Wiley VCH社を参照)。
【0037】
粒子のための好ましいベースポリマーは、ホモポリマーのポリアクリレート、ポリメタクリレートなどのポリ(アルキル)アクリレート、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリスチレン、ポリビニルアセテート、ポリアクリロニトリル及びポリアクリルアミドである。とりわけ好ましいベースポリマーは、上記のホモポリマーのモノマー及び/又はさらなるモノマーから重合されるコポリマーである。例えば、2種以上のアクリレート又はメタクリレートモノマーからポリ(メタ)アクリレート粒子を形成することがとりわけ好ましい。本発明のポリマー粒子に使用するためのさらに好ましいコポリマーは、スチレン-アクリレートコポリマー、スチレン-マレイン酸誘導体コポリマー、スチレン-ブタジエンコポリマー、ビニルアセテート-エチレンコポリマー、ビニルアセテート-ビニルアルコールコポリマー、ビニルアセテート-アクリレートコポリマー、アクリロニトリル-ブタジエンコポリマーである。
【0038】
アクリル酸、マレイン酸又はその塩などの酸性モノマーを上記ベースポリマーに少量使用することは有利である。N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート又はその塩などの塩基性モノマーを粒子の上記ベースポリマーに少量使用することは有利である。酸性モノマー又はその塩、又は塩基性モノマー又はその塩の割合は、好ましくは10重量%未満、とりわけ好ましくは5重量%未満である。
【0039】
本発明のポリマーの、ホモ鎖を有する粒子分散液は、フリーラジカル乳化重合過程により、とりわけ有利に製造することができる。この目的のために、モノマーは、任意に界面活性剤を添加して、水溶性のフリーラジカル開始剤で、水相中で重合される。
【0040】
荷電中心が粒子の表面に共有結合したイオン的に安定化された粒子分散液を得るための、好ましい別の形態では、いわゆる無乳化剤乳化重合が使用される(エム・エゲン(M.Egen)、ポリマー格子から作られた機能的な3次元フォトニック結晶(Funktionale dreidimensionale Photonische Kristalle aus Polymerlatizes)、学位論文、ヨハネスグーテンベルク(Johannes Gutenberg)大学、マインツ(Mainz)、2003年)。この乳化重合の別の形態では、開始反応中に成長ポリマー鎖にイオン性基を導入するペルオキソ二硫酸カリウムなどのイオン性フリーラジカル開始剤が使用される。このようにして、界面活性剤を使用しなくてもイオン性基が共有結合した静電気的に安定なポリマー粒子が製造される。
【0041】
安定化させる基が共有結合したポリマー粒子を製造するためのさらに好ましい過程では、重合性界面活性剤(いわゆるサーフマー)を使用し、これは最初にフリーラジカル反応でモノマーと共重合し、次に界面活性剤の性能により分散を安定化させる(エム・サマー(M.Summers)、ジェイ・イースト―(J.Eastoe)著、コロイドおよび界面科学の進歩(Advances in Colloid and Interface Science)、100-102、(2003)、137-152)。サーフマーを使用することで、立体的にも静電気的にも安定した分散液を製造することができる。
【0042】
特定の実施形態において、ホモ鎖に基づいたポリマー粒子は架橋されていてもよい。乳化重合過程において、共重合性基を有するモノマーと、共重合性基を複数有するモノマーとを共重合させることにより、架橋構造が1つの製造の別の形態として形成される。
【0043】
本発明の歯科材料に使用するためのさらに適切なポリマー粒子は、ミニエマルジョン重合によって製造することができる。この過程では、フリーラジカル機構及び重付加の両方によって適切な粒子が製造できる(ケイ・ランドフェスター(K.Landfester)、エフ・ティアルクス(F.Tiarks)、エイチ・ピー・ヘンツェ(H.-P.Hentze)、エム・アントニエッティ(M.Antonietti)著、Macromol.Chem.Phys.201,(2000)1-5;ケイ・ランドフェスター著、Macromol.Rapid Commun.22,(2001)896)。
【0044】
好ましいポリマー粒子は、置換ヘテロ鎖を有し得るポリマー鎖を含む。このようなポリマー粒子は、好ましくは、わずかな架橋から実質的な架橋を有するポリシロキサンエラストマー、好ましくは粒子コアを備える。ポリジアルキル、ポリアルキルアリール又はポリジアリールシロキサンエラストマーが優先される。立体的又は静電気的な安定化させる基は、好ましくはSi-C結合によりポリシロキサンエラストマー粒子の表面に付着させる。
【0045】
ある実施形態において、安定化させる基はポリ(メタ)アクリル酸コポリマー鎖である。これらは、例えば、(メタ)アクリル酸含有モノマー混合物と、メタクリル酸基により表面修飾されたポリシロキサン粒子との共重合により製造されてもよい。この過程のために、コモノマーが相応しく選択され得る。もし、例えば、コポリマーシェル中の負電荷を増加させることを意図するならば、これは、(それぞれの場合に(メタ)アクリル酸に基づいて)0.1重量%-20重量%、とりわけ好ましくは0.2重量%-5重量%の重合性の中強度又は強い酸又はその塩との共重合により達成することができる。重合性スルホン酸又はその塩は、この目的のために適している。(メタ)アクリルアミドプロピルスルホン酸誘導体又はそれら塩は、この目的に対してとりわけ適している。同様に、先行技術において見られる重合性酸性リン酸エステル又はホスホン酸エステルも、コモノマーとして使用され得る。
【0046】
ある別の形態において、適切なポリマー粒子は、ポリ(メタ)アクリレートシェルを有するポリシロキサン粒子から、例えば、Genioperl P52(ワッカー・ケミー(Wacker Chemie)、ドイツ)という名前で市販されているように、ポリ(メタ)アクリレートシェルの加水分解によって製造可能である。
【0047】
好ましいポリマー粒子は、粒子の内側部分の材料に関して、及び潜在的には例えば弾性率などの他の性能に関しても、外側部分と異なるコアシェル粒子である。ここでいう「シェル」とは、立体的又は静電気的に安定化させる基の層を意味するものとは理解されない。好ましいコアシェル粒子は、比較的柔らかいコア及び比較的硬いシェルを有してもよい。別の実施形態において、それらは、比較的硬いコア及び比較的柔らかいシェルを備える。コアシェル粒子は、好ましくは、本質的にホモ鎖を含む。コアシェル粒子は、好ましくは2段階の乳化重合過程を介して製造される。好ましいコアシェル粒子はPU粒子であってもよい。好ましい実施形態において、コアシェル粒子は、ポリウレタンコアと、任意に置換されたホモ鎖によって形成されたポリマー鎖から構成されるシェルと、を有する。
【0048】
好ましいポリマー粒子は、ポリウレタン粒子(PU粒子)である。
【0049】
以下から製造されるこれらのPU粒子が優先される:
a)少なくとも1種のポリイソシアネート、
b)任意の、イソシアネートの反応に関して一又は二官能性である少なくとも1種の化合物、特にポリオールA、
c)イソシアネート反応に関して一又は二官能性であり、さらにイオン性基及び/又は少なくとも1種の立体的に安定化させる基に変換可能な、少なくとも1種のイオン性基及び/又は少なくとも1種の官能基を含む、少なくとも1種のさらなる化合物、及び
d)任意の、イソシアネート反応に関して一、二又は多官能性であり、ポリオールB、鎖延長剤及び架橋剤の群から選択される少なくとも1種のさらなる化合物、
ここで、2つの成分b)又はd)のうち少なくとも1種が存在しなければならない。
【0050】
以下から製造されるこれらのPU粒子が優先される:
a)少なくとも1種のポリイソシアネート、
b)少なくとも1種のポリオールA、
c)イソシアネート反応に関して一又は二官能性であり、さらにイオン性基及び/又は少なくとも1種の立体的に安定化させる基に変換可能な少なくとも1種のイオン性基及び/又は少なくとも1種の官能基を含む、少なくとも1種のさらなる化合物、及び
d)任意の、少なくとも1種のポリオールB及び/又は1種の鎖延長剤及び/又は1種の架橋剤。
【0051】
イソシアネート反応において一又は二官能性である化合物は、イソシアネートと反応し得る基を含む化合物である。これらは、好ましくは例えばOH、NH2、NH、NHNH2、SH等のような活性水素を含む官能基である。このような基は当業者に知られており、例えばディー・ランドール(D.Randall)、エス・リー(S.Lee)編集、ポリウレタンブック(The Polyurethanes Book)、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ社(John Wiley&Sons,Ltd)、2002年、に記載されている。当業者は、所望の性能に応じて化合物を選択する。
【0052】
適切なポリイソシアネートは、少なくとも2種のイソシアネート基を有する。少なくとも1種のポリイソシアネートは、好ましくは正確に2種のイソシアネート基を有する。ただし、少なくとも1種のポリイソシアネートが、好ましくは2種以上のイソシアネート基を有する高官能性ポリイソシアネートであることも好ましい。少なくとも1種のポリイソシアネートは、好ましくは芳香族又は脂肪族、特に非環状又は環状の化合物である。少なくとも1種のポリイソシアネートが脂肪族、より好ましくはさらに脂環式化合物であるとき、とりわけ好ましい。少なくとも1種のポリイソシアネートは、好ましくは修飾又は未修飾である。適切な修飾ポリイソシアネートは、例えば、カルボジイミド基、アロファネート基、イソシアヌレート基、ウレタン基及び/又はビウレット基を含むものである。また、修飾及び非修飾ポリイソシアネートとの組み合わせを使用することも好ましい。
【0053】
好ましいポリイソシアネートの例は、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,4-ジイソシアネートシクロヘキサン、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、4,4’-ジイソシアネートジシクロヘキシルメタン、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネート、m-キシレンジイソシアネート、1,3-ビス(1-イソシアネート-1-メチルエチル)ベンゼン、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート及び4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートである。とりわけ好ましいポリイソシアネートは、脂肪族及び脂環式ポリイソシアネートから選択される。
【0054】
ポリオールAは、ヒドロキシ基及び少なくとも1種のさらなるヒドロキシ基又はアミノ基と、を有することが好ましい。
【0055】
さらなる実施形態において、ポリオールAは、好ましくは末端の位置に、例えば、ハンツマン(Huntsman)社により販売されているジェファミン(R)ポリエーテルアミン型、α、ω-ジアミノポリエーテルのような2種以上のアミノ基を有する。
【0056】
ポリオールAは、好ましくは500~6000g/mol、より好ましくは500~2000g/molの分子量を有する。適切なポリオールAは、好ましくは直鎖状又は分岐状である。適切なポリオールAの例は、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエステルアミドポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール、ポリシロキサンポリオール及びポリ(メタ)アクリレートポリオールであり、より好ましくは、それぞれの末端にさらにヒドロキシル基を有する。ポリエーテルポリオールがとりわけ好ましい。ポリテトラヒドロフラン1000が最も好ましい。
【0057】
ポリエーテルポリオールは、好ましくは、水、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトールなどの多官能性開始剤で、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフランなどの環状の有機酸化物を重合させた反応生成物である。環状の有機酸化物の混合物も使用できる。種々の環状の有機酸化物の重合を同時にもたらすことができ、ランダムコポリマーを形成し、連続的に付加してブロックコポリマーを形成することができる。
【0058】
ポリエステルポリオールは、少なくとも二価のアルコールと少なくとも二価のカルボン酸とを反応させて得られることが好ましい。これらのカルボン酸は、脂肪族、脂環式、複素環式、芳香脂肪族又は芳香族であってもよい。遊離のカルボン酸に加えて、対応するカルボン酸無水物又は対応するカルボン酸のメチル又はエチルエステルを使用することもできる。相違する多価のカルボン酸及びその誘導体の混合物と、相違する多価アルコールの混合物とを反応させることもできる。適切なカルボン酸、カルボン酸無水物、カルボン酸エステルの例は、コハク酸、コハク酸無水物、コハク酸ジメチル、アジピン酸、アジピン酸ジメチル、グルタル酸、グルタル酸ジメチル、シクロヘキサン-1、4-ジカルボン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸又はテレフタル酸ジメチルである。適切なアルコール例は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロパン-1、2-ジオール、プロパン-1、3-ジオール、ジプロピレングリコール、ブタン-1、3-ジオール、ブタン-1、4-ジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサン-1、6-ジオール、1、4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、トリメチロールプロパン、グリセロール又はペンタエリトリトールである。ポリエステルポリオールはラクトンの重合によっても調製できる。適切なラクトンの例は、β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、ε-カプロラクトンである。
【0059】
適切なポリエステルアミドはポリエステルのように調製され、多価アルコールの一部は例えばエタノールアミンのようなアミノアルコール、又は例えばエチレンジアミンのようなジアミンによって置換される。
【0060】
プロパン-1、2-ジオール、プロパン-1、3-ジオール、ブタン-1、4-ジオール、ジエチレングリコールなどのジオールと、炭酸ジフェニル、炭酸ジメチルなどの炭酸エステル又はホスゲンとを反応させることにより、適切なポリカーボネートポリオールを得ることができる。
【0061】
適切なポリオレフィンポリオールの例は、末端にヒドロキシ基を有するポリブタジエンであり、これは、日本曹達社から「NISSO-PB Gシリーズ」の名称で販売されている。
【0062】
適切なポリシロキサンポリオールの例は、末端がヒドロキシアルキル基、好ましくはヒドロキシブチル基又はヒドロキシプロピル基のポリジメチルシロキサンである。
【0063】
適切なポリ(メタ)アクリレートポリオールの例は、(メタ)アクリル酸エステルと、少なくとも1種のヒドロキシ基及び少なくとも1種の(メタ)アクリレート基を有する少なくとも1種の化合物とのコポリマーである。1種のヒドロキシ基と1種の(メタ)アクリレート基のみの少なくとも1種の化合物との(メタ)アクリル酸エステルのコポリマーが優先される。
【0064】
さらに、イソシアネート反応に関して一又は二官能性である少なくとも1種のさらなる化合物の、少なくとも1種のイオン性基は、アニオン性又はカチオン性基であることが好ましい。
【0065】
アニオン性基は、好ましくはカルボンキシレート、スルフォネート、スルフェート、スルホニウム、ホスフェート又はホスホネート基である。カチオン性基は、好ましくはアンモニウム基又はホスホニウム基である。イオン性基及び/又はイオン性基に変換可能な官能基は、PU主鎖及び側方PU主鎖の両方に組み込むことができる。
【0066】
立体的に安定化させる基は、少なくとも部分的には少なくとも水に可溶で、好ましくはポリウレタン粒子に共有結合しているポリマー又はオリゴマー鎖構成部分である。それらは凝集作用と凝固作用に対する水性媒体中の立体安定化の機構(ティー・エス・タドロス、界面現象とコロイドの安定性、1巻、基本原理、デ・グロイター社、2015年、209頁以降)に従ってエントロピー効果のために粒子を安定化する。ここで適切なポリマー鎖の例は、ポリ(オキシエチレン)、ポリ(オキサゾリン)、水溶性ポリ(2-アルキルオキサゾリン)、さらに水溶性ポリ(エチレンイミン)誘導体、ポリ(N-ビニルピロリドン)などの水溶性ポリマー鎖、例えばポリ((メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル)、ポリ(メタ)アクリルアミド)などの水溶性ポリ((メタ)アクリレート)、例えば澱粉、ペクチン、セルロースなどの水溶性多糖類及びメチルセルロース又はヒドロキシエチルセルロースなどのセルロースエーテル、例えばゼラチンなどのタンパク質、部分加水分解されたポリビニルアセテート又はポリビニルアルコールである。
【0067】
好ましい実施形態において、ポリマー鎖は、水中でpH1と9の間で荷電した、いかなる基も持たない。
【0068】
さらなる実施形態において、ポリマー鎖は、pH1と9の間の電荷を持つ追加の基を持つ。これらは正又は負の電荷担体であってもよい。適切な化学基はイオン性基として記述される基である。
【0069】
特定の実施形態において、電荷も持つ立体的に安定化させる基は、ポリ(メタ)アクリル酸鎖又はポリ(メタ)アクリル酸コポリマー鎖である。
【0070】
立体的に安定化させるポリマー鎖の適切な相対分子量は、200と100000の間、好ましくは300と20000の間、とりわけ好ましくは400と4000の間である。
【0071】
ある実施形態において、立体的に安定化させる基は、それぞれの場合、鎖セグメントで粒子に共有結合しているポリマー鎖である。この鎖セグメントは、鎖の端又は鎖の別の位置に配置され得る。連結鎖セグメントは、鎖の端に配置されることが好ましい。
【0072】
さらに好ましい実施形態においては、イソシアネート反応に関して一又は二官能性である少なくとも1種のさらなる化合物の、さらに少なくとも1種のイオン及び/又は立体的に安定化させる基は、立体的に安定化させる鎖である。
【0073】
立体的に安定化させる鎖は、様々な手段で粒子に付着し得る。好ましい実施形態において、鎖はウレタン基又は尿素基を介して粒子に付着される。
【0074】
鎖セグメントを介して粒子につながれた典型的な立体的に安定化させる基は、例えば、α-メトキシ、ω-ヒドロキシポリ(オキシエチレン)又はα-メトキシ、ω-アミノポリ(オキシエチレン)の形で粒子の合成中に導入される、末端が単官能のメトキシポリ(オキシエチレン)又は例えば、末端がモノヒドロキシ又はアミノ官能化ポリ(メチルオキサゾリン)の形で粒子の合成中に導入されるポリ(メチルオキサゾリン)である。ポリウレタン鎖の側面に付着することもある。
【0075】
さらなる実施形態において、立体的に安定化させる基は、2つ以上の鎖セグメントを介して粒子に共有結合したポリマー鎖である。2つの鎖セグメントを介して粒子に結合するポリマー鎖が優先される。ある好ましい実施形態において、結合セグメントは、鎖の端に配置される。ここで、立体的に安定化させるポリマー鎖は、ポリオールA又はポリオールBの形で粒子の合成中に導入されることが好ましい。好ましい実施形態において、鎖は、ウレタン基又は尿素基を介して粒子に付着される。
【0076】
2つの鎖セグメントを介して粒子に結合する立体的に安定化させる基の典型的な例は、例えばポリエチレングリコール(ポリオールA又はB)又は他のα、ω-ジアミノポリ(オキシエチレン)の形で粒子の合成中に導入されるポリ(オキシエチレン)である。別の例は、ヒドロキシ又はアミノテレケリックポリ(メチルオキサゾリン)又はポリ(エチルオキサゾリン)である。
【0077】
イソシアネート反応に関して一又は二官能性である少なくとも1種のさらなる化合物は、とりわけ好ましくはヒドロキノンモノスルホン酸カリウム塩、N-メチルジエタノールアミン、PEG 350、PEG 600、TEGOMER(R) D3403又はYmer(R)N120である。
【0078】
少なくとも1種のポリオールBは、好ましくは少なくとも2つのヒドロキシ基を有するポリオールBである。少なくとも1種のポリオールBは、好ましくは500g/mol未満の分子量を有する。適切なポリオールBは、好ましくは芳香族、特に炭素環式又は複素環式、又は脂肪族、特に直鎖状、分岐状又は環状であってもよい。ポリオールBは、とりわけ好ましくは脂肪族である。ポリオールBは、好ましくは少なくとも二価のアルコールである。適切なポリオールBの例は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロパン-1、2-ジオール、プロパン-1、3-ジオール、ジプロピレングリコール、ブタン-1、3-ジオール、ブタン-1、4-ジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサン-1、6-ジオール、1、4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、トリメチロールプロパン、グリセロール及びペンタエリトリトールである。
【0079】
鎖延長剤は、好ましくは500g/mol未満の分子量を有するジアミンである。好ましいジアミンは、エチレンジアミン、1,3-プロピレンジアミン、1,4-ブチレンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミンなどのα,ω-アルキレンジアミン又は他の高分子量の一級及び二級のジアミン、とりわけ好ましくはエチレンジアミンである。ジアミンのさらに好ましい実施形態は、(アミノ基の間にある)有機残基にさらにヘテロ原子、特に酸素原子を持つジアミンである。
【0080】
架橋剤は、好ましくは例えばジエチレントリアミンのような少なくとも3つの官能基を有するものである。
【0081】
このようなポリウレタン粒子の製造は、なかでも以下で述べられる:
【0082】
ロビン(Robin)らのPolym.Int.61巻、495-510頁、2012年、
ラメッシュ(Ramesh)らのJ.Macromol.Sci.C,38巻、481-509頁、1998年、
ロング(Long)らのMacromol.Chem.Phys.215巻、2161-2174頁、2014年、及びKimのColloid Polym.Sci.、274巻、599-611頁,1996年。
【0083】
本発明のPU粒子は、連結部位として、それぞれの場合に、選択された成分に応じて、b)、c)及び/又はd)、ウレタン、尿素、アロファネート及び/又はビウレット基を持つ。これらの基がすべて存在してもよく、一部の基だけが存在してもよい。重付加工程からの連結部位としてウレタン基のみを含む、PU粒子を使用することが好ましい。加水分解の安定性の理由から、重付加工程からの連結部位として、尿素基を独占的に又は少なくとも主として含む、PU粒子を使用することも好ましい。
【0084】
ポリマー粒子は、いずれの重合性基を有しないことが好ましく、とりわけ(アルキル)アクリレート基又は(アルキル)アクリルアミド基のいずれも有しないことが好ましい。
【0085】
[酸反応性粉末]
適切な酸反応性粉末は当業者に知られている。酸反応性粉末としては、金属酸化物、金属水酸化物、ミネラルトリオキサイドアグリゲート(MTA)、ヒドロキシアパタイト、生体活性ガラス、酸反応性ガラス及びそれらの混合物から選択されることが好ましい。
【0086】
金属酸化物は、好ましくは酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化亜鉛、酸化ランタン、酸化イットリウム及びこれらの混合物から選択される。
【0087】
金属水酸化物は、好ましくは水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化ランタン、水酸化イットリウム及びこれらの混合物から選択される。
【0088】
ミネラルトリオキサイドアグリゲート(MTA)は、ケイ酸カルシウム(ケイ酸二カルシウム((CaO)2・SiO2)及びケイ酸三カルシウム((CaO)3・SiO2)、アルミン酸三カルシウム((CaO)3・Al2O3)及び酸化カルシウムの主要成分から成る粉末である。さらに存在する構成要素は、好ましくは石膏(CaSO4・2H2O)及びビスマス(III)酸化物であり得る。
【0089】
生体活性ガラスは、生物活性を有する表面活性ガラスのグループである。従来のガラスとは対照的に、それらは水性媒体に可溶で、それらの表面上にヒドロキシアパタイト層を形成するという事実によって区別される。好ましい生体活性ガラスの例は、国際公開公報第2011/000866号、国際公開公報第2011/161422号及び国際公開公報第2014/154874号に記載されているようなバイオガラス45S5又はバイオガラスである。
【0090】
使用される酸反応性ガラスは、好ましくはアルミノシリケートガラス、より好ましくはフルオロアルミノシリケートガラス、よりいっそう好ましくはカルシウムフルオロアルミノシリケートガラス及びストロンチウムフルオロアルミノシリケートガラスであり得る。加えて、ランタノイドを含むガラスもさらに好ましい。適切なガラスは、とりわけ、例えば欧州特許第0885854号明細書、独国特許発明第3804469号明細書又は欧州特許第1343452号明細書で説明されているようなものである。
【0091】
適切なガラス粉末の好ましい構成要素は、SiO2、Al2O3、CaF2、AlF3、NaF、AlPO4、CaO、SrO、SrF2、P2O5、B2O3、Bi2O3、MgO、TiO2、ZrO2、GeO2、La2O3又はランタノイド系列のさらなる酸化物及びZnOである。適切な組み合わせは、例えば、A.D.Wilson及びJ.W.Nicholsonの「酸塩基セメント(Acid-base cements):それらの生物医学的および産業的応用(Their biomedical and industrial applications)」、ケンブリッジプレス(Cambridge Press)、1993年に記載されているものである。
【0092】
粉末の表面が有機化合物で処理又は修飾されていないことが好ましい。いずれの重合性基も含まないこと、とりわけ、(アルキル)アクリレート基又は(アルキル)アクリルアミド基のいずれも含まないことがさらにまた好ましい。
【0093】
酸反応性粉末は、好ましくは0.5~30μm、より好ましくは1~20μmの平均粒径(d50)及び/又は150μm未満、好ましくは100μm未満、より好ましくは80μm未満の最大粒径(d99)(例:ベックマン・コールター(Beckman Coulter)社製 レーザー粒径分析計 LS13320)を有する。酸反応性粉末は、好ましくは5~20μm、より好ましくは5~15μmの平均粒径を有するガラス粒子の第1の量及び1~5μm、より好ましくは2~3μmの平均粒径を有するガラス粒子の第2の量を含む。ガラス粒子の第1及び第2の量は、例として、異なるガラス組成、行われた表面処理、及び/又は、例えば、不規則又は丸い形状等の異なる形状により、互いに異なる。
【0094】
歯科用セメント中の酸反応性粉末の割合は、硬化前の歯科用セメントの全体の組成に基づいて、好ましくは20重量%~90重量%、より好ましくは40重量%~85重量%である。
【0095】
[ポリプロトン酸]
適切なポリプロトン酸は、当業者に知られている。ポリプロトン酸は、ポリ酸及びリン酸から選択されることが好ましく、ポリ酸から選択されることがとりわけ好ましい。
【0096】
好ましいポリ酸は、不飽和カルボン酸又はホスホン酸のホモポリマー及びコポリマーである。ポリ酸としてのポリアルケン酸がさらに優先される。ポリアクリル酸(PAA)、ポリ(アクリル酸-CO-マレイン酸)、ポリ(アクリル酸-CO-イタコン酸)、ポリ(アクリル酸-CO-ビニルホスホン酸)及びポリ(ビニルホスホン酸)が特別に優先される適切なホモポリマー及びコポリマーのためのさらなるモノマー及びコモノマーは、SchrickerらのJ.Mat.Chem.22,2824-2833,2012に記載されていて、例えば、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルピロリドン、アミノ酸修飾アクリレート及びアクリルアミドである。
【0097】
好ましい実施形態において、ポリプロトン酸はいずれのフリーラジカル重合性基を含まず、とりわけいずれの(アルキル)アクリル酸エステル又は(アルキル)アクリルアミド基も含まない。
【0098】
歯科用セメント中のポリプロトン酸の割合は、硬化前の歯科用セメントの全体の組成に基づいて好ましくは4.9重量%~40重量%、より好ましくは7.4重量%~25重量%である。
【0099】
[水]
硬化前の歯科用セメントの全体の組成に基づいた、歯科用セメント中の水の割合は、好ましくは4.9重量%~40重量%、より好ましくは7.4重量%~25重量%である。
【0100】
[追加の構成要素]
好ましい実施形態において、水硬化性歯科用セメントは、錯形成剤、無機及び有機充填材、無機及び有機着色剤、及びこれらの混合物から成る群から選択されるさらなる追加の構成要素を含む。適切な錯形成剤は、例えば、酒石酸、クエン酸及び/又はプロッサー(Prosser)らのJ.Dent.Res.、61巻、1982年、1195-1198頁に記載されているものである。適切な無機充填材は、例えば、X線不透過性の非酸反応性(不活性)無機充填材である。
【0101】
本発明はさらに、少なくとも、酸反応性粉末、ポリプロトン酸、水及び分散されたポリマー粒子を混合する、水硬化性歯科用セメントの製造方法を提供する。
【0102】
本発明の水硬化性歯科用セメントの製造方法は、本発明の水硬化性歯科用セメント及び本発明のキットに関連して記載されたさらなる特徴を伴って開発することができる。
【0103】
本発明はさらに、以下の構成要素を含む水硬化性歯科用セメントの製造キットを提供する。
a)分散されたポリマー粒子、
b)酸反応性粉末、
c)ポリプロトン酸、及び
d)水。
【0104】
歯科用セメントの硬化前のキットの全体の組成に基づいた、キット中の分散ポリマー粒子の割合は、好ましくは少なくとも0.005重量%、より好ましくは少なくとも0.01重量%である。重量値はポリマー粒子そのものに関係し、粒子分散液には関係しない。
【0105】
歯科用セメントの硬化前のキットの全体の組成に基づいた、歯科用セメント中の分散されたポリマー粒子の割合は、最大10重量%であることが好ましく、最大3重量%であることがより好ましく、最大1重量%であることがよりいっそう好ましく、最大0.5重量%であることがさらに好ましく、最大0.3重量%であることが最も好ましい。
【0106】
加えて、歯科用セメント硬化前のキットの全体の組成に基づいた、歯科用セメント中の分散されたポリマー粒子の割合は、0.005重量%~5重量%であることがより好ましく、0.005重量%~3重量%であることがより好ましく、0.01重量%~1重量%であることがよりいっそう好ましく、0.01重量%~0.5重量%であることがさらに好ましく、0.01重量%~0.3重量%であることが最も好ましい。
【0107】
歯科用セメントの硬化前のキットの全体の組成に基づいた、キット中の酸反応性粉末の割合は、好ましくは20重量%~90重量%、好ましくは40重量%~85重量%である。
【0108】
歯科用セメントの硬化前のキットの全体の組成に基づいた、キット中のポリプロトン酸の割合は、好ましくは4.9重量%~40重量%、より好ましくは7.4重量%~25重量%である。
【0109】
歯科用セメントの硬化前のキットの全体の組成に基づいた、キット中の水の割合は、好ましくは4.9重量%~40重量%、より好ましくは7.4重量%~25重量%である。
【0110】
本発明のキットは、本発明の水硬化性歯科用セメント、特にさらなる及び追加のそれらの構成要素に関連して記載された、さらなる特徴を伴って開発することができる。
【0111】
キットは少なくとも2種の成分から構成され、キットの構成要素がこれらの成分に分割されることが好ましい。キットの構成要素は、酸反応性粉末、ポリプロトン酸及び水からなる成分が1つの別々の成分中だけに存在しない限り、実施形態に応じて、第1及び/又は第2の成分中に存在することが好ましい。この場合、異なる組み合わせは、例えば保存安定性及び混和性に関して、それぞれ異なる利点と関連する。分散されたポリマー粒子は、実施形態に応じて、第1及び/又は第2の成分中に好ましくは存在する。好ましい実施形態において、第1の成分は酸反応性粉末を含み、第2の成分は水及び分散されたポリマー粒子を含む。実施形態に応じて、ポリプロトン酸は、第1及び/又は第2の成分中に存在する。少なくとも2つの成分は、水硬化性歯科用セメントの製造のために使用する直前に混合される必要がある。
【0112】
キットの第1の成分を粉末として提供し、第2の成分を液体として提供する、又はキットの第1の成分をペーストとして提供し、第2の成分をペーストとして提供することがさらに好ましい。
【0113】
また、キットは、成分を混合するのに適切な装置を有することが好ましい。混合のための好ましい装置は、例えば、スパチュラ、混合パッド及び/又はキットの部品が予め計量された形で存在する装置及び/又は部品の自動混合のための装置である。
【0114】
粉末成分と液体成分との混合比は、好ましくは1:1より大きく、より好ましくは2:1より大きく、よりいっそう好ましくは3:1より大きい。これは、例えば、粉末の3.5重量部と液体の1重量部と、を混合することを意味する。
【0115】
記載され得る適切なキット成分システムの例は、欧州特許第1344500号明細書に記載されたカプセル、及び例えば、市販のMixpacTM L/Sシステムなどの自動混合用カートリッジシステムを含有する。
【0116】
本発明はさらに、詰め物として本発明の水硬化性歯科用セメントの使用、さらにより好ましくは、咀嚼負荷詰め物としての使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0117】
本発明は、添付図面を参照して、有利な実施態様を使用して説明される。図中:
【0118】
【
図1】
図1:表4に示すセメント1~3の破壊靭性(応力拡大係数K
Ic(単位MPa√m))の平均値及び標準偏差。
【0119】
【
図2】
図2:表4に示すセメント1~2の圧縮強度(単位MPa)の平均値及び標準偏差。
【0120】
【
図3】
図3:表4に示すセメント1~3の曲げ強度(単位MPa)の平均値及び標準偏差。
【0121】
【0122】
ポリテトラヒドロフラン1000を60℃、0.03mbarで4時間加熱し、乾燥ポリテトラヒドロフラン(PTHF)を得た。粉末を窒素下で貯蔵した。
【0123】
フルオロアルミノシリケートガラスA (FAS A):
組成 SiO2としてのSi 32.2重量%
Al2O3としてのAl 31.6重量%
SrOとしてのSr 24.9重量%
P2O5としてのP 5.2重量%
Na2OとしてのNa 1.7重量%
F-としてのF 7.2重量%
【0124】
ガラス粉末をボールミルで平均粒径d50=2.6μmまで粉砕した。粉末を500℃で8時間熱処理した。
【0125】
フルオロアルミノシリケートガラスB (FAS B):
組成 SiO2 36.00重量%
Al2O3 22.50重量%
CaF2 21.00重量%
Na3AlF6 9.00重量%
AlF3 6.60重量%
AlPO4 5.00重量%
【0126】
ガラス粉末をボールミルで平均粒径d50=7.7μmまで粉砕した。次いで、1kgの粉末を3Lの蒸留水中の30gのKH2PO4の溶液に懸濁し、室温(RT)で24時間撹拌した。さらに、懸濁液をろ過し、蒸留水で洗浄し、100℃で6時間乾燥した。
【0127】
[方法]
イオン性ポリウレタン粒子(PU粒子)の平均粒径及び平均ゼータ電位:
【0128】
パラメータは、マルバーン社製の「Zeta-Sizer Nano-zs」を使用した動的光散乱法によって決定された。平均粒径は、Z平均の形で平均流体力学的等価半径として測定した。粒子は水分散液の形であった。製造後の分散液を超純水で1:10に希釈した。測定には、以下のパラメータの分散媒体として水を使用した:
屈折率1.33、
誘電率78.5、及び
粘度0.8873cP。
【0129】
測定は25℃で行った。
【0130】
フルオロアルミノシリケートガラスの粒径:
【0131】
粒度分布と平均粒径(d50)をベックマン・コールター社製 レーザー粒径分析計 LS130及びベックマン・コールター社製 レーザー粒径分析計 LS13320で決定した。
【0132】
すりガラス250mgを粗い時計皿上でグリセロール4滴と混合してクリーム状のペーストを得た。このペーストは、乳棒を使用して1滴の水で予備分散(vordispergiert)した。次いで、ペーストを5mlの水に混合し、氷水冷却で5分間超音波浴(バンデリン・ソノレックス(Bandelin Sonorex)RK102H)中で分散させた。この分散液を粒径測定器(コールター社製LS130又はベックマン・コールター社製LS13320)の測定チャンバーに導入し、測定する水分散液を循環させながら測定した。
【0133】
測定は水道水中で実施された。評価は、フラウンホーファー回折光学モデルに従って実施された。
【0134】
凍結乾燥:
ZIRBUSテクノロジー社の「昇華器(Sublimator) VaCo 5’」凍結乾燥機を使用して希釈溶液を凍結乾燥した。
【0135】
曲げ強度(FS):
曲げ強度は、ISO9917‐2:2010に従って0.8mm/分の送り速度で測定した。
【0136】
圧縮強度(CS):
圧縮強度は、ISO9917-1:2010に従って1mm/分の送り速度で測定した。
【0137】
破壊靱性(KIc):
粉末と液体をパッド上でスパチュラを使用してそれぞれ特定の混合比で1分以内に混合し、長さL=50mm、高さH=4mm、幅W=3mmの寸法を有する金型に充填した。1時間後、37℃及び相対湿度>95で、試験体を型から取り出し(entformt)、さらに23時間±1時間、37℃の蒸留水中に保管した。試験体は、低速のこぎり(ビューラー(Buehler)社製のアイソメット(Isomet)、ボマ(Boma)社製ダイヤモンドカッティングディスクD46/54、厚さ0.20mm、)で3mm幅の側面のいずれかに刻み目をつけた。刻み目の深さは約0.7mmであった。
【0138】
試験体の幅及び高さを、カリパスを使用して測定した。試験体は、刻み目が力伝達くさびの真下に位置するように、万能試験機(支柱間の間隔S=20mm)の3点曲げ破壊曲げ装置(3-Punkt-Biegebruch-Biegevorrichtung)(ツビックローエル社製(Zwick Roell)のツビックローエルZ2.5)上に下向きに置かれた。試験体の破壊までの最大の力(Fmax)の測定を0.8mm/分の送り速度で行った。
【0139】
破断した試験体の断面積の画像を顕微鏡(ライカ・ライツ DMRX)の下でデジタルカメラ(ライカ DFC295)を使用して記録した。刻み目の、刻み目の深さa1、a2及びa3を評価ソフトウェア(ライカ アプリケーション スイート V3)を使用して三箇所で確認した。平均値aは式に従って3つの値から形成された。測定値を使用して、特定の式に従って破壊靭性(応力拡大係数KIc)を計算した。
【0140】
【0141】
[実施例1]
アニオン性基をもつPU粒子の合成:
【0142】
10gのPTHF、13.9mlのアセトン、5.25gのH12MDI及び0.02mlの触媒の溶液(トルエン中のジネオデカン酸ジメチルスズ、50重量%割合)を60℃で4時間加熱し(還流冷却器、乾燥管)、次いで室温(RT)まで冷却した。イソシアネート基の含有量は、滴定で決定した。それは2.96重量%であった。
【0143】
次いで、室温(約23度)で、1.65gのヒドロキノンモノスルホン酸カリウム塩(DMSO溶液、10重量%割合)を加え、混合物を60℃で4時間加熱した後、70℃で1.5時間加熱し、室温まで冷却した。イソシアネート基の含有量は0.43重量%であった。
【0144】
次に、この混合物を50℃に加熱し、38.3mlの脱イオン水を約35分間にわたって滴下し添加した。乳白色の混濁が発達した。アセトンをロータリーエバポレーターで除去した。残りの分散液の平均粒径は、Z平均=77nm、平均ゼータ電位=-31mVであった。
【0145】
分散液を透析で精製した。この目的のために、約20重量%のポリウレタン粒子を含む分散液を脱イオン水で希釈した。100mlの希釈した分散液を、5日間にわたって8リットルの脱イオン水(再生セルロースから作られた透析チューブ(「ゼルトランス(Zellutans)」、カールルース(carl roth)社製、分画分子量=6000-8000))に対して透析した。この間に4回水を交換した。分散液の固形分含有量は、凍結乾燥によって確認し、0.97重量%であった。
【0146】
[実施例2]
カチオン性基をもつPU粒子の合成:
【0147】
10gのPTHF、13.9mlのアセトン、5.25gのH12MDI及び0.02mlの触媒の溶液を60℃で4時間加熱した後、室温まで冷却した。イソシアネート基の
含有量は、3.25重量%であった。
【0148】
0.956mlのN-メチルジエタノールアミンを加え、混合物を60℃さらに4時間加熱し、再び冷却した。
【0149】
次に、1.94mlの氷酢酸及び47mlのアセトンを加え、混合物を40℃に加熱した後、35mlの脱イオン水を約35分かけて滴下した。乳白色の混濁が発達した。
【0150】
アセトンをロータリーエバポレーターで除去した。残りの透明な分散液の平均粒径は、Z平均=35nm、平均ゼータ電位は69mVであった。固形分含有量は、22.2重量%であった。
【0151】
[実施例3]
イオン性基をもたないPU粒子の合成:
【0152】
バッチ1:
H12MDI 0.04 mol
ブタン-1、4-ジオール 0.005 mol
Terathane 650 0.005 mol
PEG600 0.01 mol
DABCO 1 ヘラ先
DBTDL 3 滴
S アセトン
【0153】
バッチ2:
H12MDI 0.2 mol
PolyTHF250 0.1 mol
PEG350 0.1 mol
DABCO 1 ヘラ先
DBTDL 3 滴
S THF
【0154】
ジイソシアネート及び2つのジオール成分をそれぞれ特定の溶媒(S)に溶解した。加えて、触媒として1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)及びジラウリン酸ジブチルスズ(DBTDL)を反応溶液に添加した。この溶液を24時間撹拌して、完全な反応が達成された。得られたプレポリマーを激しく攪拌しながら過剰の水に滴下し添加した。この過程で、粒子が即座に形成された。得られた水性粒子懸濁液は、限外ろ過で水を用い3回精製した。限外ろ過からの残渣は、それぞれの場合、数ミリリットルの水で再分散した。得られた分散液を固形分含有量について重量分析し、続いてグラスアイオノマーセメント用の液体を製造するために使用した。得られた粒子のサイズは、粒径分析計を使用して決定した。
【0155】
バッチ1:
分散液中の固形分:18.6重量%
粒子のサイズ:300nm
【0156】
バッチ2:
分散液中の固形分:16.3重量%
粒子のサイズ:165nm
【0157】
[実施例4]
キットの構成要素の製造:
【0158】
粉末:
ポリアクリル酸(PAA)の18.2部及びFAS Bの81.8部を一緒に混合した。
【0159】
液体:
本発明の液体は、脱イオン水及び実施例3で得られた分散液と、を混合して調製した。
【0160】
水硬化性歯科用セメントの製造:
【0161】
表1及び表2の重量比で粉末及び液体を混合し、試験体を形成して破壊靭性を決定した。破壊靭性値K1c及び標準偏差(SD)が与えられる。
【0162】
【0163】
【0164】
[実施例5]
キットの構成要素(粉末及び液体)の製造
【0165】
粉末:
FAS Aの47.5部、FAS Bの31.7部、PAAの20.8部を一緒に混合した。
【0166】
液体は、脱イオン水、酒石酸及び実施例1及び2で得られた分散液を混合して調製した。液体の組成を表3に示す。
【0167】
【0168】
[実施例6]
水硬化性歯科用セメントの製造:
【0169】
2.4gの粉末及び0.38gの液体をそれぞれの場合、スパチュラを使用してパッド上で1分以内に混合し、試験体を形成した。設置した試験体の圧縮強度(CS)、曲げ強度(FS)及び破壊靭性(KIc)を記述されたように決定した。
【0170】
【0171】
水硬化性歯科用セメント中のイオン性PU粒子の質量割合は、0.06重量%と0.09重量%であった。少量のこれらのポリウレタン粒子の添加は、セメントの破壊靭性(応力拡大係数K
Ic)の顕著な増加(
図1を参照)をもたらしたと同時に、添加は、圧縮強度及び曲げ強度(
図2、3を参照)に対しては影響しなかったことがわかる。
【0172】
[実施例7]-PMMA粒子の合成
【0173】
精密ガラス撹拌機と2つのセプタムを備えた250ml三口フラスコに150mlの超純水を最初に充填した。含有物を窒素気流下で90℃に加熱した。45分後、窒素気流を遮断し、15ml(141mmol)のメタクリル酸メチルを、セプタムを通して添加した。重合を開始するために、90℃でさらに30分加熱した後、5ml(1.8mmol)の10%ペルオキソ二硫酸カリウム水溶液を開始剤として加えた。そのうえこの溶液は、事前に窒素で10分間、90℃で洗浄した。この反応溶液は、精密ガラス撹拌機を用い400rpmで撹拌した。反応を監視するために、30分毎に0.1mlの反応溶液を、セプタムを通して引き出し、ガラス基板上の空気中で乾燥させた。乾燥膜の反射色が変化しなくなってから、溶液をさらに90℃で30分間攪拌した。反応を終了させるために、セプタムを除去し、懸濁液をさらに約20分間空気中で攪拌した。精製のため、粗不純物を除去するために、反応溶液を温めてろ過した。その後、ろ液を遠心分離した。開始時に、無色の沈渣を除去するために、遠心分離を、5~10分間、4000rpmで少なくとも2回行った。その後、この溶液を、虹色の沈渣の上に透明な溶液が形成されるまで、30~90分間遠心分離した。液相をデカントし、沈渣を60mlの蒸留水中に再び再分散させた。低分子量の反応残渣のポリマーを完全に除くために、この操作を3~4回繰り返した。保存は、5%~20%水性懸濁液として実施された。得られた粒子のサイズは、ベックマン・コールター社製の粒径分析計を使用して、平均粒径が342nmと決定した。
【0174】
[実施例8]-PMMA-co-n-ブチルMA粒子(80:20)の合成
【0175】
合成は、実施例7-PMMA粒子の合成と同様に実施された。しかしながら、12mL(113mmol)のメタクリル酸メチル及び4.5mL(28mmol)のn-ブチルメタクリレートを加えた。得られた粒子のサイズは、323nmの平均粒径に決定した。
【0176】
[実施例9]-PMMA-co-n-ブチルMA粒子(60:40)の合成
【0177】
合成は、実施例7-PMMA粒子の合成と同様に実施された。しかしながら、9mL(84.6mmol)のメタクリル酸メチル及び9mL(56mmol)のn-ブチルメタクリレートを加えた。得られた粒子のサイズは、345nmの平均粒径に決定した。
【0178】
[実施例10]-PMMA-co-n-ブチルMA粒子(40:60)の合成
【0179】
合成は、実施例7-PMMA粒子の合成と同様に実施された。しかしながら、6mL(56mmol)のメタクリル酸メチル及び13.6mL(85mmol)のn-ブチルメタクリレートを加えた。得られた粒子のサイズは、332nmの平均粒径に決定した。
【0180】
[実施例11]-コア-シェル粒子(PnbutylMA-PMMA)の合成
【0181】
合成は、最初、実施例7-PMMA粒子の合成と同様に実施された。しかしながら、最初に13.6mL(85mmol)の未蒸留のメタクリル酸n-ブチルメチルを加えた。乾燥膜の反射色が変化しなくなってから、セプタムを介して6ml(56mmol)のメタクリル酸メチルを加え、その後、実施例7と同様に再び反応を継続した。得られた粒子のサイズは、380nmの平均粒径に決定した。
【0182】
[実施例12]
キットの構成要素
【0183】
粉末は、比が4.51:1の、フルオロアルミノシリケートガラスB(FAS B)とポリアクリル酸の均一混合物から成る。液体は、参照系のための脱塩水又は粒子強化グラスアイオノマーセメントのための水性粒子分散液からなった。粒子分散液は、脱塩水中に適切な量のポリマー粒子を再分散させることによりいずれも製造された。水性粒子分散液の個々の粒子の含有量を表5に示す。
【0184】
[実施例13]
グラスアイオノマーセメントの製造
【0185】
グラスアイオノマーセメントをパッド上のスパチュラを使用してキットの構成要素から混合した。個々の混合比を表5に示す。
【0186】
【0187】
実施例7~11のポリマー粒子の0.25重量%~0.75重量%を水分散液に添加した結果、グラスアイオノマーセメント(参照)の破壊靭性が著しく改善した。