(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057137
(43)【公開日】2024-04-24
(54)【発明の名称】寒冷地植栽保全装置、寒冷地植栽保全方法および寒冷地運動施設用芝管理方法
(51)【国際特許分類】
A01G 20/00 20180101AFI20240417BHJP
【FI】
A01G20/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163656
(22)【出願日】2022-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000204192
【氏名又は名称】太陽工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】屋祢下 亮
(72)【発明者】
【氏名】上村 尚
【テーマコード(参考)】
2B022
【Fターム(参考)】
2B022AB04
2B022AB08
2B022BA21
2B022BB03
2B022DA17
(57)【要約】
【課題】植栽の上に加温シートを敷設する際、加温シートが植栽面に直接触れることによってシート直下の植物が痛んでしまうことを防ぐ技術を開発する。
【解決手段】立体網状構造体、通気性・透水性シート加温シートとを備えた保全シート体と、
加温シートの温度を調整する制御盤と、
を備えた、寒冷地の植栽を保護する寒冷地植栽保全装置であって、
保全シート体は、植栽面側から上側に向けて、立体網状構造体、通気性・透水性シート植栽用加温シートの順に配置されており、
制御盤で加温シートの温度を制御することを特徴とする寒冷地植栽保全装置。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体網状構造体、通気性・透水性シート、加温シートを備えた保全シート体と、
加温シートの温度を調整する制御盤と、
を備えた、寒冷地の植栽を保護する寒冷地植栽保全装置であって、
保全シート体は、植栽面側から上側に向けて、立体網状構造体、通気性・透水性シート、加温シートの順に配置されており、
制御盤で加温シートの温度を制御することを特徴とする寒冷地植栽保全装置。
【請求項2】
立体網状構造体の上面側に通気性・透水性シートが一体に設けられていることを特徴とする請求項1記載の寒冷地植栽保全装置。
【請求項3】
植栽面から加温シートの間、または加温シートの表面に温度センサーが取り付けられており、制御盤は、温度センサーの検知温度に基づいて制御することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載された寒冷地植栽保全装置。
【請求項4】
請求項1記載の寒冷地植栽保全装置を設置して寒冷地の植栽を保全する方法であって、
寒冷地の植栽の上に、立体網状構造体、通気性・透水性シート、加温シートの順に被せて、制御盤を調整して温度を制御することを特徴とする寒冷地植栽保全方法。
【請求項5】
寒冷地の植栽が、運動施設に設けられた芝であることを特徴とする請求項4記載の寒冷地植栽保全方法。
【請求項6】
芝面の温度を0~8℃に維持するように加温シートの温度を制御することを特徴とする請求項5記載の寒冷地植栽保全方法。
【請求項7】
運動施設が、球技用競技場、陸上競技場、ゴルフ場のいずれかであることを特徴とする請求項5記載の寒冷地植栽保全方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寒冷地の植栽を保全する技術に関する。特に、寒冷地の運動施設の芝の管理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
北陸、東北、北海道等の豪雪地帯にあるサッカースタジアムでは、冬から春にかけて試合を開催する際、芝生の上に積った雪を除雪する必要がある。近年、Jリーグの開幕時期が早まっており、豪雪地帯にあるサッカースタジアムにおいて融雪、除雪は喫緊の課題となっている。また、豪雪地帯以外のスタジアムであっても、試合開催の前日や当日の積雪、植栽土壌や植栽面の凍結、霜等による影響が懸念されている。なお、芝生の上に雪が積もっていると、雪が断熱材となって地表面の温度が5℃程度に保たれているため、凍害などによって芝が枯死するほど温度が下がることはない。その代わりに、冬季に除雪してしまうと、芝が低温にさらされて枯死してしまうことがあるため、除雪後、芝が枯れない程度に地温を保ち、芝を養生することについて配慮しなければならない。
したがって、芝生上に積もった雪を除雪する、あるいは降ってくる雪が積もらないよう融かしながら、植栽土壌や植栽面の温度を保つことによって芝が枯死することを防ぐ技術の開発が求められている。
【0003】
例えば特許文献1(特開平10-306405号公報)には、芝を育成するために、予め地中に埋設された管材に温水等の熱媒体を流通させることで、植栽土壌を加温する方法が開示されている。また、同様の方法として、地中に電熱線を埋設しておくことで、植栽土壌を加温する方法も採用されている。なお、運営しているスタジアムなどの施設に後から熱媒体を設置することは難しい。
特許文献2(特開2000-197415号公報)には、融雪対象芝生面または積雪防止対象芝生面に、散水設備およびヒーティング設備を併設し、降雪状況または積雪状況に応じてこれら散水設備およびヒーティング設備のうちから選択されたいずれか一方により、または両設備を併用することによって、融雪または積雪防止を行う設備を備えたサッカー場などが開示されている。
【0004】
特許文献3(特開昭61-78624号公報)には、ポリウレタンフォーム製保温材、断熱材、防水材その他の芯材を、耐候性、防水性等を持たせるために表装材で被覆した育苗用の保温マットが開示されている。
特許文献4(実開平6-52433号公報)には、経糸に合成樹脂製のモノフィラメントを用い、緯糸にアルミニウム蒸着を施した合成樹脂製のフラットヤ-ンを用いて織成したクロスシ-トにおいて、緯糸を隣接した状態で打ち込み且つ経糸を緯糸の打ち込み密度の2倍以上として、芝生の窒息を防止するための通気性と、養生のための保温性確保する冬季の芝生の保護用の被覆シ-トが開示されている。
また、特許文献5(特開2019-183493号公報)には、複数のヒーターユニットと、ヒーターユニット同士を連結する連結手段とを有した植栽用加温シートを用いた植栽土壌の加温方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-306405号公報
【特許文献2】特開2000-197415号公報
【特許文献3】特開昭61-78624号公報
【特許文献4】実開平6-52433号公報
【特許文献5】特開2019-183493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
植栽面の上に加温シートを敷設すると、加温シートが植栽面に直接触れた部分の植物が痛んでしまうことがあった。本発明は、植栽の上に加温シートを敷設する際、加温シートが植栽面に直接触れることによってシート直下の植物が痛んでしまうことを防ぐ技術を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1.立体網状構造体、通気性・透水性シート、加温シートを備えた保全シート体と、
加温シートの温度を調整する制御盤と、
を備えた、寒冷地の植栽を保護する寒冷地植栽保全装置であって、
保全シート体は、植栽面側から上側に向けて、立体網状構造体、通気性・透水性シート、加温シートの順に配置されており、
制御盤で加温シートの温度を制御することを特徴とする寒冷地植栽保全装置。
2.立体網状構造体の上面側に通気性・透水性シートが一体に設けられていることを特徴とする1.記載の寒冷地植栽保全装置。
3.植栽面から加温シートの間、または加温シートの表面に温度センサーが取り付けられており、制御盤は、温度センサーの検知温度に基づいて制御することを特徴とする1.又は2.に記載された寒冷地植栽保全装置。
4.1.記載の寒冷地植栽保全装置を設置して寒冷地の植栽を保全する方法であって、
寒冷地の植栽の上に、立体網状構造体、通気性・透水性シート、加温シートの順に被せて、制御盤を調整して温度を制御することを特徴とする寒冷地植栽保全方法。
5.寒冷地の植栽が、運動施設に設けられた芝であることを特徴とする4.記載の寒冷地植栽保全方法。
6.芝面の温度を0~8℃に維持するように加温シートの温度を制御することを特徴とする5.記載の寒冷地植栽保全方法。
7.運動施設が、球技用競技場(サッカー場、野球場、ラグビー場など)、陸上競技場、ゴルフ場(ゴルフ練習場も含む)のいずれかであることを特徴とする5.記載の寒冷地植栽保全方法。
【発明の効果】
【0008】
1.本発明によって、植栽面と加温シートの間に立体網状構造体を設置することによって、上から降ってくる雪をシートの熱で融かしながら、融雪水を透過させて、植物の周囲の空間を植物が枯死しない程度の温湿度に保つことによって、植物に対する低温障害防止と高温障害防止を図り、健全な状態に維持することができる。
2.本発明の寒冷地植栽保全装置は、寒冷地の植栽面に立体網状構造体を配置し、通気性・透水性シートを介して加温シートを設けて、この加温シートを加熱することにより、保温力を高めて植栽を低温の害から保全することができる。通気性・透水性シートは、立体網状構造体の上面に一体に設けることもできる。あるいは、別体に設けることもできる。また、外側にある加温シートが融雪するので、除雪する必要がない。本発明の寒冷地植栽保全装置を運動施設に使用することにより、寒冷地でも冬季にも運動施設を利用することができる。特に、芝を用いたサッカー場などの球技用施設やゴルフ場、ゴルフ練習場では施設の利用性を高めることができる。
本発明において、冬季とは、寒さで芝などの対象の植栽が痛む(例えば、低温によって芝の生育量が低下したり、茎葉に生育障害が発生したりすること。)時期をいい、暦上の冬季とは異なる。例えば、春に寒波や雪が降って、寒さによる芝に悪影響が出る場合も本発明の冬季に相当し、また、秋に同様の状態が発生した場合も本発明の冬季に相当する。春や秋に芝の寒さによる悪影響が想定されるときは、予防的に本発明を適用することができる。したがって、本発明は、寒冷地の冬季間に利用されるものであるが、春秋季間においても、冷気や積雪が予想される時には、予防措置として利用することができる。
3.本発明は、加温シートの下面から伝わる熱によって、植栽面と加温シートの間にある立体網状構造体内の空間が温められ、通気性・透水性シートに覆われた立体網状構造体は暖められた空気を立体網状構造体内の空間に保つので、厳冬季においても立体網状構造体によって形成される空間や地表面の温度が、植物に凍害などが発生するほど下がることはない。
立体網状構造体、通気性・透水性シートとも透水性を有しており、雪解け水が滞留することなく植栽土壌へ浸透するため、立体網状構造体内の空間が過湿になって、植物が蒸れてしまうこともない。
立体網状構造体自体の温度が上がっても、立体網状構造体の繊維のみが植物に触れているため、植物に高温障害が発生することもない。
4.冬季に運動施設の芝生表面が凍結してしまうと、芝の根が切れてしまうので土壌を凍結しない温度に保持することが必要である。本発明では、芝生面の温度を5℃~0℃程度に管理することにより、芝が健康でサッカーなどの運動に耐えうる状態を保つことができる。加温シートの温度を10℃~5℃程度に制御することにより、芝生面をこの温度にすることができる。
冬季間中、低温などによって芝が痛みやすい部分に植栽保全装置を敷設し、芝の生育を促進することによって、グラウンド全体の芝を均一に仕上げることができる。
5.寒冷地や豪雪地におけるサッカースタジアムにて、冬季間に試合を行う際、除雪する手間、およびコストを削減することが可能となる。試合前に降雪や霜害の発生が予測され試合の開催が危ぶまれる場合、植栽保全装置を掛け外しすることによって、遅延なく試合を開催することができる。
芝生の上に植栽保全装置を設置することで融雪や地温の加温ができるため、新設、既設を問わず、天然芝グラウンドを備えたスタジアムに導入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、立体網状構造体、加温シートを備えた保全シート体と、加温シートの温度を調整する制御盤とを備えた、寒冷地の植栽を保護する寒冷地植栽保全装置である。保全シート体は、植栽面側から上側に向けて、立体網状構造体、植栽用加温シートの順に配置されており、制御盤で加温シートの温度を制御する。立体網状構造体の上面に一体あるいは別体に通気性・透水性シートを設けて、保温機能を高めることが好ましい。
本発明は、植栽面の上にポリエステルなどの人工繊維からなる網状の立体構造体を設置し、その立体網状構造体の表面を透水性があり、且つ保温性を備えた通気性・透水性シートで覆ったのち、その上に加温シートを敷設して、植栽面の上に加温シートが植栽面に直接触れることがなく、適切な温度空間が植栽面に形成されることによって、シート直下の植物が痛んでしまうことを防ぐことができ、芝などの植栽を健全に保つことができる。
通気性・透水性シートで覆われた立体網状構造体の上に設置される加温シートに通電すると、シートの表面が10℃程度になり、降ってくる雪を融かすことができる。また、加温シートの下面から伝わる熱によって、植栽面と加温シートの間にある立体網状構造体内の空間が5℃程度に温められる。このとき、立体網状構造体は通気性・透水性シートに覆われ、温められた空気が立体網状構造体内の空間に保たれるため、厳冬季においても立体網状構造体によって形成される空間や地表面の温度が、雪が積もっていなくても植物に凍害などが発生するほど下がることはない。
導電性繊維などを利用した面発熱体で形成された加温シートも融雪水を通過する必要があるので、通水性を備えている。加温シートの通水性は、全面に通水性を備えるか、部分的に通水性を備えることができる。
立体網状構造体と通気性・透水性シートの大きさに制限はなく、ロール状あるいは折りたたんだものを、広い運動フィールドへ広げることができる。一方、加温シートは、数十センチメートルから1メートル四方程度をユニットとして、連結して広い面積に展開することになる。加温シートのユニット間から放熱するので、加温シートの下面に植栽面を広く覆うことができる通気性・透水性シートを配置して、立体網状構造体で形成される空間の保温性を図る。
また、通気性・透水性シートと立体網状構造体で形成される空間が形成されるので、その上面に配置される加温シートは、隙間を開けて配置しても、空間内の温度を保つことができる。
立体網状構造体、通気性・透水性シートとも透水性に優れ、雪解け水が滞留することなく植栽土壌へ浸透するため、立体網状構造体内の空間が過湿になって、植物が蒸れてしまうこともない。また、立体網状構造体自体の温度が上がっても、繊維のみが植物に触れているため、植物に高温障害が発生することもない。
植栽面の上に加温シートを敷設する際、植栽面と加温シートの間に立体網状構造体を設置し、これを透水性、保温性に優れる通気性・透水性シートで覆うことによって、上から降ってくる雪をシート表面の熱で融かしながら、植物の周囲の空間を植物が枯死しない程度の温湿度に保つことが可能となった。
【0011】
冬季間中、植栽用加温シートを植栽面の上に敷設して、融雪しながら凍害などによって植物が枯死しないように保全する方法について、以下に示す。
本発明は、サッカー場などスポーツに使われるグラウンドに植える芝が主な対象植物である。
Jリーグに使われるサッカースタジアムでは、Jリーグが閉幕する12月上旬から、次のシーズンが開幕する2月中旬までの2ヶ月間が冬季の養生期間である。冬季のサッカースタジアムにおいては、低温によって芝が痛むのを防ぐため、養生期間中、芝生の上に透水性に優れ、且つ保温性を備えた養生シートを敷設する。それに対して、豪雪地帯にあるスタジアムでは、芝生の上にそのまま雪を積もらせて、雪を断熱材にして芝が凍結害などによって枯れてしまうことを防いでいる。新しいシーズンが開幕する10日前ぐらいから除雪作業を行う。
そこで、本発明では、豪雪地帯にあるスタジアムにおいて、Jリーグ閉幕後、降ってくる雪を融かしてしまうのと、芝が低温にさらされて枯死しないよう養生するために、芝生の上に植栽用加温シートを設置する。
本発明は、サッカー場に限らず、陸上競技場、野球場、ラグビー場、ゴルフ場、ゴルフ練習場などでも利用することができる。
【0012】
図1に寒冷地植栽保全装置の設置例を示す。
図2に
図1に示した寒冷地植栽保全の断面構成を示す。
本発明では、芝生面(植栽面)6の上に立体網状構造体2を設置する。このとき、芝生の上に雪が積もっている場合には、作業に障害があるならば、一旦、除雪してから設置作業を行う。
設置する立体網状構造体はポリエステルなど人工繊維からなり、透水性があり、20~50mmほど厚みがあるものを用いる。
その後、通気性と透水性に優れ、且つ保温性のある通気性・透水性シート3で立体網状構造体2の表面と側面を覆う。通気性・透水性シートは、適度な空隙があって透水性、通気性が確保されており、保温性も備えているシートである。通気性・透水性シートで立体網状構造体を覆う際には、通気性・透水性シートを立体網状構造体よりも100~200mmほど広めに敷設し、通気性・透水性シートの端部にU字型の止めピンなどを刺して芝生と固定する。その後、通気性・透水性シート3の上に、通電すると発熱する加温シート4を設置する。その際、加温シート4が飛散しないように、U字型の止めピン(省略)などを打ち込んで植栽面に固定して、寒冷地植栽保全装置10を構成する。
【0013】
温度センサ52は、立体網状構造体2を敷設する際に適宜の箇所に配置し、センサケーブル53で制御盤5に接続する。加温シート4と制御盤5はケーブル51で接続される。
加温シートに対して制御盤から電流の出力を調整して、養生期間中加温シートに通電する。温度管理は、設置された温度センサーの検知温度に基づいて、芝面が0~5℃になるように冬季養生期間中、通電管理する。このようにすると、、冬季養生期間中、シートの下表面が10℃程度に温められて、降ってくる雪を融かし、また、立体網状構造体の空間も0~5℃程度になり、芝が枯れないように養生することができる。
なお、温度センサーの配置は、加温シートの上下面、通気性・透水性シートの下面、立体網状構造体の内部あるいは芝生面とすることができる。
【0014】
シーズン開幕に向けては、試合前々日、あるいは前日に準備作業に着手する。電源を切ったのち、加温シート、通気性・透水性シート、立体網状構造体をそれぞれ撤去し、露出した芝生面を軽く刈り揃えて、試合に備える。
冬季養生期間中、雪解け水が停滞することなく浸透するため、植栽土壌が適度に乾いており、芝の根系が腐ることもなく越冬前と根張り状況を保つことができるため、プレーに適した状態で芝を提供することができる。
試合終了後、天候状況に応じて、降雪が予測される場合には、再度、立体網状構造体、通気性・透水性シート、加温シートを芝生の上に敷設し、雪が積もらないよう養生することができる。また、雪が降りそうになく、徐々に気温が高くなることが予測される場合には、芝生の上に通気性・透水性シートのみ敷設してもよい。
このように、通電することによって温まる加温シートと、通気性・透水性シート、立体網状構造体といった比較的軽量な資材を掛け外しするのみで、試合ごとに除雪する必要もなく、短期間で試合に使える芝生を提供することができる。
【0015】
<立体網状構造体>
立体網状構造体は、ばねのように加工されたポリエチレンやポリスチレンなどプラスチック製の繊維を三次元的に形成し、マット状に成形された資材である。マット内に空隙が多く、通気性、透水性が高いことと、繊維が自立しているため耐荷重性が高く、積雪でつぶれることがなく、適切な空間を維持することができる。本発明では、厚さ10~70mmのマットを利用することができる。幅と長さは大きい方が適しているが、ハンドリング性や収納との関係で決定される。
例えば、立体網状構造体の構成は、特開2001-328153号公報、特開2001-145422号公報などに開示されている。
【0016】
<通気性・透水性シート>
通気性・透水性シートは、織布、不織布あるいは、詰まった網目状シートで形成される。例えば、ポリエチレンなどプラスチックの繊維を網目状に圧着成形されたシートである。
透明な繊維製の場合、透光性があるため、シートで覆われた芝生面、植栽面に日光が入り、緑を保つことができる。また、通気性が高く、植物が蒸散する水分がシート内にこもることなく蒸発するため、芝や植栽が蒸れてしまうことはない。
例えば、実開平6-52433号公報などに例示された、本シートを用いることができる。
【0017】
<加温シート>
加温シートは、面発熱体を使用することができる。通電する発熱部分は密閉されて露出しないようになっている。本発明者が先に提案した特開2019-183493号公報に開示した加温シートを利用することができる。この提案では、ラダー構造になっており、1m方形の発熱体を連結して、形成している。
通電及び発熱に関する構造は、面発熱体として公知であるので、割愛する。例えば、特開2017-224397号公報などにも開示されている。
【0018】
<制御盤>
制御盤は、加温シートに通電するための電気制御盤である。温度センサーで検知された温度に基づいて、制御される。例えば、外気温が想定の範囲内であれば、加温シートの発熱量(=通電量)を一定にし、想定外に低くなった場合に、温度センサーの検知によって、通電量を増加させるなど、常に可変制御を行う必要はない。
温度センサーの配置は、温度センサーを加温シートの上下面に一体にとりつけることもできる。あるいは、芝生面に配置することもできる。配置箇所は、1か所に限らず、複数設けることができ、制御も、日陰や風当たりなどの条件に応じて、部分に応じた制御を行う。
加温シートの表面に温度センサーをつけた場合、シート表面の温度が上がり傾向にあるのか、下がり傾向にあるのかを感知して出力制御する予防的な制御方法を行うことができる。
【実施例0019】
札幌市内の天然芝グラウンドの一画にてある年末に試験区を設置し、翌2月まで芝の上に加温シートを設置する試験を行った。試験区では既に約60cmの積雪があったため、芝生の上に積もった雪を除雪してから12m
2試験区を設置した。
図3、4に設置した試験区の状態を示す。
除雪した芝生面6の上に立体網状構造体2としてエンドレンマット(前田工繊社製、幅300mm×長さ2,000mm×厚さ30mm)を3枚敷設し、その表面と側面を覆うように通気性・透水性シート3としてサンサンスクリーン(日本ワイドクロス社製)を敷いた。その際、立体網状構造体2の側面まで通気性・透水性シート3で覆うよう、立体網状構造体2よりも100~200mmほど広めに通気性・透水性シート3を敷いて、その端部を止めピンで芝生に固定した。
次いで、通気性・透水性シート3を敷いた上に、通電すると発熱する繊維を透明なPET製シートによって挟んだ植栽用加温シート4(幅900mm×長さ1,800mm)を設置した。加温シート4が飛散してしまうことを防ぐため、加温シート4の端部に6ヶ所穴を開け、止めピンを差して芝生面に固定した。加温シート4のケーブル51を図外の電源である制御盤に接続した。加温シート4の表面温度を確認しながら通電する電気の出力量を調整し、通気性・透水性シートの下側の温度が5℃ぐらいになるよう温度センサーによって、シート表面の温度が5℃よりも下がる傾向にあるのか、上がる傾向にあるのか感知して出力制御し、通電することとした。
【0020】
この条件で、降ってくる雪の融雪状況や、芝の状態を経過観察するとともに、通気性・透水性シート4の下面、立体網状構造体シート2の中、芝生表面6にそれぞれ温度センサー(図示略)を設置し、各部位の温度推移を計測した。
札幌市内では、試験中に計292cmほど降雪があり(アメダス気象データより)、試験終了時に天然芝グラウンドには100cm近くの積雪があったが、シートの上に雪は積もっていなかった(
図4参照)。
【0021】
試験終了時にシートを外して芝の状況(
図4(b)参照)を観察したところ、低温によって芝の葉色が低下したり、過湿になって茎葉が腐ったりするような状況は見られず、健全な状態で維持されていることが確認された。基盤土壌については、表層が凍結することなく、雪解け水も停滞することなく浸透しており、表層~-7cmまでの土壌含水率は20~25%程度で、芝の生育に適した状態を保っていた。各部位にて計測した温度については、通気性・透水性シート下表面で平均5.4℃(-4.0~19.5℃)、立体網状構造体内の空間では平均5.3℃(-2.5~19.5℃)、芝表面の温度は平均3.5℃(-0.5~10.5℃)で推移していた。特に芝の生育に影響を及ぼす芝表面の温度が氷点下を大きく下回ることがなく、芝に凍結害が発生しない程度の温度に保つことができた。
【0022】
さらに、加温シート4を外した後の芝生がサッカーに適した品質を備えているか確認するために、FIFAが定める方法にしたがってクレッグインパクトソイルテスターを用いて芝の表面硬度を調べた。5回計測した計測値の平均は106.2 CIV(105~107 CIV)で、サッカーに適した表面硬度値として設定されている80~120 CIVの範囲内だった。
この試験に先だって行った、立体網状構造体なしで芝生の上に加温シートを直接敷設して、融雪試験を行った際には、シートと芝が接触している箇所で、芝が雪解け水で湿ったまま加温され、蒸れて芝の密度が低下し、芝生面が硬くなってしまった。
本発明では、十分に試合用のサッカー場の条件を満たすことが明らかとなった。
以上のことから、通気性・透水性シートで覆われた立体網状構造体を芝生の上に設置し、その上に加温シートを敷設することによって、冬季間中、雪が積もらず、立体網状構造体の空間や芝表面の温度を適度に維持することができ、芝生をサッカーのプレーに適した状態に維持できることが明らかとなった。
本発明は、十分に試合用のサッカー場の条件を満たすことが明らかとなった。