(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057130
(43)【公開日】2024-04-24
(54)【発明の名称】振動計測システムおよび振動計測方法
(51)【国際特許分類】
G01H 17/00 20060101AFI20240417BHJP
E21D 9/06 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
G01H17/00 D
E21D9/06 301Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163637
(22)【出願日】2022-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】弁理士法人MIP
(72)【発明者】
【氏名】高村 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】三戸 憲二
(72)【発明者】
【氏名】行川 起央
(72)【発明者】
【氏名】坂野 陽一
(72)【発明者】
【氏名】坪井 広美
【テーマコード(参考)】
2D054
2G064
【Fターム(参考)】
2D054AC01
2G064AA11
2G064AB01
2G064AB02
2G064BA02
2G064CC02
2G064CC13
2G064CC43
2G064DD08
2G064DD12
2G064DD14
2G064DD23
(57)【要約】
【課題】 掘進機が通過する付近の住民にとって問題になる振動が、掘進機による掘進に起因する振動か否かを把握することが可能なシステムおよび方法を提供すること。
【解決手段】 振動計測システムは、地中を掘進する掘進機10に取り付けられ、掘進機10の振動を計測する地中計測器30と、掘進機10が通過する地表面20に配置され、地表面11の振動を計測する地上計測器31と、地中計測器30の計測結果と地上計測器31の計測結果とに基づき、地表面20で認識される振動が掘進機10による掘進に起因する振動か否かを判断する情報処理装置32とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中を掘進する掘進機に取り付けられ、前記掘進機の振動を計測する第1の計測手段と、
前記掘進機が通過する地表面に設置され、前記地表面の振動を計測する第2の計測手段と、
前記第1の計測手段の第1の計測結果と前記第2の計測手段の第2の計測結果とに基づき、前記地表面で認識される振動が前記掘進機による掘進に起因する振動か否かを判断する情報処理手段と
を含む、振動計測システム。
【請求項2】
前記地表面に設置され、所定の周波数範囲の振動を計測可能な第3の計測手段を含み、
前記情報処理手段は、前記第2の計測手段の計測結果もしくは前記第3の計測手段の計測結果またはその両方を用い、前記地表面の振動の値が閾値以上か否かを判断する、請求項1に記載の振動計測システム。
【請求項3】
前記情報処理手段は、前記第2の計測手段の計測結果と前記第3の計測手段の計測結果とを用い、公害振動として認識される振動か、音として認識される可能性がある振動かを判断する、請求項2に記載の振動計測システム。
【請求項4】
前記情報処理手段からの指示に応答して、前記地表面の振動の値が閾値以上の大きさの振動であることを通知する通知手段を含む、請求項2に記載の振動計測システム。
【請求項5】
前記第1の計測手段および前記第2の計測手段は、3軸加速度計である、請求項1に記載の振動計測システム。
【請求項6】
地中を掘進する掘進機に取り付けられる第1の計測手段と、前記掘進機が通過する地表面に設置される第2の計測手段と、情報処理手段とを備える振動計測システムにより実行される振動計測方法であって、
前記第1の計測手段により前記掘進機の振動を計測するステップと、
前記第2の計測手段により前記地表面の振動を計測するステップと、
前記情報処理手段により前記第1の計測手段の第1の計測結果と前記第2の計測手段の第2の計測結果とに基づき、前記地表面で認識される振動が前記掘進機による掘進に起因する振動か否かを判断するステップと
を含む、振動計測方法。
【請求項7】
前記振動計測システムは、前記地表面に設置され、所定の周波数範囲の振動を計測可能な第3の計測手段を含み、
前記情報処理手段により前記第2の計測手段の計測結果もしくは前記第3の計測手段の計測結果またはその両方を用い、前記地表面の振動の値が閾値以上か否かを判断するステップを含む、請求項6に記載の振動計測方法。
【請求項8】
前記情報処理手段により前記第2の計測手段の計測結果と前記第3の計測手段の計測結果とを用い、公害振動として認識される振動か、音として認識される可能性がある振動かを判断するステップを含む、請求項7に記載の振動計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動を計測するシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シールド工法で適用される掘進機や推進工法で適用される掘進機が地中を掘進する際、掘進機前面の回転するカッターが大きい岩を噛んで大きな振動が発生する場合や、掘進機側方の土砂との間で摩擦が発生し、その摩擦で大きな振動が発生する場合等がある。
【0003】
このような大きな振動は、地上に伝搬され、例えば建物や家具等を揺らしたり、高周波数振動の発生によって固体伝搬音として屋内に伝搬したりすることで、苦情の原因となり得る。
【0004】
特徴振動に起因した苦情の発生を抑制する目的で、掘進機の内部に設置された振動センサにより計測されたデータから、地上に影響を与えると推定される特徴振動の有無を特定する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
掘進機が通過する地上部には、掘進機による工事以外の、幹線道路の車両通行等の振動や騒音が多数存在している。従来の上記特許文献1に記載の技術では、地上に影響を与えると推定される特徴振動の有無を特定するのみであるため、掘進機が通過する付近の住民にとって問題になる振動が、掘進機による掘進に起因する振動か否かを把握することはできないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、地中を掘進する掘進機に取り付けられ、該掘進機の振動を計測する第1の計測手段と、
掘進機が通過する地表面に配置され、該地表面の振動を計測する第2の計測手段と、
第1の計測手段の第1の計測結果と第2の計測手段の第2の計測結果とに基づき、地表面で認識される振動が掘進機による掘進に起因する振動か否かを判断する情報処理手段と
を含む、振動計測システムが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、掘進機が通過する付近の住民にとって問題になる振動が、掘進機による掘進に起因する振動か否かを把握することが可能なシステムおよび方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】掘進機に取り付けられる計測器の構成例を示した図。
【
図3】地表面に配置される計測器の構成例を示した図。
【
図4】制御室に設置される情報処理装置の構成例を示した図。
【
図5】振動を計測する処理の流れを示したフローチャート。
【
図6】計測開始から5分後の52秒間の時刻歴と周波数特性を示した図。
【
図7】計測開始から83分後の52秒間の時刻歴と周波数特性を示した図。
【
図8】ローパスフィルター処理後の時刻歴と周波数特性を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本実施形態に係る振動計測システムの構成例を示した図である。振動計測システムは、地中を掘進する掘進機10および地表面において振動を計測し、計測した結果から、掘進機10が通過する付近の住民にとって問題になる振動が、掘進機10による掘進に起因する振動か否かを把握することを可能にするシステムである。
【0011】
掘進機10は、シールド工法で適用されるシールドマシンや、推進工法で適用される推進機等である。
図1は、掘進機10としてシールドマシンを使用した例を示している。シールドマシンは、筒状のシールドの先端にカッターヘッド11を備え、カッターヘッド11で土砂や岩盤を削り取りながら前進し、シールド後方にセグメント12と呼ばれる分割されたブロックを、エレクタ13を使用して組み立て、トンネルの掘削と同時に外殻を同時に構築する掘削機械である。シールド工法は、シールドマシンを使用したトンネル掘削方法である。
【0012】
推進工法は、所定の深さの立坑(縦穴)を発進側と到達側に掘削し、発進側の立坑から到達側の立坑へトンネル状の穴を掘削し、そこへ管を通して開削せずに管渠を埋設する方法である。推進機は、カッターを備える面板を回転させ、推進管を接続し、推進管を油圧ジャッキで推し進めることによりトンネル状の穴を掘削しながら管路を埋設する掘削機械である。
【0013】
掘進機10は、前面のカッターが回転する際、カッターが大きな岩を噛んで大きな振動が発生し得る。また、掘進機10は、掘進機側面が前進する際、その側方の土砂等との間で摩擦を生じて大きな振動が発生し得る。このようにして発生した大きな振動は、周囲の土砂等を介して地表面20へ伝搬される。地表面20には、住宅等の建物があり、建物内には家具等が設置されており、地表面20へ伝搬した振動は、建物や家具等を揺らす原因となる。
【0014】
また、地表面20へ伝搬した振動は、建物の基礎等を振動して伝わり、壁等を振動させて空気中に音(固体伝搬音)として放射される。
【0015】
このような家具等の揺れや、屋内に放射される音は、掘進機10の掘進に伴う振動や騒音として、掘進機10が地下を通過する付近の住民にとって苦情の原因となり得る。
【0016】
掘進機10の掘進に伴う振動や騒音は、例えば掘進機10が通過する地表面20に振動や騒音を計測する機械を設置し、閾値を超えているかを判断することにより、近隣住民の苦情の原因になり得る振動や騒音か否かを判断することができる。
【0017】
しかしながら、地表面20には、地下における掘進機10による工事のほか、幹線道路の車両通行等の工事以外の振動や騒音が多数発生している。近隣住民にとって、自身が感じる振動や騒音は、工事によるものか、工事以外によるものか、その両方によるものか、判別することは困難である。すると、近隣住民は、全てが工事による影響と考えることも想定され、工事を中断しなければならない状況に追い込まれる可能性もあり得る。
【0018】
このため、地表面20の振動や騒音が、掘進機10による工事によるものか否かを判断できることが望ましく、いつでも証拠として提出することができるように、その判断した結果を記録として残しながら、工事を進めていくことが望ましい。
【0019】
これを実現するべく、振動計測システムは、地中計測器30と、地上計測器31と、情報処理装置32とを含む構成とされる。地中計測器30は、掘進機10に取り付けられ、掘進機10の振動を計測する。地上計測器31は、掘進機10が通過する地表面20に配置され、その地表面20の振動を計測する。情報処理装置32は、地中計測器30の第1の計測結果と、地上計測器31の第2の計測結果とに基づき、地表面20で認識される振動が、掘進機10による掘進に起因する振動か否かを判断する。
【0020】
情報処理装置32は、地表面20において計測された第2の計測結果に基づき、保全対象での振動が問題になる大きさかどうかを判断する。地上計測器31は、地表面20の振動を計測するための1つの計測手段のみを備えていてもよいし、2つ以上の計測手段を備えていてもよい。例えば、2つの計測手段を備える場合、1つは、人の感覚とは無関係に振動を計測し、固体伝搬音等を計測することが可能な計測手段とし、もう1つは、人が感知可能なレベルの振動を計測することが可能な計測手段とすることができる。人が感知可能なレベルの振動を計測することが可能な計測手段は、公害による振動(公害振動)や作業環境における振動等を計測することが可能である。このような2つの計測手段を備える地上計測器31では、いずれか一方の計測結果を用い、その計測結果が示す値が、閾値以上であるか否かにより、問題になる大きさかどうかを判断することができる。
【0021】
地上計測器31は、1つの計測手段を備える構成であってもよいが、以下、2つの計測手段を備えるものとして説明する。また、地上計測器31が備える2つの計測手段は、人の感覚とは無関係に振動を計測し、固体伝搬音等を振動として計測することも可能な計測手段が計測した計測結果を第2の計測結果とし、人が感知可能なレベルの振動を計測することが可能な計測手段が計測した計測結果を第3の計測結果として説明する。なお、前者の固体伝搬音を計測可能な計測手段が計測した計測結果を第3の計測結果とし、後者の人が感知可能なレベルの振動を計測可能な計測手段が計測した計測結果を第2の計測結果としてもよい。
【0022】
情報処理装置32は、地表面20において地上計測器31により計測された第2の計測結果と第3の計測結果とから、1Hz~100Hz未満の通常の振動が卓越しているか、100Hz以上の固体伝搬音が問題になっているかを判断することができる。地表面20の振動を地上計測器31の2つの計測手段で同時に計測することにより、公害振動として認識される振動と、音として認識される可能性がある振動をリアルタイムで分離して把握することができる。
【0023】
また、情報処理装置32は、保全対象での振動が問題になる大きさと判断した場合、第1の計測結果と、第2の計測結果もしくは第3の計測結果またはその両方とから、地表面20の振動の大きさの変化の特徴が、掘進機10の振動の大きさの変化の特徴と連動しているかを判断する。これにより、地上部で認識される振動が、掘進機10による掘進に起因する振動か否かを判断することができる。
【0024】
地中計測器30は、掘進機10がシールドマシンである場合、シールドマシンの先端付近の隔壁14等に取り付けることができる。隔壁14は、前面に設けられるカッターヘッド11の後方にあり、チャンバー15と呼ばれる掘削した土砂等を充填する空間を、カッターヘッド11とともに形成する。隔壁14には、スクリューコンベア16が貫通するように設けられ、チャンバー15に充填された土砂等を後方へ送り、トンネル坑外へトラック等を使用して搬出される。なお、地中計測器30の取付箇所は、隔壁14に限定されるものではなく、掘進機10の掘進中の振動を計測することができれば、いかなる位置に取り付けられていてもよい。
【0025】
地上計測器31の2つの計測手段は、掘進機10が通過する地表面20であって、道路、縁石、設置台、固く踏み固めた地盤等の、地表面20の振動を適切に計測することができる固い平面上に設置される。
【0026】
地上計測器31で計測された第2の計測結果および第3の計測結果は、クラウド上のストレージ33へ送られ、保存される。クラウド上のストレージ33は、インターネット34上にあり、インターネット34上には、NTP(Network Time Protocol)サーバ35が存在する。NTPサーバ35は、インターネット34上のあらゆる機器の時刻情報を同期するために、現在の時刻情報を配信するサーバである。NTPサーバ35は、情報処理装置32と地上計測器31とへ現在の時刻情報を配信する。地上計測器31は、計測した第2の計測結果および第3の計測結果に、NTPサーバ35から取得した時刻情報を付加し、ストレージ33へ送信して保存させる。
【0027】
地中計測器30は、情報処理装置32により制御される。地中計測器30により計測された第1の計測結果は、情報処理装置32へ送られ、情報処理装置32がNTPサーバ35から取得した時刻情報を付加し、情報処理装置32内の記憶部に記憶され、リアルタイムに表示される。情報処理装置32は、ストレージ33から第2の計測結果および第3の計測結果も取得し、第1の計測結果とともにリアルタイムに表示する。そして、これらの計測結果を使用し、地表面20で認識される振動が、掘進機10の振動によるものかを判断する。
【0028】
図2は、地中計測器30の構成例を示した図である。地中計測器30は、3軸加速度計40、41と、データ記録装置42と、3軸加速度計40、41とデータ記録装置42とを接続し、3軸加速度計40、41により計測された計測結果を受け付け、データ記録装置42へ出力する接続I/F43とを含む。データ記録装置42は、掘進機10の掘進により発生する粉塵から保護するための防塵ボックスに収納される。3軸加速度計40、41は、1つのみ取り付けられていてもよいし、
図2に示す例のように2つ取り付けられていてもよい。なお、3軸加速度計40、41は、掘進機10に3つ以上取り付けられていてもよい。
【0029】
3軸加速度計40、41が2つ設けられる場合、1つを隔壁14に取り付け、もう1つを円筒状の側壁であるスキンプレートに取り付けることができる。なお、これらの取付位置は一例であり、これらの位置に限定されるものではない。
【0030】
掘進機10は、側方の土砂との摩擦が解放された時等に発生するノッキングにより、本体に大きな振動が発生する。掘進機本体の振動を1軸だけ計測しても、このノッキングの影響を把握することはできない。これは、振動発生の要因によって卓越する振動方向が変化するためであり、全ての方向の振動を把握していなければ、地表面20の振動に与える掘進機本体の振動の影響を判断することができないためである。このため、3軸(x,y,zの3方向)計測可能な3軸加速度計40、41が用いられる。
【0031】
3軸加速度計40、41から受け付けた計測結果は、加速度を示すアナログ信号であり、接続I/F43によりデジタル信号に変換された後、データ記録装置42へ出力される。
【0032】
データ記録装置42は、デジタル信号を加速度データとして記録する。また、データ記録装置42は、ハブ等の中継装置や、異なる媒体間で信号を変換し、通信できるように接続するMC(Media Converter)等を介して光ケーブルに接続され、光ケーブルを介して制御室に設置される監視PC(Personal Computer)等の情報処理装置32と接続される。データ記録装置42は、加速度データを自機に記録するとともに、光ケーブルを介して情報処理装置32へ送信することもできる。なお、データ記録装置42と情報処理装置32とは、光ケーブルにより接続されることに限定されるものではなく、他のケーブルにより接続されていてもよいし、無線接続されていてもよい。
【0033】
図3は、制御室に設置される情報処理装置32の機能構成の一例を示した図である。情報処理装置32は、MCやハブ等の中継装置を介してデータ記録装置42と接続される。情報処理装置32は、データ記録装置42を制御し、データ記録装置42に対して3軸加速度計40、41による加速度の計測を指示する制御部50を備える。情報処理装置32は、3軸加速度計40、41で計測された加速度(3軸)を基に合成加速度を算出する演算部51と、算出された合成加速度に対し、日付時刻を付加して、加速度データを生成する生成部52と、生成した加速度データをグラフ表示させる表示部53と、警告灯としてのパトライト(登録商標)により警報を出力するように指示する警報出力部54と、データを記憶する記憶部55と、過去データをクラウド上のストレージ33へ保存するデータ送信部56とを含む。パトライト(登録商標)は、情報処理装置32の警報出力部54からの指示に応答して、地表面20の振動の値が閾値以上の大きさの振動であり、問題になる振動であることを通知する通知手段として機能する。したがって、問題になる振動であることを通知することができれば、パトライト(登録商標)に限定されるものではない。
【0034】
情報処理装置32は、ハードウェアとして、CPU、ROM、RAM、HDD、通信I/F、入出力I/F等を備え、HDDに上記の処理を実行させるプログラムを実装する。したがって、情報処理装置32は、CPUがHDDに格納されたプログラムをRAMに読み出し、実行することで、上記の各機能部が生成され、各機能が実現される。ここでは、プログラムにより各機能を実現することを説明したが、これに限られるものではなく、電子回路等を用いて一部もしくは全部の機能をハードウェアで実現してもよい。
【0035】
情報処理装置32は、データ受信部57を備え、データ受信部57は、地上計測器31からの第2の計測結果および第3の計測結果を、計測データとして受信する。データ受信部57は、計測データを、クラウド上のストレージ33を介して受信することができる。
【0036】
図4は、地上計測器31の構成例を示した図である。地上計測器31は、2つのセンサとして、3軸加速度計60と、3方向ピックアップ61および振動レベル計62とを含む。3軸加速度計60は、接続I/F63を介してデータ記録装置64と接続される。振動レベル計62とデータ記録装置64は、振動レベル計測PC65と接続され、データ記録装置64に記録された上記第2の計測結果としての加速度データと、振動レベル計62により計測された上記第3の計測結果としての振動レベルデータとを、NTPサーバ35から取得した時刻情報を付与して、クラウド上のストレージ33に送信し、保存する。
【0037】
振動レベル計測PC65は、時刻情報を付与した加速度データと振動レベルデータとを自機にも保存することができる。振動レベル計測PC65は、インターネット34に接続するために、中継装置としてモバイルルータ66と接続される。
【0038】
振動レベル計測PC65は、振動レベル計62とデータ記録装置64に対し、加速度の計測と振動レベルの計測とを指示する。3方向ピックアップ61は、地表面20に設置され、3方向の振動レベルを検知し、アナログの電気信号に変換する装置である。振動レベル計62は、3方向ピックアップ61からアナログの電気信号を受信し、デジタル信号に変換し、振動レベルデータを生成する。振動レベル計62は、メモリカード等の記録媒体を着脱可能に構成されており、記録媒体に振動レベルデータを記録することができる。
【0039】
図3に示した情報処理装置32は、地中計測器30と地上計測器31から取得した加速度データと振動レベルデータを重ね合わせて描画し、表示部53にリアルタイムに表示することができる。これにより、保全対象での振動が問題になる大きさかどうかを判断することができ、また、地表面20の振動の大きさの変化の特徴が、掘進機10の振動の大きさの変化の特徴と連動しているかを判断することができる。さらに、通常の振動が卓越しているか、固体伝搬音が問題になっているかを判断することもできる。
【0040】
図5は、振動計測システムを使用した振動を計測する処理の流れを示したフローチャートである。地中計測器30を掘進機10に取り付け、地上計測器31を地表面20の所定の位置に設置し、ステップ100から開始する。ステップ101では、情報処理装置32から地中計測器30へ3軸加速度の計測を指示し、振動レベル計測PC65から振動レベル計62へ振動レベルの計測、データ記録装置64へ3軸加速度の計測をそれぞれ指示することにより、加速度および振動レベルの計測を開始する。
【0041】
計測は、定期的に実施することができ、例えば1秒間隔で実施することができる。なお、計測する時間間隔は、1秒間隔に限定されるものではなく、いかなる間隔であってもよい。また、時間間隔は、設定により変更することができる。地中計測器30および地上計測器31において、計測した加速度および振動レベルに、NTPサーバ35から取得した時刻情報を付加し、加速度データおよび振動レベルデータを生成する。
【0042】
情報処理装置32は、地中計測器30で計測された加速度データと、地上計測器31で計測された加速度データおよび振動レベルデータとを取得する。そして、情報処理装置32は、取得した各データをリアルタイムに表示する。
【0043】
ステップ102で、情報処理装置32が、地上計測器31により計測された加速度データおよび振動レベルデータに基づき、保全対象での振動が問題になる大きさか否かを判断する。情報処理装置32は、加速度データおよび振動レベルデータのうちの一方、例えば振動レベルデータを用い、振動レベルデータが55dBを超過している場合に、振動が問題になる大きさと判断することができる。なお、これは一例であるので、加速度データを用いて判断してもよいし、55dB以外の値を閾値として用いてもよい。
【0044】
ステップ102で、振動が問題になる大きさではないと判断した場合、ステップ109へ進み、掘進機10の運転を継続するかを判断する。継続すると判断した場合、ステップ102へ戻り、継続しないと判断した場合、ステップ110へ進み、計測を終了する。なお、運転を継続しないと判断することは、掘進機10による掘進を一旦停止すること、異常が発生し、掘進を中断することを含む。
【0045】
ステップ102で、振動が問題になる大きさと判断した場合、ステップ103へ進み、情報処理装置32は、問題になる大きさであることを通知するために、パトライト(登録商標)に対して点灯を指示する。そして、ステップ104へ進み、地上計測器31により計測された加速度データおよび振動レベルデータに基づき、通常の振動が卓越しているのか、固体伝搬音が問題になっているのかという振動特性を判断する。
【0046】
振動レベルデータは、通常の振動を示し、100Hz未満のデータである。一方、加速度データは、固体伝搬音として認識される振動等の100Hz以上のデータを含む。したがって、卓越する周波数が100Hz未満であるのか、100Hz以上であるかにより、通常の振動が問題になっているのか、固体伝搬音が問題になっているのかを判断することができる。通常の振動が問題になっている場合、ステップ105へ進み、固体伝搬音が問題になっている場合、ステップ106へ進む。
【0047】
ステップ107で、情報処理装置32は、地表面20の振動の大きさの変化の特徴が、掘進機10の振動の大きさの変化の特徴と連動しているかを判断する。
【0048】
例えば、掘進機10の振動の大きさが時間の経過とともに大きく、もしくは小さくなっていて、地表面20の振動の大きさも、同じような割合で時間の経過とともに大きく、もしくは小さくなっている場合は、振動の大きさの変化の特徴が連動していると判断することができる。また、掘進機10の振動のピークと、地表面20の振動のピークが、一定の遅延時間だけずれて同じように現れている場合も、振動の大きさの変化の特徴が連動していると判断することができる。なお、掘進機10の振動の大きさが時間の経過とともに大きくなっているにも関わらず、地表面20の振動の大きさがほぼ一定などの場合は、振動の大きさの変化の特徴が連動していないと判断することができる。
【0049】
ステップ107で連動していないと判断した場合、問題になっている振動が、掘進機10による工事以外の振動が要因と考えられるため、掘進機10を低振動運転にする必要はないと判断し、ステップ109へ進み、掘進機10の運転を継続するかを判断する。
【0050】
ステップ107で連動していると判断した場合、掘進機10による工事が要因と考えられることから、掘進機10を低振動運転にする必要があると判断する。したがって、ステップ108へ進み、掘進機10を低振動運転にする。掘進機10は、例えば、掘進機10の掘進速度を下げる、もしくはカッター回転数を変化させる、その両方を実施する等の掘進条件を変更することにより低振動運転にすることができる。掘進機10を低振動運転にした後、ステップ109へ進み、掘進機10の運転を継続するかを判断する。
【0051】
ここでは、地表面20の振動の大きさの変化の特徴が、掘進機10で計測した振動の大きさの変化と連動しているかのみを判断しているが、1方向の振動だけが卓越するノッキングの特徴の有無により、掘進機10がノッキングを起こしたか否かを判断してもよい。
【0052】
地中計測器30および地上計測器31で使用される振動を計測する計測手段は、振動を計測することができれば、3軸加速度計に限定されるものではなく、速度計等であってもよい。
【0053】
また、振動計測システム内に各データを、時刻情報に基づいて記録しておくことで、地表面振動の影響が掘進機10による工事によるものか、その工事以外の要因によるものかを判断できる証拠を残しながら、施工を進めることができる。
【0054】
ここに、3軸加速度センサ(共和電業社製AMA-A-5、計測可能周波数範囲:DC~500Hz)を、掘進機10としてのシールドマシンの隔壁近傍に取り付け、その隔壁近傍での振動を計測した結果から、実際にノッキング振動を把握できるか否かについて検討を行った結果を示す。
【0055】
計測は、約90分にわたって実施したが、全ての時刻歴を表示することは困難であるため、計測開始から5分後および83分後の52秒間の時刻歴と周波数特性を、
図6および
図7に示す。
図6は、計測開始から5分後の振動特性を示し、
図6(a)は、経過時間(sec)と各軸方向の加速度(m/s
2)との関係を示した時刻歴のグラフであり、
図6(b)は、周波数(Hz)と各軸方向の加速度(m/s
2)との関係を示した周波数特性のグラフである。
図7は、計測開始から83分後の振動特性を示し、
図7(a)は、経過時間(sec)と各軸方向の加速度(m/s
2)との関係を示した時刻歴のグラフであり、
図7(b)は、周波数(Hz)と各軸方向の加速度(m/s
2)との関係を示した周波数特性のグラフである。x軸方向が、掘進機10が掘進する方向であり、y軸方向が、地表面20に対して略平行な水平方向であって、掘進機10が掘進する方向に対して垂直な方向であり、z軸方向が、地表面20に対して略垂直な鉛直方向である。
【0056】
図6(b)および
図7(b)を参照すると、シールドマシンの掘進時の隔壁付近の振動は、300Hz付近が卓越している。このため、300Hz付近が、シールドマシンの機械振動と推定することができる。ここで、
図7(b)を参照すると、x軸(掘進方向)において10Hz付近の低周波数帯にも卓越周波数が認められる。
【0057】
この影響を確認するため、300Hz付近で卓越する周波数特性を削除するべく、フーリエ変換にて周波数領域に変換し、200Hz以降の高周波数成分の影響を0とし、ローパスフィルタ処理により再度時刻歴に変換した。ローパスフィルタ処理した結果を、
図8に示す。
図8(a)は、経過時間(sec)と各軸方向の加速度(m/s
2)との関係を示した時刻歴のグラフであり、
図8(b)は、周波数(Hz)と各軸方向の加速度(m/s
2)との関係を示した周波数特性のグラフである。
【0058】
図8(a)を参照すると、x軸の加速度の振幅が、y軸、z軸の加速度の振幅より大きい。また、
図8(b)を参照すると、加速度最大値は小さいが、x軸の10Hz付近のみが卓越した形で現れている。このようなx軸の加速度のみが卓越する現象は、掘進方向のみへ振動が生じていることを示しており、
図8(b)に示す周波数特性は、ノッキング振動が発生していたための周波数特性であると確認できた。
【0059】
以上に説明してきたように、本システムおよび本方法では、掘進機10の振動と、地表面20の振動を常時計測することで、工事による影響と、工事以外の影響を判断しながら施工することができる。このため、工事による影響と判断した場合、掘進速度を落とす等の対策を早急に実施できる体制を構築することができる。
【0060】
また、地上部の状態についても、地上計測器31により常時把握できているため、工事発注者や保全対象の住民等に対しても、振動に関する施工状況の記録から、地表面20で認識される振動が、工事による影響ではないこと、あるいは工事による影響であるが、対策を講じて問題にならない大きさに低減したこと等を説明することが可能となる。
【0061】
これまで本発明の振動計測システムおよび振動計測方法について図面に示した実施形態を参照しながら詳細に説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態や、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。したがって、地中で振動を発生させるような機械であれば、掘進機以外の機械に対しても適用することが可能である。
【符号の説明】
【0062】
10…掘進機
11…カッターヘッド
12…セグメント
13…エレクタ
14…隔壁
15…チャンバー
16…スクリューコンベア
20…地表面
30…地中計測器
31…地上計測器
32…情報処理装置
33…ストレージ
34…インターネット
35…NTPサーバ
40、41…3軸加速度計
42…データ記録装置
43…接続I/F
50…制御部
51…演算部
52…生成部
53…表示部
54…警報出力部
55…記憶部
56…データ送信部
57…データ受信部
60…3軸加速度計
61…3方向ピックアップ
62…振動レベル計
63…接続I/F
64…データ記録装置
65…振動レベル計測PC
66…モバイルルータ