(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057081
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】液体クロマトグラフのpH管理システムおよびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 30/86 20060101AFI20240416BHJP
G01N 30/34 20060101ALI20240416BHJP
G01N 30/26 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
G01N30/86 V
G01N30/34 E
G01N30/26 E
G01N30/86 D
G01N30/86 R
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024031427
(22)【出願日】2024-03-01
(62)【分割の表示】P 2020204099の分割
【原出願日】2020-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】大橋 浩志
(72)【発明者】
【氏名】寺田 英敏
(72)【発明者】
【氏名】尾坂 裕輔
(57)【要約】
【課題】本発明は、液体クロマトグラフに流れる移動相のpHを適正に管理することを課題とする。
【解決手段】液体クロマトグラフのpH管理システムは、液体クロマトグラフ1の移動相のpH値を測定するpHメータ40と、pHメータ40で測定されたpH値を、液体クロマトグラフ1における分析結果に関連付けて保存するpH保存部75とを備える。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体クロマトグラフの移動相のpH値を測定するpHメータと、
前記pHメータで測定されたpH値を、前記液体クロマトグラフにおける分析結果に関連付けて保存するpH保存部と、
を備える、液体クロマトグラフのpH管理システム。
【請求項2】
前記pHメータにおいて測定されたpH値の平均値を算出する平均値算出部をさらに備え、
前記pH保存部は、前記平均値算出部で算出された前記pH値の平均値を前記液体クロマトグラフにおける分析結果に関連付けて保存する、請求項1に記載の液体クロマトグラフのpH管理システム。
【請求項3】
前記液体クロマトグラフは、
水系溶媒を供給する第1流路と、
有機溶媒を供給する第2流路と、
前記第1流路を介して供給される前記水系溶媒と前記第2流路を介して供給される前記有機溶媒を混合する混合部と、
を備え、
前記pHメータは、前記第1流路を流れる前記水系溶媒のpH値を測定する、請求項1または2に記載の液体クロマトグラフのpH管理システム。
【請求項4】
分析メソッドデータを記憶する記憶部、
をさらに備え、
前記分析メソッドデータには、前記pHメータにおいてpH値を測定するための分析メソッドが含まれる、請求項1~3のいずれか一項に記載の液体クロマトグラフのpH管理システム。
【請求項5】
コンピュータに、
pHメータで測定された液体クロマトグラフの移動相のpH値を入力する処理、
入力されたpH値を、前記液体クロマトグラフにおける分析結果に関連付けて保存する処理、
を実行させる、液体クロマトグラフのpH管理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフを流れる溶媒のpHを管理するシステムおよびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
試料に含まれる物質を分析する装置として液体クロマトグラフが知られている。液体クロマトグラフは、ポンプユニット、オートサンプラユニット、カラムオーブンユニットおよびシステムコントローラなどを備える。下記特許文献1に記載された液体クロマトグラフにおいて、水系溶媒および有機溶媒が混合された溶媒が移動相として分析流路に供給される。分析流路において移動相に試料が加えられる。移動相とともに分離カラムに導入された試料は、分離カラムにおいて成分分離される。分離カラムにおいて成分分離された試料は検出器により検出される。検出器による検出結果に基づいて、クロマトグラムが作成される。
【0003】
コンピュータにおいて、液体クロマトグラフに設定される分析メソッドが作成される。クロマトグラムのピークの分離度を良くするために、分析対象の試料に応じて分析メソッドのパラメータを適正化するメソッドスカウティングが行われる。分析メソッドのパラメータとして、例えば、試料の注入量、分離カラムの種類、カラムオーブンの温度、検出器における検出波長または移動相のpH値などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
移動相のpH値が異なると、クロマトグラムのピークの分離度が大きく異なる場合がある。メソッドスカウティングにより移動相のpH値を適正化した場合であっても、溶媒の調製方法、環境などにより、移動相のpHが想定した値と異なる場合がある。
【0006】
本発明の目的は、液体クロマトグラフに流れる移動相のpHを適正に管理することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面に従う液体クロマトグラフのpH管理システムは、液体クロマトグラフの移動相のpH値を測定するpHメータと、pHメータにおいて測定されたpH値と、設定されているpH値とを比較し、pHメータにおいて測定されたpH値が、設定されているpH値とは異なる場合、又は、設定されているpH値から所定の誤差率を超えて外れると判定される場合に警告を提示する警告部とを備える。
【0008】
本発明の他の局面に従う液体クロマトグラフのpH管理システムは、液体クロマトグラフの移動相のpH値を測定するpHメータと、pHメータで測定されたpH値を、液体クロマトグラフにおける分析結果に関連付けて保存するpH保存部とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、液体クロマトグラフに流れる移動相のpHを適正に管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施の形態に係る分析システムの全体図である。
【
図2】第1の実施の形態に係る液体クロマトグラフの構成図である。
【
図3】分析メソッドにおいて設定されたpHグラジエントの一例を示す図である。
【
図4】本実施の形態の分析コンピュータの構成図である。
【
図6】pH管理プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【
図7】第2の実施の形態に係る液体クロマトグラフの構成図である。
【
図8】pH管理プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【
図9】pHの違いによるクロマトグラムを示す図である。
【
図10】pHの違いによるクロマトグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態に係る液体クロマトグラフのpH管理システムおよびプログラムについて説明する。
【0012】
[1]第1の実施の形態
(1)分析システムの構成
まず、本発明に係る液体クロマトグラフのpH管理システムおよびプログラムの第1の実施の形態について説明する。第1の実施の形態においては、pH管理システムおよびプログラムは、分析処理中の移動相のpH値を取得し、pH値の異常を判定する。
図1は、実施の形態に係る分析システムの全体図である。分析システムは、液体クロマトグラフ1、通信ネットワーク5および分析コンピュータ6を備える。液体クロマトグラフ1および分析コンピュータ6は、通信ネットワーク5に接続され、互いに通信可能である。
【0013】
分析コンピュータ6は、液体クロマトグラフ1に設定される分析メソッドの作成処理を実行する。分析コンピュータ6において作成された分析メソッドは、通信ネットワーク5を介して、液体クロマトグラフ1が備えるシステムコントローラに与えられる。液体クロマトグラフ1は、システムコントローラの制御により、分析処理を実行する。液体クロマトグラフ1における分析結果は、通信ネットワーク5を介して分析コンピュータ6に与えられる。分析コンピュータ6は、液体クロマトグラフ1による分析結果の解析、表示処理などを実行する。
【0014】
(2)液体クロマトグラフの構成
図2は、本発明の第1の実施の形態に係る液体クロマトグラフ1の構成を示す図である。
図1に示すように、本実施の形態においては、液体クロマトグラフ1は、第1水系溶媒供給部10、第2水系溶媒供給部20、混合部41、試料供給部42、カラムオーブン43、検出器45およびpHメータ40を備える。カラムオーブン43には、分離カラム44が収容される。
【0015】
第1水系溶媒供給部10は、溶媒ボトル11および送液ポンプ12を含む。溶媒ボトル11は、水系溶媒を貯留する。送液ポンプ12は、溶媒ボトル11に貯留された水系溶媒を流路31に圧送する。第2水系溶媒供給部20は、溶媒ボトル21および送液ポンプ22を含む。溶媒ボトル21は、水系溶媒を貯留する。送液ポンプ22は、溶媒ボトル21に貯留された水系溶媒を流路32に圧送する。溶媒ボトル11および溶媒ボトル21には、本実施の形態においては、異なるpHの水系溶媒が貯留される。
【0016】
流路31および流路32の下流には、混合部41が接続される。混合部41には、流路31および流路32を流れる水系溶媒が流入する。混合部41は、本実施の形態においてはグラジエントミキサである。混合部41は、送液ポンプ12により圧送された水系溶媒と送液ポンプ22により圧送された水系溶媒とを任意の割合で混合することにより種々の溶媒(移動相)を生成する。上述したように、本実施の形態においては、溶媒ボトル11および溶媒ボトル21には異なるpHの水系溶媒が貯留される。したがって、混合部41において、2つの水系溶媒の混合率を変化させることで、液体クロマトグラフ1は、pHグラジエントを実行する。
【0017】
試料供給部42は、例えばオートサンプラである。試料供給部42は、混合部41の下流において、移動相が流れる分析流路に、分析対象の試料を注入する。
【0018】
カラムオーブン43は、試料供給部42の下流に配置される。カラムオーブン43は、分離カラム44を収容する。カラムオーブン43により、分離カラム44は、分析メソッドにおいて設定された温度に維持される。分離カラム44には、移動相とともに試料が供給される。分離カラム44において、試料に含まれる物質が分離される。
【0019】
検出器45は、カラムオーブン43の下流に配置される。検出器45は、分離カラム44において成分分離された試料を検出する。検出器45としては、例えば、紫外可視分光光度計、ダイオードアレイ検出器、示差屈折率検出器などが用いられる。
【0020】
pHメータ40は、検出器45の下流に配置される。pHメータ40は、検出器45から排出された移動相のpH値を測定する。上述したように、本実施の形態においては、液体クロマトグラフ1は、pHグラジエントを実行する。したがって、pHメータ40において測定されるpH値は、混合部41における2つの水系溶媒の混合比率に応じて変化する。pHメータ40を検出器45の下流に配置することで、pHグラジエントの設定に基づいて混合された水系溶媒のpH値を取得することができる。また、分離カラム44の上流の流路に比べて、溶媒圧力の小さい検出器45の下流の流路にpHメータ40が配置される。これにより、pHメータ40に大きな圧力が掛かることを回避し、pHメータ40を保護することができる。
【0021】
図3は、分析メソッドデータAMに設定されたpHグラジエントの一例を示す図である。
図3において、横軸は時間であり、縦軸は移動相のpH値を示す。
図3に示すように、このpHグラジエントにおいて、移動相のpH値が4から7に上昇するように設定される。さらに、移動相のpH値が7を維持した後、再びpH値が4に下降するように設定される。
【0022】
(3)分析コンピュータの構成
次に、本実施の形態に係る分析コンピュータ6の構成および機能について説明する。
図4は、本実施の形態に係る分析コンピュータ6の構成図である。分析コンピュータ6は、
図4に示すように、CPU(Central Processing Unit)61、RAM(Random Access Memory)62、ROM(Read Only Memory)63、記憶部64、通信インタフェース(I/F)65、デバイスインタフェース(I/F)66、ディスプレイ67および操作部68を備える。分析コンピュータ6として、例えばパーソナルコンピュータが用いられる。
【0023】
CPU61は、分析コンピュータ6の全体制御を行う。RAM62は、CPU61がプログラムを実行するときにワークエリアとして使用される。ROM63には、制御プログラムなどが記憶される。ディスプレイ67は、分析結果などの情報を表示する。操作部68は、ユーザによる入力操作を受け付ける。操作部68は、キーボードおよびマウスなどを含む。
【0024】
記憶部64は、ハードディスクなどの記憶装置である。記憶部64には、pH管理プログラムP1、分析メソッドデータAMおよび分析データARが記憶される。pH管理プログラムP1は、液体クロマトグラフ1に流れる移動相のpH値を管理するプログラムである。
【0025】
通信インタフェース65は、他のコンピュータとの間で有線または無線による通信を行うインタフェースである。通信インタフェース65は、
図1で示したように、通信ネットワーク5に接続される。分析コンピュータ6は、通信インタフェース65を介して、液体クロマトグラフ1とデータの送受信を行う。デバイスインタフェース66は、CD、DVD、半導体メモリなどの記憶媒体69にアクセスするインタフェースである。
【0026】
図5は、分析コンピュータ6の機能構成を示すブロック図である。
図5において、制御部70は、CPU61がRAM62をワークエリアとして使用しつつ、pH管理プログラムP1を実行することにより実現される機能部である。制御部70は、pH入力部71、pH判定部72、警告部73、平均値算出部74およびpH保存部75を備える。つまり、pH入力部71、pH判定部72、警告部73、平均値算出部74およびpH保存部75は、pH管理プログラムP1の実行により実現される機能部である。
【0027】
pH入力部71は、pHメータ40において測定された移動相のpH値を入力する。pH入力部71は、通信ネットワーク5を介して、液体クロマトグラフ1からpH値を取得する。pH判定部72は、pH入力部71が入力したpH値と、分析メソッドデータAMに設定されているpH値とを比較する。pH判定部72は、pHメータ40において測定されたpH値が、分析メソッドデータAMにおいて設定されたpH値と異なる場合、又は、所定の誤差率を超えて外れると判定される場合に、pH値が異常であると判定する。警告部73は、pH判定部72において、pH値が異常であると判定されたとき、ディスプレイ67にpH値の警告表示を行う。平均値算出部74およびpH保存部75については、第2の実施の形態において説明する。
【0028】
(4)pH管理方法
次に、本実施の形態に係るpH管理方法について説明する。
図6は、本実施の形態に係るpH管理方法を示すフローチャートである。まず、ステップS11において、pH入力部71が、pHメータ40において測定されたpH値を入力する。例えば、pH入力部71は、タイマーで時間を計測し、所定時間間隔でステップS11を実行する。
【0029】
次に、ステップS12において、pH判定部72が、pH入力部71により入力されたpH値が、分析メソッドデータに設定されているpH値と異なるか否か、又は、所定の誤差率を超えて外れているか否かを判定する。具体的には、pH判定部72は、分析メソッドデータAMを参照し、分析メソッドデータAMにおいて設定されているpH値を取得する。本実施の形態においては、液体クロマトグラフ1はpHグラジエントを実行しているので、pH判定部72は、分析メソッドデータAMにおいて設定されているpH値の範囲を取得する。そして、pH判定部72は、pH入力部71により入力されたpH値が、分析メソッドデータAMにおいて設定されているpH値の範囲に誤差率を加算した範囲内にあるか否かを判定する。入力されたpH値が、pH値の範囲に誤差率を加算した範囲を超えて外れている場合に、pH判定部72は、pH値が異常であると判定する。
【0030】
例えば、分析メソッドデータAMにおいて、
図3に示すpHグラジエントが設定されている場合、pH判定部72は、pH値の範囲として下限値4~上限値7を取得する。そして、pH判定部72は、pH入力部71により入力されたpH値が、下限値4~上限値7に誤差率を加算した範囲にあるか否かを判定する。例えば、誤差率がα(%)に設定されている場合、入力されたpH値が、4(1-α/100)~7(1+α/100)の範囲にあるか否かを判定する。誤差率は、適宜ユーザにより設定可能とすればよい。誤差率αを小さい値とすることにより、pH値を厳しく管理することができる。誤差率αとして「0」を設定してもよい。
【0031】
ステップS12において、入力されたpH値が、設定されているpH値と異なる、又は、所定の誤差率を超えて外れていると判定された場合、ステップS13において、警告部73が、ディスプレイ67に警告表示を行う。例えば、警告部73は、液体クロマトグラフ1において移動相のpH値が異常である旨のメッセージをディスプレイ67に表示させる。警告部73は、分析メソッドで設定されているpH値の値と、測定されたpH値の値とを比較表示させてもよい。また、警告部73は、液体クロマトグラフ1における分析処理を停止するか否かを選択する選択画面をディスプレイ67に表示させてもよい。ユーザは、操作部68を操作して、分析処理を停止するか否かの指示を入力する。警告部73は、分析処理の停止指示を受け付けた場合には、この指示を液体クロマトグラフ1のシステムコントローラに送信することができる。この指示に応答して、システムコントローラは、液体クロマトグラフ1における分析処理を停止させることができる。
【0032】
上記の実施の形態においては、液体クロマトグラフ1においてpHグラジエントが実行されるため、測定されたpH値と、pHグラジエントの上限値および下限値に誤差率を加算した範囲とを比較した。分析メソッドとして一定のpH値が設定されている場合には、測定されたpH値と、設定されたpH値の上下に誤差率を加算した範囲とを比較すればよい。
【0033】
このように、第1の実施の形態の液体クロマトグラフのpH管理システムおよびプログラムによれば、移動相のpH値が異常値を示す場合に、ユーザに警告を与えることができる。これにより、ユーザは、液体クロマトグラフ1に流れる移動相のpH値を適正に管理することができる。これにより、メソッドスカウティングにより適正化された分析条件に従った分離度の高いクロマトグラムを得ることができる。
【0034】
図9および
図10は、同一の試料であっても、移動相のpH値の違いにより分析結果が大きく異なる様子を示す図である。
図9は、以下のA,Bの溶媒を利用して得られたクロマトグラムである。
A:10mmol/L クエン酸ナトリウム(pH3.1)
B:メタノール
図10は、以下のA,Bの溶媒を利用して得られたクロマトグラムである。
A:10mmol/L 酢酸アンモニウム(pH4.7)
B:メタノールおよびアセトニトリル(50:50)
図9および
図10ともに、溶媒供給の開始から5分後にBの濃度を90%に設定し、5分後から7分後にかけて、Bの濃度を90%から70%に減少させるグラジエントを実行した。
図10では、検出処理の開始から2分後付近にピークが集中しており、分離度がよくないことが分かる。これに対して、
図9では、ピークの分離度が良いことが分かる。
【0035】
また、例えば、液体クロマトグラフ1の装置内に強酸性または強アルカリ性の移動相が流れることを回避することができる。特に、分離カラム44内に強酸性または強アルカリ性の移動相が流れることを回避することで、分離カラム44を保護することができる。例えば、水系溶媒の調製時にはユーザによって正しくpH値が調整されていた場合であっても、溶媒の調製時から分析処理までに時間が経過した場合など、環境によってpH値が変化する場合がある。このような場合であっても、移動相のpH値を適正に管理することができる。
【0036】
[2]第2の実施の形態
(1)液体クロマトグラフの構成
次に本発明に係る液体クロマトグラフのpH管理システムおよびプログラムの第2の実施の形態について説明する。なお、第2の実施の形態における分析コンピュータ6の構成および機能は、
図4および
図5を参照して説明した第1の実施の形態と同様である。また、分析システムの全体構成も
図1で示した構成と同様である。第2の実施の形態においては、pH管理システムおよびプログラムは、分析処理が実行されたときの移動相のpH値を保存する。
【0037】
図7は、本発明の第2の実施の形態に係る液体クロマトグラフ1の構成を示す図である。
図7に示すように、本実施の形態においては、液体クロマトグラフ1は、水系溶媒供給部100、有機溶媒供給部200、流路切替バルブ30、pHメータ40、混合部41、試料供給部42、カラムオーブン43および検出器45を備える。
【0038】
水系溶媒供給部100は、複数(本例では4個)の溶媒ボトル111~114、流路切替バルブ115および送液ポンプ120を含む。溶媒ボトル111~114は、それぞれ異なる種類の水系溶媒を貯留する。流路切替バルブ115は、流路切替バルブ115と溶媒ボトル111~114との間の流路を切り替えることにより、1または複数の溶媒ボトルを溶媒ボトル111~114から選択する。送液ポンプ120は、流路切替バルブ115により選択された1または複数の溶媒ボトルに貯留された水系溶媒を流路31に圧送する。
【0039】
有機溶媒供給部200は、複数(本例では4個)の溶媒ボトル211~214、流路切替バルブ215および送液ポンプ220を含む。溶媒ボトル211~214は、それぞれ異なる種類の有機溶媒を貯留する。流路切替バルブ215は、流路切替バルブ215と溶媒ボトル211~214との間の流路を切り替えることにより、1または複数の溶媒ボトルを溶媒ボトル211~214から選択する。送液ポンプ220は、流路切替バルブ215により選択された1または複数の溶媒ボトルに貯留された有機溶媒を流路32に圧送する。
【0040】
混合部41、試料供給部42、カラムオーブン43、分離カラム44および検出器45の構成は第1の実施の形態と同様である。混合部41は、送液ポンプ120により圧送される水系溶媒と、送液ポンプ220により圧送される有機溶媒とを任意の割合で混合する。
【0041】
第1の実施の形態と異なり、pHメータ40は流路31から分岐した流路33に設けられる。流路33は、流路31に設けられた流路切替バルブ30に接続されている。第2の実施の形態において、移動相のpH値を測定するモードにおいては、流路切替バルブ30が、送液ポンプ120により圧送される水系溶媒が流路33に流れるように切り替えられる。一方、分析処理を実行するモードにおいては、流路切替バルブ30が、送液ポンプ120により圧送される水系溶媒が混合部41に流れるように切り替えられる。
【0042】
第2の実施の形態においては、一方の溶媒供給部は、有機溶媒供給部200であるので、流路31から分岐させた流路33において、移動相のpH値を得ることが可能である。つまり、混合部41において有機溶媒と混合される前の段階において、水系溶媒のpH値を得ることができる。なお、流路33の流路径を流路31,32の流路径より大きくすることができる。これにより、流路33に配置されるpHメータ40に大きな圧力が掛かることを回避し、pHメータ40を保護することができる。
【0043】
(2)pH管理方法
次に、本実施の形態に係るpH管理方法について説明する。
図8は、本実施の形態に係るpH管理方法を示すフローチャートである。まず、ステップS21において、pH入力部71が、pHメータ40において測定されたpH値を入力し、入力したpH値を記憶部64に記憶する。
【0044】
次に、ステップS22において、pH入力部71は、所定の測定時間が経過したか否かを判定する。所定の測定時間がまだ経過していない場合には、ステップS21に戻り、pH入力部71は、pHメータ40において新たに測定されたpH値を入力し、入力したpH値を記憶部64に記憶する。pH入力部71は、所定の測定時間が経過するまでステップS21の処理を繰り返す。これにより、記憶部64には、所定の測定時間内のpH値が蓄積される。
【0045】
ステップS22において、所定の測定時間が経過したと判定された場合には、ステップS23において、平均値算出部74が、記憶部64に記憶されている所定の測定時間内の複数のpH値を取得し、平均値を算出する。
【0046】
次に、ステップS24において、pH保存部75は、算出したpH値の平均値を分析結果と関連付けて記憶部64に保存する。例えば、ある分析メソッドに関する分析処理を実行するとき、分析処理の開始後の所定時間をpH測定モードとする。pH測定モードにおいては、流路切替バルブ30を制御することにより、流路切替バルブ30に流入する水系溶媒は、全て流路33に送液される。これにより、pHメータ40において移動相のpH値が測定され、
図8のフローが実行される。例えば、分析処理の開始後の1~2分間をpH測定モードとすることができる。pH値の平均値が算出され、pH測定モードが完了すると、分析モードに移行する。分析モードにおいては、流路切替バルブ30を制御することにより、流路切替バルブ30に流入する水系溶媒は、全て混合部41に送液される。これにより、分析処理が実行される。pH保存部75は、pH測定モードにおいて算出されたpH値の平均値を、直後に実行される分析モードで得られた分析結果に関連付けて、分析データARとして記憶部64に保存することができる。
【0047】
あるいは、pH測定モードとして1つの分析メソッドを作成してもよい。この場合、分析メソッドデータAMには、分析パラメータが同一の2つの分析メソッドが作成される。2つの分析メソッドの一方は、pH測定モードとして実行され、他方は分析モードとして実行される。そして、この2つの分析メソッドをペアとして管理することにより、pH測定モードで得られたpH値の平均値を、分析モードで得られた分析結果に関連付けて、分析データARとして保存することができる。
【0048】
このように、第2の実施の形態の液体クロマトグラフのpH管理システムおよびプログラムによれば、分析処理が実行されたときの移動相のpH値を、分析結果に関連付けて保存することができる。これにより、液体クロマトグラフ1に流れる移動相のpH値を適正に管理することができる。
【0049】
メソッドスカウティングでは、ユーザが移動相の種類、カラムの種類などを設定した後、移動相の構成比を設定する。ユーザは、移動相の構成比を様々に変更させて分析メソッドを複数作成する。つまり、移動相のpH値が異なる複数の分析メソッドが作成される。液体クロマトグラフ1は、これら移動相のpH値が異なる複数の分析メソッドに従い分析処理を実行する。このように移動相のpH値が異なる一連の分析処理を行った場合であっても、本実施の形態のpH管理システムおよびプログラムによれば、ユーザは、一連の分析処理の結果と、分析処理時の実際の移動相のpH値とを参照することができる。これにより、ユーザは、pH値の違いによる分析結果を比較、検討することができる。
【0050】
[3]請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応の例について説明するが、本発明は下記の例に限定されない。上記の実施の形態では、流路31が第1流路の例であり、流路32が第2流路の例である。また、上記の実施の形態において、分析コンピュータ6がコンピュータの例である。
【0051】
請求項の各構成要素として、請求項に記載されている構成または機能を有する種々の要素を用いることもできる。
【0052】
[4]他の実施の形態
上記第1の実施の形態においては、pHメータ40は、検出器45の下流に配置された。変形例として、pHメータ40を、検出器45の上流に配置することができる。例えば、pHメータ40を混合部41とカラムオーブン43との間の流路に配置してもよいし、カラムオーブン43と検出器45との間の流路に配置してもよい。ただし、pHメータ40をカラムオーブン43より上流に配置する場合には、流路を流れる溶媒の圧力が高くなるため、pHメータ40として圧力耐性の強い装置が使用されることが望ましい。
【0053】
上記第1の実施の形態においては、
図2で示す液体クロマトグラフ1において、検出器45の下流に設けられたpHメータ40により、移動相のpH値を取得し、pH値が異常と判定されたときにはユーザに警報を通知した。他の実施の形態として、
図7で示す第2の実施の形態に係る液体クロマトグラフ1において、流路33に設けられたpHメータ40により移動相のpH値を取得し、pH値が異常と判定されたときにユーザに警報を通知するようにしてもよい。
【0054】
上記第2の実施の形態においては、
図7で示す液体クロマトグラフ1において、流路33に設けられたpHメータ40により、分析処理が実行されたときの移動相のpH値を保存した。他の実施の形態として、
図2で示す第1の実施の形態に係る液体クロマトグラフ1において、検出器45の下流に設けられたpHメータ40により、分析処理が実行されたときの移動相のpH値を保存してもよい。
【0055】
上記実施の形態においては、pH管理プログラムP1は、記憶部64に保存されている場合を例に説明した。他の実施の形態として、pH管理プログラムP1は、記憶媒体69に保存されて提供されてもよい。分析コンピュータ6のCPU61は、デバイスインタフェース66を介して記憶媒体69にアクセスし、記憶媒体69に保存されたpH管理プログラムP1を、記憶部64またはROM63に保存するようにしてもよい。あるいは、CPU61は、デバイスインタフェース66を介して記憶媒体69にアクセスし、記憶媒体69に保存されたpH管理プログラムP1を実行するようにしてもよい。
【0056】
上記第1の実施の形態においては、pHメータ40において測定されたpH値と、分析メソッドデータAMにおいて設定されたpH値とを比較することで、警告部73が、警告を行う場合を例に説明した。他の実施の形態として、pHメータ40において測定されたpH値と、分離カラム毎に設定されたpH値とを比較するようにしてもよい。例えば、複数の分離カラムに関して、それぞれの識別情報と使用可能な移動相のpH値の範囲とを対応付けた情報が記憶部64に記憶される。警告部73は、pHメータ40において測定されたpH値が、分離カラムに対して使用可能な移動相のpH値を超えている場合に警告を行うことができる。
【0057】
上記第2の実施の形態においては、pH測定モードで得られたpH値の平均値を、分析モードで得られた分析結果に関連付けて保存した。他の実施の形態として、pH測定モードで得られたpH値の中間値、最大値または最小値を分析モードで得られた分析結果に関連付けて保存してもよい。あるいは、所定時間内に測定されたpH値の全値またはpH値のグラフを分析結果と関連付けて保存してもよい。
【0058】
[5]態様
上述した複数の例示的な実施の形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0059】
(第1項)
本発明の一態様に係る液体クロマトグラフのpH管理システムは、
液体クロマトグラフの移動相のpH値を測定するpHメータと、
前記pHメータにおいて測定されたpH値と、設定されているpH値とを比較し、前記pHメータにおいて測定されたpH値が、前記設定されているpH値とは異なる場合、又は、前記設定されているpH値から所定の誤差率を超えて外れると判定される場合に警告を提示する警告部と、を備える。
【0060】
液体クロマトグラフに流れる移動相のpHを適正に管理することができる。
【0061】
(第2項)
第1項に記載の液体クロマトグラフのpH管理システムにおいて、
前記設定されているpH値は、液体クロマトグラフの分析メソッドデータにおいて設定されていてもよい。
【0062】
分析メソッドデータにおいて設定されたpH値に基づいて、移動相のpHを適正に管理することができる。
【0063】
(第3項)
第2項に記載の液体クロマトグラフのpH管理システムは、
前記分析メソッドデータはpHグラジエントの設定を含み、
前記警告部は、前記pHメータにおいて測定されたpH値が、前記pHグラジエントのpH範囲の上限値および下限値から所定の誤差率を超えて外れると判定される場合に警告を提示してもよい。
【0064】
pHグラジエントの実行時において、移動相のpHを適正に管理することができる。
【0065】
(第4項)
第1項~第3項のいずれか一項に記載の液体クロマトグラフのpH管理システムにおいて、
前記pHメータが、前記液体クロマトグラフが備える検出器の下流に設けられてもよい。
【0066】
検出器の下流においては溶媒の圧力が低くなるため、pHメータに大きな圧力が掛かることを防止できる。
【0067】
(第5項)
本発明の他の一態様に係る液体クロマトグラフのpH管理システムは、
液体クロマトグラフの移動相のpH値を測定するpHメータと、
前記pHメータで測定されたpH値を、前記液体クロマトグラフにおける分析結果に関連付けて保存するpH保存部と、を備える。
【0068】
液体クロマトグラフに流れる移動相のpHを適正に管理することができる。
【0069】
(第6項)
第5項に記載の液体クロマトグラフのpH管理システムは、
前記pHメータにおいて測定されたpH値の平均値を算出する平均値算出部をさらに備え、
前記pH保存部は、前記平均値算出部で算出された前記pH値の平均値を前記液体クロマトグラフにおける分析結果に関連付けて保存してもよい。
【0070】
pHメータで測定されたpH値の平均値により、液体クロマトグラフに流れる移動相のpHを適正に管理することができる。
【0071】
(第7項)
第5項または第6項に記載の液体クロマトグラフのpH管理システムは、
前記液体クロマトグラフは、
水系溶媒を供給する第1流路と、
有機溶媒を供給する第2流路と、
前記第1流路を介して供給される前記水系溶媒と前記第2流路を介して供給される前記有機溶媒を混合する混合部と、を備え、
前記pHメータは、前記第1流路を流れる前記水系溶媒のpH値を測定してもよい。
【0072】
有機溶媒と混合する前の水系溶媒のpH値を取得可能である。これにより、分析結果に影響を与えるpH値を保存可能である。
【0073】
(第8項)
第5項~第7項のいずれか一項に記載の液体クロマトグラフのpH管理システムは、
分析メソッドデータを記憶する記憶部、をさらに備え、
前記分析メソッドデータには、前記pHメータにおいてpH値を測定するための分析メソッドが含まれてもよい。
【0074】
pH測定に専用の分析メソッドを作成することにより、分析処理に影響を与えることなく、pH値を取得可能である。
【0075】
(第9項)
本発明の他の一態様に係る液体クロマトグラフのpH管理プログラムは、
コンピュータに、
pHメータで測定された液体クロマトグラフの移動相のpH値を入力する処理、
前記pHメータにおいて測定されたpH値が、設定されたpH値と異なる、又は、前記設定されたpH値から所定の誤差率を超えて外れるか否かを判定する処理、
測定されたpH値が前記設定されたpH値とは異なる、又は、前記設定されたpH値から所定の誤差率を超えて外れると判定される場合に警告を提示する処理、を実行させる。
【0076】
(第10項)
本発明の他の一態様に係る液体クロマトグラフのpH管理プログラムは、
コンピュータに、
pHメータで測定された液体クロマトグラフの移動相のpH値を入力する処理、
入力されたpH値を、前記液体クロマトグラフにおける分析結果に関連付けて保存する処理、を実行させる。
【符号の説明】
【0077】
1…液体クロマトグラフ、6…分析コンピュータ、10…第1水系溶媒供給部、20…第2水系溶媒供給部、30…流路切換バルブ、31,32,33…流路、100…水系溶媒供給部、200…有機溶媒供給部、40…pHメータ、41…混合部、42…試料供給部、43…カラムオーブン、44…分離カラム、45…検出器、61…CPU、62…RAM、63…ROM、64…記憶部、67…ディスプレイ、68…操作部、71…pH入力部、72…pH判定部、73…警告部、74…平均値算出部、P1…pH管理プログラム、AM…分析メソッドデータ、AR…分析データ