(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057168
(43)【公開日】2024-04-24
(54)【発明の名称】スプール弁装置
(51)【国際特許分類】
F16K 31/04 20060101AFI20240417BHJP
【FI】
F16K31/04 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163702
(22)【出願日】2022-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】成田 慎治
(72)【発明者】
【氏名】尾形 麻里子
(72)【発明者】
【氏名】田中 英紀
【テーマコード(参考)】
3H062
【Fターム(参考)】
3H062AA06
3H062AA14
3H062BB08
3H062CC01
3H062DD01
3H062EE06
3H062FF41
3H062GG06
(57)【要約】
【課題】起動ごとにスプールの挙動が異なることを防止することができるスプール弁装置を提供する。
【解決手段】一実施形態に係るスプール弁装置1は、電動モータ7の回転運動をスプール3の直線運動に変換する直動機構5と、位置指令に応じて電動モータ7へ電流を送給する制御装置8と、スプール3を中立位置に維持するように付勢するスプリング6を含む。制御装置8には、ゼロイング試験において確認されたゼロイング値と、前記ゼロイング試験の開始時の電動モータ7の角度位置と前記ゼロイング値との偏差であるオフセット値が記憶されている。制御装置8は、電源投入時の電動モータ7の角度位置である起動時角度位置と前記ゼロイング値との偏差から中立復帰誤差を算出し、前記位置指令に対して前記オフセット値および前記中立復帰誤差を減算して電動モータ7へ送給する電流を決定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ通路、少なくとも1つの給排通路およびスプール穴を含むハウジングと、
前記スプール穴に挿入された、前記ポンプ通路と前記少なくとも1つの給排通路との間の接続状態を切り換えるスプールと、
電動モータと、
前記電動モータの回転運動を前記スプールの直線運動に変換する、ねじ軸およびナットを含む直動機構と、
位置指令に応じて前記電動モータへ電流を送給する制御装置と、
前記電動モータの角度位置を検出する角度位置検出器と、
前記電動モータへ電流が送給されていないときに前記スプールを中立位置に維持するように付勢するスプリングと、を備え、
前記制御装置には、ゼロイング試験において前記角度位置検出器により確認された、前記スプールが特定位置に位置するときの前記電動モータの角度位置がゼロイング値として記憶されるとともに、前記ゼロイング試験の開始時の前記電動モータの角度位置と前記ゼロイング値との偏差がオフセット値として記憶され、
前記制御装置は、電源投入時の前記電動モータの角度位置である起動時角度位置と前記ゼロイング値との偏差から中立復帰誤差を算出し、前記位置指令に対して前記オフセット値および前記中立復帰誤差を減算して前記電動モータへ送給する電流を決定する、スプール弁装置。
【請求項2】
前記角度位置検出器は、360度以下の角度範囲内で前記電動モータの角度位置を検出するセミアブソリュートエンコーダである、請求項1に記載のスプール弁装置。
【請求項3】
前記少なくとも1つの給排通路は、2つの給排通路を含み、
前記スプールは、前記中立位置で前記2つの給排通路を前記ポンプ通路から遮断し、前記中立位置から移動したときに前記ポンプ通路を前記2つの給排通路の一方と連通させる、請求項1または2に記載のスプール弁装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動式のスプール弁とこのスプール弁を制御する制御装置を含むスプール弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電動モータおよび直動機構を含む電動式のスプール弁が知られている。例えば、特許文献1には、スプール穴を含むハウジング(特許文献1では「弁本体」と称呼)と、前記スプール穴に挿入されたスプールと、電動モータと、前記電動モータの回転運動を前記スプールの直線運動に変換する直動機構を含むスプール弁が開示されている。
【0003】
特許文献1のスプール弁は双方向に作動する液圧アクチュエータ用のスプール弁であり、ハウジングにポンプ通路と2つの給排通路が形成されている。スプールは、ポンプ通路と2つの給排通路との間の接続状態を切り換える。
【0004】
特許文献1のスプール弁の直動機構は、スプールに連結された動力伝達部材と、前記動力伝達部材に固定されたナットと、前記ナットと螺合するねじ軸を含み、前記ねじ軸が前記電動モータによって回転される。また、直動機構には、前記電動モータに電流が送給されていないときにスプールを中立位置に維持するように付勢するスプリングが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1のスプール弁のように、スプリングによってスプールが中立位置に維持される構成では、中立位置が所定の範囲内でずれることがある。このため、スプール弁およびこのスプール弁を制御する制御装置を含むスプール弁装置を起動する度に、スプールの挙動が異なるおそれがある。このような現象は、中立位置でスプールがスプリングによってストッパーに押し付けられる場合でも、ストッパーの変形によって同様に生じるおそれがある。
【0007】
そこで、本開示は、起動ごとにスプールの挙動が異なることを防止することができるスプール弁装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、ポンプ通路、少なくとも1つの給排通路およびスプール穴を含むハウジングと、前記スプール穴に挿入された、前記ポンプ通路と前記少なくとも1つの給排通路との間の接続状態を切り換えるスプールと、電動モータと、前記電動モータの回転運動を前記スプールの直線運動に変換する、ねじ軸およびナットを含む直動機構と、位置指令に応じて前記電動モータへ電流を送給する制御装置と、前記電動モータの角度位置を検出する角度位置検出器と、前記電動モータへ電流が送給されていないときに前記スプールを中立位置に維持するように付勢するスプリングと、を備え、前記制御装置には、ゼロイング試験において前記角度位置検出器により確認された、前記スプールが特定位置に位置するときの前記電動モータの角度位置がゼロイング値として記憶されるとともに、前記ゼロイング試験の開始時の前記電動モータの角度位置と前記ゼロイング値との偏差がオフセット値として記憶され、前記制御装置は、電源投入時の前記電動モータの角度位置である起動時角度位置と前記ゼロイング値との偏差から中立復帰誤差を算出し、前記位置指令に対して前記オフセット値および前記中立復帰誤差を減算して前記電動モータへ送給する電流を決定する、スプール弁装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、起動ごとにスプールの挙動が異なることを防止することができるスプール弁装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態に係るスプール弁装置の一部を断面で示した概略構成図である。
【
図4】電動モータの角度位置と、ポンプ通路から給排通路へ流れる作動液の流量との関係を示すグラフである。
【
図5】電動モータの角度位置が変化したときのレゾルバの出力値の変化を示すグラフであり、ゼロイング値が最大値の半分以下の場合の中立位置のずれ範囲を示す。
【
図6】電動モータの角度位置が変化したときのレゾルバの出力値の変化を示すグラフであり、ゼロイング値が最大値の半分よりも大きい場合の中立位置のずれ範囲を示す。
【
図7】変形例に係るスプール弁装置の一部を断面で示した概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に、一実施形態に係るスプール弁装置1を示す。このスプール弁装置1は、電動式のスプール弁10と、スプール弁10を制御する制御装置8を含む。
【0012】
本実施形態では、スプール弁10が、複動シリンダや液圧モータなどの、作動液の供給によって双方向に作動する液圧アクチュエータ用のスプール弁である。ただし、スプール弁10は、単動シリンダなどの、作動液の供給によって一方向に作動する液圧アクチュエータ用のスプール弁であってもよい。
【0013】
スプール弁10は、スプール穴20を含むハウジング2と、スプール穴20に挿入されたスプール3と、スプール3を駆動する電動モータ7を含む。電動モータ7は、例えばサーボモータである。また、スプール弁10は、電動モータ7の回転運動をスプール3の直線運動に変換する直動機構5を含む。
【0014】
ハウジング2の外表面には、ポンプポート2a、2つの給排ポート2bおよびタンクポート2cが形成されている。また、ハウジング2には、スプール穴20の中央に流入用環状溝25が形成され、流入用環状溝25の両側に一対の中間環状溝26,27が形成され、中間環状溝26,27の外側に一対の流出用環状溝28,29が形成されている。流入用環状溝25、中間環状溝26,27および流出用環状溝28,29のそれぞれは、スプール穴20から径方向外向きに窪んでいる。
【0015】
さらに、ハウジング2には、流入用環状溝25をポンプポート2aと接続するポンプ通路21と、中間環状溝26,27を給排ポート2bとそれぞれ接続する2つの給排通路22と、流出用環状溝28,29をタンクポート2cと接続するタンク通路23が形成されている。
【0016】
スプール3は、ポンプ通路21と給排通路22の間の接続状態および給排通路22とタンク通路23との間の接続状態を切り換える。本実施形態では、スプール3が、中立位置で双方の給排通路22をポンプ通路21およびタンク通路23から遮断し、中立位置から移動したときにポンプ通路21を給排通路22の一方と連通させるとともに、給排通路22の他方をタンク通路23と連通させる。
【0017】
より詳しくは、スプール3は、複数のランド部31と、隣り合うランド部31同士を連結する複数の小径部32を含む。以下では、説明の便宜上、スプール3の軸方向の一方(
図1の左側)を左方、他方(
図1の右側)を右方という。本実施形態では、4つのランド部31のうちの中央の2つのランド部31の両端部に複数のノッチが形成されている。ただし、スプール3の形状はこれに限られるものではなく適宜変更可能である。
【0018】
本実施形態では、スプール穴20がハウジング2を貫通している。ハウジング2の左端面には、スプール3の左端面に面する空間を覆う第1カバー41が取り付けられている。また、本実施形態では、スプール3の右端部33がハウジング2から張り出しており、この右端部33が、ハウジング2の右端面に取り付けられた中空の第2カバー42内に位置している。直動機構5は第2カバー42を介してハウジング2に取り付けられ、電動モータ7は直動機構5および第2カバー42を介してハウジング2に取り付けられている。
【0019】
ただし、スプール3の長さは適宜変更可能であり、スプール3の右端部33がハウジング2内に収まってもよい。この場合、第2カバー42が省略されてもよい。また、本実施形態では、スプール3の右端部33がランド部31よりも小径に形成されているが、スプール3の右端部33はランド部31と同径に形成されてもよい。あるいは、スプール3の可動範囲でスプール3の右端部33がハウジング2と干渉しなければ、スプール3の右端部33はランド部31よりも大径に形成されてもよい。
【0020】
直動機構5は、スプール3に連結された動力伝達部材51と、動力伝達部材51に固定されたナット53と、ナット53と螺合するねじ軸54を含む。ねじ軸54は、スプール3と同軸上に配置されており、電動モータ7によって回転される。さらに、直動機構5は、動力伝達部材51、ナット53およびねじ軸54を収容する筒状のケーシング52を含む。
【0021】
動力伝達部材51は、スプール3と同軸上に配置された棒状部材である。動力伝達部材51は、ケーシング52により、スプール3の軸方向のみに摺動可能となるように保持されている。
【0022】
本実施形態では、動力伝達部材51の先端部がユニバーサルジョイントを介してスプール3の右端部33と連結されている。具体的には、
図2に示すように、動力伝達部材51の先端部にスロット51aが設けられており、このスロット51aにボール45が保持されている。一方、スプール3の右端部33には、そのスロット51a内に挿入される板状の突起34が設けられており、この突起34にボール45と嵌合する穴が設けられている。
【0023】
ただし、本実施形態とは逆に、スプール3の右端部33にボール45を保持するスロット51aが設けられ、動力伝達部材51の先端部にスロット51a内に挿入される突起34が設けられてもよい。あるいは、動力伝達部材51は、ユニバーサルジョイント以外のジョイント(例えば、ボールジョイントや球面ジョイントなど)によりスプール3と連結されてもよい。
【0024】
動力伝達部材51にはスプール3と反対向きに開口する中心穴が設けられており、この中心穴内にナット53が挿入されている。電動モータ7によってねじ軸54が一方向に回転されると動力伝達部材51がナット53と共に左方に移動し、電動モータ7によってねじ軸54が逆方向に回転されると動力伝達部材51がナット53と共に右方に移動する。
【0025】
さらに、本実施形態では、直動機構5に、電動モータ7へ電力が供給されていないときにスプール3を中立位置に維持するように付勢するスプリング6が設けられている。スプリング6は、動力伝達部材51とケーシング52の間に配置された圧縮コイルスプリングであり、スプリング6の両端部が第1ばね受け61および第2ばね受け62で支持される。
【0026】
第1ばね受け61および第2ばね受け62のそれぞれは、環状であり、動力伝達部材51と摺動可能に嵌合している。動力伝達部材51の右端には、第2ばね受け62との当接用のフランジ51bが設けられている。また、フランジ51bから左側に離間する位置では、第1ばね受け61との当接用のストッパー63が動力伝達部材51に取り付けられている。
【0027】
さらに、ケーシング52の内側面には、ストッパー63と対応する位置に第1段差部52aが設けられているとともに、フランジ51bと対応する位置に第2段差部52bが設けられている。
【0028】
このような構造により、電動モータ7へ電力が供給されていないときは、スプリング6の付勢力によって第1ばね受け61がストッパー63と第1段差部52aの双方に当接するとともに第2ばね受け62がフランジ51bと第2段差部52bの双方に当接する。これにより、スプール3が中立位置に維持される。
【0029】
スプール3が中立位置に位置する状態から動力伝達部材51が左方に移動したときは、第2ばね受け62がフランジ51bに押されて第2段差部52bから離間するとともに、ストッパー63が第1ばね受け61から離間する。逆に、スプール3が中立位置に位置する状態から動力伝達部材51が右方に移動したときは、第1ばね受け61がストッパー63に押されて第1段差部52aから離間するとともに、フランジ51bが第2ばね受け62から離間する。
【0030】
上述した制御装置8には、スプール3の目標ストロークを電動モータ7の目標角度位置で表した位置指令が入力される。制御装置8は、入力される位置指令に応じて電動モータ7へ電流を送給する。
【0031】
制御装置8に関し、本明細書で開示する要素の機能は、開示された機能を実行するよう構成またはプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、および/または、それらの組み合わせ、を含む回路または処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路または回路と見なされる。本開示において、回路、ユニット、または手段は、列挙された機能を実行するハードウエアであるか、または、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウエアである。ハードウエアは、本明細書に開示されているハードウエアであってもよいし、あるいは、列挙された機能を実行するようにプログラムまたは構成されているその他の既知のハードウエアであってもよい。ハードウエアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、手段、またはユニットはハードウエアとソフトウエアの組み合わせであり、ソフトウエアはハードウエアおよび/またはプロセッサの構成に使用される。
【0032】
制御装置8は、電動モータ7の角度位置を検出する角度位置検出器9と電気的に接続されている。本実施形態では、角度位置検出器9が、360度以下の角度範囲内で電動モータ7の角度位置を検出するセミアブソリュートエンコーダの一種であるレゾルバ9Aである。
【0033】
レゾルバ9Aは、0~360度の電気角(sin曲線の一周期)ごとに、ゼロから最大値Vまでの電気信号を出力する。電気角が360度のときの機械角が上述した角度範囲である。電気角が360度のときの機械角は、電動モータ7の磁極数によって変わる。
【0034】
このように本実施形態では角度位置検出器9がレゾルバ9Aであるので、制御装置8に入力される位置指令は、何周期目のどのレゾルバ値(0以上V以下の数値)かを指し示すレゾルバ換算値である。ただし、制御装置8にスプール3の目標ストロークが入力され、制御装置8がその目標ストロークをレゾルバ換算値に換算してもよい。
【0035】
制御装置8には、ゼロイング試験において角度位置検出器9により確認された、スプール3が特定位置に位置するときの電動モータ7の角度位置がゼロイング値Aとして記憶されている。本実施形態では角度位置検出器9がレゾルバ9Aであるので、ゼロイング値Aはレゾルバ値である(0≦A≦V)。また、本実施形態では、
図4に示すように、特定位置が中立位置のセンターである。
【0036】
上述したレゾルバ9Aとしては、当該レゾルバ9Aの電気角が360度のときの機械角が、スプール3の中立位置のずれ範囲以上のものが用いられる。従って、ゼロイング値Aは特定の一つの周期内に位置する。このため、ゼロイング値Aとしては、レゾルバ換算値ではなくレゾルバ値を用いることができる。
【0037】
ゼロイング試験では、流量計を用いて、スプール3が中立位置に位置する状態から電動モータ7を一方向に回転させたときの、電動モータ7の角度位置に対するポンプ通路21から一方の給排通路22へ流れる作動液の流量の推移を計測するとともに、スプール3が中立位置に位置する状態から電動モータ7を逆方向に回転させたときの、電動モータ7の角度位置に対するポンプ通路21から他方の給排通路22へ流れる作動液の流量の推移を計測する。そして、ポンプ通路21から一方の給排通路22へ流れる作動液の流量が所定値となるときの電動モータ7の角度位置と、ポンプ通路21から他方の給排通路22へ流れる作動液の流量が前記所定値となるときの電動モータ7の角度位置との中間値がゼロイング値Aとして算出される。
【0038】
さらに、制御装置8には、ゼロイング試験の開始時の電動モータ7の角度位置α(本実施形態ではレゾルバ値、0≦α≦V)とゼロイング値Aとの偏差がオフセット値βとして記憶されている。上述したように、レゾルバ9Aの電気角が360度のときの機械角はスプール3の中立位置のずれ範囲以上であるため、ゼロイング試験の開始時の電動モータ7の角度位置αも上記の特定の一つの周期内に位置する。従って、ゼロイング試験の開始時の電動モータ7の角度位置αとしては、レゾルバ換算値ではなくレゾルバ値を用いることができる。
【0039】
制御装置8は、スプール弁装置1の電源投入時に、電源投入時の電動モータ7の角度位置である起動時角度位置B(本実施形態ではレゾルバ値、0≦B≦V)とゼロイング値Aとの偏差から中立復帰誤差Eを算出する。本実施形態では、ゼロイング値Aがレゾルバ9Aの出力値の最大値Vの半分以下か否かによって中立復帰誤差Eの算出式が異なる。
【0040】
A≦V/2の場合、
図5に示すように、中立位置のずれ範囲は、ゼロイング値Aが位置する周期(ゼロ周期目)と、その周期よりも電動モータ7の角度位置が小さい周期(-1周期目)とに跨ることが想定される。そこで、制御装置8は、起動時角度位置BがA+V/2以下の場合は以下の式(1)により中立復帰誤差Eを算出し、起動時角度位置BがA+V/2よりも大きい場合は以下の式(2)により中立復帰誤差Eを算出する。
E=B-A・・・(1)
E=-{A+(V-B)}・・・(2)
【0041】
A>V/2の場合、
図6に示すように、中立位置のずれ範囲は、ゼロイング値Aが位置する周期(ゼロ周期目)と、その周期よりも電動モータ7の角度位置が大きい周期(+1周期目)とに跨ることが想定される。そこで、制御装置8は、起動時角度位置BがA-V/2以上の場合は以下の式(3)により中立復帰誤差Eを算出し、起動時角度位置BがA-V/2よりも小さい場合は以下の式(4)により中立復帰誤差Eを算出する。
E=B-A・・・(3)
E=B+(V-A)・・・(4)
【0042】
制御装置8に位置指令が入力されると、
図3に示すように、制御装置8は位置指令に対してオフセット値βおよび中立復帰誤差Eを減算して電動モータ7へ送給する電流を決定する。より詳しくは、制御装置8は、レゾルバ9Aの出力値がゼロまたは最大値Vを何回超えたかをカウントすることで、現在の周期が何周期目であるかを判定し、その何周期目かとレゾルバ9Aの出力値とを含むレゾルバ実績値を算出する。そして、位置指令からオフセット値βおよび中立復帰誤差Eを減算した後に、さらにレゾルバ実績値を減算し、その結果の位置偏差を電流に換算する。
【0043】
さらに、制御装置8は、上記のレゾルバ実績値にオフセット値βおよび中立復帰誤差Eを加算して位置実績を算出し、この位置実績を表示装置などに出力する。表示装置では、位置実績に基づいて、スプール3の現在のストロークが表示される。
【0044】
以上説明した構成のスプール弁装置1では、スプール3の中立位置がずれたとしても、スプール3が常に特定位置を基準として挙動する。従って、スプール弁装置1の起動ごとにスプール3の挙動が異なることを防止することができる。
【0045】
(変形例)
本開示は上述した実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0046】
例えば、
図7に示す変形例のスプール弁装置1Aのように、スプール弁10は作動液の供給によって一方向に作動する液圧アクチュエータ用のスプール弁であってもよい。この場合、ハウジング2が給排通路22を1つだけ含んでもよい。
【0047】
また、スプール弁装置1Aでは、直動機構5のケーシング52に、スプール3の中立位置を規定するストッパー55が設けられており、スプール3を中立位置に維持するスプリング6が第1カバー41内に配置されている。すなわち、スプール3は、スプリング6によって動力伝達部材51を介してストッパー55に押し付けられることで中立位置に維持される。
【0048】
スプール弁装置1Aでも、制御装置8に、ゼロイング試験において角度位置検出器9により確認された、スプールが特定位置に位置するときの電動モータ7の角度位置がゼロイング値として記録される。例えば、特定位置は、ポンプ通路21と給排通路22との連通が開始される位置である。その他の構成は、前記実施形態と同様である。このため、スプール弁装置1Aでも前記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0049】
また、角度位置検出器9は必ずしもセミアブソリュートエンコーダである必要はなく、電動モータ7の角度位置を検出する角度範囲に制限の無いアブソリュートエンコーダであってもよい。ただし、前記実施形態のように角度位置検出器9がセミアブソリュートエンコーダであれば、アブソリュートエンコーダを用いる場合に比べてコストを低減することができる。
【0050】
(まとめ)
第1の態様として、本開示は、ポンプ通路、少なくとも1つの給排通路およびスプール穴を含むハウジングと、前記スプール穴に挿入された、前記ポンプ通路と前記少なくとも1つの給排通路との間の接続状態を切り換えるスプールと、電動モータと、前記電動モータの回転運動を前記スプールの直線運動に変換する、ねじ軸およびナットを含む直動機構と、位置指令に応じて前記電動モータへ電流を送給する制御装置と、前記電動モータの角度位置を検出する角度位置検出器と、前記電動モータへ電流が送給されていないときに前記スプールを中立位置に維持するように付勢するスプリングと、を備え、前記制御装置には、ゼロイング試験において前記角度位置検出器により確認された、前記スプールが特定位置に位置するときの前記電動モータの角度位置がゼロイング値として記憶されるとともに、前記ゼロイング試験の開始時の前記電動モータの角度位置と前記ゼロイング値との偏差がオフセット値として記憶され、前記制御装置は、電源投入時の前記電動モータの角度位置である起動時角度位置と前記ゼロイング値との偏差から中立復帰誤差を算出し、前記位置指令に対して前記オフセット値および前記中立復帰誤差を減算して前記電動モータへ送給する電流を決定する、スプール弁装置を提供する。
【0051】
上記の構成によれば、スプールの中立位置がずれたとしても、スプールが常に特定位置を基準として挙動する。従って、スプール弁装置の起動ごとにスプールの挙動が異なることを防止することができる。
【0052】
第2の態様として、第1の態様において、前記角度位置検出器は、360度以下の角度範囲内で前記電動モータの角度位置を検出するセミアブソリュートエンコーダであってもよい。この構成によれば、アブソリュートエンコーダを用いる場合に比べてコストを低減することができる。
【0053】
第3の態様として、第1または第2の態様において、例えば、前記少なくとも1つの給排通路は、2つの給排通路を含み、前記スプールは、前記中立位置で前記2つの給排通路を前記ポンプ通路から遮断し、前記中立位置から移動したときに前記ポンプ通路を前記2つの給排通路の一方と連通させてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 スプール弁装置
10 スプール弁
2 ハウジング
20 スプール穴
21 ポンプ通路
22 給排通路
3 スプール
5 直動機構
51 動力伝達部材
52 ケーシング
53 ナット
54 ねじ軸
6 スプリング
7 電動モータ
8 制御装置
9 角度位置検出器
9A レゾルバ(セミアブソリュートエンコーダ)