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特開2024-57123回転体および軸受を含む装置の予兆診断方法および装置
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  • 特開-回転体および軸受を含む装置の予兆診断方法および装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057123
(43)【公開日】2024-04-24
(54)【発明の名称】回転体および軸受を含む装置の予兆診断方法および装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/045 20190101AFI20240417BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20240417BHJP
【FI】
G01M13/045
G01M99/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163617
(22)【出願日】2022-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000104836
【氏名又は名称】クボタ空調株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 洋幸
(72)【発明者】
【氏名】菊地 哲也
(72)【発明者】
【氏名】高口 未来
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AC05
2G024AD04
2G024AD22
2G024BA12
2G024BA15
2G024CA13
2G024DA09
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA14
2G024FA15
(57)【要約】
【課題】軸受の回転数が異なる測定値からでも軸受の劣化の傾向を監視できる予兆診断方法および装置を提供する。
【解決手段】センサ部10で診断対象装置から測定した加速度データの振動波形を、制御部11で高速フーリエ変換処理し、対象軸受の常用回転数範囲である60Hz以下に限って周波数成分のピーク周波数を検出し、ピーク周波数から測定回転数および測定加速度を算出し、対象軸受の軸受内周面の軸受周速度と軸受加速度の関係において定めた良好基準値と異常基準値との差を相対比較基準値とし、各軸受周速度での良好基準値と測定加速度との差を測定加速度差とし、相対比較基準値に対する測定加速度差の相対的な割合を相対判定値として算出し、出力部12に軸受加速度相対判定基準グラフを表示する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
データ測定工程において、診断対象装置に生じる加速度を加速度センサにより測定し、測定した加速度データの振動波形を高速フーリエ変換処理して周波数成分を求め、求めた周波数成分のうちで診断対象装置内に設置した対象軸受の常用回転数範囲である60Hz以下の周波数成分のピーク周波数を検出し、検出したピーク周波数から対象軸受の測定回転数を算出し、加速度センサで測定した加速度データの値を測定加速度とし、
判定値算出工程において、対象軸受の軸受内周面の軸受周速度と軸受加速度の関係において軸受加速度の良好基準値と異常基準値を軸受周速度毎に定め、良好基準値と異常基準値との差を相対比較基準値とし、測定回転数に対応する軸受周速度での良好基準値と測定加速度との差を測定加速度差とし、相対比較基準値に対する測定加速度差の相対的な割合を相対判定値として算出し、
データ評価工程において、相対判定値が異常基準値に対応する相対異常基準値に近いほどに異常事象が発生する予兆が大きいと判定することを特徴とする回転体および軸受を含む装置の予兆診断方法。
【請求項2】
判定値算出工程において、対象軸受の軸受内周面の軸受周速度を横軸とし、軸受加速度を縦軸とする軸受加速度絶対値判定基準グラフを作成し、軸受加速度絶対値判定基準グラフにおいて軸受加速度の良好基準値と異常基準値を軸受周速度毎に定め、測定回転数に対応する軸受周速度での測定加速度を軸受加速度絶対値判定基準グラフにプロットし、
軸受加速度絶対値判定基準グラフの良好基準値と異常基準値との差を相対比較基準値として求め、測定回転数に対応する軸受周速度での良好基準値と測定加速度との差を測定加速度差として求め、相対比較基準値に対する測定加速度差の相対的な割合を相対判定値として算出し、
データ評価工程において、対象軸受の軸受内周面の軸受周速度を横軸とし、相対判定値を縦軸とする軸受加速度相対判定基準グラフを作成し、軸受加速度相対判定基準グラフに良好基準値に対応する相対良好基準値と異常基準値に対応する相対異常基準値を設定し、
軸受加速度相対判定基準グラフに相対判定値をプロットし、プロットした相対判定値が相対異常基準値に近いほどに異常事象が発生する予兆が大きいと判定することを特徴とする請求項1に記載の回転体および軸受を含む装置の予兆診断方法。
【請求項3】
データ測定工程において、診断対象装置に生じる加速度を加速度センサにより測定し、測定した加速度データの振動波形を高速フーリエ変換処理して周波数成分を求め、求めた周波数成分のうちで診断対象装置内に設置した対象軸受の常用回転数範囲である60Hz以下の周波数成分のピーク周波数を検出し、検出したピーク周波数から対象軸受の測定回転数を算出し、加速度センサで測定した加速度データの値を測定加速度とし、
判定値算出工程において、対象軸受の軸受内周面の軸受周速度と軸受加速度の関係において軸受加速度の良好基準値と異常基準値を軸受周速度毎に定め、良好基準値と異常基準値との差を相対比較基準値とし、測定回転数に対応する軸受周速度での良好基準値と測定加速度との差を測定加速度差とし、相対比較基準値に対する測定加速度差の相対的な割合を相対判定値として算出し、
データ評価工程において、相対判定値の時系列を形成し、時系列での相対判定値の変動傾向が異常基準値に対応する相対異常基準値に近づくほどに異常事象が発生する予兆が大きいと判定することを特徴とする回転体および軸受を含む装置の予兆診断方法。
【請求項4】
判定値算出工程において、対象軸受の軸受内周面の軸受周速度を横軸とし、軸受加速度を縦軸とする軸受加速度絶対値判定基準グラフを作成し、軸受加速度絶対値判定基準グラフにおいて軸受加速度の良好基準値と異常基準値を軸受周速度毎に定め、測定回転数に対応する軸受周速度での測定加速度を軸受加速度絶対値判定基準グラフにプロットし、
軸受加速度絶対値判定基準グラフの良好基準値と異常基準値との差を相対比較基準値として求め、測定回転数に対応する軸受周速度での良好基準値と測定加速度との差を測定加速度差として求め、相対比較基準値に対する測定加速度差の相対的な割合を相対判定値として算出し、
データ評価工程において、時間を横軸とし、相対判定値を縦軸とする加速度経時変化グラフを作成し、加速度経時変化グラフに良好基準値に対応する相対良好基準値と異常基準値に対応する相対異常基準値を設定し、
加速度経時変化グラフに相対判定値を測定順にプロットして相対判定値の時系列からなる軌跡を形成し、相対判定値の軌跡の変動傾向が相対異常基準値に近づくほどに異常事象が発生する予兆が大きいと判定することを特徴とする請求項3に記載の回転体および軸受を含む装置の予兆診断方法。
【請求項5】
出力部と制御部とセンサ部を備え、
センサ部は、診断対象装置に生じる加速度を測定する加速度センサを有し、測定した加速度データを制御部に送信し、
制御部は、測定した加速度データの振動波形を高速フーリエ変換処理して周波数成分を求める高速フーリエ変換部と、求めた周波数成分のうちで診断対象装置内に設置した対象軸受の常用回転数範囲である60Hz以下の周波数成分のピーク周波数を検出するピーク周波数検出部と、検出したピーク周波数から対象軸受の測定回転数を算出し、加速度センサで測定した加速度データの値を測定加速度とする測定値演算部と、相対判定値演算部を有し、
相対判定値演算部は、対象軸受の軸受内周面の軸受周速度と軸受加速度の関係において軸受加速度の良好基準値と異常基準値を軸受周速度毎に定め、良好基準値と異常基準値との差を相対比較基準値とし、測定回転数に対応する軸受周速度での良好基準値と測定加速度との差を測定加速度差とし、相対比較基準値に対する測定加速度差の相対的な割合を相対判定値として算出し、
出力部は、良好基準値に対応する相対良好基準値と異常基準値に対応する相対異常基準値と相対判定値をグラフ上の位置関係で相対的に表示し、相対判定値が相対異常基準値に近いほどに異常事象が発生する予兆が大きいことを示すことを特徴とする回転体および軸受を含む装置の予兆診断装置。
【請求項6】
出力部と制御部とセンサ部を備え、
センサ部は、診断対象装置に生じる加速度を測定する加速度センサを有し、測定した加速度データを制御部に送信し、
制御部は、測定した加速度データの振動波形を高速フーリエ変換処理して周波数成分を求める高速フーリエ変換部と、求めた周波数成分のうちで診断対象装置内に設置した対象軸受の常用回転数範囲である60Hz以下の周波数成分のピーク周波数を検出するピーク周波数検出部と、検出したピーク周波数から対象軸受の測定回転数を算出し、加速度センサで測定した加速度データの値を測定加速度とする測定値演算部と、相対判定値演算部を有し、
相対判定値演算部は、対象軸受の軸受内周面の軸受周速度と軸受加速度の関係において軸受加速度の良好基準値と異常基準値を軸受周速度毎に定め、良好基準値と異常基準値との差を相対比較基準値とし、測定回転数に対応する軸受周速度での良好基準値と測定加速度との差を測定加速度差とし、相対比較基準値に対する測定加速度差の相対的な割合を相対判定値として算出し、
出力部は、良好基準値に対応する相対良好基準値と異常基準値に対応する相対異常基準値を表示するグラフ上に相対判定値の時系列を形成し、時系列での相対判定値の変動傾向が異常基準値に対応する相対異常基準値に近づくほどに異常事象が発生する予兆が大きいことを示すことを特徴とする回転体および軸受を含む装置の予兆診断方法。
【請求項7】
出力部は、相対判定値が設定閾値を超えて相対異常基準値に近い場合に警報を発報することを特徴とする請求項5または6に記載の回転体および軸受を含む装置の予兆診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回転体および軸受を含む装置の予兆診断方法および装置に関し、軸受等の回転体の劣化を診断する技術に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1には、機械設備に組み込まれた回転部品に対し、異常部位の特定、損傷の程度又は損傷の進展状況の判断、及び異常部位の残存寿命の予測をする状態監視方法が記載されている。
【0003】
この方法では、転がり軸受又はハウジングに固定される振動センサにより振動波形を検出し、検出された波形をフィルタ処理部により複数の損傷フィルタ周波数帯域に分割して抽出し、フィルタ処理後の波形からスペクトルデータを演算処理部で算出する。
【0004】
そして、精密診断部において、転がり軸受の回転速度に基づいて算出した軸受損傷周波数と、演算処理部で得られたスペクトルデータとを比較して、転がり軸受の異常部位を特定する。また、損傷レベル診断部が損傷フィルタ周波数帯域毎に算出される振動実効値に基づいて異常部位の損傷の程度を診断する。さらに、残存寿命予測部が異常部位、異常部位の損傷の程度、及び回転部品の運転環境から異常部位の残存寿命を予測する。
【0005】
また、特許文献2には、転がり軸受の絶対値を判定する方法が記載されている。これは、加速度Gを測定し、測定した加速度Gをある基準で判定するものである。判定に使用するグラフは、横軸を軸受内径と回転数の積であるdN値として、転がり軸受の転動体の周速を示している。例えば、ある型式の軸受が内径60mmφであると、回転数1500rpm時ではdN値は9.0×10E4となる。このとき加速度Gの測定値が1.0Gであれば「注意」と判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-219469
【特許文献2】特開2016-116251
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的な軸受の劣化診断は傾向監視で行っている。これは決められた測定周期で軸受の振動を測定し、その振動データから加速度を算出し、加速度の変化の経過を監視するものである。振動している物体が振動で往復する距離を変位とすると、変位の時間に対する変化率が速度であり、速度の時間に対する変化率が加速度である。
【0008】
この振動の測定は同じ運転条件下で行って、その計測値を比較する必要がある。
【0009】
しかし、空気調和機の運転条件は外気温度や室内の人員数により異なり、運転条件の変化に伴って送風機の回転数が可変する。このため、予め決められた測定周期では、同じ運転条件の運転状態(回転数)になりにくいので、前回の測定値と比較できないケースが多い。
【0010】
また、傾向監視によって軸受の劣化診断を行うためには、診断の基準となる加速度の正常値を決める必要がある。このため、劣化診断は、定格運転時の値を正常値として計測値を比較し、基準値から許容値を加えた値を閾値として判断を行う。
【0011】
しかし、空気調和機の設計条件と実際の運転条件が異なる場合には、実際の定格運転状態に合わせた加速度の正常値を決定する必要があり、それぞれの運転状態毎に加速度の正常値を決定することは困難である。
【0012】
また、ベアリング内径と回転数の積、すなわち周速度と加速度との関係における絶対値判定基準を用いた診断では、比較の基準となる値が不明でも劣化を判定でき、定期的な測定時のその時々における状態診断を行うので、現時点での良好、注意、異常といった判定結果となる。
【0013】
しかし、周速度と加速度との関係を前提し、計測した値は計測時の回転数によって変わるので、同じ回転数であれば傾向比較ができるが、回転数が変動した場合には加速度が変わるために、傾向的な比較はできず、傾向監視を行うことが困難である。
【0014】
FFT(高速フーリエ変換)分析やエンベロープ解析などを利用した精密診断機器は、高精度の振動センサと分析器を必要とする。精密診断機器は、振動センサや分析器のコストが高く、また、計測の手間はかかるので、日常的な傾向監視には向かず、主に異常の傾向が見られた場合に、原因をつかむために使用する。
【0015】
本発明は上記した課題を解決するものであり、測定時の軸受の回転数が異なる測定値からでも軸受の劣化の傾向を監視できる回転体および軸受を含む装置の予兆診断方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の回転体および軸受を含む装置の予兆診断方法は、データ測定工程において、診断対象装置に生じる加速度を加速度センサにより測定し、測定した加速度データの振動波形を高速フーリエ変換処理して周波数成分を求め、求めた周波数成分のうちで診断対象装置内に設置した対象軸受の常用回転数範囲である60Hz以下の周波数成分のピーク周波数を検出し、検出したピーク周波数から対象軸受の測定回転数を算出し、加速度センサで測定した加速度データの値を測定加速度とし、判定値算出工程において、対象軸受の軸受内周面の軸受周速度と軸受加速度の関係において軸受加速度の良好基準値と異常基準値を軸受周速度毎に定め、良好基準値と異常基準値との差を相対比較基準値とし、測定回転数に対応する軸受周速度での良好基準値と測定加速度との差を測定加速度差とし、相対比較基準値に対する測定加速度差の相対的な割合を相対判定値として算出し、データ評価工程において、相対判定値が異常基準値に対応する相対異常基準値に近いほどに異常事象が発生する予兆が大きいと判定することを特徴とする。
【0017】
本発明の回転体および軸受を含む装置の予兆診断方法において、判定値算出工程において、対象軸受の軸受内周面の軸受周速度を横軸とし、軸受加速度を縦軸とする軸受加速度絶対値判定基準グラフを作成し、軸受加速度絶対値判定基準グラフにおいて軸受加速度の良好基準値と異常基準値を軸受周速度毎に定め、測定回転数に対応する軸受周速度での測定加速度を軸受加速度絶対値判定基準グラフにプロットし、軸受加速度絶対値判定基準グラフの良好基準値と異常基準値との差を相対比較基準値として求め、測定回転数に対応する軸受周速度での良好基準値と測定加速度との差を測定加速度差として求め、相対比較基準値に対する測定加速度差の相対的な割合を相対判定値として算出し、データ評価工程において、対象軸受の軸受内周面の軸受周速度を横軸とし、相対判定値を縦軸とする軸受加速度相対判定基準グラフを作成し、軸受加速度相対判定基準グラフに良好基準値に対応する相対良好基準値と異常基準値に対応する相対異常基準値を設定し、軸受加速度相対判定基準グラフに相対判定値をプロットし、プロットした相対判定値が相対異常基準値に近いほどに異常事象が発生する予兆が大きいと判定することを特徴とする。
【0018】
本発明の回転体および軸受を含む装置の予兆診断方法は、データ測定工程において、診断対象装置に生じる加速度を加速度センサにより測定し、測定した加速度データの振動波形を高速フーリエ変換処理して周波数成分を求め、求めた周波数成分のうちで診断対象装置内に設置した対象軸受の常用回転数範囲である60Hz以下の周波数成分のピーク周波数を検出し、検出したピーク周波数から対象軸受の測定回転数を算出し、加速度センサで測定した加速度データの値を測定加速度とし、判定値算出工程において、対象軸受の軸受内周面の軸受周速度と軸受加速度の関係において軸受加速度の良好基準値と異常基準値を軸受周速度毎に定め、良好基準値と異常基準値との差を相対比較基準値とし、測定回転数に対応する軸受周速度での良好基準値と測定加速度との差を測定加速度差とし、相対比較基準値に対する測定加速度差の相対的な割合を相対判定値として算出し、データ評価工程において、相対判定値の時系列を形成し、時系列での相対判定値の変動傾向が異常基準値に対応する相対異常基準値に近づくほどに異常事象が発生する予兆が大きいと判定することを特徴とする。
【0019】
本発明の回転体および軸受を含む装置の予兆診断方法において、判定値算出工程において、対象軸受の軸受内周面の軸受周速度を横軸とし、軸受加速度を縦軸とする軸受加速度絶対値判定基準グラフを作成し、軸受加速度絶対値判定基準グラフにおいて軸受加速度の良好基準値と異常基準値を軸受周速度毎に定め、測定回転数に対応する軸受周速度での測定加速度を軸受加速度絶対値判定基準グラフにプロットし、軸受加速度絶対値判定基準グラフの良好基準値と異常基準値との差を相対比較基準値として求め、測定回転数に対応する軸受周速度での良好基準値と測定加速度との差を測定加速度差として求め、相対比較基準値に対する測定加速度差の相対的な割合を相対判定値として算出し、データ評価工程において、時間を横軸とし、相対判定値を縦軸とする加速度経時変化グラフを作成し、加速度経時変化グラフに良好基準値に対応する相対良好基準値と異常基準値に対応する相対異常基準値を設定し、加速度経時変化グラフに相対判定値を測定順にプロットして相対判定値の時系列からなる軌跡を形成し、相対判定値の軌跡の変動傾向が相対異常基準値に近づくほどに異常事象が発生する予兆が大きいと判定することを特徴とする。
【0020】
本発明の回転体および軸受を含む装置の予兆診断装置は、出力部と制御部とセンサ部を備え、センサ部は、診断対象装置に生じる加速度を測定する加速度センサを有し、測定した加速度データ制御部に送信し、制御部は、測定した加速度データの振動波形を高速フーリエ変換処理して周波数成分を求める高速フーリエ変換部と、求めた周波数成分のうちで診断対象装置内に設置した対象軸受の常用回転数範囲である60Hz以下の周波数成分のピーク周波数を検出するピーク周波数検出部と、検出したピーク周波数から対象軸受の測定回転数を算出し、加速度センサで測定した加速度データの値を測定加速度とする測定値演算部と、相対判定値演算部を有し、相対判定値演算部は、対象軸受の軸受内周面の軸受周速度と軸受加速度の関係において軸受加速度の良好基準値と異常基準値を軸受周速度毎に定め、良好基準値と異常基準値との差を相対比較基準値とし、測定回転数に対応する軸受周速度での良好基準値と測定加速度との差を測定加速度差とし、相対比較基準値に対する測定加速度差の相対的な割合を相対判定値として算出し、出力部は、良好基準値に対応する相対良好基準値と異常基準値に対応する相対異常基準値と相対判定値をグラフ上の位置関係で相対的に表示し、相対判定値が相対異常基準値に近いほどに異常事象が発生する予兆が大きいことを示すことを特徴とする。
【0021】
本発明の回転体および軸受を含む装置の予兆診断装置は、出力部と制御部とセンサ部を備え、センサ部は、診断対象装置に生じる加速度を測定する加速度センサを有し、測定した加速度データ制御部に送信し、制御部は、測定した加速度データの振動波形を高速フーリエ変換処理して周波数成分を求める高速フーリエ変換部と、求めた周波数成分のうちで診断対象装置内に設置した対象軸受の常用回転数範囲である60Hz以下の周波数成分のピーク周波数を検出するピーク周波数検出部と、検出したピーク周波数から対象軸受の測定回転数を算出し、加速度センサで測定した加速度データの値を測定加速度とする測定値演算部と、相対判定値演算部を有し、相対判定値演算部は、対象軸受の軸受内周面の軸受周速度と軸受加速度の関係において軸受加速度の良好基準値と異常基準値を軸受周速度毎に定め、良好基準値と異常基準値との差を相対比較基準値とし、測定回転数に対応する軸受周速度での良好基準値と測定加速度との差を測定加速度差とし、相対比較基準値に対する測定加速度差の相対的な割合を相対判定値として算出し、出力部は、良好基準値に対応する相対良好基準値と異常基準値に対応する相対異常基準値を表示するグラフ上に相対判定値の時系列を形成し、時系列での相対判定値の変動傾向が異常基準値に対応する相対異常基準値に近づくほどに異常事象が発生する予兆が大きいことを示すことを特徴とする。
【0022】
本発明の回転体および軸受を含む装置の予兆診断装置において、出力部は、相対判定値が設定閾値を超えて相対異常基準値に近い場合に警報を発報することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
以上のように本発明によれば、データ測定工程において診断対象装置の軸受の回転数を推定する。すなわち取得した加速度データを高速フーリエ変換処理して周波数成分を求め、一般的な空調和機における常用回転数範囲である60Hz以下に限定して、ピーク周波数を検出することで、ノイズとなる高周波成分の値に測定値が左右されなくなり、適切に回転数を推定できる。
【0024】
そして、判定値算出工程において、対象軸受の軸受内周面の軸受周速度と軸受加速度の関係において定めた良好基準値と異常基準値との差を相対比較基準値とし、相対的な割合の相対判定値を算出する。よって、測定した軸受加速度の絶対値を相対的な数値レベル、すなわち絶対値での判定基準である良好基準値と異常基準値に対する相対な位置関係で示すことができる。
【0025】
このため、データ評価工程において、各測定時の軸受の回転数に関係なく、測定時毎に相対判定値だけで劣化程度の監視が可能となる。また、各測定時の軸受の回転数が異なる相対判定値を比較して上昇傾向等の故障の兆候をつかむことが出来、相対判定値が異常基準値に対応する相対異常基準値に近いほどに、あるいは相対判定値の時系列を形成し、相対判定値の変動傾向が相対異常基準値に近づくほどに異常事象が発生する予兆が大きいと判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施の形態における回転体および軸受を含む装置の予兆診断装置を示す模式図
図2】本発明の実施の形態における回転体および軸受を含む装置の予兆診断方法における軸受加速度絶対値判定基準グラフを示す図
図3】同実施の形態における回転体および軸受を含む装置の予兆診断方法における軸受加速度相対判定基準グラフを示す図
図4】同実施の形態における回転体および軸受を含む装置の予兆診断方法における加速度経時変化グラフを示す図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0028】
はじめに本発明に係る回転体および軸受を含む装置の予兆診断方法を、空気調和機を診断対象装置として説明する。
(実施例1)
1.データ測定工程
診断対象装置の空気調和機に生じる加速度を加速度センサにより測定する。測定した加速度データの振動波形を高速フーリエ変換処理して周波数成分を求める。求めた周波数成分のうちで診断対象装置内に設置した対象軸受の常用回転数範囲である60Hz以下の周波数成分のピーク周波数を検出する。検出したピーク周波数から空気調和機が有する対象軸受の測定回転数を算出し、加速度センサで測定した加速度データの値を測定加速度とする。すなわち、測定した加速度データの振動波形における全振幅を変位とすると、変位の時間に対する変化率が速度であり、速度の時間に対する変化率が加速度である。
【0029】
このデータ測定工程では、高速フーリエ変換処理して取得した周波数成分のうち、一般的な空調和機における常用回転数範囲である60Hz以下に限定して、ピーク周波数を検出することで、ノイズとなる高周波成分の値に測定値が左右されなくなり、適切に回転数を推定できる。
2.判定値算出工程
図2に示すように、対象軸受の軸受内径と軸受の回転数の積、つまり対象軸受の軸受内周面の軸受周速度を横軸とし、軸受加速度Gを縦軸とする軸受加速度絶対値判定基準グラフを作成する。この軸受加速度絶対値判定基準グラフに、対象軸受の軸受内周面の軸受周速度と軸受加速度の関係において軸受加速度の良好基準値と異常基準値と注意基準値を軸受周速度毎に定める。ここでは、各良好基準値の軌跡を良好レベルA1として、異常基準値の軌跡を異常レベルB1として、注意基準値の軌跡を注意レベルC1として表示している。
【0030】
この軸受加速度絶対値判定基準グラフに、データ測定工程で算出した測定回転数に対応する軸受周速度において測定加速度をプロットする。ここでは、例示として異常な状態と判定する異常軸受のプロットをバツ印で示しており、注意すべきと状態と判定する注意軸受のプロットを四角印で示しており、良好な状態と判定する良好軸受のプロットを三角印で示しており、新品の軸受のプロットを丸印で示している。
【0031】
この軸受加速度絶対値判定基準グラフでは、表示された各プロットの値を相互に比較することに意味がない。すなわち、軸受の回転数が各プロットで異なるからであり、各プロットが測定順に並んでいることもない。したがって、軸受加速度絶対値判定基準グラフでは、軸受の劣化状態の傾向を監視することはできない。
【0032】
このため、軸受加速度絶対値判定基準グラフの良好基準値と異常基準値との差を相対比較基準値として求め、測定回転数に対応する軸受周速度での良好基準値と測定加速度との差を測定加速度差として求め、相対比較基準値に対する測定加速度差の相対的な割合を相対判定値として百分率で算出する。
【0033】
よって、測定した軸受加速度の絶対値を相対的な数値レベル、すなわち絶対値での判定基準である良好基準値と異常基準値に対する相対な位置関係で示すことができる。
3.データ評価工程
図3に示すように、対象軸受の軸受内周面の軸受周速度(対象軸受の軸受内径と軸受の回転数の積)を横軸とし、相対判定値を縦軸とする軸受加速度相対判定基準グラフを作成する。この軸受加速度相対判定基準グラフに、良好基準値に対応する相対良好基準値の軌跡を、ここでは相対判定値0%の良好レベルA2として設定し、異常基準値に対応する相対異常基準値の軌跡を、ここでは相対判定値100%の異常レベルB2として設定し、注意基準値に対応する相対注意基準値の軌跡を、ここでは相対判定値50%の注意レベルC2として設定する。
【0034】
この軸受加速度相対判定基準グラフに判定値算出工程で算出した相対判定値をプロットする。軸受加速度相対判定基準グラフでは、測定加速度を絶対値として表示せず、百分率の相対判定値として表示するので、各測定時の軸受の回転数に関係なく、測定時毎に相対判定値だけで劣化程度の監視が可能となる。
【0035】
また、各測定時の軸受の回転数が異なる相対判定値を比較して上昇傾向等の故障の兆候をつかむことが出来、相対判定値が異常基準値に対応する相対異常基準値に近いほどに、あるいは相対判定値の時系列を形成し、相対判定値の変動傾向が相対異常基準値に近づくほどに異常事象が発生する予兆が大きいと判定することができる。
(実施例2)
データ測定工程および判定値算出工程は、実施例1と同様であり、その説明を省略する。ここでは、データ評価工程について説明する。
【0036】
データ評価工程
図4に示すように、時間を横軸とし、相対判定値を縦軸とする加速度経時変化グラフを作成する。この加速度経時変化グラフに良好基準値に対応する相対良好基準値の軌跡を、ここでは相対判定値0%の良好レベルA3として設定し、異常基準値に対応する相対異常基準値の軌跡を、ここでは相対判定値100%の異常レベルB3として設定し、注意基準値に対応する相対注意基準値の軌跡を、ここでは相対判定値50%の注意レベルC3として設定する。
【0037】
この加速度経時変化グラフに相対判定値を測定順にプロットして相対判定値の時系列からなる軌跡Tを形成し、相対判定値の軌跡Tの変動傾向が相対異常基準値の異常レベルB3に近づくほどに異常事象が発生する予兆が大きいと判定する。
【0038】
以下に、本発明に係る回転体および軸受を含む装置の予兆診断装置を、空気調和機を診断対象装置として説明する。
(実施例3)
図1に示すように、空気調和機1はケーシング2の内部に複数の室を有しており、その一つの室に送風装置3を配置している。送風装置3は架台4の上に設置した駆動モータ5とファン装置6からなり、ファン装置6の回転軸7を駆動モータ5の外装8の内部に設置した軸受(図示省略)が支持している。
【0039】
本実施の形態に係る予兆診断装置9は、センサ部10と制御部11と出力12からなる。センサ部10と制御部11と出力12は、無線通信、有線通信等で接続しており、制御部11と出力12を一体の構成とすることも可能である。
【0040】
センサ部10は、駆動モータ5の外装8に装着し、内部の軸受に対応する位置に設置している。ここでは、センサ部10が空気調和機1に生じる加速度を測定する加速度センサからなり、加速度センサで測定した駆動モータ5の外装8に生じる加速度データを制御部に送信する。
【0041】
制御部11は、ここでは空気調和機1のケーシング2に装着しているが、設置場所に限定はない。制御部11は、センサ部10から受信した加速度データの振動波形を高速フーリエ変換処理して周波数成分を求める高速フーリエ変換部と、求めた周波数成分のうちで診断対象装置内に設置した対象軸受の常用回転数範囲である60Hz以下の周波数成分のピーク周波数を検出するピーク周波数検出部と、検出したピーク周波数から対象軸受の測定回転数を算出し、加速度センサで測定した加速度データの値を測定加速度とする測定値演算部と、相対判定値演算部を有している。
【0042】
相対判定値演算部は、対象軸受の軸受内周面の軸受周速度と軸受加速度の関係において軸受加速度の良好基準値と異常基準値を軸受周速度毎に定め、良好基準値と異常基準値との差を相対比較基準値とし、測定回転数に対応する軸受周速度での良好基準値と測定加速度との差を測定加速度差とし、相対比較基準値に対する測定加速度差の相対的な割合を相対判定値として算出する。この演算は、先に実施例1において説明した判定値算出工程と同様の手順に倣っている。
【0043】
出力部12は、良好基準値に対応する相対良好基準値と異常基準値に対応する相対異常基準値と相対判定値をディスプレイに映すグラフ上の位置関係で相対的に表示する。この表示は、実施例1において説明したデータ評価工程と同様の手順に倣っており、図3に示す軸受加速度相対判定基準グラフをディスプレイに表示する。
【0044】
この軸受加速度相対判定基準グラフでは、測定加速度を絶対値として表示せず、百分率の相対判定値として表示するので、各測定時の軸受の回転数に関係なく、測定時毎に相対判定値だけで劣化程度の監視が可能となる。
【0045】
また、各測定時の軸受の回転数が異なる相対判定値を比較して上昇傾向等の故障の兆候をつかむことが出来、相対判定値が異常基準値に対応する相対異常基準値に近いほどに、あるいは相対判定値の時系列を形成し、相対判定値の変動傾向が相対異常基準値に近づくほどに異常事象が発生する予兆が大きいと判定することができる。
【0046】
そして、出力部12は、相対判定値が設定閾値を超えて相対異常基準値に近い場合に警報を発報する。
(実施例4)
センサ部10および制御部11は、先の実施例3と同様の構成であり、説明を省略する。
【0047】
実施例4では、出力部12において表示する内容がことなる。すなわち、出力部12は、良好基準値に対応する相対良好基準値と異常基準値に対応する相対異常基準値を表示するグラフ上に相対判定値の時系列を形成して表示する。この表示は、実施例2において説明したデータ評価工程と同様の手順に倣っており、図4に示す加速度経時変化グラフを表示する。この加速度経時変化グラフに相対判定値を測定順にプロットして相対判定値の時系列からなる軌跡Tを形成し、時系列での相対判定値の変動傾向が異常基準値に対応する相対異常基準値に近づくほどに異常事象が発生する予兆が大きいことを示す。
【0048】
また、出力部12は、相対判定値が設定閾値を超えて相対異常基準値に近い場合に警報を発報する。
【符号の説明】
【0049】
1 空気調和機
2 ケーシング
3 送風装置
4 架台
5 駆動モータ
6 ファン装置
7 回転軸
8 外装
9 予兆診断装置
10 センサ部
11 制御部
12 出力
図1
図2
図3
図4