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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005691
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】耐油紙及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/28 20060101AFI20240110BHJP
   D21H 21/14 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
D21H19/28
D21H21/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105990
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000241810
【氏名又は名称】北越コーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】河内 くるみ
(72)【発明者】
【氏名】田中 光次
(72)【発明者】
【氏名】米山 菜穂子
(72)【発明者】
【氏名】坂爪 信之
(72)【発明者】
【氏名】藤田 敏宏
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AA02
4L055AA03
4L055AC06
4L055AG84
4L055AG87
4L055AG89
4L055AH09
4L055AH17
4L055BE08
4L055CF36
4L055EA08
4L055EA12
4L055EA14
4L055EA20
4L055EA32
4L055FA11
4L055FA14
4L055FA19
4L055GA48
(57)【要約】
【課題】本開示は、サラダ油などの食用油が50℃の環境下でもしみ込み難い耐油性と包装した内容物から発生する水蒸気が適度に通過できる通気性とを併せ持ち、環境面での問題が少ない非フッ素系樹脂を耐油剤とし、高温環境下において臭気の発生が少ない耐油紙及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本開示に係る耐油紙は、紙基材の少なくとも一方の面に耐油剤を含む耐油剤層を有する耐油紙であって、前記耐油剤層が前記耐油剤としてガラス転移温度が50℃~80℃のポリエステル樹脂を含有しており、前記耐油剤の塗布量が前記紙基材の片面あたり固形分換算で1.5~5.0g/mであることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材の少なくとも一方の面に耐油剤を含む耐油剤層を有する耐油紙であって、
前記耐油剤層が前記耐油剤としてガラス転移温度が50℃~80℃のポリエステル樹脂を含有しており、
前記耐油剤の塗布量が前記紙基材の片面あたり固形分換算で1.5~5.0g/mであることを特徴とする耐油紙。
【請求項2】
前記耐油剤層に含まれる前記耐油剤のうち前記ポリエステル樹脂の含有率が90質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の耐油紙。
【請求項3】
前記紙基材の米坪量が30~220g/mであることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐油紙。
【請求項4】
前記耐油剤層は前記紙基材の表面に直接設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐油紙。
【請求項5】
前記ポリエステル樹脂が、疎水基を有し、ガラス転移温度が70℃~80℃のポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐油紙。
【請求項6】
JIS P 8117(2009)に準じて王研式にて測定される王研式透気度が500秒以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐油紙。
【請求項7】
紙基材を準備する工程と、
前記紙基材の少なくとも一方の面に、ガラス転移温度が50~80℃のポリエステル樹脂を耐油剤として含む塗布液を、前記耐油剤の塗布量が前記紙基紙の片面あたり固形分換算で1.5~5.0g/mとなるように塗布する工程と、
前記塗布液を塗布した前記紙基材を乾燥して、前記耐油剤を含む耐油剤層を形成することを特徴とする耐油紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、油分が紙層中にしみ込み難い耐油性を持ち、かつ通気性も確保した非フッ素系樹脂を用いた耐油紙およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
耐油紙は、油分や水分を多く含むファーストフードや揚げ物、焼き物といった調理済の食品、チョコレート等の油脂を多く含む食品に対する包装用紙や包装容器、あるいは食品トレイ等の紙製敷物として広く利用されている。
【0003】
耐油紙、特に薄物の耐油紙には、耐油性に加え通気性が要求されるものがあり、例えば、ハンバーガーやホットスナック等の包装用紙には、油脂分を通過させない耐油性と、水蒸気を通過させる通気性の両方が要求される。
【0004】
耐油性を付与しつつ通気性を得るために、従来、フッ素樹脂を含んだ耐油剤が用いられてきた。例えば、紙、板紙の表面にフッ素樹脂を含んだ耐油剤を塗工した耐油紙や、紙層間(紙層中)にフッ素樹脂を含有させた耐油紙が知られている。しかし、フッ素樹脂を用いた耐油紙は、調理などによる高温処理や焼却処理で有機フッ素化合物が発生するおそれがある。そして、これら有機フッ素化合物のうちパーフルオロオクタンスルホン酸やパーフルオロオクタン酸は、難分解性であり生物蓄積性も高いため、環境水中や野生生物中に広範囲に存在することとなり、健康又は環境に悪影響を及ぼすことが懸念されている。
【0005】
これらの問題を解決するために非フッ素系の樹脂を用いた耐油紙が提案されている(例えば特許文献1~4を参照。)。例えば、特許文献1では、デンプンおよび/またはポリビニルアルコールと脂肪酸を含む少なくとも1層の塗工層を基材の少なくとも片面に0.5~20g/m設けたことを特徴とする耐油性シート状物が開示されている。特許文献2では紙支持体の少なくとも片面に耐油剤層を形成した耐油紙であって、前記耐油剤層が疎水基を含有する澱粉とワックスを含有したものであり、かつ前記耐油紙のJAPANTAPPI 紙パルプ試験方法No.5-2:2000に準じて測定した王研式透気度が2000秒以下であることを特徴とする耐油紙が開示されている。特許文献3では製紙用天然繊維を主体とする基紙の片面または両面に、ガラス転移温度(Tg )が10~28℃のアクリル系樹脂のエマルジョン塗工液を固形分で3~20g/m塗工し加熱乾燥して得られる、耐ブロッキング性が良好で再生可能な耐水耐油紙が開示されている。特許文献4では、平面状の繊維構造基材(T)を有する繊維構造物(Ts1)であって、塗料固形分が10%~60%の範囲内でポリエステル系樹脂を含んだ塗料が前記繊維構造基材の片面又は両面に塗工されて形成されたポリエステル系樹脂層(R1)を備えたことを特徴とする繊維構造物について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-219786号公報
【特許文献2】特開2013-237941号公報
【特許文献3】特開平9-111693号公報
【特許文献4】WO2004/083521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1又は特許文献2の耐油紙は、脂肪酸やワックスなど助剤を配合して耐油剤層を形成しているため、50℃などの比較的高温の油には耐油性能が低下する問題がある。また、特許文献3の耐水耐油紙及び特許文献4の耐油紙は何れも耐油性を得るために被膜性を向上させていることから通気性を損ねやすいものであった。耐油紙においては、唐揚げなどの揚げ物を包装した際に、クリスピー感を損ねないように耐油性と通気性とを両立させることが重要であるが、特許文献1~4の耐油紙ではこれらの両立が必ずしも十分ではなかった。また、使用する樹脂によっては臭気が発生し、食品の包装材として使用した際などには風味を損ねるおそれがある。
【0008】
本開示は、このような問題に鑑みてなされたものであり、サラダ油などの食用油が50℃の環境下でもしみ込み難い耐油性と包装した内容物から発生する水蒸気が適度に通過できる通気性とを併せ持ち、環境面での問題が少ない非フッ素系樹脂を耐油剤とし、高温環境下において臭気の発生が少ない耐油紙及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る耐油紙は、紙基材の少なくとも一方の面に耐油剤を含む耐油剤層を有する耐油紙であって、前記耐油剤層が前記耐油剤としてガラス転移温度が50℃~80℃のポリエステル樹脂を含有しており、前記耐油剤の塗布量が前記紙基材の片面あたり固形分換算で1.5~5.0g/mであることを特徴とする。
【0010】
また、本発明においては、前記耐油剤層に含まれる前記耐油剤のうち前記ポリエステル樹脂の含有率が90質量%以上であることが好ましい。このような構成によれば、食用油に対する耐油性と水蒸気が通過する通気性を好適に発現させることができ、臭気の発生も非常に少なくなる。
【0011】
また、本発明においては、前記紙基材の米坪量が30~220g/mであることが好ましい。このような範囲であれば、ホットスナックの包装紙や食品用トレイだけでなく、脱酸素剤用原紙としても好適に用いることができる。脱酸素剤に用いられる原紙には、水分や油分のしみ込みを抑制する性能と、酸素吸収機能が阻害されない程度の通気性とが必要となるため、本発明の耐油紙を好適に用いることができる。
【0012】
また、本発明においては、前記耐油剤層が前記紙基材の表面に直接設けられていることが好ましい。このような構成によれば、より通気性を確保しやすい。
【0013】
また、本発明においては、前記ポリエステル樹脂が、疎水基を有し、ガラス転移温度が70℃~80℃のポリエステル樹脂であることが好ましい。このような構成によれば、高い耐油性と高い撥水性を両立させやすい。
【0014】
また、本発明においては、耐油紙は、JIS P 8117(2009)に準じて王研式にて測定される王研式透気度が500秒以下であることが好ましい。このような構成によれば、包装した比較的高温の内容物から発生する水蒸気がより適度に通過できる。
【0015】
本発明に係る耐油紙の製造方法は、紙基材を準備する工程と、前記紙基材の少なくとも一方の面に、ガラス転移温度が50~80℃のポリエステル樹脂を耐油剤として含む塗布液を、前記耐油剤の塗布量が前記紙基紙の片面あたり固形分換算で1.5~5.0g/mとなるように塗布する工程と、前記塗布液を塗布した前記紙基材を乾燥して、前記耐油剤を含む耐油剤層を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本開示の耐油紙は、食品を包装する用途として十分な耐油性と通気性とを有する。特に、高温環境下においても耐油性能を保持できる。例えば、サラダ油などの食用油が50℃の環境下でもしみ込み難い耐油性と包装した内容物から発生する水蒸気が適度に通過できる通気性とを併せ持つ。高温環境下において臭気の発生も少ない。フッ素系の樹脂を用いないので環境面での問題が少ない。更には、脱酸素剤に用いられる原紙としても好適である。本開示の耐油紙の製造方法は、紙層中に好適にポリエステル樹脂を担持できるため、耐油性を発現し易く、通気性も得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0018】
本実施形態の耐油紙は、紙基材の少なくとも一方の面に耐油剤を含む耐油剤層を形成したものである。紙基材として特に限定されず、用途に応じて適宜選択して使用することができ、例えば、晒又は未晒クラフト紙(酸性紙又は中性紙)、上質紙、中質紙、ライナー、片艶紙等が挙げられる。
【0019】
紙基材を構成するパルプとしては、例えば、木材パルプ、非木材パルプ、古紙パルプ、合成繊維パルプ等を挙げることができる。木材パルプとしては、例えば、針葉樹や広葉樹の化学パルプや機械パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、例えば、ケナフパルプ、バガスパルプ、ラグパルプ、リネンパルプ、麻パルプ、楮パルプ、三椏パルプ、雁皮パルプ、藁パルプ、竹パルプ等が挙げられる。古紙パルプとしては、例えば、雑誌古紙、チラシ古紙、色上古紙、新聞古紙、ケント古紙、上白古紙、コート古紙、複写古紙、損紙古紙等が挙げられる。
【0020】
これらの中でも、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒サルファイトパルプ(LBSP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)等の化学パルプを含有することが好ましい。食品包装用の耐油紙として白く清潔感のある耐油紙とすることができる。
【0021】
パルプの濾水度は、JISP8121-1995に規定されカナダ標準濾水度試験方法で250~550mlとなるように叩解処理することが好ましく300~450mlとすることがより好ましい。紙基材の通気性を調整する目的で、叩解処理の程度を適宜調整する。濾水度が250ml未満では耐油紙としての透気度が高くなりすぎて通気性を損ねるおそれがある。一方、濾水度が550mlを超えると、繊維同士の絡み合いが弱くなり引張り強度などの諸強度が低下するおそれがある。
【0022】
紙基材には、発明の効果を損なわれない範囲で、汎用の添加剤、例えば、サイズ剤(アルキルケテンダイマー系、アルケニル無水コハク酸系、高級脂肪酸系、石油樹脂系、ロジン系等)、紙力増強剤(デンプン、ポリアクリルアミド、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン等)、歩留まり向上剤、濾水性向上剤、硫酸バンド、pH調製剤、消泡剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等を必要に応じて適宜選択して使用することができる。
【0023】
紙基材の抄造ための抄紙機としては、長網抄紙機、短網抄紙機、円網抄紙機、ヤンキー抄紙機、オントップフォーマー、コンビネーション型フォーマー、セパレート型フォーマー、ギャップフォーマー等の抄紙機で行われるが、これに限定されるものではなく、また、単層又は多層で抄造してよい。
【0024】
本実施形態に用いる紙基材の坪量は30~220g/mであることが好ましい。袋等の軟包装用途では30~100g/m、紙トレイや箱用途では100~220g/mが好適に用いられる。坪量が30g/m未満になると、袋形態で必要な強度が不足して破れやすくなるおそれがある。一方、220g/mを超えると通気性を満足できないおそれがある。
【0025】
本実施形態においては耐油剤層に耐油剤としてガラス転移温度が50~80℃であるポリエステル樹脂を含有させる。紙基材の表面及び空隙部にガラス転移温度が50~80℃であるポリエステル樹脂を含浸又は塗工し乾燥させると、微小な空隙を有する耐油剤層が形成され、耐油性が発現する。また、その微小な空隙により通気性も確保される。ポリエステル樹脂のガラス転移温度が50℃未満の場合、ポリエステル樹脂が膜状になってしまって空隙を塞ぎやすくなり、微小な空隙が少ない耐油剤層となるため通気性が乏しくなる。一方、ガラス転移温度が80℃を超えると、ポリエステル樹脂が繊維に絡みつくが膜状にはなりにくく、大きな空隙が多くなるためか耐油性が発現し難くなる。尚、一般的にポリエステル樹脂はアクリル樹脂などと比べて熱分解し難く、加熱された際の臭気を発生させにくい。従って、本実施形態の耐油紙は50℃程度の比較的高温の環境下でも臭気の発生が少ない。
【0026】
また、本実施形態に用いられるポリエステル樹脂は、取り扱いが容易なことから、水分散可能なエマルジョンであることが好ましい。エマルジョンの分散媒は、水が好ましく、分散性を阻害させない範囲で水に水以外の分散媒を加えてもよい。また、必要に応じて疎水基を導入したポリエステル樹脂であることが好ましい。疎水基を導入したポリエステル樹脂のガラス転移温度は70~80℃が好ましい。ポリエステル樹脂に疎水基を導入し、且つ、ガラス転移温度を比較的高くすることで、より好適に細やかな空隙を有する耐油剤層を形成することができ、耐油性の向上に加えて撥水性も向上し易くなる。ポリエステル樹脂に導入する疎水基としては特に限定されないが、直鎖状でも分散状でもよく、炭素数1~20の飽和炭化水素基又は不飽和炭化水素基であることが好ましい。特に炭素数が8~20であれば、ポリエステル樹脂の疎水性がより高くなるためより好ましい。また、上記疎水基は、芳香族炭化水素基や脂環式炭化水素基であってもよい。
【0027】
本実施形態においては、耐油剤層に含まれる耐油剤のうちポリエステル樹脂の含有率を90質量%以上であることが好ましい。このような構成によれば、食用油に対する耐油性を保持しつつ、水蒸気が通過する通気性を好適に発現させることができ、更には臭気の発生も抑えられる。ポリエステル樹脂の含有率が90質量%未満の場合には十分な耐油性を得る為に耐油剤としてワックスやアクリル樹脂などを併用できるが、その場合には併用した耐油剤がポリエステル樹脂層の隙間を埋めるため透気度が高くなりやすい。結果として透気性を損ねてしまうおそれがある。また、ホットスナックなど50℃保温環境下における耐油性の低下や臭気が発生し易くなるおそれがある。
【0028】
本実施形態においては、耐油剤の塗布量(塗工量又は含浸量である場合を含む。)は、紙基材の片面あたり固形分換算で1.5~5.0g/mとする。好ましくは2.0~4.0g/mである。塗布量が1.5g/m未満であると、ムラなく均一に耐油剤層を設けられず耐油性が乏しくなる。また,塗布量が5.0g/mを超えると、紙基材の隙間を完全に埋めてしまい通気性を低下させる。
【0029】
本実施形態の耐油紙の製造方法は前記紙基材の少なくとも片面に耐油剤を含有する塗布液(塗工液又は含浸液である場合を含む。)を塗布し、乾燥して耐油剤層を形成するものである。耐油剤を含有する塗布液の紙基材への塗布には、塗布液に紙基材を浸して塗布液を含浸させる形態(どぶ漬け含浸)と、紙基材の表面に塗布液を塗工する形態とが含まれる。また、紙基材の表面への塗布液の塗工によって紙基材に塗布液を含浸させて(塗布含浸)、耐油剤層が紙基材に形成される形態もある。紙基材に耐油剤層を形成する方法としては各種公知の塗工装置又は含浸装置も適宜用いることができる。例えばサイズプレス、ゲートロール、シムサイザーなどがある。また、抄紙機と切り離された塗工機で行なうオフマシン塗工によってもよい。例えばブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、カーテンコーター、スロットダイコーター、グラビアコーターなどがある。中でも、サイズプレスでの塗布によれば好適に耐油性と通気性とを持たせることができるため好ましい。また、紙基材へ耐油剤層を形成する方法については、オンマシンあるいはオフマシンの何れかで行われるが、オンマシンのほうが少ないエネルギーで生産できるため生産効率の点で好ましい。
【0030】
耐油剤を含有する塗布液には、必要に応じて添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、例えば、分散剤、消泡剤、増粘剤、耐水化剤、可塑剤、蛍光増白剤、着色顔料、着色染料、還元剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、香料又は脱臭剤がある。
【0031】
本実施形態の耐油紙はJIS P 8117(2009)に準じて王研式にて測定される王研式透気度が500秒以下であることが好ましい。王研式透気度が20~470秒であることがより好ましい。透気度が500秒以下であるとホットスナックなど50℃保温環境下や揚物の揚げたてからでる湯気など内容物から発生する水蒸気が耐油紙内を通過し易くなるため、耐油紙内で水滴とならず、揚物など内容物のクリスピー感が保持される。透気度が500秒を超えると、耐油剤層の空隙が少なくなるため、空気が通り抜ける流路が少なくなる。故に通気性が乏しくなるおそれがある。尚、耐油紙を使ってホットスナック等の食品用包装紙を設計する場合、紙基材の表面に印刷層等の他の層を設けた後に耐油剤層を形成することも可能であるが、この他の層の構成によっては耐油紙の通気性を大きく損ねる可能性がある。すなわち、他の層の構成次第では耐油剤層が他の層の微細な空隙を埋め、空隙の無い緻密な耐油剤層を形成することがあり、その結果、紙基材の表面に直接耐油剤層を設ける場合に比べ、透気度が高くなり通気性を損ねてしまうことがある。従って、本実施形態においては、耐油剤層は紙基材の表面に直接設けられていることが好ましい。
【0032】
本実施形態の耐油紙は撥水性も有する。JAPAN TAPPI No.68:2000に準じて測定した撥水度をR6以上とすることができる。撥水度はR7以上であることがより好ましい。耐油紙が濡れ難くなるため、食品包装材として用いた場合にホットスナック等からでる湯気が水滴となっても耐油紙自体に浸透し難く、強度の低下を抑制することができる。
【0033】
また、本実施形態の耐油紙は、通常の抄紙機で行われる、プレス圧、乾燥温度、カレンダー圧、抄造速度等を調節することによって、好ましい平滑度や脱水状態のものとすることができる。平滑処理は通常のスーパーキャレンダー、グロスキャレンダー、ソフトキャレンダー等の平滑化処理装置で行われる。
【実施例0034】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、「% 」及び「部」は、固形分換算での「質量% 」及び「質量部」を示す。
【0035】
(実施例1)
<紙基材の抄造>
針葉樹パルプ(N-BKP)30部と広葉樹パルプ(L‐BKP)70部とを水に分散して混合し、叩解機によって、JIS P 8121-1995に規定されカナダ標準濾水度試験方法で400mlとなるように叩解処理した。これらのパルプスラリーに、湿潤強度剤としてポリアミドエピクロルヒドリン(商品名:WS-4020、星光PMC社製)を0.3部、硫酸バンドを0.14部添加し、長網抄紙機で抄紙して坪量50g/mの紙基材を得た。
<耐油剤の塗布>
得られた紙基材に対し、サイズプレスにて、耐油剤であるガラス転移温度72℃のポリエステル樹脂(HKE-18、花王社製)100部を水に分散して固形分濃度10%に調整した塗布液を、塗布量が固形分換算で紙基材の片面当たり4.0g/mなるように両面に塗布し、ドライヤーで乾燥し、耐油紙を得た。
【0036】
(実施例2)
塗布量を紙基材の片面当たり4.0g/mから5.0g/mに変更した以外は実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0037】
(実施例3)
塗布量を紙基材の片面当たり4.0g/mから1.5g/mに変更した以外は実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0038】
(実施例4)
耐油剤をガラス転移温度72℃のポリエステル樹脂(HKE-18、花王社製)からガラス転移温度52℃のポリエステル樹脂(HKE-03、花王社製)に変更した以外は実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0039】
(実施例5)
耐油剤をガラス転移温度72℃のポリエステル樹脂(HKE-18、花王社製)からガラス転移温度80℃のポリエステル樹脂(HKE-16、花王社製)に変更した以外は実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0040】
(実施例6)
紙基材の坪量を50g/mから30g/mに変更した以外は実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0041】
(実施例7)
紙基材の坪量を50g/mから220g/mに変更した以外は実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0042】
(実施例8)
塗布液に配合するポリエステル樹脂(HKE-18、花王社製)の配合量を100部から90部に変更し、更にパラフィンワックス(AC-30、荒川化学工業社製)10部を混合して調製して塗布液を得た以外は実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0043】
(実施例9)
パルプスラリーに更にサイズ剤(商品名:AL1300/星光PMC社製、変性ロジンエマルション)0.5部を添加して紙基材を得、耐油剤を含有する塗布液の塗布方式をサイズプレスからエアーナイフコーターに変更し、且つ塗布量を紙基材の片面当たり4.0g/mから5.0g/mに変更し、紙基材の一方の面のみに塗布液を塗布した以外は実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0044】
(比較例1)
耐油剤をガラス転移温度72℃のポリエステル樹脂(HKE-18、花王社製)からガラス転移温度46℃のポリエステル樹脂(HKE-12、花王社製)に変更した以外は実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0045】
(比較例2)
耐油剤をガラス転移温度72℃のポリエステル樹脂(HKE-18、花王社製)からガラス転移温度85℃のポリエステル樹脂(エリーテルUE9800、ユニチカ社製)に変更した以外は実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0046】
(比較例3)
耐油剤をガラス転移温度72℃のポリエステル樹脂(HKE-18、花王社製)からガラス転移温度21℃のポリエステル樹脂(HKE-13、花王社製)に変更した以外は実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0047】
(比較例4)
塗布液の塗布量を固形分換算で紙基材の片面当たり4.0g/mから1.0g/mに変更した以外は実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0048】
(比較例5)
塗布液の塗布量を固形分換算で紙基材の片面当たり4.0g/mから7.0g/mに変更した以外は実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0049】
得られた耐油紙について、以下に示す方法で評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0050】
(透気度)
JIS P 8117(2009)に準じて王研式透気度を測定した。
【0051】
(耐油性A)
試料はJIS P8111:1998に規定する方法で前処理し、常温の環境下で試料の一方の面にサラダ油を1滴滴下し、滴下から15秒後のサラダ油の紙へのしみ込みの状態を観察し評価する。評価は下記の4段階とし、△以上を実用上問題なしとして合格とする。尚、実施例9は塗工面側を測定した。
◎:しみ込みが見られない(実用上問題なし)
○:1,2個の点状のしみ込みが見られる(実用上問題なし)
△:3個以上の点状から滴下面積の半分未満のしみ込みが見られる(実用上問題なし)
×:滴下面積の半分程度がしみ込む(実用上問題あり)
【0052】
(耐油性B)
試料はJIS P8111:1998に規定する方法で前処理し、常温の環境下で試料の一方の面にサラダ油を1滴滴下し、該試料を直ちに50℃の環境とした熱風乾燥機の槽内に入れ、10分間静置した後のサラダ油の紙へのしみ込みの状態を観察し評価する。評価は下記の4段階とし、△以上を実用上問題なしとして合格とする。尚、実施例9は塗工面側を測定した。
◎:しみ込みが見られない(実用上問題なし)
○:1,2個の点状のしみ込みが見られる(実用上問題なし)
△:3個以上の点状から滴下面積の半分未満のしみ込みが見られる(実用上問題なし)
×:滴下面積の半分程度がしみ込む(実用上問題あり)
【0053】
(撥水性)
JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法No.68:2000に準じて、撥水度を測定した。尚、実施例9は塗工面側を測定した。
【0054】
【表1】
【0055】
各実施例で得られた耐油紙は、透気度が低く食用油であるサラダ油に対する耐性は常温及び50℃の環境下においても優れ、かつ臭気のないものであった。
【0056】
比較例1では、ポリエステル樹脂のガラス転移温度が46℃と低かったため、通気性が劣り、耐油性Bが劣り、撥水性も低かった。比較例2では、ポリエステル樹脂のガラス転移温度が85℃と高かったため、通気性が良好であったが、耐油性A及び耐油性Bが劣った。比較例3では、ポリエステル樹脂のガラス転移温度が21℃と低かったため、通気性が劣り、耐油性Bが劣った。ポリエステル樹脂のガラス転移温度が21℃と低かったため、塗工後の乾燥時に水蒸気がうまく抜けず、水蒸気が強制的に抜けようとして局所的に比較的大きめの孔を空けてしまったと推察される。比較例4では、片面あたりの耐油剤の塗布量が固形分換算で1.0g/mと少なかったため、通気性が良好であったが、耐油性A及び耐油性Bが劣り、撥水性も低かった。比較例5では、片面あたりの耐油剤の塗布量が固形分換算で7.0g/mと多かったため、耐油性A、耐油性B及び撥水性は良好であったが、通気性が劣った。