(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056913
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】気体動圧軸受、モータおよび送風装置
(51)【国際特許分類】
F16C 17/02 20060101AFI20240416BHJP
H02K 7/08 20060101ALI20240416BHJP
H02K 7/14 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
F16C17/02 A
H02K7/08 A
H02K7/14 A
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024021846
(22)【出願日】2024-02-16
(62)【分割の表示】P 2019066218の分割
【原出願日】2019-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】ニデック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】福島 和彦
(72)【発明者】
【氏名】玉岡 健人
(57)【要約】 (修正有)
【課題】回転および停止を繰り返した場合であっても、シャフトを安定して回転させることができる気体動圧軸受およびモータを提供する。
【解決手段】上下に延びる中心軸に沿って配置されるシャフトと、少なくとも軸方向の一方に開口する孔を有して前記シャフトの少なくとも一部を前記孔の内部に収容するスリーブ53と、を有し、前記スリーブは、前記孔の内周面に複数の動圧溝534を有し、前記シャフトは、芯部510と、前記芯部の外周面に配置されて少なくとも一部が前記孔の内周面と径方向に対向する保護部52を有し、前記保護部は、第1保護部521と、第2保護部522とを有し、前記第1保護部は、軸方向において前記第2保護部よりも上側および下側の少なくとも一方に配置され、前記第1保護部の少なくとも一部の径方向の厚みが前記第2保護部の径方向の厚みよりも厚い。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に延びる中心軸に沿って配置されるシャフトと、
少なくとも軸方向の一方に開口する孔を有して前記シャフトの少なくとも一部を前記孔の内部に収容するスリーブと、を有し、
前記スリーブは、
前記孔の内周面に複数の動圧溝を有し、
前記シャフトは、
芯部と、
前記芯部の外周面に配置されて少なくとも一部が前記孔の内周面と径方向に対向する保護部、を有し、
前記保護部は、
第1保護部と、第2保護部とを有し、
前記第1保護部は、軸方向において前記第2保護部よりも上側および下側の少なくとも一方に配置され、
前記第1保護部の少なくとも一部の径方向の厚みが前記第2保護部の径方向の最大の厚みよりも厚く、
前記外周面には、径方向に凹む凹部が形成され、
前記第1保護部は、前記凹部に配置され、
前記第1保護部の前記中心軸から径方向に最も遠い部分と前記中心軸との距離と、前記第2保護部の前記中心軸から径方向に最も遠い部分と前記中心軸との距離とが同じである気体動圧軸受。
【請求項2】
前記外周面は、
前記芯部の外径が一定の円筒面部と、
前記円筒面部よりも上側および下側の少なくとも一方に配置され、前記芯部の端部に向かって前記中心軸側に傾く傾斜面部と、を有し、
前記凹部は、軸方向において前記円筒面部と前記傾斜面部とを接続する請求項1に記載の気体動圧軸受。
【請求項3】
前記第1保護部は、前記傾斜面部に連続する保護傾斜面部を有し、前記保護傾斜面部は前記傾斜面部に滑らかに連結する請求項2に記載の気体動圧軸受。
【請求項4】
上下方向に延びる中心軸に沿って配置されるシャフトと、
少なくとも軸方向の一方に開口する孔を有して前記シャフトの少なくとも一部を前記孔の内部に収容するスリーブと、を有し、
前記スリーブは、
前記孔の内周面に複数の動圧溝を有し、
前記シャフトは、
芯部と、
前記芯部の外周面に配置されて少なくとも一部が前記孔の内周面と径方向に対向する保護部、を有し、
前記保護部は、
第1保護部と、第2保護部とを有し、
前記第1保護部は、軸方向において前記第2保護部よりも上側および下側の少なくとも一方に配置され、
前記第1保護部の少なくとも一部の径方向の厚みが前記第2保護部の径方向の最大の厚みよりも厚く、
前記外周面は、
前記芯部の外径が軸方向において一定の円筒面部と、
前記円筒面部よりも上側および下側の少なくとも一方に配置され、前記芯部の軸方向の端部に向かって前記中心軸側に傾く傾斜面部と、を有し、
前記第1保護部は、前記傾斜面部上に配置され、
前記第1保護部の前記中心軸から径方向に最も遠い部分と前記中心軸との距離と、前記第2保護部の前記中心軸から径方向に最も遠い部分と前記中心軸との距離とが同じである気体動圧軸受。
【請求項5】
前記芯部は、
前記第1保護部よりも前記芯部の端部側に形成される縁部を有し、
前記縁部は、前記第1保護部と軸方向に接触し、
前記縁部の外径は、前記外周面の外径よりも大きい請求項1に記載の気体動圧軸受。
【請求項6】
前記縁部の最外径部の半径が、前記第1保護部の前記中心軸から径方向に最も遠い部分と前記中心軸との距離と同じである請求項5に記載の気体動圧軸受。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の気体動圧軸受と、
前記スリーブの外面に配置されたステータと、
前記シャフトの上端に固定されるとともに前記ステータと径方向に対向するロータと、
を備え、
前記第1保護部が、前記外周面の軸方向上端に配置される、モータ。
【請求項8】
請求項7に記載のモータと、
前記ロータに取り付けられたインペラと、を有する送風装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体動圧軸受、これを用いるモータおよび送風装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2000-304037号公報に記載の気体動圧軸受は、円筒状の外周面領域を有するリングと、外周面領域と対向する内周面領域を有する筒状部を備えるハウジングとを含む。そして、外周面領域又は内周面領域には、これら両面領域の間をラジアル動圧軸受領域として作用させる複数のラジアル動圧溝を備えている。
【0003】
気体動圧軸受は、例えば、空気を圧縮してラジアル動圧軸受領域とする構成であり、非接触であることから、高回転に対応可能であり、静音性も高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特開2000-304037号公報に記載の気体動圧軸受では、回転体の回転速度が非常に遅いあるいは停止しているときに、リングとハウジングとが直接接触する可能性がある。例えば、回転と停止を繰り返すと、リングとハウジングが接触した状態でリングが回転するため、リングおよびハウジングの少なくとも一方が削れてしまい、安定して回転できなくなる可能性がある。
【0006】
本発明は、回転および停止を繰り返した場合であっても、シャフトを安定して回転させることができる気体動圧軸受およびモータを提供することを目的とする。
【0007】
本発明は、回転および停止を繰り返した場合であっても、安定して空気を吐出できる送風装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の例示的な気体動圧軸受は、上下に延びる中心軸に沿って配置されるシャフトと、少なくとも軸方向の一方に開口する孔を有して前記シャフトの少なくとも一部を前記孔の内部に収容するスリーブと、を有し、前記スリーブは、前記孔の内周面に複数の動圧溝を有し、前記シャフトは、芯部と、前記芯部の外周面に配置されて少なくとも一部が前記孔の内周面と径方向に対向する保護部、を有し、前記保護部は、第1保護部と、第2保護部とを有し、前記第1保護部は、軸方向において前記第2保護部よりも上側および下側の少なくとも一方に配置され、前記第1保護部の少なくとも一部の径方向の厚みが前記第2保護部の径方向の厚みよりも厚いことを特徴とする。本発明の例示的なモータは、前記スリーブの外面に配置されたステータと、前記シャフトの上端に固定されるとともに前記ステータと径方向に対向するロータと、を備え、 前記第1保護部が、前記外周面の軸方向上端に配置されることを特徴とする。本発明の例示的な送風装置は、前記のモータと、前記ロータに取り付けられたインペラと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の例示的な気体動圧軸受およびモータによれば、回転および停止を繰り返した場合であっても、シャフトを安定して回転させることができる。
【0010】
本発明の例示的な送風装置によれば、回転および停止を繰り返した場合であっても、安定して空気を吐出できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図4】
図4は、気体動圧軸受5を構成するシャフトおよびスリーブの縦断面図である。
【
図6】
図6は、本発明にかかる気体動圧軸受の第1保護部を拡大した拡大断面図である。
【
図7】
図7は、シャフトを製造する前の棒材の表面を切削した状態を示す拡大断面図である。
【
図8】
図8は、
図7に形成した切削部分に保護部材を塗布した状態を示す拡大断面図である。
【
図9】
図9は、
図8に示す棒材を切削加工にて成形した状態を示す拡大断面図である。
【
図10】
図10は、本発明にかかる気体動圧軸受の第1保護部の拡大断面図である。
【
図11】
図11は、本発明にかかる気体動圧軸受の縦断面図である。
【
図12】
図12は、本発明にかかる気体動圧軸受の第1保護部の拡大断面図である。
【
図13】
図13は、本発明にかかる気体動圧軸受の第1保護部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本明細書では、送風装置A、モータ20および気体動圧軸受5は中心軸Cxが一致する。そして、本明細書において、送風装置A、モータ20および気体動圧軸受5の中心軸Cxと平行な方向を「軸方向」とし、中心軸Cxに直交する方向を「径方向」とし、中心軸Cxを中心とする円弧に沿う方向を「周方向」とする。本明細書では、送風装置Aにおいて、軸方向を上下方向とし、インペラ30に対してハウジング10の吸気口14側を上として、各部の形状や位置関係を説明する。なお、上下方向は単に説明のために用いられる名称であって、送風装置Aの使用状態における位置関係及び方向を限定しない。
【0013】
<1.送風装置の全体構成> 本発明の例示的な実施形態の送風装置について以下説明する。
図1は、送風装置Aの斜視図である。
図2は、
図1に示す送風装置Aの分解斜視図である。
図3は、
図1に示す送風装置Aの縦断面図である。
図1~
図3に示すとおり、送風装置Aは、ハウジング10と、モータ20と、インペラ30と、回路基板40と、を有する。
【0014】
図3に示すとおり、送風装置Aでは、ハウジング10の内部にモータ20、インペラ30および回路基板40が配置される。インペラ30はモータ20に取り付けられる。モータ20の回転によってインペラ30が回転する。インペラ30が取り付けられたモータ20は、ハウジング10の後述する風洞部11の内部に取り付けられる。送風装置Aでは、モータ20の回転によって風洞部11に軸方向上方から下方に向かう気流が発生する。気流は、後述の排気口15から噴出される。
【0015】
<2. ハウジング10について>
図1から
図3に示すとおり、ハウジング10は、風洞部11と、ベース部12と、静翼13と、を有する。風洞部11は、ハウジング10の上端と下端とをつなぐ貫通孔である。風洞部11は、中心軸Cxに沿って延びる筒状の内面を有する。風洞部11の内部にインペラ30が配置される。風洞部11の内部でインペラ30が回転することで、風洞部11の内部に上方から下方に向かう気流が発生する。なお、風洞部11は、インペラ30の回転によって発生する気流を中心軸Cxに沿って導くガイドである。風洞部11の軸方向上端が、吸気口14であり、軸方向下端が排気口15である。インペラ30が回転することで、吸気口14から空気が吸い込まれ、インペラ30で加速または加圧された気流が排気口15から排出される。
【0016】
ベース部12は、軸方向において風洞部11の下端部、すなわち、気流の流れ方向において風洞部11の下流側端部に配置される。そして、ベース部12は、径方向において風洞部11の内側に配置されている。ベース部12は、中央部に軸方向に貫通するベース貫通孔121を有するとともに(
図3参照)、ベース貫通孔121の辺縁部より軸方向上側に突出した筒状の軸受保持部122を有する。軸受保持部122は、ベース部12と同一の部材で形成されるが、これに限定されない。例えば、軸受保持部122は、ベース部12に溶接、接着、ねじ止め等の固定方法にて固定してもよい。
【0017】
風洞部11とベース部12とは、径方向に間隙をあけて配置されている。そして、風洞部11とベース部12との間隙には、複数の静翼13が周方向に配置されている。静翼13は、風洞部11とベース部12とを接続する。換言すると、ベース部12は、静翼13を介して風洞部11に保持される。静翼13は、インペラ30の回転によって発生した気流を中心軸Cxを中心とした軸対称な流れに整流する。そのため、複数の静翼13は、周方向に等間隔で配置される。ベース部12は、ハウジング10と一体に形成されている。ここでは、ハウジング10とベース部12とは、樹脂の射出成形にて形成される。しかしながらこれに限定されず、ベース部12は、ハウジング10と別部材で形成されていてもよい。
【0018】
<3. インペラ30について> 上述したとおり、インペラ30は、モータ20に取り付けられた状態でハウジング10の風洞部11の内部に回転可能に配置される。インペラ30は、モータ20の後述されるロータ22に取り付けられる。モータ20の回転によって、インペラ30が中心軸回りに回転する。
図1~
図3に示すように、インペラ30は、インペラハブ31と、複数の羽根32と、を有する。インペラ30は、樹脂の射出成形にて形成される。
【0019】
<3.1 インペラハブ31について>
図2、
図3に示すように、インペラハブ31は、ハブ天板部311と、ハブ筒部312とを有する。ハブ天板部311は径方向に拡がる円板状である。ハブ筒部312は、ハブ天板部311の径方向外縁から軸方向下側に延びる筒状である。
【0020】
ハブ筒部312の内部には、モータ20の後述するロータ22のロータヨーク221が固定される。これにより、インペラハブ31とロータ22とが固定される。
【0021】
<3.2 羽根32について> 複数の羽根32は、インペラハブ31の外面に周方向に並んで配置される。本実施形態においては、羽根32はインペラハブ31の外面上に周方向に所定の間隔に並んで配置され、インペラハブ31と一体成形される。羽根32の上部は下部に対して回転方向Rt前方に配される。
【0022】
インペラ30は、モータ20に固定された状態で、ハウジング10の風洞部11の内部に取り付けられる。そして、モータ20が駆動されることで、インペラ30は風洞部11の内部で、中心軸Cx回りに回転される。
【0023】
<4.回路基板40について> 回路基板40は、ハウジング10内部に配置される。回路基板40は、モータ20の軸方向下方に配置される。回路基板40は、中央に貫通孔を有する円板状である。回路基板40は、モータ20を駆動させる駆動回路を有している。回路基板40は、モータ20の後述するステータ21のインシュレータ212に形成された基板保持部214に保持される。
【0024】
<5. モータ20について> 次に、モータ20の詳細について説明する。
図2、
図3に示すように、モータ20は、ステータ21と、ロータ22と、気体動圧軸受5と、を有する。ステータ21およびロータ22が気体動圧軸受5を介してハウジング10のベース部12に取り付けられる。
【0025】
<5.1 気体動圧軸受5について>
図4は、気体動圧軸受5を構成するシャフト51およびスリーブ53の縦断面図である。
図5は、スリーブ53の縦断面図である。
図6は、シャフト51の第1保護部521を拡大した拡大断面図である。
図6には、スリーブ53の一
部も表示している。以下の説明に用いる第1保護部の拡大図でも、スリーブの一部も表示する。
【0026】
図2~
図4に示すとおり、気体動圧軸受5は、シャフト51と、スリーブ53と、スラストマグネット54と、スラスト板55とを有する。
図3、
図4に示すとおり、シャフト51は、スリーブ53の内部に回転可能に配置されている。すなわち、シャフト51は上下方向に延びる中心軸Cxに沿って配置される。スラストマグネット54は、シャフト51およびスリーブ53に取り付けられている。スラストマグネット54によって、シャフト51はスリーブ53に回転可能であるとともに軸方向(スラスト方向)に一定の位置で支持される。スラスト板55は、スリーブ53の下端の開口を塞ぐ。
【0027】
シャフト51とスリーブ53とは径方向に隙間を介して対向する。シャフト51とスリーブ53の径方向に対向する部分は、軸方向に、2つの動圧発生部501と、動圧保持部502とに分けられる。2つの動圧発生部501は、シャフト51とスリーブ53との径方向の隙間における軸方向上端部および下端部の領域である。動圧保持部502は、シャフト51とスリーブ53との径方向の隙間における2つの動圧発生部501の間の領域である。
【0028】
動圧保持部502は、軸方向において動圧発生部501の間に各動圧発生部501と連続して配置される。スリーブ53の動圧発生部501には、後述の気体圧縮部533が形成される。そして、シャフト51が回転することで、動圧発生部501は軸方向中央側に向かう、すなわち、動圧保持部502に向かう気流を発生させる。これにより、動圧保持部502の気圧が上昇する。詳細は後述するが、気体動圧軸受5は、動圧保持部502の気圧を高めることで、動圧保持部502でシャフト51をスリーブ53に対して、非接触で支持する。以下に、気体動圧軸受5の各部の詳細について説明する。
【0029】
<5.1.1 スリーブ53について> まず、スリーブ53について説明する。
図4、
図5に示すとおり、スリーブ53は、中心軸Cxに沿って延びる筒状である。スリーブ53は、例えば、ステンレス等の金属で形成される。なお、スリーブ53は、十分な強度を有する場合、例えば、セラミック等を用いてもよい。スリーブ53を形成する材料はステンレス、セラミック等に限定されず、シャフト51、ステータコア211を強固に保持できる材料を広く採用できる。
【0030】
スリーブ53は、中心軸Cxに沿って延びる孔530を有する。孔530は、軸方向の両端に開口を有する。孔530の内部には、シャフト51が回転可能に配置される。すなわち、スリーブ53は、少なくとも軸方向の一方に開口する孔530を有してシャフト51の少なくとも一部を孔530の内部に収容する。
【0031】
スリーブ53の孔530は、軸受マグネット保持部532と、気体圧縮部533と、内筒部536と、を有する。軸受マグネット保持部532は、孔530の軸方向下端に配置される。軸受マグネット保持部532は、スラストマグネット54の径方向外面を保持する。そして、スリーブ53の孔530の下端部には、スラスト板55が取り付けられる。スラスト板55はスリーブ53の孔530に固定されており、スリーブ53の外部からスリーブ53の内部に異物が混入することを抑制する。
【0032】
上述したとおり、気体圧縮部533は、孔530の内周面531の動圧発生部501を構成する部分に形成される。内筒部536は、孔530の内周面531の動圧保持部502を構成する部分に形成される。
【0033】
内筒部536は、軸方向全長にわたって、内径が一定の筒状である。なお、ここで一定とは、正確に一定である場合を含むとともに、気圧の変動によりシャフト51の回転が不安定にならない程度にばらつきがある場合も含む。
【0034】
気体圧縮部533には、複数本(たとえば、3本)の動圧溝534が配置される。すなわち、スリーブ53は、孔530の内周面531に複数の動圧溝534を有する。動圧溝534は、孔530の内周面531から径方向に凹み、軸方向および周方向に延びる。動圧溝534は動圧保持部502側がシャフト51の回転方向前方側に位置するらせん状である。気体圧縮部533では、3本の動圧溝534が周方向に並んで配置される。そして、周方向に隣り合う動圧溝534の間の部分には、陸部535が形成される。陸部535は、内筒部536と内径が同一の円筒状の一部である。ここで、同一とは、正確に同一である場合を含むとともに、気圧の変動によりシャフト51の回転が不安定にならない程度にばらつきがある場合も含む。なお、気体圧縮部533および動圧溝534は、以上の構成に限定されず、シャフト51の回転によって、気体を軸方向中央に送り込むことができる形状を広く採用できる。
【0035】
また、スリーブ53は、通気孔537と、ステータ固定部538とを有する。通気孔537は、スリーブ53の外側から孔530に貫通する貫通孔である。本実施形態において、通気孔537は、径方向に延びる。通気孔537は、スリーブ53の軸方向下部に形成される。シャフト51の回転によって、下側の動圧発生部501で軸方向上方に向いた気流が発生したとき、通気孔537を介して孔530に気体(空気)が流入する。これにより、下側の動圧発生部501が、動圧保持部502に空気を送ることができる。なお、通気孔537は、ステータ21等で塞がれない位置に、配置される。
【0036】
ステータ固定部538はスリーブ53の外面に形成される。
図3に示すとおり、ステータ固定部533には、ステータ21のステータコア211が固定される。なお、ステータコア211の固定は、例えば、圧入を挙げることができる。しかしながら、ステータコア211の固定は、圧入に限定されず、接着、溶接、ねじ止め等、ステータコア211をスリーブ53に固定する固定方法を広く採用できる。
【0037】
<5.1.2 シャフト51について> シャフト51は、中心軸Cxに沿って延びる。シャフト51は、芯部510と、保護部52とを有する。本実施形態において、芯部510は、ステンレス等の金属製の柱部材である。芯部510は、十分な強度を有する場合、例えば、セラミック等を用いて金属でなくてもよい。さらに、十分な強度を有する場合、内部に空間を有する、いわゆる、中空の筒状の部材であってもよい。なお、芯部510の十分な強度とは、例えば、回転時に変形しにくい強度を挙げることができる。
【0038】
図4に示すとおり、芯部510は、軸受部511と、ロータ固定部515と、マグネット固定部516とを有する。芯部510では、軸方向上方からロータ固定部515、軸受部511、マグネット固定部516が順に配置される。ロータ固定部515は、円柱状であり、ロータ22の後述するロータヨーク221のシャフト保持部225が固定される。ロータ固定部515とシャフト保持部225との固定は、本実施形態において、圧入で行われる。しかしながら、ロータ固定部515とシャフト保持部225との固定は、圧入に限定されず、シャフト51とロータ22との中心線が一致するとともに強固に固定できる方法を広く採用できる。マグネット固定部516は、円柱状であり、スラストマグネット54の内側が固定される。
【0039】
シャフト51は、スラストマグネット54によって、軸方向(スラスト方向)に支持される。スラストマグネット54は、径方向の内側と外側に分かれており、内側はシャフト51のマグネット固定部516に固定され、外側はスリーブ53の軸受マグネット保持部532に保持される。スラストマグネット54は、磁石の引力および斥力を利用して、シャフト51のスリーブ53に対する軸方向の位置を一定の位置に維持する。
【0040】
図6に示すとおり、軸受部511の外周面5110は、円筒面部512と、傾斜面部513と、凹部514とを有する。円筒面部512は、一定の外径を有する円筒状である。すなわち、軸受部511の外周面5110は、芯部510の外径が軸方向において一定の円筒面部512を有する。なお、一定の外径とは、正確に一定である場合を含むとともに、気圧の変動によりシャフト51の回転が不安定にならない程度にばらつきがある場合も含む。
【0041】
傾斜面部513は、芯部510の円筒面部512よりも上側に配置されて芯部510の端部に向かって中心軸Cx側に傾く。すなわち、外周面5110は、円筒面部512よりも上側および下側の少なくとも一方に配置されて芯部510の端部に向かって中心軸Cx側に傾く傾斜面部513を有する。
【0042】
そして、芯部510の傾斜面部513が形成された部分を中心軸Cxに直交する面で切断した断面は、円形状である。傾斜面部513は、例えば、テーパ形状である。なお、テーパ形状に限定されず、中心軸Cxを含む縦断面で切断した断面形状において、曲線となる形状であってもよい。また、本実施形態では、傾斜面部513は円筒面部512よりも上方に配置されているが、これに限定されず、下方に配置されてもよい。本実施形態において、傾斜面部513は、周方向に連続した形状であるがこれに限定されない。例えば、軸受部511の端部の周方向の一部にだけ傾斜面部513が形成されてもよい。
【0043】
図6に示すとおり、凹部514は、径方向に凹む。すなわち、外周面5110には、径方向に凹む凹部514が形成される。凹部514は、円筒面部512と傾斜面部513とを接続する。すなわち、凹部514は、軸方向において円筒面部512と傾斜面部513とを接続する。凹部514は中心軸Cx回りに連続している。そして、凹部514は、中心軸Cxまでの距離が軸方向端部よりも短い部分を有する。凹部514を中心軸Cxまでの距離が軸方向端部よりも短い部分を有する構成とすることで、保護部52を容易に形成できる。保護部52の形成手順については、後述する。
【0044】
保護部52は、シャフト51の芯部510の軸受部511に配置される。保護部52は軸受部511の外周面5110の径方向外側に配置され、外周面5110の径方向外側を覆う。保護部52は、芯部510およびスリーブ53を構成する材料、ここでは、ステンレスよりも摩擦係数が低く、やわらかい材料、例えば二硫化モリブデンを含む材料で形成される。
【0045】
保護部52は、第1保護部521と、第2保護部522と、を有する。第2保護部522は、外周面5110の円筒面部512の径方向外側に配置される。シャフト51がスリーブ53の内部に配置されたとき、保護部52は、孔530の内周面531と径方向に対向する。すなわち、保護部52は、外周面5110に配置されて少なくとも一部が孔530の内周面531と径方向に対向する。
【0046】
第2保護部522は、例えば、円筒状である。第2保護部522は、外径が均一な外面を有する。ここで均一とは、完全に均一な場合を含むとともに、気圧の変動によりシャフト51の回転が不安定にならない程度にばらつきがある場合も含む。また、第2保護部522は、筒状でなくてもよい。例えば、芯部510の円筒面部512の周方向に、間欠的、つまり、周方向に隙間をあけて配置されていてもよい。いずれの場合であっても、気圧の変動によりシャフト51の回転が不安定にならない配置である。
【0047】
第1保護部521は、第2保護部522の軸方向上端に接続する。また、第1保護部521は、第2保護部522の軸方向下端に接続してもよい。すなわち、第1保護部521は、軸方向において第2保護部522よりも上側および下側の少なくとも一方に配置される。第1保護部521は円環状である。第1保護部521は、凹部514に配置される。第1保護部521の径方向の厚みは、第2保護部522の径方向の厚みよりも厚い。すなわち、第1保護部521の少なくとも一部の径方向の厚みが第2保護部522の径方向の厚みよりも厚い。
【0048】
また、第1保護部521が凹部514に配置されることで、第1保護部521と凹部514との接触面積を大きくすることができる。これにより、
第1保護部521が凹部514から剥離しにくい。つまり、凹部514に第1保護部521を配置することで、保護部52が芯部510に強固に固定される。
【0049】
シャフト51の芯部510において、凹部514は、傾斜面部513と隣り合う。そのため、第1保護部521の径方向外側の面には、傾斜面部513と滑らかに連続する保護傾斜面部523が形成される。ここで、傾斜面部513と保護傾斜面部523とが滑らかに接続するとは、傾斜面部513と保護傾斜面部523とが同一の傾斜を有する形状を含む。
【0050】
さらには、傾斜面部513と保護傾斜面部523とが中心軸Cxを含む縦断面において境界上で微分可能に連続するものを含む。第1保護部521は、傾斜面部513に連続する保護傾斜面部523を有し、中心軸Cxを含む縦断面において傾斜面部513と保護傾斜面部523との境界上で微分可能である。すなわち、前記第1保護部は、前記傾斜面部に連続する保護傾斜面部を有し、前記保護傾斜面部は前記傾斜面部に滑らかに連結する(請求項4)保護傾斜面部523の傾斜面部513と反対側は、第2保護部522と接続する。第2保護部522の最外径と、第1保護部521の最外径とは一致する。すなわち、第1保護部521の中心軸Cxから径方向に最も遠い部分と中心軸Cxとの距離と、第2保護部522の中心軸Cxから径方向に最も遠い部分と中心軸Cxとの距離とが同じである。
【0051】
第1保護部521と第2保護部522との境界部分に段差が形成されにくいため、シャフト51の外周面511に沿って流れる気流が第1保護部521の外面から第2保護部522の外面に流れるときに乱れにくい。これにより、動圧保持部502における気体の圧力のばらつきが抑制され、シャフト51を安定して回転させることができる。
【0052】
なお、第1保護部521は、周方向の一部に間隙を有していてもよい。第1保護部521は、後述するとおり、シャフト51が中心軸Cxに対して傾いたとき、スリーブ53の内周面531と接触する。第1保護部521の間隙は、シャフト51の芯部510がスリーブ53の内周面531と接触しない程度の間隙である。
【0053】
すなわち、第1保護部521および第2保護部522の少なくとも一方は、周方向に間隙を有してもよい。第1保護部521および第2保護部522の少なくとも一方は、周方向に間隙を有する場合、第1保護部521径方向に最も離れた部分の中心軸Cxからの距離と、第2保護部522の径方向に最も離れた部分の中心軸Cxからの距離とが同じであってもよい。シャフト51の径方向の最も離れた部分を、第1保護部521と第2保護部522とで同じにすることができ、動圧のばらつきを抑制できる。
【0054】
また、第1保護部521および第2保護部522の少なくとも一方が、周方向に間隙を有する場合、保護部52を構成する材料を削減することが可能である。保護部52を構成する材料を削減することで、製造に要するコストを減らすことができる。保護部52を構成する材料を削減することでシャフト51を軽量化でき、省エネルギ化が可能である。
【0055】
<5.2 ステータ21について>
図3に示すように、ステータ21は、ステータコア211と、インシュレータ212と、コイル213とを有する。
【0056】
ステータコア211は、筒状のコアバック部(不図示)と、コアバック部の外周面から径方向外側に突出するティース部(不図示)とを有する。ステータコア211は、電磁鋼板を積層した構造であってもよいし、粉体の焼成や鋳造等で形成された単一の部材であってもよい。ステータコア211は、コアバック部がスリーブ53のステータ固定部538に固定される。
【0057】
インシュレータ212は、樹脂の成型体である。インシュレータ212は、ステータコア211の一部を覆う。インシュレータ212は、ティース部を覆っており、インシュレータ212にて覆われたティース部に導線を巻きつけることで、コイル213が形成される。インシュレータ212によって、ステータコア211とコイル213とが絶縁される。なお、本実施形態において、インシュレータ212は、樹脂の成型体とするが、これに限定されない。ステータコア211とコイル213とを絶縁することができる構成を広く採用できる。
【0058】
インシュレータ212は、基板保持部214を有する。基板保持部214は、インシュレータ212の軸方向下面から下方に延びる。基板保持部214は、回路基板40の中央に形成された貫通孔を貫通するとともに、回路基板40を保持する。
【0059】
気体動圧軸受5のスリーブ53は、ベース部12の軸受保持部122に保持される。上述のとおり、ステータコア211は、スリーブ53に固定されるため、ステータコア211は、気体動圧軸受5のスリーブ53を介して、ベース部12に固定される。つまり、ステータ21は、気体動圧軸受5のスリーブ53に取り付けられて、ハウジング10に固定される。ステータ21がハウジング10に固定されたとき、ステータコア211の中心は中心軸Cxと一致する(
図3参照)。
【0060】
<5.3 ロータ22について>
図2、
図3に示すとおり、ロータ22は、ロータヨーク221と、ロータマグネット222と、を有する。ロータヨーク221は、ロータ天板部223と、ロータ筒部224と、シャフト保持部225とを有する。ロータヨーク221は磁性金属で形成されている。ロータヨーク221は、例えば、金属板を押し出し成型にて形成される。なお、ロータヨーク221の成型方法については、金属板の押し出し成型に限定されない。
【0061】
ロータ天板部223は、円環状であり中央に貫通孔を有する。ロータ筒部224は、ロータ天板部223の径方向外側の縁部より軸方向下側に延びる。ロータ筒部224は円筒状である。シャフト保持部225は、貫通孔の辺縁部より軸方向上方に突出する筒形状である。なお、シャフト保持部225は、軸方向において、ロータ天板部223を挟んでロータ筒部224と反対側に形成されるが、これに限定されず、同じ側に形成されてもよい。
【0062】
ロータ天板部223の中央に形成された貫通孔をシャフト51が貫通する。そして、シャフト保持部225は、シャフト51の軸方向上端のロータ固定部515を保持する。シャフト保持部225とロータ固定部515とは、圧入によって固定される。これにより、ロータヨーク221の中心は、中心軸Cxと一致する。なお、シャフト保持部225とロータ固定部515との固定は、圧入に限定されず、接着、溶接等、強固に固定できる方法を広く採用できる。
【0063】
ロータマグネット222は、円柱状である。ロータマグネット222は、ステータ21と径方向に対向する。そして、ロータマグネット222は周方向にN極とS極とが交互に配置された構成である。ロータマグネット222は、周方向に分割可能な磁石を用いて形成してもよいし、単一の部材で形成された筒体に周方向に交互に異なる磁極を形成してもよい。
【0064】
ロータマグネット222は、ロータヨーク221の内面に固定される。ロータマグネット222が固定されたロータヨーク221がシャフト51のロータ固定部515に固定される。そして、シャフト51がスリーブ53に回転可能に支持されることで、ロータマグネット222は、ステータコア211と径方向に対向する。そして、コイル213に電流を流すことで、ステータコア211とロータマグネット222との間に発生する磁気力(引力および斥力)によって、ロータ22に回転方向の力が作用する。
【0065】
送風装置Aおよびモータ20は、以上示した構成を有する。すなわち、モータ20は、気体動圧軸受5と、スリーブ53の外面に配置されたステータ21と、シャフト51の上端に固定されるとともにステータ21と径方向に対向するロータ22と、を有する。第1保護部521は、軸受部511の軸方向上端に配置される。また、送風装置Aは、モータ20と、ロータ22に取り付けられたインペラ30と、を有する。
【0066】
<5.4 シャフト51の製造工程について> 次に、シャフト51の製造工程について説明する。
図7は、シャフト51を製造する前の棒材Stの表面を切削した状態を示す拡大断面図である。
図8は、
図7に形成した切削部分に保護部材を塗布した状態を示す拡大断面図である。
図9は、
図8に示す棒材Stを切削加工にて成形した状態を示す拡大断面図である。なお、ここで説明する製造工程は、シャフト51の製造工程の一例であり、これ以外の工程で形成されてもよい。
【0067】
シャフト51は、円柱状の棒材Stを加工して製造する。
図7に示すように、棒材Stの外面を旋盤加工で切削する。旋盤加工によって、棒材Stの軸方向中央の部分が切削された第1切削部分St1が形成される。そして、第1切削部分St1の軸方向端部(ここでは、上端部)に、凹溝状の第2切削部分St2を形成する。第2切削部分St2は、周方向につながる。なお、第2切削部分St2の一部がシャフト51の凹部514となる。
【0068】
そして、第1切削部分St1および第2切削部分St2に、保護部材St3を塗布する。保護部材St3は、焼成後、保護部52になる材料で形成される。すなわち、モリブデンを含む材料である。保護部材St3は、例えば、粘性を有する材料であり、焼結後に摩擦係数をシャフト51およびスリーブ53よりも低くできる量の二硫化モリブデンを含む。そして、保護部材St3が、第1切削部分St1および第2切削部分St2を埋めた状態で、焼結する(
図8参照)。
【0069】
保護部材St3が形成された棒材Stの外面を旋盤加工にて切削する。旋盤加工により、棒材Stの上端および下端にそれぞれロータ固定部515およびマグネット固定部516が形成される。また、保護部材St3の第2切削部分St2および第2切削部分St2に配置される部分を切削して、端部が中心軸Cxに向かって傾斜する傾斜面部513および保護傾斜面部523を形成する。傾斜面部513および保護傾斜面部523を形成するとき、傾斜面部513とロータ固定部515との間に、保護部材St3が配置されない部分を形成しておく(
図9参照)。
【0070】
そして、棒材Stの保護部材St3が焼結している部分を、研磨することで保護部52を形成し、シャフト51が完成する。なお、上述の凹所を有することで、研磨を行うための工具が、ロータ固定部515に接触することを抑制できる。これにより、最終工程である研磨工程において、芯部510となる部材が研磨されて生じる粉が保護部52の外面に付着することを抑制できる。これにより、芯部510の研磨の粉によって削られることを抑制できる。また研磨の粉が付着することによる芯部510とスリーブ53との摩耗が抑制される。
【0071】
シャフト51に凹部514(第2切削部分St2)が形成されることで、保護部52を形成する工程において、保護部52を形成する材料St3を塗布するときに、材料が凹部St2に溜まりやすい。これにより、保護部52および第1保護部521の形成が容易である。また、保護部材St3が凹部514(第2切削部分St2)に溜まることから、保護部材St3がシャフト51(棒材St)から流れ落ちることを抑制でき、保護部52(保護部材St3)を安定して形成することが可能である。
【0072】
また、軸受部511の外周面5110の端部に軸方向端部が中心軸Cxに傾く傾斜面部513を有するシャフト51でも、凹部514(第2切削部分St2)に保護部52を形成する材料St3が溜まりやすく、第1保護部521の形成が容易である。また、凹部514(第2切削部分に材料St3が溜まる。これにより、材料St3がシャフト51(棒材St)から流れ落ちることを抑制でき、保護部52の製造が容易である。
【0073】
さらに、傾斜面部513と円筒面部512との間に凹部514を配置する構成とすることで、第1保護部521の径方向端縁が中心軸Cx側に傾斜する。これにより、シャフト51の研磨が行われる研磨面を保護部5
2のみとすることができる。これにより、研磨面の研磨の精度を高めることが可能である。また、芯部510を研磨しないので、研磨粉に芯部510の研磨粉が含まれない。このため、気体動圧軸受5が回転するときのシャフト51とスリーブ53との摩擦、摩耗が抑制される。
【0074】
<6. 送風装置Aについて> 以上のように製造された送風装置Aの動作について説明する。モータ20のコイル213に電流を供給することで、ロータ22に周方向の力が発生する。これにより、ロータ22はシャフト51を中心に、回転する。なお、送風装置Aは、風洞部11の内部に上方から下方に向かう気流を発生させる。そのため、ロータ22およびシャフト51の回転方向Rtは、軸方向上方から見て反時計回り方向である(
図3、
図4等参照)。
【0075】
シャフト51が回転するときにシャフト51の外面に空気の流れが発生する。シャフト51の外面に発生する気流は、シャフト51の回転方向Rtと同じ方向である。気体動圧軸受5では、軸方向の上部および下部の動圧発生部501にそれぞれ、気体圧縮部533を有する。動圧発生部501において、シャフト51の外面に発生する気流は、気体圧縮部533の動圧溝534に流れ込み、動圧溝534に沿って流れる。動圧溝534は、シャフト51の回転方向Rtの前方が、動圧保持部502に向かっている。そのため、動圧溝534に沿って流れた気流は、動圧保持部502に向かって流入する。
【0076】
つまり、シャフト51の回転によって動圧発生部501から動圧保持部502に気流が強制的に流入され、動圧保持部502の気体(空気)の圧力が高くなる。動圧保持部502の気体の圧力によって、シャフト51はスリーブ53から離れた(浮いた)状態で、回転する。すなわち、気体動圧軸受5では、動圧発生部501で動圧保持部502に向かって気体(空気)を送り込むことで、動圧保持部502の圧力を高め、動圧保持部502でシャフト51を非接触で支持する。
【0077】
気体動圧軸受5は、上述のとおり、シャフト51の回転によって動圧発生部501で動圧を発生させ、動圧保持部502の気体(空気)の圧力を高めてシャフト51を支持する。そのため、シャフト51を支持するために十分な動圧を発生させることが難しいとき、シャフト51は中心軸Cxに対して傾く場合がある。そして、傾きが大きいと、シャフト51とスリーブ53とが接触する。例えば、回転が停止しているとき、シャフト51は、スリーブ53と接触する。その後、回転を開始した時には、シャフト51とスリーブ53とは、一定時間擦れた状態となる。
【0078】
本実施形態の気体動圧軸受5では、シャフト51の径方向最も径が大きい部分である外周面5110に保護部52を形成している。さらに、保護部52は、シャフト51が停止したときにスリーブ53の内周面531と接触しやすい、軸受部511の外周面5110の軸方向上端に第1保護部521を配置している。保護部52を外周面5110に配置することで、モータ20の停止中等で、シャフト51が傾いたときに保護部52がスリーブ53と接触する。保護部52は、シャフト51の芯部510およびスリーブ53よりも摩擦係数が低いため、保護部52がスリーブ53と接触した状態で回転が開始されても、保護部52およびスリーブ53の摩擦が小さく、摩耗が発生しにくい。
【0079】
すなわち、保護部52は、スリーブ53よりも摩擦係数が低い材料で形成されているため、シャフト51とスリーブ53とが接触しても摩擦が小さい。また、保護部52は、スリーブ53よりもやわらかいため、保護部52はスリーブ53よりも削れやすい。保護部52が削れた場合であっても、シャフト51とスリーブ53とが直接接触しにくい。さらに、シャフト51が傾いたときに保護部52がスリーブ53と接触することで、保護部52は緩衝部材として働き、シャフト51とスリーブ53とが直接接触しにくい。
【0080】
以上のことから、シャフト51とスリーブ53の摩擦および摩耗が抑制され、シャフト51を安定して回転させることができる。また、シャフト51が起動および停止を繰り返した場合であっても、シャフト51を安定して回転させることができる。
【0081】
本実施形態の気体動圧軸受5では、シャフト51が傾いたときに、スリーブ53の内周面531と最も接触しやすい部分に第2保護部522よりも径方向の厚みが厚い第1保護部521を配置している。シャフト51が傾いたとき、第1保護部521が削れるが、第1保護部521の径方向の厚さは第2保護部522よりも厚いため、第1保護部521がスリーブ53との接触により削れても、芯部510がスリーブ53と直接接触しにくい。そのため、シャフト51が起動および停止を繰り返した場合であっても、シャフト51を安定して回転させることができる。
【0082】
また、モータ20は上述した気体動圧軸受5を備えており、起動および停止を繰り返した場合でも、シャフト51およびスリーブ53の摩擦および摩耗を抑制できる。これにより、起動および回転を繰り返しても、モータ20は安定して円滑に回転可能である。
【0083】
上述のように、シャフト51がスリーブ53に安定して回転可能に支持されることで、モータ20の回転によって、インペラ30が安定して回転する。これにより、風洞部11で安定して気流を発生させることができ、送風装置Aは排気口15から安定した気流を吐出することができる。
【0084】
なお、本実施形態において、保護部52は、上端に第1保護部521が形成された構成としているが、これに限定されない。保護部52の下端に第1保護部521が形成されてもよい。また、保護部52の上端および下端両方に第1保護部521が形成されていてもよい。すなわち、第1保護部521は、軸方向において第2保護部522よりも上側および下側の少なくとも一方に配置される。
【0085】
<7.1 第1変形例> 本実施形態の第1変形例について図面を参照して説明する。
図10は、本発明にかかる他の例の気体動圧軸受5bの第1保護部521bの拡大断面図である。
図10に示す気体動圧軸受5bは、シャフト51b、保護部52bの構成が異なる以外、
図6に示す気体動圧軸受5と同じ構成を有する。そのため、気体動圧軸受5bにおいて、気体動圧軸受5と実質上同じ部分には、同じ符号を付すとともに、同じ部分の詳細な説明は省略する。
【0086】
図10に示すように、シャフト51bの軸受部511bの外周面5111は、円筒面部512と、傾斜面部513とを有する。そして、円筒面部512と傾斜面部513とが軸方向に接続する。
【0087】
そして、軸受部511bの外周面5111の径方向外側には、保護部52bが配置される。保護部52bの第1保護部521bは、傾斜面部513の径方向外側に配置され、第2保護部522bは円筒面部512の径方向外側に配置される。
【0088】
すなわち、外周面5111は、芯部510bの外径が一定の円筒面部512と、円筒面部512よりも上側および下側の少なくとも一方に配置されて軸方向の端部に向かって前記中心軸Cx側に傾斜する傾斜面部513と、を有する。第1保護部521は、傾斜面部513の径方向外側に配置される。
【0089】
気体動圧軸受5bでは、凹部514を形成しないため、シャフト51bの製造が容易である。詳細には、凹部514を形成する工程を削減することができるため、作業工数が削減される。
【0090】
<7.2 第2変形例> 本実施形態の第2変形例について図面を参照して説明する。
図11は、本発明にかかる気体動圧軸受5cの縦断面図である。
図12は、本発明にかかる気体動圧軸受5cの第1保護部521cの拡大断面図である。
図11、
図12に示す気体動圧軸受5cは、シャフト51c、保護部52cの構成が異なる以外、
図6に示す気体動圧軸受5と同じ構成を有する。そのため、気体動圧軸受5cにおいて、気体動圧軸受5と実質上同じ部分には、同じ符号を付すとともに、同じ部分の詳細な説明は省略する。
【0091】
図11、
図12に示す気体動圧軸受5cにおいて、シャフト51cは、スリーブ53に比べて軸方向の長さが長く、シャフト51cの軸受部511cの一部は、スリーブ53の孔530の上端の開口から外側に突出する。軸受部511cの外周面5112は、軸方向に外径が均一な円筒面部512cと、円筒面部512cの軸方向両端に配置された凹部514cとを有する。
【0092】
円筒面部512cの径方向外側および凹部514cの内部に、保護部52cが配置される。保護部52は、凹部514cの内部に配置される第1保護部521cと、円筒面部512cの径方向外側を覆う第2保護部522cとを有する。
【0093】
そして、芯部510cの保護部52cよりも軸方向上側端部側および下側端部側に形成された縁部517を有する。本実施形態において、縁部517は、円柱状である。しかしながら、縁部517は円柱状に限定されず、シャフト51cの回転を阻害しにくい形状を広く採用できる。縁部517は、保護部52の第1保護部521cよりも芯部510cの端部側に形成される。すなわち、芯部510cは、第1保護部521cよりも芯部510cの端部側に形成される縁部517を有する。そして、縁部517は、第1保護部521cと軸方向に接触する。
【0094】
シャフト51cにおいて、第1保護部521cは、軸方向の中間部分に形成される。シャフト51cに第1保護部521cが形成される位置は、シャフト51cが傾いたときに、スリーブ53の孔530の開口の縁が接触する位置を含む位置である。第1保護部521cをシャフト51cの軸方向の中間部分に形成することで、シャフト51cのスリーブ53の開口の縁等の鋭利な部分と接触する部分を第1保護部521cにできる。そのため、シャフト51cとスリーブ53の摩擦および摩耗を抑制することが可能である。これにより、スリーブ53がシャフト51cを安定して回転可能に支持することが可能である。
【0095】
縁部517の外径は、軸受部511cの外周面の外径よりも大きい。そして、縁部517の外径は、第1保護部521cの最外径と同じである。すなわち、縁部517の最外径部の半径が、第1保護部521cの中心軸Cxから径方向に最も遠い部分と中心軸との距離と同じである。
【0096】
また、第1保護部521cの最外径と第2保護部522cの最外径とが同じである。すなわち、シャフト51cにおいて、縁部517、第1保護部521cおよび第2保護部522cの径方向径方向外側の面は、同一の外径を有する円筒面である。すなわち、第1保護部521cの中心軸Cxから径方向に最も遠い部分と中心軸Cxとの距離と、第2保護部522cの中心軸Cxから径方向に最も遠い部分と中心軸Cxとの距離とが同じである。なお、縁部517と第1保護部521cの境界部、第1保護部521cと第2保護部522cの境界部が滑らかに連続する形状であれば、縁部517、第1保護部521cおよび第2保護部522cの径方向外側の面は、同一の外径を有する円筒面でなくてもよい。
【0097】
縁部517と第1保護部521cとの境界部分が滑らかに連続するため、シャフト51cの外周面5112に沿って流れる気流が縁部517の径方向外面から第1保護部521cの径方向外面に流れるときに乱れにくい。これにより、動圧保持部502における気体の圧力のばらつきが抑制され、シャフト51cを安定して回転させることができる。
【0098】
さらに説明すると、第1保護部521cおよび第2保護部522cの少なくとも一方が周方向に間隙を有する場合がある。この場合、第1保護部521cの径方向において中心軸Cxから最も離れた部分の中心軸Cxからの距離と縁部517の外径が同じである。また、第1保護部521cの径方向において中心軸Cxから最も離れた部分の中心軸Cxからの距離と第2保護部522cの径方向において中心軸Cxから最も離れた部分の中心軸Cxからの距離とが同じである。
【0099】
第1保護部521cと第2保護部522cとの境界部分
に段差が形成されにくいため、シャフト51cの外周面5112に沿って流れる気流が、第1保護部521cの径方向外面から第2保護部522cの径方向外面に流れるときに乱れにくい。これにより、動圧保持部502における気体の圧力のばらつきが抑制され、シャフト51cを安定して回転させることができる。また、第1保護部521cおよび第2保護部522cの少なくとも一方が、周方向に隙間を有する場合、保護部52cを構成する材料を削減でき、製造コストを下げることができる。また、シャフト51cの軽量化が可能であり、省エネルギ化が可能である。
【0100】
縁部517を有することで、芯部510cの外部に配置された保護部52cを形成する材料が縁部に向かって付勢されたとき、保護部52cを形成する材料は縁部517の端部に当たる。保護部52cを形成する材料が縁部517の端部に押されて縁部よりも軸方向外側に流れにくくなる。
【0101】
また、本変形例の保護部52cにおいて、第1保護部521cのシャフト51c軸方向位置の変更が容易である。これにより、シャフト51cの長さに合わせて、第1保護部521cの位置を調整することが可能である。縁部517が凹部514cに連結される場合、保護部の材料を径方向に厚く形成することができ、第2保護部522cよりも径方向の厚さが厚い第1保護部521cをより確実に形成することが可能である。
【0102】
<7.3 第3変形例> 本実施形態の第3変形例について図面を参照して説明する。
図13は、本発明にかかる気体動圧軸受5dの第1保護部521dの拡大断面図である。
図13に示す気体動圧軸受5cは、シャフト51d、保護部52dの構成が異なる以外、
図6に示す気体動圧軸受5と同じ構成を有する。そのため、気体動圧軸受5dにおいて、気体動圧軸受5と実質上同じ部分には、同じ符号を付すとともに、同じ部分の詳細な説明は省略する。
【0103】
図13に示すとおり、気体動圧軸受5dは、シャフト51dの軸受部511dの外周面5113に保護部52dが配置されている。軸受部511dの外周面5113は、軸方向に均一な大きさの外径を有する。なお、均一な外径とは、正確に均一な場合を含むとともに、シャフト51dの回転による気体動圧軸受5dの動作が不安定にならない程度のばらつきが発生する場合も含む。
【0104】
そして、保護部52dにおいて、第1保護部521dは、第2保護部522dに比べて、径方向外側に突出している。保護部52dを備えることで、シャフト51dが傾いたときに、第1保護部521dがスリーブ53の開口の縁部と接触する。これにより、シャフト51dの芯部510dとスリーブ53とが直接接触することによる、摩擦および摩耗が抑制される。
【0105】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の趣旨の範囲内であれば、実施形態は種々の変形及び組合せが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明によると、例えば、電子機器に冷却風を吹き付ける送風装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0107】
10 ハウジング 11 風洞部 12 ベース部 121 ベース貫通孔 122 軸受保持部 13 静翼 14 吸気口 15 排気口 20 モータ 21 ステータ 211 ステータコア 212 インシュレータ 213 コイル 214 基板保持部 22 ロータ 221 ロータヨーク 222 ロータマグネット 223 ロータ天板部 224 ロータ筒部 225 シャフト保持部 30 インペラ 31 インペラハブ 311 ハブ天板部 312 ハブ筒部 32 羽根 40 回路基板 5 気体動圧軸受 50 芯部 501 動圧発生部 502 動圧保持部 51 シャフト 510 芯部 511 軸受部5110 外周面 512 円筒面部 513 傾斜面部 514 凹部 515 ロータ固定部 516 マグネット固定部 517 縁部 52 保護部 521 第1保護部 522 第2保護部 523 保護傾斜面部 53 スリーブ 530 孔 531 内周面 532 軸受マグネット保持部 533 気体圧縮部 534 動圧溝 535 陸部 536 内筒部 537 通気孔 538 ステータ固定部 54 スラストマグネット 55 スラスト板 5b 気体動圧軸受 51b シャフト 510b 芯部 511b 軸受部5111 外周面 52b 保護部 521b 第1保護部 5c 気体動圧軸受 51c シャフト 510c 芯部 511c 軸受部5112 外周面 512c 円筒面部 514c 凹部 52c 保護部 521c 第1保護部 522c 第2保護部 5d 気体動圧軸受 51d シャフト 510d 芯部 511d 軸受部5113 外周面 52d 保護部 521d 第1保護部 522d 第2保護部 A 送風装置 Cx 中心軸 Rt 回転方向 St 棒材 St1 第1切削部分 St2 第2切削部分 St3 保護部材