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特開2024-5712自己組織化単分子膜除去液、並びにそれを用いた基板処理方法及び基板処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005712
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】自己組織化単分子膜除去液、並びにそれを用いた基板処理方法及び基板処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20240110BHJP
   C11D 7/36 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
H01L21/304 647A
H01L21/304 643A
H01L21/304 648K
C11D7/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106030
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100130580
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 靖
(72)【発明者】
【氏名】吉田 幸史
(72)【発明者】
【氏名】宮本 泰治
【テーマコード(参考)】
4H003
5F157
【Fターム(参考)】
4H003DA09
4H003DA12
4H003DA15
4H003DB01
4H003DC02
4H003EB04
4H003EB24
4H003ED28
4H003ED30
4H003FA04
5F157AA91
5F157BF48
5F157BF49
5F157BF52
5F157BF54
5F157BF59
5F157DB03
(57)【要約】
【課題】基板の表面に設けられた自己組織化単分子膜を選択的に除去することが可能な自己組織化単分子膜除去液、並びにそれを用いた基板処理方法及び基板処理装置を提供する。
【解決手段】本発明は、基板の表面に設けられた自己組織化単分子膜を選択的に除去するための自己組織化単分子膜除去液であって、前記自己組織化単分子膜除去液のハンセン溶解度パラメータが、中心値(δd、δp、δh)[MPa1/2]及び球半径R[MPa1/2]によりハンセン溶解度パラメータ空間上で規定される、前記自己組織化単分子膜の形成材料の第1ハンセン球1内にあり、かつ、中心値(δd、δp、δh)[MPa1/2]及び球半径R[MPa1/2]によりハンセン溶解度パラメータ空間上で規定される、前記自己組織化単分子膜の第2ハンセン球2内にある。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に設けられた自己組織化単分子膜を選択的に除去するための自己組織化単分子膜除去液であって、
前記自己組織化単分子膜除去液のハンセン溶解度パラメータが、
中心値(δd、δp、δh)[MPa1/2]及び球半径R[MPa1/2]によりハンセン溶解度パラメータ空間上で規定される、前記自己組織化単分子膜の形成材料の第1ハンセン球内にあり、
かつ、中心値(δd、δp、δh)[MPa1/2]及び球半径R[MPa1/2]によりハンセン溶解度パラメータ空間上で規定される、前記自己組織化単分子膜の第2ハンセン球内にある自己組織化単分子膜除去液。
【請求項2】
前記自己組織化単分子膜除去液のハンセン溶解度パラメータが、
前記第1ハンセン球と前記第2ハンセン球との交わりにより形成される円の中心に位置する値、又は前記第1ハンセン球と前記第2ハンセン球との接点に位置する値である請求項1に記載の自己組織化単分子膜除去液。
【請求項3】
前記自己組織化単分子膜の形成材料がオクタデシルホスホン酸であり
前記自己組織化単分子膜が前記オクタデシルホスホン酸の単分子膜からなり、
前記第1ハンセン球が、中心値(δd、δp、δh)=(16.9±0.2、5.4±0.5、11.7±0.3)[MPa1/2]、球半径R=3.7[MPa1/2]でハンセン溶解度パラメータ空間上に規定されるものであり、
前記第2ハンセン球が、中心値(δd、δp、δh)=(16.4±0.7、6.1±1.2、0.0±2.0)[MPa1/2]、球半径R=10.2[MPa1/2]でハンセン溶解度パラメータ空間上に規定されるものである請求項1に記載の自己組織化単分子膜除去液。
【請求項4】
前記自己組織化単分子膜除去液が、1-ブタノール、2-ブタノール、1-ペンタノール、テトラヒドロフラン及びベンジルアルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の有機溶媒である請求項1~3の何れか1項に記載の自己組織化単分子膜除去液。
【請求項5】
表面に自己組織化単分子膜が設けられた基板を処理する基板処理方法であって、
前記自己組織化単分子膜を前記基板から選択的に除去するための自己組織化単分子膜除去液を準備する準備工程と、
前記自己組織化単分子膜に自己組織化単分子膜除去液を接触させて、前記自己組織化単分子膜を前記基板から選択的に除去する除去工程と、
を含み、
前記準備工程は、
前記自己組織化単分子膜除去液のハンセン溶解度パラメータが、
中心値(δd、δp、δh)[MPa1/2]及び球半径R[MPa1/2]によりハンセン溶解度パラメータ空間上で規定される、前記自己組織化単分子膜の形成材料の第1ハンセン球内にあり、
かつ、中心値(δd、δp、δh)[MPa1/2]及び球半径R[MPa1/2]によりハンセン溶解度パラメータ空間上で規定される、前記自己組織化単分子膜の第2ハンセン球内にあるものを準備する工程である基板処理方法。
【請求項6】
前記準備工程は、
前記自己組織化単分子膜除去液のハンセン溶解度パラメータが、前記第1ハンセン球と前記第2ハンセン球との交わりにより形成される円の中心に位置する値、又は前記第1ハンセン球と前記第2ハンセン球との接点に位置する値となるように、前記自己組織化単分子膜除去液を調製する工程である請求項5に記載の基板処理方法。
【請求項7】
前記自己組織化単分子膜の形成材料がオクタデシルホスホン酸であり、
前記自己組織化単分子膜が前記オクタデシルホスホン酸の単分子膜からなり、
前記第1ハンセン球が、中心値(δd、δp、δh)=(16.9±0.2、5.4±0.5、11.7±0.3)[MPa1/2]、球半径R=3.7[MPa1/2]でハンセン溶解度パラメータ空間上に規定されるものであり、
前記第2ハンセン球が、中心値(δd、δp、δh)=(16.4±0.7、6.1±1.2、0.0±2.0)[MPa1/2]、球半径R=10.2[MPa1/2]でハンセン溶解度パラメータ空間上に規定されるものである請求項5に記載の基板処理方法。
【請求項8】
前記自己組織化単分子膜除去液が、1-ブタノール、2-ブタノール、1-ペンタノール、テトラヒドロフラン及びベンジルアルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の有機溶媒である請求項5~7の何れか1項に記載の基板処理方法。
【請求項9】
表面に自己組織化単分子膜が設けられた基板を処理する基板処理装置であって、
前記自己組織化単分子膜を選択的に除去するための自己組織化単分子膜除去液を貯留する貯留部と、
前記自己組織化単分子膜除去液を前記基板の表面に供給して、前記自己組織化単分子膜を前記基板の表面から選択的に除去する供給部と、
前記自己組織化単分子膜除去液の前記基板の表面への供給を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記貯留部に於いて、前記自己組織化単分子膜除去液として、前記自己組織化単分子膜除去液のハンセン溶解度パラメータが、中心値(δd、δp、δh)[MPa1/2]及び球半径R[MPa1/2]によりハンセン溶解度パラメータ空間上で規定される、前記自己組織化単分子膜の形成材料の第1ハンセン球内にあり、かつ、中心値(δd、δp、δh)[MPa1/2]及び球半径R[MPa1/2]によりハンセン溶解度パラメータ空間上で規定される、前記自己組織化単分子膜の第2ハンセン球内にあるものを調製する基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の表面に設けられた自己組織化単分子膜を選択的に除去することが可能な、自己組織化単分子膜除去液、並びにそれを用いた基板処理方法及び基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造に於いて、基板の特定の表面領域に選択的に膜を形成する技術として、フォトリソグラフィ技術が広く用いられている。例えば、下層配線形成後に絶縁膜を成膜し、フォトリソグラフィ及びエッチングにより、トレンチ及びビアホールを有するデュアルダマシン構造を形成し、トレンチ及びビアホールにCu等の導電膜を埋め込んで配線を形成する。
【0003】
しかし、近時、半導体デバイスの微細化が益々進んでおり、フォトリソグラフィ技術では位置合わせ精度が十分でない場合も生じている。このため、フォトリソグラフィ技術に替えて、基板表面の特定領域に高精度で選択的に膜を形成する手法が求められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、膜形成を望まない基板領域の表面に自己組織化単分子膜(Self-Assembled Monolayer:SAM)を形成し、SAMが形成されていない基板領域に選択的に膜形成をする成膜方法が開示されている。またこの特許文献1では、選択的な膜形成の後、酢酸を用いてSAMを除去することが開示されている。
【0005】
しかし特許文献1に開示の成膜方法では、酢酸によるSAMの選択的除去が十分ではないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第10,867,850号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は基板の表面に設けられた自己組織化単分子膜を選択的に除去することが可能な自己組織化単分子膜除去液、並びにそれを用いた基板処理方法及び基板処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の自己組織化単分子膜除去液は、前記の課題を解決するために、基板の表面に設けられた自己組織化単分子膜を選択的に除去するための自己組織化単分子膜除去液であって、前記自己組織化単分子膜除去液のハンセン溶解度パラメータが、中心値(δd、δp、δh)[MPa1/2]及び球半径R[MPa1/2]によりハンセン溶解度パラメータ空間上で規定される、前記自己組織化単分子膜の形成材料の第1ハンセン球内にあり、かつ、中心値(δd、δp、δh)[MPa1/2]及び球半径R[MPa1/2]によりハンセン溶解度パラメータ空間上で規定される、前記自己組織化単分子膜の第2ハンセン球内にあることを特徴とする。
【0009】
前記構成に於ける第1ハンセン球は、ハンセン溶解度パラメータ空間に於いて、自己組織化単分子膜の形成材料のハンセン溶解度パラメータにより規定されるものである。そして、自己組織化単分子膜除去液のハンセン溶解度パラメータは第1ハンセン球内にあるので、自己組織化単分子膜除去液は自己組織化単分子膜の構成分子に対する親和性が高く、溶解性が良好である。そのため、自己組織化単分子膜を良好に溶解させ、基板の表面から除去することができる。また前記構成に於ける第2ハンセン球は、ハンセン溶解度パラメータ空間に於いて、自己組織化単分子膜のハンセン溶解度パラメータにより規定されるものである。そして、自己組織化単分子膜除去液のハンセン溶解度パラメータは第2ハンセン球内にあるので、自己組織化単分子膜除去液は自己組織化単分子膜に対する親和性が高く、濡れ性が良好である。そのため、自己組織化単分子膜除去液は、自己組織化単分子膜に接触した際、良好に濡れて自己組織化単分子膜表面への拡張が図れるので、自己組織化単分子膜の溶解による除去をさらに促進させることができる。
【0010】
すなわち、前記構成の自己組織化単分子膜除去液であると、自己組織化単分子膜に対し良好な溶解性を有する上、濡れ性も良好であるため、例えば、溶解性のみが良好な従来の自己組織化単分子膜除去液と比べ、自己組織化単分子膜に対し優れた除去性能を発揮することができる。
【0011】
前記の構成に於いては、前記自己組織化単分子膜除去液のハンセン溶解度パラメータが、前記第1ハンセン球と前記第2ハンセン球との交わりにより形成される円の中心に位置する値、又は前記第1ハンセン球と前記第2ハンセン球との接点に位置する値であることが好ましい。これにより、自己組織化単分子膜に対する溶解性と濡れ性とのバランスに優れ、自己組織化単分子膜に対する除去性能が一層優れた自己組織化単分子膜除去液を提供することができる。
【0012】
また前記の構成に於いては、前記自己組織化単分子膜の形成材料がオクタデシルホスホン酸であり前記自己組織化単分子膜が前記オクタデシルホスホン酸の単分子膜からなり、前記第1ハンセン球が、中心値(δd、δp、δh)=(16.9±0.2、5.4±0.5、11.7±0.3)[MPa1/2]、球半径R=3.7[MPa1/2]でハンセン溶解度パラメータ空間上に規定されるものであり、前記第2ハンセン球が、中心値(δd、δp、δh)=(16.4±0.7、6.1±1.2、0.0±2.0)[MPa1/2]、球半径R=10.2[MPa1/2]でハンセン溶解度パラメータ空間上に規定されるものであってもよい。
【0013】
前記の構成であると、自己組織化単分子膜除去液のハンセン溶解度パラメータを、中心値(δd、δp、δh)=(16.9±0.2、5.4±0.5、11.7±0.3)[MPa1/2]、球半径R=3.7[MPa1/2]で規定される第1ハンセン球内とし、かつ、中心値(δd、δp、δh)=(16.4±0.7、6.1±1.2、0.0±2.0)[MPa1/2]、球半径R=10.2[MPa1/2]で規定される第2ハンセン球内とすることで、オクタデシルホスホン酸に対する自己組織化単分子膜除去液の親和性を高くし、溶解性を良好にするだけでなく、オクタデシルホスホン酸の単分子膜に対する自己組織化単分子膜除去液の親和性も高くし、濡れ性を良好にする。そのため、前記構成の自己組織化単分子膜除去液であると、例えば、オクタデシルホスホン酸の単分子膜に対して溶解性のみが良好な従来の自己組織化単分子膜除去液と比べ、優れた除去性能を発揮することができる。
【0014】
さらに前記の構成に於いては、前記自己組織化単分子膜除去液が、1-ブタノール、2-ブタノール、1-ペンタノール、テトラヒドロフラン及びベンジルアルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の有機溶媒であることが好ましい。
【0015】
本発明の基板処理方法は、前記の課題を解決するために、表面に自己組織化単分子膜が設けられた基板を処理する基板処理方法であって、前記自己組織化単分子膜を前記基板から選択的に除去するための自己組織化単分子膜除去液を準備する準備工程と、前記自己組織化単分子膜に自己組織化単分子膜除去液を接触させて、前記自己組織化単分子膜を前記基板から選択的に除去する除去工程と、を含み、前記準備工程は、前記自己組織化単分子膜除去液のハンセン溶解度パラメータが、中心値(δd、δp、δh)[MPa1/2]及び球半径R[MPa1/2]によりハンセン溶解度パラメータ空間上で規定される、前記自己組織化単分子膜の形成材料の第1ハンセン球内にあり、かつ、中心値(δd、δp、δh)[MPa1/2]及び球半径R[MPa1/2]によりハンセン溶解度パラメータ空間上で規定される、前記自己組織化単分子膜の第2ハンセン球内にあるものを準備する工程であることを特徴とする。
【0016】
前記の構成によれば、自己組織化単分子膜除去液の準備工程に於いて、ハンセン溶解度パラメータが第1ハンセン球内にあり、かつ、第2ハンセン球内にある自己組織化単分子膜除去液を調製する等して準備する。そして、第1ハンセン球は自己組織化単分子膜の形成材料のハンセン溶解度パラメータにより規定されるものであり、第2ハンセン球は自己組織化単分子膜のハンセン溶解度パラメータにより規定されるものである。そのため、自己組織化単分子膜除去液は、自己組織化単分子膜に対して良好な溶解性を示すだけでなく、濡れ性についても良好である。そのため、前記構成の処理方法であると、自己組織化単分子膜除去液が自己組織化単分子膜に接触した際、良好に濡れて自己組織化単分子膜表面への拡張が図れるので、例えば、溶解性のみが良好な自己組織化単分子膜除去液を用いた従来の処理方法と比べ、自己組織化単分子膜を良好に除去することができる。
【0017】
前記の構成に於いて、前記準備工程は、前記自己組織化単分子膜除去液のハンセン溶解度パラメータが、前記第1ハンセン球と前記第2ハンセン球との交わりにより形成される円の中心に位置する値、又は前記第1ハンセン球と前記第2ハンセン球との接点に位置する値となるように、前記自己組織化単分子膜除去液を調製する工程であることが好ましい。これにより、自己組織化単分子膜に対する溶解性と濡れ性とのバランスに優れた自己組織化単分子膜除去液を調製することができる。その結果、自己組織化単分子膜を一層良好に除去することができる。
【0018】
また前記の構成に於いては、前記自己組織化単分子膜の形成材料がオクタデシルホスホン酸であり、前記自己組織化単分子膜が前記オクタデシルホスホン酸の単分子膜からなり、前記第1ハンセン球が、中心値(δd、δp、δh)=(16.9±0.2、5.4±0.5、11.7±0.3)[MPa1/2]、球半径R=3.7[MPa1/2]でハンセン溶解度パラメータ空間上に規定されるものであり、前記第2ハンセン球が、中心値(δd、δp、δh)=(16.4±0.7、6.1±1.2、0.0±2.0)[MPa1/2]、球半径R=10.2[MPa1/2]でハンセン溶解度パラメータ空間上に規定されるものであってもよい。
【0019】
前記の構成によれば、自己組織化単分子膜除去液として、そのハンセン溶解度パラメータが、中心値(δd、δp、δh)=(16.9±0.2、5.4±0.5、11.7±0.3)[MPa1/2]、球半径R=3.7[MPa1/2]で規定される第1ハンセン球内にあり、かつ、中心値(δd、δp、δh)=(16.4±0.7、6.1±1.2、0.0±2.0)[MPa1/2]、球半径R=10.2[MPa1/2]で規定される第2ハンセン球内にあるものを用いる。これにより、オクタデシルホスホン酸の単分子膜に対し良好な溶解性を示すだけでなく、濡れ性についても良好であるため、溶解性のみが良好な従来の自己組織化単分子膜除去液を用いた基板処理方法と比べ、オクタデシルホスホン酸の単分子膜の選択的な除去を良好に行うことができる。
【0020】
さらに前記の構成に於いては、前記自己組織化単分子膜除去液が、1-ブタノール、2-ブタノール、1-ペンタノール、テトラヒドロフラン及びベンジルアルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の有機溶媒であることが好ましい。
【0021】
本発明の基板処理装置は、前記の課題を解決するために、表面に自己組織化単分子膜が設けられた基板を処理する基板処理装置であって、前記自己組織化単分子膜を選択的に除去するための自己組織化単分子膜除去液を貯留する貯留部と、前記自己組織化単分子膜除去液を前記基板の表面に供給して、前記自己組織化単分子膜を前記基板の表面から選択的に除去する供給部と、前記自己組織化単分子膜除去液の前記基板の表面への供給を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記貯留部に於いて、前記自己組織化単分子膜除去液として、前記自己組織化単分子膜除去液のハンセン溶解度パラメータが、中心値(δd、δp、δh)[MPa1/2]及び球半径R[MPa1/2]によりハンセン溶解度パラメータ空間上で規定される、前記自己組織化単分子膜の形成材料の第1ハンセン球内にあり、かつ、中心値(δd、δp、δh)[MPa1/2]及び球半径R[MPa1/2]によりハンセン溶解度パラメータ空間上で規定される、前記自己組織化単分子膜の第2ハンセン球内にあるものを調製することを特徴とする。
【0022】
前記の構成によれば、供給部は、制御部からの制御に応じて、貯留部に貯留されている自己組織化単分子膜除去液を基板の表面に供給する。そして、自己組織化単分子膜除去液が、基板の表面に設けられている自己組織化単分子膜に接触すると、自己組織化単分子膜を溶解させて除去する。ここで、制御部は、貯留部に貯留されている自己組織化単分子膜除去液について、そのハンセン溶解度パラメータが、前述の第1ハンセン球内であり、かつ、第2ハンセン球内であるように調製する。これにより、基板に供給される自己組織化単分子膜除去液は、自己組織化単分子膜に対して良好な溶解性を示すだけでなく、濡れ性についても良好なものとなる。その結果、前記の構成によれば、例えば、溶解性のみが良好な自己組織化単分子膜除去液を調製して供給する従来の基板処理装置と比べ、自己組織化単分子膜の良好な選択的除去を可能にする基板処理装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、保護膜としての自己組織化単分子膜を選択的かつ良好に除去することが可能な自己組織化単分子膜除去液、並びにそれを用いた基板処理方法及び基板処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施形態に係る自己組織化単分子膜除去液のハンセン溶解度パラメータを、ハンセン溶解度パラメータ空間上に表す説明図である。
図2】本発明の実施形態に係る基板処理方法の全体的な流れの一例を示すフローチャートである。
図3】本発明の実施形態に係る膜形成方法に於ける基板の状態変化の一例を示す模式図であって、同図(a)は自己組織化単分子膜の形成材料を基板表面に供給する様子を表し、同図(b)は基板表面の金属膜形成領域に自己組織化単分子膜が形成された様子を表し、同図(c)は基板表面の金属膜非形成領域に膜が形成された様子を表し、同図(d)は基板表面の金属膜形成領域の自己組織化単分子膜が除去された様子を表す。
図4】本発明の実施形態の基板処理装置に於ける供給装置の概略を表す説明図である。
図5】本発明の実施形態の基板処理装置に於ける除去装置の概略を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、基板の表面に設けられた自己組織化単分子膜(Self-Assembled Monolayer:SAM)を選択的に除去する自己組織化単分子膜除去液(以下、「除去液」という。)として、SAMに対する溶解性と濡れ性のバランスに優れたものを用いることにより、従来の除去液と比較して良好な除去性能を発揮することを見出してなされたものである。ここで、SAMの溶解性は、除去液とSAMの形成材料との親和性が大きいほど大きくなる。また、SAMに対する濡れ性は、除去液とSAMとの親和性が大きいほど大きくなる。そして本発明に於いては、SAMやSAMの形成材料に対する親和性を表す指標として、任意の温度に於けるハンセン溶解度パラメータ(Hansen solubility parameter:HSP)を用いている。
【0026】
HSPは、溶質が溶媒に対してどの程度溶解するのかを示す溶解性の指標であり、例えば、溶質の溶媒に対する溶解性の予測等に用いられる。HSPは、分子間の分散力に由来するエネルギー(δd)、分子間の双極子相互作用に由来するエネルギー(δp)、及び分子間の水素結合に由来するエネルギー(δh)から構成され、以下の式より定義することができる。
HSP値(δt)=(δd+δp+δh1/2
また、これらの3つのパラメータδd、δp及びδhは、δd軸、δp軸及びδh軸からなる3次元空間(ハンセン溶解度パラメータ空間)に於いて、座標とみなすことができる。ハンセン溶解度パラメータ空間に於いて、溶質の(δd、δp、δh)と、溶媒の(δd、δp、δh)との距離が近い程、相互に親和性が高く、溶質は溶媒に溶解しやすいことを示す。
【0027】
(自己組織化単分子膜除去液)
次に、本実施形態に係る除去液について、図1を参照しながら以下に説明する。図1は、本実施形態に係る除去液のHSPを、ハンセン溶解度パラメータ空間上に表す説明図である。
【0028】
本実施形態の除去液は、基板の表面に設けられたSAMの選択的な除去に用いられる。本実施形態の除去液は、図1に示すように、そのHSP((δd、δp、δh)[MPa1/2])が、ハンセン溶解度パラメータ空間上で規定される第1ハンセン球1内にあり、かつ、第2ハンセン球2内にある液体である。
【0029】
第1ハンセン球1は、SAMの形成材料のHSPにより、ハンセン溶解度パラメータ空間上で規定されるハンセン球を意味する。より具体的には、図1に示すように、中心値(δd、δp、δh)[MPa1/2]、及び球半径R[MPa1/2]によりハンセン溶解度パラメータ空間上で規定されるハンセン球である。また、第2ハンセン球2は、SAMのHSPにより、ハンセン溶解度パラメータ空間上で規定されるハンセン球を意味する。より具体的には、図1に示すように、中心値(δd、δp、δh)[MPa1/2]、及び球半径R[MPa1/2]によりハンセン溶解度パラメータ空間上で規定されるハンセン球である。尚、δd、δd及びδdは、分子間の分散力によるエネルギー (分散項)を表す。δp、δp及びδpは、分子間力の双極子相互作用によるエネルギー(極性項)を表す。δh、δh及びδhは、分子間の水素結合によるエネルギーを表す(水素結合項)。
【0030】
本実施形態の除去液のHSP((δd、δp、δh)[MPa1/2])は、ハンセン溶解度パラメータ空間に於いて第1ハンセン球1と第2ハンセン球2が重複する領域3内に位置する。従って、本実施形態の除去液は、SAMの形成材料及びSAMの双方に対し、良好な親和性を示す。そのため除去液は、SAMの形成材料に対して良好な溶解性を示すだけでなく、SAMに対しても良好な濡れ性を示す。これにより、本実施形態の除去液は、SAMに接触した際、従来の除去液と比べ、SAM表面を広がりやすい。その結果、例えば、SAMにのみ溶解性を示す従来の除去液と比べ、SAMの選択的な除去性能に優れる。
【0031】
ここで、本実施形態の除去液は、そのHSP、すなわち(δd、δp、δh)が、第1ハンセン球1と第2ハンセン球2との交わりにより形成される円4の中心Cに位置する溶媒であることが好ましい(図1参照)。そのような溶媒は、SAMの形成材料に対する溶解性と、SAMに対する濡れ性とのバランスに優れ、SAMに対し良好な選択的除去性能を示す。尚、除去液の(δd、δp、δh)は、第1ハンセン球1と第2ハンセン球2とが接する場合には、両者の接点に位置する値であることが好ましい。
【0032】
本実施形態の除去液は、そのHSPがハンセン溶解度パラメータ空間に於いて第1ハンセン球1と第2ハンセン球2との重複する領域3内にあるものであれば特に限定されない。除去液としては、具体的には、例えば、1-ブタノール、2-ブタノール、1-ペンタノール、テトラヒドロフラン(THF)及びベンジルアルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の有機溶媒が挙げられる。除去液は、SAMの種類に応じて、これらの有機溶媒を適宜選択し組み合わせて用いることができる。尚、本実施形態の除去液は、金属膜及び膜(詳細については後述する。)等が溶解性を示さないものであることが好ましい。あるいは、溶解性を示す場合でも、金属膜及び膜等が過度にエッチングされる等の成膜不良が発生しない程度であることが好ましい。
【0033】
例えば、SAMがオクタデシルホスホン酸の単分子膜からなるものである場合、オクタデシルホスホン酸のHSP(25℃)に関する第1ハンセン球1は、中心値(δd、δp、δh)=(16.9±0.2、5.4±0.5、11.7±0.3)[MPa1/2]、球半径R=3.7[MPa1/2]で規定される(δt=3.7MPa1/2)。また、オクタデシルホスホン酸の単分子膜のHSP(25℃)に関する第2ハンセン球2は、中心値(δd、δp、δh)=(16.4±0.7、6.1±1.2、0.0±2.0)[MPa1/2]、球半径R=10.2[MPa1/2]で規定される(δt=10.2MPa1/2)。従って、オクタデシルホスホン酸の単分子膜を選択的に除去するために最も適した除去液は、HSPが(δd、δp、δh)=(16.8、5.6、9.0)である溶媒といえる。そして、(δd、δp、δh)がそのような値となる除去液としては、例えば、THF、1-ブタノール及びベンジルアルコールからなる混合溶媒(体積比;THF:1-ブタノール:ベンジルアルコール=8:1:1)、THF、2-ブタノール及びベンジルアルコールからなる混合溶媒(体積比;THF:2-ブタノール:ベンジルアルコール=8:1:1)、並びにTHF、1-ペンタノール及びベンジルアルコールからなる混合溶媒(体積比;THF:1-ペンタノール:ベンジルアルコール=8:1:1)等が挙げられる。
【0034】
尚、例示した前述の有機溶媒のHSPは、以下の通りである。
【表1】
【0035】
(基板処理方法)
次に、本実施形態に係る基板処理方法について、図2及び図3を参照しながら以下に説明する。図2は、本発明の実施形態に係る基板処理方法の全体的な流れの一例を示すフローチャートである。図3(a)~図3(d)は本発明の実施形態に係る膜形成方法に於ける基板の状態変化の一例を示す模式図であって、同図(a)は自己組織化単分子膜の形成材料を基板表面に供給する様子を表し、同図(b)は基板表面の金属膜形成領域に自己組織化単分子膜が形成された様子を表し、同図(c)は基板表面の金属膜非形成領域に膜が形成された様子を表し、同図(d)は基板表面の金属膜形成領域の自己組織化単分子膜が除去された様子を表す。
【0036】
本実施形態の基板処理方法は、基板Wの表面に膜を形成する際に、基板表面の材質に応じて選択的に成膜するための技術を提供するものである。尚、本明細書に於いて「基板」とは、半導体基板、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板等の各種基板をいう。
【0037】
本実施形態の基板処理方法は、図2に示すように、基板Wの準備工程S101と、SAMを形成するための自己組織化単分子膜形成工程S102と、膜形成工程S103と、除去液を準備する準備工程S104と、SAMを除去する除去工程S105とを少なくとも含む。
【0038】
基板Wの準備工程S101で準備される基板Wは、図2及び図3(a)に示すように、金属膜11が露出して形成された金属膜形成領域と、絶縁膜12が露出して形成された金属膜非形成領域とを含む。基板Wとしては、より具体的には、例えば、任意の配線幅のトレンチが形成された絶縁膜12と、当該トレンチに埋め込まれた金属膜11とを有するものが挙げられる。尚、基板Wの準備工程は、例えば、基板搬入出機構により基板Wを収容する容器であるチャンバ(詳細については後述する。)の内部に基板Wを搬入することを含み得る。
【0039】
金属膜形成領域及び金属膜非形成領域は、図3(a)では1つずつ形成されているが、それぞれ複数形成されていてもよい。例えば、隣り合う帯状の金属膜形成領域の間に帯状の金属膜非形成領域が介在されるように配置されてもよく、隣り合う帯状の金属膜非形成領域の間に帯上の金属膜形成領域が介在されるように配置されてもよい。
【0040】
また本実施形態の基板Wは、その表面に金属膜形成領域及び金属膜非形成領域のみが設けられている場合に限定されるものではない。例えば、金属膜11及び絶縁膜12とは異なる材料からなる他の膜が、表面に露出して形成される領域が設けられていてもよい。この場合、当該領域が設けられる位置は特に限定されず、任意に設定することができる。
【0041】
金属膜11としては特に限定されず、例えば、銅(Cu)、タングステン(W)、ルテニウム(Ru)、ゲルマニウム(Ge)、ケイ素(Si)、窒化チタン(TiN)、コバルト(Co)、モリブデン(Mo)等からなるものが挙げられる。
【0042】
また絶縁膜12としては特に限定されず、例えば、酸化ケイ素(SiO)、酸化ハフニウム(HfO)、ジルコニア(ZrO)、窒化ケイ素(SiN)等からなるものが挙げられる。
【0043】
SAM形成工程S102で使用される処理液は、SAMを形成する材料(以下、「SAM形成材料」という。)と、溶媒とを少なくとも含む。SAM形成材料は溶媒に溶解していてもよく、分散していてもよい。
【0044】
SAM形成材料としては特に限定されず、例えば、モノホスホン酸、ジホスホン酸等のホスホン酸基を有するホスホン酸化合物が挙げられる。これらのホスホン酸化合物は単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0045】
モノホスホン酸としては特に限定されず、例えば、一般式R-P(=O)(OH)(式中、Rは炭素数1~18で表されるアルキル基;炭素数1~18の範囲内であって、フッ素原子を有するアルキル基;又はビニル基を表す。)で表されるホスホン酸化合物が挙げられる。尚、本明細書に於いて炭素数の範囲を表す場合、その範囲は当該範囲に含まれる全ての整数の炭素数を含むことを意味する。従って、例えば「炭素数1~3」のアルキル基とは、炭素数が1、2及び3の全てのアルキル基を意味する。
【0046】
炭素数1~18で表されるアルキル基は、直鎖状及び分岐状の何れでもよい。さらにアルキル基の炭素数は、10~18の範囲が好ましく、14~18の範囲がより好ましい。また、炭素数1~18の範囲内であって、フッ素原子を有するアルキル基は、直鎖状及び分岐状の何れでもよい。さらにフッ素原子を有するアルキル基の炭素数は、10~18の範囲が好ましく、14~18の範囲がより好ましい。
【0047】
さらに前記R-P(=O)(OH)で表されるモノホスホン酸としては、具体的には、例えば、以下の化学式(1)~(16)の何れかで表される化合物が挙げられる。
【0048】
【化1】
【0049】
またモノホスホン酸としては、前述の例示したものの他に以下の化学式(17)~(19)の何れかで表される化合物も用いることができる。
【0050】
【化2】
【0051】
ジホスホン酸としては、以下の化学式(20)及び(21)の何れかで表される化合物が挙げられる。
【0052】
【化3】
【0053】
例示したホスホン酸化合物のうち、緻密なSAM形成の観点からは、オクタデシルホスホン酸(Octadecylphosphonic acid)等が好ましい。
【0054】
処理液に於ける溶媒としては特に限定されず、例えば、アルコール溶媒、エーテル溶媒、グリコールエーテル溶媒、グリコールエステル溶媒等が挙げられる。アルコール溶媒としては特に限定されず、例えば、エタノール等が挙げられる。エーテル溶媒としては特に限定されず、例えば、テトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。グリコールエーテル溶媒としては特に限定されず、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)等が挙げられる。グリコールエステル溶媒としては特に限定されず、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)等が挙げられる。これらの溶媒は単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。また、これらの溶媒は、前述の例示したホスホン酸化合物と任意に組み合わせて用いることができる。例示した溶媒のうちホスホン酸化合物を溶解させることができるとの観点からは、アルコール溶媒が好ましく、エタノールが特に好ましい。
【0055】
SAM形成材料13の含有量は、処理液の全質量に対し、0.0004質量%~0.2質量%の範囲内が好ましく、0.004質量%~0.08質量%の範囲内がより好ましく、0.02質量%~0.06質量%の範囲内が特に好ましい。
【0056】
また処理液には、本発明の効果を阻害しない範囲で公知の添加剤を含有させてもよい。添加剤としては特に限定されず、例えば、安定剤、及び界面活性剤等が挙げられる。
【0057】
SAM形成工程S102は、図2図3(a)及び図3(b)に示すように、処理液を基板Wの表面に接触させ、金属膜11の表面に処理液中に含まれるSAM形成材料13を吸着させることにより、SAM14を形成する工程である。ここで、SAM14は基板Wの金属膜形成領域の金属膜11上にのみ選択的に形成され、金属膜非形成領域には形成されない。SAM14が金属膜11上にのみ形成されるのは、例えば、金属膜11がCu(銅)膜である場合、SAM形成材料13であるホスホン酸化合物のホスホン酸基と、Cu膜表面の-OH基とが以下の化学反応式で表されるように反応するためである。
【0058】
【化4】
【0059】
処理液を基板Wに接触させる方法としては特に限定されず、例えば、処理液を基板Wの表面に塗布する方法や処理液を基板Wの表面に噴霧する方法、基板Wを処理液中に浸漬させる方法等が挙げられる。
【0060】
処理液を基板Wの表面に塗布する方法としては、例えば、基板Wをその中央部を軸にして一定速度で回転させた状態で、処理液を基板Wの表面の中央部に供給することにより行う方法が挙げられる。これにより、基板Wの表面に供給された処理液は、基板Wが回転することにより生ずる遠心力によって、基板Wの表面中央付近から基板Wの周縁部に向かって流動し、基板Wの表面の全面に拡散される。その結果、基板Wの表面の全面が処理液で覆われて、当該処理液の液膜が形成される。
【0061】
SAM形成工程S102は、例えば、不活性ガスの雰囲気下で行うことができる。
【0062】
SAM形成工程S102に於いては、基板Wの表面に残存する処理液を除去する工程を含み得る。処理液を除去する工程としては特に限定されず、例えば、基板Wを一定速度で回転させることにより遠心力で処理液を振り切る工程等が挙げられる。
【0063】
また、処理液を遠心力により振り切る工程を行う場合、基板Wの回転数としては処理液を十分に振り切れる程度であれば特に限定されないが、通常は800rpm~2500rpmの範囲で設定され、好ましくは1000rpm~2000rpm、より好ましくは1200rpm~1500rpmである。
【0064】
膜形成工程S103は、図2及び図3(c)に示すように、目的とする膜15を金属膜非形成領域の絶縁膜12上に形成する工程である。このとき、金属膜形成領域に形成されたSAM14が金属膜11の保護膜としてマスクする機能を果たす。これにより、目的とする膜15を金属膜非形成領域に選択的に形成することができる。
【0065】
目的とする膜15としては特に限定されず、例えば、酸化アルミニウム(Al)、酸化コバルト(CoO)、又は酸化ジルコニウム(ZrO)等からなる膜が挙げられる。またこれらの膜15を形成する方法としては特に限定されず、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成膜)法、ALD(Atomic Layer Deposition:原子層堆積)法、真空蒸着、スパッタリング、メッキ、サーマルCVD及びサーマルALD等が挙げられる。
【0066】
除去液の準備工程S104は、除去液として、そのHSPがSAM形成材料13の第1ハンセン球1内となり、かつ、SAM14の第2ハンセン球2内となるように調製するなどして準備する工程である。この除去液の準備工程S104は、少なくとも後述のSAM14の除去工程S105の前に行われる。
【0067】
SAM形成材料13の第1ハンセン球1は、以下の様にして求めることができる。すなわち、先ず、(δd、δp、δh)を三次元空間にプロットすることにより特定されるハンセン溶解度パラメータ空間に於いて、(δd、δp、δh)が既知の複数の有機溶媒(2種以上の混合溶媒である場合を除く。)をプロットする。次に、各有機溶媒に対するSAM形成材料13の溶解性を試験する。この試験の結果から、各有機溶媒がSAM形成材料13に対して良溶媒か貧溶媒かを評価する。ここで、良溶媒は貧溶媒よりも溶解性あるいは濡れ性が良好な有機溶媒である。これにより、良溶媒の有機溶媒を包含し、貧溶媒の有機溶媒を包含しないハンセン球であって、半径が最小のものを第1ハンセン球1として特定する。さらに、特定した第1ハンセン球1に基づき、球半径R及び中心値(δd、δp、δh)を求める。
【0068】
また、SAM14の第2ハンセン球2は、以下の様にして求めることができる。すなわち、先ず、(δd、δp、δh)を三次元空間にプロットすることにより特定されるハンセン溶解度パラメータ空間に於いて、(δd、δp、δh)が既知の複数の有機溶媒(2種以上の混合溶媒である場合を除く。)をプロットする。次に、SAM14表面に各有機溶媒の液滴を接触させて接触角を測定し、濡れ性試験を行う。さらに、接触角の測定後には、SAM14表面の有機溶媒の溶媒痕の有無を確認する。そして、接触角の測定結果と溶媒痕の有無から各有機溶媒がSAM14に対して良溶媒か貧溶媒かを判断する。これにより、良溶媒の有機溶媒を包含し、貧溶媒の有機溶媒を包含しないハンセン球であって、半径が最小のものを第2ハンセン球2として特定する。さらに、特定した第2ハンセン球2に基づき、球半径R及び中心値(δd、δp、δh)を求める。
【0069】
次に、除去液の調製を行う。除去液の調製は、HSPが、ハンセン溶解度パラメータ空間に於いて第1ハンセン球1と第2ハンセン球2が重複する領域3内に位置するように、2種以上の有機溶媒を混合して行うことができる。また、1種単独でHSPが領域3内に位置するような有機溶媒を選択して用いてもよい。尚、2種以上の有機溶媒を混合する場合の混合比率は特に限定されず、使用する有機溶媒のHSP等に応じて適宜設定することができる。
【0070】
除去工程S105は、図2及び図3(d)に示すように、膜15を形成する工程の実行後に、金属膜形成領域に形成されたSAM14を除去する工程である。本工程に於いてSAM14の除去は、除去液を少なくともSAM14に接触させることにより行う。これにより、図3(d)に示すように、金属膜非形成領域にのみ膜15が選択的に形成され、かつ金属膜11が露出した基板Wを得ることができる。ここで、SAM14の除去とは、SAM14が除去液で溶解して除去される場合の他、基板Wから脱離(剥離)する場合を含む意味である。尚、基板WからSAM14が剥離する場合でも、本実施形態の除去液は、SAM形成材料13に対して良好な溶解性を示すので、剥離後のSAM14も溶解させることができる。これにより、本実施形態では、基板W表面に剥離後のSAM14の残渣が残るのを防止又は低減することができる。
【0071】
除去液をSAM14に接触させる方法としては特に限定されず、例えば、除去液を基板Wの表面に塗布する方法や除去液を基板Wの表面に噴霧する方法、基板Wを除去液中に浸漬させる方法等が挙げられる。
【0072】
除去液を基板Wの表面に塗布する方法としては、例えば、基板Wをその中央部を軸にして一定速度で回転させた状態で、除去液を基板Wの表面の中央部に供給することにより行う方法が挙げられる。これにより、基板Wの表面に供給された除去液は、基板Wが回転することにより生ずる遠心力によって、基板Wの表面中央付近から基板Wの周縁部に向かって流動し、基板Wの表面の全面に拡散される。その結果、基板Wの表面の全面が除去液で覆われて、当該除去液の液膜が形成される。
【0073】
除去工程S105は、例えば、不活性ガスの雰囲気下で行うことができる。
【0074】
除去工程S105に於いては、基板Wの表面に残存する除去液を除去する工程を含み得る。除去液を除去する工程としては特に限定されず、例えば、基板Wを一定速度で回転させることにより遠心力で除去液を振り切る工程等が挙げられる。
【0075】
また、除去液を遠心力により振り切る工程を行う場合、基板Wの回転数としては除去液を十分に振り切れる程度であれば特に限定されないが、通常は800rpm~2500rpmの範囲で設定され、好ましくは1000rpm~2000rpm、より好ましくは1200rpm~1500rpmである。
【0076】
以上のように、本実施形態の基板処理方法によれば、除去液として、HSPが、SAM形成材料13のHSPにより規定される第1ハンセン球1内にあり、かつ、SAM14のHSPにより規定される第2ハンセン球2内にあるものを用いることで、従来の除去液と比較して、金属膜11がエッチングされるのを抑制しながら、SAM14を良好に選択除去することができる。
【0077】
(基板処理装置)
次に、本実施形態に係る基板処理装置について、図4及び図5に基づき説明する。図4は、本実施形態の基板処理装置に於ける除去液の供給装置を表す説明図である。図5は、本実施形態に係る基板処理装置の除去装置を表す説明図である。
【0078】
本実施形態の基板処理装置は、図4に示すように、除去液を供給するための供給装置100と、SAM14を除去するための除去装置200と、基板処理装置の各部を制御するための制御部300とを少なくとも備える。
【0079】
[供給装置]
本実施形態に係る供給装置100は、図4に示すように、除去装置200にSAM14を除去するための除去液を供給する機能を有しており、除去液タンク(貯留部)101と、温度調整部102と、供給管103とを備える。
【0080】
除去液タンク101は、除去液タンク101内の除去液を撹拌する撹拌部(図示しない。)、及び除去液タンク101内の除去液の温度調整を行う温度調整部102を備えてもよい。撹拌部としては、除去液タンク101内の除去液を撹拌する回転部と、回転部の回転を制御する撹拌制御部を備えるものが挙げられる。撹拌制御部は制御部300と電気的に接続され、回転部は、例えば、回転軸の下端にプロペラ状の攪拌翼を備えている。制御部300が撹拌制御部に動作指令を行うことで回転部を回転させ、これにより攪拌翼で除去液を撹拌させることができる。その結果、除去液タンク101内で、除去液の濃度及び温度を均一にすることができる。
【0081】
供給管103は除去液タンク101に管路接続されている。さらに、供給管103の途中経路にはバルブ103aが設けられている。バルブ103aは制御部300と電気的に接続されており、バルブ103aの開閉を制御部300の動作指令によって制御することができる。制御部300の動作指令によりバルブ103aが開栓されると、除去液を除去装置200に供給することができる。
【0082】
また供給装置100は、第1有機溶媒を貯留する第1有機溶媒タンク104と、第2有機溶媒を貯留する第2有機溶媒タンク105とを備える。第1有機溶媒タンク104には第1有機溶媒を除去液タンク101に供給するための第1排出管104aが管路接続されている。さらに、第1排出管104aの途中経路には第1バルブ104bが設けられている。第1バルブ104bは制御部300と電気的に接続されており、第1バルブ104bの開閉を制御部300の動作指令によって制御することができる。制御部300の動作指令により第1バルブ104bが開栓されると、除去液の調製のために、所定量の第1有機溶媒が除去液タンク101に供給される。尚、第1有機溶媒タンク104には、貯留される第1有機溶媒を撹拌する撹拌部、及び第1有機溶媒の温度調整を行う温度調整部を備えてもよい(何れも図示しない。)。撹拌部としては、除去液タンク101に設置可能なものと同様のものを用いることができる。
【0083】
また、第2有機溶媒タンク105にも第2有機溶媒を除去液タンク101に供給するための第2排出管105aが管路接続されている。さらに、第2排出管105aの途中経路には第2バルブ105bが設けられている。第2バルブ105bは制御部300と電気的に接続されており、第2バルブ105bの開閉を制御部300の動作指令によって制御することができる。制御部300の動作指令により第2バルブ105bが開栓されると、除去液の調製のために、所定量の第2有機溶媒が除去液タンク101に供給される。尚、第2有機溶媒タンク105には、第1有機溶媒タンク104の場合と同様、貯留される第2有機溶媒を撹拌する撹拌部、及び第2有機溶媒の温度調整を行う温度調整部を備えてもよい(何れも図示しない。)。
【0084】
制御部300の動作指令により第1バルブ104b及び第2バルブ105bの開栓をそれぞれ制御することで、第1有機溶媒及び第2有機溶媒の供給量や供給時間を調節することができる。これにより、除去液タンク101に於いて、第1有機溶媒と第2有機溶媒とが所定の混合比となるように供給される結果、所望の除去液を調製することができる。
【0085】
尚、本実施形態では、2種類の有機溶媒を用いて除去液を調製する場合を例にして説明したが、本発明はこの態様に限定されるものではない。例えば、1種類の有機溶媒からなる除去液を用いる場合には、第2有機溶媒タンク105や第2排出管105a、第2バルブ105bを省略することができる。また、3種類以上の有機溶媒を用いる場合には、同一構成の有機溶媒タンク、排出管及びバルブをさらに設けてもよい。
【0086】
[除去装置]
次に、除去装置200について、図5に基づき説明する。
本実施形態に係る除去装置200は、金属膜11上に形成されたSAM14を除去することが可能な枚葉式の除去装置である。
【0087】
除去装置200は、図5に示すように、基板Wを保持する基板保持部210と、基板Wの表面Wfに除去液を供給する供給部220と、基板Wを収容する容器であるチャンバ230と、除去液を捕集する飛散防止カップ240とを少なくとも備える。また、除去装置200は基板Wを搬入又は搬出する搬入出手段(図示しない)を備えることもできる。
【0088】
基板保持部210は基板Wを保持する手段であり、図4に示すように、基板表面Wfを上方に向けた状態で基板Wを略水平姿勢に保持して回転させるものである。この基板保持部210は、スピンベース212と回転支軸213とが一体的に結合されたスピンチャック211を有している。スピンベース212は平面視に於いて略円形形状を有しており、その中心部に、略鉛直方向に延びる中空状の回転支軸213が固定されている。回転支軸213はモータを含むチャック回転機構214の回転軸に連結されている。チャック回転機構214は円筒状のケーシング215内に収容され、回転支軸213はケーシング215により、鉛直方向の回転軸周りに回転自在に支持されている。
【0089】
チャック回転機構214は、制御部300のチャック駆動部(図示しない)からの駆動により回転支軸213を回転軸周りに回転することができる。これにより、回転支軸213の上端部に取り付けられたスピンベース212が回転軸J周りに回転する。制御部300は、チャック駆動部を介してチャック回転機構214を制御して、スピンベース212の回転速度を調整することができる。
【0090】
スピンベース212の周縁部付近には、基板Wの周端部を把持するための複数個のチャックピン216が立設されている。チャックピン216の設置数は特に限定されないが、円形状の基板Wを確実に保持するために、少なくとも3個以上設けることが好ましい。本実施形態では、スピンベース212の周縁部に沿って等間隔に3個配置する。それぞれのチャックピン216は、基板Wの周縁部を下方から支持する基板支持ピンと、基板支持ピンに支持された基板Wの外周端面を押圧して基板Wを保持する基板保持ピンとを備えている。
【0091】
供給部220は基板保持部210の上方位置に配置されており、供給装置100から供給される除去液を基板Wの表面Wf上に供給する。供給部220は、ノズル221と、アーム222とを有している。ノズル221は、水平に延設されたアーム222の先端部に取り付けられており、除去液を吐出する際にはスピンベース212の上方に配置される。
【0092】
供給部220は、供給部昇降機構224をさらに有している。供給部昇降機構224は、アーム222に接続されている。
【0093】
供給部昇降機構224は制御部300と電気的に接続されており、制御部300からの動作指令に応じて供給部220を昇降させることができる。これにより、供給部220のノズル221を、基板保持部210に保持されている基板Wに接近又は離隔させ、基板Wの表面Wfとの間の離間距離を調整することができる。
【0094】
尚、基板Wを除去装置200内に搬入出させる際には、制御部300の動作指令により供給部昇降機構224を作動させ、供給部220を上昇させる。これにより、ノズル221と基板Wの表面Wfとを一定の距離に離隔させることができ、基板Wの搬入出を容易にすることができる。
【0095】
飛散防止カップ240は、スピンベース212を取り囲むように設けられる。飛散防止カップ240は昇降駆動機構(図示しない)に接続され、上下方向に昇降可能となっている。基板Wの表面Wfに除去液を供給する際には、飛散防止カップ240が昇降駆動機構によって所定位置に位置決めされ、チャックピン216により保持された基板Wを側方位置から取り囲む。これにより、基板Wやスピンベース212から飛散する除去液を捕集することができる。
【0096】
以上の説明に於いては、本発明の基板処理装置に於ける除去装置が基板Wに対して1枚毎に処理を行う枚葉式である場合を例にして説明した。しかし本発明の基板処理装置はこの態様に限定されるものでなく、本発明の基板処理装置の他の形態として除去装置が複数枚の基板に対して一括して処理を行うバッチ式の形態である場合にも適用可能である。
【0097】
[制御部]
制御部300は、基板処理装置の各部と電気的に接続しており、各部の動作を制御する。制御部300は、演算部と、記憶部とを有するコンピュータにより構成される。演算部としては、各種演算処理を行うCPUを用いる。また、記憶部は、基板処理プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAM及び制御用ソフトウェアやデータ等を記憶しておく磁気ディスクを備える。磁気ディスクには、基板処理条件に関するデータが予め格納されている。基板処理条件としては、例えば、SAM14の種類等に応じて、除去液が所定のHSPとなる様にするための第1有機溶媒及び第2有機溶媒の供給条件や、除去液の基板Wへの供給条件等が含まれる。CPUは、基板処理条件をRAMに読み出し、その内容に従って基板処理装置の各部を制御する。
【0098】
(その他の事項)
本実施形態の供給装置や除去装置は、基板処理装置以外の様々な装置に利用されてもよく、又は単独で使用されてもよい。
以上の説明に於いては、本発明の最も好適な実施態様について説明した。しかし、本発明は当該実施態様に限定されるものではない。前述の実施形態及び各変形例に於ける各構成は、相互に矛盾しない範囲内で変更、修正、置換、付加、削除及び組合せが可能である。
【実施例0099】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、この実施例に記載されている材料や配合量、条件等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定するものではない。
【0100】
(実施例1)
[処理液の調製]
SAM形成材料としてのオクタデシルホスホン酸(CH(CH17P(=O)(OH))をエタノール溶媒に溶解させ、本実施例に係る処理液を調製した。オクタデシルホスホン酸の濃度は、処理液の全質量に対し0.04質量%とした。
【0101】
[除去液の準備工程]
1.第1ハンセン球の特定
先ず、オクタデシルホスホン酸(粉体)の第1ハンセン球を求めた。すなわち、(δd、δp、δh)を三次元空間にプロットすることにより特定されるハンセン溶解度パラメータ空間に於いて、(δd、δp、δh)が既知の有機溶媒として、以下の表2に示すものを準備し、プロットした。
【0102】
次に、各有機溶媒に対するオクタデシルホスホン酸(粉末)の溶解性試験を行った。具体的には、オクタデシルホスホン酸粉末1mgを、表2に示す有機溶媒1mLにそれぞれ添加し、オクタデシルホスホン酸粉末の溶解状態を確認した。尚、試験は、25℃の環境下で行った。また、オクタデシルホスホン酸粉末の溶解状態は、以下の基準に基づき判定した。
1:オクタデシルホスホン酸粉末の溶け残りがなく、溶解液にゆらぎがない。
2:オクタデシルホスホン酸粉末の溶け残りがないが、溶解液にゆらぎがある。
3:オクタデシルホスホン酸粉末の溶け残りがある。
【0103】
【表2】
【0104】
表2の結果に基づき、各有機溶媒がオクタデシルホスホン酸粉末に対して良溶媒か貧溶媒かを評価した。ここで、良溶媒は貧溶媒よりも溶解性あるいは濡れ性が良好な有機溶媒である。この評価結果に基づき、良溶媒の有機溶媒を包含し、かつ、貧溶媒の有機溶媒を包含しないハンセン球であって、半径が最小のものを第1ハンセン球として特定した。さらに、特定した第1ハンセン球に基づき、中心値(δd、δp、δh)及び球半径Rを求めた。その結果、(δd、δp、δh)=(16.9±0.2、5.4±0.5、11.7±0.3)[MPa1/2]であり、球半径R=3.7[MPa1/2]であった。
【0105】
2.第2ハンセン球の特定
続いて、オクタデシルホスホン酸の単分子膜の第2ハンセン球を求めた。すなわち、(δd、δp、δh)を三次元空間にプロットすることにより特定されるハンセン溶解度パラメータ空間に於いて、(δd、δp、δh)が既知の有機溶媒として、以下の表3に示すものを準備し、プロットした。
【0106】
次に、オクタデシルホスホン酸の単分子膜表面に各有機溶媒の液滴を接触させて接触角を測定し、濡れ性試験を行った。具体的には、オクタデシルホスホン酸の単分子膜上に、表3に示す各有機溶媒をそれぞれ滴下し、接触角を測定した。接触角の測定には、接触角計(商品名:Drop Master501、協和界面科学社製)を用いた。結果を表3に示す。また、接触角の測定後、オクタデシルホスホン酸の単分子膜表面に於いて、有機溶媒の溶媒痕の有無を確認した。その結果、何れの有機溶媒に於いても溶媒痕が確認されなかった。
【0107】
表3の接触角の測定結果と溶媒痕の有無から、各有機溶媒がオクタデシルホスホン酸の単分子膜に対して良溶媒か貧溶媒かを評価した。この評価結果に基づき、良溶媒の有機溶媒を包含し、貧溶媒の有機溶媒を包含しないハンセン球であって、半径が最小のものを第2ハンセン球として特定した。さらに、特定した第2ハンセン球に基づき、中心値(δd、δp、δh)及び球半径Rを求めた。その結果、中心値(δd、δp、δh)=(16.4±0.7、6.1±1.2、0.0±2.0)[MPa1/2]、球半径R=10.2[MPa1/2]であった。
【0108】
【表3】
【0109】
3.除去液の準備
オクタデシルホスホン酸の第1ハンセン球、及びオクタデシルホスホン酸の単分子膜の第2ハンセン球に基づき、これらのハンセン球の交わりにより形成される円の中心に位置する(δd、δp、δh)を特定した。その結果、オクタデシルホスホン酸の単分子膜の除去に最適な除去液は、HSPが(δd、δp、δh)=(16.8、5.6、9.0)[MPa1/2]、δt=19.9[MPa1/2]のものであることが判明した。
【0110】
さらに、この結果に基づき、本実施例に係る除去液としてTHFを選定した。THFのHSPは、(δd、δp、δh)=(16.8、5.7、8.0)[MPa1/2]、δt=19.5[MPa1/2]である。
【0111】
[SAM形成工程及び膜形成工程]
前述の処理液を用いて、基板の表面にSAMを形成した。具体的には、先ず、配線幅が100nmのトレンチが形成されたSiO膜(膜厚200nm)からなる層間絶縁膜を有し、金属膜としてのCu膜(膜厚200nm)が当該トレンチに埋め込まれた基板を準備した(基板の準備工程S101)。
【0112】
次に、この基板の表面に処理液を塗布し、オクタデシルホスホン酸がCu膜上に吸着してなるSAMを成膜した(SAM形成工程S102)。
【0113】
さらに、HOを酸化剤に用いたALD法により、SiO膜上に酸化アルミニウム(Al)膜を成膜した。具体的には、Alの有機金属を原子層レベルの厚さで一層堆積させた後、酸化剤によりAlを酸化し、Alの薄膜を形成し、この工程を72サイクル繰り返した。これにより、厚さ5nmのAl膜を形成した。
【0114】
[SAMの除去工程]
続いて、基板の表面に除去液を供給し、Cu膜上のSAMに除去液を接触させることによりSAMを除去した。これにより、本実施例に係るサンプルを作製した。
【0115】
(実施例2)
本実施例では、除去液としてTHFに代えて2-ブタノールを用いた。それ以外は実施例1と同様にして、本実施例に係るサンプルを作製した。
【0116】
(実施例3)
本実施例では、除去液としてTHFに代えてベンジルアルコールを用いた。それ以外は実施例1と同様にして、本実施例に係るサンプルを作製した。
【0117】
(実施例4)
本実施例では、除去液としてTHFに代えて1-ペンタノールを用いた。それ以外は実施例1と同様にして、本実施例に係るサンプルを作製した。
【0118】
(実施例5)
本実施例では、除去液としてTHFに代えて1-ブタノールを用いた。それ以外は実施例1と同様にして、本実施例に係るサンプルを作製した。
【0119】
(実施例6)
本実施例では、除去液としてTHFに代えてTHF、2-ブタノール及びベンジルアルコールからなる混合溶媒を用いた。また、THF、2-ブタノール及びベンジルアルコールの混合比は、体積比でTHF:2-ブタノール:ベンジルアルコール=8:1:1とした。それら以外は実施例1と同様にして、本実施例に係るサンプルを作製した。
【0120】
(実施例7)
本実施例では、除去液としてTHFに代えてTHF、1-ブタノール及びベンジルアルコールからなる混合溶媒を用いた。また、THF、1-ブタノール及びベンジルアルコールの混合比は、体積比でTHF:1-ブタノール:ベンジルアルコール=8:1:1とした。それら以外は実施例1と同様にして、本実施例に係るサンプルを作製した。
【0121】
(実施例8)
本実施例では、除去液としてTHFに代えてTHF、1-ペンタノール及びベンジルアルコールからなる混合溶媒を用いた。また、THF、1-ペンタノール及びベンジルアルコールの混合比は、体積比でTHF:1-ペンタノール:ベンジルアルコール=8:1:1とした。それら以外は実施例1と同様にして、本実施例に係るサンプルを作製した。
【0122】
(除去性能の評価)
実施例1~8の各サンプルに於いて、SAMの除去前後に於いて、Cu膜のエッチングがどの程度抑制されているのかについて確認した。具体的には、透過電子顕微鏡(TEM)観察により、SAMの除去前後に於けるCu膜の膜厚を測定し、Cu膜の膜厚の減少量を算出した。結果を表4に示す。表4から分かる通り、実施例1~8の何れのサンプルに於いてもCu膜の膜厚は、当初の膜厚200nmに対し3nm以下の減少量に抑えることができた。これにより、各実施例1~8で用いた除去液は何れも、Cu膜に対するエッチングを極力抑制しながらSAMを除去することができ、選択的な除去性能に優れていることが確認された。
【0123】
さらに、実施例1と6の各サンプルに於いては、SAMの除去後のCu膜上のAl原子の残渣比率についても確認を行った。具体的には、各サンプルについて、TEMで各サンプルの断面部の像観察を行いながら、観察領域での元素分析をエネルギー分散型X線分光法(EDX)により行った。EDXによる元素分析は、Al膜及びCu膜に於けるAl原子を対象とした。さらに、以下の式に基づき、Cu膜上のAl原子の残渣比率を算出した。結果を表4に示す。
(Al原子の残渣比率)=(Cu膜上のAl原子量)/(Al膜に於けるAl原子量)×100(%)
【0124】
実施例6のサンプルにおいては、Al原子の残渣比率を10%以下に抑制することができた。SAMには、Al膜の成膜に起因して、Al原子が残存している。従って、SAM除去後のCu膜に於いてAl原子の残渣が少ない程、SAMはCu膜上から良好に選択除去されているといえる。実施例6のサンプルでは、Cu膜上のAl原子の残渣比率が抑制されていることから、実施例6で用いた除去液はSAMの除去に優れているといえる。
【0125】
【表4】
【符号の説明】
【0126】
1 第1ハンセン球
2 第2ハンセン球
3 領域
11 金属膜
12 絶縁膜
13 SAM形成材料
14 SAM
15 膜
100 供給装置
101 除去液タンク(貯留部)
102 温度調整部
103 供給管
103a バルブ
104 第1有機溶媒タンク
104a 第1排出管
104b 第1バルブ
105 第2有機溶媒タンク
105a 第2排出管
105b 第2バルブ
120 温度調整部
200 除去装置
210 基板保持部
211 スピンチャック
212 スピンベース
213 回転支軸
214 チャック回転機構
215 ケーシング
216 チャックピン
220 供給部
221 ノズル
222 アーム
224 供給部昇降機構
230 チャンバ
240 飛散防止カップ
300 制御部
S101 準備工程
S102 自己組織化単分子膜(SAM)形成工程
S103 膜形成工程
S104 除去液の準備工程
S105 除去工程
W 基板
Wf 基板の表面
図1
図2
図3
図4
図5