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特開2024-56924円環状ガラス基板の製造方法、円環状ガラス基板、及び磁気ディスク用ガラス基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056924
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】円環状ガラス基板の製造方法、円環状ガラス基板、及び磁気ディスク用ガラス基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 33/04 20060101AFI20240416BHJP
   C03B 33/09 20060101ALI20240416BHJP
   B23K 26/53 20140101ALI20240416BHJP
   G11B 5/73 20060101ALI20240416BHJP
   G11B 5/82 20060101ALI20240416BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
C03B33/04
C03B33/09
B23K26/53
G11B5/73
G11B5/82
G11B5/84 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024022125
(22)【出願日】2024-02-16
(62)【分割の表示】P 2023511737の分割
【原出願日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2021060849
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099793
【弁理士】
【氏名又は名称】川北 喜十郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154586
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 正広
(74)【代理人】
【識別番号】100182051
【弁理士】
【氏名又は名称】松川 直宏
(72)【発明者】
【氏名】東 修平
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 利雄
(57)【要約】
【課題】磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、ガラス素板から円環状のガラス基板をより確実に分離できる技術を提供する。
【解決手段】
円環状ガラス基板(1)の製造方法は、ガラス素板(20)の表面(20a)に所定の円(C1)に沿ってレーザ光(L)を照射することにより、ガラス素板(20)に、円(C1)に沿って複数の欠陥(D)を含む分離線(C1)を形成することと、分離線(C1)が形成されたガラス素板(20)の、分離線(C1)の外側の部分(21)を内側の部分(22)よりも高温で加熱することにより、外側の部分(21)と内側の部分(22)とを分離することと、を含む。分離線(C1)は、隣り合う二つの欠陥が第1の間隔を隔てて周期的に形成される第1の領域と、隣り合う二つの欠陥が前記第1の間隔より短い間隔を隔てて形成される第2の領域とを含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環状ガラス基板の製造方法であって、
ガラス素板の表面に所定の円に沿ってレーザ光を照射することにより、前記ガラス素板に、前記所定の円に沿って複数の欠陥を含む分離線を形成することと、
前記分離線が形成されたガラス素板の、前記分離線の外側の部分を、前記分離線の内側の部分よりも高温で加熱することにより、前記外側の部分と前記内側の部分とを分離することと、を含み、
前記分離線は、隣り合う二つの欠陥が第1の間隔を隔てて周期的に形成される第1の領域と、隣り合う二つの欠陥が前記第1の間隔より短い間隔を隔てて形成される第2の領域とを含む、円環状ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記第2の領域の長さは、前記所定の円の周長の12.5%以下である、請求項1に記載の円環状ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記第1の間隔より短い間隔は、前記第1の間隔の70%以下である、請求項1又は2に記載の円環状ガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記所定の円の周長は前記第1の間隔の整数倍ではない、請求項1~3のいずれか一項に記載の円環状ガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記ガラス素板の前記表面に、前記所定の円と同心且つ前記所定の円よりも径が短い第2の円に沿ってレーザ光を照射することにより、前記ガラス素板の前記分離線よりも内側に、前記第2の円に沿って複数の欠陥を含む第2の分離線を形成することをさらに含み、
前記第2の分離線は、隣り合う二つの欠陥が第2の間隔を隔てて周期的に形成される第3の領域と、隣り合う二つの欠陥が前記第2の間隔よりも短い間隔を隔てて形成される第4の領域とを含み、
前記第2の間隔は前記第1の間隔よりも小さい、請求項1~3のいずれか一項に記載の円環状ガラス基板の製造方法。
【請求項6】
前記所定の円に沿って1周を超えるように前記レーザ光を一定周期で照射することにより前記分離線を形成する、請求項1~5のいずれか一項に記載の円環状ガラス基板の製造方法。
【請求項7】
円環状ガラス基板の製造方法であって、
ガラス素板の表面に所定の円に沿ってレーザ光を照射することにより、前記ガラス素板に、前記所定の円に沿って複数の欠陥を含む分離線を形成することと、
前記分離線が形成されたガラス素板の、前記分離線の外側の部分を、前記分離線の内側の部分よりも高温で加熱することにより、前記外側の部分と前記内側の部分とを分離することと、を含み、
前記複数の欠陥が、前記所定の円上で所定間隔を隔てて周期的に形成された複数の第1の欠陥と、少なくとも一組の隣り合う二つの前記第1の欠陥の間に位置する、第2の欠陥とを含む、円環状ガラス基板の製造方法。
【請求項8】
前記所定の円に沿って1周を超えるように前記レーザ光を一定周期で照射することにより前記分離線を形成する、請求項7に記載の円環状ガラス基板の製造方法。
【請求項9】
前記複数の欠陥は、複数組の隣り合う二つの前記第1の欠陥の間にそれぞれ位置する、複数の前記第2の欠陥を含み、
複数の前記第2の欠陥は、前記レーザ光が前記所定の円に沿って1周を超えて照射されるときに形成され、前記所定間隔を隔てて周期的に形成されたものである、請求項8に記載の円環状ガラス基板の製造方法。
【請求項10】
前記所定間隔は、前記所定の円の周長が前記所定間隔の整数倍にならないように設定される、請求項7~9のいずれか一項に記載の円環状ガラス基板の製造方法。
【請求項11】
円環状ガラス基板の製造方法であって、
ガラス素板の表面に所定の円に沿ってレーザ光を照射することにより、前記ガラス素板に、前記所定の円に沿って複数の欠陥を含む分離線を形成することと、
前記分離線が形成されたガラス素板の、前記分離線の外側の部分を、前記分離線の内側の部分よりも高温で加熱することにより、前記外側の部分と前記内側の部分とを分離することと、を含み、
前記複数の欠陥は、前記レーザ光と前記ガラス素板との照射部における相対速度を一定とし、前記所定の円に沿って1周を超えて一定周期で、前記レーザ光を照射することにより、所定間隔で形成され、
前記複数の欠陥は、前記レーザ光の1周目の照射により形成された複数の第1の欠陥と、前記レーザ光が1周を超えて照射されるときに形成される少なくとも1つの第2の欠陥とを含み、
前記所定間隔は、前記少なくとも一つの第2の欠陥が前記複数の第1の欠陥と重ならないように決定される、円環状ガラス基板の製造方法。
【請求項12】
前記ガラス素板は、オーバーフローダウンドロー法により製造されたガラス素板である、請求項1~11のいずれか一項に記載の円環状ガラス基板の製造方法。
【請求項13】
円環状ガラス基板であって、
二つの主表面と、
前記二つの主表面の外縁どうしを接続する外周端面とを備え、
前記外周端面には、それぞれが前記円環状ガラス基板の厚み方向に延びる複数の溝と、第1の領域と、第2の領域とが形成されており、
前記第1の領域では、隣り合う二つの溝が第1の間隔を隔てて周期的に形成されており、
前記第2の領域では、隣り合う二つの溝が前記第1の間隔より短い間隔を隔てて形成されている、円環状ガラス基板。
【請求項14】
前記第2の領域の長さは、前記外縁の長さの12.5%以下である、請求項13に記載の円環状ガラス基板。
【請求項15】
前記第1の間隔より短い間隔は、前記第1の間隔の70%以下である、請求項13又は14に記載の円環状ガラス基板。
【請求項16】
前記外周端面と同心であり且つ前記外周端面よりも内側に形成された内周端面をさらに備え、
前記内周端面には、それぞれが前記円環状ガラス基板の厚み方向に延びる複数の溝と、第3の領域と、第4の領域とが形成されており、
前記第3の領域では、隣り合う二つの溝が第2の間隔を隔てて周期的に形成されており、
前記第4の領域では、隣り合う二つの溝が前記第2の間隔より短い間隔を隔てて形成されており、
前記第2の間隔は前記第1の間隔よりも短い、請求項13~15のいずれか一項に記載の円環状ガラス基板。
【請求項17】
請求項13~16のいずれか一項に記載の円環状ガラス基板の主表面を少なくとも研磨する処理を含む、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を用いて形状を加工することにより円環状ガラス基板を製造する円環状ガラス基板の製造方法、当該製造方法により製造された円環状ガラス基板、及び磁気ディスク用ガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、パーソナルコンピュータ、ノート型パーソナルコンピュータ、DVD(Digital Versatile Disc)記録装置、あるいはクラウドコンピューティングのデータセンター等には、データを記録するためのハードディスク装置が用いられる。ハードディスク装置では、円環状の非磁性体の磁気ディスク用ガラス基板に磁性層が設けられた磁気ディスクが用いられる。
【0003】
従来、このような磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、ガラス素板から円環状ガラス基板を分離する技術が知られている(特許文献1)。この技術では、まず、ガラス基板の元となるガラス素板の面に、所定の円環形状に沿ってレーザ光を照射することにより、前記所定の円環形状に沿った欠陥を形成する。これにより、前記ガラス素板の面には、前記所定の円環形状に対する外側部分と内側部分とが形成される。そして、前記ガラス素板の前記外側部分を、前記内側部分よりも高温で加熱することにより、前記ガラス素板の前記外側部分が、前記内側部分に対して相対的に熱膨張し、前記外側部分と前記内側部分との間に隙間が形成される。この結果、前記ガラス素板の前記外側部分と前記内側部分とを分離することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2020/022510号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記技術では、前記ガラス素板の前記外側部分を前記内側部分よりも高温で加熱しても、前記外側部分と前記内側部分との間に前記隙間が形成されず、前記外側部分と前記内側部分とを分離できない場合があった。また、前記外側部分と前記内側部分との間に隙間が形成され、前記外側部分と前記内側部分とを分離できたとしても、前記外側部分の端面及び前記内側部分の端面の少なくとも一部に欠け(チッピング)が生じる場合があった。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、ガラス素板から円環状のガラス基板をより確実に分離できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に従えば、円環状ガラス基板の製造方法であって、
ガラス素板の表面に所定の円に沿ってレーザ光を照射することにより、前記ガラス素板に、前記所定の円に沿って複数の欠陥を含む分離線を形成することと、
前記分離線が形成されたガラス素板の、前記分離線の外側の部分を、前記分離線の内側の部分よりも高温で加熱することにより、前記外側の部分と前記内側の部分とを分離することと、を含み、
前記分離線は、隣り合う二つの欠陥が第1の間隔を隔てて周期的に形成される第1の領域と、隣り合う二つの欠陥が前記第1の間隔より短い間隔を隔てて形成される第2の領域とを含む、円環状ガラス基板の製造方法が提供される。
【0008】
本発明の第1の態様に従う円環状ガラス基板の製造方法において、前記第2の領域の長さは、前記所定の円の周長の12.5%以下であってもよい。
【0009】
本発明の第1の態様に従う円環状ガラス基板の製造方法において、前記第1の間隔より短い間隔は、前記第1の間隔の70%以下であってもよい。
【0010】
本発明の第1の態様に従う円環状ガラス基板の製造方法において、前記所定の円の周長は前記第1の間隔の整数倍ではなくてもよい。
【0011】
本発明の第1の態様に従う円環状ガラス基板の製造方法において、前記ガラス素板の前記表面に、前記所定の円と同心且つ前記所定の円よりも径が短い第2の円に沿ってレーザ光を照射することにより、前記ガラス素板の前記分離線よりも内側に、前記第2の円に沿って複数の欠陥を含む第2の分離線を形成することをさらに含んでもよく、
前記第2の分離線は、隣り合う二つの欠陥が第2の間隔を隔てて周期的に形成される第3の領域と、隣り合う二つの欠陥が前記第2の間隔よりも短い間隔を隔てて形成される第4の領域とを含んでもよく、
前記第2の間隔は前記第1の間隔よりも小さくてもよい。
【0012】
本発明の第1の態様に従う円環状ガラス基板の製造方法において、前記所定の円に沿って1周を超えるように前記レーザ光を一定周期で照射することにより前記分離線を形成してもよい。
【0013】
本発明の第2の態様に従えば、円環状ガラス基板の製造方法であって、
ガラス素板の表面に所定の円に沿ってレーザ光を照射することにより、前記ガラス素板に、前記所定の円に沿って複数の欠陥を含む分離線を形成することと、
前記分離線が形成されたガラス素板の、前記分離線の外側の部分を、前記分離線の内側の部分よりも高温で加熱することにより、前記外側の部分と前記内側の部分とを分離することと、を含み、
前記複数の欠陥が、前記所定の円上で所定間隔を隔てて周期的に形成された複数の第1の欠陥と、少なくとも一組の隣り合う二つの前記第1の欠陥の間に位置する、第2の欠陥とを含む、円環状ガラス基板の製造方法が提供される。
【0014】
本発明の第2の態様に従う円環状ガラス基板の製造方法において、前記所定の円に沿って1周を超えるように前記レーザ光を一定周期で照射することにより前記分離線を形成してもよい。
【0015】
本発明の第2の態様に従う円環状ガラス基板の製造方法において、前記複数の欠陥は、複数組の隣り合う二つの前記第1の欠陥の間にそれぞれ位置する、複数の前記第2の欠陥を含んでもよく、
複数の前記第2の欠陥は、前記レーザ光が前記所定の円に沿って1周を超えて照射されるときに形成され、前記所定間隔を隔てて周期的に形成されたものであってもよい。
【0016】
本発明の第2の態様に従う円環状ガラス基板の製造方法において、前記所定間隔は、前記所定の円の周長が前記所定間隔の整数倍にならないように設定されてもよい。
【0017】
本発明の第3の態様に従えば、円環状ガラス基板の製造方法であって、
ガラス素板の表面に所定の円に沿ってレーザ光を照射することにより、前記ガラス素板に、前記所定の円に沿って複数の欠陥を含む分離線を形成することと、
前記分離線が形成されたガラス素板の、前記分離線の外側の部分を、前記分離線の内側の部分よりも高温で加熱することにより、前記外側の部分と前記内側の部分とを分離することと、を含み、
前記複数の欠陥は、前記レーザ光と前記ガラス素板との照射部における相対速度を一定とし、前記所定の円に沿って1周を超えて一定周期で、前記レーザ光を照射することにより、所定間隔で形成され、
前記複数の欠陥は、前記レーザ光の1周目の照射により形成された複数の第1の欠陥と、前記レーザ光が1周を超えて照射されるときに形成される少なくとも1つの第2の欠陥とを含み、
前記所定間隔は、前記少なくとも一つの第2の欠陥が前記複数の第1の欠陥と重ならないように決定される、円環状ガラス基板の製造方法が提供される。
【0018】
本発明の第1、第2、及び第3の態様に従う円環状ガラス基板の製造方法において、前記ガラス素板は、オーバーフローダウンドロー法により製造されたガラス素板であってもよい。
【0019】
本発明の第4の態様に従えば、円環状ガラス基板であって、
二つの主表面と、
前記二つの主表面の外縁どうしを接続する外周端面とを備え、
前記外周端面には、それぞれが前記円環状ガラス基板の厚み方向に延びる複数の溝と、第1の領域と、第2の領域とが形成されており、
前記第1の領域では、隣り合う二つの溝が第1の間隔を隔てて周期的に形成されており、
前記第2の領域では、隣り合う二つの溝が前記第1の間隔より短い間隔を隔てて形成されている、円環状ガラス基板が提供される。
【0020】
本発明の第4の態様に従う円環状ガラス基板において、前記第2の領域の長さは、前記外縁の長さの12.5%以下であってもよい。
【0021】
本発明の第4の態様に従う円環状ガラス基板において、前記第1の間隔より短い間隔は、前記第1の間隔の70%以下であってもよい。
【0022】
本発明の第4の態様に従う円環状ガラス基板は、前記外周端面と同心であり且つ前記外周端面よりも内側に形成された内周端面をさらに備えてもよく、
前記内周端面には、それぞれが前記円環状ガラス基板の厚み方向に延びる複数の溝と、第3の領域と、第4の領域とが形成されてもよく、
前記第3の領域では、隣り合う二つの溝が第2の間隔を隔てて周期的に形成されてもよく、
前記第4の領域では、隣り合う二つの溝が前記第2の間隔より短い間隔を隔てて形成されてもよく、
前記第2の間隔は前記第1の間隔よりも短くてもよい。
【0023】
本発明の第5の態様に従えば、本発明の第4の態様に従う円環状ガラス基板の主表面を少なくとも研磨する処理を含む、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、ガラス素板から円環状のガラス基板をより確実に分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本実施形態の製造方法により製造された円環状ガラス基板の斜視図である。
図2】本実施形態に係る円環状ガラス基板の製造方法の流れを示すフローチャートである。
図3】外側分離線形成工程におけるレーザ光の照射について説明する図である。
図4】(a)は外側分離線が形成されたガラス素板を主表面に垂直な方向から見た図であり、(b)は外側分離線の一部を拡大した図である。
図5】第1分離工程における加熱について説明する図である。
図6】第1分離工程における加熱による分離について説明する図である。
図7】第1分離工程によって抜き出された円形ガラス素板の斜視図である。
図8】内側分離線形成工程におけるレーザ光の照射について説明する図である。
図9】(a)は内側分離線が形成された円形ガラス素板を主表面に垂直な方向から見た図であり、(b)は内側分離線の一部を拡大した図である。
図10】第2分離工程における加熱について説明する図である。
図11】第2分離工程における加熱による分離について説明する図である。
図12】(a)は円環状ガラス基板の外周端面を平面上に展開した部分拡大図であり、(b)は円環状ガラス基板の内周端面を平面上に展開した部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
まず、本実施形態の製造方法により製造された円環状ガラス基板について、図1を参照しつつ説明する。
【0027】
ガラス基板1は、中央に同軸状に孔が形成された円環状の薄板のガラス基板であり、例えば、磁気ディスク用の基板として用いられる。ガラス基板1のサイズは問わないが、例えば、公称直径2.5インチや3.5インチの磁気ディスクに適したサイズである。公称直径2.5インチの磁気ディスク用ガラス基板の場合、例えば、外径(直径)が55~70mm、中心穴の径(直径。内径とも言う)が19~20mm、板厚が0.2~0.8mmである。公称直径3.5インチの磁気ディスク用ガラス基板の場合、例えば、外径が85~100mm、中心穴の径が24~25mm、板厚が0.2~0.8mmである。
【0028】
ガラス基板1は、一対の対向する主表面11a、11bと、外周端面12と、中央孔を画成する内周端面13とを備える。主表面11aは、2つの同心円を外縁及び内縁として有する、円環形状の面である。主表面11bは、主表面11aと同形状であり且つ同心である。外周端面12は、主表面11aの外縁と主表面11bの外縁とを接続する面である。内周端面13は、主表面11aの内縁と主表面11bの内縁とを接続する面である。なお、上記の接続部に面取面が形成されてもよい。ガラス基板1を用いて磁気ディスクを製造する際には、主表面11a、11bに磁性層が形成される。
【0029】
次に、本実施形態の一例に係る円環状ガラス基板の製造方法の流れについて、図2を参照しつつ説明する。本実施形態に係る円環状ガラス基板の製造方法は、外側分離線形成工程(S10)と、第1分離工程(S20)と、内側分離線形成工程(S30)と、第2分離工程(S40)とを含む。
【0030】
外側分離線形成工程(S10)では、ガラス基板1の材料となるガラス素板の表面にレーザ光を照射することにより、ガラス素板に複数の欠陥を含む円形状の外側分離線を形成する。第1分離工程(S20)では、ガラス素板の外側分離線よりも外側の部分を、内側の部分よりも高温で加熱することにより、外側分離線よりも外側の部分と内側の部分とを分離する。これにより、円形ガラス素板が抜き出される。内側分離線形成工程(S30)では、第1分離工程S20によって抜き出された円形ガラス素板の表面にレーザ光を照射することにより、円形ガラス素板に複数の欠陥を含む円形状の内側分離線を形成する。第2分離工程(S40)では、円形ガラス素板の内側分離線よりも外側の部分を、内側の部分よりも高温で加熱することにより、内側分離線よりも外側の部分と内側の部分とを分離する。これにより、円環状ガラス基板が製造される。
【0031】
次に、本実施形態の一例に係る円環状ガラス基板の製造方法の各工程について、図3図12を参照しつつ、詳細に説明する。
【0032】
外側分離線形成工程(S10)では、図3に示されるように、予め作製された矩形状等のガラス素板20に、レーザ光Lを照射する。
【0033】
ガラス基板1の材料となるガラス素板20としては、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラス等を用いることができる。特に、必要に応じて化学強化を施すことができ、また基板の主表面の平坦度及び基板の強度において優れた磁気ディスク用ガラス基板を作成することができるという点で、アモルファスのアルミノシリケートガラスを好適に用いることができる。ガラス素板20は、例えば、フロート法やオーバーフローダウンドロー法を用いて作製され、一定の板厚を有する。或いは、ガラス素板20は、ガラスの塊を、金型を用いてプレス成形したガラス板であってもよい。なお、本発明は、オーバーフローダウンドロー法により製造されたガラス素板20に対して適用すると好ましい。その理由は必ずしも明確ではないが、オーバーフローダウンドロー法で製造した大板のガラス板は、その面内の位置による残留応力の差が比較的大きい(即ち、面内方向における残留応力バラツキが比較的大きい)ことが一つの要因と推察される。オーバーフローダウンドロー法では、溶融ガラスを重力によって鉛直方向に落下させながら所定の板厚となるように引き延ばすことによって高品質のシート状ガラスに成形するため、落下距離を長くしようとするほど高い建屋が必要となる。しかし、高い建屋は技術的困難度及びコストが高いため、実質的に上記落下距離には制限がある。このため、フロート法よりも短い距離でガラスの引き延ばしと冷却を完了せねばならないが、引き延ばしと冷却は成形後のガラスの残留応力に大きな影響を与えるパラメータであるので、面内方向における残留応力バラツキが大きくなる。大板のガラス板の面内方向における残留応力バラツキが大きいと、それを個片化した後の複数のガラス素板20間での残留応力バラツキが大きくなる。また、個片化後のガラス素板20のサイズによっては、1つのガラス素板20の面内における残留応力バラツキも大きくなる可能性もある。本発明では、断続的な欠陥からなる分離線を形成し、複数の欠陥間に亀裂を生じさせることが前提であるが、上記亀裂の形成には残留応力が大きく影響していることがわかってきた。即ち、ガラス素板20における残留応力の大小や面内分布によって、亀裂が生じやすい場合と生じにくい場合がありうる。そのため、ある1つのガラス素板20で分離がうまくできたとしても、別のガラス素板20では分離がうまくいかない場合も生じうる。このため、オーバーフローダウンドロー法により製造されたガラス素板20に本発明を適用することにより、上記のような複数のガラス素板20間の残留応力のバラツキが大きい場合や、個々のガラス素板20内における残留応力バラツキが大きい場合でも、安定して大量のガラス素板20をミスなく分離することができる。
【0034】
レーザ光源及び光学系30は、レーザ光Lを出射する装置であり、例えば、YAGレーザ、Yb:YAGレーザ、Nd:YAGレーザ、YVOレーザ、Nd:YVOレーザ等の固体レーザが用いられる。レーザ光の波長は、例えば、1000nm~1100nmの範囲にすることができる。レーザ光Lはパルスレーザである。本実施形態では、レーザ光Lのパルス幅は10-10秒(100ピコ秒)以下であることが好ましい。また、レーザ光Lの光エネルギは、パルス幅及びパルス幅の繰り返し周波数に応じて適宜調整することができるが、例えば照射時間における平均出力で1W以上である。周波数は、例えば1kHz~1000kHzとすることができる。
【0035】
レーザの照射方法としては、例えば、レーザ光源及び光学系30を用いて、レーザ光Lがガラス素板20の表面又は/及び内部で焦点を形成するように適宜調節してガラス素板20に照射すればよい。このようなレーザ光Lの照射により、円C1上の一点で、ガラス素板20の厚み方向に沿って焦点が連続するように形成される。この焦点の連続を焦線とも言う。このため、ガラス素板20の厚み方向に沿って線状に光エネルギが集中し、ガラス素板20の一部がプラズマ化するなどして、ガラス素板20の厚み方向に伸びた欠陥Dを形成することができる。ここで、欠陥Dとは、ガラス素板20に形成された孔、当該孔から進展するクラック、及び、改質されたガラス部分(以下、ガラス改質部分と呼ぶ)のうち少なくとも1つを含む。当該孔は、アブレージョンによりガラス素板20をガラス素板20の厚み方向に貫通した貫通孔であってもよく、貫通していない孔であってもよい。また、ガラス改質部分がガラス素板20の厚み方向全体に渡って存在してもよい。これらの欠陥は、ガラス素板20の主表面20aに対して略直交する(角度が85~95度)ように延びていると、後工程における取代を減らしやすいため好ましい。なお、その他のレーザ光の照射方法として、カー効果(Kerr-Effect)に基づくビームの自己収束を利用する方法、ガウシアン・ベッセルビームをアキシコンレンズとともに利用する方法、収差レンズによる線焦点形成ビームを利用する方法、ドーナツ状レーザ光と球面レンズを用いる方法なども利用することができる。いずれにしても、上記のような線状の欠陥Dが形成できる限り、レーザ光Lの照射条件は特に限られない。
【0036】
レーザ光Lは、パルス状の光パルスを一定時間間隔で連続して生成する構成の光パルス群を一単位として、複数の光パルス群を断続的に発生させるバーストパルス方式でガラス素板20に照射することが好ましい。この場合、一つの光パルス群の中で、1パルスの光エネルギを変調してもよい。バーストパルス方式のレーザ光を用いることで、効率よく欠陥Dを形成することができる。
【0037】
レーザ光Lの照射は、ステージTに固定されたガラス素板20に対して、レーザ光Lを一定速度で相対移動させながら行われる。例えば、レーザ光Lの照射位置を固定したままステージT及びガラス素板20を、円を描くように一定速度で移動させてもよいし、中心軸周りに一定速度で回転させてもよい。ここで、レーザ光Lとガラス素板20の相対速度(レーザ光Lの照射位置における相対速度)は、例えば10~1000(mm/秒)とすることができる。レーザ光Lは、ガラス素板20上に予定された円C1に沿って、図3の矢印に示す反時計回りに、一定の周期で断続的に照射される。換言すると、レーザ光Lは、円C1における一定の間隔(以後、ピッチとも言う)を隔てて離間した複数の場所に、順次照射される。当該ピッチは、レーザ光Lのパルス照射の周期、及び、レーザ光Lとガラス素板20の相対速度により決定され、例えば1~20μmとすることができる。そして、レーザ光Lの照射は、一例として、円C1に沿って1周を超えるまで、即ち、レーザ光Lが最初に照射された円C1上の位置を超えるまで行われる。これにより、ガラス素板20には、最初のパルス照射により欠陥D1、第2のパルス照射により欠陥D2、第3のパルス照射により欠陥D3、第4のパルス照射により欠陥D4・・・のように、円C1に沿って一定の間隔を隔てて周期的に並んだ複数の欠陥Dにより、図4(a)に示すような円形状の外側分離線L1が形成される。なお、以下の説明において、二つの欠陥Dの間隔とは、二つの欠陥Dの中心間の距離を意味する。円C1は本発明の所定の円の一例であり、外側分離線L1は本発明の分離線の一例である。
【0038】
ここで、欠陥Dのピッチは、レーザ光Lのパルス照射の周期及びレーザ光Lとガラス素板20の相対速度により決定される。欠陥Dのピッチは、円C1の周長の1/n(nは整数)になるように調整はされていないことが好ましい。換言すると、円C1の周長が欠陥Dのピッチの整数倍とならないように、レーザ光Lのパルス照射の周期及びレーザ光Lとガラス素板20の相対速度が調整されていることが好ましい。こうすることで、レーザ光Lの2周目の照射時では、レーザ光Lの1周目の照射時に形成された欠陥Dと重ならないように、欠陥Dを形成することができる。つまり、レーザ光Lの2周目の照射時では、レーザ光Lの1周目の照射時に形成された隣り合う二つの欠陥Dの間に、欠陥Dを形成することができる。さらに換言すると、欠陥Dのピッチは、2周目の照射時に形成される欠陥Dが、1周目の照射時に形成された欠陥Dと重ならない(1周目の照射時に形成された隣り合う二つの欠陥Dの間に位置する)ように、調整されていることが好ましい。一例として図4(b)に示されるように、レーザ光Lの最後のパルス照射(即ち2周目の照射)によって形成された欠陥Dnは、レーザ光Lの第4のパルス照射(即ち1周目の照射)によって形成された欠陥D4または第5のパルス照射(即ち1周目の照射)によって形成された欠陥D5とは重ならずに、隣り合う二つの欠陥D4と欠陥D5との間に形成される。同様に、2周目の照射によって形成された欠陥Dn-1は、1周目の照射によって形成された、欠陥D3と欠陥D4との間に形成され、2周目の照射によって形成された欠陥Dn-2は、1周目の照射によって形成された、欠陥D2と欠陥D3との間に形成され、2周目の照射によって形成された欠陥Dn-3は、1周目の照射によって形成された、欠陥D1と欠陥D2との間に形成される。そして、欠陥Dn-4と欠陥D1との間隔は、欠陥Dn-4と欠陥Dn-3との間隔よりも小さくなっている。つまり、図4(b)において、欠陥D1~欠陥Dnは、円C1に沿って反時計回りにこの順番でほぼ一定の間隔で形成されるが、欠陥Dn-4から欠陥D5までの(反時計回りの)領域では、欠陥D5から欠陥Dn-4までの(反時計回りの)領域よりも、隣り合う二つの欠陥Dの間隔が短くなっている。欠陥Dn-4から欠陥D5までの(反時計回りの)領域において隣り合う二つの欠陥Dの間隔はいずれも、欠陥D5から欠陥Dn-4までの(反時計回りの)領域において隣り合う二つの欠陥Dの間隔の70%以下であることが好ましい。短い間隔で欠陥Dが連続する領域は、後述する第1分離工程(S20)において、外側分離線L1に沿って亀裂が形成されるきっかけとなりやすいためである。なお、本実施形態よりも短いピッチで欠陥Dが形成されるようにして、レーザ光Lを1周だけ照射することも考えられるが、この場合、円C1上で敢えて欠陥Dのピッチが異なる(短い)領域を作って亀裂を形成しやすくすることにはならない。また、形成される欠陥Dの数も多くなり、生産性も悪化する。また欠陥Dn-4から欠陥D5までの領域の長さ(欠陥Dn―4から欠陥D5までの、隣り合う二つの欠陥Dの間隔の総和)は、円C1の円周の長さの12.5%以下であることが好ましい。なお、12.5%を超えると、生産性が悪化する場合があることに加えて、チッピングが増加する場合がある。この原因は必ずしも明確ではないが、円C1の周上において、隣り合う二つの欠陥Dの間隔が短い領域の割合が広くなりすぎると、後述する第1分離工程(S20)において、その領域が先に外側部分21(図6参照)から外れ、外側部分21に対して斜めになりやすく、外側部分21から抜ける際にエッジがひっかかってチッピングが起こると推測している。上記の観点からは、10%以下がより好ましく、5%以下はさらに好ましく、1%以下が最も好ましい。なお、下限値は例えば0.01%であり、0.01%未満の場合、後述する本発明の効果が得られない恐れがある。ここで、欠陥Dn-4(1周目の最後の欠陥)から欠陥D1(1周目の最初の欠陥)の間の距離は、通常、円C1の円周の長さに対して極めて短い。このため、後述する本発明の第2の領域(欠陥Dn-4から欠陥Dnまでの領域の長さ)の、円C1の円周の長さに対する割合が十分に小さい(例えば0.01%以下)場合は、実質的に無視してもよい。すなわち、円C1に沿って1周を超えてレーザ光Lが照射された領域を、後述の本発明の第2の領域としてもよい。
【0039】
また、隣り合う二つの欠陥Dの間隔が短い領域は、円C1の円周上で一箇所であることが好ましい。隣り合う二つの欠陥Dの間隔が短い領域を一箇所にまとめることで、分離の失敗や、チッピングの発生を抑制することができる。この理由は明らかではないが、隣り合う二つの欠陥Dの間隔が短い領域を一箇所にまとめることで、後述する第1分離工程(S20)の際に円形の外側分離線L1上に歪が集中する場所が形成され、そこを起点に亀裂や隙間が形成されやすくなるためと推察される。また、隣り合う二つの欠陥Dの間隔が短い領域を一箇所にまとめることで、隣り合う二つの欠陥Dの間隔が短い領域を効率よく形成できるというメリットもある。
【0040】
なお、1周目の最後の照射による欠陥Dから2周目の最後の照射による欠陥Dまでの領域(例えば、図4(b)に示される欠陥Dn-4から欠陥Dnまでの反時計回りの領域)は、本発明の第2の領域であり、欠陥Dが等間隔で連続する領域(例えば、図4(b)に示される欠陥D5から欠陥Dn-4までの反時計回りの領域)は、本発明の第1の領域である。また、欠陥D4と欠陥D5の間隔は、本発明の第1の間隔の一例である。当該第1の間隔は、例えば1~20μmとすることができる。欠陥D4と欠陥Dnとの間隔、及び、欠陥Dnと欠陥D5との間隔は、本発明の第1の間隔より短い間隔の一例である。レーザ光Lの1周目の照射時に形成される欠陥D1、D2、D3、…、Dn-6、Dn-5、Dn-4は、本発明の第1の欠陥の一例であり、レーザ光Lの2周目の照射時に形成される欠陥Dn-3、Dn-2、Dn-1、Dnは本発明の第2の欠陥の一例である。
【0041】
次に、第1分離工程(S20)では、外側分離線L1を形成したガラス素板20から、外側分離線L1よりも内側の部分を抜き出すために、ガラス素板20の加熱を行う。ガラス素板20を加熱する際は、例えば図5に示されるように、外側分離線L1よりも外側にヒータ40を配置し、ガラス素板20の外側分離線L1よりも外側の外側部分21を加熱する。なお、外側分離線L1よりも内側にはヒータを配置しない方が好ましい。この場合、空間を介した熱伝導により、あるいはガラス素板20を介した熱伝導により、外側分離線L1よりも内側の内側部分22も間接的に加熱されるが、ガラス素板20の外側部分21は、内側部分22よりも高温で加熱されているといえる。このため、ガラス素板20の外側部分21の熱膨張量を、内側部分22の熱膨張量よりも大きくすることができる。この結果、図6に示されるように、ガラス素板20の外側部分21は、外側分離線L1の外側方向に向かって熱膨張する。具体的には、外側部分21の内周の径(内径)が内側部分22の外周の径(外径)に比べて大きくなるように、外側部分21が内側部分22に対して相対的に熱膨張する。これにより、まず、外側分離線L1に沿って全体に亀裂が入り、円形ガラス素板22が形成される(ただし、この時点ではガラス素板として一体化したままの状態である)。次に、外側部分21がさらに加熱されることで、ガラス素板20の外側部分21と内側部分22との界面に隙間が形成され、外側部分21と内側部分22とを分離することができる。つまり、矩形状のガラス素板20から、図7に示されるような、円形ガラス素板22を抜き出すことができる。円形ガラス素板22の外周端面は、最終的に、円環状のガラス基板1の外周端面12に対応する。なお、外側部分21と内側部分22との界面に隙間が形成された状態とは、外側部分21と内側部分22との間のいずれの位置においても計測可能な空間が形成されている状態だけではなく、計測可能な空間が得られなくても外側部分21と内側部分22の対向する面どうしが物理的又は化学的に結合していない状態も含む。換言すれば、上記界面に隙間が形成された状態には、外側部分21と内側部分22との界面に亀裂が形成されて両者が接触している状態も含まれる。
【0042】
次に、内側分離線形成工程(S30)では、図8に示されるように、第1分離工程(S20)で分離された円形ガラス素板22の主表面22aに、予定された円C2に沿ってレーザ光Lを照射することにより、内側分離線を形成する。
【0043】
レーザ光Lの照射は、外側分離線形成工程(S10)と同様に、ステージTに固定された円形ガラス素板22に対して、レーザ光Lを一定速度で相対移動させながら行われる。例えば、レーザ光Lの照射位置を固定したままステージT及び円形ガラス素板22を、円を描くように一定速度で移動させてもよいし、中心軸周りに一定速度で回転させてもよい。レーザ光Lは、円形ガラス素板22の主表面22a上に予定された円C2に沿って、図8の矢印に示す反時計回りに、一定の周期で断続的に照射される。換言すると、レーザ光Lは、円C2における一定の間隔を隔てて離間した複数の場所に、順次照射される。そして、レーザ光Lの照射は、円C2に沿って1周を超えるまで、即ち、レーザ光Lが最初に照射された円C2上の位置を超えるまで行われる。これにより、円形ガラス素板22には、最初のパルス照射により欠陥D1、第2のパルスの照射により欠陥D2、第3のパルスの照射により欠陥D3、第4のパルスの照射により欠陥D4・・・のように、円C2に沿って一定の間隔を隔てて周期的に並んだ複数の欠陥Dにより、図9(a)に示すような円形状の内側分離線L2が形成される。なお、円C2は本発明の第2の円の一例であり、内側分離線L2は、本発明の第2分離線の一例である。
【0044】
ここで、レーザのパルス照射周期は、円C2の周長の1/m(mは整数)になるようには調整されていないことが好ましい。換言すると、円C2の周長が欠陥Dのピッチの整数倍とならないように、レーザ光Lのパルス照射の周期及びレーザ光Lとガラス素板20の相対速度が調整されていることが好ましい。こうすることで、レーザ光Lの2周目の照射時では、レーザ光Lの1周目の照射時に形成された欠陥Dと重ならないように、欠陥Dを形成することができる。つまり、レーザ光Lの2周目の照射時では、レーザ光Lの1周目の照射時に形成された隣り合う二つの欠陥Dの間に、欠陥Dを形成することができる。さらに換言すると、欠陥Dのピッチは、2周目の照射時に形成される欠陥Dが、1周目の照射時に形成された欠陥Dと重ならない(1周目の照射時に形成された隣り合う二つの欠陥Dの間に位置する)ように、調整されていることが好ましい。一例として図9(b)に示されるように、レーザ光Lの最後のパルス照射(即ち2周目の照射)によって形成された欠陥Dmは、レーザ光Lの第4のパルス照射(即ち1周目の照射)によって形成された欠陥D4または第5のパルス照射(即ち1周目の照射)によって形成された欠陥D5とは重ならずに、隣り合う二つの欠陥D4と欠陥D5との間に形成される。同様に、2周目の照射によって形成された欠陥Dm-1は、1周目の照射によって形成された、欠陥D3と欠陥D4との間に形成され、2周目の照射によって形成された欠陥Dm-2は、1周目の照射によって形成された、欠陥D2と欠陥D3との間に形成され、2周目の照射によって形成された欠陥Dm-3は、1周目の照射によって形成された、欠陥D1と欠陥D2との間に形成される。そして、欠陥Dm-4と欠陥D1との間隔は、欠陥Dm-4と欠陥Dm-3との間隔、及び、欠陥Dm-5と欠陥Dm-4との間隔よりも小さくなっている。つまり、図9(b)において、欠陥D1~欠陥Dmは、円C2に沿って反時計回りにこの順番でほぼ一定の間隔で形成されるが、欠陥Dm-4から欠陥D5までの(反時計回りの)領域では、欠陥D5から欠陥Dm-4までの(反時計回りの)領域よりも、隣り合う二つの欠陥Dの間隔が短くなっている。欠陥Dm-4から欠陥D5までの(反時計回りの)領域において隣り合う二つの欠陥Dの間隔はいずれも、欠陥D5から欠陥Dm-4までの(反時計回りの)領域において隣り合う二つの欠陥Dの間隔の70%以下であることが好ましい。短い間隔で欠陥Dが連続する領域は、後述する第2分離工程(S40)において、内側分離線L2に沿って亀裂が形成されるきっかけとなりやすいためである。また欠陥Dm-4から欠陥D5までの(反時計回りの)領域の長さ(欠陥Dm―4から欠陥D5までの、隣り合う二つの欠陥Dの間隔の総和)は、円C2の円周の長さの12.5%以下であることが好ましい。なお、12.5%を超えると、生産性が悪化する場合があることに加えて、チッピングが増加する場合がある。この原因は必ずしも明確ではないが、円C2の周上において、隣り合う二つの欠陥Dの間隔が短い領域の割合が広くなりすぎると、後述する第2分離工程(S40)において、その領域が先に外側部分23(図11参照)から外れ、外側部分23に対して斜めになりやすく、外側部分23から抜ける際にエッジがひっかかってチッピングが起こると推測している。上記の観点からは、10%以下がより好ましく、5%以下はさらに好ましく、1%以下が最も好ましい。なお、下限値は0.01%であり、0.01%未満の場合、後述する本発明の効果が得られない場合がある。また、内側分離線形成工程(S30)で形成された欠陥D1と欠陥D2とによって区画される間隔(第2の間隔)は、外側分離線形成工程(S10)で形成された欠陥D1と欠陥D2とによって区画される間隔(図4(b)参照。第1の間隔)と同じでもよいが、第1の間隔よりも小さい方が好ましい。また、第2の間隔は第1の間隔の10~80%であることがより好ましい。80%を超える場合、分離する円の半径が小さいほど円の内外の温度差を確保しにくいため、強力なヒータが必要になるなどのコストが増大する可能性がある。また、10%より小さい場合、極めて高い周波数のパルスレーザが必要となり、コストが増大する可能性がある。
【0045】
なお、1周目の最後の照射による欠陥Dから2周目の最後の照射による欠陥Dまでの領域(例えば、図9(b)に示される欠陥Dm-4から欠陥Dmまでの反時計回りの領域)は、本発明の第3の領域であり、欠陥Dが等間隔で連続する領域(例えば、図9(b)に示される欠陥D5から欠陥Dm-4までの反時計回りの領域)は、本発明の第4の領域である。また、欠陥D4と欠陥D5の間隔は、本発明の第2の間隔の一例である。欠陥D4と欠陥Dmとの間隔、及び、欠陥Dmと欠陥D5との間隔は、本発明の第2の間隔より短い間隔の一例である。レーザ光Lの1周目の照射時に形成される欠陥D1、D2、D3、…、Dm-6、Dm-5、Dm-4は、本発明の第1の欠陥の一例であり、レーザ光Lの2周目の照射時に形成される欠陥Dm-3、Dm-2、Dm-1、Dmは本発明の第2の欠陥の一例である。なお、図9(b)に示される欠陥D1~D6は、本発明の第3の欠陥の一例であり、欠陥Dmは本発明の第4の欠陥の一例であり、欠陥D1と欠陥D2の間隔は本発明の第2の所定間隔の一例である。
【0046】
次に、第2分離工程(S40)では、内側分離線L2を形成した円形ガラス素板22から、内側分離線L2よりも内側の部分を抜き出すために、円形ガラス素板22の加熱を行う。円形ガラス素板22を加熱する際は、例えば図10に示されるように、内側分離線L2よりも外側にヒータ40を配置し、円形ガラス素板22の内側分離線L2よりも外側の外側部分23を加熱する。なお、内側分離線L2よりも内側にはヒータを配置しない方が好ましい。この場合、空間を介した熱伝導により、あるいは円形ガラス素板22を介した熱伝導により、内側分離線L2よりも内側の内側部分24も間接的に加熱されるが、円形ガラス素板22の外側部分23は、内側部分24よりも高温で加熱されているといえる。このため、円形ガラス素板22の外側部分23の熱膨張量を、内側部分24の熱膨張量よりも大きくすることができる。この結果、図11に示されるように、円形ガラス素板22の外側部分23は、内側分離線L2の外側方向に向かって熱膨張する。具体的には、外側部分23の内周の径(内径)が内側部分24の外周の径(外径)に比べて大きくなるように、外側部分23が内側部分24に対して相対的に熱膨張する。これにより、円形ガラス素板22の外側部分23と内側部分24との界面に隙間が形成され、外側部分23と内側部分24とを分離することができる。つまり、円形ガラス素板22から、内側部分24を抜き出すことにより、図1に示されるような、中央部分がくり抜かれた円環状のガラス基板1を製造することができる。円形ガラス素板22の外側部分23の内周端面は、円環状のガラス基板1の内周端面13に対応する。なお、第2分離工程(S40)においても、外側部分23と内側部分24との界面に隙間が形成された状態とは、外側部分23と内側部分24との間のいずれの位置においても計測可能な空間が形成されている状態だけではなく、計測可能な空間が得られなくても外側部分23と内側部分24の対向する面どうしが物理的又は化学的に結合していない状態も含む。換言すれば、上記界面に隙間が形成された状態には、外側部分23と内側部分24との界面に亀裂が形成されて両者が接触している状態も含まれる。
【0047】
なお、磁気ディスク用ガラス基板を製造する場合、図示は省略するが、第2分離工程(S40)の後には、さらに、面取面形成工程、端面研磨工程、主表面研削工程、主表面研磨工程等を含む後処理が行われる。各工程の前後に適宜洗浄工程を追加してもよい。なお、これらの処理のうち主表面研磨工程以外は適宜省略してもよい。
【0048】
面取面形成工程では、円環状のガラス基板1の内周端面13及び/又は外周端面12に対して、例えば総型砥石を用いて面取面が形成される。
【0049】
端面研磨工程では、円環状のガラス基板1の内周端面13及び/又は外周端面12に対して、例えばブラシ研磨により鏡面仕上げを行う。このとき、酸化セリウムや酸化ジルコニウム等の微粒子を遊離砥粒として含む研磨液が用いられる。端面研磨を行うことにより、サーマルアスペリティの発生などを防止することができる。
【0050】
主表面研削工程では、遊星歯車機構を備えた両面研削装置を用いて、円環状のガラス基板1の主表面11a,11bに対して研削加工を行う。研削による取り代は、例えば数μm~数百μm程度である。両面研削装置は、上定盤及び下定盤を有しており、上定盤及び下定盤の間に円環状のガラス基板1が挟持される。そして、円環状のガラス基板1と各定盤とを相対的に移動させることにより、円環状のガラス基板1の主表面11a,11bを研削する。定盤としては、例えば、その表面にダイヤモンド等の砥粒が樹脂で固定された固定砥粒を含む研削パッドが貼り付けられているものを使用できる。
【0051】
そして、主表面研磨工程では、主表面研削工程で研削された主表面11a,11bに対して、研磨が行われる。研磨による取り代は、例えば、0.1μm~100μm程度である。主表面研磨は、固定砥粒による研削により主表面11a,11bに残留したキズ、歪みの除去、うねりや微小うねりの調整、鏡面化、低粗さ化、などを目的とする。主表面研磨には、例えば、酸化セリウム、ジルコニア、シリカ等を遊離砥粒として含む研磨液を用いることができる。なお、主表面研磨工程は2回以上に分けて実施してもよい。例えば、酸化セリウム又はジルコニアを含む研磨液による粗研磨第1の主表面研磨と、シリカを含む研磨液による第2の主表面研磨と、に分けて実施することができる。
【0052】
次に、以上説明した製造工程に従って製造された円環状のガラス基板1の外周端面12及び内周端面13の様子について、図12(a)、(b)を参照しつつ説明する。なお、図12(a)は、外周端面12のうち図4(b)に示されている部分に対応しており、図12(b)は内周端面13のうち図9(b)に示されている部分に対応している。
【0053】
図12(a)に示されるように、円環状のガラス基板1の外周端面12には、それぞれガラス基板1の厚み方向に延びる複数の溝Gが形成されている。各溝は、外側分離線形成工程(S10)で形成された欠陥Dの一部又はその痕跡が、第1分離工程(S20)によって外周端面12に残ることにより形成されたものである。なお、本発明において、溝には、ガラス基板1の厚み方向に途切れることなく延びるものだけでなく、ガラス基板1の厚み方向の途中で途切れているものも含まれる。円周方向の溝の幅は、例えば2~10μmである。図12(a)において、溝G1~溝Gnはそれぞれ、図4(b)に示される欠陥D1~欠陥Dnに対応している。そして、外周端面12は、溝G5から溝Gn-4までの、溝Gが昇順に第1の間隔S1を隔てて形成されている第1の領域と、溝Gn-4から溝G5までの、隣り合う二つの溝Gが第1の間隔S1よりも短い間隔を隔てて形成されている第2の領域とを有する。外周端面12において、第2の領域の周方向の長さは、例えば外周端面12の周方向の長さの12.5%以下である。また、図12(a)において、第2の領域において隣り合う二つの溝Gの間隔はいずれも、第1の領域において隣り合う二つの溝Gの間隔の70%以下である。
【0054】
図12(b)に示されるように、円環状のガラス基板1の内周端面13にも、外周端面12と同様に、それぞれガラス基板1の厚み方向に延びる複数の溝Gが形成されている。各溝は、内側分離線形成工程(S30)で形成された欠陥Dの一部又はその痕跡が、第2分離工程(S40)によって内周端面13に残ることにより形成されたものである。円周方向の溝の幅は、例えば2~10μmである。図12(b)において、溝G1~溝Gmはそれぞれ、図9(b)に示される欠陥D1~欠陥Dmに対応している。そして、内周端面13は、溝G5から溝Gm-4までの、溝Gが昇順に第2の間隔S2を隔てて形成されている第3の領域と、溝Gm-4から溝G5までの、隣り合う二つの溝Gが第2の間隔S2よりも短い間隔を隔てて形成されている第4の領域とを有する。なお、第2の間隔S2は外周端面12における第1の間隔S1よりも短く、第1の間隔S1の例えば、10~80%である。
【0055】
上述した本発明の態様に従う製造方法によれば、外側分離線形成工程(S10)において、レーザ光Lの照射は、円C1に沿って1周を超えるまで、即ち、レーザ光Lが最初に照射された円C1上の位置を超えるまで、一定の周期で断続的に行われる。この結果、複数の欠陥D1~欠陥Dnは、円C1に沿って反時計回りにこの順番でほぼ一定の間隔で形成される。このとき、円C1上には、隣り合う二つの欠陥Dがほぼ一定の間隔を隔てて周期的に並ぶ領域(例えば、図4(b)の欠陥D5から欠陥Dn-4までの反時計回りの領域)と、隣り合う二つの欠陥Dが前記一定の間隔より短い間隔を隔てて並ぶ領域(例えば、図4(b)の欠陥Dn-4から欠陥D5までの反時計回りの領域)とが形成される。このため、仮に、ガラス素板20に、製造工程における熱履歴の相違等に起因する局所的な歪みが生じていたとしても、第1分離工程(S20)において外側部分21を内側部分22よりも高温で加熱する際、短い間隔で隣り合う二つの欠陥D(例えば、図4(b)の欠陥D4と欠陥Dn)は、他の等間隔で並ぶ二つの欠陥D(例えば、図4(b)の欠陥D5と欠陥D6)よりも亀裂でつながりやすい。換言すると、短い間隔で隣り合う二つの欠陥Dの間には、他の等間隔で並ぶ二つの欠陥Dの間よりも、亀裂や隙間が形成されやすい。ガラスは脆性材料であるため、ひとたび亀裂が生じると、容易に伝搬していく性質がある。このため、短い間隔で隣り合う二つの欠陥Dの間に形成された亀裂や隙間を起点として、常に安定して亀裂や隙間が円C1の円周に沿って延びていくことにより、外側部分21と内側部分22との間に、円C1の全周にわたって確実に亀裂や隙間を形成することができる。従って、ガラス素板20の外側部分21と内側部分22とを確実に分離することができる。
【0056】
さらに、内側分離線形成工程(S30)においても、外側分離線工程(S10)と同様に、レーザ光Lの照射は、円C2に沿って1周を超えるまで、即ち、レーザ光Lが最初に照射された円C2上の位置を超えるまで、一定の周期で断続的に行われる。この結果、複数の欠陥D1~欠陥Dmは、円C2に沿って反時計回りにこの順番でほぼ一定の間隔で形成される。このとき、円C2上には、隣り合う二つの欠陥Dがほぼ一定の間隔を隔てて周期的に並ぶ領域(例えば、図9(b)の欠陥D5から欠陥Dm-4までの反時計回りの領域)と、隣り合う二つの欠陥Dが前記一定の間隔より短い間隔を隔てて並ぶ領域(例えば、図9(b)の欠陥Dm-4から欠陥D5までの反時計回りの領域)とが形成される。このため、仮に、円形ガラス素板22に、製造工程における熱履歴の相違等に起因する局所的な歪みが生じていたとしても、第2分離工程(S40)において円形ガラス素板22の外側部分23を内側部分24よりも高温で加熱する際、短い間隔で隣り合う二つの欠陥D(例えば、図9(b)の欠陥D4と欠陥Dm)は、他の等間隔で並ぶ二つの欠陥D(例えば、図9(b)の欠陥D5と欠陥D6)よりも亀裂でつながりやすい。換言すると、短い間隔で隣り合う二つの欠陥Dの間には、他の等間隔で並ぶ二つの欠陥Dの間よりも、亀裂や隙間が形成されやすい。このため、短い間隔で隣り合う二つの欠陥Dの間に形成された亀裂や隙間を起点として、常に安定して亀裂や隙間が円C2の円周に沿って延びていくことにより、円形ガラス素板22の外側部分23と内側部分24との間に、円C2の全周にわたって確実に亀裂や隙間を形成することができる。従って、円形ガラス素板22の外側部分23と内側部分24とを確実に分離することができる。
【0057】
つまり、本発明の態様に従う製造方法によれば、上記の各工程を経ることにより、ガラス素板20から円環状のガラス基板1を確実に分離することができる。
【0058】
また、本発明の態様に従う製造方法によれば、外側分離線形成工程(S10)において、レーザ光Lの照射は、レーザ光Lのパルス照射の周期及びレーザ光Lとガラス素板20の相対速度を変えることなく、円C1に沿って1周を超えるまで行われる。つまり、レーザ光Lのパルス照射の周期の設定や相対速度の設定を変える必要がない。このため、隣り合う二つの欠陥Dがほぼ一定の間隔を隔てて周期的に並ぶ領域と、隣り合う二つの欠陥Dが前記一定の間隔より短い間隔を隔てて並ぶ領域とを、簡便な方法で形成することができる。
【0059】
さらに、内側分離線形成工程(S30)においても、レーザ光Lの照射は、レーザ光Lのパルス照射の周期及びレーザ光Lとガラス素板20の相対速度を変えることなく、円C2に沿って1周を超えるまで行われる。つまり、レーザ光Lのパルス照射の周期の設定や相対速度の設定を変える必要がない。このため、隣り合う二つの欠陥Dがほぼ一定の間隔を隔てて周期的に並ぶ領域と、隣り合う二つの欠陥Dが前記一定の間隔より短い間隔を隔てて並ぶ領域とを、簡便な方法で形成することができる。
【0060】
また、本発明の態様に従う製造方法によれば、リリースラインを用いることなく、ガラス素板から所望の円盤状ガラス基板を抜き出す(即ち、くり抜く)ことができる。リリースラインとは、母材となるガラス板から所望の閉形状のガラス部分を取り出しやすくするために、分離線の外側の領域を分割可能なように設けられる分離線とは別の分断線であり、例えば、上記分離線と同様に複数の欠陥を含むように形成される。これにより、分離線の外側を加熱して分離線の内外で隙間を形成する必要がなくなるが、いくつかデメリットもある。本発明の態様に従う製造方法ではリリースラインを用いないため、余計なガラス屑の発生を防止でき、分離後の残部(不要部分)の取り扱いが容易である。また、ガラス素板から所望の円盤状ガラス基板をくり抜くことは、難易度が非常に高い。その理由としては、ガラスは一般的に加熱されにくい上に線膨張係数が小さいこと、円形のマンホールが落下しないのと同様に分離線の内外でひっかかりやすいことなどが挙げられる。本発明の態様に従う製造方法によれば、簡便な方法で、より確実に、ガラス素板から所望の円盤状ガラス基板をくり抜くことができる。
【0061】
(実施例)
本実施形態の外側分離線形成工程(S10)を、下記表1に示されるように条件を変えながら実施した。そして、外側分離線L1が形成されたガラス板に対して、本実施形態の第1分離工程(S20)を同じ条件で行い、不良発生率を検証した。なお、ガラス素板20としては、オーバーフローダウンドロー法により製造されたガラス板を分割して得た、縦横110×110mm、板厚0.7mmの正方形のガラス板材を用いた。そして、ガラス素板20に、直径98mmの外側分離線L1を形成した。レーザ光Lの照射は、レーザ光Lのパルス照射の周期及びレーザ光Lとガラス素板20の相対速度を変えることなく、欠陥Dが所定間隔を隔てて連続して形成されるように実施した。そして、分離失敗とチッピングの合計発生率を、不良発生率(%)とした。不良発生率(%)は、それぞれの条件について1000回以上第1分離工程(S20)を行い算出した。下記表1において、「所定間隔」は、連続した2つのパルス照射で形成された隣り合う二つの欠陥Dの間隔を意味する。また、「最初の欠陥と2周目の最初の欠陥との間隔」は、例えば図4(b)に示される欠陥D1と欠陥Dn-3との間隔のように、1周目の最初の照射により形成された欠陥Dと、2周目の最初の照射により形成された欠陥Dとの間隔を意味する。また、「不良発生率(ランク)」では、比較例1の不良発生率を基準(「C」と表記)として比をとり、不良発生率が比較例1の95%以上100%未満である場合を「B」と表記し、不良発生率が比較例1の95%未満である場合を「A」と表記している。つまり、不良発生率が低く最も良好なのが「A」であり、次に良好なのが「B」である。
【0062】
【表1】
【0063】
上記表1に示される結果から、最初の欠陥と2周目の最初の欠陥との間隔が所定間隔の70%以下である場合(実施例2~4)、70%を超えている場合(実施例1)と比べて、不良発生率が低く、良好であることが分る。また、円周長に対する第2の領域の割合が12.5%以下である場合(実施例5~8)、12.5%を超えている場合(実施例9)と比べて、不良発生率が低く、良好であることが分る。なお、第1分離工程(S20)により分離された円形ガラス素板(直径98mm、板厚0.7mm)の外周端面をレーザ顕微鏡で観察したところ、厚み方向に延びる複数の溝が存在し、それぞれの実施例において、第1の領域と第2の領域とが形成されていた。各溝の幅は3μmであった。
【0064】
続いて、上記表1の実施例4の条件でさらに製造して得られた円形ガラス素板の良品に対して、本実施形態の内側分離線形成工程(S30)を、下記表2に示されるように条件を変えながら実施した。そして、内側分離線L2が形成された円形ガラス素板に対して、本実施形態の第2分離工程(S40)を同じ条件で行い、不良発生率を検証した。内側分離線形成工程(S30)では、直径98mmの円形ガラス素板に、直径24mmの内側分離線L2を形成した。レーザ光Lの照射は、レーザ光Lのパルス照射の周期及びレーザ光Lと円形ガラス素板の相対速度を変えることなく、欠陥Dが所定間隔を隔てて連続して形成されるように実施した。そして、分離失敗とチッピングの合計発生率を、不良発生率(%)とした。不良発生率(%)は、それぞれの条件について1000回以上第2分離工程(S40)を行い算出した。下記表2において、「所定間隔」及び「最初の欠陥と2周目の最初の欠陥との間隔」の意味は、上記表1と同様である。また、「不良発生率(ランク)」では、比較例2の不良発生率を基準(「C」と表記)として比をとり、不良発生率が比較例2の95%未満である場合を「A」と表記している。
【0065】
【表2】
【0066】
上記表2に示されるように、実施例10及び実施例11の不良発生率はいずれもランク「A」であった。但し、細かく比較したところ、所定間隔が、外側分離線形成工程(S10)における所定間隔(10μm)よりも小さい実施例11の方が、僅かに良好であった。なお、第2分離工程(S40)により分離された円環状ガラス基板(外径98mm、内径24mm、板厚0.7mm)の内周端面をレーザ顕微鏡で観察したところ、厚み方向に延びる複数の溝が存在し、それぞれの実施例において、第3の領域と第4の領域とが形成されていた。各溝の幅は3μmであった。
【0067】
さらに、上記表2の実施例10及び11の条件でさらに製造して得られた円環状ガラス基板の良品に対して、本実施形態の面取面形成工程、端面研磨工程、主表面研削工程、主表面研磨工程、及び洗浄工程を順次行うことにより、外径97mm、内径25mm、板厚0.5mmの、磁気ディスク用ガラス基板を得た。
【0068】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。以下、上記実施形態の変形例について説明する。
【0069】
上記実施形態では、外側分離線形成工程(S10)及び内側分離線形成工程(S30)において、レーザ光Lの照射は、円C1及び円C2に沿って1周を超えるまで、一定の周期で断続的に行ったが、これには限られない。例えば、ステージTの移動や回転の速度を変えながら、レーザ光Lを円C1及び円C2に沿って一定の周期で1周だけ照射してもよい。この場合、ステージTの速度が低速であれば、隣り合う二つの欠陥Dの間隔は狭くなるが、ステージTの速度が高速であれば、隣り合う二つの欠陥Dの間隔は広くなる。そこで、外側分離線形成工程(S10)において、ステージTの速度を高速にすることで、隣り合う二つの欠陥が第1の間隔を隔てて周期的に形成される第1の領域を形成し、ステージTの速度を低速にすることで、隣り合う二つの欠陥が第1の間隔より短い間隔を隔てて周期的に形成される第2の領域を形成してもよい。同様に、内側分離線形成工程(S30)において、ステージTの速度を高速にすることで、隣り合う二つの欠陥が第2の間隔を隔てて周期的に形成される第3の領域を形成し、ステージTの速度を低速にすることで、隣り合う二つの欠陥が第2の間隔より短い間隔を隔てて周期的に形成される第4の領域を形成してもよい。この場合、第1の間隔より短い間隔は、第1の間隔の70%以下であることが好ましい。こうすることで、第1の間隔より十分短い間隔で欠陥Dが連続するため、その後の分離工程(S20)において亀裂が形成されるきっかけとなり、分離の失敗やチッピングが減りやすい。また、第2の間隔より短い間隔は、上記と同じ理由により、第2の間隔の70%以下であることが好ましい。また、上記実施形態と同様の理由から、第2の領域は、円C1の周上で一箇所であることが好ましく、第4の領域は、円C2の周上で一箇所であることが好ましい。また第2の領域の長さは、円C1の円周の長さの12.5%以下であることが好ましく、第4の領域の長さは、円C2の円周の長さの12.5%以下であることが好ましい。
【0070】
あるいは、ステージTの移動や回転の速度を一定に保ちつつ、レーザ光Lを円C1及び円C2に沿って照射周期を変えながら1周だけ照射してもよい。この場合、レーザ光Lの照射周期が短ければ、隣り合う二つの欠陥Dの間隔は狭くなるが、レーザ光Lの照射周期が長ければ、隣り合う二つの欠陥Dの間隔は広くなる。そこで、外側分離線形成工程(S10)において、レーザ光Lの照射周期を長くすることで、隣り合う二つの欠陥が第1の間隔を隔てて周期的に形成される第1の領域を形成し、レーザ光Lの照射周期を短くすることで、隣り合う二つの欠陥が第1の間隔より短い間隔を隔てて周期的に形成される第2の領域を形成してもよい。同様に、内側分離線形成工程(S30)において、レーザ光Lの照射周期を長くすることで、隣り合う二つの欠陥が第2の間隔を隔てて周期的に形成される第3の領域を形成し、レーザ光Lの照射周期を短くすることで、隣り合う二つの欠陥が第2の間隔より短い間隔を隔てて周期的に形成される第4の領域を形成してもよい。この場合、第1の間隔より短い間隔は、上記と同様の理由で第1の間隔の70%以下であることが好ましい。また、第2の間隔より短い間隔は、上記と同様の理由で第2の間隔の70%以下であることが好ましい。また、上記実施形態と同様の理由から、第2の領域は、円C1の周上で一箇所であることが好ましく、第4の領域は、円C2の周上で一箇所であることが好ましい。また第2の領域の長さは、円C1の円周の長さの12.5%以下であることが好ましく、第4の領域の長さは、円C2の円周の長さの12.5%以下であることが好ましい。
【0071】
上記実施形態では、第1分離工程(S20)の後に、内側分離線形成工程(S30)を行ったが、これには限られない。例えば、外側分離線形成工程(S10)を行った後、第1分離工程(S20)を行う前に、内側分離線形成工程(S30)を行ってもよく、外側分離線形成工程(S10)を行う前に内側分離線形成工程(S30)を行ってもよい。また、外側分離線形成工程(S10)と内側分離線形成工程(S30)とを同時に行うことにより、外側分離線L1と内側分離線L2とを同時に形成してもよい。この場合、レーザ光Lは、円C1及び円C2に沿って同時に照射される。
【0072】
上記実施形態では、外側分離線形成工程(S10)及び内側分離線形成工程(S30)において、レーザ光Lの照射を、レーザ光Lの照射位置を固定し、ステージTを一定速度で移動又は回転させることによりステージT上のガラス素板を移動又は回転させながら行ったが、これには限られない。例えば、レーザ光源及び光学系30に設けたマイクロミラーデバイスなどの光学系を駆動させて、光束を周期的に偏向させることにより、ステージTに固定されたガラス素板に対して、レーザ光Lを移動させながら照射してもよい。
【0073】
上記実施形態では、外側分離線形成工程(S10)及び内側分離線形成工程(S30)において、複数の欠陥Dを、円C1及び円C2に沿って反時計回りに形成したが、円C1及び円C2に沿って時計回りに形成してもよい。
【0074】
上記実施形態では、第1分離工程(S20)及び第2分離工程(S40)において、分離線よりも外側にヒータ40を配置し、分離線よりも内側にはヒータ40を配置しなかったが、これには限られない。分離が可能な程度に分離線よりも外側の部分を内側の部分よりも高温で加熱することができれば、分離線よりも内側にヒータを配置し、内側の部分を加熱してもよい。
【0075】
上記実施形態では、ガラス基板は磁気ディスク用ガラス基板を例に挙げて説明したが、これに限らず任意の用途の円環状のガラス基板に適用することができ、例えば、半導体用基板のような、内周円(円孔)のない円盤状のガラス基板にも適用できる。この場合、円盤状ガラス基板の製造方法は、ガラス素板の表面に所定の円に沿ってレーザ光を照射することにより、前記ガラス素板に、前記所定の円に沿って複数の欠陥を含む分離線を形成することと、前記分離線が形成されたガラス素板の、前記分離線の外側の部分を、前記分離線の内側の部分よりも高温で加熱することにより、前記外側の部分と前記内側の部分とを分離することと、を含み、前記分離線は、隣り合う二つの欠陥が第1の間隔を隔てて周期的に形成される第1の領域と、隣り合う二つの欠陥が前記第1の間隔より短い間隔を隔てて形成される第2の領域とを含む。
【符号の説明】
【0076】
1 ガラス基板
11a,11b 主表面
12 外周端面
13 内周端面
20 ガラス素板
21 外側部分
22 内側部分(円形ガラス素板)
23 外側部分
24 内側部分
30 レーザ光源及び光学系
40 ヒータ
L レーザ光
D1~Dn 欠陥
G1~Gn 溝
C1,C2 円
L1 外側分離線
L2 内側分離線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12