(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056916
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】液体含浸表面、作製方法、およびそれらを組み込んだデバイス
(51)【国際特許分類】
B32B 3/30 20060101AFI20240416BHJP
B32B 3/14 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
B32B3/30
B32B3/14
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024021905
(22)【出願日】2024-02-16
(62)【分割の表示】P 2021001456の分割
【原出願日】2011-11-22
(31)【優先権主張番号】61/515,395
(32)【優先日】2011-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】596060697
【氏名又は名称】マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ラジーブ ディマン
(72)【発明者】
【氏名】ジェイ. デイビッド スミス
(72)【発明者】
【氏名】クリパ ケー. バラナシ
(72)【発明者】
【氏名】エルネスト レザ-ガドゥーニョ キャベロ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】液体含浸表面を組み込んだデバイスを提供すること。
【解決手段】液体含浸表面(120)を有する物品であって、その表面(120)は、液体(126)を間または内部に安定に含有するのに十分に接近して離間された特徴(124)のマトリックスをその上に有し、好ましくは、その上に薄膜も有する。表面(120)は、有利な非湿潤特性をもつ物品を提供する。表面テクスチャ内に混入された気体(例えば、空気)を含む従来の非湿潤性表面と比較して、これらの液体含浸表面(120)は、突き刺し(impalement)および着霜に耐性があり、したがって、これらはより強固である。
【選択図】
図1c
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非湿潤性および低付着表面に関する発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2011年8月5日に出願された米国仮特許出願第61/515,395号
への優先権およびその利益を主張し、それらの全てを参照することにより本明細書に組み
込まれる。
【0002】
技術分野
本発明は、概して、非湿潤性および低付着表面に関する。より具体的には、ある特定の
実施形態において、本発明は、液体突き刺し(impalement)、氷形成、スケー
ル形成、水和物形成に抵抗する、および/または汚染防止特性を有する非湿潤性表面に関
する。
【背景技術】
【0003】
背景技術
この10年におけるマイクロ/ナノ処理表面の出現は、熱流体科学の多種多様の物理現
象を強化するための新たな技術を開発してきた。例えば、マイクロ/ナノ表面テクスチャ
の使用は、より小さい粘性抵抗、氷および他の物質への減少した付着、自浄化、ならびに
撥水性を得ることが可能な非湿潤性表面を提供してきた。これらの改善は、概して、固体
表面と隣接する液体との間の低下した接触(すなわち、より低い湿潤性)から得られる。
【0004】
対象とする非湿潤性表面の1種は、超疎水性表面である。一般的に、超疎水性表面は、
疎水性コーティングといった本質的に疎水性の表面上のマイクロ/ナノ規模の粗さを含む
。超疎水性表面は、マイクロ/ナノ表面テクスチャ内の空気-水界面に起因して、水との
接触に抵抗する。
【0005】
既存の非湿潤性表面(例えば、超疎水性、超撥油性、および超嫌金属性表面)の欠点の
1つは、それらが、表面の非湿潤性能を破壊する突き刺しの影響を受けやすいことである
。突き刺しは、衝突液体(例えば、液滴または液体流)が表面テクスチャ内に混入された
空気を置き換えるときに生じる。突き刺しを防ぐための従来の試みは、表面テクスチャの
程度をマイクロ規模からナノ規模に減少させることに注力している。
【0006】
既存の非湿潤性表面の別の欠点は、それらが氷形成および付着の影響を受けやすいこと
である。例えば、霜が既存の超疎水性表面上に形成されるとき、表面は親水性となる。凍
結条件下において、水滴は、表面に固着することがあり、氷が堆積し得る。氷の除去は、
氷が表面のテクスチャと結合することがあるため、困難であり得る。同様に、それらの表
面が、例えば、脱塩または油およびガス用途におけるように、塩で飽和した溶液に曝露さ
れるとき、スケールが表面上に形成され、機能性の低下をもたらす。既存の非湿潤性表面
の同様の制限は、表面上の水和物形成、ならびに他の有機物もしくは無機物沈着の形成の
問題を含む。
【0007】
より強固な非湿潤性表面(例えば、超疎水性表面、超撥油性表面、および超嫌金属性表
面)に対する必要性が存在する。特に、突き刺しおよび氷形成に抵抗する非湿潤性表面に
対する必要性が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
表面上にマイクロ/ナノ処理された特徴のマトリックスに含浸された液体、または表面
上の細孔もしくは他の小さなウェルを満たす液体を含む非湿潤性表面が、本明細書で説明
される。表面テクスチャ内に混入された気体(例えば、空気)を含む従来の非湿潤性表面
と比較して、これらの液体含浸表面は、突き刺しおよび着霜に耐性があり、したがって、
これらはより強固である。本発明は、本来基礎的なものであり、非湿潤性表面から利益を
得るいかなる用途においても使用され得る。例えば、本明細書で説明される方法は、油お
よびガスパイプラインの粘性抵抗を減少させる、航空機および/または配電線上の氷形成
を防ぐ、ならびに衝突液体の堆積を最小化するために使用されることができる。
【0009】
本明細書で説明される方法および装置は、気体含浸表面として本明細書に参照される既
存の非湿潤性表面に対していくつかの利点を有する。例えば、気体含浸表面と比較して、
液体含浸表面は、突き刺しに対してはるかにより高い抵抗を有する。これは、液体含浸表
面が、液体衝突中により高い圧力(例えば、より早い液滴速度)に耐えることを可能にす
る。ある特定の実施形態において、液体含浸表面は、従来の気体含浸表面アプローチにお
いて利用されるようなナノ規模のテクスチャではなく、マイクロ規模の表面テクスチャの
使用を通して突き刺しに抵抗する。ナノ規模のテクスチャではなくマイクロ規模のテクス
チャを使用することは、少なくともマイクロ規模の特徴がより安価であり、はるかに調製
が容易であることから、極めて有利である。
【0010】
含浸液体の適切な選択を通して、本明細書で説明される液体含浸表面は、多種多様の用
途に合うように容易にカスタマイズ可能である。例えば、固体表面上での水抵抗の低減は
、水は油上で容易に滑るため、含浸液体として油を使用することによって達成され得る。
含浸液体としての油の使用はまた、霜および氷形成の防止に対して好適である。本出願に
おいて、霜および氷は、表面テクスチャのピークでのみ形成することができ、それによっ
て、氷形成速度および付着強度を大幅に減少させる。
【0011】
一態様において、本発明は、液体含浸表面を含む物品を対象とし、該表面は、液体を間
または内部に安定に含有するのに十分に接近して離間された、特徴のマトリックスを含む
。ある特定の実施形態において、液体は、室温で、約1000cP(またはcSt)以下
、約100cP(またはcSt)以下、または、約50cP(またはcSt)以下の粘度
を有する。ある特定の実施形態において、液体は、室温で、約20mmHg以下、約1m
mHg以下、または約0.1mmHg以下の蒸気圧を有する。
【0012】
ある特定の実施形態において、特徴は、実質的に均一の高さを有し、液体は、特徴の間
の空間を埋め、特徴を、特徴の頂部にわたって少なくとも厚さ約5nmの層でコーティン
グする。ある特定の実施形態において、特徴は、細孔または他のウェルを画定し、液体は
、特徴を埋める。
【0013】
ある特定の実施形態において、液体は、液体が特徴の頂部上に安定な薄膜を形成するよ
うに、0°の後退接触角を有する。
【0014】
ある特定の実施形態において、マトリックスは、約1マイクロメートル~約100マイ
クロメートルの特徴から特徴までの間隔を有する。ある特定の実施形態において、マトリ
ックスは、約5ナノメートル~約1マイクロメートルの特徴から特徴までの間隔を有する
。ある特定の実施形態において、マトリックスは、階層構造を含む。例えば、階層構造は
、上にナノ規模の特徴を含むマイクロ規模の特徴であり得る。
【0015】
ある特定の実施形態において、特徴は、約100マイクロメートル以下の高さを有する
。ある特定の実施形態において、特徴は支柱である。ある特定の実施形態において、特徴
は、1つ以上の球形粒子、ナノニードル、ナノガラス、および/または表面粗さを提供す
るランダム形状の特徴を含む。ある特定の実施形態において、特徴は、1つ以上の細孔、
空洞、相互接続した細孔、および/またはおよび相互接続した空洞を含む。ある特定の実
施形態において、表面は、異なる大きさを有する複数の細孔をもつ多孔質媒体を含む。
【0016】
ある特定の実施形態において、液体は、液体ペルフルオロカーボン、ペルフルオロフッ
素系真空油(Krytox1506またはFromblin06/6等)、フッ素系冷却
剤(例えば、3M社製のFC-70として販売されるペルフルオロトリペンチルアミン)
、イオン液体、水と混合しないフッ素系イオン液体、PDMSを含むシリコーン油を含む
フッ素系シリコーン油、液体金属、電気粘性流体、磁気粘性流体、強磁性流体、誘電液体
、炭化水素液体、フルオロカーボン液体、冷媒、真空油、相変化物質、半流動体、グリー
ス、滑液、および/または体液を含む。
【0017】
ある特定の実施形態において、物品は、蒸気タービン部品、ガスタービン部品、航空機
部品、または風力タービン部品であり、液体含浸表面は、衝突液体を弾くように構成され
る。ある特定の実施形態において、物品は、眼鏡、ゴーグル、スキー用マスク、ヘルメッ
ト、ヘルメットフェースシールド、または鏡であり、液体含浸表面は、それらの上を曇ら
せることを阻止するように構成される。ある特定の実施形態において、物品は、航空機部
品、風力タービン部品、送電線、またはフロントガラスであり、液体含浸表面は、それら
の上で氷の形成を阻止するように構成される。ある特定の実施形態において、物品は、パ
イプライン(またはそれらの部品もしくはコーティング)であり、液体含浸表面は、その
上で水和物の形成を阻止する、および/あるいはその上を(またはそこを通って)流れる
流体の滑り(抵抗の減少)を向上するように構成される。ある特定の実施形態において、
物品は、熱交換器部品、または油もしくはガスパイプライン(またはそれらの部品もしく
はコーティング)であり、液体含浸表面は、それらの上で塩の形成および/または付着を
阻止するように構成される。ある特定の実施形態において、液体含浸表面は、腐食を阻止
するように構成される。
【0018】
ある特定の実施形態において、物品は、人工関節であり、液体含浸表面は、関節の接合
面の間の摩擦を減少させる、および/または長期的な潤滑を提供するように構成される。
ある特定の実施形態において、物品は、エンジン部品(例えば、ピストンまたはシリンダ
ー)であり、液体含浸表面は、部品の長期的な潤滑を提供するように構成される。ある特
定の実施形態において、液体含浸表面は、表面から経時的に液体を放出するように構成さ
れ、それによって、経時的に潤滑を提供する。
【0019】
ある特定の実施形態において、液体含浸表面は、その上でデブリの吸着に抵抗するよう
に構成される汚染防止表面である。ある特定の実施形態において、物品は、熱交換器部品
であり、かつ液体含浸表面は、その上で凝縮物の脱落を促進するように構成され、それに
よって、凝縮熱伝達を向上する。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
液体含浸表面を含む物品であって、前記表面が、液体を間または内部に安定に含有するの
に十分に接近して離間された、特徴のマトリックスを含む、物品。
(項目2)
前記液体が、室温で、約1000cP以下の粘度を有する、項目1に記載の物品。
(項目3)
前記液体が、室温で、約20mmHg以下の蒸気圧を有する、項目1または2に記載の物
品。
(項目4)
前記液体が、室温で、約100cP以下の粘度を有する、項目2に記載の物品。
(項目5)
前記液体が、室温で、約50cP以下の粘度を有する、項目2に記載の物品。
(項目6)
前記特徴が、実質的に均一の高さを有し、前記液体が、前記特徴の間の空間を埋め、前記
特徴を、前記特徴の頂部にわたって少なくとも厚さ約5nmの層でコーティングする、前
述の項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目7)
前記特徴が、細孔または他のウェルを画定し、前記液体が、前記特徴を埋める、前述の項
目のいずれか1項に記載の物品。
(項目8)
前記液体は、前記液体が前記特徴の頂部上に安定な薄膜を形成するように、0°の後退接
触角を有する、前述の項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目9)
前記マトリックスが、約1マイクロメートル~約100マイクロメートルの特徴から特徴
までの間隔を有する、前述の項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目10)
前記マトリックスが、約5ナノメートル~約1マイクロメートルの特徴から特徴までの間
隔を有する、前述の項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目11)
前記マトリックスが、階層構造を含む、前述の項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目12)
前記階層構造が、上にナノ規模の特徴を含む、マイクロ規模の特徴である、項目11に記
載の物品。
(項目13)
前記特徴が、約100マイクロメートル以下の高さを有する、前述の項目のいずれか1項
に記載の物品。
(項目14)
前記特徴が、支柱である、前述の項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目15)
前記特徴が、球形粒子、ナノニードル、ナノガラス、および表面粗さを提供するランダム
形状の特徴から成る群から選択される少なくとも1つの要素を含む、前述の項目のいずれ
か1項に記載の物品。
(項目16)
前記特徴が、細孔、空洞、相互接続した細孔、および相互接続した空洞から成る群から選
択される少なくとも1つの要素を含む、前述の項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目17)
前記表面が、異なる大きさを有する複数の細孔をもつ多孔質媒体を含む、項目16に記載
の物品。
(項目18)
前記液体が、シリコーン油、液体ペルフルオロカーボン、ペルフルオロフッ素系真空油(
Krytox1506またはFromblin06/6等)、フッ素系冷却剤(例えば、
3M社製のFC-70として販売されるペルフルオロトリペンチルアミン)、イオン液体
、水と混合しないフッ素系イオン液体、PDMSを含むシリコーン油、フッ素系シリコー
ン油、液体金属、電気粘性流体、磁気粘性流体、強磁性流体、誘電液体、炭化水素液体、
フルオロカーボン液体、冷媒、真空油、相変化物質、半流動体、グリース、滑液、体液か
ら成る群から選択される要素を含む、前述の項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目19)
前記物品が、蒸気タービン部品、ガスタービン部品、航空機部品、および風力タービン部
品から成る群から選択される要素であり、前記液体含浸表面が、衝突液体を弾くように構
成される、前述の項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目20)
前記物品が、眼鏡および鏡から成る群から選択される要素であり、前記液体含浸表面が、
それらの上を曇らせることを阻止するように構成される、項目1~18のいずれか1項に
記載の物品。
(項目21)
前記物品が、航空機部品、風力タービン、送電線、およびフロントガラスから成る群から
選択される要素であり、前記液体含浸表面が、それらの上で氷の形成を阻止するように構
成される、項目1~18のいずれか1項に記載の物品。
(項目22)
前記物品が、パイプライン(またはそれらの部品もしくはコーティング)であり、前記液
体含浸表面が、その上での水和物の形成を阻止する、および/またはその上を流れる流体
の滑り(抵抗の減少)を向上するように構成される、項目1~18のいずれか1項に記載
の物品。
(項目23)
前記物品が、熱交換器部品、または油もしくはガスパイプライン(またはそれらの部品も
しくはコーティング)であり、前記液体含浸表面が、それらの上で塩の形成および/また
は付着を阻止するように構成される、項目1~18のいずれか1項に記載の物品。
(項目24)
前記液体含浸表面が、腐食を阻止するように構成される、項目1~18のいずれか1項に
記載の物品。
(項目25)
前記物品が、人工関節であり、前記液体含浸表面が、前記関節の接合面の間の摩擦を減少
させる、および/または長期的な潤滑を提供するように構成される、項目1~18のいず
れか1項に記載の物品。
(項目26)
前記物品が、エンジン部品(例えば、ピストンまたはシリンダー)であり、前記液体含浸
表面が、前記部品の長期的な潤滑を提供するように構成される、項目1~18のいずれか
1項に記載の物品。
(項目27)
前記液体含浸表面が、前記表面から経時的に液体を放出するように構成され、それによっ
て、経時的に潤滑を提供する、項目25または26に記載の物品。
(項目28)
前記液体含浸表面が、その上でデブリの吸着に抵抗するように構成される汚染防止表面で
ある、項目1~18のいずれか1項に記載の物品。
(項目29)
前記物品が、熱交換器部品であり、前記液体含浸表面が、その上での凝縮物の脱落を促進
するように構成され、それによって、凝縮熱伝達を向上する、項目1~18のいずれか1
項に記載の物品。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本発明の対象および特徴は、以下で説明される図面、および特許請求の範囲を参照して
よりよく理解され得る。
【0021】
【
図1a】本発明のある特定の実施形態に従う、非湿潤性表面と接触する液体の略断面図。
【
図1b】本発明のある特定の実施形態に従う、非湿潤性表面を突き刺ししている液体の略断面図。
【
図1c】本発明のある特定の実施形態に従う、液体含浸表面と接触する液体の略断面図。
【
図2a】本発明のある特定の実施形態に従う、液体含浸表面上に静止している液滴の略断面図。
【
図2b】本発明のある特定の実施形態に従う、支柱を含む非湿潤性表面のSEM画像。
【
図2c】本発明のある特定の実施形態に従う、支柱を含む非湿潤性表面の略斜視図。
【
図2d】本発明のある特定の実施形態に従う、支柱を含む非湿潤性表面の略水平断面図。
【
図3】
図3は、本発明のある特定の実施形態に従う、マイクロテクスチャ付与表面の写真を含む。
【
図4】
図4a、4bは、本発明のある特定の実施形態に従う、気体含浸表面上および液体含浸表面上のそれぞれで、水滴の衝突を描写する一連の高速ビデオ画像を含む。
【
図5】
図5は、本発明のある特定の実施形態に従う、水平線に対して25°に傾けた液体含浸表面に衝突する液滴を示す一連の高速ビデオ画像を含む。
【
図6】
図6a~6dは、本発明のある特定の実施形態に従う、気体含浸非湿潤性表面上での霜の形成を示す一連のESEM画像を含む。
【
図7】
図7a~7cは、本発明のある特定の実施形態に従う、乾燥および着霜した超疎水性表面上の液滴衝突試験の画像を含む。
【
図8】
図8は、本発明のある特定の実施形態に従う、測定された正規化された氷付着強度対正規化された表面積のプロットである。
【
図9】本発明のある特定の実施形態に従う、ロールオフ角度対表面固体分率のプロット。
【
図10】本発明のある特定の実施形態に従う、傾けた液体含浸表面上での液滴転がり速度のプロット。
【
図11】本発明のある特定の実施形態に従う、傾けた液体含浸表面上での液滴転がり速度のプロット。
【
図12】本発明のある特定の実施形態に従う、傾けた液体含浸表面上での液滴転がり速度のプロット。
【
図13】
図13は、本発明のある特定の実施形態に従う、シリコーン油に含浸されたマイクロ支柱表面上の霜の核形成の環境制御型SEM(ESEM)画像を含む。
【
図14】
図14は、本発明のある特定の実施形態に従う、シリコーン油に含浸されたマイクロ支柱表面上の霜の核形成の環境制御型SEM(ESEM)画像を含む。
【
図15】本発明のある特定の実施形態に従う、突き刺し状態と非接液状態を対比する、支柱特徴のマトリックスを有し、シリコーン油に含浸された表面上の水滴の画像。
【
図16】本発明のある特定の実施形態に従う、湿潤状態の6つの液体含浸表面を説明する概略図。
【
図17】本発明のある特定の実施形態に従う、
図16に示される湿潤状態の6つの液体含浸表面に対する条件を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明を実施するための形態
特許請求される本発明の組成物、混合物、システム、デバイス、方法、および過程は、
本明細書で説明される実施形態からの情報を使用して開発される変形および適合を包含す
るということが意図される。本明細書で説明される組成物、混合物、システム、デバイス
、方法、および過程の適合および/または変更は、関連技術分野における当業者によって
実施されてもよい。
【0023】
発明を実施するための形態を通して、物品、デバイス、およびシステムが、特定の成分
を有する、含む、または備えるとして説明される場合、あるいは過程および方法が、特定
のステップを有する、含む、または備えるとして説明される場合、加えて、列挙された成
分から本質的に成る、または列挙された成分から成る本発明の物品、デバイス、およびシ
ステムが存在し、ならびに列挙された処理ステップから本質的に成る、または列挙された
処理ステップから成る本発明に従う過程および方法が存在するということが意図される。
【0024】
同様に、物品、デバイス、混合物、ならびに組成物が、特定の化合物および/もしくは
物質を有する、含む、または備えるとして説明される場合、加えて、列挙された化合物お
よび/もしくは物質から本質的に成る、または列挙された化合物および/もしくは物質か
ら成る本発明の物品、デバイス、混合物、ならびに組成物が存在するということが意図さ
れる。
【0025】
ステップの順序または特定の動作を実施する順序は、本発明が実施可能である限り、重
要ではないことを理解すべきである。さらに、2つ以上のステップまたは動作が同時に行
われてもよい。
【0026】
例えば、背景技術の章における任意の刊行物の本明細書での言及は、その刊行物が、本
明細書で提示される特許請求の範囲のいずれかに関連する先行技術として役立つというこ
との承認ではない。背景技術の章は、明瞭にする目的で提示され、いずれかの特許請求の
範囲に関連する先行技術の説明として意味されるものではない。
【0027】
ある特定の実施形態において、液体と固体との間の静的接触角
【数1】
は、3つの相、すなわち固相、液相、および気相が交わる接触線の正接と水平線との間で
測定されるように、固体表面上の液滴によって形成される角度として定義される。「接触
角」という用語は、液体はいかなる運動もなく単に固体上で静止しているため、通常、静
的接触角
【数2】
を意味する。
【0028】
本明細書で使用されるとき、動的接触角、
【数3】
、は、固体表面上で運動する液体によって作られる接触角である。液滴衝突の文脈におい
て、
【数4】
は、前進運動または後退運動のいずれかの間に存在し得る。
【0029】
本明細書で使用されるとき、表面は、それが少なくとも90度の液体との動的接触角を
有する場合、「非湿潤性」である。非湿潤性表面の例としては、例えば、超疎水性表面、
超撥油性表面、および超嫌金属性表面が挙げられる。
【0030】
本明細書で使用されるとき、接触角ヒステリシス(CAH)は、
【数5】
(式中、
【数6】
および
【数7】
は、それぞれ、固体表面の液体によって形成される前進接触角および後退接触角である)
である。前進接触角
【数8】
は、接触線がまさに前進しようとする瞬間に形成される接触角であり、一方、後退接触角
【数9】
は、接触線がまさに後退しようとするときに、形成される接触角である。
【0031】
図1は、本発明の一実施形態に従う、旧来の、もしくは従来の非湿潤性表面104(す
なわち、気体含浸表面)と接触する接触液102の略断面図である。表面104は、支柱
108によって定義される表面テクスチャを有する固体106を含む。支柱108の間の
領域は、空気等の気体110によって占有される。描画されるように、接触液102が、
支柱108の頂部と接触可能である一方、気体液体界面112は、液体102が表面10
4の全体を濡らすことを防ぐ。
【0032】
図1bを参照して、ある特定の事例において、接触液102は、含浸気体を置き換え、
固体106の支柱108内に突き刺しされ得る。突き刺しは、例えば、液滴が表面104
に高速で衝突するときに生じ得る。突き刺しが生じるとき、支柱108の間の領域を占有
する気体は、部分的に、もしくは完全に接触液102で置換され、表面104はその非湿
潤性能を失うことがある。
【0033】
図1cを参照して、ある特定の実施形態において、気体ではなく、含浸液体126に含
浸されるテクスチャ(例えば、支柱124)を有する固体122を含む非湿潤性の液体含
浸表面120が、提供される。描画される実施形態において、表面と接触する接触液12
8は、表面120の支柱124(または他のテクスチャ)の上に静止する。支柱124の
間の領域において、接触液128は、含浸液体126によって支持される。ある特定の実
施形態において、接触液128は、含浸液体126と混合しない。例えば、接触液128
は水であってもよく、含浸液体126は油であってもよい。
【0034】
固体122は、任意の本質的に疎水性、撥油性、および/または嫌金属性の材料または
コーティングを含んでもよい。例えば、固体122は、アルカン等の炭化水素、ならびに
テフロン(登録商標)、トリクロロ(1H,1H,2H,2H-ペルフルオロオクチル)
シラン(TCS)、オクタデシルトリクロロシラン(OTS)、ヘプタデカフルオロ-1
,1,2,2-テトラヒドロデシルトリクロロシラン、フルオロPOSS、および/また
は他のフルオロポリマー等のフルオロポリマーを含み得る。追加の可能な固体122の材
料またはコーティングは、セラミック、ポリマー材料、フッ素系材料、金属間化合物、お
よび複合材料を含む。ポリマー材料は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、フルオロ
アクリレート、フルオロエウラタン(fluoroeurathane)、フルオロシリ
コーン、フルオロシラン、改質炭酸塩、クロロシラン、シリコーン、ポリジメチルシロキ
サン(PDMS)、および/またはそれらの組み合わせを含み得る。セラミックは、例え
ば、炭化チタン、窒化チタン、窒化クロム、窒化ホウ素、炭化クロム、炭化モリブデン、
炭窒化チタン、無電解ニッケル、窒化ジルコニウム、フッ素化二酸化シリコン、二酸化チ
タン、タンタル酸化物、タンタル窒化物、ダイヤモンド様炭素、フッ素化ダイヤモンド様
炭素、および/またはそれらの組み合わせを含み得る。金属間化合物は、例えば、ニッケ
ルアルミナイド、チタンアルミナイド、および/またはそれらの組み合わせを含み得る。
【0035】
液体含浸表面120内のテクスチャは、物理的テクスチャまたは表面粗さである。テク
スチャは、フラクタルまたはパターン化を含むランダムであってもよい。ある特定の実施
形態において、テクスチャは、マイクロ規模の、またはナノ規模の特徴である。例えば、
テクスチャは、約100ミクロン未満、約10ミクロン未満、約1ミクロン未満、約0.
1ミクロン未満、または約0.01ミクロン未満の長さスケールL(例えば、平均細孔直
径、または平均突起部高さ)を有し得る。ある特定の実施形態において、テクスチャは、
支柱124または球状もしくは半球状の突起部といった他の突起部を含む。丸みを帯びた
突起部は、尖った固体エッジを避け、液体エッジのピン止めを最小化するために望ましい
場合がある。テクスチャは、例えば、リソグラフィー、自己集合、および沈殿といった機
械的および/または化学的方法を含む任意の従来の方法を使用して表面に導入されること
ができる。
【0036】
含浸液体126は、所望の非湿潤特性を提供することが可能な任意の種類の液体であっ
てもよい。例えば、含浸液体126は、油性もしくは水性(water-based)(
すなわち、水性(aqueous))であり得る。ある特定の実施形態において、含浸液
体126は、イオン液体(例えば、BMI-IM)である。可能な含浸液体の他の例には
、ヘキサデカン、真空ポンプ油(例えば、FOMBLIN(登録商標)06/6、KRY
TOX(登録商標)1506)シリコン(silicon)油(例えば、10cStもし
くは1000cSt)、フルオロカーボン(例えば、ペルフルオロトリペンチルアミン、
FC-70)、剪断減粘性流体、剪断増粘性流体、液体ポリマー、溶解ポリマー、粘弾性
流体、および/または液体フルオロPOSSが挙げられる。ある特定の実施形態において
、含浸液体は、液体金属、誘電流体、強磁性流体、磁気粘性(MR)流体、電気粘性(E
R)流体、イオン流体、炭化水素液体、および/またはフルオロカーボン液体である(ま
たはそれらを含む)。一実施形態において、含浸液体126は、ナノ粒子の導入による剪
断増粘性である。剪断増粘性含浸液体126は、突き刺しを防ぎ、例えば、衝突液体から
の衝突に抵抗するのに望ましい場合がある。
【0037】
含浸液体126の表面120からの蒸発を最小化するために、低蒸気圧(例えば、0.
1mmHg未満、0.001mmHg未満、0.00001mmHg未満、または0.0
00001mmHg未満)を有する含浸液体126を使用することが望ましい。ある特定
の実施形態において、含浸液体126は、約-20℃未満、約-40℃未満、または約-
60℃の凝固点を有する。ある特定の実施形態において、含浸液体126の表面張力は、
約15mN/m、約20mN/m、または約40mN/mである。ある特定の実施形態に
おいて、含浸液体126の粘度は、約10cSt~約1000cStである)。
【0038】
含浸液体126は、液体を固体に適用するための任意の従来の技術を使用して、表面1
20に導入されてもよい。ある特定の実施形態において、浸漬コーティング、ブレードコ
ーティング、またはローラコーティングといったコーティング過程が、含浸液体126を
適用するために使用される。代替として、含浸液体126は、表面120を通って(例え
ば、パイプライン中)流れる液体材料によって、導入されてもよく、および/または補充
されてもよい。含浸液体126が適用された後、毛細管力は、液体を適所に保持する。毛
細管力は、特徴から特徴までの距離または細孔半径に大まかに反比例して変化し、これら
の特徴は、表面の動きにもかかわらず、また表面上の空気もしくは他の流体の動きにもか
かわらず(例えば、表面120が、空気が吹き付ける航空機の外側表面上、あるいは油お
よび/または他の流体がその中を流れるパイプライン中にある場合)、液体が適所に保持
されるように設計され得る。ある特定の実施形態において、例えば、速い流れのパイプラ
イン中で、航空機上で、風力タービン翼上で等に使用される表面に対して、高い動力、物
体力、重力、および/または剪断力が、液体膜を除去する脅威をもたらし得る場合、ナノ
規模の特徴が使用される(例えば、1ナノメートル~1マイクロメートル)。小さい特徴
はまた、頑健性および衝突に対する抵抗を提供するために有用であり得る。
【0039】
気体含浸表面と比較して、本明細書で説明される液体含浸表面は、いくつかの利点を提
示する。例えば、液体は、広範囲の圧力にわたって非圧縮性であるため、液体含浸表面は
、概して、突き刺しに対してより耐性がある。ある特定の実施形態において、ナノ規模の
(例えば、1ミクロン未満)テクスチャが、気体含浸表面の突き刺しを回避するために必
須であり得る一方、マイクロ規模の(例えば、1ミクロン~約100ミクロン)テクスチ
ャは、液体含浸表面の突き刺しを回避するために十分である。言及されるように、マイク
ロ規模のテクスチャは、製造が非常に容易であり、ナノ規模のテクスチャよりも実用的で
ある。
【0040】
液体含浸表面はまた、固体表面と流れる液体との間の粘性抵抗の減少に有用である。一
般的に、固体表面にわたって流れる液体によってもたらされる粘性抵抗または剪断応力は
、液体の粘度および表面に隣接する剪断率に比例する。旧来の想定は、いわゆる「ノース
リップ」境界条件において、固体表面と接触する液体分子が表面に固着するというもので
ある。液体と表面との間にいくらかの滑りが生じることがあっても、ノースリップ境界条
件は、ほとんどの用途に対して有用な想定である。
【0041】
ある特定の実施形態において、液体含浸表面といった非湿潤性表面は、それらが固体表
面で大量のスリップを誘発するため望ましい。例えば、
図1aおよび1cを再度参照して
、接触液102、128が、含浸液体126または気体によって支持されるとき、液体-
液体もしくは液体-気体界面は、下層の固体材料に対して自由に流れる、または滑る。4
0%程度の抵抗低減が、この滑りによってもたらされる。しかし、言及されるように、気
体含浸表面は、突き刺しの影響を受けやすい。気体含浸表面に突き刺しが生じるとき、減
少された抵抗低減の利益が失われ得る。
【0042】
本明細書で説明される液体含浸表面の別の利点は、それらが、霜もしくは氷の形成およ
び付着の最小化に有用であることである。理論上は、従来の(すなわち、気体含浸)超疎
水性表面は、氷が主に空気と接触するように、氷を強制的に低い表面エネルギーであるマ
イクロおよび/またはナノ規模の表面テクスチャの上に静止することによって、氷形成お
よび付着を減少させる。しかし、実際には、これらの気体含浸表面は、実際に増加した氷
の形成および付着をもたらし得る。例えば、気体含浸表面の温度が氷点下であるとき、気
体含浸表面は、霜を堆積し始めることがあり、それは表面を超疎水性から親水性に変換す
る。水が次に親水性の表面と接触するとき、水は親水性のテクスチャに浸透し、凍結し得
る。気体含浸表面と氷との間の付着の結束は、氷と表面テクスチャとの間を連結すること
によって、強化され得る。同様に、本明細書で説明される液体含浸表面は、表面上の核形
成が、例えば、歯石除去の減少、水和物形成、外科用インプラント上の歯垢の蓄積等の問
題を引き起こす状況において、有用である。
【0043】
旧知の核形成理論にしたがって、ランダム熱運動下でともに収集される水分子の集団は
、成長を持続するために臨界サイズに達しなければならない。平面上の臨界サイズの胚の
異種核形成に対する自由エネルギー障壁ΔG
*、および対応する核形成速度は、
【数10】
ならびに
【数11】
のように表される。
パラメータmは、
【数12】
(式中、
【数13】
、
【数14】
、および
【数15】
は、それぞれ基材の蒸気、基材の氷、および氷蒸気界面に対する界面エネルギーである)
によって得られる界面エネルギーの比率である。臨界半径r
cに関する自由エネルギーの
定義において、基材および氷は、等方性であると想定され、ならびに核形成粒子は球状で
あると想定される。次いで、臨界半径r
cは、ケルビン方程式:
【数16】
によって定義され得る。
【0044】
固体上での核形成実験は、方程式1から予測される自由エネルギー障壁よりも、相当低
い核形成へのエネルギー障壁を示す。これは、表面の高い表面エネルギー区画およびナノ
規模の凹部が核形成部位として動作することから、ナノ規模の不均質および粗さによる可
能性が高い。しかし、液体は、一般に、非常に平坦で均質であり、液体上の水の核形成は
、旧知の理論とよく合致するように実験的に示されている。その結果として、疎水性液体
に対する霜核形成または濃縮へのエネルギー障壁は、概して、固体に対するものよりもは
るかに高い。ある特定の実施形態において、液体を液体含浸表面のテクスチャ内に含浸す
ることは、これらの領域における核形成を防ぎ、表面テクスチャのピーク上(例えば、支
柱の頂部)で優先核形成を強制する。氷形成に関して、液体含浸表面の使用は、気体含浸
、超疎水性表面が直面する氷形成および付着の課題を克服、または低減する。
【0045】
ある特定の実施形態において、本明細書で説明される液体含浸表面は、表面上の液体も
しくは氷層の堆積を最小化する有利な液滴ロールオフ特性を有する。氷形成を防ぐために
、例えば、液滴が凍結する前に、表面は、過冷却された液滴(例えば、氷雨)を脱落でき
ることが重要である。さもなければ、十分に高速の液滴(雨滴等)は、表面のテクスチャ
を貫通し、氷が形成されるまで固定されたままである。有利には、ある特定の実施形態に
おいて、本明細書で説明される液体含浸表面は、低いロールオフ角度(すなわち、表面と
接触する液滴が表面から転がりまたは滑り落ち始める表面の角度または傾斜)を有する。
液体含浸表面に関連する低いロールオフ角度は、表面と接触する液滴が、液体が凍結し得
る、および氷が堆積し得る前に、表面から容易に転がり落ちることを可能にする。以下で
さらなる詳細が説明されるように、ある表面(すなわち、ヘキサデカンで含浸されたオク
タデシルトリクロロシラン処理シリコーン支柱表面)の水に対するロールオフ角度は、1
.7°±0.1°であると測定された。ある特定の実施形態において、液体含浸表面に対
するロールオフ角度は、約2°未満、または約1°未満である。
【0046】
図2は、本発明のある特定の実施形態に従う、液体含浸表面204の上に静止している
液滴202の略断面図である。一実施形態において、その可動性を左右する液滴エッジの
形態は、含浸液体126の特性の影響を受ける。例えば、描画されるように、液滴は、液
滴エッジに局所的に接近した含浸液体126を「拾い上げる」ことができる。液滴のエッ
ジでの含浸液体126の貯留は、ピン止め力を生じさせる。液滴ロールオフの間、ピン止
め力および粘性力は、重力による液滴運動に抵抗する。角度αに傾けられた表面に対して
、液滴ロールオフの力平衡方程式は、
【数17】
(式中、
【数18】
は、液滴上の重力であり、
【数19】
は、粘性力であり、および
【数20】
は、ピン止め力である)によって得られる。この方程式において、Vは、液滴の体積であ
り、ρは、非接液液体の密度であり、
【数21】
は、表面固体分率(非接液相と直接接触する基材の領域分率)であり、μは、含浸液体の
動的粘性係数であり、v
oは、液滴滑り速度(特徴的な落下速度)であり、hは、含浸液
体の剪断が生じる面の特徴的な長さスケール(例えば、表面支柱の高さまたは他の表面テ
クスチャ高さ)であり、αは、基材が水平線に対して作る角度であり、gは、重力加速度
であり、rは、非接液液滴の接触半径であり、θ
aおよびθ
rは、非接液液滴の前進およ
び後退接触角であり、ならびにγ
wは、蒸気と平衡にある非接液液体の表面エネルギーで
ある。
【0047】
図2b~2dは、ベース部252および支柱頂部256を有する実質的に正方形の支柱
254の配列を含む非湿潤性表面250を示す。示されるように、支柱254は、高さh
、辺長a、および支柱間隔b(すなわち、隣接する支柱表面の間の距離)を有する。ベー
ス部252は、支柱260間のベース領域258を含む。表面250の表面固体分率
【数22】
は、
【数23】
によって得られる。
【0048】
ある特定の実施形態において、含浸液体の選択は、液滴ロールオフが生じる速度に影響
する。例えば、液体が高粘度を有する場合、ロールオフは、非常に緩徐に生じ得る。
【0049】
本明細書で説明される液体含浸表面は、多くの異なる産業にわたって多種多様の用途を
有する。例えば、ある特定の実施形態において、液体含浸表面は、液体を弾くために使用
される。固体表面上での液体の衝突を伴う多くの物理的過程が存在する。例としては、蒸
気タービン翼に衝突する水滴、ガスタービン翼に衝突する油滴、ならびに航空機および風
力タービン表面に衝突する雨滴が挙げられる。蒸気またはガスタービンに対して、蒸気に
混入される水滴は、タービン翼の上に衝突して、そこに固着し、それによってタービン出
力を低減する。しかし、液体含浸表面をタービン翼に適用することによって、液滴を翼か
ら脱落することができ、タービン出力を著しく改善することができる。一実施形態におい
て、液体含浸表面は、凝縮物への大きいエネルギー障壁を提示し、窓、眼鏡、および/ま
たは鏡といった表面に対する防曇コーティングとして好適である。
【0050】
ある特定の実施形態において、液体含浸表面を使用して疎氷性を提供し、それによって
氷の形成を防ぐ、あるいは最小化する。氷は、航空機、風力タービン、送電線、およびフ
ロントガラスといった多くの状況において、表面上で形成することができる。液体含浸表
面上に形成される氷は、通常の表面と比較してかなり少ない付着を示し、したがって、容
易に除去されることができ、著しい省エネルギーをもたらす。液体含浸表面はまた、それ
らの原子的に平坦で、低いエネルギー表面が凝結(着霜)への大きなエネルギー障壁をも
たらすという点において、氷を弾く(ice-repellent)。ある特定の実施形
態において、液体含浸表面は、氷雨から肉眼で見える氷形成を阻止する。航空機に対して
、液体-含浸表面が、低下した氷および霜付着をもたらすことにより、航空機の防氷に必
要とされるエネルギーおよび環境有害化学物質を著しく減少させることができる。液体含
浸表面が送電線上で使用されるとき、氷が形成される可能性は低く、容易に除去すること
ができる。液体含浸表面はまた、風力タービン上の氷形成を著しく減少し、それによって
タービン効率を改善する。
【0051】
ある特定の実施形態において、液体含浸表面を使用して疎水和物性(hydrate-
phobicity)を提供し、それによって、水和物の形成を防ぐ、あるいは最小化す
る。水和物は、深海掘削ならびに/または抽出の間の油およびガスパイプライン中で形成
する。水和物は、パイプラインを詰まらせ、液体圧の壊滅的な上昇を引き起こし得る。好
適な含浸液体を選択することにより、液体含浸表面は水和物の核形成に対する高いエネル
ギー障壁を提示し、これにより水和物形成に抵抗する。さらに、液体含浸表面上に形成さ
れる水和物は、通常の表面と比較してかなり少ない付着を示し、それによって、容易に除
去されることができる。ある特定の実施形態において、含浸液体は、最初のコーティング
とともに供給される恒久的な液体である。代替として、含浸液体は、パイプライン中に存
在する油によって、継続的に供給されてもよい。
【0052】
ある特定の実施形態において、液体含浸表面を使用して、嫌塩性(salt-phob
icity)を提供し、それによって、塩または鉱物スケールの形成を防ぐ、あるいは最
小化する。塩は、固体表面上で、発電所または脱塩プラントにおける熱交換器といった水
系または蒸気系の産業用設備で形成し得る。塩はまた、油およびガスパイプラインの表面
上で形成し得る。塩の形成は、熱交換器の熱性能を低減し、また、高価なメンテナンスお
よび/または運転停止を必要とする。液体含浸表面は、塩形成に抵抗し、通常の表面と比
較してかなり少ない付着をもたらす塩核形成に対する高いエネルギー障壁を示し、これに
よって、容易な除去を促進する。含浸液体は、最初のコーティングとともに供給される恒
久的な液体であり、および/または、それは継続的に供給されてもよく、あるいは隣接す
る液体相(例えば、油またはガスパイプライン中に存在する油)によって補充されてもよ
い。
【0053】
ある特定の実施形態において、液体含浸表面を使用して、固体表面と流動液体との間の
粘性抵抗を減少させる。パイプライン中の原油の輸送といった多くの工学用途は、長距離
にわたるパイプを通した液体の輸送を必要とする。液体と隣接する表面との間の抵抗力に
より、多くの場合これらの液体の輸送に関連するエネルギー消費は著しい。液体含浸表面
の使用は、これらの用途におけるエネルギー消費を大幅に減少させることができる。含浸
液体を好適に選択することにより、液体含浸表面は、接触液の向上された滑りを示すこと
ができ、それによって、液体-固体抵抗の大幅な縮小をもたらす。ある特定の実施形態に
おいて、液体含浸表面は、人工動脈および/または静脈での使用に効果的であり得る。
【0054】
ある特定の実施形態において、液体含浸表面は、腐食を阻止するために有用である。耐
食性含浸液体を使用することによって、下層の固体材料は、腐食性環境から保護され得る
。加えて、液体含浸表面の液滴を脱落する能力は、水分がより容易に表面から除去される
ため、腐食を低減させる。
【0055】
液体含浸表面はまた、その上の沈着の形成を防ぐ、または減少させるために、ステント
、人工動脈、および/または他の外科用インプラントで使用され得る。
【0056】
ある特定の実施形態において、液体含浸表面を使用して、自己潤滑性骨関節を提供する
。例えば、液体含浸表面は、膝関節および/または股関節置換手術において埋め込まれる
人工関節の材料として使用されてもよい。液体含浸表面は、著しく減少された接合面の間
の摩擦を提供し、およびまた、長期的な潤滑を提供する。含浸液体は、埋め込みの前に組
み込まれる恒久的な液体であってもよく、またはそれは、体内に存在する潤滑流体(例え
ば、滑液)によって継続的に供給されてもよい。
【0057】
液体含浸表面を使用して潤滑を提供することができる多くの他の用途が存在する。例え
ば、液体含浸表面は、ピストン/シリンダー表面上のベアリング、ならびに/または隣接
する可動面間の摩擦の減少が有益である任意の他の自動車もしくは機械の部品もしくは装
置に使用されてもよい。一実施形態において、表面内の含浸液体は、潤滑剤の長期的な供
給を提供し、それによって、必要な位置への潤滑剤の適用において費やされる時間および
エネルギーを低減する。
【0058】
液体含浸表面を使用して、汚染防止および/または自浄もまた、提供することができる
。例えば、液体含浸表面は、それらの低い表面エネルギーの効力によってデブリの吸着に
抵抗するによって、汚染防止に使用され得る。ある特定の実施形態において、液体含浸表
面上の粒子および化学物質は、表面から脱落する液滴によって、吸着されて取り除かれる
。この自浄特性は、(例えば、窓、眼鏡、および/または鏡用の)自浄ガラス、ならびに
工業用塗料といった多くの用途に対して重要である。
【0059】
液体含浸表面を使用して、水分の凝縮もまた促進することができる。例えば、液体含浸
表面は、凝縮物を容易に脱落させるために使用することができ、それによって、凝縮熱伝
達(例えば、液滴凝縮)を向上する。ある特定の実施形態において、液体含浸表面は、蒸
気復水器からHVAC復水器、天然ガスの液化において使用される天然ガス復水器といっ
た範囲の熱交換器に適用される。
【0060】
ある特定の実施形態において、本明細書で説明される液体含浸表面は、スキー用眼鏡/
ゴーグル(例えば、防曇)、スキー板、スノーボード、アイススケート靴、水着等といっ
たスポーツ用品のコーティングに有用である。
【0061】
図15は、突き刺し状態と非接液状態を対比する、支柱特徴のマトリックスを有し、シ
リコーン油に含浸された表面上の水滴の画像である。極めて非湿潤性の表面が所望される
ある特定の実施形態に対して不利であり得る、突き刺し状態を示す実施例において、液滴
は、水であり、含浸液体は、シリコーン油であり、表面は、10マイクロメートル間隔を
有する10マイクロメートル正方形支柱をもつ未処理のシリコンである。突き刺し状態に
おいて、液体は、表面から転がり落ちない。非湿潤性が所望されるある特定の実施形態に
対して有利である、非接液状態を示す実施例において、条件は、OTS(オクタデシルト
リクロロシラン)で処理されたことを除いて同じである。他のコーティングが使用されて
もよい。
【0062】
図16は、本発明のある特定の実施形態に従う、湿潤状態の6つの液体含浸表面を説明
する概略図である。濡れている状態の6つの表面(状態1から状態6)は、
図16の下部
に示される4つの湿潤性条件(条件1~4)に左右される。ほとんどの実施形態において
、非接液状態が好ましい(状態1~4)。加えて、非接液状態1および3のように薄膜が
安定して支柱(または表面上の他の特徴)の頂部上に形成する場合、なお一層望ましい非
湿潤特性(および本明細書で説明される他の関連する特性)を観察することができる。
【0063】
非接液状態を達成するために、低い固体表面エネルギーおよび非接液液体と比較して、
含浸液体の低い表面エネルギーを有することが好ましい。例えば、約25mJ/m2を下
回る表面エネルギーが好ましい。低い表面エネルギー液体には、特定の炭化水素およびフ
ルオロカーボン系液体、例えば、シリコーン油、液体ペルフルオロカーボン、パーフルオ
ロ系真空油(例えば、Krytox1506またはFromblin 06/6)、ペル
フルオロトリペンチルアミン(例えば、3Mから販売されるFC-70、またはFC-4
3)といったフッ素系冷却剤、水と混合しないフッ素系イオン液体、PDMSおよびフッ
素系シリコーン油を含むシリコーン油が挙げられる。
【0064】
低い表面エネルギー固体の例は、以下が挙げられる:炭化水素鎖中で終結するシラン(
オクタデシルトリクロロシラン等)、フルオロカーボン鎖で終結するシラン(例えば、フ
ルオロシラン)、炭化水素鎖で終結するチオール(そのようなブタンチオール)、および
フルオロカーボン鎖で終結するチオール(例えば、ペルフルオロデカンチオール)。ある
特定の実施形態において、表面は、フルオロポリマー、例えば、フルオロデシル多面体オ
リゴマーシルセスキオキサンといったシルセスキオキサンといった低い表面エネルギー固
体を含む。ある特定の実施形態において、フルオロポリマーは、テトラフルオロエチレン
(ETFE)、フッ素化エチレンプロピレンコポリマー(FEP)、ポリビニリデンフル
オライド(PVDF)、ペルフルオロアルコキシテトラフルオロエチレンコポリマー(P
FA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン、ペルフル
オロメチルビニルエーテルコポリマー(MFA)、エチレンクロロトリフルオロエチレン
コポリマー(ECTFE)、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、
ペルフルオロポリエーテル、またはテクノフロンである(またはそれらを含む)。
【0065】
図16において、γ_wvは、蒸気と平衡にある非接液相の表面エネルギーであり、γ
_owは、非接液相と含浸液体との間の界面エネルギーであり、γ_ovは、蒸気と平衡
にある含浸液体相の表面エネルギーであり、γ_svは、蒸気と平衡にある固体の表面エ
ネルギーであり、γ_soは、含浸相と固体との間の界面エネルギーであり、γ_swは
、固体と非接液相との間の界面エネルギーであり、r=予測表面積で割った全表面積であ
り、θ_c1、θ_c2、θ_c3、θ_c4、θ_w1、θ_w2は、各湿潤状態にお
ける非接液相によって作られる肉眼で見える接触角であり、θ*_os(v)は、テクス
チャ基材の周囲の相が蒸気であるときの、テクスチャ基材上の油の肉眼で見える接触角で
あり、θ_os(v)は、油滴の周囲の相が蒸気であるときの、同じ化学構造の平坦な固
体基材上の油の接触角であり、θ*_os(w)は、油滴の周囲の相が水であるときの、
テクスチャ基材上の油の肉眼で見える接触角であり、ならびに、θ_os(w)は、油滴
の周囲の相が水であるときの、テクスチャ付与表面と同じ化学構造の平坦な固体基材上の
油の接触角である。
【0066】
図17は、本発明のある特定の実施形態に従う、
図16に示される湿潤状態の6つの液
体含浸表面に対する条件を示す概略図である。
【実施例0067】
実験例
図3は、本発明のある特定の実施形態に従う、マイクロテクスチャ付与表面302の写
真を含む。表面302は、シリコンで作られており、25μm離れて離間された10μm
の柱の正方形配列を含む。描画されるように、表面302の下部304はヘキサデカン(
含浸液体)に含浸され、一方、上部306は空気に含浸された(すなわち、含浸液体がな
い)。ヘキサデカンのエッジ308は、頂部306と下部304との間の境界線を画定す
る。ヘキサデカンでの含浸は、(i)表面302の下部304をヘキサデカンの溶液槽に
浸漬すること、および(ii)浸漬コーディング装置を用いて下部304をヘキサデカン
から緩やかな速度(10mm/分)で引き抜くことにより達成された。含浸は、約5m/
秒の衝突速度を有する水噴射が噴霧されている間、ヘキサデカンが適所に残るほど、強固
であった。7μLの水滴の接触角度ヒステリシスおよびロールオフ角度を、表面302の
下部304上(すなわち、表面302の液体含浸部分)で測定した。接触角度ヒステリシ
ス(CAH)およびロールオフ角度は、両方とも極めて小さかった。CAHは、1°未満
であり、一方、ロールオフ角度は、わずか1.7±0.1°であった。
【0068】
図4aおよび4bは、それぞれ、気体含浸表面404および液体含浸表面406上での
水滴402の衝突を描画する、一連の高速ビデオ画像を示す。上記で考察されるように、
液滴は、表面に衝突する際、その表面に大きな圧力を印加し得る。これは、約5m/s未
満の速度で表面に衝突するミリメートル寸法の液滴にすら当てはまる。これらの圧力の結
果として、液滴は、気体含浸表面上に突き刺しされ、それによって、気体含浸表面がその
強化された液滴脱落能力を損失することになり得る。液滴の突き刺しは、
図4に描画され
ており、液滴は、気体含浸表面404から跳ね返るのではなく、その表面に固着すること
が示される。固着を阻止するために、気体含浸表面を用いた従来のアプローチでは、ナノ
規模のテクスチャの導入が目立つ。しかし、液体含浸表面によるアプローチでは、約10
μmのマイクロテクスチャでさえも、衝突液滴の脱落を成功させることができる。これは
、
図4bに示され、空気が存在していた場合には水滴を突き刺しした同じマイクロテクス
チャが、ヘキサデカンを含浸させた場合には、完全に液滴を弾いた。これらの図における
スケールバー408は、3mmである。
【0069】
図5は、水平線に対して25°に傾けた液体含浸表面504に衝突する液滴502を示
す、一連の高速ビデオ画像を含む。この事例では、水滴502は表面504を滑り落ちて
最終的には跳ね返り、液体含浸表面504が、衝突液滴の脱落を成功させることができ、
突き刺しに対して強固であったことを示す。この例における水滴は、直径が2.5mmで
あった。液体含浸表面504は、25μm間隔で離間した10μmのシリコン四角柱列に
、ヘキサデカンの含浸液体を含有する、マイクロテクスチャ付与表面であった。
【0070】
図6a~6dは、本発明のある特定の実施形態に従う、気体含浸超疎水性表面602上
での霜の形成を示す一連のESEM画像を含む。超疎水性表面602は、疎水性の四角柱
列604を含み、幅、エッジ間距離、およびアスペクト比は、それぞれ、15μm、30
μm、および7である。
図6aは、乾燥した表面(すなわち、霜がない)を描画するが、
一方で
図6b~6dは、表面上での霜606の形成を描画する。支柱上の疎水性コーティ
ングの本質的な水接触角は、110°であった。表面は、ESEMの冷却ステージ付属品
を用いて、-13℃の温度で維持された。実験の最初は、チャンバの圧力を、乾燥した表
面を確保するために、飽和圧力をはるかに下回る約100Paに維持した。チャンバ内の
蒸気圧を、次いで、霜の核形成が観察されるまで、徐々に増加させた。霜の核形成および
成長は、表面の均一な本質的湿潤性のため、いずれの特定の空間選好も有することなく、
支柱の上部、側壁、および谷部を含む、利用可能な領域の全てで生じた。
【0071】
図7a~7cは、本発明のある特定の実施形態に従う、乾燥および霜の降りた超疎水性
表面の液滴衝突試験からの画像を描画する。この試験は、1mmの半径を有し、0.7m
/sの速度で表面に衝突する水滴を使用して行った。
図7aは、幅、エッジ間距離、およ
びアスペクト比が、それぞれ、10μm、20μm、および1である、代表的なSi支柱
列表面702の上面
図SEM画像である。
図7bは、乾燥表面704上での液滴衝突の一
連の高速ビデオ画像を含む。描画されるように、液滴は、抗湿潤性の毛細管圧が動的湿潤
圧よりも大きいため、表面704から反跳する。
図7cは、霜706で被覆された表面上
での液滴衝突の一連の高速ビデオ画像を含む。結果は、霜706が、表面の湿潤特性を変
化させて表面を親水性にし、CassieからWenzelへの衝突液滴の湿潤転移、続
くピン止め、および表面上での「Wenzel」氷の形成をもたらすことを示す。
【0072】
図8は、本発明のある特定の実施形態に従う、正規化された表面積に対する、測定され
た正規化された氷付着強度のプロットである。正規化された氷付着強度は、テクスチャ付
与表面で測定される氷付着強度を平滑表面で測定される氷付着強度で除したものである。
正規化された表面積は、全表面積を投影面積によって正規化したものである。図が示すよ
うに、正規化された氷付着強度は、正規化された表面積とともに増加することが判明し、
強い線形傾向を示す。データへの最良の線形適合(実線、相関係数R2=0.96)は、
1という勾配を有し、(点線を使用して推定した)起点を通過し、氷が、支柱の側面を含
む、全ての利用可能な表面領域と接触していることを示す。テクスチャ付与表面と氷の連
結は、付着強度の増加をもたらす。この図内の挿入図(a)~(d)は、優れた複製性能
を示す低密度から高密度(それぞれ、a=15μm、h=10μm、b=45、30、1
5、および5μmであり、a、h、およびbは、
図2Cおよび2Dに示される寸法である
)での、代表的な複製PDMS支柱列の上面図光学画像である。
【0073】
傾斜台を有するRame-hart Goniometerを使用して、ロールオフ実
験を行い、ヘキサデカンを含浸させたオクタデシルトリクロロシラン処理を施したシリコ
ーン柱表面(支柱間隔25μm)の液滴脱落特性を測定した。1.7°±0.1°のロー
ルオフ角度が、7μlの液滴に対して測定された。前進および後退接触角は、それぞれ、
98°±1°および97°±1°であった。この非常に低いロールオフ角度により、液体
含浸表面が迅速に(例えば、氷雨適用時に凍結する前に)液滴を脱落させることを可能に
する。
【0074】
図9および10は、液体含浸表面上での水滴移動度の実験的測定値を示す。
図9は、表
面に含浸させた4つの異なる流体についての表面固体分率φの関数としてのロールオフ角
度α(または傾斜角度)である(特徴の寸法aおよびbは、
図2Dに示される通りである
)。「空気」の事例は、従来の超疎水性表面(すなわち、気体含浸表面)を表すことに留
意されたい。このプロットは、ロールオフ角度αが、シリコーン油については非常に小さ
く(5°未満)、固体分率φに著しい影響を受けなかったことを示す。含浸表面を完全に
湿潤させないイオン液体(すなわち、BMI-IM)については、ロールオフ角度αは、
比較的高く、空気の事例とほぼ等しく、マイクロ支柱上での液体のピン止めの増加のため
、固体分率φが増加した。これは、固体断片φの増加が、単位面積中より多くのマイクロ
支柱を意味するためである可能性が高い。
図10は、1000cStのシリコーン油に対
する固体分率φの関数としての、表面を30°に傾けた試験の水滴摺動速度v
oのプロッ
トである。このプロットは、摺動速度v
oが、固体分率φが増加した場合、ピン止めの増
加のために減少したことを示す。
【0075】
図11および12は、表面を30°に傾けたときの、異なる粘度を有する異なる含浸流
体に対する水滴摺動速度v
oのさらなる実験的測定値を示す。図は、空気での摺動速度v
oはシリコーン油によるものよりも高いが、摺動速度v
oは、ピン止めの増加のために、
固体分率φと同じ減少傾向を有することを示す。
図12は、10cStのシリコーン油に
対する固体分率φの関数としての摺動速度v
oのプロットである。このプロットは、摺動
速度v
oの大きさが、1000cStでのものよりも高いが、空気でのものよりも低いこ
とを示す。固体分率φとの傾向は、同じままである。
図10および12の測定値は、液滴
移動性(例えば、摺動速度v
o)が、含浸液体の粘度が減少するにつれて増加することを
示す。これは、最も高い移動度が、空気といった低粘度の含浸流体で達成される可能性が
高いことを示唆する。
【0076】
一実験では、含浸液体の粘度は、液滴衝突に対する粘度の影響を判定するために多様で
あった。試験に使用した表面には、10μmの支柱間隔で、シリコンマイクロ支柱(10
×10×10μm)が含まれた。含浸液体の粘度は、10cStであり、衝突水滴は、液
体含浸表面から跳ね返ることができた。対照的に、含浸液体の粘度が1000cStであ
ったとき、衝突水滴は、表面上に留まった(すなわち、表面から跳ね返らなかった)。し
かしながら、気体含浸表面を用いて行われた類似の衝突実験とは異なり、液滴は、摺動速
度が低かったにもかかわらず、継続的に表面を転がり落ちることができた。
【0077】
図13および14は、シリコーン油を含浸させたマイクロ支柱表面上での霜の核形成の
環境制御型SEM(ESEM)画像を含む。
図13は、核形成が引き起こされる前の表面
1402を示す。
図14は、核形成中の表面1404を示し、霜1306が、マイクロ支
柱上部に核形成を行う傾向を有したことを示す。
均等物
【0078】
本発明は、特定の好ましい実施形態を参照して具体的に示され、記載されているが、形
態および詳細における種々の変更が、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の
趣旨および範囲から逸脱することなくそこになされてもよいことが、当業者には理解され
るはずである。